JP5475890B2 - 手術用パッド - Google Patents

Description

本発明は、外科手術において被術部位から生じる血液、リンパ液、髄液等の体液を吸収するための手術用パッドに関するものであり、特に、脳外科手術において、頭蓋内の脳室系やクモ膜下腔から滲み出る脳髄液等を、脳細胞を傷付けることなく有効に吸収するための手術用パッドに関するものである。

外科手術の医療現場においては、血液、リンパ液、脊髄液等の体液の吸収除去には、必要に応じてカット綿、ガーゼ、手術用パッド等の吸収用品が用いられている。

脳外科手術や整形外科手術を行う場合は、リンパ液、血液、脊髄液等の体液を吸収するために比較的小さなサイズの吸収用品が用いられる。しかし、小サイズの吸収用品は体液等を吸収すると手術部位の組織と見分けが困難になり、術後に誤って体内に残されてしまうことがある。

その場合、例えば脳外科手術の場合だと、頭蓋内に残されたパッドがどのように小サイズであっても、微細な脳細胞等を圧迫して種々の障害を生じさせたり、人体の免疫抗体作用がこれを排除しようとして脳内部位に炎症を生じさせたりする恐れがあり、痛みや違和感，或いは微熱等、様々な身体の不調をきたすことになることから、手術終了後にこのような吸収素材を取り除き、万が一体内に取り残された場合にはこれを検知する必要がある。

このため、特に手術用パッドに関しては、従来から、手術中において手術用パッドが手術部位に存在していることを明確に表示するための色違いの目印となり体内からパッドを除去する際の引き出し用の糸を縫い付け、この糸の他端を体外に長く引き延ばすための処置が施されている（例えば、特許文献１及び特許文献２を参照）。

また、特許文献１には、手術用パッドに関して除去を確実にするために、パッド部に造影糸（Ｘ線非透過性の樹脂製糸条）を取り付けて、手術終盤の手術部位を閉じる前にＸ線造影（レントゲン撮影）を行うことで、造影糸を手がかりに手術用パッドの存在の有無を確認するようにしたものが知られている。

特開２００２−３２５７７４号公報 特開２００９−０６１１８６号公報

このような手術後のＸ線造影のための造影糸には、従来から、造影作用を有する硫酸バリウムのフィラメントとポリプロピレン系樹脂とから成る糸状素材を撚り合わせた糸状のフィラメントが用いられている。

しかしながら、このような糸状フィラメントはその構造上、液体を吸収しやすく、また造影糸の材質は樹脂であることから水分を吸収して硬くなる性質があることから、硬化した造影糸が体内組織に触れると組織、特に脳外科手術においては繊細な脳組織を傷付ける恐れがある。

そのため造影糸を細くしても、あまり細いとＸ線造影においても見つけ難く、ある程度の太さが要求されるが、このような造影糸が水分吸収して硬化すると、パッドに大きな塊のようなものが生じることになり、体内組織の表面を傷つける恐れがあった。

また、パッド部分についても、ガーゼや脱脂綿であると、その切断端部からの微細な糸材が脱落しやすいために、特許文献１で開示されているように、不織布を多数積層して構成しているが、不織布を用いたパッドであっても糸屑や表面からの糸羽材の剥がれを完全に防止することはできない。

このため、本発明の目的は、手術中に糸屑やパッド表面の毛羽の手術部位に残留することがなく、また、リンパ液、血液、脳脊髄液等の体液を吸収しても硬化せず、さらには、手術後にＸ線造影にて検知可能な手術用パッドを提供することにある。

上記課題を解決するために、本発明は、外科手術中において、リンパ液、血液、脳脊髄液等の体液を吸収する手術用パッドであって、吸収性を有する布を複数積層して成るパッド部と、親水性が強化されたシリコン樹脂或いは当該シリコン樹脂を含む樹脂材料が前記布の表面の微細な隙間に入り込むことで形成したコーティング部と、前記パッド部の積層した布の間又は表面に配置されるＸ線不透過物質含有シートと、前記パッド部に取り付けた目印用の天然材料から成る引出糸と、を備えたことを特徴とする。Ｘ線不透過物質含有体をシート状にしてパッドの布の層又は表面に配置することにより、血液や体液等を吸収して硬化することがない。

前記Ｘ線不透過物質含有シートは、その基材中に前記Ｘ線不透過物質が練り込まれたその厚さがミクロン単位のフィルム状シートであることを特徴とする。一方で、前記不透過物質含有シートは、その基材表面に前記Ｘ線不透過物質がコーティングされていることを特徴とし、前記不透過物質含有シートに用いる前記基材は樹脂にて成ることを特徴とする。

また、前記Ｘ線不透過物質含有シートは、前記パッド部の積層した布の間又は表面に配置されシート状の熱可塑性樹脂板にＸ線不透過物質を含有させて成り、前記熱可塑性樹脂板は前記パッド部に熱融着したことを特徴とする。これにより、前記布と前記Ｘ線不透過物質含有シートとが一体に保持される。

さらに、前記コーティングの樹脂材料の粒子の直径が５μｍｍ以下であると平滑性が高まる。そして、前記粒子を親水性樹脂或いは親水性樹脂を含む材料にて形成すると、なお一層パッドを容易に取り出すことができる。

パッド部の表面を樹脂材料のコーティングにより覆うことで糸屑や表面の毛羽剥がれが防止でき、これにより、前記布は、不織布や織布であっても良く吸収性等の機能に優れたものが選択できる。そして、コーティングの樹脂材料には、抗菌剤を含有させることを特徴とする。

更に、前記引出糸の天然材料にはシルクを用いると、血液や体液を吸収したとき軟らかくなり、体内組織との摩擦が少ない。

本発明による手術用パッドによれば、Ｘ線不透過物質含有体をシートにしたことで、手術で発生するリンパ液、血液、脳脊髄液等の体液を吸収して硬化することがなく、またパッドの凹凸もないため、体内組織との摩擦が小さく組織を傷めることが防止される。さらには、Ｘ線造影時には、シートの面でＸ線不透過物質を捉えられるために、手術用パッドを確実に検出することができる。

本発明の一実施形態に係る手術用パッドの構成を説明する図である。 図１に示す手術用パッドのＡ−Ａ断面の一部を示す。 Ｘ線不透過物質含有シートにＸ線不透過物質が含有する構造例を断面にて説明する図である。 本発明の別の一実施形態に係る手術用パッドの構成を説明する図である。 本発明の手術用パッドにおける、パッドの形状及び、引出糸とＸ線不透過物質含有シートとの配置関係の種々の変形例を説明する図である。 本発明の手術用パッドにおける、パッドの形状及び、引出糸とＸ線不透過物質含有シートとの配置関係の他の変形例を説明する図である。 Ｘ線不透過物質含有シートの断面形状の変形例を説明する図である。

本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。

図１は、実施形態に係る手術用パッドの構成を示しており、図２は図１のＡ−Ａによる断面の一部を示している。パッド部１は複数の吸収性を有する布２（例えば６０ｍｍ×３０ｍｍ）を積層して一体化して成り、パッド部１の表面には樹脂材料によるコーティング４が施されてある。コーティング４により樹脂の微粒子が布２の表面の微細な隙間に入り込み、糸屑の脱落や表面の毛羽剥がれを抑えることができると共に、切断面の糸の脱落を有効に防止することができる。尚、コーティング処理は、熱融着によるコーティング処理を含み、当該コーティング処理によって切断部に糸屑の脱落や表面の毛羽剥がれが無くなるので術後に切断部における化膿発生の危険性を排除できるのである。さらに、布２は、不織布に限ることはなく、吸収性の高い素材を使用することができる。

このときの樹脂材料によるコーティング処理の粒子の直径を５μｍｍ以下の微粒子にすると、パッド部１の表面に一層よく入り込み強力な被膜を形成して、体の組織にくっつき難くなる利点がある。

このコーティング処理に用いる樹脂材料としては、シリコン樹脂（シリコン化合物）、ＰＥＴ（ポリエチレンテレフタラート）、ＰＰ（ポリプロピレン）等が上げられるが、シリコン樹脂又はシリコン化合物でも親水性の機能が強化された種類のシリコン樹脂が好ましい。これにより、手術用パッドを体内から取り除く際の引き出しが一層容易となる。従って、本手術用パッドにおける前記樹脂材料は、親水性樹脂或いは親水性樹脂を含む材料であるのが良い。

また、コーティング処理に用いる樹脂材料には抗菌剤を含ませると更に良い。このとき、樹脂材料に添加する抗菌剤としては、有機系、無機系の種々の物質を使用することができる。有機系抗菌剤は即効性があるものの、抗菌特性の寿命が短かく、また、耐熱性に劣る欠点がある。一方、無機系抗菌剤の成分は金属で、実際に用いられるのは銀、銅、亜鉛、ゼオライトであるが、特に銀は抗菌効果が大きいことから、無機系抗菌剤では銀を主たる抗菌成分とする銀系抗菌剤が好ましく、抗菌効果の寿命も半永久的で、耐熱性にも優れる。このとき、手術用パッドは使い捨てであるために、抗菌特性の寿命はさほど問題とならないが、耐熱性については樹脂成形時の加工温度を考慮する必要がある。従って、パッド部１の表面を覆う樹脂材料に抗菌性を持たせるのであれば、これらの点を踏まえて、抗菌剤の種類は決定される。

Ｘ線不透過物質含有シート３は、積層した布２に挟み込まれて、布２の長手方向に沿って保持されている。そして、Ｘ線不透過物質含有シート３は、図３に示すように、シート状の樹脂板を基材５にして、基材５にＸ線不透過物質５ａを含有させて成る。基材５にＸ線不透過物質５ａを含有させるには、基材５の樹脂の中にＸ線不透過物質５ａを練り込んで成形（図３（ａ））したり、或いは基材５の全表面又は一方の表面にＸ線不透過物質５ａをコーティング（図３（ｂ）、図３（ｃ））処理したりする等の方法が採られる。Ｘ線不透過物質５ａとしては硫酸バリウムを用いるが、それ以外にも酸化チタン、硫酸銀等が上げられる。尚、Ｘ線不透過物質含有シート３の断面形状は特に均一でなくとも良く、図７に示すように、略三角形（図７（ａ））、長円形（図７（ｂ））、菱形（図７（ｃ））等種々考えられる。

このようにＸ線不透過物質含有体をシート状に形成したことで、糸状のものを使用する従来の手術用パッドと比べて凹凸が少なく、また手術で発生する血液や体液等を吸収して硬化することがなくなる。そして、Ｘ線造影時には、シートの面でＸ線不透過物質が捉えられるために、手術用パッドを確実に検出することができる。尚、Ｘ線不透過物質含有シート３の形状は、長方形に限らず円形、台形、多角形等でも良い。

Ｘ線不透過物質含有シート３の基材５を、ポリエチレン，ポリプロピレン，ポリ塩化ビニル，ポリスチレン等にて代表される熱可塑性樹脂にて形成し、布２の間に熱融着して構成すれば、布２とＸ線不透過物質含有シート３とは縫合せずとも一体に保持できる。しかも、このときＸ線不透過物質含有シート３はパッド部１の補強材となるために、手術で使用したときの体液吸収による布２の変形を抑制することができる。

引出糸６は、パッド部１の長手方向の一端に取り付けられており、引出糸６のパッド部１への取り付けは、パッド部１に糸を通して結ぶ方法でも良いが、ある程度の強度を持たせるために、パッド部１の長手方向の一端に、その先端がジグザク縫いすることで取り付けられる。引出糸６の材質は、合成繊維であると手術中の血液や体液に浸潤すると硬くなるが、天然繊維は軟らかくなる性質があり、体内組織と接触する上で好ましい。そして、天然繊維の中でもシルクが最適である。

また、引出糸６をシルク等の天然繊維にすると、引出糸６の先端をパッド部１にジグザグ縫いする場合に、更に有利となる。即ち、ジグザグ縫いしたときに形成される縫合部７は、パッド部１の表面に比較的大きな面積を構成することになるが、浸潤により軟化する天然糸を使用すれば、入り組んだジグザク形状にて体内組織を傷めることが防止される。

かかる手術用パッドは、パッド部１の表面を樹脂にてコーティングされているために、不織布あるいは織布に関わらず色々な種類の布をパッド部１に使用しても糸屑の脱落や表面の毛羽剥がれを抑えることができると共に、体内組織にくっつき難い。そして、Ｘ線不透過物質含有体はフィルム状の薄いシートであるためにパッド部１の表面に凹凸を生ずることもなく、しかもリンパ液、血液、脳脊髄液等の体液を吸収して硬化することもないために、体内の組織との摩擦が少なく、組織を傷めることもない。

パッド部１は手術の内容に応じて色々な大きさが必要となるが、吸収性を有する布２を積層して一体化したパッド部１の基本形状を幾種類か用意しておき、何枚かのパッド部１を重ね合せたり、或いは１枚のパッド部１を折って重ね合せたりすることで、種々のタイプの手術用パッドを提供できる。

図４は別の実施形態に係る手術用パッドの構成を示している。この手術用パッドは、パッド部１が略７ｍｍ角で厚さ２ｍｍの小型のものであり、布２を積層し一体化して形成している。このような小型の手術用パッドは、脳外科手術のような細かい部分の手術に用いられ、脳脊髄液（髄液）や血液等を吸収除去する。パッド部１の表面には、樹脂材料によるコーティング処理が施されている。Ｘ線不透過物質含有シート３は、布２と略同じ面積であり、シートの基材５にＸ線不透過物質が練り込まれている。そして、パッド部１に取り付けられ引出糸６は、パッド部１に糸を通して結んでいる。このようにして、パッド部１に取り付けられた引出糸６は、積層した布２がバラけずに束ねる機能を有するのである。

上記した手術用パッドの大きさや形状は手術の内容に応じて、種々作成することができ、またパッド部１への引出糸６のへの取り付け方やＸ線不透過物質含有シート３の配置の仕方にも種々の変形例がある。その代表例を図５及び図６に示す。

図５は、引出糸６とＸ線不透過物質含有シート３を互いに直交する方向に配置した例を示すもので、パッド部１の形状も長方形（図５（ａ）、図５（ｂ））や正方形（図５（ｅ）、図５（ｆ））の矩形型や、長手方向の先端が丸みを帯びた略二等辺三角形型（図５（ｃ）、図５（ｄ））がある。何れの形状であっても、細長形状を有する長方形型や略二等辺三角形型のものは、その短手の端部に引出糸６を長手方向に沿い縫い付けて、縫合部７を形成している。一方、正方形型のものは、パッド部１の表面積に応じて、引出糸６の縫合部７の長さは正方形の辺の長さと比べて相対的に長くなる。これは、引出糸６を確実に取り付けるための縫合部７を確保するためである。

図６は、引出糸６とＸ線不透過物質含有シート３とを互いに平行して配置した例を示すもので、パッド部１の形状が長方形（図６（ａ）、図６（ｂ））や、長手方向の先端が丸みを帯びた略二等辺三角形型（図６（ｃ））のものは、Ｘ線不透過物質含有シート３及び引出糸６は長手方向に沿って、また、正方形（図６（ｄ）、図６（ｅ））のものは、一辺に沿って配置されている。パッド部１の一端から他端に亘って配置しても、或いは途中までの配置であっても良い。そして、図６の例では、引出糸６はパッド部１の表面に貼り付けられていたり、或いは積層した布の間又は表面に挟み込まれている。

以上、本発明によれば、Ｘ線不透過物質含有シートがリンパ液、血液、脳脊髄液等の体液の吸収で硬化することが無くなる。そして、糸屑や表面の毛羽等の脱落を防止できると共に、手術終了後の引き出しがスムーズに行える手術用パッドが実現できる。

なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本考案の範囲から排除するものではない。

本発明は、外科手術において被術部位から生じる血液、リンパ液、髄液等の体液を吸収するための手術用パッドに関するものであり、特に、脳外科手術において、頭蓋内の脳室系やクモ膜下腔から滲み出る脳髄液等を脳細胞を傷付けることなく有効に吸収するための手術用パッドに関するものであり、産業上の利用可能性を有する。

１：パッド部
２：布
３：Ｘ線不透過物質含有シート
４：コーティング
５：基材
６：引出糸

Claims (9)

1. 外科手術中において、リンパ液、血液、脳脊髄液等の体液を吸収する手術用パッドであって、
   吸収性を有する布を複数積層して成るパッド部と、
   親水性が強化されたシリコン樹脂或いは当該シリコン樹脂を含む樹脂材料が前記布の表面の微細な隙間に入り込むことで形成したコーティング部と、
   前記パッド部の積層した布の間又は表面に配置されるＸ線不透過物質含有シートと、
   前記パッド部に取り付けた目印用の天然材料から成る引出糸と、
   を備えたことを特徴とする手術用パッド。
2. 前記Ｘ線不透過物質含有シートは、その基材中に前記Ｘ線不透過物質が練り込まれていることを特徴とする請求項１に記載の手術用パッド。
3. 前記Ｘ線不透過物質含有シートは、その基材表面に前記Ｘ線不透過物質がコーティングされていることを特徴とする請求項１に記載の手術用パッド。
4. 前記Ｘ線不透過物質含有シートは、前記パッド部の積層した布の間又は表面に配置されシート状の熱可塑性樹脂板にＸ線不透過物質を含有させて成り、前記熱可塑性樹脂板は前記パッド部に熱融着されることを特徴とする請求項１に記載の手術用パッド。
5. 前記コーティング部の樹脂材料の粒子の直径は、５μｍｍ以下であることを特徴とする請求項１乃至４の何れかの項に記載の手術用パッド。
6. 前記コーティング部の前記樹脂材料は、抗菌剤を含むことを特徴とする請求項１乃至５の何れかの項に記載の手術用パッド。
7. 前記引出糸は、シルクから成ることを特徴とする請求項１に記載の手術用パッド。
8. 前記布を不織布にて構成したことを特徴とする請求項１乃至７の何れかの項に記載の手術用パッド。
9. 前記布を織布にて構成したことを特徴とする請求項１乃至７の何れかの項に記載の手術用パッド。

Images