JP5475198B1 - 加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 - Google Patents

加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法を提供する。すなわち、製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、評価範囲内において、ボイドが存在する粒界の数及び長さを求める工程と、評価範囲内において、粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さを求める工程と、得られたボイドが存在する粒界の数及び長さ、並びに、得られた粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さから、下記式に基づいて、Mパラメータを求める工程と、得られたMパラメータから製品の損傷率を求める工程とを含み、製品がベイナイト組織を有することを特徴とする、クリープ余寿命予測方法とする。
【数1】

(式中、
mは、ボイドが存在する粒界の数を表し、
nは、各粒界上に存在するボイドの数を表し、
αiは、α番目の粒界上に存在するi番目のボイドの粒界方向の長さを表し、かつ、
αは、ボイドが存在するα番目の粒界の長さを表す。)

Description

本発明は、加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法に関する。
火力発電設備や原子力発電設備等において用いられる機械部品は、長期間に渡って高温・高圧条件におかれることから、徐々に塑性変形を起こし、クリープ寿命に達すると破断してしまう。従って、火力発電設備や原子力発電設備を安全かつ経済的に運転するためには、用いられている機械部品のクリープ余寿命を的確に予測することによって、最適な時期に機械部品の交換を行うことが求められる。
このような機械部品に使用されている耐熱鋼のクリープ余寿命を予測する方法としては、例えば特開昭63−235861号公報が示すように、実際に稼動している火力発電設備や原子力発電設備の機械部品の耐熱鋼から試験片を切り出して、クリープ破断試験を行い、その破断時間から余寿命を予測する方法が知られているが、この方法では、実際に稼動している設備から試験片を切り出して長時間に渡って試験をする必要があり、煩雑である。
この他、目視検査、磁粉探傷検査、超音波探傷検査及び放射線探傷検査等の寿命末期に発生する亀裂を検出する方法、並びに、レプリカ法によるクリープボイドや微視亀裂を検出する方法が知られており、これらの内、クリープボイドを検出する方法の一種として、最大ボイド粒界占有率(Mパラメータ)を使用する方法が、例えば国際公報WO02/014835号公報により報告されている。
本発明は、加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法を提供することを目的とする。
本発明に係る、加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命を予測する方法は、製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と評価範囲内において、ボイドが存在する粒界の数及び長さを求める工程と、評価範囲内において、粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さを求める工程と、得られたボイドが存在する粒界の数及び長さ、並びに、得られた粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さから、下記式に基づいて、Mパラメータを求める工程と、得られたMパラメータから製品の損傷率を求める工程とを含み、製品がベイナイト組織を有することを特徴とする。

(式中、
mは、ボイドが存在する粒界の数を表し、
nは、各粒界上に存在するボイドの数を表し、
αiは、α番目の粒界上に存在するi番目のボイドの粒界方向の長さを表し、かつ、
αは、ボイドが存在するα番目の粒界の長さを表す。)
製品が中空管であることが好ましく、例えば、曲がり部分を有するボイラ用配管であっても良い。これらの場合に、加圧は内圧を加えることによって行うことが好ましい。
本発明に係る、加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を予測する方法に用いる検量線を作成する方法は、加熱及び加圧により劣化した第2製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、評価範囲内において、ボイドが存在する粒界の数及び長さを求める工程と、評価範囲内において、粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さを求める工程と、得られたボイドが存在する粒界の数及び長さ、ならびに、得られた粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さから、下記式に基づいて、Mパラメータを求める工程と、得られたMパラメータと第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とを含み、第1製品及び第2製品がベイナイト組織を有することを特徴とする。

(式中、
mは、ボイドが存在する粒界の数を表し、
nは、各粒界上に存在するボイドの数を表し、
αiは、α番目の粒界上に存在するi番目のボイドの粒界方向の長さを表し、かつ、
αは、ボイドが存在するα番目の粒界の長さを表す。)
第2製品として、互いに異なる温度で加熱され、かつ、互いに異なる圧力で加圧された少なくとも2種類の製品を用い、これら少なくとも2種類の製品のそれぞれについて求められたMパラメータに基づいて、検量線を作成しても良い。この場合、少なくとも2種類の製品の寿命が、互いに2割以内の差であることが好ましい。
本発明によって、加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命の予測方法、及び、この予測方法に用いる検量線作成方法を提供することが可能となった。
試験1における、試料の損傷率が0の時の、(A)100倍、(B)500倍、及び、(C)1000倍の倍率での、SEMによる組織検査の結果を示す図である。 試験2における、試料の損傷率が0の時の、(A)100倍、(B)500倍、及び、(C)1000倍の倍率での、SEMによる組織検査の結果を示す図である。 試験2における、試料の損傷率が0.12の時の、(A)100倍、(B)500倍、及び、(C)1000倍の倍率での、SEMによる組織検査の結果を示す図である。 試験2における、試料の損傷率が0.19の時の、(A)100倍、(B)500倍、及び、(C)1000倍の倍率での、SEMによる組織検査の結果を示す図である。 試験2における、試料の損傷率が0.26の時の、(A)100倍、(B)500倍、及び、(C)1000倍の倍率での、SEMによる組織検査の結果を示す図である。 試験2における、試料の損傷率が0.50の時の、(A)100倍、(B)500倍、及び、(C)1000倍の倍率での、SEMによる組織検査の結果を示す図である。 試験2における、試料の損傷率が0.70の時の、(A)100倍、(B)500倍、及び、(C)1000倍の倍率での、SEMによる組織検査の結果を示す図である。 一実施形態における、Mパラメータと試料の損傷率との関係を示すグラフである。
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
従来、フェライト、オーステナイト及びベイナイトに代表される母材は、加熱及び加圧により劣化しても、ボイドは生じないと考えられてきた。このため、ベイナイト組織を有する製品のクリープ余寿命を、ボイドを検出することによって予測することはなかった。
しかし、本発明者は、ベイナイト組織を有する製品を加熱及び加圧すると、劣化に伴ってボイドが生じることを発見した。本発明は、この発見に基づいて、完成されたものである。
===クリープ余寿命を予測する方法に用いる検量線の作成方法===
本発明に係る、加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命の予測方法に用いる検量線を作成する方法は、加熱及び加圧により劣化した第2製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、前記評価範囲内において、ボイドが存在する粒界の数及び長さを求める工程と、評価範囲内において、粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さを求める工程と、得られたボイドが存在する粒界の数及び長さ、並びに、得られた粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さから、下記式に基づいて、Mパラメータを求める工程と、得られたMパラメータと第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とを含み、第1製品及び第2製品がベイナイト組織を有することを特徴とする。

(式中、
mは、ボイドが存在する粒界の数を表し、
nは、各粒界上に存在するボイドの数を表し、
αiは、α番目の粒界上に存在するi番目のボイドの粒界方向の長さを表し、かつ、
αは、ボイドが存在するα番目の粒界の長さを表す。)
第1製品及び第2製品は、ベイナイト組織を有し、かつ、加熱及び加圧によってクリープ変形を生じる材料から構成されている。第1製品及び第2製品は、同じ材料から構成されていることが好ましい。
第1製品及び第2製品の形は、特に限定されず、例えば、中空管、板、または、棒であることができるが、中空管であることが好ましい。中空管の断面は、どのような形であっても良く、例えば、円形、楕円形、または、多角形であることができるが、中空管の強度を考慮に入れれば、角を有さない円形または楕円形であることが好ましく、円形であることがより好ましい。
このような中空管として、例えば、曲がり部分を有するボイラ用配管が挙げられる。ボイラ用配管は、従来は、フェライト組織またはパーライト組織を有すると考えられていたため、フェライト組織またはパーライト組織を有する製品のクリープ余寿命を予測する方法に従って、そのクリープ余寿命が予測されてきた。しかし、本発明者は、ボイラ用配管の曲がり部分を作成する際のゆっくりとした加熱に伴い、この曲がり部分がベイナイト組織を有するように変化することを発見した。従って、本発明に係る検量線作成方法によって作成した検量線を用いて、曲がり部分を有するボイラ用配管のクリープ余寿命を予測すれば、このボイラ用配管のクリープ余寿命を精度良く予測することが可能となる。
なお、第1製品の形と第2製品の形とは、同じであっても異なっていても良いが、同じまたは相似形であることが好ましく、同じであることがより好ましい。
第1製品及び第2製品は、それぞれ、一定の高温、及び、常圧よりも高い一定の圧力の条件下に置くことにより劣化した製品である。
温度の範囲は、各製品がベイナイト組織を有する限り特に限定されないが、例えば、210℃〜550℃の範囲であっても良く、350℃〜550℃の範囲であることが好ましい。第1製品の加熱温度と、第2製品の加熱温度とは、同じであっても異なっていても良いが、同じであることが好ましい。
圧力の範囲は、常圧(0.1MPa)よりも高ければ特に限定されないが、例えば、0.2MPa〜1000MPaであっても良く、0.3MPa〜500MPaであることが好ましく、0.5MPa〜300MPaであることがより好ましい。第1製品に加えられた圧力と、第2製品に加えられた圧力とは、同じであっても異なっていても良い。
圧力を加える方法は、特に限定されず、外圧を加えても良く、内圧を加えても良いが、各製品が中空管である場合には内圧を加えることが好ましい。第2製品に内圧を加える場合には、内圧クリープ試験により行うことが好ましい。内圧クリープ試験は、高温炉中で中空管に内圧を加え、必要に応じて中空管をクリープ破断させることによって、中空管の余寿命または寿命を予測または測定する方法である。内圧クリープ試験は、中空管そのものを試験対象とできるため、例えば中空管をボイラの配管として用いた場合に生じる、中空管の外表面および内表面の酸化物など変質層の影響を含めて試験できる点で優れている。さらに、ボイラで実際に用いられる場合と同様に、内圧による応力を中空管に加えることから、ボイラ用配管の余寿命または寿命を精度よく予測または測定することが可能である。
評価範囲の設定は、第2製品の表面において、任意の広さを有する任意の箇所を選択することができる。なお、広さは任意であるが、例えば、0.3mm〜1.0mmの範囲内であっても良い。
本発明に係る検量線作成方法によれば、ベイナイト組織を有する製品にMパラメータを適用することによって、評価範囲を任意に設定しても、設定の仕方に依存する誤差が極めて少ない検量線を作成できるという有利な効果を奏する。
従って、このようにして作成された検量線を用いれば、加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を、精度良く予測することができる。
設定した評価範囲内において、ボイドが存在する粒界の数及び長さを求める方法、並びに、粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さを求める方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)によって組織観察を行うことによって求めても良い。
なお、ボイドの粒界方向の長さとは、ボイドと、そのボイドが存在する粒界とが交わる2つの交点間の長さをいう。
得られたボイドが存在する粒界の数及び長さ、並びに、得られた粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さから、下記式に基づいて、Mパラメータを求める。

(式中、
mは、ボイドが存在する粒界の数を表し、
nは、各粒界上に存在するボイドの数を表し、
αiは、α番目の粒界上に存在するi番目のボイドの粒界方向の長さを表し、かつ、
αは、ボイドが存在するα番目の粒界の長さを表す)。
αは、1以上であって、ボイドが存在する粒界の数以下の整数である。iは、1以上であって、α番目の粒界上に存在するボイドの数以下の整数である。また、α番目の粒界上に存在するi番目のボイドの粒界方向の長さとは、i番目のボイドがα番目の粒界と交わる2つの交点間の長さをいう。
Mパラメータとは、最大ボイド粒界占有率という別名の通り、評価範囲内における各粒界でのボイド粒界占有率のうち、その最大値を表している。
例えば、評価範囲内のある粒界上に2つのボイドが存在し、各ボイドの粒界方向の長さが、それぞれl及びlであり、この粒界の長さがLであるとすると、この粒界におけるボイド粒界占有率は、以下の式により求めることができる。

このようにして、評価範囲内のボイドが存在する全ての粒界について、それぞれボイド粒界占有率を求め、得られたボイド粒界占有率の中から最大値を選択することによって、Mパラメータを求めることができる。
求めたMパラメータと第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成することによって、第1製品のクリープ余寿命を予測するための検量線とすることができる。
製品の損傷率とは、その製品の寿命に対して、どれだけの時間が経過したのかを表す割合である。製品の寿命とは、加熱及び加圧によって、その製品が破断するのに要する時間である。製品の寿命は、公知の方法で求めることができ、例えば、その製品と同じ材料から作られた同一構造の製品を、実際に壊れるまで加熱及び加圧することによって測定することができる。
例えば、ある製品の寿命が10000時間であり、経過時間が8000時間である場合には、損傷率は、8000÷10000=0.80と求めることができる。逆に、ある製品の寿命が10000であり、損傷率が0.80の場合には、その製品の余寿命は、10000x0.80=2000時間と求めることができる。
第2製品として、1種類の製品のみを用いても良く、互いに異なる温度で加熱され、かつ、互いに異なる圧力で加圧された少なくとも2種類の製品を用いても良いが、少なくとも2種類の製品を用いることが好ましい。この場合、これら2種類の製品のそれぞれについてMパラメータを求め、求めた全てのMパラメータを用いて第2製品の損傷率との関係を求めることによって、検量線を作成する。加熱加圧条件が異なる少なくとも2種類の製品を用いて検量線を作成することによって、検量線の精度を向上させることができる。
加熱加圧条件が異なる少なくとも2種類の製品を用いる場合、これらの製品の寿命が、同程度であることが好ましい。同程度とは、2種類以上の製品の寿命が、例えば互いに2割以内の差であることが好ましく、1割以内の差であることがより好ましい。当業者であれば、2種類以上の製品の寿命が同程度となるように、各製品に加える温度と圧力とを適切に設定することができる。
例えば、本願の実施例1では、525℃で加熱し240MPaで加圧した製品と、550℃で加熱し145MPaで加圧した製品との2種類の製品を用い、これらに共通する関係として、図8に示す近似曲線を、Mパラメータと損傷率との関係を表す検量線として得た。
このようにして作成した検量線を用いて、加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を予測することができる。
===クリープ余寿命を予測する方法==
本発明に係る加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命を予測する方法は、製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、評価範囲内においてボイドが存在する粒界の数及び長さを求める工程と、評価範囲内において粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さを求める工程と、得られたボイドが存在する粒界の数及び長さ、並びに、得られた粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さから、下記式に基づいてMパラメータを求める工程と、得られたMパラメータから製品の損傷率を求める工程とを含み、金属がベイナイト組織を有することを特徴とする。

(式中、
mは、ボイドが存在する粒界の数を表し、
nは、各粒界上に存在するボイドの数を表し、
αiは、α番目の粒界上に存在するi番目のボイドの粒界方向の長さを表し、かつ、
αは、ボイドが存在するα番目の粒界の長さを表す。)
例えば、加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を予測するには、以下のようにして行う。
まず、第1製品の表面において、任意の評価範囲を設定する。次いで、この評価範囲内における、ボイドが存在する粒界の数及び長さ、並びに、粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さを求め、これらの値に基づいて第1製品のMパラメータを求める。
得られたMパラメータを、上述の方法によって作成した検量線のMパラメータに代入することによって、対応する損傷率を得ることができる。
例えば、対応する損傷率が0.40であると求まった場合には、第1製品の余寿命は、これまでに加熱及び加圧した時間の1.5倍であると予測することができる。
[実施例1]
クロムモリブデン鉄鋼鋼材から作られたベイナイト組織を有する円筒管(外径φ56.5mm、内径47.5mm、長さ35.0mm)を試料として、内圧クリープ試験を行った。1つの試料には、温度525℃の条件下で240MPaの内圧を加え(試験1)、別の試料には、温度550℃の条件下で145MPaの内圧を加えた(試験2)。なお、試験1における試料の寿命と、試験2における試料の寿命とは、互いに1割以内の誤差であり、ほぼ同じであった。
試験1については、損傷率が、0.00、0.14、0.23、0.32および0.61の時に、また、試験2については、損傷率が、0、0.12、0.19、0.26、0.50および0.70の時に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて試料の組織観察を行った。
具体的には、各試料について、1.0mmの広さを有する任意の評価範囲を定め、この評価範囲について、100倍、500倍及び1000倍の倍率で組織観察をし、ボイドが存在する粒界の数、各粒界上に存在するボイドの数、各粒界上に存在する各ボイドの粒界方向の長さ、および、ボイドが存在する各粒界の長さを調べた。なお、評価範囲の選択の仕方によって大きな誤差が生じないことを示すべく、1.0mmの広さを有する評価範囲の中から、0.3mmの広さを有する評価範囲をさらに設定し、この小さな評価範囲についても組織観察を行い、粒界上に存在するボイドの数、各粒界上に存在する各ボイドの粒界方向の長さ、および、ボイドが存在する各粒界の長さを調べた。
両評価範囲の組織観察の結果から、下記式に基づいて、Mパラメータを求めた。
なお、下記式中、mはボイドが存在する粒界の数を表し、nは各粒界上に存在するボイドの数を表し、lαiはα番目の粒界上に存在するi番目のボイドの粒界方向の長さを表し、かつ、Lαはボイドが存在するα番目の粒界の長さを表している。
得られたSEMの結果のうち、代表して、試験1における損傷率が0.0の時のSEMの像を図1に、試験2における各損傷率時のSEMの像を図2〜図7に示す。また、図2〜図7の結果から求めたボイドの個数密度とMパラメータとを、表1に示す。
そして、全てのSEMの結果から求めた、Mパラメータと損傷率との関係を、図8に示す。
表1が示すように、評価範囲が1.0mmの広さの場合と、0.3mmの広さを有する場合とを、同じ損傷率で比較すると、ボイドの個数密度は面積に比例せず誤差が生じたが、Mパラメータの値は同一となった。
従って、本発明に係るクリープ余寿命の予測方法は、Mパラメータを使用することから、評価範囲の設定の仕方による誤差が生じにくく、ベイナイト組織を有する製品のクリープ余寿命を精度良く予測できることが示された。
また、表1の結果を含め、全てのSEMの結果から求めた、Mパラメータと損傷率との関係を示す図8を用いることによって、実施例1で使用した試料と同一の材料から作られた、ベイナイト組織を有する他の製品のクリープ余寿命を予測することができる。
[実施例2]
実施例2では、実施例1で作成した図8を用いて、ベイナイト組織を有する円筒管のクリープ余寿命を予測した。
クロムモリブデン鉄鋼鋼材で作られた配管(STPA22、JIS規格 G 3457「配管用アーク溶接炭素鋼鋼管」)を、火力発電所のボイラで使用できるように、ゆっくりと加熱しながら曲げ加工した。加工した配管の曲がり部分の組織をSEMで検査したところ、ベイナイト組織が生成していた。このようにして加工した配管に対し、550℃の温度下で、145MPaの内圧を加えた。
ある時間経過したところで、配管の曲がり部分について、SEMを用いて組織観察した。得られたSEMの像からMパラメータを求めたところ、0.10であった。
実施例1で作成した図8より、Mパラメータが0.10の時の損傷率は0.40であると求まることから、ボイラの配管の曲がり部分の損傷率は0.40であると予測することができた。即ち、この配管の曲がり部分の余寿命は、現在までの使用時間の約1.5倍であると予測することができた。

Claims (9)

  1. 加熱及び加圧により劣化した製品のクリープ余寿命を予測する方法であって、
    前記製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、
    前記評価範囲内において、ボイドが存在する粒界の数及び長さを求める工程と、
    前記評価範囲内において、前記粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さを求める工程と、
    得られたボイドが存在する粒界の数及び長さ、並びに、得られた前記粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さから、下記式に基づいて、Mパラメータを求める工程と、
    得られたMパラメータから前記製品の損傷率を求める工程とを含み、
    前記製品がベイナイト組織(但し、析出炭化物を有するベイナイト組織を除く)を有し、
    前記粒界がベイナイト同士の粒界であることを特徴とする、クリープ余寿命予測方法。

    (式中、
    mは、ボイドが存在する粒界の数を表し、
    nは、各粒界上に存在するボイドの数を表し、
    αiは、α番目の粒界上に存在するi番目のボイドの粒界方向の長さを表し、かつ、
    αは、ボイドが存在するα番目の粒界の長さを表す。)
  2. 前記評価範囲がベイナイト組織からなることを特徴とする、請求項1に記載のクリープ余寿命予測方法。
  3. 前記製品が中空管であることを特徴とする、請求項1または2に記載のクリープ余寿命の予測方法。
  4. 前記製品が曲がり部分を有するボイラ用配管であることを特徴とする、請求項に記載のクリープ余寿命の予測方法。
  5. 前記加圧が内圧を加えることにより行われることを特徴とする、請求項またはに記載のクリープ余寿命の予測方法。
  6. 加熱及び加圧により劣化した第1製品のクリープ余寿命を予測する方法に用いる検量線を作成する方法であって、
    加熱及び加圧により劣化した第2製品の表面において、任意の評価範囲を設定する工程と、
    前記評価範囲内において、ボイドが存在する粒界の数及び長さを求める工程と、
    前記評価範囲内において、前記粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さを求める工程と、
    得られたボイドが存在する粒界の数及び長さ、並びに、得られた前記粒界の各々の上に存在するボイドの数及び粒界方向の長さから、下記式に基づいて、Mパラメータを求める工程と、
    得られたMパラメータと第2製品の損傷率との関係を表す検量線を作成する工程とを含み、
    第1製品及び第2製品がベイナイト組織(但し、析出炭化物を有するベイナイト組織を除く)を有し、
    前記粒界がベイナイト同士の粒界であることを特徴とする、検量線の作成方法。

    (式中、
    mは、ボイドが存在する粒界の数を表し、
    nは、各粒界上に存在するボイドの数を表し、
    αiは、α番目の粒界上に存在するi番目のボイドの粒界方向の長さを表し、かつ、
    αは、ボイドが存在するα番目の粒界の長さを表す。)
  7. 前記評価範囲がベイナイト組織からなることを特徴とする、請求項に記載の検量線作成方法。
  8. 第2製品として、互いに異なる温度で加熱され、かつ、互いに異なる圧力で加圧された少なくとも2種類の製品を用い、
    前記少なくとも2種類の製品のそれぞれについて求められたMパラメータに基づいて、前記検量線を作成することを特徴とする、請求項6または7に記載の検量線作成方法。
  9. 前記少なくとも2種類の製品の寿命が、互いに2割以内の差であることを特徴とする、請求項に記載の検量線作成方法。
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