JP5456424B2 - 耐流通ピンホール性に優れる缶ボディ用アルミニウム合金板及びその製造方法 - Google Patents
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Description
上述のようなピンホールが生じる問題を解決するための有効な手段として、胴部の肉厚を大きくすることが考えられるものの、単に胴部の肉厚を大きくしても缶ボディ材の材料使用量が増大するので、製造コストが増大することを回避できなかった。
特許文献1に記載の缶ボディでは、缶ボディの素材成分組成を上述としたうえで、製缶後の破断伸びを6〜10%として構成することにより、素材の板厚を薄くした場合であっても、胴部の突き刺し強度が向上するとされている。
このような胴切れを防止するためには、1回のしごき加工でのしごき率を低くするために、しごき加工の回数を増やすことが有効であるが、上述したように、従来から用いられているDI加工方法においては、しごきが通常3回で行われており、しごき回数を増やす場合には従来の工程設備を使用することができないという問題があった。
例えば、缶胴の強度と延性を高くすることにより、耐ピンホール特性を高くすることができる。このためには、Mg、Cu、Siなどの強度を高める元素の添加量を高くすれば良い。更に、素材製造時の最終冷間圧延率を高めると、素材の強度を高くすることができるが、缶成形後のベーキングで軟化を生じ易くなり、また、ベーキング後の缶胴の延性が低くなる。従って、素材の圧延率を過剰に高くしても、耐ピンホール性に及ぼす効果は小さい。
しかし、Mg、Cu、Siなどの量を過剰に高くすると、素材製造時の中間冷間圧延時に板幅端部にクラックが発生し、このクラックを起点として、冷間圧延や連続焼鈍時に板の破断が生じ易くなる。板の破断による生産性や歩留まりの低下は著しいので、板端部にクラックが発生する場合、端部をトリムしてクラックを除去したり、クラックの発生を抑制するために中間焼鈍を追加する必要があるが、これらの工程追加による生産性や歩留まりの低下も、コストアップの要因となるので、板端部にクラックが生じ難いことが必要と考えられる。
次に、総絞り比が高い場合に適用し、強度を高くし、板厚の薄い素材を用いるが、素材板厚が薄くなると、カップ成形時に板と打ち抜きくずを搬送する際、打ち抜きくずを成形機の外部に搬送できなくなる問題を生じることがあった。
本発明は、胴部の厚さが0.096mm〜0.113mmであり、製造時の総絞り比が2.2〜2.7であり、且つ総しごき率が60%以下の缶ボディの製造に用いる缶ボディ用アルミニウム合金板であって、質量%で、Mn:0.8〜1.1%、Mg:1.3〜1.7%、Si:0.25〜0.4%、Fe:0.3〜0.55%、Cu:0.3〜0.45%、Si+Cu:0.6〜0.8%、Zn:0.30%以下、Ti:0.15%以下を含有し、Cu量≧Si量の関係を満足し、残部が不可避不純物を含むAlからなり、板厚が0.240mm以上0.265mm以下であり、素材引張強さ325MPa以下であり、素材耐力285MPa以上310MPa以下であり、素材伸び2.5%以上4.5%以下であり、ベーキング後の素材耐力が280MPa以上であり、素材ベーキング後の(AB TS)−(AB YS)の値が37MPa以上、ベーキングによるTSの変化(AB TS)−(H TS)の値が10MPa以上、ベーキングによるYSの変化(H YS−AB YS)の値が10MPa以下であって、DI加工及び塗装焼付けによる製缶後の缶ボディの胴部の引張強さが350MPa以上410MPa以下であり、前記胴部の伸びが4.5%以上であることを特徴とする。
本発明は、前記胴部の伸びが5%以上であることを特徴とする。
本発明は、円相当径が1以上10μm以下の金属間化合物が3000個/mm2以上4800個/mm2以下で面積率が1.5〜2.5%であることを特徴とする。
本発明方法において、前記胴部の伸びを5%以上とすることができる。
そこで、缶ボディの底部を薄く形成することにより、必要な缶ボディ材の量を少なくする必要がある。缶ボディの底部は、しごき成形されないため、底部を薄くするためには素材板厚を薄くする必要がある。また、底部が薄くなると該底部の耐圧強度が低下するため、素材自体の強度を高める必要がある。しかしながら、素材の強度を高くすると、しごき成形時に胴部の破断(胴切れ)が生じ易くなる。
本実施形態の缶ボディ用アルミニウム合金板は、胴部の厚さが0.096mm〜0.113mmであり、製造時の総絞り比が2.2〜2.7であり、且つ総しごき率が60%以下の缶ボディの製造に用いる缶ボディ用アルミニウム合金板であって、質量%で、Mn:0.8〜1.1%、Mg:1.3〜1.7%、Si:0.25〜0.4%、Fe:0.3〜0.55%、Cu:0.3〜0.45%、Si+Cu:0.6〜0.8%を含有し、残部が不可避不純物を含むAlからなり、板厚が0.240mm以上0.265mm以下であり、素材引張強さ325MPa以下であり、素材耐力285MPa以上310MPa以下であり、素材伸び2.5%以上4.5%以下であり、ベーキング後の素材耐力が280MPa以上であり、素材ベーキング後の(AB TS)−(AB YS)の値が37MPa以上、ベーキングによるTSの変化(AB TS)−(H TS)の値が10MPa以上、ベーキングによるYSの変化(H YS−AB YS)の値が10MPa以下であるとともに、DI加工及び塗装焼付けによる製缶後の缶ボディの胴部の引張強さが350MPa以上410MPa以下、前記胴部の伸びが4.5%以上とされて概略構成されている。
本実施形態の缶ボディ用アルミニウム合金板は上述の規定に加え、更に、円相当径が1以上10μm以下の金属間化合物が3000個/mm2以上4800個/mm2以下で面積率が1.5%以上2.5%以下であることが好ましい。
本発明に係る缶ボディ用アルミニウム合金板は、この種のアルミニウム合金を製造する場合に適用される通常の溶解、鋳造、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、を経て製造される。そして特に、熱間圧延後冷間圧延を行い、その後、450℃以上600℃以下の温度に1秒以上2分以下加熱する中間焼鈍を行い、その後、50%〜70%の最終冷間圧延を行うことにより、素材としての最終板厚(0.240mm以上0.265mm以下)であって、(AB TS:ベーキング後の素材引張強さ)−(AB YS:ベーキング後の素材耐力)が37MPa以上、(AB TS)−(H TS:素材引張強さ)が10MPa以上、(H YS:素材耐力)−(AB YS)が10MPa以下(負も含む)のアルミニウム合金板を製造することができる。
なお、アルミニウム合金鋳塊に対して560℃〜融点未満の温度範囲で均質化処理を施すことができる。
以下、本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板において限定する成分組成について説明する。なお、以下に記載する各元素の含有量は、特に規定しない限り質量%であり、また、特に規定しない限り上限と下限を含むものとする。従って、例えば0.8〜1.1%との表記は0.8%以上、1.1%以下を意味する。
Siは、本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板において、同時に含有されるMg等とともに化合物を形成し、固溶硬化、析出硬化及び分散硬化作用で強度を向上させる他、Al−Mn−Fe系金属間化合物に含有されて、しごき成形時にダイスに対する焼き付きを防止する効果を有する。
Siの含有量が0.25%未満であると、十分な強度が得られず、また、金属間化合物寸法が大きくなる。Siの含有量が0.4%を越えると、強度が高くなりすぎ、缶ボディとして製缶した際に胴切れが生じ易くなり、サイドクラックが生じ易くなり、加工性が劣化する。また、Siの含有量が0.4%を越えると、Al−Mn−Fe系金属間化合物の量が多くなり、さらに、Mg、Cu、Alとの金属間化合物が溶体化できなくなり、靭性が低下し、ピンホールが生じやすくなる。従って、Siの含有量は、0.25〜0.4%の範囲内とすることが好ましい。
「Fe」0.3〜0.55%
Feは、本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板において、Al−Mn−Fe系金属間化合物の量を増加させ、結晶の微細化と、しごき成形加工時にダイスに対して焼き付きが生じるのを防止する効果を有する。
Feの含有量が0.3%未満であると、Al−Mn−Fe系金属間化合物の量が少なくなりすぎ、しごき金型への焼き付が生じやすくなる。Feの含有量が0.55%を超えると、Al−Mn−Fe系金属間化合物の量が多くなりすぎ、靭性低下によって加工性が劣化し、ピンホールが生じやすくなる。従って、Feの含有量は、0.3〜0.55%の範囲内とすることが好ましい。
Cuは、本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板において、Mg等と金属間化合物を形成し、固溶硬化、析出硬化及び分散硬化作用で強度を高める効果を有する。
Cuの含有量が0.3%未満であると、充分な強度向上効果が得られない。Cuの含有量が0.45%を越えると、サイドクラックが発生し易くなり、圧延性が低下するとともに、強度が高くなりすぎ、缶ボディとして製缶した際に胴切れが生じ易くなる。また、Mg、Si、Alとの金属間化合物が溶体化できなくなり、靭性低下によって加工性が劣化し、ピンホールが生じやすくなる。従って、Cuの含有量は、0.3〜0.45%の範囲内とすることが好ましい。
「Si+Cu」0.6〜0.8%
本実施形態では、Si量とCu量の合計値であるSi+Cuについても規定する。Si+Cuの量が0.6%未満では十分な強度を得難くなり、Si+Cuの量が0.8%を超えるとサイドクラックが発生し易くなり、圧延性が低下するとともに、強度が高くなりすぎ、缶ボディとして製缶した際に胴切れが生じ易くなる。
[Cu量≧Si量]
本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板において、Si量とCu量は、Cu量≧Si量の関係であることを必要とする。
本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板の製造過程において、溶体化されたSi、Cuは、共にMgなどの元素と反応し、析出硬化性を付与する。この結果、塗装焼き付け(ベーキング)時に析出するとともに、圧延や成形加工で導入された転位の回復を抑制し、固着する。このため、ベーキングによる強度増加あるいは低下の抑制効果を有する。ベーキング後の缶胴の引張強さを同じにした場合、Si量が多い場合より、Cu量が多い場合の方が突き刺し強度が高くなる。この理由は不明であるが、Siが多いと、Mn、Feとの金属間化合物の量が多くなり、また、Mg、Cu、Alとの粗大な析出物がCALによる中間焼鈍時に溶体化され難く、靭性が低下するため、突き刺し強度が低くなると推定できる。
Mnは、本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板において、Al−Mn−Fe系金属間化合物を形成し、晶出相及び分散相となって分散硬化作用を発揮するとともに、しごき成形加工時にダイスに対して焼き付きが生じるのを防止する効果を有する。
Mnの含有量が0.8%未満であると、Al−Mn−Fe系金属間化合物の量が少なくなりすぎて充分な硬化特性が得られず、しごき金型への焼き付が生じやすくなる。Mnの含有量が1.1%を越えると、Al−Mn−Fe系金属間化合物の量が多くなりすぎ、靭性低下によって加工性が劣化し、ピンホールが生じやすくなる。従って、Mnの含有量は、0.8〜1.1%の範囲内とすることが好ましい。
Mgは、本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板において、固溶体強化作用を有し、圧延加工時に加工硬化性を高めるとともに、SiやCuと共存することで分散硬化と析出硬化作用を発揮し、強度を向上させる。
Mgの含有量が1.3%未満だと、十分な強度が得られない。Mgの含有量が1.7%を超えると、サイドクラックが発生し易くなり、圧延性が低下するとともに、強度が高くなり過ぎて加工性が低下し、缶ボディとして製缶した際に胴切れが生じ易くなる。従って、Mgの含有量は、1.3〜1.7%の範囲内とすることが好ましい。なお、この範囲内でもMg量が1.4〜1.7%の範囲がより好ましい。
本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板は、さらに必要に応じて、質量%でZn:0.30%以下、Ti:0.15%以下の内の1種又は2種を含有する成分組成とすることができる。
Znは、析出するMg、Si、Cuの金属間化合物を微細化する作用を有するが、Znを含む場合は、原料として使用済みアルミ缶やリサイクル材料を有効利用できる。Znの含有量が0.30%を越えると、加工性と耐食性が劣化する。従って、Znの含有量は、0.30%以下とすることが好ましい。
Tiは、本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板において、結晶粒を微細化し、加工性を改善する効果を有する。Tiの含有量が0.15%を越えると、金属間化合物が多くなり過ぎて靭性が低下し、ピンホールが生じやすくなる。従って、Tiの含有量は、0.15%以下とすることが好ましい。
また、その他の元素を不純物として0.05%以下含有していても差し支えない。
本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板は、円相当径が1〜10μmの金属間化合物の数が、3000個/mm2以上4800個/mm2以下であることが好ましい。成分組成を上述のように規定し、且つアルミニウム合金鋳塊に対し560℃〜融点未満の温度で均質化処理を行なうことにより、この範囲の金属間化合物の分布が得られる。
金属間化合物の数が3000個/mm2未満であると、金属間化合物の量が少なくなりすぎ、しごき金型への焼き付が生じやすくなる。
金属間化合物の数が4800個/mm2を超えると、金属間化合物の量が多くなりすぎ、靱性が低下し、ピンホールが生じ易くなる。また、金属間化合物の数は、4400個/mm2以下がより好ましい。
本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板は、円相当径が1〜10μmの金属間化合物の面積率が1.5〜2.5%であることが好ましい。
金属間化合物の面積率が1.5%未満であると、金属間化合物の量が少なくなりすぎ、しごき金型への焼き付が生じやすくなる。金属間化合物の面積率が2.5%を超えると、金属間化合物の量が多くなりすぎ、靭性が低下し、ピンホールが生じやすくなる。また、金属間化合物の面積率は、2.2%以下であることがより好ましい。
素材の耐力は285MPa以上であることが好ましい。素材耐力が285MPa未満であると、素材としての板からカッピングプレスによりブランクを打ち抜く際、ブランクを打ち抜いた後のスケルトン材がカッピングプレス内に残留し、後工程のプレス工程に悪影響を及ぼすことが生じ易くなる。また、素材の引張強さが325MPaを超える、あるいは、素材耐力が310MPaを超えると、胴切れが生じ易くなる。
[素材伸び]
素材伸びは、2.5〜4.5%の範囲とする。素材伸びが2.5%未満であると、後述する図1(b)〜(c)の形状のカップ状缶体に成形する過程、または、図2に示す缶ボディ10の底部12を成形する時に、破断を生じ易くなる傾向となる。一方、素材伸びが4.5%を超えると、胴切れを生じ易くなる傾向となる。
DI加工後の缶ボディは、洗浄、化成処理後の乾燥時、外面印刷または内面塗装後の焼付け処理によって180〜230℃の温度に加熱される。この加熱により、一般に、缶底部や胴部の強度が変化する。この、加熱後の強度は、DI成形時の歪量によって異なる。底部はDI成形時の歪みが小さいため、その加熱後の強度はDI加工前の素材であるアルミニウム合金板を加熱した後の強度とほぼ等しくなる。このため、底部の強度の目安として、素材であるアルミニウム合金板をベーキング(加熱)した後の強度を用いることができる。本発明では、このための加熱条件を、210℃×10分としている。
本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板の、ベーキング後の素材耐力は、上記条件でベーキングを行った後の耐力で、280MPa以上であることが好ましい。
上述の条件でベーキングした後の素材耐力が280MPa未満であると、DI加工及び塗装焼付けによる製缶後の缶ボディの十分な耐圧強度が得られなくなる。
上記の素材の引張強さ、耐力をそれぞれH TS、H YSと表記し、ベーキング後の素材の引張強さ、耐力をそれぞれAB TS、AB YSと表記する。
ベーキングによるTSの変化(AB TS)−(H TS)の値、ベーキングによるYSの変化(H YS−AB YS)の値について説明すると、ベーキングによる素材引張強さの増加量が小さい、あるいは、素材耐力の低下量が大きい素材は、素材強度を高くしても、缶胴の引張強さや伸びが高くなり難い。更に、缶胴の引張強さを高くしても、突き刺し強度があまり増加しない。一方、突き刺し強度を高くするためには、素材の引張強さや伸びを過剰に高くする必要があり、しごき成形時に胴切れが著しく生じ易くなる。即ち、胴切れ性と突き刺し強度が両立できない。
これらを勘案し、ベーキングによるTSの変化(AB TS)−(H TS)の値が10MPa以上、ベーキングによるYSの変化(H YS−AB YS)の値が10MPa以下であることが好ましい。
素材ベーキング後の(AB TS)−(AB YS)の値について説明すると、この値が低い場合、加工硬化能が低くなり、製缶後の引張強さ、延性が低くなり、ピンホールを生じ易くなる。本発明でこの値は37MPa以上とする。(AB TS)−(AB YS)の値を高くするためには、最終冷間圧延率を低くすれば良いが、最終冷間圧延率を低くすると、AB YSも低くなるので、所定のAB YSを得るためには、Mg、Cu、Siなどの成分を増加する、及び/または、中間焼鈍を高温で行い、Mg、Cu、Siを溶体化する方法が有効である。
これらのような方法により、冷間圧延のパス間に450℃以上600℃以下の温度に1秒以上2分以下加熱する中間焼鈍を行い、その後、50%〜70%の最終冷間圧延を行うことにより、素材ベーキング後の(AB TS)−(AB YS)の値を37MPa以上とすることができる。中間焼鈍には、連続焼鈍ライン(Continuous Annealing Line,略称CAL)を用いるのが好適である。CALを用いる場合、保持時間は、長く出来ないので、2分以下、好ましくは、60秒以下とするのが好ましい。
[缶ボディ用アルミニウム合金板の板厚]
本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板の板厚は、0.240mm以上0.265mm以下の範囲であることが好ましい。
板厚が0.240mm未満だと、製缶して缶ボディとした際の十分な耐圧強度が得られなくなる。また、板厚が0.265mmを超えるようであると、缶ボディの底部の重量が重くなり、製造コストが上昇して経済的でない。特に板厚が0.260mm以下であることがより好ましい。
本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板は、胴部の厚さ(最薄部厚さ)が0.096mm以上0.113mm以下の缶ボディの製造に用いられる。また、本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板は、DI加工時の総しごき率が60%未満の缶ボディの製造に用いられる。ここで、総しごき率は、次式(1)で表される。
総しごき率(%)={(元の板厚T1−最終缶ボディ胴部最薄部厚さT2)/元の板厚T1}×100…(1)
上記(1)式において、最終缶ボディ胴部最薄部厚さT2は、塗膜無しの厚さである。 本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板は、素材板厚が0.240mm以上0.265mm以下であり、例えばしごき率は、元板厚が0.240mmで胴部厚さが0.096mmである場合に60%となる。
素材板厚が0.240mmより小さい場合、充分な耐圧強度が得られない。また、胴部板厚が0.113mmより大きい場合、耐ピンホール性は向上するものの、実用的な見地からは過剰強度となり、必要な素材の量が増えるため、経済的でない。
また、本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板は、DI加工時の総絞り比が2.2〜2.7である缶ボディの製造に用いられる。
総絞り比が2.7より大きいと、2回の絞り工程で絞った場合に、絞り成形時に材料の破断が生じ易くなる。一方、上記素材板厚T1、最終缶ボディ胴部最薄部厚さT2、及び総しごき率の制約下で実用的な容量の缶ボディを得るためには、総絞り比を2.2以上とする必要がある。例えば、一般的に用いられている缶胴径66mmで容量が350ccの缶ボディを成形する場合には、総絞り比を2.2〜2.4とすることが好ましい。また、缶胴径約66mmで容量が約500ccの缶ボディを成形する場合には、総絞り比を2.45〜2.65とすることが好ましい。
カップ絞り比B=ブランク径D1/カップ径D2…(2)
再絞り比C=カップ径D2/胴部径D3…(3)
総絞り比A=カップ絞り比B×再絞り比C=ブランク径D1/胴部径D3…(4)
本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板をDI加工及び塗装焼付けして得られる缶ボディの胴部の引張強さは、350MPa以上410MPa以下であることが好ましい。
DI加工及び塗装焼付けによる製缶後の缶ボディ胴部の引張強さが350MPa未満であると、充分な耐流通ピンホール性が得られず、また、410MPaを超えると、胴切れが生じ易くなるとともに生産性が低下する。
本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板をDI加工及び塗装焼付けして得られる缶ボディの胴部の伸びは4.5%以上であることが好ましく、5%以上であることが最も好ましい。
DI成形直後の胴部は、伸びが低く、また脆いためにピンホールを生じやすい。成形された缶ボディは、洗浄及び化成処理して乾燥し、外面塗装印刷及び内面塗装を行った後の焼付けで加熱されることにより、強度は低下するが、延性を回復する。
上述のような加熱の条件を制御することによって、胴部の伸びを上記下限値以上とすることが必要となるが、例えば10分間、一定温度で加熱する場合、180℃の温度では充分でなく、190℃以上の温度で加熱する必要がある。
本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板では、冷間仕上圧延後、板の表面に50〜300mg/m2の潤滑剤をリオイル(塗油)する。リオイルには、深絞り成形の直前に塗油する潤滑剤と同じもの、またはそれと親和性が高い潤滑剤を用いることができる。
予め、合金板素材に潤滑剤を少量リオイルしておくことにより、深絞り成形直前に潤滑剤を塗油する際に均一に塗油されるようになり、深絞り、及び、しごき成形の際の潤滑効果が高まり、特にしごき成形時の胴切れを抑制することができる。
リオイル量は、50〜300mg/m2の範囲であることが好ましい。この範囲であれば、上述の効果が十分に得られる。また、リオイル量は、より好ましくは200mg/m2以下である。
以下、図1を用いて、缶ボディ用アルミニウム合金材にDI加工を施して製缶し、缶ボディ10を得る工程の一例を説明する。
まず、図1(a)に示すように、缶ボディ用アルミニウム合金材に打ち抜き加工を施し、直径が149mmの円板状の板材(ブランク)を得る。
ついで、この円板状の板材に絞り加工を施し、図1(b)に示すような、軸線方向における高さが42mm、外径が88.2mmとされたカップ状缶体を形成する。ここで、円板状の板材は、厚さが0.240mm以上0.265mm未満とされている。
次いで、総しごき率が60%未満となるように、しごき加工を施し、図1(d)に示すような有底筒状缶体を形成する。この有底筒状体の開口端部は、その缶軸方向に波打つような凹凸形状とされる。
本例では、図2に示すように、底部12が、胴部11の缶軸方向における内側に向けて凹むドーム部12aを備えるとともに、このドーム部12aの外周縁部が胴部11の缶軸方向における外側に向けて突出する環状凸部12cとされている。この環状凸部12cの缶軸方向における頂部が、缶ボディ10が正立姿勢となるように、この缶ボディ10を接地面L上に配置したときに、接地面Lに接する接地部12bとされる。
また、素材強度を高くすることにより、DI加工及び塗装焼付けによる製缶後の缶ボディ胴部の強度を、引張強さで350MPa以上410MPa以下と高くできるので、前記胴部の突き刺し強度が向上し、胴部にピンホールが生じるのを抑制することができる。
また、素材板厚を薄くすることにより、缶ボディの重量を従来と同等に抑制することができる。
従って、本発明の缶ボディ用アルミニウム合金板を用いることにより、製造コストを増大させることなく、耐流通ピンホール性に優れた缶ボディを得ることができる。
本実施例1では、下記表1に示す各成分組成及び製造条件にて、以下の工程でNo.1〜No.20の缶ボディ用アルミニウム合金板を作製し、後述の各項目について評価を行った。
下記表1に示す成分を含有するアルミニウム合金を溶解し、この溶湯を常法により脱ガス、介在物除去を行い、半連続鋳造により厚さ550mm、幅1.5m、長さ4.5mのスラブに鋳造した。次いで、スラブに565℃で均熱化処理を施した後、熱間圧延を施した。熱間圧延により板厚7.5mmまで圧延し、圧延された板は圧延後にコイル状に巻き取る直前に、端部をトリマーによりトリムした。巻き取られたコイルの端面温度は、420〜440℃とし、冷却するまでの間に再結晶を生じさせ、軟質状態にした。次に、2.2mmまで冷間圧延し、冷間圧延後、板の両サイドをそれぞれ30mmトリムし、トリム後の端面にクラックが残っていないことを確認した。その後、0.65mm〜0.75mmまでの所定の板厚まで冷間圧延した。その後、480℃〜590℃の温度範囲に1s〜60s加熱する連続焼鈍を施した後、0.260mmの最終板厚まで仕上圧延してNo.1〜20の試料を得た。
[圧延性の評価]
2.2mmから0.65mm〜0.75mmまで圧延する際に、板の破断が生じた場合、および、0.65〜0.75mmの間の所定の板厚まで冷間圧延後、端面のクラック発生状況を確認し、圧延後のクラックが大きく、量産的に安定して生産ができないと判断された場合を不合格とした。
また、缶ボディ用アルミニウム合金板の各サンプルについて、引張方向が圧延方向と平行になるようにJIS5号試験片を採取し、素材についてはそのまま引張試験に供し、ベーキング後の素材については、210℃で10分加熱後に引張試験した。
上述の工程で得られた各実施例及び比較例の缶ボディ用アルミニウム合金板を打ち抜き、直径が149mmとされた円板状の板材(図1(a)参照)を得た。この円板状の板材にDI加工を施し、胴部の最薄部肉厚T2が0.110mmの各実施例及び比較例の缶ボディ(350cc缶)を得た。なお、この際の総絞り比及び総しごき率は、それぞれ2.258、57.7%である。
まず、塗料としてエポキシ系塗料及びアクリル系塗料を使用し、文字情報等の印刷部分も含め、缶ボディの外面に50mg/dm2の膜厚で塗布した。そして、この缶ボディをオーブンに入れ、180℃の温度で30秒間、加熱乾燥した。
また、上述のようにして外面塗装を施した缶ボディの内面に、スプレーを使用してエポキシ塗料を40mg/dm2の膜厚で塗布した。そして、この缶ボディをオーブンに入れ、200℃の温度で60秒間、加熱乾燥した。
まず、5万缶DI成形を行い、しごき加工時に胴部の破断が生じないか調べた。胴切れ性発生数が5缶以上であった場合は、その発生数と製缶数から発生率を求めた。5缶未満であった場合は、更に5万缶成形し、胴切れ発生数を求めた。そして、胴切れ発生率(ppm)=全胴切れ発生数/全成形数×1000,000とした。
[缶ボディの評価項目]
上述の工程で得られた各実施例及び比較例の缶ボディについて、缶ボディの胴部における引張強さTS、伸び率、及び突き刺し強度を測定した。
引張強さTS及び伸び率は、各試料の缶ボディの缶底の圧延方向から45゜傾いた位置から引張試験片を採取し、全長75mm、平行部長36mm、平行部幅10mm、つかみ部幅15mm、肩半径15mmの寸法形状に加工した試験片を用いて評価した。この際、缶の接地部から缶軸方向上方に60mm離れた部分が引張試験片の中心となり、引張方向が缶軸方向となるようにした。そして、外面及び内面の塗装を、硝酸を用いて脱膜処理した後、引張試験を行うことにより、引張強さ(TS)及び伸び率を測定した。
また、突き刺し強度は、室温(20℃)雰囲気中において、缶ボディに0.196MPaの内圧をかけた状態とし、缶ボディ胴部のうち、接地部から缶軸方向上方に60mm離れた部分、かつ、缶底の圧延方向から45゜傾いた位置を、曲率半径(先端半径)0.5mmとされた押圧子によって径方向内方に向けて押圧し、穴があいた時の押圧力で評価した。この際、押圧子の胴部の径方向内方へ向けた移動速度を25mm/minとした。
実施例2として、板厚0.260mmの試料として、表4に示すように、実施例1で用いた試料のうち素材耐力が異なるNo.1、4、5、6を用いた。
実施例2として、さらに、板厚が0.265mmまたは0.250mmで、素材耐力を275MPaから295MPaまで変化させたNo.21〜27の試料も用いた。
なお、表4の試料No.21において(4)と併記したのは、No.4の試料と同一成分の合金を用い、ほぼ同様な製造方法で製作したことを示す。製造方法については、No.4の試料と同等な特性を得るために、最終板厚を変更したことに伴い、最終冷間圧延率を同じにするために、中間焼鈍板厚を変更した。以下、No.22〜27の各試料の( )内の数字の意味も同様である。
表4の各試料について、成形速度を変化させ、スケルトンジャムを生じないで安定に生産できる速度を調べた。
すなわち、成形速度を100cpmから、10cpmずつ段階的に高くして行き、各成形速度で10分間連続成形を実施した。そして、スケルトンジャムを生じないで、10分間連続成形できる上限速度を確認した。
なお、表3にはこれらの条件を満たして特性を満足している試料について、条件1の欄に○印を付している。
No.2の試料は素材伸びが望ましい範囲より大きくなり、胴切れ発生率が高くなった。No.4の試料は素材耐力が低くスケルトンジャムが発生しやすい。なお、素材耐力とスケルトン・ジャムとの関係については、実施例2の説明で詳しく後述する。No.5の試料はMg含有量が低く突き刺し強度の面で不足となり、No.6の試料はMg含有量が低く素材耐力も低いために突き刺し強度が低くなり、スケルトンジャムも発生した。No.9、10の試料はMg含有量が多い試料であるが、素材引張強さが高くなり過ぎ、圧延クラックが発生した。No.13の試料はSi含有量が多く、Cu<Siの関係となり、突き刺し強度が低下した。No.14の試料はSi含有量が多くベーキング後の素材耐力が280MPaを下回り、ベーキング後の耐力変化(H YS)−(AB YS)が10MPaを超える試料であるが、突き刺し強度が低くなった。
No.18の試料は、Cu<Siの関係となり、突き刺し強度が低下した。
No.19、No.20の試料はCu量、Mg量、(Si+Cu)量が少なく、Cu≧Siの条件を満足しない試料であるが、素材耐力、ベーキング後の素材耐力も低く、いずれもスケルトンジャムを生じやすく、突刺し強度が低い。No.20は、ベーキングによるTSの変化(AB TS)−(H TS)の値、ベーキングによるYSの変化(H YS−AB YS)、製缶後の引張強さの値も好ましい条件を満足できず、突き刺し強度が特に低い。
No.3の試料は条件1は満足するが、製缶後の伸びの値が最も好ましい条件5%以上を満足できず、条件1を満足する試料の中では、突刺し強度が最も低い。条件1に加え、製缶後の伸びが最も好ましい5%以上を満足する試料には、条件2欄に○印を付した。条件2欄に○印を付した試料はいずれも突刺し強度が47.5N以上と高い。
次に、表4に示す実施例2の結果について説明する。表4によると、板厚が同じ場合、素材耐力が高いほど、スケルトンジャムを生じないで、連続成形可能な上限速度が高くなることが分かる。また、素材耐力がほぼ同等な場合、板厚が薄いほど、連続成形可能な上限速度が低くなることが分かる。そこで、生産効率の観点から、素材耐力の好ましい範囲の下限値は、0.265から0.250mmのすべての板厚で、150cpm以上で成形可能である285MPaとした。
Claims (5)
- 胴部の厚さが0.096mm〜0.113mmであり、製造時の総絞り比が2.2〜2.7であり、且つ総しごき率が60%以下の缶ボディの製造に用いる缶ボディ用アルミニウム合金板であって、
質量%で、Mn:0.8〜1.1%、Mg:1.3〜1.7%、Si:0.25〜0.4%、Fe:0.3〜0.55%、Cu:0.3〜0.45%、Si+Cu:0.6〜0.8%、Zn:0.30%以下、Ti:0.15%以下を含有し、Cu量≧Si量の関係を満足し、残部が不可避不純物を含むAlからなり、
板厚が0.240mm以上0.265mm以下であり、素材引張強さ325MPa以下であり、素材耐力285MPa以上310MPa以下であり、素材伸び2.5%以上4.5%以下であり、ベーキング後の素材耐力が280MPa以上であり、素材ベーキング後の(AB TS)−(AB YS)の値が37MPa以上、ベーキングによるTSの変化(AB TS)−(H TS)の値が10MPa以上、ベーキングによるYSの変化(H YS−AB YS)の値が10MPa以下、DI加工及び塗装焼付けによる製缶後の缶ボディの胴部の引張強さが350MPa以上410MPa以下であるとともに、前記胴部の伸びが4.5%以上であることを特徴とする、耐流通ピンホール性に優れる缶ボディ用アルミニウム合金板。 - 前記胴部の伸びが5%以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐流通ピンホール性に優れる缶ボディ用アルミニウム合金板。
- 円相当径が1以上10μm以下の金属間化合物が3000個/mm2以上4800個/mm2以下で面積率が1.5〜2.5%であることを特徴とする請求項1または2に記載の耐流通ピンホール性に優れる缶ボディ用アルミニウム合金板。
- 胴部の厚さが0.096mm以上0.113mm以下であり、製造時の総絞り比が2.2〜2.7であり、且つ総しごき率が60%以下の缶ボディの製造に用いる缶ボディ用アルミニウム合金板を製造するために、
質量%で、Mn:0.8〜1.1%、Mg:1.3〜1.7%、Si:0.25〜0.4%、Fe:0.3〜0.55%、Cu:0.3〜0.45%、Si+Cu:0.6〜0.8%、Zn:0.30%以下、Ti:0.15%以下を含有し、Cu量≧Si量の関係を満足し、残部が不可避不純物を含むアルミニウム合金鋳造材を均質化処理した後、熱間圧延加工と冷間圧延加工を施す缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法であって、
冷間圧延のパス間に450℃以上600℃以下の温度に所定時間加熱する中間焼鈍を行い、その後、50%以上70%以下の最終冷間圧延を行うことにより、
板厚が0.240mm以上0.265mm以下であり、素材引張強さ325MPa以下であり、素材耐力285MPa以上310MPa以下であり、素材伸び2.5%以上4.5%以下であり、ベーキング後の素材耐力が280MPa以上であり、素材ベーキング後の(AB TS)−(AB YS)の値が37MPa以上、ベーキングによるTSの変化(AB TS)−(H TS)の値を10MPa以上、ベーキングによるYSの変化(HYS−AB YS)の値を10MPa以下、DI加工及び塗装焼付けによる製缶後の缶ボディの胴部の引張強さが350MPa以上410MPa以下であるとともに、前記胴部の伸びを4.5%以上とすることを特徴とする缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法。 - 前記胴部の伸びを5%以上とすることを特徴とする請求項4に記載の缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法。
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