この発明に係る保持治具の製造方法によって製造される保持治具を説明する。この保持治具は弾性部材の表面に粘着部と非粘着部とが適宜のパターンで配置される。この非粘着部は、粘着部に粘着保持された被粘着物を脱離させるときに被粘着物を押圧する押圧方向の下流側にこの粘着部に隣接して配置されている。このように、非粘着部と粘着部とが隣接して配置されていると、被粘着物を転倒又はわずかに摺動させるだけで粘着部すなわち保持治具から取り外すことができる。
この発明に係る保持治具の製造方法によって製造される保持治具を、図面を参照して、説明する。この発明に係る保持治具の製造方法によって製造される保持治具の一例である保持治具1は、図1に示されるように、支持部材5Aと弾性部材6Aとを備えてなる。
支持部材5Aは、図1に示されるように、弾性部材6Aを支持する。この支持部材5Aは弾性部材11を支持することができる限り種々の設計変更に基づく各種の形態にすることができる。保持治具1の支持部材5Aは、その端縁近傍が弾性部材6Aの端縁から突出するように弾性部材6Aよりも大きな寸法を有する単層の盤状薄葉体に形成されている。なお、この支持部材5Aは、積層体とすることもでき、また、弾性部材6Aとほぼ同じ寸法の方形を成す盤状薄葉体に形成されることもできる。
前記弾性部材6Aは、被粘着物の一平面(粘着面と称することがある。)に接して、多数の被粘着物を粘着により保持することができるように設計され、例えば、図1に示されるように、支持部材5Aの表面に支持部材5Aよりも一回り小さな方形を成す盤状体に成形されている。この弾性部材6Aは、例えば、後述する粘着力を有する粘着性材料又はこの粘着性材料の硬化物で形成されており、自身の表面全体が被粘着物を粘着保持可能な粘着性表面6aになっている。
弾性部材6Aの粘着性表面6aは、前記被粘着物の表面に接触して被粘着物を粘着保持するから、被粘着物を粘着保持することのできる粘着力を有している。具体的には、弾性部材6Aの粘着性表面6aは、通常、1〜50g/mm2の粘着力を有しているのがよく、7〜50g/mm2の粘着力を有しているのがよい。ここで、粘着力は下記「信越ポリマー法」によって測定された値である。この方法においては、弾性部材6Aを水平に固定する吸着固定装置(例えば、商品名:電磁チャック、KET−1530B、カネテック(株)製)又は真空吸引チャックプレート等と、測定部先端に、直径10mmの円柱を成したステンレス鋼(SUS304)製の接触子を取り付けたデジタルフォースゲージ(商品名:ZP−50N、(株)イマダ製)とを備えた荷重測定装置を用意し、この荷重測定装置における吸着固定装置又は真空吸引チャックプレート上に弾性部材6Aを固定し、測定環境を21±1℃、湿度50±5%に設定する。次いで、20mm/minの速度で粘着性表面6aの被測定部位に接触するまで前記荷重測定装置に取り付けられた前記接触子を下降させ、次いで、この接触子を被測定部位に所定の荷重で被測定部に対して垂直に3秒間押圧する。ここで、前記所定の荷重を25g/mm2に設定する。次いで、180mm/minの速度で前記接触子を被測定部位から引き離し、このときに前記デジタルフォースゲージにより測定される引き離し荷重を読み取る。この操作を、被測定部位の複数箇所で行い、得られる複数の引き離し荷重を算術平均し、得られる算術平均値を粘着性表面6aの粘着力とする。
弾性部材6Aは、その粘着性表面6aの硬度(JIS K6253[デュロメータE])が5〜60程度であるのが、被粘着物を粘着保持させるときに損傷及び破損等させることを防止できる点で、好ましい。弾性部材6Aは、その粘着性表面6aすなわち非粘着部8Aが載置される表面が平滑であるのが好ましく、具体的には、例えば、前記粘着性表面6aの十点平均粗さRz(JIS B 0601−1994)が5μm以下であるのが好ましい。十点平均粗さRzは、カットオフ0.8mm、測定長さ2.4mm等の条件で測定する。この弾性部材6Aは、0.05〜2mm程度の厚さを有しているのが好ましい。
弾性部材6Aは、図1に示されるように、その表面に粘着部7Aと非粘着部8Aとを有している。図1(b)により明確に示されるように、非粘着部8Aは弾性部材6Aの粘着性表面6a上に形成された非粘着領域であり、粘着部7Aは非粘着部8A内部で弾性部材6Aの粘着性表面6aが露出して形成された粘着領域であって被粘着物を粘着保持するときに被粘着物の表面に接触する領域である。この非粘着部8Aは、全体として、被粘着物を粘着保持する際の配列状態と同様に配列された貫通孔を有する非粘着性の薄葉体になっており、粘着性表面6aの一部に配置されている。このように非粘着部8Aを配置すると、図1に示されるように、弾性部材6Aの表面に、粘着部7Aと非粘着部8Aとが、非粘着部8Aの領域内に一段低い粘着部7Aが点在する海島構造となるように、配列される。具体的には、粘着部7Aすなわち非粘着部8A内に露出する粘着性表面6aは、1つの被粘着物を1つの粘着部7Aで粘着保持するように、被粘着物を粘着保持する際の配列状態と同様の配列状態となるように配置され、この例においては、縦横両方向に略等間隔に配列されている。このように粘着部7Aが配置されていると、非粘着部8Aは、図1(a)に示されるように、粘着部7Aに粘着保持された被粘着物を脱離させるときに被粘着物が押圧される押圧方向の下流側にこの粘着部7Aに隣接して配置され、具体的には、粘着部7Aを囲繞するように配置される。したがって、この粘着部7Aに粘着保持された被粘着物を非粘着部8A側に押圧すると、この例においてはいずれの方向に押圧しても、被粘着物を転倒又は摺動させて粘着部7Aに隣接する非粘着部8Aに接触させると保持治具1から取り外すことができる。
非粘着部8Aは1μm以下のその厚さを有しているのが好ましい。そして、非粘着性の薄葉体に形成された貫通孔すなわち粘着部7Aは、図1に破線で示されるように、その直径が、粘着性表面6aに接触する被粘着物の粘着面(図1(a)において、この粘着面を仮想粘着領域9として破線で示す。)の直径又はこの粘着面に外接する仮想外接円の直径と同じ又は僅かに大きくなっている。このように粘着部7Aの直径が設定されていると、1つの被粘着物を1つの粘着部7Aで粘着保持できるから、粘着面全体が粘着部7Aに接触して被粘着物を強固に粘着保持する。したがって、この保持治具1は、他の保持治具に粘着保持された被粘着物を他の保持治具から移し替える場合すなわち転写して受取る場合等に好適に用いられる。貫通孔すなわち粘着部7Aの開口部は、特に限定されず、種々の形状、例えば、円形、楕円形、多角形、不定形等に、設定される。なお、この保持治具1においては、1つの被粘着物を1つの粘着部7Aで粘着保持するようになっているから非粘着部8Aの配置精度及び被粘着物を粘着保持するときの位置決めが重要になる。
この発明に係る保持治具の製造方法によって製造される保持治具の別の一例である保持治具2は、図2に示されるように、支持部材5Bと弾性部材6Bとを備えてなる。そして、この弾性部材6Bは、図2に示されるように、その表面に粘着部7Bと非粘着部8Bとを有し、粘着部7Bが所謂「千鳥配列」に配置されている。すなわち、保持治具2は粘着部7Bの寸法及び配列が異なること以外は、保持治具1と基本的に同様である。この粘着部7Bすなわち非粘着部8B内に露出する粘着性表面6aはその直径が、粘着性表面6aに接触する被粘着物の粘着面(図2(a)において、この粘着面を仮想粘着領域9として破線で示す。)の直径又はこの粘着面に外接する仮想外接円の直径よりも小さくなっており、好ましくは直径の10〜33%程度になっている。このように、粘着部7Bの直径が設定されていると、図2(a)に破線で示されるように、1つの被粘着物を被粘着部8Bを含んで複数の粘着部7Bに跨って粘着保持する。したがって、この保持治具2は、弾性部材の粘着性表面6aが同じ粘着力を有している場合には、1つの被粘着物を1つの粘着部7Aで粘着保持する、例えば保持治具1に比して被粘着物に対する粘着保持力が弱くなる。それ故、この保持治具2は、自身に粘着保持した被粘着物を他の保持治具に移し替える場合すなわち転写して受け渡す場合等に好適に用いられ、例えば、保持治具1と保持治具2とを1組として被粘着物の転写保持装置を構成できる。なお、この保持治具2を使用する場合には、被粘着物の粘着面が少なくとも1つの粘着部7Bに接触すればよいから非粘着部8Aの正確な配置精度及び被粘着物の正確な位置決めが不要になるという利点がある。
この発明に係る保持治具の製造方法によって製造される保持治具のまた別の一例である保持治具3は、図3に示されるように、同寸法の支持部材(図3において図示しない。)及び弾性部材6Cを備えてなる。そして、この弾性部材6Cは、図3に示されるように、その表面に粘着部7Cと非粘着部8Cとを有し、一方向に沿って延在する粘着部7Cが並列配置されている。すなわち、保持治具3は弾性部材6Cの寸法並びに粘着部7C及び非粘着部8Cの配列が異なること以外は、保持治具1と基本的に同様である。この粘着部7Cの幅すなわち短辺長さ(前記一方向に垂直な長さ)は、前記保持治具1又は保持治具2のように、所要とする粘着力に応じて適宜に選択され、例えば、粘着性表面6aに接触する被粘着物の粘着面の直径又はこの粘着面に外接する仮想外接円の直径よりも大きくても小さくてもよく、また、同じであってもよい。粘着部7Cの幅が粘着面の直径よりも小さい場合には、好ましくは直径の70〜99%程度である。
この発明に係る保持治具の製造方法によって製造される保持治具に粘着保持される被粘着物は、この保持治具に粘着保持される必要性のある被粘着物を製造可能な被粘着物用部材、例えば、小型器具用部材、小型機械要素用部材及び小型電子部品用部材等が挙げられる。また、保持治具は被粘着物自体を粘着保持することもあるから、被粘着物は、被粘着物そのもの、例えば、小型器具、小型機械要素及び小型電子部品等も含まれる。したがって、この発明において、被粘着物と被粘着物用部材とは明確に区別される必要はない。これら被粘着物の中でも、この発明に係る保持治具の製造方法によって製造される保持治具が粘着保持するのに好適な被粘着物として、小型電子部品及び/又は小型電子部品用部材等が挙げられる。小型電子部品及び小型電子部品用部材としては、例えば、コンデンサチップ(チップコンデンサとも称されることがある。)、インダクタチップ、抵抗体チップ、FPC、ウエハー等の完成品若しくは未完成品等、及び/又は、これらを製造可能な例えば、角柱体若しくは円柱体、一端部に鍔を有する角柱体若しくは円柱体、両端部に鍔を有する角柱体若しくは円柱体等が挙げられる。
この発明に係る保持治具の製造方法によって製造される保持治具は後述するように粘着部及び非粘着部を高精密かつ高精度に形成できるから、粘着性表面6aに接触する被粘着物の粘着面の直径又はこの粘着面に外接する仮想外接円の直径が0.7mmまでの従来の被粘着物だけでなく、これよりもより一層小型化された被粘着物、例えば、前記直径が0.28〜0.42mmの被粘着物であっても粘着保持できる。
この発明に係る保持治具の製造方法について説明する。この発明に係る保持治具の製造方法は、蒸着又はスパッタリングで弾性部材の表面に金属薄膜を形成し、粘着部が配置される領域にレーザーを照射して金属薄膜を除去する方法である。
この発明に係る保持治具の製造方法の一例(以下、この発明に係る一製造方法と称することがある。)として、前記保持治具1を製造する方法を説明する。
この発明に係る一製造方法においては、支持部材5Aを準備する。支持部材5Aは、公知の方法等で弾性部材6Aを保持又は支持可能な材料を盤状体に整形して、作製される。このような材料として、例えば、ステンレス鋼及びアルミニウム等の金属製プレート、アルミニウム箔及び銅箔等の金属箔、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリ塩化ビニル等の樹脂フィルム又は樹脂板、和紙、合成紙及びポリエチレンラミネート紙等の紙、並びに、布、ガラス繊維及びガラス板等のセラミックス、並びに、ガラスエポキシ樹脂板等の複合材料等を挙げることができる。支持部材5Aは、層体とすることもできる。
この発明に係る一製造方法においては、所望により、支持部材5Aの弾性部材6Aを形成する面に、弾性部材6Aとの密着性を向上させるために、プライマー処理、コロナ処理、エッチング処理及び/又はプラズマ処理等を施すのが好ましい。
この発明に係る一製造方法においては、この支持部材5A上に粘着性表面6aを有する弾性部材6Aを形成する。具体的には、図4(a)に示されるように、支持部材5Aに後述する粘着性材料で公知の成形方法等で作製したシート状弾性部材又はシート状成形体を積層し、所望により接着する。前記粘着性材料は、硬化したときに前記範囲の粘着力を発揮することのできる材料であればよく、例えば、フッ素系樹脂又はフッ素系ゴム、フッ素系樹脂又はフッ素系ゴムを含有するフッ素系組成物、シリコーン樹脂又はシリコーンゴム、シリコーン樹脂又はシリコーンゴムを含有するシリコーン組成物、ウレタン系エラストマー、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合エラストマー等の各種エラストマー等が挙げられる。この中でも、シリコーンゴム、及び/又は、シリコーンゴムを含有する付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物及び過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物が好ましい。前記付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物としては、例えば、特開2008−091659号公報に記載の、シリコーン生ゴム(a)と架橋成分(b)と粘着力向上剤(c)と触媒(d)とシリカ系充填材(e)とを含有する粘着性組成物を挙げることができる。前記過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物としては、例えば、特開2008−091659号公報に記載の、シリコーン生ゴム(a)と粘着力向上剤(c)とシリカ系充填材(e)と有機過酸化物(f)とを含有する粘着性組成物を挙げることができる。
粘着材料の成形及び硬化は用いる粘着性材料に応じて適宜に設定される。例えば、粘着性材料として付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物を選択した場合には、各種成形方法において、80〜130℃で3〜40分加熱することにより、硬化される。また、粘着性材料として過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物を選択した場合には、各種成形方法において、100〜150℃で5〜20分加熱することにより、硬化される。なお、このようにして硬化された付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物及び過酸化物硬化型粘着性シリコーン組成物は、さらに、170〜220℃、2〜10時間の条件で二次加熱されてもよい。なお、この弾性部材6Aは支持部材5Aと一体成形法等により作製することもできる。
この発明に係る一製造方法においては、次いで、図4(b)に示されるように、弾性部材6Aの粘着性表面6a、好ましくはその全面に、蒸着法又はスパッタリング法で金属を堆積させて、金属薄膜11を形成する。蒸着法及びスパッタリング法で金属薄膜11を形成すると平坦な薄膜を形成できる。この金属薄膜11は1μm以下の厚さに形成されるのが、生産性が高く必要以上にレーザーの出力を上げて粘着部材面を傷める可能性が少ない点で、また、粘着部7A及び非粘着部8Aに跨って被粘着物を保持する場合でも被粘着物をほぼ垂直な起立状態に粘着保持できる点で、好ましい。
前記金属薄膜11は、蒸着又はスパッタリングで形成できる金属の薄膜であればよく、このような金属として、アルミニウム、金、銀、銅、白金、ニッケル及びチタン等が挙げられる。この金属薄膜11は金属で形成されているから、その表面は粘着性を有してなく、保持治具1としたときに非粘着部8Aとして機能する。
金属薄膜11を蒸着法で形成する場合には、蒸着方法及び蒸着条件は公知の方法及び条件を採用できる。例えば、蒸着方法として、抵抗加熱式、電子ビーム式、高周波誘導式及びレーザー式等が挙げられる。
金属薄膜11をスパッタリング法で形成する場合には、スパッタリング方法及びスパッタリング条件は公知のスパッタリング方法及び条件を採用できる。例えば、スパッタリング方法として、マグネトロン法、反応性スパッタリング、2極法及びイオンビーム法等が挙げられる。このようにスパッタリング法で金属薄膜11を形成すると粘着性表面6aと金属薄膜11との密着性が高くなり好ましい。
この発明に係る一製造方法においては、次いで、図4(c)及び図4(d)に示されるように、保持治具1としたときの粘着部7Aの領域、換言すると、非粘着部8Aを配置する領域以外の領域に、レーザー12を照射する。さらにいうと、非粘着部8Aが一部に配置された粘着性表面6aにおける、非粘着部8Aが配置されない残部にレーザー12を照射する。レーザー12は、粘着部8Aの配置パターンとなるように金属薄膜11に照射され、例えば、配置する粘着部7Aの寸法及び形状等に応じて、照射される。具体的には、レーザー12は、配置する粘着部7Aの配置パターンと同一のパターンで照射されてもよく、異なるパターンで照射されてもよい。保持治具1は、図1(a)に示されるように、粘着部7Aすなわち粘着性表面6aに粘着保持された被粘着物を脱離させるときに被粘着物が押圧される押圧方向の下流側に隣接する配置パターンで被粘着部8Aが配置されているから、レーザー12は、押圧方向の上流側に粘着部7A、下流側に被粘着部8Aが接して配置されるように、照射される。保持治具1を製造する場合には、粘着部7Aの形成パターンと同一のパターンでレーザー12を照射する。レーザー12の照射パターンは、レーザーヘッドをコンピュータ等で高精度かつ高精密に制御することができる。
照射するレーザー12は、その出力及びスポット径等が調整される。具体的には、レーザー出力は、金属薄膜11を除去できる出力以上で弾性部材6の粘着性表面6aを過度に改質例えば焦げ付きさせない程度の出力以下に設定される。レーザー12のスポット径は、粘着部7Aの直径、レーザー12の走査量等に応じて適宜の径に設定され、この直径と略同一でも小さくてもよい。レーザー12の照射条件の一例として、例えば、1〜100kHzの周波数で、1〜20mAの電流、1〜10000mm/sの走査速度のYAGレーザーを照射する照射条件を挙げることができる。レーザー装置としては、例えば、商品名「SMARK−7112AH」(ミヤチテクノス株式会社製)等が挙げられる。
このようにしてレーザー12を照射して金属薄膜11を除去すると、レーザー12が照射された領域は粘着性表面6aが露出して粘着部7Aとなり、レーザー12が照射されない領域は金属薄膜11が残存して非粘着性の薄葉体すなわち非粘着部8Aとなる。このようにして、粘着性表面6a上に非粘着部8Aとなる金属薄膜11を形成して、表面に粘着部7Aと非粘着部8Aとが配置された弾性部材6Aを形成できる。
このようにして保持治具1を製造できる。この発明に係る一製造方法においては保持治具1を製造する例をあげて説明したが、この発明に係る製造方法によれば、照射するレーザー12のスポット径、走査量等を適宜に調整することによって、保持治具1以外の保持治具、例えば、保持治具2及び3も同様にして製造できる。
この発明に係る保持治具の製造方法は、蒸着又はスパッタリングで表面に金属薄膜を形成し、粘着部が形成される領域にレーザーを照射して金属薄膜を除去して、表面に粘着部と非粘着部とが配置された弾性部材を備えて成る保持治具を製造する方法であるから、制御も操作も容易で生産性の高いレーザー照射を利用する一方で、非粘着部の形成パターンに対応するマスキング部材を準備する必要はなく、高い生産性で保持治具を製造できる。したがって、この発明によれば、表面に粘着部と非粘着部とが配置された保持治具を高い生産性で製造できる保持治具の製造方法を提供できる。換言すると、この発明によれば、粘着性表面に非粘着部が配置された保持治具を、マスキング部材を用いることなく、高い生産性で製造できる保持治具の製造方法を提供できる。
また、この発明に係る保持治具の製造方法によれば、レーザーの照射条件等を調整することで金属薄膜を所望の配置パターンとなるように除去できる。例えば、図2に示される保持治具2のように、被粘着物の粘着面より小さな粘着部を露出させることもでき、このような粘着部を有する保持治具は複数の粘着部で被粘着物を粘着保持するから、異なる寸法の粘着面を有する各種の被粘着物を粘着保持でき、汎用性に優れる。このような高い汎用性の保持治具は、従来の製造方法、例えば、マスキング部材を用いる方法では製造困難であった。このように、この発明に係る保持治具の製造方法は小さな粘着部を有し、汎用性の高い保持治具を製造するのに特に好適である。
ところで、近年の小型電子部品等はより一層小型化される傾向にあるので、表面に形成すべき非粘着部及び粘着部の配置パターンを精細化することが望まれている。しかし、マスキング部材を用いる方法ではマスキング部材を高い精細度で、すなわち、狭い間隔で形成するには限界があるし、その耐久性等も大きく低下することがある。これに対して、この発明に係る保持治具の製造方法によれば、レーザーヘッドを高精密かつ高精度に制御できるうえ、照射するレーザー径等を調整できるので、より高精細化された非粘着部の形成パターンにも十分に対応でき、高精密かつ高精度で粘着部を形成できる。ここで、この発明において「高い精細度」とは隣接する粘着部と非粘着部との間隔が0.5mm以下であることをいう。
そして、この発明に係る保持治具の製造方法によって製造される保持治具は、粘着部と非粘着部とが高精細かつ高精度で配置されているから、小型から大型までのいかなる寸法を有する粘着面を持つ部品を粘着保持でき、汎用性が極めて高い。特に、従来の保持治具では粘着保持不可能であった「より一層小型化された部品」を所望のように粘着保持できる。
したがって、この発明によれば、表面に粘着部と非粘着部とが高精細かつ高精度で配置された保持治具、すなわち、粘着性表面に非粘着部が高精細かつ高精度で配置された保持治具を、高い生産性で製造できる保持治具の製造方法を提供することができる。
この発明に係る保持治具の製造方法は、前記した一例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
例えば、この発明に係る一製造方法においては、弾性部材を支持部材に接着固定した後に金属薄膜を形成し、次いで所定の配置パターンになるように金属被膜を除去しているが、この発明においては、弾性部材に金属薄膜を形成し、次いで所定の配置パターンになるように金属被膜を除去した後に支持部材に接着固定してもよく、弾性部材に金属薄膜を形成した後に、支持部材に接着固定し、次いで、所定の配置パターンになるように金属薄膜を除去してもよい。
(実施例1)
ステンレス鋼板(SUS304製、厚さ0.5mm)から一辺の長さが120mmである正方形の盤状体を切り出した。この盤状体における一方の表面をアセトンで脱脂処理した後、シリコーンゴム接着用プライマー(商品名「X−33−156−20」、信越化学工業株式会社製)を弾性部材形成領域(一辺の長さが110mmの正方形、この正方形の中心と盤状体の中心とは一致している)に適量塗布して、23℃の環境中で乾燥し、プライマー層(厚さ3μm)を形成した。このようにして支持部材5Aを作製した。
この支持部材5Aを金型に収納して、その弾性部材形成領域上に形成されたキャビティー(一辺の長さが110mm、厚さ1.5mmの立方体)に、シリコーンゴム(商品名「X−34−632 A/B」、信越化学工業株式会社製)99質量%、及び、シリカ系充填材(株式会社龍森製、商品名「クリスタライト」)1質量%を含有する付加反応硬化型粘着性シリコーン組成物を注入し、120℃、10MPaの条件下、トランスファー成形し、次いで、200℃、4時間の条件下、さらに硬化させて、支持部材5Aの表面に弾性部材6Aを形成した。なお、このシリコーンゴム(商品名「X−34−632 A/B」、信越化学工業株式会社製)は、シリコーン生ゴム(a)と架橋成分(b)と粘着力向上剤(c)と触媒(d)とを含有している。
成形した弾性部材6Aの粘着性表面6aの全面に厚さ0.05μmのニッケル薄膜11を以下のスパッタリング方法及びスパッタリング条件で形成した。
・スパッタリング方法:DCマグネトロン法
・スパッタリング装置:商品名「SVC−700LDC」(サンユー電子株式会社製)
・初期到達真空度:7×10−4Pa
・アルゴンガス:30sccm導入
・スパッタ圧:1.2Pa
・3インチ、ニッケルターゲット
・DC電源:3kw(2.5kw 30秒)
次いで、堆積させたニッケル薄膜11の100mm×100mmの領域に、図1に示されるように、直径0.5mm、配列間隔0.77mm(中心間距離:縦横同間隔)の円形の粘着部7Aが形成されるように、YAGレーザー12を以下の条件で照射して粘着部7Aを形成する領域上に堆積されたニッケル薄膜11を除去して、保持治具1を製造した。
・レーザー装置:商品名「SMARK-7112AH」(ミヤチテクノス株式会社製)
・周波数:5kHz
・電流:15A
・走査速度:300mm/s
(実施例2)
YAGレーザー12の照射条件を以下の条件に代えたこと以外は実施例1と基本的に同様にして保持治具1を製造した。
・周波数:10kHz
・電流:12A
・走査速度:200mm/s
(実施例3)
直径0.08mm、配列間隔0.1mm(中心間距離:縦横同間隔)の粘着部7Bが形成されるようにYAGレーザー12を照射したこと以外は実施例1と基本的に同様にして保持治具2を製造した。
(実施例4)
幅0.2mm、長さ90mm、並列間隔0.3mm(中心間距離)の粘着部7Cが形成されるようにYAGレーザー12を照射したこと以外は実施例1と基本的に同様にして保持治具3を製造した。
(比較例1)
直径0.5mmの円盤状マスキング部材をPET樹脂で複数作製した。このマスキング部材それぞれを、支持部材5A上に形成した弾性部材6Aの100mm×100mmの領域に、配列間隔0.77mm(中心間距離:縦横同間隔)となるように、正確に位置決めして、載置した。その後、マスキング部材ごと下記条件で紫外線を照射して、マスキングでマスキングされていない領域を表面処理して被粘着部を形成し、保持治具1を製造した。
・紫外線照射装置:商品名「VUM−3073−F−02」(株式会社オーク製作所製)
・照射時間:1800秒
・照射距離:15mm
(生産性)
実施例1〜4はコンピュータでレーザーヘッドを制御したので比較的短時間で保持治具を製造できたのに対して、比較例1では複数のマスキング部材の作製、及び、弾性部材6A上の正確な配置に多大な労力と時間とを要した。
(寸法精度)
実施例1〜4及び比較例1の各保持治具における粘着部7Aの寸法及び配列状態を確認した。具体的には、任意に選択された複数の粘着部の直径を測定し、測定値のバラツキを確認した。また、縦方向及び横方向(実施例4は並列方向)において隣接する粘着部の間隔を複数測定し、測定値のバラツキを確認した。その結果、実施例1〜4の保持治具はいずれも直径及び間隔のバラツキが小さかったのに対して、比較例1の保持治具は実施例1〜4の保持治具に比して直径及び間隔のバラツキが比較的大きかった。このように、実施例1〜4の保持治具は直径及び間隔のバラツキが小さく、特に、微小な直径を有する粘着部7Bを高密度に配置した実施例3の保持治具2においても直径及び間隔のバラツキが小さく、いずれの保持治具においても高精密かつ高精度に粘着部及び非粘着部が表面に配置されていた。