本発明は、燃料電池に係り、特に、燃料電池に用いる膜電極接合体に関する。
PEFC及びDMFCの連続発電中においては、電極の外周部近傍に位置する電解質膜の一部に破損が生じ、燃料がクロスリークするため、安定した発電が継続できない場合がある。
本発明者は、電解質膜の破損した部位を分析することにより、膜組成やイオン交換容量には変化がなく、その分子量が半減していることを見出した。これは、特にDMFC発電において顕著に見られる傾向である。
このようなPEFC用及びDMFC用の膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)における電極の外周部近傍に位置する電解質膜の損傷や破損の要因としては、以下のことが考えられる。
まず、(1)電極外周部の電解質には応力がかかりやすいこと、及び、(2)乾湿サイクルによる電解質の膨張・収縮により電解質膜が脆弱化することである。また、(3)電極の外周部近傍に位置する電解質膜には、直接燃料ガス及び酸化剤が接触し、電解質膜を透過して混合しやすく、混合ガスの反応により過酸化水素が発生することが考えられる。
本発明者は、鋭意検討の結果、多孔質基材の片面からその細孔部に電解質樹脂が含浸したものを枠体として適用し、電解質樹脂が含浸した側を電解質膜と密着させることにより、電解質膜と枠体との接合性を向上し、かつ、その燃料透過性能および酸化剤透過性能も満足する枠体を得ることを見出し、本発明に至った。
以下、本発明の一実施形態に係る膜電極接合体並びにこれを用いた燃料電池及び燃料電池発電システム並びにその膜電極接合体の製造方法について説明する。
前記膜電極接合体は、アノードと、カソードと、イオン伝導性の固体高分子電解質膜と、非イオン伝導性の多孔質樹脂基材で形成された枠体とを含み、固体高分子電解質膜は、アノードとカソードとの間に挟まれた構成である。そして、アノード及びカソードは、固体高分子電解質膜よりも面積を狭くしてあり、枠体は、固体高分子電解質膜の膜外縁部に付設してある。枠体のうち膜外縁部と接する電解質膜接着部には、電解質樹脂が含浸してある。また、枠体の電解質膜接着部以外の部分は、バリア層を有し、電解質膜接着部と比べて燃料透過性および酸化剤透過性を低くしてある。
前記膜電極接合体において、アノード及びカソードは、固体高分子電解質膜の中央部に配置してある。
前記膜電極接合体において、枠体の電解質膜接着部以外の部分における平均細孔径は、電解質膜接着部の平均細孔径に比べて小さくしてある。
前記膜電極接合体において、枠体の電解質膜接着部以外の部分の表面又はバリア層における平均細孔径は、10nm以下とすることが望ましい。
前記膜電極接合体において、枠体の電解質膜接着部以外の部分は、非イオン伝導性高分子樹脂を含む構成としてもよい。
非イオン伝導性高分子樹脂は、熱可塑性のアクリル系樹脂としてもよい。
前記膜電極接合体において、枠体は、膜外縁部、並びにアノード及びカソードのうち少なくとも一方の電極外縁部の少なくとも一部を覆う構成としてもよい。ここで、電極外縁部とは、電極であるアノード又はカソードの外周近傍部分(電極端部)をいう。
前記膜電極接合体において、枠体は、膜外縁部だけを覆う構成としてもよい。
前記膜電極接合体において、枠体とアノード又はカソードとの間に隙間を設けた構成としてもよい。
前記膜電極接合体において、多孔質樹脂基材は、ポリオレフィン又はポリテトラフルオロエチレンで形成することが望ましい。
前記膜電極接合体において、電解質樹脂は、固体高分子電解質膜と同一種類の高分子化合物としてもよい。
前記膜電極接合体において、電解質樹脂は、過酸化水素ラジカル分解触媒能を有する粒子を含む構成としてもよい。
前記膜電極接合体において、固体高分子電解質膜は、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基又はアミノ基を有する芳香族炭化水素系高分子電解質であることが望ましい。
前記燃料電池は、前記膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟み込む2枚のガス拡散層とを含む。
前記燃料電池において、ガス拡散層の面積は、アノードの面積及びカソードの面積のいずれよりも大きくしてある。
前記燃料電池は、燃料としてアルコールを用いる。
前記燃料電池発電システムは、前記燃料電池を含むものである。
前記膜電極接合体の製造方法は、アノードと、カソードと、イオン伝導性の固体高分子電解質膜と、非イオン伝導性の多孔質樹脂基材で形成された枠体とを含み、固体高分子電解質膜は、アノードとカソードとの間に挟まれた構成であり、アノード及びカソードは、固体高分子電解質膜よりも面積が狭くしてある膜電極接合体の製造方法であって、電解質樹脂と溶媒とを含む溶液を枠体の一方の面から含浸し、溶媒を蒸発する工程と、固体高分子電解質膜の膜外縁部に枠体の面を貼り合わせる工程と、固体高分子電解質膜と枠体とに熱圧着を施す工程とを含む。
前記膜電極接合体の製造方法において、熱圧着における枠体の温度は、多孔質樹脂基材の融点以上とする。
前記膜電極接合体の製造方法は、さらに、前記枠体の前記面以外の部分に、非イオン伝導性高分子樹脂を含浸する工程を含み、熱圧着における枠体の温度は、非イオン伝導性高分子樹脂のガラス転移点以上とする。
電解質膜に接する枠体の界面には、固体高分子電解質が存在しているため、接合性が高く、さらに、電解質膜の膨潤・収縮に枠体が追従できるため、剥離が生じにくい。また、枠体の内部に固体高分子電解質と多孔質基材とが混合した層が形成されるため、この箇所における電解質膜と枠体との剥離(破損)も生じない。
ここで、多孔質樹脂基材は、繊維状の樹脂を積層したものであり、不織布でもよい。この多孔質樹脂基材は、マイクロメートル以下に細孔分布のピークを有するものが望ましい。多孔質樹脂の細孔径は、電子顕微鏡などによる直接観察、又は水銀圧入法により測定することができる。
枠体においては、電解質膜に接する面から枠体の反対側の面に向かって、多孔質基材の細孔径が小さくなる構成とすることにより、燃料及び酸化剤ガスの透過を抑制するとともに、枠体自体の強度も高めることができるため、望ましい。
また、枠体においては、枠体の反対側の面における細孔分布のピークを50nm以下とすると、更に効果が高まるため望ましい。
さらに、枠体においては、電解質膜に接する面から枠体の反対側の面に向かって、多孔質基材の細孔径が小さくなる構成とし、枠体の反対側の面における細孔が実質的に存在しない構成とすれば、多孔質基材と同質の連続薄膜を形成した構成となるため更に望ましい。その場合、枠体の断面には、電解質と多孔質基材とが混合した層、及び多孔質基材と同じ分子骨格を有する連続樹脂層(連続薄膜層)を積層した構造が観察される。
また、枠体において、電解質膜と接する面と反対側の面には、熱可塑性の非プロトン伝導性高分子樹脂を含む構成とした場合、多孔質基材の細孔内が燃料や酸化剤ガス透過性の低い樹脂で充填されることとなり、枠体全体としての燃料及び酸化剤の透過性を低減させることができるため望ましい。
また、枠体に含まれる熱可塑性の非プロトン伝導性高分子樹脂としては、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂を挙げることができる。
また、枠体の内周部が電極層の外周部よりも内側に配置され、枠体と電極層とが一部重なる構成とした場合、電解質膜の表面は、枠体で覆われることとなり、直接、電解質膜に燃料や酸化剤が触れることがなくなるため、電解質膜の劣化を抑制することができ望ましい。
枠体を構成する多孔質樹脂材料としては、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどをあげることができる。
膜電極接合体において、枠体の多孔質基材の細孔内に充填される電解質ポリマーの一次構造が、固体高分子電解質膜を構成するポリマーと同一である場合、枠体と電解質膜との間の密着性が高く保たれるため望ましい。
膜電極接合体において、枠体の多孔質基材の細孔内に充填される電解質ポリマーの中に、過酸化水素ラジカルを捕捉若しくは分解する効果を有する粒子状物質又はカチオンが含まれている場合、仮に電極の外周部の一部から過酸化水素が発生したとしても、電解質膜を分解する前に過酸化水素ラジカルが捕捉され、又は分解されるため、電解質膜の劣化を抑制することができ望ましい。
膜電極接合体において、固体高分子電解質膜を構成するポリマーが、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基又はアミノ基を有する芳香族系炭化水素である場合、電解質膜自体の燃料透過性及び酸化剤透過性を低減することができるため、劣化の要因を軽減でき望ましい。
膜電極接合体の製造方法に関して、枠体を構成する多孔質基材の一方の面に固体高分子電解質及び溶媒を含む溶液を含浸し、溶媒の一部を蒸発させ、得られた枠体を固体高分子電解質膜に貼り合わせ、さらに、貼り合わせた電解質膜及び枠体を熱圧着する工程を含む。
熱圧着における温度が多孔質基材の融点よりも高ければ、多孔質基材のうち電解質を含まない領域の細孔が潰れ、細孔径が減少し、又は細孔が消失し、燃料及び酸化剤の透過率が減少するため望ましい。
膜電極接合体の製造方法に関して、電解質膜に接する枠体の一方の面に電解質樹脂を含浸し、反対側の面にアクリル系樹脂を含浸した膜電極接合体については、以下の工程により製造する。
枠体を構成する多孔質基材の一方の面から固体高分子電解質及び溶媒を含む溶液を含浸し、反対側の面からアクリル系樹脂の溶液を含浸した後に溶媒の一部を蒸発させる工程、得られた枠体を固体高分子電解質膜に貼り合わせる工程、並びに貼り合わせた電解質膜及び枠体を熱圧着する工程である。
熱圧着における温度としては、アクリル系樹脂のガラス転移点以上又は多孔質基材の融点以上とすることが枠体の気孔率を低減するため望ましい。
燃料電池は、膜電極接合体と、膜電極接合体を挟み込む2枚のガス拡散層とを含む構成であり、ガス拡散層の面積がアノード及びカソードの面積よりも大きい方が、膜電極接合体とガス拡散層とガスケットとで囲まれた空間に滞留する水と電極端部とが接触せず、電極端部における電位の低下、並びにこれに伴う過酸化水素の発生及び滞留を防ぐことができるため望ましい。
燃料を供給する部材は、ポンプ等により導入された燃料を、セパレータを介してガス拡散層に供給する一連の部材である。また、空気(酸素)を供給する部材は、ブロア等により導入された空気(酸素)を、セパレータを介して拡散層に供給する一連の部材である。なお、燃料は、メタノール水溶液又は水素ガスが用いられる。
アノードにおいては燃料が電気化学的に酸化され、カソードにおいては酸素が還元され、両電極間に電気的なポテンシャルの差が生じる。このときに外部回路として負荷が両電極間にかけられると、電解質中にイオンの移動が生起し、外部負荷に電気エネルギーが取り出される。このため、各種の燃料電池は、大型発電システム、小型分散型コージェネレーションシステム、電気自動車電源システム等への適用が期待され、実用化のための開発が活発に展開されている。
以上のように、本発明の膜電極接合体は、電極外周部の電解質膜との接合性が高く、かつ、燃料及び酸化剤の透過性が低い枠体を用いることにより、長期にわたって電極外周部の電解質劣化を防ぐことができる。
以下、図面を用いて実施例を説明する。
図1は、実施例の膜電極接合体を用いた燃料電池のセル構成の一例を示したものである。
本図においては、11がセパレータ、12がアノード拡散層、13がアノード触媒層、14が固体高分子電解質膜、15がカソード触媒層、16がカソード拡散層、17がガスケットである。固体高分子電解質膜14は、プロトン伝導性を有する。
セパレータ11は、電子伝導性を有する。セパレータ11の材料としては、緻密黒鉛プレート、黒鉛やカーボンブラックなどの炭素材料を樹脂によって成型したカーボンプレート、ステンレスやチタンなどの金属、又はこれらのいずれかを耐食性及び耐熱性に優れた導電性塗料や貴金属めっきで被覆したものを用いることが望ましい。
アノード触媒層13、カソード触媒層15及び固体高分子電解質膜14を一体化したものを膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)と称する。ここで、触媒層(アノード触媒層13又はカソード触媒層15)と拡散層(アノード拡散層12又はカソード拡散層16)とが一体化してもよい。この場合は、拡散層を含めて膜電極接合体と称する。
本図においては、アノード触媒層13及びカソード触媒層15に比べて固体高分子電解質膜14の面積を大きくしてある。そして、固体高分子電解質膜14の外縁部には、非イオン伝導性の多孔質樹脂基材で形成された枠体104が付設されている。この枠体104は、電解質含有層105(電解質膜接着部を含む。)及びバリア層106を有し、電解質含有層105と固体高分子電解質膜14の外縁部とが密着している。
図2は、膜電極接合体(MEA)の基本構成を示す断面図である。
膜電極接合体200は、面積が大きい固体高分子電解質膜22をアノード触媒層21とカソード触媒層23との間に挟み込んだ構成である。
図1に示す枠体104を用いない場合、アノード触媒層21又はカソード触媒層23と拡散層とセパレータとガスケットとで囲まれた領域に空隙が生じ、固体高分子電解質膜22における燃料及び酸化剤の透過が顕著となる。そのため、アノード触媒層21又はカソード触媒層23における過酸化水素の発生が促進され、固体高分子電解質膜22の劣化が進行し、固体高分子電解質膜22の破損につながる。
以下、枠体を含む膜電極接合体の構成について説明する。
図3〜図5は、実施例の膜電極接合体を示す模式断面図である。いずれの図においても、枠体が固体高分子電解質膜の膜外縁部に付設してある点で共通している。以下において、それぞれの図の相違点を含めて説明する。
図3においては、固体高分子電解質膜32のうち、アノード触媒層31(単にアノードとも呼ぶ。)又はカソード触媒層33(単にカソードとも呼ぶ。)の外周からはみ出した部分(膜外縁部)を枠体34で覆った構成となっている。なお、以下において、アノード触媒層31又はカソード触媒層33を「電極」又は「電極層」と呼ぶこともある。
本図において、枠体34は、多孔質構造を有する非イオン伝導性の樹脂基材(多孔質樹脂基材)で構成された骨格を有している。そして、枠体34の断面においては、固体高分子電解質膜32と接する面を含む領域であってこの面に近い領域に電解質樹脂を含浸した電解質含有層35を有し、電解質含有層35以外の領域である電解質非含有層36を有している。電解質含有層35を有することにより、枠体34と固体高分子電解質膜32との間の親和性を向上させることができ、良好な接合性を得ることができる。
また、燃料電池内部の環境の変化に応じて、固体高分子電解質膜32は膨張・収縮するが、枠体34が電解質含有層35を有するため、固体高分子電解質膜32の面積変化に追従することができ、剥離を防ぐことができる。
また、枠体34の厚さ方向において、固体高分子電解質膜32に近い電解質含有層35以外の領域である電解質非含有層36に向かうに従って、その細孔径が減少している構成であることが望ましい。すなわち、電解質非含有層36は、バリア層を含む。枠体34としての強度や燃料及び酸化剤の透過抑制能が向上し、電解質の劣化を防ぐことができる。
図4においても、固体高分子電解質膜42のうち、アノード触媒層41又はカソード触媒層43の外周からはみ出した部分(膜外縁部)を枠体44で覆った構成となっている。
本図において、枠体44は、多孔質構造を有する非イオン伝導性の樹脂基材(多孔質樹脂基材)で構成された骨格を有している。そして、枠体44の断面においては、固体高分子電解質膜42と接する面を含む領域であってこの面に近い領域に電解質樹脂を含浸した電解質含有層45を有し、電解質含有層45以外の領域に連続薄膜層46を有している。連続薄膜層46は、電解質を含まない層である。また、連続薄膜層46は、枠体44を熱圧着する際、枠体44を構成する多孔質樹脂基材のうち電解質樹脂を含浸していない層を圧縮することにより、又は溶融することにより形成することができる。すなわち、連続薄膜層46は、バリア層を含む。
本図の場合、電解質含有層45と連続薄膜層46とに挟まれた領域(層)において、電解質含有層45から連続薄膜層46に向かって枠体44の細孔径が減少していてもよい。本図に示す実施例の場合、多孔質構造でない連続薄膜層46を有するため、枠体44としての強度や燃料及び酸化剤の透過抑制能が更に向上するため望ましい。
ここで、連続薄膜層46が連続膜であることの定義は、枠体44の断面観察像において多孔質樹脂基材の平均細孔径が10ナノメートル以下であることとした。
本図に示す実施例においても、電解質含有層45を有することにより、枠体44と固体高分子電解質膜42との間の親和性を向上させることができ、良好な接合性を得ることができる。
図5においても、固体高分子電解質膜52のうち、アノード触媒層51又はカソード触媒層53の外周からはみ出した部分(膜外縁部)を枠体54で覆った構成となっている。
本図において、枠体54は、多孔質構造を有する非イオン伝導性の樹脂基材(多孔質樹脂基材)で構成された骨格を有している。そして、枠体54の断面においては、固体高分子電解質膜52と接する面を含む領域であってこの面に近い領域に電解質樹脂を含浸した電解質含有層55を有し、電解質含有層55以外の領域に非イオン伝導性樹脂含有層56を有している。非イオン伝導性樹脂含有層56は、電解質を含まない層である。また、非イオン伝導性樹脂含有層56は、枠体54を熱圧着する前に、枠体54を構成する多孔質樹脂基材のうち電解質樹脂を含浸していない層に非イオン伝導性樹脂を含浸させたものである。すなわち、固体高分子電解質膜52から離れた面より非イオン交換性樹脂を多孔質樹脂基材の細孔に充填した構成である。すなわち、非イオン伝導性樹脂含有層56は、バリア層を含む。
これにより、枠体54を構成する多孔質樹脂基材の細孔を非イオン伝導性樹脂により埋める(封孔する)ことができ、枠体54の燃料及び酸化剤の透過抑制能を高めることができる。
アノード及びカソードに用いられる触媒としては、燃料の酸化反応及び酸素の還元反応を促進する金属であればいずれのものでもよく、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム若しくはチタン又はこれらの合金が挙げられる。
このような触媒のうち、カソード用触媒としては、特に、白金(Pt)触媒が用いられる。また、アノード用触媒としては、白金/ルテニウム触媒(Pt/Ru触媒)が用いられる。触媒となる金属の粒径は、通常は2〜30nmである。
触媒金属は、比表面積の大きなカーボン材料に担持されることが望ましい。触媒は、微粒子化した方が、比表面積が増えるため、単位重量あたりの活性が高くなる。カーボンブラックに担持することにより、触媒を凝集させることなく、微粒子として維持することができる。
上記のカーボンブラックの比表面積は、10〜1000m2/gの範囲から選ばれることが望ましい。比表面積が小さすぎると、カーボンブラックを添加する効果が十分には得られない。一方、比表面積が大きすぎると、カーボンブラックの表面に形成されている細孔が多く、この細孔に触媒粒子が入り込み、細孔に入り込んだ触媒粒子は、電池作動時、反応に寄与しにくくなる。例えば、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素、活性炭、黒鉛等を用いることができ、これらは単独あるいは混合して使用することができる。
以上のカーボンブラックのうち、大きな比表面積を有するケッチェンブラックを使用することが触媒電極層の活性増大の観点から望ましい。
カソード及びアノードに用いられる固体高分子電解質、並びに固体高分子電解質膜に用いられる固体高分子電解質としては、酸性の水素イオン伝導材料が望ましい。これは、大気中の炭酸ガスの影響を受けることなく、安定な燃料電池を実現できるためである。
酸性の水素イオン伝導材料の例としては、パーフルオロアルキルスルホン酸電解質やプロトン伝導性を示す極性基を有する炭化水素系電解質を挙げることができる。特に、炭化水素系電解質膜は、耐メタノール膨潤性や対メタノール透過性に優れており、これを用いることが望ましい。プロトン伝導性を示す極性基としては、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシルキ基などが挙げられるが、プロトン伝導度の観点からスルホン酸基が特に望ましい。
炭化水素系電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、スルホン化ポリスルフィッド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化エンジニアプラスチック系電解質や、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィッド、スルホアルキル化ポリフェニレン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン等のスルホアルキル化エンジニアプラスチック系電解質を用いることができる。
また、電解質膜の強度や耐燃料透過性を向上させるために電解質膜中に多孔質樹脂基材を含めた構造にすることもできる。
枠体を構成する多孔質樹脂基材の材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などを挙げることができる。
図3における枠体34の電解質含有層35に含まれる電解質材料(電解質樹脂)としては、アノード触媒層31、カソード触媒層33及び固体高分子電解質膜32に用いることのできる電解質材料のうち一つ以上を含むものであることが望ましい。固体高分子電解質膜32に用いる電解質材料と同一の一次構造を有するものを用いることにより、枠体34と固体高分子電解質膜32との間の接合性が高まるため望ましい。
枠体34のうち、電解質含有層35の割合については、特に限定されないが、枠体34全体の厚さに対して10〜90%の割合であることが望ましい。電解質含有層35の割合が10%よりも小さくなると固体高分子電解質膜32と枠体34との接合性が十分でなくなる。一方、電解質含有層35の割合が90%より大きくなると枠体34全体としての燃料及び酸化剤の透過抑制能が低くなるため、望ましくない。電解質含有層35の割合は、枠体34全体の厚さに対して40〜60%であることが更に望ましい。
また、枠体34を構成する電解質含有層35に含まれる電解質の中には、過酸化水素ラジカルの捕捉又は分解をすることができる材料を含むことが望ましい。このような構成にすることにより、発生した過酸化水素が拡散層中の水を経由して電極外周部(膜外縁部)に移動してきた際にも、電極周辺の固体高分子電解質層がそのラジカルを捕捉又は分解できるため、電極外周部の電解質劣化を防ぐことができる。
ラジカル捕捉剤の例としては、ヒンダードフェノール系のラジカル捕捉剤が挙げられる。ヒンダードフェノール系ラジカル捕捉剤としては、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ‐t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス[2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]1,1−ジメチルエチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピンなどが挙げられ、特に限定はされない。
また、ラジカル分解剤としては、Mn、Cr、Co、Cu、Ce、Rb、Co、Ir、Ag、Rh、Ti、Zr、Al、Sbなどの金属カチオン又はこれらの金属の酸化物粒子を用いることができる。
ラジカル捕捉剤及びラジカル分解剤の添加量については、特に限定されるものではないが、ラジカル捕捉剤及びラジカル分解剤の総添加量は、高分子電解質材料100重量部に対して1〜50重量部が好ましい。総添加量が1重量部未満の場合、過酸化水素ラジカルに対する耐久性が不十分であり、50重量部を越えている場合、外周部(膜外縁部)における枠体との固体高分子電解質膜との接合性が低下するため好ましくない。
また、電極間の固体高分子電解質膜に添加するラジカル捕捉剤又はラジカル分解剤の添加量についても特に限定されないが、これらの添加物は、プロトン伝導性を阻害するものであるため、ゼロに近いことが望ましい。
図5の非イオン伝導性樹脂含有層56に含まれる非イオン交換性の樹脂としては、多孔質基材内に含浸できるものであれば特に限定はないが、代表的なものとしてポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂を挙げることができる。
図3〜図5においては、枠体とアノードおよびカソードは接するように記載されているが、実際には、枠体とアノード又はカソード(両者をあわせて「電極」とも呼ぶ。)とが離れていても、重なっていてもよい。枠体の内周が電極の外周よりも内側に配置され、両者が重なっている方が電極外周部の電解質膜の全てを枠体で覆うことができるため望ましい。重複の度合いについては、特に限定はされないが、電極外周から0.1〜1ミリメートル以下の範囲で重なっていることが望ましい。重複部分1ミリメートルよりが大きいと、電池反応に使用できる触媒電極面積が低減するため望ましくない。
電極と枠体とが重なった構成の膜電極接合体において、電極と重なる領域の枠体がアノード又はカソードの電極触媒層と電解質膜との間に配置されてもよい。また、電極と重なる領域の枠体が電極触媒層とガス拡散層との間に配置されてもよい。
また、膜電極接合体のアノード触媒層およびカソード触媒層に対し、これらよりも大面積のガス拡散層を配置することにより、膜電極接合体と拡散層とガスケットとで囲まれた領域(空隙)に水が滞留した場合であっても、拡散層により効果的に水を排出し、滞留水と電極外周部との長時間の接触を防ぐことができるため望ましい。
ガス拡散層の大きさは、特に限定されないが、ガス拡散層の長さ及び幅がアノード触媒層及びカソード触媒層の長さ及び幅よりも1mm以上大きいことが望ましい。
以下、膜電極接合体の製造方法の一例について説明する。ただし、製造方法は下記に限定されるものではない。
図3〜図5に示す膜電極接合体を得るには、以下の工程を経ればよい。
まず、電解質樹脂を含む電解質ワニスを平坦な基板の表面に塗工し、この電解質ワニスと枠体の形状の多孔質基材とを接触させることにより、一方の面に電解質ワニスを含浸した枠体を得ることができる。
続いて、電解質ワニス中に溶媒が残存した状態で枠体を基板から剥離し、予めアノード触媒層とカソード触媒層との間に挟み込んだ固体高分子電解質膜(単に電解質膜とも呼ぶ。)の膜外縁部に枠体を接合する。そして、適切な治具に取り付けて熱圧着し、枠体と固体高分子電解質膜とを一体化する。
アノード触媒層及びカソード触媒層(電極触媒層)を付設していない固体高分子電解質膜に枠体を接合し、その後、電極触媒層を付設することにより製造してもよい。
この製造工程において電解質ワニスに使用する溶媒としては、電解質ポリマーを溶解するものであって、洗浄後に触媒を被毒しないものであり、多孔質基材を溶解・劣化しないものであれば、特に限定されない。例えば、水の他に、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルや、n−プロパノール、iso−プロパノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、1−メチル−2−ピロリドンなどの高極性溶媒を用いることができる。これらの溶媒を2種類以上混合して使用することもできる。
電極触媒層の形成及び接合は、触媒及び固体高分子電解質を分散したアルコール溶液を用いて、スプレー塗布法やスリットダイコーター法による直接塗布で行うこともできる。また、テフロン(登録商標)シート状に電極触媒層を塗布したものを電解質膜に押し当てて熱圧着することもできる。
図3に示す枠体の細孔径が電解質膜から遠ざかるに従って小さくなる構成、あるいは、図4に示す連続薄膜層(連続膜)を有する構成を得るためには、上記の熱圧着の際、多孔質基材を構成する樹脂材料の融点よりも高い温度で圧着すればよい。融点より高い温度で圧着することにより、多孔質基材のうち電解質ワニスを含まない部分が溶融し、圧着によってその細孔径が小さくなり、場合によっては連続薄膜層が形成される。熱圧着の温度は、融点よりも高いことが望ましいが、固体高分子電解質を変質させるほど高温にしないことが必要である。
また、図5に示す非イオン伝導性樹脂含有層を有する構成の枠体を得るためには、電解質ワニスを枠体の一方の面より含浸させた後、他方の面より非イオン導電性の樹脂の溶解物又は溶融物を含浸することにより得られる。
製造した膜電極接合体の構成を確認するためには、得られた枠体付きの膜電極接合体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すればよい。SEMに付属されているエネルギー分散型X線分光装置(EDX)で電解質外周域の組成のマッピングを行うことにより、枠体の有無、その層構成、材料組成を評価することができる。また、適切な溶媒により膜電極接合体から電解質ポリマーを抽出し核磁気共鳴法(NMR)を用いることにより、膜電極接合体に用いられている電解質ポリマーの一次構造を知ることができる。
また、多孔質基材の細孔径については、SEMや透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて直接計測する他、該当箇所を抽出し、その細孔分布を水銀圧入法やガス吸着法により測定することにより得られる。
平均細孔径については、以下のような方法で定義することができる。
SEM又はTEMを用いて細孔径を計測する場合は、10点以上の細孔についてその直径を計測し、それらの直径の算術平均を平均細孔径と定義することができる。また、細孔分布の測定により累積細孔曲線を得た場合、累積細孔径が全細孔容積の50%となる細孔径を平均細孔径と定義することができる。
本実施例においては、カソードおよびアノードの周辺部に多孔質基材からなる枠体を配置し、その一方に電解質樹脂を含んだ構成とすることにより、枠体と電解質膜との接合性を高め、さらに、基材の細孔径制御や非イオン伝導樹脂の適用により、燃料透過性、酸化剤透過性を抑え、電極外周部における過酸化水素の発生を抑制し、電解質膜の劣化を防ぐことができる。結果として、電極外周部における電解質膜の劣化・破損を防ぐことができ、これを用いた燃料電池の寿命を長くすることができる。
以下、本実施例を更に詳しく説明するが、本発明は、ここに開示した実施例のみに限定されるものではない。
(Pt/C触媒スラリーの作製)
プロパノールを主成分とする溶媒に、白金が67重量%担持されたケッチェンブラックと、Nafion(登録商標)とを重量比で1:0.2となるように添加し、マグネッチックスターラーにて12時間攪拌し、Pt/C触媒スラリーとした。
(PtRu/C触媒スラリーの作製)
プロパノールを主成分とする溶媒に、白金ルテニウムが55重量%担持されたケッチェンブラックと、Nafion(登録商標)とを重量比で1:0.6となるように添加し、マグネッチックスターラーにて12時間攪拌し、PtRu/C触媒スラリーとした。
(燃料電池セルの作製手順の例) (1−1)スルホアルキル化ポリエーテルスルホン(ポリマーA)を合成した。ポリマーAの数平均分子量は74000であり、重量平均分子量は261000であった。イオン交換容量は1.4meg/gであった。
(1−2)上記(1−1)で作製したポリマーA25gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)75gに溶解し、ワニスを作製した(ワニスA)。
(1−3)上記(1−2)で作製したポリマーAのワニスをPETフィルム上に塗布し、90℃で15分、120℃で15分乾燥し、形成した電解質膜をPETフィルムよりはがし、洗浄、リンス及び乾燥の各工程を経て電解質膜Aを得た。
(1−4)厚さ100μm、50mm×50mmのポリテトラフルオロエチレン製シート(PTFEシート)の表面にPt/C触媒スラリーを塗布し、単位面積あたりの白金重量が2mg/cm2となるようにカソード電極層を形成した。電極サイズは30mm×30mmとした。
(1−5)厚さ100μm、50mm×50mmのPTFEシートの表面にPtRu/C触媒スラリーを塗布し、単位面積あたりの白金ルテニウム重量が2mg/cm2となるようにカソード電極層を形成した。電極サイズは30mm×30mmとした。
(1−6)上記(1−3)で得た電解質膜Aの片面に上記(1−4)で得たカソード触媒層付きPTFEシートを貼り合わせ、電解質膜Aの他の面に上記(1−5)で得たアノード触媒層付きPTFEシートを貼り合わせた。これを120℃、2分間、12.5MPaの条件でプレスし、PTFEシートをはがして膜電極接合体Aを得た。
(1−7)上記(1−6)で得た膜電極接合体Aの両面にカーボンペーパーで形成された30mm角のガス拡散層を貼り合わせ、これにガスケット材を取り付け、緻密黒鉛で形成されたセパレータで挟み、燃料電池セルとした。
(2−1)ポリエチレン(PE)製の多孔質基材の中央部を30mm角で切り抜き、枠体を形成した。
(2−2)上記(1−2)で作製したポリマーAのワニス(ワニスA)をポリエチレンテレフタレート製フィルム(PETフィルム)の表面に塗布し、その上より、上記(2−1)で得た枠体を配置し、枠体の片面にワニスAを含浸した。これを基板ごと60℃で10分乾燥し、溶媒の一部を除去したものをPETフィルムからはがし、片面に電解質が充填された枠体を得た。同じ仕様の枠体を2枚作製した。
(2−3)上記(1−6)で作製した膜電極接合体Aの両面に、上記(2−2)で作製した電解質含有の枠体を貼り合わせ、枠体付き膜電極接合体Bを得た。
(2−4)上記(2−3)で得た枠体付き膜電極接合体Bを厚さ1mmのPTFEシートで挟み、120℃で2分間熱圧着し、枠体付き膜電極接合体Cを得た。
(2−5)作製した枠体付き膜電極接合体Cの断面をミクロトームで鏡面処理し、SEM−EDXで観察したところ、枠体の電解質側に電解質が含まれる層が存在すること、及び枠体と電解質膜とが剥離なく接合されていることを確認した。
(2−6)上記(1−7)と同様にして、作製した膜電極接合体を燃料電池セルに取り付けた。
(3−1)上記(2−3)で作製した枠体付き膜電極接合体Bを160℃で2分間熱圧着したこと以外は、実施例1と同様にして、枠体付き膜電極接合体Dを得た。
(3−2)作製した枠体付き膜電極接合体Dの断面をミクロトームで鏡面処理し、SEM−EDXで観察したところ、電極と枠体の一部とが重なっていること、枠体の電解質側に電解質が含まれる層が存在すること、及び枠体と電解質膜とが剥離なく接合されていることを確認した。
また、TEMスライス像においては、電解質膜から離れた面の枠体表面付近に直径10nm以上の細孔は観察されなかった。この結果から、ポリエチレンの連続薄膜が形成されていることを確認した。
(3−3)上記(1−7)と同様にして、作製した膜電極接合体を燃料電池セルに取り付けた。
(4−1)上記(2−2)において枠体に含浸する電解質ワニスをワニスAではなく、Nafion(登録商標)のN−ジメチルアセトアミド溶液Bとしたこと以外は、実施例2と同様にして、枠体付き膜電極接合体Eを得た。
(4−2)作製した枠体付き膜電極接合体Eの断面をミクロトームで鏡面処理し、SEM−EDXで観察したところ、枠体の電解質側に電解質が含まれる層が存在すること、及び枠体と電解質膜とが剥離なく接合されていることを確認した。また、TEMスライス像においては、電解質膜から離れた面の枠体表面付近に10nm以上の細孔は観察されなかった。この結果から、ポリエチレンの連続薄膜が形成されていることを確認した。
(4−3)上記(1−7)と同様にして、作製した膜電極接合体を燃料電池セルに取り付けた。
(5−1)ポリメチルメタクリレートが溶解したワニスCを作製した。
(5−2)ポリエチレン製の多孔質基材の中央部を30mm角で切り抜き、枠体を形成した。
(5−3)上記(1−2)で作製したポリマーAのワニス(ワニスA)をPETフィルムの表面に塗布し、その上より、上記(5−2)で得た枠体を配置し、枠体の片面にワニスAを含浸させた。これを基板ごと60℃で10分乾燥した。この上から、ワニスCを塗工し、乾燥した後、枠体を基板からはがし、片面に電解質を含浸し、他面にポリメチルメタクリレート樹脂を含浸した枠体を得た。同じ構成の枠体を2つ作製した。
(5−4)上記(5−3)で得た枠体を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、枠体付き膜電極接合体Fを得た。
(5−5)上記(5−4)で得た枠体付き膜電極接合体Fの断面をミクロトームで鏡面処理し、SEM−EDXで観察したところ、枠体を構成する多孔質基材にはポリマーAとポリメチルメタクリレートとが層となって浸入していることを確認した。
(5−6)上記(1−7)と同様にして、作製した膜電極接合体を燃料電池セルに取り付けた。
(6−1)ポリエチレン製の多孔質基材の中央部を31mm角で切り抜き、枠体を形成した。
(6−2)上記(6−1)で作製した枠体を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、枠体付き膜電極接合体Gを得た。
(6−3)枠体付き膜電極接合体Gの断面をミクロトームで鏡面処理し、SEM−EDXで観察したところ、電極と枠体との間に隙間が見られること、枠体の電解質側に電解質が含まれた層が存在すること、及び枠体と電解質膜とが剥離なく接合されていることを確認した。
(6−4)上記(1−7)と同様にして、作製した膜電極接合体を燃料電池セルに取り付けた。
(7−1)ポリエチレン製の多孔質基材の中央部を29mm角で切り抜き、枠体を形成した。
(7−2)上記(7−1)で作製した枠体を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、枠体付き膜電極接合体Hを得た。
(7−3)枠体付き膜電極接合体Hの断面をミクロトームで鏡面処理し、SEM−EDXで観察したところ、電極層の一部の上に枠体が重なって存在すること、枠体の電解質側に電解質が含まれる層が存在すること、及び枠体と電解質膜とが剥離なく接合されていることを確認した。
(7−4)上記(1−7)と同様にして、作製した膜電極接合体を燃料電池セルに取り付けた。
(8−1)硝酸マンガン水和物(Mn(NO3)2・6H2O)10mgを1Lの蒸留水に溶解させた(水溶液A)。
(8−2)ポリマーAの粉末30gを上記(8−1)で得たMnカチオンを含有する水溶液Aに浸漬し、室温で24時間攪拌子を用いて攪拌した。濾過物を水洗し、乾燥したもの25gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)75gに分散した(ワニスD)。
(8−3)多孔質基材に含浸するワニスをワニスAからワニスDに変えたこと以外は全て実施例2と同様にして、枠体付き膜電極接合体Iを得た。
(8−4)枠体付き膜電極接合体Iの断面をミクロトームで鏡面処理し、SEM−EDXで観察したところ、枠体の電解質膜側にマンガンを含む電解質樹脂が含まれることを確認した。
(8−5)上記(1−7)と同様にして、作製した膜電極接合体を燃料電池セルに取り付けた。
(9−1)電解質膜にNafion112(商標登録、デュポン社製)を用いたこと以外は、すべて実施例3と同様にして、枠体付き膜電極接合体Jを得た。
(9−2)上記(1−7)と同様にして、作製した膜電極接合体を燃料電池セルに取り付けた。
(10−1)枠体付き膜電極接合体Dに対して、31mm角のガス拡散層で挟み、燃料電池セルに取り付けた。
(比較例1)
上記の燃料電池セルの作製手順の例に従って、燃料電池セルを作製した。
(比較例2)
(11−1)厚さ20マイクロメートルのポリエチレンテレフタレートシートの中央部を30mm角で切り抜き、枠体を形成した。
(11−2)枠体の片面にワニスAを塗り、60℃で10分間乾燥させたものを2枚作製し、上記(1−6)で作製した膜電極接合体Aの両面から挟み込み、160℃で2分間熱圧着し、枠体付き膜電極接合体を得た。
(11−3)上記(1−7)と同様にして、作製した膜電極接合体を燃料電池セルに取り付けた。
(比較例3)
(12−1)厚さ20マイクロメートルのポリエチレンテレフタレートシートの中央部を30mm角で切り抜き、枠体を形成した。
(12−2)枠体の片面にポリメチルメタクリレートを塗布し、60℃で10分間乾燥したものを2枚作製し、上記(1−6)で作製した膜電極接合体Aの両面から挟み込み、160℃で2分間熱圧着し、枠体付き膜電極接合体を得た。
(12−3)上記(1−7)と同様にして、作製した膜電極接合体を燃料電池セルに取り付けた。
(膜電極接合体のDMFC耐久性評価)
実施例1〜9及び比較例1〜3のDMFC耐久性を評価した。
評価用燃料電池のアノード側には、4mol/lのメタノール水溶液を0.5ml/minで供給し、カソード側には、乾燥空気(露点−20〜−15℃)を500ml/minで供給しながら、単セルの温度を80℃とした。連続発電は0.2A/cm2の条件で行った。最長で2500時間行い、経過時間に対するセル電圧のプロットを直線近似し、電圧低下率を算出した。また、途中で膜が破損したものについては、破損による燃料・空気のクロスリークの急激な上昇が確認された時点で測定を中断した。
評価を終了したMEAについては、断面観察を行い、電極周囲における電解質減肉の有無を確認した。また、電極の外周部(電極端部)及び電極の内部(電極中央部)に位置する電解質をN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、電解質ポリマーの分子量分布をGPCで測定することにより、電解質膜の劣化の有無を確認した。ここで、電極の外周部に位置する電解質の試料は、電極の外周端部から1mm外側までの領域に存在する電解質を切り出したものである。また、電極の内部に位置する電解質の試料は、電極の中心から直径10mmの円内に存在する電解質を切り出したものである。尚、実施例8については、電解質が溶解しないため、未測定とした。
(考察)
表1は、実施例1〜9および比較例1〜3の膜電極接合体の仕様をまとめて示したものである。また、表2は、それぞれの膜電極接合体を用いたDMFCの耐久性評価結果を示したものである。なお、表中の膜側の樹脂とは、枠体に多孔質基材を用いた場合に電解質膜と接する面近傍に含まれる樹脂のことを指し、セパレータ側樹脂とは、他の面近傍に含まれる樹脂のことを指す。
比較例1においては、発電試験の途中でカソード排ガスから多量のメタノール水溶液が出てくるようになったため、表1に示す時間で発電を停止した。そして、燃料電池セルを解体し、電解質膜の破損を確認したところ、触媒電極層周辺での膜破損が確認された。この比較例1においては、電極端部における電解質膜の分子量は試験前の半分以下となっており、膜分解が進んだために膜強度が低下し、破損が生じたと考えられる。
膜外縁部にポリエチレンテレフタラートシートで形成された枠体を配置した比較例2及び3においては、比較例1に比べて長時間発電が可能であるが、発電による電解質膜の破損や剥離が見られた。試験後の断面SEMから、電解質膜と枠体との間における剥離が観察され、そこを起点として電解質膜の劣化が進行したものと考えられる。
一方、同じ仕様の膜電極接合体に対してポリマーAを含む多孔質基材を貼り合わせた実施例1及び実施例2においては、発電の途中の膜破損は確認されず、分子量低減も抑制されている。これは、枠体を配置したことにより膜外縁部におけるメタノール水溶液及び空気の透過が抑制され、過酸化水素発生量が減少したためと考えられる。特に、枠体を基材の融点よりも高い160℃で熱圧着した実施例2においては、基材の細孔部が潰れ、連続薄膜状となったため、枠体としての効果が高まり、分子量低下を抑制することができたと考えられる。
枠体に含浸する電解質がNafion(登録商標)とした実施例3においては、発電中の膜破損は見られないものの、発電後における電極端部の電解質の分子量は低下していた。また、断面SEMにおいては、明確に理由は定かではないが、枠体と膜外縁部との界面においてNafion(登録商標)と電解質膜のポリマーAとの剥離が生じたことが確認される。一方、実施例2においては、分子量低下はなく、同質の電解質ポリマーを枠体及び電解質膜に用いることが重要であることがわかった。
枠体の他面からポリメチルメタクリレートを含浸した実施例4においても、電解質の十分な耐久性が確認された。これは、枠体内にポリメチルメタクリレートを充填することにより強度・透過性を改善した結果といえる。
実施例2、5及び6は、同じ枠体材料及び条件で作製した膜電極接合体を用いているが、枠体内周部の大きさが異なるものである。
枠体内周が電極外周よりも外側に存在する実施例5においては、電極と枠体との隙間にて電解質の劣化が確認されたが、枠体内周が電極外周と接する実施例2、及び枠体内周が電極外周よりも内側で両者が重なっている実施例6においては、十分な耐久性が確認された。
枠体に充填される電解質ポリマーにマンガンカチオンが含まれる実施例7においても、電解質の十分な耐久性が確認された。これは、枠体の効果が大きいが、ポリマー中にはマンガンカチオンが存在するため、仮に過酸化水素が発生しても、効果的にこれを分解し、電解質膜の劣化を抑制するためと考える。
電解質膜をNafion(登録商標)とした実施例8においても、電解質膜の減肉は確認されなかった。実施例8の場合に電圧低下率が他の実施例に比べて高い理由としては、電解質膜自体のメタノール透過性が高く、カソード混成電位が下がりやすかったこと、及びメタノールの化学的酸化により発生する水によりカソード抵抗が増大したことが考えられる。
拡散層の大きさを電極サイズよりも大きくした実施例9においても、電解質の十分な耐久性が確認された。これは、枠体の効果と合わせ、電極外周にはみ出した拡散層により燃料の透過が抑制されたこと、及び発生した水が電極外周から効率的に系外に排出されたことによるとも考えられる。
以下、燃料電池発電システムの一例を示す。
図6は、実施例の膜電極接合体を用いた燃料電池を実装した携帯用情報端末(燃料電池発電システム)を示す模式図である。
本図において、携帯用情報端末300は、2つの部分を燃料カートリッジ66のホルダーを兼ねたヒンジ67で連結された折たたみ式の構造をとっている。
1つの部分は、タッチパネル式入力装置が一体化された表示部61、アンテナ62を内蔵している。
もう1つの部分は、燃料電池63、並びにプロセッサ、揮発及び不揮発メモリ、電力制御部、燃料電池及び二次電池ハイブリッド制御、燃料モニタなどの電子機器及び電子回路などを実装したメインボード64、リチウムイオン二次電池65を内蔵している。
このようにして得られる携帯用情報端末は、燃料電池63の寿命が長いため、長く使うことができる。