(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかる火花点火式エンジンの全体構成を示す図であり、図2は、そのエンジン本体1の構成を示す断面図である。これらの図に示されるエンジンは、エンジン本体1に複数(図例では4つ)の気筒2が列状に並ぶように設けられた直列多気筒エンジンであり、車両を駆動するための動力源として図外のエンジンルームに配設されている。
上記エンジン本体1の各気筒2には、それぞれピストン3(図2)が往復摺動可能に挿入されている。ピストン3はコネクティングロッド5を介してクランク軸4と連結されており、上記ピストン3の往復運動に応じて上記クランク軸4が中心軸回りに回転するようになっている。
上記ピストン3の上方には燃焼室6が形成され、燃焼室6に吸気ポート7および排気ポート8が開口し、各ポート7,8を開閉する吸気弁9および排気弁10がエンジン本体1の上部に設けられている。なお、図例のエンジンはいわゆるダブルオーバーヘッドカムシャフト式(DOHC)エンジンであり、各気筒2につき吸気弁9および排気弁10がそれぞれ2つずつ設けられている。そして、吸気弁9および排気弁10の上方に、クランク軸4と連動して回転する一対のカムシャフト等を含む動弁機構(図示省略)が設けられ、各動弁機構により上記吸排気弁9,10が個別に開閉駆動されるようになっている。
上記吸気弁9用の動弁機構には、吸気弁9の動作タイミングを変更可能にするバルブタイミング可変機構(Variable Valve Timing Mechanism)としてのVVT12が設けられている。
バルブタイミング可変機構は、既に様々な形式のものが実用化されて公知であるが、例えば、液圧式の可変機構を上記VVT12として用いることができる。液圧式の可変機構では、吸気弁9用のカムシャフトと、これと同軸に配置された被駆動軸(図示省略)との間に、周方向に並ぶ複数の液室が設けられており、これら各液室間に圧力差が形成されることにより、上記カムシャフトと被駆動軸との間に所定の位相差が形成されるようになっている。そして、この位相差が所定の角度範囲内で可変的に設定されることにより、吸気弁9の動作タイミングが連続的に変更されるようになっている。
図1および図2に示すように、上記エンジン本体1には、燃焼室6に直接燃料を噴射するインジェクタ15と、燃焼室6に点火用の火花を放電する点火プラグ16とが、各気筒2につき1つずつ設けられている。図示の例では、燃焼室6の頂部付近に点火プラグ16が設けられるとともに、燃焼室6の吸気側の側方にインジェクタ15が設けられている。インジェクタ15は、点火プラグ16の電極付近に向けて燃料を噴射し得るように、やや斜め下方を指向して配置されている。
図2に示すように、上記エンジン本体1には、そのクランク軸4の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ51と、エンジンの冷却水の温度を検出する水温センサ52とが設けられている。
上記エンジン本体1の吸気ポート7および排気ポート8には、吸気通路21および排気通路22がそれぞれ接続されている。
上記吸気通路21は、燃焼用の空気(新気)を燃焼室6に供給するための通路であり、図1に示すように、各気筒2に対応して独立に設けられた複数の分岐通路部21aと、その上流側に共通に設けられた共通通路部21bとを有している。共通通路部21bには、エンジン本体1に流入する吸入空気の流量を調節するスロットル弁17と、吸入空気の流量を検出するエアフローセンサ53と、吸入空気の温度(吸気温度)を検出する吸気温センサ54とが設けられている。
上記スロットル弁17は、例えば電子制御式のスロットル弁からなり、運転者により踏み込み操作される図外のアクセルペダルの開度に応じて電気的に開閉駆動される。すなわち、上記アクセルペダルにはアクセル開度センサ55(図5)が設けられており、このアクセル開度センサ55により検出されたアクセルペダルの開度(アクセル開度)に応じて、図外の電気式のアクチュエータがスロットル弁17を開閉駆動するように構成されている。
上記排気通路22は、上記燃焼室6で生成された既燃ガス(排気ガス)を排出するための通路であり、上記吸気通路21と同様、各気筒に対応して独立に設けられた複数の分岐通路部22aと、その下流側に共通に設けられた共通通路部22bとを備えている。
(2)自動変速機の構成
以上のように構成されたエンジンには、図3に示される自動変速機30が接続されている。自動変速機30は、エンジンの駆動力(クランク軸4の回転力)を所定の減速比で減速しつつ車両のドライブシャフト45に伝達するものであり、車両の走行状態に応じた変速段を選択的に形成する多段変速機構32と、エンジンのクランク軸4と多段変速機構32とを連動連結するトルクコンバータ31とを有している。
上記トルクコンバータ31は、エンジンのクランク軸4と一体に回転するポンプインペラ33と、ポンプインペラ33に対向するように配置されたタービンランナ34と、ポンプインペラ33およびタービンランナ34の間に配置されたステータ(固定翼)35とを有し、エンジンにより回転駆動される上記ポンプインペラ33の駆動力が、トルクコンバータ31内に充満された作動油(ATFオイル)を介して上記タービンランナ34に伝達されるようになっている。上記タービンランナ34は、トルクコンバータ31の出力軸となるタービン軸36に連結されており、上記タービンランナ34がポンプインペラ33の駆動力を受けて回転駆動されると、これと一体に上記タービン軸36が回転するようになっている。
上記トルクコンバータ31には、上記タービンランナ34とエンジンのクランク軸4とを直結するためのロックアップクラッチ37が内蔵されており、必要に応じてこのロックアップクラッチ37が締結されることにより、エンジンと多段変速機構32との間で動力がロスなく(流体による滑りなく)伝達されるようになっている。
上記多段変速機構32は、第1遊星ギヤ機構40および第2遊星ギヤ機構41を有するとともに、これら各ギヤ機構40,41を介した動力伝達経路を切り替える手段として、フォワードクラッチC1、3−4クラッチC2、リバースクラッチC3、ローリバースブレーキB1、および2−4ブレーキB2からなる摩擦締結要素と、ワンウェイクラッチC4とを有している。そして、これら摩擦締結要素C1,C2,C3,B1,B2の断続等に応じて、前進4段(1速〜4速)および後退速からなる複数の変速段を形成し得るように構成されている。上記トルクコンバータ31のタービン軸36の回転力は、上記各変速段に応じた速度比で減速された後に出力ギヤ43に伝達される。
上記第1遊星ギヤ機構40は、サンギヤ40aおよびリングギヤ40dと、これら両ギヤ40a,40dの間に噛合状態で配置された複数のプラネタリギヤ40bと、プラネタリギヤ40bを保持するキャリア40cとを有している。同様に、上記第2遊星ギヤ機構41は、サンギヤ41aおよびリングギヤ41dと、これら両ギヤ41a,41dの間に噛合状態で配置された複数のプラネタリギヤ41bと、プラネタリギヤ41bを保持するキャリア41cとを有している。
そして、上記第1遊星ギヤ機構40のリングギヤ40dと第2遊星ギヤ機構41のキャリア41cとが連結されるとともに、第1遊星ギヤ機構40のキャリア40cと第2遊星ギヤ機構41のリングギヤ41dとが連結されることにより、各遊星ギヤ機構40,41が連動し得るようになっている。また、第1遊星ギヤ機構40のキャリア40cには、出力ギヤ43が一体的に連結されている。
上記フォワードクラッチC1は、上記トルクコンバータ31のタービン軸36と第1遊星ギヤ機構40のサンギヤ40aとを断続可能に連結し、上記3−4クラッチC2は、上記タービン軸36と第2遊星ギヤ機構41のキャリア41cとを断続可能に連結し、上記リバースクラッチC3は、上記タービン軸36と第2遊星ギヤ機構41のサンギヤ41aとを断続可能に連結する。
上記ローリバースブレーキB1は、上記第1遊星ギヤ機構40のリングギヤ40dおよび第2遊星ギヤ機構41のキャリア41cを、多段変速機構32のケース42に対し固定または解放し、上記2−4ブレーキB2は、上記第2遊星ギヤ機構41のサンギヤ41aを上記ケース42に対し固定または解放する。
上記ワンウェイクラッチC4は、第1遊星ギヤ機構40のリングギヤ40dおよび第2遊星ギヤ機構41のキャリア41cの一方向(クランク軸4の駆動方向)への回転のみを許容(アンロック)し、逆方向への回転は規制(ロック)する。
そして、上記摩擦締結要素(クラッチC1〜C3、ブレーキB1,B2)の断続、およびワンウェイクラッチC4のロック/アンロックの切り替えに応じて、上記タービン軸36と出力ギヤ43との間の動力伝達経路が変更され、多段変速機構32の変速段が切り替えられるようになっている。上記出力ギヤ43の回転力は、差動装置44を介して左右のドライブシャフト45に伝達される。
図4は、上記摩擦締結要素(クラッチC1〜C3、ブレーキB1、B2)およびワンウェイクラッチC4の状態と、多段変速機構32の変速段との関係を示す締結表であり、○印が締結またはロックされた状態を、無印が解放またはアンロックされた状態をそれぞれ示している。
図4の締結表によると、1速では、フォワードクラッチC1が締結されかつワンウェイクラッチC4がロック状態とされ、2速では、フォワードクラッチC1および2−4ブレーキB2が締結され、3速では、フォワードクラッチC1および3−4クラッチC2が締結され、4速では、3−4クラッチC2および2−4ブレーキB2が締結される。また、後退速では、リバースクラッチC3およびローリバースブレーキB1が締結される。
なお、詳細は省略するが、上記クラッチC1〜C3およびブレーキB1,B2は、図外の油圧回路から供給される油圧により駆動される。すなわち、上記油圧回路に含まれるソレノイドバルブ等からなる切替弁の作動に応じて油路・油圧等が変更されることにより、上記各摩擦締結要素(クラッチC1〜C3,ブレーキB1,B2)が締結または解放され、これに応じて多段変速機構32の変速段が切り替えられるようになっている。また、上記トルクコンバータ31のロックアップクラッチ37についても、同じく油圧回路から供給される油圧によって駆動される。
以上のように構成された自動変速機30には、上記各摩擦締結要素C1〜C3,B1,B2の作動状態(締結または解放)に基づいて、1〜4速または後退速のうちどの変速段が選択されているかを検出する変速センサ56と、ロックアップクラッチ37の作動状態に基づきロックアップの有無(ON/OFF)を検出するロックアップセンサ57とが設けられている(図5参照)。また、上記自動変速機30には、その出力軸の回転速度に基づいて自車両の走行速度(車速)を検出する車速センサ50も設けられている。
図7は、前進時の変速マップを示す図である。本図に示すように、前進4段(1〜4速)のうちどの変速段を選択するかは、車速およびアクセル開度に基づき決定される。図中では、1速から2速、2速から3速、または3速から4速に切り替える(シフトアップする)際の変速ラインをL1,L2,L3としている。すなわち、変速ラインL1よりも低速側の領域では1速が選択され、変速ラインL1とL2の間の領域では2速が選択され、変速ラインL2とL3の間の領域では3速が選択され、変速ラインL3よりも高速側の領域では4速が選択される。なお、図中の破線のラインは、4速から3速、または3速から2速に切り替える(シフトダウンする)際の変速ラインを表わしている。
(3)制御系の構成
図5は、エンジンの制御系を示すブロック図である。本図に示されるECU70は、エンジンおよび自動変速機30の各部を統括的に制御するための制御装置であり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
上記ECU70には、各種センサ類からの検出信号が入力される。すなわち、ECU70は、上記車速センサ50、エンジン回転速度センサ51、水温センサ52、エアフローセンサ53、吸気温センサ54、アクセル開度センサ55、変速センサ56、およびロックアップセンサ57と電気的に接続されており、これら各センサ50〜57による検出値として、車速V、エンジン回転速度Ne、エンジン水温Te、吸入空気量Qa、吸気温度Ta、アクセル開度ACC、および自動変速機30の変速位置やロックアップの有無といった情報が、上記ECU70に逐次入力されるようになっている。
また、上記ECU70は、上記VVT12、インジェクタ15、点火プラグ16、スロットル弁17、トルクコンバータ31のロックアップクラッチ37、および多段変速機構32の各摩擦締結要素C1〜C3,B1,B2とも電気的に接続されており、これらの装置にそれぞれ駆動用の制御信号を出力するように構成されている。
上記ECU70が有するより具体的な機能について説明すると、上記ECU70は、その主な機能的要素として、バルブタイミング制御手段71、記憶手段72、予測手段73、および燃料制御手段74を有している。
上記バルブタイミング制御手段71は、上記VVT12の動作を制御することにより、吸気弁9の動作タイミングをエンジンの運転状態に応じて可変的に設定するものである。具体的に、バルブタイミング制御手段71は、吸気弁9が閉弁される時期(閉時期)を少なくとも変更することにより、エンジンの有効圧縮比を調節する機能を有している。なお、VVT12が、カムシャフトと被駆動軸との間に所定の位相差を形成するタイプの可変機構である場合には、上記VVT12の作動に応じて、吸気弁9の閉時期だけでなく、排気弁10の開時期も変更されることになるが、ここでは、排気弁10の開時期については可変でも一定でもよく、少なくとも吸気弁9の閉時期が変更されるものとする。
すなわち、吸気弁9は、通常、吸気下死点の遅角側の近傍(吸気下死点をわずかに過ぎたタイミング)で閉じられるが、エンジンの運転状態によっては、上記バルブタイミング制御手段71によりVVT12が駆動されて、上記吸気弁9の閉時期が吸気下死点よりも大幅に遅く設定される。これにより、実質的に圧縮が開始される時期が遅らされ、エンジンの実質的な圧縮比(有効圧縮比)がその分低下する。
具体的に、上記吸気弁9の閉時期を遅らせて有効圧縮比を低下させる制御は、エンジンの運転状態が、図6に示される異常燃焼危惧領域PAにあるときに実行される。すなわち、横軸をエンジン回転速度Ne、縦軸を吸気充填効率(エンジン負荷)CEとしたときの2次元領域において、左上の領域に位置する上記異常燃焼危惧領域PAでは、負荷が比較的高く、回転速度Neが比較的低いため、燃焼室6が高温になり易く、しかも燃焼室6の壁面からの受熱期間が長い。このため、異常燃焼危惧領域PAでは、点火プラグ16による火花点火のタイミングに基づき定まる正常の燃焼開始時期よりも前に混合気が自着火してしまうプリイグニッションと呼ばれる異常燃焼が、他の領域よりも発生し易い。そこで、上記バルブタイミング制御手段71は、このような異常燃焼の発生を抑制するために、上記異常燃焼危惧領域PAにおいて有効圧縮比を低下させる制御を実行する。
ここで、エンジンの運転状態が、当初は異常燃焼危惧領域PAの外側にあり、その状態から同領域PA内へと移行するといったような場合、上述した有効圧縮比の低下制御(つまり吸気弁9の閉時期をリタードさせる制御)は、実際に異常燃焼危惧領域PAに移行してからではなく、その移行に先立って開始される。すなわち、上記バルブタイミング制御手段71は、異常燃焼危惧領域PAへの移行が予測されると(予測は予測手段73により行われる)、その移行に先立って、上記VVT12を作動させて吸気弁9の閉時期をリタードさせる制御を開始する。これは、特にVVT12が液圧式の可変機構である場合、このVVT12にバルブタイミングを変更する指令を出してから実際に変更を完了するまでの間に、ある程度の遅れ時間(応答遅れ)が生じることが避けられないため、この応答遅れを考慮してのものである。
上記記憶手段72は、エンジンの制御に必要な各種データを記憶するものであり、そのデータの1つとして、上記記憶手段72には、図6に示した異常燃焼危惧領域PAの範囲や、同領域PAで吸気弁9の閉時期を遅らせる際の目標リタード量(遅角量)がマップ形式で記憶されている。
例えば、上述したプリイグニッションは、エンジンの温度(エンジン水温)Teおよび吸気温度Taが高いほど起き易く、逆に低いほど起き難いため、上記異常燃焼危惧領域PAの範囲は、上記各温度Te,Taに応じて可変的に設定される。具体的に、図6に示した異常燃焼危惧領域PAにおいて、その回転速度の上限値を規定するラインをPAL1、負荷の下限値を規定するラインをPAL2とすると、これらラインPAL1,PAL2の位置は、上記エンジン水温Teおよび吸気温度Taの値に応じて変化する。すなわち、エンジン水温Teおよび吸気温度Taが高いほど、回転速度の上限ラインPAL1がより高回転側に移動し、負荷の下限ラインPAL2がより低負荷側に移動する。このため、上記記憶手段72には、上記ラインPAL1,PAL2の位置が、上記エンジン水温Teおよび吸気温度Taの値ごとに記憶されており、これによって異常燃焼危惧領域PAの範囲が可変的に設定されるようになっている。
また、上記異常燃焼危惧領域PAにおいて、吸気弁9の閉時期をどの程度遅らせれば(つまり有効圧縮比をどの程度低下させれば)プリイグニッションを抑制できるかは、上記エンジン水温Teおよび吸気温度Taによって異なる。このため、上記記憶手段72には、吸気弁9の閉時期を遅らさせる際の目標リタード量が、上記温度Te,Taの値ごとに記憶されている。
上記予測手段73は、上記自動変速機30の状態変化に基づいて、エンジンの運転状態が上記異常燃焼危惧領域PA内に移行することを予測するものである。例えば、自動変速機30の変速段が増速(シフトアップ)されると、減速比の低下の分だけエンジン回転速度Neが低下するため、上記予測手段73は、事前に自動変速機30がシフトアップされることを予測し、予測された場合には、さらにシフトアップ後の運転状態が異常燃焼危惧領域PA内に位置するか否かを判定することにより、上記異常燃焼危惧領域PAへの移行を予測する。
図6には、シフトアップに応じて異常燃焼危惧領域PAへの移行が起きる具体的なケースが例示されている。この図6のケースでは、エンジンの運転状態が、当初、異常燃焼危惧領域PAより外側の点P1にあり、そこからアクセルペダルが踏み込まれて加速するという状況を想定している。点P1の状態からアクセルペダルが踏み込まれると、エンジンの運転状態は、点P1よりも高負荷側の点P2に移行する。点P2は、異常燃焼危惧領域Aよりも高回転側に位置している。
また、上記のような運転状態の変化に伴い、図7の変速マップ上でも、点P1から点P2への状態変化が起きる。図7の例では、上記点P1および点P2が、ともに2速の選択領域内に位置している。したがって、この時点では自動変速機30のシフトアップが行われることはない。
その後、アクセルペダルの踏み込み量が維持されると、エンジンの回転速度Neおよび車速Vが徐々に増大する。そして、図6および図7の点P3の位置まで加速が継続され、車速Vの値が2速から3速への変速ラインL2上に達することにより、自動変速機30が3速へとシフトアップされる。すると、このシフトアップに伴いエンジン回転速度Neが所定量低下し、点P4の状態へと移行する結果、図6に示すように、エンジンの運転状態が異常燃焼危惧領域PA内に移行することになる。
図8は、点P1→P2→P3→P4へと移行する際のエンジン回転速度Neの変化を時系列で表したものである。本図によると、回転速度Neの値は、点P1から点P3までの期間にわたって徐々に増加した後、2速から3速へのシフトアップにより急激に低下することが分かる(点P4)。
このようなケースにおいて、予測手段73は、例えば上記点P3(変速ラインL2上)に移行する少し前の時点で、現時点でのアクセル開度ACCや、車速Vの変化率等に基づいて、上記点P3への移行(つまりシフトアップ)を予測し、さらにシフトアップ後のエンジン回転速度Neを演算する等により、異常燃焼危惧領域PA(点P4)への移行を予測する。
なお、図6〜図8では、自動変速機30のシフトアップに起因した異常燃焼危惧領域PAへの移行を例に挙げて説明したが、例えば、自動変速機30のロックアップクラッチ37が解放状態から締結状態に変位した場合にも、同様の事態は起こりうる。すなわち、ロックアップクラッチ37が締結されると、回転ロス(滑り)がなくなる分だけエンジン回転速度Neが低下するため、上記予測手段73は、ロックアップクラッチ37が締結されることを予測し、予測された場合には、さらに締結後の運転状態が異常燃焼危惧領域PA内に位置するか否かを判定することにより、上記異常燃焼危惧領域PAへの移行を予測する。
再び図5に戻って、上記燃料制御手段74は、エンジン本体1に吸入される空気量(吸入空気量Qa)に基づいてインジェクタ15からの燃料の噴射量を制御することにより、混合気の空燃比(A/F)を可変的に設定するものである。
具体的に、上記燃料制御手段74により制御される空燃比(A/F)は、通常、理論空燃比(14.7)か、または、理論空燃比よりも大きい(リーンな)値に設定される。ただし、上記予測手段73により異常燃焼危惧領域PAへの移行が予測されると、上記燃料制御手段74は、所定の条件下で、空燃比を理論空燃比よりも小さい(リッチな)値に補正する制御を実行する。
すなわち、異常燃焼危惧領域PAへの移行が予測されると、上述したように、実際の移行に先立って、有効圧縮比を低下させる制御(つまり吸気弁9の閉時期をリタードさせる制御)がバルブタイミング制御手段71により実行されるが、例えば異常燃焼危惧領域PAに移行するまでにかかる時間がかなり短いと予測される場合や、または吸気弁9の目標リタード量がかなり大きく設定される場合には、上記異常燃焼危惧領域PAへの移行までに有効圧縮比が十分に低下せず、一時的にでもプリイグニッションが発生するおそれがある。そこで、このような場合には、空燃比を理論空燃比よりもリッチにし、燃焼室6の温度を下げることにより、有効圧縮比が十分に低下するまでの間に懸念されるプリイグニッションの発生を抑制するようにする。
空燃比の補正制御は、インジェクタ15からの燃料の噴射量の調節により、優れた応答性で実現できる。このため、当実施形態では、吸気弁9の閉時期をリタードさせることにより圧縮比の低下制御が完了するまでの過渡的な処置として、空燃比をリッチ化する制御を実行するようにしている。なお、空燃比のリッチ化は、吸気弁9の閉時期が目標のタイミングに補正された時点で終了される。
図9は、空燃比をリッチ化する際の目標補正量を、吸気弁9の目標リタード量との関係で示す図であり、図10は、同じく空燃比の目標補正量を、異常燃焼危惧領域PA内に移行するまでの予測時間との関係で示す図である。これらの図に示すように、空燃比のリッチ化は、吸気弁9の目標リタード量が所定値Xより大きい場合、または異常燃焼危惧領域PAまでの移行予測時間が所定時間Yよりも短い場合に実行されるようになっている。そして、その際の目標補正量は、吸気弁9の目標リタード量が大きいほど、または異常燃焼危惧領域PAまでの移行予測時間が短いほど、大きく設定される。なお、このような関係を規定するデータは、上記記憶手段72に記憶されている。
(4)制御動作の具体例
次に、以上のように構成された当実施形態のエンジンにおいて実行される制御動作の具体例を、図11および図12に示されるフローチャートに基づき説明する。図11は、異常燃焼危惧領域PAへの移行を予測するためのフローであり、図12は、その予測結果に基づいてバルブタイミングや空燃比を補正するためのフローである。
まず、図11のフローチャートについて説明する。本図に示す処理がスタートすると、上記ECU70は、各種センサ値を読み込む制御を実行する(ステップS1)。具体的には、車速センサ50、エンジン回転速度センサ51、水温センサ52、エアフローセンサ53、吸気温センサ54、アクセル開度センサ55、変速センサ56、およびロックアップセンサ57から、各センサの検出値として、車速V、エンジン回転速度Ne、エンジン水温Te、吸入空気量Qa、吸気温度Ta、アクセル開度ACC、および自動変速機30の変速位置(現在選択されている変速段)やロックアップの有無といった情報が読み込まれる。
次いで、上記ECU70の予測手段73は、上記ステップS1で読み込まれた車速Vの変化率やアクセル開度ACC等に基づいて、自動変速機30がシフトアップされるか否かを予測する制御を実行する(ステップS2)。例えば、図7に示した変速マップ上で、点P3への移行が予測された場合には、2速から3速にシフトアップすることが予測される。
上記ステップS2でYESと判定されてシフトアップされることが予測された場合、上記ECU70の予測手段73は、シフトアップ直前のエンジン回転速度Neおよびシフトアップ後の変速段に基づいて、シフトアップ後の予測回転速度Nep1を算出する制御を実行する(ステップS3)。例えば、図6に示すように、シフトアップ直前の運転状態が点P3の位置にある場合、この点P3でのエンジン回転速度Neと、シフトアップ(2速→3速)による減速比の変化とに基づき、シフトアップ後のエンジン回転速度Neが点P4まで低下すると予測されるので、この点P4でのエンジン回転速度Neを予測回転速度Nep1として算出する。
次いで、上記ECU70の予測手段73は、上記ステップS3で算出されたシフトアップ後の予測回転速度Nep1等に基づいて、エンジンの運転状態が図6に示した異常燃焼危惧領域PA内に移行するか否かを予測する制御を実行する(ステップS4)。具体的には、シフトアップ後の予測回転速度Nep1と、現時点での吸気充填効率CE(ステップS1で取得された吸入空気量Qa等から算出)とに基づき、シフトアップ後のエンジンの運転状態を図6のマップ上で特定し、その特定された位置が異常燃焼危惧領域PA内に含まれるか否かを判定することにより、上記異常燃焼危惧領域PAへの移行を予測する。例えば、図6に示したように、シフトアップ後の運転状態が点P4の位置にあると算出された場合、この点P4の位置は異常燃焼危惧領域PA内に含まれる(つまり回転速度の上限ラインPAL1よりも低回転側でかつ負荷の下限ラインPAL2よりも高負荷側にある)ので、上記異常燃焼危惧領域PAに移行することが予測される。
上記ステップS4でYESと判定されて異常燃焼危惧領域PAへの移行が予測された場合、上記ECU70の予測手段73は、異常燃焼危惧領域PAへの移行が予測されたことを表す値として、異常燃焼予測フラグFに「1」を入力する制御を実行する(ステップS5)。一方、上記ステップS4でNOと判定された場合には、上記異常燃焼予測フラグFに、異常燃焼危惧領域PAへの移行が予測されなかったことを表す「0」を入力する制御を実行する(ステップS6)。
次に、上記ステップS2でNOと判定された場合、つまり、自動変速機30のシフトアップが予測されなかった場合の制御動作について説明する。この場合、上記ECU70の予測手段73は、上記ステップS1で読み込まれたロックアップセンサ57の検出値に基づいて、自動変速機30のロックアップクラッチ37が解放(OFF)されているか否かを判定する制御を実行する(ステップS7)。
上記ステップS7でYESと判定されてロックアップクラッチ37が解放されていることが確認された場合、上記ECU70の予測手段73は、上記ステップS1で読み込まれた車速Vの変化率やアクセル開度ACC等に基づいて、ロックアップクラッチ37が締結(ON)されるか否かを予測する制御を実行する(ステップS8)。
上記ステップS8でYESと判定されてロックアップクラッチ37の締結(ON)が予測された場合、上記ECU70の予測手段73は、ロックアップクラッチ37が締結される直前のエンジン回転速度Ne等に基づいて、ロックアップクラッチ締結後の予測回転速度Nep2を算出する制御を実行する(ステップS9)。すなわち、ロックアップクラッチ37が締結されてトルクコンバータ31での回転ロス(滑り)がなくなると、締結前に比べてエンジン回転速度Neが低下するため、この低下したときのエンジン回転速度Neを上記予測回転速度Nep2として算出する。
次いで、上記ECU70の予測手段73は、上記ステップS9で算出されたロックアップ後の予測回転速度Nep2等に基づいて、エンジンの運転状態が図6に示した異常燃焼危惧領域PA内に移行するか否かを予測し(ステップS4)、その結果に基づいて、異常燃焼予測フラグFに「1」または「0」を入力する制御を実行する(ステップS5,S6)。
次に、図12のフローチャートについて説明する。本図に示す処理がスタートすると、上記ECU70のバルブタイミング制御手段71は、上記図11のステップS1で読み込まれたエンジン水温Teおよび吸気温度Taに基づいて、上記異常燃焼危惧領域PAでVVT12により設定されるべき吸気弁9の閉時期のリタード量(目標リタード量)を取得する制御を実行する(ステップS11)。具体的には、上記記憶手段72に記憶されている吸気弁9の目標リタード量のデータから、上記エンジン水温Teおよび吸気温度Taに対応した値を特定し、その値を目標リタード量として取得する。
次いで、上記ECU70の予測手段73は、上記図11のフローチャートにおける異常燃焼予測フラグFが「1」であるか否かを判定することにより、異常燃焼危惧領域PAへの移行が予測されているか否かを判定する(ステップS12)。
上記ステップS12でYESと判定されて異常燃焼危惧領域PAへの移行が予測されていることが確認された場合、上記ECU70の予測手段73は、例えば自動変速機30がシフトアップされるまでの時間や、シフトアップ時のエンジン回転速度Neと異常燃焼危惧領域PAの上限回転速度PAL1との速度差等に基づいて、異常燃焼危惧領域PAに移行するまでにかかる予測時間(移行予測時間)を算出する制御を実行する(ステップS13)。なお、自動変速機30がシフトアップされるまでの時間は、現時点での車速Vと、車速Vの変化率と、シフトアップ時の車速(例えば図7の点P3の車速)とに基づき算出することができる。
次いで、上記ECU70の燃料制御手段74は、上記ステップS11で取得された吸気弁9の目標リタード量、および、上記ステップS13で算出された異常燃焼危惧領域PAまでの移行予測時間に基づいて、空燃比をリッチ化する際の目標補正量を取得する制御を実行する(ステップS14)。
具体的には、上記記憶手段72に記憶されている図9および図10のデータから、上記吸気弁9の目標リタード量および異常燃焼危惧領域PAまでの移行予測時間に対応する値を特定し、その値を空燃比の目標補正量として取得する。ただし、図9および図10に示したように、吸気弁の目標リタード量が所定値X以下であり、かつ移行予測時間が所定時間Y以上であった場合には、空燃比をリッチ化する制御を行う必要がないため、空燃比の目標補正量はゼロとされる。
次いで、上記ECU70のバルブタイミング制御手段71は、上記ステップS11で取得された目標リタード量の分だけ吸気弁9の閉時期がリタードされるように、上記VVT12を駆動する制御を実行する(ステップS15)。このように、バルブタイミング制御手段71は、上記ステップS12でYESと判定されて異常燃焼危惧領域PAへの移行が予測されると、異常燃焼危惧領域PAに実際に移行するのを待つことなく、直ちに吸気弁9の閉時期をリタードさせる制御を開始する。
次いで、上記ECU70の燃料制御手段74は、上記インジェクタ15からの燃料の噴射量を調節することにより、上記ステップS14で取得された空燃比の目標補正量の分だけ空燃比をリッチ化させる制御を実行する(ステップS16)。なお、このステップS16での制御(空燃比のリッチ化)は、上記ステップS15での吸気弁9の閉時期のリタードが完了した時点(実際のリタード量が目標リタード量に達した時点)で終了される。
(5)作用効果等
以上説明したように、当実施形態のエンジンでは、吸気弁9の動作タイミングを制御するバルブタイミング制御手段71と、自動変速機30の状態変化(つまりシフトアップやロックアップクラッチ37の締結)に基づく回転速度の低下により、エンジンの運転状態が異常燃焼危惧領域PAに移行することを予測する予測手段73とが、ECU70に備わっている。そして、上記予測手段73により異常燃焼危惧領域PAへの移行が予測されると、上記バルブタイミング制御手段71は、上記異常燃焼危惧領域PAへの実際の移行に先立ち、上記吸気弁9の閉時期をリタードさせてエンジンの有効圧縮比を低下させる制御を開始する。このような構成によれば、異常燃焼を抑制するための制御の応答遅れにかかわらず、異常燃焼を確実に抑制できるという利点がある。
すなわち、上記実施形態では、シフトアップ等の状態変化によりエンジン回転速度Neが低下し、それによってエンジンの運転状態が異常燃焼危惧領域PA内に移行することが予測された場合に、実際の移行に先立って吸気弁9の閉時期をリタードさせるようにしたため、そのリタード制御の応答遅れにより、目標リタード量に達するまでに比較的長い時間を要したとしても、異常燃焼危惧領域PAに移行した時点では、少なくとも吸気弁9の閉時期がある程度リタードされ、それに伴いエンジンの有効圧縮比が既に低下している。したがって、異常燃焼危惧領域PAへの移行が確認されてから吸気弁9の閉時期をリタードさせ始めた場合と異なり、異常燃焼危惧領域PAへの移行直後でも有効圧縮比が確実に低下しており、同領域PAで発生し易い自着火による異常燃焼(プリイグニッション)を効果的に抑制できるという利点がある。
また、上記実施形態では、異常燃焼危惧領域PAへの移行が予測されると、所定の条件下で、混合気の空燃比をリッチ側に補正する制御を合わせて実行するようにした。このような構成によれば、異常燃焼危惧領域PAへの移行直後に起こり得るプリイグニッションの発生をより確実に抑制できるという利点がある。
具体的に、吸気弁9の目標リタード量が所定値Xよりも大きいか、または、異常燃焼危惧領域PAまでの移行予測時間が所定値Yよりも小さければ、エンジンの運転状態が異常燃焼危惧領域PAに移行した時点で有効圧縮比が目標値まで低下していないことが想定されるため、このような場合に、空燃比をリッチ化する制御を行うようにした。すなわち、空燃比をリッチ化するという制御は、インジェクタ15からの燃料の噴射量を調節することにより優れた応答性で実行することができ、また、燃焼室6の温度を低下させてプリイグニッションを抑制することにつながる。したがって、上記のような条件下で空燃比のリッチ化を行うことにより、異常燃焼危惧領域PAへの移行までに有効圧縮比が十分に低下しないような場合でも、応答性の高い空燃比のリッチ化を合わせて実施することにより、異常燃焼危惧領域PAへの移行直後に起こり得るプリイグニッションの発生をより確実に抑制することができる。
しかも、上記実施形態では、吸気弁9の目標リタード量が所定値Xに対し大きいほど、または、異常燃焼危惧領域PAまでの移行予測時間が所定時間Yに対し短いほど、空燃比をリッチ化する際の補正量を大きく設定するようにしたため、異常燃焼危惧領域PAに移行した時点での有効圧縮比の低下度合いが十分でないときほど、それを補うべく大幅に空燃比をリッチ化することにより、プリイグニッションの抑制効果をより適正かつ確実に発揮させることができる。
なお、上記実施形態では、異常燃焼危惧領域PAに移行することが予測され、しかも同領域PAに実際に移行した時点で吸気弁9の閉時期が十分にリタードされていないと予測される場合(つまり吸気弁9の目標リタード量が所定値Xより大きい場合、または異常燃焼危惧領域PAまでの移行予測時間が所定時間Yよりも短い場合)に、インジェクタ15からの燃料噴射量を一時的に増大させて混合気の空燃比を理論空燃比よりもリッチ側に補正することにより、燃焼室6の温度を素早く低下させ、上記異常燃焼危惧領域PAに移行した直後のプリイグニッションの発生を抑制するようにしたが、同様の作用効果を奏することのできる制御は、上記のような空燃比のリッチ化に限られない。
例えば、上記と同じ条件が成立したときに、インジェクタ15から噴射される燃料の少なくとも一部の噴射時期をリタードさせてもよい。すなわち、インジェクタ15から噴射される燃料の噴射時期は、十分なミキシング時間を確保するために、吸気行程中に設定されるのが通常であるが、例えば、燃料の少なくとも一部が圧縮行程中に噴射されるように噴射時期をリタードさせれば、噴射時期から圧縮上死点手前までの期間が短くなり、化学反応に必要な時間が不足しがちになるとともに、圧縮行程中の噴射により燃焼室6の温度が低下するため、自着火による異常燃焼(プリイグニッション)の抑制につながる。
上記のような噴射時期のリタードは、インジェクタ15を制御することにより優れた応答性で実現することができる。したがって、異常燃焼危惧領域PAへの移行までに吸気弁9の閉時期を十分にリタードできない(つまり有効圧縮比を十分に低下させることができない)と予測される場合に、上記のような噴射時期のリタードを行うようにすれば、上記実施形態と同様、異常燃焼危惧領域PAへの移行直後に起こり得るプリイグニッションの発生を確実に抑制することができる。また、噴射時期をリタードする際の補正量(リタード量)は、上記実施形態において空燃比をリッチ化する場合と同様に、吸気弁9の目標リタード量が所定値Xに対し大きいほど、または、異常燃焼危惧領域PAまでの移行予測時間が所定時間Yに対し短いほど、大きく設定するとよい。
なお、上記において、「少なくとも一部」の燃料の噴射時期をリタードさせるとしたのは、噴射すべき燃料の全部の噴射時期をリタードさせてもよいし、一部の燃料の噴射時期のみをリタードさせてもよいということである。一部の燃料の噴射時期をリタードさせた場合には、燃料を複数回に分けて噴射する分割噴射を行うことになる。
また、上記実施形態では、エンジンに自動変速機30が接続されている場合において、アクセル開度ACCや車速Vの変化率等に基づいて自動変速機30がシフトアップされることを予測し、その結果エンジンの運転状態が異常燃焼危惧領域PAに移行することが予測された場合に、その移行に先立って吸気弁9の閉時期をリタードさせる制御等を実施するようにしたが、上記自動変速機30に代えて、運転者により手動で操作される手動変速機がエンジンに接続されている場合でも、その手動変速機の状態変化に基づいて上記異常燃焼危惧領域PAへの移行を予測することが可能である。
具体的に、手動変速機では、シフトアップする際に、まずクラッチを踏み込んで、シフトレバーのシフトポジションを低い変速段から高い変速段の位置に(例えば2速から3速の位置に)入れてから、最後にクラッチを戻す、という手順の操作を行う。したがって、手動変速機では、運転者がシフトレバーを増速側に操作した時点(クラッチを戻す前の時点)で、シフトアップが行われると予測することができる。そして、このような場合に、シフトアップ後のエンジン回転速度Neを演算する等の処理を行えば、シフトアップによってエンジンの運転状態が異常燃焼危惧領域PAに移行するか否かを予測することができる。