JP5406753B2 - Al基合金スパッタリングターゲットおよびその製造方法 - Google Patents

Al基合金スパッタリングターゲットおよびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、Cuを含むAl基合金スパッタリングターゲットに関し、特に液晶ディスプレイの薄膜電極や薄膜配線等の液晶配線に好適なAl基合金スパッタリングターゲットとその製造方法に関するものである。以下では、液晶ディスプレイを中心に説明するが、本発明の用途をこれに限定する趣旨ではない。
Alは、電気抵抗率が低く、加工が容易であるなどの理由により、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、プラズマディスプレイパネル(PDP:Plasma Display Panel)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD:Electro Luminescence Display)、フィールドエミッションディスプレイ(FED:Field Emission Display)、メムス(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD:Flat Panel Display)、タッチパネル、電子ペーパーなどの分野で汎用されており、配線膜、電極膜、反射電極膜などの材料に利用されている。
例えば、アクティブマトリクス型の液晶ディスプレイは、スイッチング素子である薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)、導電性酸化膜から構成される画素電極、および走査線や信号線を含む配線を有するTFT基板を備えている。走査線や信号線を構成する配線材料には、一般に、純AlやAl−Nd合金のAl基合金膜が用いられている。
ところで、Al基合金膜の形成には、一般にスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法が採用されている。スパッタリング法とは、基板と、薄膜材料と同一の材料から構成されるスパッタリングターゲット(ターゲット材)との間でプラズマ放電を形成し、プラズマ放電によってイオン化させた気体をターゲット材に衝突させることによってターゲット材の原子をたたき出し、基板上に堆積させて薄膜を作製する方法である。スパッタリング法は、真空蒸着法とは異なり、ターゲット材と同じ組成の薄膜を形成できるというメリットを有している。特に、スパッタリング法で成膜されたAl基合金膜は、平衡状態では固溶しないNdなどの合金元素を固溶させることができ、薄膜として優れた性能を発揮することから、工業的に有効な薄膜作製方法であり、その原料となるスパッタリングターゲット材の開発が進められている。
しかしながら、Al基合金スパッタリングターゲットを用いて薄膜を成膜する際、スパッタリング時にスプラッシュ(微細な溶融粒子)が多く発生したり、成膜された配線薄膜の電気抵抗が上昇するなどの問題がある。
そこで、スパッタリング時のスプラッシュ低減技術として、例えば特許文献1〜3が開示されている。このうち特許文献1には、薄膜電極や薄膜配線等の形成に用いられるAl合金スパッタリングターゲットとして、Fe、Siをそれぞれ0.001〜0.01質量%、及びCuを0.0001〜0.01質量%含有し、平均結晶粒径が5mm以下のAl合金スパッタリングターゲットが開示されている。Fe、Si、およびCuは、結晶粒を小さくする効果があり、上記の範囲で添加すると、結晶粒径を小さくして(5mm以下)スパッタリング時のスプラッシュの発生を抑制でき、且つ、スパッタリング後の電気抵抗の上昇が抑えられることなどが記載されている。しかし、かかるスパッタリングターゲットを用いて得られる金属薄膜は、合金元素量が少ないため、配線抵抗を低減することができる一方で、合金元素量を低減したことにより、ヒロックといわれる微小な凹凸が表面に生じて耐熱性が低下する場合があった。
また特許文献2には、スパッタリング時のスプラッシュの発生抑制技術として、Ti、Zr、Cr等の高融点金属を含むAl基合金スパッタリングターゲットにおいて、硬度が低い方(Hv≦25)がスプラッシュを抑制できると記載されている。
また特許文献3には、Alマトリックス相の平均結晶粒径を5μm以下、Alと合金元素間の化合物相の平均結晶粒径を3μm以下とすることによって、スプラッシュの発生を抑制することができると記載されている。
特開2007−63621号公報 特許第3410278号公報 特許第3825191号公報
本発明の目的は、低配線抵抗(300℃程度の熱履歴を受けた後の配線抵抗が4.0μΩcm以下)と耐ヒロック性に優れた金属薄膜の形成に有用であり、さらにスパッタリング時のスプラッシュの発生を抑制することができる、Cu含有Al基合金スパッタリングターゲットを提供することにある。また本発明の他の目的は上記特性を有する本発明のAl基合金スパッタリングターゲットを低コストで製造する方法を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、Cuを0.25〜1.0質量%含有し、残部Alおよび不可避不純物からなり、平均結晶粒径が100μm以下であり、かつビッカース硬度が26Hv以上であることを特徴とする。
上記Al基合金スパッタリングターゲットにおいて、更にTiを0.0005〜0.01質量%および/またはBを0.0001〜0.01質量%を含むものは、本発明の好ましい実施態様である。
また上記Al基合金スパッタリングターゲットの製造方法は、圧延加工と、冷間圧延との間に400℃以下の焼鈍を行なうものであり、前記圧延加工は、室温以上200℃以下の温度にて圧下率60%以上で冷間圧延または熱間圧延を行い、焼鈍後の前記冷間圧延は、圧下率10%以上で行なうところに要旨を有するものである。
本発明では、前記圧延加工の前に、350℃以下の温度で鍛造および/または350℃以下の温度で均熱を行うことも、好ましい実施態様である。
本発明では、Cu含有Al基合金スパッタリングターゲットの平均結晶粒径を100μm以下、かつビッカース硬度を26Hv以上とすることにより、スパッタリング時のスプラッシュの発生を抑制することができる。
また、本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、合金元素(Cu)の含有量が適度に調整されているため、上記スパッタリングターゲットを用いて成膜された金属薄膜は、優れた低配線抵抗(300℃程度の熱履歴を受けた後の配線抵抗が4.0μΩcm以下)と耐ヒロック性とを兼ね備えている。
更に本発明に係るAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法では、所望の粒径と硬度を確保するため、鍛造や圧延などの塑性加工と冷間圧延との間に所定の焼鈍を行なっているが、上記方法によれば、従来行われていた鍛造や鍛造前の均熱を省略あるいは低温で行うことができるため、製造工程簡略化による製造コストの低減を図ることができる。
図1は、実施例のNo.9の板厚1/4×t、冷間圧延(2回目)後の結晶粒径を示す光学顕微鏡写真である。
本発明者らは、スパッタリング成膜時に発生するスプラッシュを効果的に抑えることが可能であり、且つ、当該Al基合金スパッタリングターゲットで成膜した金属薄膜の低配線抵抗化および耐ヒロック性を両立させることが可能なAl基合金スパッタリングターゲットを提供するため、検討を行なった。
具体的には、スパッタリング後の金属薄膜の低配線抵抗化および耐ヒロック性の両方を実現するため、0.25〜1.0質量%のCuを含有させたCu含有Al基合金スパッタリングターゲット(以下、単に「ターゲット」ということがある)を用いたとき、成膜時に発生するスプラッシュを十分に抑制できる技術を提供するという観点から検討を重ねてきた。その結果、上記Cu含有Al基合金スパッタリングターゲットの場合、結晶粒を100μm以下に微細化するだけでなく、硬度も26Hv以上と高くすることによって十分なスプラッシュ抑制効果が得られることを見出し、本発明に至った。
一般にターゲット材では結晶粒を微細化することがスプラッシュ抑制に効果があることが知られている(例えば特許文献1および特許文献3を参照)。しかしながら、本発明者らの検討によると、本発明で対象とするCu含有Al基合金スパッタリングターゲットのような低合金系のターゲットでは、再結晶熱処理時に結晶粒が成長してしまうため、通常のターゲットの製造方法で得られる程度の結晶粒径(0.4〜1.5mm)では、スプラッシュ抑制効果は十分でないことが分かった。また、特許文献2には、ターゲット材の硬度を25Hv以下に低くすることがスプラッシュ抑制に効果があると記載されているが、本発明者らの検討によると、Cu含有Al基合金スパッタリングターゲットを用いたときは、上記特許文献3の知見とは異なり、ターゲット材の硬度を26Hv以上と高くした方が有効であることが判明した。
このように本発明で対象とするCu含有Al基合金スパッタリングターゲットを用いたときは、結晶粒の微細化だけでなく、硬度も高くすることによって十分なスプラッシュ抑制効果が得られることを見出し、本発明に至った。
また、このようなCu含有Al基合金スパッタリングターゲットを製造するためには、圧延加工と冷間圧延との間に、400℃以下の焼鈍を行なうことが有用であることを見出し、本発明を完成した。
以下、本発明のCu含有Al基合金スパッタリングターゲットについて詳細に説明する。
(合金元素)
Cu:0.25〜1.0質量%
CuはAlと金属間化合物(AlCu)を形成し、合金薄膜が絶縁膜の成膜等の後工程での熱履歴を受けた際に、この金属間化合物によってAlの拡散が抑制され、その結果としてヒロックの発生が防止される。このような効果を得るにはCuを0.25質量%以上含有させる必要がある。Cu含有量は好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上である。一方、Cu含有量が1.0質量%を超えるとAl中へのCuの固量が多くなり、合金薄膜における電気抵抗を増大させる。Cu含有量は好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.6質量%以下である。
Ti:0.0005〜0.01質量%、B:0.0001〜0.01質量%
本発明のターゲットは、さらにTiおよび/またはBを合金元素として含有してもよい。これらはターゲット製造時における鋳造工程での割れを防止したり、結晶粒の微細化、均一化に寄与する元素であり、Tiおよび/またはBの添加により製造条件の幅(許容範囲)が広がる。ただし、過剰に添加すると合金薄膜の電気抵抗率が高くなってしまう。TiおよびBの好ましい含有量は、Ti:0.0005質量%以上0.01質量%以下、B:0.0001質量%以上0.01質量%以下であり、より好ましくは、Ti:0.0008質量%以上0.0040質量%以下、B:0.0002質量%以上0.0010質量%以下である。
Ti、Bの添加には通常用いられている方法を採用でき、例えばAl−Ti−B微細化剤として溶湯中に添加してもよい。Al−Ti−Bの組成は、所望となる組成のターゲットが得られるものであれば特に限定されず、例えば市販品を用いることもできる。
本発明のターゲットは、Cuを所定量含むか、CuとさらにTiおよび/またはBとを所定量含み、残部はAl及び不可避不純物である。不可避不純物としては、例えば製造過程などで不可避的に混入する元素、例えば、Fe、Siなどがあり、これらは合計量で0.03質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下であることが好ましい。
次に、本発明に係るAl基合金スパッタリングターゲットの平均結晶粒径と硬度について説明する。
本発明では、Cu含有Al基合金スパッタリングターゲットの平均結晶粒径を100μm以下とし、且つ、ビッカース硬度を26Hv以上とする。これにより、上記ターゲットにおけるスプラッシュの発生を効果的に防止することができる。
上記Cu−Al基合金スパッタリングターゲットの場合、スプラッシュの発生を効果的に抑制するにはターゲットの平均結晶粒径を100μm以下にする必要がある。好ましい平均結晶粒径は80μm以下であり、より好ましい平均結晶粒径は60μm以下である。平均結晶粒径の下限は特に限定されないが、平均結晶粒径が20μmを下回っても効果が飽和することから好ましい下限は20μmとする。平均結晶粒径のより好ましい下限は30μmである。
上記結晶粒径は、インターセプト法により測定されたものである。具体的な測定手順は、以下のとおりである。
まず、Al基合金スパッタリングターゲットの測定面(圧延面に対して垂直な断面のうち、圧延方向と平行な面であり、上記スパッタリングターゲットの厚さtに対し、1/2×tの範囲)が出るように、上記スパッタリングターゲットを切断する。次いで、測定面を平滑にするため、エメリー紙での研磨やダイヤモンドペースト等で研磨を行った後、Barker氏液(HBF4(テトラフルオロホウ酸)と水を体積比で1:30の比で混合した水溶液)による電解エッチングを行い、偏光顕微鏡による組織観察を行なう。詳細には、組織撮影時の倍率を100倍とし、スパッタリングターゲットの板厚方向に向って表層側、1/4×t部、1/2×t部の合計3箇所において、2視野(1視野は縦650μm×横900μm)ずつ撮影し、組織画像を得る。このようにして得られた各組織画像について、合計長さが所定長さ(L1、後記する実施例では所定長さL1を900μmとする。)相当となる直線を、圧延方向に平行な方向にランダムに複数本(5〜10本程度)引く。そして、各組織画像を直線が横切る結晶粒数(N1個)を数え、画像上での直線長さ(L1)を結晶粒数(N1個)で除した値(L1/N1)を求める。測定視野全体に対して同様の操作を行い、これらの平均を、平均結晶粒径(μm)とする。
更に本発明のCu含有Al基合金スパッタリングターゲットのビッカース硬度は26Hv以上とする。本発明者らの検討結果によれば、上記スパッタリングターゲットの硬度が低いと平均結晶粒径を100μm以下としてもスプラッシュが発生し易くなることが判明したからである。その理由は、詳細には不明であるが、以下のように推察される。すなわち、上記スパッタリングターゲットの硬度が低いと、当該スパッタリングターゲットの製造に用いるフライス盤や旋盤などによる機械加工の仕上げ面の微視的平滑さが悪化するため、言い換えると、素材表面が複雑に変形し、粗くなるため、機械加工に用いる切削油等の汚れがスパッタリングターゲットの表面に取り込まれ、残留する。このような汚れは、後工程で表面洗浄を行っても十分に取り除くことが困難である。以上のように、スパッタリングターゲットの表面に残留した汚れが、スパッタリング時のスプラッシュの発生起点になっていると考えられる。このような汚れをスパッタリングターゲットの表面に残留させないようにするには、機械加工時の加工性(切れ味)を改善し、素材表面が粗くならないようにすることが必要である。そのため、本発明では、スパッタリングターゲットの硬度を増大させたのである。
本発明に係るCu含有Al基合金スパッタリングターゲットのビッカース硬度は、スプラッシュ発生防止の観点からすれば高いほどよく、26Hv以上であることが必要であり、より好ましくは30Hv以上、更により好ましくは34Hv以上である。なお、ビッカース硬度の上限は特に限定されないが、高すぎると、ビッカース硬度調整のための冷間圧延の圧延率を増大させる必要があり、圧延率の上昇にともなって圧延が行い難くなるため、好ましくは80Hv、より好ましくは60Hv、更に好ましくは50Hvである。
なお、ビッカース硬度は、スパッタリングターゲットの厚さtに対し、表層側、1/4×t部、1/2×t部の合計3箇所が出るように上記スパッタリングターゲットを切断し、この3箇所でのビッカース硬度の平均値が、いずれも上記範囲であることがスプラッシュの発生抑制の観点からは好ましい。
以上、本発明のAl基合金スパッタリングターゲットについて説明した。
次に、上記本発明のAl基合金スパッタリングターゲットを製造する方法について説明する。
本発明の製造方法は、上記の成分組成を満たすAl基合金の鋳塊に対し、(ア)以下の圧延加工と、(イ)以下の冷間圧延との間に、400℃以下の焼鈍を行なったところに特徴があり、これにより、所望とする粒径とビッカース硬度が確保されたCu含有Al基合金スパッタリングターゲットが得られる。
(ア)圧延加工においては、室温以上200℃以下の温度にて圧下率60%以上で冷間圧延または熱間圧延を行う。
(イ)焼鈍後の冷間圧延は、圧下率10%以上で行なう。
また、前記圧延加工の前に、350℃以下の温度で鍛造を行なってもよいし、および/または前記圧延加工の前、または、前記鍛造加工の前に350℃以下の温度で均熱を行っても良い。
すなわち、本発明のCu含有Al基合金スパッタリングターゲットは、(必要に応じて350℃以下の均熱、および/または350℃以下の鍛造)→[圧延加工(所定の熱間圧延・冷間圧延)]→[400℃以下の焼鈍]→[所定の冷間圧延]→(必要に応じて焼鈍)によって得られる。これに対し、従来の代表的なターゲット材の製造方法は、後記する実施例の表1のNo.15に示すように、[約500℃程度の均熱]→[鍛造および圧延の塑性加工]→[冷間圧延]→(必要に応じて焼鈍)であり、本発明のように、塑性加工と冷間圧延との間に焼鈍を行なっていない。このような従来方法でCu含有Al基合金スパッタリングターゲットを製造すると、表1に示すように、本発明で規定する粒径より大きくなるため、スプラッシュの発生を十分に抑制できないことがわかった。
以下、本発明に用いられる好ましい方法について、工程毎に、詳しく説明する。
まず、上記成分組成の鋳塊を用意する。鋳塊を得る方法は特に限定されない。またあるいはスプレイフォーミング法、溶解鋳造法、粉末焼結法などで得られたものを用いてもよい。例えば融解鋳造方法について、代表的にはDC(半連続)鋳造、薄板連続鋳造(双ロール式、ベルトキャスター式、プロペルチ式、ブロックキャスター式など)などが挙げられる。また鋳塊の形状は特に限定されず、スラブ状またビレット状など、所望の形状とすればよい。
またこの際、結晶粒の微細化や均一化を図る目的で、結晶粒微細化材として上記Tiおよび/またはBを添加してもよい。
次に、上記の方法によって得られた鋳塊に対し、必要に応じて350℃以下の均熱、および/または350℃以下の鍛造を行なった後、圧延加工を行なう。
ここで、350℃以下の均熱処理は、必要に応じて行なわれるものであり、省略してもよい。本発明者らが、結晶粒径に及ぼす均熱処理の影響について検討したところ、本発明で対象とするCu含有量の少ない低合金系のCu含有Al基合金スパッタリングターゲットは、従来のように500℃を超える高温で均熱処理を施すと、結晶粒が粗大化してしまい、その後に、鍛造や圧延等の塑性加工を行っても結晶粒を十分に微細化できないことがわかった。したがって、スプラッシュ抑制の効果が発揮される結晶粒径100μm以下まで微細化するためには均熱処理を施さないことが望ましい。もっとも必要に応じて鋳塊に均熱処理を施してもよいが、結晶粒を粗大化させないためには、均熱温度を350℃以下と低くすることが好ましく、より好ましくは200℃以下とする。均熱処理を行う場合の時間は特に限定されないが、例えば2〜8時間程度に制御することが好ましい。
また必要に応じて鍛造を行なうときは、350℃以下の温度で鍛造を行う。このように鋳塊を鍛造して所望の厚さのスラブとしてもよいが、鋳造時に所望の厚みの鋳塊を造塊しておけば、鍛造工程を省くことができるので製造コストの面から望ましい。鍛造する場合は、温度以外の条件はスパッタリングターゲットの製造に通常用いられる方法を採用すればよく、例えば、加熱時間を1〜4時間の条件で鍛造を行なうことが好ましい。これに対し、鍛造を500℃以上の温度で行うと結晶粒が成長してしまい、平均結晶粒径を100μm以下とする本発明のターゲットが得られない。したがって鍛造温度は好ましくは250℃以下、より好ましくは150℃以下である。
圧延加工を行うときは、室温以上200℃以下の温度にて圧下率60%以上で冷間圧延または熱間圧延を行う。本発明では、圧延手段として熱間圧延と冷間圧延のいずれでもよい。圧延を行う場合の温度は、一般に300〜550℃であるが、本発明では室温〜200℃と、低めに制御する。高温で熱間圧延を行うと平均結晶粒径を100μm以下に制御することが困難となることから、熱間圧延を行う場合の温度は200℃以下とすることが好ましく、より好ましくは120℃以下である。なお、結晶粒を微細化する観点からは低温で圧延を行うことが望ましく、したがって熱間圧延よりも室温で圧延を行う冷間圧延が望ましい。
また所望の結晶粒径を得るには、この圧延工程での圧下率は60%以上とすることが好ましく、より好ましくは70%以上である。また圧下率の上限は特に限定しないが、この1回目の圧延工程で圧下率を高くし過ぎると、焼鈍後の冷間圧延(2回目の圧延)でビッカース硬度を高めるための圧延を十分に行うことができなくなるため、この圧延工程で最終製品の厚さまで圧延することは望ましくない。したがって、圧下率の上限は1回目の圧延での結晶粒の微細化と2回目の圧延でのビッカース硬度の制御を考慮して決めればよく、例えば圧下率の上限は90%が好ましく、より好ましくは80%である。
なお、結晶粒の微細化には、加工歪を蓄積させて圧延後の焼鈍によって再結晶させると共に、強圧下することが望ましいので、圧下率60%以上の加工を1パスで行ってもよいし、1パス当たりの圧下率を通常よりも高めの10〜30%として、この工程での合計圧下率が60%以上となるように複数パスで圧延を行なってもよい。
次に、400℃以下の焼鈍を行なう。結晶粒径制御のためには、焼鈍温度を250℃以上380℃以下程度、焼鈍時間を0.5時間以上4時間以下程度に制御することが好ましい。より好ましい焼鈍温度は300℃以上350℃以下である。またより好ましい焼鈍時間は、1時間以上3時間以下である。
焼鈍処理時の雰囲気は、特に大気中、不活性ガス中、および真空中のいずれの雰囲気下でも行なうことができるが、生産性やコストなどを考慮すれば、大気中で加熱することが好ましい。
次に、圧下率10%以上で冷間圧延を行う。本発明者らの研究によると、1回目の圧延などにより結晶粒を微細化して平均結晶粒径を100μm以下にしても、焼鈍後のターゲットの硬度は25Hv以下であり、所望とする硬度を確保することができなかった。そこで本発明では、焼鈍後、冷間圧延を行ってひずみの導入により硬度を26Hv以上に制御する。
ビッカース硬度を26Hv以上にまで高めるためには、冷間圧延による圧下率を10%以上とする。圧下率はより好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上である。一方、圧下率を高くしても硬度を高める効果が小さくなるため、好ましくは60%以下、より好ましくは40%以下とする。
なお、上記のように焼鈍後に冷間圧延(2回目の圧延)を行っても、平均結晶粒径には影響を及ぼさないことを本発明者らは確認している。すなわち、冷間圧延によって結晶の形状は変形するものの、平均結晶粒径が100μmを超える程度まで粗大化することはない。
更に上記の冷間圧延の後、必要に応じて、ひずみ取りをするために焼鈍を行っても良い。この際、300℃を超える温度で焼鈍を行うと、硬度が低下することがあるので望ましくない。焼鈍温度としては100℃以上260℃以下が好ましく、より好ましくは180℃以上240℃以下である。
その後、所定の形状に機械加工を行うと、スパッタリングターゲットが得られる。得られたスパッタリングターゲットは必要に応じて所望のバッキングプレートに接合してもよい。
本発明の製法によれば、スラブ等の鋳塊を分割せずにそのままで圧延することができるため、多条取りが可能である。したがって歩留率が向上すると共に製造コストも低減できる。
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
先ず、実施例で用いた評価方法について、以下説明する。
(平均結晶粒径)
Al基合金スパッタリングターゲットの測定面(圧延面に対して垂直な断面のうち、圧延方向と平行な面であり、上記スパッタリングターゲットの厚さtに対し、1/2×tの範囲)が出るように、スパッタリングターゲットを切断する。次いで、測定面を平滑にするため、エメリー紙での研磨やダイヤモンドペースト等で研磨を行った後、Barker氏液(HBF4(テトラフルオロホウ酸)と水を体積比で1:30の比で混合した水溶液)による電解エッチングを行い、偏光顕微鏡による組織観察を行なう。詳細には、組織撮影時の倍率を100倍とし、スパッタリングターゲットの板厚方向に向って表層側、1/4×t部、1/2×t部の合計3箇所において、2視野(1視野は縦650μm×横900μm)ずつ撮影し、組織画像を得る。このようにして得られた各組織画像について、合計長さが所定長さ(L1μm、後記する実施例では所定長さL1を900μmとする。)相当となる直線を、圧延方向に平行な方向にランダムに複数本(5〜10本程度)引く。そして、各組織画像を直線が横切る結晶粒数(N1個)を数え、画像上での直線長さ(L1μm)を結晶粒数(N1個)で除した値(L1/N1)を求める。測定視野全体に対して同様の操作を行い、これらの平均を、平均結晶粒径(μm)とする。
(ビッカース硬度)
スパッタリングターゲットのビッカース硬度(Hv)は、ビッカース硬度計(株式会社明石製作所製、AVK−G2)を用いてターゲット表層、1/4×t、1/2×tの3箇所で各3点測定し、平均値を求めた。
(ヒロック耐性)
スパッタリングターゲットを用い、Siウェーハ基板(サイズ:直径100.0mm×厚さ0.50mm)に対し、株式会社島津製作所製「スパッタリングシステムHSR−542S」のスパッタリング装置によってDCマグネトロンスパッタリングを行った。スパッタリング条件は、以下の通りである。
背圧:3.0×10-6Torr以下
Arガス圧:2.25×10-3Torr
Arガス流量:30sccm
スパッタリングパワー:150W
極間距離:51.6mm
基板温度:室温
得られた薄膜表面上に、フォトリソグラフィーによってポジ型フォトレジスト(ノボラック系樹脂:東京応化工業製のTSMR−8900、厚さ1.0μm、線幅10μmのラインアンドスペース)を形成した後、CVD装置内の減圧窒素雰囲気(圧力:1Pa)で、270℃で15分、あるいは320℃で30分保持する熱処理を行なった。
次に、ストライプパターン表面部分およびパターンの横断面部分(サイド部)に発生するヒロック(半球状の突起物)数を、10000倍の電子顕微鏡(SEM)で確認するとともに、光学顕微鏡にて対物レンズ50倍、接眼レンズ10倍の倍率でノルマルスキレンズによる微分干渉にて視野内のヒロック個数を測定し、ヒロック密度(単位面積当たりのヒロック数)を求めた。
ヒロック耐性の判定基準は、ヒロック密度が9.0×109個/m2以下の場合を○、9.0×109個/m2を超える場合を×とした。
(配線抵抗)
上記ヒロック耐性測定用サンプルの作製法と同様の方法で、線幅100μmのストライプパターン形状に加工した後、ウェットエッチングにより、線幅100μm、線長10mmの配線抵抗測定用パターン状に加工した。ウェットエッチングにはH3PO4:HNO3:H2O=75:5:20の混合液を用いた。これに熱履歴を与えるため、前記エッチング処理後に、ヒロック測定と同じくCVD装置内の減圧窒素雰囲気(圧力:1Pa)で、上記薄膜に270℃で15分、あるいは320℃で30分保持する熱処理を行なった。その後、4探針法により比抵抗値を室温にて測定し、4.0μΩcm以下を合格とした。
(スプラッシュ)
上記条件でスパッタリングを行なったときに発生するスプラッシュ(初期スプラッシュ)の個数を測定した。
スパッタリングターゲット1枚につき、16枚の薄膜を形成した。スパッタリングは、81(秒間)×16(枚)=1296秒間行なった。
パーティクルカウンター(株式会社トプコン製:ウェーハ表面検査装置WM−3)を用い、上記薄膜の表面に認められたパーティクルの位置座標、サイズ(平均粒径)、および個数を計測した。ここでは、サイズが3μm以上のものをパーティクルとみなしている。その後、この薄膜表面を光学顕微鏡観察(倍率:1000倍)し、形状が半球形のものをスプラッシュとみなし、単位面積当たりのスプラッシュの個数を計測した。
詳細には、上記薄膜1枚につき、上記のスパッタリングを行なう工程を、Siウェーハ基板を差し替えながら、連続して、薄膜16枚について同様に行い、スプラッシュの個数の平均値を「初期スプラッシュの発生数」とした。本実験例では、初期スプラッシュの発生数が20個/cm2以下のものを○、21個/cm2以上のものを×と評価した。
(試料の作製)
表1に示す組成のCu含有Al基合金(残部Alおよび不可避不純物)を用意し、厚み100mmの鋳塊をDC鋳造法によって丸ビレットまたは角ビレットに造塊したものを、必要に応じて均熱処理、あるいは100℃または350℃の温度で鍛造した後、圧延、焼鈍、冷間圧延を行ってターゲット(厚さ17.5mmt)を得た。各試験片の製造条件を表1に示す。
得られたターゲットを機械加工により5mmt×φ6inchの評価用ターゲットに加工しターゲット材とした。
得られたターゲット材を用いて、上記の方法により、平均結晶粒径、ビッカース硬度およびスプラッシュを評価した。また、上記金属薄膜のヒロック耐性および配線抵抗を評価した。評価結果を表1に示す。また参考として図1にNo.9のミクロ組織の観察結果を示す。
表1より、本発明の製造条件を満足するNo.1〜9のターゲット材は平均結晶粒径が100μm以下であり、ビッカース硬度も26Hv以上であった。またこれらターゲット材を用いて薄膜を作製したが、スプラッシュの発生は認められず、配線抵抗も低く抑えられた。
これに対し、No.10は1回目の圧延での圧下率が50%と低いため、得られたターゲット材の平均結晶粒径が100μmを超えており、このターゲット材を用いて形成された薄膜ではスプラッシュの発生が確認された。
No.11は圧延後に焼鈍を施さなかったため、得られたターゲット材の平均結晶粒径が100μmを超えており、このターゲット材を用いて形成された薄膜ではスプラッシュの発生が確認された。
No.12は焼鈍後に冷間圧延を行わなかったため、得られたターゲット材のビッカース硬度が低く、このターゲット材を用いて形成された薄膜ではスプラッシュの発生が確認された。
No.13はAl基合金中のCu含有量が本発明の範囲を下回っている例であり、薄膜にヒロックの発生が確認された。
No.14はAl基合金中のCu含有量が本発明の範囲を上回っている例であり、薄膜の配線抵抗が高かった。
No.15は従来のターゲット材の製法を採用した例であり(均熱温度が高く、また2回目の冷間圧延を行わない)、得られたターゲット材の平均結晶粒径が100μmを超えており、またビッカース硬度も低く、このターゲットを用いた薄膜では、スプラッシュの発生が認められた。

Claims (4)

  1. Cuを0.25〜1.0質量%含有し、残部Alおよび不可避不純物からなり、平均結晶粒径が0μm以下であり、かつビッカース硬度が26Hv以上であることを特徴とするAl基合金スパッタリングターゲット。
  2. Tiを0.0005〜0.01質量%および/またはBを0.0001〜0.01質量%を含む請求項1に記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
  3. 請求項1または2に記載のAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法であって、
    圧延加工と、冷間圧延との間に380℃以下の焼鈍を行なうものであり、
    前記圧延加工は、室温以上200℃以下の温度にて圧下率60%以上で冷間圧延または熱間圧延を行い、
    焼鈍後の前記冷間圧延は、圧下率10%以上で行なうことを特徴とするAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法。
  4. 前記圧延加工の前に、350℃以下の温度で鍛造および/または350℃以下の温度で均熱を行う請求項3に記載の製造方法。
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