セメントやモルタル等により構成されたコンクリート構造物は、経時劣化を起こす場合が多い。特に、このコンクリート構造物の経時劣化は、海水に起因する塩害、大気中の炭酸ガス等の各種酸性物質や、その他凍結融解物質等の周辺環境の影響に基づく。その結果、コンクリート構造物中には微細な欠陥や隙間が生じ、強度、耐久性、防水性能等が低下し、漏水や中性化等が生じてしまう。従って、これらの影響によるコンクリート構造物の経時劣化を防止するためには、その表面に保護材を塗布し、表層部の中に形成された空隙にかかる保護材を含浸させ、水密化を図る方法が従来から用いられてきた。
ちなみに、この保護材の例としては、有機材料以外にケイ酸等に代表される無機材料を用いたものがある。そして、このケイ酸系の劣化防止剤としては、ケイ酸ナトリウム等のアルカリケイ酸塩(以下、水ガラスという。)、或いはケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)のアルカリ成分であるNaイオンを取り除いたコロイドシリカがある。なお、ケイ酸ナトリウムは高い粘性を持っている。
しかしながら、このような水ガラス等は、pHが約11−12程度の高アルカリ性を呈し、そのままでは硬化しない。この水ガラスを大気中にさらした場合には、その水分が蒸発して表面から流動性を失い、非常に長時間を要するものの最終的には凝固して硬化体になる。但し、初期の凝固物は、水に接すると水分を含んで再び液状となり、元の水ガラスに戻る性質がある。
これに対して、水を添加することにより作製したセメントは、セメントの主成分の一つである酸化カルシウム(CaO)の一部が水和反応を起こして水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を生成し、強アルカリ性(pH12程度)を呈する。
このコンクリート構造物の表面に水ガラスを塗布した場合、その表層部の空隙に水ガラスが含浸する。そして、この含浸した水ガラスが、かかるコンクリート構造物内の水酸化カルシウムと接触することにより、非常に緩慢ではあるが反応を起こし、不溶性のケイ酸カルシウムゲル(Ca2SiO3・nH2O)が生成される。このケイ酸カルシウムゲルは、コンクリート構造物内の空隙を充填することによりこれを水密化する。ちなみに上述した反応は、コンクリート構造物中において、ゲル化に有効なCaO等のセメント成分が残存して水ガラスと反応してケイ酸カルシウムゲルを生成するだけの能力がある場合に限定される。
なお、特許文献1には、ケイ酸アルカリ塩を含むシリカ成分を含有する溶液をコンクリート又はモルタルの表面に塗布し、或いは表面から注入する技術が開示されている。また特許文献2には、リチウムシリケート水溶液にアルカリ金属イオン源を配合した保護材が提案されている。この特許文献2に開示される保護材は、保護材中のアルカリ金属配合リチウムシリケートが、骨材界面上や内部空隙に存在する水やコンクリートの細孔溶液成分である水酸化カルシウムと反応してゲルを形成する。このゲルの形成が、空隙の緻密化をもたらし、水の浸入を阻害するものである。
しかしながら、特許文献1、2の開示技術におけるアルカリケイ酸塩系やコロイダルシリカ系は、水ガラスと同様に保護材自体がゲル化能力を有するものではない。このため、コンクリート構造物中に有効なセメント成分が残存していない場合、ゲル化することなく、構造物内の緻密化、水密化を図ることができない。更にコロイドシリカの粒子径は10-6mmオーダーであり、粒子径が10-7mmオーダーの水ガラス溶液と比較して径が大きくてしかも含浸性に劣るという問題点がある。
一方、コンクリート構造物の経時劣化の度合や、実際の施工の観点からは、以下の1)〜3)の問題点がある。
1)経時劣化が進展する結果、コンクリート構造物の表層部が劣化(中性化)し、有効なセメント成分が低減してしまうか、或いは殆ど消失してしまった場合には、水ガラスをゲル化させるだけの能力は無く、空隙にこれら水ガラスを含浸させても期待しているケイ酸カルシウムゲルを生成させることができないため、水密化させることができない。
2)仮に水ガラスと反応してケイ酸カルシウムゲルを生成するために有効なセメント成分が残存していた場合においても、反応自体は非常に緩慢で長時間を要する。このため、例えば屋外にあるコンクリート構造物に水ガラスを含浸させても反応が終了するまでに雨水等により接した場合に、表面及びその周辺では水ガラス自体が希釈、流出してしまい、全く効果を発揮できない場合が多い。また流出した水ガラス成分は、水質汚染の原因ともなり得る。
3)更に、コンクリート構造物中に有効なセメント成分が先ず存在するのか否か、また仮に存在する場合であっても、水ガラスをゲル化させるだけの能力があるのか否か、更にこれをゲル化させるだけの能力が仮にある場合であっても、その反応自体がどの程度時間がかかるのかを判定するのは非常に困難である。
この3)の理由としては、水の影響を受けたコンクリート構造物の表層部に形成された空洞は、水の流路となり、その空洞周囲の水酸化カルシウムの流出量が大きくなる。その結果、コンクリート構造物内の透水性が次第に増大して中性化が進行してしまう。そしてコンクリート構造物全体と比較して空洞周囲は有効なセメント成分が著しく減少した状態となり、水ガラスとの反応性、ひいてはゲル化能力が低下してしまうためである。
以上のように、水ガラスを保護材として用いることは、実際の施工時において多くの問題が生じる。
一方、コンクリート構造物の表層部の劣化度合は、経年変化や周辺環境により、大きく異なるが、次の(イ)〜(ハ)の3つに分類することが可能となる。
(イ)施工後間もなく、或いは施工から約10年以内の経年変化であって、セメント成分が十分に有効に残存しており、水ガラスをゲル化させることが可能となる場合。
(ロ)施工から約10〜20年であって、有効なセメント成分が多少残存しているため、水ガラスをゲル化させることは可能であるが、非常に長時間を有する場合。
(ハ)施工から約30〜40年以上であって、劣化が進行しており、水ガラスをゲル化させるだけの有効なセメント成分が殆ど残存していない場合。
以上の(イ)〜(ハ)の劣化度合と、上述した1)〜3)の問題点からみて、コンクリート構造物における表層部の保護材として、水ガラスを使用することによりこれをゲル化して水密性を高められるのは、(イ)の劣化度合に限定されるものとなる。
これに対して、(ハ)の劣化度合や、安全性を考慮しても(ロ)の劣化度合では、水ガラスをコンクリート構造物の表層に含浸させることによりこれをゲル化して水密性を高めることができない。
更にコンクリート構造物の表層部に形成された空隙に水ガラスを含浸させ、これをゲル化させて水密化を図ったとしても、当該コンクリート構造物の表層においては新たに以下のような問題点が生じる。
(a)水ガラスからなる含浸保護材は、ゲル自体の強度が必ずしも高いものではなく、経時的に再度劣化してしまう虞がある。
(b)ゲル化能力を有しない水ガラスは、コンクリート構造物に含まれているセメント成分のみとの反応であるため、ゲル化するためには非常に長時間を要してしまう。このため、屋外での施工では、ゲル化するまでに雨水等により、コンクリート構造物の表層から水ガラスが流出し、保護材としての効果を発揮することができなくなる。また流出した水ガラスに基づくアルカリ(Na2O)は、水質汚染の原因になるという問題点を引き起こす。
(c)更に、保護材そのものにゲル化能力を持たせたとしても、実際にゲル化するまでに長時間を要する場合には、上述した(b)と同様に、雨水等により、コンクリート構造物の表層から水ガラスが流出してしまうという問題点が生じる。
(d)コンクリート構造物に発生した亀裂や打ち継ぎ箇所、或いは欠損箇所は、空隙よりも大きく隙間というべきものであることから、水ガラスを始めとした溶液性の保護材では、このような大きな隙間を充填し、水密化して強化することができない。
これらの問題点を併せて解決することができれば、保護材としての効果をより一層高めることが可能となる。
なお、従来技術として、非特許文献1には、コンクリート構造物の欠損部に、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)系表面含浸材を塗布表乾後、さらに水塗布して表乾後に、セメントモルタルを吹き付け工法、或いは左官工法で充填する工法が提案されている。
このため、次のような現象が生じる。第1の現象として、含浸材を塗布して表乾させた後、水塗布した場合、表面の水ガラス成分は流出してしまい、水ガラス特有の性質は殆ど残存していない。第2の現象として、水塗布しないでそのまま表乾を続けた場合、水ガラス液又はゲル化した含浸材は、ゲル化物中の水分が蒸発してガラス状を呈し、表面がなめらかな状態となる。
以上のような条件下では、その上にセメントを塗布してもゲル化反応を起こすことなく、逆に無処理のコンクリート構造物表面よりも接着性が劣り、付着力が大きく低下するという問題点があった。
上述した背景技術の問題点から、以下の課題を解決する必要がある。
(1)コンクリート構造物に対して塗布すべき水ガラスに対して自動的にゲル化する能力を付加し、望ましくは、ゲル化時間の調整を可能とすること。
(2)水ガラスにゲル化能力を付加させるゲル化剤は、コンクリート構造物を阻害することなく、更に望ましくはコンクリート構造物中のセメントを再生する効果があること。
(3)併せてゲル化剤は、水ガラスを含めたアルカリ成分を長期に亘り保持できること。
(4)ゲル化するまでに雨水等により、コンクリート構造物の表層から流出しないようにするために、表面に不透水性の皮膜を形成させる必要がある。
本発明は、これら(1)〜(4)の条件を満たすことができるコンクリート構造物の劣化防止方法を提供することを目的とする。即ち、本発明は、コンクリート構造物の経時劣化や周辺環境の影響による劣化や中性化の度合に左右されることなく、換言すれば、コンクリート構造物中に残存しているゲル化に有効に作用するセメント成分の有無や量に支配されることなく、確実に水ガラスをゲル化して水密化させ、併せて以降の中性化を防止することが可能であり、更にゲル化するまでに雨水等により水ガラスがコンクリート構造物の表層から流出するのを防止可能なコンクリート構造物の劣化防止方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上述した問題点を解決するために、水にセメント成分を溶解させた飽和水溶液に水ガラスを混合した劣化防止剤、或いは水ガラスにセメントを水より多く溶解させた劣化防止剤をコンクリート構造物の表面に塗布して劣化防止層を形成するとともに当該コンクリート構造物内にこれを含浸させ、これを低速でゲル化させる第1工程と、劣化防止層の表面に対して、劣化防止剤がゲル化する前、或いは凝固する前に更に上塗用のセメントを塗布又は散布することにより、その劣化防止層をより高速でゲル化させてしかも強固で高付着力を有する不透水皮膜とする第2工程とを組み合わせることにより、雨水等により劣化防止剤が流出するのを防止しつつ、水ガラスをゲル化してコンクリート構造物内を水密化させることが可能なコンクリート構造物の劣化防止方法を発明した。
第1工程
第1工程を実現するべく鋭意検討した結果について説明をする。セメントの主たる組成分は、CaO、SiO2、Al2O3であり、この中で最もCaOが最も多く含まれている。このセメントに対して水を加えると、水和反応を起こし、主としてCaOの一部がCa(OH)2として生成される。このため、セメントに水を加えると、Ca(OH) 2 が溶解して強アルカリ性(pH12程度)を呈する。
本発明においては、上述したセメント成分と水ガラスとを組み合わせた劣化防止剤を構成する。具体的には以下の2つの方法で第1工程を規定する。
第1の発明の第1工程では、水にセメント成分を溶解させた飽和水溶液に水ガラスを混合した劣化防止剤をコンクリート構造物の表面に塗布して劣化防止層を形成するとともに当該コンクリート構造物内にこれを含浸させ、含浸させた劣化防止剤に含まれているセメント成分中の水酸化カルシウムと上記水ガラスとを反応させることにより生成させるケイ酸カルシウムを、より低速でゲル化させる。
この第1の発明では、水にセメント成分の一部を溶解させた水酸化カルシウム飽和水溶液を用いることを必須とする。このセメント成分の溶解度は、Ca(OH)2換算で水100gに対して0.125gであり、極めて小さいものであることから、水ガラスを加えると非常に緩やかな速度ではあるが、自発的なゲル化能力を備えた劣化防止剤が得られる。
また、第2の発明の第1工程では、水ガラス液にセメント成分を混合した劣化防止剤をコンクリート構造物の表面に塗布して劣化防止層を形成するとともに当該コンクリート構造物内に含浸させ、上記含浸させた劣化防止剤に含まれているセメント成分中の水酸化カルシウムと上記水ガラスとを反応させることにより生成させるケイ酸カルシウムを、低速でゲル化させる。
この第2の発明では、所定量のセメント水溶液中の水酸化カルシウムと水ガラス溶液とを一定時間混合した後、固液分離して得られた水ガラス液分は、セメント成分の一部が水より多く水ガラスに溶解され、自発的なゲル化能力を備えた溶液性の劣化防止剤が得られることを発見した。
この第2の発明において使用する劣化防止剤は、第1の発明に係る劣化防止剤と比較して、多くの水酸化カルシウムを含有している。このため、第2の発明において使用する劣化防止剤は、ゲル化能力が高く、かつゲル化時間を自在に調整することができるという利点がある。
なお、この第1の発明において使用する劣化防止剤並びに、第2の発明において使用する劣化防止剤は、主たるセメント成分を混合する場合以外に、主たる成分のCa(OH)2を単独で混合しても同様の作用効果を得ることができるため、これも本発明において使用する劣化防止剤として適用可能となる。
このように、本発明では、保護材として上述の如き劣化防止剤を使用することにより、劣化防止すべきコンクリート構造物の劣化度合、即ちコンクリート構造物中に残存した有効なセメント成分の有無や、その量に支配されることなく、当該コンクリート構造物に含浸させた劣化防止剤に含まれている水ガラス成分を確実にゲル化させることが可能となる。このため、ゲル化させた水ガラスにより、コンクリート構造物内の水密化を図ることができ、より防水性を向上させることが可能となる。更にこの劣化防止剤は、セメント成分を含有したアルカリ性であることから、コンクリート構造物の再生並びに中性化を防止することができ、極めて有益な保護材とすることが可能となる。
なお第1工程は、上述した第1の発明、第2の発明に限定されるものではなく、第3の発明として具体化されるものであってもよい。
第3の発明の第1工程では、水ガラスをコンクリート構造物の表面に塗布して水ガラス層を形成するとともに当該コンクリート構造物内にこれを含浸させ、上記コンクリート構造物を構成するセメント成分中の水酸化カルシウムと、上記含浸された上記水ガラスとを反応させることにより生成させるケイ酸カルシウムを、より低速でゲル化させてコンクリート構造物内を水密化する。
第3の発明においては、第1、第2の発明の如くセメント成分と水ガラスとを混合した劣化防止剤を用いるのではなく、あくまで溶液性の水ガラスを保護材として用いる。この第3の発明において使用する水ガラスは、それ自体でゲル化能力を有するものではなく、公知の保護材である。しかし、コンクリート構造物内における空隙周囲には、セメント成分が残存している。このようなコンクリート構造物内に水ガラスを含浸させると、その残存しているセメント成分(主としてCa(OH)2)と反応することにより、ケイ酸カルシウム(Ca2SiO3)ゲルを生成してそのコンクリート構造物内の水密化を図ることが可能となる。
即ち、この水ガラスを保護材として用いる場合には、コンクリート構造物中において十分に有効なセメント成分が残存していることが、ゲル化によるコンクリート構造物の水密化を図る上での必要条件となっている。
第2工程
本発明は、上述した第1工程に加えて、以下に説明する第2工程も共に進行させる。この第2工程は、劣化防止剤をコンクリート構造物の表面に塗布した劣化防止層の表面に対して、或いは水ガラスをコンクリート構造物の表面に塗布した水ガラス層の表面に対して、更に劣化防止剤がゲル化する前、或いは凝固する前に上塗用のセメントを塗布又は散布することにより、劣化防止層又は水ガラス層中の水ガラス成分とセメントを、より高速でゲル化させて強固な高付着力を有する不透水皮膜とする。この時点で劣化防止層、或いは水ガラス層は消滅する。
即ち、第1工程における保護材として機能する劣化防止剤や水ガラスがゲル化や凝固する前の水ガラス特有の性質を保持している状態で、上塗りとしてセメントを更に塗布又は散布することにより、両者を接触混合させるとともに、例えば、約20秒以下の瞬時に近いゲルタイムで、劣化防止層又は水ガラス層の表層をゲル化させて強固な高付着力を有する不透水皮膜とし、強度を発現させるものである。
しかしながら、劣化防止剤又は水ガラスがゲル化、或いは凝固してしまった場合には、セメントとの間におけるゲル化能力は殆ど発揮しえない。
また、第1工程において必要な劣化防止剤又は水ガラスと、第2工程において添加されるセメントとの反応は、両者間の接触混合に基づいて進行するものである。即ち、当該反応は、劣化防止剤又は水ガラスと、セメントとの接触面において進行する。その結果、劣化防止層又は水ガラス層は不透水皮膜で覆われることとなり、劣化防止剤又は水ガラスから溶出してしまうのを防止することができ、更にはこれらに起因するアルカリの溶出による水質汚濁を防止することも可能となる。
以上より、コンクリート構造物の表面に形成させた強固で高付着力を有する不透水皮膜を形成することにより、保護材としての劣化防止剤又は水ガラスが雨水等により流出してしまうのを防止することができ、第1工程における保護材としての機能を十分に発現させることが可能となる。
本発明の構成
本発明は、上述した第1工程と第2工程を組み合わせたコンクリート構造物の劣化防止方法であり、以下の第1の発明〜第3の発明からなる。
第1の発明に係るコンクリート構造物の劣化防止方法は、水にセメント成分を溶解させた水酸化カルシウム飽和水溶液に水ガラスを混合した劣化防止剤をコンクリート構造物の表面に塗布して劣化防止層を形成するとともに当該コンクリート構造物内にこれを含浸させ、上記劣化防止層の表面に対して、上記劣化防止剤がゲル化する前に上塗用のセメントを塗布又は散布することにより、上記劣化防止層を、より高速でゲル化させて不透水皮膜とし、上記含浸させた劣化防止剤に含まれている水にセメントを溶解させたセメント成分中の水酸化カルシウムと上記水ガラスとを反応させることにより生成させるケイ酸カルシウムを、低速でゲル化させることを特徴とする。
第2の発明に係るコンクリート構造物の劣化防止方法は、水ガラス液にセメント成分を溶解させた水酸化カルシウム水溶液を混合した劣化防止剤をコンクリート構造物の表面に塗布して劣化防止層を形成するとともに当該コンクリート構造物内にこれを含浸させ、上記劣化防止層の表面に対して、上記劣化防止剤がゲル化する前に上塗用のセメントを塗布又は散布することにより、上記劣化防止層をより高速でゲル化させて不透水皮膜とし、上記含浸させた劣化防止剤に含まれているセメント組成分中の水酸化カルシウムと上記水ガラスとを反応させることにより生成させるケイ酸カルシウムを、低速でゲル化させることを特徴とする。
第3の発明に係るコンクリート構造物の劣化防止方法は、水ガラスをコンクリート構造物の表面に塗布して水ガラス層を形成するとともに当該コンクリート構造物内にこれを含浸させ、上記水ガラス層の表面に対して、上記水ガラスが凝固する前に上塗用のセメントを塗布又は散布することにより、上記水ガラス層をより高速でゲル化させて不透水皮膜とし、上記コンクリート構造物を構成するセメント成分中の水酸化カルシウムと、上記含浸された上記水ガラスとを反応させることにより生成させるケイ酸カルシウムを、低速でゲル化させることを特徴とする。
即ち、上述した構成からなる本発明では、従来では到底同時に実現し得なかった非特許文献1でいうところの表面被覆工法と、表面含浸工法を、同時に実現している点において構成上の差異が存在し、従来技術では到底奏し得ない顕著な作用効果を奏するものである。
本発明は、コンクリート構造物の劣化を防止する劣化防止方法であって、経年劣化、換言すれば有効なセメント成分のコンクリート構造物中の残量に左右されることなく自発的なゲル化能力を備える劣化防止剤、又はコンクリート構造物中に残存したセメント成分と反応してゲル化可能な水ガラスを塗布することにより、劣化防止層又は水ガラス層を形成させる第1工程と、この劣化防止層又は水ガラス層の表面に対して劣化防止剤がゲル化する前、或いは凝固する前に上塗用のセメントを塗布又は散布する第2工程とを有する。
この第1工程より、コンクリート構造物の表面に、保護材としての劣化防止剤又は水ガラスを塗布し、コンクリート構造物にこれを含浸させてケイ酸カルシウムゲルを生成させることにより水密化を図ることができる。また第2工程より、保護材がゲル化する前、或いは凝固する前に上塗用のセメントを塗布することにより、劣化防止層又は水ガラス層をより高速でゲル化させて不透水皮膜を形成することができる。即ち、本発明に係るコンクリート構造物の劣化防止方法は、以下の3つの効果を発揮させることができる極めて有益なコンクリート構造物の保護方法である。
先ず第1に、高い付着力を有する不透水皮膜をコンクリート構造物の表面に形成させることが可能となる。その結果、劣化防止剤又は水ガラスをコンクリート構造物内に含浸させて水密化を図る機能を長期に亘って継続させることが可能となる。
第2に、不透水皮膜の表面からは、劣化防止層又は水ガラス層に含まれていた水ガラスに起因したアルカリの滲出を抑えることが可能となり、雨水等によってこれが流出することによる水質汚濁等を防止することができ、またコンクリート構造物自体を強化させることが可能となる。
第3に、コンクリート構造物の微細な空隙よりも大きな亀裂や打ち継ぎ等の隙間を不透水皮膜により充填して構造物を補修強化する際において特に有効性を発揮できる。
以下、本発明の実施の形態として、コンクリート構造物の劣化防止方法について詳細に説明する。
本発明は、経年劣化や海水に起因した塩害、或いは大気中の炭酸ガス等の酸性物質、凍結融解等の周辺環境の影響を受けることにより、表層に空隙が形成されて劣化したコンクリート構造物の当該空隙を水密化することによる防水性の向上を図ることが可能なコンクリート構造物の劣化防止方法である。また本発明は、未だ劣化していないコンクリート構造物に対して事前に塗布することにより、その後のコンクリート構造物の劣化を未然に防止することをも目的としたコンクリート構造物の劣化防止方法である。
本発明を適用したコンクリート構造物の劣化防止方法に使用される劣化防止剤は、セメント成分と、水ガラスとが混合されて構成されている。
ここでいう劣化防止剤のセメント成分とは、セメントに含まれる成分であって、その加水分解生成物が水に溶解すると高アルカリ性を呈する物質をいう。例えば、セメント成分がCaOである場合には、水を加えると加水分解してCaOの一部がCa(OH) 2 として生成され、このCa(OH) 2 は水に溶解すると高アルカリ性を呈する。このセメント成分は、Ca(OH)2単独で構成するようにしてもよいし、これらに他のセメント成分が含まれたものであってもよい。ちなみに、このセメントは、その成分の一部が水ガラスに溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、好ましくは普通セメント、早強セメント等のポルトランドセメントである。更に、このセメントの代替として、単独で使用する水酸化カルシウムは、特に限定されるものではないが、好ましくは不純物の少ない高品質なもので、しかも平均粒径6μm以下とされていることが望ましい。
また水ガラスは、アルカリケイ酸塩であって、代表的にはケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等、或いはこれらの混合物である。ちなみに、このアルカリケイ酸塩におけるモル比は、2.5〜4であることが望ましい。ケイ酸ナトリウムは大きな粘性を有する。水ガラスは、pHが約11−12程度の高アルカリ性を呈し、そのままでは硬化しないものとされている。なお、水ガラスの使用量は、特に限定されるものではないが、望ましくは含浸性を考慮して粘性2〜5mPa・sに相当するものであり、SiO2換算で4〜25重量%である。
また、本発明を適用した劣化防止剤は、さらに添加剤として遅延剤、分散剤、ゲル化促進剤、強度増加剤、界面活性剤等、或いは超微細気泡が添加されていてもよい。
本発明を適用した劣化防止剤の第1の発明における調製方法としては、水にセメントを溶解させた水酸化カルシウムを含む溶液に水ガラスを混合する。このセメント成分を含む溶液とは、水に対してセメント成分の一部を溶解させた飽和水溶液であってもよい。かかる場合には、水を貯留された容器内に、その貯留された水の体積に対する溶解度以上のセメント成分(Ca(OH)2単体を含む)を混合する。そして、このセメント成分が混合された水を十分に攪拌し静置する。その結果、セメント成分の水酸化カルシウムは、水に溶解することになる。しかし、水に対して溶解度以上のセメント成分を混合していることから、水がセメント成分の水酸化カルシウムで飽和した後は、そのセメント成分における未飽和分はそのまま容器中に残存することになる。
従って、容器中の上澄み液を固液分離することにより、セメント成分により飽和された水酸化カルシウム飽和水溶液を得ることが可能となる。このセメント成分の水酸化カルシウム飽和水溶液に対して水ガラスを添加することにより、本発明を適用した劣化防止剤が得られる。
本発明を適用した劣化防止剤の第2の発明における調製方法としては、水ガラス液にセメント成分を混合する。ここでいう水ガラス液とは、水ガラスに水を混合して希釈したものである。この第2の調整方法では、特に特定されるものではないが例えば、水ガラス液1000lに対してセメントが2〜25重量%となるように混合する。そして、この混合液を0.5〜2分程度攪拌した後、固液分離し、その上澄み液を劣化防止剤とする。
なお、この第2の発明に係る調製方法において、上述したセメント成分として、Ca(OH)2を単独で用いる場合についても、上述と同様の方法で行うが、Ca(OH)2は、平均粒径が約6μm以下の微粒子であって、不純物は殆ど含まれていない。このようなCa(OH)2単体を水ガラス液1000lに対して2〜5重量%と極めて少量であれば、殆ど水ガラスに溶解することになる。このため、Ca(OH)2単体を水ガラス液に混合する方法では、コンクリート構造物によっては、固液分離を行うことなく、そのまま溶液性の劣化防止剤を得ることが可能となる。
このようにして得られた劣化防止剤は、セメント水溶液中の水酸化カルシウムと水ガラスとが反応することによりケイ酸カルシウムを生成させる第1反応が起こる。具体的には、水ガラス(Na2SiO3・nH2O)の存在下で、セメント成分を構成するCa(OH)2の一部は、かかる水ガラスに溶解してCa2+イオンが水ガラスのNa+イオンの一部と置換し、ケイ酸カルシウム(Ca2SiO3)イオンを生成することになる。ちなみに、この反応開始時は、セメント成分中の水酸化カルシウムと水ガラスとの混合時点からとなる。なお、このようにして得られた不溶性のケイ酸カルシウムは、ゲル状である。このため、ゲル化されたケイ酸カルシウムゲル(Ca2SiO3・nH2O)は、水の浸入を防止する役割を発揮することが可能となる。
また本発明では、上述した第1反応において、水ガラスに溶解されないセメントは、水ガラスと接触することによりゲル化反応を起こす。即ち、セメント粒子は正(+)に帯電しており、一方水ガラスは負(−)に帯電しているため、両者が荷電置換を起こしゲル化することになる。この荷電置換を起こすことによる反応を、第2反応という。
なお、上述した反応は、水ガラスとセメントとの間で生じるものであることから、水ガラスに起因するアルカリ(Na2O)は消費されることなく、全量についてゲル化物中において溶出物質として含有されていることとなる。
ちなみに、本発明では、溶液性の劣化防止剤を用いるため、上述した第1反応並びに第2反応のうち、第1反応により生成されたものを使用する。ちなみにセメント成分の一種であるCa(OH)2単体を用いた場合、微粒子で不純物が少量の良質のCa(OH)2を適正量用いた場合には、殆ど水ガラスに溶解するため、第1反応のみが生じて第2反応は殆ど生じない。ここで水ガラスの使用量、換言すれば劣化防止剤中の水ガラスの濃度は、特に限定されるものではないが、望ましくは含浸性を考慮して、粘性2〜5mpa・sに相当するSiO2換算で4〜25重量%である。
なお、この第1反応においては、水酸化カルシウム飽和水溶液と水ガラスとが反応することによるゲル状のケイ酸カルシウムが生成されてゲル化されるまでにある程度の時間を要する。このゲル化までの時間は、通常0.5時間から数十時間であるが、好ましくは1〜20時間である。
但し、この劣化防止剤のゲル化能力やゲル化までの時間は、セメントの種類や量、セメントを構成する微粒子の粒度、水ガラスとの攪拌混合時間、更には水ガラスの種類、水ガラスのセメントに対する混合比率、水ガラスの濃度、更には劣化防止剤の液温によっても左右される。
このようにして製造された溶液性の劣化防止剤は、ケイ酸等に代表される無機材料を用いたものでありながら、ゲル化時間の調整を図ることができ、ゲル化能力を制御することが可能となる。また、コンクリート構造物における表層部の空隙に含浸した劣化防止剤をゲル化することにより、かかる空隙においてゲル化した劣化防止剤を長期間に亘って付着充填することが可能となり、水密性を向上させることが可能となる。
なお、ここでいう空隙とは、多孔質材料で形成されたコンクリート構造物自体が保持するものであり、水分を含浸させることができるいかなる物理的な亀裂、欠陥、クラックを含むものであり、間隙、空洞をも含む概念である。
このような方法に基づいて調製された劣化防止剤は、例えば、経時劣化が生じたコンクリート構造物5に対して注入又は塗布されることになる。このコンクリート構造物5の経時劣化は、海水に起因する塩害、大気中の炭酸ガス等の各種酸性物質や、その他凍結融解物質等の周辺環境の影響に基づくものであり、微細な欠陥等を始めとした空隙が表面5aから構造物内部へ向けて進展してしまうことになる。ちなみに、このコンクリート構造物5とは、コンクリート、モルタル、セメントペースト、セメント2次製品(プレキャスト材)等、セメントを使用する全ての構造物であって、その目的とするところは、建物、道路や鉄道等の橋脚及びその附帯部分、トンネル(電気、通信、ガス等の地下空間構造物等を含む)、堤防、擁壁、斜面等の吹付工法等が挙げられる。
このような経時劣化が生じたコンクリート構造物5の表面5aに対して、第1工程を実行する。即ち、コンクリート構造物5の表面5aに対して、本発明を適用した劣化防止剤が浸み込んだローラーを走行させる。その結果、このローラーに浸み込んだ劣化防止剤を表面5aに塗布させることができ、また、図1(a)に示すように、この劣化防止剤を、例えば骨材21が混合されたコンクリート構造物5内に含浸することが可能となる。コンクリート構造物5において、劣化防止剤が含浸された層を含浸層22という。
ちなみに、ここでいう塗布とは、このローラーを使用する場合以外に、刷毛を利用して劣化防止剤を塗布する方法や、劣化防止剤を散布する方法であってもよい。この散布は、噴霧や吹付等といった概念を含むものである。ちなみに、この塗布方法は、目的に併せて上述した各種方法の1種類以上を組み合わせるようにしてもよいし、塗布回数は1回又は2回以上行うようにしてもよい。
なお、コンクリート構造物5の形状や周辺の状況により、表面5aに対して劣化防止剤を直接的に塗布することができない場合に、或いは表面5aよりも深い所に劣化防止剤を注入させたい場合には、図示しない穿孔機等を用いて注入孔を穿設し、その注入孔に劣化防止剤を注入させるようにしてもよい。この劣化防止剤が表面5aにおいて塗布された結果、当該表面5a上においてかかる劣化防止剤が積層された状態となる。以下、この劣化防止剤が表面5a上に積層された層を劣化防止層6という。
次に、図1(b)に示すように、第2工程に移行し、劣化防止層6の表面に対して更に上塗用のセメント7を塗布又は散布する。この第2工程における上塗用のセメント7の塗布又は散布は、劣化防止層6に含まれている劣化防止剤がゲル化する前、又は凝固する前、即ち当該劣化防止剤がまだ水ガラスとしての機能を保持した状態の下で行う。この第2工程における上塗用のセメント7の塗布又は散布回数は、接触混合のみを考える場合には1回に限定される。しかし、形成させた不透水皮膜の表面にセメントを何回か塗布してよりよい強度を高めることもできる。
この第2工程において塗布等を行う上塗用のセメント7は、特に限定するものではなく、水ガラスをゲル化させることができるもので、代表的には普通セメント、早強ポルトランドセメント、高炉セメントを挙げることができる。上塗用のセメント7の使用方法は、特に限定されるものではないが、例えばセメントに水を加えてセメントペースト(セメントミルクも含む)、更にはセメントモルタル、水を加えないセメント粉末として塗布又は散布するようにしてもよい。更には欠損箇所では左官工法であってもよい。
なお、この第2工程の過程では、必要に応じて分散剤、減水剤、硬化促進剤、遅延剤、防水剤、界面活性剤、ポリマー(ナイロン等の素材)等を目的に応じて使用するようにしてもよい。
ところで、このような第2工程において、劣化防止層6の表面に対して更に上塗用のセメント7を塗布又は散布することにより、当該上塗用のセメント7が、劣化防止層6中に含まれている水ガラスと反応することになる。このセメント7の塗布時において、劣化防止層6は水ガラス特有の性質を保持していることが条件である。この反応は、劣化防止層6と、上塗用のセメント7との間における接触面において進行するものである。その結果、劣化防止層6に含まれている水ガラスが上塗用のセメント7と反応して強固なゲルを生成することになる。この時点で、図2に示すように、劣化防止層6は消滅して不透水皮膜8が形成される。この劣化防止層6にある水ガラス成分とセメントが高速にゲル化することにより、当該劣化防止層6をゲル硬化体とすることが可能となる。その結果、表面5a、劣化防止層6を不透水皮膜8とすることが可能となる。この不透水皮膜8は、上述した接触面における反応によって生成したゲル硬化体として形成されたものであり、水の透過を防止することができる性質のものである。このため、降雨により雨水等が付着してもこれが不透水皮膜8を透過することを防ぐことができ、ひいては、この不透水皮膜8により被覆された劣化防止剤が雨水により表面5aから流れてしまうのを防止することができる。しかもこの劣化防止剤に含まれている、水ガラスに起因するアルカリの溶出による水質汚濁を防止することも可能となる。
このように、上塗用のセメント7により、表面5aを高速にゲル化して不透水皮膜とする間、又はその後、表面5aの下層並びに含浸層22に含浸した劣化防止剤は、経時的にゲル化してケイ酸カルシウムとなる。このゲル状のケイ酸カルシウムがコンクリート構造物5内に充填され、これらにより水密化を図ることが可能となる。不透水皮膜8は、あくまで表面5aにおいて形成されているものであることから、表面5aの下層並びに空隙に含浸した劣化防止剤に含まれている水ガラスは、上塗用のセメント7と反応していない。このため、表面5aの下層並びに空隙に含浸した劣化防止剤に含まれている水ガラスは、同じくこの表面5aの下層並びに劣化防止剤中に含まれているセメント成分と反応することが可能となる。
即ち、本発明によれば、セメント成分を含む溶液に水ガラスを混合して劣化防止剤としていることから、劣化防止剤に含まれているセメント成分中の水酸化カルシウムと水ガラスとが反応することによりケイ酸カルシウムを自発的に生成させることができる。セメント成分を水ガラスに予め混合することにより、コンクリート構造物に対して水ガラスは自動的にゲル化能力を付加することが可能となる。また、水ガラスとセメントの混合比率を調整することにより、ゲル化時間の調整も可能となる。
特に空隙がコンクリート構造物5内に深く進展している場合には、ゲル化までの時間をある程度遅らせない限り、劣化防止剤が空隙の奥深くまで到達する前に硬化してゲル状となってしまう。かかる場合には、ゲル化時間を遅くすることにより、劣化防止剤を空隙の奥深くまで浸透させた後、これを硬化させるように調整を行う。これに対して空隙が浅くしか伸びていない場合には、ゲル化時間を遅くしなくても比較的早めに劣化防止剤が浸透してしまい、逆にあまりにゲル化時間が長いと、降雨等により、劣化防止剤がゲル化する前までに空隙から流出してしまう。このため、空隙が浅くしか進展していない場合には、その浅い空隙の隅々まで劣化防止剤を充填した後は、できるだけ早めにこれをゲル化させることが望ましいといえる。このように本発明では、この空隙の深浅に応じて劣化防止剤のゲル化の時間を調整することが可能となる。
しかも本発明では、劣化防止剤のゲル化の時間が長くなっても、上述したように表面5a下の劣化防止剤が不透水皮膜8により被覆されていることから、雨水等による流出を懸念することなく水密化に重点を置くことができる。
また、この水ガラスにゲル化能力を付加させるゲル化剤としてのセメント成分は、コンクリート構造物を阻害することなく、コンクリート構造物中のセメント成分を再生する効果があることも大きな特徴である。
また、このゲル化剤としてのセメント成分は、アルカリ性であることから、水ガラスを含めたアルカリ成分を長期に亘り保持することができる。このため、劣化して中性化してしまったコンクリート構造物に対してこのコンクリート劣化防止剤を適用することにより、かかるコンクリート構造物に対してアルカリ性を保持させることができる。
また本発明は、補強すべきコンクリート構造物の経時劣化度合いを判別し、判別した経時劣化度合いから劣化防止剤がゲル化するまでの時間を割り出す。そして、この割り出したゲル化時間に基づいて、水ガラスとセメントとの混合比率等を調整するようにしてもよい。
なお、上述した実施の形態では、予め調製した劣化防止剤をコンクリート構造物5の表面5aに保護材として塗布する場合を例にとり説明をしたが、これに限定されるものではない。この劣化防止剤の代替として、水ガラスを保護材として使用するようにしてもよい。この水ガラスをコンクリート構造物5の表面5aに塗布することにより、当該水ガラスをコンクリート構造物5内に注入することが可能となる。また、水ガラスが表面5aにおいて塗布された結果、当該表面5a上においてかかる水ガラスからなる薄い層が積層された状態となる。以下、この水ガラスが表面5a上に積層された層を水ガラス層という。
以下の第2工程では、上述した劣化防止層6を水ガラス層と置き換えて説明をする。この水ガラス層の表面に対して更に上塗用のセメント7を塗布又は散布する。その結果、当該上塗用のセメント7が、水ガラス層と反応することになる。この反応は、水ガラス層と、上塗用のセメント7との間における接触面において進行するものである。この時点で劣化防止剤は消滅する。その結果、水ガラス層に含まれている水ガラスが上塗用のセメント7と反応してゲル硬化体を生成することになる。この表層にあるセメントが高速にゲル化することにより、当該表層のみをゲル化させることができる。その結果、コンクリート構造物表面において不透水皮膜8を形成させることができる。このため、降雨により雨水等が付着してもこれが不透水皮膜8を透過することを防ぐことができ、ひいては、この不透水皮膜8により被覆された劣化防止剤が雨水により表面5aから流れてしまうのを防止することができる。
このように、上塗用のセメント7により、高速にゲル化して不透水皮膜とする間、又はその後、コンクリート構造物5内に含浸した水ガラスは、かかるコンクリート構造物5内を構成する周囲のセメント成分と反応することにより、経時的にゲル化してケイ酸カルシウムを生成する。このゲル状のケイ酸カルシウムがコンクリート構造物5内に充填され、これらにより水密化を図ることが可能となる。不透水皮膜8は、あくまでコンクリート構造物表面において形成されているものであることから、コンクリート構造物5内に含浸した水ガラスは、上塗用のセメント7と反応していない。このため、コンクリート構造物5内に含浸した水ガラスは、コンクリート構造物5内を構成する周囲のセメント成分と反応することが可能となる。即ち、この水ガラスを用いる第3の発明では、自発的にゲル化させる機能を有しないものの、コンクリート構造物5の周囲から多くのセメント成分が溶出する場合には、これと反応することによりゲル化することが可能となる。しかも本発明では、水ガラスのゲル化の時間が長くなっても、上述したように表面5aが不透水皮膜8により被覆されていることから、雨水等による流出を懸念することなく水密化に重点を置くことができる。
但し、この水ガラスを用いる例では、あくまでコンクリート構造物の経年劣化が浅くて、コンクリート構造物5に多くのセメント成分が溶出するような場合に適用可能となる。
次に、本発明を適用したコンクリート劣化防止方法の実施例について説明をする。実験に使用した供試体の材料としては、JIS3号品水ガラス、普通セメント、平均粒径4μmの微粒子からなる水酸化カルシウムを用いた。
[実験1]
劣化防止剤の製造に関しては、先ず水1000mlに普通セメント及び平均粒径4μmの微粒子からなるCa(OH)210g加えてよく攪拌し、1日経過後、上澄み液を取り出した。この上澄み液は、セメント組成分により飽和されたいわゆる主に水酸化カルシウム飽和水溶液である。
本発明例1
このようなセメントから得られた飽和水溶液150mlに対して水ガラスを50ml加えたところ、透明液(pH12.4、粘度2.3mPa・s)が得られ、更に10日経過後にケイ酸カルシウムからなるゲルが生成(析出)した。
本発明例2
Ca(OH)2から得られた飽和水溶液150mlに対して水ガラス50mlを加えたところ、透明液(pH12.4、粘度2.3mPa・s)が得られ、更に8日経過後にケイ酸カルシウムゲルが生成(析出)した。
以上の本発明例1、2から、本発明の劣化防止剤は、ケイ酸カルシウムを経時的にゲル化させることが示されている。特に本発明例1においては、飽和水溶液におけるセメント成分の溶解量(理論値:水100gにCa(OH)2換算で0.125g)が少ないため、ゲル化能力が弱いが確実にゲルを生成することができることが確認できた。
[実験2]
所定量のセメント及びCa(OH)2粉末を0.8gを入れた懸濁液100mlを攪拌混合器(0.5l用のミキサー)に入れ、回転させながらその中に水ガラス水溶液100mlを加え、1分間攪拌した後、濾紙で吸引ろ過により固液分離を行い、溶液製の劣化防止剤を製造した。
表1にこの実験2の実験結果を示す。
この実験においては、それぞれの配合毎に、セメント成分の溶解量、ゲルタイム、pH、粘度を示している。セメント成分を含む溶液100ml、水ガラス溶液を100mlとし、合計200mlとした。本発明例3〜6については、セメント成分としてのセメントの混合量を互いに異ならせている。また本発明例7については、セメント成分としてCa(OH)2の単体を用いている。本発明例8は、セメント成分を含む溶液を混合することなく、水ガラス溶液のみで構成している。また、この表1においてゲルタイムは、常時混合した場合と、溶解部分とに分けて記載している。ここでいう常時混合した場合とは、セメント粒子を含んだ懸濁液、溶解部分とは、セメント粒子を取り除いた溶液をいう。
表1より、本発明例3〜6のセメント成分を含む溶液は、水ガラス溶液と攪拌混合した場合に、主としてセメント成分のCaOに起因したCa(OH)2が多く水ガラスに溶解されることにより、そのセメント成分の比率に応じてゲル化能力が大きく異なることが分かる。逆に言えば、このセメント成分の比率を調整することにより、ゲルタイムの調整が可能となることが分かる。
なおゲル化能力の大小、即ちゲルタイムの長さは、常時混合した場合、上述した第1反応、第2反応の双方が同時に起こっているために、より短縮されている。
また、セメント成分として、本発明例3〜6に示すようにCa(OH)2が含まれたセメントを用いることなく、本発明例7に示すように良質な微粒子からなるCa(OH)2単体を使用すると、その殆どが水ガラスに溶解して不溶物が極めて微量となるため、そのまま溶液性の劣化防止剤として用いることができる。
しかしながら、この本発明例7として、使用するCa(OH)2が仮に低品質であって、粒子径も大きい場合には却って不溶物が多くなり、固液分離を行う必要が生じる。固液分離を行う方法としては、特に限定されるものではなくいかなる方法を用いてもよいが、一般的には自然沈降、ろ過膜(紙や繊維等)のろ過材を使用して加圧をするようにしてもよいし、或いは吸引、遠心分離等の方法を使用するようにしてもよい。なお、固液分離を行うためには、凝集剤を併用するのが望ましい。
なお、この表1から、本発明例としての劣化防止剤のpHは、何れも12以上であり、高いアルカリ性を維持していた。即ち、この本発明例としての劣化防止剤は、以降の中性化を防止することも可能となることが分かる。
[実験3]
実験に使用したコンクリート構造物は、以下の3種類である。
供試体A:約40年前に屋外で施工されたモルタルの表面から深さ約10cmを切り出し、表面に付着した異物を高水圧で除去したもの。
供試体B:約1年前に屋外で施工されたモルタルの表面から深さ約10cmを切り出し、表面に付着した異物を高水圧で除去したもの。
供試体C:セメント500g、砂1500g、水300mlを混合することによりモルタルを作製し、湿潤環境下で28日間養生したもの。
本発明例では、供試体A、Bの劣化度合を確認するために、表層から深さ方向に1cm毎に切断し、小片に粉砕した。また、比較例として、供試体Cについても同様に1cm毎に切断し、小片に粉砕した。実験は、重量比で水1部に対して供試体3部の割合で3日間浸した後、養生水を取り出してpHを以って劣化度合を判定した。そのpHの測定結果を表2に示す。
この表2に示す実験結果から、供試体Cに対して測定を行った比較例1は、28日経過後のモルタルであって、pHは12以上と非常に高い値を示しており、有効なセメン
ト成分が多く残存していることが示されている。
また、供試体Bに対して測定を行った本発明例10は、施工後1年以内であるため、表層から2cm以内においてはpHは若干低いものの、2cmよりも深い領域においては高いpHを示しており、有効なセメント成分が十分に残存していることが確認できた。
これに対して、供試体Aに対して測定を行った本発明例9は、屋外で40年も経過していることから、第1〜第2区分でpHが9.2〜9.6、第4〜第5区分でも10.2〜10.4であり、劣化が非常に進んでいることがわかる。
即ち、上述した実験結果から、時間の経過に応じてコンクリート構造物は経時劣化し、その結果pHが低下して中性化してしまうことが分かる。
[実験4]
この実験4では、供試体A〜Cのモルタルを表面から各試験に応じた大きさに成形し、本発明を適用した劣化防止剤又は水ガラス(保護材)をハケにより塗布して充分に含浸させた。次に2回目の保護材の刷毛刷りを行った。この実験において使用した保護材は、上述した本発明例1、5、8を使用した。表3に各供試体A〜Cに対して含浸させた保護材(本発明例1、5、8)の組み合わせを示す(本発明例11〜16、比較例2)。
ちなみに、供試体Aは劣化が進行しており、内部からセメント成分が流出しないものであることから、これに本発明例8としての水ガラスを添加する場合は、本発明例とせずに比較例2として取り扱う。
次に、屋外のコンクリート構造物に対する雨水等を考慮し、塗布3日後に各供試体の表面に水を散布した後、室内で28日間湿潤養生した。そして、この供試体の表面から、深さ方向に1cm毎に切断して小片を粉砕したものを、重量比で水1部に対して供試体を3部の割合で3日間浸した後、養生水を取り出してpHを測定することにより、浸透深さを判定した。表3にそのpHの測定結果を示す。
表3の結果から、供試体B、Cを使用した本発明例13〜16は、何れも表面から第5区分に至るまでpH12前後と高い値を示している。しかし、これらのpH値は、実際に劣化防止剤又は水ガラスを塗布する前の供試体がほぼ同じpHを示していることから、モルタル表層からの浸透深さとの関係において、効果を確認することができない。
一方、供試体Aを用いた本発明例11〜12、比較例2については、供試体A自体が経年劣化したものであることから、表層から第3区分まではpH12前後の高い値を示していたが、第4区分はpHが11.5前後と若干低く、第5区分は、pHが10.4前後となり、上述した実施例9とほぼ同様の値となっていた。
以上より、本発明を適用した劣化防止剤の含浸深さは、第4区分まで、即ち表層から3〜4cmの範囲内であることが確認できる。
更に、劣化防止剤と水ガラスとの間における効果の差異を本発明例11、12、比較例2との間で比較した。先ず本発明例11及び比較例2は、本発明例12と比較して第1区分内におけるpHは12以下と低くなっている。これは、供試体に含浸させた3日後に水を散布していることから、本発明例11において使用した本発明例1の劣化防止剤は、この段階でゲル化しておらず、また比較例2において使用した本発明例8の水ガラスは、自発的なゲル化能力を有しないものであることから、それぞれ水に流されてしまったのが原因であるといえる。これに対して、本発明例12において使用した本発明例4の劣化防止剤は、この段階でゲル化していることから水に流されず、pHも12以上と高い状態を維持している。
[実験5]
実験3において作製した供試体A〜Cに対して、保護材として劣化防止剤及び水ガラスを塗布した場合における水密性(防水性)を確認するために、透水試験を行った。なお比較用として劣化防止剤又は水ガラスを何ら塗布しないものについても確認を行った。
透水試験は、供試体を所定形状に加工し、JASS8T−301(ケイ酸質系塗布防水材料の品質及び試験方法)に準じて行った。試料として、本発明例11を使用した場合を本発明例17とし、本発明例12を使用した場合を本発明例18とし、比較例2を使用した場合を比較例3とし、何ら保護材による処理を施さないものを比較例4とした。これら本発明例11、12、及び比較例3、4は、何れも供試体Aを用いた例である。
また試料として、本発明例13を使用した場合を本発明例19とし、本発明例14を使用した場合を本発明例20とし、本発明例15を使用した場合を本発明例21とし、何ら保護材による処理を施さないものを比較例5とした。これら本発明例19〜21、及び比較例5は、何れも供試体Bを用いた例である。
また試料として、本発明例16を使用した場合を本発明例22とし、何ら保護材による処理を施さないものを比較例6とした。これら本発明例22、及び比較例6は、何れも供試体Cを用いた例である。
このような本発明例17〜22、比較例3〜6に対して、上述の透水試験を行ったところ、表4の試験結果が得られた。
表4の試験結果により、供試体Aを対象とした比較例3(水ガラスを使用)の透水係数は、比較例4(無処理)場合と殆ど差が無かった。これは、供試体Aが経年劣化して中性化しているため、水ガラスと十分に反応してケイ酸カルシウムを生成するだけのセメント成分が殆ど失われていることを意味している。
これに対して供試体B、Cを使用する例では、各透水係数は、無処理の比較例5、6と比較して高い値を示しているのが分かった。供試体B、Cは、経年劣化していないことから、水ガラスと十分に反応してケイ酸カルシウムを生成するだけのセメント成分が十分に残存していることを意味している。
一方、劣化防止剤を塗布した本発明例11〜15は、何れも透水係数が極めて小さく、水密化(防水性)が、比較例4、5に示される無処理の場合と比較して非常に優れていることが確認できた。
これは、コンクリート構造物の内部に形成された空隙に含浸した劣化防止剤が緻密に充填されてゲル化し、その結果生成したケイ酸カルシウムが空隙内に密着した状態であることを意味している。
以上のように、本発明を適用したコンクリート構造物の劣化防止方法における第1工程は、コンクリート構造物の表層部に、保護材を含浸させてこれをゲル化し、水密化させることにより、当該コンクリート構造物の劣化を防止するものである。中でも特に経年劣化が進んでコンクリート構造部内が中性化してしまい、水ガラスと反応することができるセメント成分が残存していないケースでは、自発的なゲル化能力を有する劣化防止剤が、水ガラス単体よりも極めて有効であることが確認できた。
[実験6]
以下、第2工程に関する具体的な実施例について説明をする。
上塗用のセメント組成物は、1l当たり普通セメント100g、水55ml、即ち、セメントの重量に対する水の重量がw/c=55%のセメントペーストを用いた。
実験は、コンクリート構造物の表面に塗布した保護材が、水ガラス特有の性質を有する状態のところに、上塗用のセメントを塗布して接触混合させ、ゲルタイム並びにその状態を観察することを目的とする。ここでいう水ガラス特有の性質を有する状態とは、自発的なゲル化能力を有する劣化防止剤はゲル化する前の状態を意味し、自発的なゲル化能力を有しない水ガラスは、表面が凝固して皮膜を形成する前の状態を意味する。
実験では、供試体Cを使用し、長さ15cm、幅3cm、厚さ2cmに成型したものである。
具体的な実験のフローは、第1工程、第2工程の順で行う。第1工程では、保護材としての劣化防止剤又は水ガラスを供試体Cにおける長さ15cmの先端部8cmの周囲全面に刷毛で塗布する。第1工程で塗布する保護材として本発明例1を使用したものを本発明例23、保護材として本発明例6を使用したものを本発明例24、保護材として本発明例8を使用したものを本発明例25とする。そして、その刷毛による塗布からまだゲル化及び凝固しない3分後に、更に上塗用のセメントペーストを刷毛で全面に塗布し、別に用意した水槽内に投入し、これをまき廻す。そして、塗布したセメントペーストの付着並びに脱落状態を観察する。
なお、比較用として、本発明例23で用いた保護材を塗布して10日間大気中で養生してゲル化させた後、上塗用のセメントペーストを塗布したものを比較例7とし、本発明例24で用いた保護材を塗布して10日間大気中で養生してゲル化させた後、上塗用のセメントペーストを塗布したものを比較例8とし、本発明例25で用いた保護材を塗布して10日間大気中で養生して凝固させた後、上塗り用のセメントペーストを塗布したものを比較例9とし、更に上塗用のセメントペーストを塗布することなく、単に供試体Cの表面を濡らすだけの無処理のもの(比較例10)についても同様に行った。なお、比較例7〜9の供試体Cの表面は、ガラス状を呈し、なめらかな状態であった。
表5の結果より、供試体Cの表面に第1工程の保護材を塗布し、当該保護材がゲル化する前、或いは凝固する前に、第2工程における、上塗用のセメントペーストを塗布した結果、保護材と上塗用のセメントペーストとの接触混合部は、本発明例23〜25の何れにおいてもゲルタイムは20秒以下であり、瞬時に近いゲルタイムで両者は付着することが確認できた。
但し、この反応は、あくまで、保護材と上塗用のセメントペーストとの接触混合部において生じるものであって、コンクリート構造物の表面においては特に生じていない。このことは、セメントの凝結時間が何れも4.0時間であることからも確認できる。
またセメント表面の状態の観察結果も参照すれば、かかる現象は、第1工程において塗布された保護材が、第2工程において塗布された上塗用のセメントペーストにより被覆され、表面からかかる保護材に起因したアルカリが雨水等によって流出せず、水質汚染を防止する観点からも優れていることが示唆されるものである。
これに対して本発明の保護材(本発明例23〜25)であっても、ゲル化後及び凝固後では、無処理(比較例10)と同様に20秒後では全く付着していないことから、水ガラスとセメントは全く反応していないことが確認できた。このことは、水ガラス特有の性質が失われていることを意味している。
[実験7]
実験7では、第1工程において塗布した保護材としての劣化防止剤又は水ガラスと、第2工程において塗布した上塗用のセメントとを接触混合した場合における付着力や固結強度を曲げ強度試験により求めた。
実験は、供試体Bを4×4×16cmに成型し、半割りした両面に保護材を十分に塗布した。塗布した保護材としては、本発明例19、20、21において使用したものとし、それぞれ本発明例26〜28としている。その塗布から3分後に上塗用のセメントペーストを刷毛で塗布し、その後直ちに半割りした両面を密着した状態で押さえつけて硬化させた。その後28日間湿潤養生した後にJIS R5201に準じて曲げ強度試験を行い、表6の結果を得た。なお、比較用として、第1工程において何ら保護材を塗布しない比較例10及び本発明の保護材がゲル化後、又は凝固した後(比較例7〜9)についても同様に曲げ強度試験を行っている。
表6の結果より、曲げ強度は、比較例14(無処理)と比べて、本発明例26〜28の方が何れも大幅に高くなっている。これは、保護材中に含まれる水ガラス成分とセメントとの反応によるゲル化により発現するゲル硬化体の接着性及び固結強度が、セメント単体よりも大きく、その結果、付着力ひいては曲げ強度も高くなっていることによる。
これに対して、本発明の保護材(本発明例26〜28)でありながら、ゲル化後、又は凝固した後では無処理よりも付着力が低下している。これは、ゲル化後、又は凝固した後の表面は水ガラス成分の水分が蒸発してガラス状に近い状態、或いはゲル化物が付着しているため、セメントペーストの付着力が低下しているためである。
以上より、第1工程の劣化防止剤又は水ガラス(保護材)に対して、第2工程における上塗用のセメントを塗布することにより、コンクリート構造物表面に強固な不透水皮膜層を形成させ、保護材の効果を長期間に亘って保持することが可能となることが分かる。更に空隙より大きい亀裂や打ち継ぎの隙間に対しても、この保護材を充填する際においても、表面に強固な不透水皮膜層を形成させ、保護材の効果を長期間に亘って保持することが可能となる。
[実験8]
第1工程の表層部に保護材を含浸させた後に、第2工程において上塗用のセメントを塗布した場合における水密性(透水性)を確認するため、透水試験を行った。実験は、第2工程の上塗用のセメントペーストを塗布した後、28日間湿潤養生し、実施例5と同様の方法で透水試験を行い、透水係数を測定した。測定対象は、それぞれ第1工程において本発明例17〜21において使用したものを使用し、第2工程において上塗用のセメントペーストを塗布し、新たにこれらを本発明例29〜33としている。
表7の結果より、第1工程において保護材を塗布した後に、第2工程において上塗用のセメントペーストを塗布して、高い付着力を有する不透水皮膜を形成させたところ、透水係数は、何れも10-8オーダーとなり、第1工程と比較して更に優れた値を示している。これは、実験6(表5)、実験7(表6)からも分かるように、コンクリート構造物の表面に水ガラスとセメントのゲル化により生成した強固な高付着力の不透水皮膜を形成させたことにより、水密性をより向上させることができることを意味している。