前述したように、前記特許文献1〜4に示す方法は、免疫反応を基本とするバイオセンサにおいて、基本的に基板1以外のセンサ構成部材が、毛細管流(毛細管現象による流れ)によって互いに連絡可能な状態になる液体透過性材料にて構成されているものである。そして、これらの構成材料の構成部品および構成を用いることで、液体試料中の分析対象物を簡易迅速に分析することを実現しようと考え出された発明であり、これらの技術により今日の医療現場で多くの検査を実施可能としている。
しかしながら、図14A〜図14C、図16A〜図16Fに示す従来の一般的なクロマトセンサでは、液体試料が血液サンプルSである場合、一般的には注射器54を用いて採血を行い、注射器54から直接大量の血液サンプルSを添加する、またはディスペンサやスポイトなどの用具を用いて、全血あるいは血漿および血清を添加しなくてはならなかった。したがって、クロマトセンサへの試料添加が非常に煩雑であり、簡易迅速測定とするPOCT検査における、作業の簡略化は大変重要な課題であった。
また、何れの特許文献の発明においても、標識試薬は多孔質材料などの液体透過性材料に保持されている。したがって、標識試薬は液体試料の展開とともに速やかに溶出し、展開先端部に非常に高濃度な状態で存在し展開されていくが、保持されている標識試薬は完全に溶出されることができず、保持担体に数%〜数10%の標識試薬が残留してしまう問題がある。また、残留する標識試薬量はバイオセンサ毎に異なるため、試薬固定化部を通過する標識試薬量がバイオセンサ同士の間では一定でなくなり、分析対象物の量が同じでも呈色度合に違いが生じ、これによりバイオセンサを用いた高精度な定量測定の実現が困難であった。
さらに、展開される標識試薬は、添加される液体試料全体に拡散して分析対象物と反応するのではなく、展開先端部にあたる一部の液体試料とともに流出して、一部の分析対象物との反応に留まってしまうため、低濃度の分析対象物を検出することが困難であり、ナノモルやピコモル、更に低濃度の濃度領域の検出及び定量を必要とする高感度測定が不可能であった。
また、基板1以外のセンサ構成部材が液体透過性材料で構成されていることから、展開してきた液体試料をセンサ構成各部材が保水してしまうことで検体損失(デッドボリューム)が発生していた。したがって、液体展開がB/F分離(抗体と結合している抗原と、抗体と結合していない抗原との分離)の役割を果たすクロマトセンサにおいて十分な展開(B/F分離)のためには、過剰な液体試料の添加が必要不可欠であり、過剰に検体量がある尿が液体試料である場合では問題ないものの、血液中の分析対象物を検出したい場合などは、上腕採血による必要以上の採血を必要としてしまい、簡易・迅速とは言えない検査体制となっていた。
これらの課題を解決し、より微少な量の液体試料(微量検体)で正確かつ高精度・高感度な定量測定を実現するためには、デッドボリュームを小さくし、標識試薬や、その他の反応試薬を100%溶出でき、液体試料全体の分析対象物が反応できる免疫クロマトセンサとしてのバイオセンサを提供することが重要かつ不可欠な要素であった。
また、液体試料として血液サンプルSを添加する場合は、血液中に存在する血球成分(特に赤血球)が、結果の確認を妨げることと、展開流路を血球成分が展開できない場合があることから、従来のクロマトセンサやバイオセンサを用いる場合には、予め遠心分離などの作業により、血球成分を取り除き血清あるいは血漿成分だけを試料添加部に添加する方法、あるいは試料添加領域と展開流路との間に、血球成分の濾過が可能な血球濾過材を配設する必要性があった。
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、ディスペンサやスポイト、注射器などを用いなくても、一定量の液体試料としての血液を良好に保持することができるだけでなく、標識試薬やその他の反応試薬を完全に溶出することができるとともに、添加する血液の量を大幅に削減、微量化することができ、しかも、標識試薬が均一な状態で溶出した血液を展開流路に良好に流入させることができるバイオセンサを提供することによって、免疫反応を基本とするバイオセンサにおいて、測定精度向上を図ることができると同時に、従来の免疫クロマトセンサに見られる利便性を損なわず、いつでもどこでも誰でも測定可能であり、しかも、微量の血液などの液体試料での測定を実現化でき、正確かつ高精度・高感度な免疫クロマトセンサとしてのバイオセンサを提供することを目的とする。
前記課題を解決するために、本発明のバイオセンサは、液体試料が添加される試料添加部と、液体試料に反応する反応試薬と、反応試薬が混在する液体試料あるいは反応試薬と反応した液体試料を展開する展開流路とを有し、液体試料中の分析対象物の存否あるいは濃度を測定するバイオセンサであって、前記試料添加部が、液体不透過性材料からなる空間形成材により添加空間を囲むことで構成され、前記試料添加部における空間形成材の添加空間に臨む箇所に、前記反応試薬が、添加空間に添加された液体試料に溶け出し可能な状態で保持され、前記展開流路は、前記試料添加部内の液体試料と前記反応試薬とが毛細管力にて移動可能な材料で構成され、展開流路の一部に測定領域が配設されていることを特徴とするものである。
この構成により、試料添加部の添加空間を形成する空間形成材が液体不透過性材料により形成されていることから、試料添加部に保持された液体試料は、試料添加部に保水されることを回避して、留まることなく展開流路をその展開方向下流領域へと展開していくことが可能となり、試料添加部に留まったままのデッドボリュームが無くなることから、測定に必要な液体試料を大きく削減することが可能となる。
なお、ここでの液体不透過性材料とは、液体がその材料内部へ浸潤しない材料を意味し、例えばABS、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂材料の他、金属、ガラス等が挙げられる。また、紙などの液体が材料内部へ浸潤可能な液体透過性材料であっても、その表面を樹脂やフィルムなどでコーティングしたり、撥水加工などの処理を行ったりすることで、液体の浸潤を防止しているような材料をも含む。
また、展開流路とは、毛細管力で液体が移動可能な任意の材料または構成を有するものでよく、例えば微細空間で形成された流路や、微細柱(ナノピラー)の形成された微細流路、多孔質膜やガラス繊維濾紙などの任意の液体透過性材料が挙げられるが、好ましくはその展開流路は単層であるのがよく、ニトロセルロースに代表されるメンブレンフィルタや、ガラス繊維濾紙、セルロース濾紙、液体不透過性材料などで形成される微細流路など何を用いてもよい。
また、前記構成によれば、反応試薬が、液体不透過性材料からなる空間形成材で構成された添加空間に保持されていることから、保持されている反応試薬が担持材料に留まる、あるいは吸着されることなく全て溶出することが可能となり、この結果、反応試薬の溶出度合がほぼ一定となって、従来生じていた、「反応試薬の溶出が多い場合に、感度は高い」「反応試薬の溶出が少ない場合に、感度は低い」となっていた感度差が生じなくなり、測定結果は安定する。これにより、より正確かつ高精度・高感度な測定結果を得ることができる。
なお、反応試薬は、例えば液体試料と反応する変性剤であったり、酵素反応に必要とされる任意の試薬であったり、分析対象物および固定化試薬と特異的反応の可能なトレーサーを有する標識試薬などを含んでいる。ここで言うトレーサーとは、リガンド部分及びこのリガンド部分に結合した検出可能な標識部分のことである。検出可能な標識は多種多様な検出が可能な標識の何れであってもよいが、本発明の好ましい形態においては各種の色原体、例えば蛍光性物質、吸収性色素や発光物質、不溶性粒状担体、例えば金属コロイドやラテックス粒子などを用いるとよく、酵素を用いてもなんら問題はない。「反応試薬と反応した液体試料」とは、液体試料中の分析対象物とトレーサーとが反応した状態、あるいは液体試料中の任意の成分が、反応試薬中の任意の試薬と反応した状態を示す。
また、測定領域としては、1つまたはそれ以上の任意の数の領域でよく、何れの場合も何ら問題はない。更に展開流路は、毛細管力で液体が移動可能な任意の材料または構成を有するものでよく、例えば微細空間で形成された流路や、微細柱(ナノピラー)の形成された微細流路、多孔質膜やガラス繊維濾紙などの任意の液体透過性材料が挙げられるが、好ましくはその展開流路は単層であるのがよい。
また、本発明のバイオセンサは、反応試薬が、試料添加部における展開流路の延長線上の面とは異なる箇所に配設されていることを特徴とするものである。また、本発明のバイオセンサは、展開流路が、支持体としての基板の面に沿って配置され、反応試薬が、空間形成材における前記基板の面から離れて対向する上面部裏面に保持されていることを特徴とするものである。
このように、反応試薬を、試料添加部における展開流路の延長線上の面とは異なる箇所に配設させたり、空間形成材における前記基板の面から離れて対向する上面部裏面に保持させたりすることで、反応試薬が、試料添加部における展開流路の延長線上の面に配設されている場合に比べて、試料添加部に添加された液体試料に対して反応試薬がより均一に溶け出した状態で、展開流路に導入されることとなり、より正確かつ高精度・高感度な測定結果を得ることができる。つまり、反応試薬が、試料添加部における展開流路の延長線上の面に配設されている場合には、反応試薬が保持されている箇所と展開流路とが接触したり、極めて近接したりしているので、液体試料に反応試薬が溶け出した直後の、不均一な状態の液体試料が展開流路に導入され、精度が低下したり感度が低下したりするおそれがあるが、上記構成によりこのような不具合の発生を抑えることができる。
ここで、試料添加部における展開流路との厚み方向に沿ってこの展開流路の延長線上とは異なる位置とは、例えば、試料添加部の底面部分に沿って展開流路が配設されている場合には、試料添加部を囲んで形成するカバーなどの空間形成材の底面部分よりも上方にずれた上面部裏面や底面部より上方に延びる側面など、展開流路と同一面に位置する底面部以外の任意の面を示す。
また、本発明は、基板に、添加空間の厚さを調整する補助基板が配設されていることを特徴とするものである。
この構成によれば、補助基板が設けられていることで、空間形成材によって形成された試料添加部が、血液サンプルなどの液体試料を毛細管力により良好に吸引するように保持され、液体試料を良好に吸引することができて、吸引量の不足を生じることがなくなる。
また、本発明のバイオセンサは、空間形成材に、添加空間への液体試料の吸引を促進する空気孔が形成されていることを特徴とするものである。
この構成によれば、空間形成材に、添加空間への液体試料の吸引を促進する空気孔が形成されていることによって、添加空間の毛細管力を高めることができるため、添加空間に血液等の液体試料が添えられると同時に、添加空間内へと速やかに液体試料を吸引することが可能となり、一定量の液体試料を、より確実に、かつ一瞬の間に添加空間に保持することができ、添加する液体試料が不足するような事態の発生を極小化することができる。
また、本発明のバイオセンサは、測定領域は、分析対象物あるいは反応試薬と特異的反応の可能な試薬が固定化された試薬固定化部からなることを特徴とするものである。
また、本発明のバイオセンサは、反応試薬は、分析対象物あるいは固定化試薬と特異的反応の可能な標識試薬を含んでいることを特徴とするものである。
この構成によれば、反応試薬が標識試薬を含んでいるので、液体試料が反応試薬と接すると速やかに標識試薬は溶解あるいは水和し、液体試料中の分析対象物との反応が行われることが可能となる。標識試薬と液体試料とは反応した後に展開流路を展開するため、標識試薬は確実に分析対象物と反応することができ、反応した液体試料が試薬固定化部を通過することから、試薬固定化部における反応度合も均一化することができ、反応度合によって生じていた測定ばらつきも改善され、より高精度な測定を実現することができる。
また、本発明のバイオセンサは、標識試薬は、分析対象物あるいは固定化試薬と特異的反応の可能な試薬が不溶性粒状マーカーに標識されていることを特徴とするものである。
また、本発明のバイオセンサは、不溶性粒状マーカーが、着色重合体ビーズ、金属、合金および重合染料粒子からなる群から選択されることを特徴とするものである。
また、本発明のバイオセンサは、特異的反応が、抗原抗体反応であることを特徴とするものである。
この構成により、抗原抗体反応などの特異的反応を利用したバイオセンサにおいて、試料添加部の液体試料の損失をおさえて、微量な液体試料での測定を可能とし、標識試薬などの担持された反応試薬を完全に溶解・流出できて、液体試料全体に反応試薬を良好に拡散させて反応させることができる。
また、本発明のバイオセンサは、反応試薬が、標識試薬以外の試薬であることを特徴とするものである。
この構成によれば、反応試薬は標識試薬以外の試薬であるので、トレーサーを必要としない反応系、例えばHbA1cの測定における、ヘモグロビンの定量なども実施可能だったり、標識試薬が酵素である場合には、通常酵素反応の為の基質試薬を、後から展開したりする必要性があるが、その必要性を回避することが可能となり、様々な反応系への対応を実現することができる。
また、本発明のバイオセンサは、展開流路の表面を覆う液体不透過性シートを有することを特徴とするものである。
この構成によれば、展開流路の表面は液体不透過性シートで覆われるので、試料添加部から展開する液体試料は、展開流路の表面から蒸発・乾燥することがなく、展開流路をクロマト下流領域まで展開することが可能となるばかりか、試薬固定化部におけるB/F分離(特異的結合反応により形成された複合体と、反応していない物質との分離)が確実に行われるので、より正確な測定を行うことができ、より高感度かつ高精度な測定を実現することができる。
また、本発明のバイオセンサは、液体不透過性シートは、試料添加部の添加空間の一部または近傍から、少なくとも試薬固定化部までの範囲を覆うものであることを特徴とするものである。
この構成によれば、展開流路の試薬固定化部が設けられている箇所の表面は液体不透過性シートで覆われているので、試料添加部の添加空間から展開する液体試料は、展開流路における試薬固定化部の表面から蒸発することなく良好に展開する。
また、本発明のバイオセンサは、液体不透過性シートは、展開流路の下流端部においてはこの展開流路を覆わないものであることを特徴とするものである。
この構成によれば、展開流路の下流端部、すなわち、展開流路における試薬固定化部よりも下流の、液体不透過性シートで覆われていない箇所では、展開液が蒸発して乾燥するため、液体試料のクロマト上流領域から下流領域までの展開がより促進されるばかりか、試薬固定化部におけるB/F分離が確実に行われて、より正確な測定を行うことができ、より高感度かつ高精度な測定を実現することができる。
また、本発明のバイオセンサは、展開流路の流れ方向に沿った両側面部が被覆または封止されていることを特徴とするものである。
この構成によれば、展開流路の流れ方向に沿った両側面部が被覆または封止されていることにより、両側面部からの液体試料の蒸発・乾燥を阻むことが可能となり、展開流路における両脇部分に逃れがちになる液体試料の展開を、クロマト下流領域方向へと促進することが可能となる。その結果、液体試料の展開を均一化できて、液体試料の展開の乱れによる反応度合のばらつきを極小化することが可能となり、より高精度な測定を実現することができる。
また、本発明のバイオセンサは、液体試料が血液サンプルであることを特徴とするものである。
また、本発明のバイオセンサは、反応試薬は細胞収縮剤を含むものであり、この細胞収縮剤が血液サンプル中の血球成分と反応して、血球成分が収縮された状態であるいは血球成分が収縮されながら、血液サンプルが展開流路を展開するようにされていることを特徴とするものである。
これに対して本発明の上記構成によれば、反応試薬に細胞収縮剤、または細胞収縮剤を含む混合試薬を担持したことにより、血液サンプル中の血球成分が、反応試薬である細胞収縮剤と接した際に速やかに収縮してその大きさが均一化される。その結果、不均一な大きさの血球成分により乱れていた血液サンプルの展開状態を均一化することが可能となって反応度合も均一化され、ひいては測定ばらつきも改善されて、より高精度な測定を実現することができる。
また、本発明のバイオセンサは、試料添加部の添加空間には、指先血を毛細管力にて吸引可能であることを特徴とするものである。
また、本発明のバイオセンサは、反応試薬および固定化試薬は、乾燥状態でバイオセンサに保持および固定されていて、液体試料に溶解あるいは水和するものであることを特徴とするものである。
この構成によれば、反応試薬および固定化試薬はいずれも乾燥状態にあり、バイオセンサは乾燥分析素子となることから、持ち運びや保管方法にも優れ、いつでもどこでも誰でも測定することが可能になる。
また、本発明のバイオセンサは、反応試薬は溶液状態で空間形成材の内面に塗布された後に乾燥されたものであり、固定化試薬は溶液状態で展開流路に塗布された後に乾燥されたものであることを特徴とするものである。
また、本発明のバイオセンサは、試料添加部の添加空間の吸引容積が10μl以下であることを特徴とするものである。
この構成により、従来のクロマトセンサと比較して大幅な検体量の削減を実現することができ、指先血などの極めて微量な血液サンプルで良好に定性または定量することができる。
また、本発明のバイオセンサは、前記試料添加部の添加空間が、液体不透過性材料からなる空間形成材により囲まれることで構成され、前記展開流路の上流部分が添加空間の一方の端部側から添加空間に入り込んでいるが、前記展開流路の上流端部の入り込み位置が、前記添加空間における他の端部側に形成された液体試料吸引用の開口部よりも吸引方向奥側の位置であることを特徴とする。
この構成により、血液サンプルなどの液体試料を一定量添加するためのディスペンサなどの用具や、添加された血液を保持するための吸水パッドを必要とすることなく、適当量の液体試料を添加する操作のみで微少な液体試料を一定量保持することができ、かつ微量の液体試料を展開して分析することが可能である。また、展開流路の上流端部は、添加空間における液体試料吸引用の開口部よりも吸引方向奥側の位置までしか入り込んでいないため、前記開口部を通して液体試料を吸引させた際に、液体試料にまず反応試薬だけが溶出されて混在し、その後、反応試薬が既に良好に溶出して混在したあるいは反応した液体試料が、開口部よりも吸引方向奥側の位置、すなわち、流れ方向の下流側に位置する、展開流路の上流端部に流入して展開されることになる。この結果、反応試薬が均一な状態で溶出した液体試料を展開流路に良好に流入させることができて、良好な精度で、定性または定量することができる。
また、本発明のバイオセンサは、展開流路は基板上に支持されており、添加空間は、展開流路の上流端部に対応した基板の一端部とこの基板の一端部を覆う空間形成材とによって所要の吸引空間として形成されており、展開流路は所定の厚みを有し、添加空間に、この添加空間に入り込んだ展開流路の上流端部と基板との間に形成される展開流路の厚みに相当する段差を解消または軽減するように補填することで試料添加部の厚み方向の寸法を減少させて毛細管力を保持する補助基板が設けられていることを特徴とする。
この構成により、補助基板が設けられていることで、空間形成材によって形成された試料添加部が、血液サンプルなどの液体試料を毛細管力により良好に吸引するように保持され、液体試料を良好に吸引することができて、吸引量の不足を生じることがなくなる。
また、本発明のバイオセンサは、展開流路は基板上に支持されており、添加空間は、展開流路の上流端部に対応した基板の一端部からなり、試料添加部の厚さを規定するスペーサと、基板と対向して基板の一端部を覆う空間形成材とによって所要の吸引空間として形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、添加空間内にて保持可能な体積は、添加空間の長さと幅だけでなく、スペーサの厚さにて規定することが可能となり、スペーサの厚さを変更することで、様々な体積を保持可能なバイオセンサを実現することができる。そのため、バイオセンサの構造をよりシンプルにすることが可能になると同時に、バイオセンサの構造のばらつきによる、反応度合のばらつきを極小化することが可能となり、より高精度な測定を実現することができる。
以上のように本発明によれば、試料添加部を、液体不透過性材料からなる空間形成材により添加空間を囲むことで構成したので、液体試料が試料添加部に保水されることなく展開流路を展開させることができる。したがって、従来のように、添加された液体試料が構成材料にて保水されてしまって、展開されない損失検体(デッドボリューム)が発生することを、最低限に抑えることができ、この結果、従来のクロマトセンサと比較して大幅な検体量(液体試料量)の削減を実現することができる。したがって、試料添加部の添加空間に、指先血を毛細管力にて吸引することが可能であり、この場合には、添加空間の吸引容積、すなわち、必要な血液の量を10μl以下とすることも可能である。
また、反応試薬を液体不透過性の空間形成材により保持したことから、反応試薬は保持部である空間形成材に留まる、あるいは吸着されることなく、完全に溶出することが可能となり、反応試薬の溶出度合は常に一定となるばかりか、添加空間で液体試料と接触して溶解し、液体試料全体に拡がり反応した後に、展開流路を展開することが可能となり、反応試薬の残留及び反応試薬と未反応な液体試料の展開を回避することができる。
このように反応試薬の100%の溶出を実現し、未反応な液体試料の展開を回避できる。また、液体不透過性材料からなる空間形成材により囲むことで添加空間を形成することによって、より正確かつ高精度・高感度な測定を可能とする簡易迅速測定の可能なバイオセンサを提供することができる。
また、反応試薬を、試料添加部における展開流路の延長線上の面とは異なる箇所に配設させたり、空間形成材における基板の面から離れて対向する上面部裏面に保持させたりすることで、試料添加部の添加空間に添加された液体試料に対して反応試薬がより均一に溶け出した状態で、展開流路に導入されることとなり、より正確かつ高精度・高感度な測定結果を得ることができる。
また、基板に、添加空間の厚さを調整する補助基板を配設したことにより、この添加空間に入り込んだ展開流路の上流端部と基板との間に形成される展開流路の厚みに相当する段差を解消または軽減するように補填することで添加空間の厚み方向の寸法を減少させて毛細管力を保持する補助基板を設けることで、添加空間が、液体試料を吸引する毛細管力が良好に作用して、液体試料を良好に吸引することができ、これによっても定性または定量時の精度を向上させることができる。
また、本発明のバイオセンサの空間形成材に、添加空間への液体試料の吸引を促進する空気孔を設けたことにより、添加空間に液体試料が添えられると同時に、添加空間内へと速やかに液体試料を吸引することが可能となり、一定量の液体試料を、より確実かつ一瞬の間に保持することができて、添加する液体試料が不足するような事態の発生を極小化することができる。
また、反応試薬に、分析対象物あるいは固定化試薬と特異的反応の可能な標識試薬を含ませたことにより、標識試薬と液体試料とは反応した後に展開流路を展開するため、標識試薬は確実に分析対象物と反応することができ、試薬固定化部における反応度合も均一化することができる。したがって、反応度合によって生じていた測定ばらつきも改善されて、より高精度な測定を実現することができる。
また、液体不透過性シートにより展開流路の表面を覆うことで、液体試料は、展開流路の表面から蒸発・乾燥することがなく、展開流路をクロマト下流領域まで展開することが可能となる。また、試薬固定化部におけるB/F分離が確実に行われるので、より正確な測定を行うことができ、より高感度かつ高精度な測定を実現することができる。
また、展開流路の流れ方向に沿った両側面を封止することにより、展開流路の両脇に逃れがちになる液体試料の展開を、クロマト下流領域方向へと促進することが可能となり、液体試料の展開を均一化できて、液体試料の展開の乱れによる反応度合のばらつきを極小化することが可能となる。
また、液体試料が血液である場合に、反応試薬に細胞収縮剤、または細胞収縮剤を含む混合試薬を含ませることにより、血液中の血球成分が、反応試薬である細胞収縮剤と接した際に速やかに収縮してその大きさが均一化され、血液の展開状態を均一化することが可能となって、より高精度な測定を実現することができる。
また、本発明によれば、液体試料を毛細管力にて吸引して保持することが可能な添加空間に、反応試薬を担持させ、展開流路を、その上流端部が、添加空間部内における血液液体試料吸引用の開口部よりも吸引方向奥側の位置までしか入り込んでいないように配設することで、添加空間に血液サンプルなどの液体試料を添加して吸引させた際に、液体試料に反応試薬が良好に溶出した後に、展開流路の上流端部に流入して展開されることになる。したがって、反応試薬が均一な状態で溶出した液体試料を展開流路に良好に流入させることができて、高精度に定性または定量することができるとともに、良好に高感度測定を行うことができる。
また、添加空間に、この添加空間に入り込んだ展開流路の上流端部と基板との間に形成される展開流路の厚みに相当する段差を解消または軽減するように補填することで添加空間の厚み方向の寸法を減少させて毛細管力を保持する補助基板を設けることで、添加空間が、液体試料を吸引する毛細管力が良好に作用して、液体試料を良好に吸引することができ、これによっても定性または定量時の精度を向上させることができる。
また、展開流路は基板上に支持されており、添加空間は、展開流路の上流端部に対応した基板の一端部からなり、添加空間の厚さを規定するスペーサと、基板と対向して基板の一端部を覆う空間形成材とによって所要の吸引空間として形成されていることにより、添加空間内にて保持可能な血液サンプルの体積を、スペーサの厚さの変更だけで容易に実現することができて、バイオセンサの構造をよりシンプルにすることが可能となると同時に、バイオセンサの構造のばらつきによる、反応度合のばらつきを極小化することが可能となって、より高精度な測定を実現できる。
以下、本発明に係るバイオセンサの実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずしもこの実施の形態に限定されるものではない。なお、本実施の形態において、被検査物質とは実質的に分析対象物と同じものである。
図1A、図1B、図1Cはそれぞれ本発明の第1の実施の形態に係るバイオセンサの構成を示す図であり、図1Aはバイオセンサの斜視図、図1Bはバイオセンサの縦断面図、図1Cはバイオセンサの分解斜視図である。
図1A〜図1Cに示すように、バイオセンサは、液体試料が添加される試料添加部12(添加空間9)と、液体試料に反応する反応試薬14と、反応試薬14が混在する液体試料、あるいは反応試薬14と反応した液体試料を展開する展開流路2と、試料添加部12および展開流路2を支持する支持体としての基板1とを有し、免疫クロマトグラフィーを用いて、液体試料中の分析対象物の存否あるいは濃度を測定する。試料添加部12は、液体不透過性材料からなる空間形成材8により微細な添加空間9を囲むことで構成され、試料添加部12における微細空間形成材8の添加空間9に臨む箇所に、トレーサー(以下、標識試薬とも称す)を含む反応試薬14が、添加空間9に添加された液体試料に溶け出し可能な状態で保持されている。なお、トレーサーとは、リガンド部分、およびこのリガンド部分に結合した検出可能な標識部分で構成される。
ここで、トレーサー(標識試薬)を含有する反応試薬14は、試料添加部12における展開流路2のクロマト展開方向上流領域が突入されている添加空間9の底面部に相当する基板1の上面(試料添加部12における展開流路2の延長線上の面)とは異なる箇所に、展開流路2や基板1に接触しない状態で保持されている。この実施の形態では、反応試薬14は、展開流路2が配設されている基板1の上面から所定距離だけ離れて対向する空間形成材8の上面部裏面に保持されている。
また、反応試薬14は、測定対象である液体試料が、血球などの細胞成分を有しない血漿や血清などの場合には、標識試薬を含む一方で、細胞成分を収縮させる細胞収縮剤を含まない構成とされている。これに対して、測定対象である液体試料が、血球などの細胞成分を含む全血などの場合には、反応試薬14は、標識試薬および細胞収縮剤を含む構成とされている。
展開流路2の一部には、特異的タンパク質が固定化された、測定領域としても用いられる試薬固定化部3が設けられている。また、展開流路2の表面は、クロマト展開方向の下流端領域(クロマト下流端とも称す)にある開放部10を除いて、クロマト上流領域から少なくとも試薬固定化部3を含むクロマト下流領域まで、液体不透過性材料からなる液体不透過性シート7で覆われている。クロマト上流領域には、上記した、液体不透過性材料からなる空間形成材8により微細な添加空間9を囲むことで構成された試料添加部12が設けられている。図1Bに示すように、添加空間9は液体試料を一定量吸引する(この実施の形態では毛細管現象により液体試料を一定量吸引する)ための、クロマト上流端にあたる空間であり、この添加空間9の先端は、液体試料をバイオセンサに供給するための開口部11とされている。
また、この実施の形態では、バイオセンサのクロマト上流領域のみバイオセンサの底面部(支持体)をなす基板1の上に、スペーサとして機能する補助基板18(材料は基板1と同様なもので、後述するように液体不透過性材料からなる)が重ねられて配設されている。展開流路2におけるクロマト上流領域の端部は、添加空間9における開口部11よりも吸引方向奥側の位置、すなわち、クロマト展開方向の下流側の位置までしか配設されておらず、この展開流路2における上流端部から開口部11までの領域には、展開流路2が設けられていない。前記補助基板18は、添加空間9の底面部側の段差をなくすとともに、開口部11に続く箇所において液体試料を良好に毛細管現象により吸引できるように添加空間9の厚み寸法(上下方向厚み)を調節する機能も有している。補助基板18は液体不透過性材料から構成され、好ましくは展開流路2と同じ厚さによって展開流路2との段差をなくすように設定するとよいが、これに限るものではなく、展開流路2との段差を軽減させるだけの厚みでもよく、その材質も厚みも問わない。さらに、この箇所の添加空間9の厚みが小さくて、毛細管力を保持できれば、段差がそのまま存在しても、何ら差し支えない。また、補助基板18は、必ずしも基板1とは別体にしなくてもよく、補助基板18に相当する肉厚部分を基板1に一体形成してもよい。なお、補助基板18に相当する肉厚部分を基板1に一体形成したり、別体の補助基板18を基板1に精度よく接合させたりすることで、添加空間9を形成するために空間形成材8を基板1上に取り付ける際に、空間形成材8を基板1上にゆがみ無く取り付けることができて、組み付け精度が向上する利点もある。
次に、図2A、図2B、図2C、図2D、図2Eを用いて、バイオセンサ上の液体試料の展開状況を説明する。図2A〜図2Eは、それぞれ、本発明の実施の形態に係るバイオセンサに液体試料が添加された場合の、バイオセンサにおける液体試料の展開状況を示す断面図である。
図2Aに示すように、試料添加部12の開口部11に、血液サンプルSなどの液体試料が点着(添加)される(Step1)と、図2Bに示すように、添加空間9へ一定量の液体試料が毛細管現象により吸引され、添加空間9内は液体試料で満たされる(Step2)。添加空間9に液体試料が吸引されると、反応試薬14の試薬(標識試薬、または標識試薬および細胞収縮剤)が液体試料と接触し、速やかに溶解し始める。添加空間9に液体試料が満たされると、溶解した標識試薬、または標識試薬および細胞収縮剤(以下、単に標識試薬等と称す)は、液体試料と反応して添加空間9全体へ拡散していきながら、図2Cに示すように、液体試料は展開流路2へと展開していく(Step3)。
展開流路2を展開する液体試料は、標識試薬等と反応した状態で展開し、図2Dに示すように、試薬固定化部3に到達した後、通過する(Step4)。試薬固定化部3に到達すると、液体試料中に分析対象物が存在する場合、標識試薬および分析対象物と固定化試薬との間で特異的反応が行われ、試薬固定化部3には標識試薬由来の呈色反応が生じる。展開流路2をさらに展開した液体試料は、展開流路2における液体不透過性シート7により覆われている領域では、液体不透過性シート7の働きにより表面からの水分蒸発が阻止されており、液体不透過性シート7により覆われていない開放部10に到達して初めて水分蒸発が始まる(図2E参照)。この乾燥過程は液体試料の移動を助け、試料添加部12から開放部10への液体試料の展開が促進される。試料添加部12は、液体不透過性材料から構成された微細空間であり、微細空間内で保持されることなく、液体の展開移動によって、クロマト下流方向へと移動していく(Step5)。これらの過程を経緯して試薬固定化部3に出現した標識試薬の反応を、目視あるいは測定装置を用いて検出することにより、液体試料中の分析対象物の存在、あるいは濃度を確認することが可能となる。
なお、ここで示す展開流路2は、液体が毛細管力(毛細管現象により生じる力)で移動可能な任意の材料で構成された、液体試料が展開可能な流路である。この展開流路2は、液体試料により湿潤され、液体試料を展開可能な流路を形成できる材料であればよく、濾紙、不織布、メンブレン、布、ガラス繊維等多孔質な任意の材料でよい。あるいは、流路を中空の毛細管で形成してもよく、このような場合の中空の毛細管材料は、樹脂材料等で構成できる。
また、標識試薬は、抗体に金コロイドなどの標識物を標識したもので、前記試薬固定化部3における結合を検出する手段として用いられるものである。前述した金コロイドはほんの標識試薬の一例に過ぎず、金属あるいは非金属コロイド粒子、酵素、タンパク質、色素、蛍光色素、発光物質、ラテックスなどの着色粒子など、必要に応じて任意に選択可能である。
更に、試薬固定化部3に使用する抗体は、標識試薬および被検査物質との複合体を形成できれば良く、従って、被検査物質に対するエピトープもしくは親和性は、同じであっても異なっていても何れでも良い。2つの抗体の親和性は異なるが、エピトープが同じでも何ら問題はない。
また、図1A〜図1C及び図2A〜図2Eに示すバイオセンサの構成では、試薬固定化部3が1箇所だけに設けられている例を示すが、これは必ずしも1箇所である必要はなく、複数箇所でもよく、1箇所以上であれば、その目的に応じて自在に選択できる。また、展開流路2上の試薬固定化部3の形状についても、ライン状である必要はなく、スポット形状、もしくは、文字形状、鍵型形状など、自由に選択でき、複数の試薬固定化部を設定した場合においては、空間的に離れているあるいは、見かけ上一本のライン状に見えるように接触させるなど、様々な位置関係を設定することも可能である。
展開流路2を覆う液体不透過性シート材7は、例えば透明PETテープで構成される。前記液体不透過性シート材7は、試料添加部となる添加空間9に接続する部分、および前記液体試料の到達する下流端を除き、展開流路2を密着被覆する。
このように液体不透過性シート材7により展開流路2を被覆することで、試料添加部12(添加空間9)以外への点着を防止して保護すると共に、外部からの汚染を防止する作用を持たせることができる。さらにこればかりでなく、液体試料の展開時に、液体試料が展開しながら蒸発してしまうことを防止し、展開流路2上の反応部分である試薬固定化部3を必ず液体試料が通過し、前記試薬固定化部3において液体試料中の被検査物質との反応を効率よく行うようにすることができる。ここでの外部からの汚染とは、この展開流路2上の反応部分に対して不用意に液体試料が接触することや、被験者が手などで展開流路2に直接接触することなどを指す。前記展開流路2を被覆する液体不透過性シート材7には、透明な材料を用いることが好ましく、前記試薬固定化部3を覆う部分は、シグナルを測定する部分であるから、少なくとも光が透過可能な状態を持たせることが好ましい。
また、より高精度な測定を行う場合には、展開流路2の上面部および側面部を、特に前記試薬固定化部3を含んで密着密閉し、かつ、液体試料の展開方向に対して平行な側面を、同様に密着、密閉させる構造をとることもできる。このように、展開流路2の上面部だけでなく、両側面部も液体不透過性シート材7により覆うことで、この側面部からの液体試料の蒸発・乾燥を阻むことが可能となり、展開流路2における両脇部分に逃れがちになる液体試料の展開を、クロマト下流領域方向へと促進することが可能となる。なお、液体不透過性シート材7により両側面部を覆う代わりに、図3Aに示すように、両側面部を封止してもよく(図3Aにおいては、展開流路2の両側部および基板1の両側面部も封止している場合を示しているがこれに限るものではない)、封止する方法としては、封止材17を用いて塗布または充填してもよいが、これに限るものではなく、展開流路2の製造工程においてレーザーを走査し溶融するあるいはレーザーで切断することで、切断と同時に両側面部の孔部を封止することが可能である。また、図3A、図3B、図3Bに示すように、添加空間9への毛細管力を促進するための空気孔13を、添加空間9を形成する空間形成材8の一方の端部における側面部分に代えて、上面部分に開口させて形成してもよい。
なお、基板1は、PETフィルムなどの液体不透過性シート材で構成され、透明、半透明、不透明のいずれをとってもよいが、例えば光学的検出機器を使用する場合などは、透過光を測定する場合は透明、反射光を測定する場合は不透明の材料を用いるのが好ましい。また、その材質は、ABS、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂材料の他、金属、ガラス等、液体不透過性の材料を用いることが可能である。
試料添加部12における添加空間9を形成する液体不透過性材料からなる微細空間形成材8は、液体試料を一定量吸引して保持するばかりでなく、添加後のバイオセンサを取り扱う際に、液体試料の外部への汚染を保護する役割をも有する。この微細空間形成材8には、ABS、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂材料の他、金属、ガラス等、液体不透過性の材料を用いることが可能であり、また、透明もしくは半透明であることが好ましいが、透明でなくて有色であってもよく、あるいはこの不透明の材料の場合には任意の材料で構成できる。
クロマト下流端の開放部10には、液体不透過性シート7が設けられておらず、開放されているため、液体試料が到達した後、あるいは到達しながら揮発もしくは蒸発する。さらには、開放部10に液体試料が滲み出て、開放部10における展開流路2の上部にのみ、液体試料が、添加空間9内の展開流路2の上部にある液体試料と同じ高さ、もしくは準じた高さまで至る。
[実施例1]
(血漿を用いたCRPの定量)
(a)比較例のバイオセンサの作製
まず、比較例のバイオセンサ(免疫クロマトセンサ)の製造方法について説明する。ここで、予めこの比較例のバイオセンサの構造を簡略的に説明する。図17Aは比較例のバイオセンサの斜視図、図17Bはバイオセンサの分解斜視図である。図17A、図17Bに示すように、このバイオセンサは、図14A〜図14Cに示す従来のバイオセンサとほぼ同様な構成とされているが、展開流路2に、抗CRP抗体Aを固定化した第1試薬固定化部(第1固定化抗体ラインとも称す)3Aと抗CRP抗体Bを固定化した第2試薬固定化部(第2固定化抗体ラインとも称す)3Bと、さらに抗CRP抗体Cと金コロイドとの複合体(標識試薬)を保持した標識試薬保持部4とを有している。
このバイオセンサは、次のようにして製造した。
リン酸緩衝溶液にて希釈して濃度調整をした抗CRP抗体A溶液を準備した。この抗体溶液は溶液吐出装置を用いて、ニトロセルロース膜上に塗布した。次に同様にして、試料添加部領域5から下流側に4mm離れた部分に、抗CRP抗体B溶液を塗布した。これにより、ニトロセルロース膜上に試薬固定化部3である第1固定化抗体ライン3Aおよび第2固定化抗体ライン3Bが得られた。このニトロセルロース膜を乾燥後、1%スキムミルクを含有するTris−HCl緩衝溶液中に浸漬して30分間緩やかに振った。30分後、Tris−HCl緩衝溶液槽にニトロセルロース膜を移動し、10分間緩やかに振った後に、別のTris−HCl緩衝溶液槽にて更に10分間緩やかに振り、ニトロセルロース膜の洗浄を行った。次に、0.05%シュクロースモノラウレートを含有するTris−HCl緩衝溶液中に浸漬して10分間緩やかに振った後に、ニトロセルロース膜を液槽から取り出して、室温で乾燥させた。これにより、展開流路2が得られた。
標識試薬の金コロイドは、還流中の0.01%の塩化金酸100℃溶液に1%クエン酸3ナトリウム溶液を加えることによって調製した。還流を15分間続けた後に、室温放置にて冷却した。0.2Mの炭酸カリウム溶液によって、pH8.9に調製した前記金コロイド溶液に、抗CRP抗体Cを加えて数分間攪拌した後に、pH8.9の10%BSA(牛血清アルブミン)溶液を最終1%になる量だけ加えて攪拌することで、抗体−金コロイド複合体(標識抗体)を調製した。前記標識抗体溶液を4℃、20000Gで50分間遠心分離することによって、標識抗体を単離して、それを洗浄緩衝液(1%BSA5%スクロース・リン酸緩衝液)中に懸濁した後に、前記遠心分離を行って、標識抗体を洗浄単離した。この標識抗体を洗浄緩衝液で懸濁して、0.8μmのフィルタにて濾過した後に、520nmの吸光度が150となるように調製して、4℃で貯蔵した。前記標識抗体溶液を溶液吐出装置にセットして、固定化抗CRP抗体A及び固定化抗CRP抗体Bが塗布された乾燥膜上の第1固定化抗体ライン3Aおよび第2固定化抗体ライン3Bから離れた位置に反応試薬(標識試薬)を塗布して、液体試料の添加開始方向から順番に、標識試薬保持部4、第1固定化抗体ライン3A、第2固定化抗体ライン3Bの位置関係になるようにした後に、ニトロセルロース膜を真空凍結乾燥させた。これによって、標識試薬保持部4および試薬固定化部3(第1固定化抗体ライン3A、第2固定化抗体ライン3B)を備えた展開流路2が得られた。
次に、調製された反応試薬(標識試薬)を含む展開流路2を、厚さ0.5mmの白色PETからなる基板1上に貼り付け、標識試薬保持部4よりも展開上流側に試料添加部領域5を、展開流路末端(下流端)からさらに展開下流側へ吸水部6を、それぞれ展開流路2もしくは標識試薬保持部4へ毛細管流にて接続可能なように貼り付けた。その後、レーザーを用いて、2.0mmの幅に切断した。こうして従来構造の免疫クロマトセンサとしてのバイオセンサを製造した。
(b)本発明のバイオセンサの作製
本発明のバイオセンサ(免疫クロマトセンサ)の製造方法について説明する。図4Aは本発明の他の実施の形態に係るバイオセンサの斜視図、図4Bはバイオセンサの分解斜視図である。図4A、図4B、図1A〜図1Cに示すように、このバイオセンサは、図1A〜図1Cに示すバイオセンサとほぼ同様な構成とされているが、ニトロセルロース膜からなる展開流路2上に、抗CRP抗体Aを固定化した第1試薬固定化部(第1固定化抗体ラインとも称す)3Aと抗CRP抗体Bを固定化した第2試薬固定化部(第2固定化抗体ラインとも称す)3Bとが設けられ、さらに抗CRP抗体Cと金コロイドとの複合体(標識試薬)を保持した反応試薬14が設けられている。
このバイオセンサは、次のようにして製造した。
リン酸緩衝溶液にて希釈して濃度調整をした抗CRP抗体A溶液を準備した。この抗体溶液は溶液吐出装置を用いて、ニトロセルロース膜上に塗布した。次に同様にして、試料添加部12より下流側に4mm離れた部分に、抗CRP抗体B溶液を塗布した。これにより、ニトロセルロース膜上に試薬固定化部3である第1固定化抗体ライン3Aおよび第2固定化抗体ライン3Bが得られた。このニトロセルロース膜を乾燥後、1%スキムミルクを含有するTris−HCl緩衝溶液中に浸漬して30分間緩やかに振った。30分後、Tris−HCl緩衝溶液槽にニトロセルロース膜を移動し、10分間緩やかに振った後に、別のTris−HCl緩衝溶液槽にて更に10分間緩やかに振り、ニトロセルロース膜の洗浄を行った。次に、0.05%シュクロースモノラウレートを含有するTris−HCl緩衝溶液中に浸漬して10分間緩やかに振った後に、ニトロセルロース膜を液槽から取り出して、室温で乾燥させた。これにより、展開流路2が得られた。
反応試薬(標識試薬)14の金コロイドは、還流中の0.01%の塩化金酸100℃溶液に1%クエン酸3ナトリウム溶液を加えることによって調製した。還流を15分間続けた後に、室温放置にて冷却した。0.2Mの炭酸カリウム溶液によって、pH8.9に調製した前記金コロイド溶液に、抗CRP抗体Cを加えて数分間攪拌した後に、pH8.9の10%BSA(牛血清アルブミン)溶液を最終1%になる量だけ加えて攪拌することで、抗体−金コロイド複合体(標識抗体)を調製した。前記標識抗体溶液を4℃、20000Gで50分間遠心分離することによって、標識抗体を単離して、それを洗浄緩衝液(1%BSA5%スクロース・リン酸緩衝液)中に懸濁した後に、前記遠心分離を行って、標識抗体を洗浄単離した。この標識抗体を洗浄緩衝液で懸濁して、0.8μmのフィルタにて濾過した後に、520nmの吸光度が50となるように調製して、4℃で貯蔵した。次に厚さ100μmの透明PETを積層させて作製した空間形成材8を貼り付け、微細な添加空間(幅2.0mm×長さ7.0mm×高さ0.3mm)9を形成した。この添加空間9に、前記標識抗体溶液を3μl塗布し風乾することで、反応試薬14が得られた。
次に、調製された展開流路2を、厚さ0.5mmの白色PETからなる基板1上に貼り付け、クロマト展開の上下流側をいずれも3mm程度除く展開流路2の表面に透明テープを貼り付けた。その後、レーザーを用いて、2.0mmの幅に切断した。切断後、透明テープを貼り付けない始端部分(クロマト上流側)上に、反応試薬14を保持する空間形成材8を貼り付け、添加空間9を形成した。こうして本発明の免疫クロマトセンサとしてのバイオセンサを製造した。
(c)液体試料の調製
抗凝固剤としてヘパリンを加えた人の血液から血漿を分離し、既知濃度のCRP溶液を加えることにより、CRP濃度0.1mg/dl、1mg/dlの血漿を調整した。
(d)バイオセンサ上の呈色度合の測定
前記(a)および(b)の作製工程で作製されたバイオセンサの試料添加部5、12に、前記(c)工程にて調整したCRPを含む血漿を添加し、クロマト下流方向へと展開処理して、抗原抗体反応をさせた。これらの(a)工程および(b)工程で作製されたバイオセンサに液体試料を添加してから5分後の試薬固定化部3A、3Bにおける呈色状況を計測した。図5Aは上記比較例のバイオセンサにより測定している状態を概略的に示す斜視図、図5Bは本実施の形態のバイオセンサにより測定している状態を概略的に示す斜視図である。ここで、図5A、図5Bにおいて、21は、635nmの半導体レーザーからなる光源を照射する照射部、22は、バイオセンサからの反射散乱光を受ける受光素子(フォトダイオード)で構成される受光部である。この装置構成において、バイオセンサを走査し、第1試薬固定化部3Aおよび第2試薬固定化部3Bにおける標識抗体結合量を展開流路2からの反射散乱光を演算処理して、吸光度として結果を得る。前記(a)(b)の各工程で作製した10個(N=10)のバイオセンサ(従来のバイオセンサ(仕様(a))と本発明の実施の形態に係るバイオセンサ(仕様(b)))に対して同時再現性の測定を行った際の測定結果を図6A、図6Bに示す。
図6Aおよび図6Bは、第1試薬固定化部3Aおよび第2試薬固定化部3Bにおける吸光度の測定結果を示したものであり、CRP濃度において0.1mg/dlでは第1試薬固定化部3Aが、1mg/dlでは第2試薬固定化部3Bが定量演算に用いることから、0.1mg/dlでは第1試薬固定化部3Aの吸光度とCV値を、1mg/dlでは第2試薬固定化部3Bの吸光度とCV値を示している。なお、CV値とは標準偏差/平均値×100を示す。
図6A、図6Bに示すように、いずれの濃度においても仕様(b)と比較して仕様(a)の方が吸光度は低い。これは本発明の課題において述べたように、従来のバイオセンサでは、展開流路2に担持された標識試薬が完全に溶出していないためと、添加した液体試料中の分析対象物であるCRPと標識試薬とが十分に反応していないために低い吸光度となった結果であり、仕様(b)、すなわち本発明のバイオセンサの吸光度が高くなったのは、この2点を解消して標識試薬の完全な溶出と、分析対象物とCRPと標識試薬との十分な反応を実現し、かつこの反応液体試料が展開流路2を十分に展開することを可能にしたからであることが良好にうかがえる。
更にCV値を比較すると、両仕様によるCV値に大きな相違は出ておらず、粘度が低く展開性の良好な血漿を検体として用いたことにより展開に大きなばらつきが生じていないことがわかる。この結果から、吸光度が2つの仕様で異なる要因は、標識試薬を保持した部位及び担体に起因しており、本発明を用いることで感度が向上し、高感度測定実現が可能になったことがうかがえる。また、本発明の実施例1のバイオセンサでは、液体透過性の構成部材が減ったことにより、検体量も大幅に減少させることが可能となる。
[実施例2]
(全血を用いた血中CRPの定量)
(a)比較例のバイオセンサの作製
ニトロセルロース膜上に、抗CRP抗体Aを固定化した第1試薬固定化部(第1固定化抗体ラインとも称す)3A、および抗CRP抗体Bを固定化した第2試薬固定化部(第2固定化抗体ラインとも称す)3B、さらに抗CRP抗体Cと金コロイドとの複合体(標識試薬)を保持した標識試薬保持部4を含むバイオセンサを製造した。図17Aは比較例のバイオセンサの斜視図、図17Bはバイオセンサの分解斜視図である。
この免疫クロマトセンサは、次のようにして製造した。
リン酸緩衝溶液にて希釈して濃度調整をした抗CRP抗体A溶液を準備した。この抗体溶液は溶液吐出装置を用いて、ニトロセルロース膜上に塗布した。次に同様にして、試料添加部より下流側に4mm離れた部分に、抗CRP抗体B溶液を塗布した。これにより、ニトロセルロース膜上に試薬固定化部3である第1固定化抗体ライン3Aおよび第2固定化抗体ライン3Bが得られた。このニトロセルロース膜を乾燥後、1%スキムミルクを含有するTris−HCl緩衝溶液中に浸漬して30分間緩やかに振った。30分後、Tris−HCl緩衝溶液槽にニトロセルロース膜を移動し、10分間緩やかに振った後に、別のTris−HCl緩衝溶液槽にて更に10分間緩やかに振り、ニトロセルロース膜の洗浄を行った。次に、0.05%シュクロースモノラウレートを含有するTris−HCl緩衝溶液中に浸漬して10分間緩やかに振った後に、ニトロセルロース膜を液槽から取り出して、室温で乾燥させた。これにより、展開流路2が得られた。
反応試薬(標識試薬)の金コロイドは、還流中の0.01%の塩化金酸100℃溶液に1%クエン酸3ナトリウム溶液を加えることによって調製した。還流を15分間続けた後に、室温放置にて冷却した。0.2Mの炭酸カリウム溶液によって、pH8.9に調製した前記金コロイド溶液に、抗CRP抗体Cを加えて数分間攪拌した後に、pH8.9の10%BSA(牛血清アルブミン)溶液を最終1%になる量だけ加えて攪拌することで、抗体−金コロイド複合体(標識抗体)を調製した。前記標識抗体溶液を4℃、20000Gで50分間遠心分離することによって、標識抗体を単離して、それを洗浄緩衝液(1%BSA5%スクロース・リン酸緩衝液)中に懸濁した後に、前記遠心分離を行って、標識抗体を洗浄単離した。この標識抗体を洗浄緩衝液で懸濁して、0.8μmのフィルタにて濾過した後に、520nmの吸光度が150となるように調製して、4℃で貯蔵した。前記標識抗体溶液を溶液吐出装置にセットして、固定化抗CRP抗体A及び固定化抗CRP抗体Bが塗布された乾燥膜上の第1固定化抗体ライン3Aおよび第2固定化抗体ライン3Bから離れた位置に反応試薬(標識試薬)を塗布して、液体試料の添加開始方向から順番に、標識試薬保持部4、第1固定化抗体ライン3A、第2固定化抗体ライン3Bの位置関係になるようにした後に、ニトロセルロース膜を真空凍結乾燥させた。これによって、標識試薬保持部4および試薬固定化部3(第1固定化抗体ライン3A、第2固定化抗体ライン3B)を備えた展開流路2が得られた。
次に、調製された標識試薬を含む反応層担体を、厚さ0.5mmの白色PETからなる基板1上に貼り付け、標識試薬保持部4から終端部分にかけて、透明テープを貼り付けた。その後、レーザーを用いて、2.0mmの幅に切断した。切断後、透明テープを貼り付けない始端部分上に、厚さ100μmの透明PETを積層させて作製した空間形成材8を貼り付け、微細な添加空間(幅2.0mm×長さ7.0mm×高さ0.3mm)9を形成した。
前記空間形成材8はあらかじめ10%塩化カリウム水溶液を点着した後に、液体窒素にて直ちに凍結し、凍結乾燥を行い、これによって、塩化カリウムが乾燥状態で保持された細胞収縮剤を保持する空間形成材8を有するバイオセンサを作製したものである。こうして比較例の免疫クロマトセンサを製造した。すなわち、この比較例としてのバイオセンサでは、図17A、図17Bには図示していないが、図4A、図4Bに示すものと同様な空間形成材8を有している。しかし、空間形成材8には、細胞収縮剤のみ保持され、標識試薬保持部4は反応層担体(展開流路2)の上流側領域に配設されている。
b)本発明の免疫クロマトセンサの作製
ニトロセルロース膜上に第1試薬固定化部(第1固定化抗体ラインとも称す)3A、および抗CRP抗体Bを固定化した第2試薬固定化部(第2固定化抗体ラインとも称す)3B、さらに抗CRP抗体Cと金コロイドとの複合体(標識試薬)および細胞収縮剤を保持した反応試薬14を含む本発明のバイオセンサを製造した。図4Aは、このバイオセンサの斜視図を、図4Bは分解斜視図を示す。
このバイオセンサは、次のようにして製造した。
リン酸緩衝溶液にて希釈して濃度調整をした抗CRP抗体A溶液を準備した。この抗体溶液は溶液吐出装置を用いて、ニトロセルロース膜上に塗布した。次に同様にして、試料添加部12より下流側に4mm離れた部分に、抗CRP抗体B溶液を塗布した。これにより、ニトロセルロース膜上に試薬固定化部3である第1固定化抗体ライン3A、および抗CRP抗体Bを固定化した第2固定化抗体ライン3Bが得られた。このニトロセルロース膜を乾燥後、1%スキムミルクを含有するTris−HCl緩衝溶液中に浸漬して30分間緩やかに振った。30分後、Tris−HCl緩衝溶液槽にニトロセルロース膜を移動し、10分間緩やかに振った後に、別のTris−HCl緩衝溶液槽にて更に10分間緩やかに振り、膜の洗浄を行った。次に、0.05%シュクロースモノラウレートを含有するTris−HCl緩衝溶液中に浸漬して10分間緩やかに振った後に、膜を液槽から取り出して、室温で乾燥させた。これにより、展開流路2が得られた。
標識試薬の金コロイドは、還流中の0.01%の塩化金酸100℃溶液に1%クエン酸3ナトリウム溶液を加えることによって調製した。還流を15分間続けた後に、室温放置にて冷却した。0.2Mの炭酸カリウム溶液によって、pH8.9に調製した前記金コロイド溶液に、抗CRP抗体Cを加えて数分間攪拌した後に、pH8.9の10%BSA(牛血清アルブミン)溶液を最終1%になる量だけ加えて攪拌することで、抗体−金コロイド複合体(標識抗体)を調製した。前記標識抗体溶液を4℃、20000Gで50分間遠心分離することによって、標識抗体を単離して、それを洗浄緩衝液(1%BSA5%スクロース・リン酸緩衝液)中に懸濁した後に、前記遠心分離を行って、標識抗体を洗浄単離した。この標識抗体を洗浄緩衝液で懸濁して、0.8μmのフィルタにて濾過した後に、520nmの吸光度が50となるように調製した。さらに前記標識抗体溶液に塩化カリウムが最終濃度10%になるよう加えた、標識抗体−細胞収縮剤混合溶液を調整したのち4℃で貯蔵した。次に厚さ100μmの透明PETを積層させて作製した空間形成材8を貼り付け、添加空間(幅2.0mm×長さ7.0mm×高さ0.3mm)9を形成した。この添加空間9に、前記標識抗体−細胞収縮剤混合溶液を3μl塗布して風乾することで、反応試薬14が得られた。
次に、調製された展開流路を、厚さ0.5mmの白色PETからなる基板1上に貼り付け、クロマト展開の上下流側をいずれも3mm程度除く展開流路2の表面に透明テープを貼り付けた。その後、レーザーを用いて、2.0mmの幅に切断した。切断後、透明テープを貼り付けない始端部分(クロマト上流側)上に、反応試薬14を保持する空間形成材8を貼り付け、添加空間9を形成した。こうして本発明のバイオセンサを製造した。
c)液体試料の調製
抗凝固剤としてヘパリンを加えた人の血液に、既知濃度のCRP溶液を加えることにより、CRP濃度0.1mg/dl、1mg/dlの血液(全血)を調整した。
d)バイオセンサ上の呈色度合の測定
前記(a)および(b)の作製工程で作製されたバイオセンサの試料添加部5、12に、前記(c)工程にて調整したCRPを含む全血を添加し、クロマト下流方向へと展開処理して、抗原抗体反応をさせた。これらの(a)工程および(b)工程で作製されたバイオセンサに液体試料を添加してから5分後の試薬固定化部3A、3Bにおける呈色状況を計測した。図5Aは上記従来のバイオセンサにより測定している状態を概略的に示す斜視図、図5Bは本実施の形態のバイオセンサにより測定している状態を概略的に示す斜視図である。ここで、図5A、図5Bにおいて、21は、635nmの半導体レーザーからなる光源を照射する照射部、22は、バイオセンサからの反射散乱光を受ける受光素子(フォトダイオード)で構成される受光部である。この装置構成において、バイオセンサを走査し、第1試薬固定化部3Aおよび第2試薬固定化部3Bにおける標識抗体結合量を展開流路2からの反射散乱光を演算処理して、吸光度として結果を得る。前記(a)(b)の各工程で作製した10個(N=10)のバイオセンサ(従来のバイオセンサ(仕様(a))と本発明の実施の形態に係るバイオセンサ(仕様(b)))に対して同時再現性の測定を行った際の測定結果を図7A、図7Bに示す。
図7Aおよび図7Bは、第1試薬固定化部3Aおよび第2試薬固定化部3Bにおける吸光度の測定結果を示したものであり、CRP濃度において0.1mg/dlでは第1試薬固定化部3Aが、1mg/dlでは第2試薬固定化部3Bが定量演算に用いられることから、0.1mg/dlでは第1試薬固定化部3Aの吸光度とCV値を、1mg/dlでは第2試薬固定化部3Bの吸光度とCV値を示している。
図7A、図7Bに示すように、いずれの濃度においても仕様(b)と比較して仕様(a)の方が吸光度は低い。これは本発明の課題において述べたように、従来のバイオセンサでは、展開流路2に担持された標識試薬が完全に溶出していないためと、添加した液体試料中の分析対象物であるCRPと標識試薬とが十分に反応していないために低い吸光度となった結果であり、仕様(b)、すなわち本発明のバイオセンサの吸光度が高くなったのは、この2点を解消して標識試薬の完全な溶出と、分析対象物とCRPと標識試薬との十分な反応を実現し、かつこの反応した液体試料が展開流路2を十分に展開することを可能にしたからであることが良好にうかがえる。
更にCV値を比較すると、仕様(b)、すなわち本発明のバイオセンサの方がCV値が良好な結果が得られている。本実施例では、全血を展開するために、展開流路2における溶液の展開は不均一な状態となっているが、仕様(b)の吸光度ばらつきは非常に小さく、その結果は血漿を展開した実施例1のものと遜色ないものである。これは、添加空間9内で標識試薬および細胞収縮剤と全血とが均一に反応したことによるもので、両試薬と同時に反応することが可能になったことから、より均一な反応状態となって、溶液の展開性を改善した効果であるといえる。
以上のように、実施例1および実施例2の結果から、本発明により正確かつ高精度・高感度な測定を可能とする簡易迅速測定の可能な免疫クロマトセンサとしてのバイオセンサを提供することができることが確認できた。
なお、前記実施例1、2においては、ニトロセルロース膜上に試薬固定化部3、3A、3Bなどを設けたバイオセンサを用いたが、展開経路2としては、ニトロセルロース膜に限らず、液体試料により湿潤かつ該液体試料を展開可能な流路を形成できる材料であればよく、濾紙、不織布、メンブレン、布、ガラス繊維等多孔質な任意の材料でよい。あるいは、流路を中空の毛細管で形成してもよく、このような場合、材料は、樹脂材料などで構成できる。
また、標識試薬を構成する標識物としては、金コロイドを用いて例を示したが、着色物質、蛍光物質、燐光物質、発光物質、酸化還元物質、酵素、核酸、小胞体でもよく、反応の前後において何らかの変化が生じるものであれば何を用いてもよく、必要に応じて任意に選択可能であり、反応系に応じて変性剤または基質などの試薬を含んでも良い。
また、前記試第1試薬固定化部3Aおよび第2試薬固定化部3Bに使用する抗体は、標識試薬、及び、分析対象物との複合体を形成できれば良く、従って、分析対象物に対するエピトープもしくは親和性は、同じであっても異なっていてもいずれでも良い。2つの抗体の親和性は異なるが、エピトープが同じでも何ら問題はない。
また、呈色度合を読み取る方法としては、照射部21、および受光部22を用いて光学的変化により、液体試料の展開状況を検知する方法による結果を示したが、この他にも電気的変化や、電磁的変化を読み取るものであったり、画像としてとらえるものであったり、任意の手段を用いてよい。
また、細胞収縮剤として塩化カリウムを用いた試薬構成を示したが、この細胞収縮剤は前記液体試料中に細胞成分を含む場合に設置すべき試薬であり、細胞成分を含まない液体試料を用いる場合には、特に必要ではない。また、細胞収縮剤は、細胞を収縮する効果のある塩化カリウムや塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム塩等を含む無機化合物や、グリシン、グルタミン酸、等のアミノ酸、プロリン等のイミノ酸、グルコース、スクロース、トレハロースなどの糖類、グルシトール等の糖アルコール等を用いても、同様に実施可能である。このような細胞収縮剤を含む系は、特に液体試料として全血を用いる場合に有効である。本実施の形態では、微細空間に標識試薬を担持、あるいは標識試薬に細胞収縮剤を混合した溶液を担持した場合を例に挙げて説明したが、それ以外の任意の試薬が単独で、または混合された混合試薬の状態で担持しても何ら問題はない。
また、上記実施の形態においては、トレーサーを含む反応試薬14が、展開流路2が配設されている基板1の上面から所定距離だけ離れて対向する空間形成材8の上面部裏面に保持されている場合を述べ、この場合は、トレーサー(標識試薬)が、基板1の上面(添加空間の底面部)に配設されている場合に比べて、より均一に液体試料に溶け出した状態で、展開流路2に導入されることとなり、この結果、一層、正確かつ高精度・高感度な測定結果を得ることができる。つまり、反応試薬14が、試料添加部12における底面部分、基板1の上面に配設されている場合には、反応試薬14と展開流路2のクロマト上流端領域とが接触したり、極めて近接したりするので、液体試料に標識試薬が溶け出した直後の、不均一な状態の液体試料が展開流路2に導入され、精度が低下したり感度が低下したりするおそれがあるが、上記構成によりこのような不具合の発生を抑えることができる。
なお、上記構成に限るものではなく、トレーサーを含む反応試薬14を、空間形成材8の側面部内面などに配設することも可能であるが、この場合でも、展開流路2から接触せず、離間していることが望ましい。
なお、添加空間における標識試薬については、試薬を一定量塗布した後に乾燥させる方法を例に述べたが、上面部裏面や底面部より上方に延びる側面全体に配置する方法あるいは、いずれかの面の一部に配置する方法など、上面部裏面や底面部より上方に延びる側面の任意の位置に配置するので何ら問題はなく、塗布に限らず噴霧し付着させる方法など添加空間に添加された液体試料に溶け出し可能な状態で保持される任意の手段を用いてよい。
また、測定される液体試料としては、例えば、水や水溶液、尿、血漿、血清、唾液などの体液、固体および粉末や気体を溶かした溶液などがあり、その用途としては、例えば、血液検査や尿検査、水質検査、便検査、土壌分析、食品分析などがある。また、被検査物質としてc反応性タンパク質(CRP)を例として実施例を述べたが、抗体、免疫グロブリン、ホルモン、酵素及びペプチドなどのタンパク質及びタンパク質誘導体や、細菌、ウイルス、真菌類、マイコプラズマ、寄生虫ならびにそれらの産物及び成分などの感染性物質、治療薬及び乱用薬物などの薬物及び腫瘍マーカーが挙げられる。具体的には、例えば、絨毛性腺刺激ホルモン(hCG)、黄体ホルモン(LH)、甲状腺刺激ホルモン、濾胞形成ホルモン、副甲状腺刺激ホルモン、副腎脂質刺激ホルモン、エストラジオール、前立腺特異抗原、B型肝炎表面抗体、ミオグロビン、CRP、心筋トロポニン、HbA1c、アルブミン等でも何ら問題はない。また、水質検査や土壌分析などの環境分析、食品分析などにも実施可能である。簡便かつ迅速で、高感度・高性能な測定が実現でき、また、いつでもどこでも誰でも測定が可能であるため、POCT向けの分析装置としても利用できる。
以下、本発明に係るバイオセンサの第2の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずしもこの実施の形態に限定されるものではない。
図8は、本実施の形態に係るバイオセンサの構成を示す斜視図であり、図9は同バイオセンサおよび分析装置を用いた分析状態を概略的に示す斜視図である。また、図10A、図10B、図10C、図10Dは、図8に示すバイオセンサの構成を示す図であり、図10Aはバイオセンサの斜視図、図10Bはバイオセンサの分解斜視図、図10Cはバイオセンサの縦断面図、図10Dはバイオセンサの横断面図である。
図10A〜図10Dに示すように、バイオセンサ(試験片)20は、添加された液体試料としての血液サンプルSを毛細管力にて吸引して保持する添加空間(キャピラリチャンバ)9と、血液サンプルSと血液サンプルS中の分析対象物に対して特異的反応が可能な反応試薬とを展開させる展開流路2と、添加空間9の底面部をなすとともに展開流路2を支持する支持体としての基板1などを有し、クロマトグラフィーを用いて血液サンプルS中の分析対象物の存否あるいは濃度を測定する。添加空間9は、基板1の一端部(後述するクロマト流れ方向の上流端部)上に、微細な空間である添加空間9を上方ならびに両側方から囲むように空間形成材8が載せられて、この空間形成材8の両側部下面が接合されて形成されている。そして、添加空間9には、一方の端部に形成された孔部を通して、展開流路2の上流部分が突入され、また、添加空間9の他方の端部には、血液サンプルを添加する開口部11が形成されている。さらに、添加空間9を形成する空間形成材8の一方の端部における上面部分に開口して、毛細管力を促進するための空気孔13が形成されている。
また、添加空間9には、標識試薬を含む反応試薬14が、添加空間9に添加された血液サンプルに溶け出して混在・反応可能な状態で保持されている。なお、標識試薬は、リガンド部分と、このリガンド部分に結合して検出可能な標識部分とで構成されている。また、反応試薬14には、標識試薬に加えて、血液サンプル中の血球成分と反応して、血球成分を収縮させる血球収縮剤が含まれている。
ここで、標識試薬を含有する反応試薬14は、添加空間9において、展開流路2との厚み方向に沿ってこの展開流路の延長線上とは異なる位置に、展開流路2や基板1に接触しない状態で、担持されている。この実施の形態では、反応試薬14は、展開流路2が配設されている基板1の上面から添加空間9を介して、その厚み方向に所定距離だけ離れて対向する空間形成材8の上面部裏面に保持されている。
展開流路2の一部には、特異的タンパク質が固定化された、測定領域としても用いられる試薬固定化部3が設けられている。また、展開流路2の表面は、添加空間9に入り込んでいる展開流路2の上流端箇所(クロマト流れ方向の上流端領域)と、クロマト流れ方向の下流端領域(クロマト下流端とも称す)にある開放部10とを除いて、添加空間9外のクロマト上流領域から少なくとも試薬固定化部3を含むクロマト下流領域まで、液体不透過性材料からなる液体不透過性シート7で覆われている。展開流路2のクロマト上流領域は、空間形成材8から添加空間9内に入り込んでいる。図10Cに示すように、添加空間9は、毛細管現象により血液サンプルを一定量吸引するための、クロマト上流端にあたる空間であり、この添加空間9の先端(他の端部)は、血液サンプルをバイオセンサに吸引するための開口部11とされている。
図10B、図10Cに示すように、基板1と添加空間9とは、それぞれの端部(クロマト上流領域の端部)の位置が合わせられた状態で接合されて、前記開口部11が形成されている。一方、展開流路2における上流端部、すなわち、展開流路2におけるクロマト上流領域の端部は、添加空間9における血液サンプル吸引用の開口部11よりも吸引方向奥側の位置、すなわち、クロマト流れ方向の下流側の位置までしか配設されておらず、この展開流路2における上流端部から開口部11までの領域には、展開流路2が設けられていない。
この添加空間9における基板1上の、前記展開流路2が設けられていない領域、すなわち、添加空間9内に入り込んだ展開流路2の上流端部と基板2における開口部11までの間の領域には、何も配設しないと段差が発生するため、この段差を解消または軽減するように補填することで添加空間9の厚み方向の寸法を減少させて毛細管力を保持する補助基板(毛細管力保持用補填部)18が設けられている。この補助基板18は、添加空間9の底面部側の段差をなくすとともに、開口部11に続く箇所において血液サンプルを良好に毛細管現象により吸引できるように添加空間9の厚み寸法(上下方向厚み)を調節する機能も有している。補助基板18は液体不透過性材料から構成され、好ましくは展開流路と同じ厚さによって展開流路2との段差をなくすように設定するとよいが、これに限るものではなく、展開流路2との段差を軽減させるだけの厚みでもよく、その材質も厚みも問わない。さらに、この箇所の添加空間9の厚みが小さくて、毛細管力を保持できれば、段差がそのまま存在しても、何ら差し支えない。また、補助基板18は、必ずしも基板1とは別体にしなくてもよく、補助基板18に相当する肉厚部分を基板1に一体形成してもよい。なお、補助基板18に相当する肉厚部分を基板1に一体形成したり、別体の補助基板18を基板1に精度よく接合させたりすることで、添加空間9を形成するために空間形成材8を基板1上に取り付ける際に、空間形成材8を基板1上にゆがみ無く取り付けることができて、組み付け精度が向上する利点もある。
さらにこのバイオセンサ20のクロマト展開方向の両側面(詳しくは、基板1、展開流路2、および液体不透過性シート7の各両側面部)は封止部17により封止されている。したがって、添加空間9に添加された血液サンプルは、添加空間9より出て展開流路2において開放部10に至るまでの領域では、空気の逃げ場がないため蒸発することなく、開放部10の方向へと展開が促進されながら良好に流れる。封止部17は封止材を両側面に充填したり接合させたりしてもよいが、これに限るものではなく、例えば、レーザ光などを照射して、孔などが潰れて、液体サンプルなどが通過しないように熱溶融してもよい。また、図8、図10A〜10Cなどにおいては、バイオセンサ20の両側面箇所を封止した場合を述べたが、これに限るものではなく、バイオセンサ20の両側面より所定幅内側となるように、クロマト展開方向に沿って延びるレーザ光を照射するなどして、熱溶融による溝部を左右に形成し、この熱溶融溝部間の部分のみ血液サンプルが展開するよう構成してもよい。
次に、図11A、図11B、図11C、図11D、図11E、図11Fを用いて、バイオセンサ20上における血液サンプルの展開状況を説明する。図11Aは本発明の実施の形態に係るバイオセンサの断面図、図11B〜図11Fは、それぞれ、本発明の実施の形態に係るバイオセンサに血液サンプルが添加された場合の、バイオセンサにおける血液サンプルの展開状況を示す断面図である。
図11Bに示すように、添加空間9の開口部11に、血液サンプルSが点着(添加)される(Step1)と、開口部11を通して添加空間9へ一定量の血液サンプルSが毛細管現象により吸引され、添加空間9は血液サンプルSで満たされる(図11C:Step2)。添加空間9に血液サンプルSが吸引されると、反応試薬14の試薬(標識試薬および血球収縮剤)が血液サンプルSと接触し、速やかに溶解し始める。添加空間9に血液サンプルSが満たされると、溶解した反応試薬は血液サンプルSと反応して添加空間9全体へ拡散していきながら、血液サンプルSは展開流路2へと展開していく(図11D:Step3)。
展開流路2を展開する血液サンプルSは、反応試薬と反応した状態で展開し、試薬固定化部3に到達した後、通過する(図11E:Step4)。試薬固定化部3に到達すると、血液サンプルS中に分析対象物が存在する場合、反応試薬および分析対象物と固定化試薬との間で特異的反応が行われ、試薬固定化部3には反応試薬由来の呈色反応が生じる。展開流路2をさらに展開した血液サンプルSは、展開流路2における液体不透過性シート7により覆われている領域では、液体不透過性シート7の働きにより表面からの水分蒸発が阻止されており、液体不透過性シート7により覆われていない開放部10に到達して初めて水分蒸発が始まる。この乾燥過程は血液サンプルの移動を助け、添加空間9から開放部10への血液サンプルSの展開が促進される。添加空間9は、液体不透過性材料から構成された微細空間であり、血液サンプルSは微細空間内で保持されることなく、血液の展開移動によって、クロマト下流方向へと移動していく(図11F:Step5)。これらの過程を経緯して試薬固定化部3に出現した反応試薬の反応を、目視あるいは測定装置を用いて検出することにより、血液サンプルS中の分析対象物の存在、あるいは濃度を確認することが可能となる。
なお、ここで示す展開流路2は、血液が毛細管力(毛細管現象により生じる力)で移動可能な任意の材料で構成された、血液サンプルSが展開可能な流路である。この展開流路2は、血液サンプルSにより湿潤され、血液サンプルSを展開可能な流路を形成できる材料であればよく、濾紙、不織布、メンブレン、布、ガラス繊維等多孔質な任意の材料でよい。あるいは、流路を中空の毛細管で形成してもよく、このような場合の中空の毛細管材料は、樹脂材料等で構成できる。
また、反応試薬は血球収縮剤以外の成分としては主に標識試薬で構成されており、標識試薬は抗体に金コロイドなどの標識物を標識したもので、前記試薬固定化部3における結合を検出する手段として用いられるものである。前述した金コロイドはほんの一例に過ぎず、金属あるいは非金属コロイド粒子、酵素、タンパク質、色素、蛍光色素、発光物質、ラテックスなどの着色粒子など、必要に応じて任意に選択可能である。
更に、試薬固定化部3に使用する抗体は、標識試薬および分析対象物との複合体を形成できれば良く、従って、分析対象物に対するエピトープもしくは親和性は、同じであっても異なっていても何れでも良い。2つの抗体の親和性は異なるが、エピトープが同じでも何ら問題はない。
また、図10A〜図10Cに示すバイオセンサの構成では、試薬固定化部3が1箇所だけに設けられている例を示すが、これは必ずしも1箇所である必要はなく、複数箇所でもよく(図8においては、2箇所の試薬固定化部3、3’が設けられている場合を示す)、1箇所以上であれば、その目的に応じて自在に選択できる。また、展開流路2上の試薬固定化部3の形状についても、ライン状である必要はなく、スポット形状、もしくは、文字形状、鍵型形状など、自由に選択でき、複数の試薬固定化部3、3’を設定した場合においては、空間的に離れているあるいは、見かけ上、一本のライン状に見えるように接触させるなど、様々な位置関係を設定することも可能である。
展開流路2を覆う液体不透過性シート7は、例えば透明PETテープで構成される。液体不透過性シート7は、試料添加部となる添加空間9に接続する部分、および前記血液サンプルの到達する下流端を除き、展開流路2を密着した状態で被覆する。
このように液体不透過性シート7により展開流路2を被覆することと、封止部17で展開流路の両脇(両側面)を封止したことで、添加空間9以外への点着を防止して保護すると共に、外部からの汚染を防止する作用を持たせることができる。さらにこればかりでなく、血液サンプルの展開時に、血液サンプルが展開しながら蒸発してしまうことを防止し、展開流路2上の反応部分である試薬固定化部3を必ず血液サンプルが通過し、前記試薬固定化部3において血液サンプル中の分析対象物との反応を効率よく行うようにすることができる。ここでの外部からの汚染とは、この展開流路2上の反応部分に対して不用意に血液サンプルが接触することや、被験者が手などで展開流路2に直接接触することなどを指す。前記展開流路2を被覆する液体不透過性シート7は、前記試薬固定化部3を覆っており、この試薬固定化部3は、分析対象物のシグナルを測定する部分であるから、透明な材料を用いて、少なくとも光が透過可能な状態を持たせることが好ましい。
なお、基板1は、PETフィルムなどの液体不透過性シート材で構成され、透明、半透明、不透明のいずれをとってもよいが、例えば、測定装置として光学的検出機器を使用する場合などは、透過光を測定する場合は透明、反射光を測定する場合は不透明の材料を用いることが好ましい。また、基板1の材質は、ABS、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂材料の他、金属、ガラス等、液体不透過性の材料を用いることが可能である。
添加空間9を形成する空間形成材8は、血液サンプルを一定量吸引して保持するばかりでなく、添加後のバイオセンサを取り扱う際に、血液サンプルの外部への汚染を保護する役割をも有する。この空間形成材8としては、ABS、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂材料の他、金属、ガラス等、液体不透過性の材料を用いることが可能であり、また、透明もしくは半透明であることが好ましいが、透明でなくて有色であってもよく、あるいはこの不透明の材料の場合には任意の材料で構成できる。
図12A、図12Bは、本実施の形態に係る添加空間9の空間形成材8の構成を示す図であり、図12Aは空間形成材8の分解斜視図、図12Bは空間形成材8の斜視図を示す。図12A、図12Bに示すように、基板1におけるクロマト展開方向の下流側部分上に載せられる添加空間9の空間形成材8は、例えば、添加空間9の上面部を覆うシート材19と、添加空間9の両側面部と一端面部(クロマト展開方向の下流側面部)とを覆って微細空間である添加空間9の厚さ寸法を規定するスペーサ16とから構成してもよい。この場合、シート材19とスペーサ16とは、任意の方法によって接着される。また、シート材19には空気孔13が設けられており、この空気孔13により、血液サンプルを吸引する毛細管流を促進させる。更に、添加空間9内に保持可能な血液サンプルの体積を、添加空間9の縦横寸法のみならず、スペーサ16の厚みを調節することによって良好に規定することができる。また、シート材19には毛細管力を促進するために任意の処理を施してもよい。
展開流路2におけるクロマト下流端の開放部10には、液体不透過性シート7が設けられておらず、開放されているため、血液サンプルが到達した後、あるいは到達しながら揮発もしくは蒸発する。さらには、開放部10に液体試料が滲み出て、開放部10における展開流路2の上部にのみ、血液サンプルが、添加空間9の展開流路2の上部にある液体試料と同じ高さ、もしくは準じた高さまで至る。これにより、展開流路2において開放部10に到達した血液サンプルの蒸発・乾燥を促進し、展開流路2に吸水部を設けなくても、クロマト展開が上流側から下流側へと促進される。
上記構成によれば、血液サンプルを毛細管力にて吸引して保持することが可能な添加空間9に、反応試薬を担持させ、展開流路2を、その上流端部が、添加空間9内における血液サンプル吸引用の開口部11よりも吸引方向奥側の位置までしか入り込んでいないように配設することで、添加空間9に血液サンプルを添加して吸引させた際に、血液サンプルに反応試薬が良好に溶出した後に、展開流路2の上流端部に流入して展開されることになる。したがって、反応試薬が均一な状態で溶出した血液サンプルを展開流路2に良好に流入させることができて、高精度に定性または定量することができるとともに、良好に高感度測定を行うことができる。
つまり、図18A〜図18Cに比較例を示すが、この比較例のバイオセンサのように、展開流路2として、基板1と同じ長さで、展開流路2の上流端部が、キャピラリチャンバ12の流路長さ方向の全領域にわたって入り込んだ配置とした場合には、キャピラリチャンバ12の入口部分である開口部11およびその近傍箇所に、反応試薬14だけでなく、展開流路2の上流端部も配設されることとなる。したがって、キャピラリチャンバ12に添加した液体試料の一部が、直接に、すなわち、標識試薬が溶出していない状態で展開流路2に流れ込んでしまい、その結果、標識試薬が不均一な状態で溶出した液体試料が展開流路2を流れることとなって、定量測定を行う場合に十分な精度が得られないおそれがある。これに対して、本実施の形態のバイオセンサによれば、上述したように、このような不具合を生じない。
また、添加空間9の底面部分に、この添加空間9に入り込んだ展開流路2の上流端部と基板1との間に形成される展開流路2の厚みに相当する段差を解消または軽減するように補填することで添加空間9の厚み方向の寸法を減少させて毛細管力を保持する補助基板18を設けたので、添加空間9において、常に血液サンプルを吸引する毛細管力が良好かつ確実に作用し、これにより、定性または定量時の精度を向上させることができる。
また、反応試薬を、添加空間9において、展開流路2との厚み方向に沿ってこの展開流路2の延長線上とは異なる位置に担持させたことで、添加空間9に添加された血液サンプルに対して反応試薬がより均一に溶け出した状態で、展開流路2に導入されることとなり、より正確かつ高精度・高感度な測定結果を得ることができる。
また、上記構成によれば、反応試薬14に血球収縮剤を含ませたことにより、血液サンプル中の血球成分が、反応試薬である血球収縮剤と接した際に速やかに収縮してその大きさが均一化される。その結果、様々な大きさの血球成分により乱れていた血液サンプルの展開状態を均一化することが可能となって反応度合も均一化され、ひいては測定ばらつきも改善されて、より高精度な測定を実現することができる。
また、添加空間9における基板1の一端部を覆う空間形成材8を、基板1と対向するシート材19と、添加空間9の厚さを規定するスペーサ16とで構成したことにより、添加空間9内にて保持可能な血液サンプルの体積を、スペーサ16の厚さの変更だけで容易に実現することができて、バイオセンサ20の構造をよりシンプルにすることが可能となると同時に、バイオセンサ20の構造のばらつきによる、反応度合のばらつきを極小化することが可能となって、より高精度な測定を実現できる。
また、上記構成によれば、血液サンプルを毛細管力にて吸引して保持することが可能な添加空間9を設けたことにより、一定量の血液サンプルを確実に吸引することができ、しかも、添加空間9における少なくとも添加空間9に臨む箇所を液体不透過性材料で構成することで、添加空間9自体には血液サンプルが保持されず、10μl以下の血液サンプルを保持可能な添加空間9を実現することができる。
つまり、本発明によれば、従来のように、添加された液体試料が構成材料にて保水されることによる、展開されない損失検体(デッドボリューム)が発生することを、最小限に抑えることができ、この結果、従来のクロマトセンサと比較して大幅な検体(血液サンプル)量の削減を実現することができる。
また、ディスペンサやスポイト、注射器などを用いなくても、一定量の液体試料としての血液を良好に保持することができるだけでなく、標識試薬やその他の反応試薬を完全に溶出することができるとともに、添加する血液の量を大幅に削減、微量化することができ、しかも、標識試薬が均一な状態で溶出した血液を展開流路に良好に流入させることができるバイオセンサを提供することによって、免疫反応を基本とするバイオセンサにおいて、測定精度向上を図ることができると同時に、従来の免疫クロマトセンサに見られる利便性を損なわず、いつでもどこでも誰でも測定可能であり、しかも、微量の血液などの液体試料での測定を実現化でき、正確かつ高精度・高感度な免疫クロマトセンサとしてのバイオセンサを提供することが可能となる。
また、反応試薬14を添加空間9内に保持したことから、反応試薬14が添加空間9に留まる、あるいは吸着されることなく、完全に溶出することが可能となり、反応試薬14の溶出度合は常に一定となるばかりか、添加空間9内で血液サンプルと接触し溶解あるいは水和し、血液サンプル全体に拡がり反応した後に、展開流路2を展開することが可能となり、反応試薬14の残留及び反応試薬との未反応血液サンプルの展開を回避することができる。
このように反応試薬14の100%の溶出を実現し、未反応血液サンプルの展開を回避することで、より正確かつ高感度な測定が可能である。
次に、図9、図13を用いて、分析装置104について簡略的に説明する。図9に示すように、分析装置104は、バイオセンサ20の一部(図示しないが、添加空間9の開口部11)が外部に露出した状態で装着自在に構成されている。そして、バイオセンサ20を分析装置104に装着した状態で、指先血などの血液サンプルSを添加すると、毛細管流によって添加空間9へ血液サンプルが吸引される。
図13に示すように、分析装置104は、バイオセンサ20における展開流路2の状況及び試薬固定化部3の反応度合を測定するためにイメージセンサ102と照射光出射手段(LEDなど)103と、表示部106などを備えており、イメージセンサ102でとらえた任意の情報は、分析装置104に設けられたデータ収集部105によって収集され、これらの情報に基づいた演算処理によって、血液サンプル中の分析対象物の存否あるいは濃度を、表示部16に測定結果として表示するようになっている。
なお、前記分析装置104の分析方法は、ほんの一例であり前記以外の任意の手段(例えばイメージセンサと照射光や、フォトダイオードと照射光)であって何ら問題はない。
このように、分析装置104に装着されたバイオセンサ20に血液サンプルを添加する操作のみで、分析対象物を定性あるいは定量測定することが可能となっている。