JP5380303B2 - 高分子アディポネクチン測定法 - Google Patents

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Description

本発明は、高分子アディポネクチンの選択的測定方法に関する。
生体中のタンパク質の存在様式は多様である。タンパク質は、同じ単量体分子同士で、又は異なる単量体分子と会合して、あるいは核酸又は脂質と会合して、複合体を形成することが知られている。さらに、このような複合体の存在様式により、有する生理活性が異なることも知られている。
アディポネクチンは、脂肪細胞において特異的に発現される分泌タンパク質である。アディポネクチンは、脂質代謝やインスリン抵抗性などとの関連性が報告されており、したがって、近年問題視されている代謝異常症候群(メタボリック・シンドローム)の研究の上で、重要である。アディポネクチンは、ヒトの場合、244個のアミノ酸残基から形成され、単量体での分子量は約28kDaであることが知られている。一方、血液中において、アディポネクチンは、3量体(LMW:Low molecular weight)、6量体(MMW:Middle molecular weight)、そして、さらにそれらが複数重合した多量体(HMW:High molecular weight)として存在していることが確認されている。
これらのアディポネクチンの各分子量体はまた、有する生理活性も異なっている。例えば、C2C12細胞株におけるNF−κBの活性化能は、HMWおよびMMWでは観察されるが、LMWでは観察されないことが報告されている。また、アディポネクチン分泌に変異を有するヒトが、HMWアディポネクチンを形成出来ず低アディポネクチン血症及び糖尿病を発症すること、冠動脈疾患患者では、健常者に比し多量体アディポネクチンの存在比が低下することが報告されている。さらに、ダイエットの前後で血液中濃度が変動するのは、HMWであることも報告されている。したがって、HMWアディポネクチンのみを検出することが、アディポネクチンの研究及び種々の疾患の研究においては重要である。
通常、タンパク質分子は、そのタンパク質を抗原として特異的に認識するモノクローナル抗体により単離することができる。しかし、抗原が、アディポネクチンのように同一の単量体からなる種々の形態の多量体が混在するものである場合、特定サイズの分子のみに特異的な抗体を見つけることは困難である。抗体は抗原の一次アミノ酸配列を認識する場合が多いので、抗原が多量体の場合、抗体は一般的に、それを構成する単量体の一次アミノ酸配列を認識する。一方、アディポネクチンは、同一の単量体からなるので、アディポネクチン単量体を認識する抗体は、同時にあらゆる形態のアディポネクチン多量体を認識することとなる。したがって、アミノ酸の一次配列を認識する一般的な抗体を利用する場合、特定サイズのアディポネクチン分子のみを検出することは困難である。
タンパク質を認識する抗体の中には、タンパク質の3次構造を認識するものも存在する。タンパク質分子の3次構造は、アミノ酸の2次構造やシステイン残基等の分子内S−S結合を介した結合により決定される。一方、2つ以上のタンパク質分子が会合するには、分子間S−S結合や他のアミノ酸−アミノ酸間結合が必要となる。抗体が高次構造を有するタンパク質に結合する場合、一般に、そのタンパク質の外側を向いた領域(疎水性の低い領域等)に結合する。しかしながら、アディポネクチンのように、同一の共通構造を有する複数の多量体形態が混在する場合、この方法によってもやはり全ての多量体分子を検出してしまう可能性が高く、特定サイズの分子に特異的な抗体の取得は困難である。
したがって、特定分子サイズのアディポネクチンを定量するには、従来、ゲル濾過等の前処理により分子量ごとに分画し、各ピークを検出する方法が一般的であった。しかしながら、ゲル濾過等の前処理を多数検体において実施することは困難であるため、簡易な前処理法で、又は前処理なしに、特定分子サイズのアディポネクチンのみを検出できる手法が求められている。
公知の特定分子サイズのアディポネクチンの測定法としては、上記のようなゲル濾過法以外に、以下の2種の方法が知られている。
(1)LMWおよびMMWを分解する酵素による前処理を行い、酵素分解されずに残ったアディポネクチンを測定することによって、HMWだけを検出する方法(特許文献1)。
(2)アディポネクチン単量体には反応しないが、3量体及び/又はそれが凝集した構造を有する高分子アディポネクチンを認識する抗体を用い、当該高分子アディポネクチン抗原だけを検出する方法(特許文献2)。
しかしながら、酵素による前処理の場合、数十分の酵素処理時間が必要であり、且つ至適時間を超える長時間のインキュベートを行った場合、混在するプロテアーゼにより標的分子自体が分解される危惧があるため、インキュベートの時間を厳密に規定する必要がある。さらに、酵素による処理は、標的抗原のタイプに応じて至適な種類の分解酵素を選択する必要があるため、汎用性のある方法とはいい難い。
一方、公知の高分子アディポネクチンを認識する抗体を利用する場合でも、高分子体(HMW)とともに他の多量体構造(LMWやMMW)も一緒に認識されてしまうため、純粋にHMWのみを検出できる方法とは言い難い。HMWアディポネクチンのみを特異的に認識する抗体は、これまで知られていない。
WO2005/038457号パンフレット 特許第3624216号公報
本発明の課題は、HMWアディポネクチンのみを選択的に検出若しくは定量するための、簡便で、高精度且つ汎用性の高い測定法を提供することにある。
本発明者らは、より簡便にHMWアディポネクチンのみを選択的に検出若しくは定量できる測定方法について検討した。その結果、単量体アディポネクチン上の、アディポネクチンの分子間結合に寄与するS−S結合領域又はその近傍を認識する抗体の中に、一次抗体及び二次抗体の両方として用いてアディポネクチンとのサンドイッチ免疫複合体を形成させた場合、MMWやLMWを検出することなく、HMWアディポネクチンのみを特異的に認識できる抗体が存在することを見出した。そして、当該抗体を用いれば、これを一次抗体及び二次抗体とするサンドイッチ免疫測定系により、HMWアディポネクチンを選択的に測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、アディポネクチンの分子間結合に寄与するS−S結合部位又はその近傍を認識し、且つサンドイッチ免疫測定系において一次抗体及び二次抗体として使用された場合高分子アディポネクチンを特異的に認識する抗体を、一次抗体及び二次抗体として使用するサンドイッチ免疫測定系を用いた、高分子アディポネクチンを選択的に測定する方法を提供するものである。また本発明は、前記抗体を一次抗体及び二次抗体として使用するサンドイッチ免疫測定系を用いた、高分子アディポネクチンを選択的に測定するためのキットを提供するものである。
本発明によれば、本発明の抗体を一次抗体及び二次抗体として用いたサンドイッチ免疫測定系によってHMWアディポネクチンのみを選択的に検出または定量することができる、簡便で、高精度な、且つ汎用性の高い測定方法が提供される。
ヒト血中アディポネクチンのWestern Blotting解析。5A:モノクローナル抗体Clone 5Aにより染色、ANOC9121:モノクローナル抗体ANOC9121により染色。NR:非還元非加熱条件下で泳動、R:還元条件下で泳動。 ヒト血清アディポネクチンのサンドイッチELISA解析結果。白四角:ヒトアディポネクチンELISAキット(大塚製薬(株))使用、黒丸:ANOC9121使用、白丸:Clone 5A使用。
発明の詳細な説明
本発明の測定方法に使用される抗体は、(1)アディポネクチンの分子間結合に寄与するS−S結合部位又はその近傍を認識し、且つ(2)サンドイッチ免疫測定系において一次抗体及び二次抗体として使用した場合、高分子アディポネクチンを特異的に認識する抗体である。
本明細書において、「高分子アディポネクチン」とは、HMWアディポネクチン、または単にHMWとも称され、6個より多くのアディポネクチン単量体が結合したアディポネクチン多量体を指す。また本明細書において、「高分子アディポネクチン」は、6量体以下のアディポネクチンとそれより大きなアディポネクチンとを区別するための用語としても使用され得る。
また本明細書において、「LMWアディポネクチン」及び「MMWアディポネクチン」とは、各々3量体及び6量体アディポネクチンを指す。
本発明で用いる抗体の認識部位、「アディポネクチンの分子間結合に寄与するS−S結合部位又はその近傍」とは、アディポネクチン単量体のコラーゲン様領域の末端側領域であって、アディポネクチンが単量体から多量体を形成する際に生じる単量体分子間のS−S結合に関与する、システイン残基を含む領域を指す。この領域は、多量体形成によってヒンジ状構造を成すことから、本明細書中以下において、この領域をヒンジ部とも称する。当該システイン残基は、ヒトアディポネクチンの場合、その全長アミノ酸配列の第36番アミノ酸に位置し、マウスアディポネクチンの場合、その全長アミノ酸配列の第39番アミノ酸に位置し、ラットアディポネクチンの場合、その全長アミノ酸配列の第36番アミノ酸に位置する(Biochem Biophys Res Commun,221:286−289,1996、TRENDS in Endocrinology & Metabolism,13:84−89,2002)。したがって、S−S結合部位の近傍としては、当該S−S結合部位の+20アミノ酸〜末端シグナル配列(SS)領域手前迄が挙げられ、好ましくは+10アミノ酸〜SS領域手前迄、より好ましくは+2アミノ酸〜SS領域手前迄、さらに好ましくは−2アミノ酸〜SS領域手前迄が挙げられる。
本発明の抗体は、サンドイッチ免疫測定系において一次抗体及び二次抗体として使用した場合、HMWアディポネクチンのみを特異的に認識することができる。一方、本発明の抗体は、組織染色やWestern ブロッティング等の、サンドイッチを構成しない一般的な抗原抗体反応条件下では、単量体アディポネクチン上の、アディポネクチン分子間結合に寄与するS−S結合部位又はその近傍(ヒンジ部)を認識する。すなわち、本発明の抗体は、サンドイッチを構成しない一般的な抗原抗体反応条件下においては、異なる形態のアディポネクチン多量体(例えば、HMW、MMWおよびLMW)全てを認識することができる。したがって、サンドイッチ免疫測定系においても、一次抗体として使用する場合、本発明の抗体は、全ての形態のアディポネクチンを認識すると考えられる。しかしながら、この抗体をさらに二次抗体として用いてサンドイッチ免疫複合体を形成させた場合、HMWのみが認識される。本発明の抗体は、好ましくはモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であり、より好ましくはモノクローナル抗体である。本発明の抗体の具体的な例として、マウスモノクローナル抗体(MoAb)ANOC9121が挙げられる。ANOC9121を産生するハイブリドーマは、Mouse−Mouse hybridoma ANOC−9121である。ANOC−9121は、寄託番号FERM BP−10940として、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(住所:茨城県つくば市東1−1−1 中央第6)に寄託した(寄託日:平成19(2007)年12月7日)。本発明の抗体の別の具体的な例としては、ANOC9121のアミノ酸配列と実質的に同一なアミノ酸配列を有する抗体が挙げられる。
上記「実質的に同一なアミノ酸配列を有する抗体」とは、上述のようなANOC9121の抗原認識機能を有する限りにおいて、ANOC9121のアミノ酸配列から1又は複数個(例えば、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなる抗体をいう。特定アミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸配列を置換、欠失、挿入又は付加する技術は公知であり、例えば、サイトスペシフィック・ミュータゲネシスなどのような各種方法を利用することができる。「実質的に同一なアミノ酸配列を有する抗体」としてはまた、上述のようなANOC9121の抗原認識機能を有する限りにおいて、ANOC9121のアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性、好ましくは85%以上の配列同一性、より好ましくは90%以上の配列同一性、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有する抗体が挙げられる。アミノ配列の同一性は、例えば、リップマン−パーソン法(Lipman−Pearson法;Science,227,1435(1985))によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search Homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
本発明に用いられるモノクローナル抗体は、公知の方法に基づいて作製することができる。具体的には、マウスやラットに抗原を感作させ、免疫された個体の免疫関連細胞とミエローマ細胞とのハイブリドーマを作製し、その中から目的の特異的抗体を産生するハイブリドーマを選択する。本発明のモノクローナル抗体の場合、マウスやラットに感作させる抗原アディポネクチンとしては、大腸菌、バキュロウイルス等のウイルス又は動物細胞中で生成された、組み換えアディポネクチンタンパク質、動物細胞又は血液から抽出若しくは精製されたアディポネクチンタンパク質、及びそれらのヒンジ部領域に絞り込んだペプチドが挙げられる。これらの抗原を、そのまま又はアルブミンやKLH(カブトガニへモシアニン)等のキャリアタンパクに二価反応試薬等で結合した合成抗原として、動物の皮下、腹腔又は筋肉内に、そのまま又はフロイント完全アジュバンド(FCA)若しくはフロイント不完全アジュバンド(FIA)等のアジュバンドと共に、免疫する。免疫量としては0.1〜100μg/body、望ましくは1〜10μg/bodyを用い、1回から数回程度(隔週程度で免疫する)の免疫を行う。抗血清を部分採取し、免疫に用いた抗原や生体から調製した抗原に対する反応性があることを確認後、牌臓、胸腺やリンパ節を摘出し、それらから採取した細胞を、P3UI等のマウスミエローマ細胞株とポリエチレングリコール法等の公知の方法を用いて融合させ、ハイブリドーマを作製する。
作製されたハイブリドーマから、限界希釈法により目的とする領域(ヒンジ部)に反応するハイブリドーマを選択する。ハイブリドーマの培養上清や腹水からアフィニティー精製法、ゲル濾過精製法、イオン交換精製法等により精製されたモノクローナル抗体を用いて、ELISAやLatex凝集法等の公知の方法にて抗原特異性を評価する。ELISAでは、精製抗体を0.01〜1μg/wellでプラスチックプレートに固相化後アルブミンやスキムミルク等でブロッキングしたプレートを使用する。この抗体固相化プレートに希釈以外の前処理を行わない状態の血液、唾液、尿等の体液成分などや脂肪細胞の培養上清などを反応させ、続いて、HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)やアルカリフオスファターゼ等の酵素、RI、蛍光物質、発光物質、色素又はビオチン等で標識した同一のモノクローナル抗体を反応させる。ビオチンで標識した場合はさらに、酵素等で標識したアビジンを続けて反応させる。最終的に、標識の発色強度、蛍光強度、発光強度等を測定して抗体を評価し、特異性のある抗体を選択する。一旦所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択できれば、そこから所望のモノクローナル抗体を半永久的に取得することができる。抗体は、ハイブリドーマの分泌物等から、アフィニティー精製法、ゲル濾過精製法、イオン交換精製法等の公知の方法により単離・精製して利用することができる。
(ポリクローナル抗体の作製法)
本発明に用いるポリクローナル抗体としては、上記と同じくアディポネクチンヒンジ部を含むか又は当該部位に絞り込んだペプチドを作製し、これを抗原としてポリクローナル抗体を作製すれば、HMWに特異的な抗体を作製することが可能である。
本発明の測定法は、前記抗体を一次抗体及び二次抗体として使用するサンドイッチ免疫測定法である。すなわち、本発明の方法では、一次抗体及び二次抗体の両者に同一の前記抗体を使用すること以外には、通常のサンドイッチ免疫測定系が使用できる。サンドイッチ免疫測定系は、2段階の抗原抗体反応を介して標的物質を検出又は定量する免疫測定系である。具体的には、サンドイッチ免疫測定系では、標的抗原に対する抗体(一次抗体)を予め結合させた固相等に試料を添加して、抗原抗体反応により試料中の標的抗原を当該固相等に結合させ、次いで当該抗原を特異的に認識する抗体(二次抗体)を反応させる。このとき、二次抗体は予め標識されていてもよく、或いは後で標識してもよい。二次抗体との反応により、抗原は、両抗体によりサンドイッチされた状態となる(サンドイッチ免疫複合体)。この状態で、二次抗体上の標識を検出することにより、標的抗原を高感度に検出又は定量することができる。サンドイッチ免疫測定系は、ラジオイムノアツセイ(RIA)、エンザイムイムノアツセイ(EIA)等において利用することができる。好ましいサンドイッチ免疫測定系は、サンドイッチELISAである。
サンドイッチELISAの好ましい態様としては、一次抗体を固相化し、二次抗体を標識したサンドイッチ系が挙げられる。ここで、固相としては、プレート及びその他の容器壁、ビーズ、スライド、樹脂膜、カラム等公知の担体が挙げられる。標識としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)やアルカリフオスファターゼ、βガラクトシダーゼ等の酵素、125I、32P、14C、35S又はH等のラジオアイソトープ(RI)、FITC、テトラメチルローダミンイソシアネート等の蛍光物質、ケミルミネッセンス等の発光物質が挙げられる。さらに、ビオチンで一次標識後、上記標識体により標識されたアビジンによる増感系や、同様にジゴキシゲニン等の低分子物質で一次標識後、上記標識体により標識された抗体等の低分子物質に親和性を有する物質による検出法も挙げられる。
本発明の測定法に用いられる抗体は、前記の抗原特異性を有する限り、抗体の全体分子であっても、その断片または修飾物であってもよい。抗体には、二価抗体も一価抗体も含まれる。抗体の断片としては、Fab、F(ab’)、Fv、Fab/c、または単鎖Fv(scFv)が挙げられる。上記抗体断片は、抗体をパパインやペプシン等の酵素で処理するか、またはこれら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを任意の宿主細胞中で発現させることで得ることができる(例えば、Co,M.S.et al.,J.Immunol.(1994)152,2968−2976、Better,M.& Horwitz,A.H.Methods in Enzymology(1989)178,476−496,Academic Press,Inc.、Plueckthun,A.& Skerra,A.Methods in Enzymology(1989)178,497−515,Academic Press,Inc.、Lamoyi,E.,Methods in Enzymology(1989)121,652−663、Rousseaux,J.et al.,Methods in Enzymology(1989)121,663−669、Bird,R.E.et al.,TIBTECH(1991)9,132−137参照)。scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域とを連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域は、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介して連結される(Huston,J.S.et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988)85,5879−5883)。あるいは、このような連結ペプチドをコードする遺伝子を構築し、任意の宿主細胞中で発現させてもよい。抗体修飾物は、抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。抗体修飾物を得る方法は、当該分野で周知である。
本発明の測定方法に用いられる試料としては、HMWアディポネクチンを含有し得る試料、例えば、ヒト又は動物の組織、器官、又は体液(例えば、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、唾液等)に由来する試料が挙げられる。好ましくは、ヒト又は動物の血液、血漿、血清に由来する試料が用いられる。より好ましくは、ヒト及びその他の霊長類の血液、血漿、血清に由来する試料が用いられる。
本発明によれば、上記方法を利用した、HMWアディポネクチンを選択的に測定するためのキットもまた提供される。本発明のキットは、アディポネクチンの分子間結合に寄与するS−S結合部位又はその近傍を認識し、且つサンドイッチ免疫測定系において一次抗体及び二次抗体として使用した場合に高分子アディポネクチンを特異的に認識する抗体を含み得る。また本発明のキットは、サンドイッチ免疫測定に使用する固相を含み得る。好ましくは、当該固相には、予め一次抗体が結合されている。また好ましくは、キットに含まれる二次抗体は、予め標識されている。標識がビオチンの場合、キットは標識アビジンをさらに含み得る。好ましくは、前記固相はELISAプレートである。使用され得る抗体としては、マウスモノクローナル抗体ANOC9121、又はそのアミノ酸配列と実質的に同一なアミノ酸配列を有する抗体が挙げられる。
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
大腸菌組み替え(リコンビナント)ヒトアディポネクチン抗原を用いて、以下の抗アディポネクチンモノクローナル抗体を作製した。これらの抗体を解析に用いた。
1)ANOC9121
エピトープ:ヒトアディポネクチンアミノ酸配列の36番システイン残基の近傍領域(Bio Clinica 19(13):52−57,2004)。
2)Clone 5A(大塚製薬株式会社より取得)
エピトープ:不明(但し、単量体等の低分子量帯アディポネクチンには反応しない(後述)ことから、高次構造を認識していると考えられる)。
(実施例1 Western Blotting解析)
上記抗体の認識するアディポネクチン分子を、Western Blottingにより解析した。サンプルとして、非還元非加熱条件下(レーンNR)および2メルカプトエタノールによる還元条件下(レーンR)でヒト血液を電気泳動し、これに上記2種類の抗体を反応させ、染色した。結果を図1に示す。ヒト血中アディポネクチンは、非還元非加熱条件下では、HMWやMMW、LMW等の多様な形態で存在する一方、還元条件下では、3量体以上の形態が消失し、単量体である約28,000Daの形態若しくは2量体として存在した。モノクローナル抗体5Aは、約9万Da(LMW)以上の分子量のアディポネクチンのみを検出した一方、2量体以下の低分子アディポネクチンは認識しなかった。これに対し、モノクローナル抗体ANOC9121は、全ての分子量体を認識した。
(実施例2 ゲル濾過による解析)
ヒト血清を、Superdex200カラム(GEヘルスケア)を用いてHPLC分画した。各画分のアディポネクチン濃度は、以下の3種類の方法で測定を試みた。
1)Totalアディポネクチン(図2中、白四角)
各画分の抗原を、前処理してアディポネクチン基本骨格に変換した後に、サンドイッチELISA法にて定量した(ヒトアディポネクチンELISAキット(大塚製薬(株))使用)。測定値を、各アディポネクチン画分のコントロール値とした。
2)ANOC9121(図2中、黒丸)
各画分の抗原を、固相化抗体(一次抗体)及び二次抗体にANOC9121を使用したサンドイッチELISA法にて定量した:各画分は緩衝液で適宜希釈後、前処理を行わずに測定した。
3)Clone 5A(図2中、白丸)
各画分の抗原を、固相化抗体及び二次抗体に5Aを使用したサンドイッチELISA法にて定量した:各画分は緩衝液で適宜希釈後、前処理を行わずに測定した。
Totalアディポネクチンの測定は、ヒトアディポネクチンELISAキット(大塚製薬(株))の使用説明書に準じて行った。ANOC9121によるサンドイッチELISAおよびClone5AによるサンドイッチELISAは、以下の手順で行った。96ウェルプレートに5μg/mLの一次抗体を添加し、4℃で一晩インキュベートし、その後BSA及びソルビトール含有PBSでブロッキングした。ウェルを洗浄バッファー(Tween20含有PBS)で洗浄し、BSA及びTween20含有PBSで希釈したサンプルを100μL添加し、室温で1時間インキュベートした。ウェルを洗浄バッファーで3回洗浄した後、ビオチン標識二次抗体100μLを添加した。室温で1時間インキュベートし、ウェルを洗浄バッファーで3回洗浄した。
3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン−HRP結合ストレプトアビジンを添加し、インキュベートした。プレートに結合したHRP結合ストレプトアビジンより得られる発色の強度を測定することにより、各画分のアディポネクチン量を決定した。
結果を図2に示す。Totalアディポネクチンの測定(コントロール;白四角)では、HMW、MMW及びLMWの3種類のピークが確認された。実施例1において3量体以上を認識することが示されたモノクローナル抗体5A同士の組み合わせによるサンドイッチELISA(白丸)では、HMW、MMW及びLMWの全てが検出され、実施例1の結果と対応していた。これに対し、実施例1で単量体からHMWまでの全ての形態の分子に結合することが示されたANOC9121同士の組み合わせによるサンドイッチELISA(黒丸)では、実施例1の結果にもかかわらず、HMWのみが特異的に検出された。
以上のことから、単量体アディポネクチンのヒンジ部を認識し、実施例1のようなサンドイッチを構成しない一般的抗原抗体反応条件下ではアディポネクチンの全ての形態を認識し得る抗体は、それらを一次抗体及び二次抗体として使用するサンドイッチ免疫測定系において、高分子(HMW)アディポネクチンのみを特異的に認識し得ることが示された。

Claims (6)

  1. 寄託番号FERM BP−10940であるハイブリドーマにより生産されるモノクローナル抗体ANOC9121を一次抗体及び二次抗体として使用するサンドイッチ免疫測定系を用いた、高分子アディポネクチンを選択的に測定する方法。
  2. 高分子アディポネクチンが、6量体より大きな多量体アディポネクチンである、請求項1記載の方法。
  3. ヒト高分子アディポネクチンを選択的に測定する、請求項1又は2記載の方法。
  4. 寄託番号FERM BP−10940であるハイブリドーマにより生産されるモノクローナル抗体ANOC9121を一次抗体及び二次抗体として使用するサンドイッチ免疫測定系を用いた、高分子アディポネクチンを選択的に測定するためのキット。
  5. 高分子アディポネクチンが、6量体より大きな多量体アディポネクチンである、請求項記載のキット。
  6. ヒト高分子アディポネクチンを選択的に測定するための、請求項4又は5のいずれかに記載のキット。
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