先ず、本発明の実施の形態の説明に先立って、本発明に係る入力装置によるクリック触感呈示方法の原理について説明する。
ヒトが触感として感じる要素には、対象物に触れたときに骨や筋に伝わる荷重により硬さや柔らかさ等の触感を感じる圧覚神経と、対象物に触れた際の皮膚表面に伝わる振動を検知して物の手触り等を感じる触覚神経とがある。つまり、圧覚は荷重を検知し、触覚は振動を検出する。そして、一般に触感とは、圧覚と触覚とが複合した感覚である。したがって、押しボタンスイッチを操作した際の「圧覚」および「触覚」への刺激を、例えばタッチパネル上で同じように再現すれば、操作者にクリック触感を呈示することが可能となる。
一方、情報機器や家電製品に使用されている押しボタンスイッチには、例えば、メタルドームスイッチ、エンボススイッチ、ラバースイッチ、タクタイルスイッチ等が広く知られている。これらの一般的な押しボタンスイッチにおける荷重特性は、スイッチの種類によって、押しボタンのストロークや、加える荷重(押下力)に差はあるものの、概ね、図1に示すような特性を有する。
図1の押下時の荷重特性において、A点からB点までの期間は、押しボタンの押し込み開始から押し込みにほぼ比例して荷重が増加する期間である。B点からC点までの期間は、押しボタンの押し込みによりメタルドーム等の凸型形状の弾性部材が座屈して荷重が急激に減少する期間である。C点からD点までの期間は、スイッチの接点が閉成して、押し込みにほぼ比例して荷重が増加する期間である。
また、押しボタンのリリース時における荷重特性は、多少のヒシテリシスを有するが、押下時とは逆の変化を辿る。すなわち、D点からE点までの期間は、リリースの開始からほぼ比例して荷重が減少する期間で、スイッチの接点が閉状態を維持する期間である。E点からF点までの期間は、押しボタンのリリースにより弾性部材が座屈状態から凸型形状に復帰して荷重が急激に増加する期間で、この期間の開始によりスイッチの接点が開成する。F点からG点までの期間は、弾性部材の復帰後、押しボタンから指を離すまでの期間で、ほぼ比例して荷重が減少する期間である。
なお、図1に示した荷重特性において、押しボタンの最大ストロークは、例えば、メタルドームスイッチ、エンボススイッチ、タクタイルスイッチの場合で、1mm以下であり、ラバースイッチの場合でも、3mm以下と微少である。また、B点における荷重は、メタルドームスイッチ、エンボススイッチ、タクタイルスイッチの場合で、例えば、1N前後から6N前後であり、ラバースイッチの場合で、例えば、0.5N前後である。そして、何れの押しボタンスイッチを操作した場合でも、操作者は、クリック触感が得られる。
そこで、本発明者らは、押しボタンスイッチがどのような動きをした時に、「圧覚」および「触覚」が生むクリック触感が得られるのかを検討した。先ず、クリック触感は、ストローク変化によるものなのか、押下荷重変化によるものなのかを検討した。
図2は、押下荷重が異なる種々の押しボタンスイッチを操作した際に、操作者がどのように感じるかを示した官能評価結果を示す図である。横軸は、実際の押下荷重を示し、縦軸は押しボタンスイッチに関して重いと感じたか軽いと感じたかを7点満点で示す。被験者は、携帯端末の使用に慣れている5人である。図2から明らかなように、押下荷重については、押下荷重の高い押しボタンスイッチに関しては、重いと認識でき、押下荷重の低い押しボタンスイッチに関しては、軽いと認識できていることが解る。
図3は、ストロークが異なる種々の押しボタンスイッチを操作した際に、操作者がどのように感じるかを示した官能評価結果を示す図である。横軸は、実際のストロークを示し、縦軸は、押しボタンスイッチに関して長いと感じたか、短いと感じたかを7点満点で示す。被験者は、図2の場合と同じ、携帯端末の使用に慣れている5人である。図3から明らかなように、微小なストロークに関しては、長い短いを明確に認識できていないことが解る。
以上の官能評価結果から、人は、荷重の違いは認識できるが、微小なストロークの違いは認識できないことが解る。
そこで、本発明者らは、押下荷重の変化に着目した。すなわち、ヒトがストロークの違いを認識できないならば、タッチパネルのような平面上での押下荷重変化、つまり圧覚への刺激を、図1に示したABC点のように変化させれば、クリック触感が感じられるかを検討した。そのため、垂直方向に変位可能なプレートを有する実験装置を作成して、プレートを図1に示したA点からB点にかけて押下し、B点の荷重に達した時点で瞬時にプレートを下方に微少量変位させてBC点間の荷重変化を再現した。
その結果、押しボタンスイッチを「押した」と言う「押下感」は得られたものの、例えばメタルドームスイッチを操作した場合に得られる「カッチッ」というような、リアルなクリック触感は得られなかった。つまり、リアルなクリック触感を得るには、ストロークと荷重との関係では判明できない他の要素があることが判明した。
そこで、本発明者らは、次に「圧覚」だけでなく、もう一つの感覚神経である「触覚」に着目して検討した。そのため、本発明者らは、メタルドームスイッチの押しボタンスイッチを有する入力装置が搭載された種々の携帯端末について、押しボタンを操作した際に押しボタンに生じる振動を測定した。その結果、押しボタンは、押下荷重が図1のB点に達した時点おいて、すなわちメタルドームが座屈を開始した時点において、100Hz〜200Hzの周波数で振動することが判明した。
図4は、その場合の測定結果の一例を示す図である。横軸は押下経過時間を示し、縦軸は振動振幅を示す。この押しボタンスイッチは、図1のB点において、図4に実線で示すように振動する。これにより、この押しボタンスイッチの場合、ヒトは、押下時に、周期約6ms(周波数で約170Hz)の振動刺激を、約1周期分受けていることが判明した。また、この押しボタンスイッチは、リリース時に押下荷重が図1のF点に達した時点、すなわちメタルドームが座屈状態から復帰した時点で、押しボタンが、図4に一点鎖線で示すように振動する。これにより、この押しボタンスイッチの場合、ヒトは、リリース時に、周期約8ms(周波数で約125Hz)の振動刺激を、約1周期分受けていることが判明した。
以上のことから、タッチパネルのようなプレート状の押圧式の入力部を押圧する際、図1に示すA点からB点までの荷重では、入力部を振動させずに、操作者に自発的に押下させて圧覚を刺激し、その状態で、B点において、例えば、周波数170Hzで入力部を約1周期分振動させて触覚を刺激すれば、操作者に対して図4の測定結果に係る押しボタンスイッチを操作した場合と同様のクリック触感を呈示することが可能となる。
本発明に係る入力装置は、以上の原理に基づいて、プレート状の押圧式の入力部を押圧する場合に、押圧荷重が入力部への入力を受け付ける所定の基準を満たすまでは圧覚を刺激し、所定の基準を満たした際に、入力部を所定の駆動信号、すなわち一定周波数、駆動時間である周期(波長)、波形、振幅、で振動させて触覚を刺激する。
また、ヒトが押しボタンスイッチを操作すると、押下時のみならず、リリース時においても、図4に示したように、指に押しボタンスイッチからの触感刺激が与えられる。そこで、本発明に係る入力装置においては、リリース時にも操作者にクリック触感(以下、リリース時のクリック触感を、適宜、リリース触感とも言う)を呈示する。これにより、操作者に、押しボタンスイッチを押下した場合と同様のリアルなクリック触感を呈示するものである。
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
(第1実施の形態)
図5は、本発明の第1実施の形態に係る入力装置の概略構成を示すブロック図である。この入力装置は、表示パネル11、タッチパネル12、荷重検出部13、振動部14、および、全体の動作を制御する制御部15を有する。表示パネル11は、入力ボタン等の入力用オブジェクトを表示する表示部を構成するもので、例えば、液晶表示パネルや有機EL表示パネル等を用いて構成する。タッチパネル12は、表示パネル11に対する押圧による入力を受け付ける入力部を構成するもので、例えば、抵抗膜方式や静電容量方式等の公知のものを用いて構成する。荷重検出部13は、タッチパネル12に対する押圧荷重を検出するもので、例えば、歪みゲージセンサを用いて構成する。また、振動部14は、タッチパネル12を振動させるもので、例えば、圧電振動素子を用いて構成する。
図6は、図5に示した入力装置の実装構造の一例を示すもので、図6(a)は要部断面図、図6(b)は要部平面図である。表示パネル11は、筐体21内に収納保持する。表示パネル11上には、弾性部材からなるインシュレータ22を介して、タッチパネル12を保持する。なお、本実施の形態に係る入力装置は、表示パネル11およびタッチパネル12を、平面視で矩形状として、タッチパネル12を、図6(b)に仮想線で示す表示パネル11の表示領域Aからはずれた4隅に配設したインシュレータ22を介して表示パネル11上に保持する。
また、筐体21には、表示パネル11の表示領域から外れたタッチパネル12の表面領域を覆うようにアッパカバー23を設け、このアッパカバー23とタッチパネル12との間に、弾性部材からなるインシュレータ24を配設する。
なお、タッチパネル12は、例えば、表面すなわち操作面が透明フィルムで構成され、裏面がガラスで構成され、操作面が押圧されると、押圧力に応じて表面の透明フィルムが微少量撓む(歪む)構造のものを用いる。
タッチパネル12の表面の透明フィルム上には、アッパカバー23で覆われる各辺の近傍に、タッチパネル12に加わる荷重(押圧力)を検出するための歪みゲージセンサ31をそれぞれ接着等により設ける。また、タッチパネル12の裏面のガラス面上には、対向する2つの辺の近傍に、タッチパネル12を振動させるための圧電振動子32をそれぞれ接着等により設ける。すなわち、図6に示す入力装置は、図5に示した荷重検出部13を4つの歪みゲージセンサ31を用いて構成し、振動部14を2つの圧電振動子32を用いて構成する。なお、図6(b)は、図6(a)に示した筐体21、アッパカバー23およびインシュレータ24の図示を省略している。
図7は、本実施の形態に係る入力装置の動作を示すフローチャートである。制御部15は、タッチパネル12への入力を監視するとともに、荷重検出部13で検出される荷重を監視する。そして、タッチパネル12への入力が表示パネル11に表示された入力用オブジェクトに対する入力で、かつ、荷重検出部13により検出される押圧荷重が、タッチパネル12の押圧によって増加しながら当該入力を受け付ける所定の基準を満たしたのを検知すると(ステップS81)、その時点のタッチパネル12への入力を受け付けるとともに、振動部14を所定の駆動信号で駆動して、タッチパネル12を予め設定した所定の振動パターンで振動させる(ステップS82)。これにより、タッチパネル12を押圧している指もしくはスタイラスペンの押圧物を介して、操作者にクリック触感を呈示して、入力操作が完了したことを認識させる。なお、荷重検出部13は、例えば、4つの歪みゲージセンサ31の出力の平均値から荷重を検出する。また、振動部14は、例えば、2つの圧電振動子32を同相で駆動する。
ここで、ステップS81で検知する所定の基準は、例えば、図1に示したB点の荷重である。したがって、この所定の基準は、表現したい押しボタンスイッチの押下時の荷重特性に応じて適宜設定すればよい。例えば、携帯端末に適用する場合においては、年配のユーザは重めに、頻繁にメールをするユーザは軽めに設定できるように、ユーザが自由に設定できるようにする。また、ステップS82で振動部14を駆動する所定の駆動信号、すなわち触覚を刺激する一定周波数、周期(波長)、波形、振幅は、呈示するクリック触感に応じて適宜設定すればよい。例えば、携帯端末に使用されているメタルドームスイッチに代表されるクリック触感を呈示する場合は、後述するように、タッチパネル12に所定の荷重が加わった時点で、例えば、170Hzの一定周波数のSin波からなる1周期分の駆動信号により振動部14を駆動して、タッチパネル12を、所定の荷重が加わった状態で、約15μm振動させる。これにより、操作者にリアルなクリック触感を呈示することができる。
その後、制御部15は、荷重検出部13で検出される荷重が、所定の基準を満たしたのを検知すると(ステップS83)、押圧時と同様に、振動部14を、所定の駆動信号で駆動して、タッチパネル12を予め設定した所定の振動パターンで振動させる(ステップS84)。
ここで、ステップS83のリリース時、すなわち押圧入力の受け付け後に検知する所定の基準の荷重は、ステップS81で検知する押圧時における荷重以下の任意の荷重に設定することができる。また、ステップS84のリリース時において、振動部14を駆動する駆動信号は、ステップS82の押圧時における駆動信号と同じとすることもできるし、異ならせることもできる。例えば、タッチパネル12への入力を受け付ける押圧時における駆動信号の周波数は170Hzとし、リリース時における駆動信号の周波数は、例えば図4に示したように、125Hzとすることができる。
このように、本実施の形態に係る入力装置は、荷重検出部13で検出されるタッチパネル12に加わる荷重が、タッチパネル12への入力を受け付ける所定の基準を満たすまでは圧覚を刺激するようにし、所定の基準を満たすと、振動部14を所定の駆動信号で駆動してタッチパネル12を所定の振動パターンで振動させて触覚を刺激する。これにより、操作者に対してクリック触感を呈示して、当該入力操作が完了したことを認識させる。したがって、操作者は、タッチパネル12を、押しボタンスイッチを操作した場合と同様のリアルなクリック触感を得ながら、入力操作を行うことができるので、違和感を覚えることがない。また、タッチパネル12を「押した」と言う意識との連動で入力操作を行うことができるので、単なる押圧による入力ミスも防止することができる。
また、押圧入力を受け付けた後のリリース時に、所定の基準を満たした際に、押圧時と同様に、振動部14を所定の駆動信号で駆動して、タッチパネル12を予め設定した所定の振動パターンで振動させるので、リリース触感を呈示することができる。したがって、押圧時のクリック触感と相俟って、より押しボタンスイッチに近いクリック触感を操作者に呈示することができる。
例えば、押圧時とリリース時とで、振動部14を駆動する基準の荷重を同じに設定した場合は、押圧時の最大荷重が基準の荷重を超えていれば、図8に示すように、押圧時とリリース時とでクリック触感を呈示することができる。したがって、押しボタンスイッチにより近いクリック触感を操作者に呈示することができる。なお、図8および他の図において、「カッ」および「チッ」は、ヒトが受けるクリック触感を表現したものである。
また、振動部14を駆動する基準の荷重を、リリース時は押圧時よりも低い任意の荷重に設定した場合は、押圧時の最大荷重が押圧時の基準の荷重であった場合でも、すなわち押圧時の基準の荷重で押圧物を引き返した場合でも、図9に示すように、押圧時とリリース時とでクリック触感を呈示することができる。なお、図8に示したように、振動部14を駆動する基準の荷重を、押圧時とリリース時とで同じ荷重に設定した場合において、押圧時の最大荷重が基準の荷重と一致する場合は、リリース時に振動部14が駆動されなかったり、操作者が押圧荷重を基準の荷重で保持しようとした場合、予期せぬリリース触感が呈示されたりして、操作者に違和感を与える場合が想定される。これに対し、図9に示したように、リリース時に振動部14を駆動する基準の荷重を、押圧時の基準よりも低い任意の荷重に設定すれば、リリース時に確実にリリース触感を呈示できるので、より押しボタンスイッチに近いクリック触感を、より確実に、操作者に呈示することができる。
(第2実施の形態)
図10および図11は、本発明の第2実施の形態に係る入力装置を示すもので、図10は概略構成を示すブロック図、図11は正面図である。この入力装置は、例えば、携帯端末に実装されるもので、図10に示すように、押圧による入力を受け付ける入力部であるタッチパネル41と、タッチパネル41に対する入力位置を検出する位置検出部42と、位置検出部42で検出された入力位置に基づく情報を表示する表示パネル43と、タッチパネル41に対する押圧荷重を検出する荷重検出部44と、タッチパネル41を振動させる振動部45と、全体の動作を制御する制御部46とを有する。
タッチパネル41には、図11に示すように、予め印刷や貼り付け等により、テンキー等の複数の入力用オブジェクト41aを形成する。各入力用オブジェクト41aは、入力を受け付ける有効押圧領域を、隣接する複数の入力用オブジェクト41aに跨る押圧による誤入力を防止するため、当該入力用オブジェクト41aの形成領域よりも狭く設定する。なお、図10において、荷重検出部44および振動部45は、図6に示した入力装置の場合と同様に、それぞれ歪みゲージセンサおよび圧電振動子を用いて構成する。
制御部46は、タッチパネル41への入力、および、荷重検出部44で検出される荷重を、それぞれ監視するとともに、位置検出部42で検出されるタッチパネル41に対する入力位置を監視する。そして、位置検出部42により入力用オブジェクトの有効押圧領域の入力位置が検出され、かつ、荷重検出部44により検出される押圧荷重が、タッチパネル41の押圧により増加しながら入力を受け付ける所定の基準を満たした際に、振動部45を所定の駆動信号で駆動してタッチパネル41を予め設定した所定の振動パターンで振動させる。
すなわち、制御部46は、位置検出部42により入力用オブジェクトの有効押圧領域の入力位置が検出された場合は、第1実施の形態に係る入力装置と同様に、タッチパネル41への荷重が増加しながら所定の基準を満たした時点で、例えば、170Hzの一定周波数のSin波からなる1周期分の駆動信号により振動部45を駆動して、タッチパネル41を、所定の荷重が加わった状態で、約15μm振動させる。これにより、操作者に対しクリック触感を呈示して、その入力操作が完了したことを認識させる。また、制御部46は、タッチパネル41で検出された入力を受け付けることにより、表示パネル43に対して入力に応じた表示を行う。
その後、制御部46は、荷重検出部44により検出される荷重が、リリース時の所定の基準を満たしたのを検知すると、第1実施の形態に係る入力装置と同様に、振動部45を、所定の駆動信号で駆動して、タッチパネル41を予め設定した所定の振動パターンで振動させる。
したがって、本実施の形態に係る入力装置によれば、第1実施の形態の場合と同様に、操作者は、タッチパネル41を、押しボタンスイッチを操作した場合と同様のリアルなクリック触感を得ながら、入力操作を行うことができるので、違和感を覚えることがない。また、タッチパネル41を「押した」と言う意識との連動で入力操作が行われるので、単なる押圧による入力ミスも防止することができる。
また、押圧入力を受け付けた後のリリース時に、所定の基準を満たした際に、押圧時と同様に、振動部45を所定の駆動信号で駆動して、タッチパネル41を予め設定した所定の振動パターンで振動させるので、リリース触感を呈示することができる。したがって、押圧時のクリック触感と相俟って、より押しボタンスイッチに近いクリック触感を操作者に呈示することができる。
以下、上記各実施の形態に係る入力装置において、本発明者らが検証したクリック触感の官能評価結果について説明する。
市販の携帯端末に広く使用されているメタルドームスイッチは、本発明者らによる測定によると、端末の機種によるバラツキはあるものの、概ね6N以下、一般には3N以下の所定の荷重が加わると、急激に荷重が減少する荷重特性を有している。そこで、本発明者らは、図5および図6に示した構成の入力装置において、先ず、振動部14を押圧時のみ駆動する場合のクリック触感の官能評価を行った。この官能評価では、押圧時に振動部14の駆動を開始するタッチパネル12の荷重(図1のB点の荷重)を1.5Nとし、駆動信号の周波数、周期(波長)、波形をパラメータとした。
これらの評価結果例を、図12〜図15に示す。図12〜図15において、被験者は、図2および図3の官能評価を行った者と同じ5人である。評価項目は、「クリック触感と感じる」、「触感として良い」、および、触感が「携帯端末と似ている」の3項目である。評価点は、「クリック触感と感じる」の評価項目では、「感じない」が1点、「強く感じる」が7点である。「触感として良い」の評価項目では、「悪い」が1点、「良い」が7点である。「携帯端末と似ている」の評価項目では、「似ていない」が1点、「非常に似ている」が7点である。各項目の評価得点は、それぞれ5人の平均点を示した。
図12は、周波数を変化させた場合の評価結果を示す。この官能評価においては、振動部14を駆動する駆動信号の周期(波長)すなわち駆動時間を1周期、波形をSin波として、周波数を50Hz〜250Hzの範囲で変化させた。なお、駆動信号の振幅は、タッチパネル12において、所定の基準の荷重が加わった状態で、15μmの振動振幅が得られる信号振幅とした。その結果、図12から明らかなように、周波数は、170Hzの場合が最も評価が高いが、140Hz以上であれば、ヒトは携帯端末と似たクリック触感が得られることが確認できた。
図13は、駆動信号の振幅を変化させた場合の評価結果を示す。この官能評価においては、駆動部14を駆動する駆動信号の周波数を170Hz、周期を1周期、波形をSin波とした。また、信号振幅は、タッチパネル12が押圧されていない無負荷状態で、タッチパネル12が1μm〜35μm内の所定の振幅で振動するように変化させた。そして、各無負荷時の振動振幅条件で、タッチパネル12に1.5Nの荷重が加わった際に駆動部14を駆動して、各評価項目を評価した。なお、図13の横軸には、タッチパネル12の無負荷時の振動振幅に対応して、1.5Nの荷重が加わった状態での振動振幅を示す。その結果、図13から明らかなように、1.5Nの荷重が加わった状態では、振動振幅が15μm以上であれば、ヒトはクリック触感を十分に感じることが確認できた。つまり、タッチパネル12に1.5Nの押圧荷重が加わった状態で、170Hzの一定周波数で、タッチパネル12を15μm以上の振動振幅で、わずかに1周期分振動させることで、ヒトはクリック触感を感じるということが確認できた。
図14は、駆動時間である周期(波長)を変化させた場合の評価結果を示す。この官能評価においては、振動部14を駆動する駆動信号の波形をSin波、信号振幅をタッチパネル12における所定の基準の荷重が加わった状態での振動振幅が約15μmとなる振幅、周波数を170Hzとして、周期を1/4周期〜3周期の範囲で変化させた。なお、1/4周期および1/2周期では、他の周期とタッチパネル12における振動変位がほぼ等しくなる、すなわち約15μmの振動振幅が得られる信号振幅とした。その結果、図14から明らかなように、周期(波長)が1周期の場合に最も高い評価が得られた。また、5/4周期や、1周期未満でも、概ね良好な結果が得られたが、3/2周期以上になると、携帯端末のクリック触感からはずれることが確認できた。
図15は、駆動信号の波形を変化させた場合の評価結果を示す。この官能評価においては、振動部14を駆動する駆動信号の波形をSin波、矩形波、三角波とした場合のそれぞれについて評価した。なお、各信号の周波数は170Hz、信号振幅はタッチパネル12における所定の基準の荷重が加わった状態での振動振幅が約15μmとなる振幅、周期は1周期とした。その結果、図15から明らかなように、Sin波の場合に最も高い評価が得られた。
ここで、Sin波の駆動信号(駆動部14の入力電圧)は、図16に一点鎖線で示すように、位相0度から電圧が増加して減少する1周期に限らず、位相180度から電圧が減少して増加する等、任意の位相からの1周期の電圧とすることができる。なお、図16には、一点鎖線で示した入力電圧で駆動部14を駆動した際の、無負荷時におけるタッチパネル12の振動振幅波形(破線)と、1.5Nでの押圧時におけるタッチパネル12の振動振幅波形(実線)とを合わせて示す。
以上の評価結果例から、図5および図6に示した構成の入力装置を携帯端末に適用する場合は、タッチパネル12の押圧時に所定の基準を満たす荷重が加わった時点で、例えば、周波数140Hz以上、好適には170Hzの一定周波数で、5/4周期以下、好適には1周期のSin波の駆動信号により、タッチパネル12を約15μm以上振動させれば、操作者にリアルなクリック触感を呈示可能であることが確認できた。なお、図10および図11に示した構成の入力装置においても、同様の結果が得られることが確認できた。
次に、本発明者らは、上記のように振動部14を押圧時のみ駆動する場合と、押圧時およびリリース時の双方で駆動する場合とのクリック触感の官能評価を行った。以下、その結果について説明する。
図17は、この場合の評価結果例を示す図である。図17において、左側は、振動部14を押圧時のみ駆動する場合、すなわち「リリース触感なし」の場合の評価結果を示し、右側は、押圧時およびリリース時の双方で駆動する場合、すなわち「リリース触感あり」の場合の官能評価結果を示す。被験者は、図2および図3の官能評価を行った者と同じ5人である。評価項目は、図12〜図15における3項目に、「フィードバックとしてよい(認識し易い)」の項目を加えた4項目である。各項目の評価点は、7点を満点として、5人の平均点を示した。なお、「フィードバックとしてよい」の評価項目では、「悪い」が1点、「良い」が7点である。また、押圧時およびリリース時とも、振動部14を駆動する所定の基準の荷重を同じにするとともに、駆動信号も同じとする。ここでは、所定の基準の荷重は、1.5Nとした。また、駆動信号は、周波数170HzのSin波を1周期分として、タッチパネル12を1.5Nの押圧状態で約15μm振動させた。
図17の評価結果から明らかなように、リリース時にもタッチパネル12を振動させてリリース触感を呈示した方が、携帯端末のクリック触感により類似し、かつ、フィードバック(認識)も良好であることが確認できた。なお、図10および図11に示した構成の入力装置においても、同様の結果が得られることが確認できた。
(第3実施の形態)
ところで、例えば、携帯端末に使用される入力装置は、電話番号やメール等の入力の際に、同一の入力用オブジェクトを連続して入力する、いわゆる連打が頻繁に行なわれる。このような場合、図17に示したように、押圧時のみならず、リリース時にもタッチパネルを所定の振動パターンで振動させる場合は、リリース時に振動部を駆動する所定の基準の荷重を適切に設定する必要がある。
すなわち、ヒトが連続入力を素早く行う際には、一般に、押圧荷重は「0」まで下がりきらずに次の入力が開始され、押圧時の最大荷重にはバラツキが生じる。この際、例えば第1実施の形態で説明したように、振動部14を駆動する所定の基準の荷重が、押圧時とリリース時とで同じに設定されている場合は、図18に示すように、連打入力の途中で、押圧荷重が基準の荷重で引き返されると、当該入力においては、リリース時に振動部14が駆動されなかったり、操作者がリリースした意識よりも先に触感が呈示されたりして、入力動作と触感が合わず、操作者に違和感を与える場合があることが想定される。なお、図18は、4回の連続入力において、3回目の入力の押圧荷重が基準の荷重で引き返された場合を示す。
一方、リリース時に振動部14を駆動する所定の基準の荷重が、押圧時に振動部14を駆動する荷重と比較して低すぎる値に設定されている場合は、図19に示すように、連打入力の途中で、荷重がリリース時の基準まで戻らずに、次の入力動作が行われると、触感呈示にずれが生じて、操作者に違和感を与える場合があることが想定される。なお、図19は、4回の連打入力において、2回目の入力におけるリリース時の荷重が、リリース時の基準まで達しないうちに、3回目の入力が行われた場合を示す。また、このように、リリース時における所定の基準の荷重が低すぎると、当該所定の基準に戻るまでに時間がかかる。その結果、操作者は呈示される触感に違和感を覚えることなく、連続入力を行いたいにも拘らず、次の入力までの時間がかかり、素早い連続入力が行えなくなって、連続入力(連打)時の操作性が低下することが懸念される。
これに対し、リリース時に振動部14を駆動する所定の基準の荷重が、押圧時に振動部14を駆動する荷重に近い値に設定されている場合は、より素早く連続入力が可能になる反面、連続入力の途中で押圧状態を保持(ホールド)しようとした場合は、予期せぬリリース触感が呈示されて操作者に違和感を与える場合があることが想定される。すなわち、連続入力の途中で押圧状態をホールドする場合、操作者は、押圧荷重を一定に保持しているつもりでも、微小な荷重変動がある。このため、例えば、図20に示すように、押圧時における基準とリリース時における基準との荷重幅が、上記のホールド状態での荷重変動の幅よりも狭いと、操作者は、ホールドしているつもりでも、リリース時の触感が呈示されて違和感を覚えることになる。
そこで、本発明の第3実施の形態においては、上述した連続入力時の操作性およびホールド状態での微小な荷重変化にも対応でき、操作者がリアルなクリック触感を得ながらスムーズな連続入力を行い得るようにするため、第1実施の形態または第2実施の形態で説明した入力装置において、リリース時に振動部を駆動する所定の基準の荷重を、押圧時に振動部を駆動する所定の基準の荷重に対して、50%〜80%の範囲の値に設定する。
以下、第3実施の形態に係る入力装置において、本発明者らが検証したクリック触感の官能評価結果について説明する。
図21〜図23は、この場合の評価結果例を示す図である。図21〜図23において、被験者は、図17の官能評価を行った者と同じ5人である。評価項目は、図17における4項目に「連打しやすい」の項目を加えた5項目である。各項目の評価点は、7点を満点として、5人の平均点を示した。なお、「連打しやすい」の評価項目では、「やりずらい」が1点、「連続入力しやすい」が7点である。また、押圧時およびリリース時とも、振動部を駆動する駆動信号は、周波数170HzのSin波を1周期分として、それぞれ所定の基準を満たした際に、タッチパネルを約15μm振動させた。
図21は、押圧時の所定の基準が1Nで、リリース時の所定の基準が0N、0.5N、1Nの場合の評価結果を示す。図21から明らかなように、押圧時に振動を開始する所定の基準の荷重が1Nの場合は、リリース時に振動を開始する所定の基準の荷重が0.5Nの場合に、全ての評価項目で最も高い評価が得られた。
図22は、押圧時の所定の基準が2Nで、リリース時の所定の基準が0N、0.5N、1N、1.5N、2Nの場合の評価結果を示す。図22から明らかなように、押圧時に振動を開始する所定の基準の荷重が2Nの場合は、リリース時に振動を開始する所定の基準の荷重が1Nおよび1.5Nの場合に高い評価が得られ、特に1.5Nの場合に、全ての評価項目で最も高い評価が得られた。
図23は、押圧時の所定の基準が3Nで、リリース時の所定の基準が0N、0.5N、1N、1.5N、2N、2.5N、3Nの場合の評価結果を示す。図23から明らかなように、押圧時に振動を開始する所定の基準の荷重が3Nの場合は、リリース時に振動を開始する所定の基準の荷重が1.5N、2Nおよび2.5Nの場合に高い評価が得られ、特に2Nの場合に、全ての評価項目で最も高い評価が得られた。
以上の評価結果例から、リリース時に振動部を駆動する所定の基準の荷重は、押圧時に振動部を駆動する所定の基準の荷重に対して、50%〜80%の範囲の値に設定すれば、連続入力(連打)において、順次の入力と触感呈示タイミングとが合致し、違和感のないリアルなクリック触感を呈示できることが確認できた。すなわち、リリース時の所定の基準の荷重を、押圧時の所定の基準の荷重よりも小さくすることにより、違和感を与えないようにし、かつ、リリース時の所定の基準の荷重を、押圧時の所定の基準の荷重の50%以上とすることにより、連続入力時の操作性を格段に向上させる。また、リリース時の所定の基準の荷重を、押圧時の所定の基準の荷重の80%以下とすることにより、連続入力時のホールド状態での微小な荷重変化にも対応させる。
したがって、例えば、押圧時の所定の基準を1Nに設定した場合は、リリース時の所定の基準は0.5N〜0.8Nの任意の値に設定する。また、押圧時の所定の基準が高い荷重の場合は、当該基準が低い荷重の場合よりも、ホールド状態での荷重変動の幅も広くなる。このような場合でも、リリース時の所定の基準の荷重を、押圧時の所定の基準の荷重の50%〜80%の範囲、例えば、押圧時の所定の基準を6Nと高く設定した場合は、リリース時の所定の基準を3N〜4.8Nに設定する。これにより、予期せぬリリース触感を呈示することなく、連続入力に応じた違和感のないリアルなクリック触感を呈示することができる。これら、押圧時の所定の基準の荷重、および、リリース時の所定の基準の荷重は、固定的に設定してもよく、ユーザにおいて適宜選択して設定できるようにしてもよい。
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、荷重検出部は、任意の個数の歪みゲージセンサを用いて構成することができる。また、荷重検出部は、タッチパネルにおける入力検出方式に応じて、例えば、抵抗膜方式の場合には、接触面積による抵抗変化に基づく出力信号の変化から、あるいは静電容量方式の場合には、静電容量の変化に基づく出力信号の変化から、荷重が検出できれば、歪みゲージセンサを用いることなく構成することができる。また、振動部は、任意の個数の圧電振動子を用いて構成したり、タッチパネルの操作面の全面に透明圧電素子を設けて構成したり、偏心モータを駆動信号の1周期で1回転させるようして構成したり、することもできる。
また、制御部は、図5および図6に示したように、入力装置が表示パネルを有する場合は、タッチパネルによる入力を受け付けた時点で、表示パネルの対応する入力用オブジェクトの表示色を反転する等の表示態様を変更するように制御することもできる。さらに、制御部は、タッチパネルで検出される入力位置に応じて、振動部を駆動する駆動信号を変更して呈示するクリック触感を変更するように構成することもできる。
また、本発明は、入力部が一つのスイッチとして機能する入力装置にも有効に適用することができる。さらに、本発明に係る入力装置は、入力部の押圧の途中で、異なる基準(荷重)で順次にクリック触感を呈示して、2段階スイッチ(押し込んだ後、さらに押し込む)などの多段階スイッチの触感を呈示することもできる。これにより、例えば、カメラのレリーズボタンに適用した場合は、フォーカスロック(1段押し)とレリーズ(2段押し)との触感を呈示することが可能となる。また、表示部と組み合わせた場合は、押し込みの段数に応じてメニュー画面等の表示を種々変更することが可能となる。さらに、このように、多段階スイッチの触感を呈示する場合は、各段階で振動部により入力部を振動させる駆動信号を変更して、各段階において異なるクリック触感を呈示することも可能である。
また、本発明は、荷重検出部により検出される押圧荷重が、入力を受け付ける所定の基準を満たした際に、振動部を駆動させるが、上記荷重検出部により検出される押圧荷重が入力を受け付ける所定の基準を満たした際とは、荷重検出部により検出される押圧荷重が入力を受け付ける所定値に達した際であってもよいし、荷重検出部により検出される押圧荷重が入力を受け付ける所定値を超えた際でもよいし、荷重検出部により入力を受け付ける所定値が検出された際でもよい。
また、制御部は、荷重検出部により検出される押圧荷重が、所定の基準を満たした際に、振動部を駆動して、入力部(タッチパネル) を予め設定した所定の振動パターンで振動させるが、前記所定の振動パターンは、押圧時の場合、図4の実線が示す振動パターンであってもよい。また、前記所定の振動パターンは、リリース時の場合、図4の一点鎖線が示す振動パターンであってもよい。このように入力部を振動させることによって、操作者に対して、押しボタンスイッチを操作した場合と同様のクリック触感(振動刺激)を呈示することが可能となる。