図1は本発明に係る原子炉用制御棒の第1実施形態を示す側面透視図である。図2は図1のI−I線断面拡大図であり、図3は図1のII−II線断面拡大図である。
本実施形態の原子炉用制御棒CRは、沸騰水型原子炉(BWR)の炉心部に装荷される4体一組の燃料集合体の配置間隙(図示省略)を通って挿抜可能に設けられ、ハフニウムを主要な中性子吸収材とする長寿命型の原子炉用制御棒である。原子炉用制御棒CRは、図1〜図3に示すように、翼1、スペーサ2(幅広吸収材スペーサ片21、幅狭吸収材スペーサ片22、及び非吸収材スペーサ片23)、水窓3、タイクロス4、軸心水領域5、先端構造材6ならびに末端構造材7を主要な構成としている。
[翼]
図2に示すように、原子炉用制御棒CRの翼1は、所定の間隔を置いて向かい合うように対峙し、制御棒有効部を担う一対の翼片10により構成されている。
尚、翼1の厚み(翼1の外表面間の距離)は、原子炉の現行仕様に依存し、6.5mm〜8.5mmに制限される。
各翼片10は、ジルカロイ被覆層(Zry被覆層)11により非分割で且つ一様厚のハフニウム板(Hf板)12の両面がサンドイッチ構造にて挟み込まれて構成されている。Zry被覆層11は、Hf板12の表層面と炉水との直接的な接触が抑制されるように、Hf板12に対して直接的に圧着されている。
尚、Hf板12の厚みは、例えば、1.4mm〜2.6mmに設定される。又、Zry被覆層11は、Hf板12及びZr合金の両者と相性の良いジルコニウムなどの媒介層を介して、Hf板12に対して間接的に圧着される構成でもよい。
一対の翼片10の対峙間スペースには、炉水(軽水)が浸入し、翼片10を透過してきた中性子を浸入炉水の水素原子核等と衝突させて減速し、Hf板12による中性子吸収効率を高めるトラップ13が形成されている。
[スペーサ]
原子炉用制御棒CRのスペーサ2は、図1に示すように、何れも翼1と比べて大幅に短尺化された幅広吸収材スペーサ片21、幅狭吸収材スペーサ片22、及び非吸収材スペーサ片23により構成され、タイクロス4や先端構造材6及び末端構造材7とともに翼片10の対峙構造ないしトラップ13を健全に保持する役割を担う。
幅広吸収材スペーサ片21及び幅狭吸収材スペーサ片22は、ハフニウムを主要核種として構成されており、炉心の反応度調節に大きく寄与する制御棒有効部を担っている。幅広吸収材スペーサ片21及び幅狭吸収材スペーサ片22は、同一の製造過程(圧延・加工等)にて作成され同一の組成を有するものとなっているが、その幅(図2に示す翼1の幅方向Wの寸法)については、幅広吸収材スペーサ片21の方が幅狭吸収材スペーサ片22よりも大きい。即ち、ハフニウムの量は、幅広吸収材スペーサ片21の方が多い。
幅広吸収材スペーサ片21及び幅狭吸収材スペーサ片22は、天然のハフニウム金属をそのまま用いるのではなく、表面処理や添加処理その他の方法によって耐蝕性を高められている。
翼1を略4等分し、翼1の挿入先端から挿入末端に向かって1/4区分、2/4区分、3/4区分、4/4区分としたとき、幅広吸収材スペーサ片21は、1/4区分に限定的して離散状に設けられ、幅狭吸収材スペーサ片22は、2/4区分に限定して離散状に設けられている。尚、幅広吸収材スペーサ片21は、先端構造材6の取り付け代(例えば10cm)を除外して設けられている。
非吸収材スペーサ片23は、幅広吸収材スペーサ片21及び幅狭吸収材スペーサ片22に求められる原子炉用制御棒CRの核的寿命分布の平坦化(詳細は後述する。)を期待しないスペーサである。この非吸収材スペーサ片23は、幅狭吸収材スペーサ片22よりも中性子吸効果の低いスペーサ片となっており、翼1の挿入先端から挿入末端にかけて3/4区分及び4/4区分にて限定して離散状に設けられている。非吸収材スペーサ片23は、翼1のハフニウムと相性がよく腐食が生じにくいジルカロイにより構成されている。
図4はスペーサ2の詳細図であり、(A)は幅広吸収材スペーサ片21を示す翼1側面透視図、(B)は幅狭吸収材スペーサ片22を示す翼1側面透視図である。
図4(A)は、幅広吸収材スペーサ片21を対象とし、主として制御棒軸方向の応力に基づく変形が集中しやすい脆弱部24が設けられた例を示したものである。脆弱部24は、切欠(notch)により構成されている。この切欠は、1つ又は複数形成されており、スペーサ欠損部分がスペーサ幅方向に延びるようにして形成されている。
又、幅広吸収材スペーサ片21には、図4(A)に示すように、その上下の端面が原子炉用制御棒CRの軸心側から遠ざかるに従って漸次上昇する勾配角θ、つまり、炉水の流れの方向に沿うような上昇勾配が設定される。勾配角θは、トラップ13に侵入した炉水を翼1の外側に流出しやすくし、炉水循環を促す役割を担う。
尚、切欠の形状、寸法及び数その他の性状は、各スペーサ片に期待する変形の方向や程度を考慮して設定される。加えて、脆弱部24は、制御棒駆動時の加速や自重に基づいてスペーサ片に若干の変形が集中する部位となればよく、切欠に限られず、例えば他の部分に比べて薄く加工するなどの手段を用いてもよい。更に、幅広吸収材スペーサ片21の配置間隔Sは、原子炉用制御棒CRの低剛性化(しなやか性)を考慮して設定され、例えば、5〜10mm程度に設定される。
図4(B)は、幅狭吸収材スペーサ片22を対象とし、脆弱部24として同様の切欠が形成された例を示したものである。
幅広吸収材スペーサ片21や幅狭吸収材スペーサ片22の固定は、脆弱部24を挟み込むようにして、2箇所以上に設けられた間接的溶接固定構造によって行われる。
図5は間接的溶接固定構造を示す図であり、(A)はスペーサ固定前の組み付け図、(B)はスペーサ固定後の状態図である。
間接的溶接固定構造は、図5(A)に示すように、オスピン25及びメスピン26と、一対の翼片10及びこの翼片10に挟み込まれるスペーサ2(例えば、幅広吸収材スペーサ21)との積層体を貫通し、オスピン25及びメスピン26が挿入可能な貫通孔27とを有する。
オスピン25は、貫通孔27の奥行きに向かって外径が次第に小さくなる円錐台形のフランジ部25aとこのフランジ部25aから突き出した軸部25bとにより構成されており、貫通孔27に軸部25bが挿入された状態でフランジ部25aが貫通孔27の縁で係止して、オスピン25が完全に通過することなく途中で止まるよう形状設定されている。
メスピン26は、オスピン25の対抗側から貫通孔27に挿入され且つオスピン25のフランジ部25aが挿入可能に構成されている。又、メスピン26は、貫通孔27の奥行きに向かって外径が次第に小さくなる円錐台形を呈しており、貫通孔27の縁で係止してメスピン26が完全に通過することなく途中で止まるよう形状設定される。
貫通孔27は、オスピン25とメスピン26の嵌着状態(図5(B))で、オスピン25及びメスピン26と若干の隙間が生じるようにサイズが調節されている。
尚、オスピン25及びメスピン26は、ハフニウム、ジルカロイ、或いはハフニウムとジルコニウムの合金などで構成される。
オスピン25のフランジ部25bは、メスピン26と嵌合した状態で(図5(B)参照)、メスピン26の炉心内露呈面と面一となるように寸法設定され、且つメスピン26と点溶接される。点溶接部28は、図5(B)に示すようにオスピン25の軸部25bの先端近傍を部分的に削り取ってメスピン26との隙間を形成した部分を溶接代としている。
又、オスピン25の軸部25bには、先端からピン頭25aに向かって切り込まれ或いは刳り貫かれて、オスピン25及びメスピン26の互いの点溶接に基づく残留応力を受けて部分的に変形しやすい変形許容部25c(いわゆる溶接変形逃げ構造)が設けられている。
尚、間接的溶接固定構造は、幅広吸収材スペーサ片21の固定のみならず、幅狭吸収材スペーサ片22や非吸収材スペーサ片23の固定でも用いられる。
付言すると、幅広吸収材スペーサ片21などの各種のスペーサ2は、上下の端面が翼10の側面からはみだして制御棒挿抜時に燃料支持金具(図示省略)に引っ掛かることのないよう、翼10の側端面から内側に向かって、若干引っ込めるのが好適である。
[水窓]
原子炉用制御棒CRの水窓3は、図1に示すように、各翼片10の全体に至って設けられている。この水窓3は、翼片10の挿入方向に長軸を有する長孔状ないし略長方形に刳り貫かれることにより構成されており、翼片10の反応度価値に局部的な変化を生み出す。
又、水窓3は、図2に示すように、向かい合う翼片10に設けられる水窓3が一部或いは全部が重ならないように段違いで配置される。例を挙げると、燃料集合体が縦横に燃料棒8本×8本、9本×9本或いは10本×10本などを有して成る場合にあっては、一側の翼片10に設けられる水窓3の中心が3本目或いは4本目に位置し、且つ、他側の翼片10に設けられる水窓3の中心が同基準で数えて4本目ないし6本目に位置するように設けられる。
[タイクロス]
原子炉用制御棒CRのタイクロス4は、4枚の翼1を横断面十字状に保持して4翼一体型の原子炉制御棒CRを形成する。このタイクロス4は、少なくとも表面がジルカロイにより構成されており、図1に示すように、原子炉用制御棒CRの中心軸上に所定の間隔を置いて断続的に設けられる。
ここに、翼1を略4等分し、翼1の挿入先端から挿入末端に向かって1/4区分、2/4区分、3/4区分、4/4区分としたとき、2/4区間及び3/4区間はタイクロス4の排除領域となっている。
又、タイクロス4は、図2に示すように、互いに直交する方向に延びる4本のアーム41を有して横断面十字状を呈し、各アーム41は、それらの先端側に翼保持部42を有している。
タイクロス4の翼保持部42は、翼片10を保持するための取り付け代を担うとともに、スペーサ2と同様にトラップ13を維持する役割を担うように構成される。言い換えると、2枚の翼片10がタイクロス4の翼保持部42を挟み込んだ状態にて、翼片10とタイクロス4の翼保持部42とが互いに接合される。この接合は、間接的溶接固定構造(図5(B)参照)に基づき、オスピン25、メスピン26、貫通孔27及び点溶接部28を用いて行われている。尚、固定方法に制限はない。
[軸心水領域]
原子炉用制御棒CRの軸心水領域5は、図3に示すように、原子炉用制御棒CRの軸心Cに沿って設けられ、タイクロス4(図2参照)が設けられないために炉水が導かれ充填される領域である。
軸心水領域5は、上半分よりも下半分の方が幅広となるように寸法が設定されている。一例を挙げると、軸心水領域5は、原子炉用制御棒CRの上半分(1/4区分及び2/4区分)では、原子炉用制御棒CRの軸心Cから翼片10までの最短距離(軸心水幅CW)として10mm〜40mmとされ、原子炉用制御棒CRの下半分(3/4区分及び4/4区分)では、軸心水幅CWとして30mm〜50mmとされ、上半分よりも下半分の方が幅広であることを満たし且つ50mmを越えない範囲で翼片10の挿入先端から挿入末端に向かうほど拡大されるように寸法が設定される。
[先端構造材及び末端構造材]
原子炉用制御棒CRの先端構造材6及び末端構造材7は、図1に示すように、原子炉用制御棒CRの構造支持並びに挿抜ガイドを担う。この先端構造材6及び末端構造材7は、ジルカロイにより構成されており、それぞれ翼1の挿入先端部と挿入末端部にて接合される。この接合は、間接的溶接固定構造(図5(B)参照)に基づき、オスピン25、メスピン26、貫通孔27及び点溶接部28を用いて行われている。
尚、先端構造材6及び末端構造材7の材料は、特に制限されず、少なくとも表面がジルカロイにより構成され、内部がステンレスその他の金属により構成されるものでもよい。
次に、原子炉用制御棒CRの作用を、制御棒特性に関わる評価計算の結果を用いて説明する。尚、各評価計算に用いた計算モデルの構成のうち、原子炉用制御棒CRと対応する構成には同一符号を付す。
[反応度価値の評価計算(その1)]
第1の反応度価値の評価計算は、原子炉用制御棒CRに設けた軸心水領域5と反応度価値の相関評価に関するものである。
図6は相関評価の計算条件を示す図であり、(A)は原子炉用制御棒CRの模擬体系を示す図、(B)は停止用制御棒の模擬体系(比較用)を示す図である。
原子炉用制御棒CRの模擬体系(Hf制御棒モデル)CRは、横断面十字状に配置した4枚の翼1(図6(A)では1翼のみ図示)から構成した2次元計算モデルである。翼1の幅Wは125mm、その厚みTTは8.3mm、Hf板12の厚みHTは1.8mm、Zry被覆層11の厚みZTは0.4mmとした。軸心水幅CWは、可変パラメータとして取り扱い、Hf制御棒モデルCRの軸心Cから翼片10までの距離にして5mm〜40mmの間で変化させた。
一方、停止用制御棒の模擬体系(B4C制御棒モデル)CRaは、Hf制御棒モデルCRと同様に横断面十字状に配置した4枚の翼1a(図6(B)では1翼のみ図示)から構成した2次元計算モデルである。翼1aの幅Wは125mm、その厚みTTは8.3mm、シース11aの厚みSTは1.1mm、B4Cを充填するチューブであるB4Cチューブ12aの外径ROは5.6mm、その内径RIは4.2mmとした。
又、タイクロス4に対応するタイロッド4aは、軸心Caから翼片10aまでの距離CTにして20mmとし、軸心水領域は設けない。更に、シース11aおよびB4Cチューブ12aはステンレス鋼製であり、B4C粉末の充填密度は理論密度にして70%とした。
Hf制御棒モデルCRおよびB4C制御棒モデルCRaの反応度価値は、いずれもモンテカルロ法(参考文献:日本原子力学会「2002年春の大会」G58, P367, 吉岡, 安藤, 三橋, 桜田, モンテカルロ燃焼計算コードの開発)で求めた。
図7は評価計算の結果を示す図である。尚、図7の横軸は軸心水幅CWの寸法であり、縦軸は反応度価値の相対値である。この反応度価値の相対値は、(Hf制御棒モデルCRの反応度価値)/(B4C制御棒モデルCRaの反応度価値)である。加えて、図7は軸心水幅CWが5mmの場合の反応度価値で規格化したものである。
図7に示すように、Hf制御棒モデルCRの反応度価値902は、軸心水幅CWが5mmの場合にB4C制御棒モデルCRaの反応度価値901と比較して13.4%高い値を示し、軸心水幅CWが30mmの場合にB4C制御棒モデルCRaの反応度価値901よりも5%高い値を示した。尚、Hf制御棒モデルCRの軸心水幅CWを30mm〜40mmへと変化させると、反応度価値の低下割合は大きく、7.9%減となるがその低下勾配は略一定(直線的)となった。
この結果、例えば、寿命期間初期に原子炉用制御棒CRの反応度価値を停止用制御棒のそれよりも5%高める手段として、原子炉用制御棒CRの軸心水領域5の幅調節が有効であることが理解できる。この理は、寿命期間末期に原子炉用制御棒CRの反応度価値を停止用制御棒のそれよりも5%低める場合についても同様である。
[反応度価値の評価計算(その2)]
第2の反応度価値の評価計算は、原子炉用制御棒CRにおけるHf板12の厚みと反応度価値の相関評価に関するものである。
原子炉用制御棒CRの反応度価値は、図6(A)に示すHf制御棒モデルCRにおいて、軸心水幅CWを30mm一定とし、トラップ13の厚み(翼厚み方向の寸法)TWを3.1mm一定とし且つHf板12の厚みHTを可変パラメータとした場合(ケース1)と、Zry被覆層11の厚みZTを0.4mm一定とし且つHf板12の厚みHTを可変パラメータとした場合(ケース2)との計2ケースについて行った。尚、基準となる停止用制御棒の反応価値は、図6(B)に示すB4C制御棒モデルCRaを用いて計算した。
図8は評価計算の結果を示す図である。尚、図8の横軸はHf板12の厚みHTであり、縦軸は反応度価値の相対値である。この反応度価値の相対値は、(Hf制御棒モデルCRの反応度価値)/(B4C制御棒モデルCRaの反応度価値)である。
図8に示すように、ケース1の場合におけるHf制御棒モデルCRの反応度価値903は、Hf板の厚みが約1.5mmを超えるとB4C制御棒モデルCRaの反応度価値901よりも大きくなる。又、ケース2の場合におけるHf制御棒モデルCRの反応度価値904は、Hf板の厚みが約1.4mmを超えるとB4C制御棒モデルCRaの反応度価値901よりも大きくなる。また、Hf板12の増加に伴う反応度価値の増加は、ケース1よりもケース2の方が小さいが、これはトラップ13の厚みTWが小さくなることにより反応度価値の増加が抑えられたことによる。
この結果、例えば、寿命期間初期に原子炉用制御棒CRの反応度価値を停止用制御棒のそれよりも5%高める手段として、原子炉用制御棒CRのHf板12の厚みやトラップ13の厚み調節が有効であることが理解できる。この理は、寿命期間末期に原子炉用制御棒CRの反応度価値を停止用制御棒のそれよりも5%低める場合についても同様である。
[反応度価値の評価計算(その3)]
第3の反応度価値の評価計算は、原子炉用制御棒CRに設けた水窓3と反応度価値の相関評価に関わるものである。
図9は相関評価の計算条件を示すもので、原子炉用制御棒CRの模擬体系を示す図である。
原子炉用制御棒CRの模擬体系(Hf制御棒モデル)CRは、図9に示すように、横断面十字状に配置した4枚の翼(図9では1翼のみ図示)から構成した2次元計算モデルである。翼1の幅Wは125mm、その厚みTTは8.3mm、Zry被覆層11の厚みZTは0.4mmとした。軸心水幅CWは30mm一定とした。
水窓幅WWは、可変パラメータとして取り扱い、Hf制御棒モデルCRの軸心Cから60mm離れた位置から0mm〜15mmの範囲で変化させた。
図10は評価計算の結果を示す図である。尚、図10の横軸は水窓幅WWであり、縦軸は規格化した反応度価値である。この規格化は、水窓幅WWが0mmの場合の反応度価値で行ったものである。
図10に示すように、Hf制御棒モデルCRにおいて水窓幅WWが増大するにつれて反応度価値905は低下していき、水窓幅WWが10mmの場合では水窓幅WWが0mmの場合と比較して3.1%低い値となった。この反応度価値の低下量3.1%は、軸心水幅CWを26mm〜30mmへと4mm拡大した場合の反応度価値の低下量と等価である。
この結果、例えば、寿命期間初期に原子炉用制御棒CRの反応度価値を停止用制御棒のそれよりも5%高める手段として、原子炉用制御棒CRの水窓3のサイズ調節が有効であることが理解できる。この理は、寿命期間末期に原子炉用制御棒CRの反応度価値を停止用制御棒のそれよりも5%低める場合についても同様である。又、反応度価値を所要量抑えるにあたって、軸心水領域5を調節するよりも水窓3を調節する方がハフニウムの節約効果は大きいものとなる。
[出力分布の評価計算]
出力分布の評価計算は、原子炉用制御棒CRにおける水窓3および軸心水領域5と燃料集合体における出力分布の相関評価に関わるものである。
図11は相関評価の計算条件を示すもので、原子炉用制御棒CRを装荷した炉心模擬体系を示す図である。
炉心模擬体系CREは、燃料棒FLRをマトリクス状に縦列9×9に束ねた燃料集合体FLAの間に横断面十字状の原子炉用制御棒CRの模擬体系(Hf制御棒モデル)CRを装荷し、ウォーターロッドWRRなどを備えて冷却材温度その他の炉心パラメータとして実機BWRを模擬した2次元計算モデルである。
Hf制御棒モデルCRは、その基本条件を図10と共通にし、水窓3を設けず且つ軸心水幅CWを5mmとしたHf制御棒モデル(ケース1)、水窓3を設けず且つ軸心水幅CWを26mmとしたHf制御棒モデル(ケース2)、水窓3を図11に示す燃料棒(4,1)と燃料棒(5,1)の位置に対応するよう段違いに配置し且つ水窓幅WWを7.8mmとすると共に軸心水幅CWを26mmとしたHf制御棒モデル(ケース3)の計3ケースとした。
図12は評価計算の結果を示す図であり、(A)はケース1の出力分布(符号906)、ケース2の出力分布(符号907)およびケース3の出力分布(符号908)を示す図、(B)は軸心水領域5と出力分布の相関強調図(ケース2の出力分布−ケース1の出力分布)、(C)は水窓3と出力分布の相関強調図(ケース3の出力分布−ケース2の出力分布)である。尚、図12(A)〜(B)の出力は、いずれも制御棒の核的影響を受けにくい燃料棒(9,9)の出力に対して規格化したものである。
ここに、翼1の非対称構造(水窓3の段違い配置)に基づいて、翼1両側の燃料集合体FLAに出力分布の僅かな非対称性が生じる。そのため、ケ−ス3の出力分布は、翼1両側の燃料集合体FLAの出力の平均値を用いている。
図12(A)に示すように、ケース1〜ケース3は、燃料集合体FLAの出力分布に対する寄与が異なることが判る。又、図12(B)に示すように、Hf制御棒モデルCRの軸心Cの付近では軸心水幅CWの影響(軸心水幅CWの違いによる出力分布の違い)が顕著に現れた。更に、図12(C)に示すように、Hf制御棒モデルCRの水窓3の付近では水窓3の有無による出力分布の有意な違いが現れた。
これらの事実から、燃料集合体内部の出力分布を平坦化し、ブレードヒストリー問題を緩和する手段として、原子炉用制御棒CRの水窓3や軸心水領域5のサイズ調節が有効であることが理解できる。
[核的寿命の評価計算(その1)]
第1の核的寿命の評価計算は、原子炉用制御棒CRにおけるHf板12の厚みと原子炉用制御棒CRの核的寿命の相関評価に関わるものである。
この核的寿命の評価計算は、図6(A)に示すHf制御棒モデルCRにおいて、Hf板12の厚みHTを可変パラメータとし、慣例に従い初期の反応度価値から10%低下した時点をその核的寿命として行なった。尚、基準となる停止用制御棒の核的寿命は、図6(B)に示すB4C制御棒モデルCRaを用いて計算した。
図13は評価計算の結果を示す図である。尚、横軸はHf板12の厚みHTであり、縦軸はHf制御棒モデルCRの核的寿命である。
図13に示すように、Hf制御棒モデルCRの核的寿命909は、Hf板12の厚みHTの増大と共に長くなり、Hf板12の厚みHTが1.3mm以上にあっては厚みの増大による核的寿命909の延長割合が直線的となり且つ大きくなる。即ち、Hf板12が肉厚となるほど、原子炉用制御棒CRの核的寿命は長くなる。
この結果、例えば、原子炉用制御棒CRの核的寿命を高める手段としてHf板12の厚み調節が有効であり、Hf板12が特定の厚み以上になると、この手段による核的寿命の延長効果が顕著となる。
しかしながら、原子炉用制御棒CRは、互いに隣接する燃料集合体の隙間を通って炉心内で挿抜されるので、翼1の厚さは通常8mm程度(一部の原子炉では6〜7mm程度)に制限される。
このため、Hf板12の厚みを増大させていくと核的寿命は直線的に増大するものの、トラップ13の幅が狭くなってしまい、トラップ13を挟む翼片10と、タイクロス4、先端構造材6及び末端構造材7とを相互に連結することが構造健全性の観点から困難となってくる。即ち、Hf板12の厚み、水窓3、軸心水領域5の大小設定に頼るのみでは、原子炉の構造設計に基づくHf板12の厚み制限上、核的寿命延長を図るには限界がある。
しかし、幅広吸収材スペーサ片21、幅狭吸収材スペーサ片22、非吸収材スペーサ片23により構成されるスペーサ2を採用することで、Hf板12の厚み制限に基づく核的寿命延長の制限を打開することができる。以下、スペーサ2と核的寿命の関係について説明する。
[核的寿命の評価計算(その2)]
第2の核的寿命の評価計算は、制御棒有効部を担う吸収材スペーサ片(幅広吸収材スペーサ片21や幅狭吸収材スペーサ片22に相当)の幅(中性子吸収材含有量)と原子炉用制御棒CRの核的寿命の相関評価に関わるものである。
図14は相関評価の計算条件を示す図であり、原子炉用制御棒CRの模擬体系を示すものである。
原子炉用制御棒CRの模擬体系(Hf制御棒モデル)は、横断面十字状に配置した4枚の翼1(図14では1翼のみ図示)から構成した2次元計算モデルである。評価計算は、計2ケースで実施した。
ケース1に関し、一対の翼片10を構成する各Hf板12の厚みHTは2.0mm、各Zry被覆層11の厚みZTは0.37mmとした。炉心反応度制御を担う幅広吸収材スペーサ片21や幅広吸収材22を模擬した吸収材スペーサ片20については、吸収材スペーサ片20を構成するHf片201の厚みZH´は2.0mm、Zry被覆層の厚みTZ´は0.37mmとし、吸収材スペーサ片20の幅W´は可変パラメータとして取り扱い、翼片10の外側端点からの距離にして0〜100mmの間で変化させた。尚、翼1の幅Wは125mm、厚みTTは8.22mm、軸心水幅CWは30mmである。
ケース2に関し、一対の翼片10を構成する各Hf板12の厚みHTは1.5mm、各Zry被覆層11の厚みZTは0.37mmとした。吸収材スペーサ片20については、吸収材スペーサ片20を構成するHf片201の厚みZH´は3.0mm、Zry被覆層の厚みTZ´は0.37mmとし、吸収材スペーサ片20の幅W´は可変パラメータとして取り扱い、翼片10の外側端点からの距離にして0〜100mmの間で変化させた。尚、翼1の幅Wは125mm、厚みTTは8.22mm、軸心水幅CWは30mmである。
図15は評価計算の結果を示す図であり、横軸は吸収材スペーサ片20の幅W´、縦軸はHf制御棒モデルCRの核的寿命の相対値である。この核的寿命の相対値は、図7に示す反応度価値の相対値と同様、(Hf制御棒モデルCRの核的寿命)/(B4C制御棒モデルCRaの核的寿命)である。
吸収材スペーサ片20の幅W´の変化に呼応する核的寿命の変化は、図15に示すように、ケース1(符号911)及びケース2(符号912)とで同様の傾向を示している。両ケースともに、Hf制御棒モデルCRの核的寿命は、吸収材スペーサ片20の幅W´が約30mm迄の範囲(この範囲は、翼1の幅Wに沿った中性子束分布(図示省略)の中で中性子束が相対的に大きくなる範囲である。)において、勾配(幅W´の増分に対する核的寿命の増分)は比較的に大きくなった。
吸収材スペーサ片20の幅W´が約30mmを超えてから約80mm迄の範囲(この範囲は、中性子束が相対的に小さくなる範囲である。)において、勾配は略直線的に増加するようになる。
そして、吸収材スペーサ片20の幅W´が約80mmを超えた範囲(この範囲は、軸心水領域に近接して中性子束が上昇回復する範囲である。)において、勾配は再び大きくなる。
核的寿命の変動勾配の傾向に基づくと、次のことが言える。
スペーサ片に含まれる吸収材核種の種類や密度、スペーサ片の形状・寸法などが等しく反応度価値が等価な吸収材スペーサ片を用いるとき、吸収材スペーサ片は、翼1の幅方向中央付近に配置する場合に比べて、翼1の外側近傍や軸心C近傍に配置される方が核的寿命の延長に対する寄与が大きい。
特に、翼1の外側は中性子吸収率が相対的に高い場所であって核的寿命が短くなりやすい場所であるから、かかる場所に吸収材スペーサ片を設けるということは、即ち、核的寿命が短くなりやすい場所に吸収材スペーサ片を配置するということを意味する。従って、吸収材スペーサ片は、原子炉用制御棒CRの軸心C近傍に配置されるよりも、翼1の外側近傍に配置される方が核的寿命の延長に対する寄与が一層大きくなると言える。
吸収材スペーサ片の核的寿命延長効果について、具体的に説明する。
原子炉用制御棒は、その製造性や機械的健全性その他の事情を考慮して制御棒有効部(例えば、ハフニウム板)が挿入方向及びその直交方向で一様となるように構成されると、炉心中性子束分布の空間的な不均一などによって中性子照射ムラが生じる。
原子炉用制御棒の中性子照射ムラは、原子炉用制御棒の挿入方向及びその直行方向の各場所で核的寿命が異なってしまうという、言わば「不均一な核的寿命分布」の原因となる。不均一な核的寿命分布は、やがてハフニウム等の中性子吸収材の中に未だ核的寿命に到達していない部分と、既に核的寿命に到達した部分とが混在するという事象に至る。原子炉用制御棒が部分的に核的寿命に到達すれば、核的寿命に到達していない部分が残っていても、原子炉の反応度制御機能を健全な状態で維持するという観点から原子炉用制御棒CRは原子炉から取り出され交換されなければならない。特に、ハフニウムを主要な中性子吸収材とする原子炉用制御棒にあっては、未だ利用可能なハフニウムが処理・処分されることとなり、高価なハフニウムの経済的無駄、資源的な無駄となる。
製造性や機械的健全性などを考慮して制御棒有効部(Hf板12)が挿入方向及びその直交方向で一様となるように構成された本実施形態の原子炉用制御棒CRを対象とし、ハフニウムの無駄を解決する有効策としては、核的寿命が長くなる部分を基準としてハフニウムの必要量を確保しておき、核的寿命が短くなる部分については必要に応じて(核的寿命分布が均一となるように)ハフニウムを追加することである。
このような理由により、本実施形態の原子炉用制御棒CRは、不均一な核的寿命分布に基づくハフニウムの無駄を抑える構造として、中性子吸収効果を高めてハフニウムを節約するトラップ13の維持部材、即ち、スペーサ2を備えている。
原子炉用制御棒CRにあっては、制御棒挿入方向と直行する方向の核的寿命分布を平坦化すべく、図1に示すよう、比較的に核的寿命が短くなりやすい場所(翼1の外側寄り)に中性子吸収能の大きい幅広吸収材スペーサ片21や幅狭吸収材スペーサ22を配置している。
又、原子炉用制御棒CRは、原子炉通常運転時に炉心に挿入された状態となる停止用制御棒として用いられることを想定したものである。このため、原子炉用制御棒CRにあっては、制御棒挿入方向(軸方向)の核的寿命分布の不均一を平坦化すべく、図1に示すよう、4等分にて核的寿命が最短となる場所(1/4区分)に幅広吸収材スペーサ片21を配置し、次いで核的寿命が短くなる場所(2/4区分)に幅狭吸収材スペーサを配置し、核的寿命が比較的に長くなる場所(3/4区分及び4/4区分)に非吸収材スペーサを配置している。
次に、効果を説明する。
(1)本実施形態の原子炉用制御棒CRにあっては、Hf板12を制御棒有効部とする翼片10が一対対峙して成る翼1と、制御棒中心軸に沿って間隔を置いて設けられ、4枚の翼1を横断面十字状に保持するタイクロス4と、翼片10の対峙間スペースに設けられ、炉水が充填されるトラップ13と、タイクロス4の配置間スペースに設けられ、炉水が充填される軸心水領域5と、翼片10の対峙間スペースに設けられてトラップ13を維持するとともに、原子炉用制御棒CRの挿入末端側から挿入先端側に向かうにつれて次第に短くなる核的寿命の傾向に従い、原子炉用制御棒CRの挿入末端側から挿入先端側に向かうにつれて次第に中性子吸収材が増加するように構成されて、原子炉用制御棒CRの軸方向の核的寿命分布を平坦化するスペーサ2とを備える。
このため、トラップ13の間隙を拡大縮小し或いはHf板12の厚みを段階的に変化させることによる諸般の不都合(力学的アンバランスによる非健全性並びに製造非容易性など)を排除しつつ制御棒軸方向の核的寿命分布を平坦化でき、部分的に核的寿命を全うして交換時期に至った時点で未だ使用可能なハフニウムが残存しているというハフニウムの経済面及び資源面などの各種の無駄を抑えながら核的寿命を延長できる。
ところで、Hf板12とスペーサ2とが異なる製造過程を経て作成され両者の金属結晶に微差があると、それらが中性子照射環境に長期間晒されることで照射成長の差異が生じ、ひいては原子炉用制御棒CRの翼1を変形させたり破損に至らしめる可能性がある。この点の不都合は、Hf板12とスペーサ2を同一の製造過程で作成することで結晶構造を揃えることにより、照射成長差が小さくなり且つ照射成長による構造拘束状態が形成されにくいものとなり、もって翼1に加わる応力が低減されて原子炉用制御棒CRの健全性低下を効果的に抑えられるようになる。
(2)スペーサ2は、ハフニウムを主要な中性子吸収材としているので、翼片10を構成するHf板12(同じくハフニウムを主要な中性子吸収材とする)とが直接接触するような場合であっても異種金属間の電気化学的な腐食を回避しつつ、(1)の効果を得ることができる。
(3)スペーサ2は、制御棒軸方向に並べて設けられる複数のスペーサ片により構成されており、原子炉用制御棒の挿入末端側から挿入先端側に向かうほど段階的に幅の大きいスペーサ片が設けられている。即ち、挿入末端から挿入先端に向かって幅狭吸収材スペーサ片22→幅広吸収材スペーサ片21という順序で設けられている。これにより、中性子照射による照射成長の違いを考慮して、同一の圧延加工で製造されるようなスペーサ片(中性子吸収材の分量調整が制限されるスペーサ片)を用いた場合であっても、(1)の効果を得ることができる。
(4)スペーサ片は、その長さが翼1の1/4区分の長さよりも短く設定される。これは、原子炉用制御棒は、便宜上、翼1を4等分して、翼1の挿入先端から挿入末端に向かって1/4区分、2/4区分、3/4区分、4/4区分とする区分単位で設計されることが多いことを考慮したものである。このように翼1の1/4区分よりも短いスペーサ片を用いることにより、言い換えると、区分に跨る長さのスペーサ片を用いないことにより、設計上の便宜を図りつつ原子炉用制御棒CRの“しなやか性”を確保することができる。“しなやか性”は、比重の大きいハフニウムを主要な中性子吸収材とする原子炉用制御棒CRの挿抜駆動時の加速や自重に基づく翼1の変形を若干ながら許容するもので、構造の破損頻度を低減するのに有利な機械的特性である。
(5)スペーサ片は、制御棒軸方向の応力による変形が集中しやすい脆弱部24を有しているため、原子炉用制御棒CRの“しなやか性”が更に高められ、(4)の効果が高められる。
(6)スペーサ片の脆弱部24を挟み込む2箇所以上の位置に、翼片10とスペーサ片が直接的に溶接されることなく互いに固定される間接的溶接固定構造を備えている。このため、翼1に対して溶接による残留応力が直接作用することがないので、翼1の溶接変形を大幅に低減できる。
(7)間接的溶接固定構造は、翼1を構成する翼片10とスペーサ2の積層体に設けられる貫通孔27と、この貫通孔27に挿入され途中で係止するオスピン25と、このオスピン25の対抗側から積層体の貫通孔27に挿入されて途中で係止し且つオスピン25と嵌着するメスピン26と、オスピン25とメスピン26がその嵌着状態で点溶接される点溶接部28とを有する構造としている。即ち、オスピン25を翼1の積層体に押し付け且つメスピン26を反対側から翼1の積層体に押し付けることで、積層体に挟持圧を作用させることができる。従って、翼1の構造を堅固に維持しつつ、(6)の効果を得ることができる。
(8)間接的溶接固定構造は、オスピン25又はメスピン26の少なくとも一方に、互いの点溶接に基づく残留応力を受けて部分的に変形しやすい変形許容部29を有している。このため、点溶接にてオスピン25及びメスピン26に生じうる溶接変形がオスピン25又はメスピン26に吸収されやすく、翼1に溶接変形が伝播しにくいものとなり、(6)の効果が高められる。
尚、オスピン25及びメスピン26は、それぞれ貫通孔27の径よりも若干小さく寸法設定されているため熱膨張による応力負荷が緩和され、スペーサの固定に基づく原子炉用制御棒CRの機械的健全性の劣化を抑制できる。
(9)翼片10のHf板12は、一様厚に構成されたものが用いられるので、原子炉用制御棒の製造性が良好なものとなる。
(10)タイクロス4は、翼1の1/4区分及び4/4区分に限定して設けられる。即ち、原子炉用制御棒CRの中央に位置する2/4区分及び3/4区分からタイクロスが排除され、原子炉用制御棒CRの全体的な剛性が低下しやすい構成となっている。このため、タイクロスの構成によっても、原子炉用制御棒CRの“しなやか性”を得ることができ、(4)の効果が高められる。
(11)翼1のHf板12は、その表面がジルカロイにより被覆される。このため、中性子吸収材としてのハフニウムの剥離等に基づくプラント放射能を抑えることができる。
説明すると、一般にハフニウムは高い耐蝕性を有するが、高温水に長期間晒されると表面に若干ながら腐食生成物が発生して何等かのきっかけで剥離することが判っている。この剥離した腐食生成物は、放射能を帯びている。含まれる核種は、主にHf−181であり半減期43日で比較的低エネルギーのガンマ線(482keV、346keVおよび133keV)を放出する。なお、半減期111日で1.2MeVのガンマ線を放出するTa−182も僅かに生成する。昨今、BWRの炉水水質がBWR導入初期に比べて著しく向上しており、放射能レベルは著しく低下していることからHf−181の低放射能でも確認出来るようになっている。Hf−181は、半減期が比較的短く且つ放射能としても弱いために外部環境への問題は殆ど考えられないが、原子炉建屋内部では放射能低減対策の対象核種となり得る。本実施形態の原子炉用制御棒CRでは、翼1のHf板12表面がZry被覆層11により被覆されるので、上述した起源に基づく放射能を大幅に抑えられるようになる。
(12)水窓3の面積やトラップ13の厚み、軸心水領域5の軸心水幅CWないしその容量などを調節することにより、言い換えると、従来の如く厚みの異なる複数のHf板を用いることなく、所望の出力分布ならびに反応度価値を得ることができる。
反応度価値については、例えば、寿命期間平均の反応度価値が停止用制御棒の反応度価値と等しくなり、或いは、寿命期間初期の反応度価値が停止用制御棒の反応度価値よりも5%大きくなり且つ寿命期間末期の反応度価値が停止用制御棒の反応度価値よりも5%小さくなるように調節することもできる。従って、原子炉用制御棒一般に問題とされるブレードヒストリー問題を緩和すると共に、中性子吸収板の分割方式を採用することによる不都合を解消しつつ、寿命期間平均の反応度価値を停止用制御棒の反応度価値と同等にできる。
以上、本発明に係る原子炉用制御棒、その核的寿命調節方法、及びその反応度価値調節方法を1つの実施形態に基づき説明してきたが、具体的な構成については、本実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載の発明の要旨を逸脱しない限り設計の変更や追加等は許容される。
例えば、「非吸収材スペーサ片」は、核的寿命分布の平坦化の役割を担うものであるから、核的寿命分布の平坦化の計画において幅広吸収材スペーサ片21や幅狭吸収材スペーサ片22と同様にハフニウムなどの中性子吸収材を用いて構成する必要が生じうるであろう。
要するに、原子炉用制御棒CRのスペーサ2は、様々なバリエーションが考えられ、翼片10の対峙間スペースに設けられてトラップ13を維持するとともに、原子炉用制御棒CRの挿入末端側から挿入先端側に向かうにつれて次第に短くなる核的寿命の傾向に従い、原子炉用制御棒の挿入末端側から挿入先端側に向かうにつれて次第に中性子吸収材が増加するように構成されて、且つ原子炉用制御棒CRの軸方向の核的寿命分布を平坦化するように幾何学的、体積及び成分が適宜調節されるものである。
また、水窓3、軸心水領域5は、原子炉用制御棒CRの反応度価値や核的寿命の調節において調節されるものであり、種々の形状及び寸法に設定される。例えば、本実施形態において、水窓3は制御棒軸方向に長軸を持つ形状としたが円形や正方形その他の形状を排除するものではない。同様に、軸心水領域5は、1/4区分〜2/4区分の範囲と、3/4区分〜4/4区分の範囲とで幅の異なる2段階構造としたが、全区分に至って一様幅であってもよいし、より詳細に反応度価値などを調節すべく、より詳細に幅を変化させてもよい。
(参考)
図16〜図19は、原子炉用制御棒のバリエーションを示す図である。
図16は、1/4区分を対象とし、吸収材スペーサの幅を翼幅方向中央まで拡大した原子炉用制御棒を示している。尚、ハフニウム板及びスペーサは、ジルカロイ被覆層によって被覆されず露呈し、ハフニウム金属又はハフニウム−ジルコニウム合金で構成されている。このように、ハフニウム板がジルカロイ被覆層で被覆されない場合にあっては、ハフニウム板及びスペーサは、いずれも表面研磨、被膜形成或いは添加物の混入の方法により耐食性を高めるのがよい。
図17は、1/4区分を対象とし、吸収材スペーサの幅を翼幅方向中央まで拡大した原子炉用制御棒を示している。尚、ハフニウム板はジルカロイ被覆層によって被覆される一方で、スペーサはジルカロイ被覆層によって被覆されず露呈している。スペーサ片がジルカロイ被覆層で被覆されない場合にあっては、スペーサは表面研磨、被膜形成或いは添加物の混入の方法により耐食性を高めるのがよい。
加えて、図17は、スペーサの厚みとハフニウム板の厚みとが異なる例を示している。これは、スペーサとハフニウム板とが異なる製造過程で作成された例であり、言い換えると、核的寿命分布の平坦化に際し、結果としてスペーサの厚みが翼片のハフニウム板よりも厚くなった例である。尚、製造過程が異なると、ハフニウム板とスペーサが異なる結晶構造を有し照射成長差を有する原因となる。この場合、上述の脆弱部24を設けるなどして変形を特定箇所に集中させることで、この照射成長の差に基づく原子炉用制御棒の構造健全性の低下を緩和できる。
図18は翼の厚みが6.0〜7.0mmに制限される薄型の原子炉用制御棒を示している。具体的な設計値は、翼片のハフニウム板の厚み=1.5mm、スペーサのハフニウム板の厚み=1.5mm、両ハフニウム板を被覆するジルカロイ被覆層の厚み=0.35mmとすることで、総じて6.6mmとなり、6.0〜7.0mmに制限される薄型の原子炉用制御棒に適するものとなる。よって、翼片及びスペーサに用いられるハフニウム板及びジルカロイ被覆層として同一製造過程で作成したものを用いる場合にあっては、ハフニウム板及びジルカロイ被覆層の厚みは、それぞれ、1.5mm及び0.35mmとするのがよい。
図19は翼の厚みが8.0mm程度となる厚型の原子炉用制御棒(実機の大半を占める原子炉用制御棒)を示している。
この厚型の原子炉用制御棒は、スペーサが2枚重ねられる点を特徴としている。具体的な設計値は、翼片のハフニウム板の厚み=1.45mm、スペーサのハフニウム板の厚み=1.45mm、両ハフニウム板を被覆するジルカロイ被覆層の厚み=0.3mmとすることで、総じて8.2mmとなり、8.0mm程度に制限される薄型の原子炉用制御棒に適するものとなる。