JP5354566B2 - カチオン性多糖磁性粒子複合体 - Google Patents
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Description
一方、細胞や組織の移植は適切に行われた場合でも、移植後の免疫拒絶反応による急激な細胞死、組織摘出時のダメージ等に起因する細胞の壊死等が見られる場合もあり、術後の的確な経過観察への要求は大きい。
例えば、磁性金属酸化物とデキストランなどの多糖類との複合体を用いて細胞標識を行うことが提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。このような多糖磁性粒子複合体は、毒性が低い、血液クリアランスが遅いなどの利点を有するものであるが、表面電荷が負であり、膵島細胞等の一般的な移植細胞に対する標識能が低いため、移植後のMRIで検出し難いという問題があった。
なお、還元多糖の酸化鉄錯体が、滅菌に必要な温度において安定であることは知られている(特許文献5)。
。また、プルラン、及びその誘導体を含むFe2+とFe3+イオンの混合水溶液にアンモニア水を加え、共沈させることによって作製した酸化鉄ナノ粒子(ION)が、ラット骨髄間葉系幹細胞(MSC)に取り込まれMRI造影能を示したことが報告されている(非特許文献2)。
さらに、本発明者らは、多糖誘導体の末端アルデヒド(還元末端)がカルボキシル化又はアルコール化されたカチオン性多糖誘導体を用いて得られる複合体は、培養液中で凝集しにくいことを知見し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
ウシ胎仔血清を20%含むD−MEM中に、37℃、5%CO2の条件で、24時間静置したときの凝集度が、4.0倍以下である(以下、「本発明の複合体」ともいう。)。(2)カチオン性多糖誘導体の末端アルデヒドがカルボキシル化又はアルコール化されている、(1)に記載の複合体。
(3)磁性金属酸化物をカチオン性多糖誘導体で被覆した後、50〜120℃で5分〜6時間加熱して得られる、(1)又は(2)に記載の複合体。
(4)磁性金属酸化物がフェライトである、(1)〜(3)の何れかに記載の複合体。
(5)カチオン性多糖誘導体が、アミノアルキルエーテル化多糖である、(1)〜(4)の何れかに記載の複合体。
(6)多糖が、デキストラン、デキストリン、セルロース、アガロース、デンプン及びプルランから選択される少なくとも1種である、(1)〜(5)の何れかに記載の複合体。(7)カチオン性多糖誘導体の置換度が、0.2〜0.6mol/AGUの範囲内である、(1)〜(6)の何れかに記載の複合体。
(8)下記性質を有する、(1)〜(7)の何れかに記載の複合体、
膵島細胞及び該細胞に対して十分量の複合体を含む、ウシ胎仔血清を20%含むD−MEMに、37℃、5%CO2の条件で、1時間静置したとき、該複合体による細胞1×106個当たりの標識量が、磁性金属酸化物の金属の質量に換算して0.6μg以上である。
(9)カチオン性多糖誘導体を、磁性金属酸化物中の金属1質量部当たり0.05〜20質量部の範囲内で含む、(1)〜(8)の何れかに記載の複合体。
(10)動的光散乱法により測定された平均一次粒子径が5〜100nmの範囲内にある、(1)〜(9)の何れかに記載の複合体。
(11)水ゾルの形態でのT2緩和能力が90〜1000(mM・sec)-1の範囲内にある、(1)〜(10)の何れかに記載の複合体。
(12)細胞又は組織の標識剤である、(1)〜(11)の何れかに記載の複合体。
(13)細胞又は組織が膵島細胞又は膵島である、(12)に記載の複合体。
(14)MRI造影剤である、(12)又は(13)に記載の複合体。
(15)磁性金属酸化物をカチオン性多糖誘導体で被覆した後、50〜120℃で5分〜
6時間加熱することを含む、(3)〜(14)の何れかに記載の複合体の製造方法。
(16)前記カチオン性多糖誘導体は、多糖の末端アルデヒドがカルボキシル化又はアルコール化されている、(15)に記載の製造方法。
(17)(1)〜(14)の何れかに記載の複合体の存在下、細胞を培養することを含む、細胞の標識方法。
本発明の複合体は、カチオン性多糖誘導体と磁性金属酸化物との複合体であって、下記性質を有することを特徴とする。
ウシ胎仔血清(FBS)を20%含むD−MEM(ダルベッコ改変イーグル培地)中に、37℃、5%CO2の条件で、24時間静置したときの凝集度が、4.0倍以下である。
「%」パーセントは体積%を示す。
「凝集度」とは、凝集による複合体のサイズの増加度合いを示す値であり、静置後の凝集塊の平均サイズを平均一次粒子径で除することにより求められる。
ここで、「平均一次粒子径」とは、カチオン性多糖誘導体と磁性金属酸化物との複合体の個々の粒子(一次粒子)の平均直径である。「凝集塊の平均サイズ」とは、前記一次粒子及びこれが凝集して形成された凝集塊を含む全複合体の平均サイズである。
ここで、複合体の平均一次粒子径及び凝集塊の平均サイズは、動的光散乱法(例えば、Polymer J.,13,1037−1043(1981)参照)により測定される値である。具体的なサンプル調製方法、測定条件は以下のとおりである。
複合体を金属酸化物中の金属の質量に換算して、0.05mg/mLの濃度となるようにpH9.0のホウ酸バッファーで希釈し、複合体の水性ゾルを得る。
(凝集塊の平均サイズの測定におけるサンプル調製)
複合体を金属酸化物の金属の質量に換算して、0.10mg/mLの濃度となるように、前記ウシ胎仔血清を20%含むD−MEMで希釈し、37℃インキュベータにて24時間静置した後、蒸留水で1/2に希釈して水性ゾルを得る。
(測定条件)
機器名:Autosizer 4700 (Malvern社製)、温度:25℃、測定角度:90℃、波長:514nm
カチオン基としては、例えば、1〜4級アミンを含む基等が挙げられる。好ましくは、3、4級アミンを含む基である。このようなカチオン基としては、アミノアミノアルキルエーテル基、アミノシラン基等が挙げられ、アミノアルキルエーテル基が好ましい。本発
明において、アミノアルキルエーテル基を有する多糖を、「アミノアルキルエーテル化多糖」という。
アミノアルキルエーテル化多糖は、既知の方法を用いて製造することができる。
例えば、Chemistry and Industry,1959,(11),1490−1491、特公昭59−30161号公報等に記載の方法に従い、例えば、多糖の水溶液又は懸濁液にNaOH等のアルカリを添加した後、アミノアルキルハライド若しくは対応するエポキシド、又はアンモニオアルキルハライド若しくは対応するエポキシドを加えて反応することにより行うことができる。
A1はアルキレン基を表し、
R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表すか、又は、R1とR2が結合している窒素原子と一緒になって形成され含窒素複素環を表し、
Yはハロゲン原子又はエポキシ基(下記式)を表す。
R1とR2が、これらが結合している窒素原子と一緒になって含窒素複素環を形成する場合、該含窒素複素環としては、例えば、アジリジン、ピロリジン、ピロリン、ピロール、ピペリジン、モルホリン、インドール、インドリン、イソインドリンが挙げられる。該含窒素複素環は、好ましくは5員環又は6員環であり、例えば、ピロリジン、ピロリン、ピペリジン、モルホリンが挙げられる。中でも好ましくは、ピロリジン又はピペリジンである。
A2はアルキレン基を表し、
R3、R4及びR5は、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表すか、又はR3、R4及びR5のうちの少なくとも2つがそれらが結合している窒素原子と一緒になって形成された含窒素複素環を表し、
Yはハロゲン原子又はエポキシ基(下記式)を表し、
Zはアニオンを表わす。
R3、R4及びR5のうちの少なくとも2つが、これらが結合している窒素原子と一緒になって含窒素複素環を形成する場合、該含窒素複素環としては、例えば、アジリジン、ピロリジン、ピロリン、ピロール、ピペリジン、モルホリン、インドール、インドリン、イソインドリンが挙げられる。該含窒素複素環は、好ましくは5員環又は6員環であり、例えば、ピロリジン、ピロリン、ピペリジン、モルホリンが挙げられる。
Zのアニオンとしては、例えば、塩素イオン、フッ素イオン、臭素イオンなどのハロゲンイオン、硝酸イオンなどの無機酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオンなどの有機酸イオンが挙げられる。
A3及びA4は、それぞれヒドロキシ基で置換されていてもよいアルキレン基を表わし、
R1、R2、R3、R4、R5及びZは、前記定義のとおりである。
A3及びA4で表されるアルキレン基は、好ましくは炭素数1〜3のアルキレン基である。
また、R1、R2、R3、R4、R5及びZの好ましい範囲も前記のとおりである。
特に、ジエチルアミノエチルエーテル基、ジメチルアミノメチルエーテル基、ジプロピルアミノプロピルエーテル基、トリメチルアンモニオ−2−ヒドロキシプロピルエーテル基、トリエチルアンモニオ−2−ヒドロキシプロピルエーテル基、トリプロピルアンモニオ−2−ヒドロキシプロピルエーテル基が好適である。
なお、前記式(IV)で示されるような、アミノアルキルエーテル基を有するアミノアルキルエーテル化多糖は、上述したように、前記式(II)で表されるアミノアルキルエーテル化剤を用いて製造することもできるが、前記式(I)で表されるアミノアルキルエーテル化剤を用いて前記式(III)で表されるアミノアルキルエーテル基で置換した後、該アミノアルキルエーテル基のアミノ基を、例えば未置換若しくは置換アルキルハライドと反応させることによりアンモニウム塩に変換することによって製造することもできる。
また、カチオン性多糖誘導体の置換度は、好ましくは0.2〜0.6mol/AGU、さらに好ましくは約0.2〜0.4mol/AGUの範囲内にある。AGUは、無水グルコース単位を示す。本発明の複合体を細胞の標識剤として使用する場合、このような範囲の置換度とすることにより、高い細胞標識量が得られる。
カチオン性基が、前記アミノアルキルエーテル基である場合には、置換度は次のようにして測定される。
日本薬局方(第12改正、1991年)、一般試験法、第30項、窒素定量法に記載の方法に従って、その窒素含量を測定し、アミノアルキルエーテル基の置換度を計算する。
そのような磁性金属酸化物としては、例えば、下記式(V)で表される化合物が挙げられる。
(MIIO)l・M2 IIIO3 (V)
式(V)中、
MIIは2価の金属原子を表わし、
MIIIは3価の金属原子を表わし、
lは0〜1の範囲内の実数を表す。
(MIIO)m・Fe2O3 (V−1)
式(V)中、
MIIは2価の金属原子を表わし、
mは0〜1の範囲内の実数である。
(FeO)n・Fe2O3 (V−2)
式(V−2)中、nは0〜1の範囲内の実数である。
従って、磁性金属酸化物の粒子径は、好ましくは2〜20nm、さらに好ましくは3〜15nm、さらに好ましくは3〜10nmの範囲内にある。
水系でカチオン性多糖誘導体の存在下に、2価の金属塩及び3価の金属塩の混合金属塩水溶液と塩基性水溶液とを混合反応させ、1工程で本発明の複合体を得る。金属塩としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸から選ばれる1種との塩が挙げられる。通常、塩酸との塩が好ましい。各物質の添加順序は特に制限されない。
これにより、磁性金属酸化物がカチオン性多糖誘導体で被覆される。
こうして得られた反応液は、精製し、所望ならば、pH調整、濃縮、濾過、更には乾燥
することができる。
ここで、磁性金属酸化物中の金属の質量は、原子吸光光度法で測定する。すなわち、複合体に少量の水の存在下に塩酸を添加し、含まれる金属を完全に塩化物まで分解した後、適当に希釈し、各金属の基準液との間で特定の波長の吸光度を比較して、金属含有量を求める。
また、複合体中のカチオン性多糖誘導体の含量は、Analytical Chem.,25,1656(1953)に準拠し、硫酸−アントロン法で測定する。すなわち、複合体ゾルを適当に希釈した液に硫酸−アントロン試液を加えて発色させ、吸光度を測定する。同時に複合体の製造に用いたカチオン性多糖誘導体を基準物質として、同様に発色させ、吸光度を測定し、両者の吸光度の比率から複合体中のカチオン性多糖誘導体の含有量を求める。
膵島細胞及び該細胞に対して十分量の複合体を含む、ウシ胎仔血清を20%含むD−MEMに、37℃、5%CO2の条件で、1時間静置したとき、該複合体による細胞1×106個当たりの標識量が、磁性金属酸化物の金属の質量に換算して0.6μg以上、好ましくは0.8μg以上、さらに好ましくは1.0μg以上である。
ここで、「膵島細胞」は、哺乳類由来であり、好ましくはマウス由来又はラット由来である。膵島細胞は、哺乳類の膵島から分離することができる。分離方法として、例えばJoo Ho Tai et al., Diabetes, Vol. 55, November 2006を参照することができる。また、マウス膵島由来癌細胞株「MIN6」(Ishihara H et al., Diabetologia. 1993 Nov;36(11):1139-45、Jun-ichi Miyazaki et al., Endocrinology, Vol. 127, No. 1, 126-132等参照)を膵島細胞として使用することができる。
「該細胞に対して十分量の該複合体を含む」とは、前記ウシ胎仔血清を20%含むD−MEM 3ml中の2×106個の該細胞に対して、磁性金属酸化物中の金属の質量に換算して300μgの該複合体が存在する条件をいう。
・sec)-1、さらに好ましくは90〜300(mM・sec)-1の範囲内にある。ここで、「水ゾル」とは、蒸留水を溶媒に用いて作製したゾルである。
「T2緩和能力」は、本発明の複合体を種々の濃度で含む水ゾルと溶媒の蒸留水について、20MHz(磁場が約0.5テスラ)のパルスNMRでT2緩和時間を測定し(水ゾル調製直後)、得られるT2緩和時間の逆数、1/T2(単位:1/sec)と測定試料中の金属濃度(単位:mM)との関係をグラフにプロットし、最小自乗法で求めた直線の傾きから求められる(単位:1/mM・sec)。このような範囲T2緩和能力は、例えば、磁性金属酸化物をカチオン性多糖誘導体で被覆した後、50〜120℃で5分〜6時間加熱することにより得ることができる。
このような水性ゾル中で、細胞又は組織を培養することにより、細胞又は組織を複合体で標識する。この場合の複合体の投与量は、細胞1×106個当たり、磁性金属酸化物の金属の質量に換算して75〜300μg程度が好ましい。培養の条件は、細胞又は組織の種類により適切な条件を選択することができる。膵島細胞の場合には、通常、30〜39℃、2〜5%CO2下で、0.5〜24時間培養する。
(A)カチオン性多糖誘導体の調製
各種の多糖100gを水100mLに溶解し、これに水酸化ナトリウム、及びカチオン化剤(DEAE−Cl:ジエチルアミノエチルクロライド又はSY-GTA80(阪本薬品工業社製):グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド)を約30℃以下で加えた後、約60℃で2〜3時間撹拌する。水100mLを加え冷却し、塩酸を加えてpHを8に調整する。使用した多糖類とカチオン基の置換率に応じて、反応液の1.5〜2.5倍のメタノール及びアセトンを撹拌下に添加し、目的物を析出させる。析出物を水500mLに再溶解しメタノール及びアセトンを加えて目的物を析出させる操作を更に3回繰り返し、得られた析出物を水500mLに溶解し、水酸化ナトリウムを用いてpH8とした後、グラスフィルターでろ過、減圧濃縮し、凍結乾燥してカチオン性多糖(塩酸塩)を得る。
表1に、使用した原料及び試薬、カチオン性多糖誘導体の収量及び置換度を示す。
[実施例6、9、10、比較例1、2]
(A)で調製した多糖No.1、3、4、5、7のカチオン性多糖11.3〜22.6gを水40mLに溶解し、撹拌下室温で窒素置換した。これに、1M塩化第二鉄溶液8.8mLに塩化第一鉄4水塩0.9gを溶解した混合鉄塩溶液を加え、更に1.5規定水酸化ナトリウム溶液を、約pH11まで添加した。次いで塩酸を加えてpHを調整した後、遠心分離した。なお、比較例2については遠心により大量の沈殿が発生したため、以降の操作を行わなかった。
得られた溶液を蒸留水又はpH9のホウ酸バッファーを溶媒とした限外濾過精製、及びアセトン添加による複合体の優先的な析出により精製し、遊離のカチオン性多糖及び塩類を十分に除去した。得られた溶液をメンブランフィルター(ポアーサイズ0.20μm)でろ過し、アンプルに充填した。
(A)で調製した多糖No.1〜6、8のカチオン性多糖11.3〜22.6gを水40mLに溶解し、撹拌下室温で窒素置換した。これに、1M塩化第二鉄溶液8.8mLに塩化第一鉄4水塩0.9gを溶解した混合鉄塩溶液を加え、更に1.5規定水酸化ナトリウム溶液を、約pH11まで添加した。次いで塩酸を加えてpHを調整した後、100〜103℃で1.5時間加熱還流して、冷後遠心分離した。得られた溶液を蒸留水又はpH9のホウ酸バッファーを溶媒とした限外濾過精製、及びアセトン添加による複合体の優先的な析出により精製し、遊離のカチオン性多
糖及び塩類を十分に除去した。得られた溶液をメンブランフィルター(ポアーサイズ0.20μm)でろ過し、アンプルに充填した。
上記多糖No.9の多糖誘導体86gを水240mLに溶解し、撹拌下80℃に加熱しながら窒素置換した。これに、1M塩化第二鉄溶液184mLに塩化第一鉄4水塩18gを溶解した混合鉄塩溶液を加え、更に3規定水酸化ナトリウム溶液を、約pH11まで添加した。次いで塩酸を加えてpH7に調整した後、100〜103℃で、1.5時間加熱還流して、冷後遠心分離する。得られた溶液を限外ろ過で精製した。メンブランフィルター(ポアーサイズ0.20μm)でろ過し、アンプルに充填した。
表2に、使用した多糖誘導体、加熱還流の有無、多糖誘導体と磁性酸化鉄の質量比をまとめた。
カチオン性多糖誘導体と磁性金属酸化物の比率は、前述した方法で測定した。
次に、ウシ胎仔血清(FBS)を20%を含むD−MEM(Gibco BRL社製、Dulbecco' s Modified Eagle Medium, 型番11995-065(以下、「血清含有D−MEM」という。)を用いて、複合体の安定性を試験した。また、血清含有D−MEMには、抗菌/抗真菌剤(Penicillin-Streptomycin, liquid、 品番15140-122、 Gibco BRL社製)1%を添加した。
以下に、手順を示す。
各複合体を、鉄質量に換算して0.05mg/mLの濃度となるように、pH9.0のホウ酸バッファーで希釈して水性ゾルを得て、動的光散乱法(例えば、Polymer J.,13,1037−1043(1981)参照)により、平均一次粒子径を測定した。測定条
件は以下のとおりである。
(測定条件)
機器名:Autosizer 4700 (Malvern社製)、温度:25℃、測定角度:90℃、波長:514nm
続いて、各複合体を鉄質量に換算して、0.10mg/mLの濃度となるように、血清含有D−MEMで希釈し、37℃インキュベータにて24時間静置した後、蒸留水で1/2に希釈し、水性ゾルを得て、上記と同様の方法及び条件により凝集塊の平均サイズを測定した。
凝集塊の平均サイズの測定値を平均一次粒子径の測定値で除することにより、各複合体の凝集度を算出した。結果を表3に示す。
(1)で作製した血清含有D−MEMの水性ゾルについて、20MHz(磁場が約0.5テスラ)のパルスNMRで、T2緩和時間を測定し、T2緩和能力を算出した。T2緩和時間の測定は、水性ゾル作製後2時間、5時間、24時間に行った。T2緩和能力の算出方法は、上述したとおりである。
また、別途、溶媒に蒸留水及び無血清D−MEMを用いて、水ゾル及び水性ゾルを作製し、同様にT2緩和能力を算出した。なお、水ゾルについては、その作製直後(0時間)のT2緩和能力も測定した。
結果を、表3に示す。
また、実施例1〜8、比較例3の複合体は、血清含有D−MEM中で、一定時間経過後
もT2緩和能力は安定していた。一方、比較例1の複合体は、血清含有D−MEM中でT2緩和能力が測定できなかった。
以上より、血清含有D−MEM中で凝集度が4.0倍以下の複合体は、一定時間経過後も安定したT2緩和能力を有していることが判った。
また、凝集度が4.0倍以下の複合体を得るためには、原料多糖の末端アルデヒドをアルコール化することが有効であることが判った。
また、実施例5及び6の複合体のT2緩和能力の比較より、加熱還流を行うことで、T2緩和能力が向上することが判った。
実施例1〜4、比較例1、3の複合体を、マウス膵島由来の癌細胞(cell line: MIN6)(Jun-ichi Miyazaki et al., Endocrinology, Vol. 127, No. 1, p. 126-132参照、本明細書において、単に「MIN6」という場合もある。)と共存させ、細胞標識量を検討した。細胞の培養及び標識は以下のように行った。
MIN6は37℃、5%CO2の条件下、前記血清含有D−MEMが入った75cm2の培養フラスコで培養し、培地は3日おきに交換した。細胞をリン酸緩衝食塩水(pH 7.4)(Ambion社製)(以下、PBS)で洗浄し、トリプシン(Gibco BRL社製)を溶解したPBSを加え、細胞を浮遊させた後、同量の血清含有D−MEMを加え、トリプシンを失活させた。1200rpm(240×g)で3分間遠心して上清を除去し、細胞を回収した。PBSを用いて細胞を2回洗浄した後、2×106個/3mlになるように血清含有D−MEMで調製し、60mm2の培養ディッシュに播種した。
各複合体を、1×106個細胞当たり鉄質量換算で300μgとなるように培養ディッシュに加え、37℃、5%CO2の条件下で、1時間培養した。得られた培養液を、1200rpm(240×g)で3分間遠心して、血清含有D−MEMを除去した。細胞を1×106個になるように調製し、PBSを用いて2回洗浄した。得られたペレット状の細胞を1mLの蒸留水で懸濁し、ホモジナイズして測定用試験管に移し、4℃の状態で保存した。その後、上述した方法により、細胞懸濁液のT2緩和時間を測定した。
また、測定したT2緩和時間から、<2>(2)で測定した水ゾル(0時間)のT2緩和能力に基き、各培養時間を経た細胞懸濁液における複合体の濃度(鉄モル濃度換算)を算出した。
続いて、複合体の濃度に液量1mLを乗じて、複合体の全モル量を算出し、これを質量に換算し、106細胞個当たりの標識量(μg-Fe/1×106細胞個)とした。
結果を表4に示す。
これより、本発明の複合体を細胞の標識剤として用いる場合には、カチオン基の置換度は0.2〜0.6mol/AGUの範囲内であることが好ましいことが判った。
比較例1の細胞標識量が極めて大きかったのは、複合体の凝集塊が、細胞表面に付着しているためであると推察される。複合体を移植細胞のMRI診断用の標識剤として用いることを想定した場合、凝集塊が細胞表面に付着していると、細胞移植後に、生体内で複合体が脱離する可能性が高く、的確な診断ができない可能性が高い。
実施例1の複合体を用いて、培地の条件がMIN6の細胞標識量に与える影響を検討した。
上記と同様に、血清含有D−MEMを用いてMIN6の調製を行い、60mm2の培養ディッシュに播種した。一方、血清を含まないD−MEM(無血清D−MEM)を用いて、同様にMIN6の調製を行い、60mm2の培養ディッシュに播種した。それぞれの培養ディッシュに、実施例1の複合体(300μg-Fe/1×106個細胞)を加え、37℃、5%CO2の条件下で、30分間培養した。1200rpm(240×g)で3分間遠心して、血清含有D−MEM及び無血清D−MEMを除去した。細胞を1×106個になるように調製し、PBSを用いて2回洗浄した。得られたペレット状の細胞を1mLの蒸留水で懸濁し、ホモジナイズして測定用試験管に移し、4℃の状態で保存した。その後、細胞標識量を、上記の方法により算出した。
結果を表5に示す。
実施例1の複合体を用いて、標識時間がMIN6の細胞標識量に与える影響を検討した。時間以外の標識条件は、上記<3>と同様にした。培養ディッシュへの複合体の添加後、それぞれ0.5時間、1時間、2時間培養した。1200rpm(240×g)で3分間遠心して、血清含有D−MEMを除去した。細胞を1×106個になるように調製し、PBSを用いて2回洗浄した。得られたペレット状の細胞を1mLの蒸留水で懸濁し、ホモジナイズして測定用試験管に移し、4℃の状態で保存した。その後、上述した方法により細胞標識量を算出した。
表6に結果を示す。
実施例1の複合体を用いて、複合体の投与量がMIN6の細胞標識量に与える影響を検討した。培養時間を0.5時間とし、複合体をそれぞれ、15μg-Fe/1×106個細胞、75μg-Fe/1×106個細胞、150μg-Fe/1×106個細胞、300μg-Fe/1×106個細胞として、試験した。その他の標識条件は、上記と同様にした。1200rpm(240×g)で3分間遠心して、血清含有D−MEMを除去した。細胞を1×106個になるように調整し、PBSを用いて2回洗浄した。得られたペレット状の細胞を1mLの蒸留水で懸濁し、ホモジナイズして測定用試験管に移し、4℃の状態で保存した。その後、上述した方法により細胞標識量を算出した。
表7に結果を示す。
実施例1、3、及び比較例1の複合体を用いてMIN6を標識し、細胞毒性をTrypan blue exclusion procedureにより測定した。標識条件は、上記<3>と同様とした。細胞毒性の測定方法を以下に示す。ペレット状の細胞を1mLのPBSに懸濁したサンプルに、Trypan blue溶液(和光純薬工業社製)を加え、細胞生存率を測定した。コントロール実験として、複合体による標識を行っていない細胞についても同様に細胞生存率を測定した。
表8に結果を示す。
また、コントロールのMIN6の懸濁液、実施例1の複合体で標識したMIN6の懸濁液、及び実施例1の複合体の水性ゾル(300μg-Fe/mL、溶媒:血清含有D−MEM培地)を、1200rpm、3min、4℃の条件で遠心分離した後の写真を図1に示す。実施例1の複合体で標識したMIN6の懸濁液を遠心分離すると、赤茶色(図では黒く見える。)に着色した細胞が沈殿した。これにより、実施例1の複合体によりMIN6が標識されたことが判った。一方、複合体を含まないコントロールでは、MIN6が沈殿し、白っぽく見えた。また、複合体の水性ゾルでは、沈殿は見られなかった。
この結果、本発明の複合体により、膵島細胞が標識されることが明らかとなった。
上記遠心分離後の実施例1の複合体で標識したMIN6の沈殿と、コントロールのMIN6を核磁気共鳴画像法(MRI)で観察した。この結果を図2に示す。
本発明の複合体により標識したMIN6は、MRIにより造影した。この結果、本発明の複合体により標識したMIN6は、MRIにより観察できることが明らかとなった。
実施例1の複合体によりMIN6を標識した後、標識したMIN6をマウス(C57BL/6Cr、7週齢、25g、雄)の左腎皮膜下に移植して、体内で移植した細胞挙動の評価試験を行った。MIN6の標識は、上記<3>に記載の条件で行った。標識したMIN6を細胞濃度が5×106個/10μLとなるように生理食塩水で調整し、マウスの腎皮膜下にMIN6を移植した。移植24時間後、マウス体内での移植細胞の挙動を、MRIにより評価した。コントロール実験として、複合体による標識をしないMIN6を移植したマウスについても同様に実験を行った。この結果を図3に示す。
膵島細胞の分離は、ラットから、Joo Ho Tai et al., Diabetes, Vol. 55, November 2006に記載の方法で行った。
実施例1の複合体により分離したラット膵島細胞を標識した後、胸腺欠損マウス(nuBalb/c、7週齢、25g、雄)の腎皮膜下に移植して、移植細胞の挙動の評価を行った。移植及びMRIの方法は、Joo Ho Tai et al., Diabetes, Vol. 55, November 2006を参照した。ラット膵島細胞の標識は、上記<3>に記載の条件に準じた。標識細胞を、細胞濃度が5×106個/10μLとなるように生理食塩水で調整し、マウスの腎皮膜下に移植した。移植24時間後、マウス体内での移植細胞の挙動を、MRIにより評価した。コントロール実験として、複合体による標識を行わない膵島細胞を移植したマウスについても同様に評価した。
結果を図4に示す。
以上より、MRIにより、マウス体内の腎皮膜下の移植部位において、磁気標識した膵島細胞が観察できることが明らかとなった。
細胞内への取り込み効率が高く、細胞毒性の小さいカチオン性多糖磁性粒子複合体は、膵島移植において、移植細胞のイメージングに有効であると考えられる。
Claims (13)
- 下記性質を有する、カチオン性多糖誘導体と磁性金属酸化物との複合体、
前記カチオン性多糖誘導体の末端アルデヒドが、カルボキシル化又はアルコール化されており、
前記カチオン性多糖誘導体の置換度が、0.2〜0.6mol/AGUの範囲内であり
前記複合体の、動的光散乱法により測定された平均一次粒子径が5〜100nmの範囲内にあり、
ウシ胎仔血清を20%含むD−MEM中に、37℃、5%CO2の条件で、24時間静
置したときの凝集度が、4.0倍以下である。 - 磁性金属酸化物をカチオン性多糖誘導体で被覆した後、50〜120℃で5分〜6時間加熱して得られる、請求項1に記載の複合体。
- 磁性金属酸化物がフェライトである、請求項1又は2に記載の複合体。
- カチオン性多糖誘導体が、アミノアルキルエーテル化多糖である、請求項1〜3の何れか一項に記載の複合体。
- 多糖が、デキストラン、デキストリン、セルロース、アガロース、デンプン及びプルランから選択される少なくとも1種である、請求項1〜4の何れか一項に記載の複合体。
- 下記性質を有する、請求項1〜5の何れか一項に記載の複合体、
膵島細胞及び該細胞に対して十分量の複合体を含む、ウシ胎仔血清を20%含むD−MEMに、37℃、5%CO2の条件で、1時間静置したとき、該複合体による細胞1×1
06個当たりの標識量が、磁性金属酸化物の金属の質量に換算して0.6μg以上である
。 - カチオン性多糖誘導体を、磁性金属酸化物中の金属1質量部当たり0.05〜20質量
部の範囲内で含む、請求項1〜6の何れか一項に記載の複合体。 - 水ゾルの形態でのT2緩和能力が90〜1000(mM・sec)-1の範囲内にある、
請求項1〜7の何れか一項に記載の複合体。 - 細胞又は組織の標識剤である、請求項1〜8の何れか一項に記載の複合体。
- 細胞又は組織が膵島細胞又は膵島である、請求項9に記載の複合体。
- MRI造影剤である、請求項9又は10に記載の複合体。
- 磁性金属酸化物をカチオン性多糖誘導体で被覆した後、50〜120℃で5分〜6時間加熱することを含む、請求項2〜11の何れか一項に記載の複合体の製造方法。
- 請求項1〜12の何れか一項に記載の複合体の存在下、細胞を培養することを含む、細胞の標識方法。
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