JP5350124B2 - 結晶の構造解析方法 - Google Patents

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Description

本発明は、バルク結晶、又は半導体薄膜結晶や多重量子井戸構造の構造解析方法に関する。
従来、X線回折測定によりGaN系材料等の構造評価を行う場合には、モザイク結晶性に起因したtilt分布及びtwist分布によるピーク拡がり要因の同定及びその定性的、定量的評価が重要となっている。
ここで、モザイク結晶性に起因したtilt分布及びtwist分布について説明する。モザイク結晶状態においては、単一の大きな結晶状態ではなく、欠陥、転位等により分離された多数の微小結晶領域の集合体となっている。この際、各微小結晶領域は、全て同一の結晶方位(基板の結晶方位と同一の結晶方位)に揃っているわけではなく、周囲の欠陥、転位等の生成の影響を受けることにより、各々少しずつ異なる結晶方位に回転して分布している。このため、これをX線回折で測定すると、これら結晶方位の分布が、ピーク拡がりとなって観測され、結晶方位分布の種類、程度等を評価できる。
特に典型的な場合として、結晶方位のずれを表す回転の回転軸が、基板表面方向(接線方法)になっているような結晶方位のずれをtiltと呼び、このような結晶方位のずれのずれ角度の分布をtilt分布という。又、結晶方位のずれを表す回転の回転軸が、基板表面に垂直な方向(法線方向)になっているような結晶方位のずれをtwistと呼び、このような結晶方位のずれのずれ角度の分布をtwist分布という。
上述したような、tilt分布及びtwist分布によるピーク拡がり要因の同定及びその定性的、定量的評価の要求に対して、従来は、逆格子マッピング測定を用いた解析が主として用いられてきた。しかしながら、逆格子マッピング測定は、測定に時間を要する点、微弱なピークに対する測定及び解析が困難となる点等の問題から、全ての場合に適用できるとは限らない。従って、tilt分布及びtwist分布解析に対して、他の解析手法の開発が重要となってきている。
このような要求に答える他の解析手法として、反射指数hklに対する依存性を用いたピーク拡がり要因の解析がある。この解析手法は、逆格子マッピング測定法と異なる原理に基づく解析手法であり、上記逆格子マッピング測定法の欠点を補うという利点のみならず、逆格子マッピング測定法と併用することにより、ピーク拡がり要因の解析をより多角的に行えるようになることも期待できる。特に、近年研究が盛んなGaN系試料の構造評価においては、twist分布の評価が重要であり、上記のような新しい解析手法が必要とされている。
このような反射指数hklに対する依存性を用いたピーク拡がり要因の解析をGaN系試料に用いた報告例として、従来は、メインピークのピーク半値幅(FWHM)を用いた単純な解析のみが報告されており(非特許文献1)、ピーク形状自体を直接詳細に解析できる普遍的方法論は知られていなかった。
このような背景のもと、本発明者等は、twist分布に起因したピーク拡がりを、ピーク形状自体の反射指数hkl依存性を用いた解析により同定する方法を開発し、提案している(特許文献1、非特許文献2)。
特開2009−047443号公報
V. Srikant, J. S. Speck & D. R. Clarke, J. Appl. Phys. Vol. 82, No.9, 1 November 1997, P.4286-4295 K. Nakashima and T. Matsuoka, J. Appl. Cryst. 41, 2008, P.191-197
本発明者は、上述したtwist分布に起因したピーク拡がりを、ピーク形状自体の反射指数hkl依存性を用いた解析により同定する方法について、更に詳細に検討して、解析に用いる反射指数の選択に関する改良を行う方法を提案している(特願2008−039583)。しかしながら、この方法は、測定の際の受光系の影響を避けるための改良であり、測定の際の受光系の影響が存在する部分を直接同定及び分離して、影響のない部分を同定する方法、更には、受光系の影響が存在する部分を直接解析する方法等までは、これまで全く考察されていなかった。
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、X線回折測定により結晶構造を評価する際、反射指数hkl依存性を用いて、ピーク拡がり要因を簡便に解析、同定する結晶の構造解析方法を提供する。
即ち、従来、同解析手法においては、GaN材料系等において重要となるtwist分布に起因したピーク拡がりの解析に関して、その検討、定式化が不十分であったが、本発明は、上記課題を解決するため、twist分布に起因したピーク拡がりの解析に関して、反射指数依存性を用いた簡便かつ普遍的な解析法を提供することを目的とする。
特に、これまで検討されていなかった測定の際の受光系の影響が存在する部分を直接同定及び分離して、影響のない部分を同定する方法、更には、受光系の影響が存在する部分を直接かつ詳細に解析する方法等を、新たに提供することを目的とする。
上記課題を解決する第1の発明に係る結晶の構造解析方法は、
任意のバルク結晶、又は任意の基板上にエピタキシャル成長により作製された任意の材料系からなる単層及び多層構造結晶を、X線回折測定により構造評価する結晶の構造解析方法において、
2つ以上の相異なる反射指数hklを選択し、選択した反射指数hkl各々について、選択した反射指数hklで特定されるX線入射角度を中心値とするスキャン角度ΔθでX線入射角度を変更し、受光系開口角条件を狭開口角条件として、対称反射配置でX線回折測定を行うことにより、横軸がスキャン角度Δθで縦軸がX線強度を表すhkl反射プロファイルを求める第1測定工程と、
選択した反射指数hklで特定されるhkl面と、前記バルク結晶の表面又は前記多層構造結晶の表面或いは前記基板の表面とのなす面角度θcを用いて、前記第1測定工程で求めたhkl反射プロファイル各々について、前記横軸Δθを[Δθ/sinθc]で規格化する再規格化処理を行って、各hkl反射プロファイルを描き直す再規格化工程と、
前記再規格化工程で再規格化した各hkl反射プロファイル中の解析対象のピークについて、hkl反射プロファイル同士の前記ピークの頂点を揃えて重ねて表示し、前記ピーク同士のピーク拡がり形状を比較することにより、前記ピーク拡がり形状の反射指数hklに関する依存性を解析する第1形状解析工程と、
前記第1形状解析工程における解析により、前記ピーク拡がり形状が反射指数hklに依存しない不変な形状になっていることを確認することにより、前記ピーク拡がり形状が結晶のモザイク性により生じる局所的なtwist分布に起因して生じることを判定する第1判定工程と、
前記第1形状解析工程において、前記ピークの中心部分のピーク拡がり形状は反射指数hklに依存しない不変な形状になっているが、前記ピークの中心部分から離れた位置に、反射指数hklに依存してピーク形状が変化するサブピークが現れる場合、更に、現れた前記サブピークについて、当該サブピークの[Δθ/sinθc]軸上の位置が、反射指数hklによらず、前記ピークの中心部分から一定だけ離れた位置に現れることを確認することにより、前記サブピークの主要因が、不均一なtwist分布中の大きなtwist角の差を有する領域に起因するものであることを判定する第2判定工程と、
前記受光系開口角条件のみを広開口角条件に変更し、他の条件を前記第1測定工程と同じ条件にして、X線回折測定を行うことにより、横軸がスキャン角度Δθで縦軸がX線強度を表すhkl反射プロファイルを求める第2測定工程と、
前記第2測定工程で求めたhkl反射プロファイルに対して、前記再規格化工程を適用した後、前記第1測定工程及び前記第2測定工程で求め、前記再規格化工程で再規格化した各hkl反射プロファイル中の解析対象のピークについて、反射指数hkl毎に受光系開口角が異なるhkl反射プロファイル同士の前記ピークの頂点を揃えて重ねて表示し、前記ピーク同士のピーク拡がり形状を比較することにより、前記ピーク拡がり形状の受光系開口角に関する依存性を解析する第2形状解析工程と、
前記第2形状解析工程における解析により、前記ピーク拡がり形状が受光系開口角に依存しない不変な形状になっていることを確認することにより、前記ピーク拡がり形状が結晶のモザイク性により生じる局所的なtwist分布に起因して生じることを判定すると共に、前記第1判定工程において、前記ピーク拡がり形状が反射指数hklに依存しない不変な形状になっていることを確認した場合には、前記ピーク拡がり形状がtwist分布に起因した普遍的分布に対応することを判定する第3判定工程と、
前記第2形状解析工程において、前記ピークの中心部分のピーク拡がり形状は受光系開口角に依存しない不変な形状になっているが、前記ピークの中心部分から離れた位置に、受光系開口角に依存してピーク形状が変化するサブピークが現れる場合、更に、受光系開口角に依存してサブピークが現れる部分について、広開口角条件で測定したhkl反射プロファイルにおいてサブピークが観測されず、狭開口角条件で測定したhkl反射プロファイルにおいてサブピークが観測されることを確認することにより、大きなtwist角の差を有する領域に関して、前記サブピークの主要因に加えて、twist角の差以外のサブピークの要因の寄与が存在することを判定する第4判定工程と、
前記第2形状解析工程において、前記ピークの中心部分のピーク拡がり形状は受光系開口角に依存しない不変な形状になっているが、前記ピークの中心部分から離れた位置に、受光系開口角に依存してピーク形状が変化するサブピークが現れる場合、更に、受光系開口角に依存してサブピークが現れる部分について、広開口角条件で測定したhkl反射プロファイル及び狭開口角条件で測定したhkl反射プロファイルにおいてサブピークが観測されることを確認することにより、サブピークの要因がtwist角の差のみであることを判定する第5判定工程とを有することを特徴とする。
上記課題を解決する第2の発明に係る結晶の構造解析方法は、
上記第1の発明に記載の結晶の構造解析方法において、
前記サブピークを観測するために用いる反射指数hklを、前記面角度θcが50°以上となるような反射指数hklとすることを特徴とする。
上記課題を解決する第3の発明に係る結晶の構造解析方法は、
上記第1又は第2の発明に記載の結晶の構造解析方法において、
前記狭開口角条件を、受光系開口角0.1〜0.5°の受光系スリットを挿入する条件とし、広開口角条件を、前記受光系スリットを用いない条件(Open slit condition;受光系開口角2°程度)とすることを特徴とする。
本発明によれば、X線回折測定により結晶の構造評価をする際、hkl反射プロファイルの反射指数hklへの依存性を用いて、hkl反射プロファイルのピーク拡がりの要因を解析する結晶の構造解析方法において、特に、twist分布に起因したピーク拡がりの要因の解析に関して、簡便かつ普遍的なものにすると共に、より詳細な解析を行うことが可能となる。
従来の結晶の構造解析方法において、測定の際に受光系の影響が存在する部分については、これまで検討されていなかった。これに対して、本発明では、測定の際に受光系の影響が存在する部分を直接同定及び分離することにより、受光系の影響が無い部分を併せて同定することを可能とし、更には、受光系の影響が存在する部分を直接解析することを可能にした。より具体的には、従来の結晶の構造解析方法では、受光系の影響によりtwist分布の影響を本質的には解析できなかったが、本発明により、メインピークから離れた位置に観測される微弱なサブピーク部分の要因についても、従来に比べて、より詳細な解析が可能となる。
対称反射配置におけるX線回折測定を説明する図である。 (a)、(b)は、GaN試料に対して、種々のhkl反射プロファイルを対称反射配置で測定し、横軸を[Δθ/sinθc]で再規格化したhkl反射プロファイルである。 図2(b)の各ピーク拡がり形状を、ピーク頂点を揃えて、重ねて表示し、比較した図である。 図2(b)においてサブピーク位置の反射指数依存性を比較した図である。 同一のGaN試料に対して、受光系開口角条件のみを広開口角に変更して、種々のhkl反射プロファイルを対称反射配置で測定し、横軸を[Δθ/sinθc]で再規格化した後、図2(b)に示したhkl反射プロファイルと重ねて表示することにより、hkl反射プロファイル毎に受光系開口角の依存性の有無を比較した図である。 本発明に係る結晶の構造解析方法を説明するフローチャートである。
以下、図1〜図6を参照して、本発明に係る結晶の構造解析方法を説明する。特に、本発明に係る結晶の構造解析方法の工程順については、図6に示すフローチャートを参照する。
(実施例1)
本発明においては、任意のバルク結晶、又は任意の基板上にエピタキシャル成長により作製された任意の材料系からなる単層及び多層構造結晶が、測定の対象試料となるが、ここでは、対象試料の一例として、(0001)サファイア基板上にMOVPE成長法によりGaNエピタキシャル薄膜試料を作製した。この材料系は、twist分布に起因したX線回折のピーク拡がりが主に観測される典型例となっているものである。なお、GaNエピタキシャル薄膜試料以外にも、例えば、InGaAs/GaAs、Si/SiGeなどの材料系を用いた歪系エピタキシャル層、歪超格子構造等でもよい。
以降においては、一例として、本発明に係る結晶の構造解析方法を上記GaN試料に適用して構造評価した例を説明する。
上記GaN試料に対して、2つ以上の相異なる反射指数hklを選択し、選択した反射指数hkl各々について、選択した反射指数hklで特定されるX線入射角度を中心値とするスキャン角度ΔθでX線入射角度を変更し、対称反射配置において狭開口角条件でX線回折測定を行う。この測定により、横軸がスキャン角度Δθ、縦軸が回折X線の強度(任意単位)で表されるhkl反射プロファイルが、反射指数hkl毎に求められる(第1測定工程S1)。
ここで、図1を参照して、本発明におけるX線回折測定を説明する。本発明では、X線照射器、X線検出器(共に図示省略)を対称反射配置としており、この測定配置の条件下において、X線照射器を用い、対象試料にX線を照射し、発生する回折X線の強度をX線検出器で検出することにより、X線回折測定として、種々のhkl反射プロファイルを測定している。
測定の際には、選択された反射指数hklで特定されるhkl面(斜線で示した面)に対して、当該反射指数hklで特定されるX線入射角度を中心値として、予め決めた僅かに小さい角度から予め決めた僅かに大きい角度まで、X線入射角度を変更(スキャン)しており、この角度を、X線入射角度のスキャン角度Δθとしている。従って、スキャンされる照射X線の入射角度が、選択された反射指数hklで特定されるX線入射角度になったときに、スキャン角度Δθは0°となる。
又、hkl面に対するX線入射角度θinをスキャンする際には、X線入射角度θinとhkl面に対する回折X線の出射角度θoutとは常に同じ角度に保ってスキャンしており、これにより、対称反射配置の測定配置としている。例えば、X線照射器の位置を固定している場合、対象試料側を回転することで、X線入射角度を変更(スキャン)しており、この対象試料の回転に同期して、X線検出器側も回転させるようにしている。対称反射配置の測定配置とするためには、対象試料をθ°回転させたとき、この回転に同期して、X線検出器を2θ°回転させており、このようなスキャンをθ/2θスキャンと呼んでいる。又、選択した反射指数hklで特定されるhkl面と対象試料の表面(又は基板面)とのなす角度を面角度θcとしている。この面角度θcは、後述する再規格化処理で用いられる。
又、測定に際して、X線検出器の前に通常の受光系スリット(受光系開口角0.25°程度、但し、受光系開口角0.1〜0.5°程度で有ればよい。)を挿入して測定することにより、受光系開口角条件を狭開口角条件としている。一方、後述の第2測定工程S6で説明するが、受光系スリットを用いずに測定すると(Open slit condition、受光系開口角2°程度)、受光系開口角条件を広開口角条件として測定することになる。
そして、第1測定工程S1で測定したhkl反射プロファイル各々について、その横軸Δθを[Δθ/sinθc]で規格化する再規格化処理を行って、各hkl反射プロファイルを描き直す(再規格化工程S2)。再規格化処理後の各hkl反射プロファイルが図2(a)、(b)に示すプロファイルである。
なお、図2(a)、(b)では、各hkl反射プロファイルの形状が分かり易いように、これらを2つに分けて記載すると共に、各hkl反射プロファイル同士が重ならないように、その位置をシフトして示している。
図2(a)、(b)に示す再規格化した各hkl反射プロファイル中の解析対象のピークおいて、そのピーク中心部分は、hklに依存しない不変な拡がり形状をしていることがわかる。これは、図3に示すように、図2(a)、(b)で示したhkl反射プロファイル同士のピークのピーク頂点を揃えて重ねて表示して、それらのピーク拡がり形状を比較し、ピーク拡がり形状の反射指数hklに関する依存性を解析することにより、より正確に確認できる(第1形状解析工程S3)。なお、「ピーク拡がり形状」とは、hkl反射プロファイルがピーク的に立ち上がった部分において、このピーク部分の拡がり形状を意味する。
反射指数hklに依存しない不変なピーク拡がり形状を示す部分は、twist分布を反映したピーク拡がり形状である。従って、ピーク拡がり形状が反射指数hklに依存しない不変な形状になっているか否かを確認することにより、ピーク拡がり形状が結晶のモザイク性により生じる局所的なtwist分布に起因して生じているかどうかを判定することができる(第1判定工程S4)。即ち、twistがない平均的状態のまわりに、ほぼ対称な形で連続的に分布するようなtwist角度分布をもつモザイク結晶構造が存在することが簡便に確認できる。
しかしながら、図2(a)、(b)では、ピークの中心部分のピーク拡がり形状は反射指数hklに依存しない不変な形状になっているが、一部のhkl反射プロファイルにおいて、ピーク中心から大きく離れた部分(連続的分布からなるメインピーク部分とは明確に分離できる部分)に微弱なサブピークが見られる。このサブピークは、全てのhkl反射プロファイルで観測されるわけではなく、又、たとえ観測されても、他のhkl反射プロファイル測定でのサブピーク形状を比較した場合、必ずしも反射指数hklに依らない不変な形状として観測されてはいない。つまり、このサブピークは、反射指数hklに依存して、その形状が変化している。このようなサブピークは、従来の構造解析方法(特許文献1、非特許文献2)では、twist分布を反映したピーク拡がり形状とは判定されていない。
このようなサブピークが観測される指数の特徴を調べてみると、反射指数hklに対応して決まる面角度θcが50°以上となるような反射指数hklで観測されていることがわかる。このような指数依存性を持つ要因として、測定の際のX線検出器系の開口角の影響が報告されており(特願2008−039583)、本実施例でも、この要因がサブピークの観測に際して影響を与えていると考えられる。
このため、たとえサブピークがtwist分布の違いに起因して現れるサブピークであるとしても、従来の構造解析方法では、測定の関係上、X線検出器系の開口角の影響をあわせて受けるため、twist分布のみを反映したピーク拡がり形状とは判定されない。従来の構造解析方法の結論として、この結論自体は正しく、問題はないのであるが、この結論とは別に、X線検出器系の開口角の影響を認識したうえで、観測されるサブピークがtwist分布の違いに起因して現れるサブピークか否かについての情報を得たい、という要求もあり、このような要求には、従来の構造解析方法は応えておらず、このような点が改善すべき次の問題として残っていた。
このような点を改善するため、本発明者は、次のような構造解析方法を提案している(特願2008−209479)。具体的には、図2(a)、(b)において、サブピークのピーク形状自体は一致せずとも、サブピークが現れるピーク位置(Δθ/sinθc軸上の位置)が、反射指数hklによらず、メインピークから一定だけ離れた位置に表れているか否かを調べる。もし、サブピークの要因が不均一なtwist分布中の大きくtwistした特異な部分からのピークであるならば、測定の関係上、X線検出器系の開口角の影響をあわせて受けるため、サブピーク形状自体は一致せずとも、サブピークが観測される横軸(Δθ/sinθc軸)のピーク位置に関しては、反射指数hklに関する不変性が観測されることが原理的に予測される。従って、サブピークが現れるピーク位置(Δθ/sinθc軸上の位置)を実験的に調べ、ピーク位置の不変性(つまり、反射指数hklによらず、メインピークから一定だけ離れた位置に表れること)を確認することにより、サブピークの要因が、不均一なtwist分布中における大きくtwistした特異な領域(大きなtwist角の差を有する領域)に起因して生じるピークであるか否かを判定することができる(第2判定工程S5)。前述したように、面角度θcが50°以上となるような反射指数hklでサブピークが観測されているので、第2判定工程S5においては、面角度θcが50°以上となるような反射指数hklを用いることが望ましい。
図2(a)、(b)に基づき、サブピークについて、前述の判定作業を行ったグラフが図4である。実際、図4においては、サブピークのピーク位置(Δθ/sinθc軸上の位置)が、反射指数hklによらず、メインピークから一定だけ離れた位置に表れるように観測されていることが確認できる。このことから、サブピークの要因は、不均一なtwist分布中の大きくtwistした特異な部分からのピークであることと結論づけることができる。
この「サブピークの要因としてtwist分布の差が主要因」という結論自体は正しいのではあるが、「サブピークの要因に対してtwist分布の差以外の寄与は皆無か?」、或いは、「twist分布の差以外の要因の寄与も(大きくはないが)存在するのか?」という、更なる解析精度の向上の問題については、前述の構造解析方法においても検討が不十分であった。
そこで、上述した問題に関して、更なる解析精度の向上を実現するのが本発明の主眼である。
具体的には、上記同一試料に対して、受光系開口角以外の測定条件(例えば、入射するX線の強度、波長、スキャンスピード等)は、第1測定工程S1と同一の条件に保ち、受光系開口角条件のみを、受光系スリットを用いないOpen slit condition(受光系開口角2°程度)、つまり、広開口角条件として測定している(第2測定工程S6)。
測定後、第2測定工程S6で測定した各hkl反射プロファイルについても、再規格化工程S2と同じ再規格化処理を適用して、[Δθ/sinθc]で規格化する再規格化処理を行って、各hkl反射プロファイルを描き直す(再規格化工程S7)。なお、第2測定工程S6(広開口角条件)で測定した各hkl反射プロファイルについても、第1測定工程S1(狭開口角条件)で測定した各hkl反射プロファイルと同様に、ピーク拡がり形状の反射指数hklへの依存性を調べる必要がある場合には、この再規格化工程S7の後、再規格化した広開口角条件の各hkl反射プロファイルに、上記第1形状解析工程S3、第1判定工程S4を適用して、ピーク拡がり形状の反射指数hklへの依存性を調べることにより、twist分布に起因した依存性を示す部分の有無を判定する。
以上により、第1測定工程S1で求めた各hkl反射プロファイル及び第2測定工程S6で求めた各hkl反射プロファイルについて、再規格化したhkl反射プロファイルが描き直されたことになる。再規格化した各hkl反射プロファイル中の解析対象のピークについて、反射指数hkl毎に受光系開口角が異なるhkl反射プロファイル同士のピークのピーク頂点を揃えて重ねて表示して、それらのピーク拡がり形状を比較し、ピーク拡がり形状の受光系開口角に関する依存性を解析する(第2形状解析工程S8)。ここでは、例えば、後述する図5に示すように、任意の反射指数において、狭い開口角条件のhkl反射プロファイルと広開口角条件のhkl反射プロファイルとを、ピーク頂点を揃えて重ねて表示し、それらのピーク拡がり形状を比較しており、この比較により、ピーク拡がり形状の受光系開口角に関する依存性を解析している。
第2形状解析工程S8における解析により、ピーク拡がり形状が受光系開口角に依存しない不変な形状になっていることを確認する。この確認により、前述の第1判定工程S4と同様に、ピーク拡がり形状が結晶のモザイク性により生じる局所的なtwist分布に起因して生じると判定する。更に、前述の第1判定工程S4において、ピーク拡がり形状が反射指数hklに依存しない不変な形状になっている場合には、反射指数hklによらず、かつ、受光系開口角によらず、ピーク拡がり形状が不変であることを確認することになり、ピーク拡がり形状がtwist分布に起因した普遍的分布に対応すると同定することができる(第3判定工程S9)。
一方、第2形状解析工程S8において、受光系開口角に対する依存性が有る場合、つまり、ピークの中心部分のピーク拡がり形状は受光系開口角に依存しない不変な形状になっているが、ピークの中心部分から離れた位置に、受光系開口角に依存してピーク形状が変化する微弱なサブピークが現れる場合、更に、受光系開口角に依存してサブピークが現れる部分について、広開口角条件で測定したhkl反射プロファイルにおいてサブピークが観測されず、狭開口角条件で測定したhkl反射プロファイルにおいてサブピークが顕著に観測されることを確認する。これにより、受光系開口角条件により差が現れる部分と現れない部分を同定、分離している。この確認により、大きなtwist角の差を有する領域に関して、サブピークの主要因に加えて、twist角の差以外のサブピークの要因の寄与が存在することを判定する(第4判定工程S10)。
又、第2形状解析工程S8において、ピークの中心部分のピーク拡がり形状は受光系開口角に依存しない不変な形状になっているが、ピークの中心部分から離れた位置に、受光系開口角に依存してピーク形状が変化するサブピークが現れる場合、更に、受光系開口角に依存してサブピークが現れる部分について、広開口角条件で測定したhkl反射プロファイル及び狭開口角条件で測定したhkl反射プロファイルにおいてサブピークが観測されることを確認する。これにより、受光系開口角条件により差が現れる部分と現れない部分を同定、分離している。この確認により、サブピークの要因がtwist角の差のみであることを判定する(第5判定工程S11)。なお、第4判定工程S10、第5判定工程S11においても、面角度θcが50°以上となるような反射指数hklを用いて、サブピークを観測することが望ましい。
ここで、hkl反射プロファイル毎に受光系開口角の依存性の有無を比較した一例を図5に示す。なお、図5には、図2(a)、(b)において、上述したサブピークが観測される反射指数の場合のみを図示している。
まず、図5において、中心部分のメインピークは重なっており、受光系開口角の依存性は無いことが確認できる。この部分は、図3のhkl指数依存性がない部分と対応しており、twist分布のみに起因したプロファイルであることが確認されている。
しかしながら、図5から分かるように、受光系スリットを挿入して測定された狭開口角条件でのプロファイル(図中のwith slit)に観測された明確なサブピークは、Open slit conditionで測定された広開口角条件でのプロファイル(図中のw/o slit)には観測されないことがわかる。もし、サブピークの要因がtwist分布の差のみであり、それ以外の寄与は皆無であるならば、メインピーク部分と同じように、受光系開口角の依存性は無いはずであり、従って、図5においては、広開口角条件でのプロファイルにも、狭開口角条件でのプロファイルと同じ位置にサブピークが観測されるはずである。
ところが、図5の結果はこれと矛盾する。図5のように、狭開口角条件でのプロファイルにのみサブピークが現れるという結果は、サブピークの要因として、第2判定工程S5で判定した要因である「不均一なtwist分布中の大きなtwist角の差を有する領域からのサブピーク」という判定結果に加えて、この大きなtwist角の差を有する領域部分に関して、twist分布の差以外の要因、例えば、twist角の差に相関して生じる格子歪等の他の分布要因の差の寄与もあわせて考えれば説明できる(第4判定工程S10参照)。従って、図5の結果から観測されるサブピークの要因は、twist分布の差が主要因ではあるが、それに加えて、twist分布の差以外の要因の寄与も(大きくはないが)存在することが明確に結論づけられる。
一方、広い受光系開口角条件及びで測定したhkl反射プロファイル及び狭い受光系開口角条件で測定したhkl反射プロファイルにおいて、共に、サブピークが観測される場合には、他の分布要因は存在せず、サブピークの要因に関して、第2判定工程S5で判定した要因である「不均一なtwist分布中の大きなtwist角の差を有する領域からのサブピーク」のみであると判定することができる(第5判定工程S11参照)。
以上説明した方法により、本発明では、簡便に、更なる解析精度の向上を図ることが可能となった。又、図5の結果は、メインピークに対応するtwist分布の主要部分とは大きくtwist角度が異なる微小な結晶部分が、上記主要部分とは独立して存在することを示唆しており、本発明は、このような微小な結晶部分に対する知見を簡便に得ることを可能にしている。このように、物理的に重要な結果が簡便に判定できることは、本発明の大きな利点と言える。なお、観測されるサブピーク強度は、メインピーク強度に対してログスケールで微弱なため、逆格子マッピング測定では観測できないことが想定される。従って、このような微弱なサブピークの解析が可能となる点も、本発明の大きな利点である。
以上説明してきたように、本発明により、従来は解析が不十分だった上記サブピークの要因の詳細に関しても、その要因が主としてtwist分布に起因したものであることを判定する以外に、更に、twist分布の差以外の寄与は皆無か否かを簡便に評価、解析することが可能となった。
本発明は、バルク結晶、又は半導体薄膜結晶や多重量子井戸構造の構造解析方法に関するものであり、特に、格子不整合度の大きいヘテロエピタキシャル成長薄膜結晶の不完全性、歪を含むエピタキシャル薄膜及び歪超格子構造の構造劣化の有無及びその程度、特徴等を調べる上で有用なものである。
θin 入射角度
θout 出射角度
θc 面角度

Claims (3)

  1. 任意のバルク結晶、又は任意の基板上にエピタキシャル成長により作製された任意の材料系からなる単層及び多層構造結晶を、X線回折測定により構造評価する結晶の構造解析方法において、
    2つ以上の相異なる反射指数hklを選択し、選択した反射指数hkl各々について、選択した反射指数hklで特定されるX線入射角度を中心値とするスキャン角度ΔθでX線入射角度を変更し、受光系開口角条件を狭開口角条件として、対称反射配置でX線回折測定を行うことにより、横軸がスキャン角度Δθで縦軸がX線強度を表すhkl反射プロファイルを求める第1測定工程と、
    選択した反射指数hklで特定されるhkl面と、前記バルク結晶の表面又は前記多層構造結晶の表面或いは前記基板の表面とのなす面角度θcを用いて、前記第1測定工程で求めたhkl反射プロファイル各々について、前記横軸Δθを[Δθ/sinθc]で規格化する再規格化処理を行って、各hkl反射プロファイルを描き直す再規格化工程と、
    前記再規格化工程で再規格化した各hkl反射プロファイル中の解析対象のピークについて、hkl反射プロファイル同士の前記ピークの頂点を揃えて重ねて表示し、前記ピーク同士のピーク拡がり形状を比較することにより、前記ピーク拡がり形状の反射指数hklに関する依存性を解析する第1形状解析工程と、
    前記第1形状解析工程における解析により、前記ピーク拡がり形状が反射指数hklに依存しない不変な形状になっていることを確認することにより、前記ピーク拡がり形状が結晶のモザイク性により生じる局所的なtwist分布に起因して生じることを判定する第1判定工程と、
    前記第1形状解析工程において、前記ピークの中心部分のピーク拡がり形状は反射指数hklに依存しない不変な形状になっているが、前記ピークの中心部分から離れた位置に、反射指数hklに依存してピーク形状が変化するサブピークが現れる場合、更に、現れた前記サブピークについて、当該サブピークの[Δθ/sinθc]軸上の位置が、反射指数hklによらず、前記ピークの中心部分から一定だけ離れた位置に現れることを確認することにより、前記サブピークの主要因が、不均一なtwist分布中の大きなtwist角の差を有する領域に起因するものであることを判定する第2判定工程と、
    前記受光系開口角条件のみを広開口角条件に変更し、他の条件を前記第1測定工程と同じ条件にして、X線回折測定を行うことにより、横軸がスキャン角度Δθで縦軸がX線強度を表すhkl反射プロファイルを求める第2測定工程と、
    前記第2測定工程で求めたhkl反射プロファイルに対して、前記再規格化工程を適用した後、前記第1測定工程及び前記第2測定工程で求め、前記再規格化工程で再規格化した各hkl反射プロファイル中の解析対象のピークについて、反射指数hkl毎に受光系開口角が異なるhkl反射プロファイル同士の前記ピークの頂点を揃えて重ねて表示し、前記ピーク同士のピーク拡がり形状を比較することにより、前記ピーク拡がり形状の受光系開口角に関する依存性を解析する第2形状解析工程と、
    前記第2形状解析工程における解析により、前記ピーク拡がり形状が受光系開口角に依存しない不変な形状になっていることを確認することにより、前記ピーク拡がり形状が結晶のモザイク性により生じる局所的なtwist分布に起因して生じることを判定すると共に、前記第1判定工程において、前記ピーク拡がり形状が反射指数hklに依存しない不変な形状になっていることを確認した場合には、前記ピーク拡がり形状がtwist分布に起因した普遍的分布に対応することを判定する第3判定工程と、
    前記第2形状解析工程において、前記ピークの中心部分のピーク拡がり形状は受光系開口角に依存しない不変な形状になっているが、前記ピークの中心部分から離れた位置に、受光系開口角に依存してピーク形状が変化するサブピークが現れる場合、更に、受光系開口角に依存してサブピークが現れる部分について、広開口角条件で測定したhkl反射プロファイルにおいてサブピークが観測されず、狭開口角条件で測定したhkl反射プロファイルにおいてサブピークが観測されることを確認することにより、大きなtwist角の差を有する領域に関して、前記サブピークの主要因に加えて、twist角の差以外のサブピークの要因の寄与が存在することを判定する第4判定工程と、
    前記第2形状解析工程において、前記ピークの中心部分のピーク拡がり形状は受光系開口角に依存しない不変な形状になっているが、前記ピークの中心部分から離れた位置に、受光系開口角に依存してピーク形状が変化するサブピークが現れる場合、更に、受光系開口角に依存してサブピークが現れる部分について、広開口角条件で測定したhkl反射プロファイル及び狭開口角条件で測定したhkl反射プロファイルにおいてサブピークが観測されることを確認することにより、サブピークの要因がtwist角の差のみであることを判定する第5判定工程とを有することを特徴とする結晶の構造解析方法。
  2. 請求項1に記載の結晶の構造解析方法において、
    前記サブピークを観測するために用いる反射指数hklを、前記面角度θcが50°以上となるような反射指数hklとすることを特徴とする結晶の構造解析方法。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の結晶の構造解析方法において、
    前記狭開口角条件を、受光系開口角0.1〜0.5°の受光系スリットを挿入する条件とし、広開口角条件を、前記受光系スリットを用いない条件とすることを特徴とする結晶の構造解析方法。
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