JP5349028B2 - 改質された四フッ化エチレン樹脂粉末の製造方法及び改質された四フッ化エチレン樹脂粉末 - Google Patents
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Description
すなわち、パラフィン系炭化水素で良く濡れた状態の四フッ化エチレン樹脂粉末に電離放射線を照射する方法によって、撥水・撥油性、非粘着性、滑り特性など四フッ化エチレン樹脂の表面特性を損なうことなく他の素材に対する親和性向上を図る技術について検討を重ねた。
具体的な例を挙げれば、四フッ化エチレン樹脂のパラフィン系炭化水素に対する親和性の向上を図るべく、比表面積の大きな粉末状の四フッ化エチレン樹脂に過剰のノルマルヘキサンを加えてγ線の照射を試みたところ、未照射の四フッ化エチレン樹脂粉末はノルマルヘキサン中で短時間に沈殿してしまうのに対し、照射した場合は沈殿しにくくなることを見出した。
また、本発明の他の態様である改質された四フッ化エチレン樹脂粉末は、粉末の表面で四フッ化エチレン樹脂とパラフィン系炭化水素が結合している。この改質された四フッ化エチレン樹脂粉末は、上記の方法により製造することができる。
本発明において、より好ましいパラフィン系炭化水素の選択は、沸点が100℃を超えるC8(オクタン)〜C16(ヘキサデカン)の中から選ばれる常温で液体の化合物、および融点が28℃であるC18(オクタデカン)以上の固形パラフィンであり、これらは100℃に近い高い温度で安全に照射できるため特に推奨される。ここで用いる固形パラフィンは、使用の目的に合わせて融点の異なるグレードを任意に選択すれば良く、マイクロクリスタリンワックス、カルナバロウ等も選択の範囲にある。固形のパラフィン化合物としては、例えば融点が40〜70℃の範囲にある固形のパラフィンロウが好ましい。これらの固形パラフィンの例としては、例えば和光純薬工業(株)製(商品名:試薬パラフィン、融点68℃〜70℃)、日本精蝋(株)製(商品名;パラフィンワックス130、融点55℃)などが挙げられる。
パラフィン系炭化水素と四フッ化エチレン樹脂粉末の混合物の調製は、例えば、次のような方法が推奨される。常温常圧で液体のデカンをパラフィン系炭化水素の一成分として選択する場合には、四フッ化エチレン樹脂粉末に対して重量で1/2程度のデカンを加えることにより、丁度液面の高さが粉末の高さに揃った混合物をつくることができる。パラフィン系炭化水素に対し四フッ化エチレン樹脂粉末の量が多い場合は、良く練り合わせてペースト状の組成物と成し、さらに高濃度ではパラフィン系炭化水素をコーティングした粉末状の混合物として調製することができる。粉末状混合物の調製は、密閉容器内で長時間容器を回転するなどして中にある四フッ化エチレン樹脂粉末を自由に動かし、均一に濡れた状態と成す方法が推奨される。このように、パラフィン系炭化水素と四フッ化エチレン樹脂粉末とが界面で密着した状態、特には両者がむら無く混じり合った状態を形成できれば、この調製段階はいずれの様式も用いることができる。
本発明は、上述したように四フッ化エチレン樹脂粉末がパラフィン系炭化水素で良く濡れた状態にある混合物に対して、通常、大気中で電離放射線を照射することによって達成される。また、混合物中のパラフィン系炭化水素が室温で固体であるものにあってはその融点以上の温度に加熱し、溶けた状態が保てる一定の温度で、通常、大気中で電離放射線を照射することによって達成される。
本発明においては、上述のように四フッ化エチレン樹脂の全表面にパラフィン系炭化水素が液体の状態で密着していること、換言すれば混合物は濡れ性の高い状態にあることが重要となる。そのため、固形パラフィンを用いる場合には、融点以上の出来るだけ高い温度に保つことが必要となり、この場合、この温度が濡れ性をさらに高めると同時に反応の確率と速度の増大につながり、一石二鳥の効果をもたらす。
また、本発明においては、上述した室温で液体のデカンなどを使用する場合でも引火の危険性がない条件を選び、なるべく高い温度(例えば、80℃〜90℃)で照射することによって四フッ化エチレン樹脂粉末に対する濡れ性を良くすると同時に、照射による反応の効率を高める利点が得られる。
本発明においては、例えば、γ線、電子線などが好ましくは使用できる。また、電離放射線の吸収線量は、特に限定されるものではなく、電離放射線を照射する際の温度等によって適宜決めることができ、例えば、100Gy〜50kGy、好ましくは150Gy〜30kGy、より好ましくは、1kGy〜20kGyの範囲である。
したがって、好ましくは80〜95℃の温度で150Gy〜30kGyの電離放射線を大気中で照射することによって四フッ化エチレン樹脂粉末の改質を達成することができる。
また、本発明においては、改質された四フッ化エチレン樹脂粉末の他に、改質された四フッ化エチレン樹脂粉末を含む改質された樹脂組成物、例えば改質された四フッ化エチレン樹脂粉末とパラフィン系炭化水素を含む組成物もまた本発明の範囲内である。
分離精製技術としては、例えば、遠心分離、溶媒抽出、蒸留、蒸発及びろ過等から選択される技術を単独或いは組み合わせて使用することができる。
したがって、本発明においては、パラフィン系炭化水素成分としてC5(ペンタン)〜C16(ヘキサデカン)の中から選ばれる常温で液体の化合物を使用する場合には、接着性及び/又は親和性の向上した高機能性四フッ化エチレン樹脂粉末の単離及び回収作業を容易に行うことができる。
融点68℃〜70℃の固形パラフィン(商品名:試薬パラフィン、和光純薬工業(株)製)20(g)を90℃に加熱して融解し、これを撹拌しながら四フッ化エチレン樹脂粉末(品番:KTL−8N(平均粒径5μm)、(株)喜多村製)20(g)を少しずつ加えてペースト状とし、引き続き自然冷却することにより、重量比で1:1の白色固形組成物40(g)を得た。この組成物を再び融点以上に加熱して融解し、90℃でコバルト60を線源とする線量率5kGy/hのγ線を大気中で1時間照射し、吸収線量5kGyの組成物を得た。さらに、照射後室温まで戻した該固形組成物を、別に融かしておいた同じ融点を持つ固形パラフィン(商品名:試薬パラフィン、和光純薬工業(株)製)114(g)に加えてよく攪拌して混ぜ合わせ、四フッ化エチレン樹脂粉末の濃度が13重量%である組成物を調製し、厚さ約10mmの板状に成形した。同様に、同じ濃度の未照射の組成物を調製し、三点曲げ試験により23℃における曲げ強度と曲げ弾性率を測定し、四フッ化エチレン樹脂粉末と固形パラフィンの接着性を評価した。なお、曲げ試験は、当該組成物から厚さ10mm、幅20mm、長さ45mmの試験片を削り出し、インストロン型試験機により支点間隔を厚さの4倍にとり、クロスヘッドスピード2mm/minで行った。試験結果を下表に示す。照射組成物においては曲げ強度、曲げ弾性率ともに未照射組成物より顕著に高く、マトリックスである固形パラフィンとフィラーに相当する四フッ化エチレン樹脂粉末の界面で、相互の接着性が著しく向上していることを示す結果を得た。
別の固形パラフィンへの添加を調製して、四フッ化エチレン樹脂粉末の濃度を10重量%とした以外は実施例1と同様にして固形パラフィン組成物及び未照射の固形パラフィン組成物を調製した。
かくして調製した組成物は、各々エチルアルコールで汚れを取った高密度ポリエチレン板に室温で塗り広げ、さらにキムワイプで光沢が出るまで拭き取ったのち、新東科学(株)製のVCMフォトセンサ式ポータブル摩擦計(HEIDON トライボギアミューズ94iII)により、それぞれの組成物を塗った表面の靜摩擦係数を測定した。その結果は、下表に示すように照射組成物では最も摩擦係数が小さく、パラフィンとの接着性が高いために拭き取り作業による四フッ化エチレン樹脂微粉末の脱落が少ないことを裏付ける結果となった。
n−デカン50(g)を三角フラスコに取り、上記と同様の(株)喜多村製の四フッ化エチレン樹脂粉末(KTL−8N)約90(g)を少しずつ加え、n−デカンの液面が四フッ化エチレン樹脂粉末に被さる程度の浴比に整えた照射用の試料を調製した。この試料はコバルト60を線源とする線量率10kGy/hのγ線により、大気中、85℃で10kGy(1時間)照射した。照射後、四フッ化エチレン樹脂粉末を単離するため、超遠心分離機で過剰のn−デカンを分離したのち四フッ化エチレン樹脂粉末をビーカーに取り、n−へキサンを加えて撹拌、洗浄し、再び超遠心分離機で四フッ化エチレン樹脂粉末を分離して取り出した。同様の操作を数回繰り返したのち風乾した四フッ化エチレン樹脂粉末を、更に60℃で20時間真空乾燥した。
ATR法(全反射測定法)は、試料の表面から少しだけ潜り込んだ場所の光の反射スペクトルを判読するので表面・界面の分光計測に利用されており、この結果から、本発明の四フッ化エチレン樹脂粉末は、電離放射線により内部二重結合を生じたパラフィンが四フッ化エチレンの切断末端に結合した化学的に機能性の高い表面構造になっていると考えられる。
実施例3と同様にして得た本発明による四フッ化エチレン樹脂粉末の染色性を未処理の四フッ化エチレン樹脂粉末と比較した。染料は市販の高純度・ファイン染料、コールダイオール(全繊維用染料)の赤を使用し、水に溶かした染料の中に四フッ化エチレン樹脂粉末を投入して撹拌しながら約85℃で30分間処理した。この際、四フッ化エチレン樹脂粉末は水に馴染まないため、予めエタノールで湿らせてから染浴中に投入した。染色処理した四フッ化エチレン樹脂粉末は、濾紙を広げた濾斗を用いて濾過した。濾紙に残った四フッ化エチレン樹脂粉末は台所用中性洗剤を溶かした水で濾液の色がなくなるまで洗浄したのち、さらに水洗後乾燥した。かくして染色した本発明による四フッ化エチレン樹脂粉末は図3(b)に見るように赤く染色したのに対し、未処理の四フッ化エチレン樹脂粉末は図3(a)に比較するように、ごく僅かに着色するものの殆ど染まらなかった。
よって、本発明による四フッ化エチレン樹脂粉末は、機能性の高い表面に改質されていて、異種材料に対する親和性も良好であることがわかる。
Claims (6)
- 四フッ化エチレン樹脂粉末とパラフィン系炭化水素とを所定の割合で含み、かつ、該四フッ化エチレン樹脂粉末と該パラフィン系炭化水素が混じり合った状態にある混合物を調製する混合物調製段階と、
前記混合物に、85〜90℃の温度で、吸収線量100Gy〜20kGyの電離放射線を照射する電離放射線照射段階と、
を備えることを特徴とする改質された四フッ化エチレン樹脂粉末の製造方法。 - 前記パラフィン系炭化水素が、室温で液体であるパラフィン化合物及び加熱により液体となる固形パラフィン化合物からなる群から選択される化合物の1種又は2種以上である請求項1記載の方法。
- 前記四フッ化エチレン樹脂粉末とパラフィン系炭化水素との配合は、重量比で1:10〜10:1である、請求項1又は2に記載の方法。
- 前記電離放射線照射段階により生成した組成物から、分離精製技術を用いて改質された四フッ化エチレン樹脂粉末を単離及び回収する段階をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の方法。
- 請求項1乃至4のいずれか1項記載の方法により製造された、改質された四フッ化エチレン樹脂粉末。
- パラフィン系炭化水素が四フッ化エチレン樹脂粉末の表面で当該樹脂と結合している、請求項5記載の改質された四フッ化エチレン樹脂粉末。
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