JP5348775B2 - 孔内固着装置 - Google Patents

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Description

本発明は、各種センサを内蔵した観測機器本体を孔内(ボアホール)に設置するための孔内固着装置に関し、更に詳しく述べると、観測機器本体の上部と下部に、外方向に突出可能な圧着体を備えた固着機構を設け、ワイヤで孔内に吊り降ろされ、孔底にて前記各圧着体の突出動作により観測機器本体を固着する孔内固着装置に関するものである。この技術は、特に限定されるものではないが、例えばセンサとして3成分加速度計を組み込んだ地中強震計に好適である。
地震瞬時速報のための観測には、断層近傍でも振り切らずに強震波形を記録できる強震計が必要となる。最近の例(平成20年6月14日に発生した岩手・宮城内陸地震)では4Gを超える大きな加速度が観測されていることから、直下地震の震源極近傍では、それと同等、あるいはそれを上回る強い震動になる可能性があり、そのような強震動を確実に観測できるように、8G程度まで記録できる強震計の開発が求められている。また、観測の信頼性を高めるためには、同一地点において、地上と地中の2箇所で観測を行い、相互に比較することが有効である。そこで、地上のほか、地中数十m程度の深さにも強震計を設置し長期観測を行う計画がある。
このような強震観測では、高精度の強震計の開発のみならず、強震計自体をいかに強固に孔底に設置し、いかにしてノイズの少ない正確な強震波形を記録するかという、孔内固着技術が極めて重要となる。地震計を内蔵した観測機器を孔内に設置する従来技術は、埋設による方法と固着機構による方法とに大別される。
埋設による方法は、観測機器を孔内に挿入した後、セメントを注入してグラウトする方法、あるいはガラスビーズや珪砂を充填して固定する方法である。セメントによるグラウトは、構造が簡単で確実に固定できる反面、設置が面倒で観測機器を回収できない欠点がある。ガラスビーズと珪砂による固定は、構造が単純で設置が容易である反面、観測機器の回収は容易でなく、しかも上下方向の固着力は小さい(2G程度まで)という欠点がある。
固着機構による方法は、観測機器本体の上下あるいは側面に固着のための機構部を設けて固定する方法であり、観測機器本体の上下で3本のアームを均等に押し出す方式、あるいは観測機器本体の側面で2本のアームを突っ張って観測機器本体を孔壁に押しつける方式などがある。いずれにしても、アームの開閉には、電気モータによる駆動機構や流体圧力を使用する駆動機構が用いられている(例えば、特許文献1参照)。これらは設置回収が比較的容易であるが、高価となる欠点がある。特に2本のアームによる固定は、比較的固着力が強いものの、小口径ボアホールには適さない。また、長期間にわたる観測を安定的に行うという点でも問題がある。
このように、従来技術では、設置回収の容易さと強固な固着力という要求が相反し、それらを両立させることは困難であった。
特開平8−313643号公報
本発明が解決しようとする課題は、孔底への設置及び回収を容易に行うことができ、しかも固着力が極めて高く長期観測が可能であって、小口径ボアホールに適した構造とし、且つ価格を抑えることができるようにすることである。
本発明は、各種センサを内蔵する観測機器本体の上部と下部に、外方向に突出可能な圧着体を備えた固着機構をそれぞれ設け、全体がワイヤで吊り下げられ、孔底にて前記圧着体の突出動作により観測機器本体を固定する孔内固着装置において、上部固着機構は、テーパー構造を利用してバネの弾撥力と機器の自重による鉛直方向の力を水平方向の力に変換し、その水平方向の力で圧着プレートを拡開して孔壁に圧着させる機構であり、下部固着機構は、テーパー構造を利用して機器の自重による鉛直方向の力を水平方向の力に変換して、圧着ボールを突出させることで孔壁に圧着させる機構であって、前記上部固着機構には前記圧着プレートの開閉の応答を遅らせる液体ダンパー機構が組み込まれていることを特徴とする孔内固着装置である。
ここで上部固着機構は、観測機器本体に対して軸方向に相対移動可能な上部ブロック内に位置するテーパー部材とボールの組み合わせを利用して、バネの弾撥力と上部ブロック関連機器の自重による鉛直方向の力を水平方向の力に変換してボールを突出させ、垂下している圧着プレートを拡開して、該圧着プレートの外面を孔壁に圧着させる機構であり、下部固着機構は、観測機器本体に対して軸方向に相対移動可能な下部ブロック内に位置するテーパー部材と圧着ボールの組み合わせを利用し、観測機器本体及び上部ブロック関連機器の自重による鉛直方向の力を水平方向の力に変換して圧着ボールを突出させることで孔壁に圧着させる機構であって、前記バネがコイルバネ、液体ダンパー機構が水ダンパー機構であって、該コイルバネが水ダンパー機構に組み込まれている構造とするのが好ましい。
例えば、上部固着機構及び下部固着機構は、いずれも周囲3箇所で孔壁に圧着する形式とし、上部固着機構による圧着は、3箇所全てが圧着プレートの拡開による可動方式であるのに対して、下部固着機構による圧着は、1箇所のみが圧着ボールの出没による可動方式、残りの2箇所は突設した背板による固定方式とする。その際、上部固着機構は、3個の圧着プレートが同一円周上に配置されているのに対して、下部固着機構は、1個の圧着ボールと2個の背板が同一円周上ではなく軸方向の異なる位置に配置され、且つ背板のうちの1個が観測機器本体に取り付けられている構成が好ましい。
また、上部固着機構の圧着プレートを鉤型とし、その上端曲部が上部ブロック外周の凹部に係合すると共に上部でヒンジにより揺動可能に保持され、垂下部のほぼ下半分は上側が厚肉で下側が薄肉の楔形で且つ外面が孔壁の曲率に合致した曲面となっており、圧着プレート拡開時に少なくともその楔部の上端エッジが孔壁に圧着するように構成するのが好ましい。
典型的な適用例としては、観測機器本体に内蔵するセンサが3成分加速度計であり、全体がワイヤで孔内に吊り下げられ、上記の孔内固着装置によって孔底に設置される地中強震計がある。
本発明に係る孔内固着装置は、センサを内蔵する観測機器本体の上部と下部に、外方向に突出可能な圧着体を備えた固着機構をそれぞれ設け、各圧着体の突出動作にテーパー構造を利用しているので、モータなどの電気的な機構あるいは液圧や空気圧を利用する機構などによらず、バネの弾撥力や機器の自重による機械的な作用のみで固着でき、そのため小口径ボアホールに対応でき、且つ安価に製作できる。しかも、上部固着機構の開閉応答を遅らせる液体ダンパー機構が組み込まれているので、観測機器を孔底に降ろした時に、先ず下部固着機構が機能して固着され、次いで上部固着機構が機能して固着されることになり、宙づりの不安定な状態で固着される恐れが無く、確実に孔底に設置できる。
下部固着機構の3箇所の圧着箇所を、1箇所のみが圧着ボールの出没による可動方式、残りの2箇所は突設した背板による固定方式とし、圧着ボールと2個の背板を同一円周上ではなく軸方向の異なる位置に配置し、且つ1個の背板を観測機器本体に取り付けると、孔内での下部の固着をより強固に安定に且つ迅速に行うことができる。
更に、上部固着機構は、3箇所の圧着箇所全てを同一円周上に配置した圧着プレートの拡開による可動方式とし、各圧着プレートを鉤型とし、その上端曲部が上部ブロック外周の凹部に係合すると共に上部で揺動可能に保持され、垂下部のほぼ下半分は上側が厚肉で下側が薄肉の楔形で且つ外面が孔壁の曲率に合致した曲面となっており、圧着プレート拡開時に少なくともその楔部の上端エッジが孔壁に線で圧着するように構成すると、上向きの瞬間的な力に対して楔部の上端エッジが孔壁に食い込むように作用するため、観測機器本体を孔底に押さえ込む効果が生じる。
観測機器本体を含めた機器全体はワイヤで孔内に吊り下げられるが、孔底に達するまで吊り降ろすだけで機器の自重やバネの弾撥力により固着動作が行われ容易に孔底に設置できるし、またワイヤを引き上げるだけで固着が解除され容易に回収できる。
本発明は、観測機器本体に3成分加速度計を内蔵させて強震計を構成するのに適したものであるが、その際、前記液体ダンパー機構は高速の地震動には応答せず、上部固着機構と下部固着機構による強固な固着を維持することができ、そのため地震動を正確に3成分加速度計に伝達でき、安定した信頼性の高い強震観測を実施することができる。
本発明に係る孔内固着装置の一例を示す概略構成図。 上部固着機構の一実施例を示す説明図。 下部固着機構の一実施例を示す説明図。
図1は、本発明に係る孔内固着装置の一例を示す概略構成図であり、観測機器を孔底に設置した状態を示している。この例では観測機器は地中強震計であり、観測機器本体10にセンサとして3成分加速度計(図示せず)が内蔵されている。観測機器はワイヤ12で孔内14に吊り降ろされる。観測機器を設置する孔(ボアホール)は、例えば地表にハンドホール16を形成し、該ハンドホール16から所定口径で所定深度のボーリング掘削を行い、孔底部分に金属製で有底円管状の設置ケース18を挿入固定し、その上部に塩化ビニル製のケーシングパイプ20を挿入して地表付近まで立ち上げることで形成する。前記観測機器は、この孔内14にワイヤ12で孔底まで吊り降ろされ、観測機器本体10の上部に位置している上部固着機構22と観測機器本体10の下部に位置している下部固着機構24とによって設置ケース18内にて固着されることになる。
上部固着機構22は、観測機器本体10に対して軸方向に相対移動可能な上部ブロック26内に、テーパー部材28とボール30の組み合わせを配置し、バネ32の弾撥力と上部ブロック26などの自重による鉛直方向の力を水平方向の力に変換してボール30を外方向に突出させ、垂下している圧着プレート34を拡開して、該圧着プレート34の外面を孔壁に圧着させる機構である。上部固着機構22における圧着箇所は3箇所であり、その全てが圧着プレート34の拡開による可動方式である。これら3個の圧着プレート34は、同一円周上に120度の等角度間隔で配置されている(A−A矢視参照)。
更に、上部ブロック26には水ダンパー機構36が組み込まれている。この水ダンパー機構36は、圧着プレート34の開閉の応答を遅らせる機能を果たすものである。なお、前記バネ32は水ダンパー機構36に組み込まれている。このバネ32は、その弾撥力によって上部ブロック26を押し下げ、ボール30の突出力を増強し、圧着プレート34の拡開力、ひいては孔壁への固着力の増大に寄与するものである。
下部固着機構24は、観測機器本体10に対して軸方向に相対移動可能な下部ブロック40内に、テーパー部材(図示せず)と圧着ボール42の組み合わせを配置し、観測機器本体10及び上部ブロック26などの自重による鉛直方向の力を水平方向の力に変換して該圧着ボール42を外方向に突出させることで孔壁に圧着させる機構である。下部固着機構24においても圧着箇所は3箇所であるが、1箇所のみが圧着ボール42の出没による可動方式、残りの2箇所は突設した背板44,45による固定方式である。圧着ボール42と2個の背板44,45は同一円周上に配置されておらず、高さ位置(軸方向の位置)が異なるように配置され、且つ1個の背板44は観測機器本体10に、別の背板45は下部ブロック40に取り付けられている。ここでも、圧着ボール42と2個の背板44,45は、軸方向に見たときに120度の等角度間隔で配置されている(B−B矢視参照)。
吊り具46に接続したケーブル12で観測機器を吊り下げ、孔内14に挿入する。下部ブロック40が孔底(設置ケース18の底部)まで達すると、観測機器本体10及び上部ブロック26などの自重によって観測機器本体10が更に下がり、テーパー構造により下部固着機構24の圧着ボール42が突出し、2個の背板44,45と圧着ボール42によって下部での固着が行われる。次いで、バネ32の弾撥力と上部ブロック26の自重によって上部ブロック26が下がり、テーパー構造によって上部固着機構22のボール30が突出し、圧着プレート34が拡開して上部での固着が行われる。その際、水ダンパー機構36によって上部固着機構22における圧着プレート34の拡開動作に遅れが生じる。そのため、下部固着機構24が作動した後に上部固着機構22が作動し、観測機器は宙づり状態になることなく孔底に確実に設置される。なお、符号48は信号ケーブルであり、観測機器本体10から上部ブロック26の内部を通って地表へと引き出され、信号の送受などが行われる。
観測機器を回収するには、単にワイヤをゆっくりと引き上げればよい。ゆっくりした動きに対しては水ダンパー機構36は、その動きを阻害しないので、上部ブロック26が上昇するにつれて上部固着機構22の圧着プレート34が閉じ、更に観測機器本体10も上昇すると、下部固着機構24の圧着ボール42が下部ブロック40内に没入するため、そのまま引き上げることで容易に回収できる。
地中強震計の場合、例えば50〜100m程度の深さの孔内に、5〜10年間程度の長期間にわたって設置することが想定されている。ダンパー機構に用いる液体は、機能上は水以外でもよいが、水が好ましい。孔内は水で満たされていることから、水ダンパー機構であれば、通常のOリングによるシールでよく、長期間にわたる使用中に漏洩が生じたとしても特に支障が生じない。
このようにして、観測機器の孔底への設置及び孔底からの回収を容易に行うことができる。しかも機器の自重とバネのみで動作するので細径化でき、小口径ボアホールに適し、その際、孔壁とのクリアランスが小さいため上記の固着機構で極めて強固な固着力が得られ、且つ長期観測が可能となり、価格(観測機器のみならずボーリング掘削などの作業も含めて)を抑えることができる。
上部固着機構と下部固着機構の一実施例を図2及び図3に示す。いずれもAは吊り下げ状態(非固着時の状態)を示し、Bは孔底における固着状態を示している。なお、説明を簡略化すると共に観測機器全体との関係を分かり易くするため、図1と同じ部材については同一符号を付す。観測機器の全体構成は、基本的に図1と同様である。
観測機器本体10の上部に位置している上部固着機構22は、図2に示すように、観測機器本体に対して軸方向に相対移動可能な上部ブロック26内に、テーパー部材28とボール(鋼球)30を組み込み、コイルバネ32の弾撥力と上部ブロック26などの自重による鉛直方向の力を水平方向の力に変換してボール30を外方向に突出させ、ヒンジ50により垂れ下がった圧着プレート34を拡開して、該圧着プレート34の外面を孔壁(設置ケース18)に圧着させる機構である。観測機器本体10の上端部から一体的に立ち上がっている上部管状部材52の下部外周にテーパー部材28が固定されており、上部管状部材52あるいはテーパー部材28の外側に位置するボール30が上部ブロック26に遊嵌し、上部ブロック26に対して出没自在に保持されている。
図2では圧着プレートが左右対称に描かれているが、実際には、上部固着機構22における圧着箇所は3箇所ある。それらの圧着箇所の全ては圧着プレート34の拡開による可動方式であって、3個の圧着プレート34が同一円周上に120度の等角度間隔で配置されている(図1のA−A矢視も参照)。
各圧着プレート34は鉤型であって、その上端曲部34aが上部ブロック26外周の凹部54に係合すると共に上部でヒンジ50によって揺動可能に保持され、その垂下部のほぼ下半分は上側が厚肉で下側が薄肉の楔形で且つ外面が孔壁の曲率に合致した曲面の楔部34bとなっている。従って、圧着プレート34が拡開した固着状態では、その楔部34bの上端エッジが孔壁に線圧着する。その際に、圧着プレート34の上端曲部34aが上部ブロック26の凹部54に嵌り込むことで、圧着プレート34が突っ張りとなり、ヒンジ50におけるガタ(遊び)を無くしている。震動などで観測機器に上向きの力が印加されたときには、拡開した圧着プレート34の外面における楔部34bの上端エッジが孔壁(設置ケース18)に食い込むため、観測機器を孔底方向に抑え込む作用が生じ、特に震動に対して強固な固着力が発現する。
なお、構造上重要なテーパー部材28と圧着プレート34には焼き入れを施した硬い材料を使用することで、変形による固着力の低下を防ぐことができる。
更に、上部ブロック26には水ダンパー機構36が組み込まれている。水ダンパー機構36は、連通孔56を有するピストン58に対してシリンダ60が摺動し、シリンダ60内に満たされている水が、前記連通孔56を通って上室60aと下室60bの間を往き来する構造である。なお、ピストン58は上部管状部材52と一体となっている。シリンダ60を構成する接触部分(ピストン56や上部筒状部材52と上部ブロック26との接触部分)はOリング(黒丸で示す)でシールする。水ダンパー機構36の第1の機能は、圧着プレート34の開閉の応答を遅らせることである。なお、圧着プレート34の拡開動作に寄与するコイルバネ32は、シリンダ60の下室60bに内蔵されている。
観測機器を吊り下げている未固着の状態(図2のA参照)では、上部ブロック26がワイヤ(図示せず)で直接支えられているのに対して、観測機器本体以下は自重で吊り下がっている。従って、シリンダ60(上部ブロック側となる)内におけるピストン58(観測機器本体側)の位置は相対的に下がり、コイルバネ32は圧縮した状態であり、ボール30はテーパー部材28の上方(テーパー部材28から離れた位置)にある。従って、ボール30は上部ブロック26に没入し、各圧着プレート34は閉じた(ほぼ真下に垂れ下がった)状態となる。そのため、孔壁に引っ掛かることなく円滑に孔内に挿入できる。ここでは、全ての圧着プレート34がふらつかずに閉じた状態を維持できるように、各圧着プレート34の下端外周部に溝34cを設け、該溝34cに弾性の弱いゴムリング62を嵌めて押さえている。
観測機器が孔底に達した時(固着状態:図2のB参照)には、上部ブロック26の自重とコイルバネ32の弾撥力(伸長力)によって上部ブロック26が降下する。上部ブロック26が降下する際には、シリンダ60の上室60aの水が連通孔56を通って下室60bに流入しなければならないため、上部ブロック26の降下は緩やかな動作(遅れ)となる。上部ブロック26と共にボール30も降下し、テーパー部材28の表面に沿って動くため、該ボール30は外方向に押し出され、圧着プレート34の背面を押して該圧着プレート34を拡開させる。これによって、圧着プレート34の楔部34bの上端エッジが設置ケース18に圧着し、上部での固着が行われる。
上部固着機構22に組み込まれているコイルバネ32は、その弾撥力によって上部ブロック26を押し下げ、ボール30の突出力を増強し、圧着プレート34の拡開力、ひいては孔壁への固着力の増大に寄与する。機器軽量化のため、上部ブロック26も軽量化されており、水ダンパー機構36が組み込まれていることもあって、上部ブロック26の自重のみで該上部ブロック26が降下し固着プレートを拡開させることは難しい。主としてコイルバネ32の弾撥力によって上部ブロック26を押し下げ、固着プレート34を拡開させている。但し、コイルバネの弾撥力が強すぎると圧着プレートによる固着力は増大するが、観測機器を吊り下げた状態で上部ブロック26などの自重によりコイルバネ32を押し縮めることができなくなり、圧着プレート34を閉じた状態で保持できず孔内に吊り降ろし難くなるし、また孔底に設置できたとしても、引き上げる際に圧着プレートが閉じ難くなるため観測機器の回収が困難となる。逆に、コイルバネが弱いと、観測機器の回収は容易となるが、地盤の強震動に対して圧着プレートも震動し、固着力が不足する恐れがある。水ダンパー機構36の第2の機能は、その問題を解決することである。水ダンパー機構36は、震動を抑える(急激な動きには応答しない)機能を有するため、コイルバネが弱くても圧着プレートが震動に対して過敏に応答せず、強固な一定の固着状態を維持できる。従って、コイルバネは過度に強すぎなければよい。なお、コイルバネの強さは、長さを変えたり、初期の圧縮量を変えたりすることで調整できる。
このように、水ダンパー機構36は、上部ブロック26における圧着プレート34の開閉動作の遅れと震動抑制による固着性能維持の両方の機能を有し、水ダンパー機構が組み込まれている点は、本発明の一つの大きな特徴である。なお、それらの機能は、ピストン58に形成する連通孔56の数と孔径とで調整できる。
観測機器本体の下部に位置している下部固着機構は、図3に示すように、観測機器本体10に対して軸方向に相対移動可能な下部ブロック40内に、テーパー部材70と圧着ボール42を組み込み、観測機器本体10などの自重による鉛直方向の力を水平方向の力に変換して圧着ボール42を突出させることで孔壁(設置ケース18)に圧着させる機構である。観測機器本体10の下端部から一体的に下方に延設されている下部柱状部材72の外周にテーパー部材70が固定されており、下部柱状部材72あるいはテーパー部材70の外側に位置する圧着ボール42は、下部ブロック40のボール受け74に遊嵌し、下部ブロック40に対して出没自在に保持されている。
下部固着機構も圧着箇所は3箇所であるが、1箇所のみが圧着ボール42の出没による可動方式、残りの2箇所は突設した背板44,45による固定方式である。図3では背板と圧着ボールが左右に描かれているが、実際には、圧着ボールと2個の背板は、軸方向に見たときに120度の等角度間隔で配置されている(図1のB−B矢視も参照)。それら圧着ボール42と2個の背板44,45は同一円周上に配置されておらず、高さ位置(軸方向の位置)が異なるように配置され、且つ1個の背板44は観測機器本体10に取り付けられている。突出したまま固定されている背板は、観測機器を孔内に挿入する際の障害とならないように、下端を傾斜面とする。また、背板44,45の外側面(孔壁:設置ケースに圧着する面)は、滑らないように粗面あるいは微小な凹凸面とするのが好ましい。
機器軽量化のため、下部ブロック40は中空構造とするが、孔内に挿入したときに充満している水による浮力が働かないように、側壁に水の流通孔76を形成し、孔内の水が下部ブロック40の空洞部78にも流入できるようにしておく。また、下部ブロック40に対して観測機器本体10の下部柱状部材72が摺動し易くするため、互いの接触箇所には潤滑性に優れたポリアセタール樹脂などによる軸受80を装着しておく。
観測機器を吊り下げている状態(図3のA参照)では、観測機器本体10が上部ブロックを介してワイヤで支えられているのに対して、下部ブロック40はその自重で吊り下がっている。従って、圧着ボール42はテーパー部材70の下方(テーパー部材70から離れた位置)にあり、圧着ボール42は下部ブロック40のボール受け74に没入した状態となる。そのため、孔壁に引っ掛かることなく円滑に観測機器を孔内に挿入できる。
下部ブロック40が孔底に達した時(固着時:図3のB参照)には、下部ブロック40が支持された状態となるため、観測機器本体10及び上部ブロック関連機器の自重によって観測機器本体10が下がる。観測機器本体10の下部柱状部材72に固定されているテーパー部材70も降下し、圧着ボール42がテーパー部材70の表面に沿って動くため、該圧着ボール42は外方向に押し出され、設置ケース18に圧着する。2個の背板44,45は突出しているので、それら2個の背板44,45と1個の圧着ボール42によって下部での固着が行われる。
前述のように、水ダンパー機構36は、上部固着機構における圧着プレート34の拡開動作に遅れを生じさせるので、観測機器を孔底に設置する際には、まず下部固着機構が動作して下部が固着され、遅れて上部固着機構が動作して上部が固着されるという順序になる。そのため、観測機器が孔底から浮いた不安定な状態で固着されることがなく、確実に孔底に設置され、全体が孔底と上部、下部とで強固に固着されることになる。観測機器を回収する際には、ワイヤで緩やかに引き上げるだけで、水ダンパー機構が存在しても上部ブロックは徐々に上昇し、まず上部固着機構における固着プレートが閉じて上部の固着が解除され、次いで観測機器本体も徐々に上昇し、下部固着機構における固着ボールが没入して下部の固着も解除されるため、そのまま容易に地表へと引き上げることができる。
本発明の孔内固着装置は、基本的に機器の自重とバネの弾撥力を利用して固着させる方式であり、電気モータなどを組み込む必要がないので、容易に細径化できる。試作品(観測機器本体に3成分加速度計を組み込んだ地中強震計)は、孔内挿入時の最大径が約63mmであり、内径66mmの設置ケースに挿入し固着することができた。試作品を設置ケース内に固着し、実験室の震動台に取り付けて加震しながら加速度計からの出力波形を測定したところ、8Gの強震動状態でも崩れのない波形が出力し、8Gに耐える強固な固着力が得られていることが確認できた。なお、機器を細径化でき小口径ボアホールに設置できることは、ボーリング掘削も含めて設置作業の大幅なコスト削減にも寄与しうることになる。
10 観測機器本体
12 ワイヤ
14 孔内
18 設置ケース
22 上部固着機構
28 テーパー部材
30 ボール
24 下部固着機構
32 バネ
34 圧着プレート
36 水ダンパー機構
42 圧着ボール
44,45 背板

Claims (6)

  1. センサを内蔵する観測機器本体の上部と下部に、外方向に突出可能な圧着体を備えた固着機構をそれぞれ設け、全体がワイヤで吊り下げられ、孔底にて前記圧着体の突出動作により観測機器本体を固定する孔内固着装置において、
    上部固着機構は、テーパー構造を利用してバネの弾撥力と機器の自重による鉛直方向の力を水平方向の力に変換し、その水平方向の力で圧着プレートを拡開して孔壁に圧着させる機構であり、下部固着機構は、テーパー構造を利用して機器の自重による鉛直方向の力を水平方向の力に変換して、圧着ボールを突出させることで孔壁に圧着させる機構であって、前記上部固着機構には前記圧着プレートの開閉の応答を遅らせる液体ダンパー機構が組み込まれていることを特徴とする孔内固着装置。
  2. 上部固着機構は、観測機器本体に対して軸方向に相対移動可能な上部ブロック内に位置するテーパー部材とボールの組み合わせを利用して、バネの弾撥力と上部ブロック関連機器の自重による鉛直方向の力を水平方向の力に変換してボールを突出させ、垂下している圧着プレートを拡開して、該圧着プレートの外面を孔壁に圧着させる機構であり、下部固着機構は、観測機器本体に対して軸方向に相対移動可能な下部ブロック内に位置するテーパー部材と圧着ボールの組み合わせを利用し、観測機器本体及び上部ブロック関連機器の自重による鉛直方向の力を水平方向の力に変換して圧着ボールを突出させることで孔壁に圧着させる機構であって、前記バネがコイルバネであり、液体ダンパー機構が水ダンパー機構であって、該コイルバネが水ダンパー機構に組み込まれている請求項1記載の孔内固着装置。
  3. 上部固着機構及び下部固着機構は、いずれも周囲3箇所で孔壁に圧着する形式とし、上部固着機構による圧着は、3箇所全てが圧着プレートの拡開による可動方式であるのに対して、下部固着機構による圧着は、1箇所のみが圧着ボールの出没による可動方式、残りの2箇所は突設した背板による固定方式とした請求項2記載の孔内固着装置。
  4. 上部固着機構は、3個の圧着プレートが同一円周上に配置されているのに対して、下部固着機構は、1個の圧着ボールと2個の背板が同一円周上ではなく軸方向の異なる位置に配置され、且つ背板のうちの1個が観測機器本体に取り付けられている請求項3記載の孔内固着装置。
  5. 上部固着機構の圧着プレートは鉤型であって、その上端曲部が上部ブロック外周の凹部に係合すると共に上部でヒンジにより揺動可能に保持され、垂下部のほぼ下半分は上側が厚肉で下側が薄肉の楔形で且つ外面が孔壁の曲率に合致した曲面となっており、圧着プレート拡開時に少なくともその楔部の上端エッジが孔壁に圧着するようにした請求項3又は4記載の孔内固着装置。
  6. 観測機器本体に内蔵するセンサが3成分加速度計であり、全体がワイヤで孔内に吊り下げられ、請求項1乃至5のいずれかに記載の孔内固着装置によって孔底に設置される地中強震計。
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