JP5344483B2 - 直接液体燃料型燃料電池 - Google Patents

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Description

本発明は、直接液体燃料型燃料電池、及び該燃料電池用負極触媒に関する。
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、小型で効率が高く、また地球環境問題の観点からも早期の実用化・普及が期待されている。
一般に、PEFCに使用されている高分子電解質は、強酸性のカチオン交換膜であるため、電極触媒は強酸性条件下で安定に作用することが必要であり、現在のところ、実用に耐える電極触媒は白金のみである。このため、PEFCの実現に際しては、電極触媒として使用する白金のコストが問題となっており、白金量の低減を推進することが重要な課題とされている。このため、白金微粒子の形状や担体を工夫することによる白金量の低減が試みられているが、根本的な解決には至っていない。
また、固体高分子形燃料電池に供給される燃料としては、天然ガス、メタノール、ガソリンなどの改質により製造された水素ガスが用いられることが多いが、単位体積あたり若しくは単位重量あたりの水素貯蔵量を考えると、水素ボンベや水素吸蔵合金の利用には限界がある。このため、貯蔵、運搬などに際して、液体燃料としての利便性から、メタノールを燃料として直接供給する固体高分子形燃料電池(ダイレクトメタノール燃料電池)が近年注目を集めている。特に、携帯機器用の小型電源や充電器の用途では、メタノール燃料電池が主流となっている。また、メタノールの他に、エタノール( 非特許文献1)、
グリコール(特許文献1)等を始めとする種々のアルコール類を燃料とする直接型燃料電池やギ酸を燃料とする燃料電池(特許文献2及び特許文献3 )の研究も行われている。
しかしながら、これらの燃料は安全性に問題があるほか、起電力が必ずしも高くなく、十分な性能を有するものということはできない。
一方、アンモニアボランまたはその誘導体の水溶液は、安全性が高く取り扱いが容易であり、この水溶液を、陽イオン交換膜を電解質膜とする公知の固体高分子形燃料電池の燃料極に供給することによって高い起電力で作動する燃料電池が得られることが報告されている(非特許文献2、特許文献4)。
アンモニアボランを燃料とする燃料電池では、負極及び正極において、下記の反応が進行すると考えられる。
Figure 0005344483
この様な電極反応を利用する公知の構造の固体高分子形燃料電池では、電解質膜におけるNH4 +イオンの移動度が低いために十分な性能を得ることができず、また、正極においてNH4 +イオンからNH3が放出され、これが燃料電池の性能に悪い影響を与える等の問題点が
ある。
更に、燃料としてアンモニアボランまたはその誘導体の水溶液を用い、電解質膜として陰イオン交換樹脂膜を用いた燃料電池も報告されている(特許文献5)。この燃料電池で
は、OH-イオンを伝導イオンとすることができ、これにより固体電解質におけるイオンの
伝導が促進され、しかも正極におけるNH3の放出という問題点を回避することができると
されている。
しかしながら、この燃料電池においても、燃料極の触媒としては、白金などの貴金属触媒が用いられており、触媒コストが高いという問題点は解消されていない。
特開2002-151132号公報 特表平10−507572号公報 特開2001-219271号公報 米国特許5,804,329号 特開2009-176556号公報
C. Lamy, E. M. Belgsir,and J. -M. Legar, J. Appl. Electrochem., 31, 799 (2001). X.-B. Zhang, S. Han, J.-M. Yan, M. Chandra, H. Shioyama, K. Yasuda, N. Kuriyama, T. Kobayashi, Q. Xu, J. Power Sources, 168, 1671 (2007).
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、安全性が高く取り扱いが容易であって、しかも触媒コストが低く、優れた性能を有する新規な燃料電池を提供することである。
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、安全性が高く、取り扱いが容易なアンモニアボラン、その誘導体等のアミンボラン化合物の水溶液を燃料として用いる固体高分子形燃料電池において、電解質膜として陰イオン交換樹脂膜を用いることによって卑金属を触媒として用いることが可能となり、特に、ニッケルを負極用触媒とする場合には、低コストで安全性が高く、しかも白金触媒を用いる場合と比較して起電力の高い優れた性能の固体高分子形燃料電池が得られることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の直接液体燃料型燃料電池、及び該燃料電池の負極用触媒を提供するものである。
1. 正極、負極、および該正極と該負極との間に配置された電解質膜を含む固体高分子形燃料電池であって、
該電解質膜が陰イオン交換膜であり、
該負極用触媒がアモルファス状ニッケルであり、
該負極に供給される燃料が、化学式:RNH3−n2m+1 (式中、Rは一価の炭化水素基であり、nは0〜3の整数であり、mは1又は3である。但し、2個又は3個のRが相互に結合して、窒素原子と共に含窒素環状構造を形成しても良い。)で表される
アミンボラン化合物の水溶液である
直接液体燃料型燃料電池。
2. 前記負極用触媒が、アモルファス状ニッケルを導電性担体に担持させたものであって、アモルファス状ニッケルの担持量が、アモルファス状ニッケルと導電性担体との合計量を基準として、20〜90重量%である上記項1に記載の直接液体燃料型燃料電池。
3. アミンボラン化合物が、アンモニアボラン、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン、t-ブチルアミンボラン、アンモニアトリボラン、モルホリンボラン及びピリジンボランからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である上記項1又は2に記載の燃料電池。
4. 化学式:RNH3−n2m+1 (式中、Rは一価の炭化水素基であり、nは0〜3の整数であり、mは1又は3である。但し、2個又は3個のRが相互に結合して、窒素原子と共に含窒素環状構造を形成しても良い。)で表されるアミンボラン化合物
水溶液負極に供給される燃料とする燃料電池の負極用触媒であって、アモルファス状ニッケルを有効成分とすることを特徴とする負極用触媒。
5. 前記負極用触媒が、アモルファス状ニッケルを導電性担体に担持させたものであって、アモルファス状ニッケルの担持量が、アモルファス状ニッケルと導電性担体との合計量を基準として、20〜90重量%である上記項4に記載の負極用触媒。
本発明の燃料電池は、正極、負極、および該正極と該負極との間に配置された電解質膜を含む固体高分子形燃料電池であって、電解質膜として陰イオン交換膜を用い、負極用触媒として、ニッケルを用い、燃料としてアミンボラン化合物の水溶液を用いるものである。
この様な構造を有する燃料電池では、燃料として用いるアミンボラン化合物は、安全性が高く取り扱いが容易であり、しかも負極反応によって高い起電力を発生することができ、液体燃料として優れた性能を発揮できる。
また、電解質膜として陰イオン交換膜を用いることによって、正極で発生したOH-イオ
ンが電解質膜における伝導イオンとなる。従来の陽イオン交換膜を電解質膜とする燃料電池では、移動度の低いNH4 +イオンが伝導イオンとなるためにアミンボラン化合物を燃料として高性能の燃料電池することは難しかったが、本発明の燃料電池によれば、移動度の高いOH-イオンが伝導イオンとなり、高電流、高電圧の高性能の燃料電池とすることができ
る。しかも、陰イオン交換膜を用いることによって、NH4 +イオンの正極への移動がなく、正極におけるNHの放出の問題を回避できる。
更に、陰イオン交換膜は、塩基性であるために卑金属を触媒として安定した運転が可能となる。本発明によれば、特に、ニッケルを負極用触媒とすることによって、コストを大幅に低減することが可能となり、更に、白金を負極用触媒とする場合と比較して起電力が高くなり、優れた性能の燃料電池とすることができる。
以下、本発明の燃料電池について詳細に説明する。
(1)燃料
本発明の燃料電池は、化学式:RNH3−n2m+1 (式中、Rは一価の炭化水素基であり、nは0〜3の整数であり、mは1又は3である。但し、2個又は3個のRが相互に結合して、窒素原子と共に含窒素環状構造を形成しても良い。)で表されるアミ
ンボラン化合物の水溶液を燃料として用いるものである。
上記化学式において、一価の炭化水素基としては、低級アルキル基を例示できる。この様な低級アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基等の炭素数1〜5程度の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を挙げることができる。上記化学式において、Rが二個以上含まれる場合には、Rは全て同一であって良く、或いは、一部又は全部が相互に異なっていても良い。
また、2個又は3個のRが相互に結合して窒素原子と共に含窒素環状構造を形成する場合には、形成される環状構造は、飽和及び不飽和のいずれでもよく、その他の窒素原子、酸素原子、硫黄原子などが含まれていても良い。
上記化学式で表されるアミンボラン化合物は、公知化合物であり、固体の状態で軽量・安全に運搬・貯蔵することができ、燃料電池に供給する前に水に溶解するという簡単な方法で燃料電池用の液体燃料とすることができる。また、該アミンボラン化合物は、水に可溶であるが、水に溶解しても水と容易に反応することなく比較的安定に存在し、その取り扱いは容易、且つ安全であり、液体燃料としての利便性を有するものである。
上記化学式で表されるアミンボラン化合物の内で、mが1である化合物の具体例としては、NHBHで表されるアンモニアボラン、(CHNHBHで表されるジメチルアミンボラン、(CHCH2)NHBHで表されるジエチルアミンボラン、(C
3NBHで表されるトリメチルアミンボラン、(CHCHNBHで表
されるトリエチルアミンボラン、(CHCNH2BHで表されるt-ブチルアミン
ボラン等を挙げることができる。また、mが3である化合物の具体例としては、NHで表されるアンモニアトリボランを挙げることができる。
また、含窒素環状構造を含む化合物の具体例としては、
Figure 0005344483
で表されるモルホリンボラン、
Figure 0005344483
で表されるピリジンボラン等を挙げることができる。
本発明では、上記化学式で表されるアミンボラン化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
本発明の燃料電池では、上記したアミンボラン化合物を水溶液の状態で燃料として用いる。水溶液中におけるアミンボラン化合物の濃度は、特に限定的ではないが、例えば、10−4mol/L〜8mol/L程度の濃度範囲とすることができ、10−3mol/L〜2mol/L程度の濃度範囲とすることが好ましい。この様な濃度範囲において、要求される起電力などに応じて、具体的な濃度を決めればよい。この水溶液には、有効成分であるアミンボラン化合物が含まれていればよく、燃料電池の燃料として悪影響の無い限りその他の成分が同時に含まれていても良い。
(2)電解質膜
本発明の燃料電池では、電解質膜として陰イオン交換膜を用いる。陰イオン交換膜を電解質膜とすることによって、前述した負極反応によって発生するOH-イオンが伝導イオン
となり、高電流、高電圧の優れた性能の燃料電池とすることができる。
陰イオン交換膜としては、特に限定的ではなく、陰イオンを伝導させることができる各種の高分子化合物を用いることができる。例えば、四級アンモニウム基、ピリジニウム基
等の陰イオン交換基を有する各種の高分子化合物を用いることができる。この様な陰イオン交換基を有する高分子化合物は、低温で作動し、装置の小型化が可能である。陰イオン交換膜における樹脂骨格の種類については特に限定的ではなく、例えば、フッ素系樹脂、炭化水素系樹脂など各種の材質の樹脂を使用できる。
陰イオン交換膜の厚さについては、通常、膜としての強度、電気抵抗等を考慮して決めればよい。膜強度の観点からは、通常5μm程度以上の厚さであることが好ましく、燃料電池作製時の取り扱いやすさを考えると10μm程度以上がより好ましい。また、膜厚が厚くなるほど電池の内部抵抗が大きくなるため、200μm程度以下の膜厚であることが好ましい。
(3)負極用触媒
本発明の燃料電池では、負極用触媒としてニッケルを用いる。本発明では、固体電解質膜として、塩基性の陰イオン交換膜を用いることによって、ニッケルを触媒とする場合にも、腐食や劣化を生じることなく、長期間安定して使用することができる。
ニッケル触媒の種類については特に限定はなく、金属状のニッケルであればよい。ニッケル金属の形状についても特に限定はないが、例えば、粒径が1〜100nm程度の超微粒子状のニッケル金属が活性が高い点で有利である。尚、この場合にニッケル金属の粒径は、電子顕微鏡で測定した値である。
本発明では、特に、ニッケル触媒として、アミンボラン化合物からの水素発生反応に対して高い触媒活性を有する点で、アモルファス状のニッケルを用いることが好ましい。ここで、アモルファス状のニッケルとは、X線回折によって、ニッケル金属の回折ピークが認められないものであればよい。
アモルファス状ニッケルの製造方法については特に限定はないが、例えば、還元剤としてNHBHとNaBHを含む水溶液中に、ニッケル化合物を溶解した水溶液を滴下して、ニッケルイオンを還元させる方法によって得ることができる。
ニッケル触媒は、カーボンブラック、活性炭などの導電性担体に担持させた担持触媒として用いてもよい。このような担持触媒の製造方法については、特に限定的ではないが、例えば、ニッケル化合物を含む溶液中に担体を分散させた状態で、ニッケル化合物を還元することによって得ることができる。担持量については特に限定はないが、例えば、ニッケル金属と担体の合計量を基準として、ニッケル金属の量が20〜90重量%程度であることが好ましく、40〜75重量%程度であることがより好ましい。
(4)燃料電池の構造
本発明の燃料電池の構造は、電解質膜として陰イオン交換膜を用い、負極用触媒としてニッケルを用いること以外は、公知の固体高分子形燃料電池と同様とすればよい。
即ち、電解質膜として陰イオン交換膜を用い、電極触媒、膜−電極接合体、セル構造などについては、公知の固体高分子形燃料電池と同様とすればよい。
負極(燃料極)および正極(酸素極)の各電極としては、反応物を供給でき、かつ生成物を排出できるような構造とすればよく、更に、性能を上げるために、電極表面積を大きくすることが好ましい。また、酸化還元を促進させるために、電極中に触媒を担持させることが好ましい。
例えば、電子、イオン、外部から供給される液体燃料及び気体等について、それぞれの
反応界面への経路を確保し、かつ電極(および触媒)の表面積を大きくするために、メッシュ状金属、カーボン紙、カーボン布等の多孔性(網目状構造または細孔を持つ構造)の電子伝導物質を支持体として用い、該支持体に電解質を含む層を形成又は接合した構造の電極とすることができる。電極に触媒を含ませる場合には、上記多孔性の電子伝導物質よりなる支持体に触媒を直接担持させるか、他の電子伝導物質に担持させ、これを該支持体に接合すればよい。正極用触媒としては、従来から知られている種々の金属、金属合金などを使用することができる。具体例としては、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、白金−ルテニウムをはじめとする各種金属触媒が挙げられる。
陰イオン交換膜と電極との接合体は、公知の方法により作製することができる。例えば、触媒粉末と電解質溶液とを混合して作製した触媒インクを薄膜化させた後、陰イオン交換膜上にホットプレスする方法、あるいは陰イオン交換膜上に、塗布・乾燥する方法などが適用される。その他にも、吸着還元法、無電解めっき法やスパッタ、CVDなどの方法で陰イオン交換膜に直接触媒を取り付けることもできる。また、ガス拡散層や集電体に直接触媒インクを塗布・乾燥する方法、あるいは前駆体となる金属錯体を含浸・還元するなどの方法によって電極を作製してもよい。
得られた膜−電極接合体の両面をカーボンペーパー、カーボンクロスなどの集電体で挟んでセルに組み込むことによって、燃料電池セルを作製することができる。
本発明の燃料電池では、上記したアミンボラン化合物の水溶液を燃料として、負極に供給し、正極側には、空気又は酸素を供給又は自然拡散させればよい。
本発明の燃料電池の作動温度は、使用する電解質膜によって異なるが、通常0℃〜100℃ 程度であり、好ましくは10℃〜80℃ 程度である。
以上の通り、本発明の燃料電池において燃料として用いるアミンボラン化合物は、固体状態で軽量・安全に運搬・貯蔵することができ、燃料電池に供給する前に水に溶解するという簡単な方法で燃料電池用の液体燃料とすることができる。
また、本発明の燃料電池では、陰イオン交換膜を電解質膜として用いることにより、OH-イオンを伝導イオンとすることができ、固体電解質におけるイオンの伝導が促進され、
しかも正極におけるNH3の放出という問題点を回避することができる。
更に、本発明の燃料電池では、ニッケルを負極用触媒とすることによって、触媒コストを大幅に低減できる。特に、アモルファス状のニッケルを負極触媒とする場合には、起電力が高く優れた性能の燃料電池とすることができる。
従って、本発明によれば、安全性が高く非常に利便性が良く、しかも安価な燃料電池であって、高い起電力で作動する高性能の燃料電池を得ることができる。
製造例1で得られた負極用触媒のX線回折図。 製造例2で得られた負極用触媒のTEM像。 実施例1における固体高分子形燃料電池の電流−電圧特性を示すグラフ。 実施例2で用いた負極用触媒のX線回折図。 実施例2で用いた負極用触媒のTEM像。 実施例2における固体高分子形燃料電池の電流−電圧特性を示すグラフ。 実施例3における固体高分子形燃料電池の電流−電圧特性を示すグラフ。 比較例1における固体高分子形燃料電池の電流−電圧特性を示すグラフ。 比較例2における固体高分子形燃料電池の電流−電圧特性を示すグラフ。
以下に本発明の負極用触媒の製造例及び本発明の実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
製造例1
カーボンブラック(バルカンXC72R:キャボット社製)200 mgを200 mlの水に入れ、12時間超音波処理を行って均一に分散させた後、3.235 g のNH3BH3 と 3.145 g のNaBH4
を加え、スターラーでよく攪拌した。
一方、2.025 g のNiCl2・6H2Oを20〜30 mlの水に溶解し、スターラーで攪拌しているカーボンブラックの分散液中にこの水溶液を1滴ずつ滴下した。
滴下終了後、メンブレンフィルターで濾過して、70℃で1時間乾燥した。この操作によって、カーボンブラック上にニッケル金属が担持された状態の触媒が得られた。
得られた触媒のX線回折図を図1に示す。図1から明らかなように、このX線回折パターンでは、ニッケル金属及びニッケル酸化物に基づく回折線は認められなかった。また、図2にこの触媒のTEM像を示す。TEM像全体を対象としたEDX測定から、カーボンブラックの
全表面にニッケルが分散して存在していることが確認できた。尚、この触媒におけるニッケル金属の担持量は、ニッケル金属と担体の合計量を基準として71重量%であった。
以上より、製造例1で得られた触媒では、アモルファス状ニッケルがカーボンブラックの全表面に分散して存在していることがわかる。
実施例1
主鎖が炭化水素系重合体からなり側鎖末端に四級アンモニウム基を含む陰イオン交換型高分子電解質をテトラヒドロフランと1-プロパノールからなる混合溶媒に溶解した溶液中に、製造例1で得たアモルファス状ニッケルが分散担持されたカーボンブラックを加えて混合して負極用触媒インクを得た。
また、負極用触媒インクで用いたアモルファス状ニッケルが分散担持されたカーボンブラックに代えて、カーボンブラックに白金を担持させた触媒(田中貴金属製、商標名TEC10V50E)用いて、負極用触媒インクと同様にして、正極用触媒インクを調製した。
電解質膜として、主鎖が炭化水素系重合体からなり側鎖末端に四級アンモニウム基を有する陰イオン交換型高分子電解質膜(膜厚28μm、イオン交換容量は1.8 mmol/g、
含水率30%、対イオンOH-)を用い、該高分子電解膜の両面に、それぞれ上記した負極
用触媒インクと正極用触媒インクを塗布し、集電材としてカーボンクロスを用いて、120℃、圧力1tonの条件で10分間ホットプレスして、膜−電極接合体を得た。得られた膜−電極接合体では、負極のNi量は1.37mg/cmであり、正極のPt量は0.41mg/cmであった。
この膜-電極接合体について、JARI標準セル(電極面積25cm)を用いて以下
の方法で燃料電池の評価を行った。
燃料としては、濃度2mol/LのNaHO水溶液中に、アンモニアボラン(NH3BH3)を0.5mol/Lの濃度で溶解した水溶液を用いた。この水溶液を50mL/分(大気
圧)の速度で負極に供給し、正極には、加湿空気を500mL/分(大気圧)の速度で供給して、セル温度25℃で発電性能を評価した。電流−電圧特性を図3に示す。
実施例2
製造例1において、カーボンブラックの使用量を150mgに変更すること以外は、製造例1と同様にして、カーボンブラック上にニッケル金属が担持された触媒を得た。
得られた触媒のX線回折図を図4に示す。図4から明らかなように、このX線回折パターンには、ニッケル金属及びニッケル酸化物に基づく回折線は認められなかった。また、図5に、この触媒のTEM像を示す。TEM像の黒色の濃い部分はニッケル成分の偏析と思われる。従って、この方法で得られた触媒は、アモルファス状のニッケル金属が、カーボンブラック状に偏析した状態であることが判る。尚、この触媒におけるニッケル金属の担持量は、ニッケル金属と担体の合計量を基準として77重量%であった。
製造例1で得た触媒に代えて、上記した触媒を負極用触媒として用いること以外は、実施例1と同様にして、試験用のJARI標準セルを作製した。このセルでは、負極のNi量は1.04mg/cmであり、正極のPt量は0.54mg/cmであった。
この膜-電極接合体を用いて実施例1と同様の方法で発電性能を評価した。電流−電圧
特性を図6に示す。
実施例3
製造例1において、カーボンブラックの使用量を1000mgに変更する以外は、製造例1と同様にして、カーボンブラック上にニッケル金属が担持された触媒を得た。この触媒におけるニッケル金属の担持量は、ニッケル金属と担体の合計量を基準として33重量%であった。
製造例1で得られた触媒に代えて、上記方法で得られた触媒を用いること以外は、実施例1と同様にして、試験用のJARI標準セルを作製した。このセルでは、負極のNi量は1.11mg/cmであり、正極のPt量は0.48mg/cmであった。
この膜-電極接合体を用いて実施例1と同様の方法で発電性能を評価した。電流−電圧
特性を図7に示す。
比較例1
負極用触媒として、製造例1で得たニッケル担持触媒に代えて、カーボンブラックに白金を担持させた触媒(田中貴金属製、商標名TEC10V50E)を用いること以外は、実施例1
と同様にして試験用のJARI標準セルを作製した。このセルでは、負極のPt量は0.36mg/cmであり、正極のPt量は0.37mg/cmであった。この場合の負極及び正極のPt量は、通常の燃料電池と同程度である。
この膜-電極接合体を用いて実施例1と同様の方法で発電性能を評価した。電流−電圧
特性を図8に示す。
比較例2
負極用触媒として、製造例1で得たニッケル担持触媒に代えて、金属触媒を全く担持しないカーボンブラックのみを用いること以外は実施例1と同様にして試験用のJARI標準セルを作製した。このセルでは、負極のPt量は0mg/cmであり、正極のPt量は0.4mg/cmであった。
この膜-電極接合体を用いて実施例1と同様の方法で発電性能を評価した。電流−電圧
特性を図9に示す。
以上の結果から明らかなように、実施例1の燃料電池は、セル電圧0.6Vにおける電流密度が48mA/cm-であり、白金を負極用触媒とする比較例1の燃料電池と比較
すると多少劣るものの、十分に高い電流密度を有するものであった。実施例2及び実施例3の燃料電池については、電流密度が劣るものであるが、無触媒の場合と比較すると高い電流密度を有するものであった。これらの結果から、カーボンブラック上にニッケル金属が担持された触媒は、アミンボラン化合物を燃料とする燃料電池の負極用触媒として有効であり、特に、ニッケル金属の析出量を調節することによって、良好な性能の負極用触媒が得られることが判る。

Claims (5)

  1. 正極、負極、および該正極と該負極との間に配置された電解質膜を含む固体高分子形燃料電池であって、
    該電解質膜が陰イオン交換膜であり、
    該負極用触媒がアモルファス状ニッケルであり、
    該負極に供給される燃料が、化学式:RNH3−n2m+1 (式中、Rは一価の炭化水素基であり、nは0〜3の整数であり、mは1又は3である。但し、2個又は3個のRが相互に結合して、窒素原子と共に含窒素環状構造を形成しても良い。)で表される
    アミンボラン化合物の水溶液である
    直接液体燃料型燃料電池。
  2. 前記負極用触媒が、アモルファス状ニッケルを導電性担体に担持させたものであって、アモルファス状ニッケルの担持量が、アモルファス状ニッケルと導電性担体との合計量を基準として、20〜90重量%である請求項1に記載の直接液体燃料型燃料電池。
  3. アミンボラン化合物が、アンモニアボラン、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン、t-ブチルアミンボラン、アンモニアトリボラン、モルホリンボラン及びピリジンボランからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である請求項1又は2に記載の燃料電池。
  4. 化学式:RNH3−n2m+1 (式中、Rは一価の炭化水素基であり、nは0〜3の整数であり、mは1又は3である。但し、2個又は3個のRが相互に結合して、窒素原子と共に含窒素環状構造を形成しても良い。)で表されるアミンボラン化合物の水溶液
    負極に供給される燃料とする燃料電池の負極用触媒であって、アモルファス状ニッケルを有効成分とすることを特徴とする負極用触媒。
  5. 前記負極用触媒が、アモルファス状ニッケルを導電性担体に担持させたものであって、アモルファス状ニッケルの担持量が、アモルファス状ニッケルと導電性担体との合計量を基準として、20〜90重量%である請求項4に記載の負極用触媒。
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