本発明は、同期伝送装置及びジッタ抑圧方法に関する。本発明は、例えばSONET(Synchronous Optical NETwork:同期光伝送網)/SDH(Synchronous Digital Hierarchy:同期デジタル・ハイアラーキ)等の同期伝送装置におけるクロック同期回路等に適用される。
SONET/SDH等の同期伝送装置は、従属同期を行うためのクロック同期回路を備える。クロック同期回路の一般的な回路構成例を図15に示す。図15はディジタルPLL回路を用いたクロック同期回路の構成例を示している。ディジタルPLL回路は、ディジタル回路15_1とPLL(Phase Locked Loop)回路15_2と固定発振器(OSC)15_3とを備える。
ディジタル回路15_1は、入力クロックから基準クロックを生成する。PLL回路15_2は、ディジタル回路15_1により生成された基準クロックの位相に同期した出力クロックを生成する。固定発振器(OSC)15_3は、ディジタル回路15_1にシステムクロックを供給する。
入力クロックは伝送網の網同期クロックで、クロック源となるDCS(Digital Clock Supply)やCSM(Clock Supply Module)からのクロックや、伝送路の主信号から抽出したクロックである。出力クロックは、装置内での主信号転送用のクロックや、伝送路に主信号を送信する際に用いられるクロック源で、入力クロックに従属同期したクロックである。
固定発振器(OSC)15_3には、入力クロックをディジタル処理して基準クロックを生成するために十分に高い周波数のシステムクロックを出力する発振器で、かつ簡単に入力クロックから基準クロックが生成されるよう、入力クロックの数十〜数百の整数倍の周波数の発振器が用いられる。
また、ディジタル回路15_1は、固定発振器(OSC)15_3から供給されるシステムクロックで動作し、PLL回路15_2へ供給する基準クロックを、固定発振器(OSC)15_3のシステムクロックの分周により生成する。従って、固定発振器(OSC)15_3の周波数安定度は、そのまま基準クロックの安定度、及びPLL回路15_2の出力クロックの安定度となり、最終的には装置全体のクロック安定度となるため、周波数安定度の高い水晶発振器が用いられる。
ここで、単に入力クロックに同期した出力クロックを出力するだけなら、入力クロックを直接PLL回路15_2に入力して、PLL回路15_2で入力クロックに同期した出力クロックを生成させれば良く、ディジタル回路15_1及び固定発振器(OSC)15_3は不要である。
しかし、同期伝送装置等は、入力クロックが異常(入力断や信号品質低下)となった場合でも、主信号の伝送を正常に持続する機能が要求される。そのために、ディジタル回路15_1は、正常時の入力クロックの周波数(周期)及び位相の値を記憶し、入力クロックの異常時には、記憶した周波数(周期)及び位相の値に基づいて基準クロックを再生し、自走する構成を有している。
ディジタル回路15_1は、固定発振器(OSC)15_3からのシステムクロックで動作するため、基準クロックは、該システムクロックの周期を単位として位相が制御される。該基準クロックを入力するPLL回路15_2の位相も、固定発振器(OSC)15_3からのシステムクロックの周期を単位として制御される。
そのため、PLL回路15_2から出力される出力クロックには、固定発振器(OSC)15_3のシステムクロックの1周期分の位相変動が潜在するが、PLL回路15_2における位相変動に対する減衰特性により急激な位相変動(ジッタ)が抑圧される。しかし、PLL回路15_2では緩やかな移動変動を抑圧することができない。
図16は同期伝送装置におけるクロックの周波数変動の例を表している。16_1は入力クロックの周波数偏差の時系列グラフを示し、16_2は固定発振器(OSC)のシステムクロックの周波数偏差の時系列グラフを示している。入力クロック及びシステムクロック(固定発振器OSC)の周波数は、中心周波数からの偏差を有し、常に変動し続けているので、不定期に両クロックの周波数偏差の差がゼロとなり、両クロックの周波数偏差の時系列グラフが交叉することがある。その交叉ポイント16_3,16_4,16_5で出力クロックにワンダが発生する。
入力クロックの周波数偏差とシステムクロックの周波数偏差との差が極めて近い状態では、PLL回路15_2に入力される基準クロックの位相が低周波数で変化するために、PLL回路15_2で該位相変動を抑圧することができないため、周波数偏差の交叉点付近でピークジッタ(ワンダ)が発生する。
図17は図15のディジタル回路15_1の構成例を示し、図18は該ディジタル回路15_1の動作のタイミングチャートを示す。これらを参照しながらディジタル回路15_1について説明する。ディジタル回路15_1は、サンプリング部17_1、クロック周期カウント部17_2、クロック周期カウント値記憶部17_3及び基準クロック生成部17_4を備える。
サンプリング部17_1は、ディジタル回路15_1に入力される入力クロックをシステムクロックでサンプリングし、リタイミング化する。クロック周期カウント部17_2は、リタイミング化された入力クロックの周期をシステムクロックでカウントして数値化する。即ち、入力クロックがシステムクロックの何クロック分の周期であるかを数値化する。
この際、システムクロックは、入力クロックの整数倍の周波数であるので、カウント値は、ほぼ毎回同じ値(ここでこの値をnとする)になる。例えば、入力クロックが64KHz、システムクロックが32.768MHzであるとすると、32.768M/64K=512であり、カウント値nは512になる。
しかし、入力クロックとシステムクロックとは非同期であり、両者のクロックエッジの位相差は不定であり、リタイミングした入力クロックの周期は、システムクロックの±1クロック分だけ、ばらつきを発生する。この発生確率はかなり低いが、ばらつき発生時には、クロック周期カウント部17_2のカウント値はn+1又はn−1になる。
図18の(a)は、入力クロック周期のカウント値がnになる場合を示し、図18の(b)は、入力クロック周期のカウント値がn+1になる場合を示し、図18の(c)は、入力クロック周期のカウント値がn−1になる場合を示している。
それでもこの±1のばらつきは、入力クロックとシステムクロックの周波数偏差が完全に等しければ、+1と−1とが交互に発生し、その発生頻度は等しく、平均値は完全にnになるので、カウント値の誤差は発生しない。例えば、入力クロックが64KHz、システムクロックが32.768MHzの場合、カウント値は511〜513となるが、平均値は512となる。
入力クロックの周波数偏差とシステムクロックの周波数偏差とが異なり、わずかにそれらの周波数偏差がずれているときは、カウント値n+1とカウント値n−1の発生率に違いが生じる。入力クロックに対してシステムクロックの周波数偏差が高いときは、クロック周期のカウント結果が大きくなるので、カウント値n+1の発生数が多くなり、逆に、入力クロックに対してシステムクロックの周波数偏差が低いときは、カウント値n−1の発生数が多くなる。
ただし、このカウント値n+1とカウント値n−1の発生数に明確な違いが検出されるのは、入力クロックの周波数偏差とシステムクロックの周波数偏差との差によって、システムクロックの1周期分を超える位相差が累積されたときである。従って、その発生間隔は比較的長く、周波数成分は低い。
例えば、入力クロックの周波数が64KHzで、その偏差が+1ppm(part per million)であり、システムクロックの周波数が32.768MHzで、その偏差が+2ppmである場合、周波数偏差の差は1ppmであり、入力クロックの周期のカウント値は殆ど512となるが、1/1,000,000の比率でカウント値513が含まれる。即ち、カウント値が1つ増大する発生周期は、約1/32秒間隔で、その周波数成分は約32Hz(=32.768MHz÷1,000,000)になる。
クロック周期カウント値記憶部17_3は、メモリとそのアクセス制御回路を有し、クロック周期カウント部17_2でカウントした値を順次書き込み記憶する。基準クロック生成部17_4は、カウンタ回路を有し、クロック周期カウント値記憶部17_3から読み出したカウント値でシステムクロックを分周して基準クロックを生成する。
基準クロック生成部17_4は、クロック周期カウント部17_2でカウントした±1変動を含むカウント値で基準クロックを生成するので、基準クロックは、入力クロックをシステムクロックでリタイミングしたクロックとして正確に再生される。
図19は、図15のPLL回路15_2の構成例を示す。図20は、該PLL回路の動作のタイミングチャートを示す。これらを参照しながらPLL回路について説明する。図19において、位相比較部19_1は、分周部19_4で分周され帰還される出力クロックの位相と基準クロックの位相とを比較し、位相比較信号を生成する。
図20の(a)は基準クロックの波形を示し、(b)は分周部19_4で分周され帰還される出力クロックの波形を示し、(c)は位相比較部19_1から出力される位相比較信号の波形を示している。該位相比較信号は、基準クロックの立ち上がりエッジでハイレベルとなり、分周された出力クロックの立ち上がりエッジでローレベルとなる。基準クロックには、入力クロックの周波数・位相変動に相当する周波数・位相変動が現れ、その周波数・位相変動は、位相比較信号の立ち上がりエッジに現れる。
フィルタ19_2はローパスフィルタで、位相比較部19_1から出力される位相比較信号の変動周波数に対して、所定周波数以下の成分は通過させるが、所定周波数以上の成分を所定の傾斜で減衰して出力する減衰特性を与える。そのため、図20の(d)に示すように、位相比較信号を平滑した波形が出力される。この所定周波数は、PLL回路のカットオフ周波数(fc)を決定する。(厳密には、分周部19_4の分周比とフィルタ19_2のカットオフ周波数とでPLL回路のカットオフ周波数(fc)が決定される。)
PLL回路は、カットオフ周波数(fc)が決定されると、入力クロックの変動周波数に対して、カットオフ周波数(fc)を超える成分を抑制する特性(即ち、ほぼ積分回路に等しい減衰特性)を与える。また、カットオフ周波数(fc)によってPLL回路のロックレンジが決定される。そのため、同期すべき入力クロックの位相変動の周波数帯が広い場合には、カットオフ周波数(fc)をあまり低い周波数に設定することができない。
電圧制御発振器(VCO)19_3は、入力クロックと等しいか又はその数倍〜数百倍の中心周波数で発振し、フィルタ19_2から出力される平滑波形の中心電圧に制御された発振周波数で発振し、入力される基準クロックに同期した出力クロックを発生する。
電圧制御発振器(VCO)19_3に入力される制御電圧は、フィルタ19_2で平滑されているが、必ずしも平坦な電圧信号ではない。それでも、電圧制御発振器(VCO)19_3の周波数/電圧の応答特性は、それほど鋭敏ではないので、電圧制御発振器(VCO)19_3は、制御電圧の平均電圧に相当する周波数で発振し、出力クロックを送出する。
分周部19_4は、電圧制御発振器(VCO)19_3から送出される出力クロックを、基準クロックと同一の周波数となるように分周するカウンタ回路で、分周した出力クロックを位相比較部19_1に帰還する。
PLL回路の伝達特性を図21(a)に示す。図21(a)において横軸は入力(基準クロック)の変動周波数(ジッタ成分)を表し、縦軸は入力レベルに対する出力レベル(増幅度)を表している。PLL回路は、入力(基準クロック)の変動周波数がカットオフ周波数(fc)より高い周波数帯域では、積分回路又はそれに近い特性の減衰特性を与える。一方、カットオフ周波数(fc)より低い周波数帯域では、入力をそのまま透過出力し、入力の周波数変動に追従して出力する特性を有する。
この特性は、高速に振動する入力クロックの位相成分を減衰させて安定化させるジッタ減衰特性として、また、低速に振動する入力クロックの位相成分(即ちゆっくりと変化する入力クロック位相)に対して、該位相に追従する出力クロックを生成する周波数応答特性となる。
上述した図17及び図19に示すディジタル回路及びPLL回路の構成例を図15のクロック同期回路に用いた場合、該クロック同期回路で発生するワンダについて説明する。PLL回路が同期する基準クロックは、図17で説明した通り、システムクロックでリタイミングした入力クロックの周波数及び位相を再生したものであり、周期的・間欠的に位相変動を起こすため、元々ジッタ源となる性質を有している。
そのジッタのうち、図21(a)に示すPLL回路の伝達特性によって、高周波成分のジッタは減衰するが、低周波成分のジッタはそのまま出力される。出力される低周波成分のジッタには以下の要因によるものがある。
(1)入力クロックの変動による基準クロックの位相変動
(2)リタイミングによる基準クロックの位相変動
上記の要因のうち、(1)の要因に対しては、追従応答する必要があるのでそのまま低周波成分のジッタは出力されるべきであるが、(2)の要因は、装置内部で発生するジッタ(ワンダ)であるため、該低周波成分のジッタ(ワンダ)は出力されるべきではない。
このリタイミングによるジッタは、図21(b)に示すように、入力クロックの周波数偏差とシステムクロックの周波数偏差との差が極めて小さい(近い)状態にあるときに、極めて低い周波数成分のジッタが出力クロックにピークジッタとして現れる。この成分のジッタは、カットオフ周波数(fc)より低域側にあるため、PLL回路で減衰させることができない。
変動周波数がゼロHz近傍の低い周波帯のジッタに十分な減衰量を与えるPLL回路の実現は困難である。このジッタはゼロ交叉ジッタと呼ばれ、ディジタルPLL回路の構成上、どうしても出現してしまうピークジッタである。このピークジッタは、装置自体の内部から発生するワンダとして出力されてしまう。
クロック品質を向上させるために、周波数安定度を高くし、周波数偏差を小さくするほど、逆にワンダが発生しやすくなるという特性がある。従って、装置のシステムクロックを発生する固定発振器(OSC)の品質・精度を高くし過ぎると、ワンダが発生し易くなってしまう。そのため、クロック供給装置(DCMやCSM等)のクロック品質を高めても、装置内部側のシステムクロックの品質をあまり上げることができないので、同期網全体のクロック品質を向上させることには限界がある。
このように、ディジタルPLL回路を用いた同期伝送装置は、装置自体がワンダの発生源になる構造を有しているが、それでも実際の同期伝送装置は、対向する装置がワンダに追従して同期するので、信号伝送にはほとんど支障が無い。更に、SONET/SDH伝送網及びその伝送装置では、この現象が日常的に見えるほど、クロックの周波数精度・安定度は良くなく、数時間から数日の時間を掛けて少しずつゆっくりと変動しているので、偶然に周波数偏差が交叉するポイントでしかワンダは発生しない。周波数精度は±40ppm、安定度は±4ppm程度である。
また、このワンダを捕捉しようとしても、固定発振器(OSC)の個体差や入力クロックとの偶然の組み合わせや、電源・温度等の種々の環境条件の中で偶発的に発生する現象であるために、このワンダを捕捉・観測すること自体が困難で、検証が非常に難しい。
ディジタルPLL回路に関し、固定周波数の再生クロックを出力し、固定周波数の再生クロックが基準クロックの最小周波数より低い再生クロックか、又は基準クロックの最大周波数より高い再生クロックかの何れかに切替えて再生クロックを出力する手段を備え、低周波ジッタ成分を含まないクロックを供給するディジタルPLL回路は、例えば下記の特許文献1等によって知られている。
ディジタルPLL回路を用いた同期伝送装置は、入力クロックの周波数偏差のシステムクロックの周波数偏差との差が極めて近い状態にあるときに、出力クロックにワンダ(周波数偏差のゼロ交叉点付近のピークジッタ)を発生してしまう。これは、クロック品質を向上させるために周波数安定度を高くし、周波数偏差を小さくするほど、発生しやすくなる現象で、伝送網のクロック品質を向上させながら、ワンダ発生を防止する際の限界点となる。しかし、高品質クロック伝送を実現するには、クロック安定度の向上が不可欠であり、本発明は、入力クロックとシステムクロックの周波数偏差のゼロ交叉点付近で発生するピークジッタを抑圧することを目的とする。
上記課題を解決する同期伝送装置は、入力クロックを自装置内のシステムクロックでリタイミングした基準クロックを生成するディジタル回路と、前記基準クロックに同期した出力クロックを生成するPLL回路と、前記入力クロックの周波数偏差と前記システムクロックの周波数偏差との接近を検出する周波数偏差接近検出手段と、前記周波数偏差の接近が検出されたとき、該周波数偏差の差が増大するよう前記システムクロックの周波数を調整する周波数調整手段と、を備えたものである。
開示の同期伝送装置は、入力クロックとシステムクロックの周波数偏差の接近を検出したとき、該周波数偏差に差が生じるよう、システムクロックの周波数を調整することができ、入力クロックとシステムクロックの周波数偏差のゼロ交叉点付近で発生するピークジッタを抑圧することができる。
クロック同期回路の構成例を示す図である。
システムクロックの周波数制御を行った場合の周波数偏差の例を示す図である。
周波数偏差接近検出部の構成例を示す図である。
周波数調整部の構成例を示す図である。
図3及び図4の構成例を適用したクロック同期回路の構成例を示す図である。
基準クロックを監視して周波数偏差の接近を検出する周波数偏差接近検出部の構成例を示す図である。
位相比較信号を監視して周波数偏差の接近を検出する周波数偏差接近検出部の構成例を示す図である。
図7の構成例のタイミングチャートを示す図である。
電源電圧の制御により固定発振器(OSC)の発振周波数を変化させる構成例を示す図である。
周囲温度の制御により固定発振器(OSC)の発振周波数を変化させる構成例を示す図である。
クロック同期回路を幹線ネットワーク装置に用いた例を示す図である。
ワンダが発した装置で観測したクロック波形を示す図である。
冗長構成のクロック同期回路の位相差変動を示す図である。
クロックの多段中継を行うネットワーク装置の例を示す図である。
クロック同期回路の一般的な回路構成例を示す図である。
同期伝送装置におけるクロックの周波数変動の例を示す図である。
ディジタル回路の構成例を示す図である。
ディジタル回路の動作のタイミングチャートである。
PLL回路の構成例を示す図である。
PLL回路の動作のタイミングチャートである。
PLL回路の伝達特性及びディジタルPLL回路のピークジッタを示す図である。
入力クロックとシステムクロックの周波数偏差のゼロ交叉点付近のピークジッタ(ワンダ)は、入力クロックとシステムクロックの周波数偏差の差が極めて近い状態にあるときに、PLL回路で基準クロックの低周波位相変動を抑圧することができないことにより発生する。従って、入力クロックの周波数偏差とシステムクロックの周波数偏差とに一定の差を設けることにより、基準クロックの位相変動の周波数は上昇し、PLL回路での抑圧が可能になる。
しかし、入力クロック及びシステムクロックは、常に所定の周波数精度の範囲内で変動をし続けており、入力クロックとシステムクロックの周波数偏差に一定の差が付くよう維持することは難しい。また、入力クロックの周波数偏差の領域の外側の領域に周波数偏差を有するシステムクロックを備えることにより、周波数偏差に差を生じさせる手法も考えられるが、このような手法では精度良く入力クロックを基準クロックとして再生することが困難になる。
従って、入力クロックとシステムクロックとに周波数偏差の差を有するようにさせるには、入力クロックの周波数偏差を監視してシステムクロックの周波数偏差を制御すればよい。そのための具体的な構成例を図1に示す。図1は、システムクロックの周波数を変化させるために、図15の構成例に周波数偏差接近検出部1_1及び周波数調整部1_2を追加し、固定発振器(OSC)15_3に代えて発振周波数が可変の発振器(OSC)1_3を設けたものである。周波数偏差接近検出部1_1は、入力クロックとシステムクロックの周波数偏差を監視し、偏差が接近したことを検出する。周波数調整部1_2は、周波数偏差接近検出部1_1の検出結果により、発振器(OSC)1_3の発振周波数を調整する。
たものである。
図2にシステムクロックの発振器(OSC)1_3に対して周波数制御を行った場合の周波数偏差の例の時系列グラフを示す。2_1は入力クロックの周波数偏差の時系列グラフを示し、2_2は発振器(OSC)のシステムクロックの周波数偏差の時系列グラフを示している。
この例では、(A)点で入力クロックとシステムクロックの周波数偏差が交叉するが、この交差点の手前で、発振器(OSC)の周波数調整を開始し、(B)点で逆方向から周波数偏差が交叉するポイントを越えるまで、発振器(OSC)の周波数調整を持続することにより、2_3に示すように一定以上の周波数差を維持する。
なお、(A)点から(B)点までの変化は、発振器(OSC)の特性にもよるので一概に定まらないが、図2では、周波数制御を行わなければ発振器(OSC)から本来出力される発振器(OSC)の周波数偏差を点線の曲線で示している。
この周波数制御は、システムクロックの発振器(OSC)が元々有する周波数変動と殆ど見分けがつかない程度にゆっくりと行われるので、短時間の観測では周波数変動は殆ど観測されない。従って、本来のディジタルPLL回路の動作に全く影響を与えずに(元々あった誤差変動に対する動作と同様に動作し)、ワンダを防止することができる。
以下、図1の構成例について詳しく説明する。
〔1〕入力クロックを監視して周波数偏差の接近を検出する構成例について
図3は図1の周波数偏差接近検出部1_1の構成例を示す。図3において、サンプリング部17_1、周期カウント部17_2、クロック周期カウント値記憶部17_3及び基準クロック生成部17_4は、図17で説明したディジタル回路15_1におけるものと同様のものである。破線で囲んだブロックは、本構成例で追加した回路で、+変動検出部3_1、−変動検出部3_2、アップダウンカウンタ3_3、±2変動検出部3_4及び発生時間監視部3_5を備える。
入力クロックの1周期のサンプリング数をカウントするクロック周期カウント部17_2のカウント値は、図17で説明した通りn、n+1、n−1の何れかの値となる。+変動検出部3_1及び−変動検出部3_2は、このカウント値を監視し、中心値nから+1又は−1に変化したことを検出する。
アップダウンカウンタ3_3は、+変動検出部3_1の検出出力によりアップカウントし、−変動検出部3_2の検出出力によりダウンカウントするカウンタである。通常は、このアップダウンカウンタ3_3のカウント値は、0か±1の値から外れることはない。
しかし、入力クロックとシステムクロックの周波数偏差に差があると、+1の発生確率と−1の発生確率とに差が生じるため、アップダウンカウンタ3_3は、+1又は−1の何れか一方の検出出力が連続して発生し、±2の変動幅となることがある。±2変動検出部3_4は、この±2の変動の発生を監視し、入力クロックとシステムクロックとに周波数偏差の差が有ることを検出する。
±2変動検出部3_4は、±2の変動の発生を検出すると、アップダウンカウンタ3_3及び発生時間監視部3_5に対してカウント値及び監視時間をクリアさせ、初期値に戻させる。発生時間監視部3_5は、±2変動検出部3_4で検出される±2の変動の発生時間間隔を監視し、該発生時間間隔がクリアされず、設定時間以上の値となったとき、入力クロックとシステムクロックの周波数偏差が接近したと判断する。
また、発生時間監視部3_5は、±2変動検出部3_4で検出された±2の変動が、+側のものか−側のものかを判定し、入力クロックとシステムクロックの周波数偏差の接近が、+側の方向からのものであることを示す+側周波数偏差接近検出情報、又は−側の方向からのものであることを示す−側周波数偏差接近検出情報を出力する。
発生時間監視部3_5のタイマーの設定時間は、入力クロックとシステムクロックの再接近する周波数偏差を決定する。これは、基準クロックの位相の変動周波数の最低周波数成分となり、同時に出力クロックの最低ジッタ周波数成分となり、PLL回路のカットオフ周波数(fc)によるジッタ周波数の減衰特性に基づいて決定される。
一例として、システムクロック周波数が32.768MHz、PLL回路のカットオフ周波数(fc)が50Hz、許容ジッタが50ns以下であることを条件とした場合について説明する。システムクロックの±1周期の位相は、1/32.768MH×2=61nsである。この61nsのジッタを50ns以下に抑圧するためには、PLL回路で1/12.2に減衰する必要がある。
PLL回路のカットオフ周波数(fc)より1KHz以上の周波数に対しては1/20以下に減衰することができるので、基準クロック変動が常に1KHz以上となるように制御する。1KHzの周期は、1msであるので、発生時間監視部3_5のタイマーをこの値に設定する。
また、1KHzはシステムクロックの約30.5ppm(=1KHz÷32.768MHz)であるので、入力クロックとシステムクロックの再接近する周波数偏差も約30.5ppmとなる。同時に出力クロックのジッタの最低周波数成分も、1KHzに制限される。なお、この例は、計算を簡単にするために上記条件としたが、実際には許容ジッタ出力と、入力クロックとシステムクロックの再接近する周波数偏差とから、PLL回路のカットオフ周波数(fc)を決定する作業になる。
〔2〕発振器(OSC)に電圧制御型発振器を使用した場合の周波数調整回路の構成例について
図4は、図1の発振器(OSC)1_3に電圧制御型発振器を用いた場合の周波数調整部1_2の構成例を示す。周波数調整部1_2は、+側周波数調整部4_1と、−側周波数調整部4_2とを備える。+側周波数調整部4_1及び−側周波数調整部4_2は、それぞれ、発生時間監視部3_5から、+側周波数偏差接近検出情報、及び−側周波数偏差接近検出情報を入力する。図3で説明した通り、入力クロックとシステムクロックの周波数偏差の差は、クロック周期カウント部17_2の+側又は−側の発生頻度の差として検出される。
周波数偏差の接近は、この発生頻度が減少することによって検出される。その接近には、+側から接近する場合と、逆に−側から接近する場合とがある。+側からの周波数偏差の接近が検出された状態は、入力クロックに対してシステムクロック周波数が高い状態から、その差が小さくなるように接近してきた状態で、そのまま更に接近が進むと、ピークジッタの発生が始まってしまう。従って、+側周波数偏差接近検出情報が入力された場合は、+側周波数調整部4_1により発振器(OSC)1_3の周波数を制御して、発振周波数を上げることにより周波数差偏差に差を持たせる。
一方、−側の周波数偏差の接近が検出された状態は、逆に入力クロックに対してシステムクロック周波数が低い状態から、その差が小さくなるように接近してきた状態で、そのままさらに接近が進むと、同様にピークジッタの発生が始まってしまう。従って、+側周波数偏差接近検出情報が入力された場合は、−側周波数調整部4_2により発振器(OSC)1_3の周波数を制御して、発振周波数を下げることにより周波数偏差に差を持たせる。
+側周波数調整部4_1及び−側周波数調整部4_2は、周波数偏差の接近を知らせるディジタル信号を電圧又はパルス幅のアナログ量に変換する回路により構成することができる。このアナログ量は、発振器(OSC)1_3の周波数/電圧特性に依存して決定され、1回の周波数偏差の接近の検出時に変化させるシステムクロック周波数の適正変化量に相当するアナログ量を出力する。
また、回路構成によっては必ずしも必要ではないが、調整量補正部4_3を設け、該調整量補正部4_3で周波数調整幅・感度の補正を行う構成とすることができる。その場合、+側周波数調整部4_1及び−側周波数調整部4_2で周波数の変化方向を指示し、調整量補正部4_3で発振器(OSC)1_3の周波数/電圧特性に合わせたアナログ量への変換を行う構成とすることができる。
また、発振器(OSC)1_3の応答特性に依存するが、例えば周波数/電圧特性の傾きを補正する場合や、装置の起動時は高速に周波数安定状態を作り出すために、周波数調整を強く・大きく行い、運用中(主信号の疎通サービス中)は、周波数変動の誤差に対する対処と同様程度に弱く・小さく制御する等の制御量の調整を、調整量補正部4_3で行う構成とすることもできる。
〔3〕クロック同期回路の構成例について
図3に示した周波数偏差接近検出の構成例と図4に示した周波数調整の構成例とを適用したクロック同期回路の構成例を図5に示す。図5に示すクロック同期回路における各構成要素は、図3、図4、図17及び図19等に示した構成例におけるものと同様であり、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
〔4〕基準クロックを監視して周波数偏差の接近を検出する構成例について
図6は、PLL回路の基準クロックを監視して周波数偏差の接近を検出する周波数偏差接近検出部1_1の構成例である。ディジタルPLL回路のディジタル回路15_1がLSIの内部回路として構成されている場合等には、図3のように破線で囲む回路を追加することが困難である。そこで、図6に示すように、ディジタル回路15_1から出力される基準クロックの信号を使用して周波数偏差の接近を検出する構成とすることができる。この構成例は図3の構成例の代替手段となるものである。
図6において、クロック周期カウント部6_1は、基準クロックの1周期をシステムクロックでカウントする。カウント値は、図17のクロック周期カウント部17_2と同様に、n又はn±1の何れかの値となる。クロック周期カウント部6_1で得たカウント値を、+変動検出部6_2、−変動検出部6_3、アップダウンカウンタ6_4、±2変動検出部6_5及び発生時間監視部6_6で処理する。それらによる処理動作は、図3で説明した+変動検出部3_1〜発生時間監視部3_5と同様である。
〔5〕PLL回路の位相比較信号を監視して周波数偏差の接近を検出する構成例について
図7は、PLL回路の位相比較信号を監視して周波数偏差の接近を検出する周波数偏差接近検出部の構成例を示す。この構成例は、図6と同様に外部から接続が容易な信号線を使用して周波数偏差の接近を検出し、図3の構成例の代替手段となるものである。
PLL回路の位相比較部19_1から出力される位相比較信号は、PLL回路のフィルタ(ローパスフィルタ)19_2が抵抗及びコンデンサ等のLSI外付け部品を用いて構成されることが多いために、図6の構成例よりもさらに外部から取り出すことが容易な信号である。
図8に図7の構成例のタイミングチャートを示す。図8を参照して図7の構成例の動作を説明する。位相比較部19_1、フィルタ19_2、電圧制御発振器(VCO)19_3および分周部19_4は、図19で説明したものと同様である。図7において破線で囲んだ構成要素がこの構成例で追加された構成要素で、進み検出部7_1、遅れ検出部7_2、アップダウンカウンタ7_3、±2変動検出部7_4、発生時間監視部7_5、同期引き込み状態検出部7_6及びマスク部7_7を備える。
図8の(a)〜(d)は、図20で説明したPLL回路における入出力波形のタイミングチャートを表している。図8の(e)は進み検出部7_1及び遅れ検出部7_2並びに同期引き込み状態検出部7_6に入力される位相比較信号を示している。
進み検出部7_1及び遅れ検出部7_2は、図8の(f)に示すように、位相比較部19_1から出力される位相比較信号の基準クロック側のエッジを監視し、基準クロックの位相が進み方向に変動したか、遅れ方向に変動したかを監視する。ここには、PLL回路15_2内の基準クロックの1周期をシステムクロックでカウントし、カウント値n±1により基準クロックの位相の進み/遅れとして現れる。アップダウンカウンタ7_3〜発生時間監視部7_5は、図3に示したアップダウンカウンタ3_3〜発生時間監視部3_5と同様である。
同期引き込み状態検出部7_6は、図8の(g)に示すように、位相比較部19_1から出力される位相比較信号の出力クロック側のエッジを監視し、PLL15_2回路が基準クロックに同期して動作している状態であるか否かを監視する。
基準クロックの位相を引き込んで同期状態であるときは、位相比較信号の出力クロック側のエッジが変動するまでの時間は、或る程度の時間幅(基準クロックの1クロック分)を要するが、同期引き込み状態でない場合は、電圧制御発振器(VCO)19_3の特定にもよるが、短時間で変動してしまう。
同期引き込み状態検出部7_6は、同期引き込み状態でないときは、マスク部7_7により、発生時間監視部7_5の+側周波数偏差接近検出情報又は−側周波数偏差接近検出情報を出力しないようにマスクする。ピークジッタの抑制は、PLL回路15_2の同期引き込み後に行えば良いので、PLL回路15_2が同期していない状態では、まず、PLL回路15_2の同期引き込み動作を優先させ、システムクロックの周波数変更は行わないようにマスクする。
〔6〕電源電圧を制御してシステムクロックの周波数を調整する構成例について
図9は電源電圧を制御して固定発振器(OSC)の発振周波数を変化させる構成例を示す。図9においてディジタル回路15_1、PLL回路15_2及び発振器(OSC)1_3は、図15に示したものと同様である。周波数偏差接近検出部1_1は、前述の〔1〕、〔4〕又は〔5〕の何れかの構成例を用いることができる。
周波数調整部9_1は、周波数偏差接近検出部1_1からの周波数偏差の接近を知らせるディシタル信号を、固定発振器(OSC)15_3の電源電圧を調整するアナログ量の信号に変換する。電源回路9_2は、固定発振器(OSC)15_3に電力を供給する電源回路で、DC−DCコンバータや電源レギュレータなどの電源回路を用いることができる。
周波数調整部9_1が出力するアナログ量は、電源回路9_2の回路構成及び固定発振器(OSC)15_3の特性に依存し、また、固定発振器(OSC)15_3の個体差による影響に応じて決定されるが、周波数偏差の接近を知らせるディシタル信号の入力回数と周波数の制御方向(極性)とから、電源回路9_2の電圧・抵抗値の調整値を作り出すことができる。
なお、この構成例は、細かい周波数の調整は困難で、電源電圧も環境温度等の外部要因の影響を受け、或る程度変動することが予想される。しかし、固定発振器(OSC)15_3の周波数偏差を入力クロックに対して一定の値以上ずらすだけで、一時的なピークジッタを抑制する効果を十分得ることができるので、周波数偏差接近検出部1_1からの出力が無くなるまでゆっくりと電源電圧を変化させ、該出力が無くなったところで制御を停止するだけもワンダの発生を防止することができ、図4の構成例の安価な代替手段とすることがきる。
〔7〕周囲温度を制御してシステムクロックの周波数を調整する構成例について
図10は、固定発振器(OSC)の周囲温度を制御することにより固定発振器(OSC)の発振周波数を変化させる構成例を示す。図10においてディジタル回路15_1、PLL回路15_2及び固定発振器(OSC)15_3は、図15に示したものと同様である。周波数偏差接近検出部1_1は、前述の〔1〕、〔4〕又は〔5〕の何れかの構成例を用いることができる。
周波数調整部10_1は、周波数偏差接近検出部1_1からの周波数偏差の接近を知らせるディシタル信号を、固定発振器(OSC)15_3の温度を調整するアナログ量の信号に変換する。温度素子10_2は、固定発振器(OSC)15_3の周囲温度を調整するための発熱・冷却素子又は発熱用の抵抗素子である。
周波数調整部10_1が出力するアナログ量は、温度素子10_2の属性や固定発振器(OSC)15_3の特性に依存し、また、温度素子10_2による周囲温度への変動曲線に応じて決定される。なお、この構成例は、〔6〕の構成例と同様に、細かい周波数の調整は困難で、環境温度や風量等の外部要因の影響を受けるが、図4の構成例の安価な代替手段とすることがきる。
1.安価なSONET/SDH装置には、ポインタアクションやスタッフが発生しない、完全なクロック同期状態を前提に製作されているものがある。このような装置では、自装置が同期しているクロックと入力された伝送信号とのタイミング位相が、非常に狭い範囲で一致している必要があり、その範囲は、装置そのものの回路構成によるが、伝送フレームの1バイト前後の時間であることが多い。
課題のワンダはその範囲に近づく可能性が大きく、伝送エラーを発生する可能性がある。このような装置は、図11に示すように、幹線ネットワーク装置11_1,11_2よりも下位層の伝送装置11_3に用いられることが多い。そのため、上位層の幹線ネットワーク装置11_1,11_2に上述したクロック同期回路を用いることによりクロックのワンダを防止することができる。
2.課題のワンダを発生する装置では、図12の(a)に示すように、入力クロックと出力クロックの波形を同時観測すると、それらの周波数が同一の場合、図12の(b)に示すように、入力クロックに対して出力クロックの位相が振動して低速ジッタが観測される。また、出力周波数が高速で、低速ジッタ量が出力クロックの1周期よりも大きい場合は、図12の(c)に示すように、波形が完全に流れた状態になり、一見同期が取れていない状態に見えてしまう。
前述した通り、この現象は入力クロックとシステムクロックの周波数偏差が偶然に接近した状態となったために発生したものであり、環境や装置の個体差によって発生頻度に差異が生じる。また、明らかにクロック同士の波形は同期せずに流れているように見えるので、一見してこの状態がクロック同期状態にあるとは判断し難い。
装置のデバックや試験等で、クロックが同期状態にことを確認する手段は、このように入力クロックと出力クロックとを同時に観測して、入力クロックに対する出力クロックの位相変動が静止することを確認するのが最も確実であるが、ワンダが発生するとこの確認を行うことができないことがある。上述のクロック同期回路では、出力クロックの位相変動が静止する状態を確実に作り出すことができる。
3.SONET/SDH装置等、クロック同期回路に冗長構成を有する装置では、課題のワンダによって、冗長構成回路同士のクロックが非同期状態のように見える場合がある。図13はこの例を示したもので、偶然に運用(W)側のクロック同期回路13_1は、システムクロックと入力クロックの周波数偏差が異なるためにジッタは発生していないが、待機(P)側のクロック同期回路13_2は周波数偏差が接近し、ジッタが発生している。従って、運用(W)側と待機(P)側とでは、異なる位相のクロックが生成されてしまう。
図13の(a)は、低速ジッタがクロック1周期より小さい場合を示し、待機(P)側の出力クロックに低速ジッタが観測される様子を示している。また、図13の(b)は、低速ジッタがクロック1周期より大きい場合を示し、待機(P)側の出力クロックの波形が流れて観測される様子を示している。
また、主信号回路13_3では、運用(W)側と待機(P)側のクロック同期回路の何れか一方のクロックを選択して使用するが、この切り替えの際には、ジッタによる位相差が生じるので、切替え選択を複数回繰り返すと、主信号と入力クロックとの周波数・位相差が蓄積・拡大し、スタッフ処理や信号エラーを発生する場合がある。上述のクロック同期回路は、このような現象を防止して位相差変動のない冗長クロックを生成することができる。
4.SONET/SDH装置等、幹線ネットワーク伝送路を介して多段中継を行うネットワーク装置では、図14のように伝送路を通してクロックも各ネットワーク装置(ノード)14_1〜14_5に多段中継される。この中継の間に課題のワンダを発生するネットワーク装置(ノード)が存在すると、後段のネットワーク装置(ノード)はそのワンダを中継伝送する。
そのため、偶然にワンダを発生するネットワーク装置(ノード)が複数同時に発生した場合には、ワンダが蓄積重畳されてしまう。このような現象は、偶然の組み合わせによるもので発生頻度が非常に低いが、蓄積されたピークジッタ量の検証・実測は不可能である。上述のクロック同期回路は、このような不確定要素の発生を防止することができる。
5.既に説明した通り、課題のワンダ現象のためにSONET/SDH装置では、クロック供給装置のクロック精度をいくら向上させても、網全体のクロック精度を向上させることはできない。また、装置のクロック精度を向上させることは、逆にワンダの発生を招いてしまう。しかし、上述のクロック同期回路によりこれらの課題が解決され、網全体のクロック精度が向上するので、より高精度クロックを必要とする信号伝送が可能となる。このような高精度クロックを必要とする信号伝送の例としては、放送用映像信号のフレーム伝送等がある。
6.課題のワンダ(ゼロ交叉ジッタ)は、ディジタルPLL回路のシステムクロックと入力クロックの周波数差により発生する必然の現象であるため、同様のディジタルPLL回路を使う場面において、上述したクロック同期回路を適用することにより、ワンダ(ゼロ交叉ジッタ)を防ぐことができる。
1_1 周波数偏差接近検出部
1_2 周波数調整部
1_3 発振器(OSC)
15_1 ディジタル回路
15_2 PLL回路