まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が適用されたパラレルハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)を示す全体システム図である。以下、図1に基づいて、駆動系および制御系の構成を説明する。
実施例1のパラレルハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジンEngと、第1クラッチCL1と、モータ/ジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機CVTと、ファイナルギヤFGと、左駆動輪LTと、右駆動輪RTと、を備えている。
実施例1のハイブリッド駆動系は、電気自動車走行モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車走行モード(以下、「HEVモード」という。)と、駆動トルクコントロール発進モード(以下、「WSCモード」という。)等の走行モードを有する。
前記「EVモード」は、第1クラッチCL1を開放状態とし、モータ/ジェネレータMGの動力のみで走行するモードである。前記「HEVモード」は、第1クラッチCL1を締結状態とし、モータアシスト走行モード・走行発電モード・エンジン走行モードの何れかにより走行するモードである。前記「WSCモード」は、「HEVモード」からのP、N→Dセレクト発進時、または、「EVモード」や「HEVモード」からのDレンジ発進時等において、モータ/ジェネレータMGを回転数制御することで第2クラッチCL2のスリップ締結状態を維持し、第2クラッチCL2を経過するクラッチ伝達トルクが、車両状態やドライバー操作に応じて決まる要求駆動トルクとなるようにクラッチトルク容量をコントロールしながら発進するモードである。なお、「WSC」とは「Wet Start clutch」の略である。
前記エンジンEngは、希薄燃焼可能であり、スロットルアクチュエータによる吸入空気量とインジェクタによる燃料噴射量と、点火プラグによる点火時期の制御により、エンジントルクが指令値と一致するように制御される。
前記第1クラッチCL1は、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGとの間の位置に介装される。この第1クラッチCL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力にて常時締結(ノーマルクローズ)の乾式クラッチが用いられ、エンジンEng〜モータ/ジェネレータMG間の締結/半締結(スリップ締結)/開放を行なう。この第1クラッチCL1が完全締結状態ならモータトルク+エンジントルクが第2クラッチCL2へと伝達され、開放状態ならモータトルクのみが、第2クラッチCL2へと伝達される。なお、半締結/開放の制御は、油圧アクチュエータに対するストローク制御にて行われる。
前記モータ/ジェネレータMGは、交流同期モータ構造であり、発進時や走行時に駆動トルク制御や回転数制御を行うと共に、制動時や減速時に回生ブレーキ制御による車両運動エネルギーのバッテリー9への回収を行なうものである。
前記第2クラッチCL2は、ノーマルオープンの湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキであり、クラッチ油圧(押付力)に応じて伝達トルク(クラッチトルク容量)が発生する。この第2クラッチCL2は、自動変速機CVTおよびファイナルギヤFGを介し、エンジンEngおよびモータ/ジェネレータMG(第1クラッチCL1が締結されている場合)から出力されたトルクを左右駆動輪LT、RTへと伝達する。
なお、第2クラッチCL2としては、図1に示すように、独立のクラッチをモータ/ジェネレータMGと自動変速機CVTの間の位置に設定する以外に、自動変速機CVTと左右駆動輪LT、RTの間の位置に設定しても良い。
前記自動変速機CVTは、変速比を無段階に設定しつつそれらを連続的に変えることのできる機であり、本実施例1では2対のプーリーとその間に架け渡したベルトとから構成される(ベルト型CVT)。自動変速機CVTは、一方の対を為すプーリーの間隔を変化させて各プーリーに対するベルトの接触円を変化させるとともに、それに連携させて他方の対を為すプーリーの間隔も変化させて各プーリーに対するベルトの接触円を変化させることにより、連続的に変速する。なお、自動変速機としては、上記した自動変速機CVT以外に、トロイダル型CVTであってもよく、複数の遊星歯車から構成され有段階の変速段を得る機である自動変速機ATであっても良い。
実施例1のパラレルハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、第2クラッチ入力回転数センサ6(=モータ回転数センサ)と、第2クラッチ出力回転数センサ7と、インバータ8と、バッテリー9と、アクセルセンサ(アクセルポジションセンサ)10と、エンジン回転数センサ11と、油温センサ(CVT油温センサ)12と、ストロークセンサ(ストローク位置センサ)13と、統合コントローラ14と、変速機コントローラ15と、クラッチコントローラ16と、エンジンコントローラ17と、モータコントローラ18と、バッテリーコントローラ19と、ブレーキセンサ20と、車速センサ21と、オートクルーズ操作SW22と、加速度センサ23と、傾斜センサ24と、を備えている。
前記インバータ8は、直流/交流の変換を行い、モータ/ジェネレータMGの駆動電流を生成する高電圧インバータである。バッテリー9は、モータ/ジェネレータMGからの回生エネルギーを、インバータ8を介して蓄積する高電圧バッテリーである。
前記統合コントローラ14は、バッテリー状態、アクセル開度、および車速(変速機出力回転数に同期した値)から走行制御のための目標駆動トルクを演算する。そして、その結果に基づき各アクチュエータ(モータ/ジェネレータMG、エンジンEng、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、自動変速機CVT)に対する指令値を演算し、各コントローラ15、16、17、18、19へと送信する。ここで、統合コントローラ14は、「HEVモード」である場合、演算した目標駆動トルクをエンジンEngとモータ/ジェネレータMGとに適宜分配し(駆動配分手段)、それに応じて演算した指令値を各アクチュエータに送信する。
前記変速機コントローラ15は、統合コントローラ14からの変速指令を達成するように変速制御を行なう。
前記クラッチコントローラ16は、第2クラッチ入力回転数センサ6と第2クラッチ出力回転数センサ7と油温センサ12からのセンサ情報を入力すると共に、統合コントローラ14からの第1クラッチ油圧指令値と第2クラッチ油圧指令値に対して、クラッチ油圧(電流)指令値を実現するようにソレノイドバルブの電流を制御する(クラッチ制御手段)。
前記エンジンコントローラ17は、エンジン回転数センサ11からのセンサ情報を入力すると共に、統合コントローラ14からのエンジントルク指令値を達成するようにエンジントルク制御を行なう。
前記モータコントローラ18は、統合コントローラ14からのモータトルク指令値やモータ回転数指令値を達成するようにモータ/ジェネレータMGの制御を行なう。
前記バッテリーコントローラ19は、バッテリー9の充電状態(SOC)を管理し、その情報を統合コントローラ14へと送信する。
また、統合コントローラ14は、定速走行制御いわゆるオートクルーズ制御(ASCD)を行うことが可能とされている。この定速走行制御とは、運転者の意思により設定された目標車速を維持するものである。定速走行制御では、後述するように、実車速を設定された目標車速とするための走行駆動トルクである定速制御駆動トルクを演算し、その結果に基づき各アクチュエータ(モータ/ジェネレータMG、エンジンEng、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、自動変速機CVT)に対する指令値を演算し、各コントローラ15、16、17、18、19へと送信する。統合コントローラ14は、常時においては、上述したように、バッテリー状態、アクセル開度、および車速(変速機出力回転数に同期した値)から演算した走行駆動トルクであるドライバ要求駆動トルクに基づく制御すなわちドライバー操作に基づく走行制御を行っており、定速走行の要求を受けた場合、定速走行制御に切り換える。また、統合コントローラ14は、定速走行制御時において、定速走行の要求が解除されると、ドライバー操作に基づく制御に切り換える。
統合コントローラ14は、本実施例1では、オートクルーズ操作SW22のON/OFF状態を検知可能とされており、ON状態であることを検知すると、定速走行の要求が為されているものと判断する。また、統合コントローラ14は、本実施例1では、オートクルーズ操作SW22がOFF状態とされたことを検知した場合、アクセルペダルが踏み込まれた場合、ブレーキペダルが踏み込まれた場合、およびシフトポジションセンサによりシフトレバーが「D」から切り換えられた場合等に、定速走行の要求が解除されたものと判断する。このように解除されたものと判断すると、オートクルーズ操作SW22をOFF状態とする。
図2は、「HEVモード」における走行制御であって、統合コントローラ14にて実行される定速走行制御時の「EVモード」へのモード遷移制御処理内容を示すフローチャートである。すなわち、図2のフローチャートがモード遷移制御手段となる。図3は、実施例1の制御装置が適用されたパラレルハイブリッド車両の統合コントローラ14でのモード選択処理を行う際に用いられるEV-HEV選択マップを示す図である。図4は、統合コントローラ14における目標車速駆動トルクの演算処理を示す制御ブロック図である。図5は、実施例1の制御装置が適用されたパラレルハイブリッド車両の統合コントローラ14での定速走行制御時のモード選択処理を行う際に用いられるEV-HEV選択マップを示す図である。以下、図2のフローチャートの各ステップについて図3から図5を用いて説明する。
ステップS1では、「HEVモード」であるか否かを判断し、Yesの場合はステップS2へ進み、Noの場合は「EVモード」による走行制御(後述する図6のフローチャート)に移行する。
ステップS2では、定速走行の要求が為されているか否かを判断し、Yesの場合はステップS9へ進み、Noの場合はステップS3へ進む。すなわち、オートクルーズ操作SW22がOFF→ONとされたこと、もしくはON状態であることを検知することにより、統合コントローラ14が定速走行の要求が為されていることを認識し、その認識に合わせて定速走行制御とドライバー操作に基づく制御との切り換えを行う(走行制御切換部)。
ステップS3では、ステップS2での定速走行の要求が為されていないとの判断に続き、ドライバー操作に基づいてドライバ要求駆動トルクを演算して(要求駆動トルク演算部)、ステップS4へ進む。このドライバ要求駆動トルクは、上述したように、バッテリー状態、アクセル開度、および車速(変速機出力回転数に同期した値)等から演算する。
ステップS4では、ステップS3でのドライバ要求駆動トルクの演算に続き、その演算したドライバ要求駆動トルク(加速の場合を正トルクとし、減速の場合を負トルクとする)がモータ回生可能トルクよりも小さいか否かを判断し、Yesの場合はステップS5へ進み、Noの場合はステップS6へ進む。このモータ回生可能トルクとは、モータ/ジェネレータMGの出力軸においてモータ/ジェネレータMGが出力可能な回生ブレーキトルク(負トルク)の最大値である。すなわち、このステップS4では、ドライバー操作に基づく減速(制動)を、モータ/ジェネレータMGの回生ブレーキトルクだけで行うことができるか否かを判断しており、ドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも小さいということは、モータ/ジェネレータMGの回生ブレーキトルクだけでは不十分であると判断したこととなる。
ステップS5では、ステップS4でのドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも小さいとの判断、あるいは、ステップS11での目標加速度がモータ回生可能加速度よりも小さいとの判断に続き、第1クラッチCL1を締結した状態を維持したままエンジンEngへの燃料の供給をカット(エンジンF/C)し、ステップS16へ進む。このステップS5では、燃料の供給をカットしたエンジンEngとモータ/ジェネレータMGとを駆動結合することにより、エンジンEngのフリクションを利用して減速トルクを確保する。
ステップS6では、ステップS4でのドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも大きいとの判断に続き、ドライバ要求駆動トルクが停止判定閾値よりも小さいか否かを判断し、Yesの場合はステップS7へ進み、Noの場合はステップS16へ進む。この停止判定閾値は、図3に示すように、バッテリー9の出力を考慮したモータ出力可能トルクから、エンジンEngのクランキング(エンジンEngの始動)に必要なトルクを減算したもの(停止判定閾値=(バッテリ出力を考慮したモータ出力可能トルク)−(クランキングトルク))に設定されている。また、この停止判定閾値とヒステリシスを持って、エンジン始動要求の判断に用いる始動判定閾値が設定されている。すなわち、ステップS6では、エンジンEngを停止させるか否かの判断をしており、「HEVモード」から「EVモード」への切り替えの要求があるか否かを判断している。
ステップS7では、ステップS6でのドライバ要求駆動トルクが停止判定閾値よりも小さいとの判断すなわちエンジンEngを停止させるとの判断、あるいは、ステップS12での目標車速駆動トルクがEV可能駆動トルクよりも小さいとの判断、あるいは、ステップS14での停止判定時間が規定時間を越えているとの判断に続き、第1クラッチCL1を開放して、ステップS8へ進む。このステップS7では、第1クラッチCL1の開放に先立って、車両の駆動力を確保しつつ第1クラッチCL1の開放に伴う駆動系へのトルク変化を減少させるように、第2クラッチCL2の伝達容量を制御している(スリップ締結とする)。
ステップS8では、ステップS7での第1クラッチCL1の開放に続き、エンジンEngを停止させて、ステップS16へ進む。このステップS8では、エンジンコントローラ17へと停止信号を送信してエンジンEngを停止させ、その後、第2クラッチCL2を締結する。
ステップS9では、ステップS2での定速走行の要求が為されているとの判断に続き、定速走行制御における目標車速および目標加速度を設定して、ステップS10へ進む。この実施例1では、車両が実際に走行している速度を検出する車速センサ21(図1参照)から取得した、定速走行の要求が為された時点での車速の実測値を、目標車速に設定する。すなわち、定速走行の要求が為された時点での車速を維持するように、定速走行制御を行うこととなる。なお、この目標車速は、オートクルーズ操作SW22もしくはその他の操作手段等により変更可能とされている。また、ステップS9では、ステップS16からステップS1へと戻ったときであって、何らの変更指令が出されていないときは、再度目標車速を設定する必要はない。また、目標加速度は、実車速を目標車速とすべく車速を制御するための加速度である。さらに、ステップS9では、設定した目標加速度と、統合コントローラ14が搭載されている車両の重量とから、定速制御駆動トルクを演算する。すなわち、ステップS9では、目標車速を設定するとともに、その目標車速と実車速との偏差をなくす車速フィードバック制御を行う(車速フィードバック制御部)。
ステップS10では、ステップS9での目標車速および目標加速度の設定に続き、その目標車速から目標車速駆動トルクを演算して、ステップS11へ進む。この目標車速駆動トルクの算出について、図4を用いて説明する。統合コントローラ14は、走行抵抗演算部25において、車速に対する走行抵抗を示すマップを用いて、目標車速(ステップS9にて演算)から走行抵抗を演算する。この車速に対する走行抵抗を示すマップは、この統合コントローラ14が搭載されている車両が基準となる道路上を走行している場面において、車両に対して生じる車速と走行抵抗との関係を示したものである。このことから、ここで演算された走行抵抗は、走行している路面の状況等により変化する。このため、統合コントローラ14は、補正係数演算部26において、走行抵抗演算部25で演算された走行抵抗に対する補正係数を演算する。補正係数演算部26では、車速センサ21から取得した車速、加速度センサ23から取得した加速度、および路面推定手段としての傾斜センサ24から取得した路面状況に基づいて、補正係数を演算する。この路面状況とは、例えば、上り坂や下り坂のように車両が走行している路面において走行抵抗を変化させる要因をいう。このため、路面推定手段は、車両が走行しているもしくはこれから走行する路面状況を取得することができるものであればよいことから、例えば、図示は略すが車載カメラにより取得された画像を解析すること、ナビゲーションシステムからの情報を取得すること等であってもよく、傾斜センサ24に限定されるものではない。統合コントローラ14は、駆動トルク演算部27において、演算した上記走行抵抗に、補正係数演算部26で演算した補正係数を乗算することにより、上記走行抵抗を車両が走行している車速および路面状況に適合するものに補正し、この補正走行抵抗に応じた目標車速駆動トルクを演算する。このことから、目標車速駆動トルクは、ステップS9で設定した目標車速での走行のための車両駆動トルクである。
ステップS11では、ステップS10での目標車速駆動トルクの演算に続き、目標加速度(ステップS9にて演算)がモータ回生可能加速度よりも小さいか否かを判断し、Yesの場合はステップS5へ進み、Noの場合はステップS12へ進む。このモータ回生可能加速度は、上述したモータ回生可能トルク(ステップS4参照)から演算したものである。
ステップS12では、ステップS11での目標加速度がモータ回生可能加速度よりも大きいとの判断に続き、ステップS10で演算した目標車速駆動トルクがEV可能駆動トルクよりも小さいか否かを判断し、Yesの場合はステップS7へ進み、Noの場合はステップS13へ進む。このEV可能駆動トルクとは、車速に対する走行駆動トルクの関係(図5のグラフ参照)で見て、定速走行制御時にモータ/ジェネレータMGが出力するトルクのみで走行することのできる状況を示すものであり、各車速において「EVモード」を継続することのできる車両駆動トルクを示すものである。このEV可能駆動トルクは、図5に示すように、バッテリー9の出力を考慮して各車速におけるモータ/ジェネレータMGが出力可能な最大トルクから、エンジンEngのクランキングに必要なトルクおよび加速マージン分としてのトルクを減算したもの(EV可能駆動トルク=モータ出力可能トルク−(クランキングトルク+加速マージン分トルク))に設定されている。この加速マージン分としてのトルクとは、「EVモード」と「HEVモード」との切り替えに起因する車速ハンチングを防止する観点から設定される。加速マージン分としてのトルクは、例えば、定速走行制御を行うべく目標車速とするために、路面状況(例えば緩登坂)により変化する走行抵抗を吸収するための加速を行うのに必要なトルクに設定される。このことから、ステップS12では、定速走行制御において、ステップS10で演算した目標車速駆動トルクから見て「EVモード」が可能であるか否かを判定している(目標車速駆動トルクで見たEV遷移可否判定)。
ステップS13では、ステップS12での目標車速駆動トルクがEV可能駆動トルクよりも大きいとの判断すなわち「HEVモード」を継続するとの判断に続き、定速制御駆動トルク(ステップS9にて演算)が停止判定閾値(ステップS6参照)を下回っているか否かを判断し、Yesの場合はステップS14へ進み、Noの場合はステップS15へ進む。このステップS13では、定速制御駆動トルクが停止判定閾値を下回っていると判断すると、停止判定時間のカウントを開始する。なお、ステップS13では、ステップS14からステップS16へと進み、ステップS1に戻ってから(ステップS13へと)進んできたときであって、既に停止判定時間のカウントが開始されているとき(後述するステップS15でクリアされていないとき)は、そのまま停止判定時間のカウントを継続する。
ステップS14では、ステップS13での定速制御駆動トルクが停止判定閾値を下回っているとの判断に続き、停止判定時間が規定時間を越えているか否かを判断し、Yesの場合はステップS7へ進み、Noの場合はステップS16へ進む。この規定時間は、定速走行制御のために車速フィードバック制御により演算される定速制御駆動トルクが目標車速に基づく目標車速駆動トルクに収束するまでの特性に基づいて、運転性の低下を防止する観点と燃費を向上させる観点とにより設定される。規定時間は、例えば、1秒程度に設定することが考えられる。これは、車両を減速制御する際、車速フィードバック制御では減速初期のみ駆動トルク(減速トルク)が大きくなることによる。
ステップS15では、ステップS13での定速制御駆動トルクが停止判定閾値を上回っているとの判断に続き、停止判定時間を初期状態(クリアする)として、ステップS16へ進む。このため、ステップS13、ステップS14およびステップS15では、定速制御駆動トルクが規定時間以上継続して停止判定閾値を下回っているか否かを判断していることとなり、ステップS9で設定した定速制御駆動トルクから見て、同じくステップS9で設定した目標車速とする定速走行制御を「EVモード」で実行可能であるか否かを判定している(定速制御駆動トルクで見たEV遷移可否判定)。
ステップS16では、ステップS5での第1クラッチCL1を締結した状態でエンジンEngへの燃料の供給のカット(エンジンF/C)、あるいは、ステップS6でのドライバ要求駆動トルクが停止判定閾値よりも大きいとの判断すなわちエンジンEngを停止しないとの判断、あるいは、ステップS8でのエンジンEngの停止、あるいは、ステップS14での停止判定時間が規定時間を越えていないとの判断、あるいは、ステップS15での停止判定時間を初期状態(クリアする)とすること、に続き、車両駆動トルク(ステップS3で演算したドライバ要求駆動トルクあるいはステップS9で演算した定速制御駆動トルク)を、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGとに適宜分配し、その分配した各トルクに応じた指令値を演算し、その指令値を各アクチュエータに送信して、ステップS1へ戻る。このステップS11では、「HEVモード」であるとき(ステップS5、ステップS6、ステップS14あるいはステップS15から進んだ流れである場合)は、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGとに適宜分配し、「EVモード」であるとき(ステップS8から進んだ流れである場合)は、すべての車両駆動トルク(ドライバ要求駆動トルクもしくは定速制御駆動トルク)をモータ/ジェネレータMGに負担させる(エンジンEngの分配比を0とする)。
図6は、「HEVモード」から「EVモード」へとモード遷移した際に統合コントローラ14にて実行される走行制御処理内容を示すフローチャートである。以下、図6のフローチャートの各ステップについて説明する。
ステップS20では、「EVモード」であるか否かを判断し、Yesの場合はステップS21へ進み、Noの場合は「HEVモード」による走行制御(上述した図2のフローチャート)に移行する。
ステップS21では、定速走行の要求が為されているか否かを判断し、Yesの場合はステップS25へ進み、Noの場合はステップS22へ進む。すなわち、オートクルーズ操作SW22がOFF→ONとされたこと、もしくはON状態であることを検知することにより、統合コントローラ14が定速走行の要求が為されていることを認識し、その認識に合わせて定速走行制御とドライバー操作に基づく制御との切り換えを行う(走行制御切換部)。
ステップS22では、ステップS21での定速走行の要求が為されていないとの判断に続き、ドライバー操作に基づいてドライバ要求駆動トルクを演算して(要求駆動トルク演算部)、ステップS23へ進む。このドライバ要求駆動トルクは、上述したように、バッテリー状態、アクセル開度、および車速(変速機出力回転数に同期した値)等から演算する。
ステップS23では、ステップS22でのドライバ要求駆動トルクの演算に続き、その演算したドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルク(図2のフローチャートのステップS4参照)よりも小さいか否かを判断し、Yesの場合はステップS24へ進み、Noの場合はステップS28へ進む。すなわち、このステップS23では、ドライバー操作に基づく減速(制動)を、モータ/ジェネレータMGの回生ブレーキトルクだけで行うことができるか否かを判断しており、ドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも小さいということは、モータ/ジェネレータMGの回生ブレーキトルクだけでは不十分であると判断したこととなる。
ステップS24では、ステップS23でのドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも小さいとの判断、あるいは、ステップS27での目標加速度がモータ回生可能加速度よりも小さいとの判断に続き、第1クラッチCL1を締結状態とし、ステップS28へ進む。このステップS24では、第1クラッチCL1が開放である場合、クラッチコントローラ16を介して第1クラッチCL1を締結とし、既に第1クラッチCL1が締結である場合、それを維持する。ステップS24は、停止しているエンジンEngとモータ/ジェネレータMGとを駆動結合することにより、エンジンEngのフリクションを利用して減速トルクを確保するものである。
ステップS25では、ステップS21での定速走行の要求が為されているとの判断に続き、定速走行制御における目標車速および目標加速度を設定して、ステップS26へ進む。この目標車速および目標加速度の設定は、図2のフローチャートのステップS9と同様である。また、ステップS25では、設定した目標加速度と、統合コントローラ14が搭載されている車両の重量とから、定速制御駆動トルクを演算する。すなわち、ステップS25では、目標車速を設定するとともに、その目標車速と実車速との偏差をなくす車速フィードバック制御を行う(車速フィードバック制御部)。
ステップS26では、ステップS25での目標車速および目標加速度の設定に続き、その目標車速から目標車速駆動トルクを演算して、ステップS27へ進む。この目標車速駆動トルクの算出は、図2のフローチャートのステップS10と同様である。
ステップS27では、ステップS26での目標車速駆動トルクの演算に続き、目標加速度(ステップS25にて設定)がモータ回生可能加速度よりも小さいか否かを判断し、Yesの場合はステップS24へ進み、Noの場合はステップS28へ進む。このモータ回生可能加速度は、上述したモータ回生可能トルク(ステップS23参照)から演算したものである。
ステップS28では、ステップS23でのドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも大きいとの判断、あるいは、ステップS24での第1クラッチCL1を締結状態とすること、あるいは、ステップS27での目標加速度がモータ回生可能加速度よりも大きいとの判断、に続き、「EVモード」での他の制御を実行して、ステップS20へ戻る。この「EVモード」での他の制御とは、状況に応じたエンジン始動制御すなわち「EVモード」から「HEVモード」へのモード遷移制御、駆動力配分等をいう。
次に、作用を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置における作用を、「非定速走行制御時のモード遷移制御作用」と、「定速走行制御時のモード遷移制御作用」と、「モード遷移後の制御作用」と、に分けて説明する。
「非定速走行制御時のモード遷移制御作用」
非定速走行制御時のモード遷移制御作用とは、「HEVモード」において定速走行制御を行っていないときのモード遷移の制御作用をいう。本実施例1では、定速走行制御を行っていない状況(非定速走行制御時)では、ドライバー操作に応じて各アクチュエータ(モータ/ジェネレータMG、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、自動変速機CVT)に対する指令値を演算し、各コントローラ15、16、18、19へと送信するとともに、必要に応じてエンジン停止制御を行う。
すなわち、「HEVモード」での非定速走行制御時では、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4へと進み、ステップS4にてドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも小さい場合にはステップS5へと進み、ステップS5にて第1クラッチCL1が締結されたままエンジンEngへの燃料の供給をカット(エンジンF/C)し、ステップS16へと進んでステップS1に戻る流れが行われる。
また、ステップS4においてドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも大きい場合にはステップS6へと進み、ステップS6にてドライバ要求トルクが停止判定閾値よりも大きい場合には「HEVモード」を継続し、ステップS6にてドライバ要求トルクが停止判定閾値よりも小さい場合にはステップS7→ステップS8へと進んでエンジンEngが停止され、すなわち「HEVモード」から「EVモード」へのモード遷移制御が実行される。
上記のように、「HEVモード」での非定速走行制御時では、ドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも小さい場合、すなわちドライバの操作に応じた減速がモータ回生可能トルクだけでは得られないときは、「HEVモード」から「EVモード」へのモード遷移の判断に先立って、直ちに燃料の供給をカットしたエンジンEngとモータ/ジェネレータMGとを駆動結合し、エンジンEngのフリクションを利用して減速トルクを確保する。
このため、ドライバの操作に応じた減速制御を確保しつつ不必要な燃料の消費を防止することができる。
また、ドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも大きい場合、すなわちドライバの操作に応じた減速がモータ回生可能トルクだけで得られる場合には、「HEVモード」から「EVモード」へのモード遷移の可否を、モータ出力可能トルクからクランキングトルクを減算した停止判定閾値を基準として、実際の駆動系への指令値となるドライバ要求トルクに基づいて判断する。
このため、バッテリー9の出力を考慮したモータ/ジェネレータMGの状態に応じて、「HEVモード」から「EVモード」へのモード遷移の可否を適切に判断することができる。
「定速走行制御時のモード遷移制御作用」
非定速走行制御時のモード遷移制御作用とは、「HEVモード」における定速走行制御時のモード遷移の制御作用をいう。本実施例1では、定速走行制御時では、設定された目標車速を維持するための各アクチュエータ(モータ/ジェネレータMG、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、自動変速機CVT)に対する指令値を演算し、各コントローラ15、16、18、19へと送信するとともに、必要に応じてエンジン停止制御を行う。
すなわち、「HEVモード」での定速走行制御時では、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS9へと進み、ステップS9にて目標車速および目標加速度を設定するとともに定速制御駆動トルクを演算してステップS10へと進み、ステップS10にて目標車速における目標車速駆動トルクを演算してステップS11へと進み、ステップS11にて目標加速度がモータ回生可能加速度よりも小さい場合にはステップS5へと進み、ステップS5にて第1クラッチCL1が締結されたままエンジンEngへの燃料の供給をカット(エンジンF/C)し、ステップS16へと進んでステップS1に戻る流れが行われる。
また、ステップS11において目標加速度がモータ回生可能加速度よりも大きい場合にはステップS12へと進み、ステップS12にて目標車速駆動トルクがEV可能駆動トルクよりも小さい場合にはステップS7→ステップS8へと進んでエンジンEngが停止され、ステップS12にて目標車速駆動トルクがEV可能駆動トルクよりも大きい場合にはエンジンEngを停止(モード遷移制御)せずにステップS13へ進む。すなわち、目標車速駆動トルクがEV可能駆動トルクよりも小さい場合には、「HEVモード」から「EVモード」へのモード遷移制御が実行される。
さらに、エンジンEngを停止(モード遷移制御)せずにステップS13へ進むと、ステップS13にて定速制御駆動トルクが停止判定閾値よりも大きい場合にはステップS15へと進んで停止判定時間をクリアし、ステップS16へと進んでステップS1に戻る流れが行われる。すなわち、定速制御駆動トルクが停止判定閾値よりも大きい場合には、「HEVモード」が継続される。
ついで、ステップS13にて定速制御駆動トルクが停止判定閾値よりも小さい場合にはステップS14へ進み、ステップS14にて定速制御駆動トルクが停止判定閾値よりも小さいと最初に判断された時点からカウントが開始された停止判定時間が規定時間を越えていない場合には直ちにはエンジンEngを停止(モード遷移制御)せずにステップS16へと進んでステップS1に戻る流れが行われ、停止判定時間が規定時間を越えている場合にはステップS7→ステップS8へと進んでエンジンEngが停止される。すなわち、定速制御駆動トルクが停止判定閾値よりも小さい状況が、規定時間以上継続された場合には、「HEVモード」から「EVモード」へのモード遷移制御が実行される。
上記したように、「HEVモード」での定速走行制御時では、車速フィードバック制御により演算された目標加速度がモータ回生可能加速度よりも小さい場合、すなわち実車速を速やかに目標速度とするための減速がモータ回生可能トルクだけでは得られないときは、「HEVモード」から「EVモード」へのモード遷移の判断に先立って、直ちに燃料の供給をカットしたエンジンEngとモータ/ジェネレータMGとを駆動結合し、エンジンEngのフリクションを利用して減速トルクを確保する。
このため、精度の良い定速走行制御を実行しつつ不必要な燃料の消費を防止することができる。
また、「HEVモード」での定速走行制御時では、ドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも大きい場合、すなわちドライバの操作に応じた減速がモータ回生可能トルクだけで得られるときは、「HEVモード」から「EVモード」へのモード遷移の可否を、第1段階として、モータ出力可能トルクからクランキングトルクと加速マージン分トルクとを減算したEV可能駆動トルクを基準として、目標車速での走行のために必要な目標車速駆動トルクに基づいて判断する。
このため、エンジンEngの始動と停止とが繰り返されることを防止しつつ「HEVモード」から「EVモード」へとモード遷移することができる。これは、EV可能駆動トルクは、バッテリー9の出力を考慮したモータ/ジェネレータMGが出力可能な最大トルクであるモータ出力可能トルクから、エンジンEngの始動のために必要となるクランキングトルクの他に、定速走行制御における加速マージン分トルクを減算して設定されたものであり、「EVモード」での定速走行制御の可否を判断するために設定されたものであることによる。すなわち、定速走行制御のために車速フィードバック制御により演算される定速制御駆動トルクは、過渡状態を経て目標車速に基づいて演算された目標車速駆動トルクに収束するが、EV可能駆動トルクでは、定速制御駆動トルクの過渡状態における目標車速駆動トルクに対する増加分を加速マージン分トルクで吸収することができることから、「EVモード」へとモード遷移しても再びエンジンEngから出力されるトルクが必要となる場面が生じることはないので、エンジンEngの始動と停止とが繰り返されることを防止することができる。よって、第1段階として、目標車速駆動トルクがEV可能駆動トルクよりも小さいか否かを判断することにより、「HEVモード」から「EVモード」へとモード遷移が可能であるか否かを適切に判断することができる。
さらに、目標車速駆動トルクがEV可能駆動トルクよりも大きいとの判断により、「EVモード」へのモード遷移を行わなかった場合、「HEVモード」から「EVモード」へのモード遷移の可否を、第2段階として、モータ出力可能トルクからクランキングトルクを減算した停止判定閾値(非定速走行制御時と同じものである)を基準として、継続時間と定速走行制御時の実際の駆動系への指令値となる定速制御駆動トルクとに基づいて判断する。すなわち、第1段階では、「EVモード」へモード遷移が可能ではないと判断した場合、第2段階として、定速制御駆動トルクが停止判定閾値よりも小さい状況が規定時間以上継続されたか否かを判断することにより、「HEVモード」から「EVモード」へのモード遷移制御を実行するか否かを判断する。
このため、エンジンEngの始動と停止とが繰り返されることを防止しつつ「HEVモード」から「EVモード」へと適切にモード遷移することができる。これは以下のことによる。停止判定閾値は、バッテリー9の出力を考慮したモータ/ジェネレータMGが出力可能な最大トルクであるモータ出力可能トルクを基準として、エンジンEngを停止する状況であるか否かすなわち「EVモード」へのモード遷移の可否を判断するために設定されたものである。ところが、上述したように、定速走行制御のために車速フィードバック制御により演算される定速制御駆動トルクは、目標車速に基づいて演算された目標車速駆動トルクに対して増減する過渡状態を経て、目標車速駆動トルクに収束するように設定される。このため、定速制御駆動トルクの過渡状態において、定速制御駆動トルクが停止判定閾値を下回っても直ぐにエンジンEngを始動する状況であるか否かの判断のための始動判定閾値を上回ってしまい、エンジンEngが始動と停止とが繰り返されてしまう虞がある。他方、定速制御駆動トルクが停止判定閾値を下回る状況では、燃費向上の観点からエンジンEngを停止することすなわち「EVモード」へとモード遷移することが望ましい。このことから、実施例1では、単に定速制御駆動トルクが停止判定閾値を下回ったか否かを判断するのではなく、定速制御駆動トルクが停止判定閾値を下回っている継続時間が規定時間を越えたか否かを判断し、停止判定閾値を下回っている継続時間が規定時間を越えた場合にエンジンEngを停止し「EVモード」へとモード遷移する。ここで、定速走行制御のための車速フィードバック制御により演算される定速制御駆動トルクは、上述したように、実車速と目標車速との偏差がマイナス側に大きい場合、初期の僅かな時間だけとても小さくなり、その後目標車速駆動トルクに近い値とされて次第に目標車速に基づく目標車速駆動トルクに収束する。このため、規定時間を車速フィードバック制御の特性に適合するように適切に設定することにより、停止判定閾値を下回った後すぐに始動判定閾値を上回るような過渡状態が収まってから停止判定閾値によるエンジン停止の判断を下すことができる。これにより、定速制御駆動トルクが初期の僅かな時間だけにとても小さく設定されて直ぐに始動判定閾値を上回る状況においてエンジンEngを停止させた場合に直ぐにエンジンEngを始動させたり、目標車速駆動トルクに収束する過渡状態においてエンジンEngを停止させた場合に直ぐにエンジンEngを始動させたりすることを防止しつつ、非定速走行制御時と同じ停止判定閾値を基準とする定速制御駆動トルクに基づくエンジンEng停止の判定を行うことができる。よって、第2段階として、定速制御駆動トルクが停止判定閾値を下回っている継続時間が規定時間を越えたか否かを判断することにより、「HEVモード」から「EVモード」へとモード遷移すべきか否かを適切に判断することができる。
よって、定速走行制御時にエンジンEngの始動と停止とが短時間で行われることを防止しつつ、車両駆動トルクに応じかつバッテリー9の出力を考慮したモータ/ジェネレータMGの状態に応じて、適切にエンジンEngを停止するすなわち「HEVモード」から「EVモード」へのモード遷移の可否を適切に判断することができる。このため、定速走行制御手段による定速走行制御時の場合、エンジンの始動と停止とが短時間で行われることがないので、ドライバーが違和感を覚えることを防止することができる。これは、ドライバーは、定速走行制御を要求して自らが加減速の操作を行っておらず、定速走行制御での目標車速を変更していない状況では、設定した目標車速を維持しつつ走行することを期待しており、エンジンの始動と停止とが短時間で行われることを想定してないことによる。
「モード遷移後の制御作用」
モード遷移後の制御作用とは、「HEVモード」から「EVモード」へとモード遷移された後の「EVモード」における走行制御作用をいう。本実施例1では、「EVモード」へとモード遷移すると、基本的には「HEVモード」のときと同様に各アクチュエータ(モータ/ジェネレータMG、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、自動変速機CVT)に対する指令値を演算し、各コントローラ15、16、18、19へと送信するとともに、必要に応じてエンジン停止制御を行う。
すなわち、「EVモード」へとモード遷移すると、図6のフローチャートにおいて、ステップS20→ステップS21へと進み、ステップS21にて定速走行制御の要求の有無を判断する。ここで、定速走行制御の要求がないと判断するとステップS22へと進み、ステップS22にてドライバ要求トルクを演算してステップS23へと進み、ステップS23にてドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも小さい場合にはステップS24へと進み、ステップS24にて第1クラッチCL1を締結し、ステップS28へと進んで「EVモード」での他の制御が行なわれてステップS1に戻る流れとなる。
また、ステップS23においてドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも大きい場合にはステップS28へと進み、「EVモード」での他の制御が行なわれてステップS1に戻る流れとなる。
さらに、ステップS21にて定速走行制御の要求がある場合にはステップS25へと進み、ステップS25にて目標車速および目標加速度を設定するとともに定速制御駆動トルクを演算してステップS26へと進み、ステップS26にて目標車速における目標車速駆動トルクを演算してステップS27へと進み、ステップS27にて目標加速度がモータ回生可能加速度よりも小さい場合にはステップS24へと進み、ステップS24にて第1クラッチCL1を締結し、ステップS28へと進んで「EVモード」での他の制御が行なわれてステップS1に戻る流れとなる。
ついで、ステップS27において目標加速度がモータ回生可能加速度よりも大きい場合にはステップS28へと進み、「EVモード」での他の制御が行なわれてステップS1に戻る流れとなる。
上記のように、「EVモード」での非定速走行制御時では、ドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも小さい場合、すなわちドライバの操作に応じた減速がモータ回生可能トルクだけでは得られないときは、直ちに停止されているエンジンEngとモータ/ジェネレータMGとを駆動結合し、エンジンEngのフリクションを利用して減速トルクを確保する。
このため、ドライバの操作に応じた減速制御を確実に確保することができる。
また、ドライバ要求駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも大きい場合、すなわちドライバの操作に応じた減速がモータ回生可能トルクだけで得られる場合には、「EVモード」での他の制御を行う。
このため、ドライバの操作に応じた減速制御をしつつ回生ブレーキ制御による車両運動エネルギーのバッテリー9への回収を行なうことができる。
さらに、「EVモード」での定速走行制御時では、定速制御駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも小さい場合、すなわち定速走行制御に応じた減速がモータ回生可能トルクだけでは得られないときは、直ちに停止されているエンジンEngとモータ/ジェネレータMGとを駆動結合し、エンジンEngのフリクションを利用して減速トルクを確保する。
このため、精度の良い定速走行制御を行うことができる。
ついで、「EVモード」での定速走行制御時では、定速制御駆動トルクがモータ回生可能トルクよりも大きい場合、すなわち定速走行制御に応じた減速がモータ回生可能トルクだけで得られるときは、「EVモード」での他の制御を行う。
このため、精度の良い定速走行制御を行いつつ回生ブレーキ制御による車両運動エネルギーのバッテリー9への回収を行なうことができる。
図7は、「HEVモード」における定速走行制御時の車両駆動トルク(定速走行制御時であることから定速制御駆動トルクである)が停止判定閾値を下回る状況における、目標車速と実車速との関係、停止判定閾値および始動判定閾値に対する車両駆動トルク、エンジンEngの状態(第1クラッチCL1の状態)の各特性を示すタイムチャートである。この図7では、「HEVモード」での時点T0において定速走行制御が為されており、時点T1において目標速度が切り換えられたものとする。
実施例1の定速走行制御では、実車速を設定された目標速度とした後にあっては、路面状況等に変化が生じたり目標車速が変更されたりしない限り、定速制御駆動トルクが一定のトルクとされる(T0〜T1参照)。この状況では、目標車速から演算される目標車速駆動トルクがEV可能駆動トルクを下回ったり(第1段階の判断)、定速制御駆動トルクが停止判定閾値を下回ったり(第2段階の判断)することはないので、「HEVモード」での定速走行制御が継続される。
ここで、目標速度が低速側に変更されると(T1参照)、実車速と目標速度との偏差がマイナス側に大きくなるので、定速走行制御のために車速フィードバック制御により演算される定速制御駆動トルクが、初期の僅かな時間(目標速度が変更された時点T1〜T4参照)だけとても小さくなる。この変更後の目標車速から演算される目標車速駆動トルクが、EV可能駆動トルクよりも大きな値であるものとすると、第1段階の判断ではエンジンEngは停止されず、「HEVモード」での定速走行制御が継続されて第2段階の判断に移行する。このタイムチャートの例では、定速制御駆動トルクが停止判定閾値を下回るが(T2〜T3参照)、この下回っている時間(T2〜T3)が規定時間を越えなかったので、第2段階の判断でもエンジンEngは停止されず、「HEVモード」での定速走行制御が継続される。
その後、定速走行制御のために車速フィードバック制御により演算される定速制御駆動トルクは、目標車速から演算される目標車速駆動トルクに近い値とされて次第に目標車速駆動トルクに収束するが(T4〜T5参照)、この過程においては定速制御駆動トルクが停止判定閾値を下回ることがないので、第2段階の判断によりエンジンEngは停止せず、「HEVモード」での定速走行制御が継続される。このとき、変更後の目標車速は、そのまま変更されていないことから、目標車速から演算される目標車速駆動トルクがEV可能駆動トルクを下回ることはなく、第1段階の判断でもエンジンEngが停止されることはない。
ここで、比較例として、始動判定閾値が停止判定閾値に対してヒステリシスを持たないように設定されているものとする(すなわち図7中の停止判定閾値がそのまま始動判定閾値とされている)と、定速制御駆動トルクが停止判定閾値を下回る(T2参照)ことによりエンジンEngが停止され、その後定速制御駆動トルクが始動判定閾値(すなわち停止判定閾値)を上回る(T3参照)ことによりエンジンEngが始動されてしまう。
これに対し、実施例1の車両の制御装置では、定速制御駆動トルクが停止判定閾値を下回っても、その継続時間が規定時間を越えない限り、エンジンEngを停止することはないすなわち「HEVモード」から「EVモード」へのモード遷移を行うことはない(第2段階での判断)ので、エンジンEngの停止と始動とが短時間で行われることを防止することができる。
次に、効果を説明する。
実施例1の車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1)駆動系に、エンジンEngと、モータ(モータ/ジェネレータMG)と、駆動輪(左右後輪LT、RT)とを有し、車速を目標車速とするように前記駆動系を制御する定速走行制御を行う定速走行制御手段(ステップS2、ステップS9、ステップS10、ステップS16、ステップS21、ステップS25、ステップS26およびステップS28)と、前記モータからの駆動力で走行する電気自動車走行モードと前記モータおよび前記エンジンからの駆動力で走行するハイブリッド車走行モードとのモード遷移制御を行うモード遷移制御手段(図2のフローチャート)と、を備え、該モード遷移制御手段は、走行制御のための車両駆動トルクに、前記エンジンの始動に必要なクランキングトルクを加えたトルクが、前記モータが出力可能なトルクを下回ると、前記ハイブリッド車走行モードから前記電気自動車走行モードへとモード遷移を実行すべく前記エンジンを停止するハイブリッド車両の制御装置において、前記モード遷移制御手段は、前記ハイブリッド車走行モードでの前記定速走行制御手段による定速走行制御時には、定速走行制御のための前記車両駆動トルクである定速制御駆動トルクに、前記エンジンの始動に必要なクランキングトルクを加えたトルクが、前記モータが出力可能なトルクを下回った場合でも、前記エンジンの停止を制限する。このため、定速走行制御時にエンジンの始動と停止とが短時間で行われることを防止しつつ車両駆動トルクに応じて適切にエンジンを停止することができる。
(2)前記モード遷移制御手段は、前記ハイブリッド車走行モードでの前記定速走行制御手段による定速走行制御時には、前記定速制御駆動トルクに前記クランキングトルクを加えたトルクが、前記モータが出力可能なトルクを下回った状態が、規定時間を超えて継続すると、前記エンジンを停止する。このため、定速制御駆動トルクが初期の僅かな時間だけにとても小さく設定されて直ぐに始動判定閾値を上回る状況においてエンジンEngを停止させた場合に直ぐにエンジンEngを始動させたり、目標車速駆動トルクに収束する過渡状態においてエンジンEngを停止させた場合に直ぐにエンジンEngを始動させたりすることを防止しつつ、非定速走行制御時と同じ停止判定閾値を基準とする定速制御駆動トルクに基づくエンジンEng停止の判定を行うことができる。
(3)前記モード遷移制御手段は、前記ハイブリッド車走行モードでの前記定速走行制御手段による定速走行制御時には、前記定速制御駆動トルクに前記クランキングトルクを加えたトルクが、前記モータが出力可能なトルクを下回らなくても、前記目標速度での走行制御のための前記車両駆動トルクである目標車速駆動トルクから、前記電気自動車走行モードでの前記定速走行制御手段による定速走行制御が可能であると判断すると、前記エンジンを停止する。このため、「EVモード」(電気自動車走行モード)へとモード遷移しても再びエンジンEngから出力されるトルクが必要となる場面が生じる(ハイブリッド車走行モードへのモード遷移が要求される)ことはないので、エンジンEngの始動と停止とが繰り返されることを防止することができる。
(4)前記モード遷移制御手段は、前記目標速度での走行制御のための前記車両駆動トルクである目標車速駆動トルクに、前記クランキングトルクと前記目標速度での定速走行制御において該目標速度とするための加速マージン分トルクとを加えたトルクが、前記モータが出力可能なトルクを下回ると、前記電気自動車走行モードでの前記定速走行制御手段による定速走行制御が可能であると判断する。このため、定速制御駆動トルクの過渡状態における目標車速駆動トルクに対する増加分を加速マージン分トルクで吸収することができることから、「EVモード」へとモード遷移しても再びエンジンEngから出力されるトルクが必要となる場面が生じることはないので、エンジンEngの始動と停止とが繰り返されることを防止することができる。
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1〜実施例3に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
なお、実施例1では、規定時間は、定速走行制御のために車速フィードバック制御により演算される定速制御駆動トルクが目標車速に基づく目標車速駆動トルクに収束するまでの特性に基づいて、運転性の低下を防止する観点と燃費を向上させる観点とにより設定された固定値であったが、所定の範囲内で変動させる値であってもよい。例えば、より早いタイミングでエンジンEngを停止するすなわち「HEVモード」から「EVモード」へとモード遷移する状況を増やしたい場合には、定速制御駆動トルクが停止判定閾値を下回っている継続時間の判断基準である規定時間を短く設定し、より遅いタイミングでエンジンEngを停止するすなわち「HEVモード」を継続する状況を増やしたい場合には、定速制御駆動トルクが停止判定閾値を下回っている継続時間の判断基準である規定時間を長く設定することが考えられる。ここで、所定の範囲内とは、定速走行制御のために車速フィードバック制御により演算される定速制御駆動トルクが目標車速に基づく目標車速駆動トルクに収束するまでの特性と、停止判定閾値および始動判定閾値とに基づいて、エンジンEngの始動と停止とが短時間で行われることを防止することができるものをいう。