以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一又は相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。
まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施の形態に係る硬貨類計数器1を説明する。図1は、硬貨類計数器1の斜視図である。図2は硬貨類計数器1を説明する図であり、図2(a)は平面図、図2(b)は図2(a)におけるB−B矢視断面図、図2(c)は、硬貨類計数器1のうち、一つの金種を計数する単位硬貨類計数器90を斜面51の前面側から見た透視図であって、硬貨類収納部10と電磁誘導コイル30との配置関係を示す図である。図2(d)は、図2(c)の側面図である。硬貨類計数器1は、横長の直方体を底面との角度が約45度となる斜面51が現れるように一部を削除したような形の筐体50を備えている。斜面51には、硬貨類としての硬貨CNを収納することができる凹部が形成され、この凹部が硬貨類収納部10を構成している。尚、以下、硬貨類収納部10としては凹部を有するものを例として説明するが、これに限定されるわけではなく、例えば、筒状のものであっても良い。また、斜面51には硬貨類収納部10に収納された硬貨CNの総額を表示する表示部20が設けられている。表示部20は、電子回路が形成された回路基板40(図2(b)参照)と電気的に接続されている。また、回路基板40は、硬貨類収納部10の近傍に配置された電磁誘導コイル30(図2(b)参照)と電気的に接続されている。図2(b)では、電磁誘導コイル30は回路基板40とは別に表されているが、電磁誘導コイル30も回路基板40に形成された電子回路と協働して作用する電子回路の一部である。回路基板40は筐体50内に収容されている。硬貨類計数器1の基本構成は上記の通りであり、以下、各部についてさらに詳しく説明する。
筐体50は、横長の四角柱の上面52と正面53とが交差する1辺を削除して、底面54に対して約45度となる斜面51が形成された外観形状になっている。斜面51の面積は、上面52の面積よりも大きくなっている。また、筐体50は合成樹脂で形成されている。合成樹脂で形成されることにより、射出成形による製造を可能にし、生産効率の向上を図っている。
硬貨類収納部10は、図1および図2において、符号Pで示す方向(上面52と正面53とを結ぶ方向)に長い凹部が斜面51に形成されて構成されている。硬貨類計数器1は、1円硬貨C1を収納する1円収納部11と、5円硬貨C5を収納する5円収納部12と、10円硬貨C10を収納する10円収納部13と、50円硬貨C50を収納する50円収納部14と、100円硬貨C100を収納する100円収納部15と、500円硬貨C500を収納する500円収納部16との6つの硬貨類収納部10を有している。硬貨類収納部10という呼称は各収納部11〜16を区別しない場合の呼称であり、主に各収納部11〜16に共通する事項を説明する際に用いる。また、硬貨CNという呼称は各種硬貨C1〜C500を区別しない場合の呼称である。
硬貨類収納部10を構成する凹部は、その深さが収納された硬貨CNの直径の8分の7から8分の6程度となるように形成され、底部の形状はその硬貨類収納部10に重ねて収納される硬貨CNの外径に合うような断面半円状のカーブで形成されている。また、硬貨類収納部10を構成する凹部の長さは、その硬貨類収納部10に重ねて収納される硬貨CNを50枚収納できるように形成されている。したがって、収納される硬貨CNの厚さによって硬貨類収納部10の長さが異なることとなり、500円収納部16が最も長く、1円収納部11の長さが最も短くなる。硬貨類収納部10は、喩えるなら半割パイプが斜面51に取り付けられたように、長さ方向全体にわたって開放されているので、収納された硬貨CNはそのめいめいをつまみ出すことができる状態になる。
図2(b)に示すように、硬貨類収納部10の奥側(斜面51と反対方向)の近傍に、電磁誘導コイル30が配置されている。図2(c)は、硬貨類収納部10と電磁誘導コイル30の配置関係を示す図で、斜面51の前面方向から電磁誘導コイル30および硬貨類収納部10の凹部を透視した図である。図2(c)のように電磁誘導コイル30は略長方形の形状と大きさを有し、斜面51の前面から見た場合、その長軸AXLが収納部の凹部の硬貨類が重なる方向(以下、「長手方向」と言うことがある)の軸AXCNに概ね一致するように配置されている。本図で電磁誘導コイル30の幾何学的な中心をOとする。尚、電磁誘導コイル30の短辺は必ずしも硬貨類収納部10を囲むだけの大きさでなくてもよく硬貨類CNと電磁的に結合できる程度の大きさであれば良い。
図2(d)は、図2(c)の側面図である。図のように、電磁誘導コイル30のコイルで囲まれる部分は硬貨類収納部10の凹部の外側にあり、互いに重ならないように配置される。コイルの位置は、電磁誘導コイル30で発生する磁界が硬貨類収納部10の凹部に届く程度の距離の範囲で決定する。更に、コイルの下部短辺30Bと軸AXCNとの距離LBは上部短辺30Aと軸AXCNとの距離LAより大きくなるように設定されている。即ち、電磁誘導コイル30の中心点Oを通り電磁誘導コイル30の開口面を含む面PLに直交する中心軸AXCOLは硬貨類収納部10の凹部の方向軸AXCNに対して方向軸AXCNを含む平面内でθだけ傾斜している。尚、θの値については後述する。尚、図2では、電磁誘導コイル30と硬貨類収納部10が全く重ならない場合であるが、電磁誘導コイルの一部が重なるようにした態様もある。
このように構成すると、硬貨類が下部の短辺30Bにある場合は電磁誘導コイル30との磁気的な相互作用が弱く、硬貨類が上部の短辺30Aにある場合は電磁誘導コイル30との磁気的な相互作用が強くなり、後述するように、硬貨類の数量と検出電圧との関係を直線に近づけることができる。
電磁誘導コイルは典型的には長方形であり、長辺の長さは短辺の長さより少なくとも4倍以上長くする。このようにすると長軸方向に対する磁界密度の変化が少なく高い検出精度が得られる。短辺近傍10A、10B(減衰スペース)は磁界密度が均一でないので硬貨CNが収納される部分として使用しない。尚、長辺の長さは計数する硬貨類の最大数量を重ねた時の合計の厚みを元に決める。短辺は、計数する硬貨CNの直径を元に決めるとよい。
図3は電磁誘導コイル30の他の形態を示したものである。電磁誘導コイル30は図のように長円であっても良い。この場合でも、硬貨類が収納される部分に対する部分は均一な磁界密度となるように2つの長辺は互いに平行である。
図2(d)のように、電磁誘導コイル30は、硬貨類収納部10の長手方向に沿う部分は凹部の裏側(凹部の開口側とは反対側)に置かれている。硬貨CNが重なる方向の両端はそれぞれ所定の距離だけ離して配置されており、この硬貨類収納部10の両方の端部は減衰スペース10A、10Bとなっている。減衰スペースの役割については後述する。斜面51には、電磁誘導コイル30を構成する巻き線を掛けるための突起56A、56Bが裏側に突き出るようにそれぞれ設けられている。電磁誘導コイル30を形成する巻き線の固定には、熱融着を用いるとよい。熱融着とすると、巻き線の位置がずれることがなく、また簡単な製造工程で巻き線を確実に固定することができるので、安定して電気信号を検出することができる電磁誘導コイル30となる。なお、突起56A、56Bに導線を巻くように掛けて電磁誘導コイル30を形成するほか、あらかじめ導線が巻かれた部材としての電磁誘導コイル30を硬貨類収納部10の裏側に取り付けるようにして電磁誘導コイル30の取り付けを容易にしてもよい。このような形態については後述する。
更に、コイルをプラスチック基板上に形成する形態もある。このようにすればコイルの製造が簡単になる。また、プラスチック基板を可撓性のあるものを用いた場合は実装上融通性が向上する等の利点がある。
図5に電磁誘導コイル30に接続される発振回路部41の主要部を示す。電磁誘導コイル30(インダクタンス:L)にはコンデンサC1及びC2が接続され共振回路を形成する。コンデンサC1の一端は演算増幅器AMP1の+入力端に、他端は帰還抵抗Rfを通じて出力端に接続され、コルピッツ型発振回路を形成する。従って、本回路はL,C1,C2の容量で決まる周波数で発振する発振回路である。図2(b)のように、発振が起こると電磁誘導コイル30には交流電流が流れ、その回りには交流磁界が生じる。この磁界は硬貨類CNと相互作用を生じ、硬貨類CN中に渦電流を誘導し渦電流損失を生じさせる。この損失により電磁誘導コイルの両端にはReddで示すような仮想的な抵抗が現れる。この抵抗Reddは硬貨類収納部10に収納された硬貨類CNの枚数に対応して変化するので、これにより電磁誘導コイル30の両端の電圧Vcolは変化する。この電圧VcolをバッファアンプAMP2を通じて演算回路部43に出力する。
図5では、発振回路としてコルピッツ型を用いたものを示したが、これに限定するものではなく、ハートレー型、クラップ型等、所謂LC発振回路であればどれでも良い。また、演算増幅器AMP1についても限定する必要はなく増幅機能があれば各種回路が適用できる。また、バッファアンプAMP2は省略してもよい。
周知の通り、渦電流損失Reddは、磁束密度の2乗に比例する。従って、硬貨類CNの数量と電圧Vcolの関係を対応させるには磁束密度Bは硬貨類収納部10内で出来るだけ均一であることが望ましい。一般に本実施の形態で用いられるような長尺の方形型コイルではコイルの短辺付近の磁界密度はその他の中間部分に比べて大きくなる。従って、本実施の形態ではこのような部分を避けるために減衰スペース10A及び10B(図2(b)参照)を設けている。
電磁誘導コイル30は、各収納部11〜16のそれぞれに個別に設けられている。すなわち、1円収納部11の周りには1円コイル31が、5円収納部12の周りには5円コイル32が、10円収納部13の周りには10円コイル33が、50円収納部14の周りには50円コイル34が、100円収納部15の周りには100円コイル35が、500円収納部16の周りには500円コイル36が、それぞれ配置されている。各コイル31〜36を特に区別しないとき(各コイル31〜36に共通な事項を説明するとき)は単に「コイル30」ということとする。コイル30は、各収納部11〜16における硬貨CNの数の増減に伴うコイル両端電圧の変化を検出しやすいように、硬貨CNの種類(材質、直径、厚さ)に応じた巻き数で構成されている。例えば、1円硬貨C1や10円硬貨C10は、500円硬貨C500よりも透磁率が小さいため、硬貨類収納部10に収納される硬貨CNの種類によって適切な電磁誘導コイル30の巻き数は異なる。したがって、各コイル31〜36の巻き数は必ずしもすべて同じではなく、各コイル31〜36によって異なることもある。
電磁誘導コイル30については、図2(b)で突起56A、56Bにコイルを固定する実施の形態を示したが、図4のようなコイルの形態もある。即ち、互いに平行する2つの溝を有するフェライト部材39をコアとし、その2つの溝に表面が絶縁された電線を巻き込んだものである。この電磁誘導コイル30が巻かれたフェライト部材39を硬貨類収納部10の近傍に取り付けるようにしても良い。
各収納部11〜16は、収納する硬貨CNの額の少ない順に、左から右に向かって配列されている。隣接する硬貨類収納部10同士の間は、硬貨類収納部10を囲むように配置された電磁誘導コイル30が接触しない程度のスペースが確保されている。また、1つの硬貨類収納部10に配置された電磁誘導コイル30が、隣接する硬貨類収納部10の電磁誘導コイル30の影響を受けないようにするために、隣接する電磁誘導コイル30の間に電磁シールドを挿入することができるスペースも確保することが好ましい。電磁シールドは電磁誘導コイル30間の相互誘導の発生を防ぐことができる。
演算回路部43は、発振回路部41で検出された各コイル31〜36の電圧から各収納部11〜16に収納されている硬貨CNの数を検出し、収納部11〜16全体に収納されている硬貨CNの枚数(合計金額)を演算する回路である。演算回路部43における演算結果は、電気信号として表示部20に出力される。
表示部20は、硬貨類収納部10に収納された硬貨CNの枚数及び合計金額がアラビア数字で表示されるように構成されている。アラビア数字で表示されるので、集計した硬貨CNの合計金額を一目で把握することができ、集計作業の効率を向上させることができる。
制御回路部42は、各コイル31〜36に対して電流を流すコイルを切り替える機能を有する電子回路である。制御回路部42により、隣接する電磁誘導コイル30に対して或る時間差で発振回路部41の電源電圧をオン/オフする。このようにすると、隣接する30間で相互誘導作用を受けることがなく、硬貨類収納部10に収納された硬貨CNの増減に応じた電圧変化を正しく検出することができる。なお、各コイル31〜36に対してコイル以外の電子回路を共通とし、各コイルを時間的に切り換えるようにしてもよい。各コイル31〜36への電流の流し方は、1円コイル31、5円コイル32、10円コイル33、50円コイル34、100円コイル35、500円コイル36の順に流すのが一般的であるが、検出時間の短縮のために、硬貨類収納部10を一つ飛び、即ち、1円コイル31、10円コイル33、100円コイル35に同時に流して次に5円コイル32、50円コイル34、500円コイル36に同時に流すようにしてもよく、あるいは、より相互誘導の影響を抑制するために1円コイル31、10円コイル33、100円コイル35、5円コイル32、50円コイル34、500円コイル36の順番に流すようにしてもよい。
また、制御回路部42は、硬貨類収納部10に収納された硬貨CNの数と、この硬貨CNの数に応じた電磁誘導コイル30にかかる電圧との対応関係を調整する(基準となる電圧を調整する)。制御回路部42は、典型的には、リセットボタン(不図示)からの信号を受信したときに電磁誘導コイル30にかかる電圧を、硬貨類収納部10に硬貨CNが収納されていないときの電圧であると記憶するように構成されている。なお、基準となる電圧は、硬貨類収納部10に硬貨CNが収納されていない状態の電圧に限らず、例えば所定枚数の硬貨CNが硬貨類収納部10に収納された状態の電圧であってもよい。あるいは、複数の収納状態の電圧を基準の電圧とするように調整してもよい(例えば、無収納状態の電圧を第1の基準電圧、所定枚数の硬貨CNが収納された状態の電圧を第2の基準電圧として調整する)。ここで、所定枚数は、例えば少量(5枚程度)又は満杯(50枚)とするとよい。また、例えば硬貨類計数器1の出荷前にあらかじめ基準電圧を調整しておくこととして、リセットボタン(不図示)を省略してもよい。しかしながら、リセットボタン(不図示)を設けておくと、使用の結果により経時変化が生じた場合に容易に基準電圧を校正することができるので好ましい。
また、制御回路部42は、温度検知器(不図示)から温度信号を受信して、あらかじめ記憶されている温度変化に応じた電圧の変化率に基づいて、検出結果を補正するように構成してもよい。温度検知器(不図示)からの信号と上述の基準となる電圧とを利用することで、硬貨類計数器1の周囲の温度変化や設置条件の変化への対応をより正確に行うことが可能となる。これは、例えば、検出した電圧を発振回路部41の内部回路であるバッファアンプAMP2の増幅率を制御することにより補正することにより可能である。なお、温度検知器(不図示)を設けずに、例えば硬貨類計数器1の出荷前にあらかじめ温度変化による検出精度の影響を測定しておき、温度変化による影響が小さくなるように検出結果(検出された電気信号)の加工を行うように構成してもよい。
次に、硬貨類計数器1の動作を説明する。硬貨類計数器1を電源に接続してスイッチ(不図示)を投入する。すると、各収納部11〜16に硬貨CNを収納していない状態では、各表示部21〜28にはアラビア数字の「0」が表示される。このとき、硬貨類計数器1がリセットボタン(不図示)を有している場合は、各収納部11〜16に硬貨CNを収納していない状態でリセットボタン(不図示)を押して0点補正をしてもよい。スイッチが投入され、電力が回路基板40に供給されると、発振回路部41及び制御回路部42が協働することにより、各コイル31〜36に交流電流が流れる。各コイル31〜36には、制御回路部42におけるスイッチング機能により、電流が時間間隔を置いて流れる。
次に、計数する硬貨CNを種類に応じた所定の収納部11〜16に重ねて収納する。すると、電磁誘導コイル30には、交流電流が流れているため、硬貨類収納部10に収納された硬貨CNの枚数に応じた渦電流損が生じる。硬貨類収納部10に収納された硬貨CNの枚数が多くなるほど、電磁誘導コイル30の両端に現れる仮想的な抵抗Reddの値は小さくなる。この抵抗により発振強度が低下し電磁誘導コイル30の両端における電圧は低下する。すなわち、電磁誘導コイル30にかかる電圧は、硬貨類収納部10に収納された硬貨CNの枚数が増加するにしたがって低下するように変化する。発振回路部41は電磁誘導コイル30にかかる電圧の変化を検出し、演算回路部43はその電圧の変化から収納部11〜16全体に収納された硬貨CNの合計金額を算出し、算出された合計金額及び各収納部11〜16に収納された硬貨CNの枚数は電気信号として表示部20に出力され、結果が表示部20にアラビア数字で即座に表示される。
電磁誘導コイル30を硬貨類収納部10を囲むようにすると電磁誘導コイル30と硬貨類CNとの結合が密となり、硬貨類CNの数量の変化に対してコイル両端電圧Veddの変化は大きなものが得られる。しかし、横軸に硬貨数、縦軸にVeddをとってプロットすると下に凸の曲線になる。例えば、その例を図10に示す。図10は特開2008−234186の図3(a)をそのまま転載したものである。下に凸となる理由は、硬貨類CNの最初の数枚のうちは電磁誘導コイル30全体に与える影響が大きいためVeddの変化量は大きく、硬貨類CNの枚数が増えるに従って電磁誘導コイル30全体に与える割合が減るためと思われる。このような枚数と検出電圧が曲線関係の場合、電磁誘導コイル30の両端電圧Veddから硬貨類CNの数量を求めるには当該曲線に対応した校正曲線を用いて改めて校正する必要があり装置が複雑となる。本願の発明者は鋭意実験的に検討したところ、電磁誘導コイル30を硬貨類収納部10において、硬貨類収納部10から硬貨類の積み重ね軸から離して配置し、電磁誘導コイル30が硬貨類収納部10の収納された硬貨類を直接囲まないようにすると硬貨類数量とコイル両端電圧Veddの関係が下に凸であるという特徴は残すものの直線関係に近づくことを見い出した。
更に、図2(d)に示すように、電磁誘導コイル30の長軸を硬貨類収納部10の硬貨類の積み重ね方向軸に対して硬貨類収納部10の軸AXCNを含む平面内で傾斜させ、硬貨類の少ない方の電磁誘導コイル30の短辺30Bと硬貨類収納部10の軸AXCNまでの距離LBを硬貨類の多い方のコイルの短辺30Aと硬貨類収納部10の軸AXCNまでの距離LAよりも大きくすると、上記硬貨類の数量とコイル両端電圧Veddの関係がより直線関係に近づくことを発見した。これは、電磁誘導コイル30を傾斜させると検出電圧Veddの変化量の大きいコイル下部が上部に比べて硬貨類収納部10から離れるので電磁的な結合が疎になりVeddの硬貨数に対する変化量が減少するためと思われる。
図6は、金種を500円硬貨、コイルの巻き数を110t、発振周波数100kHzとした場合の関係を示したものである。縦軸は硬貨類の枚数(0〜50枚)、横軸は電磁誘導コイル30の両端電圧Veddに対応したものであるが、換算値nであり、以下の式でVedd(mV)と関連付けられている。(n:2796〜3415)
Vedd=1200+0.635×n (1)
θは図2(d)に示す電磁誘導コイル30の中心軸AXCOLと硬貨類収納部10の軸AXCNと直交する軸AXCNPの間の傾斜角である。図に示すように、θの増加に従って下に凸(例えばθ=0°の場合)であったものが上に凸(例えばθ=2°)に反転する。途中、θが1°の時に殆ど直線となる。
図7は、図6の各曲線を二次曲線で近似し、その場合の2次項の係数aの値をθに対してプロットしたものである。図のように、θ=1°で係数の値が略ゼロとなり、この場合、硬貨類数量とコイル両端電圧Veddの関係が略直線となっている。硬貨類数量とコイル両端電圧Veddの関係が直線となると校正のための演算が不要となり処理が簡単となる。
ここで、図6の関係は実験的に求めたものの一例であって、電磁誘導コイル30と硬貨類収納部10からの距離、周波数、硬貨の種類等の諸条件により異なる。全ての場合にθ=1°が最適であることを示していない。最適なθの値は最終的には実験的に決定されるものであるが、θの増加にしたがって当該曲線が下に凸から直線を経て上に凸に変化し、従って、その途中に直線的な関係が得られる。
以上の説明では、電磁誘導コイル30を自励発振器の共振要素として動作させる形態を記載したが、これに限定されるわけではなく、所定の交流を外部から印加してその時のコイル両端の電圧を検出しても同様の結果と効果が得られる。尚、コイル両端の電圧はコイルに流れる電流からも導き出すことが出来るので電流を測定することによっても行える。この意味で電流の検出も電圧の検出と均等である。
以上の説明では、硬貨類収納部10の凹部の深さは収納された硬貨CNの8分の7から8分の6であるとしたが、これに限らず硬貨CNを硬貨類収納部10に静止させることができる(すなわち、落下せずに硬貨類収納部10に止まらせておくことができる)深さであれば硬貨CNの8分の6以下でもよい。しかしながら、硬貨類収納部10に収納される硬貨CNの増減に伴う磁界の変化を電圧の変化として検出することができる位置に電磁誘導コイル30を設置する観点から、凹部の深さは硬貨CNの直径の4分の3以上(8分の6以上)とするのが好ましい。逆に凹部の深さが硬貨CNの8分の7に以上の場合(極端には硬貨CNの全部が凹部に位置する場合)であっても、硬貨類収納部10の長手方向にわたって硬貨CNの直径分の幅が開放されていれば、硬貨CNのそれぞれをつまみ出すことができるので、このような場合でもよい。また、凹部の形状は、底部が硬貨CNの外径に合うように形成されているとしたが、これに限らず、凹部の断面が例えばコの字状に形成される等、硬貨CNを複数の点で支えて硬貨類収納部10に静止させることができる形状であればよい。
以上の説明では、硬貨類収納部10の凹部の長手方向が斜面51に沿って形成されているとしたが、硬貨類が凹部の一方の端部から収納されていくような構造となっていれば硬貨類収納部10の凹部の長手方向が斜面51の上下方向に対して直角の方向、すなわち水平方向であってもよい。この場合も上述のように、硬貨類収納部10の凹部は、硬貨CNを硬貨類収納部10に静止させることができるような深さ・形状に形成されていればよい。
以上の説明では、硬貨類収納部10に収納可能な硬貨CNの枚数が50枚であるとしたが、用途に応じて適宜変更してもよい。ただし、機械で計数するメリットを享受することができ、硬貨CN1枚の増減を電圧変化として検出することができるようにする観点から、硬貨類収納部10に収納可能な硬貨CNの枚数は、下限を10枚程度、上限を100枚程度とするとよい。
以上の説明では、各収納部11〜16が1列ずつ設けられていることとしたが、使用頻度の高い金種の硬貨CNを収納する硬貨類収納部10を複数列設ける等、使用状況に適するように適宜増加してもよい。逆に、取り扱う金種が限定されている場合(1種類を含む)の利用に便利なように、その特定の金種の硬貨CNを収納する硬貨類収納部10を設けて取り扱わない金種の硬貨CNを収納する硬貨類収納部10を省いてもよい。
以上の説明では、硬貨類計数器1は日本国で製造された硬貨CNを計数するものとしたが、外国で製造された硬貨を計数するものとしてもよい。
以上の説明では、硬貨類計数器1が表示部20を一体的に備えているとしたが、表示部20は外部の表示装置(例えばパソコンのディスプレイ)であってもよく、硬貨類収納部10に収納された硬貨CNの合計金額や枚数を表示させるようにしてもよい。また、硬貨類計数器1をパソコン等のコンピュータに接続して計数結果をコンピュータに取り込むようにしてもよい。計数結果をコンピュータに取り込むようにすると、表示結果を読み取ってメモを取るような煩わしさから解放されると共に、ログに基づいてグラフ化する等のデータ加工を行いやすくなる。また、硬貨類計数器1は、表示部としてのプリンタのような印刷装置を接続してもよい。この場合、硬貨CNの合計金額、枚数、収支(収支ログ)を紙出力することができる。
以上の説明では、表示部20に示される金種ごとの検出結果が硬貨CNの枚数であるとしたが、これに加えて金種ごとの合計金額を表示するようにしてもよい。このように構成すると金種ごとの計数結果を一目で把握することができる。しかしながら金種ごとの硬貨CNの枚数が分かれば簡単な計算で金種ごとの合計金額を求めることができるので、金種ごとの検出結果を硬貨CNの枚数のみとして表示部20の面積を小さくし、硬貨類計数器1の小型化を図るとよい。
次に、他の実施の形態として上記硬貨類計数器を用いた硬貨処理装置について説明する。硬貨処理装置は、例えば自動販売機に内蔵され、投入された硬貨の種類を識別して種類ごとに貯留し、その数量をカウントし、必要な場合は釣銭として貯留した硬貨を放出する。
最初に、硬貨処理装置の全体構成について図面を用いて説明する。
図8は、本発明の実施の形態に係る硬貨処理装置101の概略構成を説明するブロック図である。なお、図中太線は硬貨の流れを示す。硬貨処理装置101は、自動販売機に内蔵される際には、例えば利用者が、自動販売機の正面に形成された接客面から、自動販売機の投入部103に硬貨を投入できる位置に内蔵される。また、自動販売機の接客面には、利用者の操作により投入した硬貨を返却できる返却レバー191が配置されている。なお、硬貨処理装置101は、例えば鉄道の駅に設置され、乗車券等の販売を行う自動販売機(自動券売機)に内蔵されるものである。
硬貨処理装置101は、投入部103から投入された硬貨を1枚づつ繰り出す繰出し部105と、硬貨を搬送する搬送部としての入金搬送部110と、硬貨以外のものや偽硬貨等を放出するリジェクト機能131と、入金搬送部110により搬送される硬貨を種類毎に振り分ける振分部130と、振分部130により振り分けられた硬貨を1回の取引を単位として種類毎に保留する保留部としての一時保留部160とを含んで構成される。一時保留部160は、取引ごとに保留した硬貨の数量を計数し、一時保留部160の下部に設けた循環釣銭部170に放出する。硬貨の種類と計数値は例えば制御装置150等に設けたメモリ(不図示)に保存される。
一時保留部160は、硬貨の種類毎に設けられ、硬貨を保留する複数の収納保留部161と、収納保留部161を駆動するための保留部駆動手段165とを有する。収納保留部161は、保留部駆動手段165に駆動されることで、保留した硬貨を放出するように構成される。一時保留部160は、上記各々の収納保留部161が一体に形成されたものを含んで構成される。言い換えれば複数の収納保留部161が一体に形成されたものを含んで構成される。
一時保留部160の下部には、不図示のシュートが接続されている。このシュートは、途中で分岐しており、例えば不図示のフラッパにより硬貨の経路を切り替えられる。このシュートの1つは、各収納保留部161毎に循環釣銭部170まで接続されており、収納保留部161より放出した硬貨を種類毎に循環釣銭部170へ供給できる。このシュートの他の1つは、出金搬送部108の上部近傍まで延設されており、収納保留部161より放出された硬貨を出金搬送部108へ落下させることができる。シュートの切り替えは、制御装置150により制御されている。またシュートの切り替えは、保留した硬貨を循環釣銭部170へ収納する場合には、循環釣銭部170側に切り替えられ、利用者により返却操作が行われた即ち返却レバー191が操作された場合には、シュートが出金搬送部108側に切り替えられる。出金搬送部108は、放出された硬貨を放出部109まで搬送する。
循環釣銭部170は、一時保留部160の下部に設けられている。循環釣銭部170は、各硬貨の種類毎に収納放出部171a〜171dが配置されている。
次に、以上を前提に、本実施の形態について説明する。本実施の形態は、上述した一時保留部160に前述した単位硬貨類計数器90(図2(c)参照を適用したことを特徴とする。
図9は、一時保留部160に単位硬貨類計数器90を適用した時の実施の形態である。160a〜160dが夫々単位硬貨類計数器90a〜90dに対応するが、硬貨の収納部163は中空円筒状である点が相違する。一時保留部160の底部に開閉蓋162が設けられている。開閉蓋162は制御装置150の指令により保留部駆動手段165が駆動され開閉が行われる。開閉蓋162は硬貨の保留時には162bのように閉じられているが、例えば取引が終了した時に162aのように開き、硬貨CNが放出されるように構成されている。尚、開閉蓋162a〜162dは取引終了時に全部が一斉に開くようにしてもよいし、開く開閉蓋を選択しても良い。また、各一時保留部160a〜160dは一体構造としてもよい。
各一時保留部160a〜160dには電磁誘導コイル30が配置されている。また、各電磁誘導コイル30の間には必要に応じて不図示の磁気シールド材が配置されている。電磁誘導コイル30の両端電圧を検出することにより一時保留部160に貯留した硬貨の数量を検出する。すでに説明したように本発明に係る単位硬貨類計数器90は簡単な構造で硬貨類の数量を計数することが出来るので、これを用いて硬貨処理装置の構成を簡略化することが出来る。さらに、各一時保留部160a〜160dの各々に配置された単位硬貨類計数器90による計数結果は、入金搬送部110に設けられた識別部120での識別結果と照合するようにするとよい。このようにすると、例えば、識別部120より後で硬貨が詰まり、一時保留部160に収納されなかった場合でも、照合により計数ズレが生じるため、装置を高精度化することが出来る。
以上の説明では、硬貨の計数を電磁誘導コイルを用いたもののみで行う構成を示したが、これに加えて振分部130と一時保留部160との間に設けた光学センサ等を用い、落下する硬貨の数を検出する方法と併用してもよい。このようにすると計数精度を更に高めることが出来る。
以上の説明では、硬貨を金種毎に収納し、必要に応じて放出する硬貨処理装置について説明したが、これに限定されるものではなく、硬貨の数量を金種ごとに計数する工程を有する全ての硬貨処理装置に適用できるものである。