JP5316983B2 - 微生物の単離培養方法及び培養キット - Google Patents
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Description
本発明は、微生物の単離培養方法及び培養キットに係り、更に詳しくは、より多くの種類の微生物細胞を単離培養することのできる微生物の単離培養方法及び培養キットに関する。
自然環境中には、多種多様な微生物(細菌、古細菌など)が存在しているが、99%の微生物は分離培養が困難であると言われている。これら微生物は、複合微生物系を形成しており、この複合微生物系からより多くの微生物を単離し、単離後の微生物細胞を培養することで、有用な微生物の発掘や未利用遺伝子資源としての活用等が可能となる。
ところで、微生物細胞を単離培養する方法としては、古くから知られた平板培養法を用いた方法がある。この方法では、微生物細胞が含まれたサンプルを希釈し、当該微生物細胞の所定単位当たりの細胞数を少なくした上で、当該希釈後のサンプルを容器内の寒天培地に載せて微生物細胞を培養、増殖させる。
その他の方法としては、ゲルマイクロドロップ法と称する手法を用いて微生物細胞の単離培養を行う方法が提案されている(特許文献1参照)。ゲルマイクロドロップ法とは、アガロースを用いて試料液中の微生物細胞をゲル粒子中に包括する手法であり、特許文献1の単離培養方法では、1個のゲル粒子につき1個の微生物細胞が含まれるようにする。そして、当該ゲル粒子が多数生成された後、各ゲル粒子に含まれる微生物細胞を通常の栄養培地による液体培養法により各ゲル粒子内で培養し、当該培養で微生物細胞が増殖しなかったゲル粒子を分別採取し、通常では微生物細胞が増殖しなかったゲル粒子を溶解して、その中の微生物細胞を平板培養法で培養する。
また、他の単離培養方法としては、特許文献2に開示されているように、微生物細胞を通過させず水溶物のみを通過させる膜を有する密閉性容器を使った方法が知られている。この方法では、分離対象となる微生物細胞を含む菌源を接種した寒天培地を前記密閉性容器内に封入した上で、当該密閉性容器を菌源に応じた外部環境内に配置し、当該環境にさらしながら微生物細胞を培養する。この際、当該外部環境から低濃度の有機物が前記膜を通して寒天培地に供給され、寒天培地中の各種微生物細胞を生育させて当該各種微生物細胞のコロニーを形成する。そして、その中から、分離対象となる微生物細胞のコロニーが抽出される。
特開2007−111023号公報
特開平1−265882号公報
しかしながら、前述した従来の各培養方法では、単離培養可能となる有用微生物の種類を増加させることができないという問題がある。
すなわち、前記平板培養法では、基質の濃度や代謝産物の存在等に影響を受けない微生物細胞を単離培養できるが、このような微生物は少ない。つまり、当該手法では、過剰になった基質や微生物の生成物質を排出できない閉鎖的な環境で培養が行われるため、基質が経時的に高濃度になったり、培養対象の微生物が出す代謝産物やシグナル因子が蓄積した場合、それらにより阻害を受ける微生物は増殖できない。
加えて、前記平板培養法では、実際の環境下と異なり、培養対象の微生物細胞を単独で培養することになるため、周囲の共生微生物との相互作用を受けて増殖する微生物の培養には不向きである。ここで、培養対象の微生物細胞に共生微生物を加えて培養することも考えられるが、単離培養操作において、微生物の生理生態は未知のものが多く、また、共生微生物の有無や種類も未知である以上、前記相互作用に適した共生微生物が偶然的に混入する以外は培養不可能である。
更に、前記平板培養法では、培養中に培養環境のpHや残存酸素濃度を調整することができず、これらpHや残存酸素濃度に敏感な微生物は増殖できない。
特許文献1に開示された方法についても、最終的に単離された微生物細胞を平板培養法にて培養するため前述と同様の問題がある。また、特許文献1の方法では、ゲル粒子を液体培養法で培養する際に、各ゲル粒子中で増殖した微生物細胞がゲル粒子の外に飛び出す場合があり、この場合、増殖した微生物細胞が液体培地を移動して他のゲル粒子内に入り込んでしまう虞がある。従って、液体培地で増殖しなかった微生物細胞を含むゲル粒子があったとしても、増殖した他の微生物細胞が混ざってしまい、微生物細胞が1個のままのゲル粒子の採取効率が悪くなり、単離培養効率が低下するという不都合がある。また、液体培養時に、重力によってゲル粒子が経時的に液体培地中に沈降して集積し、各ゲル粒子が密着した状態になってしまうことから、増殖した微生物細胞が他のゲル粒子内に更に侵入し易くなり、前記不都合が一層顕著となる。
特許文献2に開示された方法にあっては、各微生物細胞が単離された上で培養される訳でなく、寒天培地内に多種類の微生物細胞が同時に重畳して培養されることから、構成する微生物細胞の異なるコロニーが寒天培地内に複数種生成される。従って、このような寒天培地中から単一のコロニーを獲得することは、操作上困難になる。すなわち、寒天培地の内部のコロニーを目視確認するのは非常に難しいばかりか、複数種類の微生物細胞が存在する寒天培地から、他の微生物細胞に混在しないように、単一のコロニーだけ分離して獲得することが困難であり、その結果、多くの種類の微生物細胞を簡単に単離培養することができず、ハイスループットに微生物細胞を獲得できないという問題がある。
本発明は、以上の課題に着目して案出されたものであり、その目的は、より多くの種類の微生物細胞の単離培養を可能にする微生物の単離培養方法及び培養キットを提供することにある。
(1)前記目的を達成するため、本発明は、微生物細胞の通過を阻止する一方、種々の化学物質の通過を許容する膜体により形成され、当該膜体の内側が微生物細胞の培養空間となる培養膜を用いた微生物の単離培養方法において、
ゾル状態からゲル状態に転移可能な第1のゲル化剤を用い、複数の微生物細胞が存在する微生物懸濁液から、前記微生物細胞が1個包埋されたゲル粒子を多数生成し、
前記第1のゲル化剤と異なる条件でゾル状態とゲル状態の間で可逆的に転移可能な第2のゲル化剤と前記ゲル粒子とを前記培養膜の培養空間に注入した後、前記第2のゲル化剤をゲル化させた上で、前記培養膜を所望の環境中に置き、前記ゲル粒子内の微生物細胞を培養する、という手法を採っている。
ゾル状態からゲル状態に転移可能な第1のゲル化剤を用い、複数の微生物細胞が存在する微生物懸濁液から、前記微生物細胞が1個包埋されたゲル粒子を多数生成し、
前記第1のゲル化剤と異なる条件でゾル状態とゲル状態の間で可逆的に転移可能な第2のゲル化剤と前記ゲル粒子とを前記培養膜の培養空間に注入した後、前記第2のゲル化剤をゲル化させた上で、前記培養膜を所望の環境中に置き、前記ゲル粒子内の微生物細胞を培養する、という手法を採っている。
(2)また、本発明に係る微生物の培養キットは、前記第1のゲル化剤と、前記第2のゲル化剤と、前記培養膜とを含む、という構成を採っている。
後述する本発明者らの実証実験によれば、本発明の手法では、従来よりも多くの種類の微生物細胞の単離培養が可能となった。これは、以下の理由によるものと考えられる。
微生物懸濁液に多数含まれる微生物細胞を1個単位でゲル粒子に包埋した状態で、生じた多数のゲル粒子をまとめて培養膜の中に入れ、海水や廃水処理装置内の廃水等、実際の生育環境に存在する微生物群が雑多に含まれた環境(培養液等)の中に、前記培養膜を置くことができる。ここで、培養膜は微生物を通さずに化学物質を通す膜体で構成されていることから、培養膜外の環境中に存在する他の微生物が、培養膜内に侵入することを阻止でき、当該他の微生物が、培養膜内の各ゲル粒子中の単離微生物細胞に複合することを阻止できる。その一方で、基質、代謝産物、シグナル因子等の化学物質は、培養膜の内外間を自由に流通することができ、培養膜外の環境中から、培養膜内の各ゲル粒子内の微生物細胞への栄養分やシグナル因子等の補給ができるとともに、培養膜内で過剰になった基質や培養対象となる微生物が出す代謝産物等を培養膜外に排出可能になる。ここで、培養膜内では、培養時に、各ゲル粒子が第2のゲル化剤のゲル化で相対移動不能に固定され、培養膜内に取り込まれた基質やシグナル因子等の化学物質が、第2のゲル化剤によるゲル及び第1のゲル化剤による各ゲル粒子に浸透しながら、当該ゲル粒子に包埋された微生物細胞に供給される。一方、微生物細胞からの代謝産物等は、前記ゲル粒子及び第2のゲル化剤によるゲルに浸透しながら培養膜の外側に排出される。ここで、培養時にゲル粒子内の微生物細胞が増殖してゲル粒子の外側にはみ出たとしても、ゲル粒子の周囲がゲル化されているため、ゲル粒子の外側にはみ出た微生物細胞の移動が規制され、当該微生物細胞が他のゲル粒子内に侵入するのを規制できる。また、各ゲル粒子は、第2のゲル化剤によるゲルで周囲が固定された状態で培養されるため、当該各ゲル粒子が重力で培養膜の下方に沈降して集積することがなく、微生物細胞の複合化を招来する各ゲル粒子の密着を阻止することもできる。
以上により、本発明では、微生物が生息する実環境に近い状態で、各ゲル粒子内で微生物細胞の単離培養を行うことができ、より多くの種類の微生物の単離培養が可能となる。しかも、種類の異なる微生物細胞を同一の培養膜内で同時に単離培養することができ、ハイスループット化が促進され、多数種の微生物細胞を効率的に単離培養可能になる。
本発明に係る単離培養方法では、第1のゲル化剤を用い、複数の微生物細胞が存在する微生物懸濁液から、1個につき前記微生物細胞が1個包埋されたゲル粒子を多数生成するゲル粒子生成工程と、この工程で生成された各ゲル粒子をゾル状態の第2のゲル化剤に混合し、当該混合溶液を培養膜の培養空間に注入してから、第2のゲル化剤をゲル化させた上で、培養膜を所望の環境中に置き、各ゲル粒子に包埋された微生物細胞を単離培養する1次培養工程とが行われる。その後、本実施形態では、内部にコロニーの生じているゲル粒子のみを抽出し、当該ゲル粒子を更に培養する2次培養工程が行われる。
前記第1のゲル化剤としては、微生物細胞を死滅させない条件でゾル状態からゲル状態に転移可能なゲル化剤、例えば、70℃以上の高温にせずに転移可能なものや、有機溶媒や放射線等を使用せずに転移可能なもの等であれば何でも良く、以下のゲル化剤を例示できる。
(1)40℃付近でゾル状態にあり、当該温度からの低下によってゲル化するゲル化剤。例えば、低融点アガロースゲルやゼラチン等が挙げられる。
(2)所定の温度でゾル状態にあり、当該温度からの上昇によってゲル化する熱ゲル化性を有するゲル化剤。例えば、メチルセルロースゲル、メビオールジェル(登録商標)等が挙げられる。
(3)金属イオン等の架橋剤を加えることでゲル化するゲル化剤。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ゲル、ジェランガム等が挙げられる。
(1)40℃付近でゾル状態にあり、当該温度からの低下によってゲル化するゲル化剤。例えば、低融点アガロースゲルやゼラチン等が挙げられる。
(2)所定の温度でゾル状態にあり、当該温度からの上昇によってゲル化する熱ゲル化性を有するゲル化剤。例えば、メチルセルロースゲル、メビオールジェル(登録商標)等が挙げられる。
(3)金属イオン等の架橋剤を加えることでゲル化するゲル化剤。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ゲル、ジェランガム等が挙げられる。
前記第2のゲル化剤としては、前述のように微生物細胞を死滅させない条件で、第1のゲル化剤と異なる条件でゾル状態からゲル状態に転移させるゲル化剤で、且つ、ゲル状態からゾル状態(分子破壊の溶液状態も含む)に可逆的に転移可能なゲル化剤であれば何でも良く、以下のゲル化剤を例示できる。
(1)40℃付近でゾル状態にあり、当該温度からの低下によってゲル化するゲル化剤。例えば、低融点アガロースゲルやゼラチン等が挙げられる、
(2)所定の温度でゾル状態にあり、当該温度からの上昇によってゲル化する熱ゲル化性を有するゲル化剤。例えば、メチルセルロースゲル、メビオールジェル(登録商標)等が挙げられる。
(3)金属イオン等の架橋剤を加えることでゲル化するゲル化剤。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ゲル、ジェランガム等が挙げられる。
(4)物理的刺激によりゾル化し、静置することでゲル化するチキソトロピー性を有するゲル化剤。例えば、メチルセルロースゲル等が挙げられる。
(5)以上の何れかのゲル化剤と同一条件でゲル化し、微生物の活性に直接影響を与えない酵素によって特異的に分解するゲル化剤。例えば、アガロースゲル、コラーゲン等が挙げられる。
(1)40℃付近でゾル状態にあり、当該温度からの低下によってゲル化するゲル化剤。例えば、低融点アガロースゲルやゼラチン等が挙げられる、
(2)所定の温度でゾル状態にあり、当該温度からの上昇によってゲル化する熱ゲル化性を有するゲル化剤。例えば、メチルセルロースゲル、メビオールジェル(登録商標)等が挙げられる。
(3)金属イオン等の架橋剤を加えることでゲル化するゲル化剤。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ゲル、ジェランガム等が挙げられる。
(4)物理的刺激によりゾル化し、静置することでゲル化するチキソトロピー性を有するゲル化剤。例えば、メチルセルロースゲル等が挙げられる。
(5)以上の何れかのゲル化剤と同一条件でゲル化し、微生物の活性に直接影響を与えない酵素によって特異的に分解するゲル化剤。例えば、アガロースゲル、コラーゲン等が挙げられる。
以上の第1及び第2のゲル化剤は、ゾル状態からゲル状態への転移条件が相互に重複しないように、各ゲル化剤の中から適宜選択される。
また、これら第1及び第2のゲル化剤は、ゲル状になったときに、種々の基質、代謝産物、イオン及びシグナル因子を含む化学物質がゲル内部を流通可能となる。
前記培養膜は、延出方向両端側が開放するチューブ状をなす多孔性中空糸膜(膜体)により構成されている。後述するように、培養膜の内部空間が微生物細胞の培養空間となり、当該培養空間には、培養対象となる微生物細胞が封入された前記第1のゲル化剤からなるゲル粒子と第2のゲル化剤との混合ゲルが収容されるようになっている。
当該培養膜は、特に限定されるものではないが、ポリスルフォン膜又はPVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜により形成され、内径0.7mm、長さ20cm〜30cm、孔径0.1μmとなっている。なお、培養膜の内径としては、膜体の内外間の物質の拡散速度を考慮すると、5mm以下が好ましく、更に好ましくは1mm以下が良い。
なお、培養膜は、微生物細胞の通過を阻止する一方、種々の基質、代謝産物、イオン及びシグナル因子を含む化学物質の通過を許容する孔が形成されたものである限り、種々のものを採用することができ、具体的に、その孔径としては、1μm以下が好ましく、更に好ましくは、0.1μm程度が良い。その他、前記培養膜の形状は、チューブ状に限らず、ゲル粒子と第2のゲル化剤を膜外に流出させない限り、袋状等の種々の形状を採ることができる。
また、本発明に係る培養キットは、前記第1のゲル化剤と、前記第2のゲル化剤と、前記培養膜とを含んで構成されている。
次に、本発明の単離培養の手順について詳細に説明する。
先ず、前記ゲル粒子生成工程を以下のように行う。
最初に、土壌、海水、湖沼等の自然環境中又は排水処理場の汚泥から、微生物細胞を採取して純水や緩衝溶液に懸濁させ、微生物懸濁液を得る。そして、当該微生物懸濁液に、ゾル状態の前記第1のゲル化剤を混ぜ、当該第1のゲル化剤を粒子状にゲル化させることで、ゲル粒子を生成する。このゲル粒子の生成は、前述したゲルマイクロドロップ法で行うことができるが、同等のゲル粒子が得られる限りにおいて、他の手法を採ることができる。本実施形態では、微生物懸濁液とゾル状態の第1のゲル化剤との混合液に、第1のゲル化剤がゲル化しないように調整されたパラフィンオイル等の油分を混ぜた上で攪拌しながら、外部刺激を与えることにより第1のゲル化剤をゲル化させることで、油中に多数分散したゲル粒子が生成される。この際、ゲル粒子は、油相に懸濁された乳化状態にあるため、純水を加えた上で遠心分離を行うことにより、ゲル粒子が下部の水相に移動し、上相の油分を取り除くことで、多数のゲル粒子を含むゲル粒子含有液が得られる。以上において、所望のゲル粒子を得るために、微生物懸濁液中の微生物濃度、微生物懸濁液、第1のゲル化剤及び油分の配合量、及び攪拌速度を調整する。ここでの所望のゲル粒子とは、1個の粒子内に微生物細胞が1個若しくは0個包埋されたものであり、且つ、粒子径が10μm〜100μmの範囲内となるものである。ゲル粒子の径が10μm未満であると、後述するゲル粒子内の細胞培養の空間として必ずしも十分でなく、100μmを超えると、後述するセルソーターでの抽出が出来なくなる可能性があるためである。また、ゲル粒子の内部に、当該粒子1個当たり微生物細胞を1個若しくは0個含ませるために、前述の手法で形成されるゲル粒子の総数と微生物懸濁液中の微生物細胞の総数の比が、10:1〜1:1の範囲内となるように、微生物懸濁液中の微生物濃度と、微生物懸濁液及び第1のゲル化剤の配合量とを適宜決定する。
次いで、前記1次培養工程を以下のように行う。
先ず、前記ゲル粒子含有液とゾル状態の前記第2のゲル化剤とを混ぜた上で、これらの混合溶液を前記培養膜内に封入し、第2のゲル化剤の特性に応じた外部刺激を与えることで、第2のゲル化剤をゲル化させる。このとき、図1に模式的に示されるように、培養膜20内に、第1のゲル化剤からなる多数のゲル粒子21が第2のゲル化剤からなる第2のゲル22の中に分散して移動不能に固定される。この状態では、前述したように、ゲル粒子の21中に、当該ゲル粒子1個当たり微生物細胞23が1個若しくは0個包埋されている。
その後、図2に示されるように、微生物を採取した実環境若しくは当該実環境を模擬した環境(培養液F)中に培養膜20を投入し、実環境に近い環境の下、ゲル粒子21の内部で微生物細胞23を培養増殖させる。
更に、前記2次培養工程を以下のように行う。
1次培養を一定時間行った後、前記培養環境から培養膜20を取り出し、第2のゲル化剤の特性に応じた外部刺激を与えて第2のゲルをゾル化し、ゲル粒子の固定状態を解除した上で各ゲル粒子を回収する。そして、セルソーターやマイクロピペットを用い、コロニーが生じているゲル粒子のみを抽出し、微生物細胞が増殖したゲル粒子のみをマルチウエルプレートに分注し、所望の培地を用いて2次培養を行う。
以下、本発明の実施例を比較例とともに説明するが、本発明は以下の各実施例に限定されるものではない。
下水処理場の汚泥を1mL採取し、純水5mLに懸濁し、超音波により微生物細胞を分散させた(30秒間)。その後、純水で段階的に希釈し、微生物細胞の濃度を6.0×107cell/mLに調整した微生物懸濁液を得た。
次に、パラフィンオイル(sigma社製 Mineral Oil(heavy white oil))を直径2cm程度のビンに15mL入れ、温度を42℃一定にした。これと前後して、ゲル化温度が8〜17℃(0.8%)となる第1のゲル化剤としての低融点アガロースゲル(Cambrex社製 SeaPrep Agarose)3%溶液を400μL用意し、当該溶液を一度煮沸してゲル化部分を完全に溶解した後、温度を42℃で一定にした。その後、前記アガロースゲル溶液に、6.0×107cell/mLに調整した前記微生物懸濁液を100μL加えて攪拌し、アガロースゲルと微生物懸濁液との混合液を前記パラフィンオイルに加え、軽く振って攪拌し、更に、当該液体を直径1.5cm程度の攪拌翼を有する攪拌器で攪拌した。このとき、先ず、室温下で、攪拌翼の回転数を2100rpmとして1分間攪拌した後、氷上で、同回転数を2100rpmとして1分間攪拌し、最後に、氷上で、同回転数を1100rpmとして8分間攪拌した。すると、オイル中のアガロースゲルが粒子状にゲル化し、多数のゲル粒子が油相に懸濁された乳化状態となった。そこで、当該乳化状態の液体に更に純水を加え、600Gで5分間の遠心分離を行った。このとき、ゲル粒子は、液体上部の油相から同下部の水相に移動するため、上相のオイルを取り除き(洗浄し)、ゲル粒子含有液を得た。ここでは、当該洗浄と500Gで5分間の遠心分離とを交互に数回繰り返し行うことで、オイルをほぼ含まないゲル粒子含有液が得られた。この液中には、3.0×107個のゲル粒子が含まれており、各ゲル粒子の内部には、ゲル粒子1個当たり、微生物細胞が1個若しくは0個封入された状態となった。
次に、第2のゲル化剤として、アルギン酸ナトリウム1%溶液を500μL用意し、当該溶液を一度煮沸してゲル化部分を完全に溶解し、室温程度まで冷却した後、500μLの前記ゲル粒子含有液と混合して合計1mLの混合溶液を得た上で、これら混合溶液を図2に示される培養器10に注入した。
この培養器10は、板状のプレート11と、当該プレート11の下側に位置するとともに、培養環境となる培養液Fに浸漬される前記培養膜20と、プレート11の上側に位置する注入部30とにより構成されている。
前記注入部30は、培養膜20の一端側に繋がる図2中右側の注入容器31と、培養膜20の他端側に繋がる同図中左側のシリンジ32とにより構成されている。
前記注入容器31は、上下両端側が開放しており、上端側の開放部分は、ゲル粒子が含まれる前記混合溶液の注入口34となる一方、下端側の開放部分は、培養膜20の一端側が隙間無く連結される連結口35となる。
前記シリンジ32は、筒状の本体37と、この本体37内を上下方向に摺動するピストン38とを備えている。本体37の下端側には、開口部39が設けられ、この開口部39には、培養膜20の他端側が隙間無く連結されている。このため、培養膜20は、注入容器31の注入口34を除いて閉塞された状態となっている。
予め、培養膜20の親水化処理を行った。つまり、培養膜20をエタノールに30分間浸し、その後純水に30分浸した。その後、培養膜20内の純水を排出して培養膜20内に空気を充填するとともに、培養膜20を湿った状態とした。その上で、アルギン酸ナトリウム溶液とゲル粒子含有液との前記混合溶液を注入口34に注入し、ピストン38を引きながら混合溶液を培養膜20内に充填した後、0.5%塩化カルシウム水溶液中に培養膜20を浸漬した。すると、カルシウムイオンが培養膜20内の混合溶液まで浸透し、アルギン酸ナトリウム溶液がゲル化状態となった。その後、培養膜20を塩化カルシウム水溶液から取り出し、純水で培養膜20の外側を洗浄した。
次に、図3に示される液槽40(有効容積8L)の内部に、培養対象となる微生物を採取した下水処理場の活性汚泥が含まれる培養液Fと、所定のタイミングで空気等の気体を供給可能とする気体供給装置42とを入れた上で、培養液F中に培養膜20を浸漬して、注入部30をカバー44で覆い、以下のように、微生物の生息する実環境を模擬した液槽40内の環境で1〜2週間の1次培養を行った。この1次培養は、室温(23℃)下で行い、基質として、下表の組成からなる人工下水(全有機物濃度27000mg−C/L)を1日に1回40mL添加し、液槽20内の初期の有機物濃度を135mg−C/Lにした。また、基質を含まない水道水を1日当たり8Lの流量で連続的に液槽40内に供給するとともに、気体供給装置42によって、液槽40内をエアレーションにより爆気して好気的な条件で培養を行った。
前記1次培養が終了した後、培養器10を液槽40から取り出し、キレート剤であるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液(10mM、pH8.0)中に、培養膜20を30分間浸漬し、培養膜20内のアルギン酸ナトリウムゲルを溶解した。その後、ゲル粒子を含む培養膜20内の溶液を回収し、当該ゲル粒子の外側に存在する微生物細胞の除去作業を行った。具体的に、ここでは、回収した溶液100μLを純水10mLが含まれる図示しない管体に静かに注ぎ、1000Gで10分間遠心分離を行うことで、上清を取り除き、底に溜まったゲル粒子を回収した。
次に、セルソーター(FACS)を用い、回収した各ゲル粒子それぞれについて、コロニーがある程度生じていると判断したゲル粒子のみを1個ずつ96穴マルチウエルプレートに分注した。ここで、コロニーがある程度生じているか否かの判断は、ゲル粒子の内部の構造の複雑度合、すなわち、ゲル粒子の内部のコロニーの形成状態の指標となる側方散乱光(SSC)の値がある一定値以上のものを選択した。加えて、ゲル粒子の大きさの指標となる前方散乱光(FSC)の値がある一定値以上のものを選択した。更に、SSC及びFSCの各値によって選択されたゲル粒子をマルチウエルプレートに分注した。
その後、1次培養で用いた基質の組成(表1)の各濃度を1/200に希釈して得られた培地を、前記マルチウエルプレートに200μL加え、蓋を被せて5日間好気的に振とう培養(2次培養)を行った。
当該2次培養後、各ゲル粒子内のDNAを抽出し、PCRにより遺伝子を増幅し、16SrRNA遺伝子の配列を解析した。ここで、DNAの配列が97%以上のもの同士を同一種とし、また、データベース(DNA Data Bank of Japan)に登録されている近縁種との相同性検索を行った。
その結果、実施例1の培養方法では、12種類、合計37株の微生物が得られ、種類/株数=32%となり、100株当たり32種の微生物の取得割合となった。
本実施例2では、実施例1と同様の手順で1次培養後のゲル粒子を回収した後、セルソーターの代わりに、微量マイクロピペットを使って、コロニーの生えているゲル粒子を抽出し、実施例1と同様に2次培養した。つまり、実施例1と同様の手順で1次培養後に回収した複数のゲル粒子について、100倍〜400倍の倍率で観察可能な実体顕微鏡下でコロニーが生じているゲル粒子を目視により探索し、微量マイクロピペットを使い、コロニーが生じているゲル粒子を1個ずつ吸引し、実施例1と同様に、96穴マルチウエルプレートに分注して2次培養を行った後、遺伝子解析を行った。
その結果、実施例2の培養方法では、9種類、合計19株の微生物が得られ、種類/株数=47%となり、100株当たり47種の微生物の取得割合となった。
本比較例では、各実施例と同一の下水処理場の活性汚泥から、当該活性汚泥中の微生物を平板培養法で培養した。すなわち、実施例1で説明したのと同様の手順で下水処理場の汚泥を採取して微生物細胞を分散し、純水で段階的に希釈することにより、微生物細胞数が1000個程度含まれる溶液(サンプル)20μLをそれぞれ複数枚の寒天培地(1%アガロース)に塗布した。ここでの寒天培地は、表1の組成の濃度を1/200に希釈した組成とした。そして、サンプルが塗布された寒天培地を温度23℃で2週間培養した。その後、生じたコロニーの先端を爪楊枝で刺し、当該爪楊枝を純水50μLに漬けて微生物細胞を水に懸濁させることで、50個程度のコロニーをランダムに抽出し、各コロニーについて、前記各実施例と同様に遺伝子解析を行った。
その結果、比較例の培養方法では、9種類、合計47株の微生物が得られ、種類/株数=19%となり、100株当たり19種の微生物の取得割合となった。
以上の結果、本発明に係る各実施例は、従来の手法による比較例に比べ、より多くの種類の微生物を効率良く取得できることが実証された。
10 培養器
20 培養膜
21 ゲル粒子(第1のゲル)
22 第2のゲル
23 微生物細胞
F 培養液
20 培養膜
21 ゲル粒子(第1のゲル)
22 第2のゲル
23 微生物細胞
F 培養液
Claims (2)
- 微生物細胞の通過を阻止する一方、種々の化学物質の通過を許容する膜体により形成され、当該膜体の内側が微生物細胞の培養空間となる培養膜を用いた微生物の単離培養方法において、
ゾル状態からゲル状態に転移可能な第1のゲル化剤を用い、複数の微生物細胞が存在する微生物懸濁液から、前記微生物細胞が1個包埋されたゲル粒子を多数生成し、
前記第1のゲル化剤と異なる条件でゾル状態とゲル状態の間で可逆的に転移可能な第2のゲル化剤と前記ゲル粒子とを前記培養膜の培養空間に注入した後、前記第2のゲル化剤をゲル化させた上で、前記培養膜を所望の環境中に置き、前記ゲル粒子内の微生物細胞を培養することを特徴とする微生物の単離培養方法。 - 請求項1記載の方法を行うための微生物の培養キットであって、
前記第1のゲル化剤と、前記第2のゲル化剤と、前記培養膜とを含むことを特徴とする微生物の培養キット。
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JP2008208790A JP5316983B2 (ja) | 2008-08-13 | 2008-08-13 | 微生物の単離培養方法及び培養キット |
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