半導体などの電子部品の製造工程で行われるエッチングやスパッタリングにマグネトロンプラズマを利用することは良く知られている。
マグネトロンプラズマは、マグネトロンプラズマ装置により次のようにして作られる。マグネトロンプラズマ装置内にプロセスガス(エッチングではハロゲンガス、スパッタリングではアルゴンガスなど)を注入して放電を行うと、放電により発生した電子が容器内の気体(プロセスガス)をイオン化して2次電子が生じる。この2次電子は気体分子と衝突して容器内の気体のイオン化がさらに促進される。放電により発生した電子及び2次電子は、マグネトロンプラズマ装置の作る磁場と電場によって力を受けてドリフト運動をする。
ドリフト運動をする電子により更に気体分子がイオン化され、この気体分子のイオン化により更に新たな2次電子が発生する。マグネトロンプラズマ装置は、このような過程を繰り返して気体のイオン化を促進するのでイオン化効率が非常に高いという特徴がある。したがって、マグネトロンプラズマ装置でのプラズマ発生は、磁場を利用しない高圧放電方式と比較して2〜3倍の効率が得られるという利点がある。
図29〜図32を参照して従来のマグネトロンプラズマ用磁場発生装置を説明し、図33を参照して従来のマグネトロンプラズマエッチング装置を説明する。
図29(a)は第1の従来例によるプラズマエッチング装置の縦断面図であり、図29(b)はこの装置における電子の運動の概略を示す図である。図29(a)に示すように、装置内に電極板10及び12が互いに平行に配置されている。電極板10の上にエッチングされるウエハ(被処理体(workpiece))16が置かれる。電極板12の上部(平板電極10と反対側)にはマグネトロンプラズマ用磁場発生装置18が設置されている。
高周波電圧発生器19は、電極板10と12の間に高周波の交番電界を発生させるためのものである。図29(a)の矢印20は、電極板10がマイナスとなり電極板12がプラスになった瞬間の電界の向きを示している。
図29(a)に示した従来のマグネトロンプラズマ用磁場発生装置18は、リング状の永久磁石22と、この磁石22のリング内部に設けた円盤状の永久磁石24と、ヨーク26とで構成されている。磁場発生装置18の作る磁場が電極12を介してウエハ16上に及んでいる様子を磁力線28a及び28bで示す。
図29(b)の磁力線30は、図29(a)に示したウエハ16の面上の磁力線28a及び28bを斜視的に表現したものである。上述したように、電界が矢印20の向きのとき、電子32は図示のようなドリフト運動をしながら無限軌道34を描く。その結果、電子32はウエハ16の面上付近に束縛されるので気体のイオン化が促進される。このため、図29に示す装置は高密度のプラズマを生成することができる。
しかしながら、電子のドリフト運動に寄与するのは、電界(電場)の方向に垂直の磁力線である。即ち、図29の装置の場合、磁力線30の内、ウエハ16の面に対して水平な成分のみが電子のドリフト運動に寄与する。
図29に示した第1の従来例によるマグネトロンプラズマ用磁場発生装置を用いたマグネトロンエッチング装置では、ドーナツ状の磁場が形成されるので、ウエハ16の面に対して水平な磁場強度は、図30のように場所により大きく異なることになる。
図30のグラフの横軸はプラズマ空間の中心(ウエハ16の中心点のすぐ上の部分)から周辺部方向に測った距離(r)、縦軸はウエハ16の面に水平である磁場強度(H)を示す。上述したように、水平磁場強度が大きい領域ほど高密度プラズマが発生するので、図29で説明した第1の従来例によればウエハが部分的にエッチングされるという問題がある。更に、不均一なプラズマのためにウエハ面内で電位の分布が生じるために(即ちチャージアップして)、ウエハ上に形成した素子を破壊するおそれがある。
このような問題を解決するためには、ウエハ16の表面近傍の空間の出来るだけ広い範囲において水平磁場強度を均一にする必要がある。しかし、図29に示した従来の装置ではこの問題を解決することはできない。
上述の問題を解決するため、図31に示すように、複数の柱状の異方性セグメント磁石をリング状に配置したダイポールリング磁石(35で示す)を使用することが知られている。図31(a)はダイポールリング磁石35の上面図であり、図31(b)は図31(a)のダイポールリング磁石35をA−Bに沿って切断した断面図である。
図31(a)に示すように、ダイポールリング磁石35は、複数の異方性セグメント磁石40を非磁性の架台42に収めた構成となっている。複数のセグメント磁石40の夫々は、図31(b)に示すように、磁束量を調整するためにセグメントの長さ方向の中央部に非磁性体(例えばアルミなど)のスペーサ41を有する。
異方性セグメント磁石40の数は8個以上であり通常8から32の間で選ばれる。図31には16個の場合を示した。異方性セグメント磁石40の断面形状は任意であり、例えば、円形、正方形、長方形、台形などの何れでもよい。図示の場合は正方形である。異方性セグメント磁石40のリング内部の矢印はセグメント磁石の磁化の向きを表している。セグメント磁石の磁化方向を図31(a)のようにするとリング内に矢印43で示す向きの磁場が生成される。
ダイポールリング磁石35のリング内には電極板36及び37が平行して設けられ、電極板37の上にはウエハ38が置かれる。図29に示した第1の従来例と同様に、電極板36及び37に印加される高周波電圧により、電極板36及び37の間に高周波の交番電界が発生する。矢印44は、電極板36及び37間に発生するある瞬間の電界の向きを示す。この電界と磁界との相互作用によって高密度プラズマが発生する。
ダイポールリング磁石35をマグネトロンプラズマ用磁場発生装置に用いる場合、図31(b)に示すように、ダイポールリング磁石35の長さ方向に直角の中央断面C−D付近にプラズマ生成空間46を形成する必要がある。
この理由は、ダイポールリング磁石35の長さ方向に直角の中央断面C−Dでの磁場均一性はこの磁石35の端部付近の磁場均一性よりも良好であり、更に、この長さ方向に直角の中央断面C−D付近ではウエハ面上の電子の閉じ込めに有効な磁力線の水平成分がほとんどであるためである。このため、ダイポールリング磁石35の長さ方向に直角の中央断面C−D付近にプラズマ生成空間46を合わせる必要がある。即ち、エッチング工程に入る前に、ウエハ38の上下方向の位置を調整し、ウエハ38の上面近傍の空間(プラズマ生成空間46)をダイポールリング磁石35の長さ方向に直角の中央断面C−Dに合わせなければならない。
図32は、ダイポールリング磁石35の長さ方向に直角の中央断面C−Dでの磁場均一性を示す図である。図32の横軸は中央断面C−Dの中心から中央断面部の周辺部へと向かう方向に測った距離(r)、縦軸は水平磁場強度(H)を示す。Lはプラズマ空間46の半径を示す。図32から判るように、ダイポールリング磁石では、第1の従来例の磁場均一性(図30)に比較して格段に良い磁場均一性を得ることができる(換言すれば、より平坦な水平磁場強度が得られる)。
次に、本発明の理解を容易にするため、図33を参照して従来のマグネトロンプラズマエッチング装置全体の概略を説明する。
図33に示すように、マグネトロンプラズマエッチング装置は、大きく分けて、エッチング室(A)、ロードロック室(C)、カセット室(B)に分かれ、各室は弁49を介して接続されている。ロードロック室(C)内に設けた搬送アーム54により、カセット室(B)に置かれた複数のウエハ50の1枚をエッチング室(A)に搬入する。搬送アーム54によりエッチング室(A)に搬送されてきたウエハをエッチング室の電極板56上に置いた後(このウエハを52で示す)、電極板56とウエハ52を昇降装置58により破線で示すエッチング位置60まで上昇させる。
電極板56及び62の間に発生する電界と磁場発生装置(ダイポールリング磁石64)により発生する磁界の相互作用により、エッチング位置60のウエハ52の上部表面近傍の空間に高密度プラズマを発生させエッチングを行なう。エッチング処理の際、プロセスガスをガス導入管66からに注入してガス排気管68から外部に排出する。尚、カセット室(B)及びロードロック室(C)にも、弁49を開いた際に流入するプロセスガスを排出するためのガス排気管68が接続されている。
上述したように、ウエハをエッチング室などの反応室(処理室)に搬入後、昇降装置を使用してウエハの上部表面近傍の空間をダイポールリング磁石の中心部の磁場均一性の最も良好な位置まで上昇させる必要がある。更に、ウエハ処理後、上記の昇降装置を用いてウエハを搬出位置(搬入位置と同一)にまで下げる必要がある。したがって、マグネトロンプラズマ装置の小型化、簡略化、及び昇降機構からのゴミの発生を減少させるためには、エッチング室でのウエハの上下移動距離を出来るだけ短くするのが好ましく、更には、ウエハの上下移動自体を不必要にできれば非常に好ましいと言える。
ところで、上述したように、ダイポールリング磁石を使うことにより、ある程度エッチングの均一性を高めることができる。しかし、エッチングされる面の膜質によって均一性が変化する問題が存在することが判明した。具体的には、ウエハの半径方向にエッチングの均一性が変化したり、エッチングプロフィールがウエハの直径方向に凹状或いは凸状となる問題が生じた。この問題を解決するために発明者らは鋭意努力を重ねたところ、磁場強度を変えずに磁力線がウエハ面に入射する角度を制御するとエッチングの均一性の更なる改善がなされることがわかった。上述の「磁力線がウエハ面に入射する角度を制御する」とは、換言すれば、エッチング処理を行なおうとするウエハ面に対する磁場の方向を制御することであり、この制御によりエッチングの均一性を格段に向上できることが判明した。本願の発明者は、ウエハ面に対する磁場(磁力線)の角度を変えることによりエッチングの均一性を良好に制御することが可能であることに気付き、エッチングガスの条件やエッチングされる面の膜質に応じた最適の角度があることに気付いた。
以下、本願の複数の発明の実施の形態を図1〜図28を参照して説明する。
先ず最初に第1発明の実施の形態を図1〜図8を参照して説明する。
第1発明に係る実施の形態によれば、複数の柱状の異方性セグメント磁石をリング状に配置したダイポールリング磁石を備えたマグネトロンプラズマ用磁場発生装置において、上記ダイポールリング磁石を構成する「上下に配置された第1及び第2のダイポールリング磁石」の長さを夫々異ならせている。
本発明で使用するダイポールリング磁石を構成する複数の柱状の異方性セグメント磁石(以下単にセグメント磁石と言う場合がある)の夫々はスペーサにより2分されている。従って、このスペーサを介し、上述したように、ダイポールリング磁石は、上下に配置された(或いは2分された)第1及び第2のダイポールリング磁石を有するといってもよい。このため、本明細書では、第1及び第2のダイポールリング磁石の長さが異なるとは、第1及び第2のダイポールリング磁石夫々のセグメント磁石の長さが異なることと同じ意味である。
図1及び図2に示す装置は、セグメント磁石の長さが異なる以外は、図31に示した装置の部分と同一である。したがって、図1と図2では、複数のセグメント磁石夫々に参照番号90を付し、これらの複数のセグメント磁石90を備えたダイポールリング磁石を88で示す。尚、図1及び図2において、既に図31で説明した個所(部分)と同一個所には同一の参照番号を付してその説明を省略するか或いは簡単な説明に止める。
図1(a)はダイポールリング磁石88の上面図であり、図1(b)は図1(a)のダイポールリング磁石88をA−Bに沿って切断した断面図である。図1のダイポールリング磁石88は、図31の場合と同様に、複数のセグメント磁石90の夫々の中間部に非磁性体のスペーサ41を入れ、非磁性の架台42に収められた構成になっている。また、セグメント磁石90の数及び配置は、図31で説明した通りである。更に、ダイポールリング磁石88のリング内には電極板36及び37を平行に設け、電極板37の上にウエハ38を戴置することも同様である(尚、サセプタの図示は省略してある)。同様に、図2(a)はダイポールリング磁石88の上面図であり、図2(b)は図2(a)のダイポールリング磁石88をA−Bに沿って切断した断面図である。
第1発明の実施の形態によれば、複数のセグメント磁石90の夫々は、スペーサ41の両側に磁石90a及び90bを有し、これらの磁石90a及び90bのダイポールリング磁石の長さ方向の長さ(夫々ML1及びML2とする)を異ならせている。図1ではML1<ML2となっており、図2ではML1>ML2となっている。言い方を換えれば、図1(図2も同様)に示すダイポールリング磁石88は、セグメント磁石90aを有する第1のダイポールリング磁石と、セグメント磁石90bを有する第2のダイポールリング磁石を有すると言うこともできる。
図3を参照して、従来のセグメント磁石から構成されるダイポールリング磁石35(図31)が発生する磁場と、第1発明に係るダイポールリング磁石88によって発生する磁場の違いを説明する。
図3(a)は従来のダイポールリング磁石35(図31)のA−B断面での磁力線を示す。水平方向(横方向)の破線92はダイポールリング磁石35の長さ方向に直角の中央断面(長さ方向の中心軸に直角で且つ磁石の中心部の断面)C−Dに含まれている。上述したように、この部分での磁力線は略々平行(中心軸と直角)となっているが、ダイポールリング磁石35の中心軸に沿って端部方向に行くにしたがって磁力線の曲がりが大きくなる。
一方、図3(b)は、第1発明に係る実施の形態のダイポールリング磁石88のA−B断面での磁力線を示している。図3(b)から明らかなように、上部の磁石90aを下部の磁石90bより短くすると(ML1<ML2)、磁石90aによる磁場が減少すると共に磁石90bによる磁場が増加する。従って、ダイポールリング磁石の中央断面C−D付近の磁場の方向(磁力線の方向)は上方に変化して下降している(上方に凸となっている)。見方を変えれば、水平磁場を発生する位置がダイポールリング磁石88の中央断面C−Dより下方に移動している。更に、図3(c)に示すように、上部の磁石90aを下部の磁石90bよりも長くすると(ML1>ML2)、図3(b)の場合とは逆に、ダイポールリング磁石の中央断面C−D付近の磁場の方向(磁力線の方向)は先ず下方に変化して上昇している(下方に凸となっている)。
上述したように、セグメント磁石90a及び90bの長さ(夫々ML1及びML2)を異ならせることにより、ダイポールリング磁石35の中央断面C−D付近に置いたウエハ面に対する磁場の方向を制御することができる。本明細書では、ウエハ面に対する磁場の方向の制御を、説明の都合上、ウエハの端部での磁場の方向の制御として説明する。図3(d)は、ウエハ38の一方の端部(或いは端部付近)38aでの磁力線94の角度(磁場の角度)θを定義するための図である。図3dに示すように、ウエハ端部38aでの磁場角度θは中央断面C−Dに平行な面を基準(θ=0°)とし、この基準面から上方向及び下方向(図面上)の角度を夫々正及び負とする。一方、図示しないが、ウエハ38の他の端部での磁場角度は磁力線が上方から基準面と交わる場合には正とし、磁力線が下方から基準面と交わる場合には負とする。磁場の対称性を考慮すれば、通常の場合、ウエハ両端部での磁場角度は略等しくなる。以下の説明では、特に断らない限りウエハ端部38aでの磁場角度θの制御について述べる。
尚、ダイポールリング磁石35及び88は、エッチング等のプラズマ処理の際には回転させるので、本明細書では、ウエハ端部(又は端部付近)とウエハ周辺部とは同義である。
上述したように、セグメント磁石90a及び90bの長さを異ならせてウエハ端部の磁場の方向を制御した場合の、ウエハ端部38aでの磁場角度θと被エッチング材料に対するエッチング速度のウエハ面内均一性の関係を、下記処理条件1〜4について実験により調べた。なお、磁場角度θは4.41°、9.25°、12.88°の場合について調べた(角度θが正なので図2の場合である)。また、エッチング速度はウエハ表面の直交する2つの直径方向のウエハ周辺(端部)から3mmより内側領域の複数箇所での膜厚を、エッチング処理前後で測定し、その差(エッチング量)を処理時間で割ることにより求めた。なお、下記処理条件において被エッチング材料としてレジストを使用したのは、有機絶縁体膜に対するエッチング評価の代替膜材料とするためである。後述する図4〜図7において、上述のウエハ表面の直交する2つの直径方向の複数箇所での測定値は、夫々、黒丸及び黒の四角で示してある。
[処理条件1]
ウエハ直径:300mm
高周波電源周波数:13.56MHz
高周波電源電力:460W
電極間ギャップ:40mm
ウエハ中心部の磁場強度:約120Gauss
被エッチング膜:レジスト
エッチングガス:N2/O2=95/190sccm
チャンバ内圧力:30mTorr
サセプタ温度:10℃
[処理条件2]
ウエハ直径:300mm
高周波電源周波数:13.56MHz
高周波電源電力:2300W
電極間ギャップ:40mm
ウエハ中心部の磁場強度:約120Gauss
被エッチング膜:レジスト
エッチングガス:N2/H2=190/570sccm
チャンバ内圧力:100mTorr
サセプタ温度:10℃
[処理条件3]
ウエハ直径:300mm
高周波電源周波数:13.56MHz
高周波電源電力:4000W
電極間ギャップ:40mm
ウエハ中心部の磁場強度:約120Gauss
被エッチング膜:シリコン酸化膜
エッチングガス:C4F8/CO/Ar/O2=20/100/400/10sccm
チャンバ内圧力:40mTorr
サセプタ温度:40℃
[処理条件4]
ウエハ直径:300mm
高周波電源周波数:13.56MHz
高周波電源電力:360W
電極間ギャップ:40mm
ウエハ中心部の磁場強度:約120Gauss
被エッチング膜:シリコン窒化膜
エッチングガス:CH2F2/O2/Ar=50/40/200sccm
チャンバ内圧力:125mTorr
サセプタ温度:60℃
図4の(1)〜(3)に、処理条件1の条件でレジストのエッチングを行ったときの、ウエハ端部38aでの磁場角度θが夫々4.41°、9.25°、12.88°の場合の、ウエハ内エッチング速度均一性の結果を示す。磁場角度θが4.41°の場合、ウエハ面内の平均エッチングレートは297.0nm/minであり、ウエハ面内のエッチング速度分布は周辺部のエッチング速度が中心部のエッチング速度より大きい凹形状で、エッチング均一性((Max−Min)/(Max+Min))は±14.0%であった。磁場角度θが9.25°の場合、ウエハ面内の平均エッチングレートは290.8nm/minであり、ウエハ面内のエッチング速度分布は周辺部のエッチング速度が中心部のエッチング速度よりやや大きい凹形状で、エッチング均一性は±9.3%であった。エッチング均一性は磁場角度θが4.41°の場合より改善された。磁場角度θが12.88°の場合、ウエハ面内の平均エッチングレートは308.2nm/minであり、ウエハ面内のエッチング速度分布はほぼ均一に近づき、エッチング均一性は±3.7%であった。エッチング均一性は磁場角度θが9.25°の場合より更に改善された。
図5の(1)〜(3)に、処理条件2の条件でレジストのエッチングを行ったときの、磁場角度θが夫々4.41°、9.25°、12.88°の場合の、ウエハ内エッチング速度均一性の結果を示す。磁場角度θが4.41°の場合、ウエハ面内の平均エッチングレートは487.8nm/minであり、ウエハ面内のエッチング速度分布は周辺部のエッチング速度が中心部のエッチング速度より大きい凹形状で、エッチング均一性は±16.0%であった。磁場角度θが9.25°の場合、ウエハ面内の平均エッチングレートは499.8nm/minであり、ウエハ面内のエッチング速度分布は顕著な凹形状が見られなくなり、エッチング均一性は±4.6%であった。エッチング均一性は磁場角度θが4.41°の場合より改善された。磁場角度θが12.88°の場合、ウエハ面内の平均エッチングレートは516.8nm/minであり、ウエハ面内のエッチング速度分布は、磁場角度θが4.41°の場合とは逆に、中心部のエッチング速度が周辺部のエッチング速度よりやや大きい凸形状で、エッチング均一性は±3.2%であった。エッチング均一性は磁場角度θが9.25°の場合より更に若干改善された。
図6の(1)〜(3)に、処理条件3の条件でシリコン酸化膜のエッチングを行ったときの、磁場角度θが夫々4.41°、9.25°、12.88°の場合の、ウエハ内エッチング速度均一性の結果を示す。磁場角度θが4.41°の場合、ウエハ面内の平均エッチングレートは298.5nm/minであり、ウエハ面内のエッチング速度分布は周辺部のエッチング速度が中心部のエッチング速度よりやや大きい凹形状で、エッチング均一性は±5.6%であった。磁場角度θが9.25°の場合、ウエハ面内の平均エッチングレートは305.1nm/minであり、ウエハ面内のエッチング速度分布はほぼ均一で、エッチング均一性は±2.1%であった。エッチング均一性は磁場角度θが4.41°の場合より改善された。磁場角度θが12.88°の場合、ウエハ面内の平均エッチングレートは313.8nm/minであり、ウエハ面内のエッチング速度分布はほぼ均一で(ウエハ周辺部でごく若干エッチング速度が小さい傾向が見られる)、エッチング均一性は±1.9%であった。エッチング均一性は磁場角度θが9.25°の場合より更に若干改善された。
図7の(1)〜(3)に、処理条件4の条件でレジストのエッチングを行ったときの、磁場角度θが夫々4.41°、9.25°、12.88°の場合の、ウエハ内エッチング速度均一性の結果を示す。磁場角度θが4.41°の場合、ウエハ面内の平均エッチングレートは89.4nm/minであり、ウエハ面内のエッチング速度分布は周辺部のエッチング速度が中心部のエッチング速度より大きい凹形状で、エッチング均一性は±15.9%であった。磁場角度θが9.25°の場合、ウエハ面内の平均エッチングレートは86.4nm/minであり、ウエハ面内のエッチング速度分布は周辺部のエッチング速度が中心部のエッチング速度より大きい凹形状で、エッチング均一性は±14.1%であった。エッチング均一性は磁場角度θが4.41°の場合より若干改善された。磁場θが12.88°の場合、ウエハ面内の平均エッチングレートは84.9nm/minであり、ウエハ面内のエッチング速度分布は、磁場角度θが4.41°の場合と同様、周辺部のエッチング速度が中心部のエッチング速度よりやや大きい凹形状で、エッチング均一性は±9.5%であった。エッチング均一性は磁場角度θが9.25°の場合より更に改善された。
上記処理条件1〜4の下での実験において、処理装置の諸条件は必ずしも最適に設定されておらず、エッチング速度均一性の結果は必ずしも上記被エッチング材料に対するベストの数値ではないが、本発明の効果を相対的に評価する上では全く問題が無い。
上記処理条件1〜4の下で得られた結果から、ウエハ中心部の磁場強度を一定として、ウエハ端部の磁場角度を変化させることにより、平均エッチング速度を大きく変化させないで、ウエハ中心部とウエハ周辺部とのエッチング量を制御でき、ウエハ面内のエッチング均一性を改善できることが分かった。
つまり、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、有機絶縁体膜いずれの場合も、ウエハ周辺部のエッチング速度がウエハ中心部のエッチング速度より大きい場合には、ウエハ周辺部の磁場角度を大きくすることによってウエハ周辺部のエッチング速度を中心部に対して小さくすることができる。したがって、ウエハ面上全体にわたってエッチング速度の均一性を向上させることができる。同様に、ウエハ周辺部のエッチング速度がウエハ中心部のエッチング速度に対して小さい場合には、ウエハ周辺部の磁場角度を小さくすることによってウエハ周辺部のエッチング速度を中心部より大きくすることができる。したがって、ウエハ面上全体にわたってエッチング速度の均一性を向上させることができる。磁場角度が大きいほどエッチング速度が低下するのは、ウエハ面に対して水平な磁力線の成分が減少するため、プラズマの高密度化に寄与する電子ドリフトが起こりにくくなるためと考えられる。
最適なウエハ端部での磁場角度は被エッチング材料、エッチングガスの種類、その他のエッチング条件によって異なるが、0°から30°又は−30°の範囲で制御できるようにすることが望ましい。ただし、磁場角度が大きすぎるとウエハへのダメージが発生する虞があるので、ウエハ端部での磁場角度を0°から13°又は−13°程度の範囲で制御することが望ましい。尚、ウエハ周辺部のエッチング速度は、通常、中心部のエッチング速度より大きいので、ウエハ端部での磁場角度を4°〜13°又は−4°〜−13°程度の範囲で制御することが実際的には好ましい。
次に、第1発明の実施の形態の具体例について説明する。ダイポールリング磁石の長さRLを165mmとし、断面の一辺が60mmの四角形の柱状のNd−Fe−B系磁石からなる16個の異方性セグメント磁石40を16個を用い、上部セグメント磁石90aの長さML1を47.25mm、下部セグメント磁石90bの長さML2を27.75mm、スペーサの長さを90mmとしたとき、ダイポールリング磁石の中央断面C−Dに置いたウエハの端部での磁場の角度θは4.41°であった。更に、上記と同一のダイポールリング磁石を用い、上部セグメント磁石90aの長さML1を58.8mm、下部セグメント磁石90bの長さML2を16.5mm、スペーサの長さを90mmとしたとき、ダイポールリング磁石の中央断面C−Dに置いたウエハの端部での磁場の角度θは9.25°となった。一方、上記と同一のダイポールリング磁石を用い、上部セグメント磁石90aの長さML1を67.5mm、下部セグメント磁石90bの長さML2を7.5mm、スペーサの長さを90mmとしたとき、ダイポールリング磁石の中央断面C−Dに置いたウエハの端部での磁場の角度θは12.88°となった。更に、上記と同一のダイポールリング磁石を用い、上部セグメント磁石90aの長さML1及び下部セグメント磁石90bの長さML2を共に37.5mmの等しい長さとし、スペーサの長さを90mmとしたとき、ダイポールリング磁石の中央断面C−Dに置いたウエハの端部での磁場の角度θは0°となった。
一方、前段に記載したと同一のダイポールリング磁石を用い、上部セグメント磁石90aの長さML1を30mm、下部セグメント磁石90bの長さML2を45mm、スペーサの長さを90mmとしたとき、ダイポールリング磁石の中央断面C−Dより15mm下方に水平磁場を得ることができた。即ち、図3(b)に示すように、水平磁場でウエハを処理する場合にはウエハをダイポールリング磁石の中央より下方に設定することができ、一方、中央断面C−Dにウエハを設置すればウエハ38近傍の磁場を上に凸状とすることができる。
図8は、上述した上部及び下部セグメント磁石の夫々の長さ(ML1及びML2)を変えることにより、ウエハの端部での磁場方向θを変化させることをグラフで表現した図である。
尚、上述の第1発明において、ウエハ38とダイポールリング磁石との相対的な垂直(上下)方向の位置を調節する機構を付加してもよい。このようにすれば、直前に行った(或いは試行的に行った)エッチング結果を検証することにより、後続のエッチング処理においてより良好なエッチング均一性を実現することができる。ウエハ38とダイポールリング磁石の相対的な垂直方向の位置制御は、平行平板電極36及び37の距離を変化させないで全体を垂直方向に移動させてもよいし、電極37のみを垂直方向に移動できるようにしてもよい。また、ウエハを移動させずにダイポールリング磁石を移動させてもよい。
次に第2発明を、第1発明の説明に使用した図1〜図8の内から関連する図面を参照して説明する。第2発明に係る実施の形態によれば、複数の柱状の異方性セグメント磁石をリング状に配置したダイポールリング磁石を備えたマグネトロンプラズマ用磁場発生装置において、前記ダイポールリング磁石を構成する上下方向(即ちダイポールリング磁石の中心軸方向)に配置した第1及び第2ダイポールリング磁石の残留磁束密度(即ち磁石の磁場強度)を夫々異ならせている。
第1及び第2ダイポールリング磁石の残留磁束密度を夫々異ならせるためには、第1及び第2ダイポールリング磁石として、例えば、フェライト、Sm−Co系、Nd−Fe−B系等の内から異なった磁石を選択して使用すればよい。第1及び第2ダイポールリング磁石の夫々の中心軸方向の長さは等しくても或いは異なっていてもよい(つまり、ML1=ML2或いはML1≠ML2(図1及び図2参照)であってもよい)。
例えば、第1及び第2ダイポールリング磁石夫々の中心軸方向の長さを等しくした場合について考察する。図3(a)において、上部磁石90aの残留磁束密度を0.4テスラのフェライト磁石とし、下部磁石90bの残留磁束密度を1.3テスラのNd−Fe−B磁石として、上部磁石90aよりも下部磁石の磁束量を多くすれば、図3(b)と同様に、中央断面付近の磁場方向は上に凸状となる。上述の場合とは逆に、上部磁石90aの残留磁束密度を1.3テスラのNd−Fe−B磁石とし、下部磁石90bの残留磁束密度を0.4テスラのフェライト磁石とすれば、図3(c)と同様に中央断面付近の磁場方向は下に凸状となる。
前段の説明では、第1及び第2ダイポールリング磁石夫々の中心軸方向の長さを等しくしているが、例えば、図3(b)のように、上部磁石90aが下部磁石90bよりも短い場合に、例えば、上部磁石90aの残留磁束密度を0.4テスラのフェライト磁石とし、下部磁石90bの残留磁束密度を1.3テスラのNd−Fe−B磁石として、上部磁石90aよりも下部磁石の磁束量を多くすれば、第1発明で説明した図3(b)の場合よりも中央断面付近の磁場方向は更に上方に凸状となることは容易に理解できる。更に、上の場合とは逆に、図3(c)のように、上部磁石90aが下部磁石90bよりも長い場合に、例えば、上部磁石90bの残留磁束密度を1.3テスラのNd−Fe−B磁石として、下部磁石90aの残留磁束密度を0.4テスラのフェライト磁石とすれば、第1発明で説明した図3(c)の場合よりも中央断面付近の磁場方向は更に下方に凸状となることも容易に理解できる。
第2発明においても、第1発明に関連して説明したように、ウエハ38の垂直位置(上下位置)を調節する機構を付加すれば、直前に行った(或いは試行的に行った)エッチング結果を検証することにより、後続のエッチング処理においてより良好なエッチング均一性を実現することができる。ウエハ38の垂直方向の位置制御は、平行平板電極36及び37の距離を変化させないで全体を垂直方向に移動させてもよいし、電極37のみを垂直方向に移動できるようにしてもよい。また、ウエハを移動させずにダイポールリング磁石を移動させてもよい。
次に、第3発明について説明する。この第3発明は、複数の柱状の異方性セグメント磁石をリング状に配置したダイポールリング磁石を備えたマグネトロンプラズマ用磁場発生装置において、エッチング処理されるウエハの表面に対する磁場の方向を制御する磁場制御(調整)手段を、上記ダイポールリング磁石の上部端部付近及び/或いは内部に少なくとも1つ以上設けたことを特徴とする。
第3発明の第1の実施の形態を図9〜図13を参照して説明する。この第1の実施の形態によれば、2極に着磁したリング状磁石80をダイポールリング磁石35の上部の端部付近に配置する。リング状磁石80は、電極板36及び37間に発生する電界を乱さないために電極板36の上方に配置するのが好ましい。更に好ましくは、電極板36の位置にもよるが、例えば、電極板36を図9に示す位置より下げて第1ダイポールリング磁石の長さの半分以下としても、リング状磁石は第1ダイポールリング磁石の長さの半分より上に配置させるとよい。リング状磁石80の磁化方向(着磁方向)はダイポールリング磁石35に生ずる水平磁場に対して直角方向である。更に、磁化方向が反転する境界線(図6及び図7の82)は、ダイポールリング磁石の磁界の方向と直角になっている。即ち、ダイポールリング磁石35の中心部付近の磁界の方向と直角である。
リング状磁石80を更に詳しく説明する。図10(a)に示すように、リング状磁石80の中心軸84(紙面に垂直方向)を含む面で2極分割した一方が第1の方向に磁化され他方が第1の方向と逆方向に磁化されている。リング状磁石80は、例えば、半円環状の部品80a及び80bを夫々厚み方向に磁化した後、図10(a)に示すように、80a及び80bの磁化方向が逆になるように接着剤などを使用して組み合わせる。半円環状の部品80a及び80bを直接接触させて組み合わせてもよいし、或いは、80a及び80bをその間に薄い非磁性体膜を介して組合せてもよい。
尚、リング状磁石は、図10(b)に示すように、磁石の厚み方向に垂直の断面が四角形の小磁石を複数個並べたリング状磁石(86で示す)であってもよい。装置が大型になれば、リング状磁石を図10(b)のように構成することにより、その製作費を低減できるという効果がある。尚、図10(b)において、複数の小磁石を配置する支持台89a及び89bは非磁性体であり、支持台89a及び89bの形状は図示のように矩形でもよく或いは半円形としてもよい。勿論、上記の小磁石の断面は四角形に限らず矩形、三角形、円形などの他の形状とすることも可能である。尚、リング状磁石80及び86は、夫々、その中心軸を中心にして回転可能(少なくとも180°回転可能)にすることにより後述する効果を奏することができる。
リング状磁石80は、その中心軸84がダイポールリング磁石35の中心軸と一致或いは略一致するように配置される。更に又、リング状磁石80の直径はダイポールリング磁石35のリング内径よりも小さくなっている。これは、リング状磁石80をダイポールリング磁石35のリング内部に配置できるようにするためである。
図11を参照して、従来のダイポールリング磁石35のみの場合に発生する磁場と、第3発明に係る第1の実施の形態による磁場発生の違いを説明する。
図11(a)は従来のダイポールリング磁石35(図31)のA−B断面での磁力線を示す。水平方向(横方向)の破線92はダイポールリング磁石35の長さ方向に直角の中央断面(長さ方向の中心軸に直角で且つ磁石の中心部の断面)C−Dに含まれている。上述したように、この部分での磁力線は略々平行(中心軸と直角)となっているが、ダイポールリング磁石35の中心軸に沿って端部方向に行くにしたがって磁力線の曲がりが大きくなる。
一方、図11(b)は、従来のダイポールリング磁石35に第3発明の第1実施の形態に係るリング状磁石80を使用した場合のA−B断面(図9)での磁力線を示している。図11(b)から明らかなように、ダイポールポールリング磁石35の上部近傍に設ける2極に着磁されたリング状磁石80により、図の右側では下向きの磁界が発生し、図の左側では上向きの磁界が発生するので、ダイポールリング磁石35の中央断面C−D付近の磁力線は上方に向かって凸状に変化している。更に、図11(c)に示すように、リング状磁石80をその中心軸の廻りに180°回転させると、今度は、ダイポールリング磁石35の中央断面C−D付近の磁力線は下方に向かって凸状に変化している。
ところで、リング状磁石80が、ダイポールリング磁石35の中央断面付近の磁力線に与える影響は、中央断面C−Dからリング状磁石80までの距離Z(図9参照)によって変化する。即ち、この距離Zを調整することによってダイポールリング磁石35の中央断面C−D付近の磁力線の曲り具合(磁場の方向)を制御できる。
図11(d)は、第1発明の場合と同様に、ウエハの端部での磁場方向θを定義する図である。
上述のように、中央断面C−Dからリング状磁石80までの位置Zを変化させて場合の、ウエハ端部38aの磁場角度θと被エッチング材料に対するエッチング速度のウエハ面内均一性の関係を、上記処理条件1〜4について実験により調べた。この結果、図4〜図7で説明したと同様の結果が得られた。
上述の説明では1つのリング状磁石80を使用している。しかし、複数個のリング状磁石をダイポールリング磁石の中心軸(長軸)方向に重ねるように設置して使用してもよい。
図12はリング状磁石を2つ使用した場合を説明する図である(2つのリング状磁石を80(1)及び80(2)で示す)。リング状磁石を2つ使用したことを除けば図12は図9と同一である。リング状磁石80(1)及び80(2)は夫々の中心軸を中心にして回転可能であり、夫々を180°回転させるかどうかによりリング状磁石による磁場制御の効果を増大或いは無効とすることができる。
図13(a)は、2つのリング状磁石80(1)及び80(2)を夫々の磁化方向が同一となるようにした場合であり、図11(b)の場合に相当するが、ダイポールリング磁石35の中央断面C−D付近の磁力線に与える影響を大きくすることができる。従って、ウエハの端部38aでの磁場方向θを負方向に大きくしたい応用例において、リング状磁石を1つ使用した場合に比べて、2つのリング状磁石の移動距離を短くできるという利点がある。一方、図13には図示していないが、リング状磁石80(1)及び80(2)を回転させてこれらの磁石の磁力線方向を図13(a)と逆にすることもできる(図11(c)の場合に相当)。
図13(b)は、図13(a)の状態からリング状磁石80(2)のみを180°回転させて2つのリング状磁石80(1)及び80(2)の磁化方向が夫々逆方向になるようにした場合を示す。この場合には、2つのリング状磁石の磁化の強さが等しければ、リング磁石がダイポールリング磁石35の中央断面C−D付近の磁力線に与える影響を略ゼロとすることができる。つまり、中央断面C−D付近のθを略々ゼロにすることができる。エッチング条件によっては中央断面C−D付近のθを略々ゼロにしたい場合があるので、リング状磁石80(1)及び80(2)を回転させることができるようにすれば、リング状磁石を取り外すか或いはリング状磁石の影響が中央断面C−D付近の磁力線に及ばない距離まで遠ざけなければならないという問題を回避することができる。
更に、リング状磁石の数を3以上に増やすことも可能である。図13(c)は、リング状磁石を4つにした場合を示している。このように、リング磁石の数を増やして夫々の磁石を回転可能とすれば、複数のリング状磁石全体として、ダイポールリング磁石35の中央断面C−D付近の磁力線に与える影響を、細かく且つ大幅に制御することが可能となる。従って、例えば、中央断面C−Dとリング状磁石との可変距離Zを大きくしたくない場合、或いは、ウエハの端部での磁場方向θを大きく制御したい場合には特に有効である。
上述の第3発明の第1の実施の形態の具体例を説明する。本発明者が行なった実験によると、ダイポールリング磁石の長さRLを165mmとし、断面の一辺が60mmの四角形の柱状のNd−Fe−B系磁石からなる16個の異方性セグメント磁石40を16個を用い、スペーサ41を挟んだ上下のセグメント磁石40の長さMLを共に37.5mm、スペーサの長さを90mmとした。リング状磁石を2つ使用し、夫々のリング状磁石の外径D2を525mm、2つのリング状磁石間の距離D1を150mm、厚みを1.5mmとした。図13(a)のように、2つのリング状磁石の磁化方向が同一となるようにして配置し、中央断面C−Dから下方のリング状磁石80(1)までの距離Zを112.5mmとしたとき、ダイポールリング磁石35の中央断面C−D付近に置いたウエハの端部38aでの磁場の方向θは22°となった。この状態から、2つのリング状磁石80(1)及び80(2)を上方に移動させてZ=262.5mmとしてときにθは5°となった。
一方、図13(a)の状態から、図13(b)に示すように、リング状磁石80(2)のみを180°回転させて2つのリング状磁石80(1)及び80(2)の磁化方向が夫々逆方向になるようにするとθを略々ゼロにすることができた。更に、図13(a)の状態から、リング状磁石80(1)及び(2)の双方を共に180°回転させて、リング状磁石80(1)及び(2)の磁化方向をちょうど図13(a)と逆方向にすると、Z=112.5mmではθは−22°となり、Z=262.5mmではθは−5°となった。したがって、2枚構造としたリング状磁石80(1)及び80(2)を、例えば、Z=112.5mmから262.5mmに変化させ、且つ、リング磁石を回転させれば、θを−22°から−5°、0°、5°から22°の範囲で変化させ得ることが判った。
次に、本願の第3発明の第2の実施の形態を図9及び図10参照して説明する。この第2の実施の形態は、第1の実施の形態に用いたリング状磁石を半円状に巻回したコイル(電磁石)100(1)及び100(2)で置換したものであり、その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
コイル100(1)及び100(2)の形状(構造)は、図9及び図10に示した磁化方向の境界線82に相当する線を中心にして対称であり、この対称線は、第1の実施の態様と同様に、ダイポールリング磁石35が発生する磁界の方向と直角である。第1の実施の形態から理解されるように、コイル100(1)及び100(2)は発生する磁場方向が逆となるようにするため、コイル100(1)及び100(2)に流れる電流は逆方向にする。この第3発明に係る第2の実施の形態によれば、コイルに流す電流値を制御することによってコイルが発生する磁場強度を制御し、ダイポールリング磁石35の中央断面C−D付近に置いたウエハの端部での磁場の方向θの制御を行なうことができる。
上述の第3発明の第2の実施の形態の具体例を説明する。本発明者が行なった実験によると、ダイポールリング磁石の長さRLを165mmとし、断面の一辺が60mmの四角形の柱状のNd−Fe−B系磁石からなる16個の異方性セグメント磁石40を16個を用い、スペーサ41を挟んだ上下のセグメント磁石40の長さMLを共に37.5mm、スペーサの長さを90mmとした。2つのコイルの外径DC(図14参照)を525mm、2つのコイル間の距離Xを75mmとし、巻線の方向を図14の矢印の方向とし、コイルの巻回数は夫々100ターンとした。中央断面C−Dからコイルまでの距離Zを112.5mmとしたとき、ダイポールリング磁石35の中央断面C−D付近に置いたウエハの端部38aでの磁場角度θをコイルに流す電流で変化させた。コイル100(1)及び(2)に電流10Aを図14の矢印で示す方向と逆方向に流したときθは−12°、電流を流さないときθは0、コイル100(1)及び(2)に電流10Aを図14の矢印で示す方向と同方向にコイルに流したときθは12°となった。
上述したように、コイルに流す電流の値を変えることによりθを制御できる。図15は、上述のコイル100(1)及び(2)の起磁力(アンペア回数(ampere-turn))を変えることにより、ダイポールリング磁石35の中央断面C−D付近に置いたウエハの端部38aでの磁場角度θを制御する一例を示す図である。
本願の第4発明を図16〜図18を参照して説明する。この第4発明は、図31に示した従来のダイポールリング磁石に、図16に示すように、ダイポールリング磁石の内部に鉄などの磁性体のリング81を配置し、この磁性体リング81を上下方向に移動させることにより、ダイポールリング磁石35の中央断面C−D付近に置いたウエハの端部での磁場の方向θを制御することを特徴とする。磁性体リング81は、図16に示すように、ダイポールリング磁石35の内部に設けたエッチングなどの処理室51とダイポールリング磁石35の内壁との間に設けられる。
上述したように、図16に示した第4発明の構成は、図31に示した従来のダイポールリング磁石に磁性体リング81を設けたことにあるので、明細書の記載を簡潔にするため、図16の説明は省略する。
図17を参照して、従来のダイポールリング磁石35のみの場合に発生する磁場と、本願の第4発明に係る実施の形態による磁場発生の違いを説明する。図17(a)は従来のダイポールリング磁石35(図31)のA−B断面での磁力線を示す。水平方向(横方向)の破線92はダイポールリング磁石35の長さ方向に直角の中央断面(長さ方向の中心軸に直角で且つ磁石の中心部の断面)C−Dに含まれている。既に述べたように、この部分での磁力線は略々平行(中心軸と直角)となっているが、ダイポールリング磁石35の中心軸に沿って端部方向に行くにしたがって磁力線の曲がりが大きくなる。
一方、図17(b)は、従来のダイポールリング磁石35に本願の第4発明に係る磁性体リング81を用いた場合のA−B断面(図16)での磁力線を示している。図17(b)に示すように、磁性体リング81をダイポールリング磁石35の内部で且つ上部に移動させると、ダイポールリング磁石35の上部セグメント磁石40(1)の磁束が弱まり、ダイポールリング磁石の中央断面C−D付近の磁力線が上方に凸となるように変化する。一方、図17(c)に示すように、上述の場合と逆に、磁性体リング81をダイポールリング磁石35の内部で且つ下部に移動させると、ダイポールリング磁石35の下部セグメント磁石40(2)の磁束が弱まり、ダイポールリング磁石の中央断面C−D付近の磁力線が下方に凸となるように変化する。図17(d)は、図3及び図11の(d)と同様に、ウエハ38の端部での磁場94の方向θを定義するものである。
このように、磁性体リング81を上下方向に移動させることによって、ダイポールリング磁石の中央断面C−D付近の磁力線の方向(即ち磁場の方向)を制御することができる。
尚、磁性体リング81の長さH(図16参照)はダイポールリング磁石の長さRLの半分以下にした方がよい。その理由は、磁性体リング81を上下方向に移動させてダイポールリング磁石の中央断面C−D付近の磁力線の方向を制御する場合、磁性体リング81が上部及び下部セグメント磁石40(1)及び40(2)の両方の内面に位置すると、上部及び下部セグメント磁石両方の磁束を弱めて中央断面C−D付近の磁力線を変化させる効力が著しく低下するためである。
上述の本願の第4発明の実施の形態の具体例を説明する。本発明者が行なった実験によると、ダイポールリング磁石の長さRLを165mmとし、断面の一辺が60mmの四角形の柱状のNd−Fe−B系磁石からなる16個の異方性セグメント磁石40を16個を用い、スペーサ41を挟んだ上下のセグメント磁石40の長さMLを共に37.5mm、スペーサの長さを90mmとした。更に、磁性体リングの外径Dを540mm、厚みtを7.5mm、高さHを75mmとし、中央断面C−Dから下方に測った距離Zを75mm(中央断面C−DでのZの位置を0とするとZ=−75mm)としたとき、ダイポールリング磁石35の中央断面C−D付近に置いたウエハの端部38aでの磁場94の方向θは12°となった。一方、Z=0mmの場合はθは0、Z=75mmではθは−12°となり、磁性リング81を±75mmの範囲を移動させることによりθは±12°の範囲で制御できた。
図18は、ダイポールリング磁石35内に磁性体リング81を設置して上下方向に移動させたとき、ダイポールリング磁石35の中央断面C−D付近に置いたウエハの端部38aでの磁場角度θの変化の例を示す図である。即ち、磁性体リング81の移動によりθを制御できることが判る。
ダイポールリング磁石35内に磁性体リング81を設置して上下方向に移動させたときに、ウエハ端部38aの磁場角度θと被エッチング材料に対するエッチング速度のウエハ面内均一性の関係を、上記処理条件1〜4について実験により調べた。この結果、図4〜図7で説明したと同様の結果が得られた。
本願の第5発明を図19〜図22を参照して説明する。この第5発明は、例えば、図31に示した従来のダイポールリング磁石をその中心軸(長さ方向)に直角の方向に2分し、2分した何れか一方をダイポールリング磁石の長さ方向に移動できるようにし、ダイポールリング磁石の中央断面付近に置いたウエハの端部38aでの磁場角度θを制御することを特徴とする。上述したように、ウエハ端部38aでの磁場角度を制御すれば、ウエハの他端での磁場強度も同様に制御できる。
図19は、第5発明に係るマグネトロンプラズマ用磁場発生装置の実施の態様を示す図である。図19に示すように、ダイポールリング磁石88を、その中心軸方向(長さ方向)に配置した上部及び下部ダイポールリング磁石88a、88bとし、これらのダイポールリング磁石88a、88bを所定間隔を置いて配置する。そして、例えば、ダイポールリング磁石88aをその中心軸方向(長さ方向)に移動できるようにしている。
図20を参照して、本願の第5発明を更に説明する。図20(a)は図3(a)に対応し、既に説明したように、従来のダイポールリング磁石35(図25)のA−B断面での磁力線を示す。水平方向(横方向)の破線92はダイポールリング磁石35の長さ方向に直角の中央断面(長さ方向の中心軸に直角で且つ磁石の中心部の断面)C−Dに含まれている。この部分での磁力線は略々平行(中心軸と直角)となっているが、ダイポールリング磁石35の中心軸に沿って端部方向に行くにしたがって磁力線の曲がりが大きくなる。
図20(b)は、上部ダイポールリング磁石88aを図19に示した初期の位置から上方に移動させた場合、ダイポールリング磁石88のA−B断面での磁力線がどのようになるかを示している。つまり、上部ダイポールリング磁石88aを初期の位置から上方に移動させると、ダイポールリング磁石88の長さ方向の中心が上方に移動するので、ダイポールリング磁石88の初期の中央断面C−D付近の磁力線は下方に凸となるように変化する。第1〜第4発明に関しても説明したように、ウエハ38の端部での磁場方向の磁力線94の角度θを図20(c)のように定義する。
上述の本願の第5発明の実施の形態の具体例を説明する。本発明者が行なった実験によると、ダイポールリング磁石の長さRLを165mmとし、断面の一辺が37.5mmの四角形の柱状のNd−Fe−B系磁石(Br=1.3テスラ(T)))からなる16個の異方性セグメント磁石40を16個を用い、スペーサ41の長さを15mmとし、スペーサ41に接した上下のセグメント磁石90a及び90bの長さML1及びML2を共に75mmとした。上部ダイポールリング磁石88aを、図19に示す初期位置(Z=0)から上方に112.5mm移動させたとき(Z=112.5mm)、図19に示すダイポールリング磁石88の中央断面C−D付近に置いたウエハの端部38aでの磁力線94の方向(磁場角度)θを0°から約7°までにすることができた。
上述の上部ダイポールリング磁石88aの上方移動と、磁場角度θとの関係を図21において「セグメント磁石サイズ1」の場合として図示している。
また、ダイポールリング磁石の長さRLを165mmとし、断面の一辺が60mmの四角形の柱状のNd−Fe−B系磁石(Br=1.3テスラ)からなる16個の異方性セグメント磁石40を16個を用い、スペーサ41の長さを90mmとし、上のセグメント磁石90aの長さML1を52.5mm、下のセグメント磁石90bの長さML2を22.5mmとした。上部ダイポールリング磁石88aを、図19に示す初期位置から上方に112.5mm移動させたとき、図19に示すダイポールリング磁石88の中央断面C−D付近に置いたウエハの端部38aでの磁力線94の方向(磁場角度)θを約7°から約18°までにすることができた。
上述の上部ダイポールリング磁石88aの上方移動と、ウエハ端部38aでの磁場角度θとの関係を図21において「セグメント磁石サイズ2」の場合として図示している。
上述のように、上部ダイポールリング磁石88aを上方に移動させたときに、ウエハ端部38aでの磁場38aの方向(磁場角度θ)と被エッチング材料に対するエッチング速度のウエハ面内均一性の関係を、上記処理条件1〜4について実験により調べた。この結果、図4〜図7で説明したと同様の結果が得られた。
図33に示したマグネトロンエッチング装置に第5発明を使用すれば、このマグネトロンエッチング装置の大幅な改良が可能である。即ち、図22に示すように、2分割された上部及び下部のダイポールリング磁石88a及び88bの空間を、エッチング室(A)とロードロック室(C)の搬送路の一部として使用する。つまり、ロードロック室(C)内に設けた搬送アーム54が、カセット室(B)からウエハを1枚取出し、このウエハを、ダイポールリング磁石88a及び88bの空間を解してエッチング室(A)に搬入する。従って、従来例のように、エッチング室(A)内にウエハの昇降装置を設ける必要がなくなるので、ウエハの搬送系を単純にすることができる。このため、装置を小型化・簡略化することができると共に、昇降機構を不要としたのでこの機構からのゴミの発生による問題を完全に防止できる。
次に第6発明を説明する。第6発明は、要約すると、図31に示した従来のダイポールリング磁石を構成する複数のセグメント磁石の内のいくつかの磁化方向を、ダイポールリング磁石の中心軸に直角の方向(以下この方向を図面に即して平行方向という場合がある)に対して角度をつけたことを特徴とする。このようなダイポールリング磁石を用いたマグネトロンプラズマ用磁場発生装置によれば、第1〜第5発明と同様、ダイポールリング磁石の中央断面C−D付近の磁場方向(磁場角度)を上方或いは下方に凸状とすることができ、中央断面C−D付近においたウエハのエッチング等のプラズマ処理速度を均一化することができるという効果を有する。
第6発明の実施の形態を図23〜図27を参照して説明する。上述したように、第6発明と図31の従来例との相違は、第6発明に係る磁場発生装置を構成する複数のセグメント磁石の内の幾つかのセグメント磁石はその磁化方向が異なっていることにある。それ以外は第6発明と図31の従来例は同一である。従って、説明を簡潔にするため、図23では、ダイポールリング磁石全体を参照番号106で示し、このダイポールリング磁石106を構成する上下のダイポールリング磁石を夫々108A及び108Bで示し、更に、上部のダイポールリング磁石108Aに設けたセグメント磁石を110a(1)〜110a(16)で示し、下部のダイポールリング磁石108Bに設けたセグメント磁石を110b(1)〜110b(16)で示し、その他の部分は、図31と同一の参照番号を付してある。尚、上部及び下部のセグメント磁石を総体的に説明する場合、或いは、個々の磁石を特定しない場合には、上部及び下部のセグメント磁石を110a及び110bで示す場合がある。
図23(a)はダイポールリング磁石106の上面図であり、図23(b)は図23(a)のダイポールリング磁石106をA−Bに沿って切断した断面図である。尚、図示していないが、下部のダイポールリング磁石108Bに設けたセグメント磁石110b(1)〜110b(16)は、夫々、上部のダイポールリング磁石108Aに設けたセグメント磁石を110a(1)〜110a(16)の下に位置する。
図23のダイポールリング磁石106は、図31の場合と同様に、上下に配置したセグメント磁石の間に非磁性体のスペーサ41を設け、セグメント磁石110a及び110bは夫々非磁性のリング状の架台42に収められている。また、セグメント磁石110a及び110bの数及び配置は図31で説明した通りである。更に、ダイポールリング磁石106の内部には平行に設けた電極板36及び37を設け、電極板37の上にウエハ38を戴置することも同様である。
図23(b)に示すように、セグメント磁石110a(5)は、ダイポールリング磁石の中心軸に直角の方向(即ち中央断面C−Dと平行方向)に対して上方に約45°の角度がつけられている(この方向の角度を正とする)。一方、セグメント磁石110a(5)と反対側に設けられた他のセグメント磁石110a(13)は、ダイポールリング磁石の中心軸に直角の方向に対して下方に約45°の角度がつけられている(この方向の角度を負とする)。この場合、図23からは明らかではないが、線E−Fで2分した右側のセグメント磁石110a(2)〜110a(8)の夫々の磁化方向は同一角度で上方向であり、線E−Fで2分した左側のセグメント磁石110a(10)〜110a(16)の夫々の磁化方向は同一角度で下方向である。更に、ダイポールリング磁石106のリング内の中央部に形成される磁界43の方向と逆方向に磁化されたセグメント磁石110a(1)及び110a(9)の磁化方向は水平とする。更に又、図23に示した実施の形態では、下部ダイポールリング磁石108Bのセグメント磁石110bの磁化方向はすべて従来例と同様にダイポールリング磁石の中心軸に直角の方向(水平)である。上述のセグメント磁石の磁化方向は、図25及び図26で説明する「セグメント磁石の磁化方向とウエハ端部での磁場角度θとの関係」における場合(C)に相当する。
図24を参照して、本願の第6発明を更に説明する。図24(a)は図3(a)に対応し、既に説明したように、従来のダイポールリング磁石35(図31)のA−B断面での磁力線を示す。水平方向(横方向)の破線92はダイポールリング磁石35の長さ方向に直角の中央断面(長さ方向の中心軸に直角で且つ磁石の中心部の断面)C−Dに平行している。この部分での磁力線は略々平行(中心軸と直角)となっているが、ダイポールリング磁石35の中心軸に沿って端部方向に行くにしたがって磁力線の曲がりが大きくなる。
図24(b)は、セグメント磁石110a及び110bの磁化方向を、図23について説明した磁化方向の場合の「ダイポールリング磁石106のA−B断面での磁力線」の様子を示している。この場合、磁化方向を水平方向に対して角度をつけた上部セグメント磁石110aの内側(リング内部側)の磁極が下側にずれ、一方、下部セグメント磁石110bの夫々の内側及び外側の磁極の中心は変わっていないので、ダイポールリング磁石106の水平磁界の面が下げられた結果、中央断面C−D付近の磁力線は上方に凸となるようになる。
図24(c)は、図23のセグメント磁石110a(2)から110a(8)の磁化方向を下方向とし、セグメント磁石110a(10)から110a(16)の磁化方向を上方向とし、更に、セグメント磁石110bの全部の磁化方向を水平方向にした場合の「ダイポールリング磁石106のA−B断面での磁力線」の様子を示している。この場合、図24(b)に示す場合とは逆に、中央断面C−D付近の磁力線は下方に凸となるようになる。この場合は、図25及び図26で説明する「セグメント磁石の磁化方向とウエハ端部での磁場角度θとの関係」における場合(F)に相当する。
図24(d)は、図3、図11、図17、及び図20と同様に、ウエハ38の右側の端部での磁場方向の磁力線94の角度θを定義したものである。
図25は、セグメント磁石110a及び110bの磁化方向を変えた場合((A)〜(I)で示す)のウエハ38の右側端部(図面上)の角度θの概略を示したものである。セグメント磁石110a及び110bの一方或いは両方の磁化方向を平行方向に対して角度をつける場合、ダイポールリング磁石106のリング内の中央部に形成される磁界43の方向と逆方向に磁化されたセグメント磁石の磁化方向は水平とする。更に、中心線E−Fに対して対称の位置にある右側のセグメント磁石110a(2)〜110a(8)と左側のセグメント磁石110a(10)〜110a(16)は、磁化方向は逆でありその角度の絶対値は同一である。
図26は、図25に示したセグメント磁石110a及び110bの磁化方向を変えた場合(A)〜(I)について、セグメント磁石の磁化方向の角度及びウエハ38の右側端部の角度θについての本願の発明者が行った結果を示した表である。上述したように、中心線E−Fに対して対称の位置にある左側のセグメント磁石110a(10)〜110a(16)は、右側のセグメント磁石110a(2)〜110a(8)と磁化方向は逆でありその角度の絶対値は同一であるので、その磁化方向の角度の記載は省略してある。
本発明者が行なった実験では、ダイポールリング磁石の長さRLを165mmとし、一辺が60mmの四角形の柱状のNd−Fe−B系磁石(Br=1.3テスラ)からなる異方性セグメント磁石110a及び110bを32個用い(ML=37.5mm)、スペーサ41の長さを90mmとした。セグメント磁石110a(2)〜110a(8)の磁化方向を平行方向に対して上方に45°の角度とし、セグメント磁石110a(10)から110a(16)の磁化方向を平行方向に対して下方に45°の角度とし、セグメント磁石110a(1)及び110a(9)の磁化方向を平行とした。一方、セグメント磁石110bの磁化方向は水平方向とした。このとき図23に示すダイポールリング磁石106の中央断面C−D付近に置いたウエハの端部での磁力線94の方向(磁場の方向)θを−10.3°にすることができた(図26のC)。同様にして、セグメント磁石110a及び110bの水平方向に対する磁化方向の角度を変えて実験を行った結果を磁化方向A、B、D〜Iとして図26に示す。磁化方向による分類Eは、図3(a)の場合に相当する。
図27は、図26で示した磁化方向A〜Iの夫々に対するウエハの右端部での磁場角度θをグラフで示すものである。
上述したように、上下に配置された第1及び第2のダイポールリングの少なくともいずれか一方のセグメント磁石の磁化方向を水平方向に対して角度をつけ、ウエハ端部の磁場角度θと被エッチング材料に対するエッチング速度のウエハ面内均一性の関係を、上記処理条件1〜4について実験により調べた。この結果、図4〜図7で説明したと同様の結果が得られた。
第6発明においても、第1発明に関連して説明したように、ウエハ38の垂直位置(上下位置)を調節する機構を付加すれば、直前に行った(或いは試行的に行った)エッチング結果を検証することにより、後続のエッチング処理においてより良好なエッチング均一性を実現することができる。ウエハ38の垂直方向の位置制御は、平行平板電極36及び37の距離を変化させないで全体を垂直方向に移動させてもよいし、電極37のみを垂直方向に移動できるようにしてもよい。また、ウエハを移動させずにダイポールリング磁石を移動させてもよい。
次に本願の第7発明について説明する。第7発明は、図31に示した従来例のダイポールリング磁石35自体を上下方向に移動させることを特徴とする。ダイポールリング磁石35は、例えば図33に示すように(図33ではダイポールリング磁石は64で示されているが)エッチング室の外に配置されている。この第7発明によっても、第1〜第6発明と同様、ダイポールリング磁石の中央断面C−D付近の磁場方向(磁場角度)を上方或いは下方に凸状とすることができ、従って、中央断面C−D付近に置いたウエハ(被処理体)の端部(周辺部)での磁場角度を調節することができる。このため、中央断面C−D付近においたウエハのエッチング等のプラズマ処理速度を均一化することができるという効果を有する。
本願の発明者は、第7発明の効果を確かめるため、図31の電極板36及び37の距離を固定したまま、ダイポールリング磁石35を上下に移動させてウエハ周辺部での磁場角度を調節してエッチングの均一性を測定した(図28(a))。更に、第7発明の実験結果との比較のために、ダイポールリング磁石35を上下に移動させないで、図31の下側の電極板37を上下させて(即ち電極板36及び37の距離を変化させて)エッチングの均一性を測定した(図28(b))。
上記実験において、ウエハ端部での磁場角度θは5.8°、8.9°、12.0°の場合について調べ、図28では、これらの角度で測定したエッチ速度を夫々(1)(2)(3)で示している。また、エッチング速度はウエハ表面の直交する2つの直径方向のウエハ周辺(端部)から3mmより内側領域の複数箇所での膜厚を、エッチング処理前後で測定し、その差(エッチング量)を処理時間で割ることにより求めた。なお、被エッチング材料としてシリコン酸化膜を使用した。下記の処理条件(5)は第7発明に関し、処理条件(6)は比較例に係わるものである。
[処理条件5]
ウエハ直径:200mm
高周波電源周波数:13.56MHz
高周波電源電力:1500W
電極間ギャップ:27mm
ウエハ中心部の磁場強度:約120Gauss
被エッチング膜:シリコン酸化膜
エッチングガス:C4F8/CO/Ar/O2=10/50/200/5sccm
チャンバ内圧力:45mTorr
サセプタ温度:40℃
[処理条件6]
ウエハ直径:200mm
高周波電源周波数:13.56MHz
高周波電源電力:1500W
電極間ギャップ:
(1)磁場角度θが5.8°のとき27mm
(2)磁場角度θが8.9°のとき37mm
(3)磁場角度θが12.0°のとき47mm
ウエハ中心部の磁場強度:約120Gauss
被エッチング膜:シリコン酸化膜
エッチングガス:C4F8/CO/Ar/O2=10/50/200/5sccm
チャンバ内圧力:45mTorr
サセプタ温度:40℃
図28(a)及び(b)から分かるように、第7発明によれば、平行電極板の間の距離を変化させる比較例に比べてエッチング均一性を向上させることができた。
本願の発明に係る方法によりエッチング均一性を向上させる場合には、先ず、任意のエッチング処理後に前記被処理体(ウエハ)の端部と中央部でのエッチング速度を測定する。次に、この測定結果に基づき、被処理体の端部(即ち周辺部)でのエッチング速度を被処理体の中央部でのエッチング速度に対して小さくしたい場合には、被処理体端部での磁場角度を最初の測定時の磁場角度より大きくして次のエッチング処理を行ない、一方、上記の測定結果に基づき、被処理体の端部でのエッチング速度を被処理体の中央部でのエッチング速度よりも大きくしたい場合には、端部での磁場角度を最初の測定時の磁場角度に対して小さくして次のエッチング処理を行なうようにすればよい。このように、先ず、試行的に行なった被処理体の直径方向のエッチングプロファイルに基づいて、後続するエッチング処理を行なえば、均一性の良好なエッチングを行なうことができる。