JP5304522B2 - 加工性に優れた高強度鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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特許文献1に提案された鋼板は、耐衝撃特性を向上させるためにマルテンサイトの硬度を高めたものであるが、穴広げ性を確保するため、マルテンサイトの硬さとフェライトの硬さの比を制限している。特許文献2及び3には、マルテンサイトの分率、粒径や、マルテンサイトの硬さとフェライトの硬さの比、固溶C量を制御し、穴広げ性を向上させた複相鋼板が提案されている。更に、特許文献4に提案された複相鋼板では、特に、マルテンサイトとフェライトとの界面へのCの濃化を抑制している。
特許文献5に提案された方法は、焼戻しによってセメンタイトを析出させ、マルテンサイトの硬さを低下させるものである。特許文献6には、Alの添加によって炭化物の生成を抑制し、機械特性のばらつきを低減させる方法が提案されている。
(2) 質量%で、REM:0.0100%以下、Ca:0.0100%以下の一方又は双方を含有することを特徴とする上記(1)に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
(5) 上記(1)又は(2)に記載の化学成分を有する鋼片を、1050〜1300℃に加熱し、仕上温度を850〜1000℃として熱間圧延を行い、600〜750℃の範囲内まで一次水冷し、3〜15s空冷した後、350℃以下まで二次水冷し、更に、溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、480℃以上で合金化処理を施すことを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
Ac1=723−10.7Mn+29.1Si ・・・ (式1)
(式1)において、Mn及びSiは各元素の含有量[質量%]である。
(7) 上記(1)又は(2)に記載の化学成分を有する鋼片を、熱間圧延して、下記(式1)によって求められる冷間圧延し、Ac1〜Ac1+100[℃]に加熱し、60〜180s保持する焼鈍を行い、20℃/s以下の冷却速度で600〜700℃の範囲内に一次冷却した後、350℃以下まで20℃/s以上の冷却速度で水冷する二次冷却を行い、更に、溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、480℃以上で合金化処理を施すことを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
Ac1=723−10.7Mn+29.1Si ・・・ (式1)
(式1)において、Mn及びSiは各元素の含有量[質量%]である。
(9) 上記(1)又は(2)に記載の化学成分を有する鋼片を、熱間圧延して、冷間圧延し、下記(式1)によって求められるAc1〜Ac1+100[℃]に加熱し、60〜180s保持する焼鈍を行い、20℃/s以下の冷却速度で600〜700℃の範囲内に一次冷却した後、350℃以下まで20℃/s以上の冷却速度で水冷する二次冷却を行い、更に、480℃以上の溶融亜鉛めっき浴に浸漬することを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
Ac1=723−10.7Mn+29.1Si ・・・ (式1)
(式1)において、Mn及びSiは各元素の含有量[質量%]である。
(10) 更に、合金化処理を行うことを特徴とする上記(8)又は(9)に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
C:0.04〜0.10%、Si:0.8〜2.0%、Mn:0.5〜2.6%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、フェライトの体積率が90〜95%、残部が焼戻しマルテンサイトからなる金属組織を有する熱延鋼板及び冷延鋼板を製造し、焼戻しを施した。得られた熱延鋼板及び冷延鋼板の穴広げ率を、日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法に準拠して評価した。結果を図1に示す。
その結果、高強度鋼板の穴広げ性を高めるには、焼戻しマルテンサイトの強度への寄与が大きいCの含有量と、フェライトの固溶強化への寄与が大きいSiの含有量との比[C/Si]が、重要であり、図1に示すように、C/Siを0.04以上、0.10未満にすることで、穴広げ率を80%以上に高めることができることがわかった。
Cは、均一伸び及び穴広げ性に影響を及ぼすマルテンサイトの生成及び硬化に寄与する元素である。焼戻しマルテンサイトの体積率を5%以上とし、強度を確保するために、Cの含有量の下限を0.04%以上とする。一方、焼戻しマルテンサイトの強度を低下させ、焼戻しマルテンサイトの体積率を10%以下に制限するため、Cの含有量の上限を0.10%以下とする。
Ca、REMは、酸化物や硫化物の形態の制御に有効な元素であり、好ましい下限値は、それぞれ、0.0005%以上である。一方、過剰に添加すると成形性を損なうことがあるため、Ca、REMの含有量の好ましい上限は、それぞれ、0.0100%以下である。なお、本発明において、REMとは、La及びランタノイド系列の元素を指すものであり、ミッシュメタルにて添加されることが多く、LaやCe等の系列の元素を含有する。金属LaやCeを添加してもよい。
フェライトは、延性を高める組織である。フェライトの体積率が90%未満では、延性、特に、均一伸びを確保することができない。一方、フェライトの体積率が95%超になると、硬質の焼戻しマルテンサイトが少ないため、強度を確保することができない。したがって、フェライトの体積率は、90〜95%とする。
はじめに、熱延鋼板の製造方法について説明する。
まず、常法により、鋼を溶製し、鋳造して、上記の化学成分を有する鋼片を製造する。鋳造は、生産性の観点から、連続鋳造が好ましい。
一次水冷の停止温度が750℃を超えると、空冷時にオーステナイトからフェライトへの変態が不十分になる。そのため、二次水冷した際にマルテンサイトが増加し、90%以上のフェライトを確保することができない。一方、一次水冷の停止温度が600℃未満になると、フェライト変態が不十分なままベイナイト変態が起こってしまい、90%以上のフェライトを確保することができない。
空冷時間は、3s未満では、空冷時のフェライトの生成が不十分になり、90%以上のフェライトを確保することができない。一方、空冷時間が15sを超えると、パーライトが生成し、強度を確保できず、穴広げ性が低下する。
焼戻処理は、480〜700℃で行う。焼戻し温度が480℃未満では、マルテンサイトの軟化が不十分であり、フェライトとの強度差が低減しないため、穴広げ性は向上しない。また、焼戻し温度が700℃を超えると、焼戻しマルテンサイトが大きく軟化し、強度を確保することができない。
焼戻しの保持時間は、30sを超えると、焼戻しマルテンサイトが大きく軟化し、強度を確保することができなくなる。焼戻しの保持時間の下限値は、特に限定せず、480〜700℃の範囲内の温度に到達した後、そのまま冷却してもよい。
Ac1 =723−10.7Mn+29.1Si ・・・ (式1)
(式1)において、Si、Mnは各元素の含有量[質量%]である。
冷却速度が20℃/sを超えると、マルテンサイトの体積率が増加し、フェライトの体積率が低下する。
一次冷却の停止温度は、700℃を超えると、その後の二次冷却によって、マルテンサイトの体積率が増加し、フェライトの体積率が低下する。一方、一次冷却を600℃未満の温度で停止すると、パーライトが生成する。
焼戻処理は、480〜700℃で行う。焼戻し温度が480℃未満では、マルテンサイトの軟化が不十分であり、フェライトとの強度差が低減しないため、穴広げ性は向上しない。また、焼戻し温度が700℃を超えると、焼戻しマルテンサイトが軟化し、強度を確保することができない。
焼戻しの保持時間は、30sを超えると、焼戻しマルテンサイトが軟化し、強度を確保することができなくなる。焼戻しの保持時間の下限値は、特に限定せず、480〜700℃の範囲内の温度に到達した後、そのまま冷却してもよい。
表1に示す化学成分を有する鋼を溶解し、鋳造して得られた鋼片を表2に示す加熱温度に加熱し、表2に示す仕上温度で熱間圧延を行い、表2に示す停止温度まで一次水冷し、表2に示す空冷時間で空冷した後、室温から350℃以下の温度まで二次水冷し、更に、表2に示す焼戻し温度で表2に示す焼戻し時間保持する焼戻処理を行った。表2のFT[℃]は仕上温度、MT[℃]は一次水冷の停止温度、tAC[s]は空冷時間である。
引張強度及び破断伸びは、JIS Z 2201の5号試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して評価した。均一伸びは、最高荷重に達した際の公称伸びである。穴広げ試験は日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法に準拠して評価した。結果を表3に示す。表3のTS[MPa]は引張強度、uEL[%]は均一伸び、tEL[%]は破断伸び、λ[%]は穴広げ率である。
一方、製造No.11はCの含有量とSiの含有量との比[C/Si]が少ないため、焼戻しマルテンサイトが軟化して、鋼板の強度が低くなっている。また、製造No.11は、引張強度が低いため、C/Siは0.035未満であるが、穴拡げ性が高くなっている。
製造No.12、13はCの含有量が多く、C/Siが大きいため、焼戻しマルテンサイトが十分に軟化せず、フェライトとの硬度差が大きくなり、穴広げ性が低くなっている。
製造No.15、16は、C/Siが低く、フェライトが硬化して、穴広げ性が低下している。
製造No.17はC/Siが高く、フェライトの強化が不十分であるため、焼戻しマルテンサイトとフェライトとの硬度差が軽減されず、穴広げ性が低くなっている。
また、製造No.18は、Siの含有量が多く、フェライトが硬化して、均一伸びが低くなっている。
製造No.20は空冷時間が長く、パーライトが生成し、強度および穴広げ性が低くなっている。
製造No.21は焼戻し温度が低いため、焼戻しマルテンサイトの軟化が不十分であり、穴広げ性が低くなっている。
製造No.22は焼戻し温度が高く、強度が低くなっている。
表1に示す化学成分を有する鋼を溶解し、鋳造して得られた鋼片を1150℃に加熱した後、常法で熱間圧延、冷間圧延を施した。更に、表4に示す焼鈍温度に加熱して表4に示す保持時間で保持した後、表4に示す冷却速度1[℃/s]で表4に示す中間温度まで一次冷却し、更に、室温から350℃以下の温度まで水冷し、更に、表4に示す焼戻し温度で表4に示す焼戻し時間保持する焼戻処理を行った。表4に示す冷却速度1[℃/s]は一次冷却の冷却速度であり、中間温度[℃]は一次冷却を終了して、二次冷却(水冷)を開始した温度である。
一方、製造No.33はCの含有量とSiの含有量との比[C/Si]が少ないため、焼戻しマルテンサイトの強度が不足し、鋼板の強度が低くなっている。また、製造No.33は、引張強度が低いため、C/Siは0.035未満であるが、穴拡げ性が高くなっている。
製造No.34、35はCの含有量が多く、C/Siが大きいため、焼戻しマルテンサイトの軟化が不十分で、フェライトとの硬度差が大きくなり、穴広げ性が低くなっている。
製造No.37は、C/Siが低く、フェライトが硬化して、穴広げ性が低下している。
製造No.38は、焼鈍温度が低く、C/Siが低く、フェライトが硬化して、穴広げ性が低下している。
製造No.39はC/Siが高く、焼戻しマルテンサイトとフェライトとの硬度差を軽減できず、穴広げ性が低くなっている。
また、製造No.40は、Siの含有量が多く、フェライトが硬化して、均一伸びが低くなっている。
製造No.42は、一次冷却の停止温度が高いため、焼戻しマルテンサイトが増加し、延性が低下している。
製造No.43は焼戻し温度が低く、焼戻しマルテンサイトの軟化が十分ではなく、フェライトとの強度差が低減されていないため穴拡げ性が低い。
製造No.44は一次冷却の停止温度が低く、パーライトが生成しており、強度および穴広げ性が不足している。
製造No.45は焼戻し温度が高く、製造No.46は焼戻しの時間が長く、強度が低くなっている。
製造No.47は一次冷却の冷却速度が速く、フェライト変態が進まず、マルテンサイトの体積率が高く、延性が低下している。
表1に示す化学成分を有する鋼No.Eを溶解し、鋳造して得られた鋼片を表6に示す加熱温度に加熱し、表6に示す仕上温度で熱間圧延を行い、表6に示す停止温度まで一次水冷し、表6に示す空冷時間で空冷した後、室温から350℃以下の温度まで二次水冷し、更に、表6に示すめっき浴温度で溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、得られた亜鉛めっき鋼板の一部に、表6に示す合金化処理温度および合金化処理時間で合金化処理を施した。表6のFT[℃]は仕上温度、MT[℃]は一次水冷の停止温度、tAC[s]は空冷時間である。
表6及び表7に示したように、溶融亜鉛めっきまたは合金化処理によってマルテンサイトを焼戻すことで、焼戻しと同様、強度及び加工性が確保されている。
表1に示す化学成分を有する鋼No.Eを溶解し、鋳造して得られた鋼片を1150℃に加熱した後、常法で熱間圧延、冷間圧延を施した。更に、表8に示す焼鈍温度に加熱して表8に示す保持時間で保持し、表8に示す冷却速度1[℃/s]で表8に示す中間温度まで一次冷却した後、室温から350℃以下の温度まで水冷し、更に、表8に示すめっき浴温度で溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、得られた亜鉛めっき鋼板の一部に、表8に示す合金化処理温度および合金化処理時間で合金化処理を施した。表8に示す冷却速度1[℃/s]は一次冷却の冷却速度であり、中間温度[℃]は一次冷却を終了して、二次冷却(水冷)を開始した温度である。
表8及び表9に示したように、溶融亜鉛めっきまたは合金化処理によってマルテンサイトを焼戻すことで、焼戻しと同様、強度及び加工性が確保されている。
Claims (10)
- 質量%で、
C:0.04〜0.10%、
Si:0.8〜2.0%、
Mn:0.5〜2.6%
を含有し、Cの含有量とSiの含有量との比[C/Si]が0.04以上、0.10未満であり、
Al:0.150%以下、
P:0.04%以下、
S:0.010%以下、
N:0.010%以下
に制限し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、金属組織が、体積率で、90〜95%のフェライトと5〜10%の焼戻しマルテンサイトとからなることを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板。 - 質量%で、
REM:0.0100%以下、
Ca:0.0100%以下
の一方又は双方を含有することを特徴とする請求項1に記載の加工性に優れた高強度鋼板。 - 引張強度が590〜650MPaであり、均一伸びが17%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
- 請求項1又は2に記載の化学成分を有する鋼片を、1050〜1300℃に加熱し、仕上温度を850〜1000℃として熱間圧延を行い、600〜750℃の範囲内まで一次水冷し、3〜15s空冷した後、350℃以下まで二次水冷し、更に、480〜700℃の範囲内で30s以下保持する焼戻処理を施すことを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
- 請求項1又は2に記載の化学成分を有する鋼片を、1050〜1300℃に加熱し、仕上温度を850〜1000℃として熱間圧延を行い、600〜750℃の範囲内まで一次水冷し、3〜15s空冷した後、350℃以下まで二次水冷し、更に、溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、480℃以上で合金化処理を施すことを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
- 請求項1又は2に記載の化学成分を有する鋼片を、熱間圧延して、冷間圧延し、下記(式1)によって求められるAc1〜Ac1+100[℃]に加熱し、60〜180s保持する焼鈍を行い、20℃/s以下の冷却速度で600〜700℃の範囲内に一次冷却した後、350℃以下まで20℃/s以上の冷却速度で水冷する二次冷却を行い、更に、480〜700℃の範囲内で30s以下保持する焼戻処理を施すことを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
Ac1=723−10.7Mn+29.1Si ・・・ (式1)
(式1)において、Mn及びSiは各元素の含有量[質量%]である。 - 請求項1又は2に記載の化学成分を有する鋼片を、熱間圧延して、冷間圧延し、下記(式1)によって求められるAc1〜Ac1+100[℃]に加熱し、60〜180s保持する焼鈍を行い、20℃/s以下の冷却速度で600〜700℃の範囲内に一次冷却した後、350℃以下まで20℃/s以上の冷却速度で水冷する二次冷却を行い、更に、溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、480℃以上で合金化処理を施すことを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
Ac1=723−10.7Mn+29.1Si ・・・ (式1)
(式1)において、Mn及びSiは各元素の含有量[質量%]である。 - 請求項1又は2に記載の化学成分を有する鋼片を、1050〜1300℃に加熱し、仕上温度を850〜1000℃として熱間圧延を行い、600〜750℃の範囲内まで一次水冷し、3〜15s空冷した後、350℃以下まで二次水冷し、更に、480℃以上の溶融亜鉛めっき浴に浸漬することを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
- 請求項1又は2に記載の化学成分を有する鋼片を、熱間圧延して、冷間圧延し、下記(式1)によって求められるAc1〜Ac1+100[℃]に加熱し、60〜180s保持する焼鈍を行い、20℃/s以下の冷却速度で600〜700℃の範囲内に一次冷却した後、350℃以下まで20℃/s以上の冷却速度で水冷する二次冷却を行い、更に、480℃以上の溶融亜鉛めっき浴に浸漬することを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
Ac1=723−10.7Mn+29.1Si ・・・ (式1)
(式1)において、Mn及びSiは各元素の含有量[質量%]である。 - 更に、合金化処理を行うことを特徴とする請求項8又は9に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
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