JP5302011B2 - 呼吸障害の治療のための組織牽引子 - Google Patents

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Description

関連出願
本願は、2004年2月26日に出願された米国仮特許出願第60/547,897号による優先権を主張して2005年2月28日に出願された国際特許出願第PCT/US2005/006430号の国内段階に移行された2006年7月31日に出願された米国特許出願第10,597,590号の一部継続出願である。これらの出願は全てその参照番号を記すことによってその内容が本願に組み入れられている。本願はまた、2006年2月6日に出願された米国仮特許出願第60/765,638号の優先権も主張しており、この出願もまたその参照符号を記すことによりその内容が本願に組み入れられている。
本発明は、上気道の開通性を維持するための方法及び装置に関する。
いびき、上気道抵抗症候群及び閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は、全て、睡眠時の上気道の狭窄又は障害(睡眠時の呼吸障害)に関係する。国立衛生研究所(NIH)によると、およそ1800万人のアメリカ人が睡眠時無呼吸(睡眠時の呼吸障害)を持っているが、そのうちの50%未満が現在のところ診断を受けている。米運輸省高速道路安全局(NHTSA)によると、年間100,000件の事故と1,500件の交通事故死が居眠り運転に関連している。65才以上のアメリカ人の50%以上に睡眠障害があり、睡眠の問題は65才以上の人口の増加と共に広がって行くであろう。睡眠障害、睡眠不足や過剰な日中の眠気により米国の年間医療費は毎年約160億ドルが付加され、年間500億ドルの生産性の損失となっている。
睡眠障害の病態生理
睡眠障害の多くは喉軟組織が柔らかすぎることで起こる。ヒトの上気道は曲線形という点でユニークであり、この解剖学的変化はヒトの話し言葉の進化と関連する。その結果、ヒトの上気道は他種属より屈曲性があり、陰圧下でより圧潰されやすい。覚醒状態では、上気道筋での一定量の緊張度の存在により圧潰を防ぐ。しかし睡眠時には筋肉の緊張度は上気道筋で減少し、ある敏感な人ではこの弛緩により気道が圧潰する(ホルナー、アールエル(Horner RL)、喉頭筋系の運動制御と閉塞型睡眠時無呼吸の発病の意味(Motor control of the pharyngeal musculature and implications for the pathogenesis of obstructive sleep apnea)、スリープ(Sleep)、1996年、19巻、827−853頁)。
上気道は鼻と喉頭との間の空気を満たす空間を意味する(図1)。上気道で睡眠障害に最も関連した部分は咽頭と呼ばれる喉の後方の空気腔である。咽頭は三つの解剖学的水準に分けられる(図2)。
1)上咽頭は鼻腔背部の咽頭の一部である。
2)口の背後にある部分は中咽頭と呼ばれている。より正確には、これは口蓋帆咽頭と呼ばれるのが最良である。口蓋帆咽頭は、口蓋帆(軟口蓋)と舌湾曲部を含む咽頭の一部に相当する。
3)下咽頭は舌根背後にある。
口蓋帆咽頭は軟組織構造がより多く存在するため、より圧潰されやすく、気流のスペースが少なくなる。口蓋帆咽頭の主要構造は軟口蓋と舌であり、両者は非常に曲がりやすい。軟口蓋は口と鼻の間の障壁として働く。多くの人においては軟口蓋は必要以上に長く、舌と咽頭壁の間を下方に延びている。舌は上気道の最大の筋器官であり、解剖学的に舌端、舌体と舌根に分けられる(図3)。舌湾曲部の大部分は舌体と舌根との接合部にある。
覚醒状態では口蓋帆咽頭の構造はその内筋を継続的に緊張させることによりその形を維持する。睡眠中のようにこの緊張が低下すると、この構造は非常に曲がりやすく伸び易くなる。それを適所に保持する正常な筋緊張なしには、比較的低陰圧で圧潰し易い。筋は睡眠中体全体で弛緩するが、多くの呼吸器筋は活動したままである。具体的には舌を前に引き出す主な筋であるオトガイ舌筋は、睡眠障害中は通常の又は高い活動性を示すことが報告されている。通常オトガイ舌筋は舌を前方へ移動させ、口から突き出させることさえ可能である。なぜオトガイ筋が閉塞を防げないかの理由は説明されていない。
吸息時には胸壁が拡張し、陰圧を発生し空気を鼻と口に吸い込み、咽頭を通って肺に吸い込む。この陰圧により上気道軟組織を変形させ、さらにその気道を狭小化させる。もし気道が十分に狭小化されると、気流は乱流になり軟口蓋を振動させる。軟口蓋の振動によりいびきとして知られる音を発生する。いびきは非常に一般的で、男の50%、女の25%迄の人がかく。いびき自身は医学的問題ではないが、いびきをかく人のベッドの相手にとってはとてつもない問題であり、夫婦関係のひずみの主原因である。
睡眠中に気流の量のわずかな低下や短い閉塞は全ての人に起こる。気流が正常状態の50%以下まで低下するか(呼吸低下)、気流が10秒以上遮断される場合(無呼吸)には、これらの発症は医学的に有意であると判断される。睡眠中の一時間毎に起こる無呼吸と呼吸低下の数を測定して睡眠障害の重症度が診断される。呼吸低下と無呼吸の発症により、睡眠中にある程度の覚醒状態が惹き起こされる。患者の意識は完全には目覚めてはいないが、睡眠パターンが妨げられ、しばしば患者に日中眠たいと感じさせる。呼吸低下か無呼吸の頻度が一時間に5回以上の場合には、上気道抵抗症候群と呼ばれる。これらの患者はしばしば睡眠障害に関連した症状を示す。具体的にはこれらの患者は日中過度に眠たくなる。更に鬱や集中することが困難という繊細な症状もまた一般的報告されている。
技術的にはOSASの診断は睡眠の一時間毎に呼吸低下か無呼吸が平均で10回以上発症するものと定義する。気道が閉塞しても、患者は繰り返し継続的に無理に吸気しようとする。これらの発症は大部分が無音で、更に患者は空気を肺に入れるように必死に努力するような腹部と胸部との運動で特徴付けられる。無呼吸の発症は一分以上続き、この時間の間血液中の酸素レベルは減少する。最後に閉塞に打ち勝って、通常は大きないびきをかくか、或いは患者は息が詰まると感じで目覚める。
OSAS患者の非常に一般的症状は朝の頭痛と酸の逆流である。気道閉塞の間空気を無理に吸気しようとするため、胸部に強大な陰圧を生ずる。この高い陰圧により酸を胃から食道へ引き上げる。酸はずっと口まで進み、声帯と鼻粘膜の炎症を起こす。上気道に酸が存在すると、喘息発作と類似の肺の反射気管支収縮を起こす。酸が少量でさえも肺にはいると、声帯襞をしっかりと閉じさせ、喉頭痙攣と呼ばれる持続性無呼吸を起こす。多くの患者においては、食道括約筋の伸張を繰り返し慢性的変化を起こし、これら患者は日中でも酸の逆流を起こす。
より重要なことには、睡眠障害により深刻な医学的問題と死をもたらす。無呼吸により心臓と肺に大きな負担をかける。常に無呼吸を繰り返し発症することで慢性的変化を起こし、高血圧症をもたらす。長期の無呼吸により血液中の酸素レベルが低下する。次いで低酸素により心臓麻痺または脳卒中を起こす。
睡眠障害の治療
OSASは子供と大人の両者で起こるが、その原因と治療は全く異なる。子供のOSASは子供が大きい扁桃腺を持つときに起こり、扁桃摘出術によりその症状が治癒する。扁桃腺の大きさは年齢と共に小さくなり、大人では殆ど問題にならない。その代わりに、罹りやすい大人は、通常、拡大した舌、柔らかい口蓋及び/又は咽頭壁を有している。この拡大は大抵その構造内の脂肪沈着による。
大人の睡眠障害治療は種々の理由により困難である。上気道は、嚥下と発語という重要な機能を行う構造で、非常に動きやすい。これらの機能は外科手術か他処置により容易に損なわれてしまう。更に上気道には、吐き気や咳嗽のような反射を発生させる多くの知覚性神経支配もある。理論的には、口腔や咽頭に取り付ける体内ステントは睡眠時無呼吸を軽減するのに十分に有効であろう。患者が手術のために麻酔されたときのように完全に意識不明な場合、湾曲経口チューブを口と咽頭内に配置して気道をステント挿入のために開くことができる。更に、気管内チューブにより人工呼吸用の安全な気道が確保される。しかし、麻酔が効かなくなった後は、患者は直ちに喉の異物に気づき反応して吐く。それ故、経口チューブ、気管内チューブやいずれの類似物のような器具はOSAS治療には使用できない。
体内ステントはOSASには使用できないが、陽空気圧でステントを上気道に挿入する間接的な方法は、OSASの最も一般的に処方される治療である。本法は持続的気道陽圧法(CPAP)と称されている。CPAPは、鼻の周りにきつく取り付けた人工呼吸器に連結したマスクを用いる必要がある。各患者により陽圧の正確な量は異なり、種々の圧力を用いて一泊滞在試験により設定する必要がある。陽圧はステントのように気道が開け続けるように働く。CPAPは、治癒法ではなく、毎晩使用しなければならない療法である。多くのOSAS患者はCPAPにより助かるが、CPAPは患者や隣接ベッドの人たちにとって快適ではない。患者はしばしばその顔にきつく取り付けたマスクによる閉所恐怖症感に耐えられない。更に、顔に対するマスクの適切なシールを維持することに関し多くの技術的問題がある。これらの理由によりCPAPを処方された全患者の半分までがその使用を六ヶ月以内にやめる。(サンダーズ(Sanders)、“睡眠無呼吸のための医学的治療”(Medical Therapy for Sleep Apnea)、睡眠医学の原理と実際(Principles and Practice of Sleep Medicine)第二版、678−684頁。)
気管切開
OSASのための唯一の十分に有効な外科的療法は、上気道全体を迂回して首から気管へ直接連結する外科手術である永久的気管切開である。この処置は、OSASによる重大な医学的合併症の危険性が極めて高い最悪の場合のために残されている危険な処置である。特に、一時的な気管切開は、上気道に他の何らかの処置を行う前に、重度のOSASをもつ患者に実施前気道を制御するために行われることが多い。その理由は、これらの患者に急性気道閉塞や気道に何かの腫脹がある場合には死の危険性が高いからである。OSAS患者は、上気道組織が極めて過剰に腫脹しているため、緊急事態での挿管が非常に困難である。同様に首に大量の脂肪があるため、救急気管切開は非常に危険になる。
本保存的処置以前には、術後死は重度のOSAS患者ではまれではなかった。更に、この患者はしばしば呼吸抵抗になれおり、その抵抗が突然除かれると呼吸中枢は低下する。現在でも、大部分のOSAS患者の治療における治癒の基本は、外科的処置後、患者を集中治療室か回復室で注意深く観察することである。
いびきに関する軟口蓋処置
軟口蓋が他の組織以上に振動すると、いびきと均衡がとれていない役割を果たす。軟口蓋を収縮か硬化させるために種々の外科的治療が利用できる。使用される主な処置は口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)と呼ばれる。UPPPでは、手術用メスで咽頭壁と軟口蓋の過剰軟組織を切除する。咽頭領域の粘膜がUPPP時にあまりに多く傷つけられるので、大きな術後腫脹と激痛が起こる。いびきをかくが閉塞がない選ばれた患者では、より限定版のUPPPをレーザーか電気メスで行う。
より新しい処置では、粘膜の外傷を最小限にし、針を使って下にある軟組織に達して当該軟組織の体積を収縮させるか硬化させて振動に抗するようにする。電極を軟口蓋に挿入して口蓋を収縮させるか硬化させるように高周波エネルギーを送る。(パウエル、エヌビー等(Powel,NB et al.)(1998年)、睡眠障害型呼吸をもつ被験者の口蓋における高周波エネルギーによる組織容積縮減術(Radiofrequency volumetric tissue reduction of the palate in subjects with sleep-disordered breathing)、チェスト(Chest)、113巻、1163−1174頁。)(ソムノプラスティ(Somnoplasty)、ソムナス(Somnus)、マウンテンビュー(Mountainview)、カルフォルニア州(CA))。軽い腐食剤を注入して軟口蓋の容積を減らすことができる。ベンゼル(Benzel)の米国特許6439238では、軟口蓋表面への硬化剤塗布が教示されている。ごく最近には外来診療所での軟口蓋硬化用プラスチック挿入物移植が食品医薬品局(FDA)により認可された。(ピラー(登録商標)処置(Pillar Procedure)、米国特許6546936、上咽頭部位の状態を治療するための方法と器具(Method and apparatus to treat conditions of the naso-phrayngeal area)。)
より新しい処置を含む軟口蓋を標的とする全ての方法での基本的な欠陥はOSASの一部だけしか改善できないことである。(ラウベ、ディアイ(Loube DI)、(1999年)、閉塞型睡眠無呼吸症候群治療における技術的進歩(Technological Advances in the Treatment of Obstructive Sleep Apnea Syndrome)、チェスト(Chest)、1999年、116巻、1426−1433頁;ドグラム、ジーケイ等(Doghramji, K et al.)、(1995年)、口蓋垂咽頭形成術成績の予測(Predictors of outcome for uvulopalatophryngoplasty)、ラリンゴスコープ(Laryngoscope)、105巻、311−314頁)。研究では無呼吸数の減少を報告しているが、これら患者はめったに治癒しない。明らかにOSASを起こす重要な構造は軟口蓋ではなく舌である。
OSASに関する舌根法
OSASでの舌根治療に用いる方法は、その体積を永久的に減少させて撓み性を低下するか、舌全体を前方へ移動させるかのいずれかである。
舌根の外科的切除の効果は不十分である。OSAS治療でのメスかレーザーによる舌根の切除の結果は、この方法の継続的な適用を勧めるには不十分であった。(マイケルソン、エスエイ、ローゼンタール、エル(Mickelson, SA, Rosenthal, L)(1997年)、閉塞型睡眠無呼吸症候群治療での舌根正中部切除術と喉頭蓋切除術(Midline glossectomy and epiglottiectomy)、ラリンゴスコープ(Laryngoscope)、107巻、614−619頁)。より最近では、高周波エネルギー(エドワード(Edwards)の米国特許5843021)や超音波エネルギー(米国特許6409720)が高周波エネルギによって舌根を収縮させ且つ硬化させることに対して提案された。針電極を舌根に挿入し、高周波エネルギーを伝えて損傷させて傷跡を残し且つ時間と共に収縮させる。術後の腫脹や痛みを避けるために、制限量の損傷を1回の治療で行うが、患者には平均で5回の治療が必要である。おおよそ三分の一の患者のOSASが50%以上良くなる。しかし、約四分の一の患者では舌根潰瘍形成、舌根膿瘍や一時的気管切開を含む重大な術後合併症がある。
舌根を前進させるために最近導入された器具は、レポーズ(登録商標)(Repose)システム(インフルエント社(Influent Corp)、サンフランシスコ、カリフォルニア州(CA))である。レスポンス(登録商標)(Response)による方法は、全身麻酔下で行い、ねじを下顎骨の基部に挿入する。ねじは、永久縫合糸用のアタッチメントを含み、当該縫合糸は、口腔底粘膜の下に舌の後面への通路を開け、次いで舌根を幅方向に横断させて戻し、下顎骨にねじ込んだ金属フックに取り付けられる。縫合糸を締めて舌根を前方へ移動させるが、組織壊疽となる過剰な引っ張りを防ぐように注意する必要がある。残念なことにはレポーズ(登録商標)(Repose)法の研究では、当該方法はOSASを除去するには効果的でないことが示された。15人の患者のうち一人だけがOSASが治癒したが、二人の患者では痛みと腫脹のため縫合糸を除去する必要があった。
より積極的な外科的手段では、下顎骨、顔面骨格や舌骨の再構築が必要である。当該技術の例としては、ウッドソン(Woodson)の米国特許6,161,541号があり、当該特許は、咽頭気道を外科的に拡張する方法を教示している。この方法は、より危険性が高く、回復期間が遙かに長い広範囲な手術を必要とする。
舌根治療の他の提案された方法としては、米国特許6,742,524による硬化粒子又は米国特許出願第20050004417A1号による他の移植材料を注入して軟組織を硬化する方法がある。
神経機能代替え装置
上気道筋を刺激する種々の装置が発明された。サンダーズ(Sanders)の米国特許第4,907,602号には、気道を拡張する経粘膜刺激が記載されている。カレル(Karell)の米国特許第5,792,067号では、硬口蓋、軟口蓋又は咽頭部位を電気的に刺激して上気道筋の収縮を誘発する口腔内装置が教示されている。メール(Meer)の米国特許第5,190,053号では、舌小帯の両側の口腔底粘膜上に配置された電極によりオトガイ舌筋に電気的刺激を付与する口腔内装置が教示されている。更に、テスターマン(Testerman)の米国特許第5,591,216号には、オトガイ舌筋の神経を刺激する全体が移植可能な装置が記載されている。更に、ゴードン(Gordon)の国際特許出願第04064729号には、いびきを治療するために軟口蓋に注入できる神経機能代替え装置が記載されている。現在のところ、これらの装置は臨床的には検証されていない。
要約すると、睡眠障害は良好な解決策のない大きな健康問題であり、新規でより有効な治療技術の必要性がある。
理論には縛られたくないが、人の舌解剖学に関する本発明者の研究によれば、閉塞の発症は一連の現象によって発展することが示唆される(図4)。最初の刺激現象は舌の比較的小部分の変形である。ある特定条件下で、変形は、舌の頂点、特に舌弯曲部位、具体的には舌弯曲部の中心線付近で始まる。この組織が変形すると、気道を狭小化し、より大きい陰圧を発生してより大きな変形が惹き起こされる。次いで、このフィードバックサイクルによってその部位の組織が十分に変形し、口蓋帆咽頭部位の完全な閉塞を起こす。
最初の閉塞が吸息終了近くで起こる場合には、その閉塞は呼息又はオトガイ舌筋の作用で解放される。しかし、閉塞が吸息初期に起こる場合には、反射現象により、より強い吸息活動を引き起こし、気道圧を更に低下させる。この陰圧の増加により、変形が起こり、大部分の舌根が圧潰される。この時点で、気道は軟組織によってしっかりと塞がれ、オトガイ舌筋は塞がっている舌組織を伸ばすだけで取り除けない。
それ故、舌屈曲部は、閉塞をもたらす段階的動作の開始の重要な部位である。この弛緩した筋肉は非常に曲がり易く且つ変形し易いが、その逆も正しく、この変形を防ぐには非常に小さな力が必要とされるだけである。それ故、舌の適切な局在部位に十分な反力が働くと、会話動作や嚥下動作に目立った影響なしに閉塞を防げる。
装置が舌弯曲部の変形と圧潰をどのようにして防ぐかは些細な問題ではない。
・舌のこの領域は会話中及び燕下中に極めて良く動き、従って、この領域にかかる力は、小さく且つ極めて局部化されなければならない。この領域を不動にすることは許容されないが、大きな移植片又は瘢痕組織によって強ばった場合には不動となる。
・更に、口蓋帆咽頭の全部位は広範囲の知覚神経支配下にあり、比較的小さな刺激で吐き気か嚥下を起こす。
・舌根及び舌体は、人体の他の部位の相当する筋肉よりも血液の供給が多い。この領域に移植片を配置することによって、潜在的に壊滅性の舌の腫脹によって内出血を惹き起こす可能性が高く、最悪の場合には舌の腫脹の可能性がある。
・軟組織及び舌は、特に容易に型が変わる。特に、力をかける縫合又は移植片によって組織が改造されてこの力が解放される。このことは、チーズとカッターとの間の作用として知られている。従って、かけられる力は比較的弱く且つかけられる時間は限られた期間でなければならない。
・人間の上気道構造は極めて変化し易く、更に、睡眠障害を有する患者の上気道構造は、疾患が進むか又は改良されるにつれて時間と共に変化する。
・最後に、OSAS患者は外科的処置後の腫脹のようなわずかな量の腫脹の後でさえ、閉塞するきわどい気道をもっている。それ故、装置がこの部位に腫脹を避けながら力をかける方法は明らかではない。
更に最も効果的で、患者と医師に受け入れられるためには、その装置は理想的には追加の特質を必要とするであろう。
・装置は外来処置で挿入できる必要がある。
・装置を患者が日中に除去でき、夜に再挿入できるのが好ましい。
・装置は患者の特定の必要性に適合するように調節可能である。
・装置は患者にとって快適である。
・装置を取り付けたとき、誰にも気づかれない。
発明の概要
人体の上気道内には著しい変動が存在し、睡眠障害及びそれに関連する障害の一因となる病理変化となる更なる変化さえも存在する。更に、病理解剖学は、それらの状態が改善され又は悪化するときに、各患者において常に変化する。全ての偶然性を処置することができる単一の方法及び装置は存在しない。従って、上気道内の種々の部位に対して最適化されている方法及び装置の重大な必要性が存在する。
本発明の実施形態は、障害のある気流に関する哺乳類における上気道障害を防止し又は治療する方法及び装置を含んでいる。これらの障害は、限定的ではないが、いびき、上気道抵抗症候群及び閉塞性睡眠時無呼吸症である。更に、本発明は、限定的ではないが、馬の軟口蓋の背側の変位及びある品種の犬における短頭気道閉塞症候群を含む動物における気道障害に適用可能である。当業者は、本発明の用途は上気道の他の状態に適用することができることを容易に理解するであろう。
本発明の一つの実施形態は、組織牽引子呼吸障害の治療のための組織牽引子であり、該組織牽引子は、軸と牽引子部材とアンカー部材とボルスタとを備えている。前記軸は、患者の口腔又は咽頭内に配置されている軟組織内に挿入される大きさとされている。前記牽引子部材は、前記軸の第一の端部又はその近くに結合されている。前記アンカー部材は、前記軸の第二の端部又はその近くに結合されている。前記ボルスタは、前記軟組織の外面と前記アンカー部材との間に配置されている。前記軸、牽引子部材及び前記アンカー部材のうちの少なくとも1つが軟組織の外面上に配置されている。更に、前記軸、牽引子部材及びアンカー部材のうちの少なくとも1つが、軟組織の少なくとも一部分の変形を防止する力を変えて患者の気道障害を防止するように調整可能である。
更に本発明の別の実施形態は、呼吸障害を治療のための組織牽引子であり、該組織牽引子は、軸と牽引子部材とアンカー部材とボルスタとを備えている。該軸は、患者の口腔又は咽頭内に配置されている軟組織内に挿入される大きさとされている。前記牽引子部材は、当該軸の第一の端部と一体に形成されており且つ配備されていない状態においては前記軸に対して鋭角に位置決め可能であり且つ配備された状態においては前記軸に対して直角である。前記アンカー部材は、前記軸の第二の端部又はその近くに結合されている。前記ボルスタは、前記軟組織の外面と前記アンカー部材との間に配置されている。前記牽引子部材は、前記配備状態にあるときに軟組織の外面上に位置決めすることができ、前記牽引子部材、軸、及びアンカー部材は、相互に作用して、前記軟組織の少なくとも一部分の変形を防止する押圧力をかけて患者の気道閉塞を防止することができるようになされている。
本発明の一つの特徴は、気道を拡張させ又は組織が変形するのを防止することによって、気道の障害を防止することである。過剰な組織が存在し且つ上気道構造の弛緩した軟組織に対する気道陰圧による変形作用にも対抗する。これらの構造としては、限定的ではないが、舌、軟口蓋、咽頭壁及び声門喉頭がある。
PCT国際公開WO 2005/082452には、ここではリンガフレックス舌牽引子(LTR)と称される方法及び装置の一つの実施形態が記載されており、ここに記載されている装置の使用は、舌又は牽引に限定されないことが示されている。当該LTRは、牽引子(R)、軸(S)及びアンカー(A)からなる。好ましい実施形態においては、牽引子は舌根の軟組織に肉体的に結合されている。軸は、アンカーと結合するために舌の正中線を通っている。当該アンカーは、軸によって牽引子の力に対抗し、それによって軟組織の変形を防止する。
本発明の一つの特徴は、患者の不快感を減じながら器具の有効性を増す牽引子ヘッド、軸及びアンカーに対する改良について記載している。LTRの部品の改良としては、限定的ではないが、狭い給送器具内に嵌合するために圧潰し且つ挿入後に拡張する牽引子ヘッド、周囲の舌の動きに応じて長さ及び張力を受動的に調整する軸及び患者によって調整可能であり且つ軟らかいボルスター(支持部材)、口の中の部分的に移植された受け口及び/又は歯科器具に取り付けられる改良されたアンカーがある。
本発明の他の特徴は、器具を、日中は殆ど張力がかからないか又は全くかからない無負荷状態とさせ、夜間には張力を治療レベルすなわち負荷がかかった状態まで増大させることによって、移植片をより快適なものとする大きな制御度を患者に許容する。患者の意思の欠如が恐らく現在の睡眠時無呼吸の治療における最も大きな問題であるので、この方法を実行する方法及び装置は極めて重要である。
本発明の別の特徴は、舌内及び舌の周囲の付加的な部位が本発明によって予想外に治療されて気道障害を防止することができることである。これらの部位の非限定的な例は、舌根、舌を覆っている粘膜、舌小帯、咽頭襞、口蓋襞及び披裂喉頭蓋襞、咽頭側壁及び軟口蓋である。これらの部位に適用される改良されたLTRは、舌根、軟口蓋及び咽頭側壁を直接又は間接的に硬化させ且つ変位させる。各部位は、LTRに対する新規且つ予想外の改良が最少の危険性及び患者に対する不快感が最少な状態で効率良く行われることを可能にする特別な解剖学的構造を有している。
本発明の一つの特徴は、小帯領域内の移植片部位によって舌根を間接的に牽引するLTRである。これは、器具の挿入、調整及び維持を簡単にする。
本発明の別の特徴は、弛緩した表面粘膜を緊張させ又は内部の舌内部構造に機械的に結合するために舌根内へ挿入される極めて局所化され且つ完全に挿入できるLTRを記載している。
本発明の別の特徴は、咽頭襞内又はその近くに挿入されるLTRである。この部位は、舌根組織のみならず軟口蓋及び咽頭側壁の牽引及び緊張を可能にする。この部位の利点は、最少侵襲性、安全性及び多くの異なる構造に有益な作用である。
本発明の別の特徴は、咽頭空域を拡張するために上気道組織を改造するための方法及び装置である。改造される組織としては、限定的ではないが、舌根、口蓋扁桃、咽頭壁及び軟口蓋がある。これらの組織は、その体積を小さくするために、圧縮されるか又は変位若しくは再形成されるのが好ましい。この作用は、当該器具を取り外した後、数ヶ月から数年続く。この持続的に有益な作用を達成するために、当該器具は、好ましくは1週間乃至1年、より好ましくは1乃至6ヶ月間に亘って力をかけるのが好ましい。
本発明の別の特徴は、磁石、接着剤、真空及び/又は機械的手段を使用して軟組織を把持し、変位させ且つ/又は再配置するために、粘膜に可逆的に結合する非侵襲的な方法及び器具である。一つの実施形態においては、湾曲した牽引子が選択された部位内へ可逆的に挿入される。別の実施形態においては、留置先端が、PGF、扁桃襞、軟口蓋及びその他の軟組織の襞上に配置される。これらの牽引子は、必要に応じて、口の中又は外の改造されたアンカーに結合させることによって装着することができる。更に別の実施形態においては、口腔底は、舌根を変位させるために延ばされている。更に別の実施形態においては、真空によって、舌根の体積を減じるように舌が再形成されている。
本発明の別の特徴は、特に、馬の軟口蓋の背側への変位を防止するようになされたLTRが記載されている。
各部位において、LTRは多くの実施形態を有している。LTRは、組織内を通過することができ且つ組織の外側に牽引子又はアンカー端部を備えるか又は露出された一つの端部のみを有しており、又は器具全体を移植することができる。当該器具の軸は、組織内へと深く入ることができ又は表面上の粘膜のすぐ下側へ入ることができる。牽引子及びアンカー部材は、力を均一に配分するためにその部位に嵌合する形状とされるか、舌根中央、咽頭壁及び軟口蓋のような平らな又は中央が湾曲した面のための平らな形状、咽頭襞及び軟口蓋の外側縁の深さのための形状とされた楔形状、小帯に対するV字形状及び歯のためのT字形状とされるのが好ましい。移植片、牽引子及びアンカーの材料は、当該技術において知られている公知の非反応性の生体適合性材料のうちのいずれかとすることができる。堅牢な材料の非限定的な例としては、ステンレス鋼、チタン、セラミック及びプラスチックがある。弾性材料としては、シリコン及びゴムがある。舌を前方へ変位させ又は軟口蓋を上方へ変位させるのに必要とされる力は、0.001グラム乃至10,000グラムであり、0.1グラム乃至1000グラムが更に好ましく、10乃至100グラムが最も好ましい。この力は、0.01秒乃至永久にかけることができ、1分乃至1ヶ月がより好ましく、睡眠中であるのが更に好ましく、制限された上気道の流れの一回分中であるのが最も好ましい。
好ましい実施形態の説明
本発明は、添付図面と関連付けて考慮される以下に提供する例示的な実施形態の詳細な説明によってより容易に理解できるであろう。
図面の詳細な説明
図1 人体の上気道の正中面図

図2 舌及びその周辺組織の簡素化された概略図
NP 上咽頭
VP 口蓋帆咽頭
HP 下咽頭
SP 軟口蓋
P 硬口蓋
T 舌
GG オトガイ舌筋

図3 舌の解剖学的境界標識
舌は、この図の灰色の領域として規定されている。舌は、前方から後方に向かって、舌端、舌体及び舌根に分けられる。オトガイ舌筋(GG)が舌の下面の結合組織境界(Bo)内に差し込まれている。オトガイ舌筋及びその筋肉の領域全体は、“小帯領域”と称される。

BA)舌根
BD)舌体
BL)舌端
Bo)舌とオトガイとの境界部
C)舌の曲線
F)小帯
GG)オトガイ舌筋

図4 気道閉塞機構及び現在治療法の効果
A)覚醒中の正常な緊張度
舌は定位置のままであって気道を開いたままとさせている。青い矢印410は空気の流れを示しており、小さな黒い矢印412は下顎に対する咽頭壁(赤線414)の関係を示している。
B)睡眠中に舌の中の筋肉の緊張度は失われ弛緩状態となる。
吸息中の咽頭内の陰圧は、口蓋帆咽頭領域内での舌の後方圧潰を生じさせる。なぜならば、この状態では気道は狭く、舌の曲線(円形)は最も変形し得るからである。
C)気道が口蓋帆咽頭領域で閉塞した後の吸息は、咽頭内の圧力を下げ、更に、舌根を変形させ且つ気道をしっかりと遮断する。
D)CPAPは、高い圧力で空気を鼻内に圧送し(青い線416)、それによって咽頭に副木を施して開かせる。
E)歯用器具は、顎全体を前方へ動かすことによって作動する。舌が口腔底に沿った軟組織に付着し、軟組織が顎に付着すると、舌は間接的に動かされて気道を拡張させる。顎が咽頭壁に対して動いていることに注意(矢印)。
F)LTRは、舌の曲線が後方へ動くのを直接保持することによって舌の曲線の後方への変形を防止する。

図5 LTR器具の実施形態
LTRの一つの実施形態が示されている。
A.LTRは、3つの主要な構成要素、牽引子(R)、軸(S)及びアンカー(A)を備えている。
B.舌内に挿入されたLTRの側面図
C.牽引子の一部分示している舌の曲線の背面図
D.湾曲した中心線形状を示している舌根の背面図

図6 牽引子部材
この図は、上気道組織内に移植するために針に取り付けることができ且つ針が引き抜かれると展開するLTRの牽引子構成部品を示している。牽引子は、軸と一体の部品として示されており且つ軟質の弾性材料によって一部品として成形されている。
A.牽引子ヘッドの側面図及び前面図
牽引子の面は、軸に対して約15°の角度で配置されている。
B.針内に取り付けられた牽引子ヘッドの側面図
C.組織内を通る針の側面図
牽引子の伸長部は注射針バレルに対して平らに横たわっており且つ組織内での針の通過を妨害しないことに注意。
D.針が粘膜内へと十分に貫入して牽引子の伸長部が粘膜を通過した後に、当該伸長部は再び軸から離れるように伸長している。
E.軸を若干牽引することによって、牽引子は粘膜を捕捉し且つその作動位置に載置された状態となる。

図7 軸部材
舌が睡眠中のように弛緩しているときに、牽引子の張力を維持するLTRの軸に対する改良が示されている。しかしながら、会話及び嚥下中に舌根がしばしば後方へ動くときには、舌の動きによって軸が押し込まれて延ばされる。このようにして、通常の舌の動きに対する抵抗が殆ど又は全く存在しない。
A.通常の筋肉緊張状態での舌内のLTRの概略図
牽引子は、窪むことなく舌根の粘膜面上に横たわっている。
B.睡眠中に、舌は全ての緊張度を失い且つ気道内へと後方へ倒れる傾向があり、牽引子はこの変形に抗する。
C.嚥下中及び会話中に、舌根はときどき後方へ動く。
これらの動きの間に、舌筋の強い収縮が存在する。この収縮は、上方軸を押し込んで軸を長くし且つ牽引子を動かす。

図8 アンカー部材、ボルスタ
A.ボルスタの前面図
B.ボルスタの頂面図
C.ボルスタの側面図
D.LTRが無負荷状態の舌の側面図
E.軸のアンカーがボルスタの下側の裂溝内に差し入れられて前方へ引っ張られている。
F.舌の下方位置にあるボルスタ
G.ボルスタ凹部内に着座しているLTRアンカーの拡大図
H.LTRとボルスタとを備えた舌の頂面図

図9 アンカー部材、歯用
A.上前歯又は下前歯上に移植されている改造されたアンカー
アンカー(A)は、歯と連結され、軸(S)は牽引子/カプラー(R/C)に結合している。牽引子/カプラーは、組織と連結される牽引子からなるか又は移植された牽引子、軸又は移植されたLTRのアンカー部材に結合されたカプラー構成部品からなる。
B.LTRが舌根から小帯へと移植された状態の舌及び下顎の頂面図
LTRのアンカーは、歯用アンカーのR/C部品に可逆的に取り付けることができる。
C.側歯上で使用するための改造されたアンカーの別の実施形態
D.側歯用アンカーを備えた舌及び下顎の頂面図
アンカーは大臼歯に取り付けられ、軸は咽頭襞内を通過し、牽引子は襞の後面に当接している。
E.軟組織、PGF、口腔底及び舌面を結合する牽引又は伸長のための幾つかの可能な結合伸長部を備えた口蓋人工器官

図10 アンカー部材、小帯領域
オトガイ舌筋内には小さな腱があり、当該筋肉上に種々の角度で繊維が付着している。主要な腱は、筋肉の中間で且つ種々の点でより小さな腱が分岐している。小帯内のアンカーは、移植された部分が腱内を通過できるように挿入される。しかしながら、アンカーは、下顎に取り付けられた小帯領域又は軟組織内のどの位置にも挿入することができる。アンカーは、以下に説明する種々の機構によってLTRに結合することができる。
A.中心線(中央矢状面)で断面した舌及び下顎の側面図
B.Aの図
C.小帯領域の拡大図

図11 小帯領域の実施形態
A.中心線で断面した舌及び下顎の側面図
小帯は、オトガイ舌筋の前方端縁であり、小帯領域は、オトガイ及び周囲の粘膜全体を指している。オトガイ舌筋の前方及び後方境界部は実線によって示されている。オトガイ舌筋は、下顎の内側面上の小さな領域及び当該領域からの腱の伸長部に付着している。これは、これらの付着部から広がっており、舌体及び舌根の長さに沿った境界層と呼ばれる結合組織内へ殆ど挿入される。
B.Aの図
C.小帯領域内を通り且つ歯用アンカーの外側に取り付けられているLTRが示されている。LTRの移植された部分は、オトガイ舌筋に側方の力をかけ、これは、境界層へ運ばれ且つ最終的に舌根へと運ばれる(矢印)。
D.境界部内を通り且つ小帯アンカーに固定されているLTRが示されている。舌の変位は矢印によって示されている。
E.2つの位置で境界領域を結合している小帯領域内に十分に移植されたLTRが示されている。舌根の有益な後退によって舌端に何らかの後退が生じるが、これは舌の機能と干渉しないことは注目すべきである。

図12 舌根移植片
A.舌根の前方部分
B.Aの図面
光線は、舌の上層(SL)と正中線隔壁(MS)との結合組織である。MLは中間層である。
C.SLとMLとを結合しているLTR移植片の位置
D.中央矢状面内に見られる舌
楕円は、機械的な分離領域を示している。
E.Dに示されている部分の概略図
F.移植片の位置

図13 舌根の実施形態
A.LTRが舌根の粘膜の下側を通過している軸によって結合されている状態の横(左)及び頂部(右)の図面
緑の楕円1310は、アンカー及び牽引子に該当し、軸は、移植されたときに点線の黄色の点で示されており、外側にあるときは実線で示されており、黒い矢印1312は牽引の方向を示している。
B.牽引子とアンカーとの間のより直接的な経路をとっている軸を備えたLTR
C.軸が牽引子とアンカーとに近接している粘膜から出ている状態のLTR
D.取り外し可能に取り付けることができる軸を備えた移植されたアンカー及び牽引子
E.部分的に移植可能なアンカー又は牽引子の横方向図
F.部分的に移植可能なアンカー又は牽引子の頂面図
G.軸の結合を示している部分的に移植可能なアンカー/牽引子
H.伸長部が使用されていないときに粘膜と同面まで押圧されている状態の部分的に移植可能なアンカー/牽引子の横方向図
I.半分移植された牽引子部材に結合されている舌端及び軸を覆うように配置された弾性スリーブを備えたLTR
J.PGFに固着されているLTRと舌根を横切って通過しており且つ半分移植された牽引子部材
K.軸が舌端内を舌の上面上の中間アンカーまで通過している状態で舌端の下側に固定されているLTR
当該軸は、次いで、半分移植された牽引子部材まで後方へ通過される。これによって舌端の下側のアンカー部位からの張力の調整が可能になる。
L.左の堅牢な軸が舌端の下方のアンカー部材を舌端の上方の牽引部材に結合している。牽引子は、舌端を覆うように取り外し可能に配置されているスリーブによって前方へ回転されている。堅牢な軸に沿った牽引部材の回転によって、舌の組織が中心線に沿って変位せしめられる。図面は、この作用を示すために意図的に拡大されている。

図14 上口蓋舌襞
A.PGFが挿入されている舌領域を示している上気道の側面図
より小さな上方領域は、軟口蓋と咽頭側壁、限定的ではないが口蓋舌筋と上咽頭括約筋とを結合している筋肉の重なっている部分を収容するので特に重要である。
B.標識された上方PGF取り付け領域との下顎に関する舌の側面図
C.軟口蓋を上方PGFに結合する口蓋舌筋が示されている。
D.上咽頭括約筋は、咽頭壁を上方PGFに結合している。
E.PGFの牽引力が舌根、軟口蓋及び咽頭壁に分配されることを示している概略図

図15 咽頭舌襞の実施形態
A.舌の後方への圧潰及び気道に対する作用を示している図
B.PGFの牽引子及び小帯を他のPGF内の牽引子まで通過している軸
C.PGF内の牽引子及び舌の組織内を通過して出て来た改造されたアンカーに結合している軸
代替的な実施形態は、口腔底内を通過し、皮膚上に載置されている外部アンカーまで伸びている。
D.PGF内又はその近くに牽引子を備え且つ舌内をオトガイ舌筋又は口腔底内へ移植されたアンカーまで通過している軸を備えた移植されたLTR
E.上方PGF内の牽引子及び下PGF内のアンカーを備えたLTR
F.PGF内の牽引子及び舌の上面上のアンカーまで通過している軸

図16 咽頭舌襞の実施形態
A.各PGFの前方のアンカーに2つの粘膜下の軸によって結合されている舌根に設けられた牽引子
B.粘膜下の軸は、各PGFの前方で2つの牽引子/アンカー部材を結合している。
C.PGF内又はその近くの2つの移植された牽引子/アンカー
D.各PGF内又はその近くに移植されている磁石は、粘膜下の軸によって結合されている。
E.左側 PGF内に移植された磁石は、改造されたアンカーに取り付けられた逆極性の磁石によって牽引される。
右側 磁石がPGF内の定位置に維持するための2つのフランジを備えている移植片に包囲されている。
F.左側 歯用に改造されたアンカーの図である。
アンカー部材は、右側に示されているように、歯に可逆的に着用可能に取り付けられており、当該結合機構は、次いで、移植されたLTRに結合されている。牽引子部材は磁石又は機械的な機構とすることができる。
右側 上から見た舌及び下顎の図である。
歯用の改造されたアンカーの2つの実施形態が示されており、底部では、牽引子は、Eの左側に示されている移植された磁石に結合されている磁石である。頂部では、軸端部が、図Eの右側に示されている可逆的に着用可能な磁気移植片に結合されている磁石を備えている。

図17 軟口蓋の実施形態
A.軟口蓋と口蓋舌襞とを示している口の図(Henry Gray. Anatomy of Human Body.1918)
B)Aと同じ図面であるが、粘膜が取り除かれ、下にある筋肉(右側)及び神経及び血液供給源(左側)が示されている図
C)正中断面の後方の左咽頭側壁の図
舌は下方に後退せしめられている。
上PGF内のアンカーによって4つの好ましいLTRの配置が示されており、1)軸は、扁桃の周囲の口蓋舌筋の隣を通過し、牽引子は、軟口蓋の側方端縁に当接している。側方口蓋帆領域を増すための好ましい実施形態、2)軸は、正中軟口蓋近くの口蓋舌筋牽引子内を移動する。内側口蓋帆空洞を増すための好ましい実施形態、3)軸は、口蓋舌筋、口蓋扁桃及び口蓋咽頭筋内を通り、牽引子は軟口蓋の後壁に当接している。口蓋扁桃を圧縮し且つ永久的に改造するための好ましい実施形態、4)軸は、舌根粘膜の下1cmのところを通り、牽引子は舌根に当接している。舌根を引っ張るための好ましい実施形態

図18 扁桃襞の実施形態
18A.後方扁桃襞の牽引子後面、前方扁桃襞のアンカー前面
口蓋扁桃の圧縮のための好ましい実施形態である。
18B.牽引子上口蓋舌襞、牽引子下口蓋舌筋襞又はPGF
18C.口蓋舌筋内に移植されたアンカー
18D.軟口蓋牽引子正中面の側面に設けられたアンカー
18E.口蓋舌筋襞の改造された歯用アンカーの内面上に設けられた牽引子
18F.後扁桃襞に設けられた牽引子及び前扁桃襞に設けられたアンカー

図19 軟口蓋の実施形態
A.アンカーの上咽頭側部及び牽引子の口腔下方側部
B.牽引子の口腔上方側部及びアンカーの咽頭舌側部
C.LTRに負荷をかけるためにアンカーの前方に付加されたボルスタ
凹み及び回転に注意
D.全体が植え込まれたLTR
E.対向している牽引子とアンカー
F.軟口蓋の端縁を持ち上げるリテナーのためのアタッチメントとしてのLTR

図20 獣医関連の実施形態
ウマの軟口蓋の脊椎の変位のための本発明の実施形態が示されている。
A.運動中のウマの上気道の正常な形態
軟口蓋は、喉頭の喉頭蓋に重なり且つ連結して気道のための開いた導管を提供していることに注意
B.DDSPにおいては、軟口蓋は、係止位置から押しのけられ且つ気道を閉塞する。これは、舌根の後方への動きによって惹き起こされると考えられる。
C.この状態のためのLTRの実施形態
軸は、下顎を介して当該下顎の前方の調整可能なアンカーに達している。
D.運動中に、軸は、一片の係留帯に可逆的に取り付けられている舌面上のアンカーに係合している別の実施形態
E.軟口蓋をその正常な位置から押しのけられている真反対の実施形態
軟口蓋の前方のアンカーは、後方へ通過し、次いで、喉頭蓋内を通って喉頭の咽頭面上の牽引子へと達している。
F.代替的な実施形態においては、LTRは、PGFから軟口蓋の側面へと通過している。
前方から見た図であり、舌は透明に示されている。比較のために、Eに示されている正中面の実施形態も示されている。

図21 非侵襲性PGF牽引子
A.舌の後方への圧潰による気道閉塞状態の図
B.PGF牽引
軟らかい“フック”はPGFを前方へ牽引し、それによって、舌根、軟口蓋及び咽頭壁を牽引する。
C.“フック”の拡大図
D.“クリップ”の拡大図
クリップは、その両方のアームによって軟組織を圧縮することによって定位置とされる。
E.圧縮が磁石によってなされているクリップの実施形態
F.牽引子を改造されたアンカーに結合するために磁石も使用されているEの実施形態
G.定位置にある2つのフック牽引子及び舌根(点線)に対する当該フック牽引子の作用を示している図
H.フックLTRの拡大図

図22 非侵襲性の牽引クリップの実施形態
A.軟組織襞上に設けられたクリップの側面図
襞に接着する一つの方法は、クリップの端部によって組織を圧縮することである。
B.互いに反対の極性の対向する磁石によって構成されている側面図
これらの磁石による吸引は、安定した位置のための十分な力を提供し、軸は不要である。
C.軟組織襞上のクリップの前面図
軸の結合は、襞の端縁を牽引する機能を果たすことができる。
D.軟口蓋及び舌根のような硬化による利点を得る構造に対する伸び(伸長)及び有用な作用を提供するために使用されるチップ
E.歯用アンカーに取り付けられた前扁桃柱上のチップ
F.歯用アンカーに取り付けられた後扁桃柱上のチップ
G.歯用アンカーに取り付けられた軟口蓋の端縁上のチップ
H.咽頭壁を披裂喉頭蓋襞の方へ牽引して咽頭側壁を硬化させている2つのチップ

図23 非侵襲性前突及び真空
A.側面図
口腔底は、下顎から舌骨まで延びている縞模様によって示されている。
B.前面図
口腔底は、下顎の各側部の底部に結合している。
C.頂面図
舌は透明で、舌の三角の根元を見ることができる。根元の前方伸長部は、下顎内へのオトガイ舌筋の挿入部分である。
D.歯用アンカー(図示せず)から伸出筋によって下方且つ若干前方へ押されているボルスタ
FOM及び舌とPGFとの改造位置の窪みに注意
E.舌面の低い高さによって反射されたボルスタによるFOM凹陥
F.上方から見たボルスタ
舌根の前方への変位に注意
G.舌の側面に適用された真空装置
H.牽引部材としての真空装置
詳細な説明
ここで使用されている“対象物”という用語は、人間を含む哺乳類由来の動物を含んでいる。ここで使用されている位置及び向きを記載するために使用されている解剖学的用語は、以下の説明によって最も良く規定することができる。
典型的には、一方の端部に頭部及び口を有し、他端は肛門及び尾を有している場合が多い動物について言及しているときには、頭の端部は、頭端部と称される。頭部自体では、“頭部の”は、鼻の端部に向かう方向を指しており、“尾部の”は、尾方向を指すために使用されている。通常は重力の引力と反対の上方を向いている動物の体の表面又は側面は背面であり、反対側の側面は典型的には全ての足で歩いているとき、泳いでいるとき又は飛んでいるときに、地面に最も近い側は“基端”であり、遠い側は“末端”である。3つの基本的な基準面は、動物化学的構造内で使用される。“矢状”面は、体を左側部分と右側部分とに分ける。“正中”面は中心線上にある。すなわち、正中面は脊柱のような中心線構造を通り、全ての他の矢状面は当該中心構造に平行である。“左右縦断”面は、体を背面部分と腹面部分とに分ける。“横断”面は体を頭側部分と尾側部分とに分ける。
人間について言及するときには、人体及びその部分は、常に人体が真っ直ぐに立っているという仮定を使用して説明される。頭部側端部に近い人体の部分は“上方”(動物における頭部に対応する)であり、一方、頭部側端部から遠い方の人体の部分は“下方”(動物における尾部に対応する)である。人体の前面近くの対象物は、“前方”(動物における腹側に対応する)と称され、人体の背中に近い部分は“後方”(動物における背側に対応する)である。横断面、軸平面又は水平面は、地面に平行なX−Y面であり、この面は、上方/頭部を下方/脚部から分離する。前頭面又は前面は、前方を後方から分離する地面に直角なY−Z面である。矢状面は、左側を右側から分離する地面及び前頭面に直角なX−Z面である。正中面は、正確に人体の中央にある特定の矢状面である。
正中線近くの構造は内側と称され、動物の体側近くの構造は外側と称される。従って、内側構造は正中面に近く、外側構造は正中面からより遠い部分である。体の正中線内に位置する構造は中央の部分である。例えば、対象物である人間の鼻の先端は正中線にある。
同側は同じ側を意味し、対側は反対側を意味し、両側は両方の側を意味している。体の中心に近い構造は、基端又は中心であり、一方、より遠い方の構造は末端又は外周である。例えば、手は腕の末端にあり、肩は腕の基端にある。
定義
“アンカー”は、牽引子に対して動かない部位に機械的に結合している器具の部品を指している。
“変形”は、上気道軟組織構造の形状の異常な変形を指している。この変形は、睡眠中に弛緩した上気道に作用する陰圧によって上気道を狭めさせ得る。最も好ましくは、この軟組織は舌の湾曲部であり得る。
“小帯”は、オトガイ舌筋の垂直前方端縁を指している。小帯は、口腔底から舌の下側の中心線まで通っている。小帯は、舌端と舌体との間の境界部を示している。“小帯領域”は、オトガイ舌筋とその周囲の粘膜とを指している。
“負荷がかけられた”形状は、日中は最少の張力を有し夜間はより高い治療レベルの張力を有するように調整された張力を有することができるLTRを指している。負荷がかけられた形状はより高い治療レベルに対応する。
“改造されたアンカー”は、LTRの永久的なアンカーの取り付けを可能にする付加的な部品である。幾つかの実施形態においては、改造されたアンカーは、患者がLTR内の張力を、特に夜間は張力を増し且つ日中は解放するように調整できるようにする。
“口蓋牽引子”は、軟口蓋の変形を防止するために使用される完成した器具を指している。
“永久アンカー”は、移植期間中LTR上に留まるLTRのアンカー部材を指している。当該永久アンカーは、軸のアンカーの前方端部が舌組織内へ摺動して戻るのを阻止する。ある種の実施形態においては、永久アンカーはまた、“改造されたアンカー”が使用されているときにコネクタの一部として機能する。
“咽頭壁牽引子”は、咽頭壁の変形を防止するための完成した器具を指している。
“伸長”は、長く延ばすこと又は押し離すことを意味している。
“逆方向の変形”は、組織牽引子によって惹き起こされる軟組織の変化を指している。幾つかの実施形態においては、逆方向の変形は、変形せしめられた構造を正常な形状へ復元させることを指している。他の実施形態においては、逆方向の変形は、組織牽引子の作用による所定の領域内の軟組織の傾斜を指している。
“睡眠時呼吸障害”は、限定的ではないが、睡眠時無呼吸、睡眠時無呼吸症候群、上気道抵抗症候群及び鼾を含む睡眠中に起こる全ての呼吸障害を指している。
“舌根”は、舌内の舌湾曲部後方の部分を指している。解剖学的用語においては、舌根の境界線は、舌の上面の隆起した味覚器官の囲まれた乳頭である良く見える線である。
“舌端”は、舌の小帯の前方の部分を指している。舌端は、その頂部、側部及び下面上を粘膜によって覆われている。
“舌体”は、舌端と舌根との間に位置する舌の中央部分である。
“舌の境界部”又は“境界部”は、舌体及び舌根の下の面である。オトガイ舌筋は、当該境界部の大きな部分上に入り込んでいる。
“舌湾曲部”は、上面が水平な向き(舌体及び舌端)から垂直方向の向き(舌根)まで湾曲している舌の領域を指している。舌湾曲部は、舌の粘膜被覆とオトガイ舌筋が付着している結合組織境界部との間のこの領域内の軟組織を指している。
“組織牽引子”は、軟組織の変形を防止するための本発明の実施形態の完成された器具を指している。当該器具は、舌、軟口蓋又は咽頭壁において制限なく使用することができる。
“舌牽引子”は、舌の変形を防止するために使用される完成された器具を指している。当該器具は、軸部に結合されている牽引子を備えており、当該軸部は、次いでアンカーに結合されている。
“喉頭牽引子”は、喉頭の軟組織の変形を防止するための完成された器具を指している。
“牽引子”又は“牽引子ヘッド”は、組織牽引子全体の一部分を指している。当該牽引子は、軟組織と物理的に直接的又は間接的に相互作用して変形するのを防止する。ある種の実施形態においては、牽引子ヘッドは舌の外面上に配置されている円板であり、別の実施形態においては、牽引子ヘッジは拡張可能なバルーンであり、別の実施形態においては、牽引子ヘッドはフックのように作用する湾曲した部分を有することができ、別の実施形態においては、牽引子は組織内を通る可撓性のワイヤとすることができる。幾つかの実施形態においては、牽引子は組織内に全体を移植することができる。
“牽引子軸”、“軸”又は“牽引子部材”は、牽引子ヘッドに取り付けられ且つ牽引子アンカーに結合する機能を果たす舌牽引子の部分を指している。幾つかの実施形態においては牽引子、別の実施形態においては、軸は、堅牢な又は可撓性の、中実又は中空の、一部品又は連結された多部品としても良い。
“無負荷状態”は、殆ど又は全く張力がかかっていないLTRを指している。ここで使用されているように、これは、通常は日中の形態を意味している。比較として、LTRは夜間には治療レベルまで負荷をかけられる。
実施例
1.牽引子部材(図6)
ここには、針によって挿入され且つその作動形状へと自動的に展開する牽引子部材が開示されている。
牽引子ヘッドは、舌根が変形するのを防止する。舌根の粘膜上に配置される牽引子ヘッドの好ましい品質は、患者にとって無視できる程度に、その表面積が十分な反力を提供するのに十分な大きさであるように、その深さが最小にされることである。LTRを挿入するために使用される給送具は、その設計と一体化されている。器具全体が舌の背面において使用される最小の器具によって舌の前方から挿入されることが好ましい。従って、牽引子ヘッドは、舌の前方から挿入される針によって移植された後にその作動形状へと自動的に展開するのが好ましい。
本発明のこの特徴の一部として、容易に挿入できるようにした牽引子ヘッドの設計の改良がある。ある種の実施形態においては、挿入は針によってなされる。従って、本発明の一つの実施形態は、針の中へ折り畳まれるが挿入後には作動形態へと展開する牽引子ヘッドである。体内へ挿入するために器具を最小化することができる多くの機構が知られており、非限定的な例として、ニチノールワイヤ、高圧バルーン及びばね機構がある。これらの機構は良好に機能するが、複雑さ及び不必要な費用を付加する。
好ましい実施形態においては、牽引子部材は、楕円形状(長さ10mm、幅5mm、深さ2.5mm)とされ且つ軸(1mm)と共に中程度の精度の医療等級シリコーン(ショア硬度80、Nusil,Ca)によって一部品として成形されている(図6A)。牽引子は、軸に対して75°傾けられている。当該器具が針内へねじ込まれると(6B)、楕円の一方の側部は針の穴から延びて針の外壁に対して15°の角度で突出している。針が組織内に挿入されると、この伸長部は針の壁に対して面一となるように押され、針の高さの増加が最少となる(6C)。しかしながら、針が粘膜を貫通した直後に、牽引子はその伸長位置へと復元する(6D)。この方法において、針を後方へ引っ張ることによって、牽引子が粘膜を捕捉するようにさせ且つ針に沿って引き抜かれるのを防止する。針が取り外された後に、軸上の小さな張力によって、牽引子ヘッドが適正な位置へ回転するようにし且つ粘膜に対して面一に横たわるようにする(6E)。
本発明の実際的な利点は、医師が針を迅速に且つ容易に挿入し且つ引き抜くことができ、器具がその適正な位置へと自動的に落ち着くことである。
2.軸部材(図7
ここには、舌根の通常の動きとの干渉を避けるようにその長さを適合させた改造された軸が開示されている。
舌根の背面にかけられる反力は、睡眠中に存在するが覚醒中には存在しないのが好ましい。舌が弛緩し且つ後方への圧潰に対して不安定であるときに反力が存在するが会話及び嚥下中には存在しないのがより好ましい。嚥下中には、舌根は約1cm後方へ迅速に動いて咽頭後壁と接触する。舌根は、たとえ力がより少なくても、幾つかの会話動作中に同じように動く。これらの嚥下及び会話動作は損なわれないことが望ましい。
軸の一つの実施形態においては、舌の中に位置する部分は伸張性であり、一つの非限定的な例はバルーンである。軸のバルーン部分の圧縮により、軸が伸びるの可能になる。嚥下中に、舌は軸の周囲を強力に収縮させる。この収縮によってバルーンが絞られて細長くされ、それによって、牽引子ヘッドが上方へ変位せしめられる。嚥下中に舌根が牽引子ヘッドの領域で上方へ動くと、軸にかけられる圧縮力によって、軸が比例的に細長くされ且つ牽引子ヘッドが嚥下中に舌根に対して不必要な反力がかかるのが防止される。しかしながら、舌が弛緩されているときに適正な量の反力をかける能力が付与される。伸張する量は、0.01〜10cmが好ましく、1cmがより好ましい。
この実施形態は、本発明の好ましいが限定的な例である。嚥下及び会話中に牽引子ヘッドによる反力の低下は、多くの公知の機械的及び電子機械的な機構によって達成することができる。当業者は、本発明は多くの実施形態を有することができることを容易に理解できる。
3.アンカー部材:ボルスタ、歯用、移植されたもの(図8,9,10)
ここには、移植されたLTRに可逆的に負荷をかけることを可能にする改造されたアンカーが開示されている。
アンカーは、軸及び牽引子ヘッドの変位に抗するLTRの前方の部品である。好ましい実施形態においては、LTRは、日中(無負荷状態)には殆ど又は全く張力がかかっておらず且つ夜間(負荷状態)は張力をかけるように調整されている。この実施形態においては、アンカーは、単に、軸の前方端部が舌組織内へ引っ張り戻されるのを防止する。この目的のためには小さなフランジで十分である。しかしながら、牽引子に対する反力が更に望ましい夜間には、改造アンカーと総称されるアンカーに置換し、改造し又は補充することができる。
改造されたアンカーの一つの実施形態は、永久アンカーと舌との間に介装されるボルスタである。このボルスタは、軸の長さを長くするか又は固定の長さに設定されている場合には、牽引子ヘッドと軸との間で圧縮され全体積を増大させる。いずれの場合にも、このような改造されたアンカーを付加することにより牽引子に対する反力の可逆的な増大じる
改造されたアンカーの一つの実施形態においては、ボルスタは、V字形状のシリコンゲルからなる(図8のA,B,C)。“V”字形状の凹状内面は、小帯(舌端下方の構造)に適合している。広い表面積を横切って牽引反力を広げることが意図されている。ボルスタ型のアンカーの中心には、永久的なアンカーと軸とがその中を貫通せしめられる導管が設けられている。一つの実施形態においては、頂部の中心端縁の中心には裂溝の始点が設けられている。この裂溝は、ほぼ軸の幅であるが永久的アンカーより狭い。患者は、舌の下に達することができ且つ永久的なアンカーを前方へ引っ張り(図8のD,E,F)、舌の下方でボルスタを摺動させ、軸を裂溝内に横たわるように配置し、永久的アンカーを解放することができる。次いで、永久的なアンカーが裂溝の前面にしっかりと当接し且つ力をかける。裂溝は、より硬質のシリコン又は別の生体適合性材料によって補強しても良い。
本発明の別の実施形態は、永久的なアンカーを、歯に永久的に又は可逆的に取り付けられる改造されたボルスタ、すなわち歯用アンカーに固定することである(図9)。歯に取り付ける多くの器具が当該技術において知られている。非限定的な例は、“T”字形状をしており、当該“T”字形状の頂部の横棒は下門歯の前面に当接している。このTの字の垂直棒部の最初の部分は、前方の2つの門歯間を通るのに十分な薄さである。この垂直部分は、牽引子ヘッドが貫通せしめられるのを可能にするように幅が広がる。この機構によって、アンカーを歯のボルスタに容易に且つ可逆的に取り付けることができる(図9のA及びB)。
別の実施形態は、口の前面よりもむしろ口の側面において使用するように最適化された歯用アンカーである。この実施形態(図9のC,D)は、臼歯又は小臼歯又はそれに隣接している構造に取り付けられる。この実施形態は、LTRと改造されたアンカーとの間の距離が短いので有利であり、舌の横面上の位置は、正常な舌の機能と干渉することはなく、配置、調整及び取り外しのために患者及び医師が容易にアクセス可能である。
更に別の実施形態においては、歯用人工器官は、軟口蓋、口蓋舌襞、咽頭襞、舌又はその他の上気道部位内でLTRに結合されるアンカーとして使用される(図9のE)。これらの人工器官は、歯科技術において公知であり且つLTRの実施形態を固定するための広く且つ安定したプラットホームを提供する。更に別の実施形態は、これらの人工器官のより大きなサイズ及び位置を利用することができる。当業者は、種々の電気的又は機械的機構をこれらの人工器官内に組み込むことができることを理解することができる。非限定的な例として、上気道内の多くの位置において結合されたLTRにかけられる力を制御するために電動モーターを使用することができる。
改造されたアンカーの更に別の実施形態は、口腔底内に部分的に移植される。本発明の一つの実施形態においては、口腔底の小帯又は軟組織構造を横切って穿刺がなされる。可撓性の軸が、当該穿刺部及びリング状の構造を形成するために結合された端部内に貫通される。従って、この改造されたアンカーは組織内に固定され、一方、残りの部分は、口腔底に沿って位置している(図10)。次いで、この改造されたアンカーは、夜間には永久的なアンカーに可逆的に取り付けることができ且つ朝には外すことができる。
4.小帯領域の実施形態
オトガイ舌筋又は当該オトガイ舌筋が挿入される境界筋膜(小帯領域と総称される)を牽引することによって舌根を牽引し又は舌根の変形を防止するための方法及び器具が開示されている。
LTRの軸は、安全に、舌の下面を横切って通過させることができることが予想外に判明した。この組織は、オトガイ舌筋を含んでおり、その前方端縁は小帯である(図11のA,B)。オトガイ舌筋は、下顎から延びており且つ水平から垂直方向の角度へ広がっている多数の別個の筋肉束を有している。オトガイ舌筋束は、境界部と称される舌内の結合組織の層に付着している(図11のAの点線)。オトガイ舌筋の束は、これらが付着する境界部の一部の束の軸内に力をかけることによって作用する。しかしながら、作動していないときでさえ、オトガイ舌筋の束は、舌の境界部に機械的に結合され且つ受動的に動かされる場合に力をかけることができる。このことは、予想外に、それらの軸に直角にこれらの筋肉束を引っ張ることによってなすことができる(図11のC)。この機構を簡素化するため、オトガイ舌筋束は、LTRの軸によって投げ縄状に捕らえられる。
オトガイ舌筋を介して牽引子を配置する際のある種の重要な問題が存在する。最初に、オトガイ舌筋は舌根と比較して軟らかく、従って、局所化された領域にかけられる大きな力が組織を開裂させるか又はときどきは“チーズカッター作用”と使用される不所望な組織の改造を常に生じさせ得る。しかしながら、極めて強いオトガイ舌筋に対する腱中心が存在する。この腱は、小帯の端縁から約1cmの位置に位置している。第二に、神経のオトガイ舌筋への供給は筋肉の上面、従って、筋肉の頂部0.5cmのところに沿って通過し、舌端のすぐ下の領域は移植片にとって好ましい部位ではない。
一つの実施形態においては、軸は、リボン形状とされている長さが5cmの弾性的な材料である。断面の大きさは、深さ0.5mm及び幅3mmである。更に広い幅のリボンは、その力がより広い面積に亘って分散され、続いてリボンの狭い端縁に分散されるときに組織に力をかけるであろう。軸は、針に取り付けられ且つ小帯の後方約1cmのところで筋肉内を通る。軸の端部は次いで改造されたアンカーに可逆的に結合されている。軸自体の中間部は、オトガイ舌筋に前方への牽引力をかけ且つ牽引ヘッドとして機能し、次いで、軸の一端又は両端は、前方へ動かされ且つこの改造された軸に固定される。この移動は、舌根へ伝えられてある程度の凹陥を生じさせる。この受動的な動きは、前方及び下方へとなされるのが好ましい。
オトガイ舌筋の牽引の利点は、この筋肉が舌の下方で容易にアクセス可能であるという点である。組織は軟らかく且つ容易に圧縮されて、複雑さが無い状態で穿刺することを容易にする。舌下方の他の部分に対する位置は見えず、これは患者にとって重要な特性である。
本発明の更に別の実施形態は、LTRを舌内へより深く通して境界層に直接結合させることである(図11のD)。境界層は、舌体の長さに沿って広がっており且つオトガイ舌筋の挿入を受け入れる比較的堅牢な結合組織構造である。境界層に結合するこの利点は、より確実に取り付け、次いでオトガイ舌筋自体のより確実な取り付けを提供することである。特に、舌動脈は、境界層のちょうど上方及び横方向を通り、従って、挿入がこの組織の内側とされることは本質的である。
更に別の実施形態においては、十分に移植されたLTRは、舌根に作用する一方の部位に結合され且つ舌根に作用しない別の部位に固定されている。非限定的な例が図11Eに示されている。この例においては、後方境界層は前方境界層に結合されている。2つの部位間の張力は、舌根を前方へ動かす、これと同時に、前方の境界部位の周囲に伸長せしめられた何らかの移動力が存在するが、正常な舌の機能に対しては重要でない作用を有する。
5.移植された舌根牽引子(図12)
ここには、舌内に移植され且つ舌根構造の機械的な押しのけを防止するために極めて局所化された力をかける方法及び器具が開示されている。
舌内の長期にわたる移植片は技術的に興味深く、嚥下中及び会話中の舌の動きは舌の運動特性に依存する。舌は、内部に骨を有しておらず、その運動機構は、体の筋肉構造中独特のものである。ほとんどの骨格筋肉は骨に付着しており、動きは機械的なテコ動作として起こる。舌構造においては、舌構造の形状及び体積を広げ且つ変えることによって生じる。この機構は、筋肉静水圧装置と呼ばれ、可撓性の油圧装置にたとえることができる。更に、舌は、容易に損傷を受け得る大量の神経及び血液供給源を有している。更に、舌は、移植片及びその他の力によって作用を受けると、それ自体を改造する優れた能力を備えている。このことは、多くの従来技術による器具が次第に張力又は押し出し力が次第に失われることによって故障する理由であった。更に、如何なる移植片も感染及び傷を生じ可能性のある部位である。これらの理由により、舌内の如何なる侵襲性の介入も舌の解剖学的構造及び生理学を詳細に知って設計しなければならない。
従って、本発明に開示されている移植される実施形態は、出来るだけ侵襲性が最少であり且つ正常な機能を損なうおそれが内状態で病理学的に最も重要な領域にこれらの作用を集中するように注意深く設計されている。
ここに開示されている移植されるLTRの好ましい実施形態は、舌根内に移植される極めて小さな器具である。
舌は、粘膜によって覆われており、この粘膜は下方に横たわっている結合組織を有している。この結合組織は、舌の上面の下が最も厚い。この上面は、下に横たわっている上縦舌筋に密接して結合されている。粘膜結合組織と筋肉とは、協働して舌の先端から舌根まで舌の上面に広がっている上層(SL)を形成している。この上層は、正常時は、横筋によって主として形成されている下方に横たわっている舌の中間層に結合されている。横筋は、舌の中心線内(正中面)に配向されている筋膜シートと呼ばれる内側中隔(MS)から延びている。
本発明者による理論的研究に束縛されることは望まれていないけれども、鼾の際の振動及び気道閉塞中の伸張は中間層への上層の付着が次第に失われることを示唆している。これは、楕円によって標示されている舌の湾曲部領域内の上層の広がりによってもたらされる。この機械的な分離によって、気道内の圧力が低下するときに比較的容易に変形し、それによって患者を睡眠時無呼吸及びその他の睡眠時呼吸障害にかかり易くさせる比較的弛緩し且つ従順な舌根がもたらされる。
本発明の一つの実施形態においては、極めて小さいLTRを舌根の湾曲部に挿入して舌の層の機械的な分離を矯正することができる。LTRは、矢印状の牽引子ヘッド及びアンカーと対称である。LTRの各端部は、軟組織好ましくは粘膜の結合組織の筋膜及び正中中隔内に機械的に引っかけられる。多くの変形例が当該技術において知られているので、この引っ掛け機構はかなり変更することができる。非限定的な例としては、フック、棘状突起、螺旋状、ステープル、ねじ、縫合、生体一体型永久材料、コラーゲン及びエラスチンがある。しかしながら、好ましい実施形態は、出来るだけ小さく且つ両端により堅固なフックを備えた短い弾性の軸が好ましい。
代替的な実施形態においては、移植されたLTRは、1mm〜3cmまで変化し得る。より長いLTRは、舌根を、舌とオトガイ舌筋との間の境界筋膜に、オトガイ舌筋、口腔底又は下顎への境界層を介して、棘状突起、フック、線維形成作用又は頭蓋技術において知られているその他の方法によって結合することができる。外科的縫合のために使用される多くの材料がこの目的のために適合し得る。
好ましくは、軸は、牽引子に対する力が、下方、前方及び側方を含む少なくとも1つの向きであるように配向されるのが好ましい。正常な機能と干渉することなく、結合力を分配するために、多くの移植片を正中線に沿って使用することができる。患者の解剖学的構造に依存して、舌内のあらゆる部位に移植片を挿入することができるが、舌の正中線が更に好ましく、舌の湾曲部の正中線が最も好ましい。本発明の以下の特徴の1以上は、移植部位及び向き、軸の長さ及び弾力性及びフックの大きさ、形状及び硬度のような個々の患者に的確な必要性のための作用を形成するために使用することができる。
移植片は、好ましくは1日から10年の期間に亘って、より好ましくは1ヶ月〜1年に亘って、最も好ましくは1ヶ月〜6ヶ月の期間に亘って生体再吸収可能であるのが好ましい。この最も好ましい期間は、舌の改造及び永久的な復元でない場合にはこの領域の機械的な結合の持続性のための十分な時間を許容する。永久的な移植はそれほど好ましくない。
永久的又は吸収可能な移植片は、正常な舌の運動中に大きな形状変化を通常は受けない領域内で舌の皮相高さに挿入されるのが好ましい。このことは、特に感染又は移植片の線維化作用が存在する場合に、正常な機能を妨害する可能性を最少にする。感染、痛み又はその他複雑な状況が存在する場合に移植片を非外傷的に除去するために、移植片は、長時間に亘る外科手術を施すことなく容易に取り外せるように設計されるべきである。移植片の取り外しを容易にするために、引っ掛け機構の開裂強度は、1〜1000グラムの好ましい範囲内であるべきである。開裂強度は、10〜100グラムがより好ましい。フックのアームは、これらの開裂強度の限度において真っ直ぐに折り畳まれ、移植片が引き抜かれるときに組織を更に損傷させることなく取り外すことができることが好ましい。
6.舌根の牽引(図13)
ここには、舌根の組織、特に舌根の粘膜に焦点を絞った本発明の実施形態が開示されている。これは、医師が最少の侵襲性によって挿入することが容易であり且つ患者によって容易に調整可能であるという利点を有する。
一つの実施形態においては、当該器具は、舌の上面上の一つの部位から別の部位へ挿入される。当該器具の前方部分はアンカーであり、後方部分は牽引子である。これら2つの部材間の張力によって、舌面が牽引され且つ舌根が変位せしめられる。反対方向への牽引は前方舌面に作用するけれども、正常な機能に対しては影響を及ぼさない。
軸は、粘膜のすぐ下方を通るか(図13のA)又は舌内でより真っ直ぐなラインをたどる(図13のB)。軸を粘膜のすぐ下方を通すことは医師にとって比較的容易である。この形態においては、牽引子ヘッドにかかる力の方向は横方向であり、これは、牽引子ヘッドの後方の粘膜がある程度凹んでピンと引っ張られるようにさせる。より直接的な経路では、牽引力は舌面に直角に近く配向され、より大きな凹み及びそれに続く粘膜の引っ張りが存在する。挿入部位での正確な向きを変化させて患者のための有益な作用を最大化することができる。
もう一つ別の実施形態においては、軸は、アンカーに極めて近接した位置に再び現れ、その経路の殆どが舌面に沿って延びている。これは、A及びBによって形成されている最少侵襲性のトンネルさえも避けることができるという利点を有している。更に、この構造は結合され、軸は全距離に亘って粘膜の下方を移動するか又は1回以上出現することができる(図13のC)。
もう一つ別の実施形態においては、アンカー及び/又は牽引子は、粘膜の下方に埋設することができ、軸は取り外すことができる(図13のD)。好ましい実施形態においては、アンカー/牽引子は、粘膜の下方に移植される直径5mmのシラスティック製の円板である。この円板は、ポケットから出て来る直径が1mmの伸長部を備えている。当該伸長部の端部は2mmの円板とされている(図13のE、F)。この伸長部は軸に可逆的に結合している。好ましい軸は弾性である。好ましい実施形態は、純然たる医療等級のゴムバンドである。別の実施形態は、移植されたアンカー/牽引子に取り付けるために切り込まれたキー穴を収容するために、一方の端部に拡張部を備えた1×1mmのエラストマ材料の条片である。これらの取り付け穴は、伸ばされた軸が、伸長部の上方で当該伸長部内に開けられた穴又は裂溝の1mm外側を通過するようにさせるために2mm以上の内側穴を備えている(図13のG)。材料は、舌粘膜の色に適合するように着色することができる。更に別の実施形態においては、患者が、持ち上げられた伸長部を押し込んで特に使用していないときに粘膜と面一になるようにされている(図13のH)。ボタン状の器具の可逆的な押し込みを可能にするための多くの機構が当該技術において知られている。
更に別の実施形態は、舌端の上を滑らされる弾性スリーブからなるアンカー部材である(図13のI)。軸は、スリーブの一体部品とするか又は別個の取り付け可能な部品とすることができる。スリーブは、シリコーン又はその他の生体適合性エラストマによって作られるのが好ましい。軸の末端は、移植された牽引ヘッドに可逆的に取り付けることができる。軸及び移植片が結合される機構としては、弾性バンド、クリップ、互いに反対極性の磁石及び当業者に公知のその他の機構がある。この構造の利点は、牽引を達成するためには部分的に埋め込まれる小さな移植片のみが必要とされることである。
更に別の実施形態においては、PGF内に2つのアンカーが配置される(図13のJ)。当該アンカーは、舌根を牽引する機構を果たすか又は半分移植されているより小さな牽引子を押圧する舌根上を通っている弾性のバンドのための取り付け箇所である。
更に別の実施形態においては、LTRは、軸が舌端内を通り、舌の上面上の中間アンカーに達している状態で舌端の下方に固定されている。軸は、次いで、半分移植された牽引子部材の後方へと延びている(図13のK)。これによって、アンカー部位から舌端の下方への張力の調整が可能になる。
更に別の実施形態においては、堅牢な軸が、舌端の下方のアンカー部材を舌端の上方の牽引子部材に結合されている。牽引子部材は、舌端上に可逆的に配置されているスリーブによって前方へ回転せしめられる。堅牢な軸に沿った牽引子部材の回転によって、舌根の組織が正中線に沿って変位せしめられる(図13のL)。
7.咽頭舌襞
ここには、舌、咽頭壁及び/又は軟口蓋に有利に作用するために、牽引子又はアンカー部材としてPGFを使用する方法及び器具が開示されている。
舌の両側部において、粘膜の薄い襞が舌を下顎に結合している。これらは咽頭舌襞(PGF)と呼ばれている。これらの襞内には、上方から下方に向かって、口蓋、上咽頭収縮筋、茎突舌筋及び舌骨舌筋がある。PGFは、口腔(前方)を咽頭(後方)から分離している。このアタッチメントの前方には、舌の横方向結合部があり、これは自由に動くことができる。PGF内の筋肉のうちの一つは、軟口蓋と結合して前扁桃柱として口の中に見られるものを形成するために上方へ延びている口蓋舌筋である。
予想外に、PGFは、咽頭空域を広げる牽引部位として幾つかの利点を有することが判明した。PGFの結合組織は、舌の結合組織と結合されている。従って、PGFの牽引は舌根に伝えられることが予想外に判明した。更に、上咽頭収縮筋と口蓋舌筋とがPGFに取り付けられ、次いで、咽頭側壁と軟口蓋とに結合すると、これらの構造はまた牽引される(図14)。特に、PGF内の好ましい部位は、これらの筋肉の多くが舌内に入り込むときに重なる上端である。従って、一つの部位における牽引によって、舌根、咽頭側壁及び軟口蓋が同時に堅牢にされ且つ/又は牽引されることによって咽頭気道が拡張される。これらの作用の全てが、睡眠時呼吸障害に有用な作用を有する。
PGFの更に別の利点は、医師及び患者の両方が容易にアクセス可能である点である。PGFは、通常は口の診察中は折り畳まれた状態で見えず且つその上の舌面によって隠されている。しかしながら、PGFは、下顎の端縁の高さで下顎に隣接した口腔底に沿って指をずらすことによって容易に触診することができ、指は咽頭内への入り込みが遮断される滑らかな垂直の壁に到達するが、これがPGFである。PGFを見えるようにするためには、舌端を中央へ牽引することができる。
PGFの更に別の利点は、多量の感覚神経支配を有していないことである。特に、扁桃柱及びPGFに隣接した舌面は、咽頭反射を生じさせる上気道の最も敏感な領域である。しかしながら、PGF自体に触れることによって咽頭反射がほとんど又は全く生じないことが予想外に判明した。更に、PGFに触れることによって生じる少量の感覚さえも数分間で消える。
PGFの更に別の利点は、PGFは、薄く且つ容易に穿刺でき、しかも、牽引子との確実な境界面を提供するのに十分な結合組織を含んでいることである。本発明者による解剖学的研究によって、PGFが2〜3の神経脈管構造を有し且つ厚みが1〜3mmであることが示されている。
本発明は、LTRを使用してPGF又はこれに隣接する組織を変位させることからなる。
最も好ましい牽引は前方への牽引であり、この牽引によって、舌根全体が前方へ変位せしめられ、それによって、逆舌空域及び逆口蓋空域を増大する。PGFの下方への牽引もまた好ましく、この牽引によって舌根が下方へ変位せしめられ、それによって、組織体積が上気道の最も狭い部分である逆口蓋領域から取り除かれる。横方向への牽引は、舌根の後面領域を堅牢にし且つ平らにする。後方又は内側への牽引はそれほど好ましくない。
この牽引は、片側だけとすることができるが、両側であるのが好ましい。この牽引は、閉塞症状の発現中は急激的なものとし、又は眠っている夜中間は若しくは長期間に亘る場合はやや急激的なものとすることができる。長期間に亘る牽引は、力がかからない場合でも比較的前方位置に留まるように意図された組織の改造を生じさせる。
一つの実施形態においては、LTRは、PGFを横切って挿入され且つ小帯を横切って延び、同様にして反対側に移植されたLTRに結合させる(図15のB)。
一つの実施形態においては、牽引子はPGFに対して当接しているが、軸は舌の中を通って外部アンカーまで延びている(図15のC)。
一つの実施形態においては、牽引子は、PGF又はそれに隣接している舌組織内に移植され且つ前方且つ下方へ延びて舌内に移植されたアンカー、オトガイ舌筋及び/又は口腔底に達している(図15のD)。
一つの実施形態においては、牽引子は、上PGFに移植され、軸は、PGF内又はPGFの外側を下方へ通り、同じ側か反対側上の同じPGFに対して移植されているアンカーまで延びている(図15のE)。この方法は、上PGFを下方へ牽引する。
更に別の実施形態においては、PGF及び軸は、舌の上面上のアンカーへと中央を下方へと延びている(図15のF)。
更に別の実施形態においては、牽引子は、舌に移植されており且つどちらかのPGFに配置されている2つの軸に結合している(図16のB)。
更に別の実施形態においては、舌根の粘膜の下方に配置されている軸は、各PGFの前方の牽引子部材に結合している(図16のC)。
更に別の実施形態においては、舌根の粘膜の下方に配置されている軸は、両端がPGF内又は当該PGFの周囲に移植された磁石に結合されている反対極性の磁石を備えている外側の改造されたアンカーは、移植された磁石に結合し且つこれらを外部構造に固定している。
更に別の好ましい実施形態においては、牽引子部材のみがPGF内に移植されている。牽引子は、その後方面近くにフランジ面を有し、このフランジ面は、PGFに対する境界面を提供して前方への牽引を生じさせる。第二のフランジは、導管の移動を防止するために前方へ付加することができる。種々の結合機構を使用することができ、図16のEは磁気的機構を示している。
磁石は、各PGF及び外部の改造されたアンカー内に移植されており、移植された磁石に接合するために互いに反対極性の磁石が使用され且つこれらの磁石は次いで外部構造に固定される。多くの他の結合機構が当該技術において知られており、非限定的な例としては、フック、クランプ又はねじがある。この実施形態は、侵襲性が最少であり且つ移植片が分離されて、負荷がかかっていない日中には極めて高い快適性を患者に許容する。種々の異なる軸及びアンカーの組み合わせを、牽引子移植片を交換する必要なく試験することができる。
本発明の別の特徴は横方向の歯用アンカーであり、このアンカーは、磁石又は当該技術において知られている機械的な機構を使用してLTRに係合することができる。この器具の利点は、PGFが下顎の歯に極めて近接しており、移植されたLTRの安定しているが可逆的な負荷を短い器具によってかけることができる点である。更に、PGFから大臼歯への経路は患者に著しい不快感を生じさせそうにない。
本発明の更に別の実施形態においては、以下の非限定的な構造リストのうちの一つに結合されたアンカーが、PGF上又は横牽引子内へ挿入され又はPGF内を舌構造、すなわち、茎突舌筋、舌骨舌筋、小角舌、咽頭括約筋、口蓋の挙筋及び張筋、咬筋、側頭筋、翼骨、顔面筋及び広頚筋、舌骨、下顎骨、顔面骨及び椎骨、甲状腺、輪状軟骨、喉頭蓋軟骨、茎突舌筋、唾液管下顎腱及びその他の筋膜構造内へ通される。
8.軟口蓋及び扁桃襞
ここには、咽頭側壁及び軟口蓋を牽引するための方法及び器具が開示されている。
図17は、内側軟口蓋構造の基本的な解剖学的構造及び本発明の幾つかの実施形態を示している。軟口蓋は、上咽頭及び口蓋帆咽頭を口腔空域から分離している薄い筋肉構造である。軟口蓋は、硬口蓋の端縁から始まり、喉に向かって下方へ延びている。軟口蓋の正中線端部は口蓋垂で終わっており、各側部において口蓋扁桃を包囲している2つの襞に分かれている。前扁桃襞即ちいわゆる口蓋舌襞は、上PGFの近くで舌の側部へ入り込み、後扁桃襞即ちいわゆる口蓋舌襞は咽頭側壁内へ入り込んでいる。
軟口蓋の余分な長さ又は厚みは、口蓋帆咽頭の体積を減らし且つ鼾及び睡眠時無呼吸の一因となる。更に、軟口蓋及び咽頭壁の弛緩は、気道の圧潰になりやすくさせる。本発明の方法は、軟口蓋及び咽頭壁構造を可逆的に又は持続的に薄くし、堅牢にし且つ/又は牽引する。
軟口蓋のLTRへの負荷は、上記した舌における実施形態と似ている。特に、軟口蓋のLTRは、無負荷状態すなわち軸を組織内に保持するのに十分な最少の張力(好ましくは1〜100グラム、最も好ましくは5〜15グラム)で定位置に静止することができ、アンカー及び牽引子は粘膜に対して不動状態で静止する。従って、患者は、LTRの存在をほとんど又は全く感じない。夜間においては、LTRは、改造されたアンカーの配置によって負荷がかけられる。非限定的な例としては、アンカーと粘膜との間の又は歯用器具に結合しているボルスタである。
横LTRの正確な位置及び向きは、LTRの作用が主として組織を圧縮するか又は変位させるかに対して大きな影響力を有する。
図17は、上PGFの同じアンカー位置の幾つかの非限定的な例が異なる有益な作用を有する多くの好ましい実施形態を有することができることを示している。
図面におけるLTR♯1は、軟口蓋の横面の下方への変位を達成し、それによって口蓋帆咽頭を拡張させる向きとされている。
LTR♯2は、軟口蓋の正中線へと延びている。LTRの正確な位置、力及び数は、各患者特有の病状を最良に治療するために変えることができる。
LTR♯3は、扁桃を横切って後扁桃柱の咽頭側の牽引子まで延びている。睡眠時無呼吸症患者の扁桃は、正常状態に比して大きくなっていることが多く、この腫脹は、上気道の余分な軟組織の一因となる。軸の張力は、扁桃を圧縮し且つそれらの体積を小さくする。
LTR♯4は、上PGFから舌根の粘膜まで延びている。この実施形態は、舌根の粘膜を堅牢にし且つ舌根が後方へ変形するのを防止する。
図18は、扁桃襞における種々の好ましい実施形態を示している。
図19Aは、硬口蓋の近くにアンカーを備えた軟口蓋における正中線LTRの実施形態であり、軸が軟口蓋及び口蓋垂領域内の牽引子ヘッド内を通されている(図18A)。アンカー部材は、口又は咽頭側壁上の粘膜に当接することができる。アンカーは、歯科器具のような口腔側面上の改造されたアンカー又は咽頭側壁上の改造されたアンカーに結合するように利用可能である。アンカー部材は、前方か、下方か又は後方に面するように挿入することができる。
図19B,19Cは、軟口蓋の形状及び位置に対するボルスタ形態の改造されたアンカーの作用を示している。ボルスタを挿入することによって軟口蓋が回転せしめられ、堅牢化され、窪ませられる。ボルスタによって付加される張力の大きさは、1〜500グラム(gm)、好ましくは5〜250グラム、最も好ましくは10〜50グラムの範囲内である。ボルスタ又はアンカーヘッドが前面の凹部内に嵌まる設計とされており、挿入後に、結合されたアンカーのボルスタは、滑らかで軟らかい連続面を提供し、それによって、会話又は嚥下に影響を及ぼさず、患者に生じる不快感は最少である。
図19Dは、全体的に移植されているLTRの別の好ましい実施形態を示している。
図19Eは、その主要な作用が厚みのある軟口蓋を圧縮することである更に別の実施形態を示している。アンカー部材及び牽引子部材は、軟口蓋の両端に整合されている。軸内の張力によって、これらの間の組織が圧縮され且つ薄くされる。
図19Fは、保持軸がLTRによって固定されており且つ軟口蓋の端縁の近くを通ってこれらの軸を定位置に保持している実施形態を示している。
9.獣医関連の実施形態
ここには、哺乳類における睡眠時無呼吸症及びそれに関連する障害を治療するための方法及び器具が開示されている。
ヒト以外の動物の上気道障害の非限定的な例は、馬の軟口蓋(DDSP)を背面へ変位させる方法である。競争馬は、呼吸の必要性が最も大きな極上の競争動物である。全てのヒト以外の動物は種々の形状の上気道を有している。特に、軟口蓋と咽頭とが極めて近接しており、通常、これらは連続している(図20のA)。特に、軟口蓋は、咽頭の喉頭蓋の周囲にしっかりと保持されていて、鼻から咽頭を通り肺への気道が保護され且つ固定されるようになされている。競争馬の場合には、このことは、運動中の各呼吸によって多量の空気が肺内へ及び肺から滑らかに流れなければならないので特に重要である。
幾らかの馬においては、軟口蓋と喉頭蓋とのこの連結が破壊しており、軟口蓋は喉頭蓋を越えて後方へ延びている(図20のB)。軟口蓋のこの変形は、すぐさま呼吸と干渉し、動物は走るのをやめる。DDSPの原因はわかっているけれども、ある種の多くの調教師は、舌が軟口蓋を後方へ押し且つ定位置から移動させることによって変形させると考えている。この理由のために、多くの調教師は、実際には、レースに先立ってレース馬の舌を前方へ固定する。これは、粗雑な解決方法であり動物にとっては不快である。
本発明の一部分は、舌の後方への変位を防止し且つ軟口蓋を喉頭蓋にしっかりと結合することによってDDSPを防止する方法及び器具である。人間においては、睡眠時呼吸障害を取り巻く条件としては、睡眠中に舌が弛緩することが含まれる。馬における状況は全く異なり、舌及びその他の上気道構造は遙かに大きく且つ最大限に活動する。従って、LTRは、これらの比較的過酷な状態に適合しなければならない。更に、舌の後方への動きを確実に防止することは通常の嚥下を不可能にする。従って、LTRは、運動直前に負荷がかけられ且つ直後に負荷が除去されることが必要である。更に、このことは、馬との協働によって又は馬と協働せずに、調教師によってなされる必要がある。
一つの実施形態においては、LTRは、馬の軟口蓋の背面への変位を防止して舌の後方への動きを防止するために使用されている。ウマ科の患者における状況は、多くの実質的な方法においてヒトの場合と異なっている。動物が覚醒しており且つ最大能力で運動しているときにこの問題が生じる。舌は、後方へ動き且つ軟口蓋を喉頭蓋(K)と連続している正常位置から押しのけると考えられている。従って、必要とされる牽引力は、ヒトにおいて使用される力よりも遙かに大きい(好ましくは1グラム〜50キログラム、より好ましくは10グラム〜10キログラム、最も好ましくは100グラム〜1キログラム)。これらの力に適応するためには、LTRの材料は、ステンレス鋼又は比較的伸張性のある強度の材料によって作られるのが好ましい。一つの実施形態においては、LTRは、舌根から舌の上面へと延びている。LTRは、ほとんどの時間負荷がかかっておらず、運動に先立って馬の糸状帯の先端に結合されたときに負荷がかかるようになるだけである。更に別の実施形態においては、LTRは、舌根からアクセス可能な下顎を介して唇の下側まで延びている。ボルスタは、運動に先立ってLTRに負荷をかけるように配置される。
図20のDは、馬の体内に存在するある種の特有の状況を利用しているLTRの実施形態を示している。特に、糸状帯は、通常は馬を制御するためにレースの際に馬の頭に配置され、ほとんどの糸状帯は、先端すなわち馬の口を横切る棒を備えている。この先端は、LTRに結合し且つ負荷をかける改造されたアンカーとして使用することができる。
代替的な実施形態は、軟口蓋と喉頭蓋とを固定している。図20のEは、LTRが軟口蓋から喉頭蓋へと延びていて変位に抗し、変位が起こった場合に連結された形状に迅速に復元する実施形態を示している。図20のFは、LTRが各PGFから各軟口蓋の側面へ付着している実施形態を示している。
10.非侵襲性の実施形態
ここには、睡眠時無呼吸症及びそれに関連する障害の治療のために粘膜を非侵襲的に牽引し且つ軟組織の体積を変位させる方法及び器具が開示されている。主要な利点は、外科処置が必要とされず、患者が非侵襲性器具を容易に挿入でき且つ取り外すことができる点である。
現在のところ睡眠時無呼吸症のための唯一の有効な非侵襲性治療方法はCPAPである。CPAPは、空気圧によって軟組織を変位させ、多くの場合には患者にとって不快であり且つ順守率が極めて低い。睡眠時無呼吸症に対して幾分対抗性を有する唯一の他の非侵襲性治療方法は歯用器具である。歯用器具は、顎を前後に動かすことによって作動し、それによって、口腔底及び舌の全体を間接的に動かす。この方法によって、気道は拡張せしめられ、顎を咽頭に結合している粘膜は、若干伸張せしめられ且つ堅牢化される。不幸にも、顎を頭蓋骨に結合している結合部は、気道を拡張させることができる程度に限度があり、少量だけ伸張させることができる。従って、歯用器具は現在のところ幾つかの緩やかな場合にのみ有効である。
如何にしてLTRが舌及びその他の軟組織を粘膜に貫入することなく牽引することができるかは明らかではない。舌及び咽頭は、接触に対して敏感であり且つ刺激によって吐き気を生じさせる。更に、全領域が滑りやすい粘膜によって覆われており且つ常に動いている。従って、器具が組織に対する何らかのしっかりした固定が無い状態で定位置に維持することができることは明らかではない。
一つの実施形態においては、牽引子は、耳の上に引っ掛けることができる眼鏡に良く似てPGF下に“引っ掛かる”(図21のB,C)。牽引子は、PGFの垂直背面に沿って主として接触した状態で舌根及び咽頭側壁によって形成された溝内に横たわる。一つの実施形態においては、牽引子は、薄く且つ軟らかく且つ粘膜に力を心地良く分布させるように嵌合される。非限定的な例としてシリコーンのような軟らかいゲルがある。牽引子の長さは1mm〜100cmであり、より好ましくは0.5cm〜5cmであり、最も好ましくは1〜2cmである。牽引子は、食道まで下方へ延びることができ、幾つかの実施形態においては、上部食道括約筋、梨状洞、声帯襞、披裂喉頭蓋襞、咽頭蓋及び/又は咽頭側壁を牽引する。
牽引子の別の好ましい形態は、図21のHに示されている楔形状である。楔の比較的幅が広い平面は、1〜10mmの幅であるのが好ましい。この幅は、舌根を圧縮し且つその追従性を減少させ、それによって、後方への圧潰を防止する補助となる。この比較的広い舌根によって舌根が前方へ誘われ得る(図21のG,H)。
幾つかの実施形態においては、軸は、PGFの上方の牽引子の頂部から直接延びていて、ここに開示されている固定部位のうちの1以上に結合する。最も近くの構造は、歯及び特に粘膜である。臼歯に固定されている歯用器具は当該技術において公知である。これらの器具は、軸に取り付けるための広範囲の機構を有することができる。歯科矯正において使用されるものに似た一つの一般的な方法は、ゴムバンドを使用することである。この場合には、ゴムバンドは、一端が牽引子に取り付けられ、他端は大臼歯上のアンカーに戸の付けられる。この実施形態の利点は、当該器具が容易に取り外し可能であり且つ交換可能であり、完璧に調整可能であり、固定するために軸が移動する距離を極めて短くすることができ、それによって患者の不快感が最少の状態で目的を達成することができる点である。
引っ掛け牽引子は、ここに開示されている多くの部位において使用することができる。しかしながら、定位置に保持するためには、フックは、定位置にある間負荷がかけられることを必要とする。PGFの位置は、牽引子が全ての側部を組織によって包囲されており且つ頂部さえも張り出している舌の側部によって覆われている。
本発明の別の好ましい実施形態においては、牽引子は、非侵襲性の手段によって曖昧な形態で組織の壁に取り付けられたままとなるように設計されている。一つの好ましい実施形態においては、機械的な牽引子が、アンカーに結合させることなく長期間に亘って定位置に維持されたままとなるように組織の襞を覆うようにクリップされている(図22)。組織の襞は、クリップの端部での圧縮が組織を窪ませ且つその位置からの移行に抗する適応性を有する(図22のA)。クリップのアームの端部の圧縮力は機械的であるのが好ましい。これらの力は、クリップ、その下端に組み込まれたばね、力を維持することができる挿入長さのニチノール若しくはその他の材料の塑的物理特性又はアンカー/牽引子部材内の磁石によって発生させることができる(図22のB)。磁石はまた、改造されたアンカーに可逆的に結合するために使用することもできる。この実施形態は、粘膜を圧縮し且つ軟組織の襞の端縁を牽引する(図22のC)。2つのクリップは、拡張方向への(突き出す又は延ばす)力をかけている軸によって結合することができる(図22のD)。
クリップの非侵襲性の牽引は、粘膜襞が存在するか又は組織を把持することによって襞を形成することができる上気道内の全ての部位において使用することができる。これらの部位としては、限定的ではないが、PGF、小帯、舌側面、扁桃襞(図22のE,F)、軟口蓋(図22のG)、咽頭壁、口腔底及び披裂喉頭蓋襞がある。これらの部位の幾つかは、広く且つ敏感な神経支配を有しているが、クリップと粘膜との間の接触が安定していて動かない限り、感覚は数分で消える。この感覚の消失は、順応と呼ばれ且つ官能生理学者に公知である。粘膜接触に対する牽引子の安定性は、当該技術において知られている接着剤の使用によって高められる。粘膜に対して有効な接着剤としては、限定的ではないが、フィブリン、ヒドロゲル、シアノアクリル系接着剤がある。クリップのみならず軸及びアンカーのための部位は、構成要素と粘膜との間に最少の力学的な接触が生じるように配置されることも重要である。更に、永続的使用のためには、クリップのアーム間の圧縮は、毛細血管循環が停止する所謂潅流圧力(約25mmHg又は34cmHO)を超えてはならない。
本発明のもう一つ別の非侵襲的な実施形態は、真空を使用して軟組織を牽引し又は変位させる方法及び器具である。真空器具は2つの異なる方法において使用される。一つの方法においては、真空は粘膜面上で牽引子ヘッドを吸引する機能を果たし、それによって、牽引子を取り付けることである。もう一つの方法においては、真空は、舌の比較的大きな部分を覆うように適用し、吸引器内への舌組織の変位を生じさせることができる。舌の体積は一定であるので、組織の変位は、舌の他の部分、最も好ましくは舌根から生じるはずである。
一つの方法においては、真空は、牽引子を粘膜に結合するために使用される。次いで、牽引子は、ここに説明した改造されたアンカーに固定することができる。真空を使用する第二の方法は、軟組織の体積を変形させることである。これは、組織体積を吸引する比較的大きな器具によって舌上で使用され、それによって、体積が舌根から除去されるように舌の形状を変えるようにするのが好ましい。
真空牽引子は、当該技術において公知であり且つ粘膜に押し付けることによって真空が形成される吸引カップ型とすることができる。器具と粘膜との間の境界部は90°以上の角度で内側壁によって明確に規定された端縁を備えている。この実施形態は、吸引部位に作用する剪断力に対して抗する少量の組織を穴内へ吸引する(図23のJ)。当該真空牽引子は、当該真空牽引子から延びているチューブを介して口から真空源に接続することもできる。別の実施形態においては、口の中に小さな空気ポンプを配置することができる。このポンプは、一方向弁を備えた小さな空気袋によって形成して受動的なものとし、その結果、空気袋を圧縮する舌又は顎の動きによって空気が一方向弁を介して押し出される。空気袋の弾性駆動によってその比較的大きな体積へと戻ることによって真空が形成される。
真空牽引子は、粘膜に結合した後に、他の実施形態のために使用されるものに似た方法で、軸によって前方へ変位させることができる。真空牽引子は、単一の吸引境界部又は多数の比較的小さな境界部(小さな吸引カップ)とすることができる。シールを維持することを補助するために、粘性の粘液材料又は接着剤を粘膜に適用することができる。真空牽引子は、PGFの前面に適用されるのが最も好ましい。他の好ましい部位は舌の横下面である。当業者は、牽引子が有利である全ての位置に真空を適用することができることを理解することができる。
本発明の別の実施形態は、口腔底を押圧することによって咽頭空域を増すことである。口腔底(FOM)は、後が舌骨に付着し且つ前及び横が下顎に付着している筋肉及びその他の組織によって構成されている。舌はFOM上に載っていてFOMの動きに追従する。例えば、顎が前又は下へ動かされると、舌はそれに沿って動く。同様に、舌骨が前に動くと、舌の背面が同じ方向へ変位せしめられる。幾つかの外科処置は、舌骨を下顎の前方に結びつけることによって、比較的前方位置へ舌骨を結びつけることによってこの関係を利用することを試みている。不幸にも、舌骨は、当該舌骨が再配置されることに逆らう多くの他のアタッチメントを有している。
本発明は、FOMの骨による取り付けを動かすことに焦点を絞っておらず、その代わりに、FOM自体の軟組織を動かすことに焦点を絞っている。特に、FOM上に載っている舌根(舌の根っこ)は三角形状であり且つFOMの全体の面積よりも小さい(図23)。従って、FOMは、舌根と下顎との間に届くことができる。この領域が押し下げられると、舌根も同様に押し下げられる。露出されたFOM全体を押し下げることができるけれども、これは有効ではない。なぜならば、動くことが最も重要なのは舌根であるからである。
好ましい実施形態においては、舌根の周囲のFOMの領域が押し込まれ、それによって、舌根が下方へ移動せしめられ且つ咽頭空域が増大せしめられる。実際的な目的のためには、PGFは、FOMが後方へどこまで届くことができるかに対して制限を設ける。一つの実施形態においては、0.5cm×0.5cm×1cmのシリコーン製のボルスタが、一端がPGFに当接している舌の下面と並んで長手方向に配置されている。下方への圧力は、大臼歯に取り付けられた歯用器具によって達成される。局部的な下方向への動きの全てが舌に伝えられる訳ではない。しかしながら、咽頭空域の著しい増大は有利である。
FOMの押し込みに加えて、変位力を前方、内側又は外側へかけることができる。前方への移動は、舌根もまた前方へ動く程度まで咽頭空域が拡張されるので有利である。両側部が舌に把持力をかけ、それによって後方への圧潰に抗する場合には、内方への動きが有利である。後方への圧潰をも防止する程度まで組織を伸張させ且つ緊張させる外方への移動も有利である。
ここに示した実施形態は本発明の単なる例示であり、上記の実施形態の多くの変形例が当業者によって本発明の範囲から逸脱することなく考案され得ることは理解されるべきである。従って、このような変形例の全てが、特許請求の範囲及びその等価物の範囲内に含まれることが意図されている。
添付図面は、本発明の概念を示す目的のためのものでありことは理解されるべきである。
図1は、人体の上気道の正中面図である。 図2は、舌及び舌の周囲組織の簡素化された概略図である。 図3は、舌の解剖学的境界標識を示している図である。 図4の4A−4Fは、気道閉塞機構及び現在の治療法による作用を示している図である。 図5の5A−5Dは、LTR器具の実施形態を示している図である。 図6の6A−6Eは、牽引子を示している図である。 図7の7A−7Cは、軸部材を示している図である。 図8の8A−8Hは、アンカー部材としてのボルスタを示している図である。 図9の9A−9Eは、歯用アンカー部材を示している図である。 図10の10A−10Cは、小帯領域のアンカー部材を示している図である。 図11の11A−11Eは、小帯領域の実施形態を示している図である。 図12の12A−12Fは、舌根移植片を示している図である。 図13の13A−13Lは、舌根の実施形態を示している図である。 図14の14A−14Eは、上口蓋舌襞を示している図である。 図15の15A−15Fは、咽頭舌襞の実施形態を示している図である。 図16の16A−16Fは、咽頭舌襞の実施形態を示している図である。 図17の17A−17Cは、軟口蓋の実施形態を示している図である。 図18の18A−18Fは、扁桃襞の実施形態を示している図である。 図19の19A−19Fは、軟口蓋の実施形態を示している図である。 図20の20A−20Fは、獣医用途の実施形態を示している図である。 図21の21A−21Hは、非侵襲性PGF牽引子を示している図である。 図22の22A−22Hは、非侵襲性牽引先端の実施形態を示している図である。 図23の23A−23Hは、非侵襲性前突及び真空を示している図である。

Claims (15)

  1. 呼吸障害の治療のための組織牽引子であり、
    a)患者の口腔又は咽頭内に配置されている軟組織内に挿入される大きさの軸と、
    b)当該軸の第一の端部又はその近くに結合される牽引子部材と、
    c)前記軸の第二の端部又はその近くに結合されるアンカー部材と、
    d)前記軟組織の外面と前記アンカー部材との間に配置されているボルスタと、を備え、
    前記軸、牽引子部材及び前記アンカー部材のうちの少なくとも1つが軟組織の外面上に配置されており、前記軸、牽引子部材及びアンカー部材のうちの少なくとも1つが、軟組織の少なくとも一部分の変形を防止する力を変えて患者の気道障害を防止するように調整可能である組織牽引子。
  2. 請求項1に記載の組織牽引子であり、
    前記ボルスタが、前記軟組織の外面を補足するようになされた凹状面を備えたほぼV字形状である組織牽引子。
  3. 請求項1に記載の組織牽引子であり、
    前記ボルスタが裂溝を有し、前記軸の少なくとも一部分は前記裂溝内に嵌合する大きさとされている組織牽引子。
  4. 請求項1に記載の組織牽引子であり、
    前記アンカー部材が歯用ボルスタに固定される組織牽引子。
  5. 請求項1に記載の組織牽引子であり、
    前記アンカー部材が前記牽引子に対する反力の可逆的な増大が分配されるように改造されている、組織牽引子。
  6. 請求項1に記載の組織牽引子であり、
    前記アンカー部材が改造されたアンカーに可逆的に取り付けられており、前記改造されたアンカーは、患者の口腔又は咽頭内に位置する組織に固定されている、組織牽引子。
  7. 請求項1に記載の組織牽引子であり、
    前記が上方部分を備えており、該上方部分は伸張性である組織牽引子。
  8. 請求項7に記載の組織牽引子であり、
    前記上方部分がバルーンを備えている組織牽引子。
  9. 呼吸障害を治療のための組織牽引子であり、
    a)患者の口腔又は咽頭内に配置されている軟組織内に挿入される大きさの軸と、
    b)当該軸の第一の端部と一体に形成されており且つ配備されていない状態においては前記軸に対して鋭角に位置決め可能であり且つ配備された状態においては前記軸に対して直角である牽引子部材と、
    c)前記軸の第二の端部又はその近くに結合されているアンカー部材と、
    d)前記軟組織の外面と前記アンカー部材との間に配置されているボルスタと、を備え、
    前記牽引子部材は、前記配備状態にあるときに軟組織の外面上に位置決めすることができ、前記牽引子部材、軸、及びアンカー部材は、相互に作用して、前記軟組織の少なくとも一部分の変形を防止する押圧力をかけて患者の気道閉塞を防止することができるようになされている、組織牽引子。
  10. 請求項9に記載の組織牽引子であり、
    前記ボルスタが、前記軟組織の外面を補足するようになされた凹状面を備えたほぼV字形状である組織牽引子。
  11. 請求項9に記載の組織牽引子であり、
    前記ボルスタが裂溝を有し、前記軸の少なくとも一部分は前記裂溝内に嵌合する大きさとされている組織牽引子。
  12. 請求項9に記載の組織牽引子であり、
    前記アンカー部材が歯用ボルスタに固定される組織牽引子。
  13. 請求項9に記載の組織牽引子であり、
    前記アンカー部材が前記牽引子に対する反力の可逆的な増大が分配されるように改造されている組織牽引子。
  14. 請求項9に記載の組織牽引子であり、
    前記アンカー部材が改造されたアンカーに可逆的に取り付けられており、前記改造されたアンカーは、患者の口腔又は咽頭内に位置する組織に固定されている組織牽引子。
  15. 請求項9に記載の組織牽引子であり、
    前記牽引子と前記軸とが単一部品として一体化されている組織牽引子。
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