JP5291440B2 - 鋼製2ピース組合せオイルリング本体の製造方法及びそれを用いた鋼製2ピース組合せオイルリング - Google Patents
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特許文献1は、「窒化層が外周摺動面に形成され、Ni系合金めっき層が上下面及びウェブ外周面に形成された断面略I字型の鋼製2ピース組合せオイルリング」に関するものである。その製造方法として、「異形鋼線材にパンチ加工を施して窓孔を形成」→「コイリング加工」→「切断」→「オイルリング形状」→「全周面にNi系めっき」→「窒化処理」なる工程が記載されている。
なお、穿孔方法は、特に限定されないが、レーザービーム法を用いると、通油孔周辺の耐摩耗性層が熱処理を受けることになるので、通油孔エッジの耐摩耗性層の欠け・剥離発生が抑えられる。
4)コイル状リング集合体のまま耐摩耗性層を形成するので、その際の使用治工具形状が単純であること、又、コイル状リング集合体の取り扱いも容易であり、表面処理工程での生産性がきわめて良好となる。
図4は本願発明の鋼製2ピース組合せオイルリング製造方法の工程を示す図である。(ア)は従来製造方法、(イ)、(ウ)が本願発明の製造方法である。
従来の鋼製2ピース組合せオイルリング本体は、線材メーカーで塑性加工により製造した通油孔を有するほぼ直線の鋼製2ピース組合せオイルリング用線材を、コイリング成形によりオイルリング本体で約数百本分に相当する略円形のコイル状リング集合体を成形した後、合口相当部で一括切断して、約数百本の鋼製2ピース組合せオイルリング本体とし、その外周面に耐摩耗層を形成して、外周加工、側面加工等を施し製品とする工程で製造されていた。
何れの方法においても、通油孔のない線材を用いて、規定寸法の外径のコイル状リング集合体に成型したのち、そのまま切断しないで、コイル状リング集合体の少なくとも外周面に、耐摩耗性層を形成するので、切断後でも真円度の良好な鋼製2ピース組合せオイルリング本体を得ることが出来る。
なお、従来工法及び本願発明の何れに於いても、コイル状リング集合体を切断したときには、すべての鋼製2ピース組合せオイルリング本体には、合口部分で約1本分の厚さの軸方向歪みが生じている。この歪みをなくすには、軸方向から応力を加えた状態で熱処理を行う必要がある。
1)コイリング成形工程
鋼製2ピース組合せオイルリング本体のコイリング成形は、例えば、特開平7−24545号公報に記載された構造・機能の装置で成型される。塑性加工により製造されたほぼ直線のピストンリング用鋼線材を、曲げ加工によりコイル状に成形し、ピストンリングで数百本相当の長さ200mm〜400mm程度の、規定の外径を持ったコイル状リング集合体(11)とする。
巻径の範囲が60mm〜170mm、リング厚さh1が1.5mm〜5.0mm、リング幅が1.2mm〜3.0mmのオイルリング本体が成形可能である。
従来のように通油孔のある線材を用いて成形すると、通油孔の有無によって線材の断面形状が異なり、線材の強度も異なるから、均等な応力を加えるコイリング成形によって成形されるコイルの真円度は微妙に変化する。そのため、図5に示すように通油孔の有る部分が尖った多角形状の円形(図5)となっていた。
次に、コイル状リング集合体の外周面に耐摩耗性層を形成する。ピストンリングの耐摩耗性層形成の方法としては、めっき処理、PVD処理、溶射、窒化処理等が用いられる。これらピストンリングに用いられる表面処理のなかで、本願発明はPVD処理、窒化処理を用いた耐摩耗性層を形成したオイルリングに適用するのが好ましい。
本願発明ではPVD処理による耐摩耗性層形成は、略円形に成形されたコイル状ピストンリング集合体をその外周摺動面に凹凸が生じないように、パイプ状治具の外周面に巻き付け両端部を緩く拘束する。このようにすることで、成膜されたPVD皮膜の内部圧縮応力により合口部近傍が縮径し真円度の悪化を防ぐことが出来る。従来方法では、合口部を切断した後に外周面にPVD皮膜を形成するので、穴無し線材を用いてコイリング成形して良好な真円度としても、PVD処理で真円度を悪化させていた。なお、この方法では、ピストンリング側面にPVD皮膜が付着することを防止する効果もある。
ターゲット材:金属クロム
前処理:Arイオンボンバード
真空度(窒素分圧):1.33Pa
温度:450℃
バイアス電圧:−10V
コーティング時間:180分
以下に、外周摺動面に70〜90μmのガス窒化層を形成する窒化処理条件を記載する。
前処理:塩化アンモンによる炉内前処理
アンモニア雰囲気:72%
窒化温度:585℃
時間:50分
なお、鋼製2ピース組合せオイルリングの側面に耐摩耗性向上を目的として窒化処理層を形成する場合には、窒化処理後にPVD処理又はPVD処理後に窒化処理等、これらの処理を組み合わせることが出来る。
図6に本願発明で実施した切断工程の概略図を示す。鋼製2ピース組合せオイルリング本体はコイル状リング集合体(12)の外周摺動面にPVD処理層、窒化処理層等を形成し、合口相当部で一括切断して得る。外周摺動面にPVD処理層、窒化処理層が形成されたコイル状リング集合体(12)を内径:φ81.70mmとなる切断雇(13)に巻き付ける。切断雇(13)の一部には切断砥石(14)の逃げ溝(15)があり、コイル状リング集合体(12)の両端部はカラー(16)で固定している。切断雇(13)の一端から逃げ溝に沿って他端に切断砥石(14)を回転数:2300rpm、移動量:1800mm/分でコイル状リング集合体(12)を切断して、鋼製2ピース組合せオイルリング本体を得る。
コイル状リング集合体(12)を切断して得られる個々の鋼製2ピース組合せオイルリング本体(17)は、合い口端部で軸方向にリング厚さ約1本分の歪みが発生している。これを、熱処理で平行に強制する必要があり、切断後に熱処理を行う。なお、この熱処理は鋼種に合わせて、300℃〜600℃の範囲で行う。硬質Crめっき皮膜はこの歪み取り熱処理で皮膜の硬さが低下することがあるため、対策が必要である。
この熱処理は具体的には次の方法で行う。まず、切断により得た個々の鋼製2ピース組合せオイルリング本体(17)を円筒雇(18)に、オイルリング数十本単位で合口が180°互い違いになるようにセットする。雇一本分のオイルリング本体を巻き付けた後、重さが数百グラムの円板状の錘(19)を載せて熱処理を行う。熱処理温度・時間はピストンリング鋼種により変える必要がある。
リング材質が軟鋼の場合は約430℃で約60分、窒化処理用のステンレス鋼や合金鋼の場合は約600℃で約60分である。
鋼製2ピース組合せオイルリングの穿孔行程は例えば、特許文献4と同様な装置で通油孔を形成される。分離された個々の鋼製2ピース組合せオイルリング本体(17)は上下レール部(4、5)を繋ぐ柱部(7)とその中央部に周方向にレーザービームを照射することにより、一定間隔で通油孔(6)を形成する。通油孔(6)の長さはレーザービームに対する鋼製2ピース組合せオイルリング本体(17)の長さ方向の送り速度とレーザービームの照射時間を決定するパルス幅によって決定される。また、通油孔の幅はレーザービームに対する鋼製2ピース組合せオイルリング本体の幅方向の送り速度または焦点面でのスポット径により決定される。固定された鋼製2ピース組合せオイルリング本体(17)に対してレーザービームを移動させパルス状のレーザービームを鋼製2ピース組合せオイルリング本体(17)に照射することにより通油孔(6)の形成が可能となる。
内周側からのレーザービーム照射については図8(d)のように割り雇(23)で固定したオイルリング本体の内周からレーザービーム照射機(22)を移動させて穿孔する。加工条件は外周側からのレーザービーム照射と同様に、図8(e)のように鋼製2ピース組合せオイルリング本体(17)がワークサイズ径になるように合口部を揃えて割雇(23)外周面から固定する。そのとき、合口部の位相を確認し、合口部から数mmずらした位置に通油孔を形成するような間隔でレーザービーム照射を行う通油孔の位置は個体差によるばらつきが低減した。
本願発明の効果を確認するために、次の実験を行った。
通油孔が形成されていない鋼製2ピース組合せオイルリング用線材をコイリング成形してコイル状リング集合体を成形し、このコイル状リング集合体のまま、ガス窒化処理を行い窒化層を形成した。それを切断して、鋼製2ピース組合せオイルリング本体とした。続いて、これを熱処理して軸方向歪みを取り除いた後、外周面をラッピング研磨加工し、真円度の測定を行った。続いて、レーザービームにより外周面側から柱部に通油孔を形成し、再び、真円度の測定を行った。
工程概略
[通油孔無し断面略M字型の異形線材]→「コイル状リング集合体に曲げ加工」→「ガス窒化処理」→「切断」→[鋼製2ピース組合せオイルリング本体]→「歪み取り熱処理」→「外周面のラップ研磨加工」→(真円度測定A)「通油孔形成」→(真円度測定B)
(実施例2)
工程概略
[通油孔無し断面略M字型の異形線材]→「コイル状リング集合体に曲げ加工」→「イオンプレーティング処理」→「通油孔形成」→「切断」→[鋼製2ピース組合せオイルリング本体]→「歪み取り熱処理」→「外周面のラップ研磨加工」→(真円度測定B)
従来の製造方法である。通油孔を形成済みである鋼製2ピース組合せオイルリング用線材を用いて、コイリング成形しコイル状リング集合体を形成した後に、切断して、鋼製2ピース組合せオイルリング本体とした。これを熱処理して、軸方向歪みを取り除き、その後、外周面を軽くラップ研磨して凹凸をなくし、真円度を測定した。
工程概略
「通油孔有り断面略M字型の異形線材」→「コイル状リング集合体に曲げ加工」→「切断」→[鋼製2ピース組合せオイルリング本体]→「歪み取り熱処理」→「外周面のラップ研磨加工」→(真円度測定B)
ここでは、通油孔が形成されていない鋼製2ピース組合せオイルリング用線材をコイリング成形してコイル状リング集合体を成形した後、切断して、鋼製2ピース組合せオイルリング本体とした。続いて、これを熱処理して、軸方向歪みを取り除き、これの真円度を測定した。次に、イオンプレーティングによる膜厚約30μmの窒化クロム耐摩耗性層を形成した後、外周面にラッピング研磨を行い、再び真円度の測定を行った。
工程概略
[通油孔無し断面略M字型の異形線材]→「コイル状リング集合体に曲げ加工」→「切断」→[鋼製2ピース組合せオイルリング本体]→「歪み取り熱処理」→(真円度測定A)→「イオンプレーティング処理」→「外周面のラップ研磨加工」→(真円度測定B)
なお、比較例、実施例共にイオンプレーティング処理、ガス窒化処理は表面処理での膜厚等のバラツキ発生を防止するために、同時処理を行った。
ピストンリングの真円度測定は下記の方法で行った。
2ピースオイルリング本体(24)をφ83.50の径のゲージにならわせて固定軸(25)にセットしたリング抑え板(26、27)で固定し、真円度測定器にセットした。測定子(28)を2ピースオイルリング本体(24)の外周に当てて、固定軸(25)を回転させ、測定子(28)で感知した信号から真円度形状を測定した。
図9(1)は、実施例1の結果であり、通油孔を有しない線材をコイリング成形し、コイル状リング集合体のまま窒化処理し通油孔を設ける方法で製作した窒化2ピースオイルリングの外周面のラップ研磨加工後の真円度測定結果である。花びら形状も合口部の縮径も認められなかった。なお、図示しないが、レーザーによる通油孔形成での真円度変化は殆ど無かった。
図9(2)は、実施例2の結果である。実施例2は実施例1と同様に、通油孔を有しない線材をコイリング成形し、コイル状リング集合体のままイオンプレーティング処理を行い、その後、切断してから、通油孔を設ける方法で製作した外周面に窒化クロム皮膜を形成したオイルリングの外周面のラップ研磨加工後の真円度測定結果である。窒化処理したオイルリングと同様に、花びら形状も合口部の縮径も認められなかった。
図9(3)は従来の製造方法で製造した表面処理前品の外周面をラップ研磨加工した後の外周形状データである。通油孔の有る線材をコイリング成形したため、コイリング成形後において外周形状は花びら状になった。外周面のラッピング加工により幾分花びら形状は修正されているが、このラッピング加工にも時間を要した。
図9(4)(5)は、従来の製造方法の一つである特許文献4に基づく製造方法により製作した、イオンプレーティング皮膜を有する鋼製2ピースオイルリングの真円度を測定したものである。通油孔がない線材を用いてコイリング成形したものであり、コイリング成形後での通油孔による真円度の悪化(花びら形状)はないが、切断後にイオンプレーティング処理を行うため、真円度形状は実施例2のものに比べ合口部の縮径が大きかった。
又、図10に比較例と実施例の真円度グラフを示す。比較例1,2に比べ、実施例1,2の真円度は良好な結果となった。
2 オイルリング本体
3 コイルエキスパンダ
4、5 レール部
6 通油孔
7 柱部
8 外周摺動面
9、10 耐摩耗性層
11 成形されたコイル状リング集合体
12 耐磨耗性層を有するコイル状リング集合体
13 切断雇
14 切断砥石
15 切断溝
16 カラー
17 個々の鋼製2ピース組合せオイルリング本体
18 円筒雇
19 重り
20 回転軸
21 抑え板
22 レーザービーム照射機
23 割り雇
24 切断されたオイルリング本体
25 固定軸
26 上抑え板
27 下抑え板
28 測定子
Claims (3)
- 上下のレール部(4、5)と、前記上下のレール部(4、5)を繋ぎその中央部に周方向に一定間隔で通油孔(6)を有する柱部(7)からなり、外周面(8)に耐摩耗性層(9)を有する鋼製2ピース組合せオイルリング本体(2)の製造方法であって、前記通油孔(6)を有しない鋼製2ピース組合せオイルリング用鋼線材を略円形に連続成形して、コイル状リング集合体(11)に成形した後、前記コイル状リング集合体(11)の外周面(8)に耐摩耗性層(9)を設け、その後に通油孔を形成することを特徴とする鋼製2ピース組合せオイルリング本体(2)の製造方法。
- 前記耐摩耗性層が窒化処理層及び/又はPVD処理層であることを特徴とする請求項1に記載の鋼製2ピース組合せオイルリング本体の製造方法。
- オイルリング本体が請求項1又は2に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする鋼製2ピース組合せオイルリング。
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