JP5285638B2 - 繊維強化複合セラミックス材料の製造方法、及び繊維強化複合セラミックス材料 - Google Patents

繊維強化複合セラミックス材料の製造方法、及び繊維強化複合セラミックス材料 Download PDF

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Description

本発明は、繊維強化複合セラミックス材料の製造方法及び繊維強化複合セラミックス材料に関する。
セラミックス材料は、金属に比べて軽量で剛性が高く、且つ耐熱性や耐薬品性に優れているという特性を備えている。しかしその一方において、ほとんど塑性変形をしない脆性材料であるという欠点を有しているため、適用分野が限られていた。そのため、従来から上記欠点を克服するための研究が進められ、最近では、セラミックス材料に繊維を複合した繊維強化複合セラミックス材料の実用化が図られている。
この繊維強化複合セラミックス材料が、大きい破壊エネルギーを備えるためには、マトリックスとなるセラミックスと、セラミックス繊維との界面において、すべりが発生し、セラミックス繊維の引き抜きが起きることが必要とされている。そして、炭素以外のセラミックス繊維は、すべり構造を備えていないため、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等による成膜処理を行うことで、その表層にすべり層を形成させることが行われている。
例えば、特許文献1には、セラミックス繊維を所定形状の繊維プリフォームに成形してから、CVD法による成膜処理を行い、セラミックス繊維の表面にすべり層を形成させることが開示されている。なお、炭素繊維はすべり構造を備えているため、前記成膜処理は必要としないが、炭素が酸化しやすい材料であることから高温酸化雰囲気で利用できないという弊害がある。
特開2002−211985号公報
ところで、上記したCVD法によるセラミックス繊維の被膜処理において、特に長繊維のセラミックス繊維に被膜を形成する場合には、大型のCVD装置等の専用の設備が必要であり、生産コストの上昇を招いていた。また、CVD法による長繊維のセラミックス繊維の被膜処理は、一般的に500本以上のセラミックス繊維を束ねた繊維束の状態で行われる。そのため、セラミックス繊維束の外周部における被膜の厚さ寸法と、セラミックス繊維束内部における被膜の厚さ寸法が均一にならないという技術的課題があった。
また、特許文献1に記載されているように、セラミックス繊維を所定形状の繊維プリフォームに成形してからCVD法による成膜処理を行ったとしても、繊維プリフォームの表層近くの被膜と、繊維プリフォーム内部の被膜の厚さ寸法が均一にならないという技術的課題があった。
以上のように、従来の技術にあっては、繊維強化複合セラミックス材料の全領域におけるセラミックス繊維に、厚さ寸法が均一な被膜(すべり層)を形成することができないため、破壊エネルギーが大きく、耐衝撃性が大きい繊維強化複合セラミックス材料を形成することができないという技術的課題があった。
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、繊維強化複合セラミックス材料の全領域におけるセラミックス繊維に、厚さ寸法がほぼ均一な被膜(すべり層)を、容易に形成することができる繊維強化複合セラミックス材料の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、前記製造方法により製造された繊維強化複合セラミックス材料を提供することを目的とする。
上記課題を解決するためになされた本発明にかかる繊維強化複合セラミックス材料の製造方法は、加熱分解で炭素を生成する有機材料を溶媒に10vol%以上15vol%以下の含有量で溶解させた液体に、セラミックス繊維を浸漬する工程と、前記有機材料を溶解させた液体からセラミックス繊維を取り出し、前記セラミックス繊維を乾燥させ、セラミックス繊維に有機材料膜を形成する工程と、前記セラミックス繊維とセラミックススラリーとにより、ワインディング成形にて所定形状の成形体を形成する工程と、前記成形体を焼成し、前記有機材料を加熱分解させ、セラミックス繊維に形成された有機材料膜を炭素質層となす工程と、を備えることを特徴としている。
また、上記課題を解決するためになされた本発明にかかる繊維強化複合セラミックス材料の製造方法は、加熱分解で炭素を生成する有機材料を溶媒に1.0vol%以上15vol%以下の含有量で溶解させた液体に、セラミックス繊維を浸漬する工程と、前記有機材料を溶解させた液体からセラミックス繊維を取り出し、前記セラミックス繊維を加熱乾燥させ、セラミックス繊維に形成された有機材料膜を加熱分解させ、炭素質層を形成する工程と、前記セラミックス繊維とセラミックススラリーとにより、ワインディング成形にて所定形状の成形体を形成する工程と、前記成形体を焼成する工程と、を備えることを特徴としている。
上記のように本発明では、セラミックス繊維の表面に対して、有機材料の膜を形成し、前記有機材料を加熱分解させることにより、有機材料膜を炭素質層としている。このように、有機材料を溶媒に溶解させた液体にセラミックス繊維を浸漬することによって、セラミックス繊維の表面に均一な有機材料膜を形成し、この有機材料膜を加熱分解させることにより、均一な炭素質層を形成しているため、繊維強化複合セラミックス材料の全領域におけるセラミックス繊維に、厚さ寸法が均一な被膜(すべり層)を形成することができる。しかも、従来の場合のようにCVD装置等の専用設備は不要であり、比較的安価な装置で、容易に製造することができる。
ここで、前記有機材料は、フェノール系樹脂であることが望ましい。また、前記有機材料が、1.0vol%以上15vol%以下含有されていることが望ましい。この有機材料の含有量が1vol%未満の場合には、セラミックス繊維上に形成される有機材料の膜が薄いため、これを炭化して形成された炭素質層が非常に薄くなり、すべり層として機能しない。一方、前記有機材料の含有量が15vol%を超える場合には、繊維間が有機材料の膜(加熱分解後にあっては、炭素質層)で埋められるため、セラミックス繊維の束の柔軟性が損なわれ、好ましくない。
また、前記セラミックス繊維を浸漬する工程で、前記有機材料を溶媒に5vol%以上15vol%以下の含有量で溶解させた液体に、無機化合物からなり、平均粒子径が前記セラミックス長繊維の平均径の1/2倍以下である粒子が1.0vol%以上25vol%以下含有され、セラミックス繊維に形成された有機材料膜によって、前記無機化合物からなる粒子が固定されることが望ましい。この無機化合物からなる粒子が1vol%より少ないと十分にすべりが機能せず、一方、無機化合物からなる粒子を25vol%より多く添加してもセラミックス繊維に固定される粒子が増加しないため、好ましくない。
更に、前記無機化合物からなる粒子の平均粒子径が、前記セラミックス繊維の平均径の1/2倍以下であることが望ましい。セラミックス繊維の平均径に比べて、無機材料粒子の平均粒子径が1/2倍を超えると、セラミックス繊維の表面に無機材料粒子を固定することができないためである。尚、好適な平均粒子径の下限は特になく、例えば、平均粒子径4nmの非常に細かい粒子であっても適用することが可能である。
また、上記課題を解決するためになされた本発明にかかる繊維強化複合セラミックス材料は、上記製造方法によって製造される。上記製造方法によって製造された繊維強化複合セラミックス材料は、繊維強化複合セラミックス材料の全領域におけるセラミックス繊維に、厚さ寸法が均一な被膜(すべり層)を備えているため、破壊エネルギーが大きく、耐衝撃性が大きいという特質を有する。
本発明によれば、繊維強化複合セラミックス材料の全領域におけるセラミックス繊維に、厚さ寸法がほぼ均一な被膜(すべり層)を、容易に形成することができる繊維強化複合セラミックス材料の製造方法を得ることができる。また、本発明は、前記製造方法により製造された繊維強化複合セラミックス材料を得ることができる。
本発明の第1実施形態の繊維強化複合セラミックス材料の生産工程を示したフローチャートである。 本発明の第2実施形態の繊維強化複合セラミックス材料の生産工程を示したフローチャートである。 本発明の第2実施形態のセラミック繊維の断面を示した模式図である。
以下、本発明の繊維強化複合セラミックス材料の製造方法にかかる第1実施形態について図1に基づいて説明する。この第1実施形態にあっては、繊維強化複合セラミックス材料に用いるセラミックス繊維の表面に、均一な炭素質の膜がすべり層として形成される。そして、前記すべり層を備えたセラミックス繊維を用いることで、破壊エネルギーが大きく、耐衝撃性が大きい繊維強化複合セラミックス材料とすることができる。具体的には、フェノール樹脂等の有機材料を溶解させた液体にセラミックス繊維を浸漬させた後に乾燥させ、セラミックス繊維に有機材料の膜を形成し、それを加熱分解することでセラミックス繊維の表面に均一な炭素質の膜(層)を形成する。そして、前記炭素質の膜(層)を形成したセラミックス繊維を用いて繊維強化複合セラミックス材料を作製するものである。
以下、第1実施形態による繊維強化複合セラミックス材料の製造方法について、図1を参照しながら説明する。先ず、フェノール樹脂等の加熱分解で炭素を生成する有機材料を溶媒に溶解させた液体を生成する(S1)。ここで、前記溶媒には、作業性及び環境・安全衛生の観点からエタノールが用いられることが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。前記溶媒は、加熱分解により炭素を生成する有機材料を、溶解できるものであればどのようなものでも構わない。具体的には、エタノールのほか、メタノールを用いることができる。
また、有機材料は、加熱分解で炭素を生成するものであればよく、具体的には、フェノール樹脂、ピッチ、フラン樹脂を用いることができる。ここで、有機材料が常温で固体の材料である、例えば、フェノール樹脂の場合には、後の工程において乾燥を行うことで、セラミックス繊維の表面に、有機材料の膜を形成することができる。一方、有機材料が常温で液体である、例えば、フェノール樹脂の材料の場合には、後の工程において有機材料の膜をより均一になすため、できるだけ速やかに乾燥・硬化処理を行うことが望ましい。したがって、有機材料は、常温で液体の材料である場合には、熱硬化性のものであることが望ましい。
前記液体における有機材料の含有量が、1vol%以上15vol%以下であることが好ましい。このように前記有機材料が1vol%以上15vol%以下である場合には、後述するようにセラミックス繊維を浸漬させ乾燥させた際、セラミックス繊維上に、均一な有機材料の膜を形成することができ、しかもセラミックス繊維の束の柔軟性を維持することができる。特に、前記有機材料の含有量が、1vol%以上10vol%以下である場合には、より均一な有機材料の膜を形成することができるため、より好ましい。
尚、前記有機材料の含有量が1vol%未満の場合には、セラミックス繊維上に形成される有機材料の膜が薄いため、これを炭化した炭素質層が非常に薄くなり、すべり層として機能しない。一方、前記有機材料の含有量が15vol%を超える場合には、繊維間が有機材料の膜(加熱分解後にあっては、炭素質層)で埋められるため、セラミックス繊維の束の柔軟性が損なわれ、好ましくない。
次に、前記有機材料を溶解させた液体に、セラミックス繊維を浸漬する工程を行う(S2)。このセラミックス繊維は、セラミックス材料であれば特に限定されるものではない。一例を挙げれば、炭化珪素(SiC)繊維、炭素繊維、アルミナ(Al23)繊維を好適に用いることができる。また、セラミックス繊維の長さ寸法についても、特に限定されるものではないが、長さ寸法が1(mm)以下の短繊維の場合、後述する浸漬工程や乾燥工程において凝集することがあるため、長繊維のものを用いることが好ましい。更に、セラミックス繊維の断面形状、寸法についても、特に限定されるものではないが、断面形状が円または楕円の繊維で平均径が1μm以上100μm以下であることが好ましい。
本工程におけるセラミックス繊維の浸漬時間は、セラミックス繊維の太さに依存するが、例えば、直径10μm、長さ1m以上のセラミックス繊維が1000本程度であれば1秒ほど浸漬させることにより、セラミックス繊維全体に前記液体を行き渡らせることができる。
つぎに、上記の有機材料を溶解させた液体からセラミックス繊維を取り出し、セラミックス繊維を乾燥させる(S3)。ここで、有機材料が常温で固体の材料の場合には、乾燥させることによりセラミックス繊維の表面に、有機材料の均一な膜が形成される。また、有機材料が常温で液体の材料の場合には、有機材料の均一な膜を形成するために、熱硬化性の有機材料を用い、できるだけ速やかに乾燥・硬化処理を行うことが望ましい。
つぎに、有機材料の膜が形成されたセラミックス繊維を用いて、繊維強化複合セラミックス材料を作製する工程を行い(S4)、作業を終了する。ここで、繊維強化複合セラミックス材料の作製方法には種々のものがあるが、セラミックス繊維が長繊維の場合にはワインディング成形および加工成形が一般的である。例えば、セラミックス繊維が長繊維の場合、有機材料の膜が形成されたセラミックス繊維を、SiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気中2000℃で焼成することにより、繊維強化複合セラミックス材料を作製する。
この本工程の成形体の焼成過程において、有機材料は加熱分解し、有機材料の膜は炭素質層となり、すべり層が形成される。
このようにして、セラミックス繊維と、セラミックス繊維表面に形成された炭素質層と、セラミックスマトリックスとを備える繊維強化複合セラミックス材料が得られる。
そして、この繊維強化複合セラミックス材料のセラミックス繊維の表面には、炭素質層の被膜層が存在し、セラミックス繊維との界面においてすべりが発生し、セラミックス繊維の引き抜きが起きる。その結果、繊維強化複合セラミックス材料の破壊エネルギーを大きく、また耐衝撃性を大きくすることができる。
尚、上記実施形態にあっては、有機材料の膜が形成されたセラミックス繊維を用いて成形した後、焼成することにより、有機材料を加熱分解し、有機材料の膜を炭素質層としていた。しかし、この場合に限られるものではなく、前記有機材料を溶解させた液体からセラミックス繊維を取り出し、前記セラミックス繊維を加熱乾燥する際、セラミックス繊維に形成された有機材料膜を加熱分解し、炭素質層としても良い。
続いて、本発明の第1実施形態の繊維強化複合セラミックス材料の破壊エネルギーについて、以下に示す実施例1〜7および比較例1〜3に基づいて検証する。なお、破壊エネルギーの測定は、日本セラミックス協会規格JCRS−201「シェブロンノッチ試験片の準静的3点曲げ破壊によるセラミックス系複合材料の破壊エネルギー試験方法」に準拠した。
[実施例1]
住友ベークライト(株)製のフェノール樹脂材料である「フェノールレジンPR51781」を5vol%溶解させたエタノール中に、日本炭素(株)製のセラミックス繊維(製品名:ニカロン、直径φ14μm、500本束のセラミックス繊維)を1秒間浸漬させた後、180℃で加熱し硬化させた。なお、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いて、前記硬化させたニカロン(セラミックス繊維)の表面を観察したところ、極薄い炭素膜が形成されていた。
また、上記の処理を行ったニカロン(セラミックス繊維)を、SiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気中2200℃で焼成することにより、複合セラミックス(繊維強化複合セラミックス材料)が得られた。そして、前記複合セラミックスから、「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製し、破壊エネルギーを計測したところ、「1100(J/m2)」であった。
[実施例2]
エア・ウォーター(株)製のフェノール樹脂材料である「ベルパールS−899」を10vol%溶解させたエタノール中に、日本炭素(株)製のセラミックス繊維(製品名:ハイニカロン、直径φ14μm、500本束のセラミックス繊維)を5秒間浸漬させた後、約60℃の熱風で乾燥させた。なお、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いて、前記乾燥させたハイニカロン(セラミックス繊維)、の表面を観察したところ、極薄い炭素膜が形成されていた。
また、上記処理を行ったハイニカロン(セラミックス繊維)を、SiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気中2000℃で焼成することにより、複合セラミックス(繊維強化複合セラミックス材料)が得られた。そして、前記複合セラミックスから、「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製し、破壊エネルギーを計測したところ、「1430(J/m2)」であった。
[実施例3]
実施例2の複合セラミックスに、更に真空雰囲気1450℃でシリコンを含浸させ、含浸させて得られた複合セラミックスから「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製し、破壊エネルギーを計測したところ、「1250(J/m2)」であった。
[実施例4]
エア・ウォーター(株)製のフェノール樹脂材料である「ベルパールS−899」を15vol%溶解させたエタノール中に、日本炭素(株)製のセラミックス繊維(製品名:ハイニカロン、直径φ14μm、500本束のセラミックス繊維)を3秒間浸漬させた後、2秒間風乾燥させ、そのまま連続処理でSiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気1900℃で焼成することにより、複合セラミックス(繊維強化複合セラミックス材料)が得られた。そして、前記複合セラミックスから、「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製し、破壊エネルギーを計測したところ、「1560(J/m2)」であった。
[実施例5]
実施例4の複合セラミックスに、さらに、真空雰囲気1450℃でシリコンを含浸させ、含浸させた複合セラミックスから、「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製し、破壊エネルギーを計測したところ、「1380(J/m2)」であった。
[実施例6]
住友ベークライト(株)製のフェノール樹脂材料である「フェノールレジンPR51781」を1vol%溶解させたエタノール中に、日本炭素(株)製のセラミックス繊維(製品名:ニカロン、直径φ14μm、500本束のセラミックス繊維)を1秒間浸漬させた後、180℃で加熱し硬化させた。この処理を行ったニカロン(セラミックス繊維)を、SiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気中2200℃で焼成することにより、複合セラミックス(繊維強化複合セラミックス材料)が得られた。そして、前記複合セラミックスから、「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製し、破壊エネルギーを計測したところ、「890(J/m2)」であった。
[実施例7]
実施例6の複合セラミックスに、更に真空雰囲気1450℃でシリコンを含浸させ、含浸させて得られた複合セラミックスから「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製し、破壊エネルギーを計測したところ、「720(J/m2)」であった。
[比較例1]
コバレントマテリアル(株)製のSiCセラミックスである「CERASIC」を「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片に加工し、破壊エネルギーを計測したところ、「20(J/m2)」であった。
[比較例2]
日本炭素(株)製のセラミックス繊維(製品名:ハイニカロン、直径φ14μm、500本束のセラミックス繊維)をSiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気2000℃で焼成することにより、複合セラミックス(繊維強化複合セラミックス材料)が得られた。そして、前記複合セラミックスから、「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製し、破壊エネルギーを計測したところ、「16(J/m2)」であった。
[比較例3]
住友ベークライト(株)製の「フェノールレジンPR51781」を20vol%溶解させたエタノール中に、日本炭素(株)製のセラミックス繊維(製品名:ニカロン、直径φ14μm、500本束のセラミックス繊維)を1秒間浸漬させた後、180℃で硬化させた。また、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いて、前記硬化させたニカロン(セラミックス繊維)の表面を確認したところ、炭素質の物質で繊維の隙間が全て埋められており、繊維束の柔軟性が失われていた。その結果、ワインディング成形を行うことができなかった。
そのため、繊維密度がワインディング成形した場合とほぼ同一になるように、金型内に前記硬化させたニカロン(セラミックス繊維)と、SiC造粒粉を配置して加圧成形した後、Ar雰囲気中2200℃で焼成することにより、複合セラミックスを生成した。
また、前記複合セラミックスから、「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製し、破壊エネルギーを計測したところ、「130(J/m2)」であった。
このように、実施例1〜の複合セラミックスは、セラミックス繊維が炭素質の膜で被膜されていない比較例1、2より、破壊エネルギーが十分に大きいことが確認された。
また、実施例1〜の複合セラミックスは、比較例3の複合セラミックスよりも、破壊エネルギーが十分に高いことが確認された。
次に、本発明の第2実施形態について説明する。この実施形態は、セラミックス繊維の表面に、無機化合物からなる粒子を有機材料の膜(加熱分解後にあっては炭素質層)で固定し、この粒子を固定したセラミックス繊維を用いることにより、破壊エネルギーの大きい繊維強化複合セラミックス材料とするものである。
具体的には、フェノール樹脂等のように加熱分解によって炭素を生成する有機材料を溶解させた液体中に、無機化合物からなる粒子を混合し、その液体にセラミックス繊維を浸漬させた後に乾燥させ、セラミックス繊維の表面に無機化合物からなる粒子を固定する。そして、無機化合物からなる粒子を高温酸化雰囲気ですべり層として機能させる。例えば、SiC繊維(セラミックス繊維)の表面にBN(窒化ホウ素)若しくはB4C(炭化ホウ素)が固定されている場合、BN若しくはB4Cは高温雰囲気において、高温雰囲気で溶解したホウ酸ガラスが形成され、すべり層として機能する。その結果、セラミックス繊維に無機化合物からなる粒子が固定されている場合には、破壊エネルギーを大きくすることができるものと考えられる。
以下、第2実施形態による繊維強化複合セラミックス材料の製造方法について、図2,3を参照しながら説明する。この第2実施形態は、セラミックス繊維の表面に、無機化合物からなる粒子を均一に固定する点に特徴がある。また加熱分解によって炭素を生成する有機材料を溶解させた液体中に、無機化合物からなる粒子を混合し、その液体にセラミックス繊維を浸漬させる点に特徴がある。尚、この第2実施形態にあっては、セラミックス繊維、熱分解によって炭素を生成する有機材料、前記有機材料を溶解する溶媒等は、第1の実施形態と同様であり、その詳細な説明は省略する。
先ず、フェノール樹脂等の加熱分解によって炭素を生成する有機材料を溶媒に溶解させた液体に、無機化合物からなる粒子を添加して調節する(S10)。前記したように、熱分解によって炭素を生成する有機材料、前記有機材料を溶解する溶媒については、第1の実施形態と同様である。但し、前記有機材料の含有量は第1の実施形態と異なり、5vol%以上、15vol%以下が望ましい。前記有機材料の含有量が5vol%より少ない場合、十分に粒子を固定できないため、好ましくない。一方、有機材料の含有量が15vol%より多い場合、繊維間が有機材料の膜(加熱分解後にあっては、炭素質層)で埋められるため、セラミックス繊維の束の柔軟性が損なわれ、好ましくない。
この無機化合物からなる粒子は、セラミックスマトリックスの種類によって好適なものが選択される。具体的には、セラミックスマトリックスがSiCである場合には、BN若しくはB4C、また、セラミックスマトリックスがAl23である場合には、CeO2を選択することができる。
また、前記無機化合物からなる粒子の平均粒子径が、前記セラミックス繊維の平均径の1/2倍以下であることが好ましい。セラミックス繊維の平均径の1/2を超える平均粒子径を有する粒子は、セラミックス繊維の表面に固定することができないと考えられるためである。更に、前記無機化合物からなる粒子の断面積は、セラミックス繊維の断面積の1/4以下であることが好ましい。これは、前記粒子の平均粒子径と同様、セラミックス繊維の断面積の1/4を超える断面積を有する粒子は、セラミックス繊維の表面に固定することができないと考えられるためである。
また、前記無機化合物からなる粒子は、1.0vol%以上25vol%以下含有されていることが好ましい。前記無機化合物からなる粒子が1vol%より少ないと、十分なすべり機能を得ることができないためである。一方、前記粒子を25vol%より多く添加しても、セラミックス繊維に固定される粒子はあまり増加せず、すべり機能に変化がないと考えられるからである。
次に、第1の実施形態と同様に、有機材料を溶媒に溶解させ、無機化合物からなる粒子を含有させた液体に、セラミックス繊維を浸漬させる(S20)。その後、図1のS3と同様の手順により、セラミックス繊維を乾燥させる(S30)。この工程により、図3に示すように、セラミックス繊維1の表面に無機化合物からなる粒子2が有機材料の膜3(加熱分解後にあっては炭素質層)によって固定される。
更に、図1のS4と同様の手順により、繊維強化複合セラミックス材料を作製する工程を行い(S40)、作業を終了する。 ここで、繊維強化複合セラミックス材料の作製方法には、種々のものを用いることができるが、長繊維の場合にはワインディング成形および加工成形や、オートクレーブ成形が一般的である。例えば、長繊維の場合には、上記の表面に粒子が固着されたセラミックス繊維を、SiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気で焼成することにより、繊維強化複合セラミックス材料を作製することができる。また、この工程において、成形体を炭化加熱することで、有機材料が加熱分解して炭素質層を生成する。
このように、第2実施形態によれば、セラミックス繊維の表面に、無機化合物からなる粒子を固定し、この粒子を高温酸化雰囲気ですべり層として機能させることができるため、破壊エネルギーが大きい繊維強化複合セラミックス材料を得ることができる。
続いて、本発明の第2実施形態の繊維強化複合セラミックス材料の破壊エネルギーについて、以下に示す実施例8〜10および比較例4〜8に基づいて検証する。なお、破壊エネルギーの測定は、第1実施形態の実施例および比較例と同様に測定した。
[実施例8]
エア・ウォーター(株)製のフェノール樹脂材料である「ベルパールS−899」を10vol%、エタノール90vol%で調整した溶液に、平均粒径1μmのB4C粉末を1vol%添加した。また、前記のB4C粉末を添加した液中に、日本炭素(株)製のセラミックス繊維(製品名:ニカロン、直径φ14μm、500本束のセラミックス繊維)を1秒間浸漬した後、約60℃の熱風で乾燥させた。なお、SEMを用いて、前記乾燥させたセラミックス繊維の表面を観察したところ、セラミックス繊維の表面にB4C粒子が固定されていた。
また、上記処理を行ったセラミックス繊維を、SiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気中2000℃で焼成することにより、複合セラミックス(繊維強化複合セラミックス材料)を得た。そして、上記の複合セラミックスから、「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製し、大気中、室温から400℃/hで昇温させ、800℃で2時間保持後、800℃での破壊エネルギーを計測したところ、「1100(J/m2)」であった。また、前記試験片の破面を観察した結果、繊維の引き抜きが観察された。
[実施例9]
エア・ウォーター(株)製のフェノール樹脂材料である「ベルパールS―899」を10vol%、エタノール90vol%で調整した溶液に、平均粒径1μmのB4C粉末を25vol%添加した。また、前記のB4C粉末を添加した液中に、日本炭素(株)製のセラミックス繊維(製品名:ハイニカロン、直径φ14μm、500本束のセラミックス繊維)を5秒間浸漬した後、約60℃の熱風で乾燥させた。
なお、SEMを用いて、前記乾燥させたセラミックス繊維の表面を観察したところ、セラミックス繊維の表面にB4C粒子が固定されていた。
また、上記処理を行ったセラミックス繊維を、SiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気2000℃で焼成して、複合セラミックス(繊維強化複合セラミックス材料)を生成した。そして、上記複合セラミックスから、「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製し、大気中、室温から400℃/hで昇温させ、1200℃で2時間保持後、1200℃での破壊エネルギーを計測したところ、「1220(J/m2)」であった。また、前記試験片の破面を観察した結果、繊維の引き抜きが観察された。
[実施例10]
エア・ウォーター(株)製のフェノール樹脂材料である「ベルパールS―899」を10vol%、エタノール90vol%で調整した溶液に、平均粒径7μmのBN粉末を15vol%添加した。また、前記BN粉末を添加した液中に、日本炭素(株)製のセラミックス繊維(製品名:ハイニカロン、直径φ14μm、500本束のセラミックス繊維)を5秒間浸漬した後、約60℃の熱風で乾燥させた。なお、SEMを用いて、前記乾燥させたセラミックス繊維の表面を観察したところ、セラミックス繊維の表面にBN粒子が固定されていた。
また、上記処理を行ったセラミックス繊維を、SiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気中2000℃で焼成して、複合セラミックス(繊維強化複合セラミックス材料)を作製した。そして、上記複合セラミックスから、「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製し、大気中、室温から400℃/hで昇温させ、800℃で2時間保持後、800℃での破壊エネルギーを計測したところ、「1380(J/m2)」であった。また、前記試験片の破面を観察した結果、繊維の引き抜きが観察された。
[比較例4]
日本炭素(株)製のセラミックス繊維(製品名:ニカロン、直径φ14μm、500本束のセラミックス繊維)をSiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気中2000℃で焼成して、複合セラミックスを生成した。
前記複合セラミックスから、「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製した。そして、前記試験片を大気中、室温から400℃/hで昇温させ、800℃で2時間保持後、破壊エネルギーを計測したところ、「16(J/m2)」であった。
[比較例5]
エア・ウォーター(株)製のフェノール樹脂材料である「ベルパールS―899」を8vol%、エタノール92vol%で調整した液中に、日本炭素(株)製のセラミックス繊維(製品名:ハイニカロン、直径φ14μm500本束のセラミックス繊維)を3秒間浸漬した後、2秒間風乾燥させた。上記処理を行ったセラミックス繊維を、SiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気2000℃で焼成して、複合セラミックスを作製した。また、前記複合セラミックスから、「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製した。そして、前記試験片を大気中、室温から400℃/hで昇温させ、1200℃で2時間保持後、1200℃での破壊エネルギーを計測したところ、「45(J/m2)」であった。
[比較例6]
エア・ウォーター(株)製のフェノール樹脂材料である「ベルパールS―899」を10vol%、エタノール90vol%で調整した液中に、平均粒径1μmのB4C粉末を0.5vol%添加した。また、上記B4C粉末を0.5vol%添加した液中に、日本炭素(株)製のセラミックス繊維(製品名:ハイニカロン、直径φ14μm500本束のセラミックス繊維)を5秒間浸漬した後、約60℃の熱風で乾燥させた。上記処理を行ったセラミックス繊維を、SiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気中2000℃で焼成することで、複合セラミックスが得られた。また、前記複合セラミックスから、3×4×40(mm)の試験片を作製した。そして、前記試験片を大気中、室温から400℃/hで昇温させ、1200℃で2時間保持後、1200℃での破壊エネルギーを計測したところ、「53(J/m2)」であった。
[比較例7]
エア・ウォーター(株)製のフェノール樹脂材料である「ベルパールS―899」を10vol%、エタノール90vol%で調整した溶液に、平均粒径4μmのBN粉末を30vol%添加した。また、前記BN粉末を添加した液中に、日本炭素(株)製のセラミックス繊維(製品名:ハイニカロン、直径φ14μm、500本束のセラミックス繊維)を5秒間浸漬した後、約60℃の熱風で乾燥させ、上記処理を行ったセラミックス繊維を、SiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気中2000℃で焼成して、複合セラミックス(繊維強化複合セラミックス材料)を作製した。そして、上記複合セラミックスから、「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製し、大気中、室温から400℃/hで昇温させ、800℃で2時間保持後、800℃での破壊エネルギーを計測したところ、「920(J/m2)」であった。
[比較例8]
エア・ウォーター(株)製のフェノール樹脂材料である「ベルパールS―899」を10vol%、エタノール90vol%で調整した溶液に、平均粒径10μmのBN粉末を15vol%添加した。また、前記BN粉末を添加した液中に、日本炭素(株)製のセラミックス繊維(製品名:ハイニカロン、直径φ14μm、500本束のセラミックス繊維)を5秒間浸漬した後、約60℃の熱風で乾燥させ、上記処理を行ったセラミックス繊維を、SiCスラリーと共にワインディング成形した後、Ar雰囲気中2000℃で焼成して、複合セラミックス(繊維強化複合セラミックス材料)を作製した。そして、上記複合セラミックスから、「3(mm)×4(mm)×40(mm)」の試験片を作製し、大気中、室温から400℃/hで昇温させ、800℃で2時間保持後、800℃での破壊エネルギーを計測したところ、「230(J/m2)」であった。
そして、実施例8〜10の複合セラミックスは、セラミックス繊維の表面に無機化合物からなる粒子が存在しない比較例4、5の複合セラミックスよりも、破壊エネルギーが十分に大きいことが確認された。
これに対して、比較例6に示すように、セラミックス繊維の表面に無機化合物からなる粒子が少ない場合には、破壊エネルギーが小さいことが確認された。また、比較例7の複合セラミックスは、無機化合物からなる粒子が30vol%であるので、無機化合物からなる粒子が15vol%である実施例10と比べて破壊エネルギーが小さいことが確認され、さらに比較例8では粒子の平均粒子径が、セラミックス繊維の平均径の1/2倍以上の10μmであるので、実施例10と比べても、破壊エネルギーが小さいことが確認された。
1 セラミックス繊維
2 無機化合物からな粒子
3 有機材料膜(加熱分解後にあっては炭素質層)

Claims (5)

  1. 加熱分解で炭素を生成する有機材料を溶媒に10vol%以上15vol%以下の含有量で溶解させた液体に、セラミックス繊維を浸漬する工程と、前記有機材料を溶解させた液体からセラミックス繊維を取り出し、前記セラミックス繊維を乾燥させ、セラミックス繊維に有機材料膜を形成する工程と、前記セラミックス繊維とセラミックススラリーとにより、ワインディング成形にて所定形状の成形体を形成する工程と、前記成形体を焼成し、前記有機材料を加熱分解させ、セラミックス繊維に形成された有機材料膜を炭素質層となす工程と、を備えることを特徴とする繊維強化複合セラミックス材料の製造方法。
  2. 加熱分解で炭素を生成する有機材料を溶媒に1.0vol%以上15vol%以下の含有量で溶解させた液体に、セラミックス繊維を浸漬する工程と、前記有機材料を溶解させた液体からセラミックス繊維を取り出し、前記セラミックス繊維を加熱乾燥させ、セラミックス繊維に形成された有機材料膜を加熱分解させ、炭素質層を形成する工程と、前記セラミックス繊維とセラミックススラリーとにより、ワインディング成形にて所定形状の成形体を形成する工程と、前記成形体を焼成する工程と、を備えることを特徴とする繊維強化複合セラミックス材料の製造方法。
  3. 前記有機材料は、フェノール系樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された繊維強化複合セラミックス材料の製造方法。
  4. 前記セラミックス繊維を浸漬する工程で、前記有機材料を溶媒に5vol%以上15vol%以下の含有量で溶解させた液体に、無機化合物からなり、平均粒子径が前記セラミックス長繊維の平均径の1/2倍以下である粒子が1.0vol%以上25vol%以下含有され、セラミックス繊維に形成された有機材料膜によって、前記無機化合物からなる粒子が固定されことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された繊維強化複合セラミックス材料の製造方法。
  5. 前記請求項1乃至請求項のいずれかに記載された繊維強化複合セラミックス材料の製造方法によって製造されたことを特徴とする繊維強化複合セラミックス材料。
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