JP5273740B2 - p53の発現促進方法およびそれに用いるp53発現促進剤 - Google Patents

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Description

本発明は、細胞におけるp53の発現を促進する方法、それに用いるp53発現促進剤、およびその用途に関する。
DNAが損傷を受けると、細胞はその損傷の修復を行うが、修復が不可能な場合、細胞はアポトーシスを引き起こす。このアポトーシスの過程において、重要な役割を示すタンパク質として、p53が知られている。p53は、転写因子であって、393個のアミノ酸から構成される分子量53,000Daの核タンパク質である。p53は、正常細胞では速やかに分解されるため、細胞内でのタンパク質発現レベルは低い。しかし、正常細胞がDNA損傷等を受けると、そのシグナル伝達によって、p53はリン酸化されて安定化する。その結果、p53に依存して転写される各種遺伝子(p21遺伝子、noxa遺伝子、puma遺伝子、pig3遺伝子等)の転写が促進され、これらの遺伝子産物の関与によって、細胞のアポトーシスが進行する。
しかしながら、前述のように、正常細胞であればアポトーシスが進行するようなDNA損傷であっても、腫瘍細胞の場合、アポトーシスが起こり難い傾向にある。この原因の一つとして、p53遺伝子の変異が知られている。p53遺伝子が変異すると、発現したp53タンパク質は機能を喪失しているため、結果的に、アポトーシスの進行が妨げられるのである。そして、p53遺伝子の変異が、腫瘍の進展に高頻度で関与しているという事実からも、p53は、腫瘍サプレッサーとして重要な役割を果たすことがわかっている(非特許文献1〜3)。しかしながら、p53遺伝子の変異は、腫瘍の進展過程(悪性化)の比較的遅い段階で見られる現象であり、臨床的に診断された多くの腫瘍は、p53遺伝子の変異がなく、且つ、p53の発現が減少するという現象が報告されている。例えば、乳腺腫瘍の場合、約80%は、p53遺伝子の変異を有しておらず、且つ、p53のmRNA発現量が、周囲の正常組織と比較して約1/5〜1/10倍の減少を示していることが報告されている(非特許文献1、4、5)。
Steele, R. et al. Br. J. Surg. 85, 1460-7 (1998). Levine,A. et al. Cell 88, 323-331(1997). Vogelstein, B. et al. Nature 408, 307-310 (2000). Pharoah, P. et al. Br. J. Cancer 80, 1968-1973 (1999). Raman, V. et al. Nature 405, 974-978 (2000).
このため、腫瘍細胞において、p53mRNAの発現量の減少を抑制し、p53mRNAの発現量を維持または増加させれば、例えば、p53に依存して転写される各種遺伝子の転写が促進され、得られる各種遺伝子産物によって、腫瘍細胞のアポトーシスを進行させることが可能になると考えられる。
そこで、本発明は、p53のmRNA発現を促進する方法およびそれに用いる発現促進剤の提供を目的とする。
前記目的を達成するために、本発明のp53発現促進方法は、細胞におけるp53遺伝子の発現を促進する方法であって、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAと、p53遺伝子から転写されるmRNAとの結合を阻害することにより、p53遺伝子の発現を促進することを特徴とする。
本発明のp53発現促進剤は、本発明のp53発現促進方法に使用するp53発現促進剤であって、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAと、p53遺伝子から転写されるmRNAとの結合を阻害する、下記(A1)〜(A4)からなる群から選択された少なくとも一つの結合阻害剤を含むことを特徴とする。
(A1)vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAを分解する、siRNA、リボヌクレアーゼで分解されることによりsiRNAを遊離するsiRNA前駆体、アンチセンスおよびリボザイムからなる群から選択された少なくとも一つの結合阻害剤
(A2)vegf−A遺伝子のエキソン1からのRNAの転写を阻害する、siRNA、リボヌクレアーゼで分解されることによりsiRNAを遊離するsiRNA前駆体、アンチセンス、リボザイムおよびデコイ核酸からなる群から選択された少なくとも一つの結合阻害剤
(A3)vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAに結合する、p53遺伝子から転写されたmRNAとは別の核酸を含む結合阻害剤
(A4)前記(A1)〜(A3)からなる群から選択された少なくとも一つの結合阻害剤をコードするDNAが挿入された発現ベクターを含む結合阻害剤
本発明のアポトーシス促進方法は、細胞のアポトーシスを促進する方法であって、本発明のp53発現促進方法により、細胞内におけるp53の発現を促進することを特徴とする。
本発明のアポトーシス促進剤は、細胞のアポトーシスを促進するアポトーシス促進剤であって、本発明のp53発現促進剤を含むことを特徴とする。
本発明の亢進方法は、抗がん剤に対する細胞の感受性を亢進する方法であって、本発明のp53発現促進方法により、前記細胞におけるp53の発現を促進させることを特徴とする。
本発明の亢進剤は、抗がん剤に対する細胞の感受性を亢進する亢進剤であって、本発明のp53発現促進剤を含むことを特徴とする。
本発明の治療方法は、生体内のがん細胞に本発明のp53発現促進剤を投与する工程を含む。
本発明の抗がん剤は、本発明のp53発現促進剤を含むことを特徴とする。
本発明のp53mRNA結合剤は、p53mRNAに結合可能な結合剤であって、核酸を含み、前記核酸が、配列番号1に示すvegf−A mRNAにおける694番目−714番目の配列からなるRNAを含むことを特徴とする。
本発明のvegf−A mRNA結合剤は、vegf−A mRNAに結合可能な結合剤であって、核酸を含み、前記核酸が、配列番号2に示すp53mRNAにおける462番目−481番目の配列からなるRNAを含むことを特徴とする。
本発明のスクリーニング方法は、p53の発現を促進する発現促進剤のスクリーニング方法であって、下記(A)工程〜(C)工程を有することを特徴とする。
(A) 候補物質の存在下、本発明のp53mRNA結合剤と、本発明のvegf−A RNA結合剤とを接触させる工程
(B) 前記候補物質による、前記p53mRNA結合剤と前記vegf−A RNA結合剤との結合の阻害を検出する工程
(C) 前記p53mRNA結合剤と前記vegf−A RNA結合剤との結合を阻害した候補物質を、p53発現促進剤として選択する工程。
以下、vegf−A遺伝子から転写されるRNAは、「vegf−A RNA」といい、前記vegf−A RNAは、例えば、vegf−A遺伝子から転写されるmRNAの意味も含む。また、p53遺伝子から転写されるmRNAは、「p53mRNA」という。
腫瘍細胞におけるp53mRNAの発現量の減少の原因を突き止めるべく、本発明者らは、鋭意研究を行った。その結果、血管内皮増殖因子A(VEGF−A)のRNA(vegf−A RNA)が、p53mRNAの発現に関与していることが明らかとなった。そして、さらなる研究を行った結果、vegf−A遺伝子から転写されるRNAの中でもエキソン1から転写されるRNAが、p53mRNAに結合することで、p53mRNAの発現を抑制していることを突き止めた。そこで、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAと、p53mRNAとの結合の阻害により、p53mRNAの発現減少を回避し、p53の発現(p53mRNAの転写およびp53タンパク質の翻訳)が促進されることから、本発明を完成するに到った。このように、本発明によれば、p53の発現を促進できるため、これに伴って、p53に依存して転写されるアポトーシスに関与する遺伝子の転写を促進できる。このため、最終的には、目的の細胞のアポトーシスの進行を促進することができる。特に、医療分野においては、腫瘍の悪性化の予防やがんの治療に、細胞のアポトーシスが利用されることから、本発明は、がん等の治療において有用な手段になるといえる。また、p53の発現量が低下した腫瘍細胞においては、抗がん剤に対する感受性が低下し、抗がん剤耐性を示すことが知られている。しかしながら、本発明によれば、細胞の抗がん剤に対する感受性を亢進できるため、従来公知の抗がん剤を効率良く作用させることも可能となる。以上のように、本発明は、がん等の治療をはじめとする医療分野において、極めて優れた手法といえる。なお、p53mRNAの発現量の低下は、以下のようなメカニズムによると考えられる。すなわち、転写されたp53mRNAに、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAが結合して、ヘテロ二本鎖RNAが形成され、翻訳プロセスにおいて、ヘテロ二本鎖RNAを形成しているp53mRNAが分解されるというメカニズムである。なお、本発明は、このメカニズムに限定されるものではない。
なお、VEGF−Aタンパク質は、腫瘍抑制因子として働くp53タンパク質とは反対に、腫瘍血管の新生に関与し、さらには腫瘍細胞の生存因子としても機能することから、腫瘍進展においてキーとなる役割を果たすことが知られている。そこで、従来、VEGF−Aタンパク質の発現を抑制することにより、腫瘍の悪性化を抑制する技術が開発されている。具体的には、vegf mRNAにおけるタンパク質コード領域のエキソン2、3、4および5をターゲットとするsiRNAにより、VEGF−Aタンパク質の発現を抑制することが報告されている。しかしながら、これまでに、p53mRNAの発現量低下に、RNAが関与すること、さらに、vegf−A遺伝子のエキソン1からのRNAが関与することについては、何ら報告されていない。
図1は、本発明の実施例A1の結果であり、(a)は、各細胞におけるvegf mRNAの発現を示す写真であり、(b)は、抗がん剤5−FUで処理した各種細胞のアポトーシスの割合(%)を示すグラフであり、(c)は、vegf siRNAの発現細胞におけるp53mRNAおよびp53タンパク質の発現を示す写真であり、(d)は、vegf siRNAの発現細胞におけるp53ターゲット遺伝子のmRNAの発現を示す写真である。 図2は、本発明の実施例A2の結果であり、(a)は、各種プラスミドコンストラクトを示す概略図であり、(b)は、各細胞におけるp53mRNAの発現を示す写真であり、(c)は、各細胞におけるp53タンパク質の結果を示す写真である。 図3は、本発明の実施例A3の結果であり、(a)は、各種プラスミドコンストラクトを示す概略図であり、(b)は、各細胞におけるp53mRNAの結果を示す写真、(c)は、各細胞におけるp53mRNA、p53タンパク質およびL−VEGFタンパク質の発現を示す写真である。 図4は、本発明の前記実施例A3の参考例であり、各種遺伝子における5’UTRとCATmRNAとのキメラmRNAを発現するプラスミドおよびp53発現プラスミドを共導入したH1299細胞における、p53mRNAの発現を示す写真である。 図5は、本発明の実施例A4の結果であり、(a)は、各細胞における内在性p53mRNAの発現を示す写真であり、(b)は、各細胞における内在性p53タンパク質の発現を示す写真であり、(c)は、noxa mRNA、bax mRNAおよびp21 mRNAの発現を示す写真である。 図6は、前記実施例A4の結果であり、(d)は、5−FUの濃度変化に対する各種細胞のアポトーシスの割合(%)を示すグラフであり、(e)は、5−FUで処理した各種細胞の経時的なアポトーシスの割合(%)の変化を示すグラフである。 図7は、本発明の実施例A5の結果であり、(a)は、各細胞における内在性p53mRNAおよびその分解物の存在を示す写真であり、(b)は、各細胞におけるp53mRNAの発現を示す写真であり、(c)は、in vitroにおけるvegf 5’UTRとp53mRNAとの会合を示す写真である。 図8は、前記実施例A5の結果であり、(d)は、vegf 5’UTR共存下での無細胞タンパク質合成反応液におけるp53mRNAおよびその分解物の存在を示す写真であり、(e)は、vegf 5’UTR共存下での、無細胞タンパク質反応液におけるp53タンパク質の合成を示すオートラジオグラフィーである。 図9は、本発明の実施例A6における、各種プラスミドコンストラクトを示す概略図である。 図10は、本発明の実施例A6において、各種がん細胞におけるvegf IresRNAの存在を示す写真である。 図11は、前記実施例A6の結果であり、(a)および(b)は、各細胞におけるp53mRNAの発現を示す写真である。 図12は、本発明の実施例A7の結果であり、(a)は、vegf−A 5’UTRを発現する導入細胞を移植したマウスの写真であり、(b)は、変異型vegf−A 5’UTRを発現する導入細胞を移植したマウスの写真である。 図13は、本発明の前記実施例A7において、導入細胞を移植したマウスにおける腫瘍体積の経時的変化を示すグラフである。 図14は、本発明の実施例A8において、各種抗がん剤で処理した各種vegf5’UTRの発現細胞のアポトーシスの割合(%)を示すグラフである。 図15は、本発明の実施例A9において、各種抗がん剤で処理した各種siRNA発現細胞のアポトーシスの割合(%)を示すグラフである。 図16は、本発明の実施例A10において、各種抗がん剤で処理した各種siRNA発現細胞の相対的生存率(%)を示すグラフである。 図17は、本発明の実施例A11の結果であり、(a)は、各種プラスミドコンストラクトを示す概略図であり、(b)は、p53mRNAの発現レベルを示す写真である。 図18は、本発明の実施例B1の結果を示す図であり、(a)は、各種発現ベクターを導入した細胞のvegf IresRNAの発現を示す写真であり、(b)は、前記導入細胞のp53mRNAの発現を示すグラフであり、(c)は、前記導入細胞のp53タンパク質の発現を示す写真であり、(d)は、各種抗がん剤で処理した前記導入細胞のアポトーシスの割合(%)を示すグラフであり、(e)は、前記導入細胞の腫瘍体積の経時変化を示すグラフである。 図19は、本発明の実施例B1の結果を示す図であり、(f)は、前記細胞における腫瘍を示す写真である。 図20は、本発明の実施例B2において、vegf mRNAに対するsiRNAを発現する細胞における腫瘍体積の経時変化を示すグラフである。 図21は、本発明の実施例B3の結果を示す図であり、(a)は、vegf mRNAに対するsiRNAの発現細胞におけるvegf mRNAならびにvegf IresRNAの発現を示すグラフまたは写真であり、(b)は、前記siRNAの発現細胞におけるアポトーシスの割合(%)を示すグラフであり、(c)は、前記siRNAの発現細胞におけるp53mRNAの発現を示すグラフであり、(d)は、前記siRNAの発現細胞におけるp53タンパク質の発現を示す写真である。 図22は、本発明の実施例B3の結果を示す図であり、(e)は、前記siRNAの発現細胞におけるp53ターゲット遺伝子のmRNAの発現を示すグラフであり、(f)は、各種ストレスに曝した細胞における各種RNAの発現を示す写真である。 図23は、本発明の実施例B4の結果を示す図であり、(a)は、各種発現ベクターを導入した細胞におけるp53mRNAならびにvegf IresRNAの発現を示す写真であり、(b)および(c)は、p53mRNAとvegf IresRNAとの相互作用領域を示す図である。 図24は、本発明の実施例B4の結果を示す図であり、(d)は、vegf IresRNAの二次構造を示す図であり、(e)は、vegf IresRNAにおける人為的に欠損させた領域を示す図であり、(f)は、部分的に欠損したvegf IresRNAを発現させた細胞におけるRNAの発現を示す写真であり、(g)は、RNAプルダウンアッセイによる各種vegf IresRNAとp53mRNAとの結合を示す写真である。 図25は、本発明の実施例C1の結果を示す図であり、(a)は、p53デコイを導入した細胞におけるp53mRNAの発現を示す写真であり、(b)は、前記細胞の生存率を示すグラフである。 図26は、本発明の実施例C2の結果を示す図であり、(a)は、vegf IresRNAに対するアンチセンスを導入した細胞におけるp53mRNAの発現を示す写真であり、(b)は、前記細胞の生存率を示すグラフである。
本発明において、「p53の発現」とは、直接的にp53mRNAの発現(すなわち転写)を意味するが、間接的に、p53タンパク質の発現(すなわち翻訳)も含む。本発明において、mRNAは、mRNA前駆体(一次転写mRNA)およびプロセシング(スプライシング)後の成熟RNAのいずれであってもよい。また、RNAは、前記mRNA前駆体の部分配列でもよいし、前記成熟RNAの部分配列であってもよい。
本発明において、vegf−Aは、血管内皮増殖因子A(vascular endothelial growth factor A)である。本発明において、配列番号1は、ヒトvegf−A遺伝子から転写される成熟mRNAの全配列、すなわち、イントロンを除き、非翻訳領域を含む完全長の成熟mRNAを示す。配列番号1において、1−1104番目の領域が「エキソン1領域」、1−1038番目の領域が「5’UTR領域」である。配列番号1における600番目−879番目の領域は、小分子RNAとして発現する領域である。以下、この領域からなるRNAを、vegf IresRNAまたはIresRNAという。5’UTRおよびIresRNAは、非翻訳性のRNAである。エキソン1領域における非翻訳性の領域とは、開始コドン(配列番号1の1039番目からのAUG)より上流の領域を意味する。配列番号1において、1039−1041番目の領域が「開始コドン(aug)」、1684−1686番目の領域が「終止コドン(uga)」である。この成熟mRNA配列は、例えば、その8塩基目以降が、NCBIアクセッションNo.NM_003376に登録されている。なお、配列番号1において、「u」を「t」で表わした配列が、vegf−A遺伝子のcDNAの配列である。また、配列番号45は、ヒトvegf−A遺伝子の一次転写産物の部分配列、すなわち、イントロンを含む、mRNA前駆体の部分配列を示す。配列番号45において、1−1104番目までの領域は、前記配列番号1と同様であり、1105番目以降は、「イントロン1」の5’側の部分配列である。なお、配列番号45において、「u」を「t」で表わした配列が、vegf−A遺伝子のゲノムDNAの部分配列であり、例えば、NCBIアクセッションNo.AL136131.15に登録されている。本発明において、vegf−A mRNAの配列は、前記配列番号1の配列には制限されず、例えば、SNP等の種々の多型を有する配列であってもよい。
また、配列番号2には、ヒトp53遺伝子から転写される成熟mRNAの全配列、すなわち、イントロンを除き、非翻訳領域を含む完全長の成熟mRNAを示す。この全配列は、例えば、Ensemble Transcript ID:ENST00000269305に登録されている。配列番号2において、252番目−254番目の領域が、「開始コドン(aug)」、1431−1433番目の領域が、「終止コドン(uga)」である。本発明において、p53mRNAの配列は、前記配列番号2の配列には制限されず、例えば、SNP等の種々の多型を有する配列であってもよい。
<p53発現促進方法>
本発明のp53発現促進方法は、前述のように、細胞におけるp53遺伝子の発現を促進する方法であって、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAと、p53遺伝子から転写されるmRNAとの結合を阻害することにより、p53遺伝子の発現を促進することを特徴とする。この結合阻害の工程を、以下、(a)工程ともいう。
本発明は、前述のように、vegf−A RNAとp53mRNAとの結合阻害により、vegf−A RNAによるp53の発現抑制を抑制できることから、「p53の発現抑制を阻害する方法」、「p53の発現回復方法」、「p53の発現の維持方法」ということもできる。なお、本発明において、p53mRNAとの結合が阻害される、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAとは、例えば、エキソン1全体から転写されたRNA、前記エキソン1を含む領域から転写されたRNA、エキソン1の部分領域から転写されたRNA、エキソン1の部分領域を含む領域から転写されたRNAのいずれであってもよい。
本発明の前記(a)工程において、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAと、p53遺伝子から転写されるmRNAとの結合を阻害する方法としては、例えば、下記(a1)工程〜(a3)工程からなる群から選択された少なくとも一つの工程を含む方法があげられる。本発明においては、いずれか一種類の工程を含んでもよいし、二種類以上の工程を含んでもよい。また、二種類以上の工程は、例えば、同時に行ってもよいし、別個に行ってもよい。
(a1)vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAを分解する工程
(a2)vegf−A遺伝子のエキソン1からのRNAの転写を阻害する工程
(a3)vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAに、p53遺伝子から転写されたmRNAとは別の核酸を結合させることで、前記RNAとp53遺伝子から転写されたmRNAとの結合を阻害する工程
まず、前記(a1)工程について説明する。前記(a1)工程においては、例えば、転写されたRNAが減少すればよく、そのメカニズムは特に制限されないが、例えば、分解があげられる。本発明において分解は、例えば、切断の意味も含む。前記(a1)工程によれば、vegf−A遺伝子のエキソン1からRNAが転写されても、その転写物を分解(または切断)するため、結果的に前記RNAの発現量(転写量)を抑制できる。このため、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAが、p53mRNAに結合することを抑制でき、結果的に、p53mRNAの発現抑制を防止して、p53の発現を促進できる。
前記(a1)工程において、分解の対象となるRNAを、以下、ターゲットRNAといい、その領域をターゲット領域という。前記(a1)工程において、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAは、例えば、vegf−A mRNAにおけるエキソン1RNAの全体が分解されてもよいし、エキソン1RNAの部分が分解されてもよい。すなわち、前記(a1)工程において、ターゲットRNAは、エキソン1RNAの全体でもよいし、エキソン1RNAの部分であってもよい。また、前記ターゲットRNAは、vegf−A遺伝子から転写されたRNAにおける、前記エキソン1RNAを含む領域からなるRNAでもよいし、前記エキソン1RNAの部分配列からなるRNAでもよいし、前記エキソン1の部分配列を含む領域からなるRNAであってもよい。
前記ターゲットRNAは、例えば、少なくとも配列番号1における600番目−879番目の配列の全部または一部の配列からなるRNAであることが好ましい。すなわち、前記ターゲットRNAは、vegf−A mRNAのエキソン1RNA内に存在する、前記IresRNAの全部または部分であることが好ましい。また、前記ターゲットRNAは、vegf−A mRNAにおける、前記IresRNAを含む領域からなるRNAでもよいし、前記IresRNAの部分を含む領域からなるRNAであってもよい。前記ターゲットRNAにおける前記IresRNAの部分配列は、例えば、その塩基数が、100〜150塩基であり、好ましくは80〜100塩基であり、より好ましくは20〜40塩基である。また、前記IresRNAの部分配列としては、例えば、配列番号1における、694番目−714番目、693番目−714番目、691番目−703番目、もしくは、711番目−723番目の配列からなるRNA、または、前記RNAを含む配列であることが好ましい。なお、本発明は、これには制限されない。
前記ターゲットRNAの具体例を、以下に示す。これらは、いずれか一種類をターゲットRNAとしてもよいし、二種類以上をターゲットRNAとしてもよい。また、これらのRNAを含む領域からなるRNAをターゲットRNAとしてもよい。なお、本発明は、これらには制限されない。
(1)配列番号1における600番目−879番目の配列からなるRNA
(2)配列番号1における659番目−879番目の配列からなるRNA
(3)配列番号1における659番目−780番目の配列からなるRNA
(4)配列番号1における659番目−752番目の配列からなるRNA
(5)配列番号1における659番目−745番目の配列からなるRNA
(6)配列番号1における694番目−714番目の配列からなるRNA
(7)配列番号1における693番目−714番目の配列からなるRNA
(8)配列番号1における691番目−703番目の配列からなるRNA
(9)配列番号1における711番目−723番目の配列からなるRNA
(10)配列番号1における16番目−780番目の配列からなるRNA
(11)配列番号1における659番目−917番目の配列からなるRNA
(12)配列番号1における526番目−1104番目の配列からなるRNA
(13)配列番号45における526番目−1216番目の配列からなるRNA
(14)vegf mRNAにおける5’UTR RNA
(15)vegf mRNAにおけるエキソン1 RNA
(16)vegf mRNA
前記(1)は、IresRNA、(2)〜(9)は、IresRNAの部分配列、(10)および(11)は、IresRNAの部分を含む配列、(12)〜(16)は、IresRNA全体を含む配列である。前記(10)の16番目−780番目の領域は、機能未知の配列として、NCBIアクセッションNo.BC019867に、前記(12)の526番目−1216番目の領域は、NCBIアクセッションNo.BC011177に、それぞれ登録されている。前記(14)の5’UTR RNAは、前述のように、配列番号1における1〜1038番目の領域であり、前記(15)のエキソン1 RNAは、配列番号1における1番目〜1104番目の領域である。前記(16)のvegf−A mRNAは、成熟mRNAとmRNA前駆体のいずれであってもよい。前記ターゲットRNAの中でも、特に、IresRNA内の、前記(2)659番目−879番目のRNA,前記(6)694番目−714番目、(7)693番目−714番目、(8)691番目−703番目もしくは(9)711番目−723番目の領域からなるRNA、または、vegf−A mRNAにおいて前記RNAを含む領域からなるRNAを分解することが好ましい。
前記ターゲットRNAとしては、例えば、下記(17)もあげられる。
(17)前記(1)〜(16)のRNAにおいて、1若しくは数個の塩基が、置換、欠失、挿入または付加された塩基配列からなり、且つ、p53の発現を抑制する機能を有するRNA、または、p53mRNAと結合する機能(もしくは、ハイブリッドを形成する機能)を有するRNA
前記(a1)工程において、前記ターゲットRNAの分解方法は、特に制限されず、RNAの分解に使用される従来公知の手法が採用できる。具体例としては、例えば、siRNA、リボヌクレアーゼで切断されることによりsiRNAを遊離するsiRNA前駆体、アンチセンス、リボザイム等の分解用核酸を使用する方法や、前記分解用核酸を発現する発現用ベクターを使用する方法があげられる。これらの分解用核酸でターゲットRNAを分解することにより、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAとp53mRNAとの結合が阻害される。このため、本発明においては、前記分解用核酸ならびにそれを発現する発現用ベクターを、「結合阻害剤」ともいう。また、これらの結合阻害剤は、前述のように、ターゲットRNAを分解して、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAとp53mRNAとの結合をすることで、結果的に、p53の発現を促進する。このため、前記結合阻害剤は、p53の発現を促進するp53発現促進剤ということもできる。これらについては、本発明のp53発現促進剤として後述する。
前記結合阻害剤による処理方法は、特に制限されない。前記結合阻害剤は、例えば、目的の細胞に直接導入することができる。また、前記結合阻害剤が前記分解用核酸を発現する発現ベクターの場合、前記発現ベクターを目的の細胞に導入し、前記細胞内で、前記発現ベクターから前記結合阻害剤を発現させてもよい。
つぎに、前記(a2)工程について説明する。前記(a2)工程においては、vegf遺伝子のエキソン1からのRNAの転写を阻害できればよく、そのメカニズムは特に制限されない。前記(a2)工程によれば、vegf−A遺伝子のエキソン1からのRNAの転写自体を阻害するため、前記RNAが、p53mRNAに結合することを抑制できる。この結果、p53mRNAの発現抑制を防止して、p53の発現を促進できると解される。前記(a2)工程において、「RNAの転写の阻害」には、例えば、転写の完全な停止だけでなく、転写量の減少も含まれる。また、「RNAの転写の阻害」には、例えば、vegf−A遺伝子に、1若しくは数個の塩基を、置換、欠失、挿入または付加することにより、p53の発現を抑制する機能を有さないRNAを転写すること、または、p53mRNAとハイブリッドを形成する機能を有さないRNAを転写すること、もしくは、これらの機能が低下したRNAを転写することも含む。
前記(a2)工程において、転写阻害の対象を、以下、ターゲットRNAといい、その領域をターゲット領域という。前記(a2)工程におけるターゲットRNAは、前記(a1)工程におけるターゲットRNAと同様である。具体的には、前記(a2)工程において、vegf−A遺伝子のエキソン1からのRNAの転写は、例えば、エキソン1RNAの全体の転写が阻害されてもよいし、エキソン1RNAの部分の転写が阻害されてもよい。すなわち、前記(a2)工程において、ターゲットRNAは、エキソン1RNAの全体でもよいし、エキソン1RNAの部分であってもよい。また、前記ターゲットRNAは、vegf−A mRNAにおける、前記エキソン1RNAを含む領域からなるRNAでもよいし、前記エキソン1RNAの部分を含む領域からなるRNAであってもよい。
前記ターゲットRNAは、少なくとも配列番号1における600番目−879番目の配列の全部または一部の配列からなるRNAであることが好ましい。すなわち、前記ターゲットRNAは、vegf−A mRNAのエキソン1RNA内に存在する、前記IresRNAの全部または部分であることが好ましい。また、前記ターゲットRNAは、vegf−A遺伝子から転写されたRNAにおける、前記IresRNAを含む領域からなるRNAでもよいし、前記IresRNAの部分を含む領域からなるRNAであってもよい。前記部分配列の塩基数や配列の具体例は、例えば、前述の通りである。また、ターゲットRNAの具体例は、前記(a1)工程と同様に、例えば、(1)〜(17)があげられる。なお、これらには限定されない。
前記(a2)工程において、前記ターゲットRNAの転写の阻害方法は、特に制限されず、RNAの転写阻害に使用される従来公知の手法が採用できる。具体例としては、例えば、siRNA、リボヌクレアーゼで切断されることによりsiRNAを遊離するsiRNA前駆体、アンチセンス、リボザイム、デコイ核酸等の転写阻害用核酸を使用する方法や、前記転写阻害用核酸を発現する発現用ベクターを使用する方法があげられる。具体的には、例えば、vegf−A遺伝子のプロモーター領域の配列をターゲットにしたsiRNA、アンチセンスまたはリボザイム、vegf−A遺伝子のプロモーター領域の配列を含むデコイ核酸等で、プロモーター活性を阻害することによって、vegf−A遺伝子からのターゲットRNAの転写を抑制できる。これらの転写阻害用核酸でターゲットRNAの転写を阻害することにより、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAとp53mRNAとの結合が阻害される。このため、本発明においては、前記転写阻害用核酸ならびにそれを発現する発現用ベクターを、前記(a1)工程と同様に、「結合阻害剤」ともいう。また、これらの結合阻害剤は、前述のように、ターゲットRNAの転写を阻害して、vegf−A遺伝子のエキソン1からのRNAとp53mRNAとの結合を阻害することで、結果的に、p53の発現を促進する。このため、前記結合阻害剤は、前記(a1)工程と同様に、p53の発現を促進するp53発現促進剤ということもできる。これらについては、本発明のp53発現促進剤として後述する。前記結合阻害剤による処理方法は、特に制限されず、例えば、前記(a1)工程と同様である。
つぎに、(a3)工程について説明する。前記(a3)工程においては、例えば、細胞内でvegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAに、前記細胞内で転写されたp53mRNAとは別の核酸を結合させればよい。p53mRNAに結合させる前記別の核酸を、以下、デコイ核酸という。このように、デコイ核酸を、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAに結合させ、前記RNAにおけるp53RNAとの結合部位をマスキングすることで、前記RNAとp53mRNAとの結合を阻害できる。これによって、vegf−A RNAによるp53mRNAの発現抑制が阻害され、p53の発現を促進することができる。また、前記デコイ核酸を発現する発現ベクターを使用し、細胞中で前記発現ベクターから発現したデコイ核酸を、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAに結合させてもよい。このように、前記デコイ核酸ならびにこれを発現するベクターは、p53の発現を促進できることから、p53発現促進剤ということもできる。これらについては、本発明のp53発現促進剤として後述する。
前記デコイ核酸による処理方法は、特に制限されず、例えば、目的の細胞に直接デコイ核酸を導入することができる。また、前記デコイ核酸を発現する発現ベクターの場合、前記発現ベクターを目的細胞に導入し、前記細胞内で、前記発現ベクターから前記核酸デコイを発現させてもよい。
本発明によれば、前述のように、p53発現の促進(回復)によって、p53に依存して転写する各種遺伝子の転写を促進し、細胞のアポトーシスを進行することができる。このため、本発明を適用する細胞は、特に制限されないが、アポトーシスの進行が望まれる細胞であることが好ましい。具体的には、例えば、p53mRNAの発現量が低下している細胞であり、特に、腫瘍細胞に適用することが望ましい。細胞の具体例としては、例えば、肝臓がん細胞、大腸がん細胞(結腸がん細胞)、肺がん細胞、乳がん細胞、腎臓がん細胞、卵巣がん細胞、前立腺がん細胞、皮膚がん細胞、胃がん細胞等があげられる。細胞の由来は、特に制限されず、例えば、ヒト、ヒトを除く哺乳類等の動物等があげられる。
前記細胞は、例えば、生体から採取した細胞でもよいし、生体内細胞であってもよい。このため、本発明のp53発現促進方法は、例えば、in vitroで、目的の細胞や目的の組織に適用してもよいし、in vivoで、生体内の目的の細胞や目的の組織に適用してもよい。また、ex vivoで、目的の細胞や目的の組織に適用してもよい。
<p53発現促進剤>
本発明のp53発現促進剤は、例えば、前述のように、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAと、p53遺伝子から転写されるmRNAとの結合を阻害する、下記(A1)〜(A4)からなる群から選択された少なくとも一つの結合阻害剤を含むことを特徴とする。本発明のp53発現促進剤は、「p53発現回復剤」または「p53発現維持剤」ということもできる。
(A1)vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAを分解する、siRNA、リボヌクレアーゼで分解されることによりsiRNAを遊離するsiRNA前駆体、アンチセンスおよびリボザイムからなる群から選択された少なくとも一つの結合阻害剤
(A2)vegf−A遺伝子のエキソン1からのRNAの転写を阻害する、siRNA、リボヌクレアーゼで分解されることによりsiRNAを遊離するsiRNA前駆体、アンチセンス、リボザイムおよびデコイ核酸からなる群から選択された少なくとも一つの結合阻害剤
(A3)vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAに結合する、p53遺伝子から転写されたmRNAとは別の核酸を含む結合阻害剤
(A4)前記(A1)〜(A3)からなる群から選択された少なくとも一つの結合阻害剤をコードするDNAが挿入された発現ベクターを含む結合阻害剤
本発明のp53発現促進剤は、例えば、(A1)〜(A4)の結合阻害剤のうち、いずれか一種類を含んでもよいし、二種類以上を含んでもよい。
siRNA、アンチセンス、リボザイムおよびデコイ核酸の技術は、例えば、遺伝子から転写されたRNAを分解する手段、または、遺伝子からのRNAの転写を阻害する手段として確立されている。このため、本発明を実施するにあたって、ターゲットRNAの分解やターゲットRNAの転写阻害のために、siRNA、アンチセンス、リボザイムおよびデコイ核酸等を設計することは、当業者であれば技術常識に基づいて行うことができる。また、siRNA、アンチセンス、リボザイムおよびデコイ核酸等の構成材料は、特に制限されず、例えば、天然由来の核酸でもよいし、PNA等の人工核酸等でもよく、何ら制限されない(以下、同様)。
まず、前記(A1)の結合阻害剤について説明する。この結合阻害剤は、例えば、本発明のp53発現促進方法における前記(a1)工程で述べた結合阻害剤に該当する。この結合阻害剤が分解するターゲットRNAは、前記本発明のp53発現促進方法の(a1)工程におけるターゲットRNAと同様である。
(A1)vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAを分解する、siRNA、リボヌクレアーゼで分解されることによりsiRNAを遊離するsiRNA前駆体、アンチセンスおよびリボザイムからなる群から選択された少なくとも一つの結合阻害剤
本発明のp53発現促進剤は、前記(A1)の結合阻害剤として、siRNA、リボヌクレアーゼで切断されることによりsiRNAを遊離するsiRNA前駆体、アンチセンス、リボザイムのいずれを含んでもよい。また、前記結合阻害剤は、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
前記結合阻害剤としては、例えば、siRNAが好ましい。前記siRNAは、通常、mRNA等のRNAに相補的なアンチセンス鎖と、それに相補的なセンス鎖とからなる二本鎖RNAである。siRNAの各鎖の長さは、特に制限されないが、通常、19〜25塩基のオリゴヌクレオチドであり、好ましくは、19塩基である。前記siRNAは、例えば、各鎖の3’末端にオーバーハングを有してもよく、この場合、それぞれの3’末端が突出した形状となる。オーバーハングの長さは、特に制限されないが、通常、2塩基である。オーバーハングの配列は、特に制限されず、例えば、アンチセンス鎖においては、結合するRNAに相補的な配列であってもよいし、センス鎖においては、アンチセンス鎖に相補的な配列、すなわち、アンチセンス鎖が結合するRNAと同じ配列であってもよい。また、その他の配列であってもよく、例えば、uu、au、ag、gc、cc等の配列があげられる。アンチセンス鎖に対応するセンス鎖は、例えば、内部の配列が、アンチセンス鎖よりも2塩基程度短い配列であってもよい。
アンチセンス鎖の配列は、例えば、結合するRNAの配列に対して完全に相補的でなくともよいが、前記mRNAに対する相同性は、例えば、70%以上であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上であり、最も好ましくは100%(完全にマッチ)である。また、アンチセンス鎖において、オーバーハングを除く前記オリゴヌクレオチドの配列は、例えば、結合するmRNAの配列と完全に相補的でなくともよいが、前記mRNAに対する相同性は、例えば、70%以上であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上であり、最も好ましくは100%(完全一致)である。
また、vegf−A RNAにおいて、前記siRNAが結合する領域は、前述のターゲットRNAの領域には制限されない。通常、siRNAによるmRNAの切断は、まず、siRNAが結合した領域内で生じるが、これをきっかけに他の領域でも切断が起こり、最終的に、ターゲット領域が完全に切断されることが知られている。したがって、siRNAは、例えば、vegf−A RNAのターゲット領域に結合するように、設計してもよいし、前記ターゲット領域以外に結合するように設計してもよい。後者の場合、siRNAの結合領域内での切断がきっかけとなり、結果的に、目的とするターゲット領域(ターゲットRNA)も分解される。このため、vegf−A遺伝子のエキソン1からRNAが転写されても、結果的に前記RNAは分解されるため、前記RNAのp53mRNAへの結合が阻害され、p53の発現を抑制する機能は失われることとなる。
vegf−A mRNAに対するsiRNAの結合領域としては、前述のように、制限されないが、例えば、前述したターゲットRNAの領域内部であることが好ましく、例えば、IresRNAの内部、5’UTRの内部、エキソン1RNAの内部、エキソン1RNAとイントロン1RNAとの境界付近等があげられる。具体例としては、例えば、前記(1)〜(9)のターゲットRNAの内部(IresRNAの内部)や、前記(10)〜(16)のターゲットRNAの内部があげられる。なお、本発明は、これらには制限されない。
以下に、前記siRNAのアンチセンス鎖の具体例を示す。また、下記アンチセンス鎖#1〜#10におけるオーバーハングを下線で示す。下記#1〜#17において、nは、任意の核酸であり、a、u、g、cまたはtがあげられる。なお、siRNAにおいて、オーバーハングは任意であり、例えば、有していなくともよい(以下、同様)。なお、本発明において、siRNAのアンチセンス鎖は、これらには限定されない。
#1 5’−agcaaggcaaggcuccaaugcnn−3’(配列番号4)
配列番号1における塩基番号1062-1082に相補的
#2 5’−agagcagcaaggcaaggcuccnn−3’(配列番号6)
配列番号1における塩基番号1067-1087に相補的
#3 5’−cacgaccgcuuaccuuggcaunn−3’(配列番号8)
配列番号45における塩基番号1097-1117に相補的
#4 5’−uagcacuucucgcggcuccgcnn−3’(配列番号10)
配列番号1における塩基番号728-748に相補的
#5 5’−cgagcuagcacuucucgcggcnn−3’(配列番号12)
配列番号1における塩基番号733-753に相補的
#6 5’−uggacgaaaaguuucagugcgacgcnn−3’(配列番号14)
配列番号1における塩基番号644-668に相補的
#7 5’−agaaguuggacgaaaaguuucagugnn−3’(配列番号16)
配列番号1における塩基番号650-674に相補的
#8 5’−gaaguuggacgaaaaguuucagugcnn−3’(配列番号18)
配列番号1における塩基番号649-673に相補的
#9 5’−ggacgaaaaguuucagugcgacgccnn−3’(配列番号20)
配列番号1における塩基番号643-667に相補的
#10 5’−uuggacgaaaaguuucagugcgacgnn−3’(配列番号22)
配列番号1における塩基番号645-669に相補的
#11 5’−agaaguuggacgaaaaguuucagugnn−3’(配列番号61)
配列番号1における塩基番号650-674に相補的
#12 5’−aguuucagugcgacgccgcgagcccnn−3’(配列番号63)
配列番号1における塩基番号635-659相補的
#13 5’−gaagcgagaacagcccagaaguuggnn−3’(配列番号65)
配列番号1における塩基番号666-690に相補的
#14 5’−agcaaggcaaggcuccaaugcacccnn−3’(配列番号67)
配列番号1における塩基番号1058-1082に相補的
#15 5’−agagcagcaaggcaaggcuccaaugnn−3’(配列番号69)
配列番号1における塩基番号1063-1087に相補的
#16 5’−cgagcuagcacuucucgcggcuccgnn−3’(配列番号71)
配列番号1における塩基番号729-753に相補的
#17 5’−cgcggaccacggcuccuccgaagcgnn−3’(配列番号73)
配列番号1における塩基番号685-709に相補的
前記アンチセンス鎖とセンス鎖とからなるsiRNAの具体例を以下に示す。下記例において、下線部の「nn」はオーバーハングであり、センスのnnの上部、アンチセンスのnnの下部に、それぞれオーバーハングの配列の一例をあわせて示す。なお、siRNA#1〜#17は、例えば、アンチセンス鎖およびセンス鎖、それぞれ、オーバーハングは任意であり、有していなくともよい。なお、本発明において、siRNAは、これらには制限されない。
siRNA#1
gu or ca
センス 5’− gcauugga cuugccuugcunn−3’(配列番号3)
アンチセンス 3’−nncguaaccucggaacggaacga−5’ (配列番号4)
ac or gu
siRNA#2
gu or ca
センス 5’− ggagccuug uugcugcucunn−3’(配列番号5)
アンチセンス 3’−nnccucggaacggaacgacgaga−5’ (配列番号6)
ac or gu
siRNA#3
gu or ca
センス 5’− augccaag aagcggucgugnn−3’(配列番号7)
アンチセンス 3’−nnuacgguuccauucgccagcac−5’ (配列番号8)
ac or gu
siRNA#4
gu or ca
センス 5’− gcggagccg agaagugcuann−3’(配列番号9)
アンチセンス 3’−nncgccucggcgcucuucacgau−5’ (配列番号10)
ac or gu
siRNA#5
gu or ca
センス 5’− gccgcgag gugcuagcucgnn−3’(配列番号11)
アンチセンス 3’−nncggcgcucuucacgaucgagc−5’ (配列番号12)
ac or gu
siRNA#6
ag
センス 5’− gcgucgcacugaaacuuuucguccann−3’(配列番号13)
アンチセンス 3’−nncgcagcgugacuuugaaaagcaggu −5’(配列番号14)
ua
siRNA#7
ag
センス 5’− cacugaaacuuuucguccaacuucunn−3’(配列番号15)
アンチセンス 3’−nngugacuuugaaaagcagguugaaga −5’(配列番号16)
ua
siRNA#8
ag
センス 5’− gcacugaaacuuuucguccaacuucnn−3’(配列番号17)
アンチセンス 3’−nncgugacuuugaaaagcagguugaag −5’(配列番号18)
ua
siRNA#9
ag
センス 5’− ggcgucgcacugaaacuuuucguccnn−3’(配列番号19)
アンチセンス 3’−nnccgcagcgugacuuugaaaagcagg −5’(配列番号20)
ua
siRNA#10
ag
センス 5’− cgucgcacugaaacuuuucguccaann−3’(配列番号21)
アンチセンス 3’−nngcagcgugacuuugaaaagcagguu −5’(配列番号22)
ua
siRNA#11
センス 5’− cacugaaacuuuucguccaacuucunn−3’(配列番号60)
アンチセンス 3’−nngugacuuugaaaagcagguugaaga −5’(配列番号61)
siRNA#12
センス 5’− gggcucgcggcgucgcacugaaacunn−3’(配列番号62)
アンチセンス 3’−nncccgagcgccgcagcgugacuuuga −5’(配列番号63)
siRNA#13
センス 5’− ccaacuucugggcuguucucgcuucnn−3’(配列番号64)
アンチセンス 3’−nngguugaagacccgacaagagcgaag −5’(配列番号65)
siRNA#14
センス 5’− gggugcauuggagccuugccuugcunn−3’(配列番号66)
アンチセンス 3’−nncccacguaaccucggaacggaacga −5’(配列番号67)
siRNA#15
センス 5’− cauuggagccuugccuugcugcucunn−3’(配列番号68)
アンチセンス 3’−nnguaaccucggaacggaacgacgaga −5’(配列番号69)
siRNA#16
センス 5’− cggagccgcgagaagugcuagcucgnn−3’(配列番号70)
アンチセンス 3’−nngccucggcgcucuucacgaucgagc −5’(配列番号71)
siRNA#17
センス 5’− cgcuucggaggagccgugguccgcgnn−3’(配列番号72)
アンチセンス 3’−nngcgaagccuccucggcaccaggcgc −3’(配列番号73)
これらのsiRNAは、例えば、前述の配列の二本鎖siRNAとして細胞内に導入してもよいし、後述する(A4)の結合阻害剤に示すように、例えば、前述の配列を発現するsiRNA発現ベクターとして細胞内に導入してもよい。
前記(A1)の結合阻害剤は、前述のように、リボヌクレアーゼで分解されることによりsiRNAを遊離するsiRNA前駆体であってもよい。前記siRNA前駆体としては、例えば、二本鎖RNAや一本鎖RNAがあげられる。前者の場合、例えば、細胞に導入すると、前記二本鎖RNAがリボヌクレアーゼにより切断され、前述のようなsiRNAが生成される。後者の一本鎖RNAとしては、例えば、自己アニーリングによって、複数のヘヤピン構造が連なったフォールドバックRNA前駆体があげられる。例えば、これを細胞に導入すると、まず、Droshaで切断され、ヘヤピン型のmiRNA様RNA前駆体が形成され、これがさらにDicerで切断されることによって、前述のような二本鎖のsiRNAが生成される。また、後者の一本鎖RNAとしては、例えば、ヘヤピン型のmiRNA様RNA前駆体であってもよい。例えば、これを細胞に導入すると、DroshaおよびDicerで切断されることによって、前述のようなsiRNAが生成される。また、後者の一本鎖RNAとしては、ヘアピン型siRNA前駆体であってもよい。なお、後者の場合、細胞に導入するsiRNA前駆体は、例えば、ヘヤピンを予め形成してもよいし、細胞内でヘヤピンを形成してもよい。前記siRNA前駆体の配列は、特に制限されず、例えば、siRNAの配列、siRNAのアンチセンス鎖が結合する領域の配列、ターゲットRNAの配列に応じて適宜設計できる。前記リボヌクレアーゼとしては、例えば、Dicer、Drosha等があげられる(以下、同様)。
前記(A1)の結合阻害剤は、前述のように、アンチセンスであってもよい。アンチセンスとしては、例えば、前述のターゲットRNAと相補的な配列からなるアンチセンスがあげられる。アンチセンスは、例えば、DNAでもよいしRNAでもよい。アンチセンスによる発現抑制のメカニズムとしては、例えば、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼにより局所的に開状ループ構造が形成された部位とのハイブリッド形成による転写阻害、合成が進行中であるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害等があげられる(平島および井上;新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現(日本生化学会編、東京化学同人)pp.319−347、1993)。アンチセンスの長さは、特に制限されないが、例えば、一般的に、下限が、15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上であり、上限が、例えば、5000塩基(5kb)以下であり、好ましくは2500塩基(2.5kb)以下である。
前記(A1)の結合阻害剤は、前述のように、リボザイムであってもよい。リボザイムは、触媒活性を有するRNA分子のことを意味し、本発明においては、RNAを部位特異的に切断するリボザイムがあげられる。本発明におけるリボザイムは、例えば、前述のようなターゲットRNAを特異的に開裂するリボザイム活性を有する。リボザイムの配列は、特に制限されず、例えば、切断目的の配列に相補的な配列を有するように設計できる。リボザイムの種類は、特に制限されないが、例えば、ハンマーヘッド型リボザイム、ヘアピン型リボザイム等があげられる。
つぎに、前記(A2)の結合阻害剤について説明する。この結合阻害剤は、例えば、本発明のp53発現促進方法における前記(a2)工程で述べた、各種結合阻害剤に該当する。この結合阻害剤が分解するターゲットRNAは、前記本発明のp53発現促進方法の(a2)工程におけるターゲットRNAと同様である。
(A2)vegf−A遺伝子のエキソン1からのRNAの転写を阻害する、siRNA、リボヌクレアーゼで分解されることによりsiRNAを遊離するsiRNA前駆体、アンチセンス、リボザイムおよびデコイ核酸からなる群から選択された少なくとも一つの結合阻害剤
本発明のp53発現促進剤は、前記(A2)の結合阻害剤として、siRNA、リボヌクレアーゼで切断されることによりsiRNAを遊離するsiRNA前駆体、リボザイムRNA、デコイ核酸のいずれを含んでもよい。また、siRNA、siRNA前駆体、リボザイムおよびデコイ核酸は、特に示さない限り、例えば、前記(A1)の結合阻害剤と同様に設計できる。
前記結合阻害剤は、例えば、vegf−A遺伝子のプロモーター活性を阻害するように、設計することが好ましい。これによって、vegf−A遺伝子のエキソン1からの転写が抑制できる。前記結合阻害剤としては、例えば、vegf−A遺伝子のプロモーター領域に相補的である、前記領域に結合可能なアンチセンスがあげられる。このようなアンチセンスによれば、vegf−A遺伝子のプロモーターに前記アンチセンスを結合させることで、プロモーター活性が阻害され、その結果、vegf−A遺伝子のエキソン1からの転写が抑制できる。
つぎに、前記(A3)の結合阻害剤について説明する。この結合阻害剤は、例えば、本発明のp53発現促進方法における前記(a3)工程で述べた、デコイ核酸からなる結合阻害剤に該当する。
(A3)vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAに結合する、p53遺伝子から転写されたmRNAとは別の核酸(デコイ核酸)からなる結合阻害剤
前記デコイ核酸の種類は、特に制限されず、例えば、DNAでもよいし、RNAでもよい。前記デコイ核酸の配列は、特に制限されず、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAにおけるp53mRNAとの結合領域に、結合可能な配列があげられる。具体的には、例えば、vegf−A RNAにおける、p53mRNAとの結合領域に相補的な配列または前記結合領域を含む領域に相補的な配列、p53mRNAにおける、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAとの結合領域からなる配列または前記結合領域を含む領域からなる配列があげられる。前記デコイ核酸の塩基数は、特に制限されないが、例えば、25〜50塩基であり、好ましくは、25〜30塩基である。
前記デコイ核酸の具体例を、以下に示す。前記結合阻害剤は、例えば、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を含んでもよい。なお、本発明は、これには限定されない。
(D1)配列番号2における462番目−481番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
(D2)配列番号2における462番目−482番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
(D3)配列番号2における462番目−491番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
(D4)配列番号2における462番目−505番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
(D5)配列番号2における252番目−551番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
(D6)配列番号1における694番目−714番目の配列に相補的な配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
(D7)配列番号1における693番目−714番目の配列に相補的な配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
5’-ccccgcgcggaccacggctcct-3’(配列番号74)
(D8)前記(D1)〜(D7)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸において、1若しくは数個の塩基が、置換、欠失、挿入または付加された塩基配列からなり、かつ、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAに結合可能である核酸
前記(D1)〜(D5)のRNAおよびDNAは、p53遺伝子(RNAまたはDNA)の部分配列と同じ配列からなる。前記(D6)および(D7)は、vegf−A遺伝子(RNAまたはDNA)のエキソン1における部分配列に相補的な配列からなるアンチセンスである。
つぎに、前記(A4)の結合阻害剤について説明する。
(A4)前記(A1)〜(A3)からなる群から選択された少なくとも一つの結合阻害剤をコードするDNAが挿入された発現ベクターからなる結合阻害剤
前記(A4)の結合阻害剤は、例えば、前述の(A1)〜(A3)の少なくともいずれかを発現する発現ベクターであればよい。前記発現ベクターを用いた場合、例えば、細胞への前記発現ベクターの導入によって、前記細胞内で前記結合阻害剤が発現(例えば、RNAの転写やDNAの複製)される。前記発現ベクターの導入ならびに、前記発現ベクターに挿入されたコード配列の発現システムは、制限されず、従来公知の技術が採用できる。例えば、発現ベクターにより細胞内でsiRNAを生成させる場合には、siRNA発現システムや、miRNA発現システム等の市販キットが使用できる。
前記発現ベクターは、例えば、ベクターに、前記各種結合阻害剤をコードするDNAが挿入されている。前記ベクターとしては、特に制限されず、例えば、前記発現ベクターを導入する細胞の種類、導入方法等に応じて適宜決定でき、例えば、ウイルス系ベクターや非ウイルス系ベクターがあげられる。前記非ウイルスベクターとしては、例えば、目的とする細胞内や生体内で、前記RNAを発現できるベクターがあげられる。具体例としては、例えば、pcDNA3.1(Invitrogen社)、pZeoSV(Invitrogen社)、pBK−CMV(Stratagene社)、pCAGGS(Gene108,193−200(1991))等の発現ベクターが例示できる。通常、これらのベクターのプロモーターの下流に、発現可能なように前記DNAを挿入すればよい。また、ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルスベクター、免疫不全症ウイルス(HIV)等のレンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ベクター(AAVベクター;adeno associated virus)、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40等のDNAウイルスやRNAウイルスがあげられる。以上のようなベクターに、従来公知の方法に基づいて前記DNAを挿入することによって、発現ベクターを製造できる。
前記発現ベクターは、さらに、前記DNAの発現を調節する調節配列を含んでもよい。前記調節配列としては、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)由来のプロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、シミアンウイルス−40(SV−40)、筋βアクチンプロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)等の構成プロモーター、チミジンキナーゼプロモーター等の組織特異的プロモーター、成長ホルモン調節性プロモーター、lacオペロン配列の制御下にあるプロモーター、亜鉛誘導性メタロチオネインプロモーター等の誘導性プロモーターや調節性プロモーターがあげられる。このような調節配列は、従来公知の方法に基づいて、前記遺伝子の発現を機能的に調節できる部位に配置または結合させればよい。また、この他にも、例えば、エンハンサー配列、ポリアデニル化シグナル、複製起点配列(ori)等を含んでもよい。
また、前記発現ベクターは、例えば、薬剤耐性マーカー、蛍光タンパク質マーカー、酵素マーカー、細胞表面レセプターマーカー等の選択マーカーをコードする配列を有してもよい。
本発明においては、細胞内でsiRNAを生成させる場合、例えば、前記siRNAを発現する発現ベクターを導入してもよいし、リボヌクレアーゼで切断されることによりsiRNAを遊離する前記siRNA前駆体を発現する発現ベクターを導入してもよい。前者の場合、例えば、細胞内でsiRNAが生成され、後者の場合、例えば、細胞内で生成されたsiRNA前駆体は、分子内で相補鎖結合しステムループを形成し、さらに、前述のように、DroshaやDicer等のリボヌクレアーゼによって切断されて、前述のsiRNAが生成される。アンチセンスRNAを発現する発現ベクターやリボヌクレオチドを発現する発現ベクターについても、同様である。
本発明のp53発現促進剤の細胞への導入方法は、特に制限されず、従来公知の方法が採用できる。これらのp53発現促進剤をin vitroで細胞に導入する場合、例えば、リン酸カルシウム法、ポリエチレングリコール法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、超音波核酸導入法、遺伝子銃による導入法、DEAE−デキストラン法、微小ガラス管等を用いた直接注入法があげられる。また、前述のようなウイルスベクターを用いた、感染導入法等があげられる。また、本発明のp53発現促進剤を、in vivoで細胞や組織に導入する場合、その導入方法は、例えば、目的の細胞や組織の種類に応じて、従来公知の方法が適宜採用できる。具体的としては、例えば、筋肉内、腹腔内等への注射、経口投与、皮下組織投与、遺伝子銃による投与、液浸、ハイドロダイナミック法、カチオニックリポソーム法、アテロコラーゲンを用いる方法等があげられる。また、ex vivoの場合は、例えば、被検体から目的の細胞や組織を採取し、採取した細胞等に、本発明のp53発現促進剤を前述の方法により導入し、導入後の細胞等を被検体の体内に戻す方法等がある。
本発明のp53発現促進剤は、さらに、前記結合阻害剤や前記発現ベクターの細胞への導入を補助する補助剤等、種々の添加物を含んでもよい。前記補助剤としては、例えば、リポフェクタミン、カチオニックリポソーム等のリポソーム、アテロコラーゲン等があげられる。
<アポトーシス促進方法およびアポトーシス促進剤>
本発明のアポトーシス促進方法は、細胞のアポトーシスを促進する方法であって、本発明のp53発現促進方法により、細胞内におけるp53の発現を促進することを特徴とする。
本発明においては、さらに、前記細胞を抗がん剤で処理する工程を含むことが好ましい。具体的には、前記(a)工程、すなわち、細胞における、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAと、p53mRNAとの結合を阻害する工程に加えて、さらに、(b)工程として、前記細胞を抗がん剤で処理する工程を含むことが好ましい。前記(a)工程および(b)工程の順序は、特に制限されないが、例えば、細胞に対して、前記(a)工程として、前記結合を阻害する処理を施した後、処理後の細胞に対して、抗がん剤処理を行うことが好ましい。前記結合を阻害する処理は、特に制限されないが、前述のような(a1)〜(a3)工程の少なくともいずれかの工程を含むことが好ましい。
前記抗がん剤の種類は、特に制限されないが、具体例として、例えば、5−フルオロウラシル(5−FU)、シスプラチン、ドキソルビシン、エトポシド、ロイコボリン、マイトマイシンC、パクリタキセル、ビンクリスチン、カンプトテシン等があげられる(以下、同様)。
本発明のアポトーシス促進剤は、前述のように、本発明のp53発現促進剤を含むことを特徴とする。本発明のアポトーシス促進剤は、前記p53発現促進剤を含んでいればよく、その他の組成等は、何ら制限されない。また、本発明のアポトーシス促進剤は、本発明のアポトーシス促進方法に使用できるが、具体的な使用方法等は、前述の本発明のp53発現促進剤と同様である。また、本発明のアポトーシス促進剤は、さらに抗がん剤を含むことが好ましい。
<抗がん剤感受性亢進方法および亢進剤>
本発明の抗がん剤感受性の亢進方法は、抗がん剤に対する細胞の感受性を亢進する方法であって、本発明のp53発現促進方法により、前記細胞におけるp53の発現を促進させることを特徴とする。本発明の亢進方法は、例えば、抗がん剤による処理に先立って、目的の細胞に、本発明のp53発現促進方法を施せばよく、その他の工程は、何ら制限されない。このような処理を行うことによって、細胞の抗がん剤に対する感受性を亢進することができる。
本発明の亢進剤は、前述のように、抗がん剤に対する細胞の感受性を亢進する亢進剤であって、本発明のp53発現促進剤を含むことを特徴とする。本発明の亢進剤は、前記p53発現促進剤を含んでいればよく、その他の組成等は、何ら制限されない。また、本発明の亢進剤は、本発明の抗がん剤感受性の亢進方法に使用できるが、具体的な使用方法等は、前述の本発明のp53発現促進剤と同様である。
<がんの治療方法および抗がん剤>
本発明のがんの治療方法は、生体内のがん細胞に本発明のp53発現促進剤を投与する工程を含む。前記p53発現促進剤の投与対象は、特に制限されないが、例えば、ヒト、ヒトを除く哺乳類等の動物があげられる。
本発明の抗がん剤は、前述のように、本発明のp53発現促進剤を含むことを特徴とする。本発明の抗がん剤は、前記p53発現促進剤を含んでいればよく、その他の組成等は、何ら制限されない。本発明の抗がん剤は、例えば、他の抗がん剤や、薬学的に許容可能な成分を、さらに含んでもよい。また、本発明の抗がん剤は、本発明のがんの治療方法に使用できるが、具体的な使用方法は、前述の本発明のp53発現促進剤と同様である。
<p53mRNA結合剤>
本発明のp53mRNA結合剤は、p53mRNAに結合可能な結合剤であって、核酸を含み、前記核酸が、配列番号1に示すvegf−A mRNAにおける694番目−714番目の配列からなるRNAを含むことを特徴とする。
前記核酸に含まれるRNAは、例えば、前記694番目−714番目の配列からなるRNAでもよいし、vegf−A mRNAにおける694番目−714番目の領域を含む配列からなるRNAでもよい。前記RNAとしては、例えば、下記(1)〜(17)のRNAがあげられる。前記核酸に含まれるRNAは、いずれか一種類でもよいし、二種類以上であってもよい。
(1)配列番号1における600番目−879番目の配列からなるRNA
(2)配列番号1における659番目−879番目の配列からなるRNA
(3)配列番号1における659番目−780番目の配列からなるRNA
(4)配列番号1における659番目−752番目の配列からなるRNA
(5)配列番号1における659番目−745番目の配列からなるRNA
(6)配列番号1における694番目−714番目の配列からなるRNA
(7)配列番号1における693番目−714番目の配列からなるRNA
(8)配列番号1における691番目−703番目の配列からなるRNA
(9)配列番号1における711番目−723番目の配列からなるRNA
(10)配列番号1における16番目−780番目の配列からなるRNA
(11)配列番号1における659番目−917番目の配列からなるRNA
(12)配列番号1における526番目−1104番目の配列からなるRNA
(13)配列番号45における526番目−1216番目の配列からなるRNA
(14)vegf mRNAにおける5’UTR RNA
(15)vegf mRNAにおけるエキソン1 RNA
(16)vegf mRNA
(17)前記(1)〜(16)のRNAにおいて、1若しくは数個の塩基が、置換、欠失、挿入または付加された塩基配列からなり、且つ、p53の発現を抑制する機能を有するRNA、または、p53mRNAと結合する機能(もしくは、ハイブリッドを形成する機能)を有するRNA
<vegf−A mRNA結合剤>
本発明のvegf−A mRNA結合剤は、vegf−A mRNAに結合可能な結合剤であって、核酸を含み、前記核酸が、配列番号2に示すp53mRNAにおける462番目−481番目の配列からなるRNAを含むことを特徴とする。
前記核酸に含まれるRNAは、例えば、前記462番目−481番目の配列からなるRNAでもよいし、p53mRNAにおける462番目−481番目の領域を含む配列からなるRNAでもよい。前記RNAとしては、例えば、下記(I)〜(VI)のRNAがあげられる。前記核酸に含まれるRNAは、いずれか一種類でもよいし、二種類以上であってもよい。
(I)配列番号2における462番目−481番目の配列からなるRNA
(II)配列番号2における462番目−482番目の配列からなるRNA
(III)配列番号2における462番目−491番目の配列からなるRNA
(IV)配列番号2における462番目−505番目の配列からなるRNA
(V)配列番号2における252番目−551番目の配列からなるRNA
(VI)前記(I)〜(V)からなる群から選択された少なくとも一つのRNAにおいて、1若しくは数個の塩基が、置換、欠失、挿入または付加された塩基配列からなり、かつ、vegf−Aのエキソン1から転写されたRNAに結合する機能を有するRNA
<スクリーニング方法>
本発明のスクリーニング方法は、p53の発現を促進する発現促進剤のスクリーニング方法であって、下記(A)工程〜(C)工程を有することを特徴とする。
(A) 候補物質の存在下、本発明のp53mRNA結合剤と、本発明のvegf−A RNA結合剤とを接触させる工程
(B) 前記候補物質による、前記p53mRNA結合剤とvegf−A RNA結合剤との結合の阻害を検出する工程
(C) 前記p53mRNA結合剤とvegf−A RNA結合剤との結合を阻害した候補物質を、p53発現促進剤として選択する工程。
このような方法によれば、p53mRNAとvegf−A RNAとの結合を阻害する物質をスクリーニングできる。前記結合を阻害できれば、結果的に、p53mRNAの分解を抑制し、p53mRNAの発現抑制を回避し、p53の発現を促進(回復)できる。このため、本発明によりスクリーニングされた物質は、p53発現促進剤として使用することが可能となる。なお、前記(C)工程における阻害の検出方法は、特に制限されず、ヘテロ二本鎖の形成の有無を確認する従来公知の方法が採用できる。
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は下記の実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコールに基づいて使用した。以下、vegf−A遺伝子をvegf遺伝子、vegf−A mRNAをvegf mRNA、vegf−A RNAをvegf RNA、VEGF−Aタンパク質をVEGFタンパク質という。
(細胞培養)
ヒト大腸がんHCT116細胞(親細胞、野生型p53)、ヒト大腸がんp53欠損HCT116細胞(p53-KO HCT116)、HT−29細胞およびSW480細胞;ヒト肝臓がんHepG2細胞、Hep3B細胞およびHLE細胞;ヒト胃がんAGS細胞;および、ヒト正常皮膚繊維芽細胞を使用した。これらの細胞は、10%のウシ胎児血清および/または抗生物質を含む、McCoy’s 5A培地またはDulbecco’s改変Eagle’s(DMEM)培地を使用した。
(トランスフェクション)
細胞への各種ベクターのトランスフェクションは、JetPEI transfection reagent(商品名、Polyplus−transfection社製)を用いて、使用説明書に従って行った。
(vegf siRNA)
目的細胞において、vegf mRNAに対する下記#1〜#5のsiRNAを発現させるために、各種発現ベクターを作成した。以下、これらのsiRNAをvegf siRNA、これらのsiRNAを発現するベクターをvegf siRNAベクターともいう。なお、siRNAの発現には、市販のsiRNA発現系(Invitrogen社製)を応用した。
まず、vegf siRNAのコード配列を含む二本鎖オリゴヌクレオチド(オリゴヌクレオチド#1〜#5)を準備した。これらのオリゴヌクレオチドのセンス鎖配列を以下に示す。各オリゴヌクレオチドの配列において、下線部は、vegf遺伝子のエキソン1の領域内部に相補的なアンチセンス配列、または、エキソン1とイントロン1とを含む領域内部に相補的なアンチセンス配列であって、最終的にsiRNA#1〜#5として機能する配列をコードする。また、下記配列において、小文字配列は、siRNAのアンチセンスがハイブリダイズするvegf mRNAの領域内部から2塩基を欠損させたRNAの配列に対応するDNA配列に該当する。各オリゴヌクレオチドの配列の下に、発現させるsiRNAのセンスおよびアンチセンス、ならびに、siRNAのアンチセンスがハイブリダイズするvegf mRNAの領域(ターゲットRNA)の配列を示す。
Figure 0005273740
前記二本鎖オリゴヌクレオチドを、それぞれ、siRNA発現用プラスミドベクターに、プロトコールに従ってクローニングした。前記ベクターとしては、プレ−miRNA発現カセット内にGFPコード領域を含むpcDNA6.2−GW/EmGFP−miR vector(Invitrogen社)を使用した。得られた組換えベクターを、それぞれ、vegf siRNA#1ベクター〜vegf siRNA#5ベクターという。各組換えベクターについて、前記挿入配列は、DNAシークエンスにより確認した。また、siRNAのコントロールベクターとして、脊椎動物の既知遺伝子に対して相同性のない配列(配列番号46:5’−gaaatgtactgcgcgtggagacgttttggccactgactgacgtctccacgcagtacattt−3’)の二本鎖オリゴヌクレオチドを、前記pcDNA6.2−GW/EmGFP−miR vectorにクローニングした。得られた組換えベクターを、コントロールsiRNAベクターという。各種組換えベクターで細胞を導入した結果、トランスフェクション効率は、GFPタンパク質の緑蛍光を発生した細胞の割合(%)に基づき、約70%であった。
前記vegf siRNA#1ベクター〜vegf siRNA#5ベクターを細胞に導入すると、EmGFPコード配列と前記オリゴヌクレオチド(#1〜#5)とのキメラDNAから、キメラmRNAが発現される。この際、前記オリゴヌクレオチドに対応するRNAは、EmGFP mRNAの3’側に3’UTRとして発現する。この3’UTR部分が分子内で相補鎖と結合し、形成された塩基対は、Droshaにより切断され、さらに、Dicerで切断される。これによって、導入された細胞内において、二本鎖siRNA(#1〜#5)が形成され、そのアンチセンス鎖により、ターゲットRNAの切断が起こる。なお、得られる二本鎖siRNAは、両鎖ともに、3’末端に二塩基のオーバーハングを有している。
コントロールsiRNAとして、Silencer(登録商標)negative control#1(Ambion社製)またはsiRISC−free control siRNA(Dharmacon)を購入した。これらのsiRNAは、ヒト遺伝子産物に相同性を示さない。また、以下に示すsiRNAをAmbion社より購入した。これらのsiRNAは、Lipofectamine RNAiMax reagent(Invitrogen社製)を用いて、使用説明書に従って細胞に導入した。siRNAの導入効率は、BLOCK−iT Alexa Fluor Red Fluorescent Oligo(Invitrogen社製)によると、約60−70%であった。
(アポトーシス評価1)
目的の細胞を各種抗がん剤で処理した後、トリプシン/EDTAとインキュベートして、細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除いた後、3.7%ホルムアルデヒド、0.5%Nonidet P40および10μg/mL Hoechst33258(Invitrogen社)を含むPBS溶液で固定および染色した。染色された核を蛍光顕微鏡で観察し、分断化した核を数えてスコア化した。一回の測定において、最小300個の細胞についてカウントを行った。
(アポトーシス評価2)
評価対象の細胞を、in situ Cell Death Detection kit(Roche Diagnostics社製)を用いて、TUNEL染色法により評価した。TUNEL陽性細胞は、顕微鏡で観察し、アポトーシス陽性細胞の割合(%)を算出した。一回の測定において、最小300個の細胞についてカウントを行った。
(ウェスタンイムノブロッティング)
ウェスタンイムノブロッティングは、Huez, I. et al. Mol. Endocrinol. 15 2197-2210 (2001)、または、Masuda, K., et al. PLoS Med. 5, e94 (2008)に従って行った。一次抗体としては、抗p53抗体(DO−1またはFL−393、Santa Cruz Biotechnology社製)、抗β−actin(cloneAC−15、Sigma社製)、抗HA(Y−11、Santa Cruz Biotechnology社製)、前記Huezら(2001)に記載の抗L−VEGF(ポリクローナル抗L−VEGF抗体)を用いた。
(ノーザンブロッティング)
トータルRNAは、グアニジンチオシアネート法により調製した。以下に示す各種cDNAを鋳型として、下記アンチセンスプライマー、クレノウフラグメント(New England BioLabs社製)および[α−32P]dCTPを用いて、標識化cDNAを作製した。得られた標識化cDNAを、ノーザンブロッティング用のプローブとした。
vegf mRNA用プローブ1
鋳型:ヒトvegf エキソン1−エキソン5のcDNA
アンチセンスプライマー:
5’−gtcttgctctatctttctttggtctgc−3’(配列番号47)
5’−catctctcctatgtg−3’(配列番号48)
5’−tccaggccctcgtca−3’(配列番号49)
vegf mRNA用プローブ2(実施例B用)
鋳型:ヒトvegf エキソン2−5のcDNA
アンチセンスプライマー:
5’−ttgtcttgctctatctttctttg−3’(配列番号75)
vegf IresRNA用プローブ
鋳型:ヒトvegf IresRNA(配列番号1の600−879)のcDNA
アンチセンスプライマー:
5’−gcgcacaccgccgcctcacccgtccatgagcccgg−3’(配列番号76)
p53mRNAおよび分解p53mRNA用プローブ1
鋳型:ヒトp53 全長cDNA
アンチセンスプライマー:
5’−tcagtctgagtc−3’(配列番号50)
5’−gcccacggatct−3’(配列番号51)
5’−tgatggtgagga−3’(配列番号52)
5’−cctcacaacctc−3’(配列番号53)
5’−aagatgacaggg−3’(配列番号54)
p53mRNA用プローブ2(実施例B用)
鋳型:ヒトp53 全長cDNA
アンチセンスプライマー:
5’−ttaaaagctttcagtctgagtcaggc−3’(配列番号77)
vegf−YFP mRNAおよびYFP mRNA用プローブ
鋳型:YFP cDNA(Clontech社製)
アンチセンスプライマー:
5’−ttgatcctagcagaagcaca−3’(配列番号55)
下記アンチセンスプローブは、terminal Deoxynucleotidyl Transferase(New England BioLabs社製)と[α−32P]dCTPとを用いて、3’末端を標識化した。
noxa mRNA用アンチセンスプローブ (配列番号56)
5’−gctctgctggagcccgcgcggggctcggttgagcgttcttgcgcg−3’
puma mRNA用アンチセンスプローブ (配列番号57)
5’−ccctctacgggctccggggagctgccctcctggcgtgcgcggg−3’
bax mRNA用アンチセンスプローブ (配列番号58)
5’−ggtggacgcatcctgaggcaccgggtccagggccagctcgggtg−3’
p21 mRNA用アンチセンスプローブ (配列番号59)
5’−ggcaggccttgctgccgcatgggttctgacggacatccccagccggttctgacat−3’
(定量的RT-PCR)
トータルRNA1μgから、SuperScriptII RNaseH(−) reverse transcriptase(Invitrogen社製)によりcDNAを合成し、前記cDNAを鋳型として、増幅目的の核酸配列に対するプライマーを用いてPCRを行った。増幅ならびにPCR産物の定量は、Applied Biosystems 7500 (Applied Biosystems社製)を用いて、メーカー推奨の方法で行った。
vegf mRNA用フォワードプライマー(配列番号78)
5’-gagccttgccttgctgctctac-3’
vegf mRNA用リバースプライマー(配列番号79)
5’-caccagggtctcgattggatg -3
p53mRNA用フォワードプライマー1(配列番号80)
5’-ctttccacgacggtgaca-3’
p53mRNA用リバースプライマー1(配列番号81)
5’-tcctccatggcagtgacc-3
bax mRNA用フォワードプライマー(配列番号82)
5’-atgttttctgacggcaacttc-3’
bax mRNA用リバースプライマー(配列番号83)
5’-atcagttccggcaccttg-3’
noxa mRNA用フォワードプライマー(配列番号84)
5’-gagatgcctgggaagaagg-3’
noxa mRNA用リバースプライマー(配列番号85)
5’-ttgagtagcacactcgacttcc-3’
(RNAプルダウンアッセイ)
p53欠損HCT116細胞に、pcDNA3.1をベースとし且つ前記ベクター配列由来のT7配列を有する各種発現ベクターと、pCMV−neo−Bamをベースとし且つ前記ベクター配列由来のT7配列を有さないp53発現ベクターとを、共導入した。共導入の12時間後、細胞をPBSで2回洗浄し、bufferAで細胞を溶解させた。前記bufferAの組成は、10mmol/L HEPES(pH7.4)、60mmol/L KCl、3mmol/L MgCl、0.1% NP−40、1mmol/L DTT、10mmol/L ribonucleoside vanadyl complexとした。得られた細胞抽出液を、ビオチンタグの付いたアンチT7プローブとインキュベートした。前記アンチT7プローブと結合した複合体を、ストレプトアビジンでコートした磁性ビーズDynabeads M−270 streptavidin(Invitrogen社製)を用いて沈降させた。前記沈降物から回収した全RNAを、DNaseI(商品名TurboDNaseI、Ambion社製)で処理した後、ランダムヘキサマーとThermoscript RT−PCR system(Invitrogen社製)とを用いて、プロトコールに従って、逆転写反応とPCRを行った。PCR後、電気泳動によりPCR産物の増幅の有無を検証した。
使用したアンチT7プローブ、vegf IresRNAのPCRプライマーセット、および、p53mRNAのPCRプライマーセットを以下に示す。なお、下記アンチT7プローブにおいて、大文字で示した塩基がT7に対応する配列で、小文字で示した塩基は付加配列である。
アンチT7プローブ(配列番号86)
5’-CCCTATAGTGAGTCGTATTATTTaaaa-biotin-3’
vegf IresRNA用フォワードプライマー(配列番号87)
5'-GAGCCCGCGCCCGGAGGCGGGGTGG-3'
vegf IresRNA用リバースプライマー(配列番号88)
5'-GCGCACACCGCCGCCTCACCCGTCCATGAGCCCGG-3'
p53mRNA用フォワードプライマー2(配列番号89)
5'-AATATCTAGAATGGAGGAGCCGCA-3'
p53mRNA用リバースプライマー2(配列番号90)
5'-TTAAAAGCTTTCAGTCTGAGTCAGGC-3'
[実施例A1]
VEGFシグナル経路を有するヒト肝臓がんHepG2細胞は、抗がん剤に対して耐性を示す。そこで、RNA干渉によるvegf mRNAの減少が、HepG2細胞の抗がん剤耐性に与える影響を確認した。
(1)vegf mRNAの減少
HepG2細胞(野生型p53)に、前述のvegf siRNA#1ベクター、vegf siRNA#2ベクターおよびコントロールsiRNAベクターを、それぞれ導入した。これらの細胞を18時間培養し、vegf mRNAの発現レベルをノーザンブロッティングにより分析した。また、前記ベクター未導入のHepG2細胞についても、同様に分析を行った。また、分析の際、ローディングコントロールとして、各細胞におけるgapdh mRNAをモニターした(以下、同様)。培養は、10%ウシ胎児血清および100μg/ml(100units/ml)ストレプトマイシンを含むDMEM培地を使用し、条件は、温度37℃、5%COとした(以下、同様)。
これらの結果を、図1(a)に示す。図1(a)は、各細胞におけるvegf mRNAの発現を示すノーザンブロッティングの結果である。同図において、Lane1「−」は、ベクター未導入の細胞、Lane2「control siRNA」は、コントロールsiRNA発現細胞、Lane3「vegf siRNA#1」は、vegf siRNA#1発現細胞、Lane4「vegf siRNA#2」は、vegf siRNA#2発現細胞の結果をそれぞれ示す(以下、同様)。
図1(a)に示すように、ベクター未導入の細胞(Lane1)およびコントロールsiRNA発現細胞(Lane2)と比較して、vegf siRNA#1発現細胞(Lane3)またはvegf siRNA#2発現細胞(Lane4)は、vegf mRNAの発現量が著しく減少した。
(2)アポトーシスの増加
前記(1)と同様に、各種組換えベクターをHepG2細胞に18時間導入した。導入細胞を、所定濃度(0、10、30μmol/L)の抗がん剤5−FUで60時間処理し、処理後の細胞について、前記アポトーシス評価1に基づいて、アポトーシス(%)を確認した。これらの結果を、図1(b)に示す。図1(b)は、所定濃度の5−FUで処理した各種細胞のアポトーシス(%)を示すグラフである(means±SD、n=3)。
図1(b)に示すように、コントロールsiRNA発現細胞は、遺伝毒性の抗癌剤5−FUで処理した結果、アポトーシスの割合を若干増加した。これに対して、vegf siRNA#1またはvegf siRNA#2の発現細胞では、siRNAによるvegf mRNAのサイレンシングが、基底アポトーシス(0μmol/L)に影響を与えなかったが、5−FUで処理した場合、濃度依存的に、5−FUに応答してアポトーシスの割合が著しく向上した。なお、ヒト大腸がんHCT116(親細胞、野生型p53)においても、前記(1)および(2)におけるHepG2細胞と同様の結果が確認された。
(3)p53の発現
HepG2細胞およびHCT116細胞において、5−FUにより誘導されるアポトーシスは、p53に依存することが知られている(Bunz, F. et al. J. Clin. Invest. 104, 263-269 (1999))。そこで、前記(1)におけるvegf mRNAの減少が、細胞内のp53経路に影響を与えているか否かを確認すべく、p53mRNAおよびp53タンパク質の発現レベルを測定した。
前記(1)と同様にして、各種ベクターをHepG2細胞に18時間導入した後、この細胞を、30μmol/Lの5−FU存在下(+)または5−FU非存在下(−)で処理した。8時間処理した細胞について、p53mRNAの発現レベルをノーザンブロッティングにより分析し、12時間処理した細胞について、p53タンパク質の発現レベルをウェスタンイムノブロッティングにより分析した。タンパク質の分析は、あわせて、内在性コントロールであるβ−アクチンタンパク質についても行った(以下、同様)。これらの結果を、図1(c)に示す。同図は、vegf siRNAを発現させた細胞におけるp53mRNAおよびp53タンパク質の発現を示す結果である。同図において、上から1段目はp53mRNA、2段目はgapdh mRNA、3段目はp53タンパク質、4段目はβ−アクチンタンパク質の発現をそれぞれ示す。また、同図において、「−」は、5−FU非存在下、「+」は、5−FU存在下の条件を示す。
また、同様にして、前記各種ベクターを導入したHepG2細胞を、30μmol/Lの5−FU存在下(+)または5−FU非存在下(−)で、16時間処理した。処理後の細胞について、p53系路において誘導されるnoxa mRNA、puma mRNAおよびp21 mRNAの発現を、それぞれノーザンブロッティングにより分析した。これらの結果を、図1(d)に示す。同図は、vegf siRNAを発現させた細胞におけるp53mRNAの発現を示すノーザンブロッティングの結果である。同図において、上から1段目はnoxa mRNA、2段目はpuma mRNA、3段目はp21 mRNA、4段目はgapdh mRNAの発現をそれぞれ示す。各Laneは、図1(c)と同様である。
図1(c)に示すように、5−FU非存在下(−)、vegf siRNA#1の発現細胞(Lane3)およびvegf siRNA#2の発現細胞(Lane5)は、コントロール細胞と比較して(Lane1)、vegfのサイレンシングにより、p53mRNAおよびp53タンパク質の発現増加を示した。さらに、図1(c)のLane4および6に示すように、5−FU存在下(+)において、vegf siRNA#1の発現細胞(Lane4)およびvegf siRNA#2の発現細胞(Lane6)は、vegfのサイレンシングにより、5−FUによるp53の発現誘導が亢進され、p53mRNAおよびp53タンパク質の著しい発現増加を示した。そして、これに伴い、図1(d)に示すように、vegf siRNA#1の発現細胞(Lane4)およびvegf siRNA#2の発現細胞(Lane6)は、noxa mRNA、puma mRNA、p21 mRNAの発現誘導も著しく亢進された。これに対して、コントロール細胞(Lane2)は、図1(d)に示すように、5−FUに応答して、p21 mRNAの発現が若干誘導されたにすぎなかった。
これらの結果から、vegf mRNAのノックダウンによるp53mRNAの発現レベルの増加が、抗がん剤に対する細胞の感受性を向上し、5−FUの最適以下の投与量に対する応答も実現した。これらは、p53発現が、細胞内のvegf mRNAによって抑制されていることを示唆している。
[実施例A2]
VEGFタンパク質またはvegf mRNAが、直接的にp53の発現の抑制に関与しているか否かを確認した。
(1)プラスミドコンストラクト
ヒトVEGF165のコード遺伝子(vegf遺伝子)、その5’UTRならびに3’UTRに相当する配列等は、文献(J. Abraham et al. J. Biol. Chem. 266, 18, 11947-11954 (1991))に基づいて準備した。下記方法により作製したプラスミドコンストラクトの概略を、図2(a)に示す。同図に示す、プラスミドコンストラクトA(p165mSPHA3’)、B(p165mSPHA)、C(p165−3’)およびD(pVC)は、それぞれ文献(Bornes, S. et al. J. Biol. Chem. 279, 18717-18726 (2004)、Huez, I. et al. Mol. Endocrinol. 15 2197-2210 (2001))の方法を参照して構築した。
コンストラクトA(p165mSPHA3’)(vegf遺伝子の全長cDNA)
文献Bornes, S. et al. J. Biol. Chem. 279, 18717-18726 (2004)の方法を参照して、コンストラクトA(p165mSPHA3’)を作製した。コンストラクトAは、vegf遺伝子のcDNA、すなわち、5’UTRに相当するDNA配列、VEGF165タンパク質のコード配列および3’UTRに相当するDNA配列を有し、且つ、前記タンパク質コード配列の3’末端と前記3’UTR DNA配列の5’末端との間にHAタグのコード配列が付加されたDNA断片が、pSCTプラスミドベクターに挿入されている。
コンストラクトB(p165mSPHA)(3’UTR欠損)
文献Bornes, S. et al. J. Biol. Chem. 279, 18717-18726 (2004)の方法を参照して、コンストラクトB(p165mSPHA)を作製した。コンストラクトBは、vegf遺伝子の5’UTRに相当するDNA配列およびVEGF165タンパク質のコード配列を有し、且つ、前記タンパク質コード配列の3’末端にHAタグのコード配列が付加されたDNA断片が、pSCTプラスミドベクターに挿入されている。
コンストラクトC(p165−3’)(5’UTR欠損)
pSCTプラスミドベクターに下記DNA断片が挿入されたコンストラクトC(p165−3’)を作製した。前記DNA断片は、VEGF165タンパク質のコード配列およびvegf遺伝子の3’UTRに相当するDNA配列を有し、且つ、前記タンパク質コード配列の3’末端と前記3’UTR DNA配列の5’末端との間にHAタグのコード配列が付加されたDNA断片である。具体的には、前記コンストラクトA(p165mSPHA3’)を制限酵素XbaIとNgoM IVとで処理し、5’UTR部分を除去した。その後、クレノウフラグメント処理によりDNA末端を平滑化し、リガーゼを用いて平滑末端同士を連結することによって、コンストラクトCを得た。
コンストラクトD(pVC)(5’UTRのみ)
文献Huez, I. et al. Mol. Endocrinol. 15 2197-2210 (2001)の方法を参照して、コンストラクトD(pVC)を作製した。コンストラクトDは、配列番号1の1番目〜1205番目の領域に相当するDNA配列とCATコード配列とのキメラDNAが、pSCTプラスミドベクターに挿入されている。前記配列番号1の1番目〜1205番目の領域は、vegf mRNAにおいて、5’UTRと、開始コドンatgから167塩基までの配列とを含む。
コンストラクトmock
vegf遺伝子のDNA断片を挿入していない空ベクター(pSCTプラスミドベクター)を、コンストラクトmockとした。
(2)p53mRNAおよびp53タンパク質の発現
ヒト肺がんH1299細胞(p53null)に、p53を発現するプラスミドベクターおよびエフェクターとして前記各種プラスミドコンストラクトを共導入した。前記p53を発現するプラスミドベクターを、以下、「p53発現ベクター」という。このp53発現ベクターは、pcDNA3.1ベクター(Invitrogen社)のBamHI−EcoRIサイトに、ヒトp53のタンパク質コード配列(配列番号2の252番目−1433番目)を挿入して作製した(pcDNA3.1−p53)。以下、同様である。共導入した各細胞を18時間培養し、外来性p53mRNAの発現レベルをノーザンブロッティングにより分析した。また、共導入した各細胞を24時間培養し、外来性p53タンパク質ならびに外来性VEGFタンパク質の発現レベルを、それぞれ抗p53抗体と抗HAタグ抗体を用いたウェスタンイムノブロッティングにより分析した。培養は、10%ウシ胎児血清および100μg/ml(100units/ml)ストレプトマイシンを含むDMEM培地を使用し、条件は、温度37℃、5%COとした(以下、同様)。
これらの結果を、図2(b)および(c)に示す。図2(b)は、各細胞におけるp53mRNAの発現を示すノーザンブロッティングの結果であり、上段は、p53mRNAの発現、下段は、gapdh mRNAの発現を示す。図2(c)は、各細胞におけるp53タンパク質の発現を示すウェスタンイムノブロッティングの結果であり、上段は、p53タンパク質の発現、下段は、β−アクチンタンパク質の発現を示す。両図において、Lane1「NT」は、ベクター未導入の細胞、Lane2「A」は、コンストラクトA(p165mSPHA3’)の導入細胞、Lane3「B」は、コンストラクトB(p165mSPHA)の導入細胞、Lane4「C」は、コンストラクトC(p165−3’)の導入細胞、Lane5「mock」は、空ベクターの導入細胞、Lane6「D」は、コンストラクトD(pVC)の導入細胞を示す。「p53+」は、p53発現ベクターの導入を意味する。
図2(b)および(c)に示すように、vegf遺伝子の全長成熟mRNAを発現するコンストラクトA導入細胞(Lane2)は、外来性p53mRNAの発現を著しく抑制した。この結果から、VEGFタンパク質またはvegf mRNAがp53の発現抑制に関与していることがわかった。そこで、p53発現抑制に対するvegf mRNAのUTR配列の関与を確かめるため、3’UTRを欠損するコンストラクトBおよび5’UTRを欠損するコンストラクトCを用いてp53発現を確認した。その結果、3’UTRを欠損するコンストラクトBの導入細胞(Lane3)は、vegf遺伝子の全長cDNAを含むコンストラクトAの導入細胞(Lane2)と同様に、外来性p53の発現を著しく抑制した。これに対して、5’UTRを欠損するコンストラクトCの導入細胞(Lane4)は、p53発現に影響がなかった。この結果は、p53mRNAの抑制が、VEGFタンパク質ではなく、vegf mRNAによって、特に、vegf mRNAの5’UTR配列によって媒介されていることを示唆している。この5’UTRの関与をさらに確認するために、CATコード遺伝子に5’UTRのDNA配列が融合され、CAT mRNAと5’UTRとのキメラmRNAを発現するコンストラクトDについても、同様にp53の発現を確認した。なお、コンストラクトDの導入細胞は、vegf遺伝子の5’UTRを有するのみであるため、VEGFタンパク質は生産されない。その結果、コンストラクトDの導入細胞(Lane6)は、VEGFタンパク質は生産されないにもかかわらず、p53mRNAおよびp53タンパク質の発現抑制が確認された。この結果から、VEGFタンパク質ではなく、vegf mRNA、中でも、mRNAの5’UTRが、p53の発現抑制に関与していることが確認できた。したがって、vegf遺伝子について、5’UTRの発現抑制または発現した5’UTRの切断によって、vegf mRNAによるp53のダウンレギュレーションを解除できるといえる。なお、p53欠損HCT116細胞を用いた場合にも、同様の結果が得られた。
[実施例A3]
部分的に欠損した5’UTRまたは変異5’UTRを発現するコンストラクトを作製し、p53のダウンレギュレーションに関与するvegf 5’UTRの要素配列の決定を行った。
(1)プラスミドコンストラクト
ヒトvegf遺伝子のエキソン1に相当するDNA断片、ならびに、下記各種プラスミドコンストラクトを、前記実施例A2と同様に、前述した各文献に基づいて準備した。下記方法により作製したプラスミドコンストラクトを、図3(a)に示す。
コンストラクトA(pVC)(vegf1−1203)
文献Huez, I. et al. Mol. Endocrinol. 15 2197-2210 (2001)の方法を参照して、コンストラクトA(pVC)を作製した。コンストラクトAは、vegf遺伝子におけるエキソン1、エキソン2およびエキソン3の一部からなるDNA配列とCATコード配列とのキメラDNAが、pSCTプラスミドベクターに挿入されている。前記DNA配列は、vegf mRNAのエキソン1(配列番号1の1−1104番目)、エキソン2(配列番号1の1105−1154番目)およびエキソン3部分配列(配列番号1の1155−1203番目)に相当する配列である。なお、このコンストラクトAは、実施例A2におけるコンストラクトDと同じである。
コンストラクトB(Δ555−1012)
エキソン1を部分的に欠損するコンストラクトBを作製した。コンストラクトBは、配列番号1の555−1012番目の領域を欠損するエキソン1部分配列、エキソン2(配列番号1の1105−1154番目)およびエキソン3部分配列(配列番号1の1155−1203番目)からなるDNA配列とCATコード配列とのキメラDNAが、pSCTプラスミドベクターに挿入されている。具体的には、前記コンストラクトA(pVC)をNgOMIVで処理し、再度、ライゲーションすることでコンストラクトBを得た。
コンストラクトC(Δ1−744)
エキソン1を部分的に欠損するコンストラクトCを作製した。コンストラクトCは、配列番号1の1−744番目の領域を欠損するエキソン1部分配列、エキソン2(配列番号1の1105−1154番目)およびエキソン3部分配列(配列番号1の1155−1203番目)からなるDNA配列とCATコード配列とのキメラDNAが、pSCTプラスミドベクターに挿入されている。具体的には、前記コンストラクトA(pVC)をXbaIおよびNheIで処理し、再度、ライゲーションすることでコンストラクトCを得た。
コンストラクトD(Δ1−658)
エキソン1を部分的に欠損するコンストラクトDを作製した。コンストラクトDは、配列番号1の1−658番目の領域を欠損するエキソン1部分配列、エキソン2(配列番号1の1105−1154番目)およびエキソン3部分配列(配列番号1の1155−1203番目)からなるDNA配列とCATコード配列とのキメラDNAが、pSCTプラスミドベクターに挿入されている。具体的には、前記コンストラクトA(pVC)をXbaIおよびXmnIで処理し、リガーゼ処理によって平滑末端化した後、再度、ライゲーションすることでコンストラクトDを得た。
コンストラクトE(Δ1−475、Δ918−1175)
エキソン1を部分的に欠損するコンストラクトEを作製した。コンストラクトEは、配列番号1の1−475番目の領域および918−1175番目の領域を欠損するエキソン1部分配列、および、5’領域を欠損するエキソン3部分配列(配列番号1の1176−1203番目)からなるDNA配列とCATコード配列とのキメラDNAが、pSCTプラスミドベクターに挿入されている。具体的には、まず、前記コンストラクトA(pVC)をBamHI処理してBamHI断片を除いた後、再ライゲーションを行った(pVC−Δ1−474)。そして、このpVC−Δ1−474のSmaI−BsaBI断片を除いて再ライゲーションすることで得た。
コンストラクトF(Δ1−475、Δ746−1012)
エキソン1を部分的に欠損するコンストラクトFを作製した。コンストラクトFは、配列番号1の1−475番目の領域および746−1012番目の領域を欠損するエキソン1部分配列、エキソン2(配列番号1の1105−1154番目)およびエキソン3部分配列(配列番号1の1155−1203番目)からなるDNA配列とCATコード配列とのキメラDNAが、pSCTプラスミドベクターに挿入されている。具体的には、前記コンストラクトpVC−Δ1−474のNheI−NgOMIV断片を除き、リガーゼ処理によって平滑末端化した後、再ライゲーションすることでコンストラクトFを得た。
コンストラクトG(pVCTTT)(499−501の変異:CTG→TTT)
文献(Huez, I. et al. Mol. Endocrinol. 15 2197-2210 (2001))の方法を参照して、変異5’UTRを発現する変異エキソン1を有するコンストラクトG(pVCTTT)を作製した。コンストラクトGは、前記変異エキソン1配列およびエキソン2部分配列(配列番号1の1105−1205番目)とからなるDNA配列とCATコード配列とのキメラDNAが、pSCTプラスミドベクターに挿入されている。具体的には、5’UTRをコードするDNA配列において、CTGコドン(配列番号第1の499−501番目に対応)をTTTに変異させた。この変異導入により、pVCTTTから転写されたmRNAは、CTGコドン(配列番号第1の499−501番目)からのタンパク質産生ができない。
コンストラクトH(pVCmut5’)(変異5’UTR)
変異5’UTRを発現する変異エキソン1配列およびエキソン2部分配列(配列番号1の1105−1205番目)とCATコード配列とのキメラDNAを有するコンストラクトHを作製した。具体的には、CTGコドン(配列番号第1の499−501番目に対応)から翻訳が開始されるlong VEGFタンパク質(以下、「L−VEGF」という)のアミノ酸配列には影響を与えないように、エキソン1配列に変異を導入した。変異は、5’UTRをコードするDNA配列において、配列番号1の594−915番目に対応するDNA領域に対して行った。
まず、5’UTRをコードするDNA配列において、配列番号1の594−915番目に対応するDNA領域に変異を有する、4種類の二本鎖オリゴヌクレオチドを合成した。各二本鎖オリゴヌクレオチドのセンス鎖配列を以下に示す。なお、下記配列において、小文字が変異部位である。
Fragment 1(配列番号33)
5’−GCG AGC CGC GGG CAa GGa CCa GAa CCa GCa CCa GGg GGa GGa GTa GAa GGa GTa GGG GCT C−3’
Fragment 2(配列番号34)
5’−GG GCT CGa GGa GTa GCa tta AAg CTa TTt GTa CAg tta tta GGa TGc TCa CGa TTt GGg GGg GCa GTa GTa aga GCa GGa Gag GCa GAa CCa AGt GGg GCa GCa AGg AGT GCT AGC−3’
Fragment 3(配列番号35)
5’−GCT AGC TCa GGa aga GAa GAa CCa CAa CCa GAa GAa GGa GAa GAa Gag Gag GAa AAa GAg GAa GAa cgt GGa CCa CAa TGG agg tta GGa GCa aga AAa CCG GGC TC−3’
Fragment 4(配列番号36)
5’−G GGC TCA TGG ACa GGa GAa GCa GCa GTa TGt GCc Gat AGc GCa CCt GCa GCa aga GCa CCa CAa GCa tta GCC CGG GCC TCG−3’
これらの4種類の二本鎖オリゴヌクレオチドを、SacIIおよびXmaIで処理した前記コンストラクトA(pVC)に連結した。なお、Fragment1から4は、上流5’側からこの順序で連結するように、前記コンストラクトA(pVC)に挿入した。変異を有する4種類の断片を挿入したプラスミドコンストラクトは、DNAシークエンスにより挿入断片を確認した。このようにして得られたプラスミドコンストラクトをコンストラクトH(pVCmut5’)という。
(2)p53mRNAおよびp53タンパク質の発現
H1299細胞(p53 null)に、前記p53発現ベクターおよびエフェクターとなる前記各種プラスミドコンストラクトを共導入した。そして、前記実施例A2と同様にして、各導入細胞を培養し、外来性p53mRNAの発現レベルおよび外来性p53タンパク質の発現レベルを分析した。あわせて、L−VEGFの発現レベルを、抗L-VEGF抗体を用いたウェスタンイムノブロッティングにより分析した。これらの結果を、図3(b)および(c)に示す。図3(b)および(c)は、上から1段目がp53mRNA、2段目がgapdh mRNAの発現をそれぞれ示すノーザンブロッティングの結果である。図3(c)において、上から3段目はp53タンパク質、4段目はL−VEGFタンパク質、5段目はβ−アクチンタンパク質の発現をそれぞれ示す。図3(b)において、Lane1「A」はコンストラクトA、Lane2「B」はコンストラクトB、Lane3「C」はコンストラクトC、Lane4「D」はコンストラクトD、Lane5「E」はコンストラクトE、Lane6「F」はコンストラクトFを、それぞれ導入した細胞である。図3(c)において、Lane1「NT」は、ベクター未導入の細胞、Lane2「mock」はコンストラクトmock、Lane3「G」はコンストラクトG、Lane4「A」はコンストラクトA、Lane「H」はコンストラクトHをそれぞれ導入した細胞である。「p53+」は、p53発現ベクターの導入を示す。なお、図3(c)において、「ns」は、抗L−VEGF抗体により検出された非特異的なバンドを示す。
図3(b)に示すように、コンストラクトD(Lane4)およびE(Lane5)は、5’UTRを含む全長エキソン1RNAを発現するコンストラクトA導入細胞(Lane1)と同様に、p53mRNAの発現をダウンレギュレーションする能力を有していた。コンストラクトDは、エキソン1の659番目から下流域を有し、コンストラクトEは、476番目−917番目および1176番目から下流域を有する。このことから、vegf 5’UTRの659番目−917番目の259ヌクレオチド(nt)の分子が、p53のダウンレギュレーションに関与していることがわかった。一方、p53の発現が抑制されなかったコンストラクトB導入細胞(Lane2)、コンストラクトC導入細胞(Lane3)、コンストラクトF導入細胞(Lane6)は、それぞれ、エキソン1の555番目−1012番目、1番目−744番目、746番目−1012番目の領域を欠損している。この結果は、p53の発現を抑制したコンストラクトD、Eの結果と対応していることがわかる。
前述の659番目−917番目の領域には、internal ribosome entry site(IRES)と呼ばれるユニークな構造配列の一部が含まれている(Huez, I. et al. Mol. Cell. Biol. 18, 6178-6190 (1998)、Akiri, G. et al. Oncogene 17, 227-236 (1998))。そこで、他の遺伝子(fgf−2、pdgfおよびc−myc)のIRES含有5’UTRについても、p53発現に影響を与えるか否かを調べた。その結果を図4に示す。同図は、各種遺伝子の5’UTR RNAとCATmRNAとのキメラmRNAを発現するプラスミドベクター、および、p53発現ベクターを、共導入したH1299細胞に関する、p53mRNAの発現を示すノーザンブロッティングの結果である。同図に示すように、p53の発現を特異的に抑制するのは、vegf 5’UTRのみであることが確認できた。
文献(Huez, I. et al. Mol. Endocrinol. 15, 2197-2210 (2001))において、ヒトvegf mRNAの5’UTRが、開始コドンAUG(1039−1041)より上流に位置するCUGコドン(499−501)から、in flameで、VEGFタンパク質のN末端が長くなったタンパク質(L−VEGF)に翻訳される場合があることが実証されている。そして、前述のp53発現抑制に関与するRNAの要素配列(659番目−917番目)は、L−VEGFに翻訳される前記CUGコドンより下流の領域に局在する。このため、vegf 5’UTR RNAとL−VEGFタンパク質のいずれかが、p53発現の抑制に関与する可能性が考えられる。そこで、vegf 5’UTR RNAとL−VEGFタンパク質のいずれが、p53発現の抑制を誘導しているのかを、変異5’UTRを発現するコンストラクトGおよびコンストラクトHを用いて確認した。コンストラクトGは、前述のように、開始コドンCTGが非開始コドンTTT(mRNAにおいてCUGがUUU)となるように、DNA配列を変化させた。コンストラクトHは、アミノ酸配列を変化させることなくL−VEGFタンパク質を生産でき、且つ、RNA構造を変化させることでRNA機能を十分損なうことができるように、5’UTRコードDNA配列を置換した。その結果、図3(c)に示すように、コンストラクトG(Lane3)は、非開始コドンをTTTに変化させたことにより、L−VEGFタンパク質は検出されなかったが、依然としてp53mRNAの発現が抑制された。一方、コンストラクトH(Lane5)は、全長5’UTRを有するコンストラクトA(Lane4)と同様に、L−VEGFタンパク質を生産したが、p53mRNAの発現抑制能を示さなかった。これらの結果は、5’UTRから翻訳されるL−VEGFタンパク質ではなく、5’UTRが、mRNAレベルで、p53の発現を抑制する能力を有することを示している。このため、vegf mRNAにおける5’UTRの発現抑制、または、発現した5’UTR(mRNA)の分解によって、p53のダウンレギュレーションを解除できるといえる。また、前述の結果から、5’UTRの発現抑制は、全体でもよいし、例えば、要素配列(659番目−917番目)の発現抑制のみであってもよい。このようにして、p53の発現抑制を解除できれば、p53の発現によって、がん細胞の成長が抑制され、アポトーシスを誘導することができる。そして、結果的に、細胞のがん化やがん化細胞の成育を抑制し、また、がんの治療も可能になるといえる。
[実施例A4]
本実施例では、vegf mRNAにおける5’UTRが、内在性p53発現およびp53依存性アポトーシス応答に与える影響を確認した。本実施例においては、Yellow fluorescent protein(YFP)をコードするmRNAにvegf 5’UTRが融合したキメラmRNAを発現するアデノウイルス骨格ベクターを使用した。
(1)組換えアデノウイルスベクターの構築
前記実施例A2におけるコンストラクトD(pVC)をEcoRIおよびNcoIで処理し、得られたEcoRI−NcoI断片を、pd2EYFP−N1(Clontech社製)に連結した。得られたプラスミドコンストラクトを、pVYという。また、前記実施例A3におけるコンストラクトH(pVCmut5’)をEcoRIおよびNcoIで処理し、得られたEcoRI−NcoI断片をpd2EYFP−N1(Clontech社製)に連結した。得られたプラスミドコンストラクトを、pVYmut5’という。
pVY、pVYmut5’およびpd2EYFP−N1(コントロール)を、EcoRIおよびNotIで処理し、切り出した断片をクレノウフラグメント処理によって平滑化した。そして、各平滑化断片をpShuttleCMVベクターにクローニングした。得られたプラスミドベクターを、それぞれ、pShuttleCMV−VY、pShuttleCMV−VYmut5’、および、pShuttleCMV−YFP(コントロール)という。これらのプラスミドベクターの構築は、DNAシークエンスにより確認した。続いて、BJ5183細菌において、アデノウイルス骨格プラスミドpAdEasy−1と、PmeIで処理した各プラスミドpShuttleCMV−VY、pShuttleCMV−VYmut5’およびpShuttleCMV−YFPとの間で、相同組換えを行うことにより、組換えアデノウイルスベクターAd−VY、Ad−VYmut5’およびAd−YFPを作製した。そして、これらの組換えアデノウイルスベクターを、さらにPacIで処理し、JetPEI(Polyplus−transfection社)を用いて、HEK293細胞(ATCC)に導入した。複製したウイルスを、CsCl平衡密度勾配遠心法により精製し、使用時まで−80℃で保存した。ウイルスのプラーク形成ユニットについての機能滴定は、HEK293細胞における終点希釈感染(end−point dilution infection)により確認した。なお、以下の試験は、各組換えアデノウイルスベクターAd−VY、Ad−VYmut5’およびAd−YFPの単一バッチについて行った。
Ad−VYは、YFPをコードするmRNAに、vegf mRNAの全長5’UTRを融合させたキメラmRNAを発現する組換えベクター(以下、「Ad−VEGF5’」ともいう)である。Ad−VYmut5’は、YFPをコードするmRNAに、前記図3(a)のコンストラクトH(pVCmut5’)に示す変異5’UTRを融合させたキメラ遺伝子を有するベクターである。Ad−YFPは、YFPをコードするmRNAを発現し、vegf遺伝子の5’UTRが未挿入であるコントロールベクター(以下、「Ad−control」ともいう)である。
(2)内在性p53の発現
内在性p53mRNAの発現
HCT116細胞(親細胞、野生型p53)に、前記各組換えアデノウイルスベクターAd−VY、Ad−VYmut5’およびAd−YFPを、従来公知の方法にしたがって、それぞれ12時間感染させた。それから、感染した各細胞を、90μmol/Lの5−FUで所定時間(0、6、12時間)処理した。処理後の細胞について、内在性p53mRNA、外来性vegf−YFP mRNAおよび外来性YFP mRNAの発現レベルをノーザンブロッティングにより分析した。HCT116の培養は、10%ウシ胎児血清および100μg/ml(100units/ml)ストレプトマイシンを含むMcCoy’s 5A培地を使用し、条件は、温度37℃、5%COとした(以下、同様)。これらの結果を、図5(a)に示す。図5(a)は、各細胞における内在性p53mRNAの発現を示すノーザンブロッティングの結果である。同図において、上から1段目は内在性p53mRNA、2段目はvegf−YFPキメラmRNAまたはYFPmRNA、3段目はgapdh mRNAの発現をそれぞれ示す。同図において、Lane1〜3「Ad−control」は、コントロールAd−YFPの導入細胞、Lane4〜6「Ad−VEGFmut5’」は、Ad−VYmut5’の導入細胞、Lane7〜9「Ad−VEGF5’」は、Ad−VYの導入細胞の結果である。また、「5−FU」の数値は、5−FUの存在下で培養した時間(h)を示す。なお、「0h」は、5−FU未処理を意味する。
内在性p53タンパク質の生成
前述と同様に、各組換えアデノウイルスベクターで12時間感染させた細胞を、120μmol/Lの5−FUで所定時間(0、9、18時間)処理した。処理後の細胞について、内在性p53タンパク質の発現レベルをウェスタンイムノブロッティングにより分析した。これらの結果を、図5(b)に示す。図5(b)において、上から1段目は内在性p53タンパク質、2段目はβ−アクチンタンパク質の発現をそれぞれ示す。同図において、Lane番号は、前記図5(a)と同様である。
p53系路で誘導される各種遺伝子のmRNAの発現
前述と同様に、各組換えアデノウイルスベクターで感染させた細胞を、120μmol/Lの5−FUで所定時間(0、9、18時間)処理した。処理後の細胞について、noxa mRNA、bax mRNAおよびp21 mRNAの発現レベルをノーザンブロッティングにより分析した。これらの結果を、図5(c)に示す。図5(c)において、上から1段目はnoxa mRNA、2段目はbax mRNA、3段目はp21 mRNA、4段目はgapdh mRNAの発現をそれぞれ示す。同図において、Lane番号は、前記図5(a)と同様である。
図5(a)のLane7〜9に示すように、vegf 5’UTR(未変異)を過剰発現する細胞(Ad−VY)は、内在性p53mRNAの発現が著しく低下した。そして、図5(b)のLane7〜9に示すように、5−FUに応じたp53タンパク質の蓄積も、vegf 5’UTRによって著しく抑制された。さらに、その結果として、図5(c)のLane7〜9に示すように、p53のターゲット遺伝子であるnoxa、baxおよびp21のmRNAも、発現誘導が抑制された。これに対して、図5(a)に示すように、Lane4〜6のvegf変異5’UTRを発現する細胞(Ad−VYmut5’)と、Lane1〜3のコントロール細胞(Ad−control)では、内在性p53mRNAの発現が確認され、また、5−FUの処理時間に応じて、p53mRNAの発現量の増加も確認された。そして、図5(b)に示すように、5−FUに応じたp53タンパク質の蓄積も、5−FUの処理時間に応じて増加した。さらに、その結果として、図5(c)に示すように、p53のターゲット遺伝子であるnoxa、baxおよびp21のmRNAの発現も、発現の誘導が確認された。
(3)p53依存性アポトーシス応答
前述と同様に、各組換えアデノウイルスベクターで12時間感染させた細胞を、所定濃度(0、30、60、120μmol/L)の5−FUで60時間処理した。処理後の細胞について、前記実施例A1と同様にして、アポトーシス(%)を確認した(means±SD、n=3)。これらの結果を、図6(d)に示す。図6(d)は、5−FUの濃度変化に対する各種細胞のアポトーシスの割合(%)を示すグラフである。同図において、○が、コントロールAd−YFPの導入細胞(Ad−control)、□が、Ad−VYmut5’の導入細胞(Ad−VYmut5’)、■が、Ad−VYの導入細胞(Ad−VEGF5’)のそれぞれの結果を示す。なお、図6(e)においても同様である。
また、前述と同様に、各組換えアデノウイルスベクターで12時間感染させた細胞を、120μmol/Lの5−FUで所定時間(0、12、24、48、60時間)処理し、アポトーシス(%)を確認した(means±SD、n=3)。これらの結果を、図6(e)に示す。図6(e)は、5−FUで処理した各種細胞の経時的なアポトーシスの割合(%)の変化を示すグラフである。
図6(d)および(e)に示すように、vegf 5’UTRを発現する細胞(Ad−VY、■)は、5−FUで誘導されるアポトーシスに対して著しい耐性を示した。特に、同図(d)に示すように、5−FU濃度が30μmol/Lまたは60μmol/Lの場合、5’UTRによってアポトーシスは完全に阻害された。同図(e)に示すように、5−FUの処理時間を長くしても、アポトーシスの大幅な増加は確認されなかった。これに対して、vegf変異5’UTRを発現する細胞(Ad−VYmut5’、□)では、アポトーシスに耐性を示さなかった。そして、図6(d)に示すように、5−FUの濃度に依存して、また、図6(e)に示すように、5−FUの処理時間に依存して、アポトーシスの割合が向上した。この結果は、vegf 5’UTRを発現しない細胞(Ad−control、○)と同様の結果であり、図5(b)、(c)で示されたp53系路の活性化の結果と対応している。
[実施例A5]
vegf 5’UTRによる、発現した内在性p53mRNAの分解の可能性を確認した。
(1)vegf 5’UTRによるp53mRNAの分解誘導
前記実施例A4と同様にして、H1299細胞(p53ヌル)に、前記p53発現ベクターと、前記各組換えプラスミドベクターpVC、pVCmut5’または空ベクター(mock)とを共導入し、12時間培養した。各導入細胞からRNAを回収し、変性アガロースゲル電気泳動によりRNAを分離し、外来性p53mRNAおよびp53mRNA分解物をノーザンブロッティングにより検出した。これらの結果を、図7(a)に示す。図7(a)は、各細胞における外来性p53mRNAおよびその分解物を示す写真である。同図において、Lane1「mock」は空ベクターの導入細胞、Lane2「VEGFmut5’」はpVCmut5’の導入、Lane3「VEGF5’」はpVCの導入細胞のそれぞれの結果である。ブロッティングの写真の左側に、RNAマーカー(Ambion社製)のサイズ(nt)を示す。
同図(a)のLane3に示すように、vegf 5’UTRの発現により、発現したp53mRNAが分解されていることが確認された。これに対して、vegf 5’UTRが未発現である場合(Lane1)や変異vegf 5’UTRの発現の場合(Lane2)には、p53mRNAは発現するが、その分解物は確認されなかった。この結果は、vegf 5’UTR RNAが、p53mRNAの発現を転写後レベルで抑制していることを示している。
(2)5’UTRで媒介されるp53mRNAの分解における翻訳阻害剤シクロヘキシミドの影響
まず、H1299(p53ヌル)に、前記p53発現ベクターと、前記各組換えプラスミドベクターpVC、pVCmut5’とを共導入し、8時間培養した。そして、各導入細胞を、終濃度50μg/mlのシクロヘキシミド存在下または非存在下で、16時間処理した。処理後の細胞について、p53mRNAの発現レベルをノーザンブロッティングにより確認した。これらの結果を、図7(b)に示す。図7(b)は、各細胞におけるp53mRNAの発現を示すノーザンブロッティングの結果である。同図において、上から1段目はp53mRNA、2段目はgapdh mRNAの発現をそれぞれ示す。同図において、Lane1および3「VEGF5’」はvegf 5’UTRを発現するpVC導入細胞、Lane2および4「VEGF mut5’」は変性5’UTRを発現するpVCmut5’導入細胞である。また、「−」および「+」は、シクロヘキシミド(CHX)の存在の有無を示す。
同図(b)に示すように、シクロヘキシミド処理(Lane3、4)によって、シクロヘキシミド未添加(Lane1、2)と比較して、vegf 5’UTRによるp53mRNAのサイレンシングの著しい阻害が確認された。これらの結果から、vegf 5’UTRが媒介するp53mRNAのサイレンシングに、翻訳プロセスが関与していることが示唆された。
(3)in vitroにおけるvegf 5’UTR RNAとp53mRNAとの直接相互作用
RNAが媒介する遺伝子サイレンシングのメカニズムとして、塩基対形成による、ターゲットRNAと制御RNAとの直接的な相互作用が知られている。そこで、vegf 5’UTRとp53mRNAとの直接相互作用を分析した。
前記実施例A2におけるプラスミドベクターD(pVC)、実施例A3におけるH(pVCmut5’)およびpc53発現ベクター(pcDNA3.1−p53)を、BsaBIおよびXbaIで処理することによって、線状化した。これらの線状化DNAを鋳型にして、mMESSAGEmMACHINE kit(Ambion社製)を用いてin vitro転写法により5’末端がキャッピングされたRNAをそれぞれ合成した。合成RNAは、260nmの吸光度およびアガロースゲルでのエチジウムブロマイド染色により定量した。各RNAをRNaseフリーの水に溶解し、これらの溶液を90℃で3分間加熱した後、25℃まで徐々に冷却した。各RNAを、図7(c)に示す組み合わせとなるように、等量(1pmol)ずつ、Mg2+含有バッファーに混合し、37℃で60分インキュベートした。前記バッファーは、RNAが内部分子会合を生じる高塩濃度であり、10mmol/L Tris−HCl(pH7.5)、50mmol/L KCl、5mmol/L MgClおよび40U/ml RNasin(登録商標、Promega社製)を含む水溶液とした。これらのインキュベート後のサンプルを、1.8%未変性アガロースゲルに供し、エチジウムブロマイドで染色した。
これらの結果を、図7(c)に示す。同図は、in vitroにおける、vegf 5’UTR RNAとp53mRNAとの会合を示す写真である。同図において、「VEGF mut5’UTR RNA」は、変異5’UTR RNAであり、「VEGF 5’UTR RNA」は、5’UTR RNA(野生型)であり、「p53 RNA」は、p53mRNAである。そして、各Laneの上側における「+、−」は、前記Mg2+含有バッファー内でインキュベートしたRNAの組み合わせを意味する。また、同図において、矢印は、5’UTR RNAとp53mRNAとのヘテロ二本鎖を示す。
同図のLane3に示すように、p53mRNAの減衰に関与するvegf 5’UTR RNAは、p53mRNAとヘテロ二本鎖を形成することが確認された。一方、Lane4に示すように、p53mRNAの減衰に関与しない変異vegf5’UTR RNAは、mRNAとヘテロ二本鎖を形成しなかった。
(4)vegf 5’UTR RNAが媒介するp53mRNAの減衰に対する翻訳プロセスの関連性
vegf 5’UTRとp53mRNAとのヘテロ二本鎖の形成後、無細胞タンパク質合成反応(無細胞翻訳反応)を行い、翻訳プロセスがp53mRNA分解に与える影響を確認した。
(5)p53mRNAおよびその分解物の検出
前記(3)と同様にして、変異5’UTR RNAまたは5’UTRとp53mRNAとをインキュベートした。なお、前述のように、変異5’UTR RNAとp53mRNAとは、インキュベートによりヘテロ二本鎖を形成する。そして、この処理後のRNAサンプルを用いて、シクロヘキシミドの非存在下もしくは存在下(終濃度50μl/ml)、または、スクロース密度勾配遠心分離法によって調製された精製リボソームの存在下で、無細胞タンパク質合成反応を行った。無細胞タンパク質合成は、論文(Huez, I. et al. Mol. Cell. Biol. 18, 6178-6190 (1998))を参照し、あるいは、Wako PURE system(商品名、Wako Chemical社製)を用いて、その使用説明書にしたがって行った。
前記反応液について、p53mRNAおよびその分解物をノーザンブロッティングにより分析した。この結果を図8(d)に示す。同図は、vegf 5’UTR RNA共存下での無細胞タンパク質合成反応液におけるp53mRNAおよびその分解物を示すノーザンブロッティングの結果である。同図において、Lane2、5、8「VEGF mut5’」は、変異5’UTR RNAとp53mRNAとをインキュベートしたサンプルの結果であり、Lane3、6、9「VEGF 5’」は、5’UTR RNA(野生型)とp53とをインキュベートしたサンプルの結果であり、Lane1、4、7「−」は、p53mRNAのみをインキュベートしたサンプルの結果である。また、Lane4〜6「+cycloheximide」は、シクロヘキシミド存在下、Lane7〜8「+ribosome」は、精製リボソーム存在下で、それぞれ無細胞タンパク質合成を行ったことを示す。
この結果、同図に示すように、p53mRNAと5’UTR RNAとがヘテロ二本鎖を形成した系(Lane3)は、シクロヘキシミド非存在下、p53mRNAの部分的な分解が確認された。そして、この系は、翻訳阻害剤であるシクロヘキシミドの添加により、完全にp53mRNAの部分的な分解がブロックされた。さらに、このヘテロ二本鎖を形成した系に、精製リボソームを添加しただけでも、p53mRNAの部分的な分解が確認された。これらの結果は、ヘテロ二本鎖RNAとリボソームとの間の相互作用が、vegf 5’UTRが介在するp53mRNAの分解を開始することを示唆している。このことから、p53mRNAの部分的な分解は、細胞内のさらなる減衰の引き金になると推測される。これに対して、5’UTR RNA非存在の系(Lane1、4、7)および変異5’UTRとp53とが共存する系(Lane2、5、8)では、シクロヘキシミド非存在下、p53mRNAの分解は生じなかった。
(6)p53タンパク質の検出
続いて、5’UTRが介在するp53mRNAの部分的な分解が、p53タンパク質の翻訳に与える影響を確認した。
前記(4)と同様にして、各RNAを図8(e)に示す組み合わせでインキュベートし、無細胞タンパク質合成を行った。なお、無細胞タンパク質合成の反応液には、[35S]メチオニンを共存させた。そして、in vitroで合成されたp53タンパク質を、12%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEにより分離し、乾燥させたゲルをオートラジオグラフィーに供した。この結果を図8(e)に示す。同図は、vegf 5’UTR共存下での、無細胞タンパク質反応液におけるp53タンパク質の合成の示すオートラジオグラフィーである。同図において、「VEGF mut5’RNA」は、変異5’UTR、「VEGF 5’RNA」は、5’UTR(野生型)、「p53RNA」は、p53mRNAを示す。
同図に示すように、p53mRNAとvegf5’UTR RNAとがヘテロ二本鎖を形成した系においては(Lane3)、vegf5’UTR非存在の系(Lane1)および変異vegf5’UTRの系(Lane2)と比較して、p53タンパク質合成が著しく抑制された。
[実施例A6]
実施例A3において、vegf 5’UTRの659番目−917番目の259ヌクレオチド(nt)の分子が、p53のダウンレギュレーションに必要であることがわかった。そこで、p53のダウンレギュレーションに関与する、vegf 5’UTRにおける要素配列のさらなる絞込みを行った。
(1)プラスミドコンストラクト
ヒトVEGF165のコード遺伝子(vegf遺伝子)のエキソン1、ならびに、下記の各種プラスミドコンストラクトを、前記実施例A2と同様に、前述した各文献に基づいて準備した。下記コンストラクトにより発現させるvegf mRNAの領域を、図9に示す。
コンストラクトvegf mRNA(p165mSPHA3’)(全長vegf mRNA)
プラスミドベクターpSCTのXbaI−XhoI部位に、イントロンを除く完全長vegf mRNAをコードするDNAを挿入した(Bornes, S. et al. J. Biol. Chem. 279, 18717-18726 (2004))。得られたプラスミドコンストラクトをコンストラクトvegf mRNA(p165mSPHA3’)とした。なお、このプラスミドコンストラクトを導入した細胞においては、vegf165遺伝子の完全長mRNAが発現される。
コンストラクトBC019867RNA(16−780)
IMAGE Clone(Clone ID 4153053、Open Biosystems社)を購入した。これは、vegf遺伝子のエキソン1の5’UTRにおける所定領域(16−780番目の領域)をコードするDNA断片が、プラスミドベクターpCMV−SPORT6のNotI−SalI部位に挿入されている。このプラスミドコンストラクトを、NCBIアクセッションNo.BC019867に従い、コンストラクトBC019867RNAとした。なお、このプラスミドコンストラクトを導入した細胞においては、vegf mRNA 5’UTRの16−780番目の領域が発現される。
コンストラクトBC011177RNA(526−1216)
IMAGE Clone(Clone ID 4150451、Open Biosystems社)を購入した。これは、vegf遺伝子のエキソン1の526−1104番目の領域とイントロン1の1番目−112番目の領域とをコードするDNA断片が、プラスミドベクターpCMV−SPORT6のNotI−SalI部位に挿入されている。このプラスミドコンストラクトを、NCBIアクセッションNo.BC019867に従い、コンストラクトBC011177RNAとした。なお、このプラスミドベクターを導入した細胞においては、配列番号45で示されるvegf 前駆体mRNAの526番目−1216番目の領域が発現される。
コンストラクトvegf IresRNA(600−879)
実施例A3で特定したvegf mRNA 5’UTRの659番目−917番目の領域に対して、アンチセンスオリゴDNAプローブを用いたノーザンブロッティングによる解析を行った。この結果を、図10に示す。図10は、ヒトの種々のがん細胞株における、vegfのRNA断片を示すノーザンブロッティングの結果である。同図に示すように、種々のがん細胞株において、鎖長約200〜300塩基からなる小分子RNAが存在すること、この小分子RNAはヒト正常繊維芽細胞にはほとんど発現していないことを見出した。そこで、変性アガロースゲル電気泳動法により、この小分子RNAを含む画分を分離し、常法(参考文献 Kawano, M. et al. Nucleic Acid Res. 33(3):1040-1050 (2005))により、前記小分子RNAをクローニングした。得られたRNAの塩基配列を決定したところ、vegf mRNAの5’UTRにおける600番目−879番目の領域から成るRNA産物であった。この小分子RNAを独自に、RES−related mall RNA(Ires RNA)と命名した。そして、前記クローニングにより得られたcDNAを、プラスミドベクターpcDNA3.1のXhoI−HindIII部位に再クローニングした。得られたプラスミドコンストラクトをコンストラクトvegf IresRNAとした。なお、このプラスミドコンストラクトを導入した細胞においては、vegf mRNAの5’UTRにおける600番目−879番目の領域が発現される。
コンストラクトvegf mRNA 変異1
図9に示すように、vegf mRNAの5’UTRにおける594−745番目の領域内に変異を有するmRNAを発現する、コンストラクトを作成した。具体的には、前記コンストラクトvegf mRNA(p165mSPHA3’)のSacII−NheI部位に、二本鎖の下記フラグメント1およびフラグメント2を、5’側からこの順序で連結させた。なお、下記センス鎖において、小文字が変異させた塩基である。このようにして得られたプラスミドコンストラクトをコンストラクトvegf mRNA変異1という。このプラスミドを導入した細胞においては、vegf 5’UTRにおける594−741番目の領域が変異している。
フラグメント1(vegf 5’UTRの589−639番目)
センス鎖(配列番号37)
5’− GGG CAa GGa CCa GAa CCa GCa CCa GGg GGa GGa GTa GAa GGa GTa GGG GCT−3’
アンチセンス鎖(配列番号38)
5’−CCTACTCCTTCTACTCCTCCCCCTGGTGCTGGTTCTGGTCCTTGCCCGC−3’
フラグメント2(vegf 5’UTRの640−745番目)
センス鎖(配列番号39)
5’−CGa GGa GTa GCa tta AAg CTa TTt GTa CAg tta tta GGa TGc TCa CGa TTt GGg GGg GCa GTa GTa aga GCa GGa Gag GCa GAa CCa AGt GGg GCa GCa AGg AGT G−3’
アンチセンス鎖(配列番号40)
5’−CTAGCACTCCTTGCTGCCCCACTTGGTTCTGCCTCTCCTGCTCTTACTACTGCCCCCCCAAATCGTGAGCATCCTAATAACTGTACAAATAGCTTTAATGCTACTCCTCGAGCC−3’
コンストラクトvegf mRNA 変異2
図9に示すように、vegf mRNAの5’UTRにおける746−915番目の領域内に変異を有するmRNAを発現する、コンストラクトを作成した。具体的には、前記コンストラクトvegf mRNA(p165mSPHA3’)のNheI−XmaI部位に、二本鎖の下記フラグメント3およびフラグメント4を、5’側からこの順序で連結させた。なお、下記センス鎖において、小文字が変異させた塩基である。このようにして得られたプラスミドコンストラクトをコンストラクトvegf mRNA変異2という。このプラスミドを導入した細胞においては、vegf 5’UTRにおける753−915番目の領域が変異している。
フラグメント3(vegf 5’UTRの746−850番目)
センス鎖(配列番号41)
5’−CT AGC TCa GGa aga GAa GAa CCa CAa CCa GAa GAa GGa GAa GAa GAgGAg GAa AAa Gag GAa GAa cgt GGa CCa CAa TGG agg tta GGa GCa aga AAa CCG GGC T−3’
アンチセンス鎖(配列番号42)
5’−CGGTTTTCTTGCTCCTAACCTCCATTGTGGTCCACGTTCTTCCTCTTTTTCCTCCTCTTCTTCTCCTTCTTCTGGTTGTGGTTCTTCTCTTCCTGAG−3’
フラグメント4(vegf 5’UTRの851−917番目)
センス鎖(配列番号43)
5’−CA TGG ACa GGa GAa GCa GCa GTa TGt GCc Gat AGc GCa CCt GCa GCaaga GCa CCa CAa GCa tta GC−3’
アンチセンス鎖(配列番号44)
5’−CCGGGCTAATGCTTGTGGTGCTCTTGCTGCAGGTGCGCTATCGGCACATACTGCTGCTTCTCCTGTCCATGAGCC−3’
(2)p53mRNAの発現
H1299細胞(p53ヌル)に、前記p53発現ベクターおよび前記各種プラスミドコンストラクトを共導入した。そして、前記実施例A2と同様にして、各導入細胞を培養し、p53mRNAの発現レベルを分析した。これらの結果を、図11(a)および(b)に示す。図11(a)および(b)において、上から1段目はp53mRNA、2段目はgapdh mRNAのそれぞれの発現を示すノーザンブロッティングの結果である。両図において、「−」はp53発現ベクターのみを導入した細胞であり、p53mRNA発現のコントロールである(Lane1)。
同図(a)に示すように、600番目−879番目のmRNA(Lane5)を発現する細胞では、全長vegf mRNA(Lane2)を発現する細胞と同様に、p53mRNAの発現が確認されなかった。したがって、前記実施例A2で決定された結果(659番目−917番目)とあわせて、p53発現のサイレンシングに関与する配列を、vegfmRNAの659番目−879番目に絞りこむことができた。
また、同図(a)に示すように、16番目−780番目のmRNA(Lane3)および配列番号45の526番目−1216番目のmRNA(Lane4)をそれぞれ発現する細胞では、全長vegf mRNA(Lane2)を発現する細胞と同様に、p53mRNAの発現が確認されなかった。これらの各mRNAは、600番目−780番目の領域を共通して含んでいる。したがって、前記実施例A2で決定された結果(659番目−917番目)とあわせて、p53発現のサイレンシングに関与する配列を、vegf mRNAの659番目−780番目に絞りこむことができた。
さらに、同図(b)に示すように、753−915番目が変異したvegf mRNA変異2(Lane3)は、全長vegf mRNA(Lane4)を発現する細胞と同様に、p53mRNAの発現が確認されなかった。しかしながら、594−741番目が変異したvegf mRNA変異1(Lane2)は、p53mRNAのコントロール(Lane1)と同様の位置に、p53mRNAの発現が確認された。このことから、前記実施例A2の結果、ならびに、前記図11(a)の結果とあわせて、659番目〜741番目の領域が、p53発現のサイレンシングに関与することがわかった。
したがって、例えば、vegf mRNAにおける659番目−879番目、659番目−780番目、659−741番目等の配列を含む等のRNA配列を分解したり、前記RNA配列への転写を阻害することによって、p53mRNAの発現抑制を回避できるといえる。これによって、例えば、がん細胞の成育や生存を抑制し、がん化の予防、がんの治療等が可能になる。
[実施例A7]
マウスにvegf 5’UTRの発現細胞を移植し、in vivoにおけるがん細胞の成育の影響を確認した。
前記実施例A4で作製したプラスミドコンストラクトpVYと、新たに作製したプラスミドコンストラクトpVY変異を使用した。pVY変異は、実施例A6で作成したコンストラクトvegf mRNA変異1のSacII−NheI部位を切り出し、pVYのSacII−NheI部位と入れ替えることで作製した。これらのプラスミドコンストラクトを、それぞれ、HCT116細胞(親細胞、野生型p53)に導入し、抗生剤G418に対する耐性を獲得したクローンをそれぞれ2株ずつ樹立した。得られた各細胞株を、「pVY細胞株(G3株およびG5株)、「pVY変異細胞株(D5株およびE4株)」とした。これらの各細胞株5×10個を、それぞれ、ヌードマウスの大腿部の皮下に、27ゲージの注射針を用いて移植した。移植後、5、7、9、12、14、16、19、21、26、28日目に形成された腫瘍について、長さと幅を測定し、腫瘍の体積を下記数式により算定した。コントロールとして、pd2EYFP(YFPのみを発現するコンストラクト)を導入した細胞を、同様にしてマウスに移植し、測定を行った。
体積=(長さ×幅)×0.5
これらの結果を、図12および図13に示す。同図12(a)はpVY細胞株を、(b)はpVY変異細胞株を、それぞれ移植したマウスの写真である(移植後28日)。同図(a)は、野生型vegf5’UTRを発現する導入細胞を移植したマウスであり、左が、pVY細胞株G3の結果、右が、pVY細胞株G5の結果である。同図(b)は、変異vegf5’UTRを発現する導入細胞を移植したマウスであり、左が、pVY変異細胞株D4、右が、pVY変異細胞株E4の結果である。そして、図13は、これらの4種類の細胞株を移植したマウスにおける腫瘍体積の経時的変化を示すグラフである。図12(a)に示すように、野生型vegf5’UTRを発現するpVY細胞株を移植したマウスは、移植患部の腫瘍が明らかに大きくなった。これに対して、変異vegf5’UTRを発現するpVY変異細胞株を移植したマウスは、図12(b)に示すように、腫瘍の成長はほとんどみられなかった。この腫瘍体積の変化は、図13のグラフからも明らかなように、野生型5’UTRを発現するpVY細胞株を移植したマウス(●および■)において経時的な増大が確認され、他方、変異5’UTRを発現するpVY変異細胞株を移植したマウス(○および□)は、コントロールマウス(△)とほとんど変わらない結果を示した。これらの結果から、vegf 5’UTR RNAはin vivoでの腫瘍形成を著しく亢進させることが明らかとなった。
[実施例A8]
vegf 5’UTR関連RNAが細胞に与える抗がん剤耐性能について確認した。
前記実施例A6と同様に、コンストラクトvegf mRNA、コンストラクトBC019867 RNA(16−780)、コンストラクトBC011177 RNA(526−1216)、コンストラクトvegf IresRNA(600−879)を、それぞれ、HCT116(親細胞、野生型p53)に導入した。そして、導入した細胞を、以下に示す終濃度の各種抗がん剤で60時間処理を行い、処理後の細胞について、前記実施例A1と同様にして、アポトーシス率(%)を定量した。抗がん剤としては、camptotecin(40nmol/L)、cisplatin(2μg/ml)、doxorubicin(160nM)、etoposide(60μmol/L)、5−FU(80μmol/L)、および、leucovorin(5μmol/L)と5−FU(10μmol/L)との組合せを使用した。また、コントロール細胞としては、空ベクターであるpcDNA3.1を導入した細胞を使用した。
これらの結果を、図14に示す。図14は、各種vegf5’UTR関連RNAを発現する細胞を各種抗がん剤で処理した際のアポトーシスの割合を示す。同図において、各バーは、左から、コントロール、コンストラクトvegf mRNA、コンストラクトBC019867 RNA、コンストラクトBC011177 RNA、コンストラクトvegf IresRNA(600−879)の導入結果である。通常、抗がん剤によってアポトーシスが誘導されることから、この結果より、各細胞において発現したvegf5’UTR関連RNAによって、抗がん剤の効果が抑制されているか否か、すなわち、細胞に抗がん剤耐性を与えているか否かがわかる。同図に示すように、全ての細胞について、コントロール細胞よりも低いアポトーシス(%)が確認された。すなわち、各細胞において発現されたvegf5’UTR関連RNAによって、細胞が抗がん剤耐性を示していることがわかった。したがって、がん細胞におけるvegf5’UTR関連RNAの発現を抑制、または、発現したvegf5’UTR関連RNAを分解することによって、細胞の抗がん剤感受性を亢進できることが示唆される。
[実施例A9]
実施例A8において、vegf 5’UTR RNAが細胞に抗がん剤耐性を与えていることが確認された。そこで、vegf 5’UTRを標的とするsiRNAにより、発現したvegf5’UTR RNAを分解し、細胞における抗がん剤感受性の亢進を確認した。
前述のvegf siRNA#1、#2を発現する組換えベクターおよびコントロールsiRNA発現するベクターを、それぞれHCT116(親細胞、野生型p53)に導入した。また、コントロール細胞として、siRNAを発現する組み換えベクターを未導入のHCT116細胞を使用した。これらの4種類の細胞を、以下に示す終濃度の各種抗がん剤存在下、または、非存在下で、60時間処理を行った。前記抗がん剤としては、etoposide(20μmol/L)、doxorubicin(170nmol/L)、5−FU(40μmol/L)を使用した。そして、処理後の細胞について、実施例A1と同様にして、アポトーシス(%)を確認した。
また、vegf siRNA#1またはsiRNA#2の発現によりvegf mRNAをノックダウンすると、VEGFタンパク質も合成されなくなる。VEGFタンパク質は、がん細胞に対し生存因子として働き、抗がん剤耐性を導くことが知られている。つまり、vegf siRNAは、vegf 5’UTR RNAの機能とVEGFタンパク質機能の両方をブロックすることになる。vegf 5’UTR RNAの機能をブロックした効果をより明確にする目的で、vegf siRNAを導入した細胞に、リコンビナントVEGFタンパク質(R&D社製、以下「rVEGF」という)を培養上清中に添加し、siRNAにより低下したVEGFタンパク質を補充した。なお、HCT116細胞が恒常的に分泌しているVEGFタンパク質のレベルは、実験の結果、0.7〜1ng/mlであった。このため、本実施例では、前記4種類の細胞に、1ng/mlのrVEGFタンパク質を添加した。これにより、真にsiRNAでvegf 5’UTR RNAがノックダウンされることによる、抗がん剤感受性の亢進を確認した。そして、これらの導入細胞について、同条件で、抗がん剤による処理を行った。
これらの結果を図15に示す。同図は、各種抗がん剤を使用した場合における、各細胞のアポトーシス(%)を示すグラフである。アポトーシスの割合が高い程、抗がん剤感受性が亢進されたと判断できる。同図において、(a)は、抗がん剤etoposide感受性を示すアポトーシスの結果、(b)は、抗がん剤doxorubicin感受性を示すアポトーシスの結果、(c)は、抗がん剤5−FU感受性を示すアポトーシスの結果である。各図において、「NT」は、siRNAを発現する組換えベクターを未導入のコントロール細胞、「control siRNA」は、コントロールsiRNAの発現細胞、「VEGF siRNA#1」は、siRNA#1の発現細胞、「VEGF siRNA#2」は、siRNA#2の発現細胞を示す。そして、各図において、白抜きのバー(□)は、抗がん剤未処理、黒いバー(■)は、抗がん剤処理、斜線のバーは、rVEGFの処理を行い、且つ、抗がん剤処理を行ったことを示す。
図15(a)、(b)および(c)のいずれにおいても、siRNA未発現の細胞(NT)およびコントロールsiRNAの発現細胞(control siRNA)では、低濃度のetoposide(20μmol/L)、doxorubicin(170nmol/L)、5−FU(40μmol/L)を添加しても、有意なアポトーシスの亢進は誘導されなかった。これらの結果から、vegf 5’UTR RNAをノックダウンしていないがん細胞では、抗がん剤耐性をもつことがわかる。これに対して、siRNA#1またはsiRNA#2の発現細胞は、未処理(□)と比較して、低濃度の抗がん剤処理によって著しくアポトーシスが亢進された。また、このアポトーシスの亢進は、rVEGFタンパク質で処理しても(斜線)、ほとんど影響を受けなかった。つまり、これらの抗がん剤に対する感受性の亢進は、siRNAによって内在性のVEGFタンパク質が減ったためではなく、主に、vegf 5’UTR RNA(vegf mRNAを含む)がsiRNAによってノックダウンされたために生じたと考えられる。これらの結果から、従来、癌治療の標的として重要視されてきたVEGFタンパク質に加え、vegf 5’UTR関連RNAを治療標的にすることの重要性が示された。
[実施例A10]
各種siRNAによる細胞の抗がん剤感受性の亢進を確認した。
前述のvegf siRNA#1ベクター〜vegf siRNA#5ベクターおよびコントロールsiRNAベクターを、HCT116(親細胞、野生型p53)に導入した。そして、導入した細胞を、以下に示す終濃度の各種抗がん剤で60時間処理を行った。抗がん剤としては、doxorubicin(170nmol/L)、etoposide(20μmol/L)、5−FU(40μmol/L)、および、leucovorin(5μmol/L)と5−FU(10μmol/L)との組合せ、mitomycin C(1μg/mL)、paclitaxel(5nmol/L)、vincritine(12.5nmol/L)、cisplatin(1μg/ml)を使用した。そして、処理後の細胞について、生存率の相対値(%)を算出した。前記相対値は、コントロールsiRNAを発現する組換えベクターを導入した細胞の生存細胞数を100%として求めた。
これらの結果を図16に示す。同図は、各種組換えベクターを導入した細胞を抗がん剤で処理した際の相対的生存率(%)を示すグラフである。同図において、各バーは、左から、コントロールsiRNAベクター、vegf siRNA#1ベクター〜vegf siRNA#5ベクターを導入した結果である。同図に示すように、siRNA#1〜#5を発現する細胞は、いずれも、コントロールsiRNAを発現する細胞と比較して、抗がん剤処理によって、十分且つ確実に、生存細胞の相対値は低下した。これらの結果から、siRNA#1〜#5のいずれのsiRNAによっても、細胞の抗がん剤感受性を向上できることがわかった。この結果から、siRNA#1〜#5により、vegf5’UTR RNAを攻撃することによって、がん細胞の成育および生存を有効に阻害することができ、これらのsiRNAは、抗がん剤として、また、既存の抗がん剤に対する併用剤として、極めて有用であるといえる。
[実施例A11]
部分的に欠損したp53mRNAを発現するコンストラクトを作製し、vegf 5’UTRと相互作用する要素配列の決定を行った。
作製したコンストラクトの概略を、図17(a)に示す。p53遺伝子のCDSと、前記CDSの5’領域を欠損したcDNA(Δ5’p53)と、前記CDSの3’領域を欠損したcDNAとを、PCRにより準備した。前記CDSは、配列番号2で表わされるヒトp53 成熟mRNAの全配列における252番目〜1434番目のRNAに対応し、Δ5’p53は、配列番号2における252番目〜1434番目の領域のうち、252番目〜551番目を欠損させたRNAに対応するcDNA、Δ3’p53は、および、配列番号2における252番目〜1434番目の領域のうち、1133番目−1433番目を欠損させたRNAに対応するcDNAである。これらのcDNAを、それぞれpcDNA3.1ベクター(Invitrogen社)のBamHΙ/EcoRΙサイトに挿入した。これらのプラスミドコンストラクトと、実施例A2のプラスミドコンストラクトA(pVC)またはプラスミドコンストラクトH(pVCmut5’)とを、H1299細胞に共発現させた。そして、これらの細胞について、外来性p53mRNAの発現レベルを、RT−PCR法により検出した。この結果を、図17(b)の写真に示す。同図において、pVCはコンストラクトA、mut5’はコンストラクトHをそれぞれ示す。
同図に示すように、5’末端を欠損するΔ5’p53は、vegf 5’UTR RNAによるサイレンシングを受けなかった。これに対して、3’末端を欠損するΔ3’p53は、野生型p53mRNAと同様に、vegf 5’UTR RNAによりサイレンシングされた。この結果から、p53mRNAにおいて、vegf 5’UTRと相互作用する領域は、配列番号2における252番目〜551番目の領域を含むRNAであることがわかった。
[実施例B1]
vegf IresRNAを発現する細胞の悪性形質化
vegf IresRNAが腫瘍細胞の悪性化を促進するか否かを明らかにするために、以下の実験を行った。
(1)vegf IresRNAの発現
vegf mRNAの5’UTRにおける配列番号1に示す600番目−879番目のvegf IresRNAの全長cDNAを、プラスミドベクターpcDNA3.1(Invitrogen社製)に挿入して、vegf IresRNA発現ベクター(pcDNA−vegf Ires)を作製した。このvegf IresRNA発現ベクター(pcDNA−vegf Ires)をHCT116(親細胞、野生型p53)に導入し、vegf IresRNAを安定過剰発現する2つの細胞クローンを抗生剤G418により選択した。このようにして樹立した二つのvegf IresRNA発現細胞を、以下、vegf Ires−#1およびvegf Ires−#2という。また、mock処理として、HCT116細胞に、前記インサートを欠いたプラスミドベクターpcDNA3.1を導入し、導入された細胞クローンを前記抗生剤G418により選択した。この細胞クローンを、以下、mockという。そして、これらの細胞クローンにおけるvegf IresRNAの発現をノーザンブロッティングにより確認した。
これらの結果を、図18(a)に示す。図18(a)は、各細胞におけるRNAの発現を示すノーザンブロッティングの結果であり、上から1段目が、vegf IresRNAの発現、2段目は、ローディングコントロールのgapdh mRNAの発現を示す。同図に示すように、mockでは、vegf IresRNAの発現はほとんど認められなかった。これに対して、vegf IresRNAを発現するvegf Ires−#1およびvegf Ires−#2は、それぞれ、vegf IresRNAの発現が認められた。
(2)Cisplatinのp53mRNA発現誘導能に対するvegf IresRNAの影響
続いて、これらのvegf IresRNA安定発現細胞株を、それぞれ、5μg/mLの抗がん剤Cisplatin存在下または非存在下で、所定時間(0、6、8、12、24時間)処理した後、定量的RT−PCRによりp53mRNAの発現レベルを分析し、ウェスタンイムノブロッティングによりp53タンパク質の発現レベルを分析した。また、mock細胞についても同様に処理して、発現レベルの分析を行った。
これらの結果を図18(b)および(c)に示す。同図(b)は、各細胞におけるp53mRNA発現量の結果であり、縦軸は、p53mRNA発現量とコントロールgapdh mRNA発現量との比である。同図(c)は、各細胞におけるp53タンパク質発現量の結果である。同図(b)および(c)に示すように、Cisplatin未処理のmock(0h)と比較して、Cisplatin処理のmock(6、12h)は、Cisplatinによってp53mRNAの発現が誘導され、p53mRNAならびにp53タンパク質の発現が著しく増加した。これに対して、vegf IresRNA−#1およびvegf Ires−#2は、Cisplatin未処理(0h)の場合、mock(0h)と比較して、内在性p53mRNAおよびp53タンパク質の基底発現量が減少した。また、vegf IresRNA−#1(6、12h)およびvegf Ires−#2(6、12h)は、mock(6、12h)とは反対に、p53mRNAならびにp53タンパク質の発現誘導が見られなかった。このように、vegf IresRNAの発現によって、mockで確認されたCisplatinによるp53mRNA発現誘導能が著しく低下したことから、vegf IresRNAは、p53の発現誘導を阻害することがわかった。
(3)各種抗がん剤によるアポトーシスへのvegf IresRNAの影響
抗癌剤である5−FU、etopside、mitomycin C(MMC)およびcisplatinによるアポトーシスに対する各種細胞の抵抗性と、アポトーシスに対するvegf IresRNAの影響を確認した。前記(2)のvegf Ires−#1、vegf Ires−#2、mockおよびベクター未導入のHCT116(親細胞)を、5−FU(120μmol/L)、etoposide(10μmol/L)、MMC(6μg/ml)、cisplatin(5μg/ml)で60時間処理し、アポトーシスを誘導した。誘導後の細胞のアポトーシスを、前述のアポトーシス評価2の方法により検出した(means±SD、n=4)。
これらの結果を図18(d)に示す。同図は、各細胞におけるアポトーシス陽性細胞の割合を示すグラフである。同図において、parentalは、親細胞HCT116の結果である。同図に示すように、HCT116(parental)およびmockは、いずれの抗がん剤の刺激によっても、約30%前後の細胞にアポトーシスが誘導され、いずれの抗がん剤にも耐性を示さなかった。これに対して、vegf IresRNA−#1およびvegf Ires−#2は、いずれの抗がん剤の刺激によっても、約10%程度の細胞にアポトーシスが誘導されるにとどまり、HCT116(parental)およびmockと比較して有意に低い割合であった。この結果から、vegf IresRNAは、細胞にアポトーシス抵抗性を付与することがわかった。
(4)vegf IresRNAによるin vivoにおける細胞の悪性形質化
続いて、前記(2)のvegf Ires−#1、vegf Ires−#2およびmock(5×10細胞)を、それぞれ、胸腺を欠くヌードマウスの大腿部皮下に、27ゲージの注射針を用いて移植した。移植後、所定期間(0、5、9、13、17、21日)経過時に、形成された腫瘍の体積を実施例A7と同様にして測定した(means±SEM、n=5)。コントロールとして、発現ベクター未導入のHCT116細胞を、同様にしてマウスに移植し、腫瘍の体積を測定した。これらの結果を、図18(e)に示す。同図は、これらの細胞株を移植したマウスにおける腫瘍体積の経時的変化を示すグラフである。また、vegf Ires−#1および発現ベクター未導入のコントロールHCT116細胞(1×10個)を、それぞれヌードマウスの腹腔内に27ゲージの注射針を用いて移植し、移植後35日目に形成された腫瘍を開腹により観察した。これらの結果を、図19(f)に示す。同図は、マウスの開腹部の写真であり、矢頭は、形成された腫瘍を示す。同図において、左図は、vegf IresRNA発現細胞を移植した結果であり。右図は、コントロール細胞を移植した結果である。
図18(e)に示すように、vegf Ires−#1およびvegf Ires−#2は、それぞれ、mockに比べて、明らかに大きな腫瘍が短期間で形成された。また、図19(f)に示すように、悪性度の高い腫瘍細胞の形質を評価できる腹腔内移植モデルにおいても、vegf IresRNAを発現する細胞は、コントロール細胞に比べ、顕著な造腫瘍能を示すことが明らかになった。以上の結果から、vegf IresRNAは、生体内において、腫瘍形成を著しく亢進させることが明らかとなった。
[実施例B2]
vegf siRNAによる細胞の腫瘍形成能の抑制効果
vegfに対するsiRNAを発現する細胞について、生体内での腫瘍形成能に対する効果を確認した。前述の、siRNA#1を発現するvegf siRNA#1ベクターを、ヒト大腸がん由来HCT116細胞株(野生型p53)に導入し、抗生剤ブラストシジンにより選択した。得られた細胞クローンを、以下、si−vegf#1細胞株という。また、コントロールとしては、前述と同様に、脊椎動物の既知遺伝子に対して相同性のない配列(配列番号46:5’−gaaatgtactgcgcgtggagacgttttggccactgactgacgtctccacgcagtacattt−3’)の二本鎖オリゴヌクレオチドが挿入された、pcDNA6.2−GW/EmGFP−miR vector(Invitrogen社)を使用した(コントロールsiRNAベクター)。このコントロールsiRNAベクターにより、同様に、HCT16細胞株を導入し、導入された細胞を前記抗生剤により選択した。得られた細胞クローンを、以下、si−Control細胞株という。そして、前記実施例C2と同様にして、前記si−vegf#1細胞株およびsi−Control細胞株を、それぞれ、ヌードマウスの大腿部皮下に移植し、所定期間後の腫瘍体積を測定した(各n=5)。
これらの結果を、図20に示す。同図は、これらの細胞株を移植したマウスにおける腫瘍体積の経時的変化を示すグラフである。同図において、白抜きのシンボルで表わされた#1〜#5 si−vegf#1は、siRNA#1を発現するsi−vegf#1細胞を移植した結果であり、黒塗りのシンボルで表わされた#1〜#5 コントロールは、si−Control細胞を移植した結果である。
同図に示すように、si−Control細胞を移植したマウス(コントロール)では、経時的に、腫瘍の増大が確認された。これに対して、siRNA#1を発現するsi−vegf#1細胞を移植したマウス(si−vegf#1)では、有意に、腫瘍形成の抑制、腫瘍の増大の抑制が認められた。これらの結果から、vegf mRNAにおけるexon1を標的とするsiRNAによれば、腫瘍形成ならびに形成された腫瘍の増大を有意に抑制できることが明らかとなった。
[実施例B3]
vegf siRNAによるアポトーシス感受性の促進
(1)vegf siRNAによるvegf mRNAまたはvegf IresRNAの発現抑制
vegf siRNAが細胞のアポトーシス感受性を促進するか否かを確認した。HepG2細胞(野生型p53)に代えてHCT116(親細胞、野生型p53)を使用した以外は、前記実施例A1と同様にして、HCT116(親細胞、野生型p53)に、前述の、siRNA#1を発現するvegf siRNA#1ベクター、vegf siRNA#2ベクターを発現する#2およびコントロールsiRNAベクターを、それぞれ導入した。そして、導入18時間後の細胞について、定量的RT−PCRによりvegf mRNAおよびgapdh mRNAの発現レベル(means±SD、n=4)を、ノーザンブロッティングによりvegf IresRNAとgapdh mRNAの発現レベルを分析した。前記組換えベクター未導入のHCT116細胞についても、同様に分析を行った。定量的RT−PCRは、vegf mRNA用プライマーセットを用いた以外は、前記実施例B1と同様に行った。
これらの結果を、図21(a)に示す。同図において、左は、各細胞におけるvegf mRNAの発現量解析の結果であり、縦軸は、vegf mRNAとgapdh mRNAとの比を示す。同図において、右は、各細胞におけるvegf IresRNAの発現を示すノーザンブロッティングの結果であり、上段は、vegf IresRNA、下段は、gapdh mRNAの結果を示す。同図において、noneは、組換えベクター未導入の細胞、si−Controlは、コントロールsiRNAベクターを導入した細胞、si−vegf#1は、vegf siRNA#1ベクターを導入した細胞、si−vegf#2は、vegf siRNA#2ベクターを導入した細胞の結果である(以下、同様)。
図21(a)の左のグラフに示すように、vegf siRNA#1ベクターまたはvegf siRNA#2ベクターの導入によって、HCT116におけるvegf mRNAの発現量が著しく減少した。また、図21(a)の右の写真に示すように、vegf siRNA#1ベクターまたはvegf siRNA#2ベクターの導入によって、vegf IresRNAの発現量が、コントロール細胞に比べて減少した。特に、vegf siRNA#2ベクターの導入細胞において、著しくvegf IresRNAの発現が減少した。以上の結果から、siRNA#1およびsiRNA#2によって、vegf IresRNAをノックダウンできることが明らかになった。
(2)vegf siRNAによるアポトーシス感受性の促進
p53依存的にアポトーシスを誘導する抗がん剤5−FUで、各種細胞を処理し、アポトーシスへの感受性を解析した。HCT116(親細胞)およびp53欠損細胞HCT116に、前述の、siRNA#1を発現するvegf siRNA#1ベクター、siRNA#2を発現するvegf siRNA#2ベクターおよびコントロールsiRNAベクターを、それぞれ導入した。そして、導入18時間後の細胞を、80μmol/L 5−FU存在下(+)または5−FU非存在下(−)で、60時間処理した。処理後の細胞について、前述のアポトーシス評価2に基づいて、アポトーシス陽性細胞の割合(%)を算出した(means±SD、n=4)。
これらの結果を、図21(b)に示す。同図は、各細胞のアポトーシス(%)を示すグラフである。同図において、parental HCT116は、p53を発現する親細胞HCT116、p53−KO HCT116は、p53欠損HCT116細胞、no transfectionは、組換えベクター未導入細胞、si−Control、si−veg#1およびsi−vegf#2は、それぞれ図21(a)と同様である。また、5−FUについて、「+」は、5−FU存在下、「−」は、5−FU非存在下での処理を示す(以下、同様)。同図に示すように、p53欠損細胞HCT116のアポトーシス割合は、5−FU処理によってわずかに増加したが、さらにsiRNA#1またはsiRNA#2を発現させても、ほとんど増加は見られなかった。これに対して、親細胞HCT116においては、siRNA#1またはsiRNA#2を発現させて、5−FU処理を行うことにより、アポトーシスの割合が著しく増加した。これらの結果から、siRNA#1およびsiRNA#2によるアポトーシス感受性の増大は、p53に依存していることが示された。
(3)vegf siRNAによるp53mRNAおよびp53タンパク質の発現促進
前記(1)および(2)の結果から、vegf IresRNAが、p53がん抑制経路において、ネガティブに影響していると解される。そこで、vegf siRNAを導入した細胞について、内在性p53の発現レベルを確認した。具体的には、前述と同様の導入後の親細胞HCT166を、80μmol/L 5−FU存在下(+)または5−FU非存在下(−)で、8時間処理した後、定量的RT−PCRにより、p53mRNAの発現を解析した(means±SD、n=4)。また、前記導入後の細胞を、80μmol/L 5−FU存在下(+)で、所定時間(0、8、16、24時間)処理した後、前述のウェスタンイムノブロッティングにより、p53タンパク質を検出した。
これらの結果を、図21(c)および(d)に示す。図21(c)は、各細胞におけるp53mRNAの発現量を示すグラフであり、縦軸は、p53mRNAとgapdh mRNAとの比を示す。同図において、5−FUについて、「+」は、5−FU存在下、「−」は、5−FU非存在下での処理を示す。図21(d)は、各細胞におけるp53タンパク質の発現を示すウェスタンイムノブロッティングの結果である。同図において、5−FUの値は、5−FUによる処理時間(時間)を示す。両図において、si−Control、si−veg#1およびsi−vegf#2は、それぞれ図21(a)と同様である。同図(c)に示すように、siRNA#1またはsiRNA#2を発現させた細胞は、vegf IresRNAの減少により、mRNAの発現量が、コントロールと比較して増加した。そして、このような細胞をさらに5−FU処理することによって、p53mRNAの発現量を著しく増加することができた。また、同図(d)に示すように、p53タンパク質についても、同様に、コントロールと比較して、siRNA#1またはsiRNA#2を発現させた細胞は、発現量が増加した。そして、このような細胞をさらに5−FU処理することによって、p53タンパク質の発現量を著しく増加することができた。以上の結果から、vegf siRNAによるvegf IresRNAのノックダウンによって、5-FUで誘導されるp53mRNAならびにp53タンパク質の発現が増加することがわかった。
(4)vegf siRNAによる、p53を介して誘導されるmRNAの発現促進
vegf siRNAによるvegf IresRNAのノックダウンに起因する、5-FUで誘導されるp53mRNAの発現増加が、p53ターゲット遺伝子bax遺伝子またはnoxa遺伝子のmRNAの発現を誘導するか否かを確認した。親細胞HCT116に、前述と同様のコントロールsiRNAベクター、vegf siRNA#1ベクターまたはvegf siRNA#2ベクターを導入した細胞を、80μmol/L 5−FU存在下(+)または5−FU非存在下(−)で、24時間処理した後、定量的RT−PCRにより、bax mRNAおよびnoxa mRNAの発現を解析した(means±SD、n=4)。
これらの結果を図22(e)に示す。同図は、p53ターゲット遺伝子のmRNAの発現量を示すグラフである。同図において、左が、bax mRNAの結果であり、縦軸は、bax mRNAとgapdh mRNAとの比を示す。同図において、右は、noxa mRNAの結果であり、縦軸は、noxa mRNAとgapdh mRNAとの比を示す。同図に示すように、bax mRNAおよびnoxa mRNAは、ともに、コントロールと比較して、siRNA#1またはsiRNA#2の発現によって、5−FU処理による発現の誘導が著しく促進された。この結果から、siRNA#1またはsiRNA#2の発現によって、baxやnoxa等のアポトーシス関連遺伝子の発現量が増加し、結果的に、アポトーシス感受性を増大できるといえる。
(5)p53mRNA、vegf IresRNAおよびvegf mRNAの関係
HCT116(親細胞)を、p53mRNA発現をアップレギュレートする遺伝毒性のストレスに曝した。具体的には、HCT116を、5−FU(80μmol/L)、マイトマイシンC(MMC、6μg/ml)またはcisplatin(5μg/ml)で所定時間(0、6、12時間)処理した後、ノーザンブロッティングによりp53mRNA、vegf IresRNA、vegf mRNAの発現を確認した。また、HCT116をUV−Bに1分間暴露し、所定時間(6、12時間)非暴露条件下においた後、同様にして発現を確認した。
これらの結果を図22(f)に示す。同図に示すように、5−FU、MMCまたはUV照射でストレスをかけた細胞は、vegf IresRNAおよびvegf mRNAの両方が、著しく増加し、これによってp53mRNA発現が抑制された。これに対して、cisplatinは、p53mRNAの発現を増加し、vegf IresRNAの発現を減少させた。この結果は、cisplatinが、vegf mRNA発現と続くvegf IresRNAの発生を阻害するという結果により裏付けられる。この逆の相関関係は、vegf IresRNAが、p53発現のリプレッサーとして作用することを裏付けている。また、p53は、VEGF発現を転写レベルで抑制することが報告されている。このため、vegf IresRNAは、p53発現のサイレンシングを通じて、VEGF産生のためのポジティブフィードバックループを提供していると考えられる。
[実施例B4]
vegf IresRNAにおけるp53mRNAとの相互作用領域の同定
(1)vegf IresRNAのp53mRNA発現への影響
前記実施例B1と同様にして、vegf IresRNA発現ベクター(pcDNA−vegf Ires)を作製した。p53欠損HCT116細胞(p53ヌル)に、前記実施例A2のp53発現ベクターと前記vegf IresRNA発現ベクター(pcDNA−vegf Ires)とを共導入し、18時間後、ノーザンブロッティングによって、p53mRNAおよびvegf IresRNAの発現を確認した。さらに、mock処理として、インサートを欠いた発現プラスミドベクターpcDNA3.1と前記p53発現ベクターとを、p53欠損HCT116細胞に共導入した。この細胞クローンを以下mockという。mockについても、同様にRNA発現を確認した。
これらの結果を、図23(a)に示す。図23(a)において、左は、各細胞におけるp53mRNAの発現を示すノーザンブロッティングの結果であり、右は、各細胞におけるvegf IresRNAの発現を示すノーザンブロッティングの結果である。同図において、mockは、mock処理した細胞、vegf IresRNAは、vegf IresRNA発現ベクターを導入した細胞であり、p53「+」は、p53発現ベクターの導入を示し、「−」は未導入を示す。同図に示すように、vegf IresRNA未発現の細胞mockでは、p53mRNAが強く検出された。これに対して、vegf IresRNAを発現する細胞vegf IresRNAでは、p53mRNAの分解が誘導された。これらの結果から、vegf 5’UTR、特に、vegf IresRNAは、転写後に、p53発現を抑制することが示唆された。
(2)vegf IresRNAにおけるp53mRNAとの相互作用領域の同定
前述の結果から、vegf IresRNAが、p53mRNAの発現量を転写後に負に制御することが明らかになった。そこで、さらに、vegf IresRNAにおけるp53mRNAとの相互作用領域の同定を行った。
vegf IresRNAおよびp53mRNAの2次構造を、核酸の2次構造予測プログラムmFold3.2を用いて予測した。そして、これらの予測二次構造に基づき、ViennaRNA foldアルゴリズムを用いて、vegf IresRNAとp53mRNAとの相補領域を予測した。その結果を図23(b)および(c)に示す。両図は、それぞれ、vegf IresRNAとp53mRNAとの相補領域のアラインメントを示す。同図(b)に示すように、配列番号1におけるvegf IresRNAの694番目−714番目と、配列番号2におけるp53mRNAの462番目−481番目との間、ならびに、同図(c)に示すように、配列番号1におけるvegf IresRNAの693番目−714番目と、配列番号2におけるp53mRNAの462番目−491番目との間に、相補領域が確認された。この配列番号1における693番目−714番目の領域は、vegf IresRNA二次構造において、ステムループを形成する領域であることがわかった。図24(d)に、vegf IresRNAの二次構造(ステムループ構造)の概略を示す。
(3)vegf IresRNAにおけるステムループの変異による影響
vegf IresRNAにおけるステムループ構造が、p53mRNAのサイレンシングに関与するか否かを以下の方法により確認した。vegf IresRNAのステムループを部分的に欠損するvegf IresRNA(del−1)およびvegf IresRNA(del−2)を発現する発現ベクター(del−1)および(del−2)を作製した。vegf IresRNAにおける欠損部分を図24(e)に示す。同図(e)には、前記図24(d)のvegf IresRNAの二次構造において、四角で囲んだ領域のみを示す。同図の左が、vegf IresRNA(del−1)であり、同図の右が、vegf IresRNA(del−2)である。vegf IresRNA(del−1)は、vegf IresRNAにおける693番目−714番目の前記領域を部分的に欠損し、具体的には、図24(e)に示すように、ステムループの根本部分を形成する691番目−703番目の領域を欠損する。また、vegf IresRNA(del−2)は、vegf IresRNAにおける711番目−718番目および721番目−723番目の領域を欠損する、具体的には、図24(e)に示すように、ステムループの先端ループ部分を欠損する、短いステムループを形成する。
発現ベクター(del−1)および(del−2)は、以下のようにして作製した。まず、前記実施例B1のvegf IresRNA発現ベクター(pcDNA−vegf Ires)をNheIで切断し、これに、vegf IresRNA(del−1)およびvegf IresRNA(del−2)をコードするオリゴヌクレオチドを挿入した。以下に、vegf IresRNA(del−1)をコードするオリゴヌクレオチドおよびvegf IresRNA(del−2)をコードするオリゴヌクレオチドを示す。
del−1オリゴヌクレオチド(配列番号91)
5’-gctagcggagcccgcgcccggaggcggggtggagggggtcggggctcgcggcgtcgcactgaaacttttcgtccaacttctgggctgttctcgcttctccgcgcgggggaagccgagccgagcggagccgcgagaagtgctagc-3’
del−2オリゴヌクレオチド(配列番号92)
5’-gctagcggagcccgcgcccggaggcggggtggagggggtcggggctcgcggcgtcgcactgaaacttttcgtccaacttctgggctgttctcgcttcggaggagccgtggtccgcgcccccgagcggagccgcgagaagtgctagc-3’
そして、発現ベクター(del−1)、発現ベクター(del−2)または前記vegf IresRNA発現ベクターと、前記実施例A2におけるp53発現ベクターとをp53欠損HCT116に共導入し、18時間後、p53mRNAおよびvegf IresRNAの発現をノーザンブロッティングによって確認した。また、mock処理として、インサートを欠いた発現プラスミドベクターpcDNA3.1と前記p53発現ベクターとをp53欠損HCT116に共導入し、同様に、発現を確認した。なお、HCT116(p53ヌル)の培養は、10%ウシ胎児血清および100μg/ml(100units/ml)ストレプトマイシンを含むMcCoy’s 5A培地を使用し、条件は、温度37℃、5%COとした(以下、同様)。
これらの結果を、図24(f)に示す。同図(f)は、各細胞におけるRNAの発現を示すノーザンブロッティングの結果であり、上から1段目が、p53mRNAの発現、2段目が、vegf IresRNAの発現、3段目が、ローディングコントロールのgapdh mRNAの発現を示す。また、p53「+」は、p53発現ベクターの導入を表す。同図において、vegf IresRNA(wt)は、発現ベクターvegf IresRNAの導入細胞、vegf IresRNA(del−1)は、発現ベクターvegf IresRNA(del−1)の導入細胞、vegf Ires(del−2)は、発現ベクター(del−2)の導入細胞である。同図のvegf IresRNA(wt)に示すように、vegf IresRNA全長をp53mRNAとともに発現させた場合、p53mRNAおよびvegf IresRNAのサイレンシングが見られた。一方、vegf IresRNA(del−1)およびvegf IresRNA(del−2)に示すように、vegf IresRNAの部分欠失変異体をp53と共発現させた場合、p53mRNAの発現量は、mockと同様であり、また、vegf IresRNAの分解はみられなかった。このように、vegf IresRNA(del−1)およびvegf IresRNA(del−2)には、p53サイレンシング能が無いことが示された。以上の結果から、vegf IresRNAによるp53mRNAのサイレンシングには、vegf IresRNAにおける693−714番目の領域付近のステムループ構造が重要な役割を果たすということが分かった。
(4)vegf IresmRNAのステムループを介したp53mRNAとの結合
vegf IresRNAが、前述のステムループ構造を介してp53mRNAに結合する可能性を確認した。まず、前述と同様にして、p53欠損HCT116に、前記RNAプルダウンアッセイで記載した前記p53発現ベクターと、各種vegf IresRNAを発現する発現ベクターとを共導入した。そして、前述のRNAプルダウンアッセイにより、PCR産物の増幅の有無を確認した。
これらの結果を図24(g)に示す。同図において、vegf IresRNA(wt)は、vegf IresRNA発現ベクターの導入細胞、vegf IresRNA(del−1)は、発現ベクターvegf IresRNA(del−1)の導入細胞、vegf IresRNA(del−2)は、発現ベクターvegf IresRNA(del−2)の導入細胞である。RT(−)は、逆転写酵素を欠いたネガティブコントロールであり、vegf IresRNA cDNAおよびp53cDNAは、PCRのポジティブコントロールである。同図のvegf IresRNA(wt)に示すように、野生型vegf IresRNA全長とp53とを発現させた場合、p53の増幅が確認できた。この結果から、野生型vegf IresRNA全長に、p53mRNAが結合していることが分かった。一方、vegf IresRNA(del−1)およびvegf IresRNA(del−2)に示すように、vegf IresRNAの部分欠失変異体をp53と共発現させた場合、p53の増幅は見られなかった。この結果から、vegf IresRNA(del−1)およびvegf IresRNA(del−2)には、p53mRNAが結合しないことが分かった。このように、p53mRNAとvegf IresRNAは、vegf IresRNAの693番目−714番目の領域付近のステムループ構造を介して結合していることが示唆された。以上の結果から、vegf IresRNAは、p53に相補的な配列に加えて、そのステムループ構造が、p53mRNAの分解の誘導に重要であると推測される。
[実施例C1]
p53デコイLNA−DNAの効果
vegf IresRNAと相互作用するp53mRNAの領域をデコイDNAとして使用し、vegf IresRNAによるp53mRNAサイレンシングならびにがん細胞の細胞死に対する効果を確認した。
前記実施例B4の結果から、vegf IresRNAと相互作用するp53mRNAの領域は、462−491番目の塩基を含む領域であると考えられる。そこで、野生型p53デコイとして、p53mRNAの462−482番目の配列に相当するLNA−DNAを作製した。これを、野生型p53デコイという。あわせて、この配列に変異を導入したLNA−DNAを作製した。これを、変異型p53デコイという。これらの配列を以下に示す。変異型p53デコイにおいて、大文字の塩基は、野生型p53デコイと異なる変異部位である。
野生型p53デコイ(配列番号93)
5’-ccccgcgtggcccctgcacca-3’
変異型p53デコイ(配列番号94)
5’-cccGCcCACCcGGctgGTcca-3’
そして、p53欠損HCT116に、前記実施例A2のp53発現ベクター、前記実施例B1のvegf IresRNA発現ベクター、および、前記野生型または変異型p53デコイを共導入し、p53mRNA発現をノーザンブロッティングにて解析した。また、前記vegf IresRNA発現ベクターと前記p53発現ベクターを共導入し且つデコイ未導入のp53欠損HCT116(vegf IresRNA)、前記インサートを欠いたプラスミドベクターpcDNA3.1と前記p53発現ベクターを共導入し且つデコイ未導入のp53欠損HCT116(mock)、発現ベクターおよびデコイ未導入のp53欠損HCT116についても、同様にp53mRNA発現を解析した。
これらの結果を、図25(a)に示す。同図は、各細胞におけるp53mRNAの発現を示すノーザンブロッティングの結果である。同図において、「no transfection」は、発現ベクター未導入の細胞、「vegf IresRNA」は、前記vegf IresRNA発現ベクターの導入細胞、「mock」は、pcDNA3.1の導入細胞、「vegf IresRNA+p53 decoy mutant」は、前記変異型p53デコイと前記vegf IresRNA発現ベクターとの共導入細胞、「vegf IresRNA+p53 decoy」は、前記野生型p53デコイと前記vegf IresRNA発現ベクターとの共導入細胞の結果を示す。また、p53「+」は、p53発現ベクターの導入、p53「−」は、p53発現ベクター未導入を示す。同図に示すように、デコイ未導入の「vegf IresRNA」は、p53mRNAの発現量は極めて少なく、サイレンシングを受けたと解される。また、変異型p53デコイを導入した「vegf IresRNA+p53 decoy mutant」も、p53RNAの発現量は少なく、サイレンシングを受けたと解される。これに対して、野生型p53デコイを導入した「vegf IresRNA+p53 decoy」で、「vegf IresRNA」よりも、高い発現量が確認され、mockと同等のp53mRNA発現量を示した。このことから、p53デコイは、vegf IresRNAの内在性p53mRNAへのサイレンシング効果を抑制し、p53mRNAの発現量を増加させることがわかった。
さらに、野生型および変異型p53デコイについて、がん細胞のアポトーシス感受性への影響を確認した。
HCT116細胞(野生型p53)に、前記野生型および変異型p53デコイLNA−DNAを、それぞれ導入した。前記デコイを導入した細胞を、10%ウシ胎児血清および100μg/ml(100units/ml)ストレプトマイシンを含むMcCoy’s 5A培地で培養し、前記アポトーシス評価2に基づいて、生存率の相対値(%)を算出した。前記相対値は、5−FU未処理細胞の生存細胞数を100%として求めた。あわせて、デコイ未導入のHCT細胞(p53)についても同様に生存率を算出した。
これらの結果を図25(b)に示す。同図は、各細胞の生存率(%)を示すグラフである。同図において、noneは、デコイ未導入の細胞、p53 decoyは、野生型p53デコイを導入した細胞、p53 decoy mutantは、変異型p53デコイを導入した細胞の結果である。同図に示すように、野生型p53デコイの導入細胞は、未導入細胞ならびに変異型p53デコイ導入細胞よりも、5−FU(40μmol/L)処理による細胞の生存率が低下した。これらの結果から、vegf IresRNAと相互作用するp53mRNA領域は、デコイとして使用することにより、p53mRNA分解を防ぎ、細胞死を誘導するのに有用であることが明らかとなった。前記デコイは、本発明のp53結合阻害剤として、また、p53発現促進剤として使用できる。
[実施例C2]
vegfアンチセンスDNAの効果
p53mRNAと相互作用するvegf IresRNAの領域に相補的なアンチセンスDNAについて、vegf IresRNAによるp53mRNAサイレンシングならびにがん細胞の細胞死に対する効果を確認した。
前記実施例B4の結果から、p53mRNAと相互作用するvegf IresRNAの領域は、693−714番目の塩基を含む領域であると考えられる。そこで、この領域に相補的なアンチセンスLNA−DNAを作製した。これを、野生型vegfアンチセンスという。あわせて、この配列に変異を導入したアンチセンスLNA−DNAを作製した。この配列を、変異型vegfアンチセンスという。これらの配列を以下に示す。変異型アンチセンスにおいて、大文字の塩基は、野生型アンチセンスと異なる変異部位である。
野生型vegfアンチセンス(配列番号74)
5’-ccccgcgcggaccacggctcct-3’
変異型vegfアンチセンス(配列番号95)
5’-cccGCcCGggTcGTcCgcAccA-3’
これらの結果を、図26(a)に示す。同図は、各細胞におけるp53mRNAの発現を示すノーザンブロッティングの結果である。同図において、「vegf IresRNA」は、前記vegf IresRNA発現ベクターを導入した細胞、「vegf IresRNA+AS mutant」は、前記変異型vegfアンチセンスと前記vegf IresRNA発現ベクターを共導入した細胞、「vegf IresRNA+AS」は、前記野生型vegfアンチセンスと前記vegf IresRNA発現ベクターを共導入した細胞の結果を示す。また、p53「+」は、p53発現ベクターの導入を示す。同図に示すように、前記アンチセンス未導入の「vegf IresRNA」は、p53mRNAの発現量は極めて少なく、サイレンシングを受けたと解される。また、変異型アンチセンスを導入した「vegf IresRNA+AS mutant」も、同様にp53mRNAの発現量は少なく、サイレンシングを受けたと解される。これに対して、野生型vegfアンチセンスを共導入した「vegf IresRNA+AS」は、「vegf IresRNA」よりも、顕著な発現量が確認された。このことから、vegfアンチセンスは、vegf IresRNAの内在性p53mRNAへのサイレンシング効果を抑制し、p53mRNAの発現量を増加させることがわかった。
さらに、野生型および変異型vegfアンチセンスについて、がん細胞のアポトーシス感受性への影響を確認した。
HCT116細胞(野生型p53)に、前記野生型および変異型vegfアンチセンスを、それぞれ導入した。前記アンチセンスを導入した細胞について、前記実施例C4と同様にして生存率の相対値(%)を算出した。前記相対値は、5−FU未処理細胞の生存細胞数を100%として求めた。あわせて、vegfアンチセンス未導入のHCT細胞(野生型p53)についても同様に生存率を算出した。
これらの結果を図26(b)に示す。同図は、各細胞の生存率(%)を示すグラフである。同図において、noneは、vegfアンチセンス未導入の細胞、vegf5’−ASは、野生型vegfアンチセンスを導入した細胞、vegf5’−AS mutantは、変異型vegfアンチセンスを導入した細胞の結果である。同図に示すように、野生型vegfアンチセンスの導入細胞は、未導入の細胞(none)よりも、5−FU(40μmol/L)処理による細胞の生存率が著しく低下した。これらの結果から、p53mRNAと相互作用するvegf IresRNAの領域は、アンチセンスとして使用することにより、p53mRNA分解を防ぎ、抗がん剤による細胞死を誘導するのに有用であることが明らかとなった。前記アンチセンスは、本発明のp53結合阻害剤として、また、p53発現促進剤として使用できる。
以上のように、本発明によれば、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAと、p53mRNAとの結合を阻害することで、p53の発現を促進できるため、これに伴って、p53に依存して転写されるアポトーシスに関与する遺伝子の転写を促進できる。このため、最終的には、目的の細胞のアポトーシスの進行を促進することができる。特に、医療分野においては、腫瘍の悪性化の予防やがんの治療に、細胞のアポトーシスが利用されることから、本発明は、がん等の治療において有用な手段になるといえる。また、p53の発現量が低下した腫瘍細胞においては、抗がん剤に対する感受性が低下し、抗がん剤耐性を示すことが知られている。しかしながら、本発明によれば、細胞の抗がん剤に対する感受性を亢進することができるため、従来公知の抗がん剤を効率良く作用させることも可能となる。以上のように、本発明は、がん等の治療をはじめとする医療分野において、極めて優れた手法といえる。

Claims (13)

  1. in vitro、ex vivoまたは非ヒト動物において、がん細胞におけるp53遺伝子の発現を促進する方法であって、
    結合阻害剤として、siRNA、アンチセンスおよびデコイ核酸からなる群から選択された少なくとも一つを用いて、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAと、p53遺伝子から転写されるmRNAとの結合を阻害することにより、p53遺伝子の発現を促進し、
    前記siRNAおよび前記アンチセンスが、vegf−A遺伝子から転写されるRNAのうち下記(1)〜(13)からなる群から選択された少なくとも一つをターゲットするsiRNAおよびアンチセンスであり、
    前記デコイ核酸が、下記(D1)〜(D5)および(D8)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸であることを特徴とするp53発現促進方法。
    (1)配列番号1における600番目−879番目の配列
    (2)配列番号1における659番目−879番目の配列
    (3)配列番号1における659番目−780番目の配列
    (4)配列番号1における659番目−752番目の配列
    (5)配列番号1における659番目−745番目の配列
    (6)配列番号1における694番目−714番目の配列
    (7)配列番号1における693番目−714番目の配列
    (8)配列番号1における691番目−703番目の配列
    (9)配列番号1における711番目−723番目の配列
    (10)配列番号1における16番目−780番目の配列
    (11)配列番号1における659番目−917番目の配列
    (12)配列番号1における526番目−1104番目の配列
    (13)配列番号45における526番目−1216番目の配列
    (D1)配列番号2における462番目−481番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
    (D2)配列番号2における462番目−482番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
    (D3)配列番号2における462番目−491番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
    (D4)配列番号2における462番目−505番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
    (D5)配列番号2における252番目−551番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
    (D8)前記(D1)〜(D5)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸において、1若しくは数個の塩基が、置換、欠失、挿入または付加された塩基配列からなり、かつ、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAに結合可能である核酸
  2. 前記ターゲットが、前記vegf−A遺伝子のエキソン1から転写される5’UTR RNAである、請求項1記載のp53発現促進方法。
  3. 前記ターゲットが、前記5’UTR RNAにおける配列番号1の600番目−879番目の配列またはその一部である、請求項2記載のp53発現促進方法。
  4. 記siRNAのアンチセンス鎖が、下記(#1)〜(#17)からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項1から3のいずれか一項に記載のp53発現促進方法。
    #1 5’−agcaaggcaaggcuccaaugcnn−3’(配列番号4)
    #2 5’−agagcagcaaggcaaggcuccnn−3’(配列番号6)
    #3 5’−cacgaccgcuuaccuuggcaunn−3’(配列番号8)
    #4 5’−uagcacuucucgcggcuccgcnn−3’(配列番号10)
    #5 5’−cgagcuagcacuucucgcggcnn−3’(配列番号12)
    #6 5’−uggacgaaaaguuucagugcgacgcnn−3’(配列番号14)
    #7 5’−agaaguuggacgaaaaguuucagugnn−3’(配列番号16)
    #8 5’−gaaguuggacgaaaaguuucagugcnn−3’(配列番号18)
    #9 5’−ggacgaaaaguuucagugcgacgccnn−3’(配列番号20)
    #10 5’−uuggacgaaaaguuucagugcgacgnn−3’(配列番号22)
    #11 5’−agaaguuggacgaaaaguuucagugnn−3’(配列番号61)
    #12 5’−aguuucagugcgacgccgcgagcccnn−3’(配列番号63)
    #13 5’−gaagcgagaacagcccagaaguuggnn−3’(配列番号65)
    #14 5’−agcaaggcaaggcuccaaugcacccnn−3’(配列番号67)
    #15 5’−agagcagcaaggcaaggcuccaaugnn−3’(配列番号69)
    #16 5’−cgagcuagcacuucucgcggcuccgnn−3’(配列番号71)
    #17 5’−cgcggaccacggcuccuccgaagcgnn−3’(配列番号73)
  5. 前記アンチセンスが、下記(D6)〜(D8)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸である、請求項1から3のいずれか一項に記載のp53発現促進方法
    D6)配列番号1における694番目−714番目の配列に相補的な配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
    (D7)配列番号1における693番目−714番目の配列に相補的な配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
    (D8)前記(D6)または(D7)の核酸において、1若しくは数個の塩基が、置換、欠失、挿入または付加された塩基配列からなり、かつ、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAに結合可能である核酸
  6. 前記アンチセンスが、配列番号74の配列からなるDNAであり、前記デコイ核酸が、配列番号93の配列からなるDNAである、請求項1記載のp53発現促進方法。
  7. egf−A遺伝子のエキソン1から転写されるRNAと、p53遺伝子から転写されるmRNAとの結合を阻害する結合阻害剤として、siRNA、アンチセンス、デコイ核酸およびこれらをコードするDNAが挿入された発現ベクターからなる群から選択された少なくとも一つを含み、
    前記siRNAおよび前記アンチセンスが、vegf−A遺伝子から転写されるRNAのうち下記(1)〜(13)からなる群から選択された少なくとも一つをターゲットするsiRNAおよびアンチセンスであり、
    前記デコイ核酸が、下記(D1)〜(D5)および(D8)のデコイ核酸
    からなる群から選択された少なくとも一つの核酸であることを特徴とするp53発現促進剤。
    (1)配列番号1における600番目−879番目の配列
    (2)配列番号1における659番目−879番目の配列
    (3)配列番号1における659番目−780番目の配列
    (4)配列番号1における659番目−752番目の配列
    (5)配列番号1における659番目−745番目の配列
    (6)配列番号1における694番目−714番目の配列
    (7)配列番号1における693番目−714番目の配列
    (8)配列番号1における691番目−703番目の配列
    (9)配列番号1における711番目−723番目の配列
    (10)配列番号1における16番目−780番目の配列
    (11)配列番号1における659番目−917番目の配列
    (12)配列番号1における526番目−1104番目の配列
    (13)配列番号45における526番目−1216番目の配列
    (D1)配列番号2における462番目−481番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
    (D2)配列番号2における462番目−482番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
    (D3)配列番号2における462番目−491番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
    (D4)配列番号2における462番目−505番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
    (D5)配列番号2における252番目−551番目の配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
    (D8)前記(D1)〜(D5)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸において、1若しくは数個の塩基が、置換、欠失、挿入または付加された塩基配列からなり、かつ、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAに結合可能である核
  8. 前記ターゲットが、前記vegf−A遺伝子のエキソン1から転写される5’UTR RNAである、請求項7記載のp53発現促進剤。
  9. 前記ターゲットが、前記5’UTR RNAにおける配列番号1における600番目−879番目の配列またはその一部である、請求項8記載のp53発現促進剤。
  10. 記siRNAのアンチセンス鎖が、下記(#1)〜(#17)からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項7から9のいずれか一項に記載のp53発現促進剤。
    #1 5’−agcaaggcaaggcuccaaugcnn−3’(配列番号4)
    #2 5’−agagcagcaaggcaaggcuccnn−3’(配列番号6)
    #3 5’−cacgaccgcuuaccuuggcaunn−3’(配列番号8)
    #4 5’−uagcacuucucgcggcuccgcnn−3’(配列番号10)
    #5 5’−cgagcuagcacuucucgcggcnn−3’(配列番号12)
    #6 5’−uggacgaaaaguuucagugcgacgcnn−3’(配列番号14)
    #7 5’−agaaguuggacgaaaaguuucagugnn−3’(配列番号16)
    #8 5’−gaaguuggacgaaaaguuucagugcnn−3’(配列番号18)
    #9 5’−ggacgaaaaguuucagugcgacgccnn−3’(配列番号20)
    #10 5’−uuggacgaaaaguuucagugcgacgnn−3’(配列番号22)
    #11 5’−agaaguuggacgaaaaguuucagugnn−3’(配列番号61)
    #12 5’−aguuucagugcgacgccgcgagcccnn−3’(配列番号63)
    #13 5’−gaagcgagaacagcccagaaguuggnn−3’(配列番号65)
    #14 5’−agcaaggcaaggcuccaaugcacccnn−3’(配列番号67)
    #15 5’−agagcagcaaggcaaggcuccaaugnn−3’(配列番号69)
    #16 5’−cgagcuagcacuucucgcggcuccgnn−3’(配列番号71)
    #17 5’−cgcggaccacggcuccuccgaagcgnn−3’(配列番号73)
  11. 前記アンチセンスが、下記(D6)〜(D8)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸である、請求項7から9のいずれか一項に記載のp53発現促進剤
    D6)配列番号1における694番目−714番目の配列に相補的な配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
    (D7)配列番号1における693番目−714番目の配列に相補的な配列からなるRNA、または、前記配列において、塩基uが塩基tに置換された配列からなるDNA
    (D8)前記(D6)または(D7)の核酸において、1若しくは数個の塩基が、置換、欠失、挿入または付加された塩基配列からなり、かつ、vegf−A遺伝子のエキソン1から転写されたRNAに結合可能である核酸
  12. 前記アンチセンスが、配列番号74の配列からなるDNAであり、前記デコイ核酸が、配列番号93の配列からなるDNAである、請求項7記載のp53発現促進剤。
  13. p53の発現を促進する発現促進剤のスクリーニング方法であって、
    下記(A)工程〜(C)工程を有することを特徴とするスクリーニング方法。
    (A) 候補物質の存在下、配列番号1に示すvegf−A mRNAにおける694番目−714番目の配列からなるp53mRNA結合剤と、配列番号2に示すp53 mRNAにおける462番目−481番目の配列からなるvegf−A RNA結合剤とを接触させる工程
    (B) 前記候補物質による、前記p53mRNA結合剤と前記vegf−A RNA結合剤との結合の阻害を検出する工程
    (C) 前記p53mRNA結合剤と前記vegf−A RNA結合剤との結合を阻害した候補物質を、p53発現促進剤として選択する工程。
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