JP5273657B2 - 薬剤徐放性製剤とその製造方法 - Google Patents
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Description
一方、アルギン酸ナトリウムやコラーゲンなどの生体親和性高分子化合物を架橋することにより得られるハイドロゲルもまたゲル内に薬剤を封入でき、また、緩徐に分解して薬剤を放出できるため、医薬のみならず、食品、化粧品にも用いられている。また、両者のハイブリッド材料も開発されている。
アパタイト/アルギン酸複合体を薬剤放出粒子として用いる報告として、W.Paul,C.P.Sharma,J.Mater.Sci.Lett.,16(1997)2050−2051には、ゲンタマイシン(gentamicin)を水酸アパタイト/アルギン酸複合マイクロ粒子から徐放させることが開示されている。この複合マイクロ粒子は、200〜400μmの水酸アパタイト粒子をゲンタマイシン溶液に浸漬し、乾燥させることで薬剤との複合体化を行い、これをアルギン酸溶液と混合後、一軸圧縮して作製されているが、薬剤の徐放時間は24時間程度にすぎない。E.Krylova,A.Ivanov,V.Orlovski,G.El−Registan,S.Barinov,J.Matei,Sci.:Mater.Med.,13(2002)87−90では、アパタイト粒子をアルギン酸溶液と混合し、硬化水溶液に滴下・乾燥後、エタノールに分散させた薬剤(Biocide1)を該乾燥粒子表面に滴下することによって製剤化しているが、徐放時間について、従来に比し向上しているものとの確認はできていない。M.Sivakumar,K.P.Rao,J.Biomed.Mater.Res.,65A(2003)222−228では、珊瑚由来の水酸アパタイトとアルギン酸との混合溶液を、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)溶液に滴下・攪拌させた後に架橋剤として塩化カルシウムを加えて複合マイクロ粒子を作製している。本文献では、薬剤の複合マイクロ粒子への担持は、薬剤を溶解させたリン酸緩衝溶液に該粒子を浸漬させることによって行われており、徐放時間については0次元放出(3日程度)と記載されている。また、C.C.Ribeiro,C.C.Barrias,M.A.Barbosa,Biomater.,25(2004)4363−4373では、アパタイト/アルギン酸複合体による薬物送達(DDS)には、薬剤の担持方法が重要であり、薬剤(酵素)をアパタイト粒子に吸着させてからアルギン酸と複合させる方法が最も徐放性に優れていたことが報告されている。
このように、薬剤をアパタイト/アルギン酸複合体へ担持させるためには様々な方法が試みられているが、その薬剤徐放性については、せいぜい数時間から数日間にすぎない。しかしながら、薬剤が抗癌剤である場合は、このような徐放性では足りず、少なくとも14日以上の長期間の徐放性が要求される。これまで、抗癌剤の徐放製剤に関する研究も行われており、その多くは高分子素材を中心とした粒子である。代表的には酢酸リュープリンをポリ乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)のような生体分解性高分子に封入したマイクロカプセル粒子があるが、疎水性であるが故に細胞接着性に乏しいという欠点がある。さらに、抗癌剤のなかには水難溶性のものが多く、その水溶液を調製して複合体に含浸させることが困難である。
また、本発明のさらなる課題は、骨転移した癌組織を対象とする場合にも、骨組織との親和性が優れ、骨形成を阻害せず、骨内移植に耐えられる材料強度を保持するとともに、骨欠損部位の形状に適合可能な変形特性を有している薬剤徐放性製剤とその製造方法を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の発明を提供するに至った。
(1)薬剤が周囲に乾燥固着されたリン酸カルシウムナノ結晶の凝集体からなる多孔質リン酸カルシウム粒子が、生体親和性高分子マトリックス中に多数含有されており、前記薬剤が抗癌剤であり、前記生体親和性高分子がアルギン酸であり、前記多孔質リン酸カルシウム粒子が粒子径1×10 2 μm以下、比表面積30m 2 /g以上の球形粒子であり、薬剤徐放性製剤が1〜3mmの大きさの粒状であることを特徴とする、薬剤徐放性製剤。
(2)前記薬剤が水難溶性の薬剤であることを特徴とする、(1)に記載の薬剤徐放性製剤。
(3)前記リン酸カルシウムが、カルシウムとともに、あるいはカルシウムの一部に置換して、マグネシウム、亜鉛、ストロンチウム、およびバリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の二価金属を含有することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の薬剤徐放性製剤。
(4)前記抗癌剤が14日以上放出されることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の薬剤徐放性製剤。
(5)前記リン酸カルシウムナノ結晶の粒子径が1〜1×103nmであることを特徴とする、(1)から(4)のいずれかに記載の薬剤徐放性製剤。
(6)以下の工程を含む、(1)から(5)のいずれかに記載の薬剤徐放性製剤の製造方法。
(a)リン酸カルシウムナノ結晶と、抗癌剤の薬剤との水/有機溶媒分散懸濁液をスプレイドライし、薬剤を周囲に加熱固着したリン酸カルシウムナノ結晶の凝集体からなる多孔質リン酸カルシウム粒子を得る工程、
(b)上記多孔質リン酸カルシウム粒子をアルギン酸の生体親和性高分子水溶液に混合分散した後、硬化水溶液に滴下し、生体親和性高分子マトリックス中に前記粒子を含有させた目視可能な大きさの生体親和性高分子粒子を作る工程、
(c)上記生体親和性高分子粒子を回収・洗浄する工程、
(d)上記生体親和性高分子粒子を乾燥する工程。
(7)硬化水溶液が、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、及び亜鉛から成る群から選ばれる二価金属の塩の水溶液であることを特徴とする、(6)に記載の方法。
図2は、パクリタキセル含有(2.4%)アパタイト粒子(試料B)の粒度分布測定結果を示す。
図3は、スプレイドライ処理で得られた各粒子の熱分析(TG−DTA)を示す(試料A:パクリタキセルなし、試料B:パクリタキセル2.4%、試料C:パクリタキセル7.3%)。
図4は、スプレイドライ処理で得られた各粒子のIRスペクトルを示す(試料A:パクリタキセルなし、試料B:パクリタキセル2.4%、試料C:パクリタキセル7.3%)。
図5は、作製した粒子の圧縮前と圧縮後の形態の写真を示す(左側:圧縮前、右側:90%圧縮後)。
図6は、硬化水溶液浸漬時間による作製した粒子の圧縮強度変化を示す。
図7は、作製した粒子の直径と強度の相関を示す。
図8は、作製した粒子のアパタイト含有量による圧縮強度変化を示す。
図9は、作製した粒子のアルギン酸濃度による圧縮強度変化を示す。
図10は、作製したパクリタキセル含有粒子製剤のTween−80を添加したPBS(+Ca,Mg)中での薬剤溶出試験の結果を示す。
図11は、パクリタキセル含有粒子と培養した細胞の写真を示す((a)一週目、(b)四週目)。
図12は、局所治療群とコントロール群の下肢運動機能評価(B−B−Bスコア)結果を示す。
図13は、局所治療群とコントロール群のKaplan−Meier生存曲線を示す。
図14は、ラット乳癌脊椎転移モデルの病理組織切片の図を示す(左図:正常脊柱管、右図:腫瘍組織が侵入した組織)。
図15は、ラット乳癌脊椎転移モデルの脊椎の断面図(腫瘍に冒された脊椎、H&E染色×40)を示す(SC:脊髄、VB:椎体、T:腫瘍)。バー=500μm。
図16は、バリウムイオンで架橋した水酸アパタイト−アルギン酸粒子の断面のSEM写真およびEDX分析を示す。
図17は、バリウムイオンで架橋した水酸アパタイト−アルギン酸粒子の膨張率を示す。
図18は、バリウムイオンで架橋した水酸アパタイト−アルギン酸粒子からのパクリタキセルの累積放出量を示す。
以下、本発明を詳細に説明する。本願は、2006年7月10日に出願された日本国特許出願2006−189259号の優先権を主張するものであり、該特許出願の明細書に記載される内容を包含する。
以下に、本発明について詳細に述べる。
(1)薬剤徐放性製剤
本発明の薬剤徐放性製剤は、薬剤が周囲に乾燥固着されたリン酸カルシウムナノ結晶の凝集体からなる多孔質リン酸カルシウム粒子が、生体親和性高分子のマトリックス中に多数包含されていることを特徴とする。
本発明の薬剤徐放性製剤は粒状であり、その大きさは、リン酸カルシウムの混合量・生体親和性高分子濃度・滴下装置の針の径・液滴の大きさ・滴下方法・硬化水溶液の種類・濃度及び硬化時間などによって制御できるが、目視可能な大きさ、具体的には0.1〜5mm、好ましくは1〜3mm程度である。
なお、上記の「大きさ」とは、最低5個以上のゲル粒子の粒子径を測定して平均を算出することにより得られる値をいう。
本発明の薬剤徐放性製剤に包含される多孔質リン酸カルシウム粒子は、上記のようにリン酸カルシウムナノ結晶と薬剤との水/有機溶媒分散懸濁液をスプレイドライすることによって作製され、焼成は行わない。従って、焼成による比表面積の低下がなく、その比表面積は30m2/g以上、好ましくは50m2/g以上である。
本発明において、「リン酸カルシウム」とは、一般式Ca10(PO4X)6Y2(Xは炭酸基または欠損を、Yは水酸基、炭酸基、ハロゲン基、または欠損を示す)で表される水酸アパタイト、炭酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイトなどを含む概念である。また、カルシウムとともにまたはカルシウムの一部に置換して、マグネシウム、亜鉛、ストロンチウム、およびバリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の二価金属を含有してもよい。
前記多孔質アパタイト粒子は球形のマイクロ粒子であり、その粒子径は1×102μm以下、好ましくは1〜5×10μmである。
生体親和性高分子としては、たとえば、アルギン酸ナトリウム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、デキストランナトリウム、カラギーナン、ベクチン、キトサン、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、およびこれらの誘導体からなる群より選ばれる多糖類が挙げられ、これらの1種であっても2種以上の組み合わせであってもよい。このうち、アルギン酸ナトリウムが最も好ましい。
本発明の薬剤徐放性製剤における薬剤の含有量は徐放期間によって異なるが、リン酸カルシウム重量に対して1×10−3〜1×102重量%、好ましくは1〜5×10重量%である。
また、本発明の薬剤徐放性製剤が十分な強度を有するためには、該粒子中の多孔質リン酸カルシウム粒子の含有量は1〜5×10重量%、好ましくは1×10〜3×10重量%、生体親和性高分子の含有量は1×10−3〜1×10重量%、好ましくは1〜3重量%とすることが例示できる。
本発明の薬剤徐放性製剤の徐放性は、生体親和性高分子の種類、生体親和性高分子の濃度、アパタイト含有量などにより制御でき、少なくとも14日以上、好ましくは、30日以上にわたる徐放が可能である。
(2)薬剤徐放性製剤の製造方法
本発明の薬剤徐放性製剤は、次のような方法で製造できる。
まず、リン酸カルシウムナノ結晶と薬剤との水/有機溶媒分散懸濁液をスプレイドライし、薬剤を結晶周囲に乾燥固着させ、この結晶の凝集体である多孔質リン酸カルシウム粒子を作製する。
ここで用いるリン酸カルシウムナノ結晶としては、その粒子径が1〜1×103nm、好ましくは1×10〜1×102nmのものであればよく、その製造は、例えば、水酸アパタイトナノ結晶を製造する場合、湿式法で行うことが好ましく、下式に従い行うことができる。
10Ca(OH)2+6H3(PO4)3→Ca10(PO4)6(OH)2
薬剤を分散させる有機溶媒としては、薬剤の種類に応じて用いる有機溶媒の種類、水との比率を決定すればよいが、例えば、有機溶媒としては、エタノール、メタノール等を用いることができ、水と有機溶媒の混合比は1×104:1〜1:1×104の範囲とすればよい。
薬剤の種類としては、特に限定はされないが、水溶液の形態にしてリン酸カルシウム粒子に含浸させることが困難である水難溶性薬剤も使用できる。この内、水難溶性の抗癌剤としては、例えば、パクリタキセル、アドリアマイシン、カンプトテシン、シスプラスチン、ダウノマイシン、ピノルビン、メトトレキセート、マイトマイシンC、エトポシド、ゲフィチニブ、塩酸イリノテカン、塩酸トポテカン、ドセタキソール、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、テニポシド、酒石酸ビノレルビン、ブスルファン、カルボコン、チオテパ、シクロホスファミド、メルファラン、リン酸エストラムスチンナトリウム、塩酸メクロレタミンオキシド、イホスファミド、ラニムスチン、塩酸ニムスチン、塩酸ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、ジノスタチンスチマラート、アクチノマイシンD、塩酸アクラルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸イダルビシン、塩酸アムルビシン、塩酸ダウノルビシン、ピラルビシン、塩酸エピルビシン、バルルビシン、メルカプトプリン、リン酸フルダラビン、クラドリビン、フルオロウラシル、テガフール、シタラビン、塩酸ゲムシタビン、シタラビンオクホスファート、カペシタビン、レンチナン、オキサリプラチンド、キシフルリジン、カルモフール、エノシタビン、ネダプラチン、カルボプラチン、塩酸ファドロゾール、アナストロゾール、エキセメスタン、ビカルタミド、フルタミド、クエン酸タモキシフェン、クエン酸トレミフェン、トレチノイン、ペントスタチン、L−アスパラギナーゼ、ダカルバジン、塩酸プロカルバジン、塩酸ミトキサントロン、ソブゾキサン、トラスツズマブ、リツキシマブ、メシル酸イマチニブ、5−フルオロ−2’−デオキシウリジン、アスクレ、カルボクリン、キノレスパン、クレスチン、ピシバニール、およびその誘導体などが挙げられるが、これらに限定はされない。また。上記の抗癌剤は一種を用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
スプレイドライは、例えばBuchi社、ヤマト科学社、大川原工業社などの二流体ノズル及び四流体ノズルを装備した市販の装置を用いて定法により行うことができるが、表面積を大きくするために、混合液を1〜5×102μm程度の微細な液滴にし、100〜300℃の熱風中に噴出させ、乾燥させる。
次に得られた多孔質リン酸カルシウム球形粒子を生体親和性高分子水溶液に混合分散した後、硬化水溶液に滴下し粒状にする。製造される粒子が十分な強度を有するために、この粒子を硬化水溶液に滴下したままで、1分〜2時間程度、硬化水溶液中に浸漬することが好ましい。
生体親和性高分子水溶液としては、前記の多糖類の水溶液を用いればよい。生体親和性高分子水溶液の濃度は、製造される粒子が十分な強度を有するためには、1×10−3〜1×10重量%、好ましくは1〜3重量%とする。また、多孔質リン酸カルシウム粒子は、生体親和性高分子水溶液に対し、1〜5×10重量%、好ましくは1×10〜3×10重量%とする。
硬化水溶液は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、及び亜鉛から成る群から選ばれる二価金属の塩の水溶液を用いることができる。塩は無機酸、有機酸の塩のいずれであってもよく、具体的には、塩化カルシウム、塩化亜鉛、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛等を用いることができるが、塩化カルシウムが特に好ましい。硬化水溶液における二価金属イオンの濃度は、1×10−3〜5mol/l、好ましくは2×10−2〜2mol/lとする。また、硬化水溶液は予めpH5〜8程度に調整するのが好ましい。
多孔質リン酸カルシウム球形粒子を生体親和性高分子水溶液に分散することによって、多孔質リン酸カルシウム球形粒子上に生体親和性高分子がコーティングされ、これを硬化水溶液に滴下すると、生体親和性高分子の金属塩(例えばアルギン酸カルシウム)が形成され、3次元の網目構造となりゲル化する。
多孔質リン酸カルシウム球形粒子を分散した生体親和性高分子水溶液を硬化水溶液に滴下する場合は、目的とする粒子の大きさにもよるが、滴下粒子が微細粒となるようにマイクロピペット、注射器等で滴下するのが好ましい。
最後に得られた粒子を回収・洗浄する。回収は濾過等によって行い、回収した粒子は、必要に応じてさらに分級することにより、所望の粒子径分布を有する粒子を得ることができる。
また、洗浄後、乾燥処理をすると、保存や滅菌の点で好ましい。乾燥は、例えば、0〜100℃で6〜12時間を行う。
(3)薬剤徐放性医薬
本発明の薬剤徐放性製剤は、少なくとも14日以上の長期間の徐放性を発揮する。また、当該薬剤徐放性製剤は、骨内に移植しても十分な強度を持ち、骨組織と親和性が優れるという機能を有する。従って、本発明の薬剤徐放性製剤は単独で、あるいは薬学的に許容される添加物とともに薬剤徐放性医薬、特には癌治療用薬剤徐放性医薬として用いることができる。治療対象となる癌の種類は、限定はされないが、骨に病変をつくる癌、例えば、骨肉種、軟骨肉腫、ユーイング肉腫などの原発性骨腫瘍、他の臓器・器官(肺、胃、乳腺、甲状腺、腎、前立腺など)の癌が骨に転移を起こした転移性骨腫瘍、骨髄腫やリンパ腫などの血液癌にも有効である。
本発明の薬剤徐放性医薬は、各種製剤形態に調製し、経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる。本発明の医薬を経口投与する場合は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等に製剤化するか、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。また、本発明の医薬を非経口投与する場合は、静脈内注射剤(点滴を含む)、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、皮下注射剤、坐剤などに製剤化し、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
これらの各種製剤は、製剤上通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等などを適宜選択し、常法により製造することができる。
本発明の徐放性医薬が薬剤として抗癌剤を含み、上記の癌治療に用いる場合は、投与経路としては、注射による投与が好ましく、剤型が注射剤であるのが好ましい。注射による投与としては、皮下投与、腹腔内投与、動脈投与、静脈投与等が例示できる。このうち、患部付近の動脈への動脈注射又は患部への直接投与が最も好ましい。また、本発明の徐放性医薬が薬剤として抗癌剤を含み、上記の癌治療に用いる場合は、癌の治療で用いられる他の薬剤を含有させてもよい。このような薬剤としては、リピオドール等の造影剤または血管閉塞剤、スタウロスポリン等のアポトーシス誘導剤、ステロイド、シクロスポリン等の免疫抑制剤、血管新生抑制剤、モルヒネ等の痛み止めのための麻薬等が例示できる。
本発明の医薬の投与量は、投与対象の年齢、性別、症状、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変えることができる。例えば、包含される薬剤の有効量ととして、一回につき体重1kgあたり0.01mg〜1000mgの範囲の投与量を選ぶことができ、1日1回から数回に分けて投与するのが好ましい。
0.25mol/lの水酸化カルシウム懸濁液(2リットル)中に0.15mol/lのリン酸水溶液(1リットル)を滴下してアパタイト懸濁液を合成した。合成した懸濁液を120℃で乾燥させてアパタイト含有量を測定し、懸濁液単位量当たりのアパタイト重量を算出した。150mgのパクリタキセル(タキソール;和光純薬社 Cat No.163−18614,Lot No.CEG1585,分子量853.91,assay 97%(HPLC))を100mlのエタノールに分散し、500mlのアパタイト懸濁液(約6gのアパタイト含有量)に混合した。得られたアパタイト/パクリタキセル/エタノール懸濁液、ならびにパクリタキセルを含有していないアパタイト/エタノール懸濁液をBuchi社製のスプレイドライヤーにより噴霧乾燥を行い、多孔質球形粒子を作製した(試料A:パクリタキセルなし、試料B:パクリタキセル2.4%含有)。作製した粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真像を図1に示す。SEM像より明らかなように、パクリタキセルの混合によらず、作製した粒子はいずれも球形を呈していた。100個の粒子から測長した粒子径(直径)は試料A(パクリタキセルなし)では3.31±0.83μm(最大6.1μm、最小1.9μm)、試料B(パクリタキセル2.4%含有)では3.42±1.13μm(最大9.1μm、最小1.8μm)であった。パクリタキセルの混合による粒子形態および粒子径への変化は観測されなかった。また、試料B(パクリタキセル2.4%含有)の粒度分布測定の結果を図2に示す。スプレイドライ処理した粒子はいずれも1から20μmに分布していることが分かる。この結果から、10μm以上の粒子は測定中に凝集した結果と考えられる。また、平均粒子径は試料A(パクリタキセルなし)では4.0±0.2μm、試料B(パクリタキセル2.4%含有)では4.0±0.2μmであった。従って、パクリタキセルを混合することで粒度分布に違いは観測されなかった。
また、300mgのパクリタキセルを50mlのエタノールに分散し、上記と同様の方法で合成したアパタイト懸濁液250ml(3gのアパタイト含有量)に混合した。混合したアパタイト/パクリタキセル/エタノール懸濁液をBuchi社製のスプレイドライヤーにより上記と同じ条件で噴霧乾燥を行い、パクリタキセル含有(7.3%)多孔質アパタイト球形粒子を合成した(試料C)。図1に試料Cの走査型電子顕微鏡(SEM)像も示す。
実施例1で作製した各粒子中に含まれるパクリタキセル含有量をUV法および熱分析法によりそれぞれ定量した。10mlの精製水/エタノール混合溶媒(50:50)に、試料B13.2、10.6、8mgを分散させて溶出させたパクリタキセルを230nmの波長で定量した。その結果、作製した粒子重量あたり2.4±0.2%含有していることが分かった。また、試料C4.26、6.03、7.19mgを同様の方法で定量を行った。その結果、粒子重量あたり7.3±0.4%含有していることが分かった。
また、熱分析測定の結果を図3に示す。これより、アパタイト単体(試料A)の熱分析では1200℃までなだらかな重量減少が観測された。重量減少は11.6wt%であり、発熱は殆ど観測されなかった。パクリタキセルを含有する試料(試料B、C)では、242、347、455℃に発熱ピークが観測された。1200℃までの重量減少は、それぞれ13.6%(試料B)と19.6%(試料C)であった。パクリタキセル含有量は、重量減少(試料B−試料A、試料C−試料A)の引き算により算出した。その結果、パクリタキセル含有量は2.0wt%(試料B)と8.0wt%(試料C)であった。これらの結果はUV測定と良く一致していた。
実施例1で作製したパクリタキセル含有多孔質アパタイト球形粒子のFT−IR分析の結果を図4に示す。パクリタキセルに起因する吸収ピークが1742、1711、1577、1347、1316、1276、1244、907、773、708cm−1にそれぞれ観測された。また、パクリタキセル含有量の違いによりこれら吸収ピーク強度が増加していることが明らかであった。また、1490、1453、1422cm−1に炭酸基に帰属できる吸収ピークが観測された。これは、炭酸基がアパタイト構造中の水酸基やリン酸基に置換していることを示すものである。
アルギン酸ナトリウム(和光純薬社製;粘度500−600cps(1w/v%.20℃)、pH7.3))を用いて1%アルギン酸水溶液を調製した。セルマスター(As one社製)により、アルギン酸ナトリウムを精製水に機械的に混合後、12,000rpmにて10分間の遠心分離(トミー精工社製)を行い、不溶解物の除去と脱泡を行った。10mlのアルギン酸水溶液に実施例1で作製した純粋な多孔質アパタイト球形粒子(試料A)1gを混合した。この混合溶液をマイクロピペット(200μl)を用いて、硬化水溶液(2mol/lの塩化カルシウム溶液100ml)中に滴下した。得られた粒子はいずれも球形の形態であった。硬化水溶液に浸漬する時間を10分、1、2、4、24時間と変化させて、時系列的な強度変化(圧縮試験)を検討した。テクスチャーアナライザーを用いて、精製水中にプローブを速度0.1mm/sで押し込み、90%圧縮を行った。作製した粒子の外形と圧縮試験後の粒子の形態を図5に示す。
作製した25個(時系列当たり5個)の粒子の平均粒子直径もテクスチャーアナライザーにより計算した。その平均値は2.04±0.03mm(最大粒子直径:2.07mm、最小粒子直径:1.90mm)であった。また、10、20、30%の歪応力を与えた場合の強度の時系列変化を図6に示す。10分の浸漬でも十分に扱いやすい強度を持った粒子が得られた。硬化水溶液に浸漬する時間を変化させることで圧縮強度は若干上昇した。
実施例4と同様にして、1%アルギン酸水溶液10mlに対して純粋な多孔質アパタイト球形粒子(試料A)1gを混合した。この混合溶液を、実施例4と同様の硬化水溶液に滴下して10分間浸漬し、粒子の直径のみを変化させた粒子を50個作製した。実施例4と同じ条件で圧縮強度試験を行った。図7に粒子直径と強度の相関図を示す。横軸に2mm直径で規格化した値を、縦軸に最小強度で規格化した値を示す。作製した粒子の直径は、1.47から2.69mmの範囲である。図7に示したように直径と強度の相関は、一次関数で近似できる。回帰曲線分析の結果、Y=1.0073X R=0.95であった。材料強度が直径に依存することが明らかであった。
実施例4と同様に調製した1%アルギン酸水溶液に対して5,10,20,30,40wt%の純粋な多孔質アパタイト球形粒子(試料A)を混合し、実施例4と同様の硬化水溶液に滴下して10分間浸漬し、粒子を作製した。得られた粒子を洗浄し、同様にテクスチャーアナライザーにより圧縮強度試験を行った。各アパタイト濃度で作製した粒子の大きさは、1.81±0.03、2.02±0.04、2.11±0.04、2.21±0.01.2.13±0.03mmであった。大きさによる強度を補正するため、直径を2mmに補正してプロットした(図8)。アパタイト含有量を増加させることで直線的に強度が高くなることが分かった。
1、2、3%のアルギン酸水溶液に対してそれぞれ10wt%の純粋な多孔質アパタイト球形粒子(試料A)を混合し、実施例4と同様の硬化水溶液に滴下して10分間浸漬し、粒子を作製した。同様に圧縮強度試験を行い、2mm直径で規格化した。その結果を図9に示す。図中の%表示は歪み値である。アルギン酸濃度が増加するに従い、対荷重強度が明らかに増加した。
実施例4と同様の混合・滴下条件にて、各硬化水溶液(塩化カルシウム水溶液、塩化ストロンチウム水溶液、塩化バリウム水溶液)に10分間浸漬させて、粒子を作製した。実施例4と同じ条件で圧縮強度試験を行った。大きさによる強度を補正するため、直径を2mmに規格化した。各硬化水溶液で作製した粒子の90%歪みに必要な荷重は、1016±77、1303±45、1584±126gであった。硬化水溶液によって、粒子の強度を増加できることが明らかであった。
実施例1で作製したパクリタキセル含有多孔質アパタイト球形粒子(パクリタキセル7.3%含有)を用いて、実施例4と同様の方法で粒子(アルギン酸濃度1%;アルギン酸水溶液に対して10wt%アパタイト含有)を作製し、本発明の製剤として得た。得られた粒子製剤について、水/エタノール(50/50)を用いてパクリタキセルの溶出試験を行った。5mlの溶液に1個の粒子製剤を加えて12時間まで静置した。上清を採取し、UV測定(波長:230nm)を行った。その結果、粒子製剤からすべてのパクリタキセルが溶出するには、最低6時間必要であった。一方、1.3mgのパクリタキセルを4mlの溶液に浸漬した場合、わずか1時間以内にすべてのパクリタキセルが溶出した。従って、アルギン酸ゲルによるパクリタキセル含有多孔質アパタイト球形粒子のコーティングは、薬剤徐放に有効であることが明らかであった。
同様に、実施例1で作製したパクリタキセル含有多孔質アパタイト球形粒子(パクリタキセル2.4%含有)を用いて、実施例4と同様の方法で粒子(アルギン酸濃度1%;アルギン酸水溶液に対して10wt%,20wt%アパタイト含有)を作製した。得られた粒子(直径約2mm)中に含まれるパクリタキセル量は、水/エタノール(50/50)に5個の粒子を加えて上澄みのUV測定(波長:230nm)から計算した。10、20wt%アパタイト含有粒子製剤には、それぞれ0.035mg/個及び0.08mg/個のパクリタキセルが含有されていた。リン酸緩衝溶液(PBS)に0.25mMのカルシウムと0.15mMのマグネシウムと0.1wt%のTween−80を加えた溶液20mlに対して1個の粒子製剤を加えて、1、2、12、24時間攪拌を行った。遠心分離により上澄みを採取し、UV測定(波長:230nm)を行った。その結果を図10に示す。いずれも24時間で約20%から30%の徐放量であった。
培養癌細胞としてCRL−1666乳腺癌細胞株(Rockvill,MA,USA)を用いた。細胞は10% fetal bovine serumと80.5pg/mlのstreptomycinならびに80.5U/ml penicillinと1% L−glutamineを添加したDulbecco Modified Eagle Medium(全ての製品はfrom Gibco InvitrogenTM Corp,CA,USAより購入)にて、37℃で5% CO2加湿気圧の条件で培養した。106cells/mlの濃度でおよそ3日毎に培地交換を行った。
一方、実施例9で作製したパクリタキセル7.3%含有粒子(アルギン酸濃度1%;アルギン酸水溶液に対して10wt%アパタイト含有)を室温にて24時間乾燥させて乾燥体を得た。この乾燥体を上記の培養細胞と共培養した。顕微鏡下において2日目から細胞の減少を認め、その効果は4週を経過しても維持されていた。図11に細胞培養の写真((a)一週目、(b)四週目)を示す。
(1)ラット乳癌脊椎転移モデル
CRL−1666乳腺癌細胞株(Rockvill,MA,USA)を用いた。細胞は10% fetal bovine serumと80.5pg/mlのstreptomycinならびに80.5U/ml penicillinと1% L−glutamineを添加したDulbecco Modified Eagle Medium(全ての製品はfrom Gibco InvitrogenTM Corp,CA,USAより購入)にて37℃で5% CO2加湿気圧の条件で培養した。106cells/mlの濃度でおよそ3日毎に培地交換を行った。コンフルエントとなった細胞は0.01M EDTAで剥がし、増殖期の細胞を、8週齢の雌Fischer344ラット(体重150−180g、Charles River Laboratories,JAPAN)の腹側の皮下に1ml=1×106個注入し、移植用固形腫瘍片を作製した。注入後10日目の腫瘍塊を摘出し、滅菌生理食塩水中に入れて1×1×1mm大にした。CRL−1666固形腫瘍片をラットの腰椎に移植し、ラット乳癌脊椎転移モデルを得た。
得られたラット乳癌脊椎転移モデルを、コントロール群と局所治療群に分けた。コントロール群のラットは腫瘍片を入れた骨孔をパクリタキセル非含有粒子製剤で塞いだ。局所治療群は実施例9で作製したパクリタキセル2.4%含有粒子(アルギン酸濃度1%、アルギン酸水溶液に対して10wt%アパタイト含有)を投与した。下記の各試験を行い、log−rank検定を用いてコントロール群と局所治療群を比較した。統計学的評価は、P<0.05を有意差ありとした。
(2)下肢運動機能評価
各群の下肢運動機能評価をBasso−Beattie−Bresnahan locomotor rating scale(B−B−Bスコア)を用いて連日行った。B−B−Bスコアはラット歩容を21点満点でスコア化したものである。ラットを57×38×30cmのプラスティックの囲いの中に入れて4分間観察した。腫瘍増殖の初期にはつま先や踵の回旋が見られ、20点から14点に相当する。神経脱落症状が出ると踏み外しや跛行が出現し、13点から8点に相当する。脊髄圧迫が進行すると下肢の持続的な運動が見られなくなり7点から0点に相当する。すべてのテストは2重盲目試験で行った。コントロール群は先に報告されたと同様に約2週で下肢麻痺を生じて死に至った。術後15日での平均B−B−B scaleはコントロール群が5.2日、局所治療群が16.4日であった(図12)。
(3)麻痺発生期間
麻痺発生までの期間を無病期間(Disease−free time)として、Kaplan−Meier曲線で表し、コントロール群と局所治療群で比較した。麻痺発生までの平均期間は、コントロール群と局所治療群がそれぞれ11.8、20.8日であり、局所投与群で有意に延長していた(P=0.006)。
(4)生存期間
各群の生存率をKaplan−Meier曲線で表し、平均生存期間をコントロール群と局所治療群で比較した。コントロール群と局所投与群の平均生存期間はそれぞれ14.0日と21.6日で、局所投与群では最長で32日と統計学的に有意な生存期間の延長を認めた(P=0.014、図13)。
以上のように、パクリタキセル含有アパタイトゲル製剤は、ラット乳癌脊椎転移モデルで脊椎麻痺の発生を有意に延長し、生存率を改善した。
(5)平均腫瘍重量(腫瘍サイズ)
骨外と骨内の腫瘍を区別して評価した。骨外腫瘍は椎体外軟部組織増殖で評価し、腫瘍の最大径(a)×最小径(b)を求め、0.5ab2*の式から腫瘍重量(mg)を算出した。全例の骨外病変(椎体外軟部組織)腫瘍重量を下記表1に示す。実験終了時のコントロール群と局所治療群の平均腫瘍重量は、それぞれ6.14gと6.09gであり、統計学的有意差はなかった。
切開した脊柱と腫瘍を10% ホルマリン溶液で固定し、脱灰させ、パラフィン包埋した。腫瘍を含む脊柱を水平方向にカットした3μmの切片を、ヘマトキシリン・エオシン染色(H&E染色)した。椎体浸潤と脊柱管内占拠の程度を評価した。H&E染色した脊椎の横断切片では腫瘍の強い浸潤像を認め、腫瘍は脊柱管内を広汎に占拠し、脊髄を圧迫していた(図14、図15)。
(7)X線学的評価
実験終了時に骨融解性病変を評価するためにSOFTEX CSM−2 type(SOFTEX CO.,Tokyo JAPAN)X−ray systemを用いてX線学的評価を行った。現像機はKonica SRX−101を使用した。ラットは椎体そのものが小さく、骨融解性病変の評価が困難で、B−B−B scaleによる下肢運動機能評価の方が腫瘍増殖を質的、空間時間的によく反映していた。
実施例11と同様な方法でラット乳癌脊椎転移モデル(130−180gのFischer344ラットで8週齢のメス)を作製し、コントロール群、全身治療群(5mg/Kgのパクリタキセルを術後1,7,14日に尾静脈から投与)、局所治療群に分類した。局所治療群には、パクリタキセル7.2wt%含有粒子(アルギン酸濃度1%;アルギン酸水溶液に対して10wt%アパタイト含有)の乾燥体を用いた。評価方法は、実施例11と同様な方法にて行った。
(1)下肢運動機能評価
コントロール群のラットは平均9日で麻痺が発生し始め、平均14.75日で死亡した。全身治療群と局所治療群はそれぞれ平均10.4日、12.8日で麻痺が発生し始め、それぞれ平均14.22日、17.45日で死亡した。
(2)麻痺発生期間
単変量解析を用いて治療群(全身治療群と局所治療群)とコントロール群を比較すると、局所治療群では麻痺発生までの期間が12.8日とコントロール群の9日と比較して有意に延長していた(P<0.05、P=0.044)。一方、全身治療群は統計学的な有意差を認めなかった。麻痺進行の程度を実験開始から1週、1週から2週まで、2週以降に分けてANOVA解析による分散分析とFischer’s PLSD検定を用いて3群間を評価した。1週目には3群間に有意差なかったが、1週から2週ではコントロール群と比較して全身投与群と局所投与群は有意に麻痺の進行が遅延していた(P=0.046とP=0.039)。2週目以降は局所治療群の麻痺の進行が、コントロール群と全身治療群と比較して有意に遅延していた(P=0.0028とP=0.0025)。
以上のように、局所投与群で有意に麻痺発生までの期間が延長しており、しかも全身治療群で認めたような抗癌剤の毒性を示す症例はなかった。
(3)生存期間と体重変化
単変量解析を用いて治療群(全身治療群と局所治療群)とコントロール群の生存期間を比較すると統計学的な有意差を認めなかった(コントロール群14.75日、全身治療群14.22日、局所治療群17.45日;コントロール群に対して全身治療群、局所治療群のp値はそれぞれ0.78、0.15)。
また、実験開始時のラットの平均体重は144.1g(129−181g)であった。2週目の体重が計測可能であったラットを対象として、各群の体重変化をpaired t testを用いて評価した。全身治療群では、コントロール群ともに実験開始時と2週で統計学的に有意な違いは認めなかったが、局所投与群は2週での体重変化が少ない傾向を示していた。一方、全身治療群とコントロール群は実験開始時と比較して体重が減少する傾向にあった(コントロール群3.2g、全身治療群5.3g、局所治療群0.18g;全身治療群に対してコントロール群、局所治療群のp値はそれぞれ0.62、0.16)。
粒子の内部構造はプラチナにてスパッタ被覆した後、走査型電子顕微鏡(SEM)とEDXにて調べた。機械特性はテクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems,UK)を用いて調べた。圧縮強度は、速度0.1mm/sの円筒プローブ(5.0mm直径)を用いて測定した。粒子の膨張率は下式によってD−PBS中で測定した。
膨張率=(W0−Wd)/Wd
(式中、W0とWdは膨張粒子および乾燥粒子の重量をそれぞれ示す。)
パクリタキセル放出の挙動は1% Tween−80含有D−PBS中、37℃にて調べた。パクリタキセルの量は、移動相がアセトニトリルと水(体積比60:40)からなり、流速が1.0ml/minである高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって定量した。パクリタキセルはUV検出器を用いて227nmにて検出した。
図16は、バリウムイオンで架橋した水酸アパタイト−アルギン酸粒子の断面のSEM写真およびEDX分析を示す。A1H40−BaのSEM写真は1〜10μmの粒子径を有する水酸アパタイトのマイクロ粒子が粒子内に均一に分散していることを示した。A1H05−BaおよびA3H05−Ba上には、水酸アパタイトのマイクロ粒子が現れなかった。一方、EDX分析では調べたすべての種類の粒子に水酸アパタイトのマイクロ粒子の均一な分散が示された。アルギン酸と架橋したバリウムイオンもまた粒子中に均一に分散していた。これらの結果は、得られた水酸アパタイト−アルギン酸粒子がその組成に関係なく均一であることを支持するものである。
また、水酸アパタイト−アルギン酸粒子の圧縮強度は、A1H40−Ba<A1H05−Ba<A3H05−Baの順で増加した。この結果は、水酸アパタイトに対するアルギン酸の割合が大きくなるほど、圧縮強度が増加することを示す。水酸アパタイトに対するアルギン酸の割合は、水酸アパタイト含有量よりも圧縮強度により影響を与えた。本発明者らによる先の研究において、水酸アパタイト−アルギン酸粒子は圧縮したときアルギン酸のために形状が崩れやすいことが見出されている。これに対し、本発明において得られた水酸アパタイト−アルギン酸粒子はゲルの脱水に伴って堅固になることがわかった。
図17は、バリウムイオンで架橋した水酸アパタイト−アルギン酸粒子の膨張率を示す。膨張特性は粒子の組成によって異なっていた。水酸アパタイトに対するアルギン酸の割合が高いほど膨張が良好であった。この結果は、アルギン酸の強い水和性によるものであると考えられた。
図18は、バリウムイオンで架橋した水酸アパタイト−アルギン酸粒子からのパクリタキセルの累積放出を示す。パクリタキセルは徐々に粒子から培養液に放出された。A1H05−BaとA3H05−Baの放出挙動は同じであった。A3H05−Baの膨張率はA1H05−Baよりも高いことから(図17)、パクリタキセルの放出挙動は粒子の膨張率には関係ないことがわかった。
A1H20−Baからの放出挙動はA1H05−BaとA3H05−Baはほとんど同じであったが、5時間後には、A1H05−BaとA3H05−Baはパクリタキセルの放出が認められなったのに対し、A1H20−Baは依然として多くのパクリタキセルの放出していた。よって、パクリタキセルの放出挙動は水酸アパタイト−アルギン酸粒子への担持量によると考えられた。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書に組み入れるものとする。
また、本発明の薬剤徐放性製剤は、骨内に移植しても十分な強度を持ち、骨組織と親和性が優れ、徐放効果も変わらない。さらに、このような薬剤徐放性製剤を製造するに当たり、スプレイドライ法を利用したことにより、水難溶性の抗癌剤をもリン酸カルシウムナノ結晶に固定できるようになったので、骨癌治療などの従来では徐放作用を利用することが出来なかった疾患に対する使用の可能性を大きく広げることができる。従って、本発明の薬剤徐放性製剤は、特に骨転移癌治療用の徐放性医薬としても非常に有用である。
Claims (7)
- 薬剤が周囲に乾燥固着されたリン酸カルシウムナノ結晶の凝集体からなる多孔質リン酸カルシウム粒子が、生体親和性高分子マトリックス中に多数含有されており、
前記薬剤が抗癌剤であり、
前記生体親和性高分子がアルギン酸であり、
前記多孔質リン酸カルシウム粒子が粒子径1×10 2 μm以下、比表面積30m 2 /g以上の球形粒子であり、
薬剤徐放性製剤が1〜3mmの大きさの粒状であることを特徴とする、薬剤徐放性製剤。 - 前記薬剤が水難溶性の薬剤であることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤徐放性製剤。
- 前記リン酸カルシウムが、カルシウムとともに、あるいはカルシウムの一部に置換して、マグネシウム、亜鉛、ストロンチウム、およびバリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の二価金属を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の薬剤徐放性製剤。
- 前記抗癌剤が14日以上放出されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬剤徐放性製剤。
- 前記リン酸カルシウムナノ結晶の粒子径が1〜1×103nmであることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の薬剤徐放性製剤。
- 以下の工程を含む、請求項1から5のいずれかに記載の薬剤徐放性製剤の製造方法。
(a)リン酸カルシウムナノ結晶と、抗癌剤の薬剤との水/有機溶媒分散懸濁液をスプレイドライし、薬剤を周囲に加熱固着したリン酸カルシウムナノ結晶の凝集体からなる多孔質リン酸カルシウム粒子を得る工程、
(b)上記多孔質リン酸カルシウム粒子をアルギン酸の生体親和性高分子水溶液に混合分散した後、硬化水溶液に滴下し、生体親和性高分子マトリックス中に前記粒子を含有させた目視可能な大きさの生体親和性高分子粒子を作る工程、
(c)上記生体親和性高分子粒子を回収・洗浄する工程、
(d)上記生体親和性高分子粒子を乾燥する工程。 - 硬化水溶液が、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、及び亜鉛から成る群から選ばれる二価金属の塩の水溶液であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
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