JP5257979B2 - 色材と照明の組合せによる表現態様及び/又はパターン変化を含んでなる演出システム - Google Patents
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Description
まずはじめに、本発明の考え方を説明するに当たっての序論として、基本的考えを説明する。
従来、たとえば、せっかく服を購入したのにお店で見るのと、自宅で見るのでは印象が異なっているということがよくあるが、それは照明環境に主に原因があると言える。この印象の違いというのは、色の本体がもつ分光反射率特性と照明光の分光分布との関係によって生じているのである。色と照明は密接にかかわっているのだが、一般に照明光のもつ分光分布と太陽光のもつ分光分布には大きな違いがある。照明によって色が変わって見えてしまうという現象は多くの場合、厄介なものとされてきた。
なお、色の見えは、(照明の分光分布)×(光を反射する色材の分光反射率分布)によって決まる。
よって、適当な分光反射率分布を持った色材を設計すると、分光分布特性の異なった照明の下で劇的に色の見えが変化するようにできる。これをうまく用いた例として、麹塵という染め方で染めた染織物が挙げられる。
この麹塵は、昼間の太陽光では鮮やかな黄緑色に見えるが、夕日やロウソク、或いはかがり火や行灯の光の下では、オレンジ色・エンジ色に見えるという性質を持っている。
i)まず、色の見え方は、
(照明の分光分布)×(光を反射する色材の分光反射率分布)
によって決まるので、適当な分光反射率分布を持った色材を選定あるいは合成することによって、異なった照明下で色相の変わる色材と変化しない色材の組合せが得られること、を見い出し、
ii)従って、それら2種類の色材の適当な組合せでパターンを作り、分光分布特性の異なった照明との組合せを設計すると、照明の切り替えによってパターンを出したり消したり、あるいはパターンを変化させることが可能となることを見い出し、
本発明を完成した。
i)分光分布の幅の狭いことと、
ii)様々な分光分布のものを得ることができること、
との特徴がある点に鑑み、つまり、LED照明であれば、分光分布の幅の狭いとの特徴を利用することにより、人の目には照明の色が変わったと認識しない程度の照明変化で、パターンの変化を認識させることが可能となることを見い出し、本発明の更なる改良発展を完成した。
照明として、白色光を発する、互いに分光分布が異なる複数の照明が用いられ、
i)前記照明の違いに応じた色の見えの変化が小さい色材を背景に、
ii)前記照明の違いに応じて色の見えが大きく変化する顔料が混合された、前記照明の違いに応じた色の見えの変化の大きい色材、または前記顔料単体からなる、前記照明の違いに応じた色の見えの変化の大きい色材を組み合わせることにより、
2次元からなる表現態様を予め被照明体の表面に形成しておき、前記照明の違いに応じて前記色材の組み合わせ体の表現態様及び/又は見た目のパターンを看者に対し変化させ、
それにより、前記照明の違いに応じて前記色材の組み合わせ体の表現態様及び/又はパターンに変化をもたせることが可能であることを利用してユーザー及び看者に対し有効な演出システムを提供し得ることを可能ならしめることを特徴とするものである。
しかし、これを逆手に取り、照明によって色の見えの変わることを利用して、インパクトのあるものの見せ方を実現しようというのが本発明である。
すなわち、本発明では発想の転換を行い、例えば演色性悪い色材等、照明が変わることによって見える色が変わる色材を使うと、何か面白いことが出来ないか、というのが本発明の思想の根底に流れている。
本願発明者による発想の転換に至った背景には、
(1)人間が見える色というのは色材と照明の組合せであって、Aを照明の分光分布、Bを色材の分光反射率(反射特性)とすると、人による色の見え方はA×Bで決まること、
そして、
(2)LED照明は、
i) 分光分布の幅の狭いことと、
ii) 様々な分光分布のものを得ることができること、
との特徴があることを認識していること、
が挙げられる。
また、異なった照明の下で劇的に色の見えが変化するものと変化しないものを組み合わせると、そこにパターンを出したり消したりすることが可能となる。例えば、
i)照明の切り替えによって(白色LEDの分光分布を切り替える等の操作を行い)、劇場の緞帳に今まで見えていなかったパターンを出現させたり、
ii)昼間は何の模様も見えなかった壁面に夕日を浴びたときだけにある壁画が浮かび上がるような演出、或いは、
iii)昼間は見えなかったエンブレムが夜の照明の下で浮かび上がる自動車の塗装等、
が考えられる。
この際用いる照明として、LED照明は、
i)本来の分光分布の幅が狭い点と、
ii)いろいろな種類のLEDを組み合わせるによって様々な分光分布のものを作ることができる点、
で適しており、様々な特性のLEDが開発されつつある現在、その利用分野の一つとして極めて有用と考える。
より具体的には、本実施形態はLED照明により色の見えの変わりやすい(≒見えの変化の大きい)色材と色の見えの変わりにくい(≒見えの変化が小さい)色材について調べ、それらを利用し、組み合わせることによって、
i)今までにない応用色材を設計すること、
またそのような色材を活用することで、
ii)今までには無い印象的な表現や演出が可能となることを見い出すこと、
にある。
先ず、本実施形態では、実際に(応用)色材を設計するために行った一連の流れについて順に説明する。
また本実施形態では、上述したとおり予めシミュレータによって効果的な結果を示したものを、実際に油絵具により色材を設計した。油絵具を選定した理由については後段にて詳述する。なおシミュレータを用いたのは、照明が変わることで色の見えの変化するものを発見し、色が変わることを利用した表現を考えるにあたって、闇雲に色材とLED照明を集めて実験を行うのは非効率であることによる。
ところで、色材として空の青や草の緑といった自然の光がつくりだす色は直接使いたくても、絵具として使うことはできない。この自然の光が作りだす現象を別の物質で置き換えた物が絵具である。
別な物質とは顔料と染料で、絵具には顔料を用いる。染料には溶解性があるが、絵具は着色成分である顔料、これを固着させる固着成分、そして乾燥剤や安定剤などの補助成分によってできている。本実施形態では、絵具としては油絵の具を使用した。
本実施形態では、後述する色材NanoTek Powderの分光反射率を設計するに当たり、照明源として市販の三波長(RGB)蛍光灯を用いたのではRGBそれぞれのピーク周波数を自由に設定することができないことから、LEDを用いることを念頭に検討を進めた。検討に際し、LEDは白色LEDのほかに、RGBそれぞれの単色LEDや、黄色橙色など様々な色があり、ピーク周波数も様々な種類が開発されているほか、白色LEDだけでなく、RGBのLEDをそれぞれ加法混色することによって、これからの次世代の照明として新たな活用方法があるのではないかと考えた。
以上のような検討を踏まえ、実際の色材設計に役立つと考えられる色材の一例を挙げると凡そ次のとおりである。
なお、撮影機器はCanonデジタル一眼レフカメラDS126151、撮影環境としては同志社大学田辺校地創考館SOB07内暗室、照明は東芝D65色評価用蛍光灯である。
まず、照明によって色の見えの変化が小さい色材としては、Shell Pinkのほか、Verditer Blueが挙げられる。
一方、照明によって色の見えの変化の大きい色材としては、Ivory White、Com G、Lemon Yellowのほか、Nickel Yellow、Misty Blue、Nano Tek等が挙げられる。
本実施形態においては、用意したLEDは、RGBそれぞれ2種類ずつ、合計6種類のLEDである。このLEDをRGBが固まらないようにずらしつつ、9×9に配置した。また、このLEDの周波数にも注意を払った。後述するNanoTek Powderのもつ分光反射率が450nm、540nm、650nmの時にそれぞれ反射率が下がる性質をもっているため、この周波数と一致するピーク周波数をもつ単色LEDと、この周波数と若干ずれた周波数にピーク周波数をもつ単色LEDをRGBそれぞれにおいて用意した。今回用意したものはピーク周波数が465nm、490nm、517nm、540nm、612nm、644nmの6種類である(表1参照)。これらのRGBのLEDの光をまぜあわせることによって、白色光を作り出した。使用したLED単体の明るさについては、照度計、またはメーカーのデータシートから最高照度と最低照度を計測した。他にも、LEDとの比較の為に使用した電球や照明のデータを掲載した。
本実施形態においては、例えば シミュレータでよい結果が出たものなど、色材と照明の組合せを実際に照明の下で見るために色評価BOXというものを自作し、使用した。これは市販のカラーBOXホワイトの各棚に口金26E型の電球用ソケットを着け、観察に使う照明を容易に交換できるようにしたものである。
(1)明順応状態で見ること。
(2)視野の大きさは、視角2度または10度であること。
(3)視野内の光の分光分布は、空間的にも時間的にも一様であること。
(4)周辺視野は、無彩色であること。
(5)物体の色を見るときは、物体表面に対して直角の位置から見るようにし、照明光は45度方向からあたるようにすること。
ここで、(4)の無彩色のうち黒の方が色の恒常性が一番働きにくいのであるが、あえて恒常性の働きやすい白背景で実験を行うことで日常的な色の恒常性が起こる条件の中でもどれだけ色の変化が現れるのかを判定するために、あえて白を使用した。この、色の恒常性であるが、照明及び観測条件が異なっても、主観的には物体の色があまり変化しないようにみえる現象を色の恒常性(color constancy)と言っている。通常、人間の視覚にはこの現象が生じている。
つまり、例えばシミュレーションで照明によって色が変わるという結果が出たものであっても、色の恒常性が起こるために、色の変化を知覚しにくくなっていると考えられる。
そのような傾向も踏まえて、本実施形態では、シミュレータの色差が大きいもの等を優先的に、評価に供してみることとした。
本実施形態においては、色材設計としては、
i)(a)照明によって色の見えの変化が小さい色材、を背景に、
(b)見えの変わる色材、を埋め込むデザインと、
ii)(a)背景も(b)埋め込んだ色材も(a)、(b)両方とも色が変化するデザインの2種類を考えた。
このような色材設計を行えば、照明光の変化による色の変わりようが顕著となるからであることによる。なおここでの,照明によって色の見えの変わりにくい(≒色の見えの変化が小さい)色材とは、例えば2つの異なる照明で条件等色(前記)となる色材のことをいう。
ところが、このNanoTek Powderは顔料であり、そのものは粉体であるため、このままでは絵の具として油絵の具と混合して使用することができない。そのために、本実施形態ではNanoTek Powderを顔料としたオリジナルの油絵の具をホルベイン工業の協力のもと製作し、使用した。
本実施形態では、NanoTek Powderと展色材をなるべく控えめに加え、なじませてから練り板の上におき、練り棒を用いて充分に練り合わせていった。そして、粘度、なじみ、光沢などに注意しながら、通常は30分以上かけて練り上げた。出来上がった絵具は、へらでかき集めて容器にいれ、密封保存した。
・無機系の超微粒子顔料(平均粒径約20nm)である
・耐熱性、耐候性、耐薬品性を持つ
・太陽光と三波長蛍光灯との間で色が変化する
・色変化は熱や紫外線等で消失することはない
・他の顔料や色素との組み合わせができる
・様々な樹脂に練り込むことが可能である
・塗料化、インキ化が可能である
本実施形態では、今回は特に、NanoTek Powderの色材としての性質をふまえて、太陽光と三波長蛍光灯、あるいはLED照明を比較する形をとった。
また以下では、予め行ったシミュレーションの中でも、実際の応用色材の設計に役立ちそうであると思ったものを色材として作成し、実際に色評価BOXで目視した結果について考察として説示する。
上述の通り、本実施形態においては予めシミュレータで検討してから実際に色材設計を行なったが、ものによってはシミュレーション通りの結果がでないものもあったことを付言しておく。以下の考察では、必要に応じて分光データと色評価BOXでの結果を参照しつつ、実際に色材設計を行なった結果について説明する。
1.照明によって色の見えの変わりにくい(≒変化が小さい)色材
(1)シェルピンクとNanoTek Powderの1対1混合(図2参照、(A):シェルピンクとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)465−517−612(R、G、Bの各LEDのピーク周波数[nm]。以下同様)のLED混合の分光分布)
(2)バヂターブルーとNanoTek Powderの1対1混合(図3参照、(A):バヂターブルーとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)465−517−612のLED混合の分光分布)
(1)NanoTek Powder単体(図4参照、(A):NanoTek Powderの分光反射率図、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490−540−644のLED混合の分光分布)
(2)ニッケルイエローとNanoTek Powderの1対1混合(図5参照、(A):ニッケルイエローとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490−517−644のLED混合の分光分布)
(3)ミスティブルーとNanoTek Powderの1対1混合(図6参照、(A):ミスティブルーとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490−517−644のLED混合の分光分布)
(4)アイボリーホワイトとNanoTek Powderの1対1混合(図7参照、(A):アイボリーホワイトとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490−517−644のLED混合の分光分布)
(5)コンポーズグリーンとNanoTek Powderの1対1混合(図8参照、(A):コンポーズグリーンとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490−540−644のLED混合の分光分布)
(6)レモンイエローとNanoTek Powderの1対1混合(図9参照、(A):レモンイエローとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490−540−644のLED混合の分光分布)
(1)シェルピンクとNanoTek Powderの1対1混合とNanoTek Powderの組み合わせ(図10参照、(A):シェルピンクとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):NanoTek Powderの分光反射率、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490−540−644のLED混合の分光分布)並びに、(図11参照、(A)色評価BOX、評価1、(B)色評価BOX、評価2)
(2)ニッケルイエローとNanoTek Powderの1対1混合とNanoTek Powderの組み合わせ(図12参照、(A):ニッケルイエローとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):NanoTek Powderの分光反射率、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490−540−644のLED混合の分光分布)並びに、(図13参照、(A)色評価BOX、評価1、(B)色評価BOX、評価2)
(1)のシェルピンクとNanoTek Powderの1対1混合、
(2)のバヂターブルーとNanoTek Powderの1対1混合の場合、
は、シミュレータでは色差があらわれたものの、実際に色評価BOXで評価してみると、目に見える大きな変化が現れなかった。シェルピンクはNanoTek Powderとの混合により、640nmの周波数の分光反射率が低くなっていたため、それとずらす形で612nmにRのピーク周波数をもってきたのだが(図2(A)、(C)、(D)参照)、実際には(ピンクのままで)目に見える変化は現れなかった。なお予め用いたシミュレータでは緑っぽい色に変化したことを参考の為付言しておく。今回の結果を踏まえると、Rのピークを612nmではなく、650nmより高い周波数にもってくるほうが赤が強調され、より赤くなる変化のほうが恒常性が働きにくいのではないかと考察される。
まず、(1)特殊な分光反射率をもつNanoTek Powder単体の場合、太陽光と三波長蛍光灯の間では、実際に色評価BOXで評価してみると肌色っぽい色からピンクへの色の変化であったものが、LEDを用いることによって、肌色っぽい色から薄い緑色への変化を起こすことができた。この変化の確認は、実際に色評価BOXで評価して行ったものである。また予め用いたシミュレーションの結果ともほぼ一致している。これは、Bの分光分布をNanoTek Powderのボトムの位置とずらして490nmにしたことによって、三波長の蛍光灯のときとは違った位置に照明のピークをもってくることができ、更にRの分光分布をNanoTek Powderのボトムとあわせ打ち消しあったことによって、490nmのあたりの周波数が増幅されて見えたことが原因であると考察される。
このように、本実施形態によれば、ピークが異なる組み合わせによって色の違いが作り出すことが可能であるということが実証できた。
(3)ミスティブルーとNanoTek Powderの1対1混合、
といった油絵の具とNanoTek Powderの1対1混合の場合も同じような結果がみられた。
(5)コンポーズグリーンとNanoTek Powderの1対1混合、
(6)レモンイエローとNanoTek Powderの1対1混合、
においては、人口太陽と三波長蛍光灯の分光分布は大きく異なるため、実際には色の見えとして差があるといえるはずなのだが、しかし,この程度の色差の場合は色の恒常性が働くので、2つは同じものと認識できてしまう組み合わせである。しかし、このような場合でもLED照明の場合は三波長蛍光灯の場合よりもはっきりとした色差が現れるものが多い。
また、今回使用した6種類のLEDでは、油絵の具がどのような色であっても、NanoTek Powderを混ぜることで緑っぽく見えるような変化がおきやすい傾向にある。それは、スペクトルにおいて緑の幅は広く黄色の幅は狭いことや、450nmよりも低いピーク周波数をもつより青の成分を強調するLEDや、650nmよりも高いピーク周波数をもつより赤の成分を強調するLEDを使用していないということも関係しているのではないかと考察される。
i)(a)色の変わらない背景色に、(b)変化する色材を埋め込んだタイプの組み合わせと、
ii)(a)背景色も(b)色材も両方(a,b)変化する組み合わせ、
の2種類を考えた。
すなわち、本実施形態では
(1)シェルピンクとNanoTek Powderの1対1混合とNanoTek Powderの組み合わせ、である。これは、(背景色として)(a)色が変わらないシェルピンクに、(b)変化する色材としてNanoTek Powderを埋め込んだものである。太陽光のもとでは、ピンクと黄色っぽい縞模様にみえるが、これが三波長蛍光灯のもとではNanoTek Powderの変化によってピンク一色に見える。また、LED照明のもとでは、NanoTek Powderの変化によって、ピンクと緑の縞模様となり、まったく違った色合いとなる(図11参照)。なお本実施形態にて用いたシミュレータの結果では、シェルピンクも緑色になるという結果がでるが、色の恒常性が働くためか、目立った変化は現れず、NanoTek Powderの変化が際立つ形となった。
これは、普段は同じ色であっても、ある一定の照明をあてたときにだけ文字を浮き上がらせたりするなどといった場面で応用が可能である。
また、太陽光とLED光で浮き出る色を異ならせることもできるので、応用の幅が広がると考えられる。
は、両者ともに照明の変化によって色を変化させる組み合わせである。太陽光のもとでは、
黄色と薄い黄色っぽい縞模様にみえるが、これが三波長蛍光灯のもとではNanoTek Powderの変化によって黄色とピンクの縞模様にみえる。また、LED照明のもとでは、両者とも変化が起こるので、黄緑と緑の縞模様といったまったく異なった色味の色材へと変化する(図13参照)。変化の様子もほぼ本実施形態の下で用いたシミュレータの結果と一致している。
なお、本実施形態にて予備的に用いた、各照明下での色材の見え方をシミュレーションで予測する手法について、シミュレーション結果とそれに基づき実際に色材を作成し色評価BOXでの実験結果とを比較した結果について説明する。本実施形態にて用いたシミュレーションでの結果はあくまで人間の恒常性を考慮していない。
よって、検証を行うと恒常性のおかげで分光分布と分光反射率からの計算で得られる答えほどの明確な差が視覚的には生じないことが多かったが、色味の特定という点においては本実施形態にて用いたシミュレータは大いに役立った。
最後に、本実施形態を締め括るに際し、本実施形態を実際に進めるに際してキーポイントとなった2点、i)照明によって色が変わる色材の設計のしかた、ii)LED照明、について念の為付言する。
ii)片方の照明は分光分布のなるべく平坦なものを用い、もう片方の照明に三波長の照明を用いるか、
である。本実施形態において主眼を置いたのは、後者である。
本実施形態では、6種類のLEDを選定した。この6種類はNanoTek Powderを基準として選んだものであるが、この6種類以外のものを用いても当然また異なった結果が出る物と考察される。たとえば、450nmよりも低いピーク周波数をもつLEDや、650nmよりも高いピーク周波数をもつLEDは本実施形態では用いなかったので、変形例として是非実施の対象として挙げることが好ましい。
LEDは企業によって分光分布にばらつきがあり、ピーク周波数を異なったものを見つけやすいので、その利点を生かせればよいものと考察される。
以下、本発明の一実施例として、白色LED照明の分光分布を生かした色材設計につき説明する。図14は本実施例に係る色材設計を行う際の一例を示す図である。
近年の青色発光ダイオードの発明によって、発光ダイオード(LED)だけで全ての色彩の表現が可能になり、LEDの照明利用が注目されている。早くも昨年は、様々な場所でLED照明が使用され話題となった。博物館・展示会などの大型ディスプレイでも、大規模な照明として使用される日もそう遠くないだろう。
なお、冒頭で挙げた通り、照明光によって色そのものが変わってしまう色材の例としては、京都の麹塵という着物がある。この着物は太陽光下で見た時と、電球下で見た時ではっきりと色が異なって見える。
本実験では、Spectral Color Reproduction手法(物体の分光反射率を記録、再現する方法。全く同じものを複製するという手法)を用いて測色した。
実際に我々の見える色というのは、錐体と呼ばれる視細胞からの情報である。この錐体には赤・緑・青と3色の強さを感知する3種類が存在し、この3種の錐体反応の強さ比から色を識別している。この3種の強さを表す表色系の中で、RGB表色系・HSV表色系を選択した。測色シミュレートではRGB系を利用し、色の比較にはHSV表色系に変換し、シミュレートした。
作成した色彩測色シミュレーションでは各波長において、照明の分光分布・物体の分光反射率・等色関数、の3値をかけることでR・G・Bの強さを計算し、RGB値・実際の色の見えを出力する。
wR=ΣE(λ)O(λ)r(λ)Δλ ・・・ (1)
wG=ΣE(λ)O(λ)g(λ)Δλ ・・・ (2)
wB=ΣE(λ)O(λ)b(λ)Δλ ・・・ (3)
E(λ)…光源の輝度、O(λ)…物体の分光反射率、
r(λ)g(λ)b(λ)…等色関数、Δλ…測定飛び幅
(1)顔料・色材DBの作成
・顔料DB(イタリア色彩研究所)、
・物体の分光反射率(財団法人日本色彩研究所)
(2)白色LED照明DBの作成
・各種白色LEDの分光分布データを採取
本実施例では、日亜化学、豊田合成、松下電工、住友電工、ビーバーエレクトロニクス、Lumileds、HLV照明、京都電機器、及び星和電器工業の各社製の白色LEDの分光分布データを採取した。
・JIS標準光源DBの作成(太陽光、白熱球、蛍光灯)
(3)色彩測色シミュレータの改良
(4)光源と色材の組み合わせシミュレーション
(5)HSV変換を行い、色相差を判定する
その他、本実施例では、上記したような、色彩測色シミュレータの改良、及び光源と色材の組み合わせシミュレーション等の改良を行なった後、HSV変換を行い、色相差を判定した。
図14(A)に、紫陽花(青)の分光反射率を示す。また、図14(B)に、色彩測色シミュレータによる出力(紫陽花青)を示す。
なお、表2中、
CY=Cadmium Yellow、
VL=VermilionとLight Cobalt Greenの混合、
VC=VermilionとCamlean Blueの混合、
ATT=紫陽花(青)とAzuriteとTin Yellowの3種混合、
をあらわしている。
また、表2中の各R、G、B値の記載、麹塵の青系対応箇所は、標準太陽光によるものである。
一例によれば、R、G、Bそれぞれのピーク周波数[nm]につき、CY、VL、VC、AAT、麹塵の順に記載すると、
i)標準型LEDでは255−188−15、255−191−135、155−148−255、79−158−255、156−255−51である。
ii)青系型LEDでは255−197−56、182−166−255、54−87−255、10−84−255、169−255−77である。
iii)電球色型LEDでは255−168−16、255−107−35、255−95−59、255−233−171、255−170−23である。
iv)特殊型LEDでは255−235−15、255−116−56、255−133−147、214−221−255、255−237−43である。
v)JIS規格白熱球では255−105−2、255−87−20、255−97−54、255−186−112、255−177−20である。
[白色LED照明の分類について]
i) 標準型白色LED…短波長領域、中波長領域に高いピークを持ち、長波長領域に関しては反応が乏しいものである。
ii) 青系白色LED…短波長領域に高いピークを持ち、長・中波長領域に関しては、反応が乏しいものである。
iii) 電球色型白色LED…中波長領域にピークを持ち、全体的に高くなだらかな分布を持つものである。
iv) 特殊型白色LED…R・G・BのそれぞれのLEDを用いて、光量を調節することで、白色を表現したものものである。
i)短波長領域(特に430nmから480nm)に高いピークをみせる標準型・青系型LEDと同調して高いピークを持ち、ii)中波長領域は比較的低い分布、iii)長波長領域は再び高い分布(610nm以降)を持つ色材の分光反射率を設計すれば、標準型・青系型白色LEDでは鮮やかな青色、電球色型白色LED・白熱球は鮮やかな朱色、また例えば特殊型白色LEDの一種であるOYGB型LED等、RGB独立型白色LEDでは鮮やかな紫色を表すこととなる。
これは、等色関数でいうG波長・R波長のピークと同調し、その他の分布の影響をほとんど受けていない。このことから、ピーク同士が同調した分布では、基本的な赤・緑・青の色を極めて鮮やかに表すことが考えられる。
なお、本発明の演出システムに用いる照明を、複数のLEDの組合せからなるものとする場合、ピーク波長が20nmから30nm程度異なるLEDを組み合わせることで、本発明の効果をより良く得ることができる。
最後に、本実施例の今後の変形例としては、
i)実際の白色LED照明と顔料を使い、実環境で測色を行う(照明効果を測る環境条件)ことのほか、
ii)各企業で違ってくる赤・緑・青色単色LEDを複数組み合わせることで、分光分布の違ったRGB独立型白色LEDを複数作り出し、測色することでより多くのデータ収集を行うこと、
等が挙げられる。
図15(A)及び(B)に、本実施例のイメージ図を示す。図15(A)は、本実施例の被照射物表面にいわゆる昼光色照明(JISでは5700K〜7100K。通常は6500K程度。蛍光灯の区分では記号D。晴天の正午の日光の色である場合のことを指し示すものとする。)を照射した場合のイメージ図を、図15(B)は、本実施例の被照射物表面にいわゆる電球色照明(JISでは色温度2600K〜3150K。通常2800K〜3000K。蛍光灯の区分では記号L。白熱電球の色(これ自体幅がある)である場合のことを指し示すものとする。)を照射した場合のイメージ図を夫々示している。
本実施例からも明らかな通り、本発明については、照明源に関してLEDに特に限定されるものではない。その一方であくまで、照明と色材の適当な組合せを見い出せば良い。
ここで、本実施例の被照射物表面の背景には、照明如何で色の見え方が変わらない普通の色材が使われている一方、被照射物表面に配された文字については、照明如何で色の見え方が変わる色材が使われている。
なお、本実施例の被照射物表面の背景の色材は緑色をしている。次に、被照射物表面に配された文字の色材については、イメージ的には前述の麹塵と近似した様な性質、すなわち、昼光色照明では鮮やかな黄緑色に見えるが、電球色照明の光の下では、オレンジ色・エンジ色に見えるという性質を持っているものとする。
一方、本実施例の被照射物表面にいわゆる電球色照明を照射した場合には、図15(B)にイメージ図を示したように被照射物表面に“B”の大文字は浮かび上がって来る。
i)被照射物の色材構成、そして
ii)照明種、
を上手く組合せることによって、
色材と照明の組合せによるパターン変化を巧く演出することが可能となる。
以上、本発明の内容を、実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例の構成に何ら限定されず、種々の変形が可能である。
上記した本発明は、建築、ディスプレイ、照明、広告業界等、今後種々の具体例に対して適用可能と考えられるが、その中でも将来の可能性が特に高いものにつき、以下に紹介する。
例えば、NanoTek等を混入した染料等で緞帳の織物に文字や図柄を予め描いておく。一方、舞台照明については、LED波長を変えることで公演中に(白色)LED照明の分光分布が変わるように予めセットしておく。
このように予め準備しておくことにより、公演中に舞台照明のLED波長を変えることで、上記実施例2と同じような態様で、緞帳に予め描いておいた文字や図柄を見せたり、あるいは逆に消したりすると言った対応が可能となる。
例えば、NanoTek等を混入した塗料等で車体のボディの一部表面にエンブレム等を予め描いておく。
一方、照明側については、LED波長を変えることで必要に応じ(白色)LED照明の分光分布が変わるように予めセットしておく。
このように予め準備しておくことにより、必要に応じ照明側のLED波長を変えることで、ボディに予め描いておいたエンブレム等を見せたり、あるいは逆に消したりすると言った対応が可能となる。
このような対応が実現できれば、ある意味、「透かし」のような機能を今後持たせることも可能である。
例えば、NanoTek等を混入した材料等で、モニュメントの一部(例えば隅の部分等)表面にエンブレム等を予めあらわしておく。
一方、照明側については、LED波長を変えることで必要に応じ(白色)LED照明の分光分布が変わるように予めセットしておく。
このように予め準備しておくことにより、必要に応じ照明側のLED波長を変えることで、モニュメントに予めあらわしておいたエンブレム等を見せたり、あるいは逆に消したりすると言った機構としても良い。
たとえば、街頭のポスターが昼と夜とで異なった照明を当てることで色や、文字に変化があれば、1枚の広告で2つの魅力をもつことが可能となる。今までのポスターとは違うものができあがるので,印象的なものとなる。また、レストランなどの壁への塗料として用いれば、昼と夜とで雰囲気の異なった内装をもたせることが可能となる。
例えば、太陽光の下で見える車体の色と夜の照明下で見える車体の色に変化が起きたらおもしろいのではないかと考えられる。毎日人が利用し、同じ場所を走ることから、車体を広告塔として使う例が最近増えているが、この広告塔としての塗装にも、昼夜で変化を持たせることができる等の応用が可能となる。
上記具体例1で記した舞台演出による利用手法を更に進め、照明と役者の着る衣装の色材との関係に本発明を適用することにで、より印象的な演出が可能となる。
偽造通貨、偽造商品の流通を防止するために、ある特殊な照明によってだけ色が変わるような色を用いる。一般光の下では変わらないので見分けはつかないが、LED光をあてるだけでいいので、偽者かの判断がすぐにつきやすく便利になる。
Claims (1)
- 色材と照明の組合せによる表現態様及び/又はパターンの変化を少なくとも一部に含んでなる演出システムであって、
照明として、白色光を発する、互いに分光分布が異なる複数の照明が用いられ、
i)前記照明の違いに応じた色の見えの変化が小さい色材を背景に、
ii)前記照明の違いに応じて色の見えが大きく変化する顔料が混合された、前記照明の違いに応じた色の見えの変化の大きい色材、または前記顔料単体からなる、前記照明の違いに応じた色の見えの変化の大きい色材を組み合わせることにより、
2次元からなる表現態様を予め被照明体の表面に形成しておき、前記照明の違いに応じて前記色材の組み合わせ体の表現態様及び/又は見た目のパターンを看者に対し変化させ、
それにより、前記照明の違いに応じて前記色材の組み合わせ体の表現態様及び/又はパターンに変化をもたせることが可能であることを利用してユーザー及び看者に対し有効な演出システムを提供し得ることを可能ならしめることを特徴とする、
色材と照明の組合せによる表現態様及び/又はパターンの変化を少なくとも一部に含んでなる演出システム。
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