JP5248549B2 - 耐熱鋼部材およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、耐熱鋼を用いて形成されるリング状の耐熱鋼部材およびその製造方法に関する。
従来、蒸気タービンにおけるダイアフラム構造のタービンノズルとして、環状体を二つ割りにしたダイアフラム外輪とダイアフラム内輪との間に、環状列に配置されたノズル板の両端を溶接することなく固定した構成を有するものがある(例えば、特許文献1参照。)。
また、ノズル板は、一般的に、例えば角材などから切削によって形成されている。このノズル板の製作において、ダイアフラム外輪およびダイアフラム内輪におけるノズル板の固定部の形状や、ダイアフラム外輪の内側面およびダイアフラム内輪の外側面の曲率に対応して、厳格な製作規格の下、ノズル板を製作することは、多くの製作工程および製作時間を必要としていた。
米国特許第5743711号明細書
上記したように、従来におけるダイアフラム構造のタービンノズルを製作する場合には、ダイアフラム外輪とダイアフラム内輪との間に、ノズル板を的確に固定しなければならず、各構成部材の構造が複雑化し、さらに組み立てに際しても熟練した技術を要していた。また、ノズル板は、厳格な製作規格の下製作されるので、製作効率の向上を図ることが難しく、さらに、角材などから切削によって製作するので、経済性の向上を図ることも難しかった。また、ノズル板などを製作するための部材は、異方性を生じず、機械的性質が均質であることが望ましい。
そこで、本発明では、リング状に形成された部材を所定の個数に等分割し切削加工して、例えば、ダイアフラム外輪、ダイアフラム内輪およびノズル板を一体的に有する分割構造体を製作することが可能であり、リング状の部材として製作しても、異方性がほとんど生じず、各所において均質な機械的性質を得ることができ、さらに、容易に製造することができる耐熱鋼部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の耐熱鋼部材は、重量%で、C:0.06〜0.18%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.2〜0.8%、Cr:9〜11.5%、Ni:0.1〜1%、Mo:0.8〜1.3%、Nb:0.05〜0.5%、V:0.07〜0.3%、N:0.03〜0.08%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、遠心鋳造で円筒形状に成形されたことを特徴とする。
この耐熱鋼部材によれば、異方性がほとんど生じず、各所において均質な機械的性質を得ることができる円筒形状に成形された耐熱鋼部材を提供することができる。
本発明の耐熱鋼部材の製造方法は、上記した組成成分を有する耐熱鋼部材を製造する方法であって、前記耐熱鋼部材を構成する組成成分を溶解する溶解工程と、前記溶解された溶湯を、回転する所定の形状の鋳型に流し込み、円筒形状の鋳物を形成する遠心鋳造工程と、前記鋳物に対して、焼入れおよび焼戻しの熱処理を行う熱処理工程とを具備することを特徴とする。
この耐熱鋼部材の製造方法によれば、異方性がほとんど生じず、各所において機械的性質が均質な耐熱鋼部材を容易に製造することができる。
本発明の耐熱鋼部材およびその製造方法によれば、円筒形状を有し、異方性がほとんど生じず、各所において均質な機械的性質を得ることができ、さらに、容易に製造することができる。
本発明の一実施の形態のノズル板用のリング状耐熱鋼部材の平面図である。 ノズル板の平面図である。 ノズル板の平面図である。
本発明者らは、上記した従来のタービンノズル製作における問題を解決する手段として、ダイアフラム外輪、ダイアフラム内輪およびノズル板を一体的に製作することを考えた。さらに、リング状に形成された部材を所定の個数に等分割し、それを切削加工して、ダイアフラム外輪、ダイアフラム内輪およびノズル板を一体的に有する分割構造体を製作することを考えた。そこで、本発明者らは、この分割構造体を製作するにあたって、優れた特性を有し、所望の形状に無理なく成形することができ、かつ良好な品質と経済性を発揮することができる耐熱鋼部材およびその製造方法について研究を行った結果、本発明に至った。
以下、本発明の一実施の形態を説明する。
本発明の耐熱鋼部材は、以下に示す組成成分範囲の耐熱鋼で構成され、遠心鋳造でリング形状に成形されている。なお、以下の説明において組成成分を表す%は、特に明記しない限り重量%とする。
(M1)C:0.15〜0.25%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.2〜0.8%、Cr:9〜11.5%、Ni:0.1〜1%、Mo:0.8〜1.3%、Nb:0.05〜0.5%、V:0.07〜0.3%、N:0.03〜0.08%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる耐熱鋼。
(M2)C:0.06〜0.18%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.2〜0.8%、Cr:11.25〜13%、Ni:0.1〜1%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる耐熱鋼。
(M3)C:0.06〜0.18%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.2〜0.8%、Cr:13〜14%、Ni:0.1〜1%、Nb:0.2〜0.5%、N:0.03〜0.08%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる耐熱鋼。
(M4)C:0.06〜0.18%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.2〜0.8%、Cr:11.5〜13.5%、Ni:0.1〜1%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる耐熱鋼。
(M5)C:0.15〜0.25%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.2〜0.8%、Cr:9〜12.5%、Ni:0.1〜1%、Mo:0.8〜1.3%、V:0.07〜0.3%、W:0.8〜1.3%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる耐熱鋼。
(M6)C:0.06〜0.18%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.2〜0.8%、Cr:11.5〜12.5%、Ni:0.1〜1%、Nb:0.05〜0.5%、V:0.07〜0.3%、N:0.03〜0.08%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる耐熱鋼。
(M7)C:0.06〜0.18%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.2〜0.8%、Cr:9〜11.5%、Ni:0.1〜1%、Mo:0.8〜1.3%、Nb:0.05〜0.5%、V:0.07〜0.3%、N:0.03〜0.08%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる耐熱鋼。
(M8)C:0.06〜0.18%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.2〜0.8%、Cr:9〜11.5%、Ni:0.1〜1%、Mo:0.8〜1.3%、Nb:0.05〜0.5%、V:0.07〜0.3%、N:0.03〜0.08%、W:0.8〜1.3%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる耐熱鋼。
ここで、上記した(M1)〜(M8)の耐熱鋼における不可避的不純物において、その不可避的不純物のうち、Pを0.03%以下、Sを0.03%以下、Coを0.25%以下、Alを0.05%以下、Tiを0.05%以下、Snを0.04%以下、Cuを0.25%以下に抑制することが好ましい。
上記した組成成分範囲の耐熱鋼で構成され、遠心鋳造でリング形状に成形された本発明に係る耐熱鋼部材によれば、異方性がほとんど生じず、所望の機械的特性を有し、各所におけるその機械的特性をほぼ均質とすることができる。また、容易に所望の形状の成形することができ、さらに、優れた品質と経済性を発揮することができる。
次に、上記した本発明に係る耐熱鋼部材における各組成成分範囲の限定理由を説明する。
(1)C(炭素)
Cは、焼入れ性の確保とともに、析出強化に寄与する炭化物の構成元素として不可欠である。上記した(M1)および(M5)の耐熱鋼では、含有率が0.15%未満では、上記した効果が小さく、0.25%を超えると、高温環境下における炭化物の凝集および粗大化を促進して析出強化能を低下させる。そのため、(M1)および(M5)の耐熱鋼においては、Cの含有率を0.15〜0.25%とした。
また、上記した(M2)〜(M4)、(M6)〜(M8)の耐熱鋼では、切削加工後に個別に溶接を行う場合があるため、焼入れ性や強度特性を若干犠牲にしても、溶接性や溶接部の硬化を抑制することが実用上好ましい。そのためにはCの含有量を低下させる必要があり、(M2)〜(M4)、(M6)〜(M8)の耐熱鋼においては、Cの含有率を0.06〜0.18%とした。
(2)Si(ケイ素)
Siは、脱酸剤として有用であり、耐水蒸気酸化性も向上させる。また、鋳造時の溶湯の流動性を向上させる作用も併せ持つ。しかし、その含有量が高い場合は、靭性の低下および経年的な脆化を促進するため、この観点からは含有量は可能な限り抑制されることが望ましい。本発明に係る耐熱鋼においては、その含有率が0.05%未満では、上記した効果が発揮できず、0.6%を超えると、上記した効果が著しく低下する。そのため、Siの含有率を0.05〜0.6%とした。また、Siのより好適な含有率は、0.05〜0.3%である。
(3)Mn(マンガン)
Mnは、脱硫剤として有用な元素であり、この観点からは0.2%以上の添加が必要である。一方、含有量が多くなると硫化物の生成量が増加するとともに、クリープ強度を低下させるため、Mn含有率の上限を0.8%とし、Mnの含有率を0.2〜0.8%とした。また、Mnのより好適な含有率は、0.3〜0.6%である。
(4)Cr(クロム)
Crは、耐酸化性、耐食性に有効であるとともに、析出強化に寄与する炭窒化物の構成元素としても不可欠な元素である。その含有率が9%を下回ると、これらの効果が認められなくなる。一方、14%を上回ると、他の添加元素量とのバランスによってはフェライトの生成量が増加し、高温強度や靭性を低下させる。また、上記した(M1)〜(M8)の各耐熱鋼毎に、他の添加元素量とのバランスが異なり、また所望の機械的特性も異なる。これらを考慮して、Crの含有率を9〜14%とした。また、Crのより好適な含有率は、10〜13.5%であり、この範囲で各耐熱鋼毎に制限範囲を変化させることが好ましい。
(5)Mo(モリブデン)
Moは、固溶強化および炭窒化物の構成元素となり析出強化に寄与し、また、焼入れ性の向上にも寄与する。本発明に係る耐熱鋼においては、意図的にMoを添加する耐熱鋼については、0.8%以上の添加により上記効果が発揮されるが、1.3%を超えると、靭性が低下するとともに、特に鋳造時の成分偏析傾向が増大する。そのため、Moの含有率を0.8〜1.3%とした。また、Moのより好適な含有率は、0.9〜1.1%である。なお、上記した(M2)および(M6)の耐熱鋼については、不可避不純物として原料から混入する場合に限り0.2%以下を許容し、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが望ましい。
(6)Ni(ニッケル)
Niは、焼入れ性および靭性の向上に寄与する。Niを添加する耐熱鋼においては、0.1%以上の添加で、上記効果を発揮するが、1%を超えると、クリープ強度が低下するため、Niの含有率を0.1〜1%とした。また、Niのより好適な含有率は、0.1〜0.6%である。
(7)Nb(ニオブ)
Nbは、微細な炭窒化物の形成に寄与する。Nbを添加する耐熱鋼については、0.05%以上の添加で、微細析出物が十分に析出し、母相の回復を抑制するが、0.5%を超えると、未固溶のNb炭窒化物の生成量が著しく、靭性が低下する。さらに、CあるいはNの添加量とのバランスを考慮して、Nbの含有率を0.05〜0.5%とした。また、上記した(M1)および(M3)の耐熱鋼において、Nbのより好適な含有率は、0.35〜0.45%であり、(M6)〜(M8)の耐熱鋼において、Nbのより好適な含有率は、0.07〜0.1%である。
(8)V(バナジウム)
Vは、固溶強化および微細な炭窒化物の形成に寄与する。Vを添加する耐熱鋼については、0.07%以上の添加で、微細析出物が十分に析出し母相の回復を抑制するが、0.3%を超えると、靭性の低下を招く。さらに、添加される他の元素量とのバランスおよび所望の機械的特性を考慮して、Vの含有率を0.07〜0.3%とした。また、上記した(M1)、(M5)、(M7)および(M8)の耐熱鋼において、Vのより好適な含有率は、0.15〜0.25%であり、(M6)の耐熱鋼において、Vのより好適な含有率は、0.07〜0.1%である。
(9)W(タングステン)
Wは、固溶強化および炭窒化物の構成元素となり析出強化に寄与する。Wを添加する耐熱鋼については、0.8%以上の添加により、上記効果が発揮されるが、1.3%を超えると、靭性が低下するとともに、特に鋳造時の成分偏析傾向が増大する。そのため、Wの含有率を0.8〜1.3%とした。また、Wのより好適な含有率は、0.9〜1.1%である。なお、上記した(M1)の耐熱鋼については、不可避不純物として原料から混入する場合に限り0.25%以下を許容し、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが望ましい。
(10)N(窒素)
Nは、微細な窒化物の形成に寄与する。Nを添加する耐熱鋼については、0.03%以上の添加で、微細析出物が十分に析出し母相の回復を抑制するが、0.08%を超えると、粗大な窒化物の生成量が増加するとともに、高温での析出物の凝集および粗大化が進行する。さらに、C、VあるいはNbの添加量とのバランスを考慮して、Nbの含有率を0.03〜0.08%とした。また、Nのより好適な含有率は、0.04〜0.07%である。
(11)P(リン)、S(硫黄)、Co(コバルト)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、Sn(スズ)およびCu(銅)
P、S、Co、Al、Ti、SnおよびCuは、本発明に係る耐熱鋼においては、不可避的不純物に分類されるものであり、これらは靭性低下や加熱による運転中の脆化を促進する。そのため、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが望ましい。また、個別の元素の残存含有率は、Pは0.03%以下、好ましくは0.02%以下、Sは0.03%以下、好ましくは0.015%以下、Coは0.25%以下、AlおよびTiは0.05%以下、好ましくは0.02%以下、Snは0.05%以下、好ましくは0.04%以下、Cuは0.25%以下である。
(耐熱鋼の製造方法)
次に、上記した耐熱鋼部材の製造方法について説明する。
まず、前述した(M1)〜(M8)のいずれかの耐熱鋼を構成する組成成分を、大気中において溶解する(溶解工程)。
続いて、大気中において、溶解した溶湯を、遠心鋳造装置の回転するリング形状の鋳型に流し込み、リング形状の鋳物を形成する(遠心鋳造工程)。この際の冷却は、自然放冷によって行われる。
続いて、リング形状の鋳物に対して、焼入れおよび焼戻しの熱処理を行う(熱処理工程)。なお、各材質に好適な機械的特性を発揮させるための焼入れおよび焼戻しの熱処理の条件は、各耐熱鋼毎に異なる。
ここで、リング形状とは、両端が開口された筒体、中央が開口した円板などの形状をいい、筒体や円板などにおいて、その中心軸方向に外径や内径を増加させたり、減少させた形状も含む。
次に、本発明に係る耐熱鋼部材が、リング形状に成形されることが好適な理由を説明する。
蒸気タービンの羽根、ノズル板、弁内品、熱交換器などの小型部品は、通常、鍛造あるいは圧延で成形された角材、もしくは鍛造成形で比較的最終形状に近い状態に成形された部材を機械加工により切削して仕上げる。これらのうち、例えば羽根やノズル板は、タービンロータやノズルダイアフラムのような曲率を有する一定の円周上に組込まれるため、高い寸法精度が要求される。
しかしながら、角材からの削り出した部材や個々に鍛造成形された部品部材は、個体ごとの寸法上のばらつきが不可避的に発生し、また、円周上に組込む際の寸法精度が低く、組込み時に修正加工を施す場合がある。また、弁内品や熱交換器などの小型部品は、最終形状としてリング状や円筒形状に加工される場合が多い。そのため、切削加工による歩留りや製作工数の観点からは、部材自体をリング形状に製作することによって、部品の製作工程をより合理化することが可能である。
すなわち、リング形状として製作された部材においては、内外輪側や側面の曲率を有する部位をリング形状のまま切削して寸法を調整することが可能である。また、加工後のリングを割断して、個別部品毎に仕上げ加工をすることで、加工工数は大幅に削減し、歩留りの向上を実現することができる。さらに、個体の寸法精度を各段に向上させることが可能となる。
これらのことから、蒸気タービンの羽根、ノズル板などの部材として利用可能な本発明に係る耐熱鋼部材は、リング形状に成形されることが好適である。
次に、本発明に係るリング状の耐熱鋼部材が、遠心鋳造により成形されることが好適な理由を説明する。
遠心鋳造工程は、原料の溶解と鋳造の主として2つの工程からなり、所望の形状の鋳型がある場合、リング形状に成形するための所要時間は数時間である。本発明の化学組成成分範囲の材料は、鍛造あるいは圧延部材としても製作可能であるが、これらを角材として成形した後に削り出した場合、あるいは個別の鍛造後に切削加工して製作した場合は、部材の製作から加工に際し、少なくとも数ヶ月の時間を要する。
これらのことから、本発明に係る耐熱鋼部材は、遠心鋳造法によってリング形状に成形され、その後の切削加工で仕上げられることが、製造工数の観点からも好適である。
なお、遠心鋳造部材の品質を向上させるため、縦型遠心鋳造時の鋳型上蓋の内径側に、押し湯を付設してもよい。また、遠心鋳造部材の品質を向上させるため、遠心鋳造時の注湯を2段階に分け、内径側の熱容量を大きくし、この部位の冷却を遅滞させることで、鋳造欠陥の発生位置を内径側の切削部位に移動させることも可能である。また、上述のように、鋳型の形状変更や溶湯の注湯方法を改善するのみならず、リング状の耐熱鋼部材の断面寸法の縦横比を変更することによって、最終的な製品形状に鋳造欠陥が残存することを避けることは当然考慮されるべきである。
ここで、本発明の化学組成範囲にあるリング状の耐熱鋼部材は、ダイアフラム外輪、ダイアフラム内輪およびノズル板を一体的に有する分割構造体以外にも、例えば、上記したように、蒸気タービンの羽根、ノズル板、ダイアフラム、各種リング部品、リング形状のシート、各種円筒形状部品などの構成材料として利用することができる。なお、本発明に係るリング状の耐熱鋼部材の用途は、上記したものに限られるものではなく、他の分野の耐熱鋼として用いてもよい。なお、鋳型は、製作する部材の形状に対応して適宜製作されることが好ましい。
以下に、本発明の実施例について説明する。
(第1の実施例)
第1の実施例では、本発明の化学組成範囲にある耐熱鋼部材が、リング形状に製作された場合の効果について、図を参照して説明する。
図1に、例えばノズル板用のリング状耐熱鋼部材10の平面図を示す。図2および図3に、ノズル板の平面図を示す。
リング状耐熱鋼部材10は、同心の外径Dと内径d、厚さTを有し、これらのD、dおよびTは、それぞれノズル板20の外径、内径および厚さに加工代を考慮して設定された寸法である。また、αは、リング状耐熱鋼部材10を等分割する際の1つの分割片に対応する中心角度である。
リング状耐熱鋼部材10の内外周、上下面は、予め必要寸法に一体的に切削加工される。その後、リング状耐熱鋼部材10は、1つのノズル板を構成するのに必要な角度で、ラジアル線上に等分割される。そして、1つのリング状耐熱鋼部材10からノズル板を形成するためのノズル板部材20が、「360/α」個得られる。
ここで、ノズル板部材20は、ラジアル線で割断されるため、仕上がり形状に即した形状となる。そのため、特に円周の加工精度や寸法精度が大幅に向上し、歩留りが向上するとともに、切削加工に要する時間が大幅に短縮される。
一方、ノズル板部材として角材を用いる場合、割断された角材に、所定の基準面を設け、その基準面に基づいて、角材を個々のノズル板部材に分割し、その分割片を切削加工する。特に、図2および図3に示すような内外輪側に嵌合部31、32、41、42を有するノズル板30、40の場合、中心角による内外輪の寸法差が存在するため、内外輪の嵌合部の寸法精度と、内輪側の歩留りが低下する。
また、リング状耐熱鋼部材10は、遠心鋳造法により製作されるので、リング状耐熱鋼部材10の製造の所要時間を大幅に短縮することができる。さらに、上述の寸法精度や歩留りを向上させ、切削加工に要する時間を大幅に短縮することができる。
(第2の実施例)
第2の実施例では、リング状耐熱鋼部材の製作に際し、本発明の化学組成範囲が好適な理由について説明する。
試料となるリング状耐熱鋼部材(供試耐熱鋼1〜供試耐熱鋼8、比較供試耐熱鋼1および比較供試耐熱鋼2)は、それぞれ各耐熱鋼の組成成分約800kgを大気中で溶解し、大気中で外径が1000mm、内径が400mm、厚さが120mmのリング形状に遠心鋳造した。
表1に、作製されたリング状耐熱鋼部材の化学組成を示す。表1に示されたリング状耐熱鋼部材のうち供試耐熱鋼1〜供試耐熱鋼8は、本発明に係る組成範囲にある耐熱鋼部材である。一方、比較供試耐熱鋼1および比較供試耐熱鋼2は、その組成が本発明の化学組成範囲にない耐熱鋼部材であり、比較例である。なお、表1に示された数値の単位は、重量%である。
各リング状耐熱鋼部材には、各材質に好適な機械的特性を発揮させるための焼入れおよび焼戻しの熱処理を施した。なお、熱処理は、各耐熱鋼部材ともに所望の機械的性質を得るため、異なる条件で行われた。
Figure 0005248549
所定の熱処理が施された各リング状耐熱鋼部材の半径方向、接線方向および厚さ方向に沿って試験片の部材を採取し、それぞれについてJIS4号2mmVノッチシャルピ衝撃試験片を作製した。そして、これらの試験片を用いて、20℃の雰囲気温度下でシャルピ衝撃試験を実施した。また、各リング状耐熱鋼部材について常温0.2%耐力を測定した。
表2に、20℃衝撃吸収エネルギおよび常温0.2%耐力の測定結果を示す。なお、表2には、厚さ方向に沿って採取された試験片おける衝撃吸収エネルギおよび常温0.2%耐力の値を1として示し、他の方向に沿って採取された試験片おける結果は、厚さ方向に沿って採取された試験片に対する比として示されている。
表2に示された結果から、供試耐熱鋼1〜供試耐熱鋼8の常温0.2%耐力は、いずれの方向についても、0.9〜1.1、20℃衝撃吸収エネルギは、0.8〜1.1を示し、各リング状耐熱鋼部材の半径方向、接線方向および厚さ方向について、ほぼ同等の引張性質および衝撃性質を発揮できることがわかった。一方、比較供試耐熱鋼1および比較供試耐熱鋼2では、常温0.2%耐力および20℃衝撃吸収エネルギともに、0.5を下回る値が過半を占め、材料特性の異方性が極めて大きいことがわかった。
この測定により、本発明に係る耐熱鋼部材は、リング状の部材として製作した場合に、異方性がほとんど生じず、均質な機械的性質を得ることができることが明らかになった。
Figure 0005248549
10…リング状耐熱鋼部材、20…ノズル板、30,40…ノズル板、31,32,41,42…嵌合部、D…外径、d…内径、T…厚さ。

Claims (3)

  1. 重量%で、C:0.06〜0.18%、Si:0.05〜0.6%、Mn:0.2〜0.8%、Cr:9〜11.5%、Ni:0.1〜1%、Mo:0.8〜1.3%、Nb:0.05〜0.5%、V:0.07〜0.3%、N:0.03〜0.08%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、遠心鋳造で円筒形状に成形されたことを特徴とする耐熱鋼部材。
  2. 前記不可避的不純物が、重量%で、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Co:0.25%以下、Al:0.05%以下、Ti:0.05%以下、Sn:0.04%以下、Cu:0.25%以下に抑制されていることを特徴とする請求項1記載の耐熱鋼部材。
  3. 請求項1または2記載の組成成分を有する耐熱鋼部材を製造する方法であって、
    前記耐熱鋼部材を構成する組成成分を溶解する溶解工程と、
    前記溶解された溶湯を、回転する所定の形状の鋳型に流し込み、円筒形状の鋳物を形成する遠心鋳造工程と、
    前記鋳物に対して、焼入れおよび焼戻しの熱処理を行う熱処理工程と
    を具備することを特徴とする耐熱鋼部材の製造方法。
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