以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係る光学絞り1の概略構成を表す断面図である。光学絞り1は、静電的に濡れ性を制御するエレクトロウェティング現象を利用して、液体の変形ならびに変位を発生させることで透過光量を調節する装置である。この光学絞り1には、対向配置された下部基板10と上部基板11との間に、下部基板10の側から下部電極(第1電極)12、絶縁膜13、外壁14および上部電極(第2電極)17が設けられている。また、絶縁膜13と上部電極17との間には、極性液体層15と無極性液体層16とが封止層18によって封止されている。
下部基板10および上部基板11は、ガラスや透明樹脂などの透明性を有する材料により構成されている。特に、光量調節を行うことに鑑みて透明性の高い材料が好ましい。また、充分な耐熱性を有し、平面方向の寸法安定性の高い材料が好ましい。さらに、装置全体の薄型化のために、できるだけ薄型の基板とすることが好ましい。
例えば、透明樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリサルフォン(PS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン等の高分子材料が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を含むプラスチック基板が用いられる。具体的には、ポリイミド(PI)基板(例えば、ネオプリムL(商品名:三菱ガス化学製)、耐熱温度:285℃、光透過率90%(厚さ100μm))、フッ素樹脂基板(耐熱温度:250℃)、ポリエーテルスルホン(PES)基板(例えば、スミライトFS(商品名:住友ベークライト株式会社製)、耐熱温度:180℃、光透過率88%(厚さ550nm))、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板(耐熱温度:160℃)、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板(耐熱温度:140℃)などが挙げられる。
下部電極12および上部電極17は、透明性を有する電極材料、例えば、In2O3(酸化インジウム)とSnO2(酸化スズ)との混合物(ITO:酸化インジウムスズ)、SnO2、In2O3などにより構成されている。この他にも、ITO、SnO2もしくはIn2O3に、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、フッ素(F)などをドーピングしたもの、例えばフッ素−ドープ酸スズ(FTO)が用いられる。また、MgO(酸化マグネシウム)、ZnO(酸化亜鉛)や、ZnOにアルミニウム(Al)をドープしたAZO、ZnOにガリウム(Ga)をドープしたGZO、ZnOにインジウム(In)をドープしたものなどが用いられる。
また、下部電極12は、絶縁膜上の外壁14によって囲まれた領域よりも一回り小さくなるように設けられている。すなわち、領域Pには、外壁14の近傍で外壁14よりも内側の領域に電極のない領域が設けられている。
絶縁膜13は、下部電極12と上部電極17との構造的に絶縁するためのものである。ここで、絶縁膜13は、無電界下において、極性液体層15よりも無極性液体層16に対して親和性が大きい材料によって構成されている。絶縁膜13の材料としては、撥水性を有するもの、例えばフッ素原子を含有する分子材料が好適に用いられる。また、誘電率の大きな材料を用いることが好ましい。絶縁膜13の厚みは、絶縁強度の観点からは厚い方が好ましく、誘電率を大きくする観点からは薄い方が好ましい。
このような絶縁膜13の具体的な材料としては、フルオロアルキル系高分子が挙げられ、例えば、ビニリデンフッ素共重合体、ヘキサフルオロイソブチレン含有高分子、エチレン共重合体、パーフルオロジメチルジオキソール共重合体、液晶性シクロブタンなどが挙げられる。その一例を、化1(1,1,2,4,4,5,5,6,7,7-decafluoro-3-oxa-1,6-heptadiene)に示す。
外壁14は、絶縁膜13上に、光学絞り1の領域Pを囲むように設けられている。言い換えると、外壁14によって囲まれる領域が、領域Pとなっている。この外壁14の具体的な構成については後述する。
極性液体層15および無極性液体層16は、絶縁膜13と上部電極17との間に互いに混じり合うことなく2層に分かれて存在している。例えば、無極性液体層16は、絶縁膜13上の外壁14によって囲まれた領域に配置されている。また、極性液体層15は、外壁14と無極性液体層16を覆うように配置されている。
極性液体層15は、光透過性を有すると共に、無極性液体層16と交じり合わない材料により構成されている。また、電圧に対する応答速度の観点から低粘度であることが好ましい。極性液体層15の材料としては、可視光に対して透明な材料、例えば、純水、塩化カリウムや塩化ナトリウムなどの電解質を溶かした水溶液、分子量の小さなアルコール(メチルアルコール、エチルアルコール)などが挙げられる。
無極性液体層16は、遮光性を有すると共に、極性液体層15と交じり合わない材料により構成されている。また、電圧に対する応答速度の観点から低粘度であることが好ましい。無極性液体層16としては、ベンゼン、トルエン、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカン、n−ドデカン、n−ヘキサデカン、ウンデカン等の炭化水素系材料、キシレン、メシチレン、ブチルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレンなどのうち少なくとも一種を含む無極性溶媒に、例えば可視光に対して黒色となる染料や顔料などの色素を含有したものが用いられる。但し、本実施の形態では、無極性液体層16として、外壁14に対して親和性を有する材料、例えばp−キシレンなどの芳香族炭化水素材料を用いた場合を例に挙げて説明する。
無極性液体層16に含有される色素としては、上記のような無極性溶媒に良く溶け(または分散し)、例えば450nm、550nmおよび650nm付近に吸収帯を有する材料やこれらの材料を組み合わせたものが用いられる。その一例を化2に示す。
封止層18は、粘着性のシリコーンテープなどのシール剤であり、極性液体層15や無極性液体層16の漏れを防ぐと共に、下部基板10と上部基板11との間の距離、すなわちセルギャップを一定間隔に保持するためのものである。なお、この封止層18の外側に、さらに光硬化型もしくは熱硬化型などの接着層が設けられていてもよい。
また、光学絞り1には、図示しない制御部が設けられている。制御部には、例えば電源部と、電圧のオン状態、オフ状態を切り替えるためのスイッチ部とが設けられ、上述した下部電極12と上部電極17との間に任意の大きさの電圧を印加することができるようになっている。このような光学絞り1は、例えば小型カメラの開口絞りやシャッタとして好適に用いられ、その領域Pの直径は、数mm程度、例えば2mm〜8mmである。
次に、図2を参照して外壁14および下部電極12の具体的な構成について説明する。
図2は、絶縁膜13上に設けられた外壁14の平面構成を表す模式図である。このように、外壁14は、絶縁膜13の表面に沿って環状、すなわち、絶縁膜13上の領域を円形状に取り囲むように設けられている。また、下部電極12は、この環状の外壁14よりも一回り内側の領域に、外壁14と同心円形状となるように設けられている。
このような外壁14の材料としては、CH基を含有する分子からなる材料を用いるのがよい。例えば、光加工性が良好であり、有機溶媒にほとんど膨潤しない程度にまで架橋したアクリル系樹脂や、化3に示したようなエポキシ系樹脂などの高分子材料が好適である。また、極性液体層15に溶解したり反応したりしないことが好ましい。具体的には、光硬化型のエポキシ樹脂(SU−83035,SU−85050:化薬マイクロケム株式会社製)が用いられる。なお、これらの材料が光重合することにより、外壁14の表面は疎水的(親油的)となる。
次に、図3〜図7を参照して、上記のような光学絞り1の製造方法について説明する。
まず、下部基板10上に下部電極12を形成する。例えば、図3に示したように、上述した材料よりなる下部基板10上に、上述した材料よりなる透明電極材料を例えばスパッタリング法により成膜する。なお、同様にして、上述の材料よりなる上部基板11上に、上部電極17を形成する(図示せず)。
次いで、下部電極12を例えばフォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより、下部電極12の端部領域を除去する。この際、まず図4(A)に示したように、成膜した下部電極12上に、例えばポジ型のフォトレジスト膜110を、例えばスピンコート法により塗布形成したのち、フォトレジスト膜110表面を、所定の開口パターンを有するフォトマスク111を用いて露光する。こののち、現像処理を施すことにより、パターニングされたフォトレジスト膜110を形成する(図4(B))。続いて、パターニングされたフォトレジスト膜110側の面を、例えばウェットエッチングしたのちフォトレジスト膜110を除去することにより、下部電極12をパターニングする(図4(C))。
次いで、図5に示したように、パターニングした下部電極12の全面を覆うように、上述した材料よりなる絶縁膜13を、例えばスピンコート法、ディップコート法、蒸着法などにより成膜する。この際、絶縁膜13の表面に撥水処理を施すようにしてもよい。
次いで、形成した絶縁膜13上に外壁14を形成する。まず、図6(A)に示したように、絶縁膜13上に、光硬化型の樹脂層14−1を形成する。この際、例えば上述したようなエポキシ樹脂に、例えば化4に示したようなスルホニウム塩を光酸発生剤として加えるようにしてもよい。
続いて、図6(B)に示したように、例えば、所定の領域に開口が設けられたマスク112を用いて、形成した樹脂層14−1に光照射を行う。こののち、加熱処理、現像処理などを施すことにより、例えば環状の外壁14を得る(図6(C))。この際、外壁14の表面は、樹脂層14−1の光重合によって親油的となる。
次いで、図7に示したように、外壁14を形成した絶縁膜13上に、例えば上述したような色素を溶解させた無極性液体を、外壁14によって囲まれた領域に注入し、絶縁膜13上の領域を無極性液体で被覆することにより無極性液体層16を形成する。そして、この無極性液体層16の上面から、上述した材料よりなる極性液体を注入することにより、極性液体層15を形成する。
最後に、無極性液体層16および極性液体層15が形成された下部基板10と、上部電極17が形成された上部基板11とを、極性液体層15と上部電極17とが対向するように重ね合わせ、封止層18によって封止する。以上により、図1に示した光学絞り1を完成する。
次に、本実施の形態の光学絞り1の作用、効果について説明する。図8および図9は、極性液体層15および無極性液体層16の変形の様子を表す模式図であり、図8(A)は電圧を印加していない状態(V=0)、図8(B)は電圧を印加した状態(V=V1)を示す。図9(A),(B)は、図8(A),(B)にそれぞれ対応する平面図である。
光学絞り1では、図8(A)および図9(A)に示したように、電圧を印加していない状態では、外壁14によって囲まれた領域P内で、可視光に対して黒色となるように着色された無極性液体層16が絶縁膜13の全面を覆い、この無極性液体層16の上層に極性液体層15が配置された状態で安定している。よって、電圧を印加していない状態では、入射光の光路は無極性液体層16によって遮断され、透過光量はほぼ0(ゼロ)となる。なお、芳香族炭化水素材料を用いた無極性液体層16の表面形状は、電圧を印加していない状態において、絶縁膜13の側に凸となる。
一方、図示しない制御部の制御によって下部電極12と上部電極17との間に電圧が印加されると、両電極間に電界が発生する。これにより、絶縁膜13内において電界方向へ分極電荷が発生し、絶縁膜13の表面に電荷が蓄積され、いわゆる電荷二重層状態となる。このとき、極性液体層15は極性を有しているので、電荷の存在により、絶縁膜13の近傍へクーロン力によって引き寄せられる。すなわち、印加する電圧が大きくなるにつれて、絶縁膜13の極性液体層15に対する濡れ性が大きくなる。これにより、極性液体層15は、絶縁膜13との接触面積を増大させるように変形する。一方、無極性液体層16は、無極性であるがゆえにクーロン力は発生しない。このため、無極性液体層16は、変形する極性液体層15に押し出されて絶縁膜13上の一部の領域に集まるように移動する。すなわち、無極性液体層16は、絶縁膜13との接触面積を縮小させるように変形する。なお、このとき、芳香族炭化水素材料の凝集力が比較的弱いため、領域Pの中央付近からちぎれるようにして外壁14の近傍へ移動する。
ここで、絶縁膜13の極性液体層15に対する濡れ性の変化は、以下の式(1)〜(3)によって説明することできる。但し、γLVを液体と基体との界面張力、γSVを固体と気体との界面張力、γSLを固体と液体との界面張力、γEWを電界の強さによる界面張力、ε0を真空の誘電率、εrを絶縁膜13の比誘電率、Vを印加電圧の大きさ、dを下部電極11と上部電極17との間の距離(電極間ギャップ)とする。これら式(1)〜(3)により、極性液体層15の絶縁膜13に対する接触角θは、電圧Vの大きさに応じて変化することがわかる。よって、印加電圧の大きさに応じて、極性液体層15の界面形状、すなわち濡れ性が変化する。
γLVcosθ=γSV−γSL+γEW ………(1)
γEW=d×σL 2/2×ε0×εr ………(2)
σL=ε0×εr×V/d ………(3)
上述したように、電圧を印加することによって、絶縁膜13の極性液体層15に対する濡れ性が大きくなり、無極性液体層16は、絶縁膜13との接触面積を縮小するように変形する。これにより、面内では、可視光に対して黒色となる領域が小さくなるため、領域P全体として光の透過領域が大きくなる。また、印加する電圧の大きさに応じて、極性液体層15の絶縁膜13に対する濡れ性が変化するため、これに伴って無極性液体層16の変形量も変化する。
このとき、領域Pを囲うように絶縁膜13上に設けられた外壁14に対して、無極性液体層16が親和性を有していることにより、図8(B)および図9(B)に示したように、無極性液体層16は外壁14に沿って集まるように変形(移動)する。すなわち、電圧を印加した際に、無極性液体層16は、領域Pの端部に向けて変形する(図8(B)中の点線矢印)一方、極性液体層15は、領域Pの中央部から無極性液体層16を分け入るように変形する(図8(B)中の実線矢印)。これにより、領域Pのうち、中央の領域が開口部20となる。
以上のように、光学絞り1によれば、絶縁膜13と上部電極17との間に、極性液体層15と無極性液体層16とを設けるようにしたので、印加電圧の大きさに応じて絶縁膜13の極性液体層15に対する濡れ性を変化させ、無極性液体層16を変形(移動)させることができる。このとき、極性液体層15が可視光に対して透明で、無極性液体層16が可視光に対して黒色となるように着色されているので、極性液体層15および無極性液体層16のそれぞれの形状を変化させることにより透過光量の調節が可能となる。
ここで、図17(A)に示したような従来の光学絞り200では、絶縁膜204上に環状の外壁208が形成され、この環状の外壁208によって囲まれる領域内に、無極性液体層207、極性液体層206がこの順に設けられている。このような光学絞り200では、一対の電極203,208の間に電圧が印加されると、極性液体層206の濡れ性が変化して、無極性液体層207が絶縁膜204上で変形する(図17(B))。このとき、光学絞り200では、極性液体層206が黒色となるように着色されており、無極性液体層207が透明となっている。このため、無極性液体層207を上部の電極208に接するように変形させて光を透過させるようになっている。
ところが、このような光学絞り200では、電圧を印加した際に、絶縁膜上で無極性液体層が集まる領域、すなわち変形(移動)する方向性が定まらず、これによって駆動電圧が高くなったり、電圧に対する応答速度が遅くなってしまう。
これに対し、本実施の形態の光学絞り1によれば、領域Pを囲うように設けられた外壁14に対して、無極性液体層16が親和性を有するようにしたので、無極性液体層16の変形する方向性を定め、無極性液体層16を領域Pの端部に、極性液体層15を領域Pの中央部に、それぞれ高速に変形させることができる。これにより、駆動電圧を低くすると共に、電圧に対する応答速度を速くすることができる。また、無極性液体層16が不透明性、極性液体層15が透明性を有するようにしたので、領域Pの中央に開口(透過領域)が形成されると共に、印加電圧に応じて、その開口の大きさを変化させることができる。以上により、印加電圧に応じて透過光量を調節すると共に、低電圧駆動および高速応答化を実現することが可能となる。
また、下部電極12を、基板面内方向において、外壁14によって囲まれる領域よりも一回り小さくなるようにしたので、絶縁膜13上の外壁14の近傍に電荷の蓄積されない領域を設けることができる。上述したように、絶縁膜13表面における電荷の蓄積によって極性液体層15に対する濡れ性が大きくなり、この濡れ性の大きくなった領域で極性液体層15が安定して存在する。このため、絶縁膜13上に電荷の蓄積されない領域があれば、無極性液体層16はその領域に必然的に追いやられる。よって、無極性液体層16を、外壁14の近傍領域、すなわち領域Pの端部に向けて変形させ易くすることができ、光学絞りにおいて低電圧駆動および高速応答化を実現し易くなる。
なお、従来のように、極性液体層を着色した場合には、極性液体層に含有された色素によって、電圧印加時に電荷が発生し、絶縁破壊を引き起こし易くなる。これに対し、本実施の形態では、無極性液体層16を不透明、極性液体層15を透明としたので、このような色素に起因する絶縁破壊が発生しにくくなる。
[変形例]
次に、本実施の形態の光学絞り1の変形例について説明する。
図10は、変形例に係る光学絞り2の概略構成を表す断面図である。図11は、光学絞り2の壁の平面構成を表す模式図である。光学絞り2は、絶縁膜13上の外壁14によって囲まれる領域を複数のサブ領域に区画する隔壁24が設けられ、このサブ領域内に無極性液体層16が配置されること以外は、上記第1の実施の形態の光学絞り1と同様の構成となっている。よって、以下では、上記第1の実施の形態の光学絞り1と同様の構成要素については、同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
隔壁24は、絶縁膜13上の外壁14によって囲まれる領域、すなわち領域P内を、例えばマトリクス状(格子状)のサブ領域に区画するようになっている。そして、この隔壁24によって区画されたサブ領域ごとに、無極性液体層16が配置され、これらサブ領域ごとに配置された全ての無極性液体層16を覆うように極性液体層15が設けられている。
また、隔壁24は、例えば上述した外壁14と同様の材料により構成されている。但し、隔壁24の上面部24bは、極性液体層15に対して親和性(親水性)を有するようになっている。この場合、隔壁24の上面部24bに対して、例えばUV/OZONE処理などの親水化処理を施すようにする。あるいは、隔壁24の全面に対して親水化処理を施すようにしてもよく、このようにした場合であっても、無極性液体層16として芳香族炭化水素材料を用いた場合には、無極性液体層16との相互作用により、隔壁24の側面部24aは外観上親油的となる。
このように、領域Pを複数のサブ領域に区画する隔壁24をさらに設け、この区画された領域ごとに無極性液体層16を配置するようにしてもよい。これにより、上記実施の形態の光学絞り1と同等の効果を得ることができる。また、電圧を印加することにより、各サブ領域内で変形する無極性液体層16の変形量(移動量)が小さくなるため、低電圧駆動および高速応答化を実現し易くなる。
また、上記のように領域Pを分割した場合には、例えば、領域Pのうち中央部に配置されたサブ電極から端部に配置されたサブ電極にかけて同心円形状となるように順次電圧を印加する領域を変化させることにより、例えば図12(A)〜(E)に示したように、開口(透過領域)のサイズを変化させるようにする。但し、図12(A)は電圧をいずれのサブ電極にも印加していない場合、図12(B)〜(D)は中央部から端部へ段階的に電圧印加領域を増加していった場合、図12(E)は全てのサブ電極に電圧を印加した場合の光学絞り1の領域P全体の開口の様子を示したものである。このように、絶縁膜13上の領域を隔壁24によって複数のサブ領域に区画することにより、開口サイズを調節することができ、領域Pの任意の位置で透過率が異なるように光量を調節することが可能となる。
また、隔壁24の上面部24bが親水性を有していることで、隔壁24によって囲まれる各サブ領域内に配置された無極性液体層16が、隣接するサブ領域に流出することを防ぐことができる。よって、各無極性液体層16を安定して配置させることができる。
なお、本変形例では、無極性液体層16が分割されたサブ領域ごとに設けられ、極性液体層15が、各サブ領域に共通の層として設けられた構成を例に挙げて説明したが、極性液体層15の構成はこれに限定されない。例えば、各サブ領域をそれぞれ構造的に独立させ、各サブ領域内に無極性液体層16と極性液体層15とを1:1の個数比で設けるようにしてもよい。
また、サブ領域ごとに分割された下部電極12を複数設けた構成を例に挙げて説明したが、下部電極12はサブ領域ごとに分割されていなくともよい。すなわち、隔壁24のマトリクス状のパターンに対応して下部電極を配置する必要はない。例えば、領域Pを任意の数、任意の面積のブロックに分け、このブロックごとに下部電極を分割して、例えば図12(A)〜(E)に示したような開口サイズとなるように、駆動するようにしてもよい。
また、隔壁の形成パターンは、上述したマトリクス状に限定されず、例えば、図13(A),(B)に示したように、領域Pを放射状に例えば4つのサブ領域PS−1,PS−2,PS−3,PS−4に分割するようなパターンであってもよい。このような場合であっても、例えば外壁14の壁面の無極性液体層16に対する親和性を調節すれば、電圧印加時において、図13(B)に示したように中央部に開口を設けることができ、また、印加電圧の大きさに応じて開口サイズを調節することができる。
[第2の実施の形態]
図14は、第1の実施の形態に係る光学絞り3の概略構成を表す断面図である。光学絞り3は、無極性液体層26として、直鎖型炭化水素材料、例えば、n−ドデカンなどを用いていること以外は、上記第1の実施の形態の光学絞り1と同様の構成となっている。よって、上記第1の実施の形態と同様の構成については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
無極性液体層26として直鎖型炭化水素材料を用いた場合、電圧を印加していない状態(V=0)では、無極性液体層26の表面形状は、上部電極17の側に凸となる(図15(A))。一方、下部電極12と上部電極17との間に、電圧を印加した状態(V=V1)では、絶縁膜13上の全面を覆っていた無極性液体層26が、領域Pの隔壁14の近傍へ集まるように移動する(図15(B))。これは、外壁14の近傍に電極のない領域(電荷の発生しない領域)が設けられているため、上述したように、この電極のない領域に無極性液体層26が必然的に追いやられることによるものである。
このように、無極性液体層として直鎖型炭化水素を用いた場合にも、第1電極を外壁14よりも一回り小さくなるような平面構成とすれば、電圧無印加時の表面形状や電圧印加による挙動が異なるものの、上記第1の実施の形態の光学絞り1とほぼ同等の効果を得ることが可能となる。
次に、上記のような光学絞り1の具体的な実施例について説明する。
実施例として、図1に示したような光学絞り1を、領域P全域の大きさ(セルサイズ)をφ1(直径1mm)として、実際に作製した。まず、厚み0.7mmの無アルカリ性のガラスからなる下部基板10上に、表面抵抗が100Ω/mm2のITO膜(下部電極12)を成膜し、フォトリソグラフィ法により下部電極12のパターニングを行った。具体的には、下部電極12上へポジ型感光性レジストをスピンコートしたのち、光照射および現像処理によってレジストをパターニングし、混酸(18wt%−HCl,10wt%−HNO3,72wt%−H2O) によりエッチングした。また、この際、平面形状が直径0.75mmの円形となるようにパターニングした。
次いで、パターニングした下部電極12の表面に、化1で表される材料を6wt%含有したパーフルオロトリブチルアミン溶液をスピンコートして、厚み500nmの絶縁膜13を下部電極12を覆うように形成した。続いて、絶縁膜13上に、化3で表されるエポキシ樹脂を、化4のスルホニウム塩(光酸発生剤)を用いて光カチオン重合により硬化させた。この際、エポキシ : シクロペンタノン : スルホニウム塩 : プロピレンカーボネート=9:16:1:1の重量比で混合した溶液をスピンコートして成膜したのち、光照射処理、加熱処理、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートによる現像処理を施すことにより、絶縁膜13上に図2に示したような環状の外壁14を形成した。
次いで、手動又は機械により、n−ドデカンとp−キシレンとの混合液に対し、化2に示したような黒色の色素を溶解させたものを、絶縁膜13上の外壁14によって囲まれた領域に注入し、無極性液体層16を形成した。そして、この無極性液体層16の表面へ極性液体層15として水を注入したのち、上部電極17が形成された上部基板11を貼り合わせ、封止層18により、全体の厚み(セルギャップ)が125μmとなるように封止した。
上記のようにして作製した実施例に係る光学絞りについて、電圧を印加しない状態における透過率曲線を図16に示す。このように、電圧を印加しない状態(黒色時)では、特に波長350nmから650nmの領域において吸収率が高く、十分に黒色を表現できていることがわかる。
また、下部電極12と上部電極17との間に、+20Vと−20Vとを交互に繰り返す矩形波電圧(以下、単に±20Vの矩形波電圧という)を印加すると、電圧印加前には領域Pの全域を覆っていた各無極性液体層16は、直ちに領域Pの隅へ追いやられ、十分に透明を表現できていることが視覚的に観察された。
次いで、印加電圧を、±20Vと0Vとを交互に繰り返す矩形波電圧とすると、領域P全体では、黒色と透明とが高速に切り替わって表示されることが確認された。すなわち、電圧の切り替えに対して、光学絞りの開閉動作が高速に行われることが示された。また、上述した結果から、実施例に係る光学絞りでは、透明から黒色、および黒色から透明を切り替えるための駆動電圧が約20Vであることがわかる。
また、印加電圧を、±20Vの矩形波電圧とした場合に、電圧印加前後の無極性液体層16のセルサイズに対する存在比率から応答速度を算出した。但し、領域P全体の面積に対して、無極性液体層16の占める面積が最小となる時(すなわち、透過面積が最大となる透明時)と、最大となる時(すなわち、透過面積が最小となる黒色時)との切り替えに要する時間を応答速度とする。この結果、応答速度は、500ms(ミリ秒)以下となり、実用上十分な速度であった。
また、印加電圧を、±20Vと0Vとを交互に1Hzで5万回繰り返す矩形波電圧としたところ、電圧印加前後において、無極性液体層16の変化率やスペクトル形状にほとんど変化がなく、実用上十分に優れた耐久性を有していることが確認された。
また、印加電圧を、±0Vから±20Vにかけて徐々に増加するような矩形波電圧とすると、領域P全体の色合いが黒色に近い状態から白色に近い状態へ徐々に変化することが確認された。また逆に、±20Vから±0Vと、徐々に低減するような矩形波電圧とすると、白色に近い状態から黒色に近い状態へ徐々に変化することが確認された。すなわち、印加する電圧の大きさにより色調を調節することができ、NDフィルタのようなグレー表示を行うことも可能であることがわかる。
一方、上記実施例の比較例として、図17(A),(B)に示したような従来の光学絞り200(セルサイズ:φ1)を作製した。この際、まず、上記実施例と同様にして下部基板201上に下部電極203、絶縁膜204を形成したのち、壁面205を、面内方向において環状となるように形成した。但し、下部電極203については、セルサイズと同等の大きさとなるように形成した。
次いで、シリコンオイルを、絶縁膜204上の壁面205によって囲まれる円形の領域内に注入することにより無極性液体層207を形成した。さらにその表面へ、黒色顔料(親水性カーボンブラック)が溶解した水を注入することにより、極性液体層206を形成した。ここで、無極性液体層207(シリコンオイル)と極性液体層206(水)との比重を同一にするために、水に塩化物イオンを溶解させた。この上に、上部電極208が形成された上部基板202を重ね合わせ、封止層209によって全体の厚みが125μmとなるように封止することにより、光学絞り200を作製した。
このようにして作製した光学絞り200において、下部電極203と上部電極208との間に電圧を印加した。この際、印加電圧を、0Vから±20Vの矩形波電圧へ変化させても、ほとんど無極性液体層207に変化はみられず、図17(A)に示したような状態のままであった。そこで、両電極間に±40Vの矩形波電圧を印加すると、無極性液体層207が中央部に集まるように変形し、図17(B)に示したような状態(透明時)となった。また、この際、応答速度はいずれも10s(秒)程度であった。
また、一部の絶縁膜表面で絶縁破壊が起こっていることがわかった。これは、色素が極性液体層に分散しており、電荷を持った色素が電解質として機能したためと考えられる。
ここで、表1に、上述した実施例および比較例における駆動電圧および応答速度についての測定結果をまとめたものを示す。このように、無極性液体層16が、領域Pを囲む外壁14に対して親和性を有すると共に、無極性液体層を着色して極性液体層を透明とすることにより、駆動電圧が低くなり、応答速度が速くなっていることがわかる。また、極性液体層と無極性液体層との比重調整も不要であるため、絶縁破壊を引き起こす要因となる塩化物イオンなどを加える必要がなくなり、材料の選定が容易となる。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記第1の実施の形態では、領域Pの端部に下部電極のない領域が設けられた構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、領域Pの全域に下部電極が形成された構成であっても、本発明と同等の効果を得ることができる。
また、上記実施の形態等では、外壁14が絶縁膜13上に環状となるように設けられた構成を例に挙げて説明したが、外壁14の平面構成は、これに限定されず、例えば正方形や正六角形などの正多角形であってもよい。
また、上記実施の形態等では、絶縁膜表面に外壁や隔壁を形成した構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、例えば絶縁膜上にさらに撥水膜などを形成し、この撥水膜上に壁面を設けるようにしてもよい。この場合、撥水膜は、可動部分となる無極性液体層や極性液体層と接触するため、これらに対して疎水性の大きい材質であることが好ましい。また、下部電極と上部電極とを構造的に絶縁させるために、誘電率が大きい材質であることが好ましい。例えば、フッ素系のポリマーであるPVdFやPTFEなどが用いられる。
また、上記実施の形態等では、絶縁膜上にエポキシ樹脂などを光重合させることによって、親油的な外壁を形成したのち、この外壁によって囲まれる領域に無極性液体を注入して、無極性液体層を設けるようにしたが、これに限定されず、形成した外壁表面に親水化処理を施したのち、無極性液体を注入するようにしてもよい。なお、第1の実施の形態において、上記のように外壁の表面に親水化処理を施したとしても、芳香族炭化水素材料と外壁との相互作用により外観上は親油的となる。
また、上記実施の形態等では、下部電極の全面を覆うように絶縁膜が設けられた構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、例えば下部電極上の外壁に対向する領域に、ブラックマトリクスを設け、このブラックマトリクスを覆うように絶縁膜を設けるようにしてもよい。これにより、外壁が形成された領域に入射する光が遮断され、外壁での光の散乱などを抑制することができる。
また、上記実施の形態等では、本発明の液体光学素子として、カメラなどに用いられる光学絞りを例に挙げて説明したが、これに限定されず、例えば領域Pを一つの画素(ピクセル)として複数配置し、これら複数の画素に対して画像信号に基づく電圧をそれぞれ印加することにより、画像を表示する表示装置にも適用可能である。
1,2…光学絞り、10…下部基板、11…上部基板、12…下部電極、13…絶縁膜、14,24…外壁、15…極性液体層、16,26…無極性液体層、17…上部電極、18…封止層、P…領域。