JP5230224B2 - 新規冷凍耐性パン酵母 - Google Patents

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Description

本発明は、冷凍耐性を賦与又は強化したパン酵母、及びそれに係る遺伝子並びに該冷凍耐性パン酵母を用いてなる冷凍パン生地及び冷凍生地製パン法に関する。
冷凍生地製パン法とは、製パン工程の途中でパン生地を一時冷凍し、必要に応じて解凍、焼成する製パン法である。この製法では、パン生地冷凍中の輸送、貯蔵が可能であるため、主に深夜、早朝に行われる製パン作業の労働条件の改善に有効である。また、焼きたてパンの需要や、多品種少量生産にも対応できることから、広く普及している。しかしながら、生地を冷凍することにより、生地中のパン酵母は致命的な傷害を受けるため、通常の製パン法による製品の品質には及ばないという欠点がある。そのため、製品価値のあるパンを得るためには、冷凍傷害を受けにくい酵母、すなわち冷凍耐性を有する酵母が必要である。近年では、イーストメーカー各社において、様々な冷凍耐性パン酵母が開発され、機能は向上してきている。しかし、まだまだ充分ではなく、更なる機能向上のために冷凍耐性のメカニズムに関する研究が行われているが、未だ解明には至っていない。
冷凍耐性パン酵母に関する従来技術としては、トレハラーゼをコードする遺伝子NTH1、ATH1を不活性化(遺伝子破壊)することにより、細胞内のトレハロースを高蓄積させた酵母(特許文献1、特許文献2)、脂肪酸不飽和化酵素をコードするOLE1遺伝子の量を増加させることにより、細胞内の不飽和脂肪酸の割合を増加させた酵母(特許文献3)、アルギニン分解酵素をコードするCAR1遺伝子を不活性化することによって、特定アミノ酸を高蓄積させた酵母(特許文献4)、YLR023C遺伝子及び/又はYMR126C遺伝子の発現量を上昇させた酵母(特許文献5)等が知られている。
上記のように、酵母の冷凍耐性には複数の遺伝子が関与することが示唆されており、上記した遺伝子以外にも幾つかの遺伝子が関与していると考えられる。
変異型のプロリン合成酵素を高発現させることによりプロリンを高蓄積させた酵母(非特許文献1)や、グリセロール分解酵素をコードする遺伝子を不活性化することにより、細胞内のグリセロールを高蓄積させた酵母(非特許文献2)も報告されている。
通常実用パン酵母の冷凍耐性は、パン生地を冷凍保存した後でも発酵力が充分保持されている事で「冷凍耐性有り」と評価出来る。しかしながら上記の如き従来技術では、遺伝子操作が容易ではあるがパン生地でのガス発生量(所謂、発酵力)が実用レベルに無い実験室酵母を用いて冷凍耐性を検証しており、パン生地でのガス発生量を指標とせず、生菌数あるいは僅かな液系発酵を指標とする冷凍耐性試験に過ぎなかったり、また実用パン酵母を用いていても、実際の発酵力は低くなっており、これらの技術で得られた実用パン酵母の冷凍耐性は充分でなかった。従って、実際のパン生地系での冷凍耐性の強化あるいは賦与への応用が可能な知見や技術の開発が求められている。
また、特に最近の技術として、冷凍耐性に関する多くの遺伝子を一度にスクリーニングすることを目的とした解析も行われている(非特許文献3)。この報告は、遺伝子破壊株ライブラリーを用いた全遺伝子網羅的な解析であり、比較的緩慢な冷凍条件(−25℃)で冷凍耐性を評価しているため、多くの遺伝子が冷凍耐性に関わることを示している。但しこの報告においても、各遺伝子破壊菌株の冷凍耐性は、液系での冷凍後菌体生存率を指標に評価されているに過ぎず、実用冷凍耐性の改良に応用できる遺伝子のスクリーニングあるいは絞り込みができていなかった。さらには、上記遺伝子破壊株ライブラリーを用いたスクリーニングにおいて、その条件がドライアイス・エタノールバス(−80℃)を使用するような過酷な冷凍条件ではなく、冷凍耐性への影響が大きい遺伝子、即ち実用機能レベルで有用な冷凍耐性を特には選別できていなかった。
特開平10−117771号公報 特開平11−169180号公報 特開2000−37185号公報 特開2001−238665号公報 特開2003−144137号公報 Applied and Environmental Microbiology, 2003, Nov;69(11):6527-32 Applied Microbiology and Biotechnology, 2004, Nov;66(1):108-14 FEMS Yeast Research, 2007, Mar;7(2):244-53
本発明の目的は、実用パン酵母の冷凍耐性形質に関連する遺伝子を明らかにし、冷凍耐性を賦与あるいは強化したパン酵母を作製することである。さらには、冷凍耐性パン酵母の新規な作製方法を提供することである。
本発明者らは上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、実用パン酵母の遺伝子としてKTR1遺伝子やMNT3遺伝子を発現させたパン酵母は、冷凍耐性が上がることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の第一は、配列番号1に示すサッカロミセス・セレビシエのKTR1遺伝子又は該遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子からなる冷凍耐性遺伝子に関する。本発明の第二は、配列番号2に示すサッカロミセス・セレビシエのMNT3遺伝子又は該遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子からなる冷凍耐性遺伝子に関する。本発明の第三は、上記記載のKTR1遺伝子又は該遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子からなる冷凍耐性遺伝子によりコードされ、パン酵母の発酵において冷凍耐性を賦与又は強化するタンパク質に関する。本発明の第四は、上記記載のMNT3遺伝子又は該遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子からなる冷凍耐性遺伝子によりコードされ、パン酵母の発酵において冷凍耐性を賦与又は強化するタンパク質に関する。本発明の第五は、上記記載のKTR1遺伝子及び/又は上記記載のMNT3遺伝子を用いて形質転換させてなる、冷凍耐性を賦与または強化したパン酵母に関する。好ましい実施態様は、パン酵母が、サッカロミセス・セレビシエに属するGMKY79株(受託番号:NITE P−436)である上記記載のパン酵母、或いは、パン酵母が、サッカロミセス・セレビシエに属するGMKY80株(受託番号:NITE P−437)である上記記載のパン酵母、に関する。本発明の第六は、上記記載のKTR1遺伝子及び/又は上記記載のMNT3遺伝子を用いて形質転換することを特徴とするパン酵母の冷凍耐性を向上させる方法に関する。
本発明によれば、実用パン酵母の冷凍耐性形質に関連する遺伝子を明らかにでき、冷凍耐性を賦与あるいは強化したパン酵母の作製することが可能となる。さらには、冷凍耐性パン酵母の新規な作製方法を提供できる。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。本発明の冷凍耐性遺伝子は、配列番号1に示すサッカロミセス・セレビシエのKTR1遺伝子又は該遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子、或いは、配列番号2に示すサッカロミセス・セレビシエのMNT3遺伝子又は該遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子からなり、該遺伝子は、パン酵母の発酵において冷凍耐性を賦与又は強化するタンパク質をコードする。そして、該遺伝子を用いた形質転換体であるパン酵母において、該遺伝子を高発現させることで冷凍耐性が賦与または強化されている。
サッカロミセス・セレビシエには、約6000個の遺伝子があり、そのうち生存にとって必須な遺伝子約1200個を除いた4792個の遺伝子を1つ宛破壊した4792種類の遺伝子破壊株(4792 yeast deletion strains)が販売されている。本発明者らは、この実験室株由来の単一遺伝子破壊株セット(以降、遺伝子破壊株ライブラリーと呼ぶ)から、冷凍耐性遺伝子をスクリーニングした。具体的には、各遺伝子破壊菌株に対して、冷凍後のコロニー生育度合いを目視評価する一次スクリーニングと、冷凍後の生菌数を計測評価する二次スクリーニングを実施し、冷凍耐性への影響が明確な破壊株すなわち冷凍耐性遺伝子を選択した。冷凍条件は、約−80℃にもなるドライアイス・エタノールバスで冷凍処理を施すことにより冷凍耐性への影響が大きい遺伝子のスクリーニングを行った。
これにより、遺伝子破壊により明確に冷凍感受性となる菌株があることを確認し、これまでに報告の無かった新たな冷凍耐性遺伝子を複数個スクリーニングできた。スクリーニングされた遺伝子の内、KTR1遺伝子及びMNT3遺伝子は、タンパク質への糖鎖付加に関わるタンパク質をコードする遺伝子として報告があり(Glycobiology, 1999, Oct;9(10):1045-51)、糖鎖付加は、タンパク質の活性制御に重要な役割を果たしていることが知られていたが、前記のようなKTR1遺伝子あるいはMNT3遺伝子の破壊による冷凍耐性の低下、即ちKTR1遺伝子やMNT3遺伝子が冷凍耐性に関与することは本発明により初めて明かとなった。
従って、変異等により活性を向上させたKtr1タンパク(KTR1遺伝子がコードするタンパク質)又はMnt3タンパク(MNT3遺伝子がコードするタンパク質)を用いるか、或いはKtr1タンパク又はMnt3タンパクの量、即ちKTR1遺伝子又はMNT3遺伝子の発現量を増加させることで、パン酵母の冷凍耐性を賦与または強化することができる。そのためには、KTR1遺伝子及び/又はMNT3遺伝子を用いて形質転換したり、各遺伝子のプロモーターを強化したりすることなどが好ましい。その中でも、KTR1遺伝子及び/又はMNT3遺伝子を含むプラスミドを用いて形質転換することが操作上容易なため好ましい。
具体的には、KTR1遺伝子を含むプラスミドを用いた形質転換体であるGMKY79株が、NITE P−436(受託番号)として独立行政法人製品評価技術基盤機構(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託されている。また、MNT3遺伝子を含むプラスミドを用いた形質転換体であるGMKY80株が、NITE P−437(受託番号)として独立行政法人製品評価技術基盤機構(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託されている。これらの株は、何れも発現量が形質転換前の10倍以上に増加している。即ち、前記株を用いてパン生地を作製することで、冷凍耐性の高いパン生地が得られる。また、対照となる前記タンパク質の非高発現株としてプラスミドpEUAを用いた形質転換体であるGMKY78株が、NITE P−435(受託番号)として独立行政法人製品評価技術基盤機構(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託されている。
なお、KTR1遺伝子及びMNT3遺伝子は、パン酵母の冷凍耐性に寄与していることが認められたが、それぞれの遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子も、KTR1遺伝子やMNT3遺伝子と同等以上の冷凍耐性を発現できる限り有効である。
(冷凍耐性の規定と評価方法)
冷凍耐性パン酵母とは、一般に冷凍による傷害を受けにくいパン酵母のことを言う。本発明における冷凍耐性とは、[1]ドライアイス・エタノールバスなどによる−80℃での急速冷凍−解凍後の菌体生存率(冷凍耐性度)が、液系評価法で対照となる非破壊株と比較して20%以上高い場合を冷凍耐性、同様に20%以上低い場合を冷凍感受性、或いは、[2]1週間冷凍−解凍後の生地のガス残存率(冷凍耐性度)が、生地系評価法で対照となる非高発現株と比較して20%以上高い場合を冷凍耐性、同様に20%以上低い場合を冷凍感受性とする。ここで液系評価法とは、スクリーニングした遺伝子破壊株について、YPD寒天培地上に生育したコロニー数をカウントすることにより冷凍後の生存率を測定する方法である。詳細には、YPD培地に適量の菌体を植菌して一晩前培養した後、培養液を新しいYPD培地に植菌し、一晩本培養した後、培養液をマイクロチューブ2本に分注し、1本は滅菌水で適宜希釈して、YPD寒天培地に塗布し、もう1本はドライアイス・エタノールバスで冷却後、冷凍庫で冷凍保存する。1日冷凍後、解凍した培養液サンプルを、滅菌水で適宜希釈して、YPD寒天培地に塗布し、冷凍前及び冷凍後のサンプルを塗布した寒天培地に生育したコロニーをカウントし、冷凍後の菌体生存率(冷凍後サンプルのコロニー数/冷凍前サンプルのコロニー数)を指標として冷凍耐性の評価を行う。上記のような液系生存率による評価法では、実用機能レベルの発酵力を持たない株でも冷凍耐性を評価できるので、遺伝子破壊株ライブラリーから実用パン酵母まで、様々な菌株の冷凍耐性評価に有効に用いることができる。
こういった生存率を指標とする液系冷凍耐性評価は、発酵力や増殖性が実用レベルに無い上記の如きライブラリー株を直接かつ効率的に評価し得る数少ない方法といえるが、生地系評価との発酵環境の違いは歴然としており、正確なスクリーニングのためには適正な試験条件の設定が重要である。更には、液系評価に留まること無く、より正確で実際に即した生地系発酵力評価を実施することにより実用パン酵母としての冷凍耐性が評価できる。
実用パン酵母の生地系での冷凍耐性は、ファーモグラフII(ATTO)を用い、冷凍前および解凍後の生地からのガス発生量により評価できる。
(実用株へのウラシル要求性の賦与)
実用株(実用パン酵母)の形質転換を実施するに当たり、遺伝子導入の成否を判定するための選択マーカーが必要となる。実用パン酵母にウラシル要求性を賦与するには、菌体を5−FOA(5-フルオロオロチン酸)寒天培地に塗布し、30℃で培養し、生育したコロニーを選抜すればよい。
(遺伝子高発現株の作製)
KTR1遺伝子及びMNT3遺伝子の少なくとも一つを高発現させるには、該遺伝子を含む多コピー型プラスミドで酵母を形質転換するか、該遺伝子を酵母で効率良く機能するプロモーター配列に連結して得られる組換えDNAを用いて酵母を形質転換するか、あるいは酵母で効率良く機能する他のプロモーター配列を、染色体DNA上の該遺伝子のプロモーター配列と置換、或いは該遺伝子の上流側に挿入すればよい。また、KTR1及び/又はMNT3遺伝子をより活性の高いものと置換してもよい。
(遺伝子発現量の規定と測定方法)
酵母では、各遺伝子の発現量は、様々なストレスを与えることにより変化することが知られている。例えば、浸透圧ストレス下では、細胞内の浸透圧を高めるために、グリセロール合成に関わる遺伝子の発現量が増加する。同様に、冷凍ストレス環境下では、冷凍ストレス緩和に関わる遺伝子の発現量が増加していると考えられる。従って、冷凍耐性遺伝子を高発現することにより、酵母の冷凍耐性を向上させることが可能であると推察される。ここで、本発明において遺伝子高発現とは、遺伝子発現量が元株の5倍以上、好ましくは10倍以上に増加した株を高発現株と定義する。遺伝子の発現量の比較は、転写されたmRNAの量又は翻訳されたタンパク質の量を比較することにより行うことができる。mRNAの検出を行うには、ノーザンブロット法、リアルタイムPCR等が用いられる。同様に、タンパク質の検出を行うには、ウェスタン解析を用いればよく、発現するタンパクに対する抗体を取得し、RIもしくは蛍光ラベルを比較できる系の使用が望ましい。
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するにおいて、KTR1遺伝子およびMNT3遺伝子が、パン酵母の冷凍耐性形質の賦与あるいは強化に関与する遺伝子である事を示すが、本発明は以下の実施例により何ら制限されない。
本発明で用いた培地、プラスミド、DNA、種々の酵素、大腸菌、酵母などの取り扱いに関する常法は、以下の参考文献に詳しく記載されており、本発明ではこれらに従い実施した。
参考文献1:「酵母遺伝子実験マニュアル」 大矢禎一監訳 丸善
参考文献2:「バイオ実験イラストレイテッド 1 分子生物学実験の基礎」 中山広樹、西方敬人著 秀潤社
参考文献3:「バイオ実験イラストレイテッド 2 遺伝子解析の基礎」 中山広樹、西方敬人著 秀潤社
参考文献4:「バイオ実験イラストレイテッド 3 本当にふえるPCR」 中山広樹著 秀潤社
参考文献5:「バイオマニュアルシリーズ10 酵母による遺伝子実験法」 山本正幸編、羊土社
(実施例1) 遺伝子破壊株ライブラリーからの冷凍耐性遺伝子スクリーニング
遺伝子破壊株ライブラリーを、YPD培地を用いてマイクロプレートで静置培養し、培養液をドライアイス・エタノールバスにより5分間冷却後、−80℃の冷凍庫で1日冷凍保存した。冷凍前後の培養液を適宜希釈して、それぞれYPD寒天培地にスポットし、増殖の様子を目視することにより、冷凍後の増殖が著しく低下した菌株を冷凍感受性株として一次スクリーニングした。一次スクリーニングした遺伝子破壊株については、改めて二次スクリーニングで冷凍後の生存率を測定した。YPD培地5mlに適量の菌体を植菌して30℃で一晩前培養した後、培養液50μlを新しいYPD培地5mlに植菌し、30℃で一晩本培養した。培養液を1mlずつ1.5mlマイクロチューブ2本に分注し、1本は滅菌水で適宜希釈して、YPD寒天培地に塗布した。もう1本は−80℃のドライアイス・エタノールバスで5分間冷却後、−80℃の冷凍庫で冷凍保存した。1日冷凍後、25℃で15分間静置して解凍した培養液サンプルを、滅菌水で適宜希釈して、YPD寒天培地に塗布した。冷凍前及び冷凍後のサンプルを塗布した寒天培地に生育したコロニーをカウントし、冷凍後の菌体生存率(冷凍後サンプルのコロニー数/冷凍前サンプルのコロニー数)を指標として冷凍耐性の評価を行った。図1に示すように、YOR099W、YIL014W、YBL090W、YKL126W、YDR119Wの何れか一つの遺伝子の破壊株は非破壊株と比べて冷凍後の生存率が20%以上低下していた。このことから、これら5つの遺伝子は、冷凍耐性に関連していることが示唆された。
このうち、タンパク質への糖鎖付加に関わる遺伝子として報告があるKTR1遺伝子(YOR099W)とMNT3遺伝子(YIL014W)の両遺伝子については、新たな機能性として非常に興味深く、これらを詳細解析すると共に遺伝子高発現効果をパン生地系で評価することとした。
(実施例2) KTR1遺伝子高発現プラスミドの作製
高発現プロモーターを含むプラスミドのプロモーター部分、例えば市販のプラスミドpAUR123を制限酵素BamHIで切断して得られるADH1プロモーター及びADH1ターミネーターの配列部分(PADH1−TADH1)約1.0kbを、多コピー型のプラスミド、例えば市販のプラスミドpESC-URA(TOYOBO)を制限酵素PvuIIで切断して得られる配列約5.3kbと連結し、多コピー型高発現プラスミドpEUA約6.3kbを作製した(図2)。
遺伝子のクローニングは、PCR(ポリメラーゼチェーンリアクション)を用いた方法が常法となっている。データベース菌株の染色体を鋳型とし、配列番号3、4に示したプライマーを用いたPCRにより、配列番号1に示すサッカロミセス・セレビシエのKTR1遺伝子を取得した。KTR1遺伝子の5’末端に付加したKpnIと3’末端に付加したSalIの両制限酵素切断部位の間約1.1kbを、pEUAの同制限酵素KpnI、SalI切断部位に挿入し、KTR1遺伝子高発現プラスミドpEUAK1約7.4kbを作製した(図3)。
(実施例3) MNT3遺伝子高発現プラスミドの作製
配列番号5、6に示したプライマーを用いたPCRにより、配列番号2に示すサッカロミセス・セレビシエのMNT3遺伝子を取得し、MNT3遺伝子の5’末端に付加したKpnIと3’末端に付加したSalIの両制限酵素切断部位の間約1.9kbを、pEUAの同制限酵素KpnI、SalI切断部位に挿入する以外は実施例2と同様にして、MNT3遺伝子高発現プラスミドpEUAM1約8.2kbを作製した(図4)。
(実施例4)ウラシル要求性実用パン酵母の作製
ウラシル要求性実用パン酵母は、以下のようにして作製した。二倍体実用パン酵母をYPD寒天培地に塗布し、紫外線を30秒間照射後、30℃で1日培養した。生育した菌体をレプリカ法により5−FOA寒天培地に移しとり、30℃で3〜4日培養し、生育したコロニーを選抜することにより取得した。ウラシル要求性が賦与(URA3欠損変異)されたことは、ウラシル要求性を相補、すなわちURA3を含有するプラスミドYCp50を用いて形質転換することにより、ウラシルを含有しないカザミノ酸培地で生育できるようになることで確認した。また、要求性の相補株では、野生型の二倍体実用パン酵母と同等の増殖性、発酵力を持つことも確認した。
(実施例5) 実用パン酵母でのKTR1遺伝子高発現菌株の作製と該遺伝子の発現量測定
実施例2で作製したプラスミドと実施例4で作製した宿主を用いて、酢酸リチウム法に準ずる方法によりKTR1高発現プラスミド(pEUAK1)で形質転換したGMKY79株と、非高発現プラスミド(pEUA)で形質転換したGMKY78株を作製した。
プラスミドの導入の確認は、形質転換株からDNA(染色体及びプラスミド)を抽出し、これを鋳型として、配列番号7、8に示したプライマーを用いてPCRを行い、PCR産物のDNAサイズを測定することにより確認した。
プラスミドの導入が確認できた遺伝子高発現実用パン酵母について、KTR1遺伝子の発現量を測定した。菌体を表1の培地を用いて試験管で培養し、常法[RNeasy Mini(QIAGEN)プロトコール参照]に従い約5×10個の細胞からtotal RNAを抽出した。
Figure 0005230224
次に、常法[ライトサイクラーRNAマスターSYBR Green(タカラバイオ)プロトコール参照]に従い、リアルタイムPCRによりKTR1遺伝子のmRNA量、すなわち遺伝子の発現量を測定した。KTR1の検出には配列番号9、10に示したプライマーを用いた。また、ハウスキーピング遺伝子としてTDH1を用い、検出には配列番号11、12に示したプライマーを用いた。
その結果、図5−aに示すように、KTR1遺伝子の高発現株では、非高発現株と比べ、KTR1遺伝子のmRNA量が充分増加していた。
(実施例6) 実用パン酵母でのMNT3遺伝子高発現菌株の作製と該遺伝子の発現量測定
実施例3で作製したプラスミドと実施例4で作製した宿主を用いて、酢酸リチウム法に準ずる方法によりMNT3高発現プラスミド(pEUAM1)で形質転換したGMKY80株を作製した。プラスミドの導入の確認およびtotal RNAの抽出は、実施例5と同様にして行った。
次に、MNT3遺伝子のmRNA量、すなわち遺伝子の発現量を測定については、MNT3の検出に配列番号13、14に示したプライマーを用いる以外は、実施例5と同様にして行った。
その結果、図5−bに示すように、MNT3遺伝子の高発現株では、非高発現株と比べ、MNT3遺伝子のmRNA量が充分量増加していた。
(実施例7) KTR1遺伝子高発現実用パン酵母の冷凍耐性評価
実施例5で作製したKTR1遺伝子高発現実用パン酵母は、表1の培地を用いて坂口フラスコで培養した。得られたそれぞれの培養酵母を吸引ろ過して、水分含量約70%の固体状にした。これを表2の配合でパン生地に加えて混捏した。
Figure 0005230224
混捏後、20gに分割し、30℃で60分の前発酵をとった後、1つは38℃で120分間のガス発生量(冷凍前)をファーモグラフIIで測定した。残りは−20℃で冷凍貯蔵し、1,2週間後、生地を解凍(25℃、30分)した。解凍後の生地も冷凍前の生地と同様に、38℃で120分間のガス発生量(冷凍1W、2W)をファーモグラフIIで測定した。その結果は、表3に示す。上記の培養酵母について、冷凍前と解凍後の生地からのガス発生量から、冷凍耐性度を算出した。その結果は、図6に示す。
(実施例8) MNT3遺伝子高発現実用パン酵母の冷凍耐性評価
実施例6で作製したMNT3遺伝子高発現実用パン酵母を用いた以外は、実施例7と同様にして固体状の培養酵母を得、冷凍耐性度を算出した。その結果は、表3及び図6に示す。
Figure 0005230224
以上の結果より、KTR1遺伝子やMNT3遺伝子を高発現させることで冷凍耐性が向上し、より実用性の高いパン酵母を作製することができた。更には新規な冷凍耐性パン酵母の作製方法を提供することができた。
加えて、KTR1遺伝子やMNT3遺伝子が糖鎖付加に関連する遺伝子であることから、本発明の遺伝子以外にも糖鎖付加に関連する遺伝子が冷凍耐性に関与していることを示唆できたものと言える。
各遺伝子破壊株の液系での生存率測定の結果である。非破壊株に対する各遺伝子破壊株の生存率の比を示したものである。 pEUAの作製図である。 pEUAK1の作製図である。 pEUAM1の作製図である。 リアルタイムPCRによる各遺伝子のmRNA量測定の結果である。ハウスキーピング遺伝子に対する各遺伝子のmRNA量の比を示したものである。 各菌株を用いて作製したパン生地を前発酵60分とった後、1、2週間冷凍貯蔵し、冷凍前及び解凍後の生地からの120分間のガス発生量をファーモグラフIIで測定した結果である。それぞれの菌株において、冷凍前のガス発生量を100%として、これに対する冷凍1週間及び冷凍2週間のガス発生量の割合を示したものである。

Claims (7)

  1. 配列番号1に示すサッカロミセス・セレビシエのKTR1遺伝子又は該遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子からなる冷凍耐性遺伝子、及び/又は、配列番号2に示すサッカロミセス・セレビシエのMNT3遺伝子又は該遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子からなる冷凍耐性遺伝子を用いて形質転換させてなるパン酵母を用いて製造された冷凍パン生地。
  2. パン酵母が、サッカロミセス・セレビシエに属するGMKY79株(受託番号:NITE P−436)である請求項1に記載の冷凍パン生地
  3. パン酵母が、サッカロミセス・セレビシエに属するGMKY80株(受託番号:NITE P−437)である請求項1に記載の冷凍パン生地
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載に記載の冷凍パン生地を焼成してなるパン。
  5. 配列番号1に示すサッカロミセス・セレビシエのKTR1遺伝子又は該遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子からなる冷凍耐性遺伝子、及び/又は、配列番号2に示すサッカロミセス・セレビシエのMNT3遺伝子又は該遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子からなる冷凍耐性遺伝子を用いて形質転換させてなるパン酵母を含むパン生地を冷凍した後、焼成することを特徴とする製パン方法。
  6. 配列番号1に示すサッカロミセス・セレビシエのKTR1遺伝子又は該遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子からなる冷凍耐性遺伝子、及び/又は、配列番号2に示すサッカロミセス・セレビシエのMNT3遺伝子又は該遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子からなる冷凍耐性遺伝子を用いて形質転換することを特徴とするパン酵母の冷凍耐性を向上させる方法。
  7. 配列番号1に示すサッカロミセス・セレビシエのKTR1遺伝子又は該遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子からなる冷凍耐性遺伝子、及び/又は、配列番号2に示すサッカロミセス・セレビシエのMNT3遺伝子又は該遺伝子の相補鎖にハイブリダイズ可能な遺伝子からなる冷凍耐性遺伝子を用いて形質転換させてなるパン酵母を用いてパン生地を作製することを特徴とするパン生地の冷凍耐性を向上させる方法。
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