JP2014076046A - 酵母のミトファジー機能破壊による発酵能の増加及びエタノール生産能の増進方法 - Google Patents

酵母のミトファジー機能破壊による発酵能の増加及びエタノール生産能の増進方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、酵母のミトファジー遺伝子破壊により発酵能の増加及びエタノール生産能の増進させる方法、及びミトファジー遺伝子が破壊された酵母を提供。
【解決手段】酵母のミトコンドリアのオートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子を破壊することを含む、酵母の発酵能を増加させる方法、及びミトコンドリアのオートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子が破壊され、発酵能が向上した酵母。
【選択図】なし

Description

本発明は、酵母のミトファジー機能破壊による発酵能の増加及びエタノール生産能を増進させる方法に関する。
オートファジーは、一般には細胞質内のタンパク質やオルガネラを非選択的に丸ごと消化する分子機構をいう。最近の研究により、オートファジーには、この非選択的な分解機構のほかに、特定のタンパク質や、ミトコンドリア、ペルオキシソームなど特定のオルガネラを選択的に取り込み分解する機構があることが知られてきた。
ミトコンドリアは、酸化的リン酸化により細胞にATPを供給しているが、同時にその過程で活性酸素を産生しており、ミトコンドリアは絶えず酸化ストレスに曝露されている。このため、ミトコンドリアには抗酸化酵素が存在し、さらにはミトコンドリアの品質管理のために傷害を受けたミトコンドリアDNAやタンパク質を修復、分解する酵素が存在する。
最近、損傷をうけたミトコンドリアをオートファジーによって丸ごと分解することでミトコンドリアの品質管理に大きく貢献していると考えられる分解機構が提案されてきた(非特許文献1)。このミトコンドリアに対するオートファジーの選択的分解機構を「ミトファジー」という。ミトファジーに関しては、パーキンソン病などに関与していることが知られている(非特許文献2、3)。
清酒酵母は多くある醸造酵母の中でも最も発酵力が高いものである。清酒酵母はストレスに応答する遺伝子に欠損があるために発酵能が高いことが知られており、それ以上発酵能を向上させることは難しいと考えられてきた。酵母の発酵能を向上させる方法として、遺伝子変異を利用して酵母のストレス耐性能を高めた改良酵母を作製する方法が行われていたが、その方法を用いても限界があった。一方で、今までにミトファジーに着目して酵母の発酵時の発酵能及びエタノール生産能を高める手法は一切報告されていない。
神吉 智丈、福岡医学雑誌 100(9): p291−297, 2009 Ashrafi G, Schwarz TL. Cell Death Differ. 2012 Jun. 29. Muller M, Reichert AS. Biochem. Soc. Trans. 2011 Oct.;39(5):1514−9
本発明は、酵母の発酵能の増加及びエタノール生産能を向上させる方法を提供することを目的とする。
本発明者は、ミトコンドリアが発酵中の酵母の方向性を支配しているはずであるとの画期的な発想を基盤に、ミトファジーに関わる因子の遺伝子を破壊し、上記課題を解決するため鋭意研究を行った。その結果、酵母のミトコンドリアのオートファジー関連遺伝子を破壊することにより、当該遺伝子が破壊された酵母は発酵能が増加し、発酵時の発酵能及びエタノール生産能が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、酵母のミトコンドリアのオートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子を破壊することを含む、酵母の発酵能及びエタノール生産性を向上させる方法である。
ミトコンドリアのオートファジー関連タンパク質とは、破壊株のミトファジーが減少することが報告されている遺伝子群であり、かつオートファジー機構に関与する遺伝子のことである(http://www.yeastgenome.org/参照)。具体的には、ATG2、3、4、5、7、8、9、10、11、12、16、17、20、21、29、31、33、32遺伝子である。一例として、ATG32遺伝子の塩基配列を配列番号1として示す。
本発明において、酵母としては醸造酵母又は実験室酵母が挙げられるが、これに限られない。
本発明は、ミトコンドリアのオートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子が破壊され、発酵能が増加し、エタノール生産性が向上した酵母である。この場合、エタノール生産性は、対照株(野生株、つまりオートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子非破壊株)と比較して少なくとも1%向上したものである。
さらに、本発明は、前記酵母を用いてアルコール発酵を行うことを含む、酒類の製造方法である。
本発明により、酵母のミトコンドリアのオートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子が破壊された酵母が提供される。本発明の酵母は、従来使用されてきた酵母よりも高い発酵性及びエタノール生産性を有する。また、本発明により、発酵性及びエタノール生産能の高い酵母の作製を体系的に行うことができる。そして、本発明の酵母は、様々な発酵食品の製造に有用であり、特に醸造において極めて有用である。
以下、本発明を詳細に説明する。
K7及びK7Δatg32の細胞内のミトコンドリアの局在を示す図である。 BY4743Δatg32、K7Δatg32を用いた小仕込み試験による二酸化炭酸減量測定試験結果を示す図である。 BY4743Δatg32を用いた小仕込み試験後のエタノールの濃度測定試験結果を示す図である。 K7Δatg32を用いた小仕込み試験後のエタノールの濃度測定試験結果を示す図である。 K7Δatg32を用いた最少培地培養試験による二酸化炭酸減量測定試験結果を示す図である。
本発明は、ミトコンドリアのオートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子が破壊された酵母であり、エタノール発酵能が向上した酵母として使用することができるものである。
本発明の方法は、酵母のゲノム上に存在するミトコンドリアのオートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより行なわれる。
ミトコンドリアのオートファジー関連タンパク質とは、破壊株のミトファジーが減少することが報告されている遺伝子群であり、かつオートファジー機構に関与する遺伝子のことである(http://www.yeastgenome.org/参照)。つまり、これらの遺伝子は、通常、細胞内においてオートファジーによりミトコンドリアを選択的に分解する機能を発揮するものである。具体的には、ATG2、3、4、5、7、8、9、10、11、12、16、17、20、21、29、31、33、32遺伝子である。本発明において、これらの遺伝子の1つ又は複数を破壊することができる。そして、限定されるものではないが、ATG32遺伝子を破壊することが好ましい。
以下、表1にミトコンドリアのオートファジー関連タンパク質の配列情報を示した。
「ミトファジー遺伝子を破壊する」とは、酵母ゲノム上のミトファジー遺伝子のコード領域を欠失又は変異させることをいう。ミトファジー遺伝子の欠失は、コード領域の全体を欠失させてもよく、また一部を欠失させてもよい。全体を欠失させる場合には、ミトファジー遺伝子に隣接する領域も合わせて広く欠失させてもよい。一部を欠失させる場合には、特に限定されないが、ミトファジー遺伝子のコード領域の半分以上を欠失させることが好ましい。コード領域の変異によりミトファジー遺伝子を破壊する場合には、該コード領域の好ましくは中央よりも上流の部位にナンセンス変異又はフレームシフト変異を導入して、それよりも下流の領域によりコードされるアミノ酸配列を欠失させ又は全く無関係なアミノ酸配列とすることが好ましい。あるいは、ミトファジー遺伝子中に無関係な配列(ミトファジーとは無関係な他の遺伝子配列やマーカー遺伝子等)を挿入することによりミトファジー遺伝子を変異させ破壊することもできる。ミトファジー遺伝子の破壊により、該遺伝子によりコードされるオートファジー関連タンパク質の機能が低下又は喪失し、また、ミトコンドリアの形態がネット状に変化する。
Saccharomyces cerevisiae S288cにおけるミトファジー遺伝子のコード領域は、アクセッション番号NM_001179494として登録されている(配列番号1)。
以下、破壊する対象のミトファジー遺伝子としてATG32遺伝子を例示すると、ATG32遺伝子を破壊する方法としては、例えば、正常なATG32遺伝子を含まない相同DNA断片を酵母細胞中に導入し、この相同DNA断片と、酵母ゲノムDNAとの間で相同組換えを行わせる方法が挙げられる。ここで、「相同DNA断片」とは、相同組換えによりゲノム中の標的領域と組み換えられ得るDNA断片のことを言う。相同組換え法自体は周知であり、当業者であれば上記ゲノム又はコード領域の塩基配列をもとにして、所望の相同DNA断片を調製することができる。上記各相同領域の鎖長は特に限定されず、一般に鎖長が長い方が相同組換えの効率が高まるが、出芽酵母では相同組換え活性が強いため、50bp程度の相同領域を設ければよい。
例えば、正常なATG32をコードしない変異ATG32遺伝子配列の上流及び下流に、ゲノム上のATG32遺伝子の上流領域と相同な領域及び下流領域と相同な領域をそれぞれ連結して相同DNA断片を構築し、これを用いて相同組換えを行えば、ゲノム上のATG32遺伝子配列を変異ATG32遺伝子配列と入れ替えることができるので、酵母ゲノム上のATG32遺伝子を破壊することができる。
上記コード領域のさらに上流及び下流の領域のゲノム塩基配列は、上記したサッカロミセスゲノムデータベース(アクセッション番号NC_001141)より取得することができる。
ATG32遺伝子を破壊する他の方法としては、例えばAritomiらのBiosci. Biotechnol. Biochem., 68(1), 206−214, 2004に記載されるセルフクローニング法を利用することができる。このクローニング方法は、遺伝子導入用の薬剤耐性マーカーとカウンターセレクション用の生育抑制マーカーとを含むプラスミドベクターを利用して、ゲノム中の正常遺伝子を変異遺伝子に置き換える方法である。該方法によれば、遺伝子導入のためだけに必要な外来DNA配列を変異遺伝子の導入後に除去できるため、食品産業で用いられる醸造酵母の育成に好ましい。具体的には、ATG32遺伝子を破壊する方法は、以下のようにして行なうことができる。
用いる上記2種類のマーカーは特に限定されず、例えば、薬剤耐性マーカーとしてYAP1等、生育抑制マーカーとしてGIN11等の公知のマーカーを用いることができる。これら2種類のマーカーを含むプラスミドベクター中に変異ATG32遺伝子(例えば、配列番号1に示す塩基配列のうち第4−6番目の塩基の「GTT」を「TAA」に変異させることによりストップコドンを導入した変異遺伝子)を挿入し、ATG32遺伝子中の適当な制限酵素部位(例えばHindIIIサイト)で切断してリニア化したものを酵母細胞中に導入すれば、相同組換えにより当該リニア化プラスミドがゲノム中のATG32遺伝子座に組み込まれる。その結果、ゲノム中にはプラスミド配列を介して正常ATG32遺伝子と変異ATG32遺伝子が縦列して存在するようになる。薬剤耐性マーカーにより、リニア化プラスミドがゲノム中に組み込まれた酵母を容易に選択することができる。
その後、ゲノム中で縦列して存在する正常ATG32遺伝子と変異ATG32遺伝子との間で相同組換えが生じると、生育抑制マーカーを含むプラスミド配列が脱落する。そのため、生育抑制マーカーを発現させる条件下で(例えば、生育抑制マーカーがガラクトース誘導性過剰発現プロモーターの制御下にある場合には、ガラクトース培地上で)選択を行なえば、プラスミド配列が残存する酵母は生育抑制マーカーの作用により生育することができず、一方、相同組換えによりプラスミド配列が脱落した酵母は生育することができるので、プラスミド配列が脱落し正常ATG32遺伝子又は変異ATG32遺伝子のみがゲノム中に残存する酵母を得ることができる。
ゲノム中に残存したATG32遺伝子が所期の変異を有するか否かは、例えば変異を含む領域をPCRで増幅してシークエンス解析を行なうことにより調べることができる。
また、ATG32遺伝子破壊株は、変異処理を行なった酵母の中から選択して得ることもできる。すなわち、本発明の方法においては、変異処理によりATG32遺伝子を破壊してもよい。変異処理の方法は特に限定されず、紫外線照射、放射線照射等の物理的変異処理、及びエチルメタンスルフォン酸等の変異剤で処理する化学的変異処理のいずれであってもよい。変異処理により得られた変異株の中から、シークエンス解析によりATG32遺伝子破壊株を選択することができる。
実用される醸造酵母は通常二倍体である。従って、本発明の方法によりエタノール生産性が向上された酵母を酒類製造に用いる場合には、特に限定されないが、二倍体でATG32アリルが共に破壊されたATG32遺伝子破壊株を用いることが好ましい。二倍体の遺伝子破壊株は、周知の常法により得ることができる。具体例を挙げると、例えば、接合型の異なる一倍体(a型及びα型)でATG32遺伝子破壊株を作製し、両者を接合させて二倍体のATG32遺伝子破壊株を得ることができる。また、二倍体でATG32アリルの一方が破壊された酵母を作製し、次いで、該酵母に対し再度ATG32破壊処理を行なうことによって、二倍体のATG32遺伝子破壊株を得ることもできる。
上記した相同DNA断片を用いる方法によりATG32遺伝子を破壊する場合には、例えば、1回目の遺伝子破壊処理と2回目の遺伝子破壊処理とで異なる薬剤耐性マーカーを用いればよい。上記セルフクローニング法を用いる場合であれば、ATG32アリルの一方が破壊された二倍体酵母は、ゲノム中にマーカー遺伝子を有さないため、2回目でも1回目と同一の遺伝子破壊用プラスミドベクターを用いることができる。二倍体の酵母に対して上記遺伝子破壊方法を採用した場合には、ATG32アリルが同時に破壊された株も生じ得るので、選択培地上での生育速度の違い(同時に破壊された株では生育が早い)や、ATG32遺伝子領域の塩基配列に基づいて、ATG32アリルが同時に破壊された株を選択することもできる。
二倍体の酵母から一倍体を得る方法は、当分野で周知の常法により行なうことができる。例えば、公知の胞子形成用培地中にて培養することにより胞子形成させて胞子を得て、該胞子を発芽させて一倍体を得ることができる。
ATG32遺伝子が破壊された酵母は、正常なATG32遺伝子を有する酵母野生株と比較して、発酵能及びエタノール生産性が有意に高い。
本発明において、発酵能及びエタノール生産性を向上させる方法は、アルコール発酵を行なういかなる酵母にも適用でき、特に限定されないが、清酒酵母、ワイン酵母、ビール酵母、焼酎酵母等の醸造酵母が好ましい。また、本発明においては実験室酵母も使用することができる。
醸造酵母とは、アルコール発酵に使用される酵母であり、実験室酵母とは、アルコール発酵に使用されず実験室で操作するのに使用される酵母である。
本発明において使用される酵母は特に限定されるものでは、例えばサッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属又はクリベロミセス(Kluyveromyces)属に属する酵母が挙げられ、好ましくは、サッカロマイセス属に属する酵母である。サッカロマイセス属に属する酵母としては、好ましくはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。
本発明において使用される好ましい醸造酵母は、清酒酵母ではきょうかい7号(K7)などが挙げられ、ワイン酵母ではきょうかい酵母ブドウ酒用アンプル酵母などが挙げられ、ビール酵母ではサッカロマイセス・パストイリアヌス(Saccharomyces pasteurianus)などが挙げられ、焼酎酵母ではきょうかい酵母焼酎用2号などが挙げられる。
また、本発明の方法の対象となる酵母は、野生株、変異株及び形質転換株のいずれに由来するものであってもよい。酵母のATG32遺伝子破壊株としては、ミトコンドリアの分裂機構を調べる目的で作出された実験室酵母のATG32遺伝子破壊株が知られている(ATG32 is a mitochondrial protein that confers selectivity during mitophagy. Kanki T, Wang K, Cao Y, Baba M, Klionsky DJ. Dev Cell. 2009 Jul;17(1):98−109.)。
しかしながら、ATG32遺伝子破壊酵母において二酸化炭素減量の増加及び産生されるエタノールの生産性が向上することは知られておらず、また、ATG32遺伝子が破壊された醸造酵母も知られていない。
本発明は、ATG32遺伝子の破壊により、発酵能及びエタノールの生産性が向上された実験室酵母及び醸造酵母を新規に提供するものである。
本発明の酵母において、「発酵能が増加している」とは、酵母の発酵時の二酸化炭素(炭酸ガス)減量が増加していることを意味する。二酸化炭素減量は酵母の発酵速度を示す一般的な数値であり(例えば、平成18年度(2006)No.51、宮崎県工業技術センター・宮崎県食品開発センター研究報告、p.95−99参照)、二酸化炭素減量が増加していることは、発酵速度が促進していることを示唆している。
本発明の方法により、発酵能及びエタノール生産性が向上された酵母は、アルコール発酵により製造される発酵食品に用いることができる。発酵食品とは、食材を発酵させることにより作製される食品であり、酒類、茶、酢、穀物加工品(納豆、醤油、味噌等)、魚介類加工品、野菜果実加工品、酪農製品等である。
本発明の酵母は、特に種々の酒類の製造に用いることができる。そのような酒類としては、清酒、ワイン、ビール、焼酎、ウィスキー、ブランデー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の酵母を用いて製造される酒類は、エタノールの含有量が高い。
本発明の酵母において、「生産性が向上された」とは、対照株、例えばATG32遺伝子非破壊の親株を用いて製造される酒類と比較してエタノールの生産性が高いことを意味し、エタノールの含有量(エタノール濃度など)が高いこと、あるいはエタノールの生産量が高いことをもって生産性の高さの指標とすることができる。「含有量が高い」という用語は、本発明の酵母を用いて製造される酒類の所定のエタノール含有量が、前記対照株を用いて製造される酒類と比較して高いこと、例えば対照株により製造されるエタノールよりも少なくとも1%高いこと、好ましくは1%以上、2%以上、5%以上、10%以上又は15%以上高いこと、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上高いことを意味する。そして、例えば、エタノール含有量が1%以上高い場合、1〜30%、好ましくは1〜20%、より好ましくは1〜15%、さらに好ましくは1〜10%、最も好ましくは1〜5%、特に好ましくは1〜2%の範囲内のエタノール含有量を含む酒類を製造することができる。
アルコール発酵は常法に従って行うことができる。例えば、穀類(例えば米)と麹を混合し、アルコール存在下で糖化させる方法、あるいは麦芽を40−100℃の間の適温で糖化する方法などにより所望の糖化液を得る。ワインを製造する場合は、ぶどうの絞汁液を準備する。
次に上記糖化液又は絞汁液に対して本発明の酵母を添加して発酵させる。アルコール発酵は、4℃から40℃の間の適温において、4日から70日の適当な期間で行うことができる。蒸留酒を製造するときは、アルコール発酵後の発酵液(発酵醪)を蒸留すればよい。
酒類は特に限定されるものではなく、清酒、焼酎、ワイン、ビール、ウィスキー、ブランデーなどが挙げられる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
1.ATG32遺伝子破壊株の作製及び確認
実験室酵母BY4743(入手先:フナコシ)を野生株に使用し、公知の方法によってATG32遺伝子破壊株(BY4743Δatg32)を作製した。そして、作製したATG32遺伝子破壊株のミトコンドリアを可視化するために、GFP(pYX142−mitoGFP)を持ったプラスミドを形質転換した。一連の詳細な手法は、Mitochondrial dynamics of yeast during sake brewing. Kitagaki H, Shimoi H. J Biosci Bioeng. 2007 Sep;104(3):227−30.に記載されている。
図1は、清酒醸造6日目の野生株(K7)及びATG32遺伝子破壊株の細胞内のミトコンドリアの局在をGFP(緑)によって、液胞の局在を8mMのFM4−64(赤)によって観察した図である。図1において、野生株(K7)では緑と赤が一致した黄色が観察されるのに対してATG32遺伝子破壊株(K7Δatg32)では黄色のスポットは観察されないことが分かる。すなわち、ATG32遺伝子によってミトファジーが起きていることが示された。
2.ATG32遺伝子破壊株を用いた小仕込み試験
実用醸造酵母株きょうかい7号(K7株、一倍体)を野生株に使用し、公知の方法によってATG32遺伝子破壊株(K7Δatg32)を作製した。
60gのアルファ化米、23gの乾燥麹、200mlの水、95%の乳酸45μLに、2×10個のATG32遺伝子破壊株(BY4743Δatg32、K7Δatg32)を添加して、15℃で14日間発酵させることにより、清酒を製造した。酵母の重量は24時間ごとに測定した。また仕込んでから24時間後に均一化のため薬さじで攪拌した。比較として、野生株(BY4743、K7)を同様に用いて清酒を製造した。
小仕込みから14日後、清酒をサンプリングし、エタノール測定機(ALCOHOL CHECKER YSA−200)を用いて測定した。
測定結果を図2、3、4に示す。図2において、縦軸は二酸化炭素減量(g)、横軸は小仕込み後の日数を表す。図3、4において、縦軸はエタノール濃度(%)を示す。試験は、3つの独立したATG32遺伝子破壊株を用いて行ない、等分散を仮定しない片側t検定を行った。エラーバーはS.E.を表す。
図2に示される通り、BY4743Δatg32及びK7Δatg32は、両者とも野生株と比較して二酸化炭素減量が増加していた。つまり、BY4743Δatg32及びK7Δatg32は、両者とも野生株と比較して発酵速度が促進し、発酵能も増進しているといえる。また、図3、4に示される通り、BY4743Δatg32及びK7Δatg32を用いて製造した清酒では、両者とも野生株を用いて製造した清酒よりも最終エタノール濃度が増加していた。具体的には、BY4743Δatg32を用いて製造した清酒のエタノール濃度の増加率は2.1%、K7Δatg32を用いて製造した清酒のエタノール濃度の増加率は、2.7%であった。
3.ATG32遺伝子破壊株を用いた最少培地培養試験
最少培地(グルコース濃度15%のSD培地)は公知の方法によって作製した。最少培地に実施例2で作製したATG32遺伝子破壊株(K7Δatg32)を添加して、発酵栓を付けて30℃で11日間培養した。そして、実施例2と同様に酵母重量を測定し、二酸化炭素減量を算出した。
測定結果を図5に示す。図5において、縦軸は二酸化炭素減量(g)、横軸は培養日数を表す。図5に示される通り、K7Δatg32は野生株と比較して二酸化炭素減量が増加していた。この結果は、図2の結果と一致していた。つまり、K7Δatg32は、野生株と比較して発酵能が増進している。
以上のことから、酵母においてATG32遺伝子を破壊するとミトコンドリア量が増加し、それによって発酵能が増加し、エタノール生産能の高い酵母にすることができる。
そして、このような結果は、通常、細胞内においてオートファジーによりミトコンドリアが選択的に分解される機構に関与しているATG32遺伝子によってコードされるタンパク質が存在しなくなったため、ミトコンドリア量が増加したためであると考えられる。
したがって、上記の知見に基づけば、ATG32遺伝子によってコードされるタンパク質と同様の機能を持つタンパク質をコードするATG2、3、4、5、7、8、9、10、11、12、16、17、20、21、29、31、33、32遺伝子も、これらの遺伝子を破壊すれば、破壊株のミトコンドリア量が増加し、アルコール発酵能が増加し、エタノール生産能が高くなると言える。

Claims (18)

  1. 酵母のミトコンドリアのオートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子を破壊することを含む、酵母の発酵能を増加させる方法。
  2. 発酵能の増加がエタノール生産性の向上である、請求項1に記載の方法。
  3. 酵母のエタノール生産性を対照株と比較して少なくとも1%向上させることができる、請求項2に記載の方法。
  4. オートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子がATG2、3、4、5、7、8、9、10、11、12、16、17、20、21、29、31、32及び33からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. オートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子がATG32遺伝子である請求項4に記載の方法。
  6. ATG遺伝子が配列番号1に示される塩基配列からなるものである請求項5に記載の方法。
  7. 酵母が醸造酵母である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 酵母が実験室酵母である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  9. ミトコンドリアのオートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子が破壊され、発酵能が増加した酵母。
  10. 発酵能の増加がエタノール生産性の向上である、請求項9に記載の酵母。
  11. エタノール生産性が、対照株と比較して少なくとも1%向上した、請求項10に記載の酵母。
  12. 酵母のミトコンドリアのオートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子が破壊された酵母を用いてアルコール発酵を行うことを含む、発酵食品の製造方法。
  13. 発酵食品が酒類である請求項12に記載の方法。
  14. オートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子がATG2、3、4、5、7、8、9、10、11、12、16、17、20、21、29、31、32及び33からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項12又は13に記載の方法。
  15. オートファジー関連タンパク質をコードする遺伝子がATG32遺伝子である請求項14に記載の方法。
  16. ATG遺伝子が配列番号1に示される塩基配列からなるものである請求項15に記載の方法。
  17. 酵母が醸造酵母である請求項12〜16のいずれか1項に記載の方法。
  18. 酵母が実験室酵母である請求項12〜16のいずれか1項に記載の方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2017138489A1 (ja) * 2016-02-12 2017-08-17 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 酵母の液胞トランスポーターシャペロン複合体の機能欠損による発酵促進方法

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WO2017138489A1 (ja) * 2016-02-12 2017-08-17 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 酵母の液胞トランスポーターシャペロン複合体の機能欠損による発酵促進方法

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