JP5228009B2 - メタンガス吸着材及び有機金属錯体の使用方法 - Google Patents
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Description
本発明は、メタンガス吸着材及び有機金属錯体の使用方法に関する。
近時、地球温暖化を防止するための対策の1つとして、化石燃料資源を有効利用することが提案されている。例えば、自動車の燃料を、ガソリンから天然ガス(主成分はメタン)に変更することも化石燃料資源の有効利用の1つであり、この場合、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を低減することが可能になると期待されている。
しかも、天然ガスは、ガソリンの原料である原油と比較して埋蔵量が多く、このため、安価に、且つ長期間にわたって需要量に見合う量で安定して供給し得るエネルギ源であると推察される。このような理由から、天然ガスは、将来の自動車燃料の有力候補の1つであると考えられている。
天然ガスを燃料とする自動車(天然ガス車)では、天然ガスを貯蔵した容器を車体に搭載する必要がある。勿論、容器の天然ガス貯蔵量が多いほど、天然ガス車を長距離にわたって走行させることができる。
天然ガス貯蔵量を多くするためには、容積が大きな容器を選定すればよい。しかしながら、このような容器は概して重量が大であり、このため、天然ガス車の重量増加を招く。周知の通り、重量が大なる自動車を走行させるためには大きな駆動力が必要であり、大きな駆動力を得るためには燃料を多量に消費する必要がある。すなわち、この場合、天然ガスの消費量が多くなってしまう。
また、容積が大きな容器は、体積も大きい。このような容器を天然ガス車に搭載する場合、乗員室スペースや荷物スペースを小さくせざるを得ない。その上、車体に搭載する部品や各種機器等のレイアウトが制限されてしまう。
以上のような観点から、容器の体積を小さく維持しながら天然ガス貯蔵量を向上させる様々な試みがなされている。その1つとして、メタンを吸着可能なメタンガス吸着材を容器内に収容することが挙げられる。この場合、メタンガス吸着材がその分子構造内にメタンを取り込むので、容器の容積よりも多量のメタン、ひいては天然ガスを収容することが可能となる。すなわち、容器の体積を小さく維持しながら天然ガス貯蔵量を向上させることができると考えられる。
メタンガス吸着材の好適な例としては、有機金属錯体が挙げられる。なお、有機金属錯体とは、リンカーと指称される有機物が金属核に対して規則的に結合することによって形成された錯体であり、場合によっては、比較的均一な細孔を有する錯体であることもある。このような細孔を有する有機金属錯体は、「金属−有機骨格構造体(Metal-Organic Frameworks,MOF)」と呼称されることもある。
例えば、非特許文献1には、MOFにつき、メタンガスに対する吸着特性の調査結果が活性炭との比較で開示されている。
Hiroyasu Furukawa, Omar M. Yaghi Journal of American Chemical Society 第131巻 p8875-8883 2009年3月発行
本発明は上記した技術に関連してなされたもので、一層優れたメタンガス吸着能力を示すメタンガス吸着材及び有機金属錯体の使用方法を提供することを目的とする。
前記の目的を達成するために、本発明は、メタンを可逆的に吸着及び放出可能なメタンガス吸着材であって、
繰り返し単位であるCu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2が複数個互いに結合して形成され、その組成式が[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nで表される有機金属錯体からなることを特徴とする。
繰り返し単位であるCu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2が複数個互いに結合して形成され、その組成式が[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nで表される有機金属錯体からなることを特徴とする。
また、本発明は、繰り返し単位であるCu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2が複数個互いに結合して形成され、その組成式が[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nで表される有機金属錯体の使用方法であって、
前記有機金属錯体をメタンガス吸着材として使用することを特徴とする。
前記有機金属錯体をメタンガス吸着材として使用することを特徴とする。
要するに、本発明においては、前記有機金属錯体をメタンガス吸着材の素材として採用している。この有機金属錯体は、従来公知のメタンガス吸着材(活性炭やIRMOF−1等)に比してメタンガス吸着能力が大きい。換言すれば、一層多量のメタンガスを吸着することが可能である。従って、例えば、この有機金属錯体を容器に収容することにより、該容器に多量のメタンガスを回収することができる。
すなわち、本発明によれば、メタンガスの分離能力ないし回収能力が向上する。このため、メタンガス回収装置を小型化することも可能となる。
この有機金属錯体に優れたメタンガス吸着能力が発現する理由は、以下のように推察される。
この有機金属錯体は、概ね、1個のCu−Cu結合(Cuダイマー単位)に対して4個のピリジン−3,5−ジカルボキシラートが配位結合し、且つ隣接する前記Cuダイマー単位同士が1個の前記ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを介して結合した構造をなす。このような構造においては、複数個の前記Cuダイマー単位と複数個の前記ピリジン−3,5−ジカルボキシラートによって囲繞された空間(細孔)が存在する。この空間の開口径及び内径は数Å、すなわち、10Åに満たないが、この程度であれば、メタンの分子が進入・進出することが可能である。
しかも、この場合、前記細孔の内方にはCu原子、O原子、N原子が臨む。これらは、メタンの吸着サイトとして有効に機能する。
すなわち、この有機金属錯体はMOFの1種であり、且つ細孔の内部にメタンの吸着に有効なCu原子、O原子、N原子が存在する。このため、該有機金属錯体は、周囲のメタン雰囲気が加圧又は減圧されることに対応し、例えば、室温付近の温度領域であっても、多量のメタンガスを吸着又は放出することが可能となると考えられる。
本発明によれば、優れたメタンガス吸着能力を示す有機金属錯体をメタンガス吸着材として採用するようにしているので、メタンガス吸着量が増大する。従って、例えば、メタンガス回収装置に用いた場合、該回収装置のメタンガスの回収能力が向上する。すなわち、メタンガスを効率よく回収することができるようになる。
また、このためにメタンガス回収装置を小型化することも可能となる。
以下、本発明に係る有機金属錯体の使用方法につき、該有機金属錯体からなるメタンガス吸着材との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
はじめに、メタンガス吸着材につき説明する。本実施の形態に係るメタンガス吸着材は、Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2を繰り返し単位とし、その組成式が[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nで表される有機金属錯体からなる。
繰り返し単位であるCu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2に対して2個のピリジン−3,5−ジカルボキシラートが結合した構造を、図1に示す。この構造中、破線で囲繞した部分が繰り返し単位に相当する。なお、説明の便宜上、ピリジン環中等の共役結合は全て省略しており、以下においても同様である。
先ず、ピリジン−3,5−ジカルボキシラートの構造につき、該構造を平面的に示した図2を参照して説明する。この図2から諒解されるように、ピリジン−3,5−ジカルボキシラートは、ピリジン環の3−位及び5−位の各々にカルボキシラート基(−COO)が結合することで形成される。なお、2−位、4−位及び6−位には二酸化炭素ガスが結合する。
前記繰り返し単位につき説明すると、図1の破線で囲繞した部分に示すように、2個のCu原子によってダイマー単位が形成されている。このダイマー単位を構成する2個のCu原子に対し、2個のピリジン−3,5−ジカルボキシラートが結合する。
すなわち、ピリジン−3,5−ジカルボキシラートは2個のカルボキシラートを有し、この中の1個のカルボキシラート中のO原子が1個のCu原子に結合するとともに、該カルボキシラート中の別のO原子が残余の1個のCu原子に結合する。この繰り返し単位中のダイマー単位に対して、別の繰り返し単位中のピリジン−3,5−ジカルボキシラート1個と、さらに別の繰り返し単位中のピリジン−3,5−ジカルボキシラート1個とが同様に結合することにより、図1の構造が形成される。
換言すれば、図1の構造は、ダイマー単位に対して4個のピリジン−3,5−ジカルボキシラートが配位結合することによって形成される。4個のピリジン−3,5−ジカルボキシラートは、ダイマー単位中のCu−Cu結合軸を中心として、互いに約90°離間している。以下においては、このような配位結合の構成を「Cu2(COO)4パドルホイール構造」とも表記する。
ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを構成する残余の1個のカルボキシラートは、別のダイマー単位(図示せず)に対して同様の配位結合をなし、これにより別のCu2(COO)4パドルホイール構造を構成する。また、Cu2(COO)4パドルホイール構造を構成するダイマー単位中の一方のCuには、別のCu2(COO)4パドルホイール構造を構成するピリジン−3,5−ジカルボキシラート中のN原子と配位結合を形成するものもある。その結果、図3に示す単位胞が形成される。なお、図3中の矢印a、矢印b及び矢印cは、該単位胞におけるa軸、b軸及びc軸を示す。
この単位胞には、12個のCu原子と12個のピリジン−3,5−ジカルボキシラートとが含まれる。すなわち、Cuとピリジン−3,5−ジカルボキシラートとの組成比は1:1である。勿論、ダイマー単位と4個のカルボキシラートとは、上記したようにCu2(COO)4パドルホイール構造を構成する。
また、ヘルマン・モーガンの表記法によって表される該単位胞の空間群は、P63mcである。すなわち、この単位胞の晶系は、六方晶に属する。前記a軸と前記b軸との交差角度は120°であり、前記b軸と前記c軸との交差角度、及び前記c軸と前記a軸との交差角度はともに90°である。さらに、機器分析によって計測されたa軸及びb軸の長さは18.71〜19.41Å、c軸の長さは13.40〜13.62Åである。
ここで、a軸及びb軸によって形成される平面を図4に示す。ダイマー単位の中心は、a軸に対して平行な直線の上、b軸に対して平行な直線の上、a軸とb軸との交差角の2等分線に平行な直線の上に位置している。
この中、b軸に対して平行な直線上に位置して互いに隣接する2個のダイマー単位同士は、ピリジン−3,5−ジカルボキシラートの配位結合を介して結合している。また、ダイマー単位を間に挟んで位置する2個のピリジン−3,5−ジカルボキシラートは、a軸とb軸で形成される平面に対して直交し、且つダイマー単位の中心が位置するb軸に平行な直線を含む平面を間に挟んで互いに対向する。すなわち、前記平面を境として互いに反対側の領域に位置している。
互いに隣接する2個のピリジン−3,5−ジカルボキシラートは、さらに、図5に示すように、a軸とb軸で形成される平面に対して平行な面を挟み、互いに対向する。すなわち、前記平面を境として互いに反対側の領域に位置している。
そして、これらのピリジン−3,5−ジカルボキシラート同士では、ピリジン環中のN原子同士が互いに最も離間する位置となるようにしてダイマー単位に配位結合している。具体的には、一方のピリジン−3,5−ジカルボキシラートを構成するピリジン環中のN原子がc軸方向の最下端となるとともに、残余の一方のピリジン−3,5−ジカルボキシラートを構成するピリジン環中のN原子がc軸方向の最上端となる。
以上のように、b軸に対して平行な方向には、ダイマー単位とピリジン−3,5−ジカルボキシラートとが交互に結合した直線状構造が形成されている。
a軸においても、上記と同様の構造が形成される。すなわち、a軸に対して平行な直線上に位置して互いに隣接する2個のダイマー単位同士は、ピリジン−3,5−ジカルボキシラートの配位結合を介して結合し、且つ、ダイマー単位とピリジン−3,5−ジカルボキシラートとが交互に結合した直線状構造が形成される。
また、a軸とb軸との交差角の2等分線に平行な直線上に位置して互いに隣接する2つのダイマー単位同士も、上記と同様にピリジン−3,5−ジカルボキシラートの配位結合を介して結合している。さらに、前記2等分線に平行な方向では、ダイマー単位とピリジン−3,5−ジカルボキシラートとが交互に結合した直線状構造が形成される。
図4に示すように、Cu2(COO)4パドルホイール構造は、b軸に平行に延在する上記直線状構造と、a軸に平行な上記直線状構造とが交差する位置X、b軸に平行に延在する上記直線状構造と、a軸とb軸との交差角の2等分線に平行に延在する上記直線状構造とが交差する位置Y、及び、a軸に平行に延在する上記直線状構造と、a軸とb軸との交差角の2等分線に平行に延在する上記直線状構造とが交差する位置Zの3位置のみに位置する。すなわち、a軸に平行な上記直線状構造と、b軸に平行に延在する上記直線状構造と、a軸とb軸との交差角の2等分線に平行に延在する上記直線状構造とが同位置で交差することはない。
b軸に平行に延在する上記直線状構造においては、位置Xと位置Yが交互に存在する。また、a軸に平行に延在する上記直線状構造では位置Xと位置Zが交互に存在し、a軸とb軸との交差角の2等分線に平行に延在する上記直線状構造では位置Zと位置Yが交互に存在する。
結局、この有機金属錯体では、a軸とb軸で形成される平面に対して平行な面方向に、b軸に平行に延在する上記直線状構造と、a軸に平行に延在する上記直線状構造と、a軸とb軸との交差角の2等分線に平行に延在する上記直線状構造とがCu2(COO)4パドルホイール構造によって網目状の二次元構造を形成している。
この有機金属錯体は、a軸方向を視点とする図6に示すように、上記した二次元構造がc軸方向に沿って積層することで三次元構造を形成したものである。なお、図6では、下方から第1層、第2層、第3層及び第4層がこの順序で積層された構成を示している。
図6の要部拡大図である図7に示すように、第1層と第2層は、第1層に存在し且つ第2層側に近接するピリジン−3,5−ジカルボキシラートのピリジン環中のN原子が、第2層に存在するダイマー単位中の第1層側に近接するCu原子に対して配位結合を形成することで結合する。なお、第1層に存在するダイマー単位中の第2層側に近接するCu原子と、第2層に存在し且つ第1層側に近接するピリジン−3,5−ジカルボキシラートのピリジン環中のN原子とは、結合を形成しない。
第2層と第3層も、第2層に存在し且つ第3層側に近接するピリジン−3,5−ジカルボキシラートのピリジン環中のN原子が、第3層に存在するダイマー単位中の第2層側に近接するCu原子と配位結合を形成することで結合する。
第3層と第4層の間の結合は、第1層と第2層の間の結合と同一である。すなわち、第3層と第4層の間で形成されるN原子のCu原子に対する配位結合の位置は、第1層と第2層の間で形成されるN原子のCu原子に対する配位結合の位置に一致する。
第4層上にさらなる層が積層した場合、第4層と第5層との間の結合は、第2層と第3層の間の結合と同一となる。このことから諒解されるように、c軸方向に沿う積層構造は、第1層と第2層の結合様式が順次繰り返されたものとなる。
図8は、視点をc軸方向として示した前記積層構造の平面図である。この図8に示されるように、この有機金属錯体には、a軸とb軸で形成される平面中に原子が密充填されていない空洞(空間)が複数箇所存在する。この空洞は開口径及び内径が数Åの孔形状であり、図8の拡大図である図9から容易に諒解されるように、その内面にはCu原子、O原子、N原子が露呈する。
開口径及び内径が数Åの空洞(孔形状の空間)は、メタンの分子が進入又は滲出するに十分な寸法である。しかも、該空洞の内面に露呈したCu原子、O原子、N原子は、メタンの吸着サイトとして有効に機能する。このため、この有機金属錯体は、周囲のメタン雰囲気が加圧又は減圧されることに対応し、室温付近の温度領域であっても多量のメタンガスを吸着又は放出し得る。
以上の構造をなす有機金属錯体につき、回折角度2θを5°〜20°の範囲内としてX線回折測定を行うと、5.2°〜5.5°、8.33°〜8.63°、9.17°〜9.47°、10.55°〜10.95°、12.41°〜12.81°、13.03°〜13.33°、14.10°〜14.44°、15.56〜15.76、15.93°〜16.43°、16.85°〜17.25°、17.23°〜17.73°、18.49°〜18.99°、19.27°〜19.77°の位置にピークが出現する。
このような有機金属錯体からなるメタンガス吸着材は、後述するように、活性炭やIRMOF−1、MOF−177に比して優れたメタンガス吸着能力を示す。従って、メタンガスの吸着・回収能力が増大する。このため、メタンガス回収装置の小型化にも寄与する。
次に、このメタンガス吸着材、すなわち、有機金属錯体である[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nの製造方法につき説明する。この有機金属錯体は、原料成分が溶解した溶液を得る第1工程と、前記溶液に対して結晶性向上成分を添加する第2工程と、前記溶液を加熱して前記原料成分同士の反応生成物を得る第3工程と、前記反応生成物からゲスト分子を除去する第4工程とを経ることで得ることができる。
ここで、第1工程及び第2工程は、例えば、図10に示すグローブボックス10内で行うことが好ましい。ここで、グローブボックス10には2個の取付孔12a、12bが形成されるとともに、取付孔12a、12bの各々に左手用グローブ14、右手用グローブ16が気密に取り付けられる。
グローブボックス10には、第1バルブ18が介装された排気ライン20と、第2バルブ22が介装された給気ライン24とが接続される。排気ライン20は排気用ポンプ26に連結され、一方、給気ライン24は不活性ガス供給源28(ボンベ等)に連結される。
不活性ガスの好適な例としては、Ar、He、Xe等が挙げられるが、入手が容易であり且つ安価であることから、Arが適切である。
グローブボックス10には、さらに、循環ライン30が設けられる。この循環ライン30には、流れの上流側から、不活性ガス精製機構32と循環用ポンプ34が介装される。
この中、不活性ガス精製機構32は、白金系の燃焼触媒をカラムに収容して構成される酸素除去部36と、水分吸着剤としてのモレキュラシーブをカラムに収容して構成される水分除去部38とを有する。なお、酸素除去部36が上流側に配置される。従って、水分除去部38には、酸素除去部36から排出された不活性ガスが導入される。
第1工程を行うために、上記のように付帯設備が設けられたグローブボックス10の内部に原料成分(カルボキシル酸銅塩及びピリジン−3,5−ジカルボン酸)、溶媒、計量器具、空の密閉容器等を収容した後、該グローブボックス10を封止する。なお、原料成分や溶媒等の具体名については後述する。
ここで、グローブボックス10内には、前記第2工程を行うために必要な酢酸又はギ酸と、アセトンやエタノール等の蒸気圧が高い易揮発性の有機試薬とがさらに収容される。後述するように、揮発した有機試薬によって不活性ガス中の酸素が消費される。
この時点では、グローブボックス10内の雰囲気は大気である。第1工程を行うに先んじ、以下のようにして大気を不活性ガスに置換するとともに、グローブボックス10内の水分含有量及び酸素濃度を調整する。
先ず、排気用ポンプ26を付勢した後に第1バルブ18を開放する。これによりグローブボックス10内の気体が排気され、該グローブボックス10内が概ね10−1Pa以下の真空となる。
次に、第1バルブ18を閉止した後、第2バルブ22を開放して不活性ガスをグローブボックス10内に導入し、グローブボックス10内の圧力を大気圧程度とする。その後、有機試薬を収容した容器の蓋を開ける等して、有機試薬が揮発し易い状態とする。その結果、グローブボックス10内の雰囲気が、不活性ガスと、揮発した有機試薬との混合気体となる。この時点で、グローブボックス10内に残留していた微量の酸素と水分が混合気体に含まれることになる。
次に、循環用ポンプ34を付勢する。この循環用ポンプ34の作用下に、若干の酸素と水分を含んだ不活性ガスが吸引されて循環ライン30に流れ、不活性ガス精製機構32に導入される。
上記したように、不活性ガス精製機構32の上流側に配置された酸素除去部36は、白金系の燃焼触媒を含んで構成されている。不活性ガスに含まれた有機試薬と酸素は、この燃焼触媒の作用下に燃焼反応を起こす。この燃焼反応によって有機試薬と酸素が消費されるとともに、水分とメタンが生成される。換言すれば、混合気体は、酸素除去部36を通過することに伴って酸素及び有機試薬が除去され、且つ水分及びメタンを含んだものとなる。
水分及びメタンを含む混合気体は、酸素除去部36から排出された後、水分除去部38に到達する。この水分除去部38に存在するモレキュラシーブは、周知のように優れた水分吸着剤であり、しかも、メタンをも吸着することが可能である。従って、モレキュラシーブの作用下に混合気体から水分及びメタンが除去され、精製された不活性ガスが得られる。この不活性ガスは、循環ライン30を介してグローブボックス10に戻る。
循環用ポンプ34の作用下に上記の循環を繰り返すことにより、不活性ガスをさらに精製する。以上のようにして、露点温度が−60℃以下、酸素濃度が20ppm以下の不活性ガスを得る。
作業者は、このようにして水分含有量及び酸素濃度が僅かである不活性ガスが充填されたグローブボックス10にて、手作業によって前記第1工程及び前記第2工程を実施する。勿論、この際には、左手用グローブ14に左手を入れるとともに右手用グローブ16に右手を入れる。
はじめに、第1工程において、溶媒に対して原料成分(カルボキシル酸銅塩及びピリジン−3,5−ジカルボン酸)を溶解する。なお、原料成分の1つであるカルボキシル酸銅塩は、具体的には、酢酸銅一水和物又は酢酸銅無水物である。
また、溶媒は、酢酸銅一水和物又は酢酸銅無水物、及びピリジン−3,5−ジカルボン酸の双方を溶解可能なものであればよく、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エタノール、メタノール等を好適な例として挙げることができる。とりわけ、結晶性が高い有機金属錯体を得ることができることから、ジメチルホルムアミドが最も好適である。
溶媒に対する酢酸銅一水和物又は酢酸銅無水物の添加割合は、0.01〜1.0mol%に設定することが好ましく、0.1〜0.5mol%に設定することがより好ましい。一方、溶媒に対するピリジン−3,5−ジカルボン酸の添加割合は、0.01〜3.0mol%に設定することが好ましく、0.2〜1.0mol%に設定することがより好ましい。
なお、酢酸銅一水和物又は酢酸銅無水物の添加割合をピリジン−3,5−ジカルボン酸の添加割合に比して小さくする方が好ましい。この場合、結晶性が高い有機金属錯体を得ることができるようになるからである。
このようにして溶液を得ることで第1工程が終了する。これに引き続き、第2工程をグローブボックス10内にて行う。
すなわち、原料成分が溶解された溶液に対し、有機金属錯体の結晶性を向上させる結晶性向上成分を添加する。なお、結晶性向上成分は、具体的には酢酸又はギ酸である。
溶媒に対する添加割合は、酢酸の場合には0.0001〜0.5mol%、ギ酸の場合には0.0001〜0.1mol%に設定すれば十分である。なお、酢酸のより好ましい添加割合は0.001〜0.1mol%であり、ギ酸のより好ましい添加割合は0.001〜0.05mol%である。このような極少量であっても、最終生成物である有機金属錯体の結晶性が著しく向上する。
この溶液を密閉容器に収容して該密閉容器を密閉した後、グローブボックス10を開放して該密閉容器を取り出す。勿論、密閉容器内には、前記溶液の他、露点温度が−60℃以下、酸素濃度が20ppm以下の不活性ガスが封入される。従って、溶液が大気に接触することはない。
次に、第3工程において、この密閉容器ごと前記溶液を50〜140℃で24〜168時間加熱する。50℃未満や24時間未満であると、酢酸銅一水和物又は酢酸銅無水物とピリジン−3,5−ジカルボン酸との反応がさほど進行せず、反応生成物の収量も少なくなる。また、140℃を超える温度で168時間を超える加熱を行っても、反応速度や収量が飽和するので不経済である。第3工程における一層好ましい加熱条件は、70〜90℃、60〜120時間である。
この加熱により、酢酸銅一水和物又は酢酸銅無水物とピリジン−3,5−ジカルボン酸とが反応を起こし、結晶性が高い[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nが生成する。なお、加熱方法は特に限定されるものではないが、好適な具体例としてサンドバスが挙げられる。
なお、上記したように、密閉容器内には露点温度が−60℃以下、酸素濃度が20ppm以下の不活性ガスが封入されている。従って、前記第1工程及び前記第2工程と同様に、第3工程も不活性ガス雰囲気下に実施される。
反応生成物である[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nは、上記の空洞(孔形状の空間)等に溶媒分子や水分等をゲスト分子として含むものである。そこで、第4工程において脱ゲスト処理を行い、ゲスト分子を除去する。
この第4工程も、上記したグローブボックス10内にて行う。すなわち、密閉容器をグローブボックス10内に再収容し、上記の排気、不活性ガスのグローブボックス10内への導入、不活性ガスからの酸素及び水分の除去を実施し、これにより、グローブボックス10内の雰囲気を露点温度が−60℃以下、酸素濃度が20ppm以下の不活性ガスとする。
第4工程は、グローブボックス10内にて以下のようにして実施すればよい。
先ず、密閉容器から[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nの結晶を取り出し、その表面を上記したような溶媒で洗浄する。これにより未反応の原料成分、すなわち、酢酸銅一水和物又は酢酸銅無水物、及びピリジン−3,5−ジカルボン酸が洗浄溶媒中に溶解し、結晶表面から除去される。
次に、[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nの結晶を脱水クロロホルムに浸漬する。これにより、空洞中等に存在する溶媒分子が脱水クロロホルムの分子に置換される。
一晩が経過した後、脱水クロロホルムを新たなものに交換し、さらに、脱水クロロホルムを交換しながら1週間静置する。これにより、溶媒分子の略全量が脱水クロロホルムに置換される。なお、脱水クロロホルムの交換は、1週間中に1〜10回行えばよいが、回数が多いほど前記置換が確実なものとなる。従って、少なくとも5回は交換することが好ましい。
このようにして溶媒分子の脱ゲスト処理を行った後、水分及び脱水クロロホルムの脱ゲスト処理を行う。具体的には、[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nと脱水クロロホルムを濾過によって分離し、[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nを、加熱減圧処理を実施することが可能な容器に収容して該容器を密閉する。
このようにして容器を密閉した後の作業は、グローブボックス10内で行ってもよいし、グローブボックス10の外で行ってもよい。露点温度が−60℃以下、酸素濃度が20ppm以下の不活性ガスが容器内に封入されているため、[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nが大気に接触する懸念がないからである。
いずれにしても、次に、有機金属錯体に対して減圧下で加熱処理を施す。この際の圧力は、0.013Pa以下の高真空であることが好ましい。このような高真空環境は、例えば、ターボ分子ポンプを用いることで得ることができる。
また、好適な加熱温度は40〜300℃であり、一層好適な加熱温度は80〜200℃である。昇温に際しては、昇温速度を1℃/分程度の緩やかなものとすることが好ましい。
この減圧加熱処理を1〜7日継続することにより、水分及び脱水クロロホルムが除去され、高純度の[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nの結晶が得られるに至る。
得られた[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nを大気に曝露すると、大気中の水分を吸着して失活する懸念がある。これを回避するべく、露点温度が−60℃以下、酸素濃度が20ppm以下の不活性ガス雰囲気下で保管することが好ましい。
なお、原料成分を溶解した溶液に対して酢酸又はギ酸を添加することなく(すなわち、第2工程を実施することなく)、第3工程及び第4工程を実施するようにしてもよい。この場合においても、[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nを得ることができる。
このようにして得られた有機金属錯体は、メタンガスを可逆的に吸着・放出することが可能である。
また、原料成分の加熱や、必要に応じて酢酸又はギ酸がさらに添加されて調製された溶液の加熱を、露点温度が−60℃以下、酸素濃度が20ppm以下の不活性ガス雰囲気としたグローブボックス10内にて、開放容器で行うようにしてもよい。
以下、本発明を実施例によって詳述するが、本発明が当該実施例に限定されるものではないことは勿論である。
はじめに、図10に示す構成のグローブボックス10を用い、上記に準拠した操作を行って該グローブボックス10内を、露点温度が−65℃、酸素濃度が18ppmであるAr雰囲気とした。
そのグローブボックス10内で、9.89mlのジメチルホルムアミドに対し、56.7mgの酢酸銅一水和物を先ず添加して溶解させた後、該溶液に対して65.3mgのピリジン−3,5−ジカルボン酸を添加して溶解させた。さらに、その後、0.11mlの酢酸を添加して十分に撹拌した。
この溶液を容積が20mlのバイアル瓶に封入し、グローブボックス10から取り出した。その後、該バイアル瓶をサンドバスに埋入して70℃で90時間保持した。これにより、[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nの結晶が生成した。
次に、バイアル瓶を前記グローブボックス10に再収容した後、該グローブボックス10内を、露点温度が−65℃、酸素濃度が18ppmであるAr雰囲気とした。その後、グローブボックス10内でバイアル瓶を開放して濾過を行い、[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nを分離した。
以上の操作を30回行い、合計で約1gの[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nの結晶を得た。
このようにして得られた[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nに対し、脱ゲスト処理を施すべく、露点温度が−65℃、酸素濃度が18ppmであるAr雰囲気とした前記グローブボックス10内において、50mlの脱水ジメチルホルムアミドで洗浄した。さらに、洗浄後の結晶を50mlの脱水クロロホルムに浸漬し、この状態で静置した。一晩が経過した後、脱水クロロホルムを新たなものと交換した。この後は24時間おきに1回、脱水クロロホルムを新たなものと交換した。
7日間が経過した後、グローブボックス10内で濾過を行って脱水クロロホルムと結晶を分離し、結晶を真空加熱処理可能な容器に封入した。この容器をグローブボックス10から取り出した後、該容器内を、ターボ分子ポンプによって0.013Pa以下の高真空とした。その一方で、該容器をマントルヒータで120℃に加熱して2日間保持した。
最後に、露点温度が−65℃、酸素濃度が18ppmであるAr雰囲気としたグローブボックス10中で前記容器を分解し、結晶を回収した。これを実施例とする。
回収された実施例の結晶につきX線回折測定を行った。その実測パターンを図11に示す。この実測パターンは、[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nの理論パターンに殆ど一致する。この結果は、脱ゲスト処理後の結晶が、図4及び図5に示す二次元構造が積層した三次元構造であることを支持するものである。
さらに、実施例の結晶を0.31g秤量し、容積型メタンガス圧力−組成等温線図測定装置のサンプルセル内に収容した。室温のままで真空引きを12時間行った後、サンプルセルを100℃に昇温して真空引きをさらに12時間続行した。その後、真空引きを継続しながら放冷し、測定系の温度を25℃とした。
この温度で1時間保持した後、純度99.9999%以上のメタンガスを圧力が11.3MPaとなるまでサンプルセル内に段階的に導入して加圧を行った。この途中の各メタンガス圧力におけるメタンガスの吸着平衡圧力から、メタンガス吸着量を算出した。
次に、サンプルセル内のメタンガス圧力を0.008MPaとなるまで段階的に減少させた。この途中の各メタンガス圧力におけるメタンガスの放出平衡圧力から、メタンガス放出量を算出した。
得られた結果を、グラフとして図12に併せて示す。このグラフの横軸は、サンプルセル内のメタンガス圧力であり、縦軸は、メタンガス吸着材の単位体積当たりのメタンガス吸着量である。
メタンガス圧力が3.38MPa(33.8bar)であるときのメタンガスの吸着量は10.3wt%であった。この値をメタンガス吸着材の密度1.09g/cm3に基づいて単位体積当たりの吸着量に換算すると、0.125g/cm3であった。
比較のため、前記非特許文献1の表1に示されるCOF−102及びCOF−103(いずれも共有結合性有機骨格構造体)、金属−有機骨格構造体であるIRMOF−1及びIRMOF−6、活性炭の298〜300K、35barにおける単位体積当たりの吸着量を算出した。以上の値を、図13に一括して示す。この図13から、[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nからなるメタンガス吸着材が、従来公知のメタンガス吸着材であるCOF−102、COF−103、IRMOF−1、IRMOF−6、及び活性炭に比して一層優れたメタンガス吸着能力を示すものであることが明らかである。
10…グローブボックス 20…排気ライン
24…給気ライン 28…不活性ガス供給源
30…循環ライン 32…不活性ガス精製機構
34…循環用ポンプ 36…酸素除去部
38…水分除去部
24…給気ライン 28…不活性ガス供給源
30…循環ライン 32…不活性ガス精製機構
34…循環用ポンプ 36…酸素除去部
38…水分除去部
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- メタンを可逆的に吸着及び放出可能なメタンガス吸着材であって、
繰り返し単位であるCu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2が複数個互いに結合して形成され、その組成式が[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nで表される有機金属錯体からなることを特徴とするメタンガス吸着材。 - 繰り返し単位であるCu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2が複数個互いに結合して形成され、その組成式が[Cu2(ピリジン−3,5−ジカルボキシラート)2]nで表される有機金属錯体の使用方法であって、
前記有機金属錯体をメタンガス吸着材として使用することを特徴とする有機金属錯体の使用方法。
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