本発明は、フリー・フロー電気泳動による分離を実施するための方法と装置に関するものであり、その中には、いくつかの分析物を効率的、選択的、再現可能に分離できる媒体と分離条件が含まれる。この明細書に提示する方法と装置により、例えばペプチド、タンパク質、タンパク質複合体、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド複合体などを、以下に限られないが、特に天然条件下で分離することができる。あるいはこの方法は、変性条件下で実施することもできる。本発明は、例えばバイオマーカーの発見、特に、少量で濃度が小さいために検出することがすでに難しく、しかも豊富な非マーカー・タンパク質(例えばアルブミン)が存在しているために検出がさらに妨げられるタンパク質または分析物の発見を改善するのに利用できる。例えば多くの細胞抽出液にアルブミンが存在しているため、濃度が小さく量が少ないタンパク質の検出が難しかったり不可能だったりすることがしばしばある。
そのような用途では、本発明を利用して豊富なタンパク質群の選択的な分離/単離ができるため、例えば固定化pH勾配(IPG)ゲル、1D SDS−PAGEまたは2D SDS−PAGEによって分析するときに豊富なタンパク質によってこれまで隠されてきた非枯渇タンパク質を天然の状態で分析することが可能になる。
本発明の特徴による方法、装置、組成物/キットは、従来技術で知られている他の方法と比べ、以下の主要な利点のうちの少なくとも1つ以上を含んでいる。
(i)興味の対象である化合物からなるサンプルが溶液により多く直接的に回収されること;
(ii)分離の分解能がより高いこと;
(iii)検出されるタンパク質の幅がより広いこと;
(iv)帯電した分子が溶液中を移動するのであり、より密なゲルなどの材料の中を通過するのではないため、高分解能の分離がより高速になされること;
(v)少量のタンパク質が富化されること;
(vi)サンプルの損失がないか、限られていること;
(vii)分離装置を繰り返し使用できること;
(viii)豊富なタンパク質群への分析物の非特異的結合が少なくなること;
(ix)異なる多彩な分析物に対する柔軟性と適用性がより優れていること;
(x)下流の分析技術(例えば以下に限られないが、ゲル電気泳動(1D−PAGE、2D−PAGEなど)、質量分析(MS)(ESI、MALDI、SELDIなど)、LC−MS(/MS)、MALDI−ToF−MS(/MS)、化学発光、HPLC、エドマン・シークエンシング、NMR分光、X線回折、核酸シークエンシング、エレクトロブロッティング、アミノ酸シークエンシング、フロー・サイトメトリー、円二色性またはこれらの組み合わせ)とそのままで相性がよいこと。
本発明の実施態様により、サンプルに含まれる少量のタンパク質群または分析物群によりうまくアクセスできるようにするために、ある1つのタンパク質のすべてまたは一部を除去する方法、装置、組成物が提供される。本発明のいくつかの実施態様では、少量のタンパク質をよりうまく測定または同定するために、アルブミンが、分析から枯渇または除外されるタンパク質として選択される。
豊富なタンパク質群を除去すると、または枯渇させると、他のタンパク質群の相対濃度が上昇する。これは、ゲル様画像として明らかにすることや、表の形式にした各サンプルのエレクトロフェログラムとして明らかにすることができる。
本発明の実施態様のFFE法と装置によって枯渇させる分析物または非枯渇分析物のいずれかとして分離できる典型的な分析物は、例えば無機分子と有機分子であり、それは、生体粒子、バイオポリマー、生体分子であることが好ましい。その中には、バイオマーカーとなるタンパク質、タンパク質凝集体、ペプチド、DNA−タンパク質複合体、DNA、膜、膜の断片、脂質、糖類、多糖、ホルモン、リポソーム、細胞、細胞小器官、ウイルス、ウイルス粒子、抗体、クロマチンなどが含まれる。本発明のいくつかの実施態様に従って分離できる無機分子または有機分子は、表面電荷が変化したポリマーと粒子であり、例えばメラミン樹脂、ラテックス塗料粒子、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、デキストラン、セルロース誘導体、ポリ酸、違法薬物、爆薬、毒素、医薬、発癌物質、毒物、アレルゲン、感染性物質などがある。
この明細書では、“バイオマーカー”は、疾患状態のマーカー、または生体内で起こる正常なプロセスや病気プロセス(例えば薬の代謝)のマーカーとなる天然の化合物または合成化合物を意味する。
この明細書では、“タンパク質”は、あらゆるタンパク質(例えば以下に限られないが、ペプチド、酵素、糖タンパク質、ホルモン、受容体、抗原、抗体、増殖因子などで、例えばアミノ酸が約20個以上のもの)を意味する。タンパク質には、構成するアミノ酸が約20個より多いもの、またはアミノ酸残基が約50個より多いもの、またはアミノ酸残基が約100個より多いものが含まれる。
本出願の文脈では、“分離する”と“分離”という用語は、電場中での(例えば異なるpIに基づいて起こる)異なる挙動に基づいて2種類以上の分析物からなる混合物を空間的に分離することを意味する。したがって分離には、以下に限られないが、サンプルに含まれるある画分または分析物の分画化や、特異的かつ選択的な富化などが含まれ、それは、枯渇および/または濃縮および/または分離であることが好ましい。したがってこの出願で“分離する”と“分離”という用語が現われるときにはいつでも、上記意味のうち少なくとも1つが含まれるものとする。
“分離する”と“分離”という用語に関する上記の定義とは関係なく、この明細書に記載したいくつかのFFE分離プロトコルは特に分画化(DFEプロトコル)を意味し、別のFFE分離プロトコルは分離(DSEプロトコル)を意味する。この文脈では、分離は、サンプル中の分析物のさらなる空間的分離の実現を意味するのに対し、分画化という用語は、(枯渇させない)分析物のプールをFFE分離ステップから回収できることを示すことがわかるであろう。FFE分離は、いくつかの画分が順番に回収されるような調製方法で主に実施すること、または単に分析を行なってある画分に含まれる興味の対象である分析物またはその存在を適切な手段で検出するだけで、例えば後で使用するために回収はしないことが可能である。
複数の分析物を含むサンプルから少なくとも1つの分析物を枯渇させることは、本発明の好ましい実施態様の1つである。FFEに適した装置におけるFFE分離ステップにより、低濃度のタンパク質/分析物が蓄積するのとは別の場所により豊富なタンパク質/分析物を蓄積させるまたは分離するように、濃度が低いタンパク質/分析物を化学的緩衝系の中に蓄積させることができる。“枯渇”という用語は、決まったpIを持つ少なくとも1種類の分析物を、本発明の実施態様によるFFE分離ステップにより、他の“非枯渇”分析物から分離できるという事実に関係する。言い換えるならば、分離される1つまたは複数の分析物(枯渇させる分析物)は、その分析物のpIに対応するpHを持つpH分離平坦部に蓄積するのに対し、非枯渇分析物は、pH分離機能とそれに隣接するpH機能との界面に蓄積するか、隣接するpH機能のpH勾配に蓄積する。したがって枯渇させる分析物(一般に豊富なタンパク質)は、例えば低濃度のタンパク質/分析物の測定または分析をもはや邪魔することができず、それらの低濃度のタンパク質/分析物の検出と同定が容易になる。
“非枯渇(non-depleted)”という用語は、分析物またはサンプルのうちで、元の分析物/サンプルから枯渇した分析物をもはや含んでいないあらゆる部分を意味する。言い換えるならば、“非枯渇”サンプルまたはサンプルの一部は、FFE装置の中で、pH機能プロファイル内の、分離する分析物(または複数の分析物)が蓄積するのとは異なるある位置に蓄積する。したがって、分析物混合物を含む非枯渇分析物、またはサンプル中の非枯渇部分とは、その非枯渇分析物またはサンプル中の非枯渇部分が、分析物混合物/サンプル(例えば豊富なタンパク質/分析物)から分離する所定の分析物から実質的に分離されており、したがってその所定の分析物が枯渇していることを意味するものと理解すべきである。
“分離する分析物”という表現は、サンプルに含まれる別の分析物からFFEによって空間的に分けられる1種類または複数の分析物を意味する。本発明によるpH分離平坦部の平均pHは、分離する分析物のpIに実質的に対応する。このような分析物はpH分離平坦部に蓄積するのに対し、pIがpH分離平坦部のpH範囲外にある分析物は、pH分離平坦部と、隣接したpH機能および/または導電率の段差を含むpH機能との間の境界線に蓄積することになる。
あるいはサンプルの非枯渇部分は、電気泳動によってpH分離平坦部の外に追いやられ、隣接したpH勾配の中で空間的にさらに分けられる。pIがpH分離平坦部のpH範囲外にある分析物は、pH機能プロファイル内で分離する分析物(例えばより豊富なタンパク質/分析物)が蓄積する場所以外の場所に蓄積するという事実のため、サンプルの“非枯渇”部分を主に表わすと考えられる。したがってフリー・フロー電気泳動の後、1つ以上の画分においてサンプルのそれらの部分が富化される。
この明細書では、“サンプル”という用語に、本発明の実施態様によるFFE分離媒体に十分に溶ける少なくとも2種類の化合物が含まれる。本発明の方法と装置で用いるサンプルは、タンパク質混合物、他の反応混合物、天然の供給源(例えば生物流体)に由来するものが可能だが、これだけに限られるわけではない。
本発明の文脈における“分画されたサンプル”は、含まれるさまざまな分析物がFFEステップの間に分離されるため、そのFFE分離ステップの後にいくつかの画分に分割できるサンプルを意味する。当業者であれば、個々の画分を回収する方法がわかるであろう。その画分は、FFEに適した装置の分離チェンバーから複数の回収出口を通じて出ていき、一般に個々のチューブを通って適切な任意のタイプの個々の回収容器(例えば96ウエルのプレート、ときにはサイズが異なるプレート(例えば144個、288個、576個、またはそれ以上の数のウエル)の場合もある)へと導かれる。
この明細書では、“生物流体”には、以下に限られないが、血液、血漿、血清、痰、尿、涙、唾液、痰、脳脊髄液、洗浄液、白血球フェレーシスサンプル、乳汁、尿、導管液、汗、リンパ液、精液、臍帯液、羊膜液や、細胞を培養することによって得られる流体(例えば発酵ブロス、細胞培地)などが含まれる。
この明細書では、“タンパク質混合物”のサンプルは、一般に、複数のタンパク質の複雑なあらゆる混合物である。タンパク質には、修飾された形態、修飾されていない形態、処理された形態、処理されていない形態が含まれ、さまざまな供給源から得ることができる。供給源としては、以下に限定されないが、細胞サンプル(例えばライセート、懸濁液、培養プレート上の接着細胞の集合、剥離物、組織の断片または切片、腫瘍、生検サンプル、記録保管用の細胞または組織のサンプル、レーザーで捕獲した解剖細胞など)、生物(例えば細菌や酵母などの微生物)、細胞以下のサイズの断片(例えば核やミトコンドリアなどの細胞小器官、リボソーム、ゴルジ体などの大きなタンパク質複合体などを含む)、卵子、精子、胚、生物流体、ウイルスなどがある。
この明細書では、“反応混合物”という用語は、少なくとも2種類の化合物のあらゆる混合物を意味する。そのうちの少なくとも1つの化合物は化学反応の生成物であり、反応混合物の中に存在しているか存在していた化合物に由来する。
この明細書では、“複合タンパク質混合物”のサンプルには、異なる約2種類、10種類、20種類、100種類、500種類、1,000種類、5,000種類、10,000種類、20,000種類、30,000種類、100,000種類、それどころかそれ以上の種類のタンパク質またはペプチドを含むことができる。このようなサンプルは、天然の生物源(例えば細胞、組織、体液、土壌、水のサンプルなど)に由来してもよく、または(例えば天然のタンパク質供給源および/または合成か組み換えによるタンパク質供給源のサンプルを1種類以上組み合わせることによって)人工的に生成させてもよい。
この明細書では、“ペプチド”という用語は、少なくとも1つのペプチド結合を含むあらゆる物質を意味し、Dアミノ酸および/またはLアミノ酸を含むことができる。ペプチドは、約2〜約150個のアミノ酸を含むことができる。この数は約2〜約100個であることが好ましく、約2〜約50個であることがより好ましく、約2〜約20個であることが最も好ましい。
この明細書では、“ペプチド混合物”は、一般に、タンパク質を含むサンプルがタンパク質切断した結果として得られた複数のペプチドの複雑な混合物である。
この明細書では、“緩衝系”は、少量の酸または塩基を添加したとき、または希釈したときに、溶液をほぼ一定のpH値に維持することができる、一、二、三プロトン性/塩基性化合物の混合物を意味する。
この明細書では、“緩衝化合物”は、単独で、または第2の化合物すなわち別の化合物と組み合わさって緩衝系を形成する化合物を意味する。
この明細書では、“pH機能プロファイル”という用語は、FFE装置のアノードとカソードに挟まれた全分離空間にわたるpHの分布に関係する。本発明のpH機能プロファイルは、“分離領域”を形成する複数の分離媒体および/またはフォーカス媒体によって形成することができる。pH機能プロファイルは安定化媒体によっても形成されることが好ましいが、必ずしもそうでなくてもよい。本発明のいくつかの実施態様では、フォーカス媒体が安定化媒体として機能することができる。本発明の別の好ましい実施態様では、pH機能プロファイルは2つ以上の分離領域を含むことができる。
この明細書では、“分離領域”は、pH分離平坦部を含むとともに、そのpH分離平坦部のアノード側のpH機能またはpH勾配と、そのpH分離平坦部のカソード側のpH機能またはpH勾配とをさらに含むと理解すべきである。いくつかの実施態様では、分離領域は、pH分離平坦部と、そのpH分離平坦部の一方の側のpH機能またはpH勾配とを含んでいる。pH分離平坦部の他方の側には、フォーカス媒体によって、またはフォーカス媒体として機能する安定化媒体によって、フォーカス領域が隣接して形成される。言い換えるならば、各分離平坦部は、アノード側とカソード側のそれぞれにおいて、pH機能、pH勾配、またはフォーカス領域が隣接している。pH機能、pH勾配、フォーカス領域はさらに、フォーカス媒体および/または安定化媒体に隣接していてもよい。
それに加え、pH機能は、フォーカス媒体を含むこと、またはフォーカス媒体で構成することができる。pH分離平坦部、pH機能、pH勾配のそれぞれは分離媒体で形成することができ、pH機能の場合には、分離媒体、フォーカス媒体、またはこれらの組み合わせで形成することができる。pH分離平坦部、pH機能、pH勾配は、それぞれ、FFE装置への1つの入口に導入される分離媒体によって形成すること、またはFFEに適した装置の隣り合ったいくつかの入口に導入される互いに同じか互いに異なる複数の分離媒体によって形成することができる。
従来の一般的な使用法によると、“pH勾配”という用語は、pHに突然変化する境界が観察されないことを意味する。この定義では、IEF装置でのpH勾配のグラフは、興味の対象となる部分に鋭い跳びがない比較的滑らかな曲線として示されることになろう。pH勾配はFFE装置の1つの入口に導入される単一の媒体によって形成できるが、その装置に複数の入口を通じて導入される複数の媒体によって形成することもできる。なおその複数の入口に導入される媒体は、同じでも異なっていてもよい。pH勾配は、一般に、一方の側がpH分離平坦部に隣接し、他方の側がフォーカス媒体または安定化媒体に隣接している。
一方で、この明細書で用いる“pH機能”という用語は、広い意味を持つ。その中には“pH勾配”が含まれるだけでなく、pHの跳び、すなわち2つのpH領域の境界にpHの顕著な変化を生じさせうる、ある程度突然に変化するpH段差も含まれる。2つのpH領域の境界における変化(例えば2つのpH平坦部間のpHの段差)は、0.5pH単位よりも大きいことが好ましい。この変化は1pH単位よりも大きいことがより好ましく、2pH単位よりも大きいことがさらに好ましい。この明細書の説明とガイドラインを利用して分離用緩衝物質を適切に選択することにより、IEF装置において、境界で鋭い変化を持つpH機能を作り出すことができる。
本発明の実施態様と関連して用いるpH機能は、pH勾配、pH変化、複数のpH勾配の組み合わせ、複数のpH変化の組み合わせ、またはpH勾配とpH変化の組み合わせを含むことができる。pH機能は、FFEに適した装置の1つの入口に導入される1つの媒体によって形成できるが、複数の入口に挿入される複数の媒体によって形成することもできる。なおその複数の入口に導入される媒体は、同じでも異なっていてもよい。pH機能は、それぞれの側においてpH枯渇平坦部に隣接し、さらに、アノードとカソードに向かう側がそれぞれフォーカス媒体および/または安定化媒体に隣接している。
さらに、pH機能は、場合によってはpHの段差に合わせて、導電率の段差を生成させるフォーカス媒体を含むこと、またはフォーカス媒体で構成することができる。pH機能は、導電率の鋭い段差を含むことができる。これは、pH機能がフォーカス媒体としても機能できることを意味する。
この明細書では、“pH分離平坦部”は、FFEに適した装置の1つの入口に導入される1つの媒体によって主として形成されるが、当業者であれば、FFE装置の2つ以上の入口を利用してこの平坦部を作り出せることがわかるであろう。図1Bに示した分離平坦部のpHの範囲は理想的には範囲がゼロ(すなわち実質的に平坦で、枯渇させる分析物のpIに実質的に対応する一定pHを持つ)だが、典型的な範囲は、その領域に例えば周囲の分離/フォーカス媒体に依存したpHの上限と下限が含まれる(すなわち実質的に極めて平坦なpH勾配を形成する)ようなものである。
分離する分析物は、pH分離平坦部の平均pHの位置に正味の電荷がないpIを持つことになるため、電場内で移動が起こらないであろう。一般に、ある分析物のpIは、当業者に知られている手段によって知ること、または同定することができねばならない。所定の分析物のpIを決定する可能な1つの方法として、もちろん、適切なFF−IEF技術による決定が挙げられる。
必ずというわけではないが、(周囲の媒体に応じ)pH分離平坦部のカソード側ではより大きなpH値へのわずかなシフトが、アノード側ではより小さなpH値へのシフトが通常観察される。したがってpH分離平坦部のアノード側から回収される画分は酸性プールと呼ばれることがしばしばあり、pH分離平坦部のカソード側から回収される画分はアルカリ性プールと呼ばれることがしばしばある。
一般に、pH分離平坦部には、最大で0.4pH単位以下の範囲のpHが含まれる。この範囲は、0.3pH単位以下であることが好ましく、0.1単位以下であることがより好ましい。分析物がタンパク質である実施態様では、分離はタンパク質が天然の状態で行われることが好ましい。例えば天然状態のヒト血清アルブミン(HSA)の場合、サンプル中にあってHSAのpI(4.8〜4.9である)とは異なるpIを持つ他の分析物からタンパク質を分離するためには、pHの範囲は4.7〜5.0であることが望ましく、4.8〜4.9であることがさらに望ましい。
別の好ましい実施態様では、タンパク質含有サンプルは、変性条件下で(例えば尿素または従来技術で知られている適切な洗浄剤の添加によって)分離することができる。当業者であれば、所定の分析物(例えばタンパク質)のpIは、その分析物が天然の状態のときのpIとは異なっていてもよいことがわかるであろう。したがって例えばヒト血清アルブミンに関するpH分離平坦部の好ましいpHの範囲は、上に説明した天然の状態でのFFE分離とは異なることになろう。
例えば変性条件下では、HSAのpIは通常はpH6.3〜6.4である。したがってpHの範囲が約6.2〜約6.5のpH分離平坦部を形成することが望ましいが、pHの範囲は約6.3〜約6.4であることがより一層望ましい。変性条件下でのHSAの還元とアルキル化により、一般にこのタンパク質に関するpIの観測値は約6.0になる。したがって後で修飾されたHSAを分離するためのpH分離平坦部のpH範囲は、約5.9〜約6.2の間で選択することが好ましかろう。この範囲は約5.9〜約6.1であることがより好ましく、約5.9〜約6.0であることが最も好ましい。他の豊富なタンパク質に関してpHの範囲をそのタンパク質のpIに同様にして合わせねばならないことは容易にわかる。
“分離媒体”という用語は、pH分離平坦部またはpH機能に必要なpH平坦部の形成に適した媒体、またはpH勾配の形成に適した媒体を意味する。pH勾配を形成する分離媒体の導電率は、隣接するpH分離平坦部を形成する分離媒体の導電率の2倍未満でなければならず、pH分離平坦部の導電率と同様であることが好ましい。最も好ましいのは、導電率に実質的に差がないことである。pH分離平坦部に隣接するpH機能を形成する分離媒体の導電率は、そのpH分離平坦部を形成する分離媒体の導電率と同じ、またはその2倍以上、または3倍以上、または5倍以上でなければならない。本発明の実施態様による分離媒体は、二元緩衝系(A/B媒体)、市販の両性電解質(例えばセルバ社(ドイツ国)のServalyt(登録商標))、相補的マルチ−ペア緩衝系(例えばBD社(ドイツ国)のBD FFE分離用緩衝液IとII)、揮発性緩衝系からなる群から選択できるが、これだけに限定されるわけではない。緩衝系とその成分について以下にさらに詳しく説明する。
適切なさまざまな緩衝系をこの明細書で説明してあるが、MES/グリシルグリシンという緩衝系が、例えばヒト血清アルブミンを天然の状態で分離するための好ましい緩衝系である。分離する分析物(例えばアルブミン)のpIは、通常はそのタンパク質が天然の形態で存在するか変性した形態で存在するかによって異なるため、他の緩衝系(例えばHEPES/EACA(ε−アミノカプロン酸))を使用するとよい。例えばHEPES/EACAは、変性条件下でアルブミンを分離するための好ましい緩衝系である。他の可能な緩衝系として、以下に限られないが、MES/ピペリジン−3−カルボン酸、MOPSO/ピペリジン−4−カルボン酸などがある。
実施する電気泳動法のために選択する分離媒体の性質は、例えば、いくつかのタンパク質を選択的に分離し、そのことによってあるタンパク質種の効果的な枯渇を可能にする一方で、いくつかの場合には他のタンパク質種を富化するようなものにすることができる。異なるさまざまな緩衝系(および添加剤)を使用できるため、興味の対象である分析物の安定性および/または完全性を損なうことなく、異なるいろいろな分析物を本発明の方法で分離できるという利点がさらに提供される。
本発明のいくつかの実施態様では、分離は、並列モードで実施することができる。その場合、電極間安定化媒体によって分離領域を物理的に分離する必要がある。この明細書では、“電極間安定化媒体”という用語は、カソード電極間安定化媒体とアノード電極間安定化媒体という2種類の必須成分からなる媒体を意味する。アノードおよびカソードという用語の使用は、それぞれ、分離領域とアノードの間、および分離領域とカソードの間に存在することに対応して名づけた電極間安定化媒体の相対位置を意味することが容易にわかる。例えば(FFE装置のアノードからカソードに向かっての)典型的な順序は、安定化媒体、第1のpH機能またはpH勾配を形成する媒体、第1のpH分離平坦部を形成する媒体、第2のpH機能を形成する媒体、カソード電極間安定化媒体、アノード電極間安定化媒体、第3のpH機能またはpH勾配を形成する媒体、第2のpH分離平坦部を形成する媒体、第4のpH機能を形成する媒体など、そして最後に(カソード)安定化媒体になろう。したがってここに例として説明した構成では、カソード電極間安定化媒体は、アノード電極間安定化媒体よりもFFE装置の物理的なアノードに近い。
アノード電極間安定化媒体とカソード電極間安定化媒体は、一プロトン性の酸および/または一塩基性の塩基を含むことができる。当業者であれば、電極間安定化媒体の中に形成されるイオンが十分に小さな電気泳動移動度を持たねばならないことがわかるであろう。
各媒体成分は、電気泳動移動度が約40×10-9m2/V/秒以下のアニオンとカチオンを含んでいることが好ましい。この電気泳動移動度は、30×10-9m2/V/秒未満、または25×10-9m2/V/秒未満、さらには20×10-9m2/V/秒未満であることがより好ましい。アノード安定化媒体成分の例として、グルコン酸、グルクロン酸、アセチルサリチル酸、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸、いくつかの両性酸(グッドの緩衝液として知られている)からなる群から選択された酸が挙げられる。カソード安定化媒体成分の例として、N−メチル−D−グルコサミン、トリ−イソプロパノールアミン、2−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオールからなる群から選択された塩基が挙げられる。
本発明の実施態様では、電極間安定領域は、電極間安定化媒体の2つの成分をFFE装置中の複数の分離領域の間に導入することによって確立される。図7に、アノードとカソードを有するFFE装置の2つの分離領域の間に電極間安定領域を配置することによって2つの異なる分離領域が形成された一実施態様を示してある。図7からわかるように、第1のDSE分離領域のpH分離平坦部は、第2の分離領域のpH分離平坦部とpH値が同じでも異なっていてもよい。したがって、独立したサンプル入口を通じて独立したサンプルを輸送し(各サンプルは、2つ(またはそれ以上)の分離領域のうちの1つに導入される)、一対の電極だけを用いて同時に複数の分画化プロトコルまたは分離プロトコルを実施することが可能である。サンプル入口は、FFE装置の媒体入口とは独立に配置することができ、媒体入口から下流に位置することがしばしばある(例えば図1Aと図4A参照)。さらに、サンプル入口は、FFE装置のアノードとカソードに挟まれた任意の所望する位置に配置することができる。
一般に、電極間安定化媒体の導電率は、その電極間安定化媒体に隣接する第1と第2の分離領域または分画化領域の導電率よりも大きいため、分離領域の間でイオン種がクロスオーバーすることと、アノード電極間安定化媒体およびカソード電極間安定化媒体のアニオン種とカチオン種が隣接する分離領域に入ってクロスオーバーすることが回避される。
この明細書では、“フォーカス媒体”は、アノード・フォーカス媒体に関しては酸を、カソード・フォーカス媒体に関しては塩基を含んでいて、隣接するpH機能、pH勾配、またはpH分離平坦部に対して導電率の段差を形成する媒体を意味する。このフォーカス媒体がフォーカス領域を形成し、そこではアノードまたはカソードに向かう分析物の運動が導電率の段差のために低下して実質的にゼロになる。酸と塩基の濃度は、そのフォーカス媒体の導電率が、隣接するpH分離平坦部、pH勾配、またはpH機能の導電率の好ましくは少なくとも2倍(少なくとも3倍、少なくとも5倍、またはそれ以上であることがより好ましい)の大きさになるのに十分なように選択する。媒体の導電率の突然の上昇は、分離する分析物のpIとは異なるpIを持つ分析物を、導電率の値が異なる2つの媒体の境界に位置するpH分離平坦部に蓄積させる上で有用である。というのも、アノードまたはカソードに移動する分析物の移動度は、それぞれ実質的にゼロに低下するからである。
アノード・フォーカス媒体中の酸のpKa値は、隣接するpH機能、pH勾配、またはpH分離平坦部で用いる酸のpKa値よりも小さくなるように選択する(すなわちアノード・フォーカス媒体ではより強い酸を選択する)。本発明のいくつかの実施態様では、pKaの差は約1pH単位よりも大きい。この差は、約2pH単位よりも大きいことが好ましく、約3pH単位よりも大きいことが最も好ましい。導電率を上昇させる酸として用いるのに適した例は、硫酸、ピリジンエタンスルホン酸、塩酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、およびギ酸からなる群から選択されるが、これだけに限られるわけではない。アノード・フォーカス媒体は、導電率の上昇にとって重要な酸に加え、隣接するpH機能、pH勾配、またはpH分離平坦部を形成する緩衝化合物、および/またはそのフォーカス媒体のpHを調節する弱酸を含むことができる。弱塩基は、隣接するpH機能、pH勾配、またはpH分離平坦部で用いる塩基のpKaよりも小さなpKaを持つと理解すべきである。適切な弱塩基の例は、例えば、タウリン、グリシン、2−アミノ−ブチル酸、グリシルグリシン、β−アラニン、GABA、EACA、クレアチニン、ピリジン−エタノール、ピリジン−プロパノール、ヒスチジン、BISTRIS、モルホリノエタノール、トリエタノールアミン、TRIS、アメジオール、ベンジルアミン、ジエチルアミノエタノール、トリアルキルアミンなどであり、これらは上に説明したpKaの基準に従って選択される。
同じ原理が、必要に応じた変更を加えた上で、カソード・フォーカス媒体に含まれる塩基の選択基準に対しても適用される。したがってカソード・フォーカス媒体に含まれる塩基のpKa値は、隣接するpH機能、pH勾配、またはpH分離平坦部で用いる塩基のpKa値よりも大きくなるように選択される(すなわちカソード・フォーカス媒体ではより強い塩基を選択する)。本発明のいくつかの実施態様では、pKaの差は約1pH単位よりも大きい。この差は、約2pH単位よりも大きいことが好ましく、約3pH単位よりも大きいことが最も好ましい。導電率を上昇させる塩基として用いるのに適した例は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物(例えば水酸化ナトリウム)、3−モルホリノ−2−ヒドロキシ−プロパンスルホン酸、トリスなどからなる群から選択されるが、これだけに限られるわけではない。カソード・フォーカス媒体は、導電率の上昇にとって重要な塩基に加え、隣接するpH機能、pH勾配、またはpH分離平坦部を形成する緩衝化合物、および/またはそのフォーカス媒体のpHを調節する弱酸を含むことができる。弱酸は、隣接するpH機能、pH勾配、またはpH分離平坦部で用いられる酸のpKaよりも大きなpKaを持つと理解すべきである。適切な弱酸の例は、例えばHIBA、酢酸、ピコリン酸、PES、MES、ACES、MOPS、MOPSO、HEPES、EPPS、TAPS、タウリン、AMPSO、CAPSO、α−アラニン、β−アラニン、GABA、EACA、4−ヒドロキシピリジン、2−ヒドロキシピリジンなどであり、これらは上に説明したpKaの基準に従って選択される。
本発明の実施態様のフォーカス媒体は、導電率が大きいことと組成のため、安定化媒体として機能することもできる。
本発明の方法で用いられる“安定化媒体”は、同時係属中のアメリカ合衆国仮出願USSN 60/885,792(その開示内容は参考としてその全体がこの明細書に組み込まれているものとする)に記載されている。安定化媒体は、例えば適切な二元緩衝系(ここでは“A/B媒体”と呼ぶ)によって形成される分離領域内で条件を安定させるのに有用かつ適している。したがって適切な安定化媒体は、分離領域にイオンを供給したり分離領域内のイオンを交換したりする“リザーバ”としても機能する。
本発明の実施態様によれば、安定化媒体は、以下選択する基準に合うように設計することが好ましい。カソード安定化媒体(CSM)に含まれる緩衝酸のpKaは、サンプル中で最も塩基性の分析物(すなわちpIが最大の分析物)のpI値よりも大きくなければならない。同様に、アノード安定化媒体(ASM)に含まれる緩衝塩基のpKaは、サンプル中で最も酸性の分析物のpI値よりも小さくなければならない。
適切な安定化媒体は、1種類だけの緩衝酸(CSM)または1種類だけの緩衝塩基(ASM)で設計できるが、安定化媒体は、それぞれ2種類以上の緩衝酸(CSM)または緩衝塩基(ASM)を含んでいてもよい。いくつかの実施態様では、2種類、ときには3種類以上の緩衝化合物がそれぞれCSMとASMの中に存在していてもよいが、媒体の組成はもちろんできるだけ簡単にすることが一般に好ましい。
いくつかの実施態様では、CSMに含まれる各緩衝酸のpKaは、(pI+0.3)<pKa<(pI+3)の範囲内でなければならない。この範囲は、(pI+0.5)<pKa<(pI+2)であることが好ましく、(pI+0.5)<pKa<(pI+1.3)であることが最も好ましい。同様に、ASMに含まれる各緩衝塩基のpKaは、(pI−3)<pKa<(pI−0.3)の範囲内でなければならない。この範囲は、(pI−2)<pKa<(pI−0.5)であることが好ましく、(pI−1.3)<pKa<(pI−0.5)であることが最も好ましい。
あるいはCSMに含まれる緩衝酸とASMに含まれる緩衝塩基のpKa値は、分離媒体のpHの範囲(すなわちpHの最小値と最大値)との関係で定義することもできる。分離媒体のpHの範囲に基づいた定義は、分析物のpIに関係する定義の代わりに用いること、またはその定義と組み合わせて用いることができる。したがって本発明の安定化媒体に関係するいくつかの実施態様では、CSMに含まれる各緩衝酸のpKa値は、分離媒体のpHの最大値よりも大きくなろう。同様に、ASMに含まれる各緩衝塩基のpKa値は、IEF分離媒体のpHの最小値よりも小さくなろう。
好ましいいくつかの実施態様では、CSMに含まれる各緩衝酸のpKa値は、(pH最大+0.3)<pKa<(pH最大+3)の範囲内である。この範囲は、(pH最大+0.5)<pKa<(pH最大+2)であることが好ましく、(pH最大+0.5)<pKa<(pH最大+1.3)であることが最も好ましい。ASMに含まれる各緩衝塩基のpKaは、(pH最小−3)<pKa<(pH最小−0.3)の範囲内である。この範囲は、(pH最小−2)<pKa<(pH最小−0.5)であることが好ましく、(pH最小−1.3)<pKa<(pH最小−0.5)であることが最も好ましい。
2種類以上の緩衝酸(CSM)または緩衝塩基(ASM)が存在している場合には、追加の緩衝化合物は、上記の範囲内で異なるpKa値を持つように、選択しなければならない。好ましい実施態様では、CSMに含まれるより弱い緩衝酸とASMに含まれるより弱い緩衝塩基の濃度は、それぞれ最強の緩衝酸(CSM)と最強の緩衝塩基(ASM)(すなわち、CSMに関しては最も塩基性の分析物のpIに最も近いpKaを持つ緩衝酸、ASMに関しては最も酸性の分析物のpIに最も近いpKaを持つ緩衝塩基)の濃度よりも大きくなければならない。
この点に関し、より大きな濃度とは、より弱い酸とより弱い塩基の濃度が、CSMとASMにそれぞれ含まれる最強の緩衝酸/塩基の濃度の少なくとも1.1倍になっていること、好ましくは少なくとも約2倍になっていること、より好ましくは少なくとも約3倍になっていること、そしてときには約4倍、約5倍、さらには約10倍になっていることを意味する。
それに加え、安定化媒体は、1種類以上の緩衝塩基(CSM)と緩衝酸(ASM)も含むことができる。ただし、CSMに含まれるすべての塩基の合計濃度は、それぞれの緩衝酸を合計した濃度よりも小さく、ASMに含まれるすべての酸の濃度は、それぞれの緩衝塩基を合計した濃度よりも小さい。
CSMのpHは、通常は、分離媒体の最大のpH(カソードに向かうpH勾配の端点)よりも大きい。CSMのpHは、分離媒体の最大のpHよりも約3pH単位以上大きくはないことが好ましく、約2pH単位以上大きくはないことがより好ましい。特に、平坦なpH勾配と超平坦なpH勾配に関しては、pHの差を最小に維持すること(すなわち、例えばpHは分離媒体の最大のpHよりも1.5pH単位または1pH単位しか大きくないこと)が特に好ましい。同様に、ASMのpHは、IEF分離媒体の最大のpHよりも約3pH単位以上小さくはないことが好ましく、約2pH単位以上小さくはないことがより好ましい。平坦なpH勾配と超平坦なpH勾配に関しては、pHの差を最小に維持すること(すなわち、例えばpHはIEF分離媒体の最小のpHよりも1.5pH単位または1pH単位しか小さくないこと)が特に好ましい。
当業者であれば、安定化媒体で観察されるpH値が全範囲で(特に電極に近づくときに)一定でなくてもよいことがわかるであろう。そのため安定化媒体のpHに言及する場合にはいつでも、安定化媒体と分離媒体の境界またはその近くのpHとして理解すべきである。さらに、安定化媒体に含まれる緩衝化合物が何であるかが、分離媒体中のpH条件に影響を与えることもわかるであろう。実際、成分の選択とその濃度が、電気泳動の間に電場を印加したときに実現するpH勾配を決定することになる。したがってpHの値に言及することは、一般に、平衡条件での(すなわち勾配が形成された後の)pHを一般に意味し、ある条件下で上記の好ましい値からずれることがあっても本発明の精神から外れることはない。
装置とその要素
図1Aと図4Aに、分離チェンバー内の2つの電極間を流れる分離媒体に含まれていて正味の電荷および/または等電点によって分離できる種を分離するための本発明の実施態様による装置を示してある。この電気泳動装置は、第1の(下方の)壁と、第2の(上方の)壁と、2つの側壁と、平行に重ねた2つの平らなプレート(図示せず)とを有する長方形の分離チェンバーを備えている。これらの要素が合わさって、密封された分離チェンバーを形成している。高電位の電場の発生が可能なように設計された2つの電極がこの分離チェンバーの中に配置されていて、分離空間を規定しやすくしている。この分離空間は、一般に、これら電極間に位置する領域の一部である。電極は、電極チェンバーとして具現化されることが好ましい。電極チェンバーの中を電極緩衝液が電流供給線と接触することによって流れる。電極チェンバーは、分離チェンバーの隣に位置する半透過性の膜を備えることが好ましい。電極緩衝液は、別々の供給ライン(図1Aと図4Aでは一部しか見えない)によって電極チェンバーに供給され、別々の出口を通ってこれらの電極チェンバーから出ていく。追加のポンプ装置(図示せず)を用いて電極緩衝液を循環させ、必要な場合にはサーモスタットを用いてその電極緩衝液を冷却することが好ましい。
分離チェンバーは、第1の端部の位置、またはその近く(すなわちその近傍)に、サンプルを注入するための少なくとも1つのサンプル入口と、分離媒体を注入するための少なくとも1つの分離媒体入口を備えている。複数の入口がある場合には、2種類以上の分離媒体を供給することができる。第2の端部の近傍には、複数のサンプル回収出口と、場合によっては1つ以上の向流媒体入口が位置している。回収出口と向流媒体入口の両方とも、(2つ以上存在する場合には)、一般に流れの方向に垂直な線に沿って配置される。本発明のいくつかの実施態様では、回収出口だけが第2の端部に存在する。しかし別の実施態様では、回収出口と向流媒体入口の両方が第2の端部に存在する。
個々の分析物が複数の回収出口を通って分離チェンバーから出ていき、一般に、個々のチューブを通って適切な任意のタイプの個々の回収容器へと導かれる。回収容器には、分析物に加えて分離媒体と向流媒体が回収される。回収出口アレイの個々の回収出口間の距離は、適切な分画/分離を行なうため一般にできるだけ小さくすべきである。個々の回収出口間の距離は、回収出口群の中心から測定して約0.1mm〜約2mmにすることができる。この距離のより典型的な値は、約0.3mm〜約1.5mmである。
さまざまな実施態様では、分離媒体入口の数は装置の設計によって制限され、媒体入口に関して選択した数に応じ、実際には例えば1〜7、1〜9、1〜15、1〜40、またはそれ以上になる。サンプル入口の数は、例えば1〜36、1〜11、1〜5、1〜4、さらには1〜3にされるのに対し、回収出口の数は、例えば3〜384、または3〜96にされる。しかし分離装置に合わせて適切な任意の数を選択することができる。向流媒体入口の数は、一般に、例えば2〜9、または3〜7である。設ける入口と出口の数は、一般に、分離装置と分離空間の形状とサイズに依存する。したがって分離媒体の入口と出口を異なる数にすることも可能である。
図1Aと図4Aでは、分離媒体は、両方の電極の間を電極の長さ方向に沿って(大きな矢印)層になって流れる(傾斜した、または平坦な分離チェンバーの中を底部から上に向かうことが好ましい)。いくつかの実施態様では、分離媒体は、出口の近くでその分離媒体の向流(小さな矢印)によって減速され、分離チェンバーから複数の画分となって出口を通って出ていく。例えば分離するタンパク質のサンプルがサンプル入口から分離媒体の中に導入され、層流になったその分離媒体によって輸送される。連続動作条件下で動作させるときには、そのタンパク質混合物は電気泳動によって連続的に分離され、電極間の分離媒体の中に発生する電場によって分離緩衝液とサンプルに生じる性質に応じ、異なる画分となって回収される。バッチ動作モードまたは不連続動作モードで動作させるときには、サンプルは、電気泳動プロセスの性質と必要性に応じて調節できる可変サイズのチェンバーを用いて別個の画分として回収できる。
FFE装置の中でサンプルと分離媒体の導電率の差が大きくならないように、サンプル入口を通じて本発明の実施態様によるFFE装置の分離領域に導入する前に、サンプルの希釈が必要な場合がある。サンプルは水または分離媒体で希釈するとよい。その分離媒体は、FFE装置のサンプル入口を通じて中にサンプルを導入することになる分離媒体と同じか、少なくとも似ていることが好ましい。本発明の実施態様を実施するのに利用できる典型的な希釈度は、約1:10にすることができる。場合によっては、希釈因子は、想定する分離領域の外に豊富なタンパク質が漏れ出さないよう、分離領域内で豊富なタンパク質を蓄積させるのに利用できる能力や空間に応じ、1:10よりも大きく(例えば1:15、1:20など)することができる。DFE法またはDSE法(あとでより詳しく説明する)を適用するサンプルに豊富なタンパク質が存在していない場合には、1:10未満(例えば1:5、1:2、1:1、2:1など)に希釈することが可能である。これは、例えば枯渇カラムを用いて豊富なタンパク質を枯渇させた後にサンプルに本発明の電気泳動分離法を実施する場合に当てはまる。しかしサンプルは、一般に、分離の特定環境下でできるだけ濃縮された状態でFFE装置に注入すべきである。
希釈は、FFE装置の媒体入口のうちの1つにサンプルを注入することによって実現できる。あるいは希釈は、媒体入口ではないサンプル入口(例えば、媒体入口の入口から下流にサンプル出口の方向に向けて配置されたサンプル入口)にサンプルを注入することによっても実現でき、サンプルをサンプル入口に導入する前に、サンプルを適当な媒体と混合することによって行なうこともできる。
上記のことから、本発明の別の1つの特徴は、この明細書に記載したFFE分離法を実施するのに適した、この明細書に記載したFFE装置に関する。
適切な緩衝系
本発明の実施態様によるpH機能プロファイルを形成するのにいくつかの緩衝系が役立つ。緩衝系は、市販の両性電解質(例えばセルバ・エレクトロフォレシス社(ドイツ国)がServalyt(登録商標)の名称で販売しているもの)、相補的マルチ−ペア緩衝系(例えばBD社(ドイツ国)が販売しているBD FFE分離用緩衝液1と2)、揮発性緩衝系、A/B媒体として知られる二元緩衝系からなる群から選択できるが、これだけに限られるわけではない。
相補的マルチ−ペア緩衝系
本発明のいくつかの実施態様では、pH勾配を発生させるのに用いる混合物は、その混合物の中を電流が流れるときにその混合物によって滑らかなpHの勾配が提供されるように、注意深く組み合わせた酸と塩基からなっていてもよい。市販されている高分子量の両性電解質と比べて緩衝能力を大きくできる低分子量の有機酸と有機塩基の混合物が選択される。注意深く組み合わせた酸と塩基からなるこの混合物は、分子量、pI、純度、毒性に関する特徴が極めてよくわかっている。一般に、その酸と塩基は、市販の両性電解質よりも分子量が小さい。適切な相補的マルチ−ペア緩衝系は従来技術で知られている。特に、pHの範囲が3〜5の混合物がBD社(ドイツ国)からBD FFE分離用緩衝液1として販売されており、pHの範囲が5〜8の混合物がBD FFE分離用緩衝液2として販売されている。これらの緩衝系は、例えば一般的な形態がアメリカ合衆国特許出願公開2004/0101973(その開示内容は参考としてその全体がこの明細書に組み込まれているものとする)に記載されている。上に説明した相補的なマルチ−ペア緩衝系をこの明細書では“CMPBS”または“CMPBS媒体”と呼ぶ。
揮発性緩衝系
本発明の別の実施態様では、揮発性緩衝系を用いると、本発明の実施態様によるpH勾配を形成するためのいくつかの入口を利用し、pH分離平坦部と、pH機能およびpH勾配の中のpH平坦部とを形成することができる。このような緩衝系は、FFE分離ステップの後に回収された分画化されたサンプルから残留物なしで除去できるという特別な利点を有する。
本発明の実施態様による揮発性分離媒体は、緩衝系を含むそのまま使用できる形態の組成物(水性組成物が好ましい)であり、その緩衝系には少なくとも1種類の緩衝酸と少なくとも1種類の緩衝塩基が含まれていて、その緩衝化合物がすべて揮発性であると理解すべきである。場合によっては、その緩衝化合物のうちの少なくとも1つが、質量分析の用途、その中でも特にMALDIの用途のための(揮発性)マトリックスとして機能することができる。
この明細書の緩衝化合物との関係で用いられる“揮発性”という用語は、適切な条件下で水性サンプルから緩衝化合物を完全に除去できる(すなわち残留化合物(例えば塩)をまったく残さずに、すなわち残留物がない状態で、緩衝化合物を蒸発させることができる)緩衝化合物の能力を意味すると理解すべきである。本発明の実施態様による揮発性緩衝化合物は、最も広い意味では、減圧された大気圧、上昇した温度、照射によるエネルギー供給(例えばUV光、レーザー光)などや、これらの任意の組み合わせからなる群から選択した条件下で残留物を残さずに除去することができる。しかし揮発性緩衝化合物は、FFE動作条件(すなわち、上に説明したように大気圧かつ一般に0〜40℃の温度範囲)下で実質的に不揮発性でなければならない。
この文脈における本発明の一実施態様において、当業者は、揮発性緩衝化合物を含むサンプルに存在する分析物が上記の条件下で不揮発性である(すなわち分析物が(例えば断片化や酸化によって)実質的に変化せず、溶液中にまたは固体状態で留まる)ことがわかるであろう。いくつかの実施態様では、特に質量分析が動作している条件下で、分析物は揮発性であり、(MSによる検出で必要とされる)イオン化が可能である。
この明細書では、“FFE動作条件下で不揮発性である”という表現は、動作条件下かつFFEの分離期間中に緩衝化合物が揮発して分離媒体中で低下する各緩衝化合物の濃度が5%w/v未満(2%w/v未満が好ましい)であることを意味する。最も好ましいのは、動作条件下かつFFEの分離期間中に濃度の低下がまったく観察されないことである。
本発明の意味での“残留物がない”という表現は、揮発性化合物そのものは完全に蒸発するが、例えば使用した物質中の不純物による残留物が不揮発である可能性があると理解すべきである。しかし分析を目的とする場合には、入手できる最高純度の化合物だけを使用すべきであることが当業者によく知られており、それは特に質量分析に当てはまる。
この明細書では、“蒸発”による溶媒と緩衝化合物の除去は、化合物を気相にした後、その気相を適切な手段で除去することにより、興味の対象である分析物から除去することを意味すると理解すべきである。したがってこの明細書で定義する蒸発は、緩衝液の交換(“脱塩”と呼ばれることもある)と一般に呼ばれている技術(例えばカラム・クロマトグラフィ法、透析法、カット−オフ濾過法)や、固相抽出または分析物の沈澱として知られる技術による緩衝化合物の除去とは異なる。あるいは蒸発という用語に含まれないいくつかの応用では、塩の形態で存在する緩衝化合物は水で簡単に洗い流されるが、このようにすると望ましくないことにサンプル材料が明らかに失われることに加え、除去される緩衝化合物の量がはっきりしない。当業者であれば、この明細書で定義した揮発性緩衝化合物は、少なくとも原則として、そのような緩衝液交換技術や固相抽出技術によっても除去できるが、この場合にはもちろん緩衝液の揮発性による明らかな利点が失われ(緩衝液交換技術に関係する潜在的な問題点(例えば取り扱いが難しく、サンプルの回収が少ないこと)の観点から意味を成さないことがわかるであろう。
FFE分離ステップで回収されたサンプルから溶媒と揮発性緩衝化合物を蒸発によって除去するための適切な技術の例として、適切な装置(例えばSpeedVac(登録商標)の名称で知られる遠心分離蒸発器または真空遠心分離機)を用いた真空遠心分離や、水性サンプルの凍結乾燥または(穏やかな)加熱があるが、これだけに限られるわけではない。溶媒と揮発性緩衝化合物を蒸発させるための別の可能性として、サンプルを減圧条件にする(例えば質量分析で用いる標的プレートの上にサンプルを置いて真空にする)ことによる蒸発が挙げられる。当業者であれば、たいていの質量分析法は真空条件下で動作するため(例えば真空MALDI)、サンプルをMS装置に導入した後かつイオン化前に揮発性緩衝化合物が容易に除去されることがわかるであろう。
揮発性緩衝化合物は、減圧および/または高温の条件下で除去できることが好ましい。さらに、他の実施態様では、特に揮発性緩衝化合物を含むサンプルが(例えば質量分析のために)少量存在しているのであれば、その揮発性緩衝化合物を周囲温度かつ大気圧の条件下で蒸発させることさえできる。しかしたいていの場合、少なくともいくつかの緩衝溶液はこのような条件で容易に蒸発しない。さらに別の実施態様では、揮発性緩衝化合物は、より厳しい条件(例えば質量分析が動作している条件下で真空および/または高温に加え、場合によっては照射を行なう条件)下でだけ除去することができる。
本発明のいくつかの実施態様では、FFE分離媒体は揮発性緩衝化合物を含んでおり、そのうちの少なくとも1つの揮発性緩衝化合物は、質量分析のための(揮発性)マトリックスとして機能する。すなわちその化合物は、質量分析が動作している条件下でだけ除去できる。
揮発性緩衝系の例として、以下に限られないが、TRIS/酢酸の組み合わせ、ジエタノールアミン/ピコリン酸の組み合わせ、ジメチルアミノプロプリオニトリル(dimethylaminoproprionitril)/酢酸の組み合わせ、2−ピリジンエタノール/ピコリン酸の組み合わせ、ベンジルアミン/2−ヒドロキシピリジンの組み合わせ、トリ−n−プロピルアミン/トリフルオロエタノールの組み合わせなどが挙げられる。
二元緩衝系(A/B媒体)
以下に規定する二元緩衝系をこの明細書では“A/B媒体”と呼ぶ。この二元緩衝系は、本発明の各実施態様にとって一般に有用である。分離媒体は、少なくとも1種類の緩衝酸と、少なくとも1種類の緩衝塩基を含んでいる。ただしその緩衝酸のpKa値は分離媒体のpHよりも大きく、その緩衝塩基のpKa値は分離媒体のpHよりも小さい。言い換えるならば、その緩衝酸のpKa値はその緩衝塩基のpKa値よりも大きい。
分離媒体が示すpHプロファイルは、本質的に直線であってよい(すなわち電気泳動による分離の間を通じてpHの大きな段差がない)。使用する安定化媒体と、緩衝酸と緩衝塩基のpKaの差とに応じ、本発明のこの特徴によるA/B分離媒体は、分離チェンバー内で実質的に一定の(すなわち平坦な)pHプロファイルを示すか、比較的緩やかな/平坦なpH勾配を示す。分離チェンバー内で電極間に実質的に一定のpHである領域を提供するこの分離媒体は、この明細書に説明した方法に従ってpH分離平坦部を作り出す上で特に有用であることがわかるであろう。しかしA/B媒体は平坦なpH勾配または超平坦なpH勾配も形成できるため、この明細書で明らかにしたようなpH機能またはpH勾配を作り出すのにも使用できる。
本発明の上記の特徴において少なくとも1種類の緩衝酸と少なくとも1種類の緩衝塩基を用いるA/B媒体は、その少なくとも1種類の緩衝酸とその少なくとも1種類の緩衝塩基のpKaの差が約0.5〜4pH単位であることを特徴とする。ただし上に説明したように、その酸のpKaは、その塩基のpKaよりも大きくなければならない。好ましい実施態様では、ΔpKaは1.2〜1.8である。この値は、FFE装置の分離チェンバー内で一定のpHを持つpH分離平坦部にとって特に有用である。別の好ましい実施態様では、ΔpKaは約2.5〜3.3である。この値は、平坦なpH勾配に特に適している。
A/B媒体の1つの特徴は、その媒体の導電率が比較的小さいことである。しかし導電率は、妥当な時間内に分析物を許容できる程度に分離するのに十分な大きさでなければならないことがわかるであろう。したがってA/B媒体の導電率は一般に50〜1000μS/cm(50〜500μS/cmであることが好ましい)。しかし当業者であれば、分離媒体中の正確な導電率は、もちろん、分離/分画化の特徴と、媒体中の帯電した他の種(例えばサンプル/分析物の安定化に必要なイオン)の存在と、分析物の電気化学的性質とに依存することがわかるであろう。
A/B媒体は、1種類の緩衝酸と1種類の緩衝塩基だけを含んでいることが好ましい。言い換えるならば、このような分離媒体は、1つの化合物の1つの酸機能と、同じ化合物または異なる化合物の1つの塩基機能が、所望のpHプロファイルと導電率プロファイルを持つ分離媒体を確立するのに実質的に役立つ二元媒体である。優れた結果は、分離媒体中に2種類以上の緩衝酸と緩衝塩基を用いても実現できるが、一般に、できるだけ少ない成分を用いることが有利である。それは、準備がより容易でおそらくは安価であるだけでなく、分離チェンバーの中に存在する帯電した種の数が増えると媒体の電気化学的性質がより複雑になるからである。
A/B媒体という考え方は、同時係属中のアメリカ合衆国仮出願USSN 60/885,792(その開示内容は参考としてその全体がこの明細書に組み込まれているものとする)に詳しく記載されている。この文脈における適切な緩衝塩基は、例えばタウリン、グリシン、2−アミノ−ブチル酸、グリシルグリシン、β−アラニン、GABA、EACA、クレアチニン、ピリジン−エタノール、ピリジン−プロパノール、ヒスチジン、BISTRIS、モルホリノエタノール、トリエタノールアミン、TRIS、アメジオール、ベンジルアミン、ジエチルアミノエタノール、トリアルキルアミンなどである。適切な緩衝酸は、例えばHIBA、酢酸、ピコリン酸、PES、MES、ACES、MOPS、HEPES、EPPS、TAPS、AMPSO、CAPSO、α−アラニン、GABA、EACA、4−ヒドロキシピリジン、2−ヒドロキシピリジンなどである。ただし、緩衝酸と緩衝塩基の間では、上に説明したpKaの関係が満たされている。
さらに、本発明の方法では、FFEによって分析物を分離するための例えばアメリカ合衆国特許第5,447,612号に開示されている二元緩衝系も利用することができる。この二元媒体は、0.4〜1.25pH単位の間で比較的平坦なpH勾配を形成するのに適している。
添加剤
本発明の分離媒体は、1種類以上の添加剤をさらに含んでいてもよい。本発明の実施態様による添加剤は、緩衝酸と緩衝塩基によって提供される緩衝能力に寄与しない(または少なくとも大きくは寄与しない)化合物またはイオンである。一般に、添加剤の数と濃度は最小に維持する必要があるが、分析物または分離によっては、分析物を完全な状態に維持するため、または媒体が所望の性質(例えば変性条件、さまざまな分離媒体間の粘性の適合性など)を持つようにするために追加の化合物が存在している必要がある。
可能な添加剤は、他の酸および/または塩基、いわゆる“本質的に”1価と2価のアニオンとカチオン、粘性増大剤、洗浄剤、タンパク質可溶剤、アフィニティ・リガンド、還元剤などの中から選択することが好ましい。
上の説明から明らかなように、他の酸または塩基が本発明の分離媒体の中に存在していてもよいが、その酸または塩基のpKaは、溶液の緩衝能力に寄与することを避けるため、分離媒体のpHまたはpH範囲から十分に離れている(しかしその酸または塩基は、もちろん媒体の導電率には寄与してもよい)。可能な酸および塩基の例として、溶液中で完全に解離する少量の強酸または強塩基(例えばNaOH、HClなど)、または媒体中で実質的に解離しない(すなわち媒体のpHから約4単位以上離れたpKaを持つ)種として存在する非常に弱い酸または塩基がある。
本出願の意味での不可欠な1価と2価のアニオンとカチオンは、サンプル中の分析物の構造および/または機能の完全性を維持するのに必要とされる可能性のあるイオンである。そのような不可欠なアニオンおよびカチオンとして、以下に限られないが、マグネシウム・イオン、カルシウム・イオン、亜鉛イオン、Fe(II)イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、錯化剤(EDTA、EGTA)、(例えば細菌による汚染を避けるための)アジド・イオンなどがある。
分離媒体で一般に使用される粘性増大剤として、ポリアルコール(例えばグリセロールやさまざまなPEG)、親水性ポリマー(例えばHPMCなど)、炭水化物(例えばスクロース、ヒアルロン酸など)を挙げることができる。粘性増大剤は、サンプルと媒体の間、または隣り合った異なる媒体間の密度または粘性の差によって生じる乱れを避けるために、分離媒体の粘性を、分離空間に導入されるサンプルの粘性に適合させる、あるいは分離チェンバー内の他の分離媒体および/または安定化媒体の粘性に適合させるのに必要な場合がある。
存在しうる別の添加剤として、キラル選択剤(例えばいくつかのデキストリンがあり、その例はシクロデキストリンなどである)、アフィニティ・リガンド(例えばレクチンなど)がある。さらに、当業者には多くの適切な洗浄剤が知られている。それは例えば、SDS、界面活性剤(例えば脂肪アルコール、オクチルグルコシド、Tween(登録商標)として知られるポリソルベート)などである。タンパク質可溶化剤の例として、尿素またはチオ尿素があるが、界面活性剤や洗浄剤も可能である。
別の好ましい実施態様では、分析物(例えばアルブミン)の分離が変性条件下で実施される。好ましい変性剤は、尿素、チオ尿素、または従来技術で知られている他の適切な洗浄剤である。尿素の濃度は一般に約5Mである。濃度は6Mであることがより好ましく、8M以上であることが最も好ましい。
還元剤を添加して溶液中の分析物の酸化を防止せねばならない場合がある。サンプルおよび/または分離媒体に添加できる適切な還元剤として、メルカプトエタノール、メルカプトプロパノール、ジチオトレイトール(DTT)、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウムなどがある。
いずれの場合にも、上記の添加剤の多くは帯電しているため、その濃度は、必要なだけ大きく維持する一方で、分離媒体の導電率を所望の(低い)範囲に維持するためにできるだけ低くする必要がある。
例えば下流での分析法(例えばMALDI(/MS))との関係で、この明細書に記載した揮発性媒体を使用する場合には添加剤を避けるべきであることに注意されたい。なぜならたいていの添加剤は揮発性でないためにサンプル中に留まり、その結果としてその後のMS分析の邪魔になる可能性があるからである。
フリー・フロー等電点電気泳動(FF−IEF)
等電点電気泳動(IEF)(エレクトロフォーカシングとしても知られる)は、異なる分子をその正味の電荷の違いによって分離する技術である。この技術は、フリー・フロー電気泳動条件下でうまく実施することができる。これは、分子の電荷がその周囲のpHに合わせて変化するという事実を利用した電気泳動の一種である。IEFには、pH勾配またはpH機能を含むか含むようにできる分離媒体の中を、混合物を通過させる操作が含まれる。分離チェンバーは、アノード側が相対的に小さなpHであり、カソード側が相対的に大きなpHである。その両方の側の間で作り出されるpH勾配プロファイルまたはpH機能プロファイルが形成され、電気泳動による問題の分析物の運動が支配される。ある分子の等電点(pI)では、その分子の正味の電荷がゼロであるため、分離チェンバーの中でそれ以上の運動は観察されない。
アノード近くの酸性条件下で正の正味電荷を持つ帯電した各分析物は、アノードから遠ざかるであろう。その分析物がIEFシステムのチェンバーの中を移動するとき、より大きなpHを持つ領域に入り、正電荷が減少していく。各分析物は、個々の等電点に到達したとき、その特定のpHにおいてもはや正味の電荷を持たないために運動を停止する。したがってカソード近くの塩基性条件下で負の正味電荷を持つ分析物はカソードから遠ざかる。その分析物がIEFシステムのチェンバーの中を移動するとき、より小さなpHを持つ領域に入り、負電荷が減少していく。各分析物は、個々の等電点に到達したとき、その特定のpHにおいてもはや正味の電荷を持たないために運動を停止する。このようにすることで、さまざまな分析物が、異なるpIのために効果的に分離される。興味の対象である分離された分子は、さまざまな手段でIEF装置から取り出すこと、または染色したり他の方法で特徴づけたりすることができる。
分析物の混合物を含むサンプルから分析物を分離する、または単離する、または枯渇させるための本発明のFFE法は、さまざまなモード(例えば連続モード、インターバル・モード、サイクリック・インターバル・モード)で実施することができる。
“連続モード”の用途では、サンプル溶液をチェンバーの中に連続的に注入し、そのことによって分析物(特にタンパク質)を分離媒体の連続流のもとで分離プロセス全体を通じて電場を中断することなく印加して分離する。この電気泳動による分離の後、分析物の一部または全部を連続的に回収することができる。
FFEの文脈における連続モードは、注入ステップと分離ステップが連続的かつ同時に起こることを意味すると理解すべきである。電気泳動による分離は、媒体と分析物が電気泳動チェンバーの中を通過する間に起こり、異なる種が、そのpI(IEF)、正味の電荷密度(ZE)、電気泳動移動度(ITP)に従って分離される。連続モードFFEにより、何回かの独立した“試行”(1回の試行は、サンプルの注入、分離、その後の回収および/または検出という一連の操作であると理解される)を行なう必要なしに分析物を連続的に注入し、回収することができる。
連続モードFFEには、分析物が電極間の分離空間を通過するときに分離時間を長くするため、バルクの流速を初期のバルクの流速よりも小さくする(がゼロではない)分離技術が含まれることがわかるであろう。しかしこの場合には、真の連続モードとはもはや言えない。なぜならバルクの流速の低下は、限られた量のサンプルについてのみ意味を成すからである。
FFEの用途に関していわゆる“インターバル・モード”として知られる別のFFE動作モードも従来技術で報告されている。例えば不連続(すなわちインターバル)偏向電気泳動法が、アメリカ合衆国特許第6,328,868号(その開示内容は参考としてその全体がこの明細書に組み込まれているものとする)に示されている。この特許文献では、サンプルと分離媒体の両方が電気泳動チェンバーに導入された後、電気泳動モード(例えばゾーン電気泳動、等速電気泳動、等電点電気泳動)を利用して分離され、最後にチェンバーから画分出口を通って追い出される。'868号特許の実施態様には、分離媒体とサンプルの運動が一方向であり、チェンバーの入口から出口に向かって移動することが記載されている。この方向は、伝統的なキャピラリー電気泳動とは異なり、細長い電極の向きと共通である。例えば'868号特許に記載されている静的インターバル・モードでは、ポンプまたはそれ以外の何らかの流体移動要素によって起こる電極間でのサンプルの加速は、電場がオフのとき、あるいはそうでないとしても少なくとも電場が電気泳動による移動にとって有効でないとき、すなわちサンプルのどの部分も有効な電場を受けないときにしか起こらない。
言い換えるならば、インターバル法は、サンプルと媒体を電気泳動装置の分離チェンバーに導入する装填段階の後、分離するための電場を印加している間はサンプルを含む媒体のバルク流が止まる分離プロセスであることを特徴とする。サンプルの分離/分画化の後、電場をオフにするか小さくして有効でないようにした後、バルク流を再びオンにすることで、分画化されたサンプルが出口に向かい、その後適切な容器(例えば微量滴定プレート)に回収/で検出されるようにする。
この明細書におけるFFEという文脈でのいわゆるサイクリック・モードまたはサイクリック・インターバル・モードは、同時係属中の2006年8月29日に出願されたアメリカ合衆国仮出願USSN 60/823,833と、USSN 60/883,260(両方の開示内容は参考としてその全体がこの明細書に組み込まれているものとする)に記載されている。要するに、サイクリック・インターバル・モードは、サンプルが細長い電極間の電気泳動の場に保持されている間にバルク流の方向が少なくとも1回、そして可能な場合には複数回逆転することを特徴とする。静的インターバル・モードとは異なり、サンプルは常に運動しているため、より大きな電場にすることができ、したがってよりよい(またはより高速の)分離が可能になる。さらに、細長い電極間でサンプルのバルク流を逆転させることにより、電場の中に分析物が滞在する時間を著しく長くすることができる。そのため分離時間が長く、および/または分離効率と分解能がよりよくなる。バルク流を細長い電極に平行ないずれかの方向に逆転させること(サイクルと呼ぶ)は、個々の状況に合わせて何回でも繰り返すことができる。しかし実際的な理由と、短時間での分離が望ましいこととにより、一般にこのモードで実施されるサイクルの数は限られる。
インターバル・モードの用途では、分離媒体は不連続状態または非定常状態で流れる。例えばサンプルは、高電圧源をオフにした状態で注入または導入することができる。あるいは分離チェンバーから流出している間は電場の強度を小さくすることが有利な場合もある。
サンプルを導入した後、電極間で媒体のバルク流が維持されるようにするため、分離媒体の移動をオフにするか、場合によっては分離媒体の移動を何度も逆転させる。サンプルが所望の程度まで導入されると、サンプルが電気泳動によって分離されるまで高電圧源の電流をオンにするか増大させる。ある時間が経過した後、電圧をオフにするか小さくし、媒体の流れを増やすことによって、あるいは少なくとも媒体を回収出口に移動させることによって、分離されたサンプルを分離チェンバーから流出させて回収する。補助媒体供給ライン(媒体供給ラインと直接向かい合ったFFE装置の端部に位置することが好ましい)を通じて分離チェンバーに補助媒体が導入され、画分出口を通じて分離媒体とともに抽出されるようにすることもできる。この場合、補助媒体を向流媒体と呼び、補助媒体供給ラインがチェンバーと交わる点を向流入口と呼ぶ。
分離ステップがあるため、低濃度のタンパク質が蓄積するのとは異なる場所により豊富なタンパク質が蓄積または分離されるように、低濃度の化合物を化学的緩衝系に蓄積させることができる。分離されたより豊富なタンパク質は分析せず、より少ないタンパク質を分析する場合には、その豊富なタンパク質は実質的に枯渇状態であるため、低濃度のタンパク質、化合物、分析物の測定を妨げることはなく、それらの検出と同定が容易になる。さらに、同定の目的では、化学的緩衝系に、1つの化合物または1つのクラスの化合物を特異的に同定する手段を付随させることも有利な可能性がある。
分離プロトコル
1つまたは複数のpH平坦部を本発明の実施態様で利用して、pH分離平坦部またはその周囲でタンパク質の枯渇または分離が容易する一方で、他のタンパク質はそのpH分離平坦部に隣接した部分またはそのpH分離平坦部から離れた部分で富化することができる。その平坦部のpH値を変化させることにより、どのタンパク質をサンプルの残部から分離するか、または枯渇させるかに影響を与えることができる。
2つのFFE−IEF動作モードを、ここでより詳しく説明する。ユーザーは、この2つのFFE−IEF動作モードによって調製法または分析法を改善し、サンプルから分析物を分離する、および/または選択的に枯渇させることができる。一実施態様では、ある分析物の枯渇、分画、富化(DFEプロトコル)を実現できる。第2の実施態様では、ある分析物の枯渇、分離、富化(DSEプロトコル)を実現できる。枯渇させる分析物の例は、例えば、アルブミン、α1アンチトリプシン、トランスフェリン、ハプトグロブリン、カゼイン、ミオシン、アクチンなどからなる群から選択した豊富なタンパク質だが、これだけに限られるわけではない。
上述のように、分析物の組成物から分離すべき1つの分析物をフリー・フロー電気泳動によって分離する方法は、必要に応じ、分析物組成物から分離する1つの分析物のpIを同定するステップと;フリー・フロー電気泳動(FFE)チェンバーの中でアノードとカソードの間に、pHの平均が分離する分析物の等電点(pI)に実質的に対応していて、上限pHと下限pHによって限定されたpH範囲を持つpH分離平坦部と、アノードとそのpH分離平坦部の間にあって、そのpH分離平坦部のpHよりも小さな平均pHを持つおよび/またはそのpH分離平坦部よりも大きな導電率を持つpH機能と、カソードとそのpH分離平坦部の間にあって、そのpH分離平坦部のpHよりも大きな平均pHを持つおよび/またはそのpH分離平坦部よりも大きな導電率を持つpH機能とを含む、pH機能プロファイルを形成するステップと;分析物混合物から分離する1つの分析物を含むサンプルを、FFEチェンバー内のpH分離平坦部、そのpH分離平坦部のアノード側の領域、またはそのpH分離平坦部のカソード側の領域に導入するステップと;FFEチェンバーから分析物を流出させるステップを含んでいる。必要に応じ、分析物のすべてまたは一部を、1つの画分または複数の画分に回収することができる。
DFEプロトコル
本発明の実施態様によるDFEプロトコルは、フリー・フローIEFによって分析物の混合物から分析物(例えば特定のタンパク質)を分離するのに役立つ。
DFEプロトコルに適したpH機能プロファイルは、混合物中の他の分析物から分離する分析物のpIを包含するpH分離平坦部と、アノードとそのpH分離平坦部の間にあってそのpH分離平坦部のpHよりも小さなpHを持つpH機能と、カソードとそのpH分離平坦部の間にあってそのpH分離平坦部のpHよりも大きなpHを持つpH機能とを含んでいる。DFEでは、2つのpH機能とpH分離平坦部の間に、少なくとも0.5pH単位の明確なpHの段差がある。この段差は1pH単位であることが好ましく、2pH単位以上であることがより好ましい。あるいは、および/またはそれに加え、pH分離平坦部に隣接するpH機能は、より大きな導電率にすることができる。言い換えるならば、pH機能を形成する媒体は、上により詳しく説明した“フォーカス媒体”となる。
分離する分析物を含む分析物混合物からなるサンプルをFFE装置の分離チェンバーの内部にあるpH分離平坦部に導入した後、この分析物混合物に電気泳動の電場を印加することによって分離する。サンプルから分離される分析物は、その後、適切な手段によって装置の分離領域から複数の回収出口を通じて回収される。
当業者であれば、当業者に知られている技術を利用して分析物のpIを同定する方法を知っている。あるいは当業者であれば、現在の等電点電気泳動法を例えば後で実施するゲル電気泳動や免疫検出と組み合わせて使用し、タンパク質のpIを同定にすることができる。DFE分離プロトコルの間、電圧をFFE装置のアノードとカソードの間に印加して分離緩衝液と分離媒体の中に電流を流す。すると電気泳動のカーテンが電極間に確立され、図1、図2、図4、図5、図7、図8に図示したようにpH機能プロファイルと導電率プロファイルが形成される。
FFEに適した装置と、DFE実験の一例におけるpHプロファイルおよび導電率プロファイルを図1Aと図1Bに示してある。入口を通じて導入される媒体は、一旦安定化してその媒体領域および隣接した媒体領域の電気泳動移動特性と安定化特性に基づいて形成する機会があると、それぞれの組成物領域を形成する。言い換えるならば、入口1を通じて導入される媒体は領域1を形成し、入口Nを通じて導入される媒体は領域Nを形成する。ここにNは、本発明の実施例に示してあるように1〜7の整数だが、他の実施態様では、FFE装置に設ける媒体入口の数に応じて1〜8、9、10、12、15、20、30、40、またはそれ以上であってもよい。さらに、2つ以上の入口を用いて単一の組成物領域を形成できることが容易にわかる(すなわち同一の媒体を隣り合ったいくつかの媒体入口を通じてFFE装置に導入する)。
領域間の境界は、各領域の媒体の電気化学的特性に応じ、明確であったり、場合によっては重複して明確でなかったりする可能性がある。入口の組成物と組成物領域はpHがさまざまであるため、等電点電気泳動モードをpH勾配プロファイルの形成中と形成後に電気泳動チェンバーの中で実施することができる。
(図1Bの入口4によって形成される)pH分離平坦部と一方の電極の間に位置する領域は、通常pH分離平坦部と異なるpHを持つため、それらの領域は、pH分離平坦部に留まるのに必要なpIとは異なるpIを持つ、pH分離平坦部に注入または導入される両性分析物の移動を可能にする。したがってその分析物はpH分離平坦部を離れ、電極の一方に向かって移動する。より詳細には、pH分離平坦部のpHよりも小さなpIを持つサンプル中の両性分析物は、pH分離平坦部の中に置かれたときに負の正味電荷を持つため、アノードに向かって移動する。さらに、サンプルに含まれていてpH分離平坦部のpHよりも大きなpIを持つ両性分析物またはタンパク質は、pH分離平坦部内に置かれると正の正味電荷を持つため、カソードに向かって移動する。サンプルの性質と組成に応じ、サンプルは一般にFFE装置のpH分離平坦部に、またはpH分離平坦部とアノードの間にある領域に、またはpH分離平坦部とカソードの間にある領域に注入または導入することができる。しかしサンプルはpH分離平坦部に注入することが好ましい。
本発明のいくつかの実施態様では、チェンバーに導入される分離媒体によって作り出されるpH分離平坦部に隣接した両方の領域が、分離空間(図1Bの入口3と5)に注入または導入される分離媒体と緩衝液が何であるかに応じて酸性またはアルカリ性のpH平坦部になる。アノードとpH分離平坦部に挟まれた領域は実質的に酸性のpH平坦部を形成し、カソードとpH分離平坦部に挟まれた領域はアルカリ性のpH平坦部を形成する。この明細書で説明するDFEプロトコルにより、pH分離平坦部に残る枯渇プールの実質的に隣に両性分析物の酸性プールとアルカリ性プールが濃縮されて生じることになろう。
この明細書の実施例1では、pH分離平坦部のpHは、豊富なヒト血清タンパク質であるアルブミンの天然状態のpIに対応するように選択した。他の実施態様では、pH分離平坦部のpHは、枯渇させるタンパク質がpH分離平坦部内に留まる一方で、異なるpIを持つ他の分析物はpH分離平坦部内に留まらず、その正味の電荷のためにpIと周囲の媒体のpH差によってpH分離平坦部から離れて移動するように、選択することができると考えられる。
酸性とアルカリ性のpH平坦部領域は一般にある広がりを持ちうるため、ユーザーは、望むのであれば、そのpH平坦部の広がりに沿ったある位置に回収または濃縮された分画化タンパク質の酸性プールまたはアルカリ性プールを持つことが可能である。両性分析物が停止しうる地点は、pH分離平坦部から最も遠い酸性pH平坦部とアルカリ性pH平坦部の端部を超えた位置に自然に発生しうるため、本発明のいくつかの実施態様では、例えばこの明細書に記載したフォーカス媒体によって実現した導電率の“壁”を利用して粒子またはタンパク質の電気泳動による移動を停止させる、または引き止めることにより、ユーザーは、望むのであれば、特定の位置で分析物を回収することが可能である。
酸性pH平坦部とアルカリ性pH平坦部の内部または隣に位置するある種の媒体の導電率が著しく大きいため、分析物はこれらの平坦部を通過して移動することが阻止され、アノードとカソードに向かって連続状態になるのではなく濃縮されてプールになることができる。さらに、pH分離平坦部に隣接していて導電率がそのpH分離平坦部の導電率よりも大きな領域を選択することにより、pH分離平坦部から離れていく両性分析物は、それぞれ酸性領域とpH分離平坦部の間、またはpH分離平坦部とアルカリ性領域の間のいわゆる“界面”に直ちに蓄積する。pH分離平坦部とその隣にある酸性またはアルカリ性の領域のpH段差は、通常0.5pH単位よりも大きい。この段差は、1.0pH単位よりも大きいこと、さらには2pH単位よりも大きいことが好ましい。この方法を適用する分析物の正確な電気泳動の挙動は、分離するサンプルの性質と量、ならびにサンプルの分離に用いる分離媒体に依存する。
したがって本発明の実施態様では、分離媒体、および/または安定化媒体、および/またはフォーカス媒体を適切に選択することにより、酸性平坦部とアルカリ性平坦部の両方ではなくとも一方の内部に導電率の大きな“壁”が確立される(図1Bのそれぞれ領域3と領域5)。得られる酸性プールとアルカリ性プールは、上記の条件下では、いくつかの分析物に関して蓄積効果または濃縮効果を示す。
例えば図2に示した分離結果は、pH平坦部と導電率の大きな媒体をフリー・フロー等電点電気泳動法と組み合わせることによって可能になった。3つの画分(pH枯渇領域の画分すなわち枯渇プールと、酸性プールと、アルカリ性プール)が回収されると、研究者は、その画分のすべて、または一部、または組み合わせに対してさらに調製操作または分析操作をさまざまな方法で実施することができる。方法としては、以下に限られないが、電気泳動(例えばネイティブ・ゲル電気泳動、1D−PAGE、2D−PAGE)、クロマトグラフィ、MS、NMR、円二色性、IR分光、UV分光、生化学的アッセイ(例えば活性アッセイ)などがある。
本発明の一実施態様では、分離された豊富なタンパク質プールだけが混合物から失われる、または枯渇するように、酸性プールとアルカリ性プールをグループにするまたは再度組み合わせる。次に、組み合わせた酸性プールとアルカリ性プールさらに処理または分析してもよい。例えば組み合わせたプールを例えば電気泳動法(ゾーン電気泳動、等電点電気泳動、等速電気泳動など)を利用してその後分離することができる。場合によっては、最終的に枯渇させる同じタンパク質または場合によっては異なる豊富なタンパク質に合わせたDFEプロトコルを利用し、組み合わせたプールを再び処理することができる。したがって粒子、分析物、タンパク質は、上記の最初の分画化ステップにおいて枯渇状態にされたタンパク質の影響を受けずに電気泳動によって分離または移動する。このようにするとサンプルの複雑さが低下し、したがってより少量のタンパク質を表に出すことが可能になる。したがって1D−PAGEまたは2D−PAGE分析を利用したサンプルの分析では、豊富なタンパク質が存在していないこと、または通常の濃度ではないことの利益が得られるため、より少量のタンパク質の分解能または可視化を改善することができる。言い換えるならば、上記の技術を利用することで分解能が向上するため、例えば改善されたLC−MS/MSによる同定において少量のタンパク質を表に出すことができる。さらに、非枯渇タンパク質は元々豊富なタンパク質に非特異的に結合している場合があるため、本発明のいくつかの要素を利用すると、以前なら豊富なタンパク質に結合していたであろうタンパク質の測定、処理、分析が可能になろう。
別の一実施態様では、酸性プールとアルカリ性プールを廃棄してもよく、豊富なタンパク質を含む枯渇領域を回収し、例えば電気泳動法(例えばゾーン電気泳動、等電点電気泳動、等速電気泳動)を利用してさらに分離または分画化する。豊富なタンパク質に最終的に結合するか、豊富なタンパク質の電気泳動移動度の特性と似ているためにその豊富なタンパク質とともに分離されて残った粒子、分析物、タンパク質は、上記の最初の分画化ステップにおいて枯渇状態にされなかったタンパク質の影響を受けずに電気泳動によって分離または移動する。
DSEプロトコル
サンプル(一般にタンパク質を含む)の電気泳動による枯渇、分画、富化(DFE)のための上記のプロトコルを利用すると、天然状態または変性状態のタンパク質の少なくとも2つの画分(3つの画分がより好ましい)がうまく生成する。その画分のうちの1つは、枯渇させる(すなわちサンプル中の別の分析物から分離する)分析物を含んでおり、残る画分は、その後の処理および/または分析で利用することができる別の分析物を含んでいる。
枯渇させたタンパク質を除くタンパク質サンプルの全体を分析するため、オプションとしての追加のIEFステップにおいてサンプルを電気泳動によって分離する前に上に説明したDFEプロトコルの酸性プールとアルカリ性プールを再度組み合わせることを選択する代わりに、本発明の実施態様によるDSEプロトコルでは、例えば少量のタンパク質の分離と、例えば豊富なタンパク質の枯渇の両方を、単一ステップの電気泳動で同時に実施することができる。上記の最初のプロトコルと同様、ここに記載するDSEプロトコルにより、フリー・フロー電気泳動法および装置を利用してサンプルから例えば豊富なタンパク質を枯渇させることができるが、このDSEプロトコルには、サンプルの“非枯渇”部分をさらに分離できるという追加の利点もある。これはすべて、単一のFFE分離試行でなされる。
DSEプロトコルは、低濃度の分析物を例えば豊富な分析物(豊富なタンパク質など)からフリー・フローIEFによって分離するのに特に役立つ。一般に、このプロトコルはDFEプロトコルと同等である。枯渇させる豊富な分析物のpIは、既知であるか、同定されていなければならない。さらに、FFE装置の中でDSEプロトコルのために作り出されるpH機能プロファイルは、混合物中の他の分析物から分離される分析物のpIを包含するpH分離平坦部を含んでいる。
しかしDFEプロトコルとは異なり、DSEに適したpH機能プロファイルは、アノードとpH分離平坦部の間にあって、隣接するpH分離平坦部のpHよりも小さな平均pHを持つpH勾配、および/またはpH分離平坦部とカソードの間にあって、隣接するpH分離平坦部のpHよりも大きな平均pHを持つpH勾配をさらに含んでいる。
DSEの用途で有用なpH勾配は、通常、0.5pH単位以上の範囲にわたる。この値は1pH単位以上であることがときにあり、いくつかの実施態様では、2pH単位以上、または3pH単位以上になることさえある。分離する分析物を含む分析物の混合物からなるサンプルをFFE装置の分離チェンバーの内部でpH分離平坦部に導入した後、その分析物混合物を枯渇させ、電気泳動の電場を印加することによって分離し、その後サンプルから分離された分析物を流出させ、必要に応じて、適切な手段によって装置の分離領域から複数の回収出口を通じて回収する。
複数の媒体入口が電気泳動チェンバーの入口の端部に配置されている。本発明の一実施態様では、少なくとも5つの入口を利用してさまざまな溶液をチェンバーの中に供給し、本発明の実施態様による方法を実施しやすくする所望のpH機能プロファイルと導電率プロファイルを作り出す。特にこのような既存のFFE装置では、7つまたは9つの入口を利用してさまざまな分離媒体、安定化媒体、フォーカス媒体を分離チェンバーに供給することが好ましい。本発明の実施態様に関する実験を行なうのに用いるFFE装置の設計では、7つまたは9つの入口を利用することが現在のところ好ましいが、入口の数が7または9に限定されることはなく、5、6、8、10、11、12、13、14、15、またはそれ以上の入口を備えていて、それらを用いて所望のpH機能プロファイルを形成することもできる。
電圧をアノードとカソードの間に印加すると電流が分離緩衝液と分離媒体の中を流れるため、電気泳動のカーテンが電極間に確立され、図4Bと図7に図示したようなpH機能プロファイルと導電率プロファイルが形成される。
入口を通じて導入されるさまざまな媒体は、一旦安定化してその媒体領域および隣接した媒体領域の電気泳動移動特性と安定化特性に基づいてpH機能またはpH勾配を形成する機会があると、それぞれの組成物領域を形成する。言い換えるならば、入口1を通じて導入される媒体は領域1を形成し、入口Nを通じて導入される媒体は領域Nを形成する。ここにNは、本発明の実施例に示してあるように1〜7の整数だが、他の実施態様では、FFE装置に設ける媒体入口の数に応じて1〜8、9、10、12、15、20、30、40、またはそれ以上であってもよい。さらに、2つ以上の入口を用いて単一の組成物領域を形成できることが容易にわかる(すなわち同一の媒体を隣り合ったいくつかの媒体入口を通じてFFE装置に導入する)。
DSEプロトコルに関しては、DSEにとって望ましいpHプロファイルを実現する上で、3つの異なる領域に対応して(3つの異なる媒体入口を通じて導入される)少なくとも3種類の異なる分離媒体が必要とされることが容易にわかる。同じことが一般にDFEプロトコルに当てはまるが、pH平坦部に隣接する2つのpH機能は、安定化媒体または電極間安定化媒体によって形成することもできる(このようにすると、複数の分離領域を並列モードで動作させるときにDFEプロトコルで必要とされる異なる媒体の数が少なくなる)。
領域間の境界は、各領域の媒体の電気化学的特性と、媒体の性質に基づいてどの程度まで重複が可能であるかとに応じ、明確であったり明確でなかったりする。入口の組成物と組成物領域はpHがさまざまであるため、等電点電気泳動モードをそれぞれDFEとDSEに適したpH機能プロファイルの形成中と形成後に電気泳動チェンバーの中で実施することができる。
DSEプロトコルを示す本発明の一実施態様を図4に示してある、本発明のこの実施態様では、pH分離平坦部が、例えば図4Bに示した領域4に主として形成される。pH分離平坦部を構成する分離媒体と緩衝溶液の組成は、枯渇させる分析物のpIに合わせて選択するが、“平坦部”は、一般に、分析物(例えば枯渇させたいタンパク質(例えば豊富なタンパク質))の等電点を包含するある小さな範囲のpHを示す。図4Bに示した枯渇領域(領域4)のpHの傾斜はゼロだが、実際には傾斜があってこの領域にpHの上限と下限が含まれていてもよく、枯渇させるタンパク質は、選択されたpH範囲内で正味がゼロの電荷が維持されるような元来の等電点(pI)を有する。したがって、緩衝系で用いる化学物質の濃度と数に応じ、pH勾配の傾斜をゼロから小さなpH幅の傾斜まで変化させることができる。
pH分離平坦部と一方の電極の間に配置される追加の領域は、pH分離平坦部とは異なるpHプロファイルを持つため、pH分離平坦部に留まるのに必要なpIとは異なるpIを持つ、pH分離平坦部に注入または導入される両性分析物の移動を可能にする。したがってその粒子はpH分離平坦部から一方の電極へと遠ざかるように移動する。より詳細には、pH分離平坦部のpHよりも小さなpIを持つ両性分析物は、pH分離平坦部の中に置かれたときに負の正味電荷を持つため、あらゆる非両性アニオンとともにアノードに向かって移動する。さらに、pH分離平坦部のpHよりも大きなpIを持つ両性分析物は、pH分離平坦部の中に置かれたときに正の正味電荷を持つため、あらゆる非両性カチオンとともにカソードに向かって移動する。
本発明のDSEのいくつかの実施態様では、pH分離平坦部に隣接する両方の領域が、pH分離平坦部とは異なるpH勾配プロファイルを持ち、pH分離平坦部を形成する分離媒体の隣に注入または導入される分離媒体と緩衝液が何であるかに応じて、酸性またはアルカリ性のpH勾配(直線勾配が好ましい)を形成する。pH分離平坦部とアノードに挟まれた空間に導入される媒体は、アノードからpH分離平坦部に向かうより酸性のpH勾配を主として形成し、pH分離平坦部とカソードの間に導入される媒体は、pH分離平坦部から出てカソードに向かって増えるよりアルカリ性のpH勾配を形成する。より酸性のpH勾配は、分離することを望むあらゆるタンパク質のうちで、枯渇させるタンパク質のpI範囲としてpH分離平坦部について選択したpIよりも小さなpIを持つものに適合したpH範囲と緩衝能力を持たねばならず、アルカリ性のpH勾配は、分離することを望むあらゆるタンパク質のうちで、枯渇させるタンパク質のpI範囲としてpH分離平坦部について選択したpIよりも大きなpIを持つものに適合したpH範囲と緩衝能力を持たねばならない。
この明細書で説明したDSEプロトコルにより、酸性勾配領域とアルカリ性勾配領域を形成し、pH分離平坦部によって確立された枯渇プールの実質的に隣に位置させることができる。この明細書の実施例2では、pH分離平坦部のpHは、ヒト血漿中で最も豊富なタンパク質の1つであるアルブミンのpH(pIが約4.8)となるように選択した。pH分離平坦部のpHはアルブミンのpIに対応するように選択されるため、アルブミンは枯渇プールの中に維持されるのに対し、pH分離平坦部のpH範囲の外にあるpIを持つタンパク質は、そのタンパク質のpIに応じ、電気泳動によってアノードまたはカソードに向かう。
別の豊富なタンパク質の枯渇を想定する別の実施態様では、pH分離平坦部のpHを選択するにあたり、最終的に枯渇させようとするタンパク質混合物はpH分離平坦部の中に留まる一方で、異なるpIを持つ分析物はそのpH分離平坦部の中に留まらず、そのpIと周囲媒体のpHの差によって生じる正味の電荷のためにそのpH分離平坦部から離れていくように選択できる。
サンプル中の粒子またはタンパク質は、pH勾配が確立した後にpH分離平坦部に注入または導入すると、正味の電荷が実質的にゼロになる等電点に達するまで自然に移動を続けると考えられるため、電気泳動による非両性イオン種の移動を停止させる、または引き止めるとともに、等電点が一般に酸性緩衝領域の最低pH領域の等電点よりも低い粒子またはタンパク質と、一般にアルカリ性緩衝領域の等電点よりも高い粒子またはタンパク質の電気泳動による移動を停止させる、または引き止める必要がある。したがって本発明のいくつかの実施態様では、分離媒体、および/または安定化媒体、および/またはフォーカス媒体は、pH機能プロファイルの内部においてpH勾配の内部または近傍に、導電率の大きな“壁”が確立されるように適切に選択する。実際的な理由により、pH勾配領域とアノードの間と、pH勾配とカソードの間とに、フォーカス媒体および/または安定化媒体をそれぞれ供給することが望ましかろう。このような設定は、例えば図4Bに示してある。
酸性領域とアルカリ性領域の内部に配置されているか、これらの領域に隣接して配置されているある種の緩衝液は導電率が大きいため、粒子またはタンパク質の移動が阻止され、したがってさらにアノードとカソードに向かう望ましくない移動を制御することができる。
したがってこの明細書でフォーカス媒体として言及した媒体は、それぞれアノード領域とカソード領域において、酸性pH機能とアルカリ性pH機能の一方または両方の内部または近傍、またはpH勾配の内部または近傍に導電率の大きな“壁”が確立されるように設計することができる。したがって導電率の大きな壁を形成するこのようなフォーカス媒体を用いると、酸性勾配のpIよりも小さくてアルカリ性勾配のpIよりも大きなpIを持つタンパク質サンプルの濃度は、ユーザーがどこにその導電率を確立したいかに応じた影響を受ける。
DFE/DSEの後の画分の利用
分離された画分をすべて回収すると、研究者は、その画分の全部または一部に対してさらに調製操作を実施することができ、場合によってはさまざまな方法でその画分を分析することもできる。
本発明の一実施態様では、研究者は、酸性勾配とアルカリ性勾配において回収されたサンプルを電気泳動によってさらに分離することにより、最初のDSEステップで枯渇させたタンパク質を差し引いた全回収タンパク質を電気泳動で分離することができる。
本発明の別の一実施態様では、研究者は、枯渇させることを望むタンパク質に関係する複数のpH平坦部を選択することにより、どのタンパク質を枯渇させるかを調節することができる。例えば枯渇させる候補であるアルブミン(本来のpIは約4.8)と、トランスフェリンの最も豊富なアイソフォームの1つ(そのpIは5.4)を分離することを選択するのであれば、研究者は、媒体と緩衝系を設計して2つの枯渇のpH平坦部をそれぞれ4.8と5.4の位置に作り出すことができ、そのときアノードと4.8平坦部に挟まれた領域、4.8平坦部と5.4平坦部に挟まれた領域、5.4平坦部とカソードに挟まれた領域では、上昇するpH勾配となる。このような設定では、分離平坦部の中またはその近傍に導入されるタンパク質混合物は、それぞれのpIに従って移動し、アルブミンはpH4.8平坦部に移動してそこに留まり、トランスフェリンのアイソフォームはpH5.4平坦部に移動してそこに留まる。
すべての画分が回収され、pH4.8分離平坦部とpH5.4分離平坦部に回収されたタンパク質が廃棄されると、研究者は、分析で利用されず分離平坦部により決定される豊富な複数のタンパク質が少なくなっている、等電点電気泳動によって分離されたサンプルからタンパク質混合物を分析することができる。言い換えるならば、後で行なう分析中に利用されないpH平坦部の両方の領域により、タンパク質サンプルから枯渇させた豊富な複数のタンパク質が存在しない、タンパク質混合物を分析することができる。
DFEプロトコルまたはDSEプロトコルに従って回収した流出サンプルは、その全体または一部をさらに処理し、または分画化し、または組み合わせて、そして多彩な分離法(例えばゾーン電気泳動、等電点電気泳動、等速電気泳動などの電気泳動法)でさらに分離するのに使用できる。
DFEプロトコルと同様、DSEプロトコルにより、上に説明したDSE分離ステップの間に分離されたタンパク質に影響を与えることなく、粒子またはタンパク質を電気泳動によって分離または移動させることができる。したがってこのプロトコルによりサンプルの複雑さを低下させ、より豊富なタンパク質が存在しているためにそれまで可視化が妨げられていたより少量のタンパク質を表に出すことができる。したがって1D−PAGEまたは2D−PAGE分析を利用したサンプルの分析は改善され、より少量のタンパク質の分解能または可視化が改善される。要するに、上記の方法を利用すると、少量のタンパク質を表に出すことによって分解能を向上させることができる。特に、LC−MS/MSと、下流の1Dまたは2Dのゲル電気泳動分析が改善される。
上の説明から、本発明のいろいろな方法を自由に組み合わせることで、その中でも特にFFE装置の分離チェンバーの中で所望する任意のpHプロファイルを実現するのに用いるさまざまな媒体を自由に組み合わせることで、フリー・フロー電気泳動法を非常に柔軟にできることが容易にわかるであろう。例えば、アノード側にpH勾配が隣接し、カソード側にpH平坦部が隣接した、またはその逆になったpH分離平坦部を含むpH機能プロファイルを作り出すことができる(このようなプロトコルは、組み合わせDFE/DSEプロトコルと呼ぶことができよう)。
さらに、さまざまなプロトコル(例えばDFEやDSE)をいくつかのFFE分離ステップにおいて順番に組み合わせることもできる。例えばDFEプロトコルを利用してFFE分離ステップを実施し、そこから回収された画分に対し、同じプロトコルまたは異なるプロトコル(すなわち、緩衝系、pH機能、pH平坦部などが同じ、または異なる)を利用した別のFFE分離ステップを実施することができる。したがってDSE/DSE、DFE/DSE、DSE/DFE、DFE/DFEというプロトコルの組み合わせや、これらプロトコルまたはプロトコルの組み合わせのうちの任意のものをこの明細書または公知文献に記載されているさらに別のFFEプロトコルと組み合わせたものも、この明細書では具体的に考慮される。
並列分離モード
本発明のさらに別の一実施態様では、2つ以上のサンプルに由来する分析物組成物から分離しようとする1つ以上の分析物をフリー・フロー電気泳動によって同時に分離する方法およびプロトコルとして、
必要に応じ、分析物組成物から分離する1つの分析物のpIを同定するステップと;
フリー・フロー電気泳動(FFE)チェンバーの中で単一のアノードと単一のカソードの間に、N個の分離領域と、それぞれの分離領域を隣接した各分離領域から隔てる(N−1)個の電極間安定化媒体とを含むpH機能プロファイルを形成するステップと;
ここで、各分離領域は、pHが分離する各分析物の等電点(pI)に実質的に対応していて、pHの範囲が上限pHと下限pHによって限定されているpH分離平坦部と、そのpH分離平坦部のアノード側に隣接していて、そのpH分離平坦部のpHよりも小さな平均pHを持つおよび/またはそのpH分離平坦部よりも大きな導電率を持つpH機能と、そのpH分離平坦部のカソード側に隣接していて、その第1のpH分離平坦部のpHよりも大きな平均pHを持つおよび/またはそのpH分離平坦部のよりも大きな導電率を持つpH機能とを備えており;
分析物組成物から分離する1つの分析物を含む各サンプルを個別に、FFEチェンバーの1つの分離領域(各分離領域には、分析物組成物から分離するその分析物をその分離領域において分離するのに適したpH分離平坦部が含まれている)のpH分離平坦部、そのpH分離平坦部のアノード側の領域、またはそのpH分離平坦部のカソード側の領域に導入するステップと;
FFEチェンバーから分析物を流出させ、必要に応じてその分析物のすべてまたは一部を1つまたは複数の画分として回収するステップを含む方法が想定される。
この実施態様の一例では、並列DFEプロトコルまたは並列DSEプロトコルの2つの分離領域を形成する。そのときそれぞれの領域には、pH分離平坦部と、そのpH分離平坦部に隣接したアノードpH機能およびカソードpH機能とが含まれている。アノードまたはカソードという用語の使用は、所定の領域、機能、または平坦部と、それぞれアノードおよびカソードに挟まれた対応する名称の領域/機能または平坦部の相対位置を意味することが容易にわかるであろう。例えばFFEチェンバーに導入する媒体の典型的な順序は、(FFE装置のアノードからカソードに向かって)アノード安定化媒体、場合によっては存在するフォーカス媒体、第1のpH機能またはpH勾配を形成する媒体、第1のpH分離平坦部を形成する媒体、第2のpH機能またはpH勾配を形成する媒体、場合によっては存在するフォーカス媒体を形成する媒体、カソード電極間安定化媒体、アノード電極間安定化媒体、場合によっては存在するフォーカス媒体、第3のpH機能またはpH勾配を形成する媒体、第2のpH分離平坦部を形成する媒体、第4のpH機能またはpH勾配を形成する媒体、場合によっては存在するフォーカス媒体、そしてカソード安定化媒体になろう。この順番は、3つ以上の分離領域を持つプロトコルに拡張することができる。本発明のいくつかの実施態様すなわちDFEプロトコルでは、電極間安定化媒体はフォーカス媒体として機能することが可能なため、実施例3に示したようにpH分離平坦部とその電極間安定化媒体に挟まれたpH機能を除くことができる。並列FFE分離法の分離領域は、隣接するpH機能またはpH平坦部よりも導電率が大きな電極間安定化媒体によって隔てられている。したがって並列FFE分離法は、2つ以上のサンプルから分析物を同時に分離するのに適している。各サンプルは、所定の分離領域の中に形成されたpH分離平坦部に導入されることが好ましい。しかし場合によっては、サンプルをその分離領域のアノードpH機能またはカソードpH機能に導入することもできる。
NはFFEチェンバー内の分離領域の数であり、2以上の整数である。この数は、本質的にFFE装置の設計、特に異なる媒体入口の数によってのみ制限される。したがって並列な分離の数は一般に2〜5だが、少なくとも原則としてそれよりも数を増やすことが可能であり、いくつかの実施態様では、FFE装置の単一のアノードとカソードの間で6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15の並列な分離を同時に実施できる。言い換えるならば、Nの典型値は2〜9の整数であり、2〜7がより好ましく、2〜5が最も好ましい。
分離領域では、DFE分離法、またはDSE分離法、またはこれらの組み合わせを利用する。上に説明したのと同じ媒体を本発明の並列分離法で用いることができる。したがって当業者にとって、1.DFEとDFE、2.DFEとDSE、3.DSEとDFE、4.DSEとDSEのため、さまざまな分離領域に個別にpH機能を組み込めることは明らかであろう。さらに別の組み合わせも可能であってこの明細書で考慮される。それは例えば、第1の分離領域が(DFE)pH機能を第1のpH分離平坦部の一方の側に備え、(DSE)pH勾配をその第1のpH分離平坦部の他方の側に備え(またはその逆)、第2の分離領域が1つのDFE pH機能を第2のpH分離平坦部の一方の側に備え、DSE pH勾配をその第2のpH分離平坦部の他方の側に備える(またはその逆)場合である。
さらに、本発明の実施態様で用いるFFE装置に設ける媒体入口の数に応じ、分離チェンバー内の異なる分離領域の数を増やして3、4、5、またはそれ以上にすることが可能であろう。上述のように、DSEタイプの分離領域では、3つの媒体入口が一般に必要とされる。言い換えるならば、異なる2つのDSE分離領域に供給するための媒体入口の数は10になろう。各分離領域は3つの入口を有する。2つの入口は電極間安定化媒体(その中にはアノード電極間安定化媒体とカソード電極間安定化媒体が含まれる)のために使用され、それぞれの側の1つの入口は、第1の分離領域とアノードに挟まれたアノード安定化媒体と、第2の分離領域とカソードに挟まれたカソード安定化媒体をそれぞれ形成するのに用いられる。同じ原理を適用することにより、3つの異なるDSE分離領域だと、すべての媒体(その中には分離媒体、電極間媒体、安定化媒体が含まれる)のためには合計で少なくとも15の入口がFFE装置に必要となろう。
上に説明したように、所定数の媒体入口あたりの異なるDFE分離領域の数は、少しだけより多くすることができる。なぜなら電極間安定化媒体は、導電率が大きいためにフォーカス媒体としても同時に機能しうるからである。例えば15の異なる媒体入口を有するFFE装置は、4つの電極間安定化媒体(それぞれに2つの媒体入口)によって隔てられた5つのpH分離平坦部と、アノード安定化媒体と、カソード安定化媒体とを備えることができる。
このような説明の後には、当業者には他の可能性が明らかであろう。いずれの場合にも、この明細書で説明した並列分離モードでは、3つ以上の電極を使用することが排除されているわけではなく、複数の分離領域または分画化領域を一対の電極の間に配置し確立する実施態様を記載している。
並列分離モードの一実施態様を図7に示してある。この図では、2つの異なる分離領域がFFE装置の分離チェンバーの中に配置されている(図7は、電気泳動を実施している間の媒体のpHプロファイルと導電率プロファイルを示している)。図7から明らかなように、この実施態様で用いる緩衝液は、各分離平坦部に隣接した領域にpH勾配を形成することができる。言い換えるならば、図7は、DSEタイプの2つの分離領域を持つ並列モードの分離を示している。
並列モードは、さまざまな状況(例えば臨床における多数の資料サンプルの分析/調製)で特に有用であることが理解されよう。あるいは同じサンプルまたは異なるサンプルから豊富なさまざまな分析物を枯渇させることができる。この方法では、2つ以上の分離平坦部のpHは、一般に、FFE装置内の他方の分離平坦部とは異なるように選択される。
キットと電気泳動媒体組成物
当業者には、この明細書で想定される分離媒体は、選択できること、調製できること、単独で使用でするか、他の安定化媒体、フォーカス媒体、分離媒体とそれぞれ組み合わせて使用できることが明らかであろう。
したがって本発明の別の特徴は、FFE法(例えば本発明の実施態様によるDFEまたはDSE)を実施するためのキットにも関する(このキットは、所望の方法を実施するための電気泳動用分離媒体を含んでいる)。通常は少なくとも3つの異なる分離媒体がDFEとDSEの両方の用途で必要であることが理解されよう。この文脈では、pH分離平坦部に隣接する2つの媒体が、安定化媒体および/またはフォーカス媒体としての特性も持ちうることに注意されたい。
本発明の実施態様に従ってFFE分離法を実施するためのキットは、3種類以上の分離媒体に加え、上記の少なくとも1種類の安定化媒体をさらに含むことができる。安定化媒体は、カソード安定化媒体またはアノード安定化媒体であってよい。安定化媒体は、一般に、それぞれアノード/カソードと分離媒体の間に配置される。
本発明の一実施態様では、安定化媒体は、2つのpH機能プロファイルの間に位置する。安定化媒体は、一般に、導電率が分離媒体の導電率よりも大きいことを特徴とする。導電率は、2倍の大きさにすることができる。倍率は3倍であることが好ましく、3倍より大きいことが最も好ましい。分離媒体と安定化媒体の導電率の差は、すでに詳しく説明したように、さまざまな方法によって、例えば安定化媒体に導電性イオンをさらに添加すること、または安定化媒体に含まれる緩衝化合物の濃度を大きくすることによって実現される。
安定化媒体の導電率は隣接する分離媒体の導電率よりも大きいが、安定化媒体のpHは、分離の状況に応じ、隣接する分離媒体のpHよりも大きい、そのpHとほぼ等しい、またはそのpHよりも小さいことが可能である。安定化媒体の緩衝化合物は、分離媒体の緩衝化合物と同じでも異なっていてもよい。
アノードとカソードの安定化は、両方とも特にFFEにおける電気泳動がうまくいく上で特に有用であるため、キットは、分離媒体に加え、この明細書で規定した1種類のアノード安定化媒体と1種類のカソード安定化媒体を含むことが好ましい。
さらに別の一実施態様では、キットは、電気泳動による所定の分離に必要なあらゆる媒体、すなわちアノード安定化媒体、カソード安定化媒体、分離媒体(すでに説明したようにいくつかの下位画分からなる)を含むことになる。このような実施態様では、分離媒体と安定化媒体は、もちろん目的とするプロトコルで役立つように選択される。
キットは、さまざまな媒体をそのまま使用される1種類以上の水溶液として含むこと(すなわちすべての成分が、電気泳動による分離にとって望ましい濃度で存在する)、または使用前に所定量の溶媒を用いて希釈される濃縮溶液の形態になった1種類以上の媒体を含むことができる。あるいはキットは、媒体のさまざまな成分を含む乾燥形態または凍結乾燥形態になった1つ以上の媒体をいくつかの容器(1つの容器が好ましい)に入れて含んでもよい。その媒体は、その後、電気泳動による分離プロセスで使用する前に所定量の溶媒を用いてもどされる。
この明細書に記載した好ましい分離媒体のすべてに加え、好ましいカソード安定化媒体および/またはアノード安定化媒体とフォーカス媒体が本発明のキットに含まれることが理解されよう。
各媒体(分離媒体、カソード安定化媒体、アノード安定化媒体、向流媒体)は別々の容器に存在していることが一般に好ましいが、当業者には、他の組み合わせや包装を選択できること、そしてある状況ではそれが有用であることは明らかであろう。例えばIEFの用途での分離媒体は、上に説明したように、電気泳動装置の中にpH勾配をあらかじめ作り出すため、成分の濃度が異なる(したがってpHが異なる)決まった数の“下位画分”からなっていてもよい。一実施態様では、勾配の形成に用いる各分離媒体のpHは異なっている。IEFの用途で用いる下位画分の数は、分離と、分離媒体によって実現される所望のpHの範囲と、分離に用いる電気泳動装置とに依存することになろう。FFEの用途では、装置は一般にいくつかの媒体入口(例えばN=7、8、9個の入口)を備えているため、装置内で分離空間を作り出す下位媒体は、少なくとも1つの入口〜最大で(N−2)個の入口(安定化媒体(存在する場合)のためにそれぞれの側に少なくとも1つの入口が通常は確保される)に導入することができる。したがってFFEに適した装置に挿入することのできる分離媒体の数は、一般に2〜15、または3〜12、または4〜9である。
一実施態様では、キットに含まれる分離媒体は、1つのpH分離平坦部と、そのpH分離平坦部の隣にある2つのpH機能を形成することになる。別の一実施態様では、分離媒体は、1つのpH分離平坦部と、そのpH分離平坦部の隣にある2つのpH勾配を形成することになる。さらに別の一実施態様では、これら2つの方法を組み合わせて、pH分離平坦部と、その平坦部のアノード側のpH機能(例えばpH段差)およびカソード側のpH勾配(またはその逆)とが含まれるようにすることが可能である。本発明の別の実施態様では、分離媒体が複数のpH機能プロファイルを形成する。すなわちn個のpH分離平坦部のそれぞれの側にpH機能またはpH勾配がそれぞれ隣り合う。この場合、さまざまなpH機能プロファイルは、電極間安定化媒体または電極間安定化領域によって隔てられる(その媒体または領域自体は、すでに詳細に説明したようにカソード部分とアノード部分から構成される)。
特に好ましい一実施態様では、キットに含まれる分離媒体は、1種類の緩衝酸と1種類の緩衝塩基だけを含む二元緩衝系によって構成される。この明細書に記載したすべての分離媒体を、それが好ましいかどうかに関係なく、本発明のキットに含めることが想定される。
当業者には、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、この明細書に記載した実施態様に対して多くの変更やバリエーションが可能であることは明らかであろう。本発明とその利点を例示としての以下の実施例でさらに説明する。
例1:DFEプロトコルに従うヒト血漿の分離
この実施例では、DFEプロトコルによるゲル、支持マトリックス、または担体がないFFE電気泳動法とこの方法を実施するのに適した装置を利用し、豊富なタンパク質(ヒト血清アルブミン、HSA)をヒト血漿サンプルから分離することを示す。天然状態のヒト血漿を、図1Aに示した装置の媒体入口4の媒体を用いて1:10に希釈し、サンプル装填速度5ml/時間でサンプル入口4を通じて分離領域に注入または導入する。
以下の媒体を装置に導入した:
媒体入口1と2:100mMの硫酸+10%グリセロール(pH1.30)
媒体入口3:200mMの2−アミノ−ブチル酸、100mMのグルコン酸、50mMのピリジンエタンスルホン酸(PESS)、30mMのグリシルグリシン、10%グリセロール(pH3.39)
媒体入口4:30mMのMES、100mMのグリシルグリシン、10%グリセロール(pH4.92)
媒体入口5:200mMのMOPSO、20mMのMES、100mMのβ−アラニン、50mMのBISTRIS、10%グリセロール(pH6.06)
媒体入口6と7:100mMのNaOH+10%グリセロール(pH11.80)
場合によっては、特に連続調製動作モードの間に、10%グリセロールを含む蒸留水からなる組成物を複数の向流入口を通じて向流で注入または導入することができる。この任意選択ステップは、特に出口から出口へのサンプルの正確な管理が必要な場合に、目指す出口へのサンプルと分離媒体の流れを増大させることができる。
pH分離平坦部は、図1Aによる装置の媒体入口4を通じて導入される分離媒体によって形成される。サンプルは、専用のサンプル入口を通じ、形成されたpH分離平坦部に導入することができる。サンプルは、場合によっては、媒体入口3〜5を通じて導入される分離媒体によって規定される分離領域に隣接したアノードpH機能またはカソードpH機能に導入することができる。pH分離平坦部に隣接するpH機能は、媒体入口3と5を通じて導入される分離媒体によって形成される。フォーカス媒体および/または安定化媒体は、媒体入口1、2、6、7を通じて導入することができる。領域1と2の間と領域6と7の間の緩衝組成物、したがって導電率プロファイルとpHプロファイルはこの実験では変化しないが、例えばフォーカス媒体を領域6に導入し、安定化媒体を領域7に導入する場合にはこれらのプロファイルが変化する可能性がある。
図2は、DFE等電点電気泳動プロセスの有効な結果を示している。ここでは、分画化チェンバーの出口で回収された流出サンプルを測定または分析することを通じて3つのpHプールまたは画分が蓄積している。各回収サンプル出口のpH測定値とpIマーカーの濃度の測定値を図2に示してある。この図は、導電率の“壁”の原理と影響を証明している。
図2に示した分離結果は、枯渇領域に隣接する媒体の導電率が大きいことを利用するとともに、図1Bと図2に示したpHプロファイルを用意することによって実現した。
図3は、上に説明したDFEプロトコルに従って分画化したサンプルのSDS−PAGE分析の結果を示している。画分の番号とMWマーカーを示してある。枯渇領域(pH分離平坦部。図2ではアルブミン・プールと表記してある)に対応する画分からアルブミン(約66kDa)がうまく枯渇したことが容易にわかる。さらに、アルブミンのpH範囲を含むゲル画分内には、アルブミンとは分子量が異なるタンパク質群がわずかに存在していることが観察される。これらのタンパク質は、枯渇領域内での電気泳動移動度が非常に小さいために枯渇領域を完全に離れることができない。
pH分離平坦部のpIをアルブミンに対応するように選択したため、アルブミンは枯渇プールの中に維持され、pIがpH分離平坦部のpHの外にあるタンパク質は、酸性領域とpH分離平坦部の界面、およびアルカリ性領域とpH分離平坦部の界面にそれぞれ回収された(40近傍の画分と60近傍の画分)。
この方法により、pH分離平坦部の上限pHと下限pHの間に留まることのできるpIを持つあらゆるタンパク質を実質的に分離できる。3つの画分(pH枯渇領域の画分すなわち枯渇プール、酸性プール、アルカリ性プール)が回収されると、研究者は、その画分のすべて、または一部、または組み合わせに対してさらに調製操作または分析操作をさまざまな方法で実施することができる。方法としては、以下に限られないが、電気泳動(例えば別のFFE分離、ネイティブ・ゲル電気泳動、1D−PAGE、2D−PAGE)、クロマトグラフィ、MSもしくはカップルしたMS、NMR、円二色性、IR分光、UV分光、生化学的アッセイ(例えば活性アッセイ)またはこれらの組み合わせがある。
例2:DSEプロトコルに従うヒト血漿の分離
この実施例では、DSEプロトコルによるゲル、支持マトリックス、または担体がないFFE電気泳動法とこの方法を実施するのに適した装置を利用し、豊富なタンパク質(ヒト血清アルブミン、HSA)をヒト血漿サンプルから分離することを示す。天然状態のヒト血漿を、図4に示した装置の媒体入口4の媒体を用いて1:10に希釈し、サンプル装填速度5ml/時間でサンプル入口4を通じて分離領域に注入または導入する。
以下の媒体を装置に導入した:
媒体入口1:100mMの硫酸:10%グリセロール
媒体入口2:100mMの硫酸:10%グリセロール
媒体入口3:25%BD FFE分離緩衝液1+10%グリセロール
媒体入口4:30mMのMES;100mMのグリシルグリシン;14%BD FFE分離緩衝液2;10%グリセロール
媒体入口5:25%BD FFE分離緩衝液2+10%グリセロール、(pH6.94)
媒体入口6:150mMのNaOH+50mMのエタノールアミン、10%グリセロール
媒体入口7:150mMのNaOH+50mMのエタノールアミン、10%グリセロール
場合によっては、特に連続調製動作モードの間に、10%グリセロールを含む蒸留水からなる組成物を複数の向流入口を通じて向流で注入または導入することができる。この任意選択ステップは、特に出口から出口へのサンプルの正確な管理が必要な場合に、目指す出口へのサンプルと分離媒体の流れを増大させることができる。
pH分離平坦部は、図4Aによる装置の媒体入口4を通じて導入された分離媒体によって形成される。pH分離平坦部に隣接するpH機能は、媒体入口3と5を通じて導入される分離媒体によって形成される。サンプルは、専用のサンプル入口を通じ、形成されたpH分離平坦部に導入することができる。サンプルは、場合によっては、媒体入口3〜5を通じて導入される分離媒体によって規定されるpH分離平坦部(分離領域)に隣接したアノードpH機能またはカソードpH機能に導入することができる。フォーカス媒体および/または安定化媒体は、媒体入口1、2、6、7を通じて導入することができる。領域1と2の間と領域6と7の間の緩衝組成物、したがって導電率プロファイルとpHプロファイルはこの実験では変化しないが、例えばフォーカス媒体を領域6に導入し、安定化媒体を領域7に導入する場合にはこれらのプロファイルが変化する可能性がある。
図5に示した分離結果は、一般的な等電点電気泳動法において、枯渇させることを望むpH範囲での緩衝能力を特に大きくすることによって実現した。pHプロファイルと導電率プロファイルは図4Bに示してある。回収した画分のpHとpIマーカー(対照)の分布は図5に示してある。さらに図5には、回収した画分に対する媒体入口1〜7のおおまかな位置も示してある。図5のフェログラムからわかるように、pH3.5〜4.7とpH5〜9での直線状のpHプロファイルは、この実施例で説明した設定と媒体によって実現した。アルブミンは領域4に残ったが、領域4とは異なるpIを持つ帯電種は、個々のpIの値に応じ、領域3と5に向かって移動する。
図6は、上に説明したDSEプロトコルに従って分画化したサンプルのSDS−PAGE分析の結果を示している。画分の番号とMWマーカーも示してある。枯渇領域(ほぼ画分39から50の間)に対応する画分からアルブミンがうまく枯渇したことが容易にわかる。さらに、この実施例で説明したDSEプロトコルを適用することにより、アルカリ性プールに含まれるタンパク質の実質的な分離が観察された。
図6からわかるように、回収された画分のSDS−PAGEレーンは、所定のウエルにアルブミンを分離することで、ヒト血清アルブミンのpIに対応するpH範囲の外側に来る低濃度のタンパク質を識別できたことを示している。さらに、アルブミンのpH範囲を含むゲル画分内には、アルブミンとは分子量が異なるタンパク質群がわずかに存在していることが観察される。これらのタンパク質は、枯渇領域内での電気泳動移動度が非常に小さいために枯渇領域を完全に離れることができない。
分離されたすべての画分が回収されると、研究者は、その画分のすべて、または一部に対してさらに調製操作または必要に応じて分析操作をさまざまな方法で実施することができる。方法としては、以下に限られないが、電気泳動(例えば別のFFE分離、ネイティブ・ゲル電気泳動、1D−PAGE、2D−PAGE)、クロマトグラフィ、MSもしくはカップルしたMS、NMR、円二色性、IR分光、UV分光、生化学的アッセイ(例えば活性アッセイ)またはこれらの組み合わせがある。
例3:2つのサンプルからの分析物の並列DFE分離
この実施例では、改変した並列DFEプロトコルを利用した本発明のFFE電気泳動法と、この方法を実施するのに適した装置とを利用し、豊富なタンパク質(ヒト血清アルブミン、HSA)を2つのヒト血漿サンプルから同時に分離することを示す。この実施例で利用するプロトコルでは、アノードからカソードに向かって、アノード安定化媒体、第1のpH機能と第1のpH分離平坦部を含む第1の分離領域、分離領域1と2のpH分離平坦部に隣接したフォーカス媒体としても機能する電極間安定化媒体、第2のpH分離平坦部と第2のpH機能を含む第2の分離領域、カソード安定化媒体を利用した。
媒体入口2の媒体を用いて天然状態の第1のヒト血漿サンプルを1:10に希釈し、その媒体入口2の近くに位置するサンプル入口を通じてサンプル装填速度5ml/時間で分離領域に注入または導入する一方で、媒体入口6の媒体を用いて天然状態の第2のヒト血漿サンプルを1:10に希釈し、その媒体入口6の近くに位置するサンプル入口を通じてサンプル装填速度5ml/時間で分離領域に注入または導入するという操作を同時に行なった。
以下の媒体を装置に導入した:
アノード溶液:100mMのH2SO4
媒体入口1:200mMの2−アミノブチル、100mMのグルコン酸、50mMのピリジンエタンスルホン酸(PESS)、30mMのグリシルグリシン;10%グリセロール
媒体入口2:30mMのMES、100mMのグリシルグリシン;10%グリセロール
媒体入口3:200mMのMOPSO、50mMのBISTRIS、20mMのMES、100mMのβ−アラニン;10%グリセロール
媒体入口4:なし
媒体入口5:200mMの2−アミノブチル、100mMのグルコン酸、50mMのPESS、30mMのグリシルグリシン;10%グリセロール
媒体入口6:30mMのMES、100mMのグリシルグリシン;10%グリセロール
媒体入口7:200mMのMOPSO、50mMのBISTRIS、20mMのMES、100mMのβ−アラニン;10%グリセロール
カソード溶液:100mMのNaOH
電極間安定領域は、媒体入口3と5の媒体によって形成した。その場合、BISTRISとβ−アラニンが塩基であり、グルコン酸とPESSが酸であり、電気泳動移動度は、適切な電極間安定化領域を形成するのに十分なだけ小さい。図8からわかるように、本発明による改変した並列DFEプロトコルの電極間安定化媒体は、分離領域1と2のpH分離平坦部のフォーカス媒体としても機能する。場合によっては、pH機能を電極間安定化媒体とpH分離平坦部の間に配置することができる。図7に示した並列DSEプロトコルに関しては、pH分離平坦部と電極間分離媒体の間に適切なpH勾配を形成する媒体が必要である。
場合によっては、特に連続調製動作モードの間に、10%グリセロールを含む蒸留水からなる組成物を複数の向流入口を通じて向流で注入または導入することができる。この任意選択ステップは、特に出口から出口へのサンプルの正確な管理が必要な場合に目指す出口へのサンプルと分離媒体の流れを増大させることができる。
図8に示した分離結果は、改変した並列DFEプロトコルを利用して実現した。回収した画分のpHとpIマーカー(対照)の分布が図8に示されている。アルブミンは領域2と6にそれぞれ残ったのに対し、領域2または6とは異なるpIを持つ帯電種は、個々のpIに応じ、領域1と3または領域5と7にそれぞれ向かって移動する。
図9と図10に、上に説明した改変DFEプロトコルによって分画化したサンプルのSDS−PAGE分析の結果を示してある。画分の番号とMWマーカーも示してある。pH分離平坦部のpIをアルブミンに対応するように選択したため、アルブミンは枯渇プール(pH分離平坦部)に残った。pH分離平坦部のpHの外側にあるpIを持つタンパク質は、pH分離平坦部と、隣接するpH機能または電極間安定化媒体(ここでの設定ではフォーカス媒体としても機能する)との界面に位置する酸性プール(画分13〜16(分離領域1)と画分68〜71(分離領域2))とアルカリ性プール(画分30〜33(分離領域1)と画分84〜87(分離領域2))に回収されたため、そのタンパク質からアルブミンがうまく枯渇したことは明らかである。
図9と図10に示したSDS−PAGEゲルからわかるように、アルブミンのpH範囲を含むゲル画分内には、アルブミンとは分子量が異なるタンパク質群がわずかに存在していることが観察される。これらのタンパク質は、枯渇領域内での電気泳動移動度が非常に小さいために枯渇領域を完全に離れることができない。
画分(pH分離平坦部(枯渇領域)の画分、酸性プールの画分、アルカリ性プールの画分)が回収されると、研究者は、その画分のすべて、または一部、または組み合わせに対してさらに調製操作または分析操作をさまざまな方法で実施することができる。方法としては、以下に限られないが、電気泳動(例えば別のFFE分離、ネイティブ・ゲル電気泳動、1D−PAGE、2D−PAGE)、クロマトグラフィ、MSもしくはカップルしたMS、NMR、円二色性、IR分光、UV分光、生化学的アッセイ(例えば活性アッセイ)またはこれらの組み合わせがある。