以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
<第1の実施の形態>
(電流増幅素子の積層構造)
図1(A)は本発明の第1の実施の形態に係る電流増幅素子の積層構造を示す概略断面図である。図1(B)は図1(A)に示す電流増幅素子を表す回路記号である。本実施の形態に係る電流増幅素子は、リニアモードで動作するnpn型のアバランシェバイポーラトランジスタである。以下では、適宜、リニアモード・アバランシェ・トランジスタを「LAT」と略称する。
図1(A)に示すように、電流増幅素子(LAT)10は、p型シリコン半導体層12を備えている。以下の説明では、p型シリコン半導体層12の図面上側の面を「表(おもて)面」又は「主面」と称し、図面下側の面を「裏面」と称する。また、「表面近傍(又は裏面近傍)」とは、表面(又は裏面)から所定深さまでの領域である。例えば、p型シリコン半導体層12として、約300μmの厚さのシリコンウェハを用いる場合には、約1μm以下の深さまでの領域である。
p型シリコン半導体層12の表面近傍には、リン(P)や砒素(As)等のn型不純物を低濃度で拡散させた領域であるn型拡散領域14とn型拡散領域16とが形成されている。これらn型拡散領域14、16とp型シリコン半導体層12との間にpn接合が形成されている。n型拡散領域14とn型拡散領域16とは、p型シリコン半導体層12の主面に沿った方向(面方向)に離間して配置されている。一方、p型シリコン半導体層12の裏面近傍には、ホウ素(B)ガリウム(Ga)等のp型不純物を高濃度で拡散させた領域であるp+型拡散領域18が層状に形成されている。
n型拡散領域14の表面には、電子収集電極(コレクタ電極)20が形成されている。一方、n型拡散領域16の表面には、電子注入電極(エミッタ電極)22が形成されている。p+型拡散領域18の露出した表面には、ホール収集電極(ベース電極)24が形成されている。電子収集電極20、電子注入電極22、及びホール収集電極24の各々は、シリコン半導体に対しオーミック接合されたオーミック電極とされている。電子収集電極20、電子注入電極22、及びホール収集電極24の各々は、例えば、アルミニウム等の金属膜で形成することができる。
なお、図1(B)に回路記号で図示したように、本実施の形態に係る電流増幅素子は「npn型のバイポーラトランジスタ」である。従って、以下の説明では、括弧内に併記した通り、電子収集電極20を「コレクタ電極20」、電子注入電極22を「エミッタ電極22」、ホール収集電極24を「ベース電極24」と称する。コレクタ電極20に流入する電流がコレクタ電流Icであり、エミッタ電極22から流出する電流がエミッタ電流Ieである。後述する通り、コレクタ電流Icがエミッタ電流Ieに対して増幅される。
また、図1(A)及び(B)に図示したように、コレクタ電極20には「C」、エミッタ電極22には「E」、ベース電極24には「B」の記号を併記する。または、コレクタ電極Cというように、各電極を各記号で略記する。また、コレクタ電極20、エミッタ電極22、及びベース電極24の各々からは、接続端子が引き出されている。しかしながら、接続端子と電極とを区別する必要が無い場合には、対応する接続端子も含めて、各電極をコレクタ電極20、エミッタ電極22及びベース電極24と称する。
(電流増幅素子の増幅原理)
図2(A)及び(B)は第1の実施の形態に係る電流増幅素子の増幅原理を説明する概念図である。電流増幅素子10のpn接合は整流特性を示すpnダイオードである。図2(A)に示すように、コレクタ電極20とベース電極24との間に逆バイアス電圧を印加し、エミッタ電極22とベース電極24との間に順バイアス電圧を印加する。逆バイアス電圧は、後述する「なだれ増倍」を誘起するために、上記pnダイオードの一次降伏電圧(ブレークダウン電圧)以上とする。その結果、逆バイアス電圧は、順バイアス電圧に比べて十分に高い電圧となる。
pn接合に逆バイアス電圧が印加されることで、p型シリコン半導体層12のp型領域には高電界が発生している。複数の点線は、この電界の電位分布を表す等電位線である。図2(B)に示すように、エミッタ電極22下のn型拡散領域16の周囲に拡がるように空乏層26が形成されている。当初、エミッタ電極22から注入された電子の大半は、順バイアスに従ってベース電極24の方向に向かう。しかしながら、一部の電子は、電界が発生している領域に捉えられ、電界により加速される。このとき電界が十分に高電界であると、一部の電子は、格子点と衝突してキャリア(電子とホール)を生成する。また、生成したキャリアの各々は、更に別の格子点と衝突して別のキャリアを生成する。この現象は「なだれ増倍(アバランシェ効果)」と称される。このなだれ増倍によって、電子とホールとが増倍される。
増倍された電子はコレクタ電極20から取り出され、増倍されたホールはベース電極24から取り出される。ベース電極24からはベース電流Ibが流出する。上記のなだれ増倍により、エミッタ電極22に注入された電子に比べ、コレクタ電極20からは増倍された多数の電子が取り出される。即ち、コレクタ電極20に流入するコレクタ電流Icは、エミッタ電極22から流出するエミッタ電流Ieよりも大きくなる。電流増幅素子10の電流増幅率は、下記式で定義することができる。
電流増幅率=コレクタ電流Ic÷エミッタ電流Ie
また、ベース電流Ib、エミッタ電流Ie、及びコレクタ電流Icの間には、下記の関係が成立する。
ベース電流Ib=エミッタ電流Ie+コレクタ電流Ic
ここでバイアス電圧を印加するための回路構成の一例を説明する。図2(A)に示すように、エミッタ電極22とベース電極24との間に順バイアス電圧を印加する場合には、エミッタ電極22の端子を、負荷抵抗Reを介して直流電源30のアノード側に接続し且つ直流電源30のカソード側を接地する。同時に、ベース電極24の端子を接地して、直流電源30のカソード側と同電位にする。これにより、エミッタ電極22の端子電位を−Vとする。
一方、コレクタ電極20とベース電極24との間に逆バイアス電圧を印加する場合には、コレクタ電極20の端子を、負荷抵抗Rcを介して高圧電源28のカソード側に接続し且つ高圧電源28のアノード側を接地する。同時に、ベース電極24の端子を接地して、高圧電源28のアノード側と同電位にする。これにより、コレクタ電極20の端子電位を+Vとする。
本実施の形態では、コレクタ電極20の端子電位とエミッタ電極22の端子電位との電位差2Vが、50[V(ボルト)]以上になるように、高電圧の逆バイアス電圧を印加する。例えば、高圧電源28による印加電圧を70V(+V=+70V)とし、直流電源30による印加電圧を2.1V(−V=−2.1V)とすることができる。
図3は電流増幅素子の「なだれ増倍動作」を説明するためのバンドダイアグラムである。このバンドダイアグラムは、コレクタ電極20とベース電極24との間に存在するp型シリコン半導体層12とn型拡散領域14との間のpn接合のバンドダイアグラムである。伝導帯端のエネルギー準位がEcであり、価電子帯端のエネルギー準位がEvである。エネルギー準位Ecとエネルギー準位Evとの差が、禁制帯幅エネルギーである。なお、図3は、なだれ増倍動作を説明するための模式図であり、フェルミ準位Efの図示は省略する。また、エネルギー準位Ecとエネルギー準位Evとは、キャリアの有無に拘らず直線で図示する。
エミッタ電極22から注入された電子は、p型シリコン半導体層12とn型拡散領域16との間のpn接合を介して、p型シリコン半導体層12のp型領域に注入される。エミッタ電極22から注入された電子の一部は、高電界が発生している領域に捉えられ、高電界により加速される。このとき、キャリアの得るエネルギーが禁制帯幅エネルギー程度になるように、十分な高電界が発生していると、一部の電子は格子点に衝突して一対のキャリア(電子とホール)を生成する。この現象は、衝突電離(インパクトイオン化)と称される。このようにして生成されたキャリアの各々は、更に別の格子点に衝突して別のキャリアを生成する。上記の衝突電離の繰り返しによりキャリアの数は加速度的に増大する。
図3に示すように、キャリアが加速度的に増大する様子は、キャリアの「なだれ」といえることから、この現象は「なだれ増倍」と称される。この「なだれ増倍」に起因する降伏は「なだれ降伏(アバランシェ・ブレークダウン)」と称される。特に、シリコン半導体では、電子の衝突で主に電子が電離するので、雑音の少ないなだれ増倍が可能である。本実施の形態に係る電流増幅素子10は、このなだれ増倍を利用して電流を直接増幅することができるため、抵抗を含む従来の電流増幅素子と比較して、熱雑音の影響を受けることなくS/Nを向上させることが可能となる。
また、本実施の形態に係る電流増幅素子10は、エミッタ電極22をオーミック接合すると共に、p型シリコン半導体層12とn型拡散領域16との間のpn接合を介して電子を注入するので、キャリアの注入にショットキー電極を用いるSIMデバイスと比較して、再現性・信頼性に優れており、製品化等の実用的な用途にも用いることができる。また、CMOS製造工程により製造可能であるため、CMOS回路との併設が容易になる。
(電流増幅素子のリニアモード動作)
図4(A)及び(B)は第1の実施の形態に係る電流増幅素子がリニアモード動作する原理を説明する図である。ここでは、図4(A)に示すように、トランジスタである電流増幅素子10に関し、ベース電極(B)の端子を接地して、コレクタ電極(C)とベース電極(B)との間に逆バイアス電圧Vcbを印加する。即ち、コレクタ電極とベース電極との間の電圧(C-B間電圧)がVcbである。また、ベース電流Ib、エミッタ電流Ie、及びコレクタ電流Icの流れる方向を、矢印で図示した方向とする。
上述した通り、電流増幅率は、コレクタ電流Icのエミッタ電流Ieに対する比率(Ic/Ie)であり、一般に「利得(Gain)」と呼ばれる。これに対し、コレクタ電流Icのベース電流Ibに対する比率(Ic/Ib)は、一般に「直流電流増幅率(hfe)と呼ばれ、「利得(Gain)」とは区別される。図4(B)は、本実施の形態に係る電流増幅素子10について、C−B間電圧Vcbに対する「利得(Gain)」及び「直流電流増幅率(hfe)」の挙動を図示したグラフである。換言すれば、本実施の形態に係る電流増幅素子10は、印加するバイアス電圧や回路構成を含めて、Vcbに対し図示した挙動を示すように設計されている。
hfeは、Vcbがブレークダウン電圧(図では約10V)の前後において、急激に増加した後に急激に減少する「異常変化」を示す。Vcbがブレークダウン電圧を超えると、hfeは略一定に保たれる。これに対し、電流増幅率、即ち、Gainは、「なだれ増倍」が暴走し始める電圧(図では約30V)までは単調に増加し、暴走が開始すると急激に減少する。GainがVcbに対し単調に増加する範囲では、電流増幅素子10はリニアモードで動作しており、VcbによりGainを制御することが可能である。従って、Vcbがブレークダウン電圧を超えた後も「なだれ増倍」を持続させることができ、リニアモード動作において電流増幅を行うことが可能になる。
本実施の形態に係る電流増幅素子10は、リニアモード動作が可能である点に特徴がある。この点で、図5(A)〜(C)に示すように、ガイガーモード動作しかできないSEBATとは相違している。SEBATでは、Vcbがブレークダウン電圧を超えると「なだれ増倍」が暴走し始め、アバランシェクエンチ回路により「なだれ増倍」が停止される。従って、ガイガーモード動作では、1回の「なだれ増倍」の間にエミッタから注入される電子は1個である。これに対し、リニアモード動作では、1回の「なだれ増倍」の間にエミッタから次々と電子が注入され、所望の電流増幅率を得ることができる。
リニアモード動作が可能な設計の一例としては、トランジスタのエミッタ電極(E)に高インピーダンス電流源を接続した回路構成を挙げることができる。例えば、図2(A)に示す構成では、エミッタ電極22に接続されるインピーダンス電流源を、高インピーダンス電流源とすることができる。高インピーダンス電流源としては、フォトダイオードなどの微弱電流を発生する光検出器などが挙げられる。リニアモード動作をせずに「なだれ増倍」が暴走した場合には、エミッタ電極22から注入された電子が、コレクタ電極20からそのまま取り出されてしまう。
(接合型FETとの相違)
一見すると素子構造は接合型FETと類似している。しかしながら、本実施の形態に係る電流増幅素子10の動作は、接合型FETの動作とは明らかに相違している。また、電流増幅素子10の駆動方法は、接合型FETの駆動方法とは明らかに相違している。
図6(A)及び(B)を参照して、電流増幅素子10と接合型FETとの相違について説明する。図6(A)はNチャンネル接合型FETの記号を示す図である。図6(B)はNチャンネル接合型FETの動作原理を説明するための概念図である。
図6(A)及び(B)に示すように、接合型FET1は、p型半導体層2と、p型半導体層2上に積層されたn型半導体層3と、を備えている。これらp型半導体層2とn型半導体層3との間には、pn接合が形成されている。n型半導体層3の表面には、ドレイン電極4とソース電極5とが形成されている。p型半導体層2の裏面には、ゲート電極6が形成されている。ドレイン電極4、ソース電極5、及びゲート電極6の各々は、シリコン半導体に対しオーミック接合されたオーミック電極で構成されている。
次に、接合型FET1の動作について簡単に説明する。接合型FET1では、n型半導体層3内に電流路(チャネル)が形成される。電子はソース電極5から注入され、ソース電極5側からドレイン電極4側に向かって流れる。電流はドレイン電極4側からソース電極5側に向かって流れる。pn接合は整流特性を示すpnダイオードであるが、pn接合には電流は殆ど流れない。ドレイン電極4とゲート電極6との間に逆バイアス電圧を印加し、ソース電極5とゲート電極6との間に逆バイアス電圧を印加する。即ち、ゲート電極6に負電圧VGを印加する。
ゲート電極6に負電圧VGが印加されると、p型半導体層2内のホールがゲート電極6に引き寄せられると共に、n型半導体層3内の電子が表面側に移動する。即ち、pn接合間にキャリアの存在しない空乏層7が拡がり、n型半導体層3内のチャネルが狭くなる。チャネルが狭くなると電流が流れ難くなる。このように接合型FET1では、ゲート電極6に印加する負電圧VGに応じて、チャネルに流れる電流量を増減している。
以上説明した通り、接合型FET1は、ドレイン電極とゲート電極との間(GD間)にpn接合が形成されると共に、ソース電極とゲート電極との間(GS間)にpn接合が形成されており、半導体素子としての構造が、本実施の形態に係る電流増幅素子10と類似している。しかしながら、各素子の動作と駆動方法とは明らかに相違している。
まず、接合型FET1は、図6(B)に示すように、ドレイン電極4とゲート電極6との間(GD間)、及びソース電極5とゲート電極6との間(GS間)の両方に、逆バイアス電圧を印加する。これに対し、本実施の形態に係る電流増幅素子10は、図2(A)に示すように、コレクタ電極20とベース電極24との間(CB間)に逆バイアス電圧(高電圧)を印加し、エミッタ電極22とベース電極24との間(EB間)に順バイアス電圧を印加する。
次に、上記バイアス電圧の印加方法(駆動方法)に起因して、以下の動作の相違が発生する。接合型FET1は、図6(B)に示すように、GD間及びGS間の両方に逆バイアス電圧が印加されると、pn接合には電流が流れず、pn接合間に空乏層7が拡がってチャネルが狭くなり、DS間で電流が流れ難くなる。換言すれば、ソース電極5に注入された電子に比べ、ドレイン電極4から取り出される電子は少なくなる。従って、DS間で電流増幅は起こらず、ソース電極5から流出するソース電流ISは、ドレイン電極4に流入するドレイン電流IDと略等しくなる。即ち、以下の関係式が成立する。
ゲート電流IG≒0
ソース電流IS≒ドレイン電流ID
これに対し、本実施の形態に係る電流増幅素子10は、図2(A)に示すように、CB間に逆バイアス電圧(高電圧)が印加され、EB間に順バイアス電圧が印加されると、高電界が発生している領域において「なだれ増倍」が発生し、CB間で電流が直接増幅される。これにより、上述した通り、コレクタ電極20に流入するコレクタ電流Icは、エミッタ電極22から流出するエミッタ電流Ieよりも非常に大きくなる。また、ホールはベース電極24から取り出され、ベース電極24からベース電流Ibが流出する。即ち、以下の関係式が成立する。ここでは、接合型FET1の「ゲート電流IG」には、電流増幅素子10の「ベース電流Ib」が対応する。また、接合型FET1の「ドレイン電流ID」には電流増幅素子10の「コレクタ電流Ic」が対応し、接合型FET1の「ソース電流IS」には電流増幅素子10の「エミッタ電流Ie」が対応する。
ベース電流Ib≠0
エミッタ電流Ie≪コレクタ電流Ic
なお、耐電圧の高いアバランシェFETでは、DS間でのなだれ降伏は発生する。しかしながら、バイアス電圧のかけ方が異なるため、「なだれ増倍」によりDS間で電流が直接増幅されることはない。即ち、アバランシェFETも、通常の接合型FETと同様に、電流増幅作用は有しておらず、ソース電流ISはドレイン電流IDと略等しくなる。
(電流増幅実験)
素子構造が類似することから市販の接合型FETを用いて、簡易な電流増幅実験を行った。図7は実験装置の構成を示す概略図である。図7に示すように、実験装置の回路構成は、図2(A)に示す回路構成と略同じである。
即ち、図2(A)の電流増幅素子10に代えて接合型FET1を用いて、実験装置を構成した。図7に示すように、接合型FET1のドレイン電極の端子は、負荷抵抗Rdを介して高圧電源28のカソード側に接続され且つ高圧電源28のアノード側が接地されている。同時に、接合型FET1のゲート電極の端子が接地され、高圧電源28のアノード側と同電位とされている。これにより、ドレイン電極とゲート電極との間に逆バイアス電圧が印加される。負荷抵抗Rdの端子間には、端子間電圧を測定するために電圧計32が接続されている。負荷抵抗Rdの端子間電圧を測定することで、ドレイン電流IDを測定することができる。
また、接合型FET1のソース電極の端子は、負荷抵抗Rsを介して直流電源30のアノード側に接続され且つ直流電源30のカソード側が接地されている。同時に、ゲート電極の端子が接地されて、直流電源30のカソード側と同電位とされている。これにより、ソース電極とゲート電極との間に順バイアス電圧が印加される。負荷抵抗Rsの端子間には、端子間電圧を測定するために電圧計34が接続されている。負荷抵抗Rsの端子間電圧を測定することで、ソース電流ISを測定することができる。
接合型FET1としては、NXP社製のNチャンネル接合型FETである「JFET BF245 NXP」を用いた。「JFET BF245 NXP」は、シリコン半導体ベースの接合型FETである。高圧電源28としては、アジレント・テクノロジー社製の「6614C 50Wシステム電源」を用いた。この高圧電源の出力定格は、電圧が0V〜100Vであり、電流が0A〜0.5Aである。直流電源30としては、アジレント・テクノロジー社製の「E3646A 60Wデュアル出力電源」を用いた。この直流電源の出力定格は2出力あり、電流が3Aでの電圧が0V〜8Vであり、電流が1.5Aでの電圧が0V〜20Vである。
電圧計32、34としては、アジレント・テクノロジー社製の「34401A デジタル・マルチメータ」を用いた。この電圧計の分解能は6 1/2桁である。また、電圧計32、34としては、アドバンテスト社製の「R6452 デジタル・マルチメータ」も使用することができる。負荷抵抗Rs、負荷抵抗Rdは各々100kΩとした。測定器である電圧計32、34の入力インピーダンスは10MΩ以上であるため、測定された電流値の有効数字は2桁とした。
直流電源30の出力電圧を2.1V(アノード側での電位は−2.1V)とし、高圧電源28の出力電圧を0V〜70V(カソード側での電位は+0V〜+70V)の範囲で変化させて、ソース電流ISとドレイン電流IDとを測定した。図8は実験結果として得られたソース電流IS及びドレイン電流IDのDG間電圧依存性を示すグラフである。縦軸がソース電流ISとドレイン電流IDの電流値[mA]を表し、横軸がドレイン電極とゲート電極との間に印加される逆バイアス電圧の電圧値[V]を表す。なお、逆バイアス電圧の電圧値は、高圧電源28の出力電圧と、負荷抵抗Rdによる電圧降下とから算出される。
図8に示すグラフから読み取れるように、逆バイアス電圧の電圧値が0V〜約50Vの範囲では、増幅作用は見られず、ソース電流ISとドレイン電流IDとは略同じ大きさとなる。即ち、逆バイアス電圧がこの範囲では、接合型FET1は、通常の接合型FETとして機能している。一方、逆バイアス電圧の電圧値が約50V以上と高電圧が印加される範囲(網掛け部分)では、ドレイン電流IDがソース電流ISに比べて急激に増加し、なだれ増倍による電流増幅作用が得られていることが分かる。逆バイアス電圧が60Vのとき、約3倍の利得を得ることができた。
この結果は、上記の電流増幅実験において、電流増幅素子10に代えて接合型FET1を用い、SG電極間に順バイアス電圧を印加すると共に、DG電極間に高電圧の逆バイアス電圧を印加することで、接合型FET1が電流増幅素子10と同じ動作を行うことを示している。即ち、図9に示すように、上記の電流増幅実験は、図7の接合型FET1に代えて電流増幅素子10を用いた場合に、同様の結果が得られること示すものである。電流増幅素子10のコレクタ電極20、エミッタ電極22及びベース電極24の各々が、接合型FET1のドレイン電極、ソース電極及びゲート電極の各々に相当する。
上記の電流増幅実験によれば、電流増幅素子10のコレクタ電極20とベース電極24との間に印加される逆バイアス電圧VBCの電圧値が閾値以上の高電圧になると、コレクタ電流Icがエミッタ電流Ieに比べて急激に増加し、なだれ増倍による電流増幅作用が得られることが分かる。なお、負荷抵抗Rの添え字は、負荷抵抗が接続される電極に応じて付された符号に過ぎない。ドレイン側の「負荷抵抗Rd」、ソース側の「負荷抵抗Rs」の各々は、コレクタ側の「負荷抵抗Rc」、エミッタ側の「負荷抵抗Re」の各々に相当する。
接合型FET1として用いた「JFET BF245 NXP」は、シリコン半導体ベースの接合型FETであり、耐電圧は約70V程度である。即ち、市販の接合型FETは、高電圧を印加すると劣化して壊れてしまう。電流増幅素子10をシリコン半導体より高耐圧の半導体材料で構成することで、耐電圧を更に向上させて、高い電流増幅率を得ることができる。半導体材料は、単結晶半導体でもよく、化合物半導体でもよい。このような半導体材料としては、例えば、シリコンの外に、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、炭化ケイ素(SiC)、結晶性炭素(C)などが挙げられる。
<第2の実施の形態>
(電流増幅回路の概略構成)
図10は本発明の第2の実施の形態に係る電流増幅回路の構成を示す回路図である。図10に示すように、電流増幅回路40は、図1に示した構造の電流増幅素子10を用いて、フォトダイオード(PD)36の出力電流を増幅する電流増幅回路である。フォトダイオード36のn側電極(陽極)は、電流増幅素子10のエミッタ電極Eの端子に接続されている。フォトダイオード36のp側電極(陰極)は、負荷抵抗Reを介して直流電源30のアノード側に接続されている。
第2の実施の形態では、フォトダイオード36が高インピーダンス電流源に相当する。また、フォトダイオード36のp側電極は、コンデンサ38にも接続されている。これ以外の構成は、図2(A)に示した回路構成と同様であるため、同じ構成部分には同じ符号を付して説明を省略する。
フォトダイオード36は、入射光(hν)を吸収して光電流を発生させる光電流発生領域(図示せず)を備えている。例えば、pinフォトダイオードではi領域が光電流発生領域に相当し、アバランシェフォトダイオードでは、p−領域が光電流発生領域に相当する。フォトダイオード36のpn接合又はpin接合には、逆バイアス電圧が印加されている。逆バイアス電圧の印加により、光電流発生領域には電界が発生している。
フォトダイオード36に所定波長以上の光波が入射すると、光電流発生領域により光波が吸収されて、入射光の強さに応じたキャリア(電子とホール)を発生する。電子とホールは、光電流発生領域の電界により加速されて、電子はn側電極に流れ込み、ホールはp側電極に流れ込む。ホールがp側電極に流れ込むことで、発生した光電流に応じた電流が出力される。フォトダイオード36のp側電極から出力される光電流は微弱である。
一方、n側電極に流れ込んだ電子は、電流増幅素子10のエミッタ電極Eに注入される。エミッタ電極Eから注入された電子は、上述した通り、なだれ増倍によって増倍されて、コレクタ電極Cから取り出される。これにより、コレクタ電極Cに流入するコレクタ電流Icは、エミッタ電極Eから流出するエミッタ電流Ieよりも大きくなる。
即ち、フォトダイオード36のn側電極から取り出された電子が増倍されて、フォトダイオード36で発生した光電流が電流増幅素子10で増幅される。本実施の形態に係る電流増幅回路40では、第1の実施の形態と同様に、電流増幅素子10はリニアモード動作において電流増幅を行うことが可能である。電流増幅素子10で増幅された電流は、コレクタ電流Icとしてコレクタ電極Cに流れ込む。増幅電流は、負荷抵抗Rcとコレクタ電極Cとの間に接続された出力端子31から出力される。
また、背景技術として説明した通り、フォトダイオードから出力される光電流等、微弱電流の計測においては、電流-電圧(I-V)変換回路の抵抗によって発生する熱雑音が無視できないほど大きな雑音となり、S/Nを顕著に劣化させるという問題がある。本実施の形態に係る電流増幅回路40では、第1の実施の形態と同様に、電流増幅素子10がなだれ増倍を利用して電流を直接増幅するため、熱雑音の影響を低減して計測電流のS/Nを向上させることができる。
例えば、信号電流をis、熱雑音をitとすると、なだれ増倍による電流増幅前のS/N(before)は下記式(1)で表される。
S/N(before)=is 2/(is 2+it 2) 式(1)
これに対し、なだれ増倍による電流増幅後のS/N(after)は、電流増幅率をM(倍)として、下記式で表される。
S/N(after)=M2is 2/(M2is 2+it 2) 式(2)
上記式(2)から分かるように、電流増幅率Mの値が十分大きくなれば、it 2の項は無視できるほど小さくなる。従って、なだれ増倍による電流増幅の手法は、熱雑音が問題となるような微弱電流の計測において絶大な効果を発揮することができる。従って、本実施の形態の電流増幅回路は、光通信等で利用されている1.0μm〜1.7μmの長波長帯で使用可能な、ゲルマニウム(Ge)を用いたフォトダイオードの光電流の増幅にも用いることができる。
(電流増幅回路の設計例)
図11(A)は第2の実施の形態に係る電流増幅回路の実用的な設計例を示す概略図である。図11(A)に示す回路構成は、図10に示す回路構成とは異なり、コレクタ電流をオペアンプにより増幅し電圧信号に変換して取り出せるように設計されている。また、ベース電極を接地せずに、電流増幅素子にバイアス電圧を印加している。なお、図10に示した回路構成と同じ構成部分には、同じ符号を付して説明を省略する。
図11(A)に示すように、電流増幅素子10のコレクタ電極Cの端子は、負荷抵抗Rcを介して出力端子42に接続されている。負荷抵抗Rcには、電流-電圧(I-V)変換回路であるトランスインピーダンス増幅回路(TIA)43を構成するように、オペアンプ41が並列に接続されている。オペアンプ41の負入力端子は、負荷抵抗Rcとコレクタ電極Cとの間にあるノードに接続され、正入力端子は接地されている。従って、コレクタ電流Icが増幅され電圧に変換されて、出力端子42からは対応する電圧信号が出力される。
電流増幅素子10のエミッタ電極Eの端子は、フォトダイオード36のn側電極(陽極)に接続されている。フォトダイオード36のp側電極(陰極)は、負荷抵抗Reを介して高圧電源28のアノード側に接続されている。同時に、高圧電源28のカソード側が接地されて、コレクタ電極Cと同電位とされている。また、フォトダイオード36のp側電極は、コンデンサ38にも接続されている。
電流増幅素子10のベース電極Bの端子は、直流電源30のアノード側に接続されている。同時に、直流電源30のカソード側が接地されて、コレクタ電極Cと同電位とされている。これにより、CB間に逆バイアス電圧Vrが印加されると共に、EB間に順バイアス電圧Vfが印加される。
ここで、負荷抵抗Rc、負荷抵抗Reは各々100kΩとする。コレクタ電極Cの電位Vcを0Vとする。高圧電源28のカソード側の電位Vhを−65.6Vとする。直流電源30のアノード側の電位、即ちベース電極Bの電位Vbを−60Vとする。フォトダイオード36としては、アバランシェ効果によるなだれ増倍を行うアバランシェフォトダイオード(APD)を用いる。以下では「APD36」とも称する。APDの逆バイアス電圧Vpは5Vとする。上記の条件下では、逆バイアス電圧Vrは60Vであり、順バイアス電圧Vfは0.6Vである。
図11(B)は図11(A)に示す電流増幅回路の増幅機能を示す簡略図である。図11(B)に示すように、この電流増幅回路は、ノード37と出力端子42との間に、APD36、LAT10、及びTIA43が直列に接続されたものである。APD36は、なだれ増倍を行う第1段目の増幅器であり、その電流増幅率をM1とする。LAT10は、なだれ増倍を行う第2段目の増幅器であり、その電流増幅率をM2とする。TIA43は、トランスインピーダンス増幅回路であり、第3段目の増幅器である。
なだれ増倍を利用して電流を直接増幅する増幅機能にだけ着目する。例えば、APD36による電流増幅率M1を10倍、電流増幅素子(LAT)10による電流増幅率M2を10倍とすると、コレクタ電流Ic及びAPD36で発生した光電流から算出される電流増幅率Mは、M1×M2であり100倍となる。
このように、APD36で発生した微弱な光電流は、APDのアバランシェ効果により10倍に増幅され、更に電流増幅素子10で100倍にまで増幅されて、大きなコレクタ電流Icが得られる。コレクタ電流Icは更にTIA43で増幅され電圧に変換されて、出力端子42からは対応する電圧信号が出力される。この通り、トランスインピーダンス増幅回路TIA43の抵抗Rcにより熱雑音が発生する前に、なだれ増倍を利用して電流を直接増幅するため、熱雑音の影響を低減して出力信号のS/Nを向上させることができる。
ここで、なだれ増倍を利用した電流増幅素子に特有の「過剰雑音」の発生原因と、「過剰雑音」の低減方法とについて説明する。背景技術として指摘した通り、なだれ増倍を利用した電流増幅素子は、増幅過程での過剰雑音が大きく、直列に接続するとこの過剰雑音が増幅され、出力信号のS/Nが低下する要因となる。
図12(A)は過剰雑音係数の有効電離衝突係数比への依存性を示すグラフである。縦軸は過剰雑音係数Fであり、横軸は電流増幅率M(倍)である。過剰雑音係数Fは、電流増幅率Mのゆらぎとして定義されるものであり、電流増幅率Mを用いて下記式(3)で表される。また、過剰雑音係数Fは、電流増幅率M及び有効電離衝突係数比keffを用いて下記式(4)で表される。
なだれ増幅過程では、衝突電離(インパクトイオン化)の繰り返しによりキャリアの数は加速度的に増大する。即ち、有効電離衝突係数比keffが大きくなる。図12(A)に示すように、有効電離衝突係数比keffが大きくなった結果として、電流増幅率Mに対する過剰雑音係数Fは急激に増加するようになる。
図12(B)はLATの雑音を評価するための計算モデルを表す概略図である。LATのコレクタC、エミッタE及びベースBの各々は、負荷抵抗を備えている。BE各々の負荷抵抗の間には寄生容量が存在し、CE各々の負荷抵抗の間には寄生容量が存在する。LATでは、ベースBに流れ出すベース電流Ib、コレクタCから流れ込むコレクタ電流Ic(信号成分)の外に、種々の雑音性電流(ノイズ成分)が流れる。CE間に流れる雑音性電流としては、熱雑音In1、暗電流In2、過剰雑音In3がある。なだれ増倍過程では、このうち過剰雑音In3が大きくなり、出力信号のS/Nを低下させる。
図13(A)〜(C)はなだれ増倍を利用した電流増幅素子を複数直列に接続した場合の電流増幅率及びSNRの最適化の方法を説明する図である。図13(A)は3つの増幅器が複数直列に接続される様子を示す図である。例えば、図11(B)に示したように、なだれ増倍を行う第1段目の増幅器APD36、なだれ増倍を行う第2段目の増幅器LAT10、及びトランスインピーダンス増幅回路である第3段目の増幅器TIA43が、直列に接続された電流増幅回路を想定している。第1段目の増幅器の電流増幅率はM1、第2段目の増幅器の電流増幅率はM2である。
ここで、第1段目の増幅器及び第2段目の増幅器の有効電離衝突係数比keffを0.4とし、暗電流Idを0.03pA(ピコアンペア)とする。また、第3段目の増幅器TIAのアンプ雑音Inoiseは一定であり、その大きさは2μA(マイクロアンペア)とする。図13(B)及び(C)は、この条件下で計算した信号電流、電流増幅率及びSNRの関係である。第2段目の増幅器であるLATの計算モデルとしては、図12(B)に示す計算モデルを用いている。
図13(B)は第3段目の増幅器TIAに入力される信号電流に対する電流増幅率及びSNRを表すグラフである。横軸は信号電流Isignal(A)である。縦軸(左側)は電流増幅率M(倍)であり、縦軸(右側)はSNRの評価値Snoptである。ここで、信号電流Isignalは、1.00E−9から1.00E−6まで変化する。なお、「1.00E−9」との対数表記は、1×e−9を表す。SNRの評価値とは、TIAの出力電圧における信号成分Vsのノイズ成分Vnに対する比(Vs/Vn)である。
図13(B)から分かるように、SNRの評価値Snoptは、信号電流Isignalの増加に従って急増する。一方、信号電流Isignalが変化しても、第1段目の増幅器の電流増幅率M1は約11倍、第2段目の増幅器の電流増幅率M2は約100倍と一定である。第1段目の増幅器及び第2段目の増幅器による電流増幅率は、M1×M2であり1100倍となる。
図13(C)は電流増幅率M1、電流増幅率M2及びSNRの関係を3次元で表すグラフである。ここで、信号電流Isignalは、1.00E−9で一定である。このグラフを用いて、SNRが最も高くなるように、電流増幅率M1と電流増幅率M2の値を最適化することができる。
グラフからも分かるように、第1段目の増幅器の電流増幅率M1が約11倍、第2段目の増幅器の電流増幅率M2が約100倍の場合に、SNRが最も高くなる。即ち、なだれ増倍を利用した第1段目の増幅器及び第2段目の増幅器を直列に接続する場合に、第1段目の増幅器の電流増幅率M1を、第2段目の増幅器の電流増幅率M2より低く設定することで、なだれ増倍過程での過剰雑音を最も低減して最大のSNRを得ることができる。
図14(A)〜(C)は電流増幅素子を複数直列に接続した場合の電流増幅率及びSNRの最適化方法を一般化する図である。図14(A)では、第1段目の増幅器APD及び第2段目の増幅器TIAが直列に接続されている。図14(B)では、第1段目の増幅器APD、第2段目の増幅器LAT及び第3段目の増幅器TIAが直列に接続されている。図14(C)では、第1段目の増幅器APD、第2段目の増幅器LAT、第3段目の増幅器LAT及び第4段目の増幅器TIAが直列に接続されている。
ここで、第1段目の増幅器APDの電流増幅率をM1とし、過剰雑音係数をF1とする。第2段目の増幅器LATの電流増幅率をM2とし、過剰雑音係数をF2とする。また、第3段目の増幅器をLATとした場合の、第3段目の増幅器LATの電流増幅率をM3とし、過剰雑音係数をF3とする。
第1段目の増幅器APDとしては、低ノイズのInGaAs系のAPDを用いる場合を想定した。InGaAs系のAPDの暗電流Idは1nA(ナノアンペア)である。なだれ増倍による増幅器の有効電離衝突係数比keffを0.4とし、増幅器TIAのアンプ雑音Inoiseを0.2μAとする。この条件下で電流増幅率及びSNRを最適化した結果を示すのが、図14(A)〜(C)に示すグラフである。
図14(A)のように、APD及びTIAが直列に接続された場合には、信号電流Isignalが変化しても、第1段目の増幅器の電流増幅率M1は約37倍と略一定である。図14(B)のように、APD、LAT及びTIAが直列に接続された場合には、信号電流Isignalが変化しても、第1段目の増幅器の電流増幅率M1は約5倍と略一定であり、第2段目の増幅器の電流増幅率M2は約19倍と略一定である。
図14(C)のように、APD、2個のLAT及びTIAが直列に接続された場合には、信号電流Isignalが変化しても、第1段目の増幅器の電流増幅率M1は約2.5倍と略一定であり、第2段目の増幅器の電流増幅率M2は約4.5倍と略一定であり、第3段目の増幅器の電流増幅率M3は約11倍と略一定である。
これらの結果からも分かるように、なだれ増倍を利用した複数の増幅器を直列に接続する場合には、前段の増幅器の電流増幅率を、後段の増幅器の電流増幅率より低く設定することで、なだれ増倍過程での過剰雑音を最も低減して最大のSNRを得ることができる。例えば、なだれ増倍を利用して3段階で増幅する場合には、初段を最も低く、次段を次に低く、最終段を最も高く設定することで、過剰雑音を低減して最大のSNRを得ることができる。
<第3の実施の形態>
(電流増幅回路の概略構成)
図15(A)は本発明の第3の実施の形態に係る電流増幅回路の構成を示す回路図である。図15(A)に示すように、電流増幅回路50は、図1(A)及び(B)に示した構造の電流増幅素子10を多段(図では2段)に直列接続して、APD36の出力電流を増幅する電流増幅回路である。
図15(A)に示す回路構成は、図11(A)に示す回路構成とは異なり、2段の電流増幅素子により増幅されたコレクタ電流を、出力として取り出せるように設計されている。図15(B)は図15(A)に示す電流増幅回路の増幅機能を示す簡略図である。図11(A)及び(B)に示した回路構成と同じ構成部分には、同じ符号を付して説明を省略する。
電流増幅回路50は、フォトダイオード36とTIA43との間に、第1段目の電流増幅素子101と、第2段目の電流増幅素子102とを備えている。第1段目の電流増幅素子101と第2段目の電流増幅素子102とは直列に接続されている。フォトダイオード36側が上流側であり、第1段目の電流増幅素子101はフォトダイオード36側に配置され、第2段目の電流増幅素子102はTIA43側に配置されている。
フォトダイオード36のn側電極(陽極)は、第1段目の電流増幅素子101のエミッタ電極Eに接続されている。フォトダイオード36のp側電極(陰極)は、コンデンサ381の一方の電極に接続されると共に、コンデンサ381の他方の電極は接地されている。フォトダイオード36とコンデンサ381との間にはノード37が設けられている。ノード37は、負荷抵抗Re1を介して高圧電源281のアノード側に接続されている。同時に、高圧電源281のカソード側が接地されている。
また、第1段目の電流増幅素子101のコレクタ電極Cと、第2段目の電流増幅素子102のエミッタ電極Eとの間には、ノードが設けられている。このノードには、負荷抵抗Re2を介して高圧電源282が接続されている。高圧電源281と同様に、高圧電源282のカソード側は接地されている。また、このノードには、コンデンサ382の一方の電極が接続されている。同時に、コンデンサ382の他方の電極は接地されている。
第1段目の電流増幅素子101のベース電極Bは、直流電源301のアノード側に接続されている。同時に、直流電源301のカソード側が接地されて、コレクタ電極Cと同電位とされている。これにより、CB間に逆バイアス電圧Vr1が印加されると共に、EB間に順バイアス電圧Vf1が印加される。
また、第2段目の電流増幅素子102のベース電極Bは、直流電源302のアノード側に接続されている。同時に、直流電源302のカソード側が接地されて、コレクタ電極Cと同電位とされている。これにより、CB間に逆バイアス電圧Vr2が印加されると共に、EB間に順バイアス電圧Vf2が印加される。バイアス電圧等の詳細な数値は記載しないが、第2段目の電流増幅素子102の逆バイアス電圧Vr2を、第1段目の電流増幅素子101の逆バイアス電圧Vr1よりも大きくすることで、第2段目の電流増幅素子102による増幅が可能となる。
フォトダイオード36のn側電極(陽極)は、第1段目の電流増幅素子101のエミッタ電極Eに接続されている。第1段目の電流増幅素子101のコレクタ電極Cにはコレクタ電流Ic1が流れ込み、エミッタ電極Eからはエミッタ電流Ie1が流れ出す。また、第2段目の電流増幅素子102のコレクタ電極Cにはコレクタ電流Ic2が流れ込み、エミッタ電極Eからはエミッタ電流Ie2が流れ出す。なお、電流増幅素子102のエミッタ電流Ie2は、電流増幅素子101のコレクタ電流Ic1に相当する。
第2段目の電流増幅素子102のコレクタ電極Cは、負荷抵抗Rcを介して出力端子42に接続されている。負荷抵抗Rcには、第2段目の電流増幅素子102のコレクタ電流Ic2が流れる。TIA43によりコレクタ電流Ic2が増幅され電圧に変換されて、出力端子42からは対応する電圧信号が出力される。
図15(B)は図15(A)に示す電流増幅回路の増幅機能を示す簡略図である。図15(B)に示すように、この電流増幅回路は、ノード37と出力端子42との間に、第1段目の増幅器APD36(電流増幅率M1)、第2段目の増幅器LAT101(電流増幅率M2)、第3段目の増幅器LAT102(電流増幅率M3)、及び第4段目の増幅器TIA43が、直列に接続されたものである。
なだれ増倍を利用して電流を直接増幅する増幅機能にだけ着目する。例えば、APD36による電流増幅率M1を10倍、LAT101による電流増幅率M3及びLAT102による電流増幅率M3を各10倍とすると、コレクタ電流Ic2及びAPD36で発生した光電流から算出される電流増幅率Mは、M1×M2×M3であり1000倍となる。
このように、APD36で発生した微弱な光電流は、APD36のアバランシェ効果により10倍に増幅され、更にLAT101及びLAT102で1000倍にまで増幅されて、大きなコレクタ電流Ic2が得られる。コレクタ電流Ic2は更にTIA43で増幅され電圧に変換されて、出力端子42からは対応する電圧信号が出力される。この通り、TIA43の抵抗Rcにより熱雑音が発生する前に、なだれ増倍を利用して電流を直接増幅するため、熱雑音の影響を低減して出力信号のS/Nを向上させることができる。
なお、上記では、なだれ増倍を利用した複数の増幅器(APD、2個のLAT及びTIA)の電流増幅率の各々を10倍としたが、上述した通り、なだれ増倍を利用した複数の増幅器を直列に接続する場合には、前段の増幅器の電流増幅率を、後段の増幅器の電流増幅率より低く設定することが好ましい。このような設定とすることで、なだれ増倍過程での過剰雑音を最も低減して、最大のSNRを得ることができる。
<第4の実施の形態>
図16(A)は本発明の第4の実施の形態に係る電流増幅回路の構成を示す回路図である。図16(B)は図16(A)に示す電流増幅回路の増幅機能を示す簡略図である。図16に示すように、電流増幅回路50Aは、第3の実施の形態と同様に、図1(A)及び(B)に示した構造の電流増幅素子10を多段(図では2段)に直列接続して、APD36の出力電流を増幅する電流増幅回路である。
図16(A)に示す回路構成は、図15(A)に示す回路構成とは異なり、2段の電流増幅素子により増幅されたコレクタ電流を、段階的に出力として取り出せるように設計されている。図15(A)に示した回路構成と同じ構成部分には、同じ符号を付して説明を省略する。
第1段目の電流増幅素子101には、第1のコレクタ電極C1と第2のコレクタ電極C2とが設けられている。第1のコレクタ電極C1は、第2段目の電流増幅素子102のエミッタ電極Eと接続されている。一方、第2のコレクタ電極C2は、負荷抵抗Rc1を介して出力端子421に接続されている。負荷抵抗Rcには、第1段目の電流増幅素子101のコレクタ電流Ic1が流れる。TIA431によりコレクタ電流Ic1が増幅され電圧に変換されて、出力端子421からは対応する電圧信号が出力される。
第2段目の電流増幅素子102のコレクタ電極Cは、負荷抵抗Rc2を介して出力端子422に接続されている。負荷抵抗Rc2には、第2段目の電流増幅素子102のコレクタ電流Ic2が流れる。TIA432によりコレクタ電流Ic2が増幅され電圧に変換されて、出力端子422からは対応する電圧信号が出力される。
図16(B)に示すように、第2段目の増幅器LAT101には、第1のコレクタ電極C1とは別に、第2のコレクタ電極C2が設けられている。第1のコレクタ電極C1との接続関係で見れば、この電流増幅回路は、ノード37と出力端子422との間に、第1段目の増幅器APD36、第2段目の増幅器LAT101、第3段目の増幅器LAT102、及び第4段目の増幅器TIA432が、直列に接続されたものである。また、第2のコレクタ電極C2との接続関係で見れば、この電流増幅回路は、ノード37と出力端子421との間に、第1段目の増幅器APD36、第2段目の増幅器LAT101、第3段目の増幅器TIA431が、直列に接続されたものである。
第3の実施の形態と同様に、APD36で発生した微弱な光電流は、APD36により増幅され、LAT101で増幅されてコレクタ電流Ic1が得られる。コレクタ電流Ic1は、TIA431により増幅され電圧に変換されて、出力端子421からは対応する電圧信号が出力される。また、コレクタ電流Ic1は、LAT102で更に増幅されてコレクタ電流Ic2が得られる。コレクタ電流Ic2は、TIA432により増幅され電圧に変換されて、出力端子422からは対応する電圧信号が出力される。
上記の通り、1段目の電流増幅素子101のコレクタ電流Ic1に対応する電圧信号を出力端子421から取り出し、2段目の電流増幅素子102のコレクタ電流Ic2に対応する電圧信号を出力端子422から取り出す。出力端子422から出力する検出信号は、出力端子421から出力する検出信号より大きい、即ち、後段の方が検出感度が高い。従って、このように段階的に検出信号を取り出すことで、増幅回路のダイナミックレンジを向上させることができる。
<第5の実施の形態>
(電流増幅素子の積層構造)
図17(A)は本発明の第5の実施の形態に係る電流増幅素子の積層構造を示す概略断面図である。図17(A)に示すように、電流増幅素子10Aは、図1に示す第1の実施の形態に係る電流増幅素子の積層構造とは異なり、半導体基板上に実装できるように、ドレイン電極を表面側に配置したものである。図1に示す電流増幅素子10の各部と同じ構成部分には、同じ符号にAを付して説明を省略する。
図17(A)に示すように、電流増幅素子10Aは、p型シリコン半導体層12Aを備えている。p型シリコン半導体層12Aの表面近傍には、n型拡散領域14A、n型拡散領域16A、及びp+型拡散領域18Aが形成されている。n型拡散領域14A、16Aとp型シリコン半導体層12Aとの間にpn接合が形成されている。n型拡散領域14A、n型拡散領域16A、及びp+型拡散領域18Aの各々は、p型シリコン半導体層12Aの主面に沿った方向(面方向)に離間して配置されている。
n型拡散領域14Aの表面には、電子収集電極(コレクタ電極)20Aが形成されている。n型拡散領域16Aの表面には、電子注入電極(エミッタス電極)22Aが形成されている。p+型拡散領域18Aの露出した表面には、ホール収集電極(ベース電極)24Aが形成されている。コレクタ電極20A、エミッタ電極22A、及びベース電極24Aの各々は、オーミック電極で構成されている。
なお、図17(A)及び(B)に示すように、コレクタ電極20Aには「C」、エミッタ電極22Aには「E」、ベース電極24Aには「B」の記号を併記する。または、コレクタ電極Cというように、各電極を各記号で略記する。
(電流増幅素子の動作原理)
図17(B)は第5の実施の形態に係る電流増幅素子の動作原理を説明する概念図である。動作原理は、図1に示す第1の実施の形態に係る電流増幅素子と基本的に同じであるため、以下では簡単に説明する。図17(B)に示すように、コレクタ電極20Aとベース電極24Aとの間に逆バイアス電圧を印加し、エミッタ電極22Aとベース電極24Aとの間に順バイアス電圧を印加する。逆バイアス電圧は、順バイアス電圧に比べて十分に高い電圧とする。
pn接合に逆バイアス電圧が印加されることで、p型シリコン半導体層12Aのp型領域には高電界が発生している。エミッタ電極22Aから注入された電子の一部は、電界が発生している領域に捉えられ、電界により加速される。このとき電界が十分に高電界であると、一部の電子は、格子点と衝突してキャリアを生成する。また、生成したキャリアの各々は、更に別の格子点と衝突して別のキャリアを生成する。
このなだれ増倍によって、電子とホールとが増倍され、コレクタ電極20Aからは増倍された多数の電子が取り出される。即ち、コレクタ電極20Aに流入するコレクタ電流Icは、エミッタ電極22Aから流出するエミッタ電流Ieよりも大きくなる。また、ベース電極24Aからは増倍されたホールが取り出されるので、ベース電流Ibも流れる。
(光検出デバイスの実装構造)
図18(A)は本発明の第5の実施の形態に係る光検出デバイスの実装構造の一部分を示す斜視図である。図18(A)に示すように、本実施の形態に係る光検出デバイス60は、APD36Aと、APD36Aの光電流を増幅するための電流増幅素子10Aと、を備えている。APD36Aと電流増幅素子10Aとは、同じSOI(Silicon On Insulator)基板62上に実装されている。
即ち、光検出デバイス60は、シリコン基板64上に、酸化シリコン(SiO2)絶縁膜66、及び単結晶シリコンからなるシリコン半導体層68が形成されたSOI基板62を用いて作製されている。シリコン半導体層68は、数nm〜数十nmの厚さで薄膜形成されている。本実施の形態では、シリコン基板64としてp型シリコン基板を用いている。また、以下では、シリコン基板64は、適宜、p型シリコン基板64と称する。また、酸化シリコン絶縁膜66は、適宜、絶縁膜66と略称する
APD36Aと電流増幅素子10Aとは、絶縁膜66上のシリコン半導体層68に形成されている。APD36Aと電流増幅素子10Aとは、SOI基板62の絶縁膜66上に離間して配置されていることで、絶縁膜66により互いに絶縁分離されている。このように、APD36Aと電流増幅素子10Aとを絶縁膜上に形成することで、両者をモノリシックに形成することが容易になる。また、APD36Aと電流増幅素子10Aとは、絶縁膜66により互いに絶縁分離されているので、各々に異なるバイアス電圧を印加することが容易になる。
なお、本実施の形態では、基板上に形成される複数の素子を絶縁分離するために、SiO2絶縁膜を備えたSOI基板を用いているが、サファイヤ基板等の他の絶縁性基板や、他の絶縁膜を備えた基板を用いることもできる。
また、シリコン半導体層68は、APD36Aと電流増幅素子10Aとを残して酸化され、APD36Aと電流増幅素子10Aの周囲には、酸化シリコンからなるLOCOS酸化膜70が形成されている。シリコン基板64の裏面には、例えばAl/Ni等により半田付け用の金属薄膜71が形成されている。
以下、図18(A)に基づいて実装構造を詳細に説明する。まず、APD36Aの構造について説明する。APD36Aは、シリコン半導体層68に、n型不純物を高濃度で拡散させた領域であるn+型拡散領域72、p型不純物を低濃度で拡散させた領域であるp−型拡散領域74、及びp型不純物を高濃度で拡散させた領域であるp+型拡散領域76を備えている。n+型拡散領域72、p−型拡散領域74、及びp+型拡散領域76の各々は、絶縁膜66とは反対側の表面にその一部が露出するように形成されている。また、n+型拡散領域72、p−型拡散領域74、及びp+型拡散領域76の各々は、電流増幅素子10Aの側から露出面がn+、p−、p+の順に並ぶように配置されている。
n+型拡散領域72の表面には、n側電極(陽極)78が形成されている。p+型拡散領域76の表面には、p側電極(陰極)80が形成されている。p−型拡散領域74の表面には、窒化ケイ素からなる絶縁性の薄膜82が形成されている。薄膜82は、受光する波長の光波に対し透明であり、反射防止膜として機能する。
次に、電流増幅素子10Aの構造について説明する。図17(A)を参照して説明した通り、電流増幅素子10Aは、p型シリコン半導体層12A、n型拡散領域14A、n型拡散領域16A、及びp+型拡散領域18Aを備えている。n型拡散領域14A、n型拡散領域16A、及びp+型拡散領域18Aの各々は、APD36Aの側から、p+型拡散領域18A、n型拡散領域16A、n型拡散領域14Aの順に並ぶように配置されている。n型拡散領域14Aの表面にはコレクタ電極20Aが形成され、n型拡散領域16Aの表面にはエミッタ電極22Aが形成され、p+型拡散領域18Aの表面にはベース電極24Aが形成されている。
ベース電極24Aの一部は、LOCOS酸化膜70で被覆されている。LOCOS酸化膜70上にベース電極24Aと交差するように架け渡された帯状の金属膜73により、電流増幅素子10Aのエミッタ電極22Aが、APD36Aのn側電極(陽極)78と、電気的に接続されている。
(光検出デバイスの動作原理)
図18(B)は第5の実施の形態に係る光検出デバイスの動作原理を説明する概念図である。光検出デバイス60の動作原理は、第2の実施の形態に係る電流増幅回路の動作原理と基本的には同じである。
APD36Aのp−型拡散領域74が、上述した光電流発生領域に相当する。APD36Aのpn接合には、n側電極78及びp側電極80により逆バイアス電圧が印加されている。逆バイアス電圧の印加により、光電流発生領域であるp−型拡散領域74には電界が発生している。APD36Aに入射した光波は、p−型拡散領域74に吸収されて、光電流(即ち、電子とホールからなるキャリア)が発生する。p−型拡散領域74で発生した電子は、電界によりドリフトして増倍領域に到達し、増倍領域の高電界により加速される。エネルギーを得た電子は、格子点と衝突してキャリアを生成し、なだれ増倍によってキャリアが増倍される。
増倍された電子は、n+型拡散領域72を通過してn側電極78に流れ込む。一方、増倍されたホールは、p−型拡散領域74を通過してp側電極80に流れ込む。ホールがp側電極に流れ込むことで、発生した光電流に応じた電流が出力される。なだれ増倍されていても、APD36Aのp側電極80から出力される光電流は、まだまだ微弱である。
一方、n側電極78に流れ込んだ電子は、矢印で示したように、金属膜73(図18(A)参照)を通過して、電流増幅素子10Aのエミッタ電極22Aに注入される。エミッタ電極22Aから注入された電子は、上述した通り、なだれ増倍によって増倍されて、コレクタ電極20Aから取り出される。これにより、コレクタ電極20Aに流入するコレクタ電流Icは、エミッタ電極22Aから流出するエミッタ電流Ieよりも大きくなる。即ち、APD36Aのn側電極78から取り出された電子が増倍されて、APD36Aのp−型拡散領域74で発生した光電流が、電流増幅素子10Aで増幅される。電流増幅素子10Aで増幅された電流は、コレクタ電流Icとしてコレクタ電極20Aに流れ込む。
このように、APD36で発生した微弱な光電流は、APD36のアバランシェ効果により増幅されると共に、電流増幅素子10Aで更に増幅されて、大きな増幅電流を得ることができる。この通り、抵抗により熱雑音が発生する前に、なだれ増倍を利用して電流を直接増幅するため、熱雑音の影響を受けることなく出力信号のS/Nを向上させることができる。
また、第3及び第4の実施の形態と同様に、電流増幅素子を多段に設けてもよい。第3及び第4の実施の形態と同様に2段の場合について説明する。図19に示すように、光検出デバイス90は、APD36Aと、APD36Aの光電流を増幅するための電流増幅素子10A1、10A2と、を備えている。APD36Aと電流増幅素子10A1及び10A2とは、同じSOI基板62上に実装されている。APD36A側が上流側であり、第1段目の電流増幅素子10A1はAPD36A側に配置され、第2段目の電流増幅素子10A2は電流増幅素子10A1の下流側に配置されている。
APD36Aと電流増幅素子10A1との接続関係は、図18(A)と同様であり、ベース電極24A1の一部は、LOCOS酸化膜70で被覆されている。LOCOS酸化膜70上にベース電極24A1と交差するように架け渡された帯状の金属膜731により、電流増幅素子10A1のエミッタ電極22A1が、APD36A1のn側電極(陽極)78と、電気的に接続されている。
また、図19に示すように、ベース電極24A2の一部は、LOCOS酸化膜70で被覆されている。LOCOS酸化膜70上にベース電極24A2と交差するように架け渡された帯状の金属膜732により、電流増幅素子10A1のコレクタ電極20A1が、電流増幅素子10A2のエミッタ電極22A2と、電気的に接続されている。
上記の構成により、第3及び第4の実施の形態と同様に、APD36Aで発生した微弱な光電流は、APD36Aにより増幅されると共に、多段に設けられた複数の電流増幅素子で更に増幅されて、大きな増幅電流を得ることができる。なお、上述した通り、なだれ増倍を利用した複数の増幅器を直列に接続する場合には、前段の増幅器の電流増幅率を、後段の増幅器の電流増幅率より低く設定することが好ましい。このような設定とすることで、なだれ増倍過程での過剰雑音を最も低減して、最大のSNRを得ることができる。
また、第3及び第4の実施の形態で説明した通り、第2段目の電流増幅素子10A2の逆バイアス電圧は、第1段目の電流増幅素子10A1の逆バイアス電圧よりも大きくする必要がある。本実施の形態では、APD36A、電流増幅素子10A1及び電流増幅素子10A2は、同じSOI基板62上にモノリシックに実装されているが、絶縁膜66により互いに絶縁分離されているので、各々に異なるバイアス電圧を印加することが容易である。また、電流増幅素子10A1及び電流増幅素子10A2は、絶縁分離されてモノリシックに実装されているので、電流増幅素子毎に温度補償回路を設けることが容易になる。
<変形例>
なお、上記の第1〜第5の実施の形態では、電流増幅素子(LAT)は、p型シリコン半導体層を備えており、p型シリコン半導体層の表面近傍に2つのn型拡散領域を形成すると共に、p型シリコン半導体層の表面又は裏面の近傍にp+型拡散領域を形成する例について説明したが、p型とn型を反転させてもよい。即ち、n型シリコン半導体層の表面近傍に2つのp型拡散領域を形成すると共に、n型シリコン半導体層の表面又は裏面の近傍にn+型拡散領域を形成することもできる。この場合には、電子とホールとが反転し、一方のp型拡散領域の表面に、ホール収集電極を形成し、他方のp型拡散領域の表面にホール注入電極を形成し、n+型拡散領域の表面に電子収集電極を形成する。
また、上記の第1〜第5の実施の形態では、電流増幅素子(LAT)は、p型シリコン半導体層の表面近傍に形成された2つのn型拡散領域と、p型シリコン半導体層の表面又は裏面に形成されたp+型拡散領域と、を備える例について説明したが、背景技術で説明したSIMデバイスと称される電流増幅素子(図20を参照)を代わりに用いても同様の増幅効果を得ることができる。但し、SIMデバイスでは、ショットキー電極を用いているために、本発明のように再現性・信頼性に優れる電流増幅素子、電流増幅回路、及び光検出デバイスを実現することはできない。
また、上記の第5の実施の形態では、SOI基板を有効に利用するために、シリコン半導体を用いたフォトダイオードの光電流を直接に電流増幅する例について説明したが、本発明の電流増幅素子及び電流増幅回路は、光通信等で利用されている1.0μm〜1.7μmの長波長帯で使用可能な、ゲルマニウム(Ge)を用いたフォトダイオードの光電流の増幅にも用いることができる。また、本発明の電流増幅素子及び電流増幅回路は、フォトダイオード等の光検出器に限らず、微弱電流を検出する系の電流増幅に適宜適用することができる。