以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
(電流増幅素子の基本的な構造)
まず、本発明の実施の形態に係る電流増幅素子の基本的な構造について説明する。図1(A)は本実施の形態に係る電流増幅素子の模式的な構造を示す概略断面図である。図1(B)は図1(A)に示す電流増幅素子を表す回路記号である。本実施の形態に係る電流増幅素子は、リニアモードで動作するnpn型のアバランシェバイポーラトランジスタである。以下では、適宜、リニアモード・アバランシェ・トランジスタを「LAT」と略称する。
図1(A)に示すように、電流増幅素子(LAT)10は、p型シリコン半導体層12を備えている。以下の説明では、p型シリコン半導体層12の図面上側の面を「表(おもて)面」又は「主面」と称し、図面下側の面を「裏面」と称する。また、「表面近傍(又は裏面近傍)」とは、表面(又は裏面)から所定深さまでの領域である。例えば、p型シリコン半導体層12として、約300μmの厚さのシリコンウェハを用いる場合には、約1μm以下の深さまでの領域である。
p型シリコン半導体層12の表面近傍には、リン(P)や砒素(As)等のn型不純物を低濃度で拡散させた領域であるn型拡散領域14とn型拡散領域16とが形成されている。これらn型拡散領域14、16とp型シリコン半導体層12との間にpn接合が形成されている。n型拡散領域14とn型拡散領域16とは、p型シリコン半導体層12の主面に沿った方向(面方向)に離間して配置されている。一方、p型シリコン半導体層12の裏面近傍には、ホウ素(B)ガリウム(Ga)等のp型不純物を高濃度で拡散させた領域であるp+型拡散領域18が層状に形成されている。
n型拡散領域14の表面には、電子収集電極(コレクタ電極)20が形成されている。一方、n型拡散領域16の表面には、電子注入電極(エミッタ電極)22が形成されている。p+型拡散領域18の露出した表面には、ホール収集電極(ベース電極)24が形成されている。電子収集電極20、電子注入電極22、及びホール収集電極24の各々は、シリコン半導体に対しオーミック接合されたオーミック電極とされている。電子収集電極20、電子注入電極22、及びホール収集電極24の各々は、例えば、アルミニウム等の金属膜で形成することができる。
なお、図1(B)に回路記号で図示したように、本実施の形態に係る電流増幅素子は「npn型のアバランシェバイポーラトランジスタ」である。従って、以下の説明では、括弧内に併記した通り、電子収集電極20を「コレクタ電極20」、電子注入電極22を「エミッタ電極22」、ホール収集電極24を「ベース電極24」と称する。コレクタ電極20に流入する電流がコレクタ電流Icであり、エミッタ電極22から流出する電流がエミッタ電流Ieである。後述する通り、コレクタ電流Icがエミッタ電流Ieに対して増幅される。
また、図1(A)及び(B)に図示したように、コレクタ電極20には「C」、エミッタ電極22には「E」、ベース電極24には「B」の記号を併記する。または、コレクタ電極Cというように、各電極を各記号で略記する。また、コレクタ電極20、エミッタ電極22、及びベース電極24の各々からは、接続端子が引き出されている。しかしながら、接続端子と電極とを区別する必要が無い場合には、対応する接続端子も含めて、各電極をコレクタ電極20、エミッタ電極22及びベース電極24と称する。
本実施の形態に係る電流増幅素子10は、エミッタ電極22をオーミック接合すると共に、p型シリコン半導体層12とn型拡散領域16との間のpn接合を介して電子を注入するので、キャリアの注入にショットキー電極を用いるデバイスと比較して、再現性・信頼性に優れており、製品化等の実用的な用途にも用いることができる。また、CMOS製造工程により製造可能であるため、CMOS回路との併設が容易になる。
なお、電流増幅素子10を、シリコン(Si)半導体より高耐圧の半導体材料で構成することで、耐電圧を更に向上させて、更に高い電流増幅率を得ることができる。半導体材料は、単結晶半導体でもよく、化合物半導体でもよい。このような半導体材料としては、例えば、シリコンの外に、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、炭化ケイ素(SiC)、結晶性炭素(C)などが挙げられる。
(電流増幅素子の増幅原理)
図2(A)及び(B)は本実施の形態に係る電流増幅素子の増幅原理を説明する概念図である。電流増幅素子10のpn接合は整流特性を示すpnダイオードである。図2(A)に示すように、コレクタ電極20とベース電極24との間に逆バイアス電圧を印加し、エミッタ電極22とベース電極24との間に順バイアス電圧を印加する。逆バイアス電圧は、後述する「なだれ増倍」を誘起するために、上記pnダイオードの一次降伏電圧(ブレークダウン電圧)以上とする。その結果、逆バイアス電圧は、順バイアス電圧に比べて十分に高い電圧となる。
pn接合に逆バイアス電圧が印加されることで、p型シリコン半導体層12のp型領域には高電界が発生している。複数の点線は、この電界の電位分布を表す等電位線である。図2(B)に示すように、エミッタ電極22下のn型拡散領域16の周囲に拡がるように空乏層26が形成されている。エミッタ電極22から注入された電子は、p型シリコン半導体層12とn型拡散領域16との間のpn接合を介して、p型シリコン半導体層12のp型領域に注入される。当初、エミッタ電極22から注入された電子の大半は、順バイアスに従ってベース電極24の方向に向かう。
しかしながら、エミッタ電極22から注入された電子の一部は、高電界が発生している領域に捉えられ、高電界により加速される。一部の電子は、電界が発生している領域に捉えられ、電界により加速される。このとき、キャリアの得るエネルギーが禁制帯幅エネルギー程度になるように、十分な高電界が発生していると、一部の電子は格子点に衝突して一対のキャリア(電子とホール)を生成する。この現象は衝突電離(インパクトイオン化)と称される。
このようにして生成されたキャリアの各々は、更に別の格子点に衝突して別のキャリアを生成する。上記の衝突電離の繰り返しによりキャリアの数は加速度的に増大する。キャリアが加速度的に増大する様子は、キャリアの「なだれ」といえることから、この現象は「なだれ増倍」と称される。このなだれ増倍によって、電子とホールとが増倍される。また、「なだれ増倍」に起因する降伏は、「なだれ降伏(アバランシェ・ブレークダウン)」と称される。
特に、シリコン半導体では、電子の衝突で主に電子が電離するので、雑音の少ないなだれ増倍が可能である。本実施の形態に係る電流増幅素子10は、このなだれ増倍を利用して電流を直接増幅することができるため、抵抗を含む従来の電流増幅素子と比較して、熱雑音の影響を受けることなくS/Nを向上させることが可能となる。
増倍された電子はコレクタ電極20から取り出され、増倍されたホールはベース電極24から取り出される。ベース電極24からはベース電流Ibが流出する。上記のなだれ増倍により、エミッタ電極22に注入された電子に比べ、コレクタ電極20からは増倍された多数の電子が取り出される。即ち、コレクタ電極20に流入するコレクタ電流Icは、エミッタ電極22から流出するエミッタ電流Ieよりも大きくなる。電流増幅素子10の電流増幅率は、下記式で定義することができる。
電流増幅率=コレクタ電流Ic÷エミッタ電流Ie
また、ベース電流Ib、エミッタ電流Ie、及びコレクタ電流Icの間には、下記の関係が成立する。
ベース電流Ib=エミッタ電流Ie+コレクタ電流Ic
ここでバイアス電圧を印加するための回路構成の一例を説明する。図2(A)に示すように、エミッタ電極22とベース電極24との間に順バイアス電圧を印加する場合には、エミッタ電極22の端子を、負荷抵抗Reを介して直流電源30のアノード側に接続し且つ直流電源30のカソード側を接地する。同時に、ベース電極24の端子を接地して、直流電源30のカソード側と同電位にする。これにより、エミッタ電極22の端子電位を−Vとする。
一方、コレクタ電極20とベース電極24との間に逆バイアス電圧を印加する場合には、コレクタ電極20の端子を、負荷抵抗Rcを介して高圧電源28のカソード側に接続し且つ高圧電源28のアノード側を接地する。同時に、ベース電極24の端子を接地して、高圧電源28のアノード側と同電位にする。これにより、コレクタ電極20の端子電位を+Vとする。
本実施の形態では、コレクタ電極20の端子電位とエミッタ電極22の端子電位との電位差2Vが、50[V(ボルト)]以上になるように、高電圧の逆バイアス電圧を印加する。例えば、高圧電源28による印加電圧を70V(+V=+70V)とし、直流電源30による印加電圧を2.1V(−V=−2.1V)とすることができる。
なお、電流増幅素子10の素子構造は、ドレイン電極とゲート電極との間(GD間)にpn接合が形成されると共に、ソース電極とゲート電極との間(GS間)にpn接合が形成された「Nチャンネル接合型FET」と類似している。しかしながら、接合型FETは、GD間及びGS間の両方に逆バイアス電圧を印加する素子である。即ち、ゲート電極に負電圧VGを印加して、負電圧VGに応じてゲート電極下のチャネルに流れる電流量を増減しているだけである。ドレイン電極に流入するドレイン電流IDを、ソース電極から流出するソース電流ISに対して増幅するような、電流増幅機能は備えていない。
これに対し、本実施の形態に係る電流増幅素子10は、コレクタ電極20とベース電極24との間(CB間)に「逆バイアス電圧(高電圧)」を印加し、エミッタ電極22とベース電極24との間(EB間)に「順バイアス電圧」を印加することで、コレクタ電極20に流入するコレクタ電流Icを、エミッタ電極22から流出するエミッタ電流Ieに対して増幅するものであり、動作及び駆動方法が接合型FETとは全く異なっている。
(電流増幅素子のリニアモード動作)
図3(A)及び(B)は本実施の形態に係る電流増幅素子がリニアモード動作する原理を説明する図である。ここでは、図3(A)に示すように、トランジスタである電流増幅素子10に関し、ベース電極(B)の端子を接地して、コレクタ電極(C)とベース電極(B)との間に逆バイアス電圧Vcbを印加する。即ち、コレクタ電極とベース電極との間の電圧(C-B間電圧)がVcbである。また、ベース電流Ib、エミッタ電流Ie、及びコレクタ電流Icの流れる方向を、矢印で図示した方向とする。
上述した通り、電流増幅率は、コレクタ電流Icのエミッタ電流Ieに対する比率(Ic/Ie)であり、一般に「利得(Gain)」と呼ばれる。これに対し、コレクタ電流Icのベース電流Ibに対する比率(Ic/Ib)は、一般に「直流電流増幅率(hfe)と呼ばれ、「利得(Gain)」とは区別される。図3(B)は、本実施の形態に係る電流増幅素子10について、C−B間電圧Vcbに対する「利得(Gain)」及び「直流電流増幅率(hfe)」の挙動を図示したグラフである。換言すれば、本実施の形態に係る電流増幅素子10は、印加するバイアス電圧や回路構成を含めて、Vcbに対し図示した挙動を示すように設計されている。
hfeは、Vcbがブレークダウン電圧(図では約10V)の前後において、急激に増加した後に急激に減少する「異常変化」を示す。Vcbがブレークダウン電圧を超えると、hfeは略一定に保たれる。これに対し、電流増幅率、即ち、Gainは、「なだれ増倍」が暴走し始める電圧(図では約30V)までは単調に増加し、暴走が開始すると急激に減少する。
一方、GainがVcbに対し単調に増加する範囲では、電流増幅素子10はリニアモードで動作しており、VcbによりGainを制御することが可能である。従って、Vcbがブレークダウン電圧を超えた後も「なだれ増倍」を持続させることができ、リニアモード動作において電流増幅を行うことが可能になる。即ち、線形増幅領域(リニアモード)で動作するアバランシェ・トランジスタが、リニアモード・アバランシェ・トランジスタ(LAT)である。
本実施の形態に係る電流増幅素子10は、リニアモード動作が可能である点に特徴がある。この点で、図4(A)〜(C)に示すように、ガイガーモード動作しかできないSEBATとは相違している。SEBATでは、Vcbがブレークダウン電圧を超えると「なだれ増倍」が暴走し始め、アバランシェクエンチ回路により「なだれ増倍」が停止される。従って、ガイガーモード動作では、1回の「なだれ増倍」の間にエミッタから注入される電子は1個である。これに対し、リニアモード動作では、1回の「なだれ増倍」の間にエミッタから次々と電子が注入され、所望の電流増幅率を得ることができる。
従って、LATのリニアモード動作において過剰雑音を低減することができれば、微小電流量の評価においても、高い感度(高いS/N)と応答速度の速さとを両立させることができる。換言すれば、LATの過剰雑音を低減することで、SEBATでは実現できない高感度で且つ高速応答が可能な電流計測器を実現することができる。接合容量を小さくすることで、ギガヘルツ(GHz)レベルでの高速応答が可能となる。なお、過剰雑音を低減可能なLATの具体的な構造については、後で詳細に説明する。
リニアモード動作が可能な設計の一例としては、トランジスタのエミッタ電極(E)に高インピーダンス電流源を接続した回路構成を挙げることができる。例えば、図2(A)に示す構成では、エミッタ電極22に接続されるインピーダンス電流源を、高インピーダンス電流源とすることができる。高インピーダンス電流源としては、フォトダイオードなどの微弱電流を発生する光検出器などが挙げられる。なお、リニアモード動作をせずに「なだれ増倍」が暴走した場合には、エミッタ電極22から注入された電子が、コレクタ電極20からそのまま取り出されてしまう。
(電流増幅回路の概略構成の一例)
図5は本発明の電流増幅素子を用いた電流増幅回路の構成の一例を示す回路図である。図5に示すように、電流増幅回路40は、図1に示した構造の電流増幅素子10を用いて、フォトダイオード(PD)36の出力電流を増幅する電流増幅回路である。フォトダイオード36のn側電極(陽極)は、電流増幅素子10のエミッタ電極Eの端子に接続されている。フォトダイオード36のp側電極(陰極)は、負荷抵抗Reを介して直流電源30のアノード側に接続されている。フォトダイオード36のp側電極は、コンデンサ38にも接続されている。これ以外の構成は、図2(A)に示した回路構成と同様であるため、同じ構成部分には同じ符号を付して説明を省略する。
逆バイアス電圧の印加により、フォトダイオード36の電流発生領域には電界が発生している。フォトダイオード36に所定波長以上の光波が入射すると、光電流発生領域により光波が吸収されて、入射光の強さに応じたキャリア(電子とホール)を発生する。電子とホールは、光電流発生領域の電界により加速されて、電子はn側電極に流れ込み、ホールはp側電極に流れ込む。ホールがp側電極に流れ込むことで、発生した光電流に応じた微弱電流が出力される。
一方、フォトダイオード36のn側電極に流れ込んだ電子は、電流増幅素子10のエミッタ電極Eに注入され、「なだれ増倍」によって増倍されて、コレクタ電極Cから取り出される。即ち、フォトダイオード36のn側電極から取り出された電子が増倍されて、フォトダイオード36で発生した光電流が電流増幅素子10で増幅される。本実施の形態に係る電流増幅回路40では、電流増幅素子10はリニアモード動作において電流増幅を行うことが可能である。増幅された電流は、負荷抵抗Rcとコレクタ電極Cとの間に接続された出力端子31から出力される。
また、背景技術として説明した通り、微弱電流の計測においては、トランスインピーダンス回路の抵抗によって発生する熱雑音が無視できないほど大きな雑音となり、S/Nを顕著に劣化させるという問題がある。「なだれ増倍」を利用して電流を直接増幅する電流増幅素子では、熱雑音の影響を低減して計測電流のS/Nを向上させることができる。
例えば、信号電流をis、熱雑音をitとすると、なだれ増倍による電流増幅前のS/N(before)は下記式(1)で表される。これに対し、なだれ増倍による電流増幅後のS/N(after)は、電流増幅率をM(倍)として、下記式(2)で表される。
S/N(before)= is 2/(is 2+it 2) 式(1)
S/N(after) = M2is 2/(M2is 2+it 2) 式(2)
上記式(2)から分かるように、電流増幅率Mの値が十分大きくなれば、it 2の項は無視できるほど小さくなる。従って、なだれ増倍による電流増幅の手法は、熱雑音が問題となるような微弱電流の計測において絶大な効果を発揮することができる。従って、本実施の形態の電流増幅回路は、光通信等で利用されている1.0μm〜1.7μmの長波長帯で使用可能な、ゲルマニウム(Ge)を用いたフォトダイオードの光電流の増幅にも用いることができる。
図5に示す電流増幅回路40では、APD36、電流増幅素子10の各々が、なだれ増倍を利用して電流を直接増幅するため、熱雑音の影響を低減して計測電流のS/Nを向上させることができる。また、「なだれ増倍」を利用した電流増幅素子を多段接続したことにより、電流増幅率を大幅に向上させることができる。
例えば、APD36による電流増幅率M1を10倍、電流増幅素子(LAT)10による電流増幅率M2を10倍とすると、コレクタ電流Ic及びAPD36で発生した光電流から算出される電流増幅率Mは、M1×M2であり100倍となる。このように、APD36で発生した微弱な光電流は、APDのアバランシェ効果により10倍に増幅され、更に電流増幅素子10で100倍にまで増幅されて、大きなコレクタ電流Icが得られる。
(なだれ増倍時の過剰雑音)
ここで、なだれ増倍を利用した電流増幅素子に特有の「過剰雑音」について説明する。背景技術として指摘した通り、なだれ増倍を利用した電流増幅素子は、増幅過程での過剰雑音が大きく、直列に接続するとこの過剰雑音が増幅され、出力信号のS/Nが低下する要因となる。
図6(A)は過剰雑音係数の有効電離衝突係数比への依存性を示すグラフである。縦軸は過剰雑音係数Fであり、横軸は電流増幅率M(倍)である。過剰雑音係数Fは、電流増幅率Mのゆらぎとして定義されるものであり、電流増幅率Mを用いて下記式(3)で表される。また、過剰雑音係数Fは、電流増幅率M及び有効電離衝突係数比keffを用いて下記式(4)で表される。
なだれ増幅過程では、衝突電離(インパクトイオン化)の繰り返しによりキャリアの数は加速度的に増大する。即ち、有効電離衝突係数比keffが大きくなる。図6(A)に示すように、有効電離衝突係数比keffが大きくなった結果として、電流増幅率Mに対する過剰雑音係数Fは急激に増加するようになる。
図6(B)はLATの雑音を評価するための計算モデルを表す概略図である。LATのコレクタC、エミッタE及びベースBの各々は、負荷抵抗を備えている。BE各々の負荷抵抗の間には寄生容量が存在し、CE各々の負荷抵抗の間には寄生容量が存在する。LATでは、ベースBに流れ出すベース電流Ib、コレクタCから流れ込むコレクタ電流Ic(信号成分)の外に、種々の雑音性電流(ノイズ成分)が流れる。CE間に流れる雑音性電流としては、熱雑音In1、暗電流In2、過剰雑音In3がある。なだれ増倍過程では、このうち過剰雑音In3が大きくなり、出力信号のS/Nを低下させる。
上述した通り、なだれ増倍を利用した電流増幅素子では、増幅過程での過剰雑音が大きくなる。ここで過剰雑音が大きくなる本質的な原因について考察する。例えばBE間というように同じ端子間でも電子が移動する経路によって、衝突電離による「なだれ」発生程度に分布があり、電流増幅率がばらつくことで過剰雑音が増加する。即ち、「なだれ」が発生する領域と、「なだれ」が発生しない領域とが生じることに起因して、過剰雑音が増加する。
本発明者等は、鋭意検討した結果、上記の電流増幅素子(LAT)について、過剰雑音を顕著に低減できる具体的な構造を見い出した。この構造によれば、電流増幅素子内の所望領域で「なだれ」を均一に発生させて、なだれ増倍過程での過剰雑音の増加を抑制することができる。即ち、なだれ増倍過程での過剰雑音を低減することで、高感度(=高S/N)で且つ高速応答が可能な電流増幅素子(LAT)を実現することができる。以下に、この電流増幅素子の具体的な構造を説明する。
(電流増幅素子の具体的構造)
図7は本実施の形態に係る電流増幅素子の具体的な構造を示す斜視図である。図7では、電流増幅素子の一部を切り欠いて部分的な断面構造を示している。また、図7では、半導体基板上に電流増幅素子を作り込んだ構造を図示している。図8(A)は図7に示す電流増幅素子を表面側から見た場合の平面図であり、図8(B)は図8(A)のX-X線で切断し矢印方向から見た場合の構造を示す概略断面図である。
図7に示すように、電流増幅素子(LAT)100は、例えば約300μm等、所定厚さの平板状のp−型シリコン半導体基板(p−型基板)102を備えている。本実施の形態では、p−型基板102は、平面視が略矩形状の平板として図示されているが、円形でも不定形でもよい。p−型基板102の形状は、同一基板上にモノリシックに形成する素子の種類に応じて適宜選択される。なお、「表面(主面)」、「裏面」、「表面近傍(又は裏面近傍)」の意義は、図1(A)と同様である。
p−型基板102の中央部分には、n型不純物を低濃度で拡散させたn型ウェル104が形成されている。n型ウェル104は、中心軸線をOとする裏面側に凸の半球状の領域である。n型ウェル104は、表面から最も深い半球の頂点が裏面側に露出しないように、p−型基板102内に形成されている。n型ウェル104の周辺部分には、p−型基板102より不純物濃度の高いp型分離領域106が形成されている。
p型分離領域106は、n型ウェル104内に形成されるLAT100の主要部を他の素子から分離するために、n型ウェル104を取り囲むように形成されている。p型分離領域106の表面には、p型不純物を高濃度で拡散させたp+型拡散領域108が形成されている。このp+型拡散領域108を接地する等してp−型基板102の電位を0Vにすることで、LAT100の主要部を他の素子から切り離すことができる。p+型拡散領域108は、いわゆる保護電極等を介して接地される。
n型ウェル104内の表面側には、p−型基板102より不純物濃度の高いp型拡散領域(p型半導体層)112が形成されている。p型半導体層112は、中心軸線をOとする平面視が円形の領域である。p−型基板102を厚さ方向に見た場合には、p型半導体層112は、p−型基板102の裏面側に凹凸を有するように形成されている。換言すれば、n型ウェル104の中心軸線に対向する内側の面は、表面側に凹凸を有するように形成されている。凹凸形状については後で詳細に説明する。
p型半導体層112の表面側には、n+型拡散領域116、及びp型不純物を高濃度で拡散させたp+型拡散領域118が形成されている。n型ウェル104の表面側には、n型不純物を高濃度で拡散させたn+型拡散領域114が形成されている。これらp型半導体層112、n+型拡散領域114、n+型拡散領域116、及びp+型拡散領域118の各々が、図1(A)のp型シリコン半導体層12、n型拡散領域14、n型拡散領域16、及びp+型拡散領域18の各々に相当し、LAT100の主要部を構成する。
電流増幅素子(LAT)100では、n+型拡散領域116とp型半導体層112との間に「第1のPN接合」が形成されると共に、p型半導体層112とn型ウェル104との間に「第2のPN接合」が形成されて、npn型のアバランシェバイポーラトランジスタが構成されている。
なお、図示は省略するが、n+型拡散領域114の表面には電子収集電極(コレクタ端子に接続されたコレクタ電極)が、n+型拡散領域116の表面には電子注入電極(エミッタ端子に接続されたエミッタ電極)が、p+型拡散領域118の表面にはホール収集電極(ベース端子に接続されたベース電極)が、各々形成されている。これらの電極の各々は、シリコン半導体に対しオーミック接合されたオーミック電極とされている。例えば、アルミニウム等の金属膜をアニールする等してオーミック電極を形成することができる。以下では、n+型拡散領域114に記号「C」、n+型拡散領域116に記号「E」、p+型拡散領域118に記号「B」を併記して、接続される端子の種類を適宜表示する。
p−型基板102の表面には、絶縁領域110A、絶縁領域110B、及び絶縁領域110Cが、中心軸線Oから外側に向かってこの順で形成されている。また、絶縁領域110A、絶縁領域110B、及び絶縁領域110Cの各々は、p−型基板102を酸化する等して形成されている。例えば、p−型基板102がシリコン半導体基板の場合には、シリコンが酸化されて、酸化ケイ素(SiO2)からなる絶縁領域が形成される。
絶縁領域110Aは、p+型拡散領域118とn+型拡散領域114との間に形成された、平面視がn+型拡散領域116と同心の円環状の絶縁領域である。絶縁領域110Bは、n+型拡散領域114とp+型拡散領域108との間に形成された、平面視がn+型拡散領域116と同心の円環状の絶縁領域である。絶縁領域110Cは、p+型拡散領域108の外側に形成された、平面視がn+型拡散領域116と同心の円環状の絶縁領域である。
LAT100を表面側から見ると、n+型拡散領域116とp+型拡散領域118との間にp型半導体層112が露出すると共に、p+型拡散領域118と絶縁領域110Aとの間にp型半導体層112が露出している。また、絶縁領域110Cの外側には、p−型基板102が露出している。
図9は図8(B)に示す電流増幅素子の一部を拡大して図示する部分断面図である。図9には、LAT100の主要部(p型半導体層112、n+型拡散領域114、n+型拡散領域116、及びp+型拡散領域118)を含む部分(太い点線で囲んだ部分)150が、拡大されて図示されている。中心軸線Oを含む平面での断面は、中心軸線Oに関して線対称となるので、右半分の断面図だけを図示する。
図9に示すように、n型ウェル104の内側の面は、p−型基板102の表面側に凹凸を有するように形成されている。n+型拡散領域114より内側(即ち、中心軸線O側)の領域は、平面視において、第1領域及び第2領域の2つの領域に分けることができる。第1領域は、中心軸線Oに近い第1の半径r1未満の円形の領域である。第2領域は、第1領域の外側にある第1領域と同心の円環状の領域であり、第1の半径r1以上で第2の半径r2未満の領域である。
矢印Aで図示したように、第1領域では、n型ウェル104の内側の面はp−型基板102の裏面に向って半径が小さくなる。同様に、n型ウェル104と共に「第2のPN接合」を形成するp型半導体層112は、p−型基板102の裏面に向って半径が小さくなる。また、矢印Bで図示したように、第2領域では、n型ウェル104の内側の面はp−型基板102の裏面に向って半径が大きくなる。同様に、n型ウェル104と共に「第2のPN接合」を形成するp型半導体層112は、p−型基板102の裏面に向って半径が大きくなる。本実施の形態では、第1領域のようにp−型基板102の裏面に向って狭くなる形状を順テーパと称し、第2領域のようにp−型基板102の裏面に向って広くなる形状を逆テーパと称する。
第1領域において大きな順テーパの特徴を有する部分を順テーパ部160とし、第2領域において大きな逆テーパの特徴を有する部分を逆テーパ部170とする。なお、図9に示す断面図では、中心軸線Oに向う下向きの矢印が順テーパを表し、中心軸線Oと逆方向に向う下向きの矢印が逆テーパを表す。なお、図9に示す例では、p型半導体層112が第2の領域の外延まで拡がり、第2領域の外側の端面はp−型基板102面に対し略垂直な面となっている。順テーパ部160は、エミッタ(E)から電子が注入されるn+型拡散領域116の近くに形成されている。一方、逆テーパ部170は、電子を収集するコレクタ(C)に接続されるn+型拡散領域114の近くの第2領域に形成されている。
図9はLAT100の部分150での不純物(p型不純物及びn型不純物)の濃度分布を示す図でもある。図10は図9に示す部分150でのポテンシャル分布を模式的に示している。また、図11は図9に示す部分150でのなだれ(衝突電離)の発生分布を模式的に示している。図10及び図11における順テーパ部160及び逆テーパ部170の位置は、図9に示す断面図における順テーパ部160及び逆テーパ部170の位置と対応している。図10及び図11において、点線は等電位線を表す。また、図11において、斜線部は「なだれ(増倍)」の発生している部分を表す。
図10に示すように、順テーパ部160では、等電位線の間隔が狭く、電界が局所的に大きくなる「電界集中」が発生している。一方、逆テーパ部170では、等電位線の間隔が広く、電界が緩やかになる「電界緩和」が発生している。また、図11に示すように、「電界集中」が発生している順テーパ部160だけで、「なだれ(増倍)」162が集中的に発生しており、他の部分に「なだれ」の発生は見られない。
図20は図9に示す電流増幅素子構造でのポテンシャル分布のシミュレーション結果を示す図であり、図10はその模式図である。また、図21は図9に示す電流増幅素子構造でのなだれ増倍の発生分布のシミュレーション結果を示す図であり、図11はその模式図である。図20及び図21は、図9に示す電流増幅素子の部分150でのシミュレーション結果を示している。シミュレーションは、日本シノプシス社のTCADツール「Sentaurus」を用いて行った。なお、TCADとは、Technology−CADの略称であり、半導体デバイスの微細構造における物理現象の解析技術である。
シミュレーション結果からも裏付けられるように、本実施の形態では、n型ウェル104の内側の面の凹凸形状において、順テーパと逆テーパという勾配の相違により、電界集中の発生度合いを異ならせることができる。即ち、p型半導体層112の裏面側の凹凸形状を制御することで、「電界集中」及び「電界緩和」を意図的に発生させることができる。簡単に言えば、「なだれ」を起こしたい部分で「電界集中」が発生すると共に、「なだれ」を起こしたくない部分で「電界緩和」が発生するように、n型ウェル104のテーパ形状を設定することができる。なお、図9に示す例では、第2領域において、n型ウェル104の表面側の凹凸形状は、n型ウェル104と共に「第2のPN接合」を形成するp型半導体層112の裏面側の凹凸形状と同じである。
図12は図9に示す電流増幅素子の電流増幅の様子を説明する概念図である。図12では、トランジスタの端子電極を図示している。n+型拡散領域114の表面には電子収集電極(コレクタ電極)120が、n+型拡散領域116の表面には電子注入電極(エミッタ電極)122が、p+型拡散領域118の表面にはホール収集電極(ベース電極)124が、各々形成されている。
コレクタ電極120とベース電極124との間に逆バイアス電圧を印加し、エミッタ電極122とベース電極124との間に順バイアス電圧を印加する。逆バイアス電圧は、後述する「なだれ増倍」を誘起するために、pnダイオードのブレークダウン電圧以上の高電圧とする。「第2のPN接合」に逆バイアス電圧が印加されることで、p型半導体層112のp型領域には高電界が発生している。なお、エミッタ電極122下のn+型拡散領域116の周囲には空乏層(図示せず)が形成されている。
エミッタ電極122から注入された電子は、p型半導体層112とn+型拡散領域116との間の「第2のPN接合」を介して、p型半導体層112に注入される。当初、エミッタ電極122から注入された電子の大半は、順バイアスに従ってベース電極124の方向に向かう。しかしながら、エミッタ電極122から注入された電子の一部は、「電界集中」により高電界が発生している領域に捉えられる。本実施の形態では、n+型拡散領域116近傍の順テーパ部160だけで「電界集中」が発生し、逆テーパ部170では「電界緩和」が発生している。
従って、n+型拡散領域116近傍の順テーパ部160にエミッタ電極122から電子が注入されると、注入された電子が高電界により加速され、衝突電離(インパクトイオン化)により一対のキャリア(電子とホール)を生成する。この衝突電離の繰り返しで、キャリア数が加速度的に増大する「なだれ増倍」が発生する。
増倍された電子はコレクタ電極120から取り出され、増倍されたホールはベース電極124から取り出される。ベース電極124からはベース電流Ibが流出する。また、上記の「なだれ増倍」により、エミッタ電極122に注入された電子に比べ、コレクタ電極120からは増倍された多数の電子が取り出される。即ち、「なだれ増倍」により電流が直接増倍されて、コレクタ電極120に流入するコレクタ電流Icは、エミッタ電極122から流出するエミッタ電流Ieよりも顕著に増大する。
n+型拡散領域116は、同心円の中心に存在する。また、p型半導体層112とn型ウェル104との間には、角部の無いなだらかな界面を備えた「第2のPN接合」が形成されている。従って、n+型拡散領域116近傍の順テーパ部160のみで「電界集中」が発生すれば、「なだれ」を全方位にわたって均一に起こすことができ、理想的な「なだれ増倍」となる。
一方、LAT100の基板表面の近傍では、不要なリーク電流が流れ易い。リーク電流がなだれ増倍されると、過剰雑音が急増しS/Nが低下する原因となる。また、「電界集中」が発生する箇所が複数になる等、衝突電離による「なだれ」発生程度に分布があると、電流増幅率がばらつくことで過剰雑音が増加する。従って、n+型拡散領域114及びp+型拡散領域118の近傍の逆テーパ部170で「電界緩和」が発生すれば、「なだれ」が複数箇所で起きない、理想的な「なだれ増倍」となる。
本実施の形態では、中央に在るn+型拡散領域116近傍の順テーパ部160のみで「電界集中」が発生し、n+型拡散領域114及びp+型拡散領域118の近傍の逆テーパ部170では「電界緩和」が発生しているので、順テーパ部160のみで均一な「なだれ」が発生する。これにより、電流増幅率が略一定となり過剰雑音の発生が抑制されて、極めて理想的な「なだれ増倍」となる。即ち、線形増幅領域(リニアモード)で動作するアバランシェ・トランジスタ(LAT)において、高い感度(高いS/N)と応答速度の速さとを両立させることができる。
図8(B)及び図9に示す例では、p型半導体層112のp型領域の不純物濃度を一定にした例について説明したが、p型不純物の濃度に分布を与えてもよい。図13(A)及び(B)は図9に示す電流増幅素子の構造の変形例を示す部分断面図である。図13(A)及び(B)には、LAT100の主要部含む部分150が、拡大されて図示されている。
図13(A)に示すように、第2領域には、p−型基板102より不純物濃度の高いp型半導体層112と、p型半導体層112より不純物濃度の低いp−型拡散領域112Aとが形成されている。この結果、p−型拡散領域112Aを除いたp型半導体層112は、矢印Cで図示したように、p型半導体層112の表面近傍で、p−型基板102の裏面に向って半径が小さくなる順テーパを形成する。この第2領域において大きな順テーパの特徴を有する部分を、順テーパ部180とする。
上述した通り、LAT100の基板表面の近傍で発生したリーク電流が「なだれ増倍」されると、雑音が急増しS/Nが低下する原因となる。リーク電流の「なだれ増倍」を抑制するためには、LAT100の基板表面の近傍において、衝突電離によるキャリアの生成を防止すること、即ち、不純物の濃度を低下させることが効果的である。このため、第2領域に、p型半導体層112より不純物濃度の低いp−型拡散領域112Aを形成する。
p−型拡散領域112Aを基板表面の近傍に形成することで、リーク電流による表面近傍での「なだれ」の発生を一層抑制して、雑音を排除し更に高い感度(高いS/N)を得ることができる。なお、図13(B)に示すように、p−型拡散領域112Aを、n型不純物の濃度の低いn−型拡散領域に置き換えても、略同様の効果を得ることができる。
(電流増幅素子の製造方法)
次に、図7、図8(A)及び図8(B)に示す電流増幅素子を製造する製造方法について説明する。図14〜図19は電流増幅素子の製造工程を順を追って説明するための工程図である。なお、この製造方法は一例に過ぎず、本実施の形態に係る電流増幅素子(LAT100)を製造することが可能な範囲で、製造工程の順序の入れ替え、他の製造技術の導入などを適宜行うことができる。
本実施の形態では、不純物が拡散された拡散領域は、堆積させた不純物を熱拡散させる「熱拡散法」、放電等により原子をイオン化して打ち込む「イオン注入法」等、公知の不純物拡散技術を用いて行うことができる。不純物拡散の方法は、形成する不純物拡散領域の濃度プロファイル等により、適宜選択することができる。
まず、図14に示すように、所定厚さのp−型シリコン半導体基板(p−型基板)102を用意する。次に、図15に示すように、p−型基板102の表面に、不純物拡散によりn型ウェル104を形成する。例えば、図15に示すように、n型ウェル104に対応して形成された開口部202を有するマスク200を、p−型基板102の表面側に配置する。このマスク200を用いて、矢印で図示したように、p−型基板102に対し、基板表面側からリン(P)や砒素(As)等のn型不純物を導入して、不純物の拡散を行う。p−型基板102の開口部202に対向する部分には、n型不純物が低濃度で拡散されたn型ウェル104が形成される。
次に、図16及び図17に示すように、2回の不純物拡散により、所望の形状のp型分離領域106及びp型半導体層112を形成する。例えば、図16に示すように、p型分離領域106及びp型半導体層112の厚膜部分に対応して形成された開口部206を有するマスク204を、p−型基板102の表面側に配置する。このマスク204を用いて、矢印で図示したように、p−型基板102に対し、基板表面側からホウ素(B)ガリウム(Ga)等のp型不純物を導入して、不純物の拡散を行う。p−型基板102の開口部204に対向する部分には、p型不純物が低濃度で拡散されたp型領域106P及びp型領域112Pが形成される。
続けて、図17に示すように、p型分離領域106及びp型半導体層112に対応して形成された開口部210を有するマスク208を、p−型基板102の表面側に配置する。このマスク208を用いて、矢印で図示したように、p−型基板102に対し、基板表面側からp型不純物を更に導入して、2回目の不純物の拡散を行う。p−型基板102の開口部210に対向する部分には、p型不純物が低濃度で拡散されたp型領域106P及びp型領域112Pが形成される。このように、不純物拡散を2回に分けて行うことで、順テーパ及び逆テーパ等の勾配を備えた所望形状のp型半導体層112を形成することができる。
次に、図18に示すように、不純物拡散により、p+型拡散領域108、n+型拡散領域114、n+型拡散領域116、及びp+型拡散領域118を形成する。例えば、p+型拡散領域を先に形成する場合には、p+型拡散領域108、p+型拡散領域118に対応して形成された開口部214を有するp+型用のマスク212を、p−型基板102の表面側に配置する。このマスク212を用いて、矢印で図示したように、p−型基板102に対し、基板表面側からn型不純物を導入して、不純物の拡散を行う。p−型基板102の開口部214に対向する部分には、p型不純物が高濃度で拡散されたp+型拡散領域108、p+型拡散領域118が形成される。
続けてn+型拡散領域を形成する場合には、p+型用のマスク212を退避させ、n+型拡散領域114、n+型拡散領域116に対応して形成された開口部218を有するn+型用のマスク216を、p−型基板102の表面側に配置する。このマスク216を用いて、矢印で図示したように、p−型基板102に対し、基板表面側からn型不純物を導入して、不純物の拡散を行う。p−型基板102の開口部218に対向する部分には、n型不純物が高濃度で拡散されたn+型拡散領域114、n+型拡散領域116が形成される。
次に、図19に示すように、シリコンの酸化により、酸化ケイ素(SiO2)からなる絶縁領域110A、絶縁領域110B、及び絶縁領域110Cを形成する。絶縁領域110A、絶縁領域110B、及び絶縁領域110Cの各々に対応して形成された開口部222を有するマスク220を、p−型基板102の表面側に配置する。このマスク220を用いて、矢印で図示したように、p−型基板102に対し、基板表面側から酸化を行う。p−型基板102の開口部222に対向する部分には、p−型基板102の表面が酸化された絶縁領域110A、絶縁領域110B、及び絶縁領域110Cが形成される。
なお、上記の製造方法は一例に過ぎず、製造工程の順序の入れ替えなどを適宜行うことができる。例えば、絶縁領域110A、絶縁領域110B、及び絶縁領域110Cを形成した後に、p+型拡散領域108、n+型拡散領域114、n+型拡散領域116、及びp+型拡散領域118を形成してもよい。
<変形例>
なお、上記の実施の形態では、電流増幅素子(LAT)は、p−型シリコン半導体基板(p−型基板)にn型ウェルを形成し、n型ウェル内にLATの主要部(p型半導体層、n+型拡散領域、n+型拡散領域、及びp+型拡散領域)が形成される例について説明したが、p型とn型を反転させてもよい。即ち、n−型シリコン半導体基板(n−型基板)にp型ウェルを形成し、p型ウェル内にLATの主要部(n型半導体層、p+型拡散領域、p+型拡散領域、及びn+型拡散領域)を形成することもできる。この場合には、電子とホールとが反転し、一方のp+型拡散領域の表面に、ホール収集電極を形成し、他方のp+型拡散領域の表面にホール注入電極を形成し、n+型拡散領域の表面に電子収集電極を形成する。