以下に、本発明の各種実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の実施形態にかかる検査装置および検査方法は、地の組織が方向性を有する柱状組織(すなわち、所定の方向に延伸する柱状組織)である材料において、地の組織とは異なる組織(すなわち、柱状ではない組織または地の柱状組織に比較して長さが短いかまたは大きさが小さい組織)の析出を検査することができる。本発明の実施形態においては、圧延や鍛造などによってフェライトとオーステナイトが柱状組織となっている二相ステンレス鋼において、シグマ相の析出を検査する構成を例に説明する。すなわち、「地の柱状組織」が「フェライトとオーステナイトの柱状組織」に相当し、「地の柱状組織とは異なる組織」が「シグマ相」に相当する。
図1は、本発明の第一実施形態にかかる検査装置1の構成を、模式的に示したブロック図である。本発明の第一実施形態にかかる検査装置1は、自己誘導方式によって被検査材の検査を行うことができる。
図1に示すように、本発明の第一実施形態にかかる検査装置1は、第一のコイル111と、第二のコイル112と、第三のコイル121と、第四のコイル122と、第一の平衡調整用素子113と、第二の平衡調整用素子114と、第三の平衡調整用素子123と、第四の平衡調整用素子124と、第一のブリッジ回路11と、第二のブリッジ回路12と、第一の渦電流探傷器13と、第二の渦電流探傷器14と、信号処理装置15と、出力手段16とを備える。また、本発明の第一実施形態にかかる検査装置1は、第一のコイル111と第二のコイル112と第三のコイル121と第四のコイル122が配設された検査用プローブ17を備える。
第一のブリッジ回路11には、第一のコイル111と、第二のコイル112と、第一の平衡調整用素子113と、第二の平衡調整用素子114とが設けられる。具体的には、第一のブリッジ回路11の四辺のうち、隣り合う二辺に第一のコイル111と第二のコイル112とが設けられる。そして、第一のコイル111が設けられる辺に対向する辺には、第一の平衡調整用素子113が設けられる。第二のコイル112が設けられる辺に対向する辺には、第二の平衡調整用素子114が設けられる。
第二のブリッジ回路12には、第三のコイル121と、第四のコイル122と、第三の平衡調整用素子123と、第四の平衡調整用素子124とが設けられる。具体的には、第二のブリッジ回路12の四辺のうち、隣り合う二辺に第三のコイル121と第四のコイル122とが設けられる。そして、第三のコイル121が設けられる辺に対向する辺には、第三の平衡調整用素子123が設けられる。第四のコイル122が設けられる辺に対向する辺には、第四の平衡調整用素子124が設けられる。
第一の平衡調整用素子113、第二の平衡調整用素子114、第三の平衡調整用素子123、第四の平衡調整用素子124には、従来公知の平衡調整用素子が適用できる。たとえば可変抵抗などが適用できる。
第一の渦電流探傷器13と第二の渦電流探傷器14には、従来公知の渦電流探傷器(渦流探傷器)が適用できる。したがって、以下簡単に説明し、詳細な説明は省略する。第一の渦電流探傷器13と第二の渦電流探傷器14には、同じ構成のもの(同仕様のもの)が適用できる。図1に示すように、第一の渦電流探傷器13と第二の渦電流探傷器14は、それぞれ、発振器131,141と、移相器132,142と、交流増幅器133,143と、同期検波器134,144と、直流増幅器135,145とを備える。
発振器131,141は、交流信号を発生させることができる。移相器132,142は、交流信号の位相を変化(位相をシフト)させることができる。同期検波器134,144は、所定の信号を基準位相として用いて同期検波を行うことができる。交流増幅器133,143と直流増幅器135,145は、それぞれ、所定の信号を増幅することができる。
第一の渦電流探傷器13の発振器131は、第一のブリッジ回路11の第一のコイル111と第二のコイル112との間と、第一の平衡調整用素子113と第二の平衡調整用素子114との間に接続される。これにより、第一の渦電流探傷器13の発振器131は、第一のブリッジ回路11に交流信号を印加することができる。第一の渦電流探傷器13の交流増幅器133は、第一のブリッジ回路11の第一のコイル111と第二の平衡調整用素子114との間と、第二のコイル112と第一の平衡調整用素子113との間に接続される。これにより、第一のブリッジ回路11に生起する電位差を、第一の渦電流探傷器13の交流増幅器133に入力することができる。
第二の渦電流探傷器14の発振器141は、第二のブリッジ回路12の第三のコイル121と第四のコイル122との間と、第三の平衡調整用素子123と第四の平衡調整用素子124との間に接続される。これにより、第二の渦電流探傷器14の発振器141は、第二のブリッジ回路12に交流信号を印加することができる。第二の渦電流探傷器14の交流増幅器143は、第二のブリッジ回路12の第三のコイル121と第四の平衡調整用素子124との間と、第四のコイル122と第三の平衡調整用素子123との間に接続される。これにより、第二のブリッジ回路12に生起する電位差を、第二の渦電流探傷器14の交流増幅器143に入力することができる。
このような構成を有する第一の渦電流探傷器13の動作の概略は、次のとおりである。第一の渦電流探傷器13の発振器131は交流信号を生成し、生成され交流信号は第一のブリッジ回路11に印加される。第一のコイル111および/または前記第二のコイル112のインピーダンスが変化すると、第一のブリッジ回路11のバランスがくずれて電位差が生起する。ブリッジ回路のバランスのくずれにより生起する電位差を、「不平衡電位」と称する。この不平衡電位が第一のブリッジ回路11の出力となる。第一のブリッジ回路11の出力は、第一の渦電流探傷器13の交流増幅器133に入力されて増幅される。増幅された第一のブリッジ回路11の出力は、同期検波器134に入力される。また、発振器131が生成した交流信号は、移相器132にも入力される。移相器132は、入力された交流信号の位相をシフトさせ、交流増幅器133により増幅された第一のブリッジ回路11の出力と同位相となるようにする。そして位相がシフトされた交流信号の位相信号は、同期検波器134に入力される。同期検波器134は、移相器132が出力した位相信号を基準位相として用いて、交流増幅器133により増幅された第一のブリッジ回路11の出力の同期検波を行う。直流増幅器135は、同期検波器134の出力を増幅する。
なお、第二の渦電流探傷器14の動作も、第一の渦電流探傷器13の動作と同じである。前記説明において、「第一のブリッジ回路11」を「第二のブリッジ回路12」に読み替えるとともに、「第一の渦電流探傷器13」を「第二の渦電流探傷器14」に読み替えればよい。
信号処理装置15は、第一のA/D変換器151と、第二のA/D変換器152と、記憶手段153と、演算処理手段154とを備える。第一のA/D変換器151は、第一の渦電流探傷器13の出力(同期検波器134の出力を直流増幅器135が増幅したもの)を、ディジタル値に変換する。第二のA/D変換器152は、第二の渦電流探傷器14の出力(同期検波器144の出力を直流増幅器145が増幅したもの)をディジタル値に変換する。記憶手段153は、第二のA/D変換器152によりディジタル値に変換された第二の渦電流探傷器14の出力を記憶することができる。演算処理手段154は、記憶手段153に記憶される第二の渦電流探傷器14の出力を読み出し、読み出した第二の渦電流探傷器14の出力から、入力された第一の渦電流探傷器13の出力を差し引く減算処理を行うことができる。出力手段16は、信号処理装置15の演算処理手段154による減算処理結果を出力することができる。
信号処理装置15には、A/D変換ボードなどを搭載したパーソナルコンピュータやワークステーションなどが適用できる。出力手段16には、パーソナルコンピュータやワークステーションの表示装置などが適用できる。
図2(a)は、第一のコイル111および第二のコイル112の構成を、模式的に示した外観斜視図である。図2(b)は、第一のコイル111および第二のコイル112に電流を流した際に生起する渦電流の態様を、模式的に示した平面図である。
第一のコイル111および第二のコイル112には、同仕様のコイルが適用される。図2(a)に示すように、第一のコイル111および第二のコイル112は、略U字形状に形成される芯材701を有し、この芯材701に導線702が巻回される構成を有する。芯材701の両端部は互いに平行で、かつ同じ方向に延伸する。そして芯材701の両端部の内側の面(互いに対向する面)は平面であり、かつ互いに平行である。すなわちこの芯材701は、四角柱を略U字形状に折り曲げたような構成、または平板を略U字形状に折り曲げたような構成を有する。
このような構成の第一のコイル111および第二のコイル112の芯材701の両端部を被検査材などに接近させて導線702に電流を流すと、芯材701の各端部を始点または終点とする磁力線が発生し、図2(b)に示すように、被測定材などには、芯材701の各端部を取り囲むような渦電流が流れる(図中の矢印が、渦電流を模式的に示す)。前記の通り、芯材701の両端部の相対向する面は平面であり、かつ平行に対向しているから、芯材701の両端部に挟まれる領域には、平行な磁力線が発生する。このため、芯材701の両端部に挟まれる領域に流れる渦電流は、この領域の全体にわたって、流れる方向が一様となる。換言すると、このような構成の第一のコイル111および第二のコイル112を用いると、芯材の両端部に挟まれるに領域に、この領域の全体にわたって方向が一様な渦電流を流すことができる。以下、このような渦電流を「一様渦電流」と称する。
そして、芯材701の両端部に挟まれる領域に一様渦電流が流れると、第一のコイル111および第二のコイル112には、一様渦電流の態様に応じた起電力が発生する。そして第一のコイル111および第二のコイル112に起電力が発生すると、発生した起電力に応じてインピーダンスが変化する。一様渦電流の態様は、被検査材などにシグマ相が析出しているか否かや、析出量などによって変化する。このため、第一のコイル111および第二のコイル112のインピーダンスも、シグマ相の析出の有無や析出量に応じて変化する。
なお、第一のコイル111および第二のコイル112の構成は、前記構成に限定させるものではない。要は、被検査材などの所定の領域に、所定の方向の一様渦電流を流すことができる構成であればよい。芯材701の両端部の少なくとも相対向する面が平面であり、かつ平行に対向する構成であれば、他の部分の構成や形状は限定されるものではない。たとえば、断面略半円形の芯材を有する構成であってもよい。
図3(a)は、第三のコイル121および第四のコイル122の構成を、模式的に示した外観斜視図である。図3(b)は、第三のコイル121および第四のコイル122に電流を流した際に生起する渦電流の態様を、模式的に示した平面図である。
図3(a)に示すように、第三のコイル121および第四のコイル122は、パンケーキタイプのコイルが適用できる。具体的には、第三のコイル121および第四のコイル122は、略円柱状に形成される共通の芯材703を有する。そして共通の芯材703の一端寄りに導線704が巻回されて第三のコイル121を構成する。また、他端寄りに導線705が巻回されて第四のコイル122を構成する。なお、第三のコイル121および第四のコイル122は、同仕様のコイルが適用される。
このような構成の第三のコイル121および第四のコイル122の共通の芯材703の一端を被検査材などに接近させて、第三のコイル121および/または第四のコイル122に電流を流すと、共通の芯材703の一端を始点または終点とする放射状の磁力線が発生する。そして、図3(b)に示すように、被検査材などには、共通の芯材703の一端を取り囲むように、略円形の渦電流(すなわち、方向性を有しない渦電流)が流れる(図中の矢印が渦電流を模式的に示す)。
そして、渦電流が流れると、第三のコイル121および第四のコイル122には、渦電流の態様に応じた起電力が発生する。第三のコイル121および第四のコイル122に起電力が発生すると、発生した起電力に応じてインピーダンスが変化する。渦電流の態様は、被検査材などにシグマ相が析出しているか否かや、析出量などによって変化する。このため、第三のコイル121および第四のコイル122のインピーダンスも、シグマ相の析出の有無や析出量に応じて変化する。
なお、第三のコイル121および第四のコイル122の構成は、このような構成に限定されるものではない。要は、被検査材などに略円形の渦電流(すなわち、方向性を有しない渦電流)を流すことができる構成であればよい。
図4は、検査用プローブ17の構成の一例を、模式的に示した外観斜視図である。図4に示すように、検査用プローブ17は、ホルダ171と、第一のコイル111と、第二のコイル112と、第三のコイル121と、第四のコイル122とを備える。そして、ホルダ171に、第一のコイル111と、第二のコイル112と、第三のコイル121と、第四のコイル122とが配設される構成を備える。この検査用プローブ17は、第一のコイル111により生起する一様渦電流の方向と、第二のコイル112により生起する一様渦電流の方向とが、直角な方向となるように構成される(図中の矢印は、一様渦電流の方向を示す)。たとえば、第一のコイル111と第二のコイル112とが互いに直角な向きになるように配設される。
そして、この検査用プローブ17を被検査材などの表面に接近させ、第一のコイル111と第二のコイル112に電流を流すことによって、被検査材などの所定の領域に、互いに直角な方向の二つの一様渦電流を生起するができる。また、第三のコイル121および第四のコイル122に電流を流すことによって、被検査材などの所定の領域に、略円形の渦電流(方向性を有しない渦電流)を生起することができる。
次に、本発明の第一実施形態にかかる検査装置1を用いた検査方法(本発明の実施形態にかかる検査方法)について説明する。
まず、実際に検査を行う対象である被検査材と、同じ組成を有する材料を用意する。この材料は、地の組織が所定の一方向に延伸する柱状組織となっており、かつ、地の柱状組織中に他の組織が析出していないものとする。また、地の柱状組織の延伸方向が既知な材料である。すなわち、二相ステンレス鋼であれば、フェライトとオーステナイトの比率が実際に検査を行う対象の被検査材と同じであり、フェライトとオーステナイトが所定の既知の一方向に延伸する柱状組織となっており、かつシグマ相が析出していないものとする。以下、このような材料を、「調整用試験材」と称する。
そして、この調整用試験材を用いて、第一のブリッジ回路11と第二のブリッジ回路12のバランスをとる。具体的には次のとおりである。第一のブリッジ回路11に設けられる第一のコイル111と第二のコイル112(すなわち、検査用プローブ17)を、調整用試験材の表面の所定の位置に接近させる。この状態で第一の渦電流探傷器13の発振器131を起動させ、第一のブリッジ回路11に交流信号を印加する。そして、第一のコイル111および第二のコイル112のそれぞれにより、調整用試験材の所定の領域に互いに直角な方向の二つの一様渦電流を生起させる。そして、第一の平衡調整用素子113および第二の平衡調整用素子114を操作して、第一のブリッジ回路11のバランスをとる(すなわち、第一のブリッジ回路11に生起する不平衡電位がゼロになるようにする)。
ここで、第一のコイル111が生起する一様渦電流と、第二のコイル112が生起す一様渦電流のうち、いずれか一方を、調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流す。また、他方を、調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向に流す。
同様に、第二のブリッジ回路12のバランスをとる。第二のブリッジ回路12に設けられる第三のコイル121および第四のコイル122の共通の芯材703の一端を、調整用試験材の表面の所定の位置に接近させる。この状態で第二の渦電流探傷器14の発振器141を起動させ、第二のブリッジ回路12に交流信号を印加する。そして第三のコイル121および第四のコイル122により、調整用試験材の所定の領域に、円形の渦電流を生起させる。そして、第三の平衡調整用素子123および第四の平衡調整用素子124を操作して、第二のブリッジ回路12のバランスをとる(すなわち、第二のブリッジ回路12に生起する不平衡電位がゼロになるようにする)。
ここで、第二のブリッジ回路12のバランスをとる操作において、第三のコイル121および第四のコイル122の共通の芯材703の一端を接近させる位置(すなわち、円形の渦電流を流す領域)は、第一のブリッジ回路11のバランスをとる操作において、第一のコイル111および第二のコイル112を接近させた位置(互いに直交する一様渦電流を流した領域)と同じ位置にする。すなわち、第一のブリッジ回路11と第二のブリッジ回路12は、調整用試験材の同じ位置でそれぞれバランスをとる。
以上の操作により、本発明の第一実施形態にかかる検査装置1の検査準備が完了する。次いで、被検査材の検査を行う。検査対象となる被検査材は、フェライトとオーステナイトが所定の方向に延伸する柱状組織となっている二相ステンレス鋼である。フェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向は既知であるものとする。
まず、検査用プローブ17を被検査材に接近させ、第三のコイル121および第四のコイル122の共通の芯材703の一端を、被試験材の検査を行う位置に接近させる。この状態で、第二の渦電流探傷器14の発振器141が発生させた交流信号が第二のブリッジ回路12に印加されると、第三のコイル121および第四のコイル122により、被検査材の所定の領域に渦電流が生起する。
被検査材にシグマ相が析出している場合、および/または被検査材のフェライトとオーステナイトの比率が調整用検査材と相違する場合には、被検査材に流れる渦電流の態様が変化する。このため、第三のコイル121および第四のコイル122のインピーダンスが変化する。被検査材の表面から第三のコイル121までの距離と第四のコイル122までの距離は相違するから、第三のコイル121と第四のコイル122とでは、インピーダンスの変化が相違する。このため、第二のブリッジ回路12のバランスがくずれる。第二のブリッジ回路12のバランスがくずれると、第二のブリッジ回路12には不平衡電位が生起する。
このように、第二のブリッジ回路12には、シグマ相の析出と、フェライトとオーステナイトの比率の変化という二つの原因によって、不平衡電位が生起する。換言すると、第二のブリッジ回路12に生起する不平衡電位は、シグマ相の析出に起因する不平衡電位と、フェライトとオーステナイトの比率の変化に起因する不平衡電位の合算値であるといえる。
第二のブリッジ回路12に生起した不平衡電位は、第二の渦電流探傷器14の交流増幅器143に入力されて増幅され、さらに同期検波器144に入力されて同期検波される。同期検波器144の出力(すなわち同期検波された不平衡電位)は、直流増幅器145を介して信号処理装置15の第二のA/D変換器152に入力されてディジタル値に変換され、記憶手段153に記憶される。
次いで、検査用プローブ17の位置を変更して、第一のコイル111および第二のコイル112を、被検査材の検査を行う位置に接近させる。この位置は、前記操作において、第三のコイル121および第四のコイル122の共通の芯材703の一端を接近させた位置と同じ位置とする。
そして、第一のコイル111および第二のコイル112により、被検査材の検査を行う位置に、互いに直交する方向の二つの一様渦電流を生起させる。ここで、第一のコイル111により生起する一様渦電流と、第二のコイル112により生起させる一様渦電流のうち、いずれか一方を、被試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向とする。また他方を、被試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向とする。
なお、第一のコイル111および第二のコイル112により生起させるそれぞれの一様渦電流の方向と、被試験材の地の柱状組織の延伸方向との関係は、第一のブリッジ回路11のバランスをとる操作において調整用検査材に流した一様渦電流の方向と、調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向との関係と同じに設定する。
すなわち、第一のブリッジ回路11のバランスをとる操作において、第一のコイル111により生起させた一様渦電流を調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流し、第二のコイル112により生起させた一様渦電流を調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向に流した場合には、被検査材の検査において、第一のコイル111により生起させた一様渦電流を被検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流し、第二のコイル112により生起させた一様渦電流を被検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向に流す。このように、調整用試験材および被試験材の柱状組織の延伸方向と、第一のコイル111および第二のコイル112により生起する一様渦電流の方向とは、常に決まった方向にする。
被試験材に一様渦電流が流れると、第一のコイル111および第二のコイル112には電圧が励起される。そして、第一のコイル111および第二のコイル112のインピーダンスが変化する。
被試験材に析出しているシグマ相は、地の柱状組織の中に点在し、方向性を有していない。このため、被試験材に流れる一様渦電流の方向が相違しても、シグマ相が一様渦電流に与える影響は変化しない。したがって、第一のコイル111および第二のコイル112により生起する一様渦電流は、互いに異なる方向(直角な方向)に流れるが、シグマ相が第一のコイル111のインピーダンスの変化に与える影響と、第二のコイル112のインピーダンスの変化に与える影響は、ほぼ同じであると考えられる。
このため、被検査材にシグマ相が析出していても、当該析出したシグマ相がフェライトとオーステナイトの柱状組織の中に点在し、かつ方向性を有していなければ、第一のコイル111のインピーダンスと、第二のコイル112のインピーダンスは、同じように変化する。したがって、第一のブリッジ回路11のバランスには影響を与えないから、不平衡電位は生起しない。このように、第一のブリッジ回路11には、シグマ相の存在に起因しては不平衡電位は生起しない。
一方、被試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織は方向性を有しているから、フェライトとオーステナイトの柱状組織が一様電流に与える影響は、フェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向と、一様電流の流れる方向との関係に応じて変化する。したがって、フェライトとオーステナイトの相の比率が変化すると、第一のコイル111および第二のコイル112のインピーダンスが変化するが、一様渦電流の流れの向きが相違するため、第一のコイル111および第二のコイル112のインピーダンスの変化も相違する。この結果、第一のブリッジ回路11のバランスがくずれ、第一のブリッジ回路11に不平衡電位が生起する。このように第一のブリッジ回路11には、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化に起因する不平衡電位が生起する。
したがって、第一のブリッジ回路11を用いると、被試験材のフェライトとオーステナイトの相の比率の変化にのみ起因して生起する不平衡電位を検出することができる。すなわち、第一のブリッジ回路11に生起する不平衡電位は、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化にのみ起因して生起する不平衡電位であり、シグマ相の析出に起因する不平衡電位は含まれない。
第一のブリッジ回路11に生起した不平衡電位は、第一の渦電流探傷器13の交流増幅器133に入力されて増幅される。増幅された不平衡電位は、同期検波器134に入力されて同期検波される。同期検波器134の出力(すなわち、同期検波134され増幅された不平衡電位)は、直流増幅器135を介して信号処理装置15の第一のA/D変換器151によりディジタル値に変換され、演算処理手段154に入力される。
被検査材のある特定の位置に互いに直交する一様渦電流を生起して得られた第一の渦電流探傷器13の出力が、信号処理装置15の演算処理手段154に入力されると、演算処理手段154は、記憶手段153に記憶される当該ある特定の位置に円形の渦電流を生起して得られた第二の渦電流探傷器14の出力を読み出す。そして、読み出された第二の渦電流探傷器14の出力から、第一の渦電流探傷器13の出力を差し引く減算処理が行われる。すなわち、被検査材のある特定の位置で得られた第二の渦電流探傷器14の出力から、同じ位置で得られた第一の渦電流探傷器13の出力が差し引かれる。
前記のように、第二の渦電流探傷器14の出力(同期検波された不平衡電位)は、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化に起因する出力と、シグマ相の析出に起因する出力とが混ざった出力であるといえる。これに対して、第一の渦電流探傷器13の出力(同期検波された不平衡電位)は、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化にのみ起因する出力であり、シグマ相の析出に起因する出力は含まれない。したがって、第二の渦電流探傷器14の出力から、第一の渦電流探傷器13の出力を差し引くと、第二の渦電流探傷器14の出力からフェライトとオーステナイトの相の比率の変化に起因する出力が除去され、シグマ相の析出に起因する出力のみが算出される。
そして、出力手段16は、演算処理手段154による減算処理の結果を出力する。この出力手段16の出力に基づいて、被試験材にシグマ相が析出しているか否かが判定される。たとえば、出力手段16の出力がゼロではない場合には、シグマ相の析出に起因して得られる出力(すなわち、シグマ相の析出に起因する不平衡電位)がゼロではないことを示しているから、被試験材にシグマ相が析出していると判定される。なお、出力手段16の出力が所定の閾値を越えている場合に、被試験材にシグマ相が析出していると判定してもよい。また、出力手段16の出力の強弱により、シグマ相の析出量を判定する構成であってもよい。
このように、本発明の第一実施形態にかかる検査装置1を用いた検査方法によれば、シグマ相の析出に起因して得られる出力と、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化に起因して得られる出力とが混ざった出力から、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化に起因して得られる出力を除去することができる。このため、シグマ相の析出にのみ起因して得られる出力に基づいて、シグマ相の析出を検査することができる。したがって、シグマ相の析出が微小であっても、精度良く検査をすることができ、検査精度の向上を図ることができる。
そして、このような操作が、被試験材の検査範囲の全体にわたって行われる。これにより、被試験材の検査範囲の全体にわたって、シグマ相が析出しているかを検査することができる。
なお、被検査材の検査範囲の全体にわたって検査を行う場合には、第一のコイル111および第二のコイル112(が配設される検査用プローブ17)を検査範囲の全体にわたって走査させて、当該検査範囲の全体にわたって第一の渦電流探傷器13の出力を得る。同様に、第三のコイル121および第四のコイル122(が配設される検査用プローブ17)を検査範囲の全体にわたって走査させて、当該検査範囲の全体にわたって第二の渦電流探傷器14の出力を得る。この場合には、第一の渦電流探傷器13の出力を得る操作と、第二の渦電流探傷器14の出力を得る操作とを別々に行ってもよく、また同時並行的に行ってもよい。
第一の渦電流探傷器13の出力を得る操作と、第二の渦電流探傷器14の出力を得る操作を別々に行う方法の内容は次のとおりである。まず、検査用プローブ17を被検査材の検査範囲の全体にわたって走査させ、第二のブリッジ回路12および第二の渦電流探傷器14を用いて、被検査材の検査範囲の全体にわたって、第二の渦電流探傷器14の出力を得る。そして、得られた第二の渦電流探傷器14の出力を、信号処理装置15の記憶手段153に記憶する。次いで、検査用プローブ17を被検査材の検査範囲の全体にわたって走査させ、第一のブリッジ回路11と第一の渦電流探傷器13を用いて、第一の渦電流探傷器13の出力を得る。
そして、信号処理装置15の演算処理手段154は、第一の渦電流探傷器13の出力が得られるごとに、記憶手段153に記憶される第二の渦電流探傷器14の出力から、当該第一の渦電流探傷器13の出力を得た位置と同じ位置で得た第二の渦電流探傷器14の出力を読み出す。そして、演算処理手段154は、読み出した第二の渦電流探傷器14の出力から、入力された第一の渦電流探傷器13の出力を差し引く減算処理を行う。このような処理を、第一のコイル111および第二のコイル112を走査させて(すなわち、検査用プローブ17を走査させて)第一の渦電流探傷器の出力を得ながら行う。
このように、まず、被検査材の検査範囲の全体にわたる第二の渦電流探傷器14の出力を記憶しておき、第一の渦電流探傷器13の出力が得られるごとに、記憶された第二の渦電流探傷器14の出力から、得られた第一の渦電流探傷器13の出力を差し引く減算処理が行われる。このような構成によれば、当該第一の渦電流探傷器13の出力が得られると同時に、その位置においてシグマ相が析出しているかを判定することができる。
第一の渦電流探傷器13の出力を得る操作と、第二の渦電流探傷器14の出力を得る操作を同時並行的に行う構成は、次のとおりである。被検査材の表面を検査用プローブ17を走査させて、第一の渦電流探傷器13の出力を得るとともに、第二の渦電流探傷器14の出力を得る。この場合、第一のコイル111および第二のコイル112と、第三のコイル121および第四のコイル122は、同時に同じ位置を走査することができない。すなわち、第三のコイル121および第四のコイル122が被検査材のある特定の位置を走査してから、第一のコイル111および第二のコイル112が当該ある特定の位置を走査するまでには、所定の時間を要する。したがって、被検査材のある特定の位置における第一の渦電流探傷器13の出力と、第二の渦電流探傷器14の出力は同時には得られず、遅延が生じる。
そこで、ある特定の位置における第二の渦電流探傷器14の出力を、一時的に信号処理装置15に記憶する。そして、当該ある特定の位置における第一の渦電流探傷器13の出力が、信号処理装置15の演算処理手段154に入力された時点で、演算処理手段154は、記憶手段153に記憶される当該ある位置における第二の渦電流探傷器14の出力を読み出す。そして読み出した当該ある位置における第二の渦電流探傷器14の出力から、入力された当該ある位置における第一の渦電流探傷器13の出力を差し引く。出力手段16は、演算処理手段154の減算処理の結果を出力し、出力された結果に基づいて、当該ある特定の位置において地の柱状組織とは異なる組織が析出しているかが判定される。このような処理を、被検査材の検査範囲の全体にわたって逐次行う。
なお、この場合には、信号処理装置15が、記憶手段153に代えて信号を遅延させる機能を有するシフトレジスタを有する構成であってもよい。このような構成における検査装置の動作は次のとおりである。
第一のコイル111、第二のコイル112、第三のコイル121、第四のコイル122を備える検査用プローブ17を、被検査材の検査範囲を走査させる。そして得られた第一の渦電流探傷器13の出力を逐次信号処理装置15の演算処理手段154に入力していくとともに、第二の渦電流探傷器14の出力を、シフトレジスタを介して、逐次演算処理手段154に入力していく。前記の通り、第一のコイル111および第二のコイル112と、第三のコイル121および第四のコイル122とは、同時に同じ位置を走査できなから、ある特定の位置における第一の渦電流探傷器13の出力を得るタイミングと、第二の渦電流探傷器14の出力を得るタイミングは相違する。そこで、第二の渦電流探傷器14の出力を、シフトレジスタを介して演算処理手段154に入力することにより、第二の渦電流探傷器14の出力が演算処理手段154に入力されるタイミングを遅延させる。そして、ある特定の位置における第一の渦電流探傷器13の出力が演算処理手段154に入力されたタイミングで、当該ある位置における第二の渦電流探傷器14の出力が演算処理手段154に入力されるように調整する。
これにより、演算処理手段154は、ある位置における第二の渦電流探傷器14の出力から、同じ位置における第一の渦電流探傷器13の出力を差し引く減算処理を行うことができる。
なお、前記第一実施形態においては、信号処理装置15が第二の渦電流探傷器14の出力を記憶する記憶手段153を有する構成を示したが、この構成に限定されるものではない。すなわち、第二の渦電流探傷器14の出力を記憶する記憶手段に代えて、第一の渦電流探傷器13の出力を記憶する記憶手段を有する構成であってもよい。このような構成においては、第一の渦電流探傷器13の出力を記憶手段に記憶しておき、第二の渦電流探傷器14からの出力が得られるごとに、記憶手段に記憶される第一の渦電流探傷器13の出力を読み出して減算処理を行う方法が適用できる。また、第一の渦電流探傷器13の出力をシフトレジスタを介して演算処理手段に入力する構成であってもよい。このように、本発明は、第一の渦電流探傷器13の出力を記憶するか、第二の渦電流探傷器14の出力を記憶するかは限定されるものではない。
このほか、信号処理装置15が、さらに第一の渦電流探傷器13の出力を記憶できる他の記憶手段を備える構成を有してもよい。
このような構成においては、まず、検査用プローブ17を被検査材の検査範囲の全体にわたって走査させ、第二のブリッジ回路12および第二の渦電流探傷器14を用いて、被検査材の検査範囲の全体にわたって第二の渦電流探傷器14の出力を得る。そして得られた出力を信号処理装置15の記憶手段153に記憶する。同様に、検査用プローブ17を被検査材の検査範囲の全体にわたって走査させ、第一のブリッジ回路11および第一の渦電流探傷器13を用いて、被検査材の検査範囲の全体にわたって、第一の渦電流探傷器13の出力を得る。そして得られた出力を前記他の記憶手段に記憶する。この場合、検査用プローブ17の一回の走査で、被検査材の検査範囲の全体にわたって、第一の渦電流探傷器13の出力と、第二の渦電流探傷器14の出力が得られる。
その後、演算処理手段154は、被検査材の同じ位置における第一の渦電流探傷器13の出力と第二の渦電流探傷器14の出力を、それぞれ記憶手段153と他の記憶手段とから読み出す。そして記憶手段153から読み出した第二の渦電流探傷器14の出力から、他の記憶手段から読み出した第一の渦電流探傷器13の出力を差し引く減算処理を行う。出力手段は、演算処理手段の減算処理の結果を出力する。
このように、あらかじめ被検査材の検査範囲の全体にわたって第一の渦電流探傷器13の出力と第二の渦電流探傷器14の出力を得ておき、その後減算処理および判定を行う構成であってもよい。
また、前記実施形態においては、第三のコイル121と第四のコイル122とが共通の芯材703を備える構成を示したが、第三のコイル121および第四のコイル122がそれぞれ個別に芯材を有する構成であってもよい。このような構成においては、第一実施形態にかかる検査装置1により第二の渦電流探傷器14の出力を得る場合には、第三のコイル121と第四のコイル122の一方を、実際に検査する被検査材の表面を走査させ、他の一方を、調整用検査材の表面に接近させておく構成が適用できる。
このような構成であると、被試験材にシグマ相が析出している場合、および/またはフェライトとオーステナイトの相の比率が変化した場合には、被試験材に近接させたコイルのインピーダンスが変化し、第二のブリッジ回路12のバランスがくずれる。このように、第二のブリッジ回路12には、シグマ相の析出に起因する不平衡電位と、フェライトおよびオーステナイトの比率の変化に起因する不平衡電位が合わさって生起する。このため、このような構成であっても、前記同様の作用効果を奏することができる。
次に、本発明の第二実施形態にかかる検査装置2および第二実施形態にかかる検査装置2を用いた検査方法について説明する。なお、第一実施形態にかかる検査装置1と共通する構成については説明を省略することがある。図5は、本発明の第二実施形態にかかる検査装置2の構成を、模式的に示したブロック図である。図5に示すように、本発明の第二実施形態にかかる検査装置2は、一組のブリッジ回路21と、一組の渦電流探傷器23と、信号処理装置25と、出力手段26とを備える。
本発明の第二実施形態にかかる検査装置2の渦電流探傷器23は、発振器231と、移相器232と、交流増幅器233と、同期検波器234と、直流増幅器235とを備える。この渦電流探傷器23には、第一実施形態にかかる検査装置1の渦電流探傷器(第一の渦電流探傷器13または第二の渦電流探傷器14)と同じ構成のものが適用できる。したがって説明は省略する。信号処理装置25は、A/D変換器251と、記憶手段253と、演算処理装置254とを備える。A/D変換器251は、渦電流探傷器23の出力をディジタル値に変換することができる。記憶手段253は、ディジタル値に変換された渦電流探傷器23の出力を記憶することができる。演算処理手段254は、記憶手段253に記憶される渦電流探傷器23の出力を読み出して、減算処理を行うことができる。出力手段26は、演算処理手段254の減算結果を出力することができる。
ブリッジ回路21は、第一のコイル211および第二のコイル212と、第三のコイル213および第四のコイル214とが交換可能に構成される。すなわち、本発明の第二実施形態にかかる検査装置2は、第一のコイル211と、第二のコイル212と、第一の平衡調整用素子215と、第二の平衡調整用素子216とにより、ブリッジ回路21を構成できる。この場合には、ブリッジ回路21の隣り合う辺に第一のコイル211と第二のコイル212が設けられる。そして第一のコイル211が設けられる辺に対向する辺には、第一の平衡調整用素子215が設けられ、第二のコイル212が設けられる辺に対向する辺には、第二の平衡調整用素子216が設けられる。
さらに第一のコイル211および第二のコイル212を、第三のコイル213および第四のコイル214に交換することにより、第三のコイル213と、第四のコイル214と、第一の平衡調整用素子215と、第二の平衡調整用素子216とによりブリッジ回路21を構成できる。この場合には、ブリッジ回路21の隣り合う辺に第三のコイル213と第四のコイル214が設けられる。そして第三のコイル213が設けられる辺に対向する辺には、第一の平衡調整用素子215が設けられ、第四のコイル214が設けられる辺に対向する辺には、第二の平衡調整用素子216が設けられる。
第二実施形態にかかる検査装置2の第一のコイル211および第二のコイル212は、第一実施形態にかかる検査装置1の第一のコイル111および第二のコイル112と同じ構成のものが適用できる。すなわち、被検査材などにそれぞれ所定の方向の一様渦電流を流すことができる。そして、第一のコイル211と第二のコイル212は、被検査材などに互いに直角な方向の一様渦電流を流すことができる。なお、第一のコイル211および第二のコイル212は、同仕様のコイルが適用される。
第三のコイル213および第四のコイル214は、本発明の第一実施形態にかかる検査装置1の第三のコイル121および第四のコイル122と同じ構成のものが適用できる。すなわち、被検査材などに円形の渦電流(方向性を有しない渦電流)を流すことができる。第三のコイル213および第四のコイル214には、同仕様のコイルが適用できる。
本発明の第二実施形態にかかる検査装置2の第一の平衡調整用素子215および第二の平衡調整用素子216には、本発明の第一実施形態にかかる検査装置の第一〜第四の平衡調整用素子113,114,213,214と同じ構成のものが適用できる。
このような構成の第二の実施形態にかかる検査装置2を用いた検査方法は、次のとおりである。
まず、第三のコイル213と、第四のコイル214と、第一の平衡調整用素子215と、第二の平衡調整用素子216とによりブリッジ回路21を構成する。そして、調整用検査材を用いてこのブリッジ回路21のバランスをとる。このブリッジ回路21のバランスのとり方は、第一実施形態における第二のブリッジ回路12のバランスのとり方と同じである。
次いで、第三のコイル213および第四のコイル214を、被検査材の検査範囲を走査させ、被検査材の検査範囲の全体にわたって渦電流探傷器23の出力を得る。ブリッジ回路21には、第一実施形態にかかる検査装置1の第二のブリッジ回路12と同様に、シグマ相の析出と、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化という二つの原因によって、不平衡電位が生起する。換言すると、このブリッジ回路21に生起する不平衡電位は、シグマ相の析出に起因する不平衡電位と、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化に起因する不平衡電位の合算であるといえる。
そして、得られた渦電流探傷器23の出力を、信号処理装置25の記憶手段253に記憶する。このような操作が行われると、信号処理装置25の記憶手段253には、被検査材の検査範囲全体にわたる渦電流探傷器23の出力が記憶される。
次いで、第三のコイル213および第四のコイル214を、第一のコイル211および第二のコイル212に交換する。そして、第一のコイル211と、第二のコイル212と、第一の平衡調整用素子215と、第二の平衡調整用素子216とによりブリッジ回路21を構成する。そして、調整用検査材を用いて、構成したブリッジ回路21のバランスをとる。このブリッジ回路21のバランスのとり方は、第一実施形態にかかる検査装置1の第一のブリッジ回路11のバランスのとり方と同じである。
ここで、ブリッジ回路21のバランスをとる操作において、第一のコイル211および第二のコイル212を調整用検査材に接近させる位置は、第三のコイル213と、第四のコイル214と、第一の平衡調整用素子215と、第二の平衡調整用素子216とにより構成されるブリッジ回路21のバランスをとる操作において、第三のコイル213および第四のコイル214の共通の芯材を接近させた位置と同じ位置とする。
さらに、第一のコイル211により生起する一様渦電流と、第二のコイル212のコイルにより生起する一様渦電流のうち、いずれか一方は、調整用検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流れるようにする。また、他方は、調整用検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向に流れるようにする。
そして、第一のコイル211および第二のコイル212を、被検査材の検査範囲の全体にわたって走査させ、渦電流探傷器23の出力を得る。そして得られた渦電流探傷器23の出力は、逐次信号処理装置25の演算処理手段254に入力される。
ここで、第一のコイル211により生起させる一様渦電流と、第二のコイル212のコイルにより生起させる二つの一様渦電流のうち、いずれか一方は、被検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流れるようにする。また、他方は、被検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向に流れるようにする。
また、第一のコイル211および第二のコイル212により生起させるそれぞれの一様渦電流の方向と、被試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向との関係は、ブリッジ回路21のバランスをとる操作における一様渦電流の方向と調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向との関係と同じに設定する。すなわち、ブリッジ回路21のバランスをとる操作において、第一のコイル211により生起させる一様渦電流を、調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流し、第二のコイル212により生起させる一様渦電流を、調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向に流した場合には、被検査材の検査において、第一のコイル211により生起させる一様渦電流を、被検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流し、第二のコイル212により生起させる一様渦電流を、被検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向に流す。このように、調整用試験材および被試験材の柱状組織の延伸方向と、第一のコイル211および第二のコイル212により生起する一様渦電流の方向とは、常に決まった方向にする。
第二実施形態にかかる検査装置2の第一のコイル211および第二のコイル212は、第一実施形態にかかる検査装置1の第一のコイル111および第二のコイル112と同じ構成を有する。このため、前記第一実施形態にかかる検査装置1の第一のブリッジ回路11と同様の理由により、シグマ相の析出によっては、ブリッジ回路21のバランスはくずれない。これに対して、フェライトとオーステナイトの相の比率が変化すると、前記理由により、ブリッジ回路21のバランスがくずれ、ブリッジ回路21に不平衡電位が生起する。このように、第一のコイル211と、第二のコイル212と、第一の平衡調整用素子215と、第二の平衡調整用素子216とにより構成されるブリッジ回路21を用いた場合には、被検査材のフェライトとオーステナイトの相の比率の変化にのみ起因する出力が得られる。
信号処理装置25の演算処理手段254は、渦電流探傷器23の出力が入力されるごとに、記憶手段253に記憶される渦電流探傷器23の出力(すなわち、第三のコイル213および第四のコイル214が設けられたブリッジ回路21を用いた渦電流探傷器23の出力)から、入力された渦電流探傷器23の出力(すなわち、第一のコイル211および第二のコイル212が設けられたブリッジ回路21を用いた渦電流探傷器23の出力)を得た位置と同じ位置で得られた出力を読み出す。そして読み出した渦電流探傷器23の出力(第三のコイル213および第四のコイル214が設けられたブリッジ回路21を用いた渦電流探傷器23の出力)から、入力された渦電流探傷器23の出力(第一のコイル211および第二のコイル212が設けられたブリッジ回路21を用いた渦電流探傷器23の出力)を差し引く減算処理を行う。
出力手段26は、演算処理手段254による減算処理結果を出力する。そして、出力手段26により出力された減算結果に基づいて、被試験材に地の柱状組織とは異なる組織が析出していないかが判定される。判定方法は、第一実施形態にかかる検査装置1を用いた検査方法における判定の方法と同じ方法が適用される。
このような構成であっても、第一実施形態にかかる検査装置1と同様の作用効果を奏することができる。
なお、前記実施形態においては、第一のコイル211および前記第二のコイル212と、第三のコイル213および前記第四のコイル214とが交換可能な構成を示したが、この構成に限定されるものではない。たとえば、第一のコイル211および前記第二のコイル212が設けられたブリッジ回路と、第三のコイル212および前記第四のコイル214が設けられたブリッジ回路とを用意しておき、ブリッジ回路ごと交換する構成であってもよい。さらに、第一のコイル211および前記第二のコイル212が設けられたブリッジ回路が接続される渦電流探傷器と、第三のコイル212および前記第四のコイル214が設けられたブリッジ回路が接続される渦電流探傷器とを用意しておき、渦電流探傷器ごと交換する構成であってもよい。
また、第一のコイル211および前記第二のコイル212が設けられたブリッジ回路21により不平衡電位を検出する操作を先に行うか、第三のコイル213および前記第四のコイル214が設けられたブリッジ回路21により不平衡電位を検出する操作を先に行うかは限定されるものではない。すなわち、先に第一のコイル211および前記第二のコイル212が設けられたブリッジ回路21を構成し、このブリッジ回路21に生起して渦電流探傷器23において検波された不平衡電位を記憶手段253に記憶し、次いで、第三のコイル213および前記第四のコイル214が設けられたブリッジ回路を構成し、このブリッジ回路21に生起して渦電流探傷器23において検波された不平衡電位を得る構成であってもよい。
また、第三のコイル121と第四のコイル122とが共通の芯材703を備える構成を示したが、第三のコイル121および第四のコイル122がそれぞれ個別に芯材を有する構成であってもよい。このような構成の第三のコイル213および第四のコイル214が設けられたブリッジ回路の不平衡電位を得る方法は、前記の通りである。