JP5213643B2 - 延性および穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板および高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板 - Google Patents

延性および穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板および高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板 Download PDF

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Description

本発明は、自動車、輸送機の構造部材などの素材として好適に用いられる高強度冷延鋼板および高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、優れた加工性、特に延性および穴拡げ性に優れたものに関する。
近年、地球環境問題の観点から自動車の低燃費化が求められており、その対策の一つとして車体重量の軽量化が要求されている。また自動車の衝突安全性の向上も求められているが、従来の鋼板を用いた場合、強度が低いため車体の重量増が懸念される。この二つの相反する課題を解決するため、自動車用高強度鋼板が自動車構造部材の素材として用いられる。従来、引張強度が980MPaを超えるような高強度鋼板(「超高強度鋼板」という場合がある。)は用いられていなかったが、近年、そのような超高強度鋼板も適用されつつある。
一方、高強度鋼板を用いてバンパーやインパクトビーム等の自動車構造部材を製作するに際し、高強度鋼板に対して複雑なプレス成形や曲げ加工が施される。自動車用構造部材としては、前記のバンパーなどのほか、例えばセンターピラーなどのピラー類、サイドシル、サイドメンバ、クロスメンバを挙げることができる。超高強度鋼板に対しても高強度鋼板と同様の加工が施されるため、延性、曲げ性が求められ、さらに穴拡げ性も求められる。また衝突時のエネルギー吸収性が高いことも求められる。
自動車用超高強度鋼板における加工特性のうち、延性と穴拡げ性とは相反する特性である。それぞれの特性を向上させるために、これまで以下のような方法が提案されている。穴拡げ性については、非特許文献1に示されているように、主相をマルテンサイトとして、その体積率を増加させることにより、980MPa以上の引張強度でありながら、穴拡げ性を向上させることが可能である。もっとも、マルテンサイトが主相の高強度鋼板は延性が低くなるため、この高強度鋼板では、穴拡げ性と延性を両立させるためにSiを1質量%以上添加している。しかし、1質量%以上のSiを添加すると、冷延鋼板で通常行われる化成処理や電着塗装に対して処理性が劣化する。
一方、強度と延性とを兼備した高強度鋼板としては、TRIP(Transformation Induced Plasticity:変態誘起塑性)鋼板が知られている。TRIP鋼板は、オーステナイト組織が残留した組織を有している。このため、マルテンサイト変態開始温度(Ms点)以上の温度で加工変形させると、応力によって残留オーステナイト(「残留γ」と略記することがある。)がマルテンサイトに誘起変態して大きな伸びが得られる。TRIP鋼の種類としては、例えば、ポリゴナルフェライトを母相とし、残留オーステナイトを含むTRIP型複合組織鋼(TPF鋼);焼戻マルテンサイトを母相とし、残留オーステナイトを含むTRIP型焼戻マルテンサイト鋼(TAM鋼);ベイニティックフェライトを母相とし、残留オーステナイトを含むTRIP型ベイナイト鋼(TBF鋼)が知られている。
前記TBF鋼は、例えば非特許文献2に記載されているように、古くから知られており、硬質のベイニティックフェライトによって高強度が得られ易い。また当該組織中には、ラス状のベイニティクフェライトの境界に微細な残留オーステナイトが生成する。この様な組織形態のために、TBF鋼は、高強度でありながら、非常に優れた伸びを有するという特徴がある。更にTBF鋼は、1回の熱処理(連続焼鈍工程)によって容易に製造できるという製造上のメリットもある。
また、特許文献1には残留オーステナイト、ベイニティックフェライト/マルテンサイト、フェライト/パーライトからなる複合組織を備え、残留オーステナイトの存在形態を制御した超高強度鋼板が開示されている。この鋼板は、耐水素脆化特性の向上に主眼が置かれているため、母相をベイニティックフェライトとし、このベイニティックフェライトのラス間にサブミクロンオーダーの残留オーステナイトが配置された組織を有している。このような組織とすることにより、1180MPa以上の高強度、10%以上の全伸び、および優れた耐水素脆性が得られている。しかし、特許文献1には、穴拡げ性については何ら考慮、示唆されておらず、穴拡げ性を含めた加工性が不十分である。さらに鋼成分として、1.0〜3.0質量%のSiが含有されているため、化成処理性、電着塗装性、めっき性の劣化が懸念される。
他方、素地鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を被覆した合金化溶融亜鉛めっき鋼板は耐食性に優れた鋼板として知られている。合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき鋼板を加熱して、素地鋼板中のFeを溶融亜鉛めっき層へ拡散させ、FeとZnとを合金化させて合金化溶融亜鉛めっき層とし、これを素地鋼板に被覆形成したものである。合金化溶融亜鉛めっき鋼板の素地鋼板を高強度冷延鋼板で形成したもの(高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板)は、強度のみならず、溶接性、塗装後の耐食性などに優れるため、衝突エネルギーを吸収するメンバーなどの自動車骨格部材として好適に用いられる。このため、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板に対しても、高強度冷延鋼板と同様、延性と穴拡げ性が要求される。高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の素地鋼板としては、前記各種高強度冷延鋼板が用いられる。
中村展之,外3名、「超高強度冷延鋼板の伸びフランジ成形性に及ぼす組織の影響」、CAMP-ISIJ,Vol.13(2000),p.391-394 NISSHIN STEEL TECHNICAL REPORT(日新製鋼技報),No. 43,Dec. 1980,p.1−10 特開2006−207016号公報
上記のとおり、従来の高強度冷延鋼板や高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板には、引張強度が980MPa以上と高強度のものがあるが、化成処理や電着塗装などの表面処理性やめっき性を損なうことなく、優れた穴拡げ性と延性とを兼備したものはない。本発明はかかる問題に鑑みなされたもので、表面処理性、めっき性を損なうことなく、優れた延性と優れた穴拡げ性を兼備し、引張強度が980MPa以上の高強度冷延鋼板、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋼組成、製造方法を種々検討した結果、鋼板中の残留オーステナイトを特定の形態に制御すると共に、この残留オーステナイトを鋼板組織中の母相のベイニティックフェライトのラス間のみならず、特定の部位すなわち旧オーステナイトの粒界が重なり合う部位に当たる粒界三重点に積極的に形成させることにより、高強度でありながら、優れた延性と優れた穴拡げ性とを兼備させることができることを見出した。また、鋼板中のSi量を抑制することにより、表面処理性やめっき性の低下を抑制することができることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明の高強度冷延鋼板は、化学組成が質量%(以下、単に「%」と表記する。)で、
C:0.10〜0.30%、
Si:0.2%以下、
Mn:1.0〜5.0%、
P:0.1%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.2〜3.0%
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなり、組織としてベイニティックフェライトおよび残留オーステナイトを含み、組織中の残留オーステナイト結晶粒の長軸/短軸で表される軸比の平均が5以上で、該残留オーステナイト結晶粒の短軸長さの平均が1μm以下であり、さらに組織断面における旧オーステナイト粒界が重なる部位である粒界三重点に残留オーステナイトが存在し、全組織に対する面積率で、残留オーステナイトが1〜20%であり、該残留オーステナイトの全量のうち、前記粒界三重点に存在する割合が40%以上であり、かつ全組織に対する面積率で、ベイニティックフェライトが70%以上、マルテンサイトが10%未満とされる。
この高強度冷延鋼板によると、組織としてベイニティックフェライトおよび残留オーステナイトを含むので、鋼板を980MPa以上の強度に容易に高強度化することができる。また、この高強度冷延鋼板では、鋼板中の残留オーステナイトがサブミクロンオーダーの所定の微細形態とされるので、加工に対する安定度が高くなり、加工時に必要以上に変態しないため、高い延性を得ることができる。しかも、そのような微細形態の残留オーステナイトを、ボイドが発生し易い部位である粒界三重点に存在させるので、鋼板に加工が加わった際に粒界三重点に破壊の起点になるボイドの発生を抑制しながら、鋼板中で均一なTRIP効果を発揮させることができる。このため延性および穴拡げ性を両立させることができる。このように、本発明の高強度冷延鋼板は、特に微細形態の残留オーステナイトを特定の部位である粒界三重点に積極的に形成させるので、穴拡げ性を損なうことなく、優れた延性を兼備させることができる。また、化学組成において、Siを0.2%以下に抑制し、Alを0.2〜3.0%と比較的多量に添加するので、残留オーステナイトが粒界三重点に生成し易くなり、さらに上記のとおりSi量が0.2%以下であるため、優れた化成処理性および電着塗装性が得られる。なお、従来のTRIP鋼板は、ミクロンオーダーの粗大な塊状残留オーステナイトを含むため、加工の際に変態が過度となり、また破壊の起点となるボイドが発生し易いものであった。
上記高強度冷延鋼板において、全組織に対する面積率で、残留オーステナイトを1%〜20%とし、かつ該残留オーステナイトの全量のうち、粒界三重点に存在する割合を40%以上とする。残留オーステナイトをこのように生成させることにより、鋼板の強度低下を防止しながら、優れた伸びと穴拡げ性を確保することができる。また、全組織に対する面積率で、強度および伸びフランジ性の向上効果のあるベイニティックフェライトは70%以上とされ、強度向上効果があるものの伸びフランジ性の向上にほとんど寄与しないマルテンサイトは10%未満とされる。
また、上記高強度冷延鋼板において、全組織に対する面積率で、ベイニティックフェライトおよびマルテンサイトの合計量を80%以上とすることが好ましい。これにより、980MPa以上の高強度鋼板を容易に得ることができる。
また、機械的性質などの特性を向上させるため、上記高強度冷延鋼板の基本成分に、A群(Nb:0.01〜0.5%、Ti:0.01〜0.5%)、B群(Cu:0.003〜0.5%、Ni:0.003〜1.0%)、C群(Mo:0.01〜1.0%、B:0.0001〜0.1%)、D群(Ca:0.0005〜0.005%、Mg:0.0005〜0.01%)、V:0.003〜1.0%の内、1種又は2種以上の元素を含有させて、下記(1) から(5)の化学組成とすることができる。
(1) 基本成分+A群から1種又は2種以上
(2) 基本成分又は上記(1) の成分+B群から1種又は2種以上
(3) 基本成分、上記(1) 又は上記(2) の成分+C群から1種又は2種以上
(4) 基本成分、上記(1) 、上記(2) 又は上記(3) の成分+D群から1種又は2種以上
(5) 基本成分、上記(1) 、上記(2) 、上記(3) 又は上記(4) の成分+V
また、本発明に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、上記高強度冷延鋼板と同様の成分、基本的に同様の組織からなる素地鋼板に合金化溶融亜鉛めっき層が被覆されたものである。
また、本発明の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、上記(1) から(5) のいずれかの化学組成の鋼からなるスラブを1100〜1300℃で加熱した後、仕上圧延温度を800〜950℃として熱間圧延を終了し、酸洗後、冷間圧延を行った後、900〜1000℃のオーステナイト化温度に加熱保持した後、マルテンサイト変態開始点以上でベイナイト変態開始点以下の温度域に設定された恒温変態温度Toまで冷却し、当該恒温変態温度Toにて60〜1800秒保持した後、溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、その後合金化処理を行うものである。
この製造方法によれば、溶融亜鉛めっきを施す前の高強度冷延鋼板中に未変態オーステナイトが存在するのを可及的に抑制することができるので、未変態オーステナイトの変態が原因となって生じる、素地鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との密着性の低下を防止することができる。これにより、プレス成形時におけるめっき層が剥離する現象であるパウダリングやフレーキングを有効に防止することができ、優れた延性および穴拡げ性のみならず、耐パウダリング性および耐フレーキング性にも優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
以下、本発明の実施形態に係る高強度冷延鋼板について詳細に説明する。
この高強度冷延鋼板は、C:0.10〜0.30%、Si:0.2%以下、Mn:1.0〜5.0%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.2〜3.0%を含み、残部が鉄および不可避不純物からなる化学組成を有する。また、その組織としてベイニティックフェライトおよび残留オーステナイトを含み、その他、マルテンサイト(0%の場合を含む。)および不可避的に生成したフェライトおよび/またはパーライト(フェライト0%、パーライト0%の場合を含む。)で形成される。前記残留オーステナイトは、組織中に面積率で1〜20%含まれ、鋼板中のオーステナイト結晶粒の軸比(長軸/短軸)の平均が5以上であり、かつ該残留オーステナイト結晶粒の短軸長さの平均が1μm以下である。さらに、残留オーステナイトは母相のベイニティックフェライトのラス間のみならず、旧オーステナイト粒界が重ね合わさる部位に当たる粒界三重点にも存在し、全残留オーステナイトのうち前記粒界三重点に存在する割合(面積割合)が40%以上、好ましくは60%以上とされる。なお、以下、面積率は面積%を意味し、単に「%」と表記することがある。
まず、前記高強度冷延鋼板の組織について説明する。鋼板中に存在する残留オーステナイトは、TRIP効果による大きな延性を得るために必要な組織である。前記残留オーステナイトの下限が1%未満では延性が不足し、一方20%超では延性が過度になり、強度が低下するようになる。このため、残留オーステナイト量の下限を1%、好ましくは2%、より好ましくは3%とする。また、その上限を20%、好ましくは18%、より好ましくは15%とする。
前記残留オーステナイトの形態については、上記のとおり結晶粒の軸比の平均が5以上、短軸長さの平均が1μm以下、好ましくは0.5μm 以下、より好ましくは0.3μm 以下とされる。このような微細形態の残留オーステナイトは、加工時に必要以上に変態しないため、高い延性と穴拡げ性を両立させることができる。残留オーステナイトによるTRIP効果を有効に発揮させるためには、残留オーステナイトの厚みがある程度必要である。このため、残留オーステナイトの軸比を5以上とし、その上限は30とすることが好ましく、20とすることがより好ましい。
また、残留オーステナイトは安定化させることにより、残留オーステナイトの過度の変態を抑制することができる。このため、残留オーステナイトの安定性の観点から、残留オーステナイト中の初期炭素濃度(Cγ0)は0.8%以上とすることが推奨される。Cγ0を0.8%以上に制御することにより、伸びなどを有効に高めることができる。好ましくはCγ0量を1.0%以上、より好ましくは1.2%以上とするのがよい。Cγ0は高いほど好ましいが、実操業上可能な上限はおおむね1.6%程度である。なお、加工時の残留オーステナイトの安定化は、TRIP鋼の変態誘起加工性の低下に影響を及ぼさない。また、前記Cγ0は後述する恒温変態温度(オーステンパ温度)To、恒温変態保持時間(オーステンパ時間)toを調節することにより制御することができる。
また、前記微細形態の残留オーステナイトは、組織中に存する多数の粒界三重点に分散して存在する。このため、鋼板が加工された際に、前記粒界三重点が割れの原因となるボイドが発生し難くなり、また鋼中で均一なTRIP効果を得ることができる。その結果、延性と共に穴拡げ性が向上する。このような効果を有効に発揮させるためには、全残留オーステナイトうち、前記粒界三重点に存在するものの割合を40%以上、好ましくは60%以上とするのがよい。
ここで、前記残留オーステナイトの存在形態、形態(短軸、長軸)の特定方法について説明する。図1は、実施形態の高強度鋼板の組織状態を示す模式図であり、残留オーステナイトは、旧オーステナイト粒内のベイニティックフェライトのラス間に存在するのみならず、粒界三重点Pにも析出し、存在している。これに対して、参考として従来の高強度鋼板組織の模式図を図2に示す。従来鋼板では、残留オーステナイトは旧オーステナイト粒内のベイニティックフェライトのラス間にのみ存在している。
前記残留オーステナイトの形態は、短軸の長さSおよび長軸の長さL、および軸比(L/S)により定まる。旧オーステナイト粒内に存在する残留オーステナイトは、図3(1) に示すように、結晶粒内の最大長Lの線分を長軸とし、最小長Sの線分を短軸とする。一方、粒界三重点に存在する残留オーステナイトについては、図3(2) に示すように、異なる方向に突出した各角状部について、角状部の基部の幅Sを規定する線分を短軸とし、また角状部の頂点から、これに対向する屈曲辺が前記頂点側に最も接近した交点部に引いた線分(その長さL)を長軸とする。
実施形態の高強度鋼板の組織は、前記残留オーステナイトのほか、ベイニティックフェライトおよびマルテンサイト、並びにフェライトおよび/またはパーライトで形成される。前記ベイニティックフェライトおよびマルテンサイトは、主に高強度を確保するための組織であり、両組織の合計量は80%以上とするのがよく、より好ましくは82%以上、さらに好ましくは85%以上とするのがよい。また、前記ベイニティックフェライトは、強度および伸びフランジ性の向上に効果があるため、全組織に対して70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上とするのがよい。マルテンサイトは強度の向上に効果があるが、伸びフランジ性の向上にはほとんど寄与しないので、マルテンサイトは10%未満、好ましくは8%未満、より好ましくは6%未満(0%を含む。)とするのがよい。
前記残留オーステナイト、ベイニティックフェライトおよびマルテンサイトの他の組織して、フェライトおよび/またはパーライトが製造上不可避的に生成する場合がある。フェライトおよび/またはパーライトは、鋼板の強度を低下させるため少ないほどよく、合計量で6%以下、好ましくは3%以下(0%を含む。)に止めるのがよい。
ここで、前記各組織およびその観察方法について説明する。ベイニティックフェライトは、板状のフェライトであり、転位密度が高い下部組織を意味する。転位がないか、あるいはきわめて少ない転移密度の下部組織を有するフェライト(このフェライトは「ポリゴナルフェライト」といい、通常、単に「フェライト」と呼ばれる。)とはSEM観察によって明瞭に区別される。すなわち、ベイニティックフェライトはSEM観察では濃灰色を示すが、ポリゴナルフェライトは黒色であり、多角形の形状で、内部に残留オーステナイトやマルテンサイトを含まない。また、マルテンサイトはSEM観察で灰白色の細い針状の結晶粒として観察される。
残留オーステナイトは、EBSP(Electron Back Scatter diffraction Pattern)検出器を備えたFE−SEMにより、FCC(面心立方格子)として観察されるものである。EBSPは、試料表面に電子線を入射させ、このときに発生する反射電子から得られた菊池パターンを解析することにより電子線入射位置の結晶方位を決定するものである。電子線を試料表面に2次元で走査させ、所定のピッチごとに結晶方位を測定することにより、試料表面での方位分布を測定することができる。
残留オーステナイトの面積率の具体的測定例を以下に記す。鋼板の板厚1/4の位置で圧延面と平行な面(測定面)における任意の測定面積(約50×50μm、測定間隔は0.1μm)を測定対象とする。当該測定面まで研磨する際には、残留オーステナイトの変態を防ぐため、電解研磨することが好ましい。次に、上記EBSP検出器を備えたFE−SEMを用いて、EBSP画像を高感度カメラで撮影し、この画像をコンピューターに取り込み、画像解析を行う。画像解析では、既知の結晶系(残留オーステナイトの場合はFCC)を用いたシミュレーションによるパターンと比較して決定したFCC相をカラーマップし、これと同様にマッピングされた領域の面積率を残留オーステナイト組織の面積率とする。なお、後述する実施例において、前記画像解析に係わるハードウェアおよびソフトとして、TexSEM Laboratorieses Inc.のOIM(Orientation Imaging Microscopy)システムが用いられた。
また、残留オーステナイトの形態(短軸長さ、長軸長さ、軸比)、その存在位置と存在割合は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて、倍率15000〜60000倍程度で鋼板の組織を観察し、観察した画像を解析することによって調べることができる。なお、後述する実施例では、鋼板組織を倍率15000倍で任意の5視野を観察し、各視野において調査対象の値を求めた後、それらの平均値を求めた。
次に、実施形態にかかる高強度冷延鋼板の化学組成の限定理由について説明する。
C:0.10〜0.30%
Cは、鋼板の強度を確保するために必須の元素であり、また鋼板中の残留オーステナイトの生成および安定に寄与する元素である。これらの効果を有効に発揮させるため、Cの下限は0.10%が好ましく、0.12%がより好ましい。しかし、C量が過剰になると溶接性が劣化するため、Cの上限は0.30%が好ましく、0.25%がより好ましい。
Si:0.2%以下
Siは、残留オーステナイトの分解により炭化物が生成するのを有効に抑える重要な元素であり、かつ、材質を大きく硬質化する置換型固溶体強化元素である。一般的には、多量のSiを添加すると、セメンタイト析出が抑制され、ベイニティックフェライトのラス間に残留オーステナイトが生成するようになるが、粒界三重点に残留オーステナイトを生成させることができない。残留オーステナイトを粒界三重点に生成させるためには、Siの含有量を0.2%以下とする必要がある。またSiを多量に含有するとスケール性状の悪化、表面品質の低下、化成処理性、電着塗装性の劣化が生じる。また、表面に酸化皮膜を生成し、溶融亜鉛めっき層の合金化速度を遅くし、めっきムラや不めっきの原因となる。これらの観点からSi量は低い方が望ましい。また特に比較的多量のAlとの複合添加する場合、溶接品質確保の観点からも低い方が望ましい。このため、Siの上限は0.2%が好ましく、0.15%がより好ましく、0.10%がさらに好ましい。
Mn:1.0〜5.0%
Mnは、鋼板の強度確保に有効な元素であり、かつオーステナイトの安定化、所望の残留オーステナイトを得るために必要な元素である。このような効果を十分に発揮させるためには、Mnの下限は1.0%が好ましく、1.5%がより好ましい。しかし、多量に含有させると偏析が顕著になり、また加工性、溶接性が劣化するため、その上限を好ましくは5.0%、より好ましくは4.0%とする。
P:0.1%以下
Pは、粒界偏析による粒界破壊を助長する元素であり、低い方が好ましい。このため、Pの上限を好ましくは0.1%、より好ましくは0.05%とする。
S:0.01%以下
Sは、過剰に含有されると硫化物系介在物が増大して鋼板の強度が劣化する。このため、Sの上限は0.01%が好ましく、0.005%がより好ましい。
Al:0.2〜3.0%
Alは脱酸のために必要な元素である。また、Alはフェライト変態の開始を早め、セメンタイトの析出を抑制し、残留オーステナイトの安定化に有効な元素である。本発明ではSiを0.2%以下に低減しながら、Alを添加することにより、ベイニティックフェライトのラス間のみならず、粒界三重点に残留オーステナイトを優先的に生成させる。このためには、Alは0.2%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましい。しかし、過剰に添加すると残留オーステナイトの生成効果が飽和するだけでなく、延性の低下や鋼の脆化を招くため、その上限は3.0%が好ましく、2.5%がより好ましい。
実施形態の鋼板は、上記基本成分のほか、残部Feおよび不可避的不純物で形成されるが、鋼板の機械的性質等の特性を向上させるために、上記基本成分に、A群(Nb:0.01〜0.5%、Ti:0.01〜0.5%)、B群(Cu:0.003〜0.5%、Ni:0.003〜1.0%)、C群(Mo:0.01〜1.0%、B:0.0001〜0.1%)、D群(Ca:0.0005〜0.005%、Mg:0.0005〜0.01%)、V:0.003〜1.0%の内、1種又は2種以上の元素を添加して下記(1) から(5) の化学組成とすることができる。なお、本発明の効果を損なわない限り、他の添加元素を含有させてもよい。
(1) 基本成分+A群から1種又は2種以上
(2) 基本成分又は上記(1) の成分+B群から1種又は2種以上
(3) 基本成分、上記(1) 又は上記(2) の成分+C群から1種又は2種以上
(4) 基本成分、上記(1) 、上記(2) 又は上記(3) の成分+D群から1種又は2種以上
(5) 基本成分、上記(1) 、上記(2) 、上記(3) 又は上記(4) の成分+V
A群のTi、Nbは、結晶粒を微細化する元素であり、靱性を損なうことなく鋼板の強度を向上させるのに有効な元素である。そのため、それぞれ0.01%以上添加することが好ましい。より好ましくは0.03%である。しかし、過剰に含有させてもその効果が飽和するだけでなく、コスト的にも不利になるため、それぞれの元素の上限を0.5%とするのが好ましく、0.3%とするのがより好ましい。Ti、Nbは各々単独で含有してもよいし、両者を組み合わせて添加してもよい。
B群のCu、Niは、いずれも固溶強化元素であり、鋼板の強度を向上させるのに寄与する。またCu、Niの存在により鋼板自体の耐食性も向上させることができる。これらの効果を十分に発揮させるためには、それぞれ0.003%以上含有させることが好ましく、0.01%以上の含有がより好ましい。しかし、過剰に含有させてもその効果が飽和し、またコスト的にも不利になるため、Cuの上限は0.5%が好ましく、0.4%がより好ましい。また、Niも同様の理由から、Niの上限は1.0%が好ましく、0.8%がより好ましい。Cu、Niは各々単独で含有してもよいし、両者を組み合わせて添加してもよい。
C群のMo、Bは共に鋼板の焼入れ性を高めるために有効な元素である。Moはさらにオーステナイトの安定化、所望の残留オーステナイトを得るために有効な元素であり、また水素侵入を抑制し、耐遅れ破壊特性を向上させる効果を有する。さらにまた粒界を強化して水素脆性の発生を抑制する効果がある。これらの効果を有効に発揮させるには、Moは0.01%以上の添加が好ましい。もっとも、Moが1.0%超ではこれらの効果が飽和するため、Mo量の上限を1.0%、好ましくは0.8%、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは0.3%とする。一方、Bはさらに粒界を強化して耐遅れ破壊性を向上させる効果を有する。耐遅れ破壊性、鋼板の焼き入れ性の効果を十分に発揮させるためには、Bを0.0001%以上含有させることが好ましく、0.00015%以上がより好ましい。しかし、Bを過剰に含有させると熱間加工性が劣化するため、その上限は0.1%が好ましく、0.05%がより好ましく、0.01%がさらに好ましく、0.005%がさらにより好ましい。
D群のCa、Mgは、鋼中硫化物の形態を制御し、加工性を向上させるのに有効な元素である。また、鋼板表面の腐食に伴う界面雰囲気の水素イオン濃度の上昇を抑制する。これらの効果を十分に発揮するためには、それぞれ0.0005%以上含有させることが好ましい。しかし、過剰の含有は加工性が劣化し、また経済的に不利になるため、Caの上限を0.005%とすることが好ましく、またMgの上限を0.01%とすることが好ましい。
Vは、保護性さびの形成に寄与し、特にTiとVとを複合添加することで前記保護性さびの形成が促進される。また、Vは鋼板の強度上昇、細粒化にも有効な元素である。またTiと同様、鋼中のCやNとの間で微細な炭窒化物を形成し、これら炭窒化物が980MPaを超える高強度鋼板で問題となる水素脆化の原因となる侵入水素のトラップサイトとして有効に働く。これらのVの効果を十分に発揮させるには、0.003%以上含有させることが好ましく、0.01%以上の含有がより好ましい。しかし、過剰に添加すると、炭窒化物の析出が多くなり、加工性の低下を招く。このため、Vは1.0%以下添加することが好ましく、0.5%以下がより好ましい。Tiを添加する場合、前記Vの上限値は、Tiとの合計量とすることが好ましい。
次に、実施形態に係る高強度冷延鋼板の好ましい製造方法について説明する。この製造方法は、上記化学組成の鋼を溶製し、その鋳造スラブを熱間圧延し、酸洗後、冷間圧延する鋼板製造工程と、鋼板製造工程によって製造された鋼板をオーステナイト化温度に加熱保持するオーステナイト化工程と、オーステナイト化した鋼板を恒温変態させる恒温変態工程を備える。
熱間圧延の際の加熱温度(圧延開始温度)は好ましくは約1100〜1300℃、仕上げ圧延温度は好ましくは約800〜950℃、巻き取り温度は好ましくは約700℃以下とされる。前記加熱温度は、仕上げ圧延温度の確保およびオーステナイト結晶粒の粗大化防止の観点、さらに粒界三重点に残留オーステナイトを選択的に析出させる観点から、好ましくは上記の温度範囲内に制御される。前記仕上げ圧延温度は、フェライトの生成しない過冷却オーステナイト域温度であって、極力低温とするのがよいため、好ましくは上記の温度範囲内に制御される。このような仕上げ圧延温度に設定することによって、熱延鋼板のオーステナイトを微細化することができ、その結果、最終製品の組織を微細にすることができる。仕上げ圧延後の冷却速度はパーライトの生成を抑制するため、約30〜120℃/sの範囲に制御することが好ましい。巻き取り温度を約700℃以下に制御するのは、これを越える高温で巻き取ると鋼板表面のスケールが厚くなり、酸洗性が劣化するためである。
熱間圧延後、加工性を高めるために冷間圧延が施される。冷延率は30%以上とすることが好ましい。冷延率が30%未満であると所望の製品を得るために熱延板を薄く引き延ばすことが必要となるため、生産性が低下する。なお、熱間圧延により熱延板の板厚を薄く仕上げることにより、冷間圧延を省略することができる。後述する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の素地鋼板の場合も同様である。
冷間圧延後のオーステナイト化工程では、以下の要領で熱処理を行うことが好ましい。すなわち、冷間圧延後、900〜1000℃程度のオーステナイト化温度(T1)に加熱し、同温度にて10〜1800秒のオーステナイト化保持時間(t1)で保持した後、5℃/s以上の冷却速度で(Ms点−100)(℃)〜Bs点(℃)の温度域中に設定した恒温変態温度(To)まで冷却する。引き続いて実施される恒温変態工程では、前記Toの温度で60〜1800秒程度の恒温変態保持時間(to)を保持することが好ましい。なお、Ms点はマルテンサイト変態開始温度、Bs点はベイナイト変態開始温度である。
前記オーステナイト化温度(T1)での加熱により、鋼板の強度を確保し、また高延性、穴拡げ性を両立させるために、鋼板組織中にベイニティックフェライトを多く生成させると共に粒界三重点に残留オーステナイトを生成させる。このためには、T1を900℃以上にすることが好ましい。900℃未満では、組織が十分にオーステナイト単相化せず、その後の冷却および恒温保持において、十分な量のベイニティックフェライトおよび残留オーステナイトが得られないようになる。特に、優れた延性、穴拡げ性を兼備させるためには、鋼中に存在する残留オーステナイトをより多く粒界三重点に析出させる必要がある。そのためにはT1は950〜1000℃とすることが好ましい。1000℃超に加熱しても、強度、延性、穴拡げ性などの諸特性には悪影響を与えないが、加熱するための負荷が増すため、生産性が低下する。また冷却過程での制御が困難となり、過冷却によって所定の残留オーステナイトが得られないようになる。さらにSi、Mnなど化成処理、塗装密着性を悪化させる元素が鋼板表面へ濃化するようになる。なお、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の素地鋼板の場合、1000℃を越えて、必要以上に高温に加熱すると、Mn、Crなどのめっき性を低下させる元素の鋼板表面への濃化が生じ、素地鋼板と溶融亜鉛めっき層との密着性に悪影響を及ぼす。
前記T1でのオーステナイト化保持時間(t1)を10〜1800秒とするのは以下の理由による。t1が10秒未満の場合には、鋼板組織が十分にオーステナイト化せず、セメンタイトやその他の合金炭化物が残存するようになる。このため、t1の下限は10秒とするのが好ましく、30秒以下とするのがより好ましい。一方、t1が1800秒超になると、オーステナイト粒が成長し、粗大化するため、加工性(伸びフランジ性)が悪化するようになる。また必要以上に長時間加熱すると生産性が著しく低下する。このため、t1は1200秒以下とすることが好ましく、600秒以下がより好ましい。
次に、鋼板をオーステナイト化温度T1から恒温変態温度(To)まで冷却する。この際、鋼板がパーライト変態するのを抑制するため、5℃/s以上の平均冷却速度で冷却することが好ましい。鋼板の強度向上の観点からは10℃/s以上とすることがより好ましい。この理由は、冷却速度が比較的低速の場合(例えば、5〜10℃/s)、フェライトが生成し易くなるからである。また、冷却速度は冷却終了時での温度制御が困難になるため、その上限は100℃/sとすることが好ましい。
前記Toを(Ms点−100)(℃)〜Bs点(℃)の温度域内に設定するのは以下の理由による。ToがBs点を超えると、好ましくないパーライトが多量に生成し、ベイニティックフェライト組織を十分に確保することができないようになる。一方、Toが(Ms点−100℃)を下回ると、残留オーステナイトが減少するようになり、伸びが低下するようになる。
また、前記恒温変態保持時間(to)が1800秒を超えるとベイニティックフェライトの転位密度が小さくなり、水素のトラップ量が少なくなる他、所定の残留オーステナイトが得られないようになる。一方、toが60秒未満では、所定のベイニティックフェライト組織が得られないため、toの下限を60秒、好ましくは90秒、より好ましくは120秒とし、その上限を1800秒、好ましくは1200秒、より好ましくは600秒とする。恒温変態後の冷却方法については特に限定されず、空冷、急冷、気水冷却等を行うことができる。なお、鋼板中の残留オーステナイトの存在形態は、オーステナイト化温度T1から恒温変態温度Toへの冷却速度、To、恒温変態保持時間toなどを制御することにより調整することができる。例えば、Toを低温にすることにより、平均軸比の小さい残留オーステナイトを形成することができる。
上記実施形態の冷延鋼板は、恒温変態させたままのものでもよいが、必要に応じて、冷延鋼板に化成処理、各種塗装、塗装下地処理、有機皮膜処理などの表面処理を施してもよい。
塗装を行う場合、各種用途に応じて下地処理としてリン酸塩処理などの化成処理を施してもよく、電着塗装を施してもよい。塗料としては、公知の塗料用樹脂、例えばエポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコンアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂などを用いることができる。塗料用樹脂を用いる際には、公知の硬化剤を併用することができる。特に耐食性を重視する場合、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコンアクリル樹脂の使用が推奨される。その他、塗料用樹脂には、公知の塗料用添加剤、例えば着色用顔料、カップリング剤、レベリング剤、増感剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、難燃剤などを添加しても良い。
また、塗料の形態も特に限定されず、溶剤系塗料、粉体塗料、水系塗料、水分散型塗料、電着塗料など、用途に応じて適宜選択することができる。上記塗料を用い、所望の被覆層を鋼板に形成するには、ディッピング法、ロールコータ法、スプレー法、カーテンフローコーター法などの公知の塗装方法を用いることができる。被覆層の厚みは、用途に応じて適切な厚みに調整することができる。
本発明の実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、上記実施形態に係る高強度冷延鋼板と同様の組成を有し、基本的に同様の組織を有する鋼板を素地鋼板として、その表面に合金化溶融亜鉛めっき層が被覆形成されたものであり、前記高強度冷延鋼板と同様の加工性(延性および穴拡げ性)を備え、また合金化溶融亜鉛めっき層によって優れた耐食性をも兼備する。
前記素地鋼板の組織については、前記高強度冷延鋼板と同様、残留オーステナイトのほか、ベイニティックフェライトおよびマルテンサイト、並びにフェライトおよび/またはパーライトで形成される。前記ベイニティックフェライトは、強度および伸びフランジ性の向上に効果があるため、全組織に対して70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上とするのがよい。マルテンサイトは強度の向上に効果があるが、伸びフランジ性の向上にはほとんど寄与しないので、10%未満、好ましくは8%未満、より好ましくは6%未満(0%を含む。)とするのがよい。前記ベイニティックフェライトおよびマルテンサイトは、合計量で好ましくは80%以上、より好ましくは82%以上、さらに好ましくは85%以上とするのがよい。また、フェライトおよび/またはパーライト鋼板の強度を低下させるため少ないほどよく、6%以下、好ましくは3%以下(0%を含む。)に止めるのがよい
以下、実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。この製造方法によれば、延性および穴拡げ性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られるだけでなく、このめっき鋼板のフレーキングやパウダリングを抑制し、めっき外観・めっき密着性を向上させることができる。この製造方法の工程としては、前記化学組成の鋼からなる鋳造スラブを熱間圧延および冷間圧延する鋼板製造工程と、鋼板製造工程によって製造された鋼板をオーステナイト化温度に加熱保持するオーステナイト化工程と、オーステナイト化した鋼板を恒温変態させる恒温変態工程と、恒温変態させた鋼板に対して溶融亜鉛めっきを施した後、合金化処理を行う合金化溶融亜鉛めっき工程を備える。
前記鋼板製造工程は、鋳造スラブの加熱、熱間圧延、酸洗、冷間圧延の各工程を備える。また、前記オーステナイト化工程は、図6に示すように、好ましくは900〜1000℃程度のオーステナイト化温度(T1)に加熱し、T1で好ましくは10〜1800秒程度の保持時間(t1)で保持する工程と、その後、好ましくは5℃/s以上、より好ましくは10℃/s以上の冷却速度で恒温変態温度(To)に速やかに冷却する工程を備える。前記鋼板製造工程、オーステナイト化工程は上記高強度冷延鋼板の製造方法と同様である。
前記恒温変態工程では、オーステナイト化した鋼板を、マルテンサイト変態開始点Ms以上でベイナイト変態開始点Bs以下の温度域に設定された恒温変態温度(To)を60〜1800秒の保持時間(to)保持する。オーステナイト化工程、恒温変態工程によって、鋼板をめっき浴に浸漬するまでの間に鋼板中のオーステナイトを可及的にベイニティックフェライト、マルテンサイト、フェライトへと変態を完了させ、またオーステナイトの一部を室温でも変態しない安定な残留オーステナイトとすることができる。
前記ToをMs〜Bsの間に設定するのは以下の理由による。ToがBs点を超えると、パーライト組織が多量に生成し、ベイニティックフェライトを十分に確保できないようになる。一方、ToがMsを下回ると、残留オーステナイトが減少するようになり、所望の伸びおよび穴拡げ性を確保することができない。ToをMs点とした場合、制御条件によっては鋼板組織中にマルテンサイトが生成するようになるため、ToはMsよりも高く設定することが好ましい。後工程の溶融亜鉛めっきから合金化処理を考慮すると、前記Toは(Ms+10)℃〜(Bs−10)℃の範囲とすることが好ましい。
恒温変態保持時間toについては、toが1800秒を超えるとベイニティックフェライトの転位密度が小さくなり、水素トラップ能が低下するようになり、また所望の残留オーステナイトが得られないようになる。このため、toの上限は、1800秒とし、好ましくは1200秒、より好ましくは600秒とするのがよい。一方、60秒未満の場合では、組織変態が十分に完了しない場合が生じる。鋼板組織中に未変態オーステナイト組織が残存すると、合金化溶融亜鉛めっき工程あるいはそれ以降の冷却過程で未変態オーステナイトの変態が生じて、鋼板の体積変化が起こり、鋼板素地と合金化溶融亜鉛めっき層の密着性が低下する。このためtoの下限は60秒とし、好ましくは90秒以上、より好ましくは120秒以上とするのがよい。なお、前記To及びtoの条件が適正でも、鋼組成が発明範囲外であれば、恒温変態が進まず、適正な組織が得られないようになる。
次に、合金化溶融亜鉛めっき工程について説明する。高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板において、TRIP鋼板の特性を有効に発揮させるためには、溶融亜鉛めっき層を合金化した後も、溶融亜鉛めっき鋼板中の残留オーステナイトがセメンタイトとフェライトに変態して消失することなく、できるだけそのまま残存していることが望ましい。しかし、適切な溶融亜鉛めっき、合金化処理を行わないと、前工程で生成した残留オーステナイトがセメンタイトとフェライトに分解して、残留オーステナイト量が減少し、所望の強度と加工性の両立が困難になる場合がある。
上記残留オーステナイトの分解を抑制するには、溶融亜鉛めっきにおける加熱温度を前記Toの温度範囲内で行うことが好ましい。こうすることにより、変態が完了した組織の残留オーステナイトがセメンタイトとフェライトに分解することを抑制することができる。このことは鋼板の機械的特性の面から好ましく、まためっき付着性並びにめっき浴の管理の点からも好ましい。めっき付着性並びにめっき浴の管理上、溶融亜鉛めっき浴の温度を前記Toの範囲内でも特に約400〜500℃、より好ましくは約440〜480℃の範囲内に設定するのがよい。また溶融亜鉛めっき浴への浸漬時間は1〜5秒とすることが好ましい。溶融亜鉛めっき浴の組成は特に限定されないが、有効アルミニウム濃度を0.07〜0.13%とすることが好ましい。まためっき浴浸漬前にめっき付着性向上のために、鋼板温度をめっき浴温付近まで加熱してもよい。
溶融亜鉛めっき後の合金化処理についても、残留オーステナイトの分解を抑制するため、合金化処理温度を好ましくは前記Toの温度範囲内、より好ましくは450〜520℃の範囲内で設定することが望ましい。合金化処理時間は、1〜30秒程度の範囲内で、好ましくは約5〜30秒の範囲内に設定すればよい。合金化の加熱方法は特に限定されない。例えば、ガス加熱、インダクションヒーター加熱などの慣用の加熱手段を採用することができる。合金化処理後の冷却速度は特に制限されないが、パーライトの生成を可及的に抑えるためには、1℃/秒程度以上の冷却速度で常温まで冷却することが好ましい。
以上説明したように、前記鋼板製造工程、オーステナイト化工程により、残留オーステナイト結晶粒の軸比の平均が5以上で、かつ該残留オーステナイト結晶粒の平均短軸長さが1μm 以下であり、さらに組織断面における旧オーステナイト粒界が重なる部位である粒界三重点に前記残留オーステナイトが存在する高強度冷延鋼板を得ることができる。また、前記オーステナイト化工程および恒温変態工程これによって、鋼板中のオーステナイトをベイニティックフェライト、マルテンサイト、フェライトなどに可及的に変態させることができ、また一部のオーステナイトを室温でも安定に存在する残留オーステナイトとして残存させることができる。このため、恒温変態後の溶融亜鉛めっき、合金化処理およびその後の巻取りなどの冷却工程において、未変態オーステナイトがマルテンサイトやパーライトなどの体積変化を伴う組織に変態するのを可及的に抑制することができる。すなわち、溶融亜鉛めっき、合金化処理後に未変態組織の変態、特に合金化溶融亜鉛めっき層と素地鋼板との界面での組織変態を抑制することができる。これにより、素地鋼板と合金化溶融亜鉛めっき層との密着性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。この鋼板によれば、プレス成形時におけるめっき層の剥離、すなわちパウダリングやフレーキングの発生を防止することができ、耐パウダリング性や耐フレーキング性に優れる。
上記実施形態の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板に合金化溶融亜鉛めっき層が被覆されたままでもよいが、必要に応じて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に各種塗装、塗装下地処理、有機皮膜処理などの表面処理を行ってもよい。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面にフィルムラミネート処理を施してもよい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は上記実施形態や下記実施例よって限定的に解釈されるものではない。
表1に示す成分の鋼を真空溶製した。その溶湯を鋳造して得られた鋳造スラブを熱間圧延して板厚3.2mmの熱延鋼板を得た。その後、酸洗により表面スケールを除去し、1.2mmまで冷間圧延した。熱間圧延は、スラブを1150〜1250℃で30分間加熱保持後、同温度で圧延を開始し、仕上温度を850℃として圧延を終了した。圧延後の冷却速度は40℃/s、巻取温度は550℃とした。冷間圧延の冷延率は50%とした。なお、表1において、発明に係る鋼成分範囲外の量については下線を付した。
冷間圧延後、鋼板を以下の条件で連続焼鈍した。各鋼板の試料について、オーステナイト化温度(T1)で180秒間保持した後、平均冷却速度20℃/sにて恒温変態温度(To)まで冷却し、Toで恒温変態保持時間toで保持した後、冷却速度20℃/s程度で室温まで気水冷却した。表2に各試料の連続焼鈍条件(T1、To、to)を示す。なお、表2において、不適切な製造条件には下線を付した。
このようにして得られた各試料鋼板の金属組織を以下の要領で調べた。各試料の鋼板の板厚1/4の位置で圧延面と平行な面において、任意に選択した2カ所の測定領域(約50μm×50μm、測定間隔は0.1μm)に対して、FE−SEM(Philips社製、型番XL30S-FEG)で観察した。各測定領域におけるEBSP画像を撮影し、ベイニティックフェライト(BF)及びマルテンサイト(M)の面積率、残留オーステナイト(残留γ)の面積率(%)を前述した方法に従ってそれぞれ測定し、それらの平均値を求めた。その他の組織(フェライトやパーライト)の面積率は、100%(全組織)から上記各組織の占める面積率を差し引いて求めた。
さらに残留オーステナイト結晶粒の軸比の平均を前述の方法に従って求めた。また全残留オーステナイトの中、粒界三重点に存在する残留オーステナイトの存在割合について、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて倍率15000倍で鋼板組織を観察し、主に粒界三重点が観察できる任意の5視野における組織を撮影し、この組織写真を画像解析し、存在する残留オーステナイト結晶粒の存在位置と存在割合を求めた。これらの測定結果を表2に示す。参考として、TEM観察による組織写真の例を図4、図5に示す。図4は発明例(試料No. 15−1)のものであり、粒界三重点に残留オーステナイトが析出している状態が観察される。一方、図5は従来のものであり、残留オーステナイトはベイニティックフェライトのラス間にのみ析出している。
また、各試料鋼板に対して引張強度、伸び(全伸び)、穴拡げ性を下記要領で調べた。これらの測定結果を表2に併せて示す。
引張強度(TS)と伸び(EL)は、JIS5号試験片を用いた引張試験によって測定された。試験に際して、引張試験の歪速度は1mm/秒とした。延性の評価は、引張強度が980MPa以上であることを前提として、伸びが8%以上であれば「優れる」と評価することができる。
穴拡げ性は、鉄鋼連盟規格に記載されている穴拡げ試験を行い、初期の穴直径をd0、試験により亀裂が発生した穴の直径をd1としたとき、下記式によって求めたλ(%)によって測定した。穴拡げ性の評価は、λで表される穴拡げ性が40%未満のものを「×」(不良)、40%以上のものを「○」(良)、60%以上のものを「◎」(優)とした。
λ=(d1/d0−1)×100
表1、表2より、本発明の鋼組成、製造条件を満足する発明例の試料No. 1−1,1−3,2から14,15−1および15−3,16から18は、980MPa以上の強度、8%以上の伸び、40%以上の穴拡げ性を有しており、優れた延性および穴拡げ性を有している。また、Si量が0.2%以下とされているので化成処理性、電着塗装性にも優れている。
これに対して、本発明の鋼組成、製造条件のいずれかを満たさない比較例は以下の不具合を有している。すなわち、No. 1−2は本発明の成分系を満たしているが、T1の温度が低く、製造条件が不適切であるため、所望の残留オーステナイトの形態、粒界三重点での存在が得られず、穴拡げ性が不十分である。No. 1−4,1−5も本発明の成分系を満たしているが、Toの温度が不適切であるため所望の残留オーステナイトが得られず、強度と穴拡げ性が不十分である。No. 1−6,1−7も本発明の成分系を満たしているが、toの保持時間が不適切であるため、所望の残留オーステナイトが得られず、伸びと穴拡げ性が不十分である。また、No. 15−2も本発明の成分系を満たしているが、T1が低いため、延性、穴拡げ性が低下している。
また、No. 19はC量が不足しているため、十分な強度が得られていない。No. 20はC量が過剰であったため、鋼板強度は十分であるが、加工性が不十分である。No. 21はMn量が不足しているため、焼き入れ性等が劣化し、十分な強度が得られず、またToが不適当であるため、残留オーステナイトの形態、存在位置が不適当となり、穴拡げ性が劣る。No. 22はMn量が過剰であるため、熱延時に割れが生じた。No. 23はAl量が不足しているため、残留オーステナイトが生成せず、TRIP鋼になっていない。No. 24はAl量が過剰であるため、熱延時に割れが生じた。No. 25はSi量が過多であるため、残留オーステナイトが結晶粒界上、または粒界三重点に存在しなかったため、穴拡げ性が不十分である。No. 26はAl量が不足しているため、残留オーステナイトの形態は良好であるが、存在位置が不適切であり、加工性が不十分となっている。また、Si量も過剰であるため、化成処理性、電着塗装性にも問題がある。
さらに、表2に示す試料No. 4,15-1の鋼板と、従来品である590MPa級の高張力鋼板(従来鋼板)を用いて、図7に示す圧壊試験用部材1を製作し、この試験用部材1を用いて、耐圧壊性試験を行って、耐圧壊特性を調べた。
前記圧壊試験用部材1は、ハット形チャンネル成形部材2と、その開口部を塞ぐように設けた平板部材3を備え、前記平板部材3はハット形チャンネル部材2のフランジ部に35mmピッチでスポット溶接された。スポット溶接は、先端径6mmの電極から、チリ発生電流よりも0.5kA低い電流を流して行われた。
耐圧壊試験は、図8に示す様に、試験部材1の長手方向中央部の上方から金型20を押し付けることにより行われた。この試験により、破壊(屈曲)する際の最大荷重、並びに破壊するまでの吸収エネルギーを荷重−変位線図の面積から求められた。試験結果を表3に示す。表3より、発明例の鋼板を用いて製作した試験部材は、従来の鋼板を用いて製作したものより高い最大荷重を示し、また吸収エネルギーも高くなっており、優れた耐圧壊性を有していることがわかる。
さらに、上記耐圧壊試験と同様の鋼板を用いて、図9に示す衝撃試験部材11を製作し、耐衝撃試験を行い、耐衝撃特性を調べた。前記衝撃試験部材11は、前記圧壊試験部材1と同形態のハット形チャンネル構造体12の両端に平板13が溶接されたものである。前記したハット形チャンネル構造体12の横断面寸法を図10に示す。
耐衝撃試験は、図11に示すように、衝撃試験部材11を基台21に縦方向にセットし、該試験部材の11の上方から、落錘(質量:110kg)22を高さ11mの位置から落下させて、試験部材11を衝撃的に破壊する試験である。この試験によって、試験部材11が高さ方向に40mm収縮するまでの吸収エネルギーを求めた。試験結果を表4に示す。表4より、発明例の鋼板を用いて製作した試験部材11は、従来の鋼板を用いたものより高い吸収エネルギーを示し、優れた耐衝撃特性を有していることがわかる。
表5に示す各成分の鋼を真空溶製し、その鋳造スラブを実施例1と同様の製造条件で熱間圧延、酸洗、冷間圧延して1.2mm厚の冷延鋼板を得た。この冷延鋼板を溶融亜鉛めっき実験装置を用いて、連続焼鈍し、引き続いて溶融亜鉛めっきを施し、次いで合金化処理を行った。表6に各試料の連続焼鈍条件(T1、To、to)を示す。オーステナイト化温度T1での保持時間は180秒、恒温変態温度Toへの冷却速度は20℃/sとした。なお、表6において、不適切な製造条件には下線を付した。
前記溶融亜鉛めっき処理において、溶融亜鉛めっき浴の浴温は460℃、有効アルミニウム濃度は約0.01%とし、浴侵入鋼板温度は460℃、浴中滞留時間は3.8秒とした。また、合金化処理は直火加熱炉を用いて行った。この際、炉温度は460〜520℃、炉中滞留時間は20秒とし、合金化処理後、冷却速度5℃/s程度で室温まで空冷した。
以上のようにして得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に対して、実施例1と同様にして、素地鋼板の組織、残留オーステナイトの形態、粒界三重点における残留オーステナイトの存在率が調べられ、また合金化溶融亜鉛めっき鋼板の機械的性質が測定された。これらの測定結果を表6に併せて示す。
また、得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に対してめっき性を評価した。めっき性はめっき外観およびめっき密着性を調べることによって評価した。めっき外観の調査は、目視観察することによって行い、その評価は不めっきもしくは合金化ムラが認められたものを「×」(不良)、不めっきもしくは合金化ムラがほとんど認められなかったものを「○」(良)、不めっきもしくは合金化ムラが全く認められなかったものを「◎」(優)とした。また、めっき密着性の調査は以下のようにして行われた。まず、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に測定領域(10mm×10mm)を設定し、間隔1mmでクロスカットを入れて合計100個のマス(正方形に区画されためっき部)を作る。次に、前記測定領域を曲げ半径5mmで曲げ、その後曲げ戻す。その後、曲げ戻した測定領域に接着テープを貼り付けた後、剥離する。そして、テープに付着しためっきマスの個数をカウントする。めっき密着性の評価は、テープに付着したマスの個数が51〜100個のものを「×」(不良)、21〜50のものを「△」(並)、6〜20のものを「○」(良)、0〜5のものを「◎」(優)とした。これらの調査結果、評価結果も表6に併せて示す。
表5、表6より、本発明の鋼組成、製造条件を満足する発明例の試料No. 1−1,1−3,2から10,11−1および12から18は、980MPa以上の強度、8%以上の伸び、40%以上の穴拡げ性を有しており、優れた延性および穴拡げ性を有している。また、Si量が0.2%以下とされているので、めっき外観およびめっき密着性にも優れている。
これに対して、本発明の鋼組成、製造条件のいずれかを満たさない比較例は以下の不具合を有している。すなわち、No. 1−2は本発明の組成を満たしているが、T1の温度が低く製造条件が不適切であるため、所望の残留オーステナイトの形態、粒界三重点での存在が得られず、穴拡げ性が不十分である。No. 1−4,1−5,11−2,11−3も本発明の成分系を満たしているが、Toの温度が不適切であるため所望の残留オーステナイトが得られず、穴拡げ性が不十分であり、No. 1−4,11−2では強度も低い。No. 1−6,1−7,11−4,11−5も本発明の成分系を満たしているが、toの保持時間が不適切であるため、所望の残留オーステナイトが得られず、穴拡げ性が不十分である。一方、めっき性については、発明成分を満足しているものでも、No. 1−4,11−2は、Toが高いために十分に組織変態が生じず、後のめっき付着後に組織変化が生じ、めっき密着性が低下している。一方、No. 1−5,11−3は、Toが低いためにめっき浴浸漬前の鋼板温度が下がりすぎ、めっき付着性が悪くなったため、めっき外観、めっき密着性のいずれも劣っている。
また、No. 19はC量が不足しており、十分な強度が得らていない。No. 20はC量が過剰であるため、鋼板強度は十分であるが、加工性が不十分である。No. 21はMn量が不足しているため、焼き入れ性等が劣化し、十分な強度が得られておらず、またToが低すぎるため、残留オーステナイトの形態、存在位置が不適当であり、穴拡げ性が低下している。No. 22はMn量が過剰であるため、熱延時に割れが生じた。No. 23はAl量が不足しているため、残留オーステナイトが生成せず、TRIP鋼になっていない。No. 24はAl量が過剰であるため、熱延時に割れが生じた。No. 25はSi量が過多であるため、残留オーステナイトが結晶粒界上、または粒界三重点に存在しなかったため、穴拡げ性が不十分である。No. 26はAl量が不足しているため、残留オーステナイトの形態は良好であるものの、存在位置が不適切であるため、加工性がよくない。一方、めっき性については、No. 19〜21は発明範囲外の組成であるため、合金化にムラが生じ、めっき外観が劣っている。また、No. 23,25及び26は、発明範囲外の組成であり、Toでの組織変態が進まなかったため、めっき外観、めっき密着性のいずれも劣っている。特に、No. 25及び26は、高Si鋼となっているため、通常の製造条件下ではめっき鋼板を製造することはできない。
本発明の高強度冷延鋼板の組織を示す模式図である。 従来の高強度鋼板の組織を示す模式図である。 本発明における残留オーステナイトの形態を特定する要素である短軸、長軸の長さの測定要領を示す説明図である。 発明鋼板のTEM観察組織写真(15000倍)である。 比較鋼板のTEM観察組織写真(15000倍)である。 合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造過程における冷間圧延後の熱処理線図である。 圧壊試験部材を示す斜視図である。 圧壊試験要領を示す説明図である。 衝撃試験部材を示す斜視図である。 衝撃試験部材の横断面図である。 衝撃試験要領を示す説明図である。

Claims (15)

  1. 化学組成が質量%で、
    C:0.10〜0.30%、
    Si:0.2%以下、
    Mn:1.0〜5.0%、
    P:0.1%以下、
    S:0.01%以下、
    Al:0.2〜3.0%
    を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなり、組織としてベイニティックフェライトおよび残留オーステナイトを含み、組織中の残留オーステナイト結晶粒の長軸/短軸で表される軸比の平均が5以上で、該残留オーステナイト結晶粒の短軸長さの平均が1μm以下であり、さらに組織断面における旧オーステナイト粒界が重なる部位である粒界三重点に残留オーステナイトが存在し、
    全組織に対する面積率で、残留オーステナイトが1〜20%であり、該残留オーステナイトの全量のうち、前記粒界三重点に存在する割合が40%以上であり、かつ全組織に対する面積率で、ベイニティックフェライトが70%以上、マルテンサイトが10%未満である、延性および穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板。
  2. 全組織に対する面積率で、ベイニティックフェライトおよびマルテンサイトの合計量が80%以上である、請求項1に記載した高強度冷延鋼板。
  3. 更に、質量%で、Nb:0.01〜0.5%、及び/又はTi:0.01〜0.5%を含む、請求項1又は2に記載した高強度冷延鋼板。
  4. 更に、質量%で、Cu:0.003〜0.5%、及び/又はNi:0.003〜1.0%を含む、請求項1からのいずれか1項に記載した高強度冷延鋼板。
  5. 更に、質量%で、Mo:0.01〜1.0%、及び/又はB:0.0001〜0.1%を含む、請求項1からのいずれか1項に記載した高強度冷延鋼板。
  6. 更に、質量%で、Ca:0.0005〜0.005%、及び/又はMg:0.0005〜0.01%を含む、請求項1からのいずれか1項に記載した高強度冷延鋼板。
  7. 更に、質量%で、Vを0.003〜1.0%含む、請求項1からのいずれか1項に記載した高強度冷延鋼板。
  8. 素地鋼板に合金化溶融亜鉛めっき層が被覆された高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記素地鋼板は、化学組成が質量%で、
    C:0.10〜0.30%、
    Si:0.2%以下、
    Mn:1.0〜5.0%、
    P:0.1%以下、
    S:0.01%以下、
    Al:0.2〜3.0%
    を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなり、組織としてベイニティックフェライトおよび残留オーステナイトを含み、組織中の残留オーステナイト結晶粒の長軸/短軸で表される軸比の平均が5以上で、該残留オーステナイト結晶粒の短軸長さの平均が1μm以下であり、さらに組織断面における旧オーステナイト粒界が重なる部位である粒界三重点に残留オーステナイトが存在し、
    全組織に対する面積率で、残留オーステナイトが1〜20%であり、かつ該残留オーステナイトの全量のうち、前記粒界三重点に存在する割合が40%以上であり、かつ全組織に対する面積率で、ベイニティックフェライトが70%以上、マルテンサイトが10%未満である、延性および穴拡げ性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  9. 全組織に対する面積率で、ベイニティックフェライトおよびマルテンサイトの合計量が80%以上である、請求項に記載した高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  10. 前記素地鋼板は、更に、質量%で、Nb:0.01〜0.5%、及び/又はTi:0.01〜0.5%を含む、請求項8又は9に記載した高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  11. 前記素地鋼板は、更に、質量%で、Cu:0.003〜0.5%、及び/又はNi:0.003〜1.0%を含む、請求項8から10のいずれか1項に記載した高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  12. 前記素地鋼板は、更に、質量%で、Mo:0.01〜1.0%、及び/又はB:0.0001〜0.1%を含む、請求項8から11のいずれか1項に記載した高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  13. 前記素地鋼板は、更に、質量%で、Ca:0.0005〜0.005%、及び/又はMg:0.0005〜0.01%を含む、請求項8から12のいずれか1項に記載した高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  14. 前記素地鋼板は、更に、質量%で、Vを0.003〜1.0%含む、請求項8から13のいずれか1項に記載した高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  15. 請求項、請求項10から14のいずれか1項に記載した化学組成の鋼からなるスラブを加熱して熱間圧延した後、酸洗して冷間圧延した後、900〜1000℃のオーステナイト化温度に加熱保持した後、マルテンサイト変態開始点以上でベイナイト変態開始点以下の温度域に設定された恒温変態温度Toまで冷却し、当該恒温変態温度Toにて60〜1800sec 保持した後、溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、その後合金化処理を行う、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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