以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば直列4気筒)ディーゼルエンジン(圧縮自着火式内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。
−エンジンの構成−
先ず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略構成について説明する。図1は本実施形態に係るエンジン1及びその制御系統の概略構成図である。また、図2は、ディーゼルエンジンの燃焼室3及びその周辺部を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、燃料供給系2、燃焼室3、吸気系6、排気系7等を主要部とするディーゼルエンジンシステムとして構成されている。
燃料供給系2は、サプライポンプ21、コモンレール22、インジェクタ(燃料噴射弁)23、遮断弁24、燃料添加弁26、機関燃料通路27、添加燃料通路28等を備えて構成されている。
上記サプライポンプ21は、燃料タンクから燃料を汲み上げ、この汲み上げた燃料を高圧にした後、機関燃料通路27を介してコモンレール22に供給する。コモンレール22は、サプライポンプ21から供給された高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各インジェクタ23に分配する。インジェクタ23は、その内部に圧電素子(ピエゾ素子)を備え、適宜開弁して燃焼室3内に燃料を噴射供給するピエゾインジェクタにより構成されている。
また、上記サプライポンプ21は、燃料タンクから汲み上げた燃料の一部を、添加燃料通路28を介して燃料添加弁26に供給する。添加燃料通路28には、緊急時において添加燃料通路28を遮断して燃料添加を停止するための上記遮断弁24が備えられている。
また、上記燃料添加弁26は、後述するECU100による添加制御動作によって排気系7への燃料添加量が目標添加量(排気A/Fが目標A/Fとなるような添加量)となるように、また、燃料添加タイミングが所定タイミングとなるように開弁時期が制御される電子制御式の開閉弁により構成されている。つまり、この燃料添加弁26から所望の燃料が適宜のタイミングで排気系7(排気ポート71から排気マニホールド72)に噴射供給される構成となっている。
吸気系6は、シリンダヘッド15(図2参照)に形成された吸気ポート15aに接続される吸気マニホールド63を備え、この吸気マニホールド63に、吸気通路を構成する吸気管64が接続されている。また、この吸気通路には、上流側から順にエアクリーナ65、エアフローメータ43、スロットルバルブ(吸気絞り弁)62が配設されている。上記エアフローメータ43は、エアクリーナ65を介して吸気通路に流入される空気量に応じた電気信号を出力するようになっている。
排気系7は、シリンダヘッド15に形成された排気ポート71に接続される排気マニホールド72を備え、この排気マニホールド72に対して、排気通路を構成する排気管73,74が接続されている。また、この排気通路には、NOx吸蔵触媒(NSR触媒:NOx Storage Reduction触媒)75及びDPNR触媒(Diesel Paticulate−NOx Reduction触媒)76を備えたマニバータ(排気浄化装置)77が配設されている。以下、これらNSR触媒75及びDPNR触媒76について説明する。
NSR触媒75は、吸蔵還元型NOx触媒であって、例えばアルミナ(Al2O3)を担体とし、この担体上に例えばカリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、セシウム(Cs)のようなアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)のようなアルカリ土類、ランタン(La)、イットリウム(Y)のような希土類と、白金(Pt)のような貴金属とが担持された構成となっている。
このNSR触媒75は、排気中に多量の酸素が存在している状態においてはNOxを吸蔵し、排気中の酸素濃度が低く、且つ還元成分(例えば燃料の未燃成分(HC))が多量に存在している状態においてはNOxをNO2若しくはNOに還元して放出する。NO2やNOとして放出されたNOxは、排気中のHCやCOと速やかに反応することによって更に還元されてN2となる。また、HCやCOは、NO2やNOを還元することで、自身は酸化されてH2OやCO2となる。即ち、NSR触媒75に導入される排気中の酸素濃度やHC成分を適宜調整することにより、排気中のHC、CO、NOxを浄化することができるようになっている。本実施形態のものでは、この排気中の酸素濃度やHC成分の調整を上記燃料添加弁26からの燃料添加動作によって行うことが可能となっている。
一方、DPNR触媒76は、例えば多孔質セラミック構造体にNOx吸蔵還元型触媒を担持させたものであり、排気ガス中のPMは多孔質の壁を通過する際に捕集される。また、排気ガスの空燃比がリーンの場合、排気ガス中のNOxはNOx吸蔵還元型触媒に吸蔵され、空燃比がリッチになると、吸蔵したNOxは還元・放出される。更に、DPNR触媒76には、捕集したPMを酸化・燃焼する触媒(例えば白金等の貴金属を主成分とする酸化触媒)が担持されている。
ここで、ディーゼルエンジンの燃焼室3及びその周辺部の構成について、図2を用いて説明する。この図2に示すように、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック11には、各気筒(4気筒)毎に円筒状のシリンダボア12が形成されており、各シリンダボア12の内部にはピストン13が上下方向に摺動可能に収容されている。
ピストン13の頂面13aの上側には上記燃焼室3が形成されている。つまり、この燃焼室3は、シリンダブロック11の上部にガスケット14を介して取り付けられたシリンダヘッド15の下面と、シリンダボア12の内壁面と、ピストン13の頂面13aとにより区画形成されている。そして、ピストン13の頂面13aの略中央部には、キャビティ(凹陥部)13bが凹設されており、このキャビティ13bも燃焼室3の一部を構成している。
尚、このキャビティ13bの形状としては、その中央部分(シリンダ中心線P上)では凹陥寸法が小さく、外周側に向かうに従って凹陥寸法が大きくなっている。つまり、図2に示すようにピストン13が圧縮上死点付近にある際、このキャビティ13bによって形成される燃焼室3としては、中央部分では比較的容積の小さい狭小空間とされ、外周側に向かって次第に空間が拡大される(拡大空間とされる)構成となっている。
上記ピストン13は、コネクティングロッド18の小端部18aがピストンピン13cにより連結されており、このコネクティングロッド18の大端部はエンジン出力軸であるクランクシャフトに連結されている。これにより、シリンダボア12内でのピストン13の往復移動がコネクティングロッド18を介してクランクシャフトに伝達され、このクランクシャフトが回転することでエンジン出力が得られるようになっている。また、燃焼室3に向けてグロープラグ19が配設されている。このグロープラグ19は、エンジン1の始動直前に電流が流されることにより赤熱し、これに燃料噴霧の一部が吹きつけられることで着火・燃焼が促進される始動補助装置として機能する。
上記シリンダヘッド15には、燃焼室3へ空気を導入する吸気ポート15aと、燃焼室3から排気ガスを排出する上記排気ポート71とがそれぞれ形成されていると共に、吸気ポート15aを開閉する吸気バルブ16及び排気ポート71を開閉する排気バルブ17が配設されている。これら吸気バルブ16及び排気バルブ17はシリンダ中心線Pを挟んで対向配置されている。つまり、本エンジン1はクロスフロータイプとして構成されている。また、シリンダヘッド15には、燃焼室3の内部へ直接的に燃料を噴射する上記インジェクタ23が取り付けられている。このインジェクタ23は、シリンダ中心線Pに沿う起立姿勢で燃焼室3の略中央上部に配設されており、上記コモンレール22から導入される燃料を燃焼室3に向けて所定のタイミングで噴射するようになっている。
更に、図1に示す如く、このエンジン1には、過給機(ターボチャージャ:過給圧調整手段)5が設けられている。このターボチャージャ5は、タービンシャフト51を介して連結されたタービンホイール52及びコンプレッサホイール53を備えている。コンプレッサホイール53は吸気管64の内部に臨んで配置され、タービンホイール52は排気管73の内部に臨んで配置されている。このためターボチャージャ5は、タービンホイール52が受ける排気流(排気圧)を利用してコンプレッサホイール53を回転させ、吸気圧を高めるといった所謂過給動作を行うようになっている。本実施形態におけるターボチャージャ5は、可変ノズル式ターボチャージャであって、タービンホイール52側に可変ノズルベーン機構(図示省略)が設けられており、この可変ノズルベーン機構に備えられたノズルベーンの開度を電動モータ等のアクチュエータによって調整することにより、エンジン1の過給圧を調整することができる。尚、この可変ノズルベーン機構の構成については周知であるため、ここでの説明は省略する。
上記吸気系6の吸気管64には、ターボチャージャ5での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ61が設けられている。このインタークーラ61よりも更に下流側に設けられた上記スロットルバルブ62は、その開度を無段階に調整することができる電子制御式の開閉弁であり、所定の条件下において吸入空気の流路面積を絞り、この吸入空気の供給量を調整(低減)する機能を有している。
また、エンジン1には、吸気系6と排気系7とを接続する排気還流通路(EGR通路)8が設けられている。このEGR通路8は、排気の一部を適宜吸気系6に還流させて燃焼室3へ再度供給することにより燃焼温度を低下させ、これによってNOx発生量を低減させるものである。また、このEGR通路8には、電子制御によって無段階に開閉され、同通路を流れる排気流量を自在に調整することができるEGRバルブ(酸素濃度調整手段)81と、EGR通路8を通過(還流)する排気を冷却するためのEGRクーラ82とが設けられている。これらEGR通路8、EGRバルブ81、EGRクーラ82等によってEGR装置(排気還流装置)が構成されている。
−センサ類−
エンジン1の各部位には、各種センサが取り付けられており、それぞれの部位の環境条件や、エンジン1の運転状態に関する信号を出力する。
例えば、上記エアフローメータ43は、吸気系6内のスロットルバルブ62の上流において吸入空気の流量(吸気量)に応じた検出信号を出力する。吸気温センサ(吸気温度認識手段)49は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気の温度に応じた検出信号を出力する。吸気圧センサ48は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気圧力に応じた検出信号を出力する。A/F(空燃比)センサ44は、排気系7のマニバータ77の下流において排気中の酸素濃度に応じて連続的に変化する検出信号を出力する。排気温センサ45は、同じく排気系7のマニバータ77の下流において排気ガスの温度(排気温度)に応じた検出信号を出力する。レール圧センサ41はコモンレール22内に蓄えられている燃料の圧力に応じた検出信号を出力する。スロットル開度センサ42はスロットルバルブ62の開度を検出する。
−ECU−
ECU100は、図3に示すように、CPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104などを備えている。ROM102は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。RAM103は、CPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM104は、例えばエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
以上のCPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104は、バス107を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース105及び出力インターフェース106と接続されている。
入力インターフェース105には、上記レール圧センサ41、スロットル開度センサ42、エアフローメータ43、A/Fセンサ44、排気温センサ45、吸気圧センサ48、吸気温センサ49が接続されている。更に、この入力インターフェース105には、エンジン1の冷却水温に応じた検出信号を出力する水温センサ46、アクセルペダルの踏み込み量に応じた検出信号を出力するアクセル開度センサ47、及び、エンジン1の出力軸(クランクシャフト)が一定角度回転する毎に検出信号(パルス)を出力するクランクポジションセンサ40などが接続されている。
一方、出力インターフェース106には、上記インジェクタ23、燃料添加弁26、スロットルバルブ62、EGRバルブ81、及び、ノズルベーンアクチュエータ54等が接続されている。このノズルベーンアクチュエータ54は、上記可変ノズルベーン機構に備えられ、ノズルベーンの開度を調整するための電動モータ等により構成されている。
そして、ECU100は、上記した各種センサの出力に基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。例えば、ECU100は、インジェクタ23の燃料噴射制御として、パイロット噴射(副噴射)とメイン噴射(主噴射)とを実行する。
上記パイロット噴射は、インジェクタ23からのメイン噴射に先立ち、予め少量の燃料を噴射する動作である。また、このパイロット噴射は、メイン噴射による燃料の着火遅れを抑制し、安定した拡散燃焼に導くための噴射動作であって、副噴射とも呼ばれる。また、本実施形態におけるパイロット噴射は、上述したメイン噴射による初期燃焼速度を抑制する機能ばかりでなく、気筒内温度を高める予熱機能をも有するものとなっている。つまり、このパイロット噴射の実行後、燃料噴射を一旦中断し、メイン噴射が開始されるまでの間に圧縮ガス温度(気筒内温度)を十分に高めて燃料の自着火温度に到達させるようにし、これによってメイン噴射で噴射される燃料の着火性を良好に確保するようにしている。
上記メイン噴射は、エンジン1のトルク発生のための噴射動作(トルク発生用燃料の供給動作)である。このメイン噴射での噴射量は、基本的には、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じ、要求トルクが得られるように決定される。
尚、上述したパイロット噴射及びメイン噴射の他に、アフタ噴射やポスト噴射が必要に応じて行われる。このアフタ噴射は、排気ガス温度を上昇させるための噴射動作である。具体的に、本実施形態では、このアフタ噴射により供給された燃料の燃焼エネルギがエンジンのトルクに変換されることなく、その大部分が排気の熱エネルギとして得られるタイミングでアフタ噴射を実行するようにしている。また、ポスト噴射は、排気系7に燃料を直接的に導入して上記マニバータ77の昇温を図るための噴射動作である。例えば、DPNR触媒76に捕集されているPMの堆積量が所定量を超えた場合(例えばマニバータ77の前後の差圧を検出することにより検知)、ポスト噴射が実行されるようになっている。
−運転パラメータの補正動作−
次に、本実施形態の特徴とする運転パラメータの補正動作について複数の実施形態を説明する。以下で説明する運転パラメータの補正動作は、気筒内に向けて導入される吸入空気の温度(吸気温度)に応じて、過給圧、EGR率(EGR量/(吸気量+EGR量))、パイロット噴射での燃料噴射量(以下、単にパイロット噴射量という)、メイン噴射の噴射時期(以下、単に噴射時期という)を補正するものである。尚、必要に応じて何れかの運転パラメータについては補正を行わない場合もある。
また、これら運転パラメータに対し補正動作の優先順位を付与し、その優先順位に応じて運転パラメータの補正動作を行うようにしている。つまり、優先順位の高い運転パラメータの補正動作を優先的に実行するものとしている。より具体的には、エンジン運転状態に基づいて求められる基準吸気温度に対する実吸気温度(上記吸気温センサ49によって検出される吸気温度)の偏差に応じて、過給圧、EGR率、パイロット噴射量、噴射時期を必要量だけ補正するものである。更に、これら運転パラメータの補正の優先順位としては、優先順位の高いものから、過給圧の補正動作(第1優先補正動作)、EGR率の補正動作(第2優先補正動作)、パイロット噴射量の補正動作(第3優先補正動作)、噴射時期の補正動作(第4優先補正動作)の順としている。
尚、ここでいう「優先順位に応じた運転パラメータの補正動作」とは、優先順位の高い運転パラメータに対しては補正量を算出して補正動作を行う一方、優先順位の低い運転パラメータに対しては補正量を算出しないことで補正動作を行わない場合ばかりでなく、優先順位の高い運転パラメータに対しては補正量を大きな値として算出する一方、優先順位の低い運転パラメータに対しては補正量を小さな値または補正量を「0」として算出する場合も含む概念である。以下、具体的に説明する。
(第1実施形態)
先ず、第1実施形態について説明する。本実施形態は、エンジン運転状態に基づいて求められる基準吸気温度に対する実吸気温度の偏差に応じて各運転パラメータの補正量を算出するものである。また、優先順位の高い運転パラメータに対しては補正量を大きな値として算出する一方、優先順位の低い運転パラメータに対しては補正量を小さな値または補正量を「0」として算出するものとなっている。
以下、本実施形態に係る運転パラメータ補正動作を図4〜図8のフローチャート及び図9のマップを用いて説明する。これらのフローチャートに示される処理は、上記ECU100により所定の周期で繰り返し実行される。
先ず、ステップST1において、現在のエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)が読み込まれる。エンジン回転数(NE)は、上記クランクポジションセンサ40から出力されるパルス信号に基づいて算出される。また、燃料噴射量(QFIN)は、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気量、吸気温度等の運転状態に応じて決定(燃料噴射量マップ等によって決定)されたものである。ここでいう燃料噴射量(QFIN)とは、エンジン1の出力に寄与する燃料(主に上記メイン噴射で噴射される燃料)の噴射量である。
エンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)が読み込まれた後、ステップST2に移り、基準吸気温度(THIABASE)の算出を行う。具体的には、上記ステップST1で読み込まれたエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)を変数とする関数(f1)により基準吸気温度(THIABASE)を算出する。
この基準吸気温度(THIABASE)は、燃焼室3内での着火遅れ量を判断するための基準となるものであって、この基準吸気温度(THIABASE)よりも実際の吸気温度(実吸気温度)が低い場合には、燃焼室3内での着火遅れが生じている可能性があり、これら両者の乖離量(後述する吸気温偏差量(THIAD))が大きいほど着火遅れも大きくなっていることになる。つまり、着火遅れに起因する燃焼の不安定化や失火の発生の可能性を判断する基準値として上記基準吸気温度(THIABASE)は算出される。
その後、ステップST3に移り、上記吸気温センサ49により検出された実吸気温度(THIA)の読み込み、及び、上記水温センサ46により検出された実冷却水温度(THW)の読み込みが行われる。
その後、ステップST4に移り、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が算出される。具体的に、吸気温偏差量(THIAD)は、上記基準吸気温度(THIABASE)から実吸気温度(THIA)を減算することで算出される。また、水温偏差量(THWD)は、予め設定された基準水温(例えば80℃:暖機運転完了温度に相当)から実冷却水温度(THW)を減算することで算出される。
上記吸気温偏差量(THIAD)が正の値である場合、上記基準吸気温度(THIABASE)に対して実吸気温度(THIA)が低くなっており、上記着火遅れが大きくなっていると判断できる。逆に、上記吸気温偏差量(THIAD)が負の値である場合、上記基準吸気温度(THIABASE)に対して実吸気温度(THIA)が高くなっており、燃焼室3内での燃焼速度が必要以上に高くなっていると判断できる。
一方、水温偏差量(THWD)が正の値である場合、上記基準水温に対して実冷却水温度(THW)が低くなっており、上記着火遅れが大きくなっていると判断できる。逆に、上記水温偏差量(THWD)が負の値である場合、上記基準水温に対して実冷却水温度(THW)が高くなっており、燃焼室3内での燃焼速度が必要以上に高くなっていると判断できる。
以下では、説明を簡素にするために、特に断らない限り吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が共に正の値である場合について説明する。
上記ステップST4での演算動作の後、ステップST5では過給圧力を補正するための最終過給圧力の算出動作が、ステップST6ではEGR率を補正するための最終EGR率の算出動作が、ステップST7ではパイロット噴射量を補正するための最終パイロット噴射量の算出動作が、ステップST8ではメイン噴射の噴射時期を補正するための最終噴射時期の算出動作がそれぞれ行われる。
ここで、上記ステップST5〜ステップST8で行われる各動作の手順について図5〜図8のフローチャートを用いて説明する。
<最終過給圧力の算出動作>
図5は、過給圧力を補正するための最終過給圧力の算出動作の手順を示すフローチャートである。この最終過給圧力の算出動作では、先ず、ステップST11において、現在のエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)の読み込みが行われる。エンジン回転数(NE)は、上記クランクポジションセンサ40から出力されるパルス信号に基づいて算出される。また、燃料噴射量(QFIN)は、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気量、吸気温度等の運転状態に応じて決定されたものである。
エンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)が読み込まれた後、ステップST12に移り、基本過給圧力(PIMBASE)の算出を行う。具体的には、上記ステップST11で読み込まれたエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)を変数とする関数(f2)により基本過給圧力(PIMBASE)を算出する。ここで求められる基本過給圧力(PIMBASE)は、吸気温度が上記基準吸気温度(THIABASE)であり且つ冷却水温度が上記基準水温であると仮定した場合に、現在のエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)に適した(着火遅れ量を適正にする)過給圧力である。
その後、ステップST13に移り、過給圧補正量(PIMTHIA)の算出を行う。具体的には、上記ステップST4(図4)で算出された吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)を変数とする関数(f3)により過給圧補正量(PIMTHIA)を算出する。
上述した如く、本実施形態における補正対象である各種運転パラメータ(過給圧、EGR率、パイロット噴射量、噴射時期)のうち過給圧は優先順位が最も高いため、上記吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が比較的小さくても(正の値の範囲内で比較的小さくても)、ここで算出される過給圧補正量(PIMTHIA)の値としては、比較的大きな値となる。この算出される過給圧補正量(PIMTHIA)の変更範囲の詳細については後述する。
このようにして過給圧補正量(PIMTHIA)を算出した後、ステップST14に移り、最終過給圧力(PIMTRG)の算出を行う。具体的には、上記ステップST12で算出された基本過給圧力(PIMBASE)に、上記ステップST13で算出された過給圧補正量(PIMTHIA)を加算することにより最終過給圧力(PIMTRG)を算出する。
<最終EGR率の算出動作>
図6は、EGR率を補正するための最終EGR率の算出動作の手順を示すフローチャートである。この最終EGR率の算出動作では、先ず、ステップST21において、現在のエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)の読み込みが行われる。これら読み込み動作は、上述したものと同様である。
エンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)が読み込まれた後、ステップST22に移り、基本EGR率(EGRBASE)の算出を行う。具体的には、上記ステップST21で読み込まれたエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)を変数とする関数(f4)により基本EGR率(EGRBASE)を算出する。ここで求められる基本EGR率(EGRBASE)は、吸気温度が上記基準吸気温度(THIABASE)であり且つ冷却水温度が上記基準水温であると仮定した場合に、現在のエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)に適した(着火遅れ量を適正にする)EGR率である。
その後、ステップST23に移り、EGR率補正量(EGRTHIA)の算出を行う。具体的には、上記ステップST4(図4)で算出された吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)を変数とする関数(f5)によりEGR率補正量(EGRTHIA)を算出する。
上述した如く、本実施形態における補正対象である各種運転パラメータのうちEGR率は過給圧に次いで優先順位が高いため、上記吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が所定値(正の値の範囲内での所定値)を越えた場合には、ここで算出されるEGR率補正量(EGRTHIA)の値としては、比較的大きな値となる。この算出されるEGR率補正量(EGRTHIA)の変更範囲の詳細については後述する。
このようにしてEGR率補正量(EGRTHIA)を算出した後、ステップST24に移り、最終EGR率(EGRTRG)の算出を行う。具体的には、上記ステップST22で算出された基本EGR率(EGRBASE)に、上記ステップST23で算出されたEGR率補正量(EGRTHIA)を加算することにより最終EGR率(EGRTRG)を算出する。
<最終パイロット噴射量の算出動作>
図7は、パイロット噴射量を補正するための最終パイロット噴射量の算出動作の手順を示すフローチャートである。この最終パイロット噴射量の算出動作では、先ず、ステップST31において、現在のエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)の読み込みが行われる。これら読み込み動作は、上述したものと同様である。
エンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)が読み込まれた後、ステップST32に移り、基本パイロット噴射量(QPLBASE)の算出を行う。具体的には、上記ステップST31で読み込まれたエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)を変数とする関数(f6)により基本パイロット噴射量(QPLBASE)を算出する。ここで求められる基本パイロット噴射量(QPLBASE)は、吸気温度が上記基準吸気温度(THIABASE)であり且つ冷却水温度が上記基準水温であると仮定した場合に、現在のエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)に適した(着火遅れ量を適正にする)パイロット噴射量である。
その後、ステップST33に移り、パイロット噴射補正量(QPLTHIA)の算出を行う。具体的には、上記ステップST4(図4)で算出された吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)を変数とする関数(f7)によりパイロット噴射補正量(QPLTHIA)を算出する。
上述した如く、本実施形態における補正対象である各種運転パラメータのうちパイロット噴射量は優先順位が比較的低いため(過給圧及びEGR率に次ぐ優先順位であるため)、上記吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が比較的高い所定値(正の値の範囲内で比較的高い所定値)を越えない限り、ここで算出されるパイロット噴射補正量(QPLTHIA)の値は「0」となる。この算出されるパイロット噴射補正量(QPLTHIA)の変更範囲の詳細については後述する。
このようにしてパイロット噴射補正量(QPLTHIA)を算出した後、ステップST34に移り、最終パイロット噴射量(QPLTRG)の算出を行う。具体的には、上記ステップST32で算出された基本パイロット噴射量(QPLBASE)に、上記ステップST33で算出されたパイロット噴射補正量(QPLTHIA)を加算することにより最終パイロット噴射量(QPLTRG)を算出する。
<最終噴射時期の算出動作>
図8は、メイン噴射の噴射時期を補正するための最終噴射時期の算出動作の手順を示すフローチャートである。この最終噴射時期の算出動作では、先ず、ステップST41において、現在のエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)の読み込みが行われる。これら読み込み動作は、上述したものと同様である。
エンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)が読み込まれた後、ステップST42に移り、基本噴射時期(AINJBASE)の算出を行う。具体的には、上記ステップST41で読み込まれたエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)を変数とする関数(f8)により基本噴射時期(AINJBASE)を算出する。ここで求められる基本噴射時期(AINJBASE)は、吸気温度が上記基準吸気温度(THIABASE)であり且つ冷却水温度が上記基準水温であると仮定した場合に、現在のエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)に適した(着火遅れ量を適正にする)噴射時期である。
その後、ステップST43に移り、噴射時期補正量(AINJTHIA)の算出を行う。具体的には、上記ステップST4(図4)で算出された吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)を変数とする関数(f9)により噴射時期補正量(AINJTHIA)を算出する。
上述した如く、本実施形態における補正対象である各種運転パラメータのうち噴射時期は優先順位が最も低いため、上記吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がかなり高い所定値(正の値の範囲内でかなり高い所定値)を越えない限り、ここで算出される噴射時期補正量(AINJTHIA)の値は「0」となる。この算出される噴射時期補正量(AINJTHIA)の変更範囲の詳細については後述する。
このようにして噴射時期補正量(AINJTHIA)を算出した後、ステップST44に移り、最終噴射時期(AINJTRG)の算出を行う。具体的には、上記ステップST42で算出された基本噴射時期(AINJBASE)に、上記ステップST43で算出された噴射時期補正量(AINJTHIA)を加算することにより最終噴射時期(AINJTRG)を算出する。
<各運転パラメータの最終算出値>
次に、上述の如く算出された各運転パラメータの補正量(過給圧補正量(PIMTHIA)、EGR率補正量(EGRTHIA)、パイロット噴射補正量(QPLTHIA)、噴射時期補正量(AINJTHIA))、及び、最終算出値(最終過給圧力(PIMTRG)、最終EGR率(EGRTRG)、最終パイロット噴射量(QPLTRG)、最終噴射時期(AINJTRG))について説明する。
本実施形態では、上述した如く、各運転パラメータに対して補正動作の優先順位を付与し、その優先順位の高い運転パラメータを優先的に補正するものとしている。言い換えると、優先順位の高い運転パラメータの補正量を優先的に大きく設定するものとしている。そして、上記過給圧を優先順位の最も高い運転パラメータとし、EGR率、パイロット噴射量、噴射時期の順で優先順位が低くなるようにしている。これを実現するために、上記各運転パラメータの最終算出値を求めるための上記補正量を算出する上記各関数(f3,f5,f7,f9)は、以下のようにして補正量を求めるようになっている。
ここでは、上記各関数(f3,f5,f7,f9)によって算出される各補正量の変更範囲の理解を容易にするために、これら補正量の変更範囲を図9で示すマップ(以下、補正量マップと呼ぶ)を利用して説明する。つまり、上記各関数(f3,f5,f7,f9)は、この補正量マップに沿うように各補正量を算出する関数となっている。
この補正量マップは、横軸を上記吸気温偏差量(THIAD)とし、縦軸を上記水温偏差量(THWD)とするマップであって、これら吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)に応じた各運転パラメータの補正量が割り当てられている。
そして、この補正量マップでは、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が共に正の値である座標上の第1象限にあっては、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が小さい側から大きい側に亘って、過給圧補正領域(第1温度範囲)、EGR率補正領域(第2温度範囲)、パイロット噴射量補正領域(第3温度範囲)、噴射時期補正領域(第4温度範囲)が割り当てられている。一方、吸気温偏差量(THIAD)が負の値であり水温偏差量(THWD)が正の値である座標上の第2象限にあっては、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)の絶対値が小さい側から大きい側に亘って、過給圧補正領域、EGR率補正領域、パイロット噴射量補正領域、噴射時期補正領域が割り当てられている。
(1)マップ上の第1象限での各領域
先ず、上記第1象限にある各領域(吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が共に正の値にある各領域)について説明する。
先ず、上記過給圧補正領域は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が共に低い領域であって、これら吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこの領域にある場合に、上記過給圧補正量(PIMTHIA)を、これら吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)に応じて算出する領域となっている。そして、この過給圧補正量(PIMTHIA)を算出する上記関数(f3)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこの過給圧補正領域にある場合に、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が大きいほど過給圧補正量(PIMTHIA)を大きな値として算出する関数となっている。そして、上記関数(f3)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が、過給圧補正領域とEGR率補正領域との境界域にある場合には過給圧補正量(PIMTHIA)を最大値とする。更に、この関数(f3)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこの過給圧補正領域外にある場合(例えば、EGR率補正領域やパイロット噴射量補正領域や噴射時期補正領域にある場合)には、過給圧補正量(PIMTHIA)を上記最大値に維持する関数となっている。
また、上記EGR率補正領域は、上記過給圧補正領域に対して吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が高い側に設定される領域であって、これら吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこの領域にある場合に、上記EGR率補正量(EGRTHIA)を、これら吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)に応じて算出する領域となっている。そして、このEGR率補正量(EGRTHIA)を算出する上記関数(f5)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこのEGR率補正領域にある場合に、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が大きいほどEGR率補正量(EGRTHIA)を大きな値として算出する関数となっている。そして、上記関数(f5)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が、EGR率補正領域とパイロット噴射量補正領域との境界域にある場合にはEGR率補正量(EGRTHIA)を最大値とする。更に、この関数(f5)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこのEGR率補正領域よりも大きい側にある場合(例えば、パイロット噴射量補正領域や噴射時期補正領域にある場合)には、EGR率補正量(EGRTHIA)を上記最大値に維持する関数となっている。
また、上記パイロット噴射量補正領域は、上記EGR率補正領域に対して吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が高い側に設定される領域であって、これら吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこの領域にある場合に、上記パイロット噴射補正量(QPLTHIA)を、これら吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)に応じて算出する領域となっている。そして、このパイロット噴射補正量(QPLTHIA)を算出する上記関数(f7)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこのパイロット噴射量補正領域にある場合に、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が大きいほどパイロット噴射補正量(QPLTHIA)を大きな値として算出する関数となっている。そして、上記関数(f7)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が、パイロット噴射量補正領域と噴射時期補正領域との境界域にある場合にはパイロット噴射補正量(QPLTHIA)を最大値とする。更に、この関数(f7)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこのパイロット噴射量補正領域よりも大きい側にある場合(噴射時期補正領域にある場合)には、パイロット噴射補正量(QPLTHIA)を上記最大値に維持する関数となっている。
更に、上記噴射時期補正領域は、上記パイロット噴射量補正領域に対して吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が高い側に設定される領域であって、これら吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこの領域にある場合に、上記噴射時期補正量(AINJTHIA)を、これら吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)に応じて算出する領域となっている。そして、この噴射時期補正量(AINJTHIA)を算出する上記関数(f9)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこの噴射時期補正領域にある場合に、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が大きいほど噴射時期補正量(AINJTHIA)を大きな値として算出する関数となっている。
このように、上記各関数(f3,f5,f7,f9)は、それぞれに割り当てられた領域において、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が大きくなるほど、つまり、基準吸気温度(THIABASE)に対して実吸気温度(THIA)が低いほど、また、基準水温に対して実冷却水温度(THW)が低いほど、実質的に補正項目(補正対象とする運転パラメータ)を増加させ、実吸気温度(THIA)や実冷却水温度(THW)が低いことに起因する着火遅れを改善し、失火の発生や燃焼の不安定化を解消できるようにするものとなっている。
尚、上記第1象限における各領域の境界として具体的には、水温偏差量(THWD)が0℃の場合における、過給圧補正領域とEGR率補正領域との境界の吸気温偏差量(THIAD)は5℃(図9における点T1)に、EGR率補正領域とパイロット噴射量補正領域との境界の吸気温偏差量(THIAD)は8℃(図9における点T2)に、パイロット噴射量補正領域と噴射時期補正領域との境界の吸気温偏差量(THIAD)は10℃(図9における点T3)に、噴射時期補正領域の上限の吸気温偏差量(THIAD)は13℃(図9における点T4)にそれぞれ設定されている。
また、吸気温偏差量(THIAD)が0℃の場合(例えばエンジン1の暖機運転完了後)における、過給圧補正領域とEGR率補正領域との境界の水温偏差量(THWD)は5℃(図9における点T5)に、EGR率補正領域とパイロット噴射量補正領域との境界の水温偏差量(THWD)は10℃(図9における点T6)に、パイロット噴射量補正領域と噴射時期補正領域との境界の水温偏差量(THWD)は15℃(図9における点T7)に、噴射時期補正領域の上限の水温偏差量(THWD)は20℃(図9における点T8)にそれぞれ設定されている。上述した各値はこれに限定されるものではない。
(2)マップ上の第2象限での各領域
次に、図9の第2象限にある各領域(吸気温偏差量(THIAD)が負の値であり、水温偏差量(THWD)が正の値である各領域)について説明する。
この各領域においても上述と同様に、各制御パラメータの補正量(過給圧補正量(PIMTHIA)、EGR率補正量(EGRTHIA)、パイロット噴射補正量(QPLTHIA)、噴射時期補正量(AINJTHIA))を、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)に応じて算出する。そして、各補正量を算出する各関数(f3,f5,f7,f9)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこれらの領域にある場合に、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)の絶対値が大きいほど補正量を負の値とし且つその絶対値を大きな値として算出する関数となっている。また、上記関数(f3)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が、過給圧補正領域とEGR率補正領域との境界域にある場合には、過給圧補正量(PIMTHIA)を最小値(負の値で絶対値が最大となる値)とし、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこの過給圧補正領域外にある場合(EGR率補正領域やパイロット噴射量補正領域や噴射時期補正領域にある場合)には、過給圧補正量(PIMTHIA)を上記最小値に維持する。同様に、上記関数(f5)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が、EGR率補正領域とパイロット噴射量補正領域との境界域にある場合には、EGR率補正量(EGRTHIA)を最小値とし、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこのEGR率補正領域外にある場合(パイロット噴射量補正領域や噴射時期補正領域にある場合)には、EGR率補正量(EGRTHIA)を上記最小値に維持する。また、上記関数(f7)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が、パイロット噴射量補正領域と噴射時期補正領域との境界域にある場合には、パイロット噴射補正量(QPLTHIA)を最小値とし、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこのパイロット噴射量補正領域外にある場合(噴射時期補正領域にある場合)には、パイロット噴射補正量(QPLTHIA)を上記最小値に維持する。
尚、上記第2象限における各領域の境界として具体的には、水温偏差量(THWD)が0℃の場合における、過給圧補正領域とEGR率補正領域との境界の吸気温偏差量(THIAD)は−2℃(図9における点T9)に、EGR率補正領域とパイロット噴射量補正領域との境界の吸気温偏差量(THIAD)は−3℃(図9における点T10)に、パイロット噴射量補正領域と噴射時期補正領域との境界の吸気温偏差量(THIAD)は−4℃(図9における点T11)に、噴射時期補正領域の上限の吸気温偏差量(THIAD)は−5℃(図9における点T12)にそれぞれ設定されている。上述した各値はこれに限定されるものではない。
上記各関数(f3,f5,f7,f9)は、以上のように補正量マップに沿うよう各補正量の算出を行う関数となっている。
そして、図4のフローチャートにおいて、上記ステップST5〜ステップST8で行われる算出動作により算出された各制御パラメータの補正量(過給圧補正量(PIMTHIA)、EGR率補正量(EGRTHIA)、パイロット噴射補正量(QPLTHIA)、噴射時期補正量(AINJTHIA))を用いて上記各運転パラメータの最終算出値(PIMTRG、EGRTRG、QPLTRG、AINJTRG)が求められ、その最終算出値(制御値)がステップST9において出力される(補正動作選択実行手段による補正動作の実行動作)。
この際、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が過給圧力補正領域にある場合には、EGR率補正量(EGRTHIA)、パイロット噴射補正量(QPLTHIA)、噴射時期補正量(AINJTHIA)が共に「0」となり、過給圧のみが上記最終過給圧力(PIMTRG)を目標値として制御される。具体的には、上記可変ノズルベーン機構のノズルベーンアクチュエータ54が制御され、ノズルベーンの開度が調整されることになる。つまり、現在の過給圧力が上記算出された最終過給圧力(PIMTRG)よりも低い場合にはノズルベーンの開度が小さくなるように調整されることにより過給圧が上昇され、逆に、現在の過給圧力が上記算出された最終過給圧力(PIMTRG)よりも高い場合にはノズルベーンの開度が大きくなるように調整されることにより過給圧が下降され、上記最終過給圧力(PIMTRG)を目標過給圧力としてノズルベーンアクチュエータ54が制御される。
また、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がEGR率補正領域にある場合には、パイロット噴射補正量(QPLTHIA)及び噴射時期補正量(AINJTHIA)が共に「0」となり、過給圧が上記最終過給圧力(PIMTRG)を目標値として、また、EGR率が上記最終EGR率(EGRTRG)を目標値としてそれぞれ制御される。具体的には、上記可変ノズルベーン機構のノズルベーンアクチュエータ54が上述の如く制御されてノズルベーンの開度が調整され、且つ上記EGRバルブ81の開度が調整されることでEGR率が制御される。つまり、現在のEGR率が上記算出された最終EGR率(EGRTRG)よりも低い場合にはEGRバルブ81の開度が大きくなるように調整されることにより吸気系6へのEGR量が増加され、逆に、現在のEGR率が上記算出された最終EGR率(EGRTRG)よりも高い場合にはEGRバルブ81の開度が小さくなるように調整されることにより吸気系6へのEGR量が減少される。
また、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がパイロット噴射量補正領域にある場合には、噴射時期補正量(AINJTHIA)が「0」となり、過給圧が上記最終過給圧力(PIMTRG)を目標値として、EGR率が上記最終EGR率(EGRTRG)として、また、パイロット噴射量が上記最終パイロット噴射量(QPLTRG)としてそれぞれ制御される。具体的には、上記可変ノズルベーン機構のノズルベーンアクチュエータ54が上述の如く制御されてノズルベーンの開度が調整され、また、上記EGRバルブ81の開度が上述の如く調整されることでEGR率が制御され、且つインジェクタ23のパイロット噴射タイミングでの噴射期間が制御されてパイロット噴射量が調整される。つまり、現在のパイロット噴射量が上記算出された最終パイロット噴射量(QPLTRG)よりも少ない場合にはパイロット噴射タイミングでのインジェクタ23の開弁期間が長くなるように調整されることによりパイロット噴射量が増量補正され、逆に、現在のパイロット噴射量が上記算出された最終パイロット噴射量(QPLTRG)よりも多い場合にはパイロット噴射タイミングでのインジェクタ23の開弁期間が短くなるように調整されることによりパイロット噴射量が減量補正される。
更に、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が噴射時期補正領域にある場合には、上記各運転パラメータの補正量が「0」以外の値となり、過給圧が上記最終過給圧力(PIMTRG)を目標値として、EGR率が上記最終EGR率(EGRTRG)を目標値として、パイロット噴射量が上記最終パイロット噴射量(QPLTRG)を目標値として、また、噴射時期が上記最終噴射時期(AINJTRG)を目標値としてそれぞれ制御される。具体的には、上記可変ノズルベーン機構のノズルベーンアクチュエータ54が上述の如く制御されてノズルベーンの開度が調整され、また、上記EGRバルブ81の開度が上述の如く調整されることでEGR率が制御され、インジェクタ23のパイロット噴射タイミングでの噴射期間が上述の如く制御されてパイロット噴射量が調整され、且つインジェクタ23の開弁時期が調整されることでメイン噴射の噴射時期が制御される。つまり、現在の噴射時期が上記算出された最終噴射時期(AINJTRG)よりも遅角側にある場合にはメイン噴射タイミングでのインジェクタ23の開弁時期が進角側に補正され、逆に、現在の噴射時期が上記算出された最終噴射時期(AINJTRG)よりも進角側にある場合にはメイン噴射タイミングでのインジェクタ23の開弁時期が遅角側に補正される。
以上説明したように本実施形態では、運転パラメータの補正動作に優先順位を付与し、その優先順位に応じた運転パラメータの補正動作を行うようにしている。つまり、優先順位の高い運転パラメータの補正動作を優先的に実行するものとしている。そして、この優先順位としては、上記過給圧の優先順位を最も高くし、EGR率、パイロット噴射量、噴射時期の順で優先順位が低くなるようにしている。
上記EGR率の優先順位を過給圧よりも低く設定した理由としては、EGR率の補正によって吸気中の酸素濃度が変化する場合、燃焼行程時のNOx発生量の増大等の排気エミッションの悪化が懸念されるためである。つまり、排気エミッションの悪化を殆ど招かない過給圧の補正動作を優先的に行い、それのみでは着火遅れ量の適正化が図れない場合に限りEGR率の補正動作(酸素濃度の補正動作)をも併用するようにしている。
また、パイロット噴射量の優先順位を過給圧及びEGR率よりも低く設定した理由としては、パイロット噴射量の補正動作を行った場合、燃焼速度が必要以上に高くなって排気エミッションの悪化が懸念されるためである。つまり、排気エミッションの悪化を殆ど招かない過給圧の補正動作や排気エミッションの悪化が比較的小さいEGR率の補正動作を優先的に行い、それらのみでは着火遅れ量の適正化が図れない場合に限りパイロット噴射量の補正動作をも併用するようにしている。
更に、噴射時期の優先順位を過給圧、EGR率及びパイロット噴射量よりも低く設定した理由としては、噴射時期の補正動作を行った場合、燃焼音の増大が懸念されるためである。つまり、燃焼音に対する悪影響を殆ど招くことのない過給圧の補正動作やEGR率の補正動作やパイロット噴射量の補正動作を優先的に行い、それらのみでは着火遅れ量の適正化が図れない場合に限り噴射時期の補正動作をも併用し、失火の発生やトルク変動の発生を回避できるようにしている。
以上の動作により、本実施形態では、実吸気温度(THIA)や実冷却水温度(THW)が低いことに起因する着火遅れを改善し、失火の発生や燃焼の不安定化を解消できることができる。また、過剰な補正を回避することができるため、燃焼音の増大や排気エミッションの悪化も防止することが可能になる。
(変形例)
次に、本発明の変形例について説明する。本変形例は、運転パラメータとして上記EGR率に代えて吸気中の酸素濃度(以下、単にO2濃度という)とするものである。その他の構成及び制御動作は上記実施形態のものと同様であるので、ここでは、上記実施形態との相違点についてのみ説明する。
図10は、O2濃度を補正するための最終O2濃度の算出動作の手順を示すフローチャートである。この最終O2濃度の算出動作では、先ず、ステップST51において、現在のエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)の読み込みが行われる。これら読み込み動作は、上述したものと同様である。
エンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)が読み込まれた後、ステップST52に移り、基本O2濃度(O2BASE)の算出を行う。具体的には、上記ステップST51で読み込まれたエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)を変数とする関数(f10)により基本O2濃度(O2BASE)を算出する。ここで求められる基本O2濃度(O2BASE)は、吸気温度が上記基準吸気温度(THIABASE)であり且つ冷却水温度が上記基準水温であると仮定した場合に、現在のエンジン回転数(NE)及び燃料噴射量(QFIN)に適した(着火遅れ量を適正にする)O2濃度である。
その後、ステップST53に移り、O2濃度補正量(O2THIA)の算出を行う。具体的には、上記ステップST4(図4)で算出された吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)を変数とする関数(f11)によりO2濃度補正量(O2THIA)を算出する。
ここで算出されるO2濃度補正量(O2THIA)は、上述した補正量マップ(図9)上のEGR率補正領域に相当するO2濃度補正領域において求められる。つまり、このO2濃度補正領域は、上記過給圧補正領域に対して吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が高い側に設定される領域であって、これら吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこの領域にある場合に、上記O2濃度補正量(O2THIA)を、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)に応じて算出する領域となっている。そして、このO2濃度補正量(O2THIA)を算出する上記関数(f11)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこのO2濃度補正領域にある場合に、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が大きいほどO2濃度補正量(O2THIA)を大きな値として算出する関数となっている。そして、上記関数(f11)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が、O2濃度補正領域とパイロット噴射量補正領域との境界域にある場合にはO2濃度補正量(O2THIA)を最大値とする。更に、この関数(f11)は、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)がこのO2濃度補正領域よりも大きい側にある場合(例えば、パイロット噴射量補正領域や噴射時期補正領域にある場合)には、O2濃度補正量(O2THIA)を最大値に維持する関数となっている。
このようにして算出されたO2濃度補正量(O2THIA)に応じて上記EGRバルブ81の開度が調整されることで吸気のO2濃度が制御される。つまり、上記O2濃度補正量(O2THIA)が正の値である場合にはEGRバルブ81の開度が大きくなるように調整されることにより吸気系6へのEGR量が増加され、これによってO2濃度を低下させる。逆に、上記O2濃度補正量(O2THIA)が負の値である場合にはEGRバルブ81の開度が小さくなるように調整されることにより吸気系6へのEGR量が減少され、これによってO2濃度を上昇させる。尚、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が上記過給圧補正領域にある場合には、O2濃度補正量(O2THIA)は「0」に算出されることになり、EGRバルブ81の開度変更は行われず、現在のO2濃度を維持する。
このように、本変形例においても、運転パラメータの補正動作に優先順位を付与し、その優先順位に応じた運転パラメータの補正動作を行うようにしている。つまり、優先順位の高い運転パラメータの補正動作を優先的に実行するものとしている。このため、実吸気温度(THIA)や実冷却水温度(THW)が低いことに起因する着火遅れを改善し、失火の発生や燃焼の不安定化を解消できることができる。また、過剰な補正を回避することができるため、燃焼音の増大や排気エミッションの悪化も防止することができる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態も、上記吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)に応じて各運転パラメータの補正量を算出するものである。また、本実施形態では、上記吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)に応じて優先順位の高い運転パラメータに対してのみ補正量の算出を行うものとなっている。
以下、本実施形態に係る運転パラメータ補正動作を図11及び図12のフローチャートに沿って説明する。このフローチャートに示される処理は、上記ECU100により所定の周期で繰り返し実行される。
ステップST61〜ステップST64の動作は、上述した第1実施形態における図4のステップST1〜ステップST4の動作と同一であるので、ここでの説明は省略する。
ステップST65では、補正基準値(IGD)の算出を行う。具体的には、上記吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)を変数とする関数(f12)により補正基準値(IGD)を算出する。ここで算出される補正基準値(IGD)は、燃焼室3内での着火遅れ量に対応する値である。言い換えると、上記着火遅れを適正値に戻すために必要となる運転パラメータの補正量に相当する。つまり、吸気温偏差量(THIAD)及び水温偏差量(THWD)が大きいほど着火遅れが大きくなっているため、この補正基準値(IGD)も大きな値として算出されることになる。
その後、ステップST66では過給圧力を補正するための最終過給圧力(PIMTRG)の算出動作が行われる。この最終過給圧力(PIMTRG)の算出動作は、上記図5のフローチャートで示した動作であるので、ここでの説明は省略する。
ステップST67では、上記ステップST66において算出された最終過給圧力(PIMTRG)で過給圧の補正を行った場合の基準値補正量(IGDPIM)を算出する。この基準値補正量(IGDPIM)は、上記最終過給圧力(PIMTRG)が得られるように過給圧の補正を行った場合の着火遅れ量の減少量に相当するものとして算出される。つまり、この基準値補正量(IGDPIM)が上記補正基準値(IGD)に相当する値として求められた場合には過給圧の補正のみによって着火遅れ量が適正量に調整されることになる。この場合の過給圧補正量(PIMTHIA)と基準値補正量(IGDPIM)との関係は図13に示すようになる。
そして、ステップST68では、上記基準値補正量(IGDPIM)が上記補正基準値(IGD)以上となっているか、つまり、過給圧のみの補正により着火遅れ量が適正量に調整される状況にあるか否かを判定する。
基準値補正量(IGDPIM)が補正基準値(IGD)以上となっており、ステップST68でYES判定されると、ステップST78に移って、上記ステップST66において算出された最終過給圧力(PIMTRG)が出力される。これにより、過給圧力のみの調整により着火遅れ量が適正量に調整されることになる。
基準値補正量(IGDPIM)が補正基準値(IGD)未満であり、ステップST68でNO判定された場合にはステップST69に移り、EGR率を補正するための最終EGR率(EGRTRG)の算出動作が行われる。この最終EGR率(EGRTRG)の算出動作は、上記図6のフローチャートで示した動作であるので、ここでの説明は省略する。
ステップST70では、上記ステップST69において算出された最終EGR率(EGRTRG)でEGR率の補正を行った場合の基準値補正量(IGDEGR)を算出する。この基準値補正量(IGDEGR)は、上記最終EGR率(EGRTRG)が得られるようにEGR率の補正を行った場合の着火遅れ量の減少量に相当するものとして算出される。
その後、ステップST71において、上記ステップST67で算出された基準値補正量(IGDPIM)とステップST70で算出された基準値補正量(IGDEGR)との和をトータル補正量(K1IGD)として算出する。つまり、このトータル補正量(K1IGD)が上記補正基準値(IGD)に相当する値として求められた場合には過給圧の補正及びEGR率の補正によって着火遅れ量が適正量に調整されることになる。この場合のEGR率補正量(EGRTHIA)と基準値補正量(IGDEGR)との関係は図13に示すようになる。
そして、ステップST72では、上記トータル補正量(K1IGD)が上記補正基準値(IGD)以上となっているか、つまり、過給圧の補正及びEGR率の補正により着火遅れ量が適正量に調整される状況にあるか否かを判定する。
トータル補正量(K1IGD)が補正基準値(IGD)以上となっており、ステップST72でYES判定されると、ステップST78に移って、上記ステップST66において算出された最終過給圧力(PIMTRG)及び上記ステップST69において算出された最終EGR率(EGRTRG)が出力される。これにより、過給圧力及びEGR率の調整により着火遅れ量が適正量に調整されることになる。
トータル補正量(K1IGD)が補正基準値(IGD)未満であり、ステップST72でNO判定された場合にはステップST73に移り、パイロット噴射量を補正するための最終パイロット噴射量(QPLTRG)の算出動作が行われる。この最終パイロット噴射量(QPLTRG)の算出動作は、上記図7のフローチャートで示した動作であるので、ここでの説明は省略する。
ステップST74では、上記ステップST73において算出された最終パイロット噴射量(QPLTRG)でパイロット噴射量の補正を行った場合の基準値補正量(IGDQPL)を算出する。この基準値補正量(IGDQPL)は、上記最終パイロット噴射量(QPLTRG)でパイロット噴射量の補正を行った場合の着火遅れ量の減少量に相当するものとして算出される。
その後、ステップST75において、上記ステップST67で算出された基準値補正量(IGDPIM)とステップST70で算出された基準値補正量(IGDEGR)とステップST74で算出された基準値補正量(IGDQPL)との和をトータル補正量(K2IGD)として算出する。つまり、このトータル補正量(K2IGD)が上記補正基準値(IGD)に相当する値として求められた場合には過給圧の補正、EGR率の補正及びパイロット噴射量の補正によって着火遅れ量が適正量に調整されることになる。この場合のパイロット噴射補正量(QPLTHIA)と基準値補正量(IGDQPL)との関係は図13に示すようになる。
そして、ステップST76では、上記トータル補正量(K2IGD)が上記補正基準値(IGD)以上となっているか、つまり、過給圧の補正、EGR率の補正及びパイロット噴射量の補正により着火遅れ量が適正量に調整される状況にあるか否かを判定する。
トータル補正量(K2IGD)が補正基準値(IGD)以上となっており、ステップST72でYES判定されると、ステップST78に移って、上記ステップST66において算出された最終過給圧力(PIMTRG)、上記ステップST69において算出された最終EGR率(EGRTRG)及び上記ステップST73において算出された最終パイロット噴射量(QPLTRG)が出力される。これにより、過給圧力、EGR率及びパイロット噴射量の調整により着火遅れ量が適正量に調整されることになる。
トータル補正量(K2IGD)が補正基準値(IGD)未満であり、ステップST76でNO判定された場合にはステップST77に移り、噴射時期を補正するための最終噴射時期(AINJTRG)の算出動作が行われる。この最終噴射時期(AINJTRG)の算出動作は、上記図8のフローチャートで示した動作であるので、ここでの説明は省略する。
このステップST77で最終噴射時期を算出した後、ステップST78に移り、上記ステップST66において算出された最終過給圧力(PIMTRG)、上記ステップST69において算出された最終EGR率(EGRTRG)、上記ステップST73において算出された最終パイロット噴射量(QPLTRG)及び上記ステップST77において算出された最終噴射時期(AINJTRG)が出力される。これにより、過給圧力、EGR率、パイロット噴射量及び噴射時期の調整により着火遅れ量が適正量に調整されることになる。
このように、本実施形態では、着火遅れ量を適正量に調整するための運転パラメータとして、優先順位の高い必要最小限の運転パラメータに対してのみ補正量の算出動作を行うようにしている。このため、演算回数を必要最小限に抑えることができ、ECU100に対する負荷を軽減しながらも、実吸気温度(THIA)や実冷却水温度(THW)が低いことに起因する着火遅れを改善し、失火の発生や燃焼の不安定化を解消できることができる。また、過剰な補正を回避することができるため、燃焼音の増大や排気エミッションの悪化も防止することができる。
−他の実施形態−
以上説明した各実施形態及び変形例は自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒ディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、自動車以外に搭載されるディーゼルエンジンにも適用可能である。また、ディーゼルエンジンに限らず、ガソリンエンジンに対しても本発明は適用可能である。
また、上記各実施形態及び変形例では、吸気温センサ49によって吸気温度を検出する構成としたが、外気温度やエンジン1の運転状態から吸気温度を推定する構成としてもよい。
また、上記各実施形態及び変形例では、吸気を過給する手段としてターボチャージャ5を採用したが、エンジン1の駆動力を利用した過給装置(所謂スーパーチャージャ)を採用してもよい。