JP5190837B2 - イネいもち病等の感染方法及びこれを用いるイネいもち病等抵抗性の効率的検定法 - Google Patents

イネいもち病等の感染方法及びこれを用いるイネいもち病等抵抗性の効率的検定法 Download PDF

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本発明は、イネなどの植物に胞子飛散型病原性糸状菌、特にいもち病菌を感染させる方法、及びこれらの病原性糸状菌に対する抵抗性についてイネなどの植物を検定する方法等に関する。
イネのいもち病は、世界でも最大の人口の主食となっているイネの最重要病害である。したがって、その効率的で環境負荷の小さい防除法の開発は、我が国をはじめとする農業研究において重要な課題である。
従来、イネのいもち病抵抗性育種で用いられてきた抵抗性遺伝子のほとんどは遺伝的に優性の抵抗性である。遺伝的に優勢の抵抗性は、基本的には宿主のイネが病原体のいもち病菌の特定分子を認識する機構に由来するものと考えられ、菌は、このタ−ゲット分子をコードする遺伝子の変異により、抵抗性をすり抜けるloss of function型の変異体を生じる(抵抗性崩壊)可能性が高い。これに対して、遺伝的に劣性の抵抗性は、病原菌が宿主内で生育するために必要とされる因子の宿主側での遺伝子欠損変異によるものと考えられ、病原菌がこれを打破するようなgain of function型の変異を起こすことは極めて困難と考えられる。劣性抵抗性遺伝子はこのように実用上の有効性が高いことが考えられ、オオムギのmloなどで高い持続性が実証されているが、その性質上、優性抵抗性遺伝子に比較して極めてまれである。しかも、いもち病の劣性抵抗性変異体をスクリーニングすることは、従来の方法では膨大な手間と設備とがかかることから、これまでは放射線育種場等でも系統的には行われて来なかった。すなわち、ネックとなるのは、簡便に多数の検体にいもち病を接種して、抵抗性を検定する手法の開発であった。
さらに、いもち病に対する農薬の開発においても、直接いもち病菌の生育を培地上で阻害するような薬剤は、環境毒性が強いことが多く、また、ターゲット酵素をコードする遺伝子の変異による耐性菌も発生しやすいことから、現在は散布することによりイネ自体のいもち病菌に対する抵抗性を誘導することができるような抵抗性誘導型の薬剤が主流となってきている。このためにも、多数の化合物のスクリーニングを行うには前項の変異体のスクリーニングと同様、効率的ないもち病菌の接種・検定のシステムが求められている。
これらの事情はイネのいもち病に限らず、病原性糸状菌による植物病害に広く通ずるものである。
このように、防除法の研究開発の基礎をなすのが、抵抗性の検定である。抵抗性の検定法としては、野外での自然感染による圃場試験と、温室内での接種試験とがある。前者の方がより栽培条件に近いために、圃場抵抗性など、病原菌の変異による抵抗性崩壊の起こりにくい、より実用的な抵抗性の検定が可能であるが、年に1度しか検定ができない上に、自然条件により期待した感染が起こらないこともあるなど、不安定なことが大きなネックとなる。こうした圃場試験に伴う統計的な誤差を減らすためには1度の試験に数反復もの区画を作る必要があり、極めて大きな面積を必要とする。
温室内での接種試験には噴霧接種法とパンチ接種法とがあるが、一度に多数の植物を扱える噴霧接種法が主流である。
噴霧接種法の標準的な手順の一例を挙げると、以下のとおりである。まず、オートミール粉末を寒天粉末と共に30分ほどよく煮た後に丸底フラスコに移して高圧滅菌器で滅菌した後、クリーンベンチ内でプレートに分注して作製したオートミールのプレート培地(9cm径)を、イネの苗1マット(600個体程度)に対して4〜5枚用意して、冷凍保存しておいた菌糸のついたろ紙などを種としてクリーンベンチ内で3〜4断片ほどを植え込む。これを約2週間25℃程度で培養し、菌をプレート一面に生育させる。プレート表面に生じた空中菌糸を滅菌水及び滅菌したブラシで洗い落とした後、蛍光灯(又はブラックライト等)下の乾燥状態で数日置いて胞子(分生子)を分化させる。次に、少量の滅菌水(胞子の葉面への展着促進のため界面活性剤Tween20(商品名)等を0.02%程度加える)をプレートに加え滅菌ブラシで胞子を懸濁させた後、ガーゼ等でろ過して、顕微鏡下で血球計算板等を用いて胞子の密度を測定して、一定密度(約1〜5×105個/cm3)に懸濁させた液を調製する。一方、イネは、マットを温室のプールに置いて2〜3週間程度して苗が4〜5葉期に達したところで接種に供する。外部への胞子の飛散防止のためのろ過用のフィルターを設けた排気システムやマットを回転させるターンテーブル等の付属した大がかりな噴霧装置内で、エアーコンプレッサーに接続した噴霧装置で胞子の懸濁液を1マットずつ満遍なくマットの内側のイネまで行きわたるように丁寧に噴霧することにより、接種する。その後、恒温高湿(相対湿度100%)の接種箱で一昼夜置くことにより、胞子を発芽させ、発芽菌糸にイネの葉の中に侵入するための付着器を形成させて、そこから表皮を突き破る貫入菌糸を出させることによりイネの葉の内部への感染を起こさせる。胞子の発芽から貫入菌糸の細胞内への感染までは葉の表面の結露内で行われる必要がある。
接種後の検定は、苗を温室に戻してから8〜10日後位に、接種した葉の病徴を1個体毎に5〜10段階の病徴スケールで細かく評価する。
しかし、噴霧接種法には、いずれも極めて高価で大型の噴霧施設及び恒温高湿を維持するための接種施設(接種箱)を要し、菌の培養による胞子懸濁液の調製にも多大の労力を要すること、接種箱での20〜25℃、葉面での結露を保証する相対湿度100%の環境を維持する必要があるが夏場の高温下では冷却装置での結露により100%の湿度さらには葉面での結露維持が困難な場合が多いこと、しかもいもち病菌の変異による抵抗性崩壊を起こしにくい圃場抵抗性等の分析に必要な反復感染は困難なこと等の多くの欠点がある。
別の方法として、パンチ接種法がある。この方法においては、切符刻印用のパンチ等の先端を、上記のようにして調製したいもち病菌胞子の懸濁液に浸し、イネの葉の中央の葉脈(中肋)をこのパンチで押しつぶすと共に胞子を接種し、数日後に病斑の進展の長さを測定する。
パンチ接種法は、個体ごとに接種を繰り返す必要があり、検定においてもまた噴霧接種法よりもさらに多大な労力を必要とするため、1,000個体を超す大規模な接種試験は事実上不可能である。
また、いずれの接種法及び検定法でも、1回の接種後1〜2週間の様子を判定するだけなので、新たに開発された品種などの特性を調べる上で必須の、長期にわたる感染条件下での影響を見る検定などは不可能であった。
そのため、実用的な抵抗性として重要ないもち病の圃場抵抗性等の検定については、いもち病激発地の試験圃場での野外試験が最も信頼性の高いものとされている。このような土地の条件としては、山あいの冷涼な土地柄で、川に近く、夜にかけて川霧がしばしば発生してイネが夜露に覆われる頻度の高い所が良いとされる。すなわち、これらの条件は、いもち病菌の生育適温である20〜25℃前後と一致し、しかもいもち病菌の分生胞子が葉の表面で胞子を発芽させ、葉の内部に侵入して感染を成立させるまでの間、結露した水滴の中にあることが必須なことと一致する。また、この条件は強い風がないため病斑部から近隣個体への胞子の高密度飛散にも適している。
この付着器形成を介した感染システムは、植物病原糸状菌一般に広く共通する特徴である。
特許文献1には、栽培現場での感染実験を行う方法として、圃場のイネ株にいもち病菌の胞子懸濁液を噴霧した後、イネ株をポリエチレンフィルム等の資材で一晩覆うことを特徴とするイネいもち病菌圃場接種法が記載されている。しかし、この接種法も、いもち病菌を噴霧接種することを必要とするものであり、胞子液の調製が必要であることなど、上述した噴霧接種法の欠点を解消できるものではない。
特許文献2には、ポット植え植物を置くための不腐食防水機能を有する水受けベンチを、ステンレス枠に透明ガラスをはめ込んだ採光内ハウスで覆い、超音波噴霧器により湿度を維持する植物病原菌接種装置が記載されている。しかし、こうした高価で複雑な装置は、上述したいもち病をはじめとする植物病原菌の接種のために必須のものではなく、かえって実験条件に応じた柔軟な対応を困難にするものである。
特開2000−270677 特開平10−210869
上述したとおり、従来の噴霧接種法では、いもち病菌の接種検定には菌の培養・胞子形成・噴霧接種・付着器形成の各々のためにそれぞれ高価で大がかりな装置・施設とスペースと多大な手間とを必要とする上に、細心の注意を払っても、気温の高低や接種箱での湿度維持の不全などで接種に失敗することはしばしば起きていた。夏や冬には、冷暖房の完備した温室を持ってしても再現性の良い接種を行うのは大きな困難を伴うため、これらの季節は接種検定には不適なシーズンとして忌避されることが多いのが実情であった。
また、発病度の検定には接種後7〜10日での個体毎の葉の病徴・病斑を精査する必要があり、これにも多大な手間と専門的な経験とを必要とした。
一方、パンチ接種法でも、接種には全個体を片端からパンチする必要があり、胞子懸濁液の準備と共に、多大な労力が必要であった。また、検定も各個体について細かく病斑長を測定することが必要で、これにも多大な労力を必要とした。
したがって、特に大規模な接種が必要な実験、たとえば数万に及ぶ変異処理を加えたイネの系統からいもち病抵抗性の突然変異系統を探索する目的等の実験には、より省力化され、かつ抵抗性と感受性とを安定して容易に見分けられるシステムの開発が必須であった。
そこで、本発明は、上記のような従来の接種法の問題を解決し、通年にわたって実施可能であり、大がかりな装置や多大な労力を必要とせずに、効率よく均一に感染を成立させる方法、温室内でも反復感染による圃場抵抗性の検定を可能にする方法、及び大規模なスクリーニングにも適した検定方法等を提供することを目的とする。また、大規模な設備を持たない施設でも通年にわたっていもち病の検定を安価に効率的に短期間に反復して行うことを可能にし、いもち病抵抗性品種の育成にも大きく貢献する感染方法及びスクリーニング方法等を提供することを目的とする。
本発明によれば
〔1〕 胞子飛散型病原性糸状菌に感染した植物の周囲に未感染の植物を配置し、これらの植物を、葉面に結露が生じる条件に制御された覆いの中で2日以上、典型的には4〜5日間維持することを特徴とする、植物の病原性糸状菌感染方法;
〔2〕 前記胞子飛散型病原性糸状菌がいもち病菌であり、前記植物がイネである、前記〔1〕記載の方法;
〔3〕 前記葉面に結露が生じる条件が、日較差3℃以上かつ高湿度の条件である、前記〔1〕又は〔2〕記載の方法;
〔4〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の方法で植物を病原性糸状菌に感染させる工程、及び前記病原性糸状菌による病気の病徴の有無又は程度を調べることにより植物の感受性又は抵抗性を判定する工程を含むことを特徴とする、病原性糸状菌に対する抵抗性の検定方法;
また、前記〔4〕記載の方法において、病原性糸状菌に対する抵抗性変異体ないし系統を選択することにより、病原性糸状菌に対する抵抗性変異体ないし系統のスクリーニング方法とすることができ、さらに、前記〔4〕記載の方法において、病原性糸状菌に対する抵抗性個体ないし系統を選抜することにより、交配を用いた病原性糸状菌に対する抵抗性系統の育種方法とすることができる;
〔5〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の方法で植物を病原性糸状菌に感染させる工程、前記感染工程の前もしくは後又はそれと同時に、前記病原性糸状菌による感染に影響を与える可能性のある候補物質を植物に適用する工程、及び前記病原性糸状菌による病気の病徴の有無又は程度を調べることにより植物の感受性又は抵抗性を判定する工程を含むことを特徴とする、病原性糸状菌に対して有効な物質のスクリーニング方法、
が提供される。
本発明の感染方法によれば、簡便な装置を用いて自然の感染条件を再現し、感染植物の胞子飛散能力、例えばいもち病病斑等の胞子飛散能力を自然に近い状態で検体植物の感染に利用することにより、大量の試験検体を一度に均一に、かつ効率的に、いもち病菌等の胞子飛散型植物病原菌の感染を行うことができる。胞子接種と、飛散した胞子が植物体表面で発芽して付着器形成し侵入菌糸を作る工程とを、連続して同じ覆い(テント等)の中で行なうことにより、高価な噴霧装置や接種箱の必要が無くなり、極めて簡便な装置で従来法よりはるかに一様な感染を実現することができる。
本発明の感染方法は、胞子形成のための人工培養及び感染操作の手間、時間、費用、スペース等の負担を劇的に軽減するものであり、特にマススクリーニングや抵抗性品種の育種のための検定に有用である。したがって、本発明の感染方法を用いることにより、抵抗性育種に伴う多種類の蒐集系統からの抵抗性系統の選抜や、突然変異による劣性抵抗性をはじめとする抵抗性変異の選抜、交配後代集団からの効率的抵抗性系統の選抜による抵抗性育種の効率化、あるいは新たなイネに対する抵抗性誘導薬剤のスクリーニング等を容易に効率よく行なうことができ、いもち病等の防除方法の確立に大きく寄与することが期待される。
すなわち、本発明の感染方法による感染は極めて一様であるため、従来野外の畑晩播でしか検定できなかった圃場抵抗性のようなQTL(quantitative trait loci)分析を、2〜4週間程度で温室内で行なうことも可能となった。実際に、本発明の方法によれば、後述するように、感染後数週間後のイネの植物高を検定することによりマススクリーニングでの分析も可能となっている他、Pikahei−1(t)のような圃場抵抗性因子の分析も行われており、本発明は、いもち病圃場抵抗性遺伝子の通年にわたる精密分析にも大きく寄与するものである。
また、この本発明のシステムは、主に糸状菌で胞子飛散型の植物病原体全般に共通するメカニズムを利用するものであるため、いもち病に限らず、他の胞子飛散型の病原性糸状菌の感染試験にも広く応用することが可能である。
本発明の方法は、胞子飛散型病原性糸状菌に感染・罹病した植物自体を感染源として用いることに一つの特徴がある。胞子飛散型病原性糸状菌としては、いもち病菌(イネなどにいもち病を起こす)をはじめとして、子のう菌門のうどんこ病菌(Erysiphe;各種作物のうどんこ病)、灰色かび病菌(Botrytis;各種植物の灰色かび病など);担子菌門のサビキン綱、さび病菌(Puccinia;各種植物のさび病など)、クロボキン綱、黒穂病菌(Ustilago;コムギ・オオムギの裸黒穂病など)、なまぐさ黒穂病菌(Tilletia;コムギ・オオムギのなまぐさ黒穂病など)等が挙げられるが、植物の糸状菌病の病原体の大半はこれに属する。これらの菌では、分生子が飛散し植物の葉に付着した後、雨滴や露の水の中で分生子が発芽し、発芽した菌糸が、葉の表面で付着器という粘着性の強い器官を形成して、表皮表面のクチクラ層等の物理障壁を貫入菌糸により突き破って細胞内に侵入し、その後感染菌糸を広げて行くという感染経路をたどる。すなわち、これらの菌は、堅いクチクラ層等を突破するために特に分化した器官である貫入菌糸を作るための付着器を形成することを大きな特徴とし、菌糸が葉の表面を貫入するまでは露や雨滴の存在が必須である。
感染源として用いるための、これらの病原菌に感染した植物は、噴霧接種法等により得てもよく、自然感染した植物を利用してもよい。また、いったん本発明の方法で感染植物を得た後は、それを感染源として連続的に感染を行なうことができる。
感染源植物の周囲に未感染の植物(被感染植物又は検体植物と呼ぶことがある)を配置する。これにより、感染植物から飛散した胞子が均一に被感染植物に到達することができる。被感染植物の向きや配置を期間中に変えればより均一な感染が期待できるが、必ずしも必須ではない。省力化のためにはそのままでもほぼ満足すべき結果が得られる。これは病原糸状菌の胞子(分生子)が極めて小さい(20〜30μm程度)ため、空気の粘性により容易には落下しないことによる。
植物は、葉面に結露が生じる条件下に制御された覆いの中に維持する。ここで、覆いは、合成樹脂フィルム等、透明な材料による簡易テントのようなものであることができる。このような覆いは、結露条件を実現することができる限りにおいて、一部不透明な材料を用いても良いが、植物の生育のためには透明な材料が望ましく、温度変化を伝えやすい薄い熱伝導性の高いビニールやポリエチレン等の材料が望ましい。また、高湿度を維持するため、覆いは、木枠で囲ってビニールを敷いた簡易プールなどの水面上で検体と感染源とを入れた空間を密閉するものが好ましい。
葉面での結露は感染が成功するための重要な条件である。上記のように、この種の菌においては分生子の発芽から細胞表層の突破までは表層の水滴の中で行われる必要があるためである。葉面に結露が生じる条件は、具体的には高湿度であること、例えば相対湿度約80〜約100%、望ましくは約100%に保つことが挙げられる。例えば簡易テント内で、木枠とビニール等で作製された簡易プール等の中に植物を置き、プールの水を簡易空気ポンプとエアーストン等で発泡させることにより高湿度に保つことができる。
また、温度制御は、日較差が3℃以上、好ましくは5℃以上あるような温度条件とすることが有利である。すなわち、日中の高温で十分に水蒸気を含んだ空気が夜間の低温で飽和水蒸気圧の差分の水分を結露として放出するように、日較差は大きい方が好ましい。このような温度・湿度に制御すると、日中に水蒸気が空気中に充分に含有された状態となり、温度が下がった後に余剰の水蒸気が葉面に結露することになる。
この状態に、少なくとも2日、好ましくは4〜5日程度置く。このようにして、特別な噴霧器等を必要とせずに病菌の分生子の飛散及び付着・発芽・付着器形成を、自然条件に近い状況でほとんど手間をかけずに行うことができる。
上記感染処理後は、病徴の進展までは植物病原糸状菌の大半にとって生育に好適な条件である25℃以下、できれば20℃前後(たとえば20℃±3℃)に保つことが望ましい。菌糸侵入後の葉組織内での病原菌糸の感染進展においては結露の必要はないので、数℃程度の日較差の有無は問題ではない。具体的には、感染処理を行った温室等でそのまま植物を維持すれば通常は十分であるが、冬期・夏期には、必要に応じて温度維持のための温室の暖房・冷房による温度制御装置を使用することができる。
感染の有無又は程度の判定は、肉眼で病徴を確認することによって行なうことができる。例えば、イネのいもち病の場合、葉面に灰色(進行性病斑)ないし茶褐色(止まり型病斑)等の病斑ができる。これらの病斑形成の程度を評価することによって判定することができる。
圃場抵抗性等の程度を見るためには、感染処理後2〜4週間、温室等の中で上記の温度範囲に置くことにより、検定することができる。圃場抵抗性の程度は様々であるが、少なくとも陸稲品種「嘉平」の圃場抵抗性を構成するQTLの1つについては、通常困難とされる個体レベルでの判定が可能であり、後述するように、これにより精密物理地図をほぼ矛盾無く作製することができた。従来、圃場抵抗性の温室内での(噴霧接種による)検定は困難とされてきたが、本発明の方法により適度な罹病性個体数からの低濃度の胞子密度での長期間にわたる感染条件、ないしは播種後6〜8週間の苗等を用いれば、より弱い圃場抵抗性の検定も可能と考えられる。
本発明の検定方法は非常に簡便・省労力・省スペースであるので、例えば2.2m×1.4m程度のプール8枚程度を用いて、毎週8マット、45×8=360系統(10個体/系統)程度のミュータントパネルのスクリーニングを1〜2名程度の人員で行なうことができ、しかも季節を問わず通年にわたって行うことができるので、年間15,000系統程度の変異株のスクリーニングが可能である。もちろん、遺伝子系統の収集の結果得られた多様な品種・系統からの抵抗性系統のスクリーニングにも同様に利用可能である。
また、本発明の方法は、真性抵抗性・圃場抵抗性・劣性抵抗性のいずれであるかを問わず、任意の抵抗性遺伝子をエリート品種に戻し交配等を用いて導入する育種過程での抵抗性系統の選抜過程を温室内で通年にわたり行うために用いることができる。優性遺伝子に関しては近年用いられるようになった遺伝子近傍の核酸マーカーを用いた選抜法よりもより簡便に、個体ごとの核酸の抽出や遺伝子近傍のマーカーを用いたPCR増幅を行うこともなく、確実に抵抗性系統の選抜が可能である。また、遺伝子マーカーが利用できるときには、本法を用いた抵抗性検定の結果と、遺伝子マーカーのデータとを組み合わせることにより、より正確で効率的な遺伝子分析やQTL分析を行うことができる。さらには、抵抗性遺伝子の単離などに必要な数千から数万に及ぶ膨大なヘテロ後代系統の表現型分析にも応用可能である。
また、本発明の方法を用いて、病原性糸状菌に対して有効な物質のスクリーニングを行なうことができる。この場合、上述したような感染方法の各工程、及び結果判定の工程に加えて、病原性糸状菌による感染に影響を与える可能性のある候補物質を未感染の植物に適用する工程を行なう。病原性糸状菌による感染に影響を与える可能性のある候補物質としては、農薬、肥料、その他の化学物質・生物学的防除剤、ならびにそれらとして有用である可能性のあるものであればよく、特に限定されない。この適用工程は、一連の感染工程の前に行なってもよく(感染予防効果)、後に行なってもよい(治療効果)。また、感染方法の実施の途中の工程において行なってもよい。適用の方法は特に限られず、葉面への散布又は塗布、土壌や水への混入等、いずれの方法でもよい。
1.本発明の方法によるいもち病菌のイネに対する感染
いもち病菌としては、「Kyu9439013(047.0)」((独)農業生物資源研究所のジーンバンクから入手可能)を本発明の方法及び従来法(下記2.)の実験において使用した。
水浸後3日目のイネの種子(品種:日本晴)を、クミアイ粒状培土K((株)クレハ製)を半分入れたカブマキマットA型(30cm×60cm×深さ1.5cmのマットで17×34に区分されたもの)に区画ごとに播種し、同培土によりマット表面まで覆土した後、35℃、湿度100%の発芽箱で4日間催芽させた。これを25℃前後のガラス温室において2〜3週間生育させた(4〜5葉期)。
この苗に、通常の噴霧接種法に従い、オートミール培地で生育させたいもち病菌の胞子懸濁液(1〜3×105胞子/ml)を噴霧接種して、接種箱内で22℃、100%相対湿度下に24時間置いた後、温室に戻して2週間以上置いたものを初発の感染源とした。
なお、この感染源は上記程度の個体数があり、病斑が十分出ていれば他の感染試験のために用いた材料でもかまわない。恐らくはより少ない個体数でも感染源として利用可能と考えられる。また、感染後2〜4週間経過したものでも利用可能であり、用いるイネの品種も感受性品種で十分病斑が出ているものであれば特に選ばない。
上記で用意した各苗のマットを水深2〜3cm前後のプールに置いた。感染源となるイネのマットを中心に置いて、その周りに感染させようとする苗(上記と同様に4〜5葉期まで生育させた「日本晴」の未感染苗)のマットを配置した。感染源と未感染苗との比率は、1:8とした。この状態のイネの苗の集団を、プール内で高さ80cm×幅120cm×長さ200cmの箱型の透光性かつ気密性のテント(木枠に農業用ビニールシート(アキレス製 ノンキリあすか透明 0.1mm厚)を貼り付けて作製したもの)で覆って、5日間生育させた。木枠はなるべく細くて軽量の材質を用い、筋交いと隅金具等で補強することにより軽量でも十分な強度を持たせ、取り回しを容易にした。プールには、観賞魚用エアポンプ(エア吐出量約4L/min)にビニールチューブにより接続した2ヶのエアーストーンを用いてバブリングすることによりテント内の湿度を高く維持した。生育期間中のテント内の温度は15〜25℃(日較差3〜10℃)であった。湿度は、期間中テント内面が常に結露で覆われていたので、概ね100%が維持されていたものと推定される。
日較差は、春・秋及び冷房使用中の夏期は、特別の手当をせずとも日中の日差しと夜間の低温により適当な温度差(5〜10℃)が維持されたが、暖房を使用する冬期は日較差1〜2℃位の恒温状態になりやすいので、暖房用ファンヒーターの一部をタイマーで日中だけ作動させ、夜間は切るようにすることにより必要な日較差の維持に努めた。
このようにして得た2次感染イネのマット1枚(感染開始後2週間又は3週間目のもの)を感染源として、その隣に感染させようとする苗(上記と同様に4〜5葉期まで生育させた「日本晴」及び「コシヒカリ」の未感染苗)のマットを置き、2つのマットを共に覆う上記と同様のテント(75cm×120cm×120cm)と生育条件の元で5日間おいた後にテントを外し、その後も上記のように温室で通常に生育させ、接種開始(2マットのテント被覆開始)後3週間目に後述するようにして病斑の程度を評価した。
2.比較のための従来法(噴霧接種法)によるいもち病菌のイネに対する感染
径9cm×深さ2cmのプレートに7〜8分目ほど入れたオートミール培地(ミキサーで粉末にしたオートミール 75g、精製水 1.7L、ショ糖 30g、寒天(植物培地用、Wako製) 22.5gを30分間煮沸後オートクレーブしたもの)に、滅菌したろ紙(径85mm)を載せ、この上にいもち病菌(Kyu9439013(047.0)、(独)農業生物資源研究所のジーンバンクから入手可能)の菌糸を生育させた。その後、このろ紙を剥がして、5×10mm程度の断片に切り刻み、冷凍保存した。
この断片をプレート当たり3片程度、菌の種として上記培地上に定置した後、研究室内にて室温(約25℃)で2週間ほど生育させた。菌糸が培地の表面全面を覆った頃に、水道水を流しながら、滅菌した堅めの絵筆で表面の気中菌糸を洗い落とし、20W蛍光灯2本の下15cm位でシャーレのフタをずらした状態で3日ほど置き、分生子(胞子)を分化させた。この表面に、Tween20等の界面活性剤(展着剤)を0.2%(W/V)程度入れた10ml程度の蒸留水を加え、滅菌した絵筆で分生子を洗い落としながら懸濁させた。得られた懸濁液を1層の多孔紙(「キムワイプ」(商品名)(株)クレシア製)によりろ過してろ液を集め、顕微鏡下で血球計算板を用いて胞子密度をカウントし、約1〜3×105胞子/mlの濃度に合わせた。
得られた胞子懸濁液を、胞子を捕獲できるフィルター付きのドラフト内で、ターンテーブルにより苗マット(上記1.と同様に作製したもの)をゆっくり回転させながら、噴霧液をエアーコンプレッサーに接続したエアーブラシ等の噴霧器で噴霧した。噴霧接種は、噴霧液ができるだけ満遍なく、マットの内側の苗まで十分届くように、かつできる限り噴霧液が無駄にならないように全てが苗に掛かるように注意しながら行なった。
噴霧接種の後、簡易法では接種箱の代わりに温室内のプールに設置した小型テント(高さ63cm×幅48cm×長さ70cm)内で、概ね15〜25℃、湿度約100%(テント内の結露状況からの推測)に4日間、又は標準法では市販の接種箱(小澤製作所製 オザワ 513A 内寸:高さ120cm×幅120cm×奥行き72cm)内で、約22℃、湿度約100%に24時間、苗を置いた。その後は、通常の温室に戻し、概ね15〜25℃の元で3週間病徴の進展を待った。
3.感染方法によるいもち病菌のイネ苗の感染及び発病程度の比較
上記で感染させたイネの葉(第2〜第4葉;感染方法及び品種系統の異なる各集団につき7個体ずつ)を観察し、一般的な圃場抵抗性の検定法で用いられる無病斑(スコア0)〜全株枯死(スコア10)の間で病斑面積率に応じた11段階の評価スケールで発病程度を評価した(参考:「微生物遺伝資源利用マニュアル(18)−イネいもち病−」、(独)農業生物資源研究所発行、林長生著)。
結果(平均及び標準偏差)を、図1に示す。図1において、パネル(A)は「コシヒカリ」、パネル(B)は「日本晴」の感染の程度を表す。「No.1」及び「No.2」は本発明の方法により感染源として「日本晴」罹病イネを用いて感染させたものであって、「No.1」は感染源としてテント被覆による感染開始後2週間後の感染イネのマットを、「No.2」は同じく3週間後の感染イネのマットを、それぞれ用いて本法により被検体マットに感染させた、いずれも感染開始後3週間目のサンプルである。「No.3」及び「No.4」は感染源としていもち病菌胞子(分生子)の懸濁液を用いて噴霧接種法によって感染させたものであって、「No.3」は標準法で用いる接種箱の代わりに小型の1マット用のテントを用いた簡易法(テント内には胞子懸濁液を噴霧したイネマット1枚のみを置く)、「No.4」は接種箱を用いた標準法にしたがったサンプルである。いずれも、感染後3週間目の病徴を調べた。
本発明の方法では、感染処理開始後5〜6日から病斑が出始め、7〜10日で典型的な病斑になった。通常の真性抵抗性の検定は、この状態で進行性病斑の有無をもとに行うことができるが、標準法では感受性品種においても本結果(図1)のNo.4のように進行性病斑の形成密度は高くないので、病斑面積率としてはあまり高くはならない。これに対して本発明による方法(図1、No.1及び2)ではいずれのイネ品種についても、特に第3葉及び第4葉において、標準法(No.4)及び簡易型(No.3)の噴霧接種法と比較して極めて高密度で進行性病斑が形成されていた。このような高密度の進行性病斑の形成は、高価で大がかりな装置を用いているにもかかわらず、通常の標準法では中々得られないものである。
一方、噴霧接種法により感染させた苗では、進行性病斑は形成されたが密度はそれほど高くなかった。特に、やや圃場抵抗性の高い日本晴については圃場抵抗性の弱いコシヒカリと比較して、病斑形成率は有意に低かった。また、1回限りの接種であるため、接種後に伸長した高位葉が生長してしまい、3週間後では植物体の回復が著しかった。
4.本発明の方法による日本晴Tos17ミュータントパネルからのいもち病抵抗性系統の選抜
日本晴Tos17ミュータントパネルは、ゲノムが解読されたイネ品種「日本晴」種子からカルスを作製し、その後カルスから再生させた植物個体を圃場に展開して作製した集団である。恐らくはカルス化のストレスにより、日本晴のイネゲノムに元々2〜3コピー存在するTos17レトロトランスポゾンの活性化による新たな挿入を初めとして、その他にも多くの培養変異が起きていることが確認されている。再生個体をM1とすると、供給される種子は主にM2世代なので、変異の大半を占める劣性変異体の表現型を示す個体の系統内での出現率はほぼ1/4前後と見積もられる。変異の大半は培養変異に由来する小規模の塩基置換や挿入・欠失変異で、Tos17の挿入による変異の割合は数%程度と考えられる。
このミュータントパネルからのイネいもち病に対する劣性抵抗性変異体のスクリーニングを行なった。本発明の接種法がまだ開発されていなかった2005年に、第一段階として、イネの苗マット(播種2週間4葉期前後)にいもち病菌(Kyu89−246(003.0)系統;上記と同様に入手可能)を播種後2週間程度の若い苗を密植したマットに常法(標準法)により噴霧接種して生き残った個体を選抜した(第一選抜)。その後、生き残った個体の出た系統の種子を新たに上記のように播種し噴霧接種法で第2次の選抜を行い、さらには第3次の選抜を加え、第3選抜に残った41個体を温室のプランタで保育した後、6月に田植えを行い、水田圃場で生育させ、種子を収穫した。
これらの種子と、対照として親の「日本晴」(感受性)、真性抵抗性品種の「PiNO4」及び圃場抵抗性極強の「嘉平」とを、各系統17粒ずつ粒撒きマット(17×34=578区画/マット、カブマキマットA型)に播種した。水浸3日後に播種し、35℃の発芽テントで4日間催芽してから、温室(約20〜30℃)に2週間程置いて4〜5葉期に達したところで、温度15〜25℃の温室に移した。上記1.に記載したのと同様にして本発明の方法により感染源マット1枚に対して8枚の検定用マットを周辺に配置して共にテントをかぶせた。鑑賞魚用のエアポンプ(容量約4L/min)のビニールチューブの先に多孔質のエアーストーンをセットして湿度100%の空気を送り込みながら4日間、5℃程度以上の日較差を維持しつつ、自然状態に近い条件下で胞子の自然飛散による接種を行った。
感染開始から6週間後に全個体の植物高を測定し、その平均と標準偏差を棒グラフで示した。
結果を図2に示す。この実験で選抜されたND3090−17系統は、真性抵抗性の検定法としての、常法による噴霧接種での接種10日目前後での病徴の出現のもようは、親系統の日本晴と抵抗性に大差は見られないが、その後の回復が日本晴よりも有意に早く、図2で示されるような明白な抵抗性が示された。
この実験においては、本発明以前に噴霧接種法による感染により3段階選抜した41の候補個体に由来する系統を使用した。本発明の感染法は、1次スクリーニングから用いることが可能であり、2006年にはそのようにして行なった別の実験において、感染開始後3〜4週間後に植物高を指標に耐病性個体候補のスクリーニングを容易に高能率で行なうことができた。2006年4月始めから12月末までの8ヶ月間の、初期の試行錯誤をも含む選抜で9,395系統のミュータントパネルから517個体が1次候補として選抜された。これら全ての個体から種子を収穫した後、得られた種子(M3世代)を10粒ずつ、1次スクリーニングと同様にして本発明による接種を行うことにより、劣性抵抗性系統は抵抗性ホモ系統として図2と同様に容易に選抜することができるものと考えられる。2005年に行なったようなM2世代の3段階選抜では、かえって有望な劣性ホモ個体を発芽不良や生育不良などで取りこぼしてしまう恐れが強いが、1次選抜だけでも、本法で候補個体の種子を調べればホモの抵抗性個体として、M2世代でのヘテロ系統の多重選抜より、より確実に目的の抵抗性系統を選抜することができる。これにより、システムが完成した現在では、タイマー制御の冷暖房の完備した選抜用の温室45m2と苗及び選抜系統育成用の暖房温室32m2とを用いて、1名の人員による週3日程度の作業で通年にわたり、年間約15,000系統程度の効率で種子の収穫までを含めた安定したスクリーニングを無理なく行なうことが可能となった。
5.本発明の方法による圃場抵抗性遺伝子Pikahei−1(t)遺伝子の近傍2MBのマーカーとこの範囲での近傍組換え個体によるQTL分析
イネのいもち病抵抗性には、単一の主働遺伝子による真性抵抗性と、複数の微働遺伝子による圃場抵抗性とがあることが知られている。真性抵抗性は、ほとんど完全にいもち病の病徴の進展を抑える強力さがある一方、単一品種の大面積栽培では比較的短期間に菌の変異により抵抗性が打破されること(抵抗性崩壊)が知られている。これに対して、圃場抵抗性は、非常に強いものから弱いものまで様々な程度が知られており、多くの場合比較的大きな病斑が出るにもかかわらず、枯死に至ることなく実用的には十分な抵抗性を示す。圃場抵抗性では、恐らくはいもち病菌の菌系の多様性が保たれることにより、抵抗性崩壊を引き起こすような変異系統の優占が起こりにくいものと考えられる。
この圃場抵抗性の分析は、従来、その名が示すとおり野外での分析が主であったが、自然発生によるその地方に固有の菌系での統計的誤差の大きな検定に頼るために、数反復での検定を前提とした系統レベルでの分析が必要で、広大な隔離圃場が必要なこと及び年に1度しか分析が行えないことにより、遺伝子の単離などを行うための精密な遺伝分析が困難であった。
そこで、本発明の方法を用いて、強い圃場抵抗性を持つ在来品種「嘉平」のQTL分析により示された第4染色体長腕上の最も作用力の強いQTL(Quantitative Trait Locus)について、ゲノム上の位置の精密マッピングを試みた。本QTL近傍でヘテロ接合となっている「嘉平」とコシヒカリの交配の組換え近交系統RIL(recombinant inbred line)第6世代(F6)について近傍のDNAマーカーについてその多型を分析した。同時に、供試個体集団を、1.に記載した手法に基づいて本発明の方法により集団的にいもち病菌に感染させ、感染10日後に上記と同様にして病徴を11段階で判定し、その値と、近傍マーカーの遺伝子型とを分析した。
結果を表1に示す。
表1:Pi−Kahei(t)×コシヒカリ交配ヘテロ後代の近傍組換え個体のグラフィカル・ゲノタイプと本法による発病程度からの遺伝子位置の決定
Figure 0005190837
表1において、セル内のS、H、Rは、それぞれ上段の核酸マーカー(RMマーカー)の遺伝子型がS型(CO39型)、H(ヘテロ)型、R型(嘉平型)であることを示す(最上段の数値はRM6748からの物理距離(単位:100kb))。これらの組換え個体(左端に系統名)におけるそれぞれのマーカーの遺伝子型から、太線で示した位置で染色体の組換えが起きていることが示された。
「Score」は、本発明の方法で上記の検定法で得られた各組換え個体での病徴の指数(上記11段階での表現型スコア)を示しており、特に6以上は感受性(S)と判断して太字で示した。
わずかに基準を外れる2例(H25−5及びH101−7)を除いて矛盾なく表現型とマーカーの遺伝子型とが一致した。これらの例外も、全体の結果を総合すれば、誤差範囲に収まるものと考えられる。すなわち、グラフィカル・ゲノタイプによる表示(表1)でも31例中2例を除いて近傍DNAマーカーの遺伝子型と表現型の間ではほぼ矛盾のない結果により、遺伝子の位置を精密に推定することが可能であった。
さらに、表1のデータをQTL分析したところ、図3に示したように、LOD値が30を超える高い単一のピークが得られた。この領域は他の品種や野生イネ等に由来するいもち病圃場抵抗性関連のQTLも近傍に存在する抵抗性遺伝子のクラスター領域であることが示された。ピークが非対称なのはRIの後代系統を用いているため、一部近傍組換えが(遺伝子の左側で)先代において起きた集団が混在するためである。
以上の結果から、本いもち病抵抗性QTLが単一遺伝子に由来するものと考えられたので、本遺伝子をPikahei−1(t)と名付けた(t:tentative)。
また、このデータから、圃場抵抗性遺伝子Pikahei−1(t)では本発明の方法により温室で個体レベルでの抵抗性検定が可能であることが示された。
図1は、各種のいもち病菌接種方法によるイネ苗の発病程度の比較を示す図である。イネの品種は、パネル(A)については「コシヒカリ」、パネル(B)については「日本晴」である。両パネルにおいて、No.1及びNo.2は本発明の方法により、感染源としてそれぞれ感染開始後2週間目と3週間目の「日本晴」罹病イネを用いたものであり、No.3及びNo.4はそれぞれいもち病菌液を噴霧接種した後、テントによる簡易法及び接種箱による標準法により高湿度を維持して、発芽菌糸に付着器の形成を行わせたものである。いずれも各品種7個体について感染開始後3週間目に発病程度を検定した。各カラムは斜線=第2葉、黒=第3葉、白=第4葉についての発病程度の平均及び分散を示す。 図2は、本発明の方法による日本晴Tos17ミュータントパネルからのいもち病抵抗性系統の選抜を示す図である。Nno.をふったものが日本晴に由来するミュータントパネルの抵抗性候補系統、右側のS、Rで示したものがそれぞれ感受性及び抵抗性の対照品種である。カラム高が平均値、その上のバーは標準偏差を示す。本選抜により、ND3090−17が全17個体とも良い生育を示し、唯一高い抵抗性を示す劣性抵抗性系統と認められた。 図3は、圃場抵抗性遺伝子Pikahei−1(t)遺伝子の近傍約2MBでの近傍組換え個体の染色体のマーカーの遺伝子型と本発明の方法による温室内でのいもち病発病度の評価とによるQTL分析を示す図である。高いLOD値を示す単一ピークの存在から、単一遺伝子の存在とその位置とが推測された。この領域は、Pi37(t)、qBR4−2等の遺伝子とも近い位置にあることが示され、抵抗性遺伝子のクラスターを形成しているものと考えられた。

Claims (5)

  1. 胞子飛散型病原性糸状菌に感染した植物の周囲に未感染の植物を配置し、これらの植物を、葉面に結露が生じる条件に制御された覆いの中で2日以上維持することを特徴とする、植物の病原性糸状菌感染方法。
  2. 前記胞子飛散型病原性糸状菌がいもち病菌であり、前記植物がイネである、請求項1記載の方法。
  3. 前記葉面に結露が生じる条件が、日較差3℃以上かつ高湿度の条件である、請求項1又は2記載の方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項記載の方法で植物を病原性糸状菌に感染させる工程、及び前記病原性糸状菌による病気の病徴の有無又は程度を調べることにより植物の感受性又は抵抗性を判定する工程を含むことを特徴とする、病原性糸状菌に対する抵抗性の検定方法。
  5. 請求項1〜3のいずれか1項記載の方法で植物を病原性糸状菌に感染させる工程、前記感染工程の前もしくは後又はそれと同時に、前記病原性糸状菌による感染に影響を与える可能性のある候補物質を植物に適用する工程、及び前記病原性糸状菌による病気の病徴の有無又は程度を調べることにより植物の感受性又は抵抗性を判定する工程を含むことを特徴とする、病原性糸状菌に対して有効な物質のスクリーニング方法。
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