JP5187821B2 - ポリカーボネート積層体 - Google Patents

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本発明は、新しい物性を備えた炭素膜とポリカーボネート材との積層体に関するものである。
近年、樹脂材料は、生活の中のあらゆるところで使用されている。たとえば、以下に述べるポリカーボネート(以下、PC)樹脂もそのひとつである。
PC樹脂は熱可塑性樹脂の一種で、電気製品や自動車など工業製品に使用されるエンジニアリングプラスチックであり、高い耐熱性、耐衝撃性、難燃性、可視光透過率など、優れた特性を有する。そのような特性から、PCは電子機器、自動車、建築、医療器具等、さまざまな分野で利用されている。
PC樹脂製品は、上述したように大きく用途の拡大が見込まれ、また金属代替を可能にする樹脂である。一方、PCは薬品耐性が低く、アルコール、酸、アルカリ、芳香性炭化水素、塩素化脂肪族炭化水素に溶解または分解する。また、静的な一定条件、例えば常温、無負荷で安定であっても、高温、強制曲げ応力下では、影響の出る薬品、物質も数多くあるので注意を要する。したがって、PC樹脂製品をより広範に利用するためには、PC樹脂製品の薬品耐性を一層高めることが必要である。
一方、高い薬品耐性をもつダイヤモンドは既に公知であり(特許文献1など)、前述のようなPC樹脂材においてもその特性向上のための積層材として望まれてきた。たとえば、もしPC樹脂材にダイヤモンド膜を積層することが可能であれば、PC樹脂製品の薬品耐性を一層高めるであろう。しかし、ダイヤモンド膜の積層プロセスでは、積層を施される基材の温度を通常800℃以上の高温に保持する必要がある。従来、このような高温に耐えることの出来ない樹脂材にダイヤモンド膜を積層することにより、その特性を向上することは不可能であるという問題があった。したがってダイヤモンド膜の積層にかわる、PC樹脂材の薬品耐性を向上し、かつ低温での積層が可能な積層材および手法の開発が望まれてきた。
PC樹脂材は光学的な高い透明性がその大きな特長である。したがって、PC樹脂材の薬品耐性の向上に際して、その高い透明性を保持することが望まれる。
また、ダイヤモンド膜の積層や、前記特許文献1にもあるような優れた特性をもつ炭素膜の堆積には、プラズマ気相化学蒸着法(CVD)を用いるのが一般的である。この場合、原料ガスは通常、水素とメタンの混合ガスであり、水素ガスの混合比は一般に90%以上である。したがって、積層プロセスにおいて、樹脂材は多量の水素プラズマに暴露される。しかし水素プラズマの反応性がたいへん高いため、樹脂材が水素プラズマとの反応により損傷を受けるという大きな問題があった。
さらに、プラズマ処理中のプラズマからの加熱により、基板の樹脂材が溶けてしまうという問題があり、これを避けるために処理温度を低温にすると、ダイヤモンド膜や炭素膜の堆積が困難になるという問題があった。
また、従来のダイヤモンド膜をポリカーボネート基材に積層できたとしても、透過率が極端に低下し、ポリカーボネートの特性が失われることになる。
国際公開第2005/103326号パンフレット
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、PC樹脂材の高い透明性を保持しつつ、PC樹脂材のもつ薬品耐性についてより高い特性が付与された、炭素膜とPC樹脂との積層体、及びPC樹脂材からなる基板への炭素膜堆積方法を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、光学的に透明性が高く、かつ薬品耐性をもつ炭素膜をPC樹脂材に堆積することにより、PC樹脂材のもつ光学的に透明性を保ちつつ薬品耐性についてより高い特性が付与された、炭素膜とPC樹脂の積層体を形成できることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものであり、以下のとおりのものである。
(1)ポリカーボネート樹脂材と、該ポリカーボネート樹脂材の表面上に堆積された膜厚50nm〜10μmで、表面粗さRaが20nm以下の炭素膜とを備え、該記炭素膜は、CuKα1線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.3°)の41〜42°にスペクトルのピークを有するポリカーボネート積層体であって、
波長500〜800nmにおける光透過率が80%以上であることを特徴とするポリカーボネート積層体。
)熱伝導率30W/mK以上、抵抗値1×107Ωcm以上(100℃)を有する、()に記載のポリカーボネート積層体。
本発明の炭素膜とPC樹脂の積層体は、従来のPC樹脂材の光学的な透明性を保ちつつ、薬品耐性を一層高めることが可能である。さらに、本発明の炭素膜堆積方法によれば、基材として用いるPC樹脂材のプラズマによる損傷を防止するばかりでなく、PC樹脂材の溶融や熱変形を防止することができる。
図1は、本発明の炭素膜と樹脂(PC材)の積層体の概要を示す断面図である。
本発明の炭素膜とPC樹脂との積層体は、PC樹脂材と膜厚50nm〜10μmの炭素膜とを積層し、かつ前記炭素膜は、CuKα1線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.3°)の41〜42°にスペクトルのピークを備える積層体である。
本発明においては、前記プラズマCVD処理の前処理として、PC樹脂材に対して、ナノクリスタルダイヤモンド粒子、クラスターダイヤモンド粒子またはグラファイトクラスターダイヤモンド粒子を付着させるか、またはアダマンタン(C1016)、その誘導体またはその多量体を付着させることが好ましい。
通常ナノクリスタルダイヤモンド粒子は、爆発合成により、または高温高圧合成されたダイヤモンドを粉砕することにより製造されるダイヤモンドである。クラスターダイヤモンド粒子は、ナノクリスタルダイヤモンド粒子の凝集体であり、グラファイトクラスターダイヤモンド粒子は、グラファイトやアモルファス炭素成分を多量に含むクラスターダイヤモンド粒子である。
ナノクリスタルダイヤモンドは,爆発合成によるナノクリスタルダイヤモンドを溶媒に分散させたコロイド溶液が有限会社ナノ炭素研究所等から、また粉砕により製造されたナノクリスタルダイヤモンド粉末、あるいはそれを溶媒に分散させたものがトーメイダイヤ株式会社等から、既に販売されている。本発明で用いるナノクリスタルダイヤモンド粒子は、その平均粒径が4〜100nm、好ましくは4〜10nmである。ナノクリスタルダイヤモンド粒子については、例えば文献で「牧田寛,New Diamond Vol.12 No. 3, pp. 8−13 (1996)」に詳述されている。
PC樹脂材上にナノクリスタルダイヤモンド粒子を付着させる前処理では、まず該粒子を水またはエタノール中に分散させる。この際分散性を向上させるために、界面活性剤(例えばラウリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイン酸ナトリウム等)を加え、この分散液に基板を浸して超音波洗浄器にかけ、その後、該基板をエタノール中に浸して超音波洗浄を行った後、該基板を取り出して乾燥させる。
このようにして、表面にナノクリスタルダイヤモンド粒子を付着させる前処理を施したPC樹脂材を得ることができる。PC樹脂材への該ナノクリスタルダイヤモンド粒子の付着は超音波洗浄処理における物理的力により、該粒子の一部が基板表面へ埋没することによるものである。
基板表面に対するナノクリスタルダイヤモンド粒子の付着割合は、好ましくは1cm当たり10〜1012個、さらに好ましくは1010〜1011個である。樹脂材に付着するダイヤモンド粒子は、プラズマCVD処理における炭素膜成長の種結晶として作用する。
このとき、分散媒(水、エタノール等)に分散させるナノクリスタルダイヤモンド粒子の濃度を希薄にすることにより、基板表面に付着するナノクリスタルダイヤモンド粒子の付着割合を小さくすることができる。これにより、プラズマCVD処理において炭素粒子の核発生密度を下げ、連続膜ではなく、炭素粒子の集積体から成る不連続膜を得ることができる。この集積体における炭素粒子の面密度は、分散溶液中のナノクリスタルダイヤモンド粒子の濃度によって制御することができる。さらには、プラズマCVD処理を行う時間によって、炭素粒子の粒径を制御できる。また、その濃度を非常に薄くすることにより、基板上に孤立した炭素粒子からなる集積体を作製することもできる。さらには、この集積体を有機溶剤等で処理することなどにより、該集積体から基板を除去することによって、炭素粒子のみを得ることもできる。
また、該基板上にナノクリスタルダイヤモンド粒子を付着させる前処理の別な方法として、該ナノクリスタルダイヤモンドの分散液を該基板上にスピンコートし、その後乾燥させる方法も有効である。このスピンコートを用いる前処理法も、上記超音波洗浄による方法と同様な付着効果が得られる。
クラスターダイヤモンド粒子は、爆発合成法により製造されるナノクリスタルダイヤモンドの凝集体であり、透明性に優れており、既に東京ダイヤモンド工具製作所等から販売されている。本発明で用いるクラスターダイヤモンド粒子において、その粒径分布は好ましくは4〜100nm、さらに好ましくは4〜10nmである。このクラスターダイヤモンド粒子については、文献「牧田寛,New Diamond, Vol.12 No. 3, p.8−13 (1996)」に詳述されている。
PC樹脂材上にクラスターダイヤモンド粒子を付着させる前処理では、まず該粒子を水またはエタノール中に分散させる。この際分散性を向上させるために、界面活性剤(例えばラウリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイン酸ナトリウム等)を加え、この分散液に基板を浸して超音波洗浄器にかけ、その後、該基板をエタノール中に浸して超音波洗浄を行った後、該基板を取り出して乾燥させる。
このようにして、表面にクラスターダイヤモンド粒子が付着した樹脂材を得ることができる。PC樹脂材への該クラスターダイヤモンド粒子の付着は超音波洗浄処理における物理的力により、該粒子の一部が基板表面へ埋没することによるものである。
基板表面に対するクラスターダイヤモンド粒子の付着割合は、1cm当たり好ましくは10〜1012個、さらに好ましくは1010〜1011個である。PC樹脂材に付着するダイヤモンド粒子は、プラズマCVD処理における炭素膜成長の種結晶として作用する。
このとき、分散媒(水、エタノール等)に分散させるクラスターダイヤモンド粒子の濃度を希薄にすることにより、基板表面に付着するクラスターダイヤモンド粒子の付着割合を小さくすることができる。これにより、プラズマCVD処理において炭素粒子の核発生密度を下げ、連続膜ではなく、炭素粒子の集積体から成る不連続膜を得ることができる。この集積体における炭素粒子の面密度は、分散溶液中のクラスターダイヤモンド粒子の濃度によって制御することができる。さらには、プラズマCVD処理を行う時間によって、炭素粒子の粒径を制御できる。また、その濃度を非常に薄くすることにより、基板上に孤立した炭素粒子からなる集積体を作製することもできる。さらには、この集積体を有機溶剤等で処理することなどにより、該集積体から基板を除去することによって、炭素粒子のみを得ることもできる。
また、該基板上にクラスターダイヤモンド粒子を付着させる前処理の別な方法として、該クラスターダイヤモンドの分散液を該基板上にスピンコートし、その後乾燥させる方法も有効である。このスピンコートを用いる前処理法も、上記超音波洗浄による方法と同様な付着効果が得られる。
PC樹脂材上にグラファイトクラスターダイヤモンド粒子を付着させる前処理では、まず該粒子を水またはエタノール中に分散させる。この際分散性を向上させるために、界面活性剤(例えばラウリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイン酸ナトリウム等)を加え、この分散液に基板を浸して超音波洗浄器にかけ、その後、該基板をエタノール中に浸して超音波洗浄を行った後、該基板を取り出して乾燥させる。
このようにして、表面にグラファイトクラスターダイヤモンド粒子が付着したPC樹脂材を得ることができる。PC樹脂材への該グラファイトクラスターダイヤモンド粒子の付着は超音波洗浄処理における物理的力により、該粒子の一部が基板表面へ埋没することによるものである。
基板表面に対するダイヤモンド粒子の付着割合は、1cm当たり好ましくは10〜1012個、さらに好ましくは1010〜1011個である。PC樹脂材に付着するダイヤモンド粒子は、プラズマCVD処理における炭素膜成長の種結晶として作用する。
このとき、分散媒(水、エタノール等)に分散させるグラファイトクラスターダイヤモンド粒子の濃度を希薄にすることにより、基板表面に付着するグラファイトクラスターダイヤモンド粒子の付着割合を小さくすることができる。これにより、プラズマCVD処理において炭素粒子の核発生密度を下げ、連続膜ではなく、炭素粒子の集積体から成る不連続膜を得ることができる。この集積体における炭素粒子の面密度は、分散溶液中のグラファイトクラスターダイヤモンド粒子の濃度によって制御することができる。さらには、プラズマCVD処理を行う時間によって、炭素粒子の粒径を制御できる。また、その濃度を非常に薄くすることにより、基板上に孤立した炭素粒子からなる集積体を作製することもできる。さらには、この集積体を有機溶剤等で処理することなどにより、該集積体から基板を除去することによって、炭素粒子のみを得ることもできる。さらに、基板上に連続膜を作製した場合は、この基板除去によって自立膜を作製することができる。
また、該基板上にグラファイトクラスターダイヤモンド粒子を付着させる前処理の他の方法として、該グラファイトクラスターダイヤモンド分散液を該基板上にスピンコートし、その後乾燥させる方法も有効である。このスピンコートを用いる前処理法も、上記超音波洗浄による方法と同様な付着効果が得られる。
アダマンタンは、C1016という分子式で表せられる分子で、ダイヤモンドの基本骨格と同様の立体構造を有する昇華性の分子性結晶(常温・常圧)であり、石油の精製過程より製造される。その粉末およびその誘導体およびそれらの多量体が、既に出光興産株式会社より販売されている。
PC樹脂材上に、アダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体を付着させるには、該物質を溶媒(例えば、エタノール等)に溶解した後、該基板を該溶液中に浸して超音波洗浄を行った後、該基板を取り出して乾燥させる。このようにして、表面にアダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体を付着させたPC樹脂材を得ることができる。
このとき、溶媒に溶解させるアダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体の濃度を希薄にすることにより、基板表面に付着するアダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体の付着割合を小さくすることができる。これにより、プラズマCVD処理において炭素粒子の核発生密度を下げ、連続膜ではなく、炭素粒子の集積体から成る不連続膜を得ることができる。この集積体における炭素粒子の面密度は、溶液中のアダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体の濃度によって制御することができる。さらには、プラズマCVD処理を行う時間によって、炭素粒子の粒径を制御できる。また、その濃度を非常に薄くすることにより、基板上に孤立した炭素粒子からなる集積体を作製することもできる。さらには、この集積体を有機溶剤等で処理することなどにより、該集積体から基板を除去することによって、炭素粒子のみを得ることもできる。
また、該基板上に、アダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体を付着させる前処理の他の方法として、該物質溶液を該基板上にスピンコートし、その後乾燥させる方法も有効である。このスピンコートを用いる前処理法も、上記超音波洗浄による方法と同様な付着効果が得られる。
本発明においては、PC樹脂材に対して、マイクロ波プラズマCVD装置を用いて処理を施すか、或いは、PC樹脂材に対して、前処理を施した後、マイクロ波プラズマCVD装置を用いて処理を施す。
この際、PC樹脂材が、生成するプラズマによって損傷を受けないようにするためには、操作条件として原料ガスの濃度やモル比、反応時間などを選定すること及び比較的低温下で操作することなどが必要である。本発明においては、樹脂材は室温から150℃に保持した。このような低温に保持することは、プラズマ損傷の防止に効果があるだけでなく、樹脂材の溶融や熱変形を防止する顕著な効果もある。本発明においては、マイクロ波プラズマCVD反応炉内に、反応ガスとして、含炭素ガスと、アルゴンガス及び/又は水素ガスとの混合ガスを導入し、かつガス圧を1〜100パスカルにてプラズマを発生させるとともに、プラズマの電子温度が0.5〜3.0eVの位置に前記基板を配置して、プラズマ中のラジカル粒子を該基板の表面上にほぼ均一に到達するように該プラズマの発生起源から該基板に向けて移動させてなる炭素膜堆積方法を採用することにより達成するものである。
本発明は、特にPC樹脂材を室温から150℃に保持し、マイクロ波プラズマCVD処理を施すことにより形成するPC樹脂材と炭素膜の積層体、およびその形成の手法に関するものである。
さらにまた原料ガス中の炭素源としてベンゼン、アセチレン、トルエン、または10%以上の高濃度のメタンガスなどを用いることにより、本手法をダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜の堆積を行う手法として拡張することが可能である。
本発明の積層体の製造方法について、例を挙げて概略を以下に説明する。
ポリカーボネイト(PC)基材に、ダイヤモンド微粒子を超音波処理によって付着させる等の前処理を施した後、これを低温マイクロ波プラズマCVD装置にて、成膜の源となるプラズマ中のラジカル粒子を、試料台に設置した樹脂基板の表面上にほぼ均一に到達するように、該プラズマの発生起源から該基板に向けて移動させるダウンフローにて供給し、プラズマCVD処理を行う。
本発明において、CVD処理に用いる原料ガス(反応ガス)は、含炭素ガスと、アルゴンガス及び/又は水素とからなる混合ガスである。含炭素ガスとしては、メタン、エタノール、アセトン、メタノール等が包含される。
成膜に適する混合ガスの混合比は、基材に用いるそれぞれの樹脂によって異なり、また、PC樹脂の表面処理の状態によっても異なるが、その含炭素ガスの濃度は0.5〜10モル%、好ましくは1〜4モル%である。含炭素ガスが前記範囲より多くなると炭素膜の光の透過率の低下等の問題が生じるので好ましくない。
また、前記混合ガスには、添加ガスとして、COやCOを添加することが好ましい。これらのガスは酸素源として作用し、プラズマCVD処理においては、不純物を除去する作用を示す。CO及び/又はCOの添加量は、全混合ガス中、好ましくは0.5〜10モル%、さらに好ましくは1〜5モル%である。
アルゴンガス及び/又は水素の添加は、PC樹脂材表面のプラズマ損傷の防止に著しく有効である。特にPC樹脂の表面にプラズマ耐性膜を設けていない場合は、水素の割合に比べてアルゴンガスの割合を大きくすることが、プラズマ損傷の防止に有効である。水素ガスの割合は0〜95.5モル%、アルゴンガスの割合は0〜95.5モル%が適する。
プラズマCVD処理時間としては、数分から数十時間であり、またその処理温度としては20〜150℃である。
本発明においては、プラズマCVD処理のガス圧力と、PC樹脂基材を配置する位置はたいへん重要であり、以下のようにして確認した。
図2に、本発明の炭素膜とPC樹脂の積層体形成に用いる装置の一例を示す。
図中、101はマイクロ波プラズマCVD反応炉(以下、単に「プラズマ発生室」という。)、102はマイクロ波をプラズマ発生室101に導入するためのスロット付き角型導波管、103はマイクロ波をプラズマ発生室101に導入するための石英部材、104は石英部材を支持する金属製支持部材、105は被成膜基材、106は被成膜基材を設置するための試料台であり、上下動機構と被成膜基材の冷却機構を備えており、107はその冷却水の給排水である。また108は排気であり、109はプラズマ発生用ガス導入手段である。110はプラズマCVD処理を行う反応炉である。
該装置を用いたプラズマ発生は以下のようにして行う。
排気装置(図示せず)によりプラズマ発生室101を真空排気する。つづいてプラズマ発生室用ガス導入手段109を介して所定の流量でプラズマ発生室101にプラズマ発生用ガスを導入する。次に排気装置に設けられた圧力調節バルブ(図示せず)を調整し、プラズマ発生室101内を所定の圧力に保持する。2.45GHzのマイクロ波発生装置(図示せず)より所望の電力のマイクロ波を、スロット付き角型導波管102および石英部材103を介してプラズマ発生室101内に供給することにより、プラズマ発生室101内にプラズマが発生する。これにより、成膜の源となるプラズマ中のラジカル粒子を、試料台に設置したPC樹脂基板の表面上にほぼ均一に到達するように、該プラズマの発生起源となるマイクロ波導入用石英部材103の下面(CVD処理反応炉側)から該基板に向けて移動させ、ダウンフローにて供給することができる。
図3は、ラングミュアプローブを用いたプラズマ特性測定で得た、プラズマ中の電子温度(電子の運動エネルギー)のマイクロ波導入用石英窓の下面(CVD反応炉側)からの距離依存性を示す。このプラズマ特性測定に用いたラングミュアプローブは、神戸製鋼所製プラズマ診断用プローブL2P型機を用いた。この際、マイクロ波励起の無電極放電プラズマのプラズマ密度および電子温度を正確に測定するため、白金とタングステンの二つのプローブを用いた、ダブルプローブ法と呼ばれる手法で測定を行った。ラングミュアプローブ法については、例えば文献「菅井秀郎,プラズマエレクトロニクス,オーム社 2000年,p.58」に詳述されている。
この図の測定に用いたガスは水素100%、圧力は10Paである。このようにプラズマ中の電子温度は、石英窓からの距離が大きくなるにしたがって減少するという特性を持っている。また図4は、プラズマ密度のマイクロ波導入用石英窓の下面(CVD反応炉側)からの距離依存性を示す。
上記測定の他、メタンガス0.5〜10モル%、炭酸ガス0〜10モル%、水素ガス0〜95.5モル%、アルゴンガス0〜95.5モル%の範囲で任意の割合で混合し、電子温度とプラズマ密度の測定を行った。その結果、測定したガス混合範囲では、プラズマの特性はほとんど変化しなかった。
PC樹脂基板を上下動が可能な試料台に設置して、石英窓から任意の位置にPC樹脂基板を配置することができるようにし、図3に示したプラズマ中の電子温度、および図4に示したプラズマ密度のデータをもとにして、ガス圧力10PaにおいてPC樹脂基板の位置をいろいろと変えて成膜実験を行い、成膜に最適な電子温度とプラズマ密度の条件の探索を行った。
その結果、電子温度が3eV以上となる基板の位置では成膜されないか、本発明の炭素膜ではなく、煤状の膜がわずかに堆積するだけであることがわかった。たとえば図5に示した圧力10Paでは、石英窓からの距離が20mm以下の領域が、成膜されないか、煤状の膜がわずかに堆積するだけの領域であった。
一方電子温度が3eV以下となる領域では本発明の炭素膜の形成が確認できた。たとえば圧力10Paでは、20mm〜200mmの領域で成膜されることを確認した。圧力10Paのとき、この領域では電子温度は3eV〜0.8eVであった。
本実験で使用した試料台の上下動可動範囲が最大で200mmであるため、これ以上の距離での実験は行うことができなかったが、試料台を工夫することにより、さらに大きな距離での実験が可能である。
この成膜が確認された領域において、成膜速度は石英窓からの距離が50mm〜70mmで最大となった。これは図6のプラズマ密度の石英窓からの距離依存性で、プラズマ密度は50mmで最大となっていることから、50mm程度で成膜速度が最大となることが説明できる。したがって成膜速度をできるだけ大きくしたい場合、成膜に最適なPC樹脂材の位置は、電子温度が3eV以下であり、かつプラズマ密度が最大となるような位置であることが明らかとなった。
上記の実験をいろいろなガス圧力で行った。その結果、炭素膜の堆積に適するガス圧力は1〜100Pa、好ましくは1〜50Paであることが分かった。ガス圧力が200Pa以上では、成膜が確認できなかった。これはガス圧力が高いため、プラズマからの加熱によりPC樹脂基板の熱損傷、熱膨張、熱変形が大きいことによると考えられる。またこれらの実験により、成膜に最適なPC樹脂材の位置は、プラズマCVD処理におけるガス圧力によって変化することが明らかとなった。それぞれのガス圧力において、プラズマの電子温度が0.5〜3eVの位置にPC樹脂材を配置すると、炭素膜がPC樹脂材に堆積可能であることが明らかとなった。
このような、成膜に適するPC樹脂材の位置を選定できるのは、成膜の源となるプラズマ中のラジカル粒子を、試料台に設置した樹脂基板の表面上にほぼ均一に到達するように該プラズマの発生起源から該基板に向けて移動させたことにより、図5に示すような、該プラズマの発生起源から該基板に向けて徐々に減少するような電子温度の分布を形成することができたことによる。
以上のようにしてPC樹脂材に堆積した炭素膜を光学顕微鏡で観察した結果、膜厚が50nm以下では樹脂材上で炭素膜を均一に成膜することが困難であることが明らかとなった。膜厚50nm以上ではPC樹脂材上で炭素膜を均一に成膜することが可能となるが、膜厚100nm以上ではPC樹脂材上で炭素膜をより均一に成膜することが可能であることが明らかとなった。また膜厚10μm以上では、堆積した炭素膜のPC樹脂材からの剥離が生じやすかった。膜厚5μm以下では、スコッチテープを用いた密着強度試験に十分耐える密着性をもつ炭素膜をPC樹脂材上に形成できた。したがって、PC樹脂材と炭素膜との積層体を形成するのに適当な炭素膜の膜厚は、2nm〜100μm、好ましくは50nm〜10μm、さらに好ましくは100nm〜5μmである。
本発明により、炭素膜と樹脂材の積層体を形成することができる。この炭素膜は、CuKα1線によるX線回折スペクトルにおいて、図10にみられるように、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7±0.3°のピークフィッティング曲線Bおよびベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有するという、ダイヤモンド等他の炭素粒子および炭素膜とは異なる著しい特徴を有するものである。
また、ラマン散乱分光スペクトル(励起光波長244nm)において、図7〜9にみられるように、ラマンシフト1333cm−1付近に明瞭なピークがみられ、その半値全幅(FWHM)は10〜40cm−1である。
また、その膜断面の高分解能透過型電子顕微鏡による観察から,該膜は粒径1nmから数十nmの結晶性炭素粒子が隙間なく詰まって形成されており、しかもその膜と基板との界面、その膜中および膜最表面付近とにおいて、その粒径分布が変化していない(平均粒径がほぼ等しい)ことが特徴的であることがわかった。その粒子の粒径は、好ましくは1〜100nmであり、さらに好ましくは2〜20nmである。
こうして得られた膜は,平坦性および密着性に優れており、その表面粗さRaは20nm以下であり,場合によっては3nm以下にも達する平坦なものである。なお、密着強度測定は、先端径25μmのダイヤモンド針を用いたスクラッチ試験機により行い、剥離荷重30mN以上のものが得られることがわかった。
本発明の炭素膜の高い透明性は、前述の膜厚と、この表面粗さとによって実現されるものであって、得られた膜は、透明性に優れ屈折率が1.5以上、複屈折も殆ど示さないなど、光学的に優れた性質を持つ。また、100℃の温度でその抵抗率が10Ωcm以上と非常に高い電気絶縁性を示すなど、電気的にも優れた性質を持つ。
以下、本発明を実施例等によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によっては何ら限定されるものではない。
(炭素膜の成膜)
基材には板状のポリカーボネート(PC)樹脂を用いた。PC樹脂基材の形状は50mm×50mm、厚さ2mmであった。
これらのPC樹脂基材に、水中に分散させたナノクリスタルダイヤモンド粒子を付着させる前処理を施した。これには、この分散液にPC樹脂基材を浸して超音波洗浄器にかけ、その後、該基材をエタノール中に浸して超音波洗浄を行った後、該基材を取り出して乾燥させた。このようにして、表面にナノクリスタルダイヤモンド粒子を付着させたPC樹脂基材を得た。PC樹脂基材への該ナノクリスタルダイヤモンド粒子の付着は超音波洗浄処理における物理的力により、該粒子の一部が基板表面へ埋没することによるものである。PC樹脂基材に付着するダイヤモンド粒子は、プラズマCVD処理における炭素膜成長の種結晶として作用する。
上記前処理を行ったPC基材に図2に示すプラズマCVD装置を用いて、以下のようにして炭素膜を形成した。
CVD処理に用いたガスは、水素90モル%、メタンガス5モル%、二酸化炭素5モル%であった。ガス圧を20Paにてプラズマを発生させ、プラズマの電子温度が1eVとなる、石英窓から50mmの位置に基板を配置し、4時間プラズマCVD処理を行った。プラズマCVD処理中の基板の温度は、試料台106に設置した熱電対を基板の裏面に接触させることにより測定した。プラズマCVD処理を通じて基板の温度は120℃であった。このプラズマCVD処理により、およそ1.1μmの厚さの炭素膜が基材表面に堆積した。
上記の方法で作製したPC樹脂基材と炭素膜の積層体の、ラマン散乱分光スペクトル(励起光波長244nm)を図5に示す。図5に見るように、その積層体のラマン散乱スペクトルには、ラマンシフト1333 cm-1付近に位置するピークが明瞭に認められ、炭素膜が堆積したことが明らかである。同手法で作製した他の多数の試料についても,同様に測定を行った結果,このピークは1320〜1340 cm-1の範囲にあり、1333±10 cm-1の範囲に必ず入ることが分かった。また、ラマンシフト1600 cm-1付近に見られるブロードなピークは、炭素のsp結合成分の存在を示す。ラマンシフト1333 cm-1付近に位置するピークの半値全幅(FWHM)は約22 cm-1であった。
他の多数の試料についても,同様に測定を行った結果,FWHMは10〜40 cm-1の範囲にあることが分かった。
(表面粗さの測定)
本発明のPC積層体の炭素層表面の原子間顕微鏡(AFM)による観察を行い、表面粗さの評価を行った。この場合、基板の表面粗さが膜の表面粗さに及ぼす影響を可能な限り低く抑えるため、鏡面研磨した表面粗さの小さいポリカーボネート基板(直径10mm×厚さ3mm)に炭素層を形成し、測定用試料とした。使用したAFM装置は、米国Digital Instruments社製Nanoscope走査型プローブ顕微鏡であり、カンチレバーはVeeco Instruments社製走査型プローブ顕微鏡用カンチレバー単結晶シリコン製ローテーションプローブ Tap300を使用した。測定にはタッピングモードを用い、スキャンサイズ1μm×1μm、スキャンレート1.0Hzで観察を行った。その結果、炭素層の表面粗さは、炭素層の堆積条件によって表面粗さは異なるが、Raで3〜20nmの範囲にあることを確認した。なお、算術平均高さRaについては、例えば「JIS B 0601-2001」または「ISO4287-1997」に詳述されている。
(炭素膜のX線回折)
本発明の炭素膜とPC樹脂との積層体をX線回折により観察した。以下、測定の詳細を記す。
使用したX線回折装置は株式会社リガク製X線回折測定装置RINT2100 XRD-DSCIIであり、ゴニオメーターは理学社製UltimaIII水平ゴニオメーターである。このゴニオメーターに薄膜標準用多目的試料台を取り付けてある。測定した試料は本発明の厚さ2mmのPC樹脂基材上に堆積した膜厚500nmの炭素膜である。PC樹脂基材ごと30mm角に切り出したものを測定した。X線は銅(Cu)のKα1線を用いた。X線管の印加電圧・電流は40kV・40mAであった。X線の検出器にはシンチレーションカウンターを用いた。まず、シリコンの標準試料を用いて、散乱角(2θ角)の校正を行った。2θ角のズレは+0.02°以下であった。次に測定用試料を試料台に固定し、2θ角を0°、すなわち検出器にX線が直接入射する条件で、X線入射方向と試料表面とが平行となり、かつ、入射するX線の半分が試料によって遮られるように調整した。この状態からゴニオメーターを回転させ、試料表面に対して0.5度の角度でX線を照射した。この入射角を固定して、2θ角を10度から90度まで0.02度きざみで回転し、それぞれの2θ角で試料から散乱するX線の強度を測定した。測定に用いたコンピュータープログラムは、株式会社リガク製RINT2000/PCソフトウェア Windows(登録商標)版である。
測定したX線回折のスペクトルを図6に示す。図中の白丸が測定点である。2θが43.9°に明瞭なピークがあることがわかる。ここで興味深いのは、図6からわかるように、43.9°のピークはその低角度側、2θが41〜42°に肩を持っている。(スペクトルの「肩」については「化学大辞典」(東京化学同人)を参照するとよい。)したがってこのピークは、43.9°付近を中心とするピーク(第1ピーク)と、41〜42°あたりに分布するもうひとつのピーク(第2ピーク)の、2成分のピークにより構成されている。CuKα1線によるX線回折で、2θが43.9°にピークをもつ炭素系物質としてはダイヤモンドが知られている。ここで図7は、同様の方法によりダイヤモンドをX線回折測定したスペクトルであり、ピークはダイヤモンドの(111)反射によるものである。本発明の積層体の炭素膜とダイヤモンドのX線回折スペクトルの違いは明瞭で、本発明の積層体の炭素膜のスペクトルに見られる41〜42°あたりに分布する第2ピークは、ダイヤモンドには見ることができない。このようにダイヤモンドの(111)反射は43.9°を中心とする1成分(第1ピークのみ)で構成され、本発明の積層体の炭素膜の様な低角度側の肩は観測されない。したがって本発明の積層体の炭素膜のスペクトルに見られる41〜42°あたりに分布する第2ピークは、本発明の積層体の炭素膜に特徴的なピークである。
また、図6の本発明の積層体の炭素膜のX線回折スペクトルのピークは、図7のダイヤモンドのピークと比較して、たいへん幅が広いことがわかる。一般に膜を構成する粒子の大きさが小さくなるとX線回折ピークの幅が広くなり、本発明の積層体の炭素膜を構成する粒子の大きさが非常に小さいといえる。本発明の積層体の炭素膜を構成する炭素粒子の大きさ(平均の直径)を、X線回折で通常用いられるシェラー(Scherrer)の式によりピークの幅から見積もってみると、およそ15nmであった。シェラーの式については、例えば「日本学術振興会・薄膜第131委員会編 薄膜ハンドブック,オーム社1983年,p. 375」を参照するとよい。
次にこのピークの構成の詳細(それぞれのピークの成分の位置や強度など)を見ることにする。
本発明の積層体の炭素膜のX線回折測定における2θが43.9°のピークの詳細な構成を知るために、2θ角が39度から48度の間で、ピークフィッティングを用いて解析した。第1ピークのフィッティングには、ピアソンVII関数と呼ばれる関数を用いた。この関数は、X線回折や中性子回折などの回折法のピークのプロファイルを表すものとして、最も一般的に用いられているものである。このピアソンVII関数については、「粉末X線解析の実際−リートベルト法入門」(日本分析化学会X線分析研究懇談会編、朝倉書店)を参照するとよい。また第2ピークのフィッティングには、いろいろな関数を検討した結果、非対称の関数を用いるとよいことが判明した。ここでは非対称正規分布関数(ガウス分布関数)を用いた。この関数はピーク位置の右側と左側で別々の分散(標準偏差)値を持つ正規分布関数であり、非対称ピークのフィッティングに用いる関数としては最も簡単な関数のひとつであるが、非常によくピークフィッティングができた。また、ベースライン(バックグラウンド)関数としては直線関数(一次関数)を用いた。
実際のフィッティング作業はいろいろなコンピュータープログラムが利用できるが、ここではORIGINバージョン6日本語版ピークフィッティングモジュール(以下、ORIGIN -PFM)を用いた。ORIGIN−PFMで、ピアソンVII関数は”Pearson7”、非対称正規分布関数は”BiGauss”、直線関数は”Line”と表されている。フィッティングの完了条件は、フィッティングの信頼度を表す相関係数(ORIGIN−PFMで”COR”あるいは”Corr Coef”)が0.99以上となることとした。
このピークフィッティングを用いた解析により、図6に示すようにこの測定スペクトルはピアソンVII関数による第1ピーク(図中フィッティング曲線A)、非対称正規分布関数による第2ピーク(図中フィッティング曲線B)、および一次関数によるベースライン(バックグラウンド)の和(図中フィッティング合計曲線)で大変よく近似できることがわかった。この測定でフィッティング曲線Aの中心は2θが43.9°にあり、これに対してフィッティング曲線Bは41.7°で最大となる。それぞれのフィッティング曲線とベースラインで囲まれた面積がそれぞれのピークの強度である。これにより第1ピークの強度に対する第2ピークの強度を解析した。この試料の場合、第2ピーク(フィッティング曲線B)の強度は第1ピーク(フィッティング曲線A)の強度の45.8%であった。
本発明の積層体の炭素膜の多くの試料についてX線回折測定を行ったところ、すべての試料で2θが43.9°を中心に図6に示すような幅の広いピークが観測された。しかも図6に示すような低角度側に肩をもつ形をしており、第1ピークと第2ピークにより構成されることがわかった。多数の試料で測定したX線回折スペクトルについて同様のピークフィッティングによる解析を行ったところ、上述の関数を用いて非常にうまくフィッティングできることがわかった。第1ピークの中心は2θが43.9±0.3°であった。また第2ピークは2θが41.7±0.3°で最大となることがわかった。第1ピークに対する強度比は最小が5%で、最大が90%であった。この強度比は合成温度依存性が大きく、温度が低いほど大きくなる傾向があった。一方ピークの位置については合成温度によらずほぼ一定であった。
このX線回折測定の解析手法の注意すべき点は、X線の強度が小さいと測定データのばらつきが大きくなり、信頼できるフィッティングが不可能となることである。そのため、ピークの最大強度が5000カウント以上のものについて、上述のフィッティングによる解析を行う必要がある。
このように本発明の積層体の炭素膜には、CuKα1線によるX線回折測定において、2θが43.9°を中心に幅の広いピークを持ち、しかもそのピークは低角度側に肩のある構造をもつことが明らかとなった。ピークフィッティングを用いた解析により、このピークは2θが43.9°に中心をもつピアソンVII関数による第1ピークと41.7°で最大となる非対称正規分布関数による第2ピーク、および一次関数によるベースライン(バックグラウンド)の重畳で大変よく近似できることがわかった。
同様のピークフィッティングによる解析を図7に示したダイヤモンドのスペクトルについて行った。上述の本発明の積層体の炭素膜とはまったく異なり、ダイヤモンドの場合は2θが43.9°に中心をもつピアソンVII関数だけで大変よく近似できることがわかった。したがって本発明の積層体の炭素膜はダイヤモンドとは異なる構造をもつ物質であることがわかった。
本発明の積層体の炭素膜は上述の第2ピークが観測されることが特徴であり、ダイヤモンドとは異なる構造をもつ炭素膜である。本発明の積層体の炭素膜の製造工程、およびその他の測定結果を吟味し、その構造を検討した。本発明の積層体における炭素膜の合成法を、ダイヤモンドのCVD合成法と比較した場合、以下のような大きな特徴がある。まず、通常のダイヤモンド合成が少なくとも700℃以上の温度で行われているのに対して、本発明の積層体の炭素膜は非常に低温で合成を行っている。また従来ダイヤモンド膜の粒径を小さくする場合、原料ガスに含まれる炭素源濃度(メタンガスのモル比)が10%程度の高い濃度により高速成長する方法が用いられてきたが、本発明では炭素源濃度が1%程度とかなり低い。すなわち、本手法では低温において非常にゆっくりと時間をかけ、炭素粒子を析出し、膜を形成している。したがって、炭素粒子はダイヤモンドになるかならないかのぎりぎりの状況で析出する。このため通常の立方晶のダイヤモンドより安定な炭素による結晶である六方晶ダイヤモンドの析出や、さらに安定なグラファイトの析出を促すような力が働き、結晶の析出状況としては非常に不安定である。さらにいったん析出したグラファイトおよび非晶質炭素物質も、原料ガスに含まれる水素プラズマにより、エッチングにより除去される。このような析出機構により、立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドが入り混じり、かつエッチングによって除去された部分が非常に高濃度の欠陥として残留した構造となっている。この欠陥は原子空孔のような点欠陥であったり、転位のような線状の欠陥であったり、また積層欠陥のような面単位の欠陥も大量に含まれている。このため43.9°のX線回折ピークが低角度側に肩をもつ構造となるのである。
しかしながら、以上のようなX線回折ピークの特徴が、本発明の積層体の炭素膜の高い機能に結びついている。すなわち、低炭素源濃度での低速合成のため、グラファイトおよびグラファイト様物質のエッチングが促進されるため、高濃度の欠陥を含む構造となるが、その一方で炭素膜の熱伝導性、強度、硬度および透明度を高く保っている。また、低温で合成しているため立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドが入り混じり、かつ高濃度の欠陥を含んでいるが、そのような低温のおかげで、樹脂材へも熱的な損傷を与えることなく、直接コーティングが可能となった。さらに低温での合成のため、炭素膜中の炭素粒子の微小な粒径が揃っており、熱による歪が非常に小さい。すなわち立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドが入り混じり、かつ非常に高濃度の欠陥を含んだ構造により、熱歪が緩和され、光学的な複屈折性が小さいという特徴が生じている。また同様に、この構造のおかげで、非常に高い電気的絶縁性が発現している。
(炭素膜の電気抵抗測定及びホール効果測定)
本発明の積層体の炭素膜の電気的特性を知るために、電気抵抗測定およびホール効果測定を行った。以下、測定の詳細を記す。使用した電気抵抗測定装置およびホール効果測定装置は東陽テクニカ製ResiTest8310S型機である。また使用した試料ホルダーは東陽テクニカ製 VHT型である。測定した試料は本発明の手法で厚さ2mmのPC樹脂基材に作製した膜厚500nmの炭素膜である。PC樹脂基材ごと4mm角に切り出したものを測定した。電極として試料の4角に真空蒸着により直径0.3mmの円形にTiを厚さ50nm堆積した。さらにこの上にPtを50nm、Auを100nm蒸着し、Ti電極の酸化を防止した。これを高抵抗アルミナ製の試料台に取り付け、φ250μmの金のワイヤーを電極に超音波ボンディングして配線を行った。
電気抵抗測定はヘリウム1ミリバールの雰囲気中で行った。室温と100℃で行った。この結果100℃では1×10Ωcm以上、また室温(20℃)では1×1010Ωcm以上の高い抵抗値を示した。
ホール効果測定により電気伝導性のタイプの決定も試みたが、高抵抗のため、p形かn形かの判定はできなかった。
以上のような電気的な性質は、本発明の積層体の炭素膜が大変良い電気的絶縁膜として機能することを示している。
(炭素膜の熱伝導率測定)
本発明のPC樹脂基材に形成する炭素膜の熱伝導測定を、レーザーフラッシュ法を用いて行った。この測定法ではPPS樹脂基材に炭素膜を堆積した状態での熱伝導測定が困難であるため、基材には石英ガラスを用いた。石英ガラス基材に炭素膜を堆積し、炭素膜の熱伝導性の評価を行った。5mm×5mm、厚さ100μmの石英ガラス基材に、膜厚1μmの炭素膜を形成した。これを30枚重ねて5mm×5mm、側面の厚さおよそ3mmの直方体形状の試料を作成した。この厚さおよそ3mmの側面に赤外光レーザーを照射し、レーザーフラッシュ法により炭素膜を形成した石英ガラスの面内方向の熱拡散率を求めた。赤外光レーザー照射面は赤外光の吸収を高めるため、黒化処理を行った。(本実施例で用いたレーザーフラッシュ法による測定およびデータ解析では、「最新熱測定−基礎から応用−」(八田一郎監修、アルバック理工(株)編集、アグネ技術センター)に記載の手法に則った。)同時に、炭素膜のない石英ガラス基材のみを同様に30枚重ねた直方体形状の試料を作成し、石英ガラス基材のみの熱拡散率を測定した。以上の測定から、炭素膜のある石英ガラス基材と、炭素膜のない石英ガラス基材の熱拡散率を比較し、炭素膜のみの面内方向の25℃における熱拡散率を得た。またこの積層体の炭素膜の比熱および密度を測定した。これらを熱拡散率に乗算することにより、本発明の炭素膜について熱伝導率、30W/mK以上、を得た。
(光学特性の評価)
本発明のPC樹脂基材に形成する炭素膜の光透過性の評価を行った。測定に用いた装置および設定は以下のとおりである。
測定装置:株式会社島津製作所製UV−3101PC型自記分光光度計
スリット幅:30nm
スリットプログラム:ノーマル
光源:ハロゲンランプ(340nm以上)、水素ランプ(340nm以下)
検出器:PMT(860nm以下)、PbS(860nm以上)
副白板:BaSO4
入射角:0°
図8は、本発明の炭素膜とPC樹脂の積層体の、可視光透過率の波長依存性を示す図である。炭素膜の膜厚はおよそ1.1μmであった。図には、比較のため、炭素膜のないPC樹脂基材のみの可視光透過率も示してある。炭素膜とPC樹脂の積層体の、平均の可視光(400-800nm)透過率は82.7%であった。このように、本発明の炭素膜とPC樹脂の積層体は十分な透明性を保持していることが分かった。
本発明の炭素膜とPC樹脂の積層体は、前記した特性を有することから、従来PC樹脂を適用することが出来なかった、可視光透過性と耐薬品性が必要な産業分野での利用が可能である。たとえば、内容物の目視確認が必要な、薬品用PC樹脂製容器などへの応用、またPC樹脂材が劣化するような苛酷な環境での利用が可能である。
本発明の炭素膜とPC樹脂の積層体の概要を示す断面図。 本発明の炭素膜とPC樹脂の積層体の製造装置の構成を示す図。 ラングミュアプローブを用いたプラズマ特性測定で得た、プラズマ中の電子温度(電子の運動エネルギー)のマイクロ波導入用石英窓の下面(CVD反応炉側)からの距離依存性を示す図。 プラズマ密度のマイクロ波導入用石英窓の下面(CVD反応炉側)からの距離依存性を示す図。 PC樹脂基材への炭素膜形成を示すラマンスペクトル図。 本発明の一例の炭素膜のCuKα1X線によるX線回折スペクトル、およびピークフィッティング結果を示す図。 ダイヤモンドにおけるCuKα1X線による典型的なX線回折スペクトル((111)反射ピーク)、およびピークフィッティング結果を示す図。 本発明の炭素膜とPC樹脂の積層体の、可視光透過率の波長依存性を示す図。
符号の説明
101 プラズマ発生室
102 スロット付き角型導波管
103 マイクロ波導入するための石英部材
104 石英部材を支持する金属製支持部材
105 被成膜基材
106 被成膜基材を設置するための試料台
107 冷却水の給排水
108 排気
109 プラズマ発生用ガス導入手段
110 反応炉

Claims (2)

  1. ポリカーボネート樹脂材と、該ポリカーボネート樹脂材の表面上に堆積された膜厚50nm〜10μmで、表面粗さRaが20nm以下の炭素膜とを備え、該炭素膜は、CuKα1線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.3°)の41〜42°にスペクトルのピークを有するポリカーボネート積層体であって、
    波長500〜800nmにおける光透過率が80%以上であることを特徴とするポリカーボネート積層体。
  2. 熱伝導率30W/mK以上、抵抗値1×107Ωcm以上(100℃)を有する、請求項1に記載のポリカーボネート積層体。
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