JP5187665B2 - 血小板血栓形成シミュレータ - Google Patents
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Description
血小板(図1(0))は血管障害部位や活性化された血管内皮細胞の表面に表出したフォン・ヴィルブランド因子(von Willebrand factor、「vWF」という)を認識して、GPIbα複合体を介した可逆的接着反応を開始する(図1(1))。vWFは血液中にも一定量存在するため、複数の血小板はvWFを使って複数が接着することも可能である。これにより、血小板は速い流れの中でも素早く障害局所に一過性の接着を行い移動速度が減少する。この接着現象により血小板は血管壁との接触時間を与えられる。この間、接着反応を示した血小板は活性化シグナルが細胞内に入ることにより、GPIIb/IIIa複合体の表出および少なくとも3つの異なる複合体のコンフォメーション変化を伴う多段階的な機能的活性化が起こり、接着は強固なものとなる(図1(2))。そして、相前後して起こる血小板活性化反応によりGPIIb/IIIa複合体の接着性が促進され、流れに対抗して局所で安定した接着反応が完成する(図1(3))。安定化した接着血小板に表出されたvWFを標的として、前記と同様のメカニズムにより次々と血小板が補充され、血小板血栓(血小板凝集隗)が形成される(図1(4))。ここで、図1(0)−(2)における血小板の接着強度は血漿流のずり速度の影響を強く受ける。このように、血小板血栓は複数活性化の段階を経て形成される。
上記血小板血栓の形成過程のモデルとして、従来は、図2のように血小板を球で仮定し、球同士がある所定の距離以下となった場合に血小板間に一定の法線方向バネ(図2(A))と接線方向バネ(図2(B))を設けて接着する、というものであった(Miyazaki H,and Yamaguchi T.Formation and destruction of primary thrombi under the influence of blood flow and von Willebrand factor analyzed by a discrete element method.Biorheology 2003,vol 40,265−272.)。
しかしながら、従来のモデルは、血小板間の接着状態が活性化のレベルや流れに影響されず一定であることを前提として計算する方法であった。このため、
(i)血漿流のせん断応力による接着力の変化を考慮することができない、
(ii)血小板の活性化に伴う複数の接着分子の効果を考慮することができない、
(iii)異なる活性化レベルにある複数の血小板の相互作用を考慮することができない、
という問題があった。従って、従来のモデルでは血小板血栓形成過程の生化学的プロセスを勘案して計算することができず、生体内で現実に起こる血小板血栓形成過程を模擬することが困難であった。
また、血小板間の接着力を変化させた場合の計算を実施するときは、計算プログラム自体を直接変更する必要があるために、プログラムに精通している者でなければ計算や仮想実験ができないという難点があった。
さらに、計算結果の表示に関しては、血小板の接着過程の状況と血漿のずり速度の変化を別々に表示させる必要があり、同一画面にて評価することができない。このため、結果を表示するための操作が煩雑である。また、血小板の複数の接着分子機能を考慮していないため、血小板接着過程と飛散頻度の時系列変化を把握することができない。
このように、従来のモデルでは、血漿流のずり速度による接着力の変化、及び血小板が保持する複数の接着分子機能が考慮されていない。すなわち、従来のモデルでは、図1の(0)及び(1)の過程しか考慮されていないことになる。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、血小板血栓形成過程の数学モデルを開発し、この数学モデルを用いることにより、血小板血栓形成過程を実測の形成過程とほぼそっくりに模擬し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)血小板の血栓形成シミュレータであって、以下の手段:
(a)予め記憶された計算式から、血小板の活性化グレードに対応した接着力を計算する計算式を選択する手段、
(b)それぞれの活性化グレードの血小板に対応する前記計算式に基づいて、前記血小板の接着力を計算する手段、及び
(c)計算された前記各血小板の接着力に基づいて血小板の凝集状況を出力する手段、
を備えた前記シミュレータ。
本発明においては、入力された血小板の血栓剥離に関するパラメータを用いて凝集している血小板凝集塊の表面に加わるせん断応力を計算し、前記せん断応力に基づいて前記血小板凝集塊からの血小板の剥離状況を出力する手順をさらに含めることができる。
また、前記計算式は、血栓形成に関するパラメータを利用するものである。
さらに、前記パラメータとしては、血小板の血中濃度、血小板の直径、血小板の濃度、血小板の血管内分布比率、バネ定数、血管の直径、血管の長さ、動脈と静脈の種別、血流の速度、損傷部位の大きさ又は形状、及び損傷部位に表出する複数の接着分子の種類と割合からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
本発明のシミュレータにおいて、前記血小板の凝集状況及び/又は剥離状況の出力は、所定の表示手段への出力であることが好ましい。この場合の表示手段は、前記血小板の凝集状況及び/又は剥離状況の画像のアニメーション表示、前記血小板凝集塊を構成する個々の血小板の活性化レベルの表示、血漿ずり速度分布のアニメーション表示、前記血小板凝集塊の飛散頻度と個々の塊の大きさの表示、並びに飛散凝集塊に含まれる個々の血小板の活性化レベルのグラフ表示からなる群から選択される少なくとも1つを表示するものである。
また、前記出力手段による出力は、血管の斜視図における凝集状況及び/又は剥離状況、血管の長手方向断面図における凝集状況及び/又は剥離状況、並びに血管の長手方向のせん断応力分布図からなる群から選ばれる少なくとも1つの表示出力である。
前記血小板の血栓剥離に関するパラメータは、血小板の密度、血小板の直径、血小板の濃度、血小板の分布比率、バネ定数、血管の直径、血管の長さ、動脈と静脈の種別、血流の速度、損傷部位の大きさ又は形状、及び損傷部位に存在する接着分子の種類と密度からなる群から選択される少なくとも1つである。
(2)血小板の血栓形成をシミュレーションするためのプログラムであって、コンピュータに、以下の手順:
(a)予め記憶された計算式から、血小板の活性化グレードに対応した接着力を計算する計算式を選択し、
(b)それぞれの活性化グレードの血小板に対応する前記計算式に基づいて、前記血小板の接着力を計算し、
(c)計算された前記各血小板の接着力に基づいて血小板の凝集状況を出力する手順、
を実行させるための前記プログラム。
本発明のプログラムにおいては、入力された血小板の血栓剥離に関するパラメータを用いて、凝集している血小板に加わるせん断応力を計算し、前記せん断応力に基づいて、前記血小板の凝集塊からの剥離状況を出力する手順をさらに含めることができる。
前記計算式は、血栓形成に関するパラメータを利用するものである。
前記パラメータとしては、血小板の血中濃度、血小板の直径、血小板の濃度、血小板の血管内分布比率、バネ定数、血管の直径、血管の長さ、動脈と静脈の種別、血流の速度、損傷部位の大きさ又は形状、及び損傷部位に表出する複数の接着分子の種類と割合からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
また、前記血小板の凝集状況及び/又は剥離状況の出力は、所定の表示手段への出力であることが好ましい。この場合の表示手段は、前記血小板の凝集状況及び/又は剥離状況の画像のアニメーション表示、前記血小板凝集塊を構成する個々の血小板の活性化レベルの表示、血漿ずり速度分布のアニメーション表示、前記血小板凝集塊の飛散頻度と個々の塊の大きさの表示、並びに飛散凝集塊に含まれる個々の血小板の活性化レベルのグラフ表示からなる群から選択される少なくとも1つを表示するものである。
さらに、前記出力手段による出力は、血管の斜視図における凝集状況及び/又は剥離状況、血管の長手方向断面図における凝集状況及び/又は剥離状況、並びに血管の長手方向のせん断応力分布図からなる群から選ばれる少なくとも1つの表示出力である。
前記血小板の血栓剥離に関するパラメータは、血小板の密度、血小板の直径、血小板の濃度、血小板の分布比率、バネ定数、血管の直径、血管の長さ、動脈と静脈の種別、血流の速度、損傷部位の大きさ又は形状、及び損傷部位に存在する接着分子の種類と密度からなる群から選択される少なくとも1つを挙げることができる。
(3)前記(2)に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
本発明により、血小板の血栓形成シミュレータ、並びに血栓形成シミュレーション用プログラム及び該プログラムを記録した記録媒体が提供される。
(1)本発明のシミュレータにより、生体内における現実の血小板凝集反応に則した血小板血栓形成過程を再現することが可能となった。特に、接着分子のうちGPIbαは局所のずり応力によって接着力が変化する。この情報を反映させるために、本発明においては、リアルタイムにずり応力を計算する手段とその計算結果を表示する手段を備えており、これらの手段がこれまでのシミュレーションにない不可欠な要素であり、本発明の大きな特徴の1つとなっている。
(2)本発明のシミュレータは、計算条件の設定にGUI(Graphical User Interface)を用いることでユーザの希望に沿った計算条件設定を容易に行なうことができる。すなわち、計算条件入力から結果の出力までを同一画面で実施することができるため、計算に精通していない者であっても容易に利用することが可能である。また、データベースに計算条件と計算結果を保存できるため、条件を一部変更したパラメータサーベイを容易に、かつ短時間で設定できる。
(3)本発明のシミュレータでは、仮想血管内皮細胞に、任意の形状で任意のコラーゲンやvWFの発現量の障害部位を設定することが可能である。したがって、血管壁を貫通した出血性障害や、血液中の液性因子や毒素、障害因子などにより血管内皮細胞のみが障害され、コラーゲンが露出しないような障害モデルのシミュレーションも可能である。
(4)本発明のシミュレータは、血小板が有する複数の接着分子機能の効果を計算することが可能であるため、各分子の影響を勘案した抗血小板薬の開発への適用が可能である。例えば、患者から、抗血小板薬を服用する前後で採血し、そこから得た血小板機能検査のデータから、各接着分子の「ばね定数」を想定し、これを入力することにより、当該薬を服用する前と後での血栓溶解や崩壊プロセスを予測することが可能である。
(5)(4)に記載した特質は、実用化前の抗血小板薬のGPIbα、GPIIb/IIIaなどの接着分子阻害効果をあらかじめin vitroの機能検査で計測し、その情報を接着分子のばね定数に入力することで、ヒトの体内の様々な部位の血管形状や血流速度条件下で、特定の抗血小板薬がどのような血栓阻止効果や飛翔血栓抑制効果を示すかを予測できるシミュレーションを構築することができる。
(6)(4)に記載した特質は、既存の抗血小板薬の区別化にも応用が可能である。たとえばアスピリンと他の血小板薬を投与した際の血栓阻止効果の違いを比較対照することが可能である。具体的には、cyclooxygenase阻害剤であるアスピリンは血小板活性化プロセスのうちthromboxane A2を阻害することによりGrade3〜5(Gradeの説明は後述する)のプロセスを阻害すると思われる。一方phosphodiesterase阻害剤であるシロスタゾールは血小板細胞内のcyclicAMPを増加させ血小板活性化プロセスのうち、ずり応力依存性の血小板凝集に関わるGrade1〜2のプロセスを阻害する。本発明においては、これらの薬物の効果の相違を比較することが可能である。したがってこのような2者による血小板接着の阻害様式や血栓の崩壊の違いを明確にすることが可能である。
(7)本発明のシミュレータは複雑形状に対しても適用することができるため、複雑な血管網における血小板塊の飛散状況をも把握することができる。たとえば動物の脳の血管鋳型標本をもとに血管網を構築し、あるいはCTやMRIから抽出したヒト血管形状を構築し、これらの構築された血管網又は血管形状を元にした血小板塊による閉塞予測を行うことができる(図3)。図3は、細い血管にも血小板塊が搬送される例を示しており、本発明のシミュレータによりシミュレーションされた結果を示すものである。
(8)また、血管内に装着されるステントによる血栓形成の過程を再現することでステント形状の最適化も行うことができる(図4)。
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であって、本発明をこの実施形態にのみ限定することは意図されない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することが可能である。
なお、本明細書において引用した全ての刊行物、例えば、先行技術文献および公開公報、特許公報その他の特許文献は、その全体が本明細書において参照として組み込まれる。本明細書は、本願優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2006−250798号明細書の内容を包含する。
図2は、法線及び接線方向のバネを用いた血小板間接着モデルを示す図である。
図3は、脳内動脈の血小板飛散状況(脳内動脈を移動する血小板塊の軌跡)を示す図である
図4は、ステント形状による血栓形成過程計算例(ステントの網目の大きさを変えた場合の計算例)を示す図である。
図5は、非活性化状態及び活性化状態の血小板の模式図である。
図6は、血栓形成過程の模式図である。
図7は、血小板の活性化状態を示す模式図である。
図8は、異なるバネ定数を有するバネの模式図である。
図9は、本発明のシミュレータの構成図である。
図10は、計算条件設定部における入力画面を示す図である。
図11は、本発明のプログラムを実行させるためのシステムの詳細構成図である。
図12は、本発明のプログラムの動作を説明するフローチャートの図である。
図13は、計算結果を表示した図である。
図14は、計算結果を表示した図である。
図15は、計算結果を表示した図である。
本発明は、血小板と血小板との間、あるいは血小板とvWF及び/又はコラーゲンとの間の相互作用を、バネ及びダッシュポットを用いたフォークトモデル(Voigt model)に基づき、複数の接着分子の機能を個々の血小板でモデル化することにより完成された血小板血栓形成シミュレータである。
本発明のシミュレータは、超高速度生体蛍光顕微鏡による単一血小板挙動解析法による実測実験データに基づき、血流速度が増加するのに応じて赤血球が中心流を占拠することにより変化する血小板の血管内分布の偏在をシミュレーション上に再現し、血小板と血管壁の接触確率が局所の血行動態により変動する実際の生体内での事象を再現している。そして、血小板の衝突や接着の影響を非線形バネ定数と減衰係数により記述すること、すなわち、せん断応力により縦、横方向のバネ定数を変化させることにより、血小板の接着力を変化させ、これをアニメーション表示することを可能とするものである。
本発明のシミュレータは、生体において実際に血小板が保持する複数の接着分子機能を考慮することで、微小血管における血漿流動のずり速度によって生じるせん断応力を感知して血小板の接着力を変化させる接着分子間相互作用を利用したものであり、せん断応力情報と血小板の接着力情報に基づいて、3次元で止血の過程をアニメーション表示することが可能となった血小板血栓形成シミュレータである。
本発明のシミュレータは、血漿流によるせん断応力と血小板の活性化状態による血小板塊の出現頻度、あるいはその飛散頻度(血小板血栓の塊が止血部位から剥離する頻度)を定量的に評価することを可能としており、本発明のシミュレータによって計算された血小板接着過程と、実験による血小板接着過程とを対応させた上で、せん断応力や活性化状態を変化させた計算を実施することにより、血管中の障害部位に対する血小板凝集状況の評価が可能となる。
また本発明は、血小板の血栓形成をシミュレーションするためのプログラムであり、任意の流路及び流体について血栓形成をシミュレーションすることができる。
具体的なシミュレーション方法としては、血管内の空間部を格子区画状に分割し、その分割した区画毎に、離散化した連続の式および離散化したナビエストークス(Navier−Stokes)の方程式を用いて微小時間毎に演算して運動要素の数値を算出する。そして、これら各格子区画毎の演算結果を組み合わせて血管内全体にかかる血漿流をシミュレーションすることで血小板の変化を解析することができる。また、時間の経過に伴う血小板の変化、あるいは異なる時間帯における血漿流を解析する場合は、微小時間毎に時間を進行させて式を演算することで所要時間帯の血漿流の変化を解析することが可能である。
また、血漿流にかかる圧力分布は、上記演算結果から得られる数値を等圧線または色に変換することにより可視化される。
2.数学モデルと血小板血栓シミュレータ
本発明は以下の2点から構成される。
・血小板血栓形成過程の数学モデル
・上記数学モデルを用いた血小板血栓シミュレータ
以下、それぞれについて説明する。
(1)血小板血栓形成過程のメカニズム
血小板血栓形成過程の数学モデルを説明するに際し、まず、血小板血栓形成のメカニズムについて説明する。
血小板は、GPIbα、GPIaIIa及びGPIIb/IIIaの3つの基本接着分子を使って、(i):血流中でtetheringと呼ばれる「ころがり反応」、(ii):adhesionと呼ばれる固着反応、(iii)〜(iv):形態変化と放出反応を惹起して非可逆的に接着し、他の血小板が接着して凝集反応にいたるプロセスといった多段階プロセスを経て接着する。このプロセスを、さらに詳細に説明する。
血管に損傷のない通常の血流状態では、血小板は非活性状態であり(Quiescent platelet)、その膜表面にGPIbα及びGPIaIIaと呼ばれる糖タンパク質、並びにGPVIと呼ばれる細胞膜上のコラーゲン受容体を発現している(図5A)。血管に損傷が生じると、この状態の血小板は血栓を形成するための活性化状態となる(図5B)。
上記血小板の非活性状態を「Grade 0」とする。本明細書においては、血小板の活性化状態を、血小板の膜に存在する分子の種類と接着力の程度に応じて「Grade」(グレード)という用語を使用して表現することとする。「状態」には、一瞬の時、および一定時間の範囲内の様子を含む。
以下に、個々の血小板の活性化プロセスを詳細に説明する(図6)。
Grade 0は活性化を受けていない血小板である。血管に損傷が生じると、障害部位にvWFが出現し、Grade 0の血小板(図6)はGPIbα複合体を介してvWFに結合して、tetheringと呼ばれる2つの血小板の連結状態を形成し、Grade 1となる(図6)。すなわちGrade 1はGPIbαとvWFとの接着が開始する段階である。Grade 1の血小板は、他の血小板を介して複数のGPIbαと結合することによりGrade 2となる(図6)。すなわちGrade 2は、GPIbαにより媒介される複数の分子セットで接着が起こり、細胞内シグナリングが生じる状態である。これらのGrade間の反応は可逆的であり、局所の流れなどの物理的ストレスにより乖離し、血小板の活性化プロセスが元に戻る余地を残している。またvWFとGPIbαの接着力は局所のせん断応力(wall shear stress)により増強することが知られている。本発明においては、回転円盤型血小板凝集解析装置などを用いた実測実験データによりユーザーのニーズに合わせて実測データを反映したシミュレーションを構築することができるようにプログラムを設計した。
Grade 2の状態の血小板は細胞内シグナルが入力されるため、一定時間経過後にはGPIIb/IIIaの活性化が起こる。GPIIb/IIIaの活性化状態には接着性の異なる3つの異なる立体構造が存在することが知られている。もっとも接着力の小さい構造に対応した活性化状態をGrade 3と定義し、中等度、高度の接着力を保持した状態をそれぞれ、Grade 4、Grade 5と定義する。一方、血小板の膜にはGPVIと呼ばれる接着分子が存在するが(図5)、この分子に細胞外マトリックスの1つであるコラーゲンが接触すると、IP3を介した細胞内シグナル伝達が活性化し、直接Grade 3のGPIIb/IIIaのコンフォメーション変化を起こすプロセスが知られている。本発明においては、このプロセスによりGrade 4の活性化プロセスが起こるときのプログラムを導入した。
図6に示した活性化プロセスにしたがって複数の血小板が相互作用をした際に活性化状態(Grade)の異なる血小板がどのように集塊を形成するかをモデル化した概念図を図7に示した。Grade 0の血小板が血液中や障害面に存在するvWFと結合すると、この反応を契機として複数の血小板による小凝集塊が形成される(図7a、b、c)。また障害面にcollagenが露出している場合はGPVIを介した活性化が起こるため、接触した血小板はGrade 4となる(図7d)。ここに別の血小板が流れて接触し、Grade 4の血小板に複数のGPIbαを介した接着によりシグナルが入ると、Grade 4のものはGrade 5に、Grade 1のものはGrade 2に活性化レベルが上昇する(図7e,f)。流れの効果により血小板が偶然にcollagenに接触すると活性化レベルは4まで達するため、次第に活性化レベルの高い(Grade 5)血小板が集合する(図7f,g)。その一方では、表層には新しいGrade 0の血小板がさらに接着し、集塊を形成するようになる。
本発明では他の血液凝固因子の効果は勘案されていないが、Grade 5となった血小板(図7g)はいかなる流れの条件でも接着面から剥離しないと仮定とした。この反応は生体内では血小板が不可逆的な分泌反応を示し、局所にフィブリン形成を伴う強固な止血プロセスを反映したものとして位置づけた。また、本発明のシミュレータにおいては、P−selectin等の他の接着分子の影響については考慮されていないが、そのような他の接着分子の影響を見る目的でP−selectin等を加えることも可能である。
(2)血小板血栓形成過程の数学モデル
上記のとおり、生体内では血小板の凝集反応の際に多段階プロセスを経ている点に鑑み、本発明においては、図1に示される血小板血栓の形成過程について、仮想血小板の活性化状態を図6及び図7のように6段階に定義し、各々の段階における仮想血小板の接着強度を変化させる数学モデルを開発した。そして、この数学モデルによる血小板の接着強度は、血漿のずり速度によっても変化し得るものとした。
図1の各々の段階は、図6及び7と以下のように対応させることができる。
図1(0):図6及び7のGrade 0、1
図1(1):図6及び7のGrade 1、2
図1(2):図6のGrade 3
図1(3):図6及び7のGrade 4
図1(4):図6及び7のGrade 5
ここで、図7において1個の血小板(図7の破線の円で囲った血小板)に注目すると、この血小板は、上記の通り、複数の活性化状態(Grade)を経て血栓の形成に至り、各Gradeによって異なる複数の接着力を有することとなる。そこで本発明においては、接着力を表現するため、仮想単一血小板に異なるバネ定数を有する複数の「ばね」を設定することとした(図8)。このバネは、血小板の接着に関与する接着分子の接着力を表現するものである。図8はレオロジー物体のモデルであり、各Gradeにおけるフォークト部のバネ定数Kn0、Kn1、・・・(垂直方向)及びKt0、Kt1、・・・(水平方向)、並びにダンパー部の粘性係数ηn0、ηn1、・・・(垂直方向)及びηt0、ηt1、・・・(水平方向)を示している。そして、本発明においては、血小板のGradeごとに各々のばね定数を変化させて、実際の血小板接着に合致した接着様式をコンピュータ上に再現する。この際、血管径や血管内に流れる血小板数、あるいは血管流路の形状を変更できるように設計した。また、本発明のシミュレータでは、血漿流動のずり速度と血小板の活性化による血小板の接着強さをGUIにより変更することが可能であり、血小板の接着過程を経時的且つ3次元空間的に表示することができ、これと同時にリアルタイムに血小板血栓周辺の血漿流動のずり速度の変化のアニメーションを表示することも可能である。
血小板の各グレードにおいて、フォークトモデルにおける垂直方向と水平方向の各々のばね定数Kと粘性係数μは、以下の通り定義することができる。
なお、Grade 0の粘性係数をμ0と表示し、Grade 0のバネ定数をK0と表示する。他のGradeも同様である。
Grade 0:
K0=0
μ0=0
Grade 0ではvWF又は他の活性化した血小板と接着していない状態であり、接着力を定義するためのバネ定数は0である。
Grade 1:
Grade 1ではせん断応力によってバネ定数を以下の式で変化させる。
ここで、
ρ:血液の密度
A,B,C,D:それぞれ、血小板単体が血漿流動より受ける流体力とせん断応力による接着力の関係を実験データにフィッテイングするための正の定数である。具体的にはA=2.4×104、B=0.025、C=1.0、D=0.0017程度である。但し、この数値は変動し得るものであり、上記数値に限定されるものではない。
S:血液のずり速度
v:血漿の流速
である。
血漿の流速が増加するとせん断応力は線形に増加する。そのため、流速が低い場合と流速が速い場合で、同じ様相で血小板が凝集するためにはせん断応力の増加に従って血小板接着力が増加する必要がある。さらに、流速が早くなった(せん断応力が高い)場合には、血小板凝集がより促進されるためには、流速が遅い(せん断応力が低い)場合に比較して、流速が増加することによるせん断応力の増加よりも接着力の増加が大きくなければならない。上記の式は血小板1個が受ける流体力を基本に、せん断応力による接着力の増加を付与したものである。
粘性係数μは、血小板が他の血小板に接触した際の撥ね返りを抑止するために、以下の式で与える。
ここで、
m:血小板の質量
K1:ばね定数
である。
ところで、凝集している血小板凝集塊の表面に加わるせん断応力を計算したときに所定の値を超えた場合、すなわち血小板間の距離が設定した値以上になった場合は、血小板の接着力よりも前記せん断応力が強くなるため、血小板凝集塊から、血小板又は凝集塊の一部の塊が剥離する。このGrade 1では血小板の剥離状況の数式は、以下の通り記載することができる。
δ>a
ここで、δ:計算にて得られる血小板間の距離
α:剥離と判断するための値(設定値)(好ましくは0.2μm程度)
Grade 2:
K2=α・K1
αは正の定数であり、好ましくはα=10程度である。
Grade 2はGPIbαにより媒介される複数の分子セットで接着が起こり、細胞内シグナリングが生じる。Grade 2では、Grade 1で計算される接着力に定数を乗じて複数の分子セットによる接着を模擬する。Grade 2では血小板の剥離状況の数式は、以下の通り記載することができる。
δ>a
ここで、δ:計算にて得られる血小板間の距離
α:剥離と判断するための値(設定値)(好ましくは0.2μm程度)
Grade 3:
K3=β+K2
βは正の定数であり、好ましくはβ=500程度である。
GPIIb/IIIaの活性化状態のもっとも接着力の小さい立体構造を模擬するために、Grade 2の接着力に加えて線形のバネを付与する。Grade 3では血小板の剥離状況の数式は、以下の通り記載することができる。
δ>a
ここで、δ:計算にて得られる血小板間の距離
α:剥離と判断するための値(設定値)(好ましくは0.2μm程度)
Grade 4:
K4=γ+K2
γは正の定数であり、好ましくはγ=4000程度である。
GPIIb/IIIaの活性化状態の中程度の接着力の立体構造を模擬するために、Grade 2の接着力に加えて線形のバネを付与する。
ここで、βとγとは、β<γの関係を有する。
Grade 4では血小板の剥離状況の数式は、以下の通り記載することができる。
δ>a
ここで、δ:計算にて得られる血小板間の距離
α:剥離と判断するための値(設定値)(好ましくは0.2μm程度)
Grade 5:
Grade 5ではいかなる流れの条件でも血小板は接着面から剥離しないものと仮定するために、非常に大きな接着力を付与できるようにした。
また、コラーゲンとの接触によるバネ定数(Kc)と粘性係数(μc)を以下のように定義した。
ここで、Dは定数である。
あるGradeからあるGradeへの活性化は不可逆反応のところと可逆反応のところがあることが知られており、それもアルゴリズム内に再現することができる。この場合の処理は、以下の通りである。
1)Grade 1又はGrade 2の血小板とvWFとの距離が所定の値を超えた場合、あるいは、
2)Grade 1又はGrade 2の血小板と活性化した血小板との距離が所定の値を超えた場合
に、Grade 1からGrade 0またはGrade 2からGrade 1へ可逆反応すると判断し、活性化状態とバネ定数を低いGradeの設定に戻す。
また、各Gradeから次のステップに移る時間設定も自由に変更が可能であり、この時間パラメータを生化学的実測実験のデータを参照にしてあらかじめ入力することが可能である。接着力に関するグレード間における変化、すなわち、所定のグレードから他のグレードに変化したときの接着力は、バネ定数をグレードにより変化させることで表現することができる。
具体的には、以下のとおりである。
Grade 0→Grade 1:
vWF又は活性化した血小板との衝突回数(T1)が以下の関係となった場合に変化させる。
T1>T1,crit
ここで、T1,critは入力値であり、例えば0.1−10である。
入力値とは、血小板同士の衝突回数がこの値以上になった場合に次のGradeに活性化させるときの基準となる値である。この値は、実験結果等から得られる知見を基にユーザが計算条件設定手段911(後述)を用いて入力する。
Grade 1→Grade 2:
活性化した血小板との接着時間(T2)が以下の関係となった場合に変化させる。
T2>T2,crit
ここで、T2,critは入力値であり、Grade 1の状態での接着時間がこの値以上になった場合に次のGradeに活性化させる。
この値は、実験結果等から得られる知見を基にユーザが計算条件設定手段911を用いて入力する。T2,critは、例えば、0.1−1秒である。
Grade 2→Grade 3:
活性化した血小板との接着時間(T3)が以下の関係となった場合に変化させる。
T3>T3,crit
ここで、T3,critは入力値であり、Grade 2の状態での接着時間がこの値以上になった場合に次のGradeに活性化させる。
この値は、実験結果等から得られる知見を基にユーザが計算条件設定手段911を用いて入力する。T3,critは、例えば0.1−10秒である。
Grade 3→Grade 4:
活性化した血小板との接着時間(T4)が以下の関係となった場合に変化させる。
T4>T4,crit
ここで、T4,critは入力値であり、Grade 3の状態での接着時間がこの値以上になった場合に次のGradeに活性化させる。
この値は、実験結果等から得られる知見を基にユーザが計算条件設定手段911を用いて入力する。T4,critは、例えば0.1−10秒である。
Grade 4→Grade 5:
活性化した血小板との接着時間(T5)が以下の関係となった場合に変化させる。
T5>T5,crit
ここで、T5,critは入力値であり、Grade 4の状態での接着時間がこの値以上になった場合に次のGradeに活性化させる。
この値は、実験結果等から得られる知見を基にユーザが計算条件設定手段911を用いて入力する。T5,critは、例えば0.1−10秒である。
上記の通り、本発明のシミュレータにおいては、所定のグレードから他のグレードに変化したときの血小板の接着力を計算することができ、種々の条件下における実物の血小板を模擬的に表すことができる。したがって、本発明のシミュレータを用いると、特定の動物(ヒトを含む)の血小板の性能を反映させた、血栓シミュレーションをオーダーメイドすることが可能になる。
(3)上記数学モデルを用いた血小板血栓シミュレータ
本発明のシミュレータは、以下の手段:
(a)予め記憶された計算式から、血小板の活性化グレードに対応した接着力を計算する計算式を選択する手段、
(b)それぞれの活性化グレードの血小板に対応する前記計算式に基づいて、前記血小板の接着力を計算する手段、及び
(c)計算された前記各血小板の接着力に基づいて血小板の凝集状況を出力する手段、
を備える。
図9は、本発明のシミュレータの構成図である。図9において、本発明のシミュレータは計算手段910とデータベース920から構成され、計算手段910は、(i)計算条件設定手段911、(ii)血小板凝集/融解計算手段912、(iii)血漿流動計算手段913、及び(iv)計算結果表示手段914を備える。
(i)計算条件設定手段911
計算条件設定手段911は、GUI(Graphical User Interface)により、計算に必要な条件を、マウスやキーボードから入力するための手段であり、入力された情報は、グラフにより確認することができる。
計算条件設定手段により、本発明のシミュレータに、血小板のグレードに対応させた前記計算式を予め記憶させておくことができる。計算式は、血栓形成に関するパラメータを利用するものであり、パラメータとして、例えば、血小板の密度、血小板の血中濃度、血小板の直径、血小板の濃度、血小板の血管内分布比率、バネ定数、血管の直径、血管の長さ、動脈と静脈の種別、血流の速度、損傷部位の大きさ又は形状、及び損傷部位に表出する接着分子(例えば接着力の異なる複数の接着分子)の種類と割合などがある。但し、パラメータはこれらに限定されるものではなく、シミュレーションの目的に応じて適宜設定することができる。ここで、血管内分布比率とは、血管壁周辺を流れる血小板密度と血管長軸中心を流れる血小板密度の割合を意味する。また、動脈と静脈の種別は、血流脈波の有無により区別することができる。
また、本発明においては血栓剥離に関するパラメータも利用することができる。血栓剥離に関するパラメータとしては、例えば血小板の密度、血小板の直径、血小板の濃度、血小板の分布比率、バネ定数、血管の直径、血管の長さ、動脈と静脈の種別、血流の速度、損傷部位の大きさ又は形状、及び損傷部位に存在する接着分子の種類と密度などが挙げられる。血栓剥離に関するパラメータも、上記のものに限定されるものではない。
入力画面の一例を図10に示す。また、入力された条件(パラメータ、計算式など)はデータベース920に保存され、再参照、再利用することができる。
(ii)血小板凝集/融解計算部912
血小板凝集/融解計算部912は、計算条件設定手段911又はデータベース920から血小板の活性化グレードに対応した接着力を計算する計算式を選択するとともに、それぞれのグレードの血小板に対応する計算式に基づいて、血小板の接着力を計算する手段である。この手段では、血小板の移動や接着、剥離、飛散を計算することができる。接着力を表すバネとして、例えばGPIbα用バネ、GPIIb/IIIa用バネ、GPVI用バネ、vWF用バネなどを設定することができる。
前記の通り、血漿の流速が増加するとせん断応力は線形に増加する。本計算部においては、せん断応力の計算は、血小板1個が受ける流体力を基本として、以下のパラメータを用いて次のように行うことができる。
パラメータ:血小板の密度、血小板の直径、血小板の濃度、血小板の分布比率、バネ定数、血管の直径、血管の長さ、動脈と静脈の種別、血流の速度、損傷部位の大きさ又は形状、及び損傷部位に存在する接着分子の種類と密度
これらのパラメータは、せん断応力を計算するために次のように数値化される。但し、これらの数値に限定されるものではない。
血小板の密度:1000kg/m3程度
血小板の直径:1〜2μm程度
血小板の濃度:0〜200万個/μL
血小板の分布比率:血管内に一様に分布/血管壁に集中から選択
バネ定数:前述のばね定数算出式より求められる値であり、血液のずり速度が1000/s程度の場合には約200N/mm程度である。
血管の直径:40μm〜数mm程度
血管の長さ:直径の10倍程度
動脈と静脈の種別:動脈の場合には血管壁近傍に血小板を集中して配置し、静脈の場合には血管内に一様に血小板を配置
血流の速度:1mm/s〜数百mm/s程度
損傷部位の大きさ又は形状:一辺が血管径程度の矩形形状
損傷部位に存在する接着分子の種類と密度:vWFとコラーゲンを1μm間隔で配置
上記数値化されたパラメータを計算式に当てはめることによりせん断応力が計算される。例えば、計算は次のように行われる。
せん断応力は血液のずり速度に血漿の粘性係数を乗ずることによって得られるが、血液のずり速度は血管内の血小板凝集によって変化する。上記パラメータを入力して血小板の凝集状況を計算し、血小板1個が血漿流動より受ける流体力を血漿流動に作用する反力として流動分布を再計算することで、血小板凝集による流れの変化を求め、血液のずり速度を逐次計算する。
個々の血小板の運動は次の通り現すことができる。
ここで、
u,v,w:それぞれ、血小板の3次元空間における座標値
M:血小板の質量
C:減衰係数(ばねのダンパー部における粘性係数)(図8のη)
K:接着力を現すバネ定数
fx,fy,fz:それぞれ、Euler座標系でのx軸方向、y軸方向、z軸方向の血漿流動から受ける力である。
血小板の質量Mは、血小板を球形と仮定して以下の式より設定する。
ここで、
ρ:血小板の密度、
D:血小板の直径
である。
ここで、各パラメータは、具体的には次のように計算に用いる。
血小板の密度及び血小板の直径は、血小板の質量Mを求める式に当てはめられ、バネ定数は上記血漿流動から受ける力を求める式に当てはめられる。
動脈と静脈の種別は、血小板の3次元空間における座標値u,v,wを用いて表すことができる。動脈の場合は、血管壁近傍に血小板を集中して配置するように座標値を割り当てる。静脈の場合は、血管内に一様に(均一に)血小板が分布するように座標値を割り当てる。
血小板の濃度は、血管内に発生させる血小板の数を求めるために用いられる。すなわち、血小板の濃度に対象とする血管の体積を乗ずることで、血管内に存在する血小板の数が決定される。
血小板の分布比率は、静脈と動脈の種別を設定するために用いられる。
バネ定数は、血小板の運動を求める式(1)〜(3)のKに当てはめる。
血管の直径及び血管の長さは、個々の血小板の存在位置を示す座標を定める際の空間として反映される。
血流の速度はNavier−Stokes方程式を解く際の境界条件として用いられ、損傷部位の大きさ又は形状、及び損傷部位に存在する接着分子の種類と密度は、血小板接着を計算するために式(1)〜(3)の境界条件として用いられる。
また本発明において、血小板の接着力は、パラメータを数値化し、数値化されたパラメータを計算式に当てはめることにより計算することができる。
パラメータの数値化は、例えば次の通り行うことができる。但し、これらの数値に限定されるものではない。
血小板の密度:1000kg/m3程度
血小板の直径:1〜2μm程度
血小板の濃度:0〜200万個/μL
血小板の分布比率:血管内に一様に分布/血管壁に集中から選択
バネ定数:前述のばね定数算出式より求められる値であり、血液のずり速度が1000/s程度の場合には約200N/mm程度である。
血管の直径:40μm〜数mm程度
血管の長さ:直径の10倍程度
動脈と静脈の種別:動脈の場合には血管壁近傍に血小板を集中して配置し、静脈の場合には血管内に一様に血小板を配置
血流の速度:1mm/s〜数百mm/s程度
損傷部位の大きさ又は形状:一辺が血管径程度の矩形形状
損傷部位に存在する接着分子の種類と密度:vWFとコラーゲンを1μm間隔で配置
例えば、接着力の計算は次のように行われる。
血小板の接着力はばね定数により決定されるが、ばね定数は血液のずり速度により変化する。上記パラメータによる血小板の凝集状況の計算結果をもとに血漿流動状況の変化を逐次計算し、血小板凝集の変化に伴うずり速度の変化を算出して接着強度の変化が算出される。また、接着力は血小板と複数の接着分子間にバネが設定されることによっても変化する。損傷部位に存在する接着分子の密度が高い場合には、血小板は複数の接着分子とバネによって結合されるために、設定されたバネの数分接着強度が増加する。
ここで、各パラメータは、前記と同様にして所定の計算式にあてはめて計算に用いる。
血小板の密度および血小板の直径は、血小板の質量Mを求める計算式のρとDにそれぞれ当てはめる。
血小板の濃度は、血管内に発生させる血小板の数を求めるために用いられる。すなわち、血小板の濃度に対象とする血管の体積を乗ずることで、血管内に存在する血小板の数が決定される。
血小板の分布比率は、静脈と動脈の種別を設定するために用いられる。
バネ定数は、血小板の運動を求める式(1)〜(3)のKに当てはめる。
動脈と静脈の種別は、血小板の3次元空間における座標値u,v,wを用いて表すことができる。動脈の場合は、血管壁近傍に血小板を集中して配置するように座標値を割り当てる。静脈の場合は、血管内に一様に(均一に)血小板が分布するように座標値を割り当てる。
血管の直径及び血管の長さは、個々の血小板の存在位置を示す座標を定める際の空間として反映される。
血流の速度はNavier−Stokes方程式を解く際の境界条件として用いられ、損傷部位の大きさ又は形状、及び損傷部位に存在する接着分子の種類と密度は、血小板接着を計算するために式(1)〜(3)の境界条件として用いられる。
(iii)血漿流動計算部913
血漿流動計算部913は、血小板分布をもとに血漿の流動を計算する手段である。
血漿流のシミュレーション対象となる空間をモデル化するために、血管内の空間において、凝集した血小板と接する一部をブロック状に区切って空間部を形成する。このように形成した空間部を格子状に分割し、多数の格子区画を形成する。分割する格子区画の大きさは任意に設定することが可能であり、部分的に各区画の寸法を変化させることも可能である。格子区画の形状は、立方体、直方体、六面体、三角錐、四角錐、三角柱等の形状に形成することが可能であり、さらに、これら種々の形状を組み合わせて空間部を区画分割することもできる。このような多種類におよぶ空間部の格子状の区画はシミュレーションにかかる血小板の凝集状態や血漿流の状態等を考慮して適宜決定される。
上記のように空間部および格子区画をモデル化した後、シミュレーション用プログラムは、血漿を血管の一端から流入させ、血管内部を通過させて血管の他端より流出させる。このような血漿流れに関する運動は、下記に示す一般的な物体の運動における質量保存則に相当する連続の式および一般的な物体の運動量保存則に相当するナビエストークスの方程式を用いて表すことができる。
したがって、本発明において血栓形成をシミュレートするには、上記血漿の流動は、血漿流動計算部において以下のように求めることができる。
計算式は、以下の通りである。
ここで、上記式(4)及び(5)はテンソル形式で表記されており、
u:血漿の流速
ρ:血漿の密度
μ:血漿の粘性係数
δij:クロネッカーのδ記号
p:血漿の圧力
F:血小板から受ける力
t:時間
である。
また、σij(i,j=1,2,3)は、三次元空間座標系における9個の数により下記の3行3列の行列である数式で表記できる。
σ11 σ11 σ13
σ21 σ22 σ23
σ31 σ32 σ33
本発明におけるシミュレーションでは、血管内部に設けられた各格子区画毎に血漿の流れを演算により解析している。この演算には上記式(4)及び(5)が用いられ、血管内部を格子区画で区切ったことに対応して上記式(4)及び(5)を離散化して演算を行っている。
すなわち、計算式は、血漿の流速を未知数として(i)計算条件設定により設定される血管径と血管長さで定義される3次元空間(x1,x2,x3)で、例えば有限体積法を用いて離散化して解かれる。
但し、演算は有限体積法に限定されるものではなく、シミュレーションの条件等を考慮して有限差分法、境界要素法、有限要素法等を適宜選択して行うことができる。
血漿の密度と粘性係数は(i)計算条件設定により設定され、血小板から受ける力Fは血小板が受ける流体力の反力に相当し(ii)血小板凝集/融解計算部による計算から求められる。
本発明におけるシミュレーションは、血小板の接着力と血漿流との関係を表すものであるから、血漿流と血小板の血栓形成とは、式(1)〜(3)並びに式(4)及び(5)を同時に解くことでのシミュレートすることができる。例えば、各格子区画の各交点で微小時間dt毎に逐次演算を行い、特定時間における血漿流に関する運動要素である血漿流速度、流れ方向、血漿流動から受ける力をそれぞれ求め、これら各交点の演算結果を組み合わせることで空間部全体の気体の流れにかかる運動を数値化できる。
なお、有限体積法は、例えば、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社製FINAS/CFD等を改良することによって計算することができる。
計算された血漿流動からずり速度が算出され、算出されたずり速度は、(ii)血小板凝集/融解計算のための血小板接着強度に反映される。
(iv)計算結果出力手段914
計算結果出力手段914は、計算された前記各血小板の接着力に基づいて血小板の凝集状況を出力する手段であり、上記(ii)により計算された血小板の移動、凝集、剥離、飛散状況のアニメーションを表示する。また、これと同時に(iii)により計算された血漿流のずり速度を表示することができる。
上記のようにして求められた血漿流の運動又は血栓形成に関する各数値は、専用又は汎用の可視化ソフトを用いて、シミュレーションの結果として視覚的に表示される。例えば、血漿流の同じ圧力値を結んだ等圧線や等圧面で圧力分布を表示して、血栓形成に関する種々の要素を視覚的に示している。
さらに、活性化レベルに応じた飛散頻度の時系列グラフを出力することができる。
(v)データ蓄積手段
入力された計算条件と計算結果は関連付けられてデータ蓄積手段としてデータベース920に保存される。
保存された計算条件と計算結果は再度データベース920から、あるいは計算条件設定手段911と計算結果表示手段914から読み込むことができる。
3.血小板の血栓形成をシミュレートするためのプログラム
本発明のプログラムは、血小板の血栓形成をシミュレーションするためのプログラムであって、コンピュータに、以下の手順:
(a)予め記憶された計算式から、血小板の活性化グレードに対応した接着力を計算する計算式を選択し、
(b)それぞれの活性化グレードの血小板に対応する前記計算式に基づいて、前記血小板の接着力を計算し、
(c)計算された前記各血小板の接着力に基づいて血小板の凝集状況を出力する手順、
を実行させるための前記プログラムを提供する。
(1)構成例
本発明のプログラムにおいて、コンピュータを実行させるための手段を示す構成例を図11に示す。
図11は、本発明のプログラムを実行させるためのシステム100の詳細構成図である。図11において、システム100は、図9に示す計算部910及びデータベース(以下「DB」という)920を備え、さらに、制御部101、送信/受信部102、入力部103、出力部104、ROM105、RAM106、ハードディスクドライブ(HDD)107、CD−ROMドライブ108により構成される。
制御部101はCPUやMPU等の中央演算処理部であり、システム100全体の動作を制御する。特に、送信/受信部102の通信制御を行い、あるいはDB920に記憶されているデータを利用して、血小板血栓形成過程及びその結果表示等の表示データ読出し処理等を行う。
送信/受信部102は、制御部101の指示に基づいて、ユーザ端末との間でデータの送信及び受信処理を行う。なお、ユーザ端末は、インターネット回線111を介して接続されていてもよい。送信/受信部102は、血小板血栓形成処理等に必要とするパラメータや計算式を計算部910に対して送信する。
入力部103は、キーボード、マウス、タッチパネル等であり、パラメータの入力やDB920の内容更新時等に操作される。出力部104はLCD(液晶ディスプレイ)等であり、DB920の更新時等に制御部101からのコードデータをその都度表示用データに変換して表示処理を行う。ROM105は、システム100の処理プログラムを格納する。RAM106は、システム100の処理に必要なデータを一時的に格納する。HDD107は、プログラム等を格納し、制御部101の指示に基づいて、格納しているプログラム又はデータ等を読み出し、例えばRAM106に格納する。CD−ROMドライブ108は、制御部101からの指示に基づいて、CD−ROM120に格納されているプログラム等を読み出してRAM106等に書き込む。CD−ROM120の代わりに記録媒体として書き換え可能なCD−R、CD−RW等を用いることもできる。その場合には、CD−ROMドライブ108の代わりにCD−R又はCD−RW用ドライブを設ける。また、上記媒体の他に、DVD、MO、フラッシュメモリースティック等の媒体を用い、それに対応するドライブを備える構成としても良い。
(2)実行手順
図12は、本発明のプログラムの動作を説明するフローチャートである。
ユーザは、計算条件設定手段911を用いて計算条件を入力する。入力に際しては、DB920から、過去に登録して記憶させた条件を参照・変更して利用することができる。
本発明のプログラムは、入力された条件をもとに、
(i)血小板凝集/融解計算手段による計算、及び
(ii)血漿流動計算手段による計算を行う。
計算の起動は制御部101からの指令に基づいて行うことができる。
計算は以下の順に実施される。
(a)最初に血管中の血漿流動状況を計算し(S201)、血漿流動状況を血小板凝集/融解計算手段に3次元の流速分布を引き渡す(S202)。
(b)血小板凝集/融解計算手段では、3次元の流速分布から血小板の移動を計算する(S203)。その際、血小板と血小板との間の距離、あるいは血小板と血管との距離を測定し(S204)、血小板が他の血小板や血管の傷部に対し、所定の距離以下となった場合には(S204,Yes)、血小板の活性化状態と血小板が位置する箇所でのずり速度に応じたバネを新規に設定する(S205)。この新規に設定されたバネは、血小板のグレードに対応した接着力を計算するための計算式に組み込まれる所定の値である。設定されたバネはずり速度が大きくなれば強くなり、ずり速度が小さくなれば弱くなる。さらに、バネは血小板の接着時間(活性化)によって逐次追加される(S206)。
また、血小板間に設定されたバネは、血小板間の距離が所定の距離よりも離れた場合(S204,No)には、切断される(S207)。
ここで、図12のフローチャートは、特定の血小板を基準としたときの、その血小板に関する接着力や凝集等の計算手段を示したものである。この血小板(血小板1とする)に他の血小板(血小板2とする)が接着した場合における、血小板2に関する接着力や凝集等の計算は、図12のフローチャートを用いて血小板1のときと同様に行うことができる。従って、本発明においては、シミュレーションに登場する血小板の数だけ図12のフローチャートにより処理されることとなる。従って、血小板1及び2の両者又は一方に、さらに別の血小板(血小板3、血小板4、・・・)が接着した場合も、血小板1及び2のときと同様に接着力や凝集等の計算を行うことになる。追加されたバネについても、血小板間の距離の測定が行なわれる(S204)。
(c)血小板凝集/血栓崩壊計算手段で計算された血小板の位置と速度は、血漿流動計算手段に引き渡される(S208)。血漿流動計算手段では、血小板の位置と速度をもとに血漿の流動状況を計算する(S209)。血小板が凝集/停止している場合には血漿は凝集塊を迂回する流動状況を計算する。
(d)上記(a)〜(c)の計算を交互に所定の時間となるまで繰り返す。これにより、制御部101は血小板の凝集状況を出力する。「凝集状況」とは、一定範囲の時間内において血小板が凝集する様子、及び特定時刻における凝集状態のいずれをも意味するものである。
(e)上記(d)によって計算が繰り返されて血小板が凝集すると、凝集塊は血漿の流動によってせん断応力を受ける。このせん断応力に基づいて、本発明のプログラムは血小板の剥離状況を出力する。血小板が凝集するということは、時間の経過とともに個々の血小板について図12に示す計算がそれぞれなされている。従って、制御部101は、図12に示すフローチャート全体又はその一部と、血漿の流動とを対比させて、所定のせん断応力が生じたときに、凝集した血小板のどの部分のバネを切り離すのか、すなわちどの程度の大きさの塊を剥離、飛翔させればよいのかを計算して、血小板の剥離状況を出力する。「剥離状況」とは、一定範囲の時間内において血小板が剥離する様子、及び特定時刻における剥離状態のいずれをも意味するものである。したがって、上記バネを切り離す態様、すなわち血小板の剥離態様(塊の大きさ)は、血小板凝集塊の全部又は一部となり得るものであり、凝集塊の表層部に存在する血小板のみが剥離する場合もあれば、凝集塊の一部のまとまりが剥がれる態様もある。
そして、計算された結果を計算結果表示手段914を用いて表示させる。表示結果の一例を図3、図4、図13及び図14に示す。図13は、血管の斜見図(鳥瞰図、パネルA)、せん断応力分布図(パネルB)、及び血管の長手方向の断面図(パネルC)を1画面に表示した態様であり、図14は、血小板の飛散頻度をグラフ化して表示した態様である。
計算結果は、(v)データ蓄積手段のデータベースに逐次保存される。
4.コンピュータ読み取り可能な記録媒体
本発明のプログラムは、例えばC言語、Java、Perl、Fortran、Pascal等で書くことができ、そしてクロスプラットフォームに対応できるように設計されている。従って、このソフトウエアはWindows(登録商標)95/98/2000/XP、Linux、UNIX(登録商標)、Macintoshで作動させることが可能である。
本発明のプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体又はコンピュータに接続しうる記憶手段に保存することができる。本発明のプログラムを含有するコンピュータ用記録媒体又は記憶手段も本発明に含まれる。記録媒体又は記憶手段としては、磁気的媒体(フレキシブルディスク、ハードディスクなど)、光学的媒体(CD、DVDなど)、磁気光学的媒体(MO、MD)、フラッシュメモリーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本実施例では、以下の条件設定により、血小板血栓形成をシミュレートした。
血小板径 1(μm)
せん断応力 100〜3,000(1/s)
血管径 40(μm)
血管長さ 400(μm)
現象時間 3(分)
結果を図15に示す。
図15より、本発明のシミュレータを用いてシミュレートすると、実測値とよく相関していることがわかり、実際の血小板血栓形成を模擬できることが示された。
Claims (17)
- 血小板の血栓形成シミュレータであって、以下の手段:
(a) 予め記憶された下記血小板の活性化のグレード毎の計算式から、血小板の活性化グレードに対応した接着力を計算する計算式を選択する手段、
グレード0:血小板が活性化を受けていない段階
グレード1:血小板のGPIbαとvWFとの接着が開始する段階
グレード2:グレード1の血小板が他の血小板を介して複数のGPIbαと結合する段階
グレード3:血小板のGPIIb/IIIaの活性化状態のうち、最も接着力の小さい構造に対応した活性化状態
グレード4:血小板のGPIIb/IIIaの活性化状態のうち、中程度の接着力を保持した状態
グレード5:血小板のGPIIb/IIIaの活性化状態のうち、高度の接着力を保持した状態
(ここで、
グレード0の血小板のグレードは、vWF又は活性化した血小板との衝突回数(Τ 1 )が計算条件設定手段に入力された入力値(Τ 1 ,crit)に対して以下の関係:
Τ 1 >Τ 1 ,crit
となった場合にグレード0からグレード1に変化し、
グレード1の血小板のグレードは、活性化した血小板との接着時間(Τ 2 )が計算条件設定手段に入力された入力値(Τ 2 ,crit)に対して以下の関係:
Τ 2 >Τ 2 ,crit
となった場合にグレード1からグレード2に変化し、
グレード2の血小板のグレードは、グレード2の血小板と活性化した血小板との接着時間(Τ 3 )が計算条件設定手段に入力された入力値(Τ 3 ,crit)に対して以下の関係:
Τ 3 >Τ 3 ,crit
となった場合にグレード2からグレード3に変化し、
グレード3の血小板のグレードは、活性化した血小板との接着時間(Τ 4 )が計算条件設定手段に入力された入力値(Τ 4 ,crit)に対して以下の関係:
Τ 4 >Τ 4 ,crit
となった場合にグレード3からグレード4に変化し、
グレード4の血小板のグレードは、活性化した血小板との接着時間(Τ 5 )が計算条件設定手段に入力された入力値(Τ 5 ,crit)に対して以下の関係:
Τ 5 >Τ 5 ,crit
となった場合にグレード4からグレード5に変化する)
(b) それぞれの活性化グレードの血小板に対応する前記計算式に基づいて、前記血小板の接着力を計算する手段、及び
(c) 計算された前記各血小板の接着力に基づいて血小板の凝集状況を出力する手段、
を備えた前記シミュレータ。 - 入力された血小板の血栓剥離に関するパラメータを用いて凝集している血小板凝集塊の表面に加わるせん断応力を計算し、前記せん断応力に基づいて前記血小板凝集塊からの血小板の剥離状況を出力する手順をさらに含む、請求項1に記載のシミュレータ。
- 前記計算式は、血栓形成に関するパラメータを利用するものである請求項1に記載のシミュレータ。
- 前記パラメータは、血小板の血中濃度、血小板の直径、血小板の濃度、血小板の血管内分布比率、バネ定数、血管の直径、血管の長さ、動脈と静脈の種別、血流の速度、損傷部位の大きさ又は形状、及び損傷部位に表出する複数の接着分子の種類と割合からなる群から選択される少なくとも1つである請求項3に記載のシミュレータ。
- 前記血小板の凝集状況及び/又は剥離状況の出力は、所定の表示手段への出力である請求項1又は2に記載のシミュレータ。
- 前記表示手段は、前記血小板の凝集状況及び/又は剥離状況の画像のアニメーション表示、前記血小板凝集塊を構成する個々の血小板の活性化レベルの表示、血漿ずり速度分布のアニメーション表示、前記血小板凝集塊の飛散頻度と個々の塊の大きさの表示、並びに飛散凝集塊に含まれる個々の血小板の活性化レベルのグラフ表示からなる群から選択される少なくとも1つを表示する、請求項5に記載のシミュレータ。
- 前記出力手段による出力は、血管の斜視図における凝集状況及び/又は剥離状況、血管の長手方向断面図における凝集状況及び/又は剥離状況、並びに血管の長手方向のせん断応力分布図からなる群から選ばれる少なくとも1つの表示出力である請求項1又は2に記載のシミュレータ。
- 前記血小板の血栓剥離に関するパラメータは、血小板の密度、血小板の直径、血小板の濃度、血小板の分布比率、バネ定数、血管の直径、血管の長さ、動脈と静脈の種別、血流の速度、損傷部位の大きさ又は形状、及び損傷部位に存在する接着分子の種類と密度からなる群から選択される少なくとも1つである請求項2に記載のシミュレータ。
- 血小板の血栓形成をシミュレーションするためのプログラムであって、コンピュータに、以下の手順:
(a) 予め記憶された下記血小板の活性化のグレード毎の計算式から、血小板の活性化グレードに対応した接着力を計算する計算式を選択し、
グレード0:血小板が活性化を受けていない段階
グレード1:血小板のGPIbαとvWFとの接着が開始する段階
グレード2:グレード1の血小板が他の血小板を介して複数のGPIbαと結合する段階
グレード3:血小板のGPIIb/IIIaの活性化状態のうち、最も接着力の小さい構造に対応した活性化状態
グレード4:血小板のGPIIb/IIIaの活性化状態のうち、中程度の接着力を保持した状態
グレード5:血小板のGPIIb/IIIaの活性化状態のうち、高度の接着力を保持した状態
(ここで、
グレード0の血小板のグレードは、vWF又は活性化した血小板との衝突回数(Τ 1 )が計算条件設定手段に入力された入力値(Τ 1 ,crit)に対して以下の関係:
Τ 1 >Τ 1 ,crit
となった場合にグレード0からグレード1に変化し、
グレード1の血小板のグレードは、活性化した血小板との接着時間(Τ 2 )が計算条件設定手段に入力された入力値(Τ 2 ,crit)に対して以下の関係:
Τ 2 >Τ 2 ,crit
となった場合にグレード1からグレード2に変化し、
グレード2の血小板のグレードは、グレード2の血小板と活性化した血小板との接着時間(Τ 3 )が計算条件設定手段に入力された入力値(Τ 3 ,crit)に対して以下の関係:
Τ 3 >Τ 3 ,crit
となった場合にグレード2からグレード3に変化し、
グレード3の血小板のグレードは、活性化した血小板との接着時間(Τ 4 )が計算条件設定手段に入力された入力値(Τ 4 ,crit)に対して以下の関係:
Τ 4 >Τ 4 ,crit
となった場合にグレード3からグレード4に変化し、
グレード4の血小板のグレードは、活性化した血小板との接着時間(Τ 5 )が計算条件設定手段に入力された入力値(Τ 5 ,crit)に対して以下の関係:
Τ 5 >Τ 5 ,crit
となった場合にグレード4からグレード5に変化する)
(b) それぞれの活性化グレードの血小板に対応する前記計算式に基づいて、前記血小板の接着力を計算し、
(c) 計算された前記各血小板の接着力に基づいて血小板の凝集状況を出力する手順、
を実行させるための前記プログラム。 - 入力された血小板の血栓剥離に関するパラメータを用いて、凝集している血小板に加わるせん断応力を計算し、前記せん断応力に基づいて、前記血小板の凝集塊からの剥離状況を出力する手順をさらに含む、請求項9に記載のプログラム。
- 前記計算式は、血栓形成に関するパラメータを利用するものである請求項9に記載のプログラム。
- 前記パラメータは、血小板の血中濃度、血小板の直径、血小板の濃度、血小板の血管内分布比率、バネ定数、血管の直径、血管の長さ、動脈と静脈の種別、血流の速度、損傷部位の大きさ又は形状、及び損傷部位に表出する複数の接着分子の種類と割合からなる群から選択される少なくとも1つである請求項11に記載のプログラム。
- 前記血小板の凝集状況及び/又は剥離状況の出力は、所定の表示手段への出力である請求項9又は10に記載のプログラム。
- 前記表示手段は、前記血小板の凝集状況及び/又は剥離状況の画像のアニメーション表示、前記血小板凝集塊を構成する個々の血小板の活性化レベルの表示、血漿ずり速度分布のアニメーション表示、前記血小板凝集塊の飛散頻度と個々の塊の大きさの表示、並びに飛散凝集塊に含まれる個々の血小板の活性化レベルのグラフ表示からなる群から選択される少なくとも1つを表示する、請求項13に記載のプログラム。
- 前記出力手段による出力は、血管の斜視図における凝集状況及び/又は剥離状況、血管の長手方向断面図における凝集状況及び/又は剥離状況、並びに血管の長手方向のせん断応力分布図からなる群から選ばれる少なくとも1つの表示出力である請求項9又は10に記載のプログラム。
- 前記血小板の血栓剥離に関するパラメータは、血小板の密度、血小板の直径、血小板の濃度、血小板の分布比率、バネ定数、血管の直径、血管の長さ、動脈と静脈の種別、血流の速度、損傷部位の大きさ又は形状、及び損傷部位に存在する接着分子の種類と密度からなる群から選択される少なくとも1つである請求項10に記載のプログラム。
- 請求項9〜16のいずれか1項に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
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