JP5181195B2 - 遠心鋳造方法 - Google Patents

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本発明は、鋳型の回転軸が水平、又は水平に対して45°以下の傾斜角を有する、いわゆる横型遠心鋳造における鋳造方法に関する。
一般に、鉄鋼の熱間圧延用ロールなどは、硬くて強い外層と、比較的軟らかく、靱性に優れた内層とから構成されている。外層には、例えば下記特許文献1に記載されるように、C:1.5〜4%、Cr:1〜30%、Mo:0.5〜10%を含み、残部をFeとした合金のような複雑な合金系が用いられている。この外層は遠心鋳造(具体的には鋳型の回転軸が水平、又は水平に対して45°以下の傾斜角を有するいわゆる横型遠心鋳造)によって製造され、その鋳造方法はだいたい以下の通りである。なお、鋳型は直径1000mm程度の円筒形状とする。
まず、回転軸の周りを高速回転する鋳型に溶湯(溶融金属)を注入して鋳型内の溶湯が厚さ100mm程度になるように遠心鋳造し、鋳型内にて溶湯が完全に凝固するまで重力倍数が160〜200G程度の高速回転を続ける。鋳型内にて溶湯が凝固したら、次に、鋳型の型ばらしを行う。次に、パイプ状に鋳造されたこの外層を立てて、静置した外層に内層用の溶湯を注入する。これにより、複合ロール(外層と内層とからなる熱間圧延用ロールのこと)が完成する。
遠心鋳造は、遠心力によって溶融金属が鋳型の壁面に押し付けられるため、鋳型−凝固シェルの密着性が良くなり、緻密で均一な組織を得やすく、さらに、遠心力によって溶融金属の厚さが一定になるため、鋳塊(外層など)の寸法精度が高いなどの特長がある。
外層に用いられる合金(溶融金属)は多元系であるが、これが凝固するときに出現する相としては、オーステナイトの初晶と複雑な組成の共晶炭化物である。オーステナイトの初晶は比較的軟らかく、靱性に富むのに対し、共晶炭化物は硬く、比較的脆い性質を持つ。その凝固組織としては、オーステナイトの初晶がデンドライト状に晶出し、デンドライトの樹間に共晶炭化物が微細に分散する態様となる。これは複合ロール全体として硬さと粘りを両立させた外層を得ようとする設計思想に基づいている。当該合金は、凝固が始まってから終了するとみなせる共晶温度までの温度範囲が比較的広く、凝固組織としては等軸晶凝固しやすいものであり、したがって、オーステナイトの等軸デンドライト(等軸晶)とその間を埋める共晶炭化物の相からなる。
特開2002−331344号公報
完成した複合ロールはその表面を研削して使用する。このとき、ロール表面には、オーステナイトの等軸晶が集積している部分と共晶炭化物が集積している部分とがしばしば見られる。等軸晶が集積している部分は比較的軟らかいのに対し、共晶炭化物が集積している部分は比較的硬い。このような硬さむらに応じて複合ロールにパターンが生じることがある。パターンが生じた複合ロールを用いて圧延して製造する熱延板にも特有のパターンが現れることがあり、これが問題となることがある。そのパターンの形状からこれは猫足偏析とも呼ばれる。
また、複合ロールには、同心円に沿って共晶炭化物が帯状に集積していることがある。これはラミネーション偏析と呼ばれ、ひどい場合は共晶炭化物の層から剥がれ落ちることがある。これは熱延板に甚大な被害をもたらす故障であり、以前から解決が望まれていたことである。猫足偏析とラミネーション偏析はいずれもマクロ偏析であり、柱状晶や等軸晶の樹間に見られるミクロ偏析よりもサイズも程度もかなり大きく、鋳塊の性質を著しく低下させるものである。
本発明は上述したマクロ偏析の生成メカニズムを究明し、これに鑑みて、横型遠心鋳造におけるマクロ偏析を抜本的に低減させる遠心鋳造方法を提供することを目的としている。
次に、上記の課題を解決するための手段を説明する。
請求項1に記載された遠心鋳造方法は、横型遠心鋳造における鋳型の回転中は該鋳型内に溶融金属を略充満させる。
前記鋳型内には、等軸晶を生成させないように該鋳型の内容積の90%以上を占めるように前記溶融金属を注入することを特徴としている。
前記鋳型内にて前記溶融金属の所定の厚さが凝固して、凝固組織が外周側から成長した柱状晶により形成された後に該金属の軸心周りに残存する未凝固部分を前記鋳型内から排出することを特徴としている。
この遠心鋳造方法は、横型遠心鋳造における鋳型の回転中は該鋳型内に溶融金属を鋳型の内容積の90%以上を占めるように注入して略充満させ、前記鋳型内にて前記溶融金属の所定の厚さが凝固した後に該金属の軸心周りに残存する未凝固部分を前記鋳型内から排出することを特徴としている。
請求項に記載された遠心鋳造方法は、前記鋳型はその回転軸が水平に対して0°以上45°以下の傾斜角を有することを特徴としている。
本発明の遠心鋳造方法によれば、鋳型の回転中、この鋳型内に溶融金属を略充満させることによって、特に横型遠心鋳造においては自由表面が凝固組織に与える影響がほとんどなくなるため、等軸晶の原因となる柱状晶の二次枝を分断する力が作用しなくなる。また、鋳型内の充填率が上がることで溶融金属の持つ熱量が増加して凝固前面の温度勾配が大きくなり、熱的な過冷による等軸晶の生成及び成長が起こり難くなる。これらのことから、鋳塊に生じるマクロ偏析が大幅に低減される。これにより、マクロ偏析のほとんどない、健全な鋳塊(複合ロール)を製造することができる。
また、鋳型内に注入された溶融金属が鋳型の内容積の90%以上を占めることによって、鋳型内の溶融金属が90%以下のときに比べて等軸晶が大幅に減少するようになる。
さらに、鋳型内にて金属の軸心周りに残存する未凝固部分を排出する工程を備えたことによって、熱間圧延用ロールのような複合ロールの外層のようにパイプ状の鋳塊の製造に適した鋳造方法となる。
(a)本発明による遠心鋳造方法の実験に使用した装置を示す断面図である。 (b)A−A断面図である。 (c)B部拡大図である。 等軸晶の移動軌跡の一例を示す説明図である。 実施例1,2における充填率と等軸晶率の関係を示すグラフである。
本発明の実施の形態を図面などを参照して説明する。
1.マクロ偏析の生成メカニズムの検討
本発明の発明者等は凝固態様が金属に近い透明有機物を用いて遠心鋳造の可視化実験を行い、マクロ偏析の生成メカニズムを検討した。なお、この実験を行うにあたり、本発明の発明者等は鋳型を加工して横型遠心鋳造を模擬する可視化実験装置を自作した。
図1(a)に示すように、実験装置1には、直径100mmの円筒形状の鋳型(セル固定枠2)の中途部分に直径100mm、厚さ1.3mmの円板形状のガラスセル3が嵌め込まれている。ガラスセル3内には実験用の透明有機物(例えばサクシノニトリル−水合金)が封入されている。セル固定枠2には冷却水とヒーターによって温度勾配が付与されている。ガラスセル3にはその内部を撮影するための図示しないカメラが取り付けられている。この実験装置1によれば、図1(b)に示すように、(a)のA−A断面における横型遠心鋳造の様子を観察することができる。また、ガラスセル3の回転に同期してカメラも回転するため、回転中のガラスセル3と液相や固相との相対的な動きを明瞭に捉えることができる。なお、図1(c)は(b)のB部拡大図(概念図)であり、図中の符号4は柱状晶、4aは柱状晶4の二次枝、5は等軸晶を示している。
この実験では、装置1の回転数を150〜1000rpmの範囲内で変化させ、凝固中に生成される等軸晶5の挙動を解析した。その中で、透明有機物が凝固するときには等軸晶5及び等軸晶5同士が絡み合ってできた「粒」がきわめて特徴的に動くことを見出した。すなわち、凝固の初期段階では外周側から柱状晶4が成長してくるが、凝固の中期段階における液相が十分に残っている時点では等軸晶5が成長する。等軸晶5が少ないうちは、等軸晶5は液相と共に複雑な動きをする(CAMP−ISIJ,Vol.19(2006.9),p.738)。図1(a)に示すように、ガラスセル3(セル固定枠2)は実質的に水平な回転軸Lの周りを回転しているが、ガラスセル3の任意のポイントにある一つの等軸晶5に注目したとき、図2に示すように、このポイントの下降時には等軸晶5はガラスセル3よりも進み、上昇時には等軸晶5はガラスセル3よりも遅れる。重力の影響により遅れる時間帯の方が長いため、等軸晶5は徐々にガラスセル3の回転方向とは反対の方向に移動する。
凝固が進み、等軸晶5の数密度が高くなり、且つそのサイズが大きくなり、互いに絡み合ってくると、ある程度の数の等軸晶5が絡み合った「粒」として挙動するようになる。この「粒」がガラスセル3の回転に応じて振動を繰り返すが、他の部位の凝固が進行しても「粒」と「粒」の隙間は液相のままで残存する。この部位が最後まで液相として残ることにより偏析部となる。これが上述した猫足偏析の生成メカニズムである。
また、等軸晶5は円周状に一体化する傾向があることが観察から明らかになった。すなわち、等軸晶5は、厚さ0.5〜1.0mm程度の薄い円環形状に一体化し、この円環形状の等軸晶5群の内側至近に、これと同様に厚さ0.5〜1.0mm程度の薄い円環形状に一体化する。隣接する円環形状の等軸晶5群が遠心鋳造の回転によって互いに相対的なずれ運動をするため、その隙間に凝固末期の溶質を濃縮した液相が溜まり、偏析帯となる。これが上述したラミネーション偏析の生成メカニズムである。
猫足偏析及びラミネーション偏析は、いずれも等軸晶5が絡み合って結合し、それらが互いに相対的な動きをする際、その隙間にできることが明らかとなった。現状では、等軸晶5の生成及び等軸晶5同士の絡み合いや結合は避け難いと考えられているので、等軸晶5の相対的な動きを小さくするために鋳型の回転数を上げることで偏析の低減が図られている。しかし、回転数上昇には、バランス調整、モータなどの駆動系の条件など設備上の制約があり、偏析発生を完全に抑制できるレベルには至っていない。
2.等軸晶の生成メカニズムの検討
本発明の発明者等は等軸晶5の生成メカニズムについても検討を加え、鋳型の回転軸が略垂直な縦型遠心鋳造では液相流動が起こらないために等軸晶5が生成しないことを明らかにした(CAMP−ISIJ,Vol.22(2009.3),p.176)。更に研究を進め、自由表面の乱れが等軸晶5の生成に大きく影響していることを突き止めた。すなわち、自由表面の乱れが外周側から成長してきた柱状晶4の二次枝4aを分断し、これが等軸晶5になるということである。
3.等軸晶の生成試験
そこで本発明の発明者等は、自由表面が凝固組織に与える影響を小さくするために、自由表面の大きさを小さくすることを試みた。すなわち、ガラスセル3に注入する透明有機物の量を種々変更して横型遠心鋳造の直接観察を行った。なお、透明有機物の充填率と等軸晶率は共に面積率で求めた。その結果を図3にグラフで示している。
図3に示すように、充填率が60%以下のときは等軸晶率が70%を越えているが、充填率が60〜80%になると等軸晶率は減少する。充填率が90%以上になると等軸晶率は急激に減少して10%以下となる。これは鋳型の回転数にも依存するが、その依存性は無視できるほどきわめて僅かである。なお、図3には、ガラスセル3の最外周部にかかる遠心力の大きさを表す重力倍数が40〜50Gの比較的大きな回転速度の場合と3〜5Gの小さな回転速度の場合の二つの結果を表しているが、いずれの場合も上記関係は変わらなかった。これは、等軸晶5が自由表面の乱れによって誘起される液相の流動により生成するためである。具体的なメカニズムとしては、充填率が上がり、自由表面の面積が鋳型(ここではガラスセル3)の大きさに対して相対的に小さくなると、これに誘起される液相の流動が相対的に弱くなり、外周側から成長してきた柱状晶4の二次枝4aを分断する力が作用しなくなることや、充填率が上がると溶融金属(ここでは透明有機物)の持つ熱量(顕熱)が増加して凝固前面の温度勾配が大きくなるため、熱的な過冷による等軸晶5の生成や成長が起こり難くなることなどが考えられる。
等軸晶5が生成しないため、当然のことながら複数の等軸晶5が絡み合って形成される「粒」は生成しない。したがって、「粒」と「粒」の隙間にできる偏析部は生成しない。
なお、実際の遠心鋳造にあたっては、充填率を上げると、鋳塊に不要となる分の合金(溶融金属)を排出するなどして取り出さなければならないため、合金の溶製量は増加する。しかし、排出した残湯は再使用可能となるため、大きな損失にはならない。また、ハンドリングコストやエネルギーコストの上昇分は、品質向上や歩留りの向上により十分にまかなうことができるため、然したる問題ではない。
4.実施例
以下、本発明の実施例を表1,2を参照して説明する。まず、実施例1及び比較例1の詳細と結果を説明する。
一例として、C:1.5〜4%、Cr:1〜30%、Mo:0.5〜10%を含み、残部をFeとした合金を溶製し、この溶融金属を用いて、比較例1では、従来通り、外層の厚さが100mm程度になるように鋳造した。実施例1では、鋳型の内容積の95%を占めるように溶融金属を注入して鋳造実験を行った。なお、この実験にあたり、注湯系を加工するとともに、鋳型の端面中央に残湯の排出口を形成した。排出口は鋳造時などには栓で閉塞されている。実施例1と比較例1はいずれも最外周部における重力倍数を50Gとして鋳型を回転した。鋳型内にて所定の厚さが凝固する時間が経過した後(この実験では10分後)に鋳型の回転を停止し、比較例1はそのまま放冷し、実施例1は鋳型の端面の栓を外して金属の軸心周りに残存する未凝固部分(残湯)を排出した。いずれも冷却後、パイプ状となった外層を鋳型から取り出し、組織観察及び偏析調査を行った。
Figure 0005181195
表1に示すように、実施例1では、凝固組織は柱状晶のみで構成され、等軸晶は見られなかった。また、同心円状の偏析、つまり、ラミネーション偏析(マクロ偏析)は認められなかった。
次に、実施例2及び比較例2の詳細と結果を説明する。
上述した実施例1及び比較例1と同様の鉄系合金を溶製し、この溶融金属を用いて、充填率を変更する比較実験を実施した。比較例2として、鋳型の内容積の80%を占めるように溶融金属を注入したものと、実施例2として、鋳型の内容積の92%を占めるように溶融金属を注入したものとを比較した。その他の条件は上述した実施例1と同様とする。それぞれの外層の組織観察及び偏析調査の結果は表2に示す通りである。
Figure 0005181195
表2に示すように、比較例2(充填率80%)は等軸晶が生成し、猫足偏析が認められた。これに対し、実施例2(充填率92%)は柱状晶のみから構成され、猫足偏析などのマクロ偏析は一切見当たらなかった。
上記結果から、横型遠心鋳造において、鋳型内に溶融金属を略充満させる、具体的には鋳型の内容積の90%以上を占めるように溶融金属を注入すると、猫足偏析やラミネーション偏析などのマクロ偏析は生成しないことが判明した。
なお、上述した実施の形態では、横型遠心鋳造における鋳型の回転軸Lは実質的に水平として説明したが、鋳型の回転軸Lが水平から0°以上45°以下の傾斜角を有するものは横型遠心鋳造の範疇に含まれるものである。
1…実験装置
2…セル固定枠
3…ガラスセル
4…柱状晶
4a…二次枝
5…等軸晶
L…回転軸

Claims (2)

  1. 横型遠心鋳造における鋳型の回転中は該鋳型内に溶融金属を、等軸晶を生成させないように柱状鋳型の内容積の90%以上を占めるように注入し、前記鋳型内にて前記溶融金属の所定の厚さが凝固して、凝固組織が外周側から成長した柱状晶により形成された後に、該金属の軸心周りに残存する未凝固部分を前記鋳型内から排出することを特徴とする遠心鋳造方法。
  2. 前記鋳型はその回転軸が水平に対して0°以上45°以下の傾斜角を有することを特徴とする請求項1に記載の遠心鋳造方法。
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