本発明の製造方法によりつくられる拡散フィルムは、液晶表示装置に用いることができる。本発明による拡散フィルムを用いた液晶表示装置の概略を図1に示す。ただし、液晶表示装置10は、この構成に限定されるものではない。液晶表示装置10は、液晶パネル11と、光源ユニット12とから構成される。液晶パネル11は、液晶セル13と、その両面に密着するように配される1対の偏光板14,15とから構成される。液晶セル13は、透明なガラス基板の間に液晶を封入したものであり、各ガラス基板の内面に形成された透明な電極間に電圧を印加することによって、透過する光の偏光状態を変化させる。
偏光板14は、偏光膜14aと、その両面に密着させた一対の保護フィルム14b,14cとから構成してある。偏光板15も偏光板14と同じ構成であり、偏光膜15aと一対の保護フィルム15b,15cとから構成してある。各偏光板14,15は、互いにクロスニコルとなるように配置され、これらの間に液晶セル13が配される。
光源ユニット12は、光源ランプ(図示無し)、導光板22、拡散フィルム23、輝度向上フィルム26からなる。光源ユニット12は、液晶パネル11を背後から照明する。この光源ユニット12は、例えば棒状の蛍光管である光源ランプを、楔形状の導光板22の端部(エッジ)に沿うように配したエッジライト方式となっている。この光源ランプから放出される照明光は、直接、またはリフレクタで反射されて、導光板22の端部から内部に入射する。図1では、光が導光板22に入射する向きを矢線(A)で示す。導光板22は、端部より入射した光を内部で反射することにより、拡散フィルム23側の一面から射出する。
導光板22の液晶パネル11側には、拡散フィルム23が重ねられる。拡散フィルム23は、液晶パネル11の全面を均一に照明するために、導光板22の一面から射出された光を内部及び表面で散乱させて拡散する。
輝度向上フィルム26は、拡散フィルム23と液晶パネル12との間に配され、そのサイズは液晶パネル12の背面とほぼ同じにしてある。輝度向上フィルム26には拡散フィルム23で拡散された光が入射し、輝度向上フィルム26から射出された光が液晶パネル12に入射する。輝度向上フィルム26は、液晶表示装置10における正面輝度を向上させる。
図2は、本発明の製造方法で製造される拡散フィルム23の一例であり、拡散フィルム23の厚み方向での断面図である。図3は、図2のIII−III線に沿う断面図である。拡散フィルム23は、内部で光を反射して拡散する拡散層31と、この拡散層31を支持する支持体32とを備える。拡散フィルム23は、輝度向上フィルム26と拡散層31とが密着する態様で用いられ、光を拡散層31で拡散して輝度向上フィルム26に入射させる。以下の説明においては、拡散フィルム23の輝度向上フィルム26側の一面を第1表面23aと称し、導光板22側の他面を第2表面23bと称する。
拡散層31は、複数の粒子33と、粒子33同士のつなぎとなるバインダ34とを有する。バインダ34は透明なポリマーからなる。粒子33とバインダ34とは互いに異なる屈折率を有し、これにより粒子33とバインダ34との界面で光が屈折する。いずれの粒子33も拡散層31から突出しないように配されている。「拡散層31から突出しないように」とは、第1表面23aが平滑となるように粒子33が拡散層31の内部に配されていればよく、粒子33の表面が部分的にバインダ34の中から露出していてもよい。そして、粒子33は、第1表面23aの近傍に配されている。
以上の構成により、導光板22からの光はバインダと粒子との界面で反射して、拡散フィルム23の内部で散乱するとともに液晶パネル11の法線方向に射出される照明光の光量を大きくするように、照射光の光量分布を制御する。すなわち、以上の構成により、拡散フィルム23は、光の散乱及び拡散の機能をもつとともに、従来の拡散フィルムよりも高い正面輝度向上機能をもつ。さらに、第1表面23aは平滑なので、この拡散フィルム23は輝度向上フィルム36との密着性がよく、フィルム面に沿う方向における光の漏れも防止することができる。
光の拡散効果をより高める点では、粒子33としてバインダ34よりも屈折率が高いものを用いることが、好ましい。バインダ34よりも屈折率が高い粒子33は、固体、液体のいずれであってもよい。バインダ34がセルローストリアセテート(TAC、屈折率=約1.48)である場合にこれよりも屈折率が高い固体としてはポリスチレン(PS、屈折率=1.6)、ポリエチレン(PE、屈折率=1.53)、ガラスビーズ(屈折率=1.5)、シリカ(屈折率=1.54)、マイカ(屈折率=1.58)等、液体としてはシリコーンオイル(屈折率=1.50)、ベンゼン(屈折率=1.50)等がある。さらに、粒子33の屈折率NPからバインダ34の屈折率NBを減じた差dN1が少なくとも0.02であることが、粒子33の内部での散乱の効果をより確実に向上させる点で好ましい。
一方、液晶パネル11の正面輝度を向上させる効果をより大きくする点では、粒子33として、バインダ34よりも屈折率が低いものを用いることが、好ましい。バインダよりも屈折率が低い粒子33は、固体、液体、気体のいずれであってもよい。バインダ34がTACである場合にこれよりも屈折率が低い固体としてはポリメチルメタクリレート(PMMA、屈折率=約1.50)、石英SiO2(屈折率=1.45)等、液体としては水(屈折率=1.33)、エチルアルコール(屈折率=1.36)等、気体としては空気、窒素N2、二酸化炭素CO2等がある。さらに、バインダ34の屈折率NBから粒子33の屈折率NPを減じた差dN2が少なくとも0.02であることが、粒子33の内部での屈折による集光効果をより確実に向上させる点で好ましい。
また、屈折率を基準に粒子33を選択することと、粒子33とバインダ34との体積比率とを制御することにより、拡散の効果と正面輝度向上の効果とのバランスを制御することができる。
また、屈折率を基準に粒子33を選択することと、粒子33とバインダ34との体積比率を制御することとにより、拡散の効果と正面輝度向上の効果とのバランスを制御することができる。
バインダ34の体積をVB、粒子33の体積をVPとするときに、拡散層31は、VP/VBで求める体積比が0.15以下にならないように、すなわち0.15よりも大きくなるようにされている。これにより、光拡散の機能を確実に発現することができるとともに、輝度を向上させることができる。体積比VP/VBは、0.15より大きく2.0以下の範囲であることがより好ましく、0.2以上1.5以下の範囲であることがさらに好ましく、0.6以上1.0以下の範囲であることが特にさらに好ましい。
(粒子33の形)
粒子33は、いずれの方向における断面においてもその形状が真円であるような球であることが最も好ましいが、粒子33の形状はこれに限定されない。
(粒子の大きさ)
粒子33が断面真円形の球である場合には、2μm以上15μm以下の範囲の粒径をもつ大きさである。これにより、光拡散と輝度向上の両方の効果をバランスよく、しかも効果的に発現させることができる。2μmよりも小さな粒径である場合には、輝度向上効果が損なわれることがある。したがって、溶液製膜でフィルムをつくるに際し、フィルムの滑りを向上させるためにフィルム内に含有されてきたいわゆるマット剤のような粒子では、粒径が小さすぎて光拡散と輝度向上の両方の効果を得ることは難しい。15μmよりも大きな粒径である場合には、光拡散の効果が得られないことがある。粒子33が断面真円形の球である場合には、より好ましい粒径は5μm以上10μm以下の範囲であり、さらに好ましい粒径は6μm以上9μm以下の範囲である。さらに、すべての粒径が略同一であることが好ましい。
(粒子の分布)
粒子33は、拡散層31で、ランダムに分布させている。これにより、光源と拡散層31の中の粒子33によるモアレを解消することができる。粒子33と粒子33とは、フィルム面に平行な方向では、間隔をもって配されているすなわち接していないことが好ましい。
そして、粒子33は厚み方向に重ならないように分布させることが最も好ましい。これにより、光拡散効果に加えて輝度向上の効果をより確実に発現させることができる。
拡散フィルム23のヘイズは少なくとも20%、すなわち20%以上であることが好ましい。これにより、光拡散と輝度向上との両方をより確実に発現する。ヘイズが20%よりも小さいと光拡散の効果は不十分である場合がある。
バインダ34はTACで構成しているが、バインダ34は前述にように透明、すなわち光透過率が高く、シートのような薄膜状にすることができる公知のポリマーを用いることができる。また、ポリマーは、光学的異方性がないもの、すなわち光学的等方性のあるものがより好ましい。これらの条件を満たす好ましいポリマーとしては、セルロースアシレートが挙げられる。
セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル基置換度と称する)が下記式(1)〜(3)の全ての条件を満足するTACが特に好ましい。なお、(1)〜(3)において、A及びBはともにアシル基置換度であり、Aにおけるアシル基はアセチル基であり、Bにおけるアシル基は炭素原子数が3〜22のものである。
2.5≦A+B≦3.0・・・(1)
0≦A≦3.0・・・(2)
0≦B≦2.9・・・(3)
セルロースを構成し、β−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、このようなセルロースの水酸基の一部または全部がエステル化されて、水酸基の水素が炭素数2以上のアシル基に置換されたポリマーである。なお、グルコース単位中のひとつの水酸基のエステル化が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートの場合には、2位、3位及び6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると置換度は3となる。
ここで、グルコース単位で2位のアシル基置換度をDS2、3位のアシル基置換度をDS3、6位のアシル基置換度をDS6として「DS2+DS3+DS6」で求められる全アシル基置換度は2.00〜3.00であることが好ましく、2.22〜2.90であることがより好ましく、2.40〜2.88であることがさらに好ましい。さらに、「DS6/(DS2+DS3+DS6)」は0.32以上であることが好ましく、0.322以上であることがより好ましく、0.324〜0.340であることがさらに好ましい。
アシル基は1種類だけでもよいし、2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位、及び6位の水酸基の水素のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位、及び6位におけるアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとするとき、「DSA+DSB」の値は、2.2〜2.86であることが好ましく、2.40〜2.80であることが特に好ましい。DSBは1.50以上であることが好ましく、1.7以上であることが特に好ましい。そして、DSBは、その28%以上が6位水酸基の置換であることが好ましいが、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは31%以上、特に好ましくは32%以上が6位水酸基の置換であることが好ましい。また、セルロースアシレートの6位の「DSA+DSB」の値が0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。以上のようなセルロースアシレートを用いることにより、溶液製膜に用いられるポリマー溶液をつくるために好ましい溶解性が得られ、また、ろ過性の好ましい粘度が低いポリマー溶液を製造することができる。特に非塩素系有機溶媒を用いる場合には、上記のようなセルロースアシレートが好ましい。
炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、プロピオニル基、ブタノイル基が特に好ましい。
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載は本発明にも適用することができる。
バインダ34には、可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤、光学異方性コントロール剤、染料、マット剤、剥離剤等の各種添加剤を適宜含ませてもよい。これらについては、特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、本発明に適用することができる。
拡散層31の厚みは、2μm以上15μm以下の範囲であることが好ましい。これは、前述のように径が2μm以上15μm以下の範囲の断面真円形の粒子33を用いる場合であって、この粒子33が拡散層31から突出しないように、かつ拡散層31で厚み方向に重ならないように、拡散層31に収容するためである。したがって、粒子33が不定形である場合や、断面楕円形であるような球である場合には、最も大きな径が拡散層31の厚みの上限値となり、最も小さな径が拡散層31の厚みの下限値となる。
支持体32は、拡散フィルム23の取り扱い性や強度の向上、厚みの調整等の目的とするものであり、必ずしも必要な層ではない。しかし、拡散フィルム23の強度や他のフィルムとの貼り合わせ時等における取り扱い性を向上させるという観点では、設けることが好ましい。
支持体32はバインダ34と同様に透明なポリマーからなる。支持体32を構成するポリマーとしては、バインダ34と同様に、光透過率が高く、薄膜形状にすることができる公知のものを用いてよい。バインダ34と異なるポリマーから構成されてもよいし同じポリマーから構成されてもよい。支持体32がバインダ34と同じポリマーから構成される場合には、製造過程で支持体32とバインダ34とが一体となって境界が消失する場合がある。
図4に示すように、フィルム製造設備40は、流延すべき複数のドープを製造するドープ製造部41と、溶液製膜によりドープから拡散フィルム23をつくる溶液製膜部42とからなる。ドープ製造部41では、拡散層31(図1参照)を形成するための第1ドープ45と、支持体32(図1参照)を形成するための第2ドープ46とがそれぞれつくられる。溶液製膜部42は、第1ドープ45と第2ドープ46とからなる流延膜47を形成して溶剤を含んだ状態の湿潤フィルム48として剥がす流延エリア51と、湿潤フィルム48を乾かして拡散フィルム23とする乾燥エリア52と、拡散フィルム23を巻き取ってロール状にする巻取エリア53とからなる。
流延エリア51には、第1ドープ45及び第2ドープ46を流出する流延ダイ56と、この流延ダイ56の下方に配されて連続走行する無端支持体としてのバンド57と、バンド57が周面に巻き掛けられて少なくとも一方が駆動回転することによりバンド57を走行させる2つのバックアップローラ58と、流延膜47をバンド57から剥ぎ取るに際して湿潤フィルム48を支持するローラ59とが備えられている。また、流延ダイ56の上流端面には、第1ドープ45と第2ドープ46との流れを合流させて流延ダイ56に案内するフィードブロック61が設けられ、バンド57の走行方向における流延ダイ56の上流側には、流延ダイ56からバンド57に渡って形成されるビードよりも上流側のエリアの空気を吸引して減圧する減圧チャンバ62が設けられる。
第1ドープ45と第2ドープ46とは、ともにひとつの流延ダイ56からバンド57へ流延され、これにより、第1ドープ45から形成される層と第2ドープ46から形成される層との2層からなる複層構造の流延膜47が形成される。なお、この流延膜47の両側端部は、2層構造ではなく、第2ドープ46のみからなる単層構造とされる。流延膜47における第1ドープ45と第2ドープ46との重なりの態様の詳細については、別の図面を用いて後述する。流延膜47は、ローラでの搬送が可能な程度に硬くなると、すなわち自己支持性をもつようになると、バンド57から剥ぎ取られ、湿潤フィルム48は乾燥エリア52のテンタ66に案内される。バンド57からテンタ66に至る搬送路の近傍には、湿潤フィルム48の乾燥を進めるために湿潤フィルム48に乾燥空気を吹き付ける送風ダクト67が設けられている。
テンタ66には、湿潤フィルム48の側端部を保持する保持手段としてのクリップ68が、湿潤フィルム48の搬送路の両側にそれぞれ複数配されている。クリップ68は、湿潤フィルム48の、単層構造とされている側端部を把持する。保持手段としては、湿潤フィルム48を把持するクリップ68に代えて、湿潤フィルム48を突き刺して保持するピンを用いてもよい。複数のクリップ68は、連続走行する無端のチェーン(図示せず)に備えられてあり、このチェーンの走行路を変位することによりクリップ68の走行軌道を変えることができる。湿潤フィルム48の両側にそれぞれ配されてあるクリップ68とクリップ68との距離を下流側に向かって徐々に拡げるようにチェーンの走行路を設定することにより、湿潤フィルム48の幅を拡げることができる。
テンタ66には、温度調整された乾燥空気を湿潤フィルム48に吹き付ける送風ダクト66aが備えられており、この送風により、クリップ68で保持されて搬送されている間の湿潤フィルム48は乾燥が進む。
クリップ68での把持を解除された湿潤フィルム48は、テンタ66の下流に備えられる切除装置71に案内される。湿潤フィルム48のクリップ68により把持された把持位置には、把持の跡が残っている。この把持跡が、拡散フィルム23となる中央部と分離されるように、切除装置71は、湿潤フィルム48の側端部を連続的にカットする。このとき、カットされるカット位置は、単層構造となっているエリア内とされる。
切除装置71の下流には、両側端部が切除された湿潤フィルム48を周面で支持する複数のローラ73と、乾燥空気を吹き出す送風ダクト(図示せず)とを備える乾燥室74がある。ローラ73の中には、周方向に回転駆動することにより湿潤フィルム48を搬送する駆動ローラが含まれる。送風ダクトには、湿潤フィルム48の幅方向に延びたスリット(図示せず)が搬送方向に複数設けられており、これらのスリットから出される所定温度の乾燥空気により湿潤フィルム48は乾燥されて拡散フィルム23となる。そして、拡散フィルム23は、巻取エリア53の巻取装置77でロール状に巻かれる。
切除装置71で湿潤フィルム48の中央部と分離された各側端部は、ロータリカッタ(図示無し)を備えるクラッシャ72に送られると、細かいチップ状に切断される。このチップ78を、ドープ製造部41で第1ドープ45と第2ドープ46との少なくともいずれか一方の原料として再利用する。
ドープ製造部41では、チップ78の他に、新たなポリマー、すなわち未使用のポリマー(virgin polymer)と、第1ドープ45と第2ドープ46との溶媒成分になる溶剤81と、粒子33を含む粒子含有液82とが用いられる。未使用のポリマーとチップ78に含まれ再利用するポリマーとを区別するために、以下の説明では、前者をVポリマー、後者をRポリマーと称するものとし、図4ではVポリマーに符号83を付す。
ドープ製造部41には、チップ78と溶剤81とを混合してRポリマーを溶剤81に溶解するための第1溶解装置86と、Vポリマー83を溶剤81に溶解するための第2溶解装置87とを備える。
チップ78は、第1溶解装置86で溶剤81と混合される。この混合では、チップ78に含まれているRポリマーを溶剤81に溶解させるために、チップ78と溶剤81との混合物に対して、適宜、加熱や加圧、攪拌等が実施される。この第1溶解装置86での混合により得られる液を第1溶解液88と称するものとする。Rポリマーは、バインダ34(図2参照)と支持体32(図2参照)とを構成するために流延に供されたポリマーである。チップ78とされた側端部は、第2ドープ46から形成される単層構造であるために、チップ78には、第1ドープ45に用いられた粒子33が含まれていない、すなわち粒子33が非含有となっている。そこで、得られる第1溶解液88は、第1ドープ45の一部としても用いることができるし、第2ドープ46の一部としても用いることができる。
Rポリマーを溶解するためにチップ78と混合される溶剤81は、溶液製膜部42での流延に用いられた第1ドープ45の溶媒と同じものである。これにより、第1溶解液88は、後述の第2溶解液89と、より混ざりやすくなる。この溶媒が複数の化合物からなる場合には、そのうちの少なくとも1成分と同じ化合物でRポリマーを溶解してもよい。
第2溶解装置87では、Vポリマー83が溶剤81に溶解されて第2溶解液89が得られる。より効果的かつ効率的にVポリマー83を溶解させるために、Vポリマー83と溶剤81との混合物に対して、適宜、加熱や加圧、攪拌等が実施される。
第1溶解装置86から下流へ第1溶解液88を案内する第1送液ラインL1と第2溶解装置87から下流へ第2溶解液89を案内する第2送液ラインL2とは、それぞれ分岐する。第2送液ラインL2が分岐した一方の送液ライン(以降、第3送液ラインと称する)L3では第1ドープ45がつくられ、他方の送液ライン(以降、第4送液ラインと称する)L4では第2ドープ46がつくられる。第1送液ラインL1が分岐した一方の送液ライン(以降、第5送液ラインと称する)L5は第3送液ラインL3に接続し、他方の送液ライン(以降、第6送液ラインと称する)L6は第4送液ラインL4に接続する。
第1送液ラインL1が第5送液ラインL5と第6送液ラインL6とに分岐する分岐位置にはバルブが備えられており、このバルブにより、第3送液ラインL3と第4送液ラインL4とに対する第1溶解液88の送り込みのオン・オフ及び送り込み量が、独立して制御される。したがって、第1溶解液88は、第3送液ラインL3と第4送液ラインL4との少なくともいずれか一方に適宜送り込まれる。
第4送液ラインL4には、第6送液ラインL6との接続位置よりも下流側に濃度調整手段(図示せず)が設けられており、この濃度調整手段により溶剤81の質量割合が調整されて第2溶解液89が第2ドープ46となる。また、第4送液ラインL4には、第6送液ラインL6が接続する接続位置と濃度調整手段との間に、案内されてきた第1溶解液88と第2溶解液89とを均一な液となるように混ぜ合わせる混合器が備えられているが、図示は略す。
第3送液ラインL3には、粒子含有液82が案内される添加ラインLAが接続し、これにより、第2溶解液89に粒子含有液82が加えられる。第3送液ラインL3を流れる第2溶解液89に第1溶解液88を加える場合には、第1溶解液88が混ぜられた後の第2溶解液89に対して粒子含有液82を加えることが好ましい。したがって、添加ラインLAの第3送液ラインL3に対する接続位置は、第5送液ラインL5が接続する接続位置よりも下流側とされることが好ましい。
Vポリマー83とRポリマーとの質量の和に対する粒子33の質量の割合が、流延すべき第1ドープ45における所定値になるように、添加ラインLAから粒子含有液82を第2溶解液88に対して加える。このように、粒子33が第3送液ラインL3の第2溶解液89に混ぜられて、新たに流延すべき第1ドープ45がつくられる。したがって、第3溶解液89に含まれるVポリマーとRポリマーとの質量和に応じて、混ぜるべき粒子33の量を決め、この粒子33の量に基づいて粒子含有液82の量は決定される。なお、新たに流延すべき第1ドープ45における粒子33の含有率は、製造しようとする拡散フィルム23のヘイズ値の目標値によって決定するとよい。つまり、粒子含有液82における粒子33の含有率と第3送液ラインL3の第2溶解液88におけるポリマー成分の含有率を制御することにより製造する拡散フィルム23のヘイズ値を制御することができる。
粒子含有液82は、溶液製膜部42での流延に用いられた第1ドープ45の溶媒と同じ液体化合物に分散した分散液である。これにより、粒子含有液82と第2溶解液89との親和性が向上するので、効果的かつ効率的に粒子含有液82と第2溶解液89とが均一に混じり合って粒子33が液中に均一に分散することになる。第1ドープ45で用いられた溶媒が複数の化合物からなる場合には、そのうちの少なくとも1成分と同じ化合物で粒子を分散させてもよい。
第3送液ラインL3には、第5送液ラインL5が接続する接続位置と添加ラインLAが接続する接続位置との間に、案内されてきた第1溶解液88と第2溶解液89とを均一な液となるように混ぜ合わせる混合器が備えられているが、図示は略す。
第3送液ラインL3には、添加ラインLAとの接続位置よりも下流側に濃度調整手段(図示せず)が設けられており、この濃度調整手段により溶剤81の質量割合が調整されて第1ドープ45が得られる。
溶液製膜部42では、流延すべき第1ドープ45の処方を切り替えることにより、拡散層31の性状が異なる拡散フィルム23の製造を、稼働を停止することなく始めることができる。例えば、拡散層31におけるバインダ34の質量比率を高めるように第1ドープ45の処方を切り替える場合には、切り替え前の処方でのチップ88から第1溶解液88をつくり、この第1溶解液88を、第3送液ラインL3の第2溶解液89に加える。これにより、Vポリマー83にRポリマーが加えられてRポリマーが再利用されることになり、新たな処方の第1ドープ45がつくられる。
以上のように新たにつくられた第1ドープ45と第2ドープ46とは、溶液製膜部42で流延されて拡散フィルム23を形成する。
以上の方法によると、(1)拡散層31を支持体32に付与するための塗布工程が不要となる、(2)切除される側端部が粒子33を含まないので、この側端部は廃棄せずに、新たな第1ドープと第2ドープ46とのいずれにも再利用することができる、(3)再利用する側端部は、第1ドープ45と第2ドープ46とのいずれにも共通する成分から構成されているために、再利用しても新たな第1ドープ45と第2ドープ46とのいずれの性状を変化させることがないという各効果がある。
図5は、流延ダイ56及びフィードブロック61の概略図である。フィードブロック61には、第1ドープ45及び第2ドープ46が送られる。フィードブロック61は直方体状とされており、その内部に2つの流路103、104が形成されている。流路103は、フィードブロックの上面の開口103aから下面の開口103bに向けて鉛直方向に延びている。上面の開口103aは第2ドープ46の入口である。流路104は、フィードブロック61の側面の開口104aから流路103に向けて形成され、開口104aは第1ドープ45の入口となる。流路103と流路104とは、第1ドープ45と第2ドープ46とが合流するように合流部105を形成するように接続する。
合流部105には、ディストリビューションピン107とベーン108とが設けられている。ディストリビューションピン107とベーン108とは、流路104が流路103に合流する直前の流路104上に設けられている。ディストリビューションピン107は、周面に切欠き溝が形成された円柱状であり、長手方向が流延ダイ56及びフィードブロック61の幅方向に一致するように配されている。
ディストリビューションピン107は回転自在であり、第1ドープ45は、このディストリビューションピン107の切欠き溝によって流れ幅及び深さを規制されて流れていき、合流部105に至る。第1ドープ45は、第2ドープ46よりも流れ幅が小さくなるようにディストリビューションピン107により流れ幅を規制され、第1ドープ45の流れが第2ドープ46の流れの幅方向中央部に合流し、第2ドープ46の両側端部には第1ドープ45が重ならないようにされて、両ドープ45,46は開口103bから流延ダイ56へと送り出される。なお、ディストリビューションピン107の詳細については、別の図面を用いて後述する。
流延ダイ56には、内部に1本の流路109が形成されている。この流路109は、途中から、下方向に向かうにしたがって次第に幅が広くなっている。また、流路109の途中の領域で、その深さが狭くなるように傾斜面109aが形成されている。フィードブロック61で合流して、側端部が第2ドープ46とされ、幅方向中央部では流れが重なった状態の第1ドープ45,第2ドープ46は、この流路109により拡幅され、流延ダイ56の先端に設けられたダイリップ110から流出される。
図6はディストリビューションピン及びベーンの概略図であり、図7はディストリビューションピンの長手方向における断面であり、図8はディストリビューションピンの長手方向中央部における径方向の断面である。ディストリビューションピン107は、周面に切欠き溝111が形成された円柱状であり、長手方向が流延ダイ56及びフィードブロック61の幅方向に一致するように配されている。第1ドープ45は、この切欠き溝111によって流れ幅及び深さを規制されて流れてゆく。
第1ドープ45は、ディストリビューションピン107が回転駆動すると、その流れ幅が変化する。ベーン108は、ディストリビューションピン107の上流側に設けられており、楔状である。このベーン108は回転することによって、第1ドープ45の流量を調節する。そして、第1ドープ45は、ディストリビューションピン107の切欠き溝111で規制された流れ幅及び深さをもって第2ドープ46と合流する。
図7及び図8に示すように、切欠き溝111は、第1溝部111aと、第1溝部111aの底面に形成された第2溝部111bとからなる。第1溝部111aは図7に示すように台形状である。このように、第1溝部111aの溝幅は、周面の領域に応じて変化する。また、第1溝部111aの溝深さは、第2溝部111bが形成された領域を除いて、一定である。なお、第1溝部111aの溝深さが周面の領域に応じて変化するように、第1溝部を形成してもよい。
第2溝部111bは、切欠き溝111の底面の中央部に形成されている。図7に示すように、この第2溝部111bは台形状に形成されており、第2溝部111bの溝幅は第1溝部111aの溝幅の変化に合わせて、つまり周面の領域に応じて変化する。具体的には、第2溝部111bの溝幅は、第1溝部111aの溝幅が大きくなるに従い大きくされている。第2溝部111bの溝深さは周面の領域に関係なく一定である。なお、第2溝部111bの溝深さが周面の領域に応じて変化するように、第2溝部を形成してもよい。
ディストリビューションピン107の切欠き溝111のサイズには許容範囲が設けられており、切欠き溝111はこの許容範囲内で形成される。この許容範囲は特開2005−279986号公報の段落[0033]〜[0046]記載の範囲であることが好ましい。
図10の(A)は、フィードブロック61の合流部105(図5参照)における第1ドープ45及び第2ドープ46の流れの断面図であり、(B)は、ダイリップ110から流出してバンド57に接した時における第1ドープ45及び第2ドープ46の流れの断面図である。
図10の(A)に示すように、第1ドープ45は、ディストリビューションピンの切欠き溝111(図6〜9参照)により、合流部における流れ幅が第2ドープ46よりも狭くされている。第1ドープ45の両側には第2ドープ46が存在しており、第2ドープ46の両側は第1ドープ45側に凸となっている。そして、第1ドープ45の幅方向中央部は、第2ドープ46側に凸となっている。したがって、第2ドープ46の幅方向中央部は、凹となっている。このように第1ドープ45と第2ドープとが合流することにより、第1ドープと第2ドープ46とは、図10の(B)に示すように、流延膜47(図4参照)を形成しはじめたときには、幅方向中央部においてそれぞれ厚みが均一な第1ドープ45の層と第2ドープ46の層とが重なった態様となっており、両側部は第2ドープ46の単層構造でその厚みは中央部の厚みと同じとなる。
図10の(B)では、流延膜47における第1ドープ45の側縁の位置(以降、第1ドープ側縁位置と称する)に符号EL、湿潤フィルム48とされた後に切除装置71によりカットされる位置(カット位置)に符号CLを付す。ディストリビューションピン107は、第1ドープ側縁位置ELがカット位置CLよりも外側となるように、第1ドープ45の流れ幅を制御する。なお、クリップ68による保持位置(図示せず)は、カット位置CLよりも外側である。
本実施形態は、拡散層31と支持体32とで構成される拡散フィルム23を製造する場合であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、粒子33に代えて導電性の物質、例えば粒子やフィラー等を用い、このような導電性物質とバインダ34からなる導電層を拡散層31に代え、この導電層と支持体32とが重なる導電性フィルムを製造する場合等にも適用することができる。
また、本発明では、第2ドープ46に粒子が含まない上記実施形態に限らず、第2ドープ46に第1ドープ45よりも小さい含有率で粒子33を含ませる場合にも適用することができる。
本実施形態では、切除装置71に案内する湿潤フィルム48の側端部を単層構造とする方法として、ディストリビューションピン107を用いて第1ドープ45と第2ドープ46とを合流される方法を用いたが、本発明はこの方法に限定されない。例えば、この方法に代えて次の方法がある。流延ダイ56のダイリップ110(図5参照)の各側部に、第2ドープ46を流し出すドープ供給手段を設ける。ダイリップ110からは、第1ドープ45と第2ドープ46とを一方の側縁から他方の側縁まで重ねた態様で流出する。このように第1ドープ45と第2ドープとの重なったいわゆるビードの各側縁に対し、ドープ供給手段から第2ドープを供給して、ビードにドープ供給手段からの第2ドープが一体になるようにして流延膜を形成する。このようにして流延膜の各側端部は第2ドープから形成されることになり、クリップによる把持と切除装置による切除の後に、再利用に供される。