JP5161718B2 - 肝障害モデル動物、及びそれを用いた肝障害を改善又は予防する、薬剤若しくは食品素材のスクリーニング方法 - Google Patents
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Description
(a)完全変態型昆虫の幼虫に化合物を投与することによって、その脂肪体及び/又は腸管に治療可能な障害を与える工程、
(b)(a)工程中又は(a)工程後の完全変態型昆虫の幼虫に、被検薬剤又は被検食品素材を、注入又は食餌させることによって投与する工程、
(c)脂肪体及び/又は腸管の障害の程度を評価する工程、
を有することを特徴とするスクリーニング方法を提供することにある。
(d)被検薬剤又は被検食品素材を、完全変態型昆虫の幼虫に注入又は食餌させることによって投与する工程、
(e)(d)工程中又は(d)工程後の完全変態型昆虫の幼虫に化合物を投与することによって、脂肪体及び/又は腸管に治療可能な障害を与える工程、
(f)脂肪体及び/又は腸管の障害の程度を評価する工程、
を有することを特徴とするスクリーニング方法を提供することにある。
完全変態型昆虫とは、卵、幼虫、蛹、成虫の成長過程を経る昆虫をいう。完全変態型昆虫としては、例えば、鱗翅目(チョウ、ガ等)、双翅目(ハエ等)、膜翅目(ハチ、アリ等)、甲虫目(カブトムシ等)等に属する昆虫が挙げられる。下記の(5)〜(7)の要件を満たすため、完全変態型昆虫の幼虫(以下、単に「幼虫」と略記する場合がある)が本発明には用いられる。
(2)飼育する方法が既に確立されており、更に飼育に利便性がある。
(3)ヒト等の哺乳類の内臓・器官と類似する性質が、これまでの研究である程度分かっている。
(4)遺伝系統が確立されており、遺伝的均一性の維持ができている。
(5)比較的大型で、動きが緩慢であり、実質上無毛なので、定量的に扱いやすい。
(6)狭いスペースで多数の個体を飼育でき、倫理的な問題も少ない。
(7)齢や体重を揃える等、同じ状態の個体を揃えることが容易である。
本発明の肝障害モデル動物は、完全変態型昆虫の幼虫であって、化合物を投与されたことによって、その「脂肪体及び/又は腸管」(脂肪体等)に治療可能な障害が与えられているものである。「肝障害モデル動物」とは、ヒト等の哺乳類の肝障害に関して知見を得るためのモデル動物という意味である。
本発明の一つの形態は、哺乳類の肝障害を改善する薬剤又は食品素材のスクリーニング方法であって、
(a)完全変態型昆虫の幼虫に化合物を投与することによって、その脂肪体等に治療可能な障害を与える工程、
(b)(a)工程中又は(a)工程後の完全変態型昆虫の幼虫に、被検薬剤等を注入又は食餌させることによって投与する工程、
(c)脂肪体等の障害の程度を評価する工程、
を有することを特徴とするスクリーニング方法である。
本発明の一つの形態は、哺乳類の肝障害を予防する薬剤又は食品素材のスクリーニング方法であって、
(d)被検薬剤等を、完全変態型昆虫の幼虫に注入又は食餌させることによって投与する工程、
(e)(d)工程中又は(d)工程後の完全変態型昆虫の幼虫に化合物を投与することによって、脂肪体等に治療可能な障害を与える工程、
(f)脂肪体等の障害の程度を評価する工程、
を有することを特徴とするスクリーニング方法である。
前記(c)及び上記(f)中の、「脂肪体等の障害の程度を評価する工程」は、完全変態型昆虫の幼虫の、体液中のALT活性の測定、脂肪体等の組織の観察、又は、個体死の判定を含むものである。以下に説明する。
<ALT活性測定用試料の調製>
ALT活性測定用試料は、例えば、完全変態型昆虫の幼虫の体液を採取後、過塩素酸等と混合してタンパク質を沈殿・遠心分離することによって調製される。以下、これによって調製された試料を「体液抽出液」と略記する場合がある。
ALT活性の測定は、体液抽出液を検体として、例えば、文献「Methods for the measurement of catalytic concentrations of enzymes. (1980) Clinica. Chimica. Acta. 105, 147-154」に記載されている方法に従って行う。
本発明の一形態は、上記肝障害モデル動物を用いることを特徴とする、哺乳類の肝障害を改善又は予防する、薬剤若しくは食品素材のスクリーニング方法を提供するものである。本発明前までは、カイコにおいて四塩化炭素等による障害付与処理を行った後に、カイコ体液抽出液を検体として、哺乳類の肝臓に特異的に発現するALT活性を評価した例はなかったが、本発明により、カイコにおいても、脂肪体等の障害のマーカーとしてALT活性を用いることができることが明らかとなった。
塩素置換炭化水素類等の化合物や被検薬剤等を投与した完全変態型昆虫の幼虫の脂肪体等は、完全変態型昆虫の幼虫から摘出後に組織切片として脂肪体試料又は腸管試料を調製し、組織における障害の有無や障害の程度を確認する。その際、例えば、ヘマトキシン・エオジン染色法等の染色法を使用することが好ましい。
個体死は弛緩の有無を目視で判定することによって判断する。個体が瀕死か否かの判定も、上記「個体死の判定」に含まれる。
本発明の肝障害モデル動物は、マウスやラット等のモデル動物では実質的に不可能であった肝障害の改善又は予防効果のある薬剤若しくは食品素材を、多種多様な被検薬剤等から、網羅的・スクリーニング的にピックアップできるとともに、上記薬剤又は食品素材の「吸収」「代謝」「排泄」等の体内動態を反映したin vivoでの効果を反映できる評価系を構築することが可能である。
[肝障害モデル動物の作製と評価]
<カイコの種類・飼育条件>
カイコ(Hu Yo x Tsukuba・Ne)受精卵は、日本農産工業から購入した。27℃に設定したインキュベーター(サンヨー社製)で、桑の葉等を含まない人工餌であるシルクメイト2S(日本農産工業)を与え、5齢まで育てた。飼育容器としては、2齢までは、角型2号シャーレ(栄研器材社製)を用い、それ以降は、使い捨てのプラスチック製フードパック(フードパックFD大深、中央化学株式会社製)を用いた。以下に述べる各検討には、別途記載がない限り、5齢1日目に餌を与えた後、1日経過した(5齢2日目)カイコを用い、投与前、6時間の絶食期間を設けた。また、各検討には、絶食期間後の体重が1.8g〜2.2gの範囲のカイコを選別して用いた。
上記絶食期間経過後のカイコの第5体節の模様部に、オリーブオイルで10質量%に希釈した四塩化炭素溶液25μLを注射により投与した。同様に、オリーブオイルのみ25μLを注射により投与した。
四塩化炭素溶液又はオリーブオイル投与後、1時間、3時間、5時間、24時間、48時間経過後にそれぞれ体液を採取し、10倍量の1%β−MEと混合してタンパク質を沈殿・遠心分離し、ALT活性測定用の体液抽出液とした。
上記ALT活性を測定した結果を図1に示す。四塩化炭素投与によるALT活性(四塩化炭素投与による真のALT活性値。図1中の「△ALT activity」(四塩化炭素のオリーブオイル溶液によるALT活性値からオリーブオイルのみによるALT活性値を引いた値))は、四塩化炭素投与後5時間で上昇し、四塩化炭素投与後5時間から24時間の間は一定値となっていた。また、四塩化炭素投与後48時間でALT活性は、ほぼ四塩化炭素投与時の値まで低下した。
[肝障害モデル動物の肝障害改善例1]
(NALCの投与によるALT活性低下の検討)
<N−アセチルL−システイン(NALC)投与例>
上記肝障害モデル動物が実際に哺乳類の肝障害改善又は予防効果を示す被検薬剤等のスクリーニングに適用可能か否かを検討する目的で以下の検討を行った。
[肝障害モデル動物の肝障害改善例2]
(桑の葉抽出物の投与によるALT活性低下の検討)
実施例2において、「NALCの0.9%NaCl溶液50μL」に代えて「桑の葉抽出物の水溶液50μL」を用いた以外は、実施例2と同様に評価したところ、ALT活性の上昇が抑制される傾向が認められた(図4の左半分、○で示した人工餌摂取のデータ参照)。すなわち、図4の左から4列目のプロットによると、5例中全例において、ALT活性の上昇の抑制が認められた。
[肝障害モデル動物の作製例1]
(四塩化炭素の濃度がALT活性又はその抑制に与える影響の検討)
濃度の異なる2種類の四塩化炭素溶液(15質量%と20質量%)25μLを、それぞれ注射を用いてカイコに投与し、24時間後のALT活性を確認した。四塩化炭素溶液投与と同時に、50μLの0.4MのNALCの0.9%NaCl溶液を投与した場合としない場合とを比較した。得られた結果を図3に示す。
[肝障害モデル動物の作製例2]
(桑の葉等の食餌の肝障害モデル動物に与える影響の検討)
実施例3において、桑の葉等(桑の葉又は桑の葉抽出物)を注射によって投与したカイコに四塩化炭素投与により障害を与えた場合、ALT活性の上昇が抑制される傾向が認められた。そこで改めて、桑の葉等が肝障害モデル動物の作製に与える影響について以下の検討を行った。
桑の葉等を含まない人工餌を与えた前記カイコ(以下、「人工餌摂食カイコ」と略記する)及び桑の葉を与えたカイコ(以下、「桑の葉摂食カイコ」と略記する)に、10質量%の四塩化炭素のオリーブオイル溶液を25μL注射し、24時間後のALT活性を測定した。
桑の葉抽出物の水溶液50μLを、10質量%の四塩化炭素のオリーブオイル溶液25μLの注射と同時に注射した。
Claims (9)
- 桑の葉又は桑の葉抽出物を実質的に含まない餌で育てたカイコであって、化合物を投与されたことによって、その脂肪体及び/又は腸管に治療可能な障害が与えられているものであることを特徴とする肝障害モデル動物。
- 上記脂肪体及び/又は腸管に治療可能な障害を与える化合物が、塩素置換炭化水素類である請求項1に記載の肝障害モデル動物。
- 桑の葉又は桑の葉抽出物を実質的に含まない餌で育てたカイコに、その脂肪体及び/又は腸管に治療可能な障害を与える化合物を投与する工程を含むことを特徴とする肝障害モデル動物の作製方法。
- 脂肪体及び/又は腸管に治療可能な障害を与える化合物が塩素置換炭化水素類である請求項3に記載の肝障害モデル動物の作製方法。
- 請求項1又は請求項2に記載の肝障害モデル動物を用いることを特徴とする、哺乳類の肝障害を改善又は予防する、薬剤若しくは食品素材のスクリーニング方法。
- 哺乳類の肝障害を改善する薬剤又は食品素材のスクリーニング方法であって、
(a)桑の葉又は桑の葉抽出物を実質的に含まない餌で育てたカイコに化合物を投与することによって、その脂肪体及び/又は腸管に治療可能な障害を与える工程、
(b)(a)工程中又は(a)工程後の桑の葉又は桑の葉抽出物を実質的に含まない餌で育てたカイコに、被検薬剤又は被検食品素材を、注入又は食餌させることによって投与する工程、
(c)脂肪体及び/又は腸管の障害の程度を評価する工程、
を有することを特徴とするスクリーニング方法。 - 哺乳類の肝障害を予防する薬剤又は食品素材のスクリーニング方法であって、
(d)被検薬剤又は被検食品素材を、桑の葉又は桑の葉抽出物を実質的に含まない餌で育てたカイコに注入又は食餌させることによって投与する工程、
(e)(d)工程中又は(d)工程後の桑の葉又は桑の葉抽出物を実質的に含まない餌で育てたカイコに化合物を投与することによって、脂肪体及び/又は腸管に治療可能な障害を与える工程、
(f)脂肪体及び/又は腸管の障害の程度を評価する工程、
を有することを特徴とするスクリーニング方法。 - 上記脂肪体及び/又は腸管に治療可能な障害を与える化合物が、塩素置換炭化水素類である請求項6又は請求項7に記載のスクリーニング方法。
- 上記(c)(f)脂肪体及び/又は腸管の障害の程度を評価する工程が、体液中のアラニン・アミノトランスフェラーゼ(ALT)活性の測定、脂肪体及び/又は腸管の組織の観察、又は、個体死の判定を含むものである請求項6ないし請求項8の何れかの請求項に記載のスクリーニング方法。
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