本実施例のパーソナルビークル1は電動式の車いすに相当する。前方(矢印Fx方向)は、ビークル1に正規に着座している使用者の顔面が向いている方向を示し、ビークル1が進行する方向を示す。後方(矢印Rx方向)は、ビークル1に正規に着座している使用者の顔面が背向している方向を示し、ビークル1が後退する方向を示す。
側面視である図1(a)に示すように、ビークル1は、使用者が着座する着座部10をもつ車体11と、車体11に左右に取り付けられた回転可能な左右の駆動輪12(12R,12L)と、駆動輪12を回転駆動させる駆動源としての駆動輪モータ13(13R,13L)と、駆動輪モータ13(13R,13L)の駆動を制御する操作部14と、駆動輪12の前方に位置して車体11に取り付けられた回転可能な左右の前輪15と、駆動輪12の後方に向けて延びるように車体11に取り付けられたサポート部材16と、サポート部材16の先端部16eに取り付けられた回転可能な後輪17と、サポート部材16を路面90に対する着地および浮上を許容するブレーキ装置18とを備えている。サポート部材16は、枢支軸部16mを中心として側面視において上下方向(矢印U,D方向)に回動可能に枢支されている。
ブレーキ装置18のオンは、前述したように、枢支軸部16m回りのサポート部材16の回動を抑えるように拘束形態とすることを意味し、ブレーキ装置18がブレーキ作用を果たす意味であり、ブレーキ装置18に対する通電および非通電の有無を問わない。これに対して、ブレーキ装置18のオフは、サポート部材16を枢支軸部16m回りで自由に回動できるようにする自由形態とすることを意味し、ブレーキ装置18がブレーキ作用を果たさない意味であり、ブレーキ装置18に対する通電および非通電の有無を問わない。
駆動輪12は右の駆動輪12R,左の駆動輪12Lを備えている。駆動輪モータ13は右の駆動輪12Rを回転駆動させる右の駆動輪モータ13R,左の駆動輪12Lを回転駆動させる左の駆動輪モータ13Lを備えている。 ここで、右の駆動輪12R,左の駆動輪12Lを区別する必要があるときには、駆動輪12R,駆動輪12Lと称する。右の駆動輪12R,左の駆動輪12Lをまとめるときには、駆動輪12と称することがある。着座部10は、使用者の腰部を支える座部10aと、使用者の背中を支える背もたれ部10cとを備える。
操作部14は、着座部10に着座している使用者が操作できるように、着座部10付近に設けられている。駆動輪12の回転中心は、ビークル1の前後方向において重心位置Gの直下またはその付近に配置されている。前輪15は駆動輪12の径よりも小さい径をもち、キャスターである。前輪15は左右に設けられているが、場合によっては車幅方向の中央に設けた単数でも良い。後輪17は駆動輪12よりも小さな径をもち、キャスターである。駆動輪12、または、車体11の左右方向にも移動可能なオムニホィールが例示されるが、これに限定されない。なお、後輪17は車幅方向の中央に配置されているが、車幅方向の左右に設けても良く、後輪17の数は特に限定されない。
図1(b)はビークル1が安定走行モード(第1モード)で走行している状態を示す。図1(d)はビークル1が前輪浮上モード(第2モード)で走行している状態を示す。図1(b)→図1(c)→図1(d)は、安定走行モードから前輪浮上モードに切り替える形態を示す。図1(d)→図1(c)→図1(b)は、前輪浮上モードから安定走行モードに切り替える形態とを示す。駆動輪12の着地点12cは、駆動輪12が路面90に接触している部位を示す。
なお、サポート部材16が路面90から離れる方向(矢印U方向)に回動する最大回動角度を規制する規制ストッパ11sが車体11に設けられている。このため、車体11の上部が後方に過剰に傾斜することは防止されており、車体11の後方への転倒は確実に防止されている。また規制ストッパ11sは、サポート部材16に設けられていても良い。
ビークル1は、通常時には、図1(b)に示すように、第1モードである安定走行モードで走行し、走行安定性を得る。安定走行モードは、駆動輪12、前輪15および後輪17を路面90に着地させることを目的として走行するモードである(場合によっては前輪15は路面90から微小量浮いても良い)。安定走行モードは、主として、安定走行、旋回性能の向上、斜面道での安定発進、斜面道での安定走行を意図することができる。
第2モードである前輪浮上モードは、図1(d)に示すように、前輪15を第1モードよりも路面90から充分に浮かせた状態で、駆動輪12および後輪17を路面90に着地させることを目的として走行するモードである。前輪浮上モードは、主として、安定走行モードでは走行できない凸部、溝の踏破、安定走行モードで発生する振動の低減、乗車姿勢のリクライニング効果を図り、乗り心地を改善させることを意図することができる。また安定走行モードによれば、重心位置Gは駆動輪12の着地点12c付近または着地点12cよりも前方に位置する。前輪浮上モードによれば、重心位置Gは駆動輪12の着地点12cよりも後方に位置する。ここで、重心位置Gは、使用者の体重を含むビークル1の全体(左右の駆動輪12を除く)の重心位置を意味する。このように2つの走行モードを1台のビークル1で実現することができる。
図2は、制御系のブロック図を示す。図2に示すように、制御装置2は安定走行モードと前輪浮上モードとを切り替える制御を行う。図2に示すように、制御装置2は、デジタルIO20と、インターフェース機能をもつAD変換器21と、カウンタ22と、単数または複数のCPU23と、インターフェース機能をもつDA変換器24と、インターフェース機能をもつデジタルIO25とを備える。デジタルIO20およびAD変換器21は、操作部14およびセンサ系からの信号が入力される。カウンタ22は、左の駆動輪エンコーダ55Lおよび右の駆動輪エンコーダ55Rからの信号が入力される。左の駆動輪エンコーダ55Lは、左の駆動輪12Lに対する角速度センサ、回転数センサ、ビークル1の速度センサ(走行速度検知器)として機能することができる。右の駆動輪エンコーダ55Rは、右の駆動輪12Rに対する角速度センサ、回転数センサ、ビークル1の速度センサ(走行速度検知器)として機能することができる。
駆動輪駆動系は、右の駆動輪モータ13R(第1駆動源)と、CPU23からの指令に基づき右の駆動輪モータ13Rを駆動するための右の駆動輪モータドライバ131と、左の駆動輪モータ13L(第2駆動源)と、CPU23からの指令に基づき左の駆動輪モータ13Lを駆動するための左の駆動輪モータドライバ132とを備えている。右の駆動輪モータドライバ131により右の駆動輪モータ13Rが制御され、右の駆動輪12Rの回転駆動が制御される。左の駆動輪モータドライバ132により左の駆動輪モータ13Lが制御され、左の駆動輪12Lの回転駆動が制御される。
操作部14は、着座部10に着座している着座者が操作し易いように、車体11のうち着座部10付近に保持されていることが好ましいが、車体11から分離するリモコン方式でも良い。操作部14は、安定走行モードと前輪浮上モードとを使用者等が切り替えるためのモード切替スイッチ141と、ビークル1の速度を使用者が指令する速度指令操作部142(例えばジョイスティック、目標走行速度設定手段)とを備えている。なお、速度指令操作部142を前方に傾けると、前進指令が出力され、後方に傾けると、後退指令が出力され、そして、傾き角度に応じて速度目標が増加する方式が採用されている。但し、この方式に限定されるものではない。
センサ系は、車体11に設けられたレートジャイロ52と、車体11に設けられた加速度計53と、右の駆動輪12Rの回転速度および/または回転角度を検知するために車体11に設けられた右の駆動輪エンコーダ55Rと、左の駆動輪12Lの回転速度および/または回転角度を検知するために車体11に設けられた左の駆動輪エンコーダ55Lと、サポート部材16の回動位置および/または傾斜角度を検知することにより車体11に対するサポート部材16の回動角度を検知するために車体11に設けられた回動角度センサ57(例えばポテンショメータ)とを備えている。各センサ、各エンコーダ55R,55Lの信号は、それぞれデジタルIO20、AD変換器21、カウンタ22を介して、制御装置2に入力される。
加速度計53は、ビークル1の車体11の前進後退方向における加速度、車体11の左右方向における加速度、車体11の上下方向における加速度をそれぞれ検知することができる。加速度計53の出力値は、ビークル1がピッチ方向に傾斜しているとき、重力加速度の影響で、ビークル1の重心位置Gのピッチ方向の傾斜角度θ1(図3参照)に応じた加速度を検知することができる。このため加速度計53は、前記した重心位置Gのピッチ方向の傾斜角度θ1(図3参照)を検知することができる。レートジャイロ52は、重心位置Gのピッチ方向の角速度、ロール方向の角速度を検知することができる。
このような加速度計53およびレートジャイロ52は、図3において、水平線に対する路面90の傾斜角度α、および/または、車体11のピッチ方向の傾斜角度θ1を求めるセンサとして機能することができる。ピッチ方向とは、ビークル1の前進方向(矢印Fx,Rx方向)において、駆動輪12の径方向の中心12eに対する傾斜角度を意味する。なお、駆動輪12の径方向の中心12eは、ピッチ方向の運動の中心であるピッチ軸に相当する。
図2に示すように、サポート部材16の回動姿勢を制御するブレーキ駆動系は、サポート部材16を作動させるために車体11に設けられたブレーキ装置18と、制御装置2からの指令に基づきブレーキ装置18を駆動させるブレーキ用駆動源19とを備えている。制御装置2からの指令は、右の駆動輪モータドライバ131、左の駆動輪モータドライバ132、ブレーキ用駆動源19に入力され、これらを制御する。
*ビークル1の後方への転倒に関する力学モデル
図4は、ビークル1の後方への転倒に関する力学モデルを示す。サポート部材16が矢印方向に自由に回動できる状態では、前進移動する車体11の加速度accが大きいとき、あるいは、昇り斜面を登るとき、ビークル1の車体11の上部が後方(矢印Rx方向)へ転倒するおそれがある。そこで、車体11の上部が後方(矢印矢印Rx方向)へ転倒するおそれがあるとき、ブレーキ装置18を自由形態から拘束形態に切り替える。これによりサポート部材16がその回動位置に拘束されてロックされ、補助輪である後輪17がその位置に拘束されてロックされる。このためビークル1が後方(矢印Rx方向)へ転倒するおそれが回避される。
*路面90の傾斜斜度αの検知(図5参照)
前述したように、車体11のピッチ方向の回転を検知するために、前後進の加速度accを検知する加速度計53と、ピッチ軸回りの角速度を検知するレートジャイロ52との二種類のセンサが車体11に取り付けられている。このような一方のセンサとしての加速度計53は、車体11が傾斜したときに変化する重力加速度を検知できる傾斜計として利用が可能であるが、前後進の加速度の影響を受けるため、それが誤差の要因となる。これに対して、他方のセンサとしてのレートジャイロ52は、積分することでピッチ角度に関する情報が得られるが、積分によるドリフトの累積誤差が問題となる。
そこで、図5に示すフィルタ処理を用いることにより、車体11の角度θ3(図4参照,基本的には、駆動輪12、前輪15および後輪17が着地している状態における路面90の傾斜角度αと等価)を精度良く求めることができる。
図2に示すように、ビークル1には、加速度計53(ビークル1の前進および後退方向における加速度を検知する)と、レートジャイロ52(ビークル1のピッチ方向の角速度を検知する)が搭載されている。図5において、accは、加速度計53から求めたビークル1の加速度の出力値を示す。θaccは、駆動輪回転角度センサ(つまりロータリエンコーダ55R,55Lの出力値を計算機で時間に関する差分により求めた車体11の加速度であり、前進後退方向におけるビークル1の加速度を示す。
そして図5に示すように、制御装置2は、一方のセンサとしての加速度計53から求めたビークル1の加速度の出力accに基づいて、重力加速度gを考慮し、sin−1(acc/g)の値(加速度計53で求めたθHLに相当)を求める。更にその値をローパスフィルタ(カットオフ周波数fc)によるフィルタリングにより高周波域のノイズを除去した値θHL1を求める。また、制御装置2は、他方のセンサとしてのレートジャイロ52の出力値である角速度θg(ドット)を時間積分した積分値(レートジャイロ52で求めたθHLに相当)を求め、その積分値をハイパスフィルタ(カットオフ周波数fc)によりフィルタリングにより低周波域のノイズを除去した値θHL2を求める。制御装置2はθHL1およびθHL2を加算し、θHL(θHL=θHL1+θHL2=θ3≒α)を求める。
上記したように加速度計53の出力値に基づくθHL1については、ローパスフィルタによりフィルタリングしている。これに対して、レートジャイロ52の出力値に基づくθHL2については、ハイパスフィルタによりフィルタリングしている。これは、高周波域で精度が充分ではない加速度計53と、低周波域で精度が充分ではないレートジャイロ52の時間に関する積分値とのそれぞれのセンサ特性を考慮しているためである。これにより低い周波数域〜高い周波数域においてθHLの検知精度を高めることができる。なお、ローパスフィルタのカットオフ周波数fcはハイパスフィルタのカットオフ周波数と同値である。
ここで、駆動輪12,前輪15および後輪17が路面90に実質的に着地しているときには、加速度計53およびレートジャイロ52で求められた角度θHLは、実際の路面90の傾斜角度αに相当する(α≒θHL)。このように2種類のセンサ、即ち、加速度計53の出力値とレートジャイロ52の出力値との双方を利用することにより、ビークル1が走行している実際の路面90の傾斜角度α(α≒θHL)を、角度θHLとして求めることができる。
ここで図4(側面視)に示すように、車体11の前進方向の加速度により発生する後方への転倒力をF2とする。重力をmgとして示す。転倒力F2と重力mgとの合成ベクトルをVとして示す。傾斜している路面90に対して直角方向をなすと共に重心位置Gを通過する仮想線をP4とする。ここで、合成ベクトルVと仮想線P4とのなす角度θt(図4参照)は、次の式(1)により求められる。
ここで、角度θt(図4参照)は、車体11の上部が後方に転倒する可能性を示唆する転倒可能性度に相当する。そこで、制御装置2は、式(1)に基づいて角度θtを求め、角度θtが転倒判定用の閾値を超えたら、制御装置2は、車体11が後方に転倒する可能性が高いと判定し、ブレーキ装置18をオンにして拘束形態とし、バー16の回動角度をその位置に拘束させてロックさせる。これにより車体11が後方に転倒する可能性が抑止される。
*駆動輪12のスリップ値
車体11の傾斜角度は前記した路面90の傾斜角度検知法(側面視である図4参照)で検知することが可能である。すなわち、ビークル1には、図2に示すように、加速度計53(ビークル1の前進および後退方向における加速度を検知する)と、レートジャイロ52(ビークル1のピッチ方向の角速度を検知する)が搭載されている。accは、加速度計53から求めたビークル1の加速度の出力値を示す。θaccは、駆動輪回転角度センサ(つまりロータリエンコーダ55,55Lの出力値を計算機で時間に関する差分により求めた加速度であり、前進後退方向におけるビークル1の加速度を示す。
下記の式(2)に基づいて駆動輪12のスリップ値が求められる。
そして、スリップ値がスリップ検知のための閾値acc−sを超えた場合には、制御装置2は、駆動輪12がスリップしていると判定することができる。ここで、式(2)によれば、加速度計53からの加速度出力acc[m/sec2]と車体ピッチ方向の重力加速度成分(gsinθHL)とを加算し、更に、駆動輪回転角加速度から求めた車体11の前後方向加速度θaccを減算することにより、スリップ値を求める。スリップ値がスリップ判定用の閾値よりも高くなると、駆動輪12がスリップしていると判定される。
例えば、図6に示すように、昇り斜面において、後方への転倒を抑えるため、転動ブレーキ装置18をオンにして拘束形態としたままビークル1が前進するとき、駆動輪12と溝98の溝底面99とが離れ、駆動輪12のスリップが発生することがある。この場合、制御装置2は、一時的にブレーキ装置18をオフとさせる。すると、駆動輪12は重力により下方に移動し、溝98の溝底面99に着地させ、スリップを解除させる。スリップが解除したら、後方への転倒を抑えるため、ブレーキ装置18をオンとし拘束形態とすることができる。転倒のおそれがないときには、ブレーキ装置18をオフとし自由形態とすることができる。
*通常走行時
ビークル1が通常走行するとき、ブレーキ装置18をオフとして自由形態とする。これにより車体11に対するサポート部材16の回動角度の変化を許容されるため、後輪17を路面90に着地させつつ、サポート部材16は枢支軸部16mを中心として矢印U,D方向に回動することができる。このようにビークル1が通常走行するとき、後輪17を路面90に着地させつつ、枢支軸部16m回りにおいてサポート部材16の回動角度を任意に変化させることができる。このようにビークル1が通常走行するとき、後輪17および前輪15を路面90に着地させつつビークル1が走行するので、車体11の走行安定性が確保される。
ビークル1が走行するとき、車体11の加速度はエンコーダ55R,55Lにより検知される。ピッチ角度は加速度計53とレートジャイロ52により検知される。車体11の加速度およびピッチ角度から、制御装置2は、上記した式(1)に基づいて、車体11の転倒可能性度に相当する角度θtを定量的に求める。車体11の転倒可能性度に相当する角度θtが転倒判定用の閾値を超えると、転倒のおそれがあるため、制御装置2はブレーキ装置18をオンして拘束形態とし、サポート部材16および後輪17を拘束させ、車体11に対するサポート部材16の回動角度をその位置に拘束する。これによりビークル1が後方へ転倒しそうなときであっても、サポート部材16の後輪17により転倒が効果的に抑えられる。
*昇り斜面を走行するときにおけるスリップ制御
図6に示すように、ビークル1が昇り斜面を走行するとき、転倒のおそれがあるときには、制御装置2がブレーキ装置18をオンとして拘束形態とし、サポート部材16および後輪17を拘束させ、車体11に対するサポート部材16の回動を拘束させる。これにより後輪17が路面90に確実に着地するため、ビークル1が昇り斜面を走行するときであっても、車体11の後方への転倒は抑えられる。しかし、このようにサポート部材16の回動を拘束させている場合には、車体11の後方への転倒は抑えられるものの、次のような不都合が発生する。すなわち、図6に示すように、おおきな凹状の溝98が昇り斜面に形成されている場合には、サポート部材16が拘束されて後輪17の矢印U,D方向への変位が阻止されているため、前輪15および後輪17が路面90に着地するものの、駆動輪12の外周部が溝98の溝底面99よりも浮遊してスリップして駆動輪12が空転することがある。この場合、図6に示すように、駆動輪12の駆動力が路面90に伝達されず、ビークル1は前進できない。
そこで、車体11が昇り斜面を登っていること、且つ、駆動輪12がスリップしていることを制御装置2が検知すると、制御装置2は、ブレーキ装置18をオフとし、サポート部材16を自由形態とし、車体11に対するサポート部材16および後輪17の拘束を解除させる。これにより重力により駆動輪12が下方に移動して溝98の溝底面99に着地するため、駆動輪12のスリップが解消される。
この場合、上記した式(2)に基づいて、制御装置2はスリップ値を求め、スリップ値に基づいて駆動輪12のスリップの有無を検知する。駆動輪12のスリップを検知したら、制御装置2がブレーキ装置18をオフとし、サポート部材16および後輪17を自由形態とし、車体11に対するサポート部材16の回動角度の変化を許容する。これにより重力により駆動輪12が下方に移動し路面90(溝98の溝底面99)に着地するため、駆動輪12のスリップが解消される。駆動輪12のスリップが解消されたら、制御装置2は、車体11が転倒するおそれがあるときにおいて、ブレーキ装置18をオンして拘束形態とし、サポート部材16を拘束させ、車体11に対するサポート部材16の回動角度をその位置に拘束させることができる。車体11が転倒するおそれがない場合には、ブレーキ装置18をオフして自由形態とし、サポート部材16の自由回動性を許容することができる。
*凸部昇り時におけるブレーキ制御
図7の(1)に示すように、後輪17、前輪15および駆動輪12が路面90に着地した状態でビークル1が前進する安定走行モードしているとき、制御装置2はブレーキ装置18をオフとして自由形態とし、サポート部材16の回動を自由としている。この場合、後輪17は路面90に着地するように付勢されている。図7の(2)に示すように、ビークル1が前進して前輪15が凸部95の先端95eにあたると、車速が著しく低下すると共にモータ電流が急激に増加することを制御装置2が検知する。これにより制御装置2は前方の凸部95の先端95eに前輪15が衝突したことを検知する。この場合、ブレーキ装置18はオフされてサポート部材16は自由形態とされている。モータ13の駆動力または着座部10に着座している使用者の体重移動などにより、車体11の上部が後方(矢印Rx方向)に適宜傾斜し、前輪15の浮上度が増加するため、図7の(3)に示すように、前輪15が凸部95の上面96に乗り上げることができる。
図7の(3)に示すように、前輪15が凸部95の上面96に乗り上げると、モータ電流が急激に減少するため、制御装置2は、前輪15が凸部95の上面96に乗り上げたことを検知することができる。
図7の(3)に示すように、駆動輪12が凸部95の先端95eに衝突すると、走行抵抗が増加するため、モータ電流が再び増加する。これにより制御装置2は駆動輪12が凸部95に衝突したことを検知することができる。駆動輪12が凸部95の上面96に乗り上げると、車体11は水平となり、車体11の傾きは抑制されるため、車体11の後方への転倒は回避される。ここで、駆動輪12が凸部95の上面96に乗り上げることは、車体11が水平状態に近くなること、増加したモータ電流が再び減少することにより、制御装置2は検知する。このように図7の(4)(5)(6)に示すように、駆動輪12が凸部95の上面96に乗り上げることが検知されると、転倒のおそれが低減されるため、制御装置2はブレーキ装置18をオフとしてサポート部材16は自由形態とされる。その後、制御装置2はブレーキ装置18のオフを継続してサポート部材16の自由形態を継続する。これにより後輪17、前輪15および駆動輪12を路面90に着地させた状態で、ビークル1は凸部95の上面96を走行できる。
但し、前輪15が凸部95の先端95eに衝突するとき、凸部95の高さH1が高いときには、前輪15が凸部95を乗り越えられないことがある。この場合、制御装置2は、車体11の転倒判定用の閾値を緩和させる。緩和方向は、車体11の上部の後方への傾きを増加させる方向である。このように転倒判定用の閾値が緩和されるため、車体11の上部は更に後方に傾くことができる。このため転倒可能性は少し高くなるものの、前輪15が路面90から更に浮上するため、図7の(3)に示すように、前輪15は凸部95の上面96に乗り上げることができる。このためビークル1は凸部95を乗り越えられ易くなる。但し、閾値の緩和度には限界値が設定されており、その限界値を超える程には車体11の上部を後方に過剰に傾斜させることが禁止されている。このため車体11の転倒抑制に貢献できる。
なお凸部95の乗り超えを優先させているため、転倒判定用の閾値を緩和させているものの、何らかの障害によりサポート部材16が閾値を超えて回動しても、前述したように、サポート部材16の最大回動角度を規制する規制ストッパ11sが設けられているため、サポート部材16が規制ストッパ11sに当たると、サポート部材16はそれ以上回動できず、車体11の上部が後方に過剰に傾斜することは確実に防止されており、車体11の後方への転倒は確実に防止されている。
更に、駆動輪12が凸部95の先端95eに衝突するとき、凸部95の高さH1が高いときには、駆動輪12が凸部95を乗り越えられないことがある。この場合においても、制御装置2は、車体11の転倒に関する閾値を緩和させる。閾値の緩和方向は、車体11の上部の後方への傾きを増加させる方向である。このように車体11の上部の後方への傾きを増加させる方向に閾値が緩和されるため、車体11の上部は更に後方に傾くことができる。このため駆動輪12が凸部95の上面96に乗り上げることができる。このためビークル1は凸部95を乗り越えられ易くなる。但し、この場合においても、閾値の緩和度には限界値が設定されており、その限界値を超える程には車体11の上部を後方に過剰に傾斜させることが禁止されている。このため車体11の転倒抑制に貢献できる。
*凸部95昇り時における前輪15の持ち上げ制御
図8は、ビークル1が凸部95を昇るときにおける前輪浮上モードを示す。図8に示すように、凸部95が駆動輪12の前方に位置すると共に路面90よりも上方に突出している。この場合、制御装置2はブレーキ装置18をオフしつつ、後輪17、前輪15および駆動輪12が路面90に着地しているようにビークル1が走行している。このように駆動輪12が凸部95が昇るとき、制御装置2は、ブレーキ装置18をオフに維持してサポート部材16を自由形態に維持する。そして、ビークル1に着座している使用者は、自らの意思により、車体11の走行速度を加速させる指令をモータ13R,13Lに出力する。これにより車体11の走行速度が増加するため、加速度により車体11の上部を後方に傾斜させつつ、前輪15を積極的に路面90から浮上させる前輪浮上モード(図8の(2)参照)とさせる。このため前輪15が凸部95に衝突することなく、駆動輪12は凸部95を走行することができる。この場合、前輪15を路面90から浮上させる前輪浮上モードとするため、車体11の上部が後方に傾斜するが、前述したようにサポート部材16の最大回動角度を規制する回動ストッパ11sが設けられているため、車体11の後方への傾斜が過剰になることが抑制される。
*凹状の溝98走行時におけるブレーキ制御
図9は、凹状の溝98の走行時におけるブレーキ制御を示す。溝98が駆動輪12の前方に位置すると共に路面90よりも下方に凹んでいる。制御装置2はブレーキ装置18をオフしつつ、後輪17、前輪15および駆動輪12が路面90に着地しているようにビークル1が走行している。前進する前輪15が溝98に嵌りそうなとき、制御装置2は、ブレーキ装置18をオフに維持してサポート部材16を自由形態に維持する。そして、ビークル1に着座している使用者は、自らの意思により、車体11の走行速度を加速させる指令をモータ13R,13Lに出力する。これにより図9の(2)に示すように、車体11の上部を後方に傾斜させつつ、前輪15を積極的に路面90から浮上させる前輪浮上モードとさせる。このため前輪15が溝98に嵌ることなく、ビークル1は溝98を走行することができる。溝98の走行を終了したら、ビークル1に着座している使用者は、車体11の走行速度を減速させる指令をモータ13R,13Lに出力する。これにより車体11の上部の後方への傾斜が戻り、前輪15を路面90に着地させることができる。そして、後輪17、前輪15および駆動輪12が路面90に着地している安定走行モードでビークル1は走行できる。このため前輪15が溝98に嵌ることなく、ビークル1は溝98を走行することができる。このようにビークル1に着座している使用者の意思により、安定走行モードおよび前輪浮上モードを切り替えることができる。なお、後輪17が溝98に落ちたとしても、ビークル1の走行により後輪17は溝98から脱出できる。なお、本実施例においても、安定走行モードによれば、重心位置Gは駆動輪12の着地点12c付近または着地点12cよりも前方に位置することができる。前輪浮上モードによれば、重心位置Gは駆動輪12の着地点12cよりも後方に位置することができる。
(実施例2)
図10〜図12は実施例2を示す。本実施例はビークル1としての電動式の車いす1Bに適用している。本実施例は実施例1と同様の構成および作用効果を有する。実施例1に共通する部位には共通の符号を付する。図10に示すように、ビークル1としての車いす1Bは、使用者が着座する着座部10およびバッテリ11wをもつ車体11と、車体11に左右に取り付けられた回転可能な左右の駆動輪12と、駆動輪12を回転駆動させる駆動源としての駆動輪モータ13と、駆動輪モータ13の駆動を制御する操作部14と、駆動輪12の前方に位置して車体11に取り付けられた回転可能な左右の前輪15と、車体11に取り付けられたサポート部材16としてのサポート部材16と、サポート部材16の先端部16eに保持部16hを介して取り付けられた回転可能な後輪17とを備えている。
サポート部材16の基端部16fは枢支軸部16mに接続されており、サポート部材16は枢支軸部16mを中心として上下方向(矢印U,D方向)に回動可能とされている。更にブレーキ装置18が姿勢調整要素として設けられている。ブレーキ装置18は自由形態と拘束形態とに切り替え可能である。ブレーキ装置18が自由形態であるとき、車体11に対するサポート部材16の矢印U方向,矢印D方向への回動角度の変化を許容する。ブレーキ装置18が拘束形態であるとき、車体11に対するサポート部材16の回動角度(枢支軸部16m回りの回動角度)の変化を拘束してロックする。
図10,図11に示すように、サポート部材16の長さ方向の中間部16rと車体11のうち着座部10付近の部位11yとの間には、付勢要素200が装備されている。付勢要素200は、サポート部材16を路面90に向けて付勢し、ひいては、補助輪である後輪17を路面90に着地させる方向(矢印D方向)に付勢するものであり、気体バネを形成する気体を封入した気体ダンパーで形成されている。
図11は分解図を示す。図11に示すように、車体11は、第1フレーム11fを有する。第1フレーム11fには、軸孔112をもつ取付ブラケット111が設けられている。サポート部材16の長さ方向の端部には、軸芯PAをもつ枢支軸部16mが水平軸状で設けられている。そしてサポート部材16の枢支軸部16mに第1フレーム11fの取付ブラケット111の軸孔112を嵌合すると共に、取付ブラケット111の複数の取付孔115にブレーキ装置18を螺子止めすることにより、ブレーキ装置18を車体11およびサポート部材16に取り付けている。ここで、ブレーキ装置18がオン作動されると、サポート部材16の回動を拘束させてロックさせる。ブレーキ装置18がオフ作動されると、サポート部材16は任意に回動できる。
更に、補助輪である後輪17を路面90に着地させる方向に付勢する付勢要素200が設けられている。付勢要素200は、基体201と、基体201に対して伸縮可能な作動ロッド202とを有する。作動ロッド202の先端部は取付具203を介してサポート部材16の長さ方向の中間部16rに揺動可能に枢支されている。更に、サポート部材16の枢支軸部16mの軸芯PA回りの回動角度を検知する回動角度センサ57が枢支軸部16m付近に第2取付ブラケット111sを介して設けられている。
図12に示すように、付勢要素200は、気体等の流体が封入された流体封入室204を形成する筒形状をなす基体201と、基体201の流体封入室204を第1室205と第2室207とに仕切ると共にシール208aをもつ仕切部材としてのピストン208と、第1室205および第2室207を連通させるようにピストン208に形成された絞り孔209と、ピストン208を作動させるようにピストン208に連設された作動部としての作動ロッド202とを備えている。第1室205の流体圧は、ピストン208および作動ロッド202を路面90に向けて付勢する方向(矢印D方向)に付勢するため、後輪17は路面90にスプリング的に着地できる。第1室205の流体は、絞り孔209を介して第2室207に移動可能となる。このように付勢要素200は、後輪17が路面90に着地するように作動ロッド202を矢印D方向に着地させるものである。
後輪17から作動ロッド202に荷重(矢印U方向)が作用すると、作動ロッド202がこれの長さ方向(矢印U方向)に沿って移動し、第1室205の容積が小さくなると共に第1室205の流体圧が増加するため、後輪17の着地に対してクッション作用を果たす。このように第1室205の容積が小さくなり、第1室205の流体圧が増加すると、第2室207の容積が大きくなると共に第2室207の流体圧が減少し、第1室205および第2室207の差圧に基づいて、増圧した第1室205の流体が減圧した第2室207に向けて絞り孔209を介して少量ずつ移動する。この場合、流体が絞り孔209を少量ずつ通過するときの絞り抵抗により、ピストン208の移動速度は規制されると共に、第1室205の流体及び第2室207の流体により流体クッション性がサポート部材16に得られる。この場合、補助輪である後輪17は、路面90に着地するように付勢されている。このように付勢要素200によれば、第1室205および第2室207の双方に流体が封入されているため、流体バネを実現できる。流体が空気等の気体であれば、気体クッションバネが実現できる。流体がオイルの液体であれば、液体クッションバネが実現できる。
(実施例3)
図13は実施例3を示す。本実施例は前記した実施例とは基本的には同様の構成および同様の作用効果を奏するため、図1〜図11を準用できる。本実施例は、調整機構としてのブレーキ装置18が付勢要素200Bに装備されている点が異なる。図13は、本実施例に係る付勢要素200Bの内部構造の一例を示す。図13に示すように、付勢要素200Bは、気体等の度の流体が封入された流体封入室204を形成する基体201と、基体201の流体封入室204を第1室205と第2室207とに仕切ると共にシール208aをもつ仕切部材としてのピストン208と、第1室205および第2室207を連通させるようにピストン208に形成された絞り孔209と、絞り孔209の絞り度合を調整する開閉部としてのバルブ210と、アクチュエータバネ212と、ソレノイドで形成されたブレーキ装置18Bとを備えている。バルブ210は、絞り孔209を開閉するバルブ本体210aと、バルブ本体210aに連設された軸部210cとを有する。アクチュエータバネ212は、絞り孔209からバルブ本体210aが離間して絞り孔209が常に開放するように、軸部210cを矢印D4方向に付勢している。
ブレーキ装置18Bを構成するソレノイドがオンされて拘束形態とされると、軸部210cがこれの長さ方向(図13に示す矢印D5方向)に移動し、バルブ210が絞り孔209を閉鎖する。この場合、流体が第1室205と第2室207との間を移動することが防止され、ピストン208および作動ロッド202その現在位置に拘束されてロックされる。これがブレーキ装置18Bの拘束形態である。
これに対して、ブレーキ装置18Bのソレノイドがオフの状態であれば、アクチュエータバネ212の付勢力により軸部210cがこれの長さ方向(図13に示す矢印D4方向)に移動し、バルブ本体210aが絞り孔209を開放し、ロックが解除される。これがブレーキ装置18Bの自由形態である。
このようにブレーキ装置18Bが自由形態であるときには、第1室205および第2室207の流体は絞り孔209を介して流動可能となる。このため、後輪17から作動ロッド202に荷重(図13に示す矢印FH方向)が作用すると、作動ロッド202がこれの長さ方向(矢印D4方向)に沿って移動し、第1室205の容積が小さくなると共に第1室205の流体圧が増加し、第2室207の容積が大きくなると共に第2室207の流体圧が減少し、第1室205および第2室207の差圧に基づいて、増圧した第1室205の流体が減圧した第2室207に向けて絞り孔209を介して少量ずつ移動する。この場合、流体が絞り孔209を少量ずつ通過するときの絞り抵抗により、ピストン208の移動速度は規制されると共に、第1室205の流体及び第2室207の流体により流体クッション性がサポート部材16に与えられる。このように第1室205および第2室207の双方に流体が封入されているため、流体バネを実現できる。流体が空気等の気体であれば、気体クッションバネが実現できる。流体がオイルの液体であれば、液体クッションバネが実現できる。
(実施例4)
図14は実施例4を示す。本実施例は電動式の車いす1Cに適用している。本実施例は実施例1と同様の構成および作用効果を有する。実施例1に共通する部位には共通の符号を付する。図14に示すように、車いす1Cは、フットレスト111,アームレスト112およびハンドル113をもつ車体11に取り付けられたサポート部材16と、サポート部材16の先端部16eに保持部16hを介して取り付けられた回転可能な後輪17と、サポート部材16を路面90に対して付勢させることにより、後輪17を路面90に対して着地させる捻りコイルバネ188(付勢要素)とを備えている。捻りコイルバネ188は、サポート部材16の基端部16fを付勢させ、ひいてはサポート部材16に装備されている後輪17を路面90に向けて下方(矢印D方向,着地方向)に付勢する付勢部材として機能しており、後輪17の路面90に対する着地性を高めている。
本実施例においても、前輪15が路面90よりも浮上して前輪浮上モードになるときには、重心位置Gが駆動輪12の着地点12cよりも後方となるため、車体11が後方に傾斜する。この場合、サポート部材16は、車体11のフレーム11xに取り付けられた規制ストッパ11sに当たると、車体11の上部が後方(矢印Rx方向)に傾くことが規制される。従って、車体11の上部が後方(矢印Rx方向)に傾かないように、サポート部材16はロックされ、サポート部材16の回動は拘束される。故に、サポート部材16がそれ以上、矢印U方向に上昇回動することは抑えられる。このように捻りコイルバネ188は、サポート部材16を路面90に向けて作動させて後輪17を路面90に対して着地させる機能を備えている。なお、捻りコイルバネ188に限らず、コイルバネ、板バネ、皿バネなどの付勢部材でも良い。
(実施例5)
本実施例は実施例1と同様の構成および作用効果を有する。本実施例は実施例1と同様の構成および作用効果を有するため、図1を準用する。以下、本実施例に係る制御装置2が実行する各制御項目について説明する。
*安定走行モードの走行から前輪浮上モードの走行へ切替える制御
安定走行モードでは、図1に示すように、ビークル1は、駆動輪12、前輪15および後輪17の全輪を路面90に着地しつつ走行しており、走行安定性が高い。これに対して、前輪浮上モードでは、ビークル1は、前輪15を路面90から浮かせた状態で、駆動輪12および後輪17を路面90に着地しつつ走行する。前輪浮上モードでは、安定走行モードよりも前輪15が路面90から浮上しているため、走行中のビークル1の前方に凸部が存在していたとしても、ビークル1は凸部95を乗り越え易い。
さて、本実施例によれば、次に示す(i)(ii)の双方の条件が満足される場合において、操作者(一般的には着座している使用者)等によりモード切替スイッチ141を一定時間連続的にまたは断続的に操作されると、制御装置2は、モードを安定走行モードから前輪浮上モードへ自動的に切替える。モード切替スイッチ141の一定時間の操作を条件としたのは、モード切替スイッチ141の押し間違い、速度指令操作部142(例えばジョイスティック)の誤操作などによる意図に反して予期しない前輪浮上モードへの移行が生じないようにするためである。ビークル1の前進走行速度が速ければ、使用者の体重を含めたビークル1の全体(左右の駆動輪12を除く)の重心位置Gが駆動輪12の着地点12cよりも後方に移動し易くなり、前輪15が路面90から浮上し易くなり、安定走行モードから前輪浮上モードとなり易い。
(i)前進走行速度Vが設定速度以上であること
(ii)速度指令操作部142(例えばジョイスティック)による前進速度の目標値Vtargetが一定値以上であること
逆に、前輪浮上モードから安定走行モードへは、モード切替スイッチとして機能するモード切替スイッチ141が一定時間、連続的または断続的に操作された場合には、制御装置2は、ビークル1の移動速度に依存することなく、前輪浮上モードから、走行安定性が高い安定走行モードへ直ちに移行させる。この場合、実際の前進走行速度、前進速度の目標値に依存しない。
ところで、図1の(a)に示すように、安定走行モードで走行しているとき、安定走行モードから前輪浮上モードへ移行させるためには、使用者の体重を含めたビークル1の全体(左右の駆動輪12を除く)の重心位置Gが駆動輪12の着地点12cよりも後方に来るような駆動トルクを与えることが好ましい。同時に、車体11の後方への傾倒を確保すべく、後輪17を路面90に着地させつつ、サポート部材16の回動の自由性を高める指令、即ちブレーキ装置18を自由形態とする指令を出力する。その結果、ビークル1全体が前方に進みながら後方に傾倒し(一般的には、後輪17を路面90に着地させつつ)、前輪浮上モードに移行する。
このように安定走行モードから前輪浮上モードに移行する場合、左右の駆動輪12で発生する駆動トルクTは、次の式(3)で計算されるトルク以上とする。
図15は、式(3)で用いられるパラメータを示す。図15および式(3)において、Gは、使用者の体重を含むビークル1(駆動輪12を除く)の重心位置を示す。図3に示すように、P1は、駆動輪12の中心12e(ピッチ運動の中心であるピッチ軸)を通る鉛直線を示す。θ1は、使用者の体重を含むビークル1の重心位置Gが駆動輪12の中心12e(ピッチ軸に相当)に対してピッチ方向(前方,プラス側)へ傾斜しているピッチ方向傾斜角度(駆動輪12の中心12eを通る鉛直線P1に対するピッチ方向傾斜角度)を示す。θ3(図4参照)は、ビークル本体11が駆動輪12の中心12e(ピッチ軸に相当)に対してピッチ方向(後方,マイナス側)へ傾斜している傾斜角度である。
図15において、P2は、ビークル1の重心位置Gと駆動輪12の中心12eとを通る仮想線を示す。M1は、使用者(人間)の体重を含むビークル1(駆動輪12を除く)の質量を示す。J1は、使用者(人間)の体重を含むビークル1(駆動輪12を除く)の重心位置G回りの慣性モーメントを示す。M2は、左右の駆動輪12の質量の合計を示す。J2は、重心位置G回りの駆動輪12の慣性モーメントを示す。Lは、重心位置Gと駆動輪12の中心12eとの距離(仮想線P2と平行な距離)を示す。Rは、駆動輪12の半径を示す。Tは左右の駆動輪12R,12Lの合計の駆動トルクを示す。gは重力加速度を示す。αは、水平線に対する実際の路面90の傾斜角度を示す。αは、凸部の踏破時における凸部の傾斜も含む。なお、路面90の傾斜角度αが正値で大きくなることは、路面90が昇り斜面となることを意味する。
ピッチ方向傾斜角度θ1(鉛直線P1に対してプラス側)は、車体11に設けられた加速度計53の出力値およびレートジャイロ52の出力値の積分値に基づいて求められる。具体的には、ピッチ方向傾斜角度θ1はθHLと同じものであり、θHLの場合と同様に、図5に示すように、制御装置2は、レートジャイロ52の出力値である角速度θg(ドット)を時間積分した積分値(レートジャイロ52で求めたθHLに相当)を求め、その積分値をハイパスフィルタ(カットオフ周波数fc)によるフィルタリングにより低周波域のノイズを除去した値θHL2を求める。制御装置2はθHL1およびθHL2を加算し、θHL(θHL=θHL1+θHL2)=θ1を求める。
ここで、ビークル1の重心位置Gとは、使用者が着座部10に着座しているとき、使用者の体重を含めたビークル1の全体(但し、左右の駆動輪12を除く)の重心をいう。使用者が着座部10に着座しているとき、ビークル1の全体の重心位置Gは、前後方向において、左右の駆動輪12の着地点12c近傍にある。ここで、θ1,αはそれぞれ大きな角度ではない。このため、便宜上、sinθ1≒θ1、cos(θ1+α)≒(1−(θ1+α))≒1と取り扱うことができるため、式(3)に対して、次の式(4)のように線形近似を行うことが可能である。
ここで、制御装置2が安定走行モードから前輪浮上モードへ移行させるにあたり、式(4)において、M1,M2,R,J1、J2、L,gはほぼ固定値であると推定できる。このため、式(4)によれば、ビークル1の全体の重心位置Gの傾斜角度θ1および路面90の傾斜角度αが増加するにつれて、左右の駆動輪12に発生する駆動トルクTを増加させる必要がある。このように駆動トルクTを増加させれば、使用者の体重を含めたビークル1の全体(左右の駆動輪12を除く)の重心位置Gが駆動輪12の着地点12cよりも前方(鉛直線P1よりも前方)から、後方(鉛直線P1よりも後方)に容易に移動することができ、ビークル1を走行させつつ、前輪15を路面90から浮上させることができる。
ここで、傾斜角度θHLは、ビークル1のピッチ軸(具体的には、駆動輪122の中心12e)回りに取り付けられたレートジャイロ52の出力値と、前後進方向の加速度計53の出力値とから、前述の図5に示す手法により演算で求めて算出する。従って、レートジャイロ52および加速度計53は、路面90の傾斜角度αを検知する路面90の傾斜角度センサ、および/または、ビークル1の重心位置Gのピッチ方向へのピッチ方向傾斜角度θ1を検知するピッチ方向傾斜角度検知センサとして機能することができる。
ここで、上記した式(4)を考慮し、実用的には、下記の式(5)のようなトルクを左右の駆動輪12R,12Lで発生させれば、安定走行モードから前輪浮上モードへの確実なモード移行を実現することができる。従って安定走行モードから前輪浮上モードに切り替えるに当たり、制御装置2は駆動トルクTを演算またはマップから求める。駆動トルクTは、安定走行モードから前輪浮上モードに切り替えるための駆動トルクである。駆動トルクT以上のトルクが駆動輪12R,12Lに与えられると、ビークル1は安定走行モードから前輪浮上モードに切り替えられる。
上記した式(5)において、Tcは、摩擦等の補償トルクを示す。Kpは、ピッチ方向傾斜角度θ1に関するフィードバックゲインを示す。θtは、ビークル1の重心位置Gのピッチ方向の目標角度を示し、ビークル1に応じて予め設定されている固定値である。
ここで上記した式(5)において、M1,M2,J1,J2,L,Rは固定値またはほぼ固定値と推定できる。このため上記した式(5)によれば、左右の駆動輪12に与えられる駆動トルクTは、路面90の傾斜角度αおよびピッチ方向傾斜角度θ1に基づいて求められる。従って、駆動トルクTは、ピッチ方向傾斜角度θ1が大きくなるほど増加し、路面90の傾斜角度αが増加するほど増加する。従って、安定走行モードから前輪浮上モードへ切り替えるにあたり、制御装置2は、ピッチ方向傾斜角度θ1および路面90の傾斜角度αを求め、式(5)に基づいて駆動トルクTを設定し、制御装置2は、駆動輪12に与えられる駆動トルクがTとなるようフィードバック制御する。これにより前輪浮上モードで安定的に走行できる。
上記した式(3)〜式(5)によれば、ピッチ方向傾斜角度θ1が増加するにつれて、路面90の傾斜角度αが増加して路面90が登り勾配が急になるにつれて、左右の駆動輪12に発生する駆動トルクTを増加させる必要がある。ここで、式(3)〜式(5)における駆動トルクTは、左右の駆動輪12の総和である。よってビークル1が安定走行モードから前輪浮上モードに切り替わるとき、左の駆動輪12の駆動トルクはT/2であり、右の駆動輪12の駆動トルクはT/2である。
なお、式(3X)は路面90の傾斜角度αが0のとき、上記した式(3)に相当する。式(5X)は路面90の傾斜角度αが0のとき、上記した式(5)に相当する。上記したような式によれば、路面90の傾斜角度αが0のときには、ピッチ方向傾斜角度θ1が増加するにつれて、制御装置2は、左右の駆動輪12に発生する駆動トルクTを増加させる必要がある。なお、式(5X)において、前述同様に、Tcは、摩擦等の補償トルクを示す。Kpは、ピッチ方向傾斜角度θ1に関するフィードバックゲインを示す。
*ところで、万が一、ビークル1が安定走行モードで走行しているとき、安定走行モードから予期せぬ前輪浮上モードへの移行が発生したりすることがある。また、安定走行モードから前輪浮上モードへの移行中に危険な状態に陥ったりする場合には、操作部14(ジョイスティック等)による人間の意図的な動作(反対方向への目標速度指令など)により、その場で、制御装置2は、左右の駆動輪12の駆動を止める指令を出力すると共に、サポート部材16を拘束状態に切り替えて後輪17の着地性を高める指令を出力することにより、モードを安定走行モードに戻す。これによりビークル1は前輪浮上モードから安定走行モードに安定的に戻ることができる。
なお、安定走行モードから前輪浮上モードに切り替えるにあたり、上記した(i)および(ii)の条件を満足させることにしているが、場合によっては、(i)および(ii)のうちのいずれか一方のみとしても良い。
*前輪浮上モード及び安定走行モードのそれぞれにおける安定走行のためのトルク制御
前輪浮上モード及び安定走行モードにおいてビークル1を安定走行させるためには、右の駆動輪12Rの駆動トルクがTRに維持されるように、且つ、左の駆動輪12Lの駆動トルクがTLに維持されるように、駆動輪12R,12Lについてそれぞれ独立にフィードバック制御を行う。これにより左右の駆動輪12R,12Lに対して独立に回転数の制御を行う。ここで、式(6)に示されるTRは、安定走行のための右の駆動輪12Rの駆動トルクを示す。式(7)に示されるTLは、安定走行のための左の駆動輪12Lの駆動トルクを示す。
ここで、式(6)(7)において、θRは右の駆動輪12Rの回転角度を示す。θLは左の駆動輪12Lの回転角度を示す。回転角度θR,θLの微分は角速度θ(ドット)R,θ(ドット)Lとなる。θ(ドット)R−refは、右の駆動輪12Rの角速度の目標値を示し、操作部14の速度指令操作部142(ジョイスティック等)を介して使用者により随時変更される。また、θ(ドット)L−refは、左の駆動輪12Lの角速度の目標値を示し、操作部14の速度指令操作部142(ジョイスティック等)を介して使用者により随時変更される。式(6)(7)において、θR等に付されているドットは時間による微分値を意味する。なお、θRは、右の駆動輪エンコーダ55Rにより求められる。θLは、左の駆動輪エンコーダ55Lにより求められる。θRドットとθLドットは計算機上での時間による差分により求められる。なお、θRドットとθLドットは、エンコーダではなくタコジェネレータ等の角速度センサにより求めても良い。
上記した式(6)によれば、右の駆動輪12Rの駆動トルクTRは、右の駆動輪12Rについて、角速度θR(ドット)と角速度目標値θR(ドット−refとの差に基づいて、または、回転角度θRと角速度目標値の積分値(時間積分)との差に基づいて求められる。また、上記した式(7)によれば、左の駆動輪12Lの駆動トルクTLは、左の駆動輪12について、角速度θL(ドット)と角速度目標値θ(ドット)L−refとの差に基づいて、または、回転角度θLと角速度目標値の積分値(時間積分)との差に基づいて求められる。なお、時間積分の基準となる時間は、予め任意に設定された単位時間、速度指令操作部142(ジョイスティック等)の操作時間に基づく。
なお、上記した式(6)(7)において、右の駆動輪12Rの角速度フィードバックゲインKVR、左の駆動輪12Lの角速度フィードバックゲインKVL、右の駆動輪12Rの角度フィードバックゲインKPR、左の駆動輪12Lの角度フィードバックゲインKPLはそれぞれ、実験的に適宜求められ、任意値とする。上記したように式(6)(7)によれば、右の駆動輪12Rの駆動トルクTRは、右の駆動輪12の回転角度θRに基づいて求められる。左の駆動輪12Lの駆動トルクTLは、左の駆動輪12の回転角度θLに基づいて求められる。
*ところで、ビークル1が前輪浮上モードで走行しているとき、図1の(d)のように、使用者の重心位置Gが駆動輪12の着地点12cに近い位置にある。このため、ビークル1の急停止や急後退などのときには、あるいは、使用者の重心移動などにより、車体11が前方に傾いたり、サポート部材16に取り付けられている後輪17が浮上したりするおそれがある。さらに、ビークル1が安定走行モードで走行しているときにおいても、サポート部材16が短く、かつ、登り傾斜面で急発進する場合などには、ビークル1の姿勢安定性が損なわれ、ビークル1が後方へ過剰傾倒するおそれがある。
上記した事情を考慮すると、ビークル1が前輪浮上モードで走行しているとき等、通常の操作部14(例えばジョイスティック)の急激な操作による急停止や急後退を抑えることが好ましい。このため制御装置2は、操作部14の速度指令操作部142(例えばジョイスティック)の操作による入力信号(速度指令値)に対して、ソフトウェア上で、ローパスフィルタ(フィルタ部)をかける。これにより、カットオフ周波数fよりも低い周波数域の入力信号のみを入力させ、操作部14の速度指令操作部142の急激な操作によりビークル1が急停止したり、急後退したり、ビークル1の姿勢が過剰に傾倒することを抑制する。
換言すると、制御装置2は、操作部14の速度指令操作部142による入力信号(速度指令信号)のうち所定のカットオフ周波数fよりも高い高周波成分をカットし、操作部14の速度指令操作部142による入力信号のうち所定のカットオフ周波数fよりも低い低周波成分を選択する。つまり、制御装置2は、速度指令操作部142の入力信号(速度指令信号,右の駆動輪12Rに対する角速度目標値θR(ドット)ーref,左の駆動輪12Lに対する角速度目標値θL(ドット)ーref)をローパスフィルタによりフィルタリングする。これにより右の駆動輪12Rの速度目標値(角速度目標値θR(ドット)−ref−LP)と、左の駆動輪12Lの速度目標値(角速度目標値θL(ドット)−ref−LP)とを決定する。このように操作部14による入力信号(速度指令信号)のうち所定のカットオフ周波数fよりも高い高周波成分をカットしている。このため、操作部14の速度指令操作部142が急激に操作されるときであっても、例えば前輪浮上モードにおいてビークル1を安定走行させることができる。
図16は、右の駆動輪12Rおよび左の駆動輪12Lの角速度目標値をローパスフィルタによりフィルタリングすることを示す。図16によれば、右の駆動輪12Rの角速度目標値θR(ドット)−refは、ローパスフィルタでフィルタリングされ、角速度目標値θR−ref−LPとなる。また、左の駆動輪12Lの角速度目標値θL(ドット)−refは、ローパスフィルタでフィルタリングされ、角速度目標値θL(ドット)−ref−LPとなる。
*カットオフ周波数fの調整制御
上記した場合、ローパスフィルタによるフィルタリングのカットオフ周波数fについては、制御装置2は、水平線に対する路面90の傾斜角度αを求め、路面90の傾斜角度αの大きさに応じて、下記のようにフィルタリングのカットオフ周波数fを決定することが好ましい。ここで、ビークル1が前輪浮上モードで前進しているとき、操作部14の速度指令操作部142(例えばジョイスティック)の操作により後退速度が速くなるように急激に入力操作されると、ビークル1が慣性力により前方に過剰傾倒し、前輪浮上モードが維持できないおそれがある(第1の場合)。また、ビークル1が3輪及び安定走行モードにて移動(前進および後退を含む)しているとき、操作部14により前進速度が速くなるように急激に入力操作されると、バー16の長さが短いとき等には、慣性力によりビークル1が後方に過剰に傾倒するおそれがある(第2の場合)。
(i)第1の場合には、操作部14の速度指令操作部142等の急激な操作入力を排除することが好ましい。そこで制御装置2は、式(8)に基づいて、制御装置2は演算またはマップなどによりローパスフィルタのカットオフ周波数fを決定する。ここで、式(8)において、f(=1/2πT)は、駆動目標値に対するローパスフィルタのカットオフ周波数を示す。frは、平地上での上記基準カットオフ周波数を示す。kr(>0)は、路面90の傾斜角度αに応じた補正係数を示す。式(8)によれば、カットオフ周波数fは路面90の傾斜角度αに応じて変化する。具体的には、路面90の傾斜角度αが大きくなり、路面90が急勾配の登り斜面となれば、平地上での上記基準カットオフ周波数に比較して、カットオフ周波数fを高くする。これにより前輪浮上モードで走行しているとき、操作部14の速度指令操作部142が急激に操作されるときであっても、ビークル1の走行加速度が抑制され、ビークル1の前方への過剰傾倒を阻止することができる。なお路面90の傾斜角度αが正値で大きくなることは、登り斜面となることを意味する。
(ii)第2の場合には、式(9)に基づいて、制御装置2は演算またはマップなどによりカットオフ周波数fを決定する。
ここで、式(9)において、f(=1/2πT)は、前方への駆動目標値に対するローパスフィルタのカットオフ周波数を示す。frは、平地上での上記基準カットオフ周波数を示す。kf(>0)は、路面90の傾斜角度αに応じた補正係数を示す。式(7)によれば、カットオフ周波数fは路面90の傾斜角度α(≒θHL)に応じて変化する。具体的には、路面90の傾斜角度αが大きくなり、路面90が勾配が大きな登り斜面であれば、平地上での上記基準カットオフ周波数に比較して、カットオフ周波数fを低くする。これにより3輪状態および5輪状態で走行しているとき、ビークル1の走行加速度が抑制され、後方への過剰傾倒を阻止することができる。
(フローチャート)
本実施例は前記した実施例とは基本的には同様の構成および同様の作用効果を奏するため、図1〜図16を準用できる。図17は通常走行時における制御Aを示す。図16に示すように、ジョイステックは速度指令操作部を構成する。まず、ジョイステックの入力有りか否か、つまり、走行指令有りか否か判定する(ステップS102)。ジョイステックに速度指令入力がない場合には(ステップS102のNO)、ビークル1は停止しているため、ブレーキ装置18をオンとして拘束形態とし(ステップS120)、サポート部材16をその位置に拘束させ、車体11の転倒を抑える。
ここで、ブレーキ装置18のオンは、前述したように、サポート部材16の回動を抑えるように、ブレーキ装置18がブレーキ作用を果たす意味であり、ブレーキ装置18に対する通電および非通電の有無を問わない。ジョイステックに速度指令入力がある場合には(ステップS102のYES)、駆動輪モータ13が駆動するため、ビークル1は走行する。そこで、制御装置2は、駆動輪エンコーダ55R,55または加速度計53により車体11の加速度を求める(ステップS104)。更に、制御装置2は、加速度計53とレードジャイロ52により車体11のピッチ角度(図4におけるθ3≒路面の傾斜角度α)を求める(ステップS106)。そして、車体11の加速度accとピッチ角度θ3(≒α)が求められたら、前記した式(1)に基づいて車体11の転倒可能性度に相当する角度θtを算出する(ステップS108)。車体11の転倒可能性度に相当する角度θtと転倒判定用の閾値aとを比較する(ステップS110)。車体11の転倒可能性度に相当する角度θtが閾値aよりも小さいときには(ステップS110のYES)、車体11の転倒のおそれがないため、制御装置2はブレーキ装置18をオフとして自由形態とする(ステップS112)。この場合、ブレーキ装置18がオフされているため、後輪17を路面90に着地させつつ、サポート部材16は枢支軸部16mの回りで任意に回動できる。
ステップS110における判定の結果、車体11の転倒可能性度に相当する角度θtが転倒判定用の閾値aよりも大きいときには、車体11が転倒するおそれがあるため、制御装置2はブレーキ装置18をオンとして拘束形態とする(ステップS120)。この場合、ブレーキ装置18がオンされて拘束形態とされているため、サポート部材16は枢支軸部16mの回りで回動できないように拘束されるため、車体11の転倒が抑えられる。
図18は通常走行時における制御Bを示す。制御Bでは、転倒判定用の閾値a、閾値b(閾値a<閾値b)が設けられている。閾値aは、駆動輪12がスリップしていないときにおける転倒判定用の閾値であり、車体11が転倒することなく、車体11の上部が後方に角度θpまで傾斜することを許容する閾値である。閾値bは、駆動輪12がスリップしているときにおける転倒判定用の閾値であり、車体11が転倒することなく車体11の上部が後方に角度θr(θr>θp)まで傾斜することを許容する閾値である。θr>θpであるため、転倒判定用の閾値aは、車体11の転倒を抑える安定度がかなり高い。これに対して、転倒判定用の閾値bについては、車体11の転倒を抑え得るものの、その閾値bにおける車体安定度は、閾値aにおける車体安定度よりも低いように設定されている。すなわち、閾値bにおける車体11の転倒可能性度は、閾値aにおける車体11の転倒可能性度よりも高くなるように設定されている。
ここで、駆動輪12がスリップしているときには、ビークル1の走行を続けるためには、ビークル1の転倒抑制よりも、駆動輪12のスリップ解除を優先させることが好ましい。このため駆動輪12がスリップしているときには、転倒の可能性が若干増えるものの、制御装置2は駆動輪12のスリップ解除を優先させる制御を実行する。なお、ビークル1の転倒防止よりも駆動輪12のスリップ解除を優先させているものの、前述したようにサポート部材16が路面90から離間する方向に回動する最大回動角度を規制する規制ストッパ11sが車体11に設けられているため、車体11の上部が後方に過剰に傾斜することは抑えられており、車体11の後方への転倒は確実に防止されており、安全性は充分に確保されている。
ジョイステックは速度指令操作部142を構成する。まず、図18に示すように、ジョイステックによる走行指令有りか否か判定する(ステップS202)。ジョイステックによる速度指令の入力がない場合には(ステップS202のNO)、ビークル1は停止しているため、制御装置2はブレーキ装置18をオンとし拘束形態とする(ステップS220)。ジョイステックに速度指令入力がある場合には(ステップS202のYES)、制御装置2は加速度計53により車体11の前後進の加速度accを求める(ステップS204)。更に制御装置2は駆動輪エンコーダ55R,55Lにより車体11の前後進の加速度θaccを求める(ステップS206)。制御装置2は、前後進の加速度accと前後進の加速度θaccとの比較により、即ち、前記した式(2)に基づいてスリップ値を求める(ステップS208)。更に制御装置2はスリップ値がスリップ判定用の閾値よりも大きいか否か判定する(ステップS208)。スリップ値がスリップ判定用の閾値よりも大きい場合には、制御装置2は駆動輪12がスリップしていると判定する。駆動輪12にスリップが発生していないとき(ステップS208のNO)には、制御装置2は転倒可能性度に相当する角度θtが転倒判定用の閾値aよりも小さいか否か判定する(ステップS)。転倒可能性度に相当する角度θtが転倒判定用の閾値aよりも小さいとき(ステップS210のYES)には、車体11は転倒するおそれがないため、ブレーキ装置18をオフとして自由形態とする(ステップS212)。この場合、ブレーキ装置18がオフされているため、サポート部材16は枢支軸部16m回りで任意に回動できる。
これに対して、転倒可能性度に相当する角度θtが転倒判定用の閾値aよりも大きいとき(ステップS210のNO)には、車体11は転倒するおそれがあるため、ブレーキ装置18をオンとして拘束形態とする(ステップS220)。この場合、ブレーキ装置18がオンされて拘束形態とされるため、サポート部材16は枢支軸部16mの回りで回動できないため、車体11の転倒が確実に抑えられる。
ステップS208における判定の結果、駆動輪12にスリップが発生しているとき(ステップS208のYES)には、制御装置2は、転倒抑えよりも駆動輪12のスリップ解消を優先させるべく、転倒可能性度に相当する角度θtが閾値bよりも小さいか否か判定する(ステップS230)。転倒可能性度に相当する角度θtが閾値bよりも小さいとき(ステップS230のYES)には、車体11は転倒しないため、制御装置2はブレーキ装置18をオフとして自由形態とする(ステップS232)。この場合、ブレーキ装置18がオフされているため、サポート部材16は枢支軸部16mの回りで任意に回動できる。ステップS230において判定した結果、転倒可能性度に相当する角度θtが閾値b以上であるとき(ステップS230のNO)には、車体11は転倒するおそれがあるため、制御装置2はブレーキ装置18をオンとして拘束形態とする(ステップS234)。この場合、駆動輪12のスリップは解消されにくいものの、車体11の転倒防止を優先させる。この場合、ブレーキ装置18がオンされて拘束形態とされているため、サポート部材16は枢支軸部16mの回りで回動できないため、車体11の転倒が確実に抑えられる。
図19は、凸部昇り時(図7参照)に伴うブレーキ制御を示す。図19に示すように、まず、ブレーキ装置18がオフか否か判定する(ステップS302)。ブレーキ装置18がオフであるとき、制御装置2は、モータ電流が大から小に変化したか否か判定する(ステップS304)。モータ電流が大から小に変化したときには(ステップS304のYES)には、前輪15が凸部の上面に乗り上げていると推定されるため、車体11のピッチ角θ3(≒α)が転倒判定用の閾値よりも大きいか否か判定する(ステップS306)。車体11のピッチ角θ3(≒α)が転倒判定用の閾値よりも大きくなければ(ステップS306のNO)、車体11の転倒は抑えられるため、制御装置2はブレーキ装置18をオフとする(ステップS322)。
ステップS306における判定の結果、車体11のピッチ角θ3(≒α)が転倒判定用の閾値よりも大きいときには(ステップS306のYES)、車体11の上部が後方に傾いており、車体11が転倒するおそれがあるため、制御装置2はブレーキ装置18をオンにして拘束形態とし、サポート部材16をその回動位置に拘束させる(ステップS308)。これにより車体11の転倒が抑えられる。車体11のピッチ角θ3(≒α)が転倒判定用の閾値よりも大きい限り(ステップS310のNO)、車体11の上部が後方に傾いており、車体11が転倒するおそれがあるため、ブレーキ装置18をオンに維持してサポート部材16をその回動位置に拘束させたままとする(ステップS310のNO,ステップS308)。これに対して、車体11のピッチ角θ3(≒α)が転倒判定用の閾値よりも小さくなり、車体11の水平度が高くなると(ステップS310のYES)、車体11が転倒するおそれがないため、ブレーキ装置18をオフとし(ステップS312)、サポート部材16の回動を自由とする。
なおステップS306における判定の結果、車体11のピッチ角θ3(≒α)が転倒判定用の閾値以下と小さいときには(ステップS306のNO)、路面90に対して車体11の上部があまり傾いておらず、車体11が転倒するおそれがないるため、制御装置2はブレーキ装置18をオフにして自由形態とし、サポート部材16の回動を許容する(ステップS322)。
図20は、凸部乗り越え(図8参照)などに用いられる前輪浮上モードの制御を示す。図20に示すように、まず、制御装置2は、着座している使用者によるモード切替スイッチ141が前輪浮上モード側に操作されたか否か判定する(ステップS402)。モード切替スイッチ141が前輪浮上モード(ウィリーモード)に操作されていれば(ステップS402のYES)、制御装置2は前輪浮上モードに移行する指令を出力する(ステップS404)。そして制御装置2は加速度定数をアップさせて車体11の走行速度を加速させる(ステップS406)。更に制御装置2はブレーキ装置18を常にオフとする指令を出力する(ステップS408)。制御装置2は、加速が開始されたか否か判定する(ステップS410)。車体11の走行が加速されていれば、後輪17が路面90に着地したままの状態で、前輪15が路面90から浮上する浮上度が増加し、前輪浮上モードが確実に実行される。次に、制御装置2は加速が終了されたか否か判定する(ステップS412)。加速が終了されていれば(ステップS412のYES)、制御装置2は、通常モードに移行させる指令を出力する(ステップS414)。通常モードは、前輪15が路面90に着地または微少量浮上しつつ、後輪17および駆動輪12が路面90に着地している第1モードである。このように加速が終了していない限り、前輪浮上モードが実行される。
図21は、凸部乗り越え(図8参照)などに用いられる前輪浮上モードの別の制御を示す。図21に示すように、まず、制御装置2は、モード切替スイッチ141が前輪浮上モード側に操作されたか否か判定する(ステップS502)。モード切替スイッチ141が前輪浮上モード(ウィリーモードともいう)に操作されていれば(ステップS502のYES)、制御装置2は前輪浮上モードに移行する指令を出力する(ステップS504)。そして制御装置2は加速度定数をアップさせて車体11の走行速度を加速させ(ステップS506)、更にブレーキ装置18を常にオフとする指令を出力する(ステップS508)。車体11の走行が加速されていれば、後輪17が路面90に着地したままの状態で、前輪15が路面90から浮上する浮上度が増加し、前輪浮上モードが確実に実行される。
その後、制御装置2は、モード切替スイッチの前輪浮上モードがオフとされたか否か判定を続ける(ステップS410のNO)。前輪浮上モードがオフとされていれば(ステップS510のYES)、制御装置2は、ブレーキ装置18のオフを維持しつつ通常モード(安定走行モード)に移行する指令を出力する(ステップS512)。モード切替スイッチの前輪浮上モードがオフとされない場合には、前輪浮上モードが実行される。
(その他)
ある実施例に設けられている特有の構造および機能は他の実施例に搭載しても良い。上記した実施例1によれば、操作部14が第2モードに切り替えられこと、前進方向の走行速度が設定速度以上であること、前進方向の前記操作部14による速度目標値が一定値以上であることのうちの条件が満足されるとき、制御装置2は、第1モードから第2モードに切り替える制御を行うことにしているが、これに限らず、操作部14が第2モードに切り替えられると、制御装置2は、第1モードから第2モードに切り替える制御を行うことにしても良い。
パーソナルビークル1は、高齢者、障害者等が搭乗する車いすに限定されるものではなく、博覧会、舞台、遊園地等の会場において、単数または複数の健常者(二名等)が搭乗できる簡易的なビークル1にも適用できる。本発明は上記した実施例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。
上記した思想から次の技術的思想も把握できる。
(付記項1)使用者が着座する着座部をもつ車体と、車体にこれの左右に取り付けられた駆動輪と、車体に取り付けられ駆動輪を回転駆動させる駆動源と、駆動源の駆動を制御する操作部と、側面視において車体に回動可能に取り付けられ路面に着地する方向に付勢された補助輪をもつサポート部材と、側面視において車体に対するサポート部材の回動角度を調整して車体の姿勢を調整する姿勢調整要素とを具備していることを特徴とするパーソナルビークル。
(付記項2)付記項1において、安定走行モードでは、前記使用者の体重を含む前記ビークルの重心位置が前記駆動輪の着地点よりも前方に位置するように走行しており、前記制御装置は、前記安定走行モードから前輪浮上モードに切り替えるにあたり、前記使用者の体重を含む前記ビークルの重心位置が前記駆動輪の着地点よりも後方に位置するような駆動トルクを前記駆動輪に発生させる制御を行うことを特徴とするパーソナルビークル1。これにより前輪着地モードである安定走行モードから前輪浮上モードに切り替えることができる。
(付記項3)付記項2において、安定走行モードから前輪浮上モードに切り替えるとき、前記駆動輪に与える駆動トルクをTとし、前記使用者の体重を含む前記パーソナルビークルの重心位置のピッチ方向の傾斜角度をθ1とするとき、前記制御装置は、前記車体のピッチ方向傾斜角度θ1に基づいて、前記駆動輪に発生させる駆動トルクTを制御することを特徴とするパーソナルビークル。この場合、車体のピッチ方向傾斜角度θ1を検知し、ピッチ方向傾斜角度θ1に応じた駆動トルクTを駆動輪に与えれば、前輪浮上モード走行を維持することができる。また、ピッチ方向傾斜角度θ1が減少するときには、駆動輪に発生させる駆動トルクTを減少させれば、前輪浮上モードで安定的に走行できる。同様にピッチ方向傾斜角度θ1が増加するきには、駆動輪に発生させる駆動トルクTを増加させれば、第2モード(前輪浮上モード)で安定的に走行できる。
(付記項4)付記項3において、安定走行モードから前輪浮上モードに切り替えるとき前記駆動輪に与える駆動トルクをTとし、前記駆動輪12が走行する前記路面の傾斜角度をαとし、前記使用者の体重を含む前記パーソナルビークル1の重心位置のピッチ方向の傾斜角度をθ1とするとき、前記制御装置2は、前記車体11のピッチ方向傾斜角度θ1および/または路面の傾斜角度αが増加すると、前記駆動輪に発生させる駆動トルクTを増加させる制御を行うことを特徴とするパーソナルビークル1。この場合、前輪着地モードから前輪浮上モードに切り替えることができる。
(付記項5)付記項1〜4のうちの一項において、前記パーソナルビークルの走行速度を検知する走行速度検知器、および/または、前記パーソナルビークルの前進方向の走行速度の速度目標値を設定する目標走行速度設定手段が設けられており、前記操作部が前記前輪浮上モードに切り替えられること、前進方向の走行速度が設定速度以上であること、前記操作部による前進方向の速度目標値が一定値以上であることのうちの少なくとも一つの条件が満足されるとき、前記制御装置は、安定走行モードから前輪浮上モードに切り替える制御を行うことを特徴とするパーソナルビークル。この場合、前輪着地モードから前輪浮上モードに切り替えることができる。