以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
図1は、本発明の一実施の形態における車輪用軸受装置の構成を示す概略断面図である。図1を参照して、本実施の形態における車輪用軸受装置について説明する。
図1を参照して、本実施の形態における車輪用軸受装置1は、軌道部材である外輪10、ハブ輪30および内輪40と、転動体としての複数のころ50とを備えている。外輪10は、外方部材を構成し、ハブ輪30および内輪40は内方部材20を構成している。
外方部材としての外輪10は、内周面11に2列に形成された環状の外側転走面10Aを有する環状の軌道部材である。外側転走面10Aは、第1外側転走面12Aと、第2外側転走面13Aとを含んでいる。外輪10は、たとえば鋼であるJIS規格S53Cから構成されている。そして、外輪10においては、第1外側転走面12Aを含む領域と、第2外側転走面13Aを含む領域とが高周波焼入などにより焼入硬化されて、58HRC以上の硬度を有する硬化部19が形成されている。
一方、内方部材としてのハブ輪30は、外輪10にその一部が取り囲まれるように配置される軌道部材である。また、内方部材としての内輪40は、ハブ輪30において、車輪取り付けフランジ31よりも外径の小さい小径部34の外側に嵌め込まれた円環状の第1内輪41と、第1内輪41に対して中心軸が一致するように隣り合い、小径部34の外側に嵌め込まれた円環状の第2内輪42とを含んでいる。ハブ輪30の小径部34は、円筒状の形状を有しており、第1内輪41および第2内輪42からみてフランジ31が形成されている側とは反対側の端部であるインボード側端部が、径方向外側に塑性変形されて加締め部34Aが形成されている。そして、この加締め部34Aにより、ハブ輪30に対して第1内輪41および第2内輪42が軸方向に固定されている。ここで、インボード側端部とは、加締め部34Aを形成するための加締め加工により塑性変形されるべき領域である。
この第1内輪41および第2内輪42は、たとえば鋼であるJIS規格SUJ2からなっており、その全体が焼入硬化されることにより、58HRC以上の硬度を有している。さらに、第1内輪41および第2内輪42の外周面には、それぞれ内側転走面40Aを構成する第1内側転走面41Aおよび第2内側転走面42Aが形成されている。この第1内側転走面41Aおよび第2内側転走面42Aは、それぞれ第1外側転走面12Aおよび第2外側転走面13Aに対向している。
また、ハブ輪30は、たとえば鋼であるJIS規格S53Cからなっている。そして、ハブ輪30においては、内輪40と接触する小径部34の表面を含む領域が、高周波焼入などにより焼入硬化されて、58HRC以上の硬度を有する硬化部39が形成されている。
さらに、車輪用フランジ付き部材であるハブ輪30には、ころ50の軌道の中心軸を含む領域に、シャフトなどの他の部材が挿入されるための挿入穴38が軸方向に貫通するように形成されている。そして、この挿入穴38の側壁の表面(ハブ輪30の内周面)には、軸方向に延びる溝が複数形成されている。その結果、挿入穴38の側壁は、セレーション部37を構成している。
複数のころ50は、外輪10の第1外側転走面12Aと、第1内輪41の第1内側転走面41Aとに接触し、かつ円環状の保持器60Aにより周方向に所定のピッチで配置される列と、外輪10の第2外側転走面13Aと、第2内輪42の第2内側転走面42Aとに接触し、かつ円環状の保持器60Bにより周方向に所定のピッチで配置される列との複列(2列)の円環状の軌道上に転動自在に配置されている。
また、外輪10の軸方向の両端部と、これに対向する第1内輪41および第2内輪42の端部との間には、シール部材70が配置されている。これにより、外輪10と、第1内輪41および第2内輪42との間の空間に封入された潤滑グリースの漏洩と、外部から当該空間へのダスト等の侵入が防止されている。
以上の構成により、外輪10と、ハブ輪30および内輪40とは、互いに相対的に回転することが可能となっている。
さらに、ハブ輪30の車輪取り付けフランジ31には、ハブ輪ボルト穴31Aが形成されている。そして、ハブ輪ボルト穴31Aに挿入されたボルト71により、車輪取り付けフランジ31と車輪を構成するホイール(図示しない)とが互いに固定されている。一方、外輪10は、外輪フランジ15を有しており、外輪フランジ15には外輪貫通穴15Aが形成されている。そして、外輪貫通穴15Aに挿入された図示しないボルトにより、外輪フランジ15と車体に固定された懸架装置(図示しない)とが互いに固定されている。以上の構成により、車輪用軸受装置1は、車輪と車体との間に介在して、車輪を車体に対して回転自在に支持する。
すなわち、本実施の形態における車輪用軸受装置1は、内周面11に環状の外側転走面10Aが複列に形成された外方部材としての外輪10と、外側転走面10Aに対向する環状の内側転走面40Aが複列に形成された内方部材20と、外側転走面10Aと、内側転走面40Aとに接触し、環状の軌道上に転動自在に配置された転動体としてのころ50とを備えている。
内方部材20は、鋼からなり、車輪(図示しない)を取り付けるためのフランジである車輪取り付けフランジ31が形成された車輪用フランジ付き部材であるハブ輪30を含んでいる。このハブ輪30は、焼入硬化されることにより、50HRC以上に硬化された硬化部39と、硬化部39以外の部位である非硬化部33とを有している。そして、非硬化部33を構成する鋼のオーステナイト結晶粒度は、8番以上である。
本実施の形態における車輪用軸受装置1では、車輪用フランジ付き部材であるハブ輪30の非硬化部33を構成する鋼のオーステナイト結晶粒度が8番以上とされることにより、鋼のミクロ組織が微細化され、非硬化部33の疲労強度が向上している。その結果、本実施の形態の車輪用軸受装置1は、非硬化部33の疲労強度が向上したフランジ付き部材を備えることにより、高い耐久性が確保されている。なお、一層高い耐久性を確保するためには、非硬化部33を構成する鋼のオーステナイト結晶粒度が10番以上であることが好ましい。
ここで、鋼のオーステナイト結晶粒度とは、JIS規格G0551に規定された試験方法により判定される結晶粒度の粒度番号であり、いわゆる旧オーステナイト結晶粒の粒度番号を意味する。
また、上記粒度番号が8番未満の場合、車輪用フランジ付き部材に一般的に負荷される応力を考慮すると、疲労強度が必ずしも十分であるとはいえない。したがって、粒度番号は8番以上であることが好ましい。一方、粒度番号が12番をこえると、焼入性が低下するという問題が発生し得るため、粒度番号は12番以下であることが好ましい。
さらに、鋼のオーステナイト結晶粒度が8番以上であるとの条件は、たとえば非硬化部をJIS G0551に従った方法により、3箇所調査し、全ての箇所で結晶粒度が8番以上であれば満たされていると判断することができる。
また、本実施の形態における車輪用軸受装置1は、内周面11に環状の外側転走面10Aが複列に形成された外輪10と、外側転走面10Aに対向する環状の内側転走面40Aが複列に形成された内方部材20と、外側転走面10Aと、内側転走面40Aとに接触し、環状の軌道上に転動自在に配置された転動体としてのころ50とを備えている。
内方部材20は、鋼からなり、車輪(図示しない)を取り付けるためのフランジである車輪取り付けフランジ31が形成された車輪用フランジ付き部材であるハブ輪30を含んでいる。このハブ輪30は、焼入硬化されることにより、50HRC以上に硬化された硬化部39と、硬化部39以外の部位である非硬化部33とを含んでいる。そして、非硬化部33を構成する鋼のフェライト面積率は、3%以下である。
本実施の形態における車輪用軸受装置1では、車輪用フランジ付き部材であるハブ輪30の非硬化部33を構成する鋼のフェライト面積率が3%以下とされている。そのため、強度が低く、繰り返し応力を受けることによる亀裂の発生起点、あるいは亀裂の伝播経路となり得るフェライトの存在が抑制されており、非硬化部33の疲労強度が向上している。その結果、本実施の形態の車輪用軸受装置1は、非硬化部33の疲労強度が向上したフランジ付き部材を備えることにより、高い耐久性が確保されている。
ここで、フェライト面積率が3%を超えると、フェライト相が隣接する他のフェライト相と連結し、亀裂の発生起点、あるいは亀裂の伝播経路となる傾向が強くなる。そのため、フェライト面積率は、3%以下であることが好ましい。
なお、フェライト面積率とは、車輪用軸受装置を構成する車輪用フランジ付き部材の非硬化部を切断し、その切断された表面におけるフェライトの、当該表面全体に対する面積率をいう。より具体的には、以下のように測定することができる。まず、車輪用フランジ付き部材の非硬化部から試験片を切り出す。そして、当該試験片の表面を研磨した後、その表面を腐食液、たとえばピクラル(ピクリン酸アルコール溶液)により腐食する。そして、腐食された表面について、たとえば光学顕微鏡により、1mm×1mm(=1mm2)の視野を3視野観察して、全体に対するフェライト面積率の平均値を算出する。
さらに、亀裂の発生起点、あるいは亀裂の伝播経路となりうるフェライトの面積率は小さいことが好ましく、フェライト面積率は、0であることが望ましい。つまり、上記測定方法により3視野の観察を行なった結果、フェライトが観察されないことが望ましい。
また、本実施の形態における車輪用軸受装置1は、内周面11に環状の外側転走面10Aが複列に形成された外輪10と、外側転走面10Aに対向する環状の内側転走面40Aが複列に形成された内方部材20と、外側転走面10Aと、内側転走面40Aとに接触し、環状の軌道上に転動自在に配置された転動体としてのころ50とを備えている。
内方部材20は、鋼からなり、車輪(図示しない)を取り付けるためのフランジである車輪取り付けフランジ31が形成された車輪用フランジ付き部材であるハブ輪30を含んでいる。このハブ輪30は、焼入硬化されることにより、50HRC以上に硬化された硬化部39と、硬化部39以外の部位である非硬化部33とを有している。そして、非硬化部33を構成する鋼の炭化物面積率が10%以下とされている。
本実施の形態における車輪用軸受装置1では、車輪用フランジ付き部材であるハブ輪30の非硬化部33を構成する鋼の炭化物面積率が10%以下とされている。そのため、非硬化部33を構成する鋼の組織が均質になっており、非硬化部33の疲労強度が向上している。その結果、本実施の形態の車輪用軸受装置1は、非硬化部33の疲労強度が向上したフランジ付き部材を備えることにより、高い耐久性が確保されている。
ここで、炭化物面積率が10%を超えると、非硬化部33を構成する鋼の均質性の低下に伴う疲労強度の低下傾向が大きくなる。そのため、炭化物面積率は10%以下であることが好ましい。
なお、炭化物面積率とは、車輪用軸受装置を構成する車輪用フランジ付き部材の非硬化部を切断し、その切断された表面における炭化物(セメンタイト;Fe3C)のうち、疲労強度を低下させる程度に鋼の組織の不均質化させる大きさの炭化物であって、一般的な光学顕微鏡により観察可能な大きさ、より具体的には直径または幅が1μmを超える炭化物の当該表面全体に対する面積率をいう。この炭化物面積率は、たとえば以下のように測定することができる。まず、車輪用フランジ付き部材の非硬化部から試験片を切り出す。そして、当該試験片の表面を研磨した後、その表面を腐食液、たとえばピクラルにより腐食する。そして、腐食された表面について、たとえば光学顕微鏡により、1mm×1mm(=1mm2)の視野を3視野観察して全体に対する炭化物面積率の平均値を算出する。
さらに、疲労強度を低下させる炭化物の面積率は小さいことが好ましく、炭化物面積率は、0であることが望ましい。つまり、上記測定方法により3視野の観察を行なった結果、炭化物が観察されないことが望ましい。
また、本実施の形態における車輪用軸受装置1は、内周面11に環状の外側転走面10Aが複列に形成された外輪10と、外側転走面10Aに対向する環状の内側転走面40Aが複列に形成された内方部材20と、外側転走面10Aと、内側転走面40Aとに接触し、環状の軌道上に転動自在に配置された転動体としてのころ50とを備えている。
内方部材20は、鋼からなり、車輪(図示しない)を取り付けるためのフランジである車輪取り付けフランジ31が形成された車輪用フランジ付き部材であるハブ輪30を含んでいる。このハブ輪30は、焼入硬化されることにより、50HRC以上に硬化された硬化部39と、硬化部39以外の部位である非硬化部33とを含んでいる。そして、非硬化部33を構成する鋼の非拡散性水素含有量は、0.8ppm以下である。
本実施の形態における車輪用軸受装置1では、車輪用フランジ付き部材であるハブ輪30の非硬化部33を構成する鋼の非拡散性水素含有量は、0.8ppm以下に抑制されている。そのため、亀裂発生および伝播を助長し得る水素の存在が抑制されており、非硬化部33の疲労強度が向上している。その結果、本実施の形態の車輪用軸受装置1は、非硬化部33の疲労強度が向上したフランジ付き部材を備えることにより、高い耐久性が確保されている。
ここで、非拡散性水素含有量が、0.8ppmを超えると、亀裂発生および伝播を助長する傾向が強くなるため、非拡散性水素含有量は0.8ppm以下であることが好ましい。
なお、非硬化部33を構成する鋼の非拡散性水素含有量は、たとえば以下のように測定することができる。すなわち、水素含有量の測定は、たとえばLECO社製DH−103型水素分析装置により、行なうことができる。このLECO社製DH−103型水素分析装置の仕様を下記に示す。
分析範囲:0.01〜50.00ppm
分析精度:±0.1ppmまたは±3%H(いずれか大きい方)
分析感度:0.01ppm
検出方式:熱伝導度法
試料質量サイズ:10mg〜35g(最大:直径12mm×長さ100mm)
加熱炉温度範囲:50℃〜1100℃
試薬:アンハイドロン Mg(ClO4)2、アスカライト NaOH
キャリアガス:窒素ガス、ガスドージングガス:水素ガス、いずれのガスも純度99.99%以上、圧力40PSI(2.8kgf/cm2)である。
測定手順の概要は以下のとおりである。専用のサンプラーで採取した試料をサンプラーごと上記の水素分析装置に挿入する。内部の拡散性水素は窒素キャリアガスによって熱伝導度検出器に導かれる。この拡散性性水素は本実施の形態では測定しない。次に、サンプラーから試料を取出し抵抗加熱炉内で加熱し、非拡散性水素を窒素キャリアガスによって熱伝導度検出器に導く。そして、熱伝導度検出器において熱伝導度を測定することによって非拡散性水素含有量を知ることができる。
なお、疲労強度を一層向上させるためには、非拡散性水素含有量は0.5ppm以下であることが好ましい。
さらに、上記本実施の形態におけるハブ輪30のセレーション部37の表面から1mm以内の領域は、上述のオーステナイト結晶粒度の条件、フェライト面積率の条件、炭化物面積率の条件および非拡散性水素含有量の条件のうち少なくともいずれか1つを満たす非硬化部33であることが好ましい。
これにより、挿入穴38の側壁の表面付近、すなわちセレーション部37の疲労強度が向上し、セレーション部37からの破損の発生を抑制することができる。
なお、上記他の部材から車輪用フランジ付き部材に負荷される応力の一般的な大きさと車輪用フランジ付き部材の内部での応力の分布とを考慮すると、疲労強度の高い領域は、挿入穴の側壁の表面から1mmあれば十分である。したがって、表面から1mm以内の領域が、上記条件を満たしていることが好ましい。
また、本実施の形態における車輪用軸受装置1は、内周面11に環状の外側転走面10Aが複列に形成された外輪10と、外側転走面10Aに対向する環状の内側転走面40Aが複列に形成された内方部材20と、外側転走面10Aと、内側転走面40Aとに接触し、環状の軌道上に転動自在に配置された転動体としてのころ50とを備えている。
内方部材20は、鋼からなり、車輪(図示しない)を取り付けるためのフランジである車輪取り付けフランジ31が形成された車輪用フランジ付き部材であるハブ輪30を含んでいる。このハブ輪30は、焼入硬化されることにより、50HRC以上に硬化された硬化部39と、硬化部39以外の部位である非硬化部33とを含んでいる。そして、非硬化部33の表面には、50MPa以上500MPa以下の圧縮応力が残留している。
本実施の形態における車輪用軸受装置1では、車輪用フランジ付き部材であるハブ輪30の非硬化部33の表面には、50MPa以上500MPa以下の圧縮応力が残留している。そのため、非硬化部33の表面における亀裂の発生およびその後の亀裂の伝播が抑制されており、非硬化部33の疲労強度が向上しているので、タイヤから車輪用フランジに繰り返しモーメント荷重が負荷されても非硬化部33からの亀裂の発生が抑制されているとともに、フレッティング損傷の発生が抑制されている。その結果、本実施の形態の車輪用軸受装置1は、非硬化部33の疲労強度が向上したフランジ付き部材を備えることにより、高い耐久性が確保されている。
ここで、表面に残留する圧縮応力は、50MPa未満では、疲労強度を向上させる効果およびフレッティング損傷の発生を抑制する効果が小さいため、50MPa以上必要である。また、疲労強度を一層向上させ、フレッティング損傷の発生を一層抑制するためには、表面に残留する圧縮応力は、100MPa以上であることが好ましい。一方、表面に残留する圧縮応力が500MPaを超えると、圧縮応力付加時の他の要因、たとえば加工硬化が著しく、亀裂が発生し易いことから、圧縮応力は、500MPa以下であることが好ましい。
なお、圧縮応力の測定は、X線応力測定装置により、非硬化部33の表面下50μmの領域を、非硬化部33において負荷される応力の最も大きい方向、たとえば軸方向に測定することにより確認することができる。
さらに、上記本実施の形態におけるハブ輪30のセレーション部37は、上述の応力の条件を満たす非硬化部33であることが好ましい。すなわち、挿入穴38の側壁は、上述の応力の条件を満たす非硬化部33に含まれることが好ましい。これにより、挿入穴38の側壁の表面付近の疲労強度が向上し、セレーション部37からの破損の発生を抑制することができる。
さらに、上記本実施の形態におけるハブ輪30においては、車輪取り付けフランジ31の、車輪取り付けフランジ31からみて車輪が取り付けられる側(アウトボード側)の付け根部31Bの表面硬さは、35HRC以下である。これにより、切削加工等における加工性が向上すると共に、熱処理変形を抑制することができ、熱処理変形による車輪取り付けフランジ31のブレーキロータ取り付け面31Cの面振れ精度の劣化が抑制されている。
さらに、上記本実施の形態におけるハブ輪30においては、車輪取り付けフランジ31からみて車輪が取り付けられる側(アウトボード側)とは反対側(インボード側)のハブ輪30の端部であるインボード側端部が、径方向外側に塑性変形することにより加締め部34Aを形成している。そして、当該加締め部34Aにより内輪40がハブ輪30に対して軸方向に固定されている。
このように、いわゆるセルフリテイン構造とすることにより、従来のようにナット等で強固に緊締して予圧量を管理する必要がないため、車両への組込を簡便にすることができると共に、かつ長期間その予圧量を維持することができる。
さらに、上記本実施の形態におけるハブ輪30においては、加締め部34Aは、表面硬さが25HRC以下であるインボード側端部が塑性変形することにより形成されている。これにより、加締め部34Aの硬さバラツキが抑制されている。また、十分な加工性を確保することができるため、塑性加工によって加締め部34Aの表面に微小クラックが発生することを抑制することが可能となり、車輪用軸受装置1の信頼性が向上している。
さらに、上記本実施の形態におけるハブ輪30においては、車輪取り付けフランジ31の、車輪取り付けフランジ31からみて車輪が取り付けられる側(アウトボード側)とは反対側(インボード側)の付け根部31DにはRが形成されており、その表面硬さは54HRC以上64HRC以下となっている。
これにより、車輪取り付けフランジ31に負荷される回転曲げ荷重に対して十分な機械的強度を付与することが可能となり、ハブ輪30の強度、耐久性が一層向上する。
ここで、車輪取り付けフランジ31の付け根部とは、転動体であるころ50の軌道の中心軸を含む断面において、当該中心軸に交差する方向に車輪取り付けフランジ31が突出する根元部分であって、通常フランジの表面が曲線状に形成される領域、いわゆるRが形成された領域、あるいは面取り部が形成されている領域をいう。
さらに、上記本実施の形態におけるハブ輪30を構成する鋼は、0.40質量%以上0.80質量%以下の炭素を含む中炭素鋼である。これにより、鍛造の容易性、切削性、熱処理性、あるいは経済性が向上し、特に、高周波焼入による部分的な焼入硬化に好適となる。
次に、本実施の形態における車輪用軸受装置1の製造方法について説明する。図2は、本実施の形態における車輪用軸受装置の製造方法の概略を示す流れ図である。また、図3は、本実施の形態における車輪用軸受装置の製造方法のうち、車輪用フランジ付き部材である内方部材としてのハブ輪が製造されるハブ輪製造工程の概略を示す流れ図である。
図2を参照して、本実施の形態における車輪用軸受装置1の製造方法は、外方部材準備工程と、内方部材準備工程と、転動体準備工程と、組立て工程とを備えている。外方部材準備工程では、図1を参照して、内周面11に環状の外側転走面10Aが複列に形成された外輪10が準備される。内方部材準備工程では、環状の内側転走面40Aが複列に形成された内方部材20を構成するハブ輪30と、内輪40とが準備される。転動体準備工程では、転動体としてのころ50が準備される。
組立て工程では、まず、内側転走面40Aが外側転走面10Aに対向し、ころ50が外側転走面10Aと、内側転走面40Aとに接触して円環状の軌道上に配置されるように、外輪10と、内輪40と、ころ50とが組合わされる。その後、外輪10と内輪40とに挟まれた空間(軸受空間)に潤滑グリースなどの潤滑剤が入れられた後、外輪10の内周面11の両端部と、当該両端部に対向する第1内輪41および第2内輪42の端部との間にシール部材70が圧入されることにより、当該潤滑剤が軸受空間に封入される。そして、後述するハブ輪製造工程(図3)において製造されたハブ輪30に、上述のように組立てられた組立体の内輪40が圧入される。その後、ハブ輪30の端部であるインボード側端部が、径方向外側に塑性変形されることにより加締め部34Aが形成され、この加締め部34Aにより、内輪40がハブ輪30に対して軸方向に固定されることにより、車輪用軸受装置1の組立てが完了する。
そして、上記外方部材準備工程または内方部材準備工程のいずれか一方は、鋼からなり、車輪を取り付けるためのフランジである車輪取り付けフランジが形成された車輪用フランジ付き部材を製造する車輪用フランジ付き部材製造工程を含む。より具体的には、本実施の形態では、内方部材準備工程は、車輪用フランジ付き部材としてのハブ輪30が製造される内方部材準備工程としてのハブ輪製造工程を含んでいる。
この車輪用フランジ付き部材製造工程としてのハブ輪製造工程は、図3を参照して、鋼材準備工程と、熱間加工工程としての熱間鍛造工程と、調質工程と、旋削加工工程と、ボルト穴形成工程と、部分焼入硬化工程としての高周波熱処理工程と、ブローチ加工工程と、仕上げ工程とを含んでいる。鋼材準備工程では、車輪用フランジ付き部材であるハブ輪30を構成すべき鋼からなる鋼材、たとえば0.40質量%以上0.80質量%以下の炭素を含む中炭素鋼からなる鋼材が準備される。熱間鍛造工程では、当該鋼材が、たとえば1050℃以上1300℃以下の温度域に加熱されて熱間鍛造されることにより、図1に示すハブ輪30の概略形状を有する鋼製部材に成形される。調質工程では、その鋼製部材が調質される。旋削加工工程では、鋼製部材の車輪取り付けフランジ31および小径部34の表面を含む表面領域が旋削加工される。ボルト穴形成工程では、車輪取り付けフランジ31に対してドリルなどを用いた穴あけ加工が実施されることにより、ハブ輪ボルト穴31Aが形成される。
高周波熱処理工程では、調質された鋼製部材の一部が焼入硬化される。具体的には、図1を参照して、挿入穴38の側壁の表面以外の領域である、内輪40と接触する小径部34の表面を含む領域が、高周波焼入により焼入硬化されて、58HRC以上の硬度を有する硬化部39が形成されるとともに、車輪取り付けフランジ31の、インボード側の付け根部31Dの表面硬さが54HRC以上64HRC以下とされる。このような硬度の条件を満たすためには、たとえば高周波熱処理工程においては、高周波焼入が実施される高周波焼入工程が実施された後、ハブ輪30の全体が焼戻される全体焼戻工程および/または高周波焼入が実施された領域のうち一部が誘導加熱により加熱されて焼戻される部分焼戻工程が実施されてもよい。
ブローチ加工工程では、図1を参照して、熱間加工工程において形成された挿入穴38の側壁の表面に、軸方向に延びる溝が複数形成されることにより、セレーション部37が形成される。そして、仕上げ工程において、当該鋼製部材に対して研削加工などの仕上げ処理(仕上げ加工)が実施されることにより、車輪用フランジ付き部材としてのハブ輪30が完成する。
次に、上記調質工程の詳細について説明する。図4は、本実施の形態の調質工程における加熱パターン(鋼製部材に与えられる温度履歴)の一例を示す図である。図4において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図4において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。
図4を参照して、調質工程は、焼入工程と、焼戻工程とを有している。焼入工程では、熱間鍛造工程において作製された鋼製部材がA1点以上の温度、たとえば800℃以上900℃以下の温度に加熱され、1時間以上3時間以下の時間保持された後、A1点以上の温度域からMS点以下の温度に冷却されることにより焼入硬化される。当該冷却は、たとえば鋼製部材をA1点以上の温度域から焼入用の油中に浸漬することにより実施することができる(油冷)。
その後、焼戻工程では、焼入硬化された鋼製部材がA1点未満の温度、たとえば400℃以上700℃以下の温度に加熱され、1時間以上3時間以下の時間保持された後、室温まで冷却されることにより焼戻される。この加熱温度および保持時間、特に加熱温度を調整することにより、車輪取り付けフランジ31の、アウトボード側の付け根部31Bの表面硬さが35HRC以下になるとともに、ハブ輪30のインボード側端部の表面硬さが25HRC以下となるように、調質工程を実施することができる。なお、ハブ輪30のインボード側端部の硬度の条件を満足させるために、たとえば上記焼戻工程が実施された後、さらに高周波電流を利用した誘導加熱により、ハブ輪30のインボード側端部を局所的に加熱して焼戻す局所焼戻工程が実施されてもよい。
なお、焼戻工程における上記冷却は、鋼製部材を室温の空気中に放置することにより実施してもよいし(空冷)、必要に応じて冷却水を鋼製部材上に散布することにより実施してもよい(シャワー冷却)。
調質工程が上述のように実施されることにより、鋼製部材を構成する鋼は、焼戻マルテンサイト(焼戻トルースタイトまたは/および焼戻ソルバイト)組織となる。そして、図1を参照して、その後の高周波焼入工程において焼入硬化される領域である硬化部39以外の領域である非硬化部33では、当該組織が保持されるため、フェライトや炭化物がほとんど存在しない(フェライトの面積率が3%以下、炭化物の面積率が10%以下)、好ましくはフェライトや炭化物が存在しない均質な組織となる。その結果、非硬化部33の疲労強度に優れた本実施の形態の車輪用フランジ付き部材としてのハブ輪30(内方部材)を製造することができる。
なお、上記調質工程においては、焼入工程での加熱温度が800℃未満の場合、焼入の冷却前における炭化物の固溶が不十分となり、フェライトや炭化物が残留するおそれがあるため、当該加熱温度は800℃以上であることが好ましい。また、当該加熱温度が900℃を超えると、焼入の冷却前におけるオーステナイトの結晶粒が大きくなり、焼入後のオーステナイト結晶粒度の粒度番号が8番未満となるおそれがあるため、900℃以下とすることが好ましい。
また、調質工程が上述のように実施されることにより、焼入工程において加熱される際に、水素原子を含む雰囲気ガス(たとえば一酸化炭素、二酸化炭素および水素の混合ガス)から鋼製部材に侵入するおそれのある水素が、焼戻工程において鋼製部材が400℃以上に加熱されることにより外部に放出され、非拡散性水素含有量が0.8ppm以下に低減される。その結果、非硬化部33の疲労強度に優れた本実施の形態の車輪用フランジ付き部材としてのハブ輪30(内方部材)を製造することができる。
さらに、調質工程が上述のように実施されることにより、焼入工程の加熱温度が900℃以下とされ、生成するオーステナイトの結晶粒の粒度番号が8番以上に保持される。その結果、非硬化部33の疲労強度に優れた本実施の形態の車輪用フランジ付き部材としてのハブ輪30(内方部材)を製造することができる。
また、調質工程の後に旋削加工工程やブローチ加工工程が行なわれることにより、非硬化部33の表面に50MPa以上500MPa以下の圧縮応力を残留させることができる。その結果、非硬化部33の疲労強度に優れた本実施の形態の車輪用フランジ付き部材としてのハブ輪30(内方部材)を製造することができる。
以上のように、上記本実施の形態における車輪用軸受装置の製造方法により、本実施の形態における車輪用軸受装置1を製造することができる。
なお、上記実施の形態においては、転動体として円錐ころが採用される場合について図示し、説明したが、本発明の車輪用軸受装置に採用可能な転動体はこれに限られず、円筒ころであってもよいし、玉であってもよい。また、上記実施の形態においては、内輪40が加締め加工によりハブ輪30に対して固定される場合について説明したが、内輪40はボルトなどの固定部材によりハブ輪30に対して固定されてもよい。また、上記実施の形態においては、ハブ輪30が、ハブ輪30を軸方向に貫通する貫通穴としての挿入穴38を備える駆動輪用のハブ輪である場合について説明したが、本発明の車輪用軸受装置を構成するハブ輪はこれに限られず、上記貫通穴を有さない従動輪用のハブ輪であってもよい。
また、ハブ輪30の素材としては、0.4質量%以上0.8質量%以下の炭素を含有する鋼、たとえばJIS規格S53Cのほか、SAE1070などを採用することができる。さらに、内輪40の素材としては、たとえばJIS規格SUJ2のほか、SUJ3、SCr420、SCM420などを採用することができる。また、外輪10の素材としては、たとえばJIS規格S53Cのほか、SAE1070などを採用することができる。さらに、ころ50の素材としては、たとえばJIS規格SUJ2のほか、SUJ3、SCr420、SCM420などを採用することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 車輪用軸受装置、10 外輪、10A 外側転走面、11 内周面、12A 第1外側転走面、13A 第2外側転走面、15 外輪フランジ、15A 外輪貫通穴、19 硬化部、20 内方部材、30 ハブ輪、31 車輪取り付けフランジ、31A ハブ輪ボルト穴、31B,31D 付け根部、31C ブレーキロータ取り付け面、33 非硬化部、34 小径部、34A 加締め部、37 セレーション部、38 挿入穴、39 硬化部、40 内輪、40A 内側転走面、41 第1内輪、41A 第1内側転走面、42 第2内輪、42A 第2内側転走面、50 ころ、60A,60B 保持器、70 シール部材、71 ボルト。