以下、本発明の光導波路基板の製造方法について詳細に説明する。
図1は本発明の光導波路基板の実施の形態の一例を示す断面図である。図1において、1は基板、2は基板1の表面に形成された光導波路の下部クラッド層であり、3は光導波路のコア部、4は光導波路の上部クラッド層であり、下部クラッド層2,コア部3,上部クラッド層4から光導波路6が構成される。また、5は上部クラッド層4の表面に形成された保護層である。
本発明の光導波路基板における光導波路6のクラッド部(下部クラッド層2・上部クラッド層4)およびコア部3はシロキサンポリマ皮膜から成るものであり、これらを形成するのに使用されるシロキサンポリマは、アルコキシシランに水を反応させて加水分解し、さらに加熱または常温での放置により部分的に脱水縮合させることにより高分子量化させたものである。
本発明におけるシロキサンポリマに使用されるアルコキシシランは下記一般式で表わされるものである。
RmSi(OR’)4−m
ただし、R,R’は同一もしくは異なっていてもよく、それぞれ水素,アルキル基,アリール基,アルケニル基,およびそれらの置換体を表わす。また、mは0〜3の整数である。
Rは、例えば、水素、メチル基・エチル基・プロピル基等のアルキル基・フェニル基等のアリール基,ビニル基等のアルケニル基,β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチル基・γ−メタクリロキシプロピル基・γ−グリシドキシプロピル基・γ−クロロプロピル基・γ−メルカプトプロピル基・γ−アミノプロピル基・N−フェニル−γ−アミノプロピル基・N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピル基・トリフロオロメチル基・3、3、3−トリフルオロプロピル基等の置換アルキル基等が挙げられる。これらの中から1種を、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。この選択により、得られる皮膜の特性を調整することが可能である。特に、皮膜の強靭性向上の点からは、Rとしては、アルコキシ基を除く、反応性基を有するものであるのが望ましい。例えば、ビニル基,γ−メタクリロキシプロピル基,γ−グリシドキシプロピル基である。これらを用いることにより、得られるシロキサンポリマ皮膜には、シロキサン骨格のみでなくこれら反応基による架橋形成による骨格形成が成されるので、皮膜の強靭性を向上させることができる。
R’は、例えば、水素,メチル基・エチル基・n−プロピル基・i−プロピル基n−ブチル基・sec−ブチル基・t−ブチル基等のアルキル基,フェニル基等のアリール基,アセチル基・β−メトキシエトキシ基等の置換アルキル基等が挙げられる。
これらのアルコキシシランの具体例としては、テトラヒドロキシシラン・テトラメトキシシラン・テトラエトキシシラン・メチルトリメトキシシラン・メチルトリエトキシシラン・フェニルトリメトキシシラン・フェニルトリエトキシシラン・ビニルトリメトキシシラン・ビニルトリエトキシシラン・γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン・γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン・γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン・γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン・ジメチルジメトキシシラン・ジメチルジエトキシシラン・ジフェニルジメトキシシラン・ジフェニルジエトキシシラン・γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン・γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン・トリフルオロメチルトリメトキシシラン・トリフルオロメチルトリエトキシシランを挙げることができる。これらのアルコキシシランは単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
これらのアルコキシシランの加水分解および縮合反応は無溶媒で行なってもよいが、通常は有機溶媒中で行なわれる。例えば、メタノール・エタノール・プロパノール・ブタノール・3−メチル−3−メトキシブタノール等のアルコール類,エチレングリコール・プロピレングリコール等のグリコール類,エチレングリコールモノメチエーテル・プロピレングリコールモノメチルエーテル・プロピレングリコールモノブチルエーテル・ジエチルエーテル等のエーテル類,メチルイソブチルケトン・ジイソブチルケトン等のケトン類,ジメチルホルムアミド・ジメチルアセトアミド等のアミド類,エチルアセテート・エチルセロソルブアセテート・3−メチル−3−メトキシブチルアセテート等のアセテート類,トルエン・キシレン・ヘキサン・シクロヘキサン等の芳香族あるいは脂肪族炭化水素の他、N−メチル−2−ピロリドン・γ−ブチロラクトン,ジメチルスルホキシドを挙げることができる。
本発明においては、溶媒は除去されることなく、最終的に得られる塗液の溶剤を兼用することができる。従って、得られる塗液の塗布性向上の点からは、沸点100〜300℃の液体を用いることが好ましい。
溶媒の量は任意に選択可能であるが、アルコキシシラン1質量部に対して、0.1〜10.0
質量部の範囲で用いるのが好ましい。
加水分解および部分縮合反応をさせるために用いる水としてはイオン交換水が好ましく、その量は、アルコキシシラン1モルに対して、1〜4倍モルの範囲で用いるのが好ましい。
また、加水分解および縮合反応をさせるために、必要に応じて触媒を用いることができる。用いる触媒としては、塩酸・硫酸・酢酸・トリフルオロ酢酸・リン酸・硼酸・p−トルエンスルホン酸・イオン交換樹脂等の酸触媒,トリエチルアミン・ジエチルアミン・トリエタノールアミン・ジエタノールアミン・水酸化ナトリウム・水酸化カリウム等の塩基触媒が挙げられるが、得られる皮膜の強靭性向上の点からは酸触媒を用いることが好ましい。
この触媒の量は、アルコキシシラン1質量部に対して、0.001〜0.1質量部の範囲で用いるのが好ましい。0.1質量部を超えると、塗液の保存安定性、および平坦性が損なわれる傾向がある。また、0.001質量部より少ない場合では、低重合度ポリマしか得られず塗布性が損なわれる傾向がある。
加水分解および部分縮合の反応温度は、通常は凝固点から沸点の範囲で選択されるが、沸点以上の温度で、副生する低沸点アルコールおよび水を留去させながら反応を進行させることが、塗布性および保存安定性の点から好ましい。また、反応温度は、通常は凝固点から沸点の範囲で選択される。なお、反応雰囲気は、窒素雰囲気下とするのが好ましい。
本発明に用いるシロキサンポリマを合成する際には、アルコキシシランを全て一度に混合した後に全体的に加水分解反応させたり、それぞれのアルコキシシランを部分的に加水分解させた後にそれらを混合して加水分解を進めたりする等、種々の異なった反応の方法を採用することによって、また反応時間・反応温度等を変えることによって、種々の分子量を有するシロキサンポリマを得ることができる。そして、このシロキサンポリマの分子量分散(Mw/Mn)としては、重量平均分子量が10万未満で、かつ、重量平均分子量(Mw)に対する数平均分子量(Mn)の比、つまり分子量分散(Mw/Mn)が25以下である場合には、十分な強靱性を持ち、耐クラック性に優れたものとなる。ここで、分子量測定はゲルパーミエーションクロマトグラフィにより行ない、ウォーターズ社製Model−510を用いた。測定条件としては、カラムとして昭和電工(株)製KF−804L・KF−803・KF−802の3本直列つなぎを使用し、カラム温度は40℃とし、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、流速は0.8ml/分とし、また、分子量基準として単分散ポリスチレンを用いた。より好適な分子量分散(Mw/Mn)の範囲としては22以下であることが、さらにより好適な範囲としては15から20であることが望ましい。なお、分子量測定は測定条件で大きく変化することに留意すべきである。
本発明で用いるシロキサンポリマ皮膜形成用塗液組成物においては、本発明のシロキサンポリマを、有機溶媒、好ましくは沸点100℃以上の有機溶剤を溶剤として用いた溶液状態で用いる。溶剤には、シロキサンポリマを合成した際の反応溶媒をそのまま溶剤として用いることもできる。また、必要に応じて、反応後に塗布性向上等のために溶剤置換を行なうことや、濃度調整のために溶剤の添加あるいは除去を行なうことも可能である。このときの溶剤としては、シロキサンポリマの合成に用いることができる溶媒として前述した溶剤を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
さらに、本発明で用いるシロキサンポリマ皮膜形成用塗液組成物には、必要に応じて、膜硬化剤,粘度調整剤,界面活性剤,安定化剤,着色剤,ガラス質形成剤等を添加することができる。
本発明において基板1上に形成したシロキサンポリマ皮膜を得る際のシロキサンポリマ皮膜形成用塗液組成物を塗布する方法としては、本発明で用いるシロキサンポリマ皮膜形成用塗液組成物をスピンコート,ディッピングコート,スプレーコート,スクリーン印刷等の公知の方法によって、基板1上に塗布し、乾燥すればよい。乾燥は、オーブンやホットプレートを用いて50〜150℃の範囲で30秒〜30分間行なえば良い。乾燥後の膜厚は、1〜20μmとするのが好ましい。その後、膜を加熱硬化する。加熱硬化は、オーブンやホットプレートを用いて150〜300℃の範囲で、より好ましくは150℃〜220℃の範囲で10分〜4時間行なうのが好ましい。また、加熱硬化は窒素雰囲気中で行なうことが好ましい。一度の皮膜形成で膜厚が20μmを超えるような場合には、シロキサンポリマ皮膜にしわやクラックが生じたり、急激な溶媒の蒸発により皮膜の表面が荒れたりすることがあるので、20μmを超えるような場合には数回に分けて積層形成するのがよい。
本発明に用いるシロキサンポリマ皮膜は、皮膜形成時の体積収縮が小さいため、表面平坦化性に優れたものである。例えば、幅が10μmで高さが10μmの凸構造を有する基板1の表面に厚さ15μmのシロキサンポリマ皮膜を形成した場合には、皮膜の表面の段差は0.3μm以下であり、優れた表面平坦化性を示した。
次に、本発明の光導波路基板の作製方法を説明する。
まず、本発明で用いるシロキサンポリマ皮膜形成用塗液組成物を基板1上に塗布した後、加熱処理を行なってシロキサンポリマ皮膜から成る下部クラッド層2を形成する。
次に、コア部3となるコア層を積層形成する。コア層としては、本発明で用いるシロキサンポリマ皮膜形成用塗液組成物に金属アルコキシド、例えばテトラnブトキシチタンを適量混合した溶液を下部クラッド層2の上に塗布した後、加熱処理を行なって得られる、金属を含有したシロキサンポリマ皮膜を用いればよい。これによれば、シロキサンポリマ中の金属含有量の制御によってクラッド部(下部クラッド層2・上部クラッド層4)とコア部3との間で所望の屈折率差を有する光導波路6を容易に作製することができる。本発明で用いるシロキサンポリマ皮膜形成用塗液組成物に混合する金属アルコキシドの量としては、所望の屈折率となるような混合量を予め実験等により把握しておき、製作すべき光導波路6の屈折率構造に応じて所望の屈折率となるように混合量を決定すればよい。
例えば、テトラnブトキシチタンを本発明で用いるシロキサンポリマ皮膜形成用塗液組成物に混合して用いる場合には、シロキサンポリマ固形分に対するテトラnブトキシチタンの質量比を0.065〜0.65の範囲にとれば屈折率が0.2%〜2%程度増加するので、コア部3とクラッド部との屈折率差が0.2%〜2%である通常の光導波路6を作製するのに使用できる。
次に、フォトリソグラフィやRIE(Reactive Ion Etching)等の周知の薄膜微細加工技術を用いて、コア層に対して加工を施し、所定の形状でコア部3を形成する。その後、下部クラッド層2の形成と同様にして上部クラッド層4をコア部3が形成された表面上に被覆形成する。
コア部3の高さ・幅・屈折率、下部クラッド層2および上部クラッド層4の厚さ・屈折率は、所望の光導波路特性が得られるように周知の光導波路理論やシミュレーションや実験等から決定すればよい。
本発明において光導波路6を形成する基板1は、光導波路6が形成される支持基板として使用されるものであり、光集積回路基板や光電子混在基板等の光信号を扱う基板として使用される種々の基板、例えばシリコン基板やアルミナ基板・ポリイミド基板・ガラスセラミック基板・多層セラミック基板・薄膜多層セラミック基板・プラスチック電気配線基板等が使用できる。
なお、下部クラッド層2および上部クラッド層4に用いるシロキサンポリマにも上記と同様の金属を含有させてもよい。
また、コア部3およびクラッド部の屈折率を制御するには、金属を添加する他に、例えばシロキサンポリマの組成を変化させて屈折率を制御してもよい。
次に、本発明においてシロキサンポリマ皮膜形成の第2の工程で用いる酸溶液の酸としては、塩酸,リン酸,硫酸,トリフルオロ酢酸,硼酸,p−トルエンスルホン酸,酢酸,クエン酸等の有機酸等を用いればよい。また、酸溶液の溶媒としては、水,アルコール等前述のシロキサンポリマ皮膜形成用塗液組成物に含むことができる有機溶媒を用いればよい。また、酸溶液の濃度としては、処理の効果を実際に確認して適当な条件を決定すればよいが、1体積%〜30体積%の範囲のものが適当である。
また、酸溶液に浸漬する時間としては、酸の種類,溶液の濃度,シロキサンポリマ皮膜の厚さや溶液の温度,処理の効果等から適当な時間を決定すればよいが、30分〜24時間程度の浸漬時間が適当である。30分よりも短い場合には、十分な効果が得られないことがある。また、24時間を超えて長時間の浸漬は、24時間までは皮膜にクラックやしわが入る等の弊害は確認されていないものの、長時間の処理は生産性を下げることになるので避けるべきであろう。
また、本発明においてシロキサンポリマから成る光導波路6を製作する場合には、下部クラッド層2,コア層,上部クラッド層4を形成する都度、シロキサンポリマ皮膜形成における第2の工程の酸溶液浸漬処理を行なってもよいし、酸溶液浸漬処理を各層の形成毎に行なわずに、上部クラッド層4を形成した後に一度だけ酸溶液浸漬処理を行なってもよい。
そして、シロキサンポリマから成る光導波路6を作製した後、この光導波路6の表面、図1に示す例では上部クラッド層4の表面(上面)に、酸化物,窒化物または酸窒化物から成る保護層5を形成して光導波路6の表面を被覆する。保護層5の形成方法としては、スパッタリング法,レーザアブレーション法または電子ビーム蒸着法を用いることによって、シロキサンポリマにダメージを与えない程度の低温で保護層5が形成できるので好適である。中でも、スパッタリング法によれば、プロセス条件によって保護層5の内部応力や機械特性をある程度調整することができるので好適である。
なお、光導波路6の表面を被覆する保護層5は、図1に示したように光導波路6の主たる表面である上面(上部クラッド層4の上面)のみに形成してもよく、これと併せて光導波路6の側面(下部クラッド層2および上部クラッド層4の側面)にも形成するようにしてもよい。光導波路6の上面を保護層5で被覆することにより、この保護層5による作用効果は十分に得られるものとなる。また、光導波路6の上面とともに側面まで保護層5で被覆するようにすると、側面、および側面に露出した積層界面から光導波路6の内部に水分等が浸入することを抑制でき、また、積層界面の剥がれを抑止することができるので、より信頼性に優れたものとなる。
また、保護層5の材料としては、酸化珪素,酸化アルミニウム,酸化チタン,酸化ジルコニウム等の酸化物や、窒化珪素,窒化アルミニウム,窒化ジルコニウム,窒化クロム,窒化チタン,窒化ゲルマニウム等の窒化物の単体あるいは複合体、または酸窒化珪素,酸窒化チタン,酸窒化ジルコニウム,酸窒化クロム,酸窒化ゲルマニウム等の酸窒化物を用いればよい。これらの材料から成る保護層5を形成することにより、保護層5形成の際にシロキサンポリマ表面に保護層5の材料が打ち込まれることによるアンカー効果や、シロキサンポリマ表面にシラノール基が露出している場合には酸化物,窒化物または酸窒化物から成る保護層5と共有結合による強い結合が生成されることによって、良好な密着力が得られる。また、ポリマよりも薄い膜厚で優れた耐水パッシベーション性を得ることができ、シロキサンポリマへの水の浸入を効果的に抑制することができ、さらに、シロキサンポリマよりも高い弾性率および強度を持つものであるから、シロキサンポリマ皮膜から成る光導波路6にクラックが生じることを効果的に抑制することができるものとなる。
中でも、酸化珪素をスパッタリングターゲットに用いてスパッタリング法によって保護層5を形成する場合には、酸素ガスや窒素ガスを適量導入することによって、水に対してパッシベーション性に優れた保護層5を形成することが容易にできるので好適である。さらに、屈折率をシロキサンポリマと同等とすることができてシロキサンポリマ皮膜から成る光導波路6の伝搬光への悪影響を無視することができるものとなるので好適である。
保護層5の厚さとしては、シロキサンポリマ皮膜から成る光導波路6を補強するための十分な機械的強度を確保するために、数100nmから数μm程度とすればよい。厚すぎる場合には保護層5の内部応力によって光導波路6にしわやクラックを発生させたり破壊したりすることになり、薄すぎる場合には、補強材としての十分な効果や耐湿・耐クラック保護の十分な効果が得られないものとなる。
また、シロキサンポリマから成る光導波路6の内部応力と光導波路6の全厚との積から求まる光導波路6の全応力と、保護層5の内部応力と保護層5の全厚との積から求まる保護層5の全応力との差から生じる応力が、光導波路6あるいは保護層5を破壊するようなものとならないようにする必要がある。例えば、シロキサンポリマの弾性率(いわゆるヤング率)は数100MPaから数GPa程度である。一方、無機系酸化物や無機系窒化物の弾性率は数10GPaから数100GPa程度であり、シロキサンポリマに比べて2桁程度大きい。従って、無機系酸化物や無機系窒化物で保護層5を形成した場合に同じ応力での変位はシロキサンポリマに比べて無視できるほど小さく、機械的な補強材として有効に機能する。
なお、本発明における保護層5による耐クラック性および信頼性の向上の効果は、熱硬化により形成したシロキサンポリマ皮膜から成る光導波路6だけではなく、光硬化等の熱硬化以外の方法で形成したシロキサンポリマ皮膜から成る光導波路6に対しても同様に得られる。また、酸溶液に浸漬することによって残留したシラノール基の脱水重合反応を促進する第2の工程を省略して形成したシロキサンポリマ皮膜から成る光導波路6に対しても同様に得られる。
なお、本発明は以上の実施の形態の例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、保護層は、その被覆部分がシロキサンポリマから成る光導波路の表面の全体ではなく、コア部の上方に位置するクラッド部の上面の近傍に限定されていたり、光導波路の端部等の応力集中部分に限定されていたりしてもよい。また、保護層の厚さが均一でなく、コア部の上方に位置するクラッド部の上面の近傍や、応力集中する光導波路の端部等の大きな効果を得たい部分の保護層を厚くする等の分布を持たせたものとしてもよい。
(実施例1)
次に、本発明の光導波路基板の具体例を説明する。
アルコキシシランとしてメチルトリメトキシシラン7モル/ジメチルジメトキシシラン3モル/フェニルトリメトキシシラン2モルと、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル1.5kgと、触媒として塩酸0.1モルと、水33モルとを原料として、混合・加水分解させてシロキサンポリマを合成した。途中、130℃のオイルバスで加熱し、低沸点物を留出させながら反応させた。得られた溶液に対しプロピレングリコールモノメチルエーテルを用いてシロキサンポリマ固形分濃度を35質量%に調製したシロキサンポリマ皮膜形成用塗液を得た。
このシロキサンポリマは重量平均分子量(Mw)が約55400であり、分子量分散(Mw/Mn)が17.3であった。ここで、分子量測定はゲルパーミエーションにより行ない、ウォーターズ社製Model−510を用いた。測定条件としては、カラムとして昭和電工(株)製KF−804L・KF−803・KF−802の3本直列つなぎ、カラム温度40℃、溶媒としてテトラヒドロフラン、流速0.8ml/分、また、分子量基準として単分散ポリスチレンを用いた。
次に、この塗液をシリコン基板上にスピンコータを用いて塗布し、100℃/30分、続いて窒素雰囲気中で200℃/4時間の加熱処理を行ない、厚さ約12μmのシロキサンポリマ皮膜から成る下部クラッド層を形成した。
次に、シロキサンポリマ皮膜形成用塗液組成物にシロキサンポリマ固形分に対する質量比として0.16のテトラnブトキシチタンを混合した溶液を同基板にスピンコータで塗布し、120℃/30分、続いて窒素雰囲気中で200℃/4時間の加熱処理を行ない、厚さ6μmのシロキサンポリマ皮膜から成るコア層を形成した。
次に、スパッタリング法によって厚さ0.3μmのAl膜を形成し、フォトリソグラフィやエッチング処理を行なって、コア部の元パターンとなる幅約6μmのストライプ状のAlパターンを形成した。
次に、このAlパターンをマスクとしてコア層に対してCF4ガスによるRIE加工を施し、断面形状が約6μm角のコア部を形成した。次いで、Alパターンをアルカリ水溶液で除去した後、下部クラッド層を形成したのと同じシロキサンポリマ皮膜形成用塗液組成物をスピンコータで塗布し、100℃/30分、続いて窒素雰囲気中で200℃/4時間の加熱処理を行ない、コア部上方の厚さが10μmとなるようなシロキサンポリマ皮膜から成る上部クラッド層を被覆形成した。
次いで、40℃に加温した3.6質量%の塩酸水溶液中にこの光導波路を形成した基板を2時間浸漬し、90秒流水で洗浄した後、さらに10質量%のリン酸水溶液中に2時間浸漬した。この後、90秒流水で洗浄して、窒素雰囲気中で200℃/4時間の加熱処理を行なった。
次に、石英ターゲットを用いたスパッタリング法によって、アルゴンガス90sccm,酸素ガス10sccm,圧力1Pa,RF出力1.5kWの条件下でシロキサンポリマから成る光導波路の表面に保護層を250nmの厚さで形成した。
このようにして、クラッド部の屈折率が1.442程度、コア部とクラッド部との屈折率差が約0.5%、コアサイズが約6μm角の埋込型光導波路を製作した。そして、約10mm×5mmのチップ状に切り分けして個々の光導波路基板に分割した後、各種評価試験を行なった。
まず、光素子等をこの光導波路基板に実装することを想定した場合の短時間の耐熱性試験を行なったところ、フリップチップ実装装置を用いた30秒の加熱において、440℃を超える温度では光導波路にクラックが発生したが、440℃までの温度では何ら問題は確認できなかった。これは、従来の光導波路では360℃でしわやクラックが発生したことに対して大きな改善が見られた結果であった。
さらに、−45℃〜+85℃,保持時間30分,500サイクルの温度サイクル試験を行なったところ、光導波路にクラックの発生等の問題は見られなかった。これは、酸溶液に浸漬しないで作製した従来の光導波路が150サイクルでクラックが発生したことに対して、大幅な改善となった。
また、プレッシャークッカーによる110℃/85%RHの放置試験を行なったところ、波長1.3μmのレーザ光の導波損失が初期値から1dB増加するまでの時間は45時間であった。これは、酸溶液に浸漬しないで作製した従来の光導波路に比べて、約10倍の改善となっていた。
(実施例2)
実施例1と同じ材料を用いて同様の手順で光導波路を製作した。
次いで、40℃に加温した3.6質量%の塩酸水溶液中にこの光導波路を形成した基板を2時間浸漬し、90秒流水で洗浄した後、さらに10質量%のリン酸水溶液中に2時間浸漬した。この後、90秒流水で洗浄して、窒素雰囲気中で200℃/4時間の加熱処理を行なった。
次に、石英ターゲットを用いたスパッタリング法によって、アルゴンガス100sccm,圧力1Pa,RF出力1.5kWの条件下で、シロキサンポリマから成る光導波路の表面に保護層を500nmの厚さで形成した。
このようにしてクラッド部の屈折率が1.442程度、コア部とクラッド部との屈折率差が約0.5%、コアサイズが約6μm角の埋込型光導波路を製作した。そして、約10mm×5mmのチップ状に切り分けして個々の光導波路基板に分割した後、各種評価試験を行なった。
まず、光素子等をこの光導波路基板に実装することを想定した場合の短時間の耐熱性試験を行なったところ、フリップチップ実装装置を用いた30秒の加熱において、440℃を超える温度では光導波路にクラックが発生したが、440℃までの温度では何ら問題は確認できなかった。これは、従来の光導波路では360℃でしわやクラックが発生したことに対して大きな改善が見られた結果であった。
さらに、−45℃〜+85℃、保持時間30分、750サイクルの温度サイクル試験を行なったところ、光導波路にクラックの発生等の問題は見られなかった。これは、酸溶液に浸漬しないで作製した従来の光導波路が150サイクルでクラックが発生したことに対して、大幅な改善となった。
また、プレッシャークッカーによる110℃/85%RHの放置試験を行なったところ、波長1.3μmのレーザ光の導波損失が初期値から1dB増加するまでの時間は30時間であった。これは、酸溶液に浸漬しないで作製した従来の光導波路に比べて、約7倍の改善となっていた。
(実施例3)
実施例1と同じ材料を用いて同様の手順で光導波路を製作した。なお、酸溶液に浸漬する第2の工程は省略した。
次に、石英ターゲットを用いたスパッタリング法によって、アルゴンガス100sccm,圧力1Pa,RF出力1.5kWの条件下で、シロキサンポリマから成る光導波路の表面に保護層を500nmの厚さで形成した。
このようにしてクラッド部の屈折率が1.442程度、コア部とクラッド部との屈折率差が約0.5%、コアサイズが約6μm角の埋込型光導波路を製作した。そして、約10mm×5mmのチップ状に切り分けして個々の光導波路基板に分割した後、各種評価試験を行なった。
まず、光素子等をこの光導波路基板に実装することを想定した場合の短時間の耐熱性試験を行なったところ、フリップチップ実装装置を用いた30秒の加熱において、440℃を超える温度では光導波路にクラックが発生したが、440℃までの温度では何ら問題は確認できなかった。これは、従来の光導波路が360℃でしわやクラックが発生したことに対して、大きな改善が見られた結果であった。
さらに、−45℃〜+85℃,保持時間30分,500サイクルの温度サイクル試験を行なったところ、光導波路にクラックの発生等の問題は見られなかった。これは、酸溶液に浸漬しないで作製した従来の光導波路が150サイクルでクラックが発生したことに対して、大幅な改善となった。
また、プレッシャークッカーによる110℃/85%RHの放置試験を行なったところ、波長1.3μmのレーザ光の導波損失が初期値から1dB増加するまでの時間は11時間であった。これは、酸溶液浸漬しないで作製した従来の光導波路に比べて、約2.5倍の改善となっていた。
(実施例4)
実施例1と同じ材料を用いて同様の手順で光導波路を製作した。なお、酸溶液に浸漬する第2の工程は省略した。
次に、石英ターゲットを用いたスパッタリング法によって、アルゴンガス90sccm,酸素ガス10sccm,圧力1Pa,RF出力1.5kWの条件下で、シロキサンポリマから成る光導波路の表面に保護層を250nmの厚さで形成した。
このようにしてクラッド部の屈折率が1.442程度、コア部とクラッド部との屈折率差が約0.5%、コアサイズが約6μm角の埋込型光導波路を製作した。そして、約10mm×5mmのチップ状に切り分けして個々の光導波路基板に分割した後、各種評価試験を行なった。
まず、光素子等をこの光導波路基板に実装することを想定した場合の短時間の耐熱性試験を行なったところ、フリップチップ実装装置を用いた30秒の加熱において、400℃を超える温度では光導波路にクラックが発生したが、400℃までの温度では何ら問題は確認できなかった。これは、従来の光導波路が360℃でしわやクラックが発生したことに対して、大きな改善が見られた結果であった。
さらに、−45℃〜+85℃,保持時間30分,500サイクルの温度サイクル試験を行なったところ、クラックの発生等の問題は見られなかった。これは、酸溶液に浸漬しないで作製した従来の光導波路が150サイクルでクラックが発生したことに対して、大幅な改善となった。
また、プレッシャークッカーによる110℃/85%RHの放置試験を行なったところ、波長1.3μmのレーザ光の導波損失が初期値から1dB増加するまでの時間は13.5時間であった。これは、酸溶液に浸漬しないで作製した従来の光導波路に比べて、約3.2倍の改善となっていた。
(比較例)
実施例1と同じ材料を用いて同様の手順で光導波路を製作した。なお、酸溶液に浸漬する第2の工程は省略した。
このようにしてクラッド部の屈折率が1.442程度、コア部とクラッド部との屈折率差が約0.5%、コアサイズが約6μm角の埋込型光導波路を製作した。そして、約10mm×5mmのチップ状に切り分けして個々の光導波路基板に分割した後、各種評価試験を行なった。
まず、光素子等をこの光導波路基板に実装することを想定した場合の短時間の耐熱性試験を行なったところ、フリップチップ実装装置を用いた30秒の加熱において、360℃で光導波路にしわやクラックが発生した。
さらに、−45℃〜+85℃,保持時間30分の温度サイクル試験を行なったところ、150サイクルで光導波路にクラックが発生した。
また、プレッシャークッカーによる110℃/85%RHの放置試験を行なったところ、波長1.3μmのレーザ光の導波損失が初期値から1dB増加するまでの時間は4.3時間であった。