JP5137062B2 - 金属錯体、及びそれを含むガス吸蔵材 - Google Patents

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Description

本発明は、ガスを可逆的に吸蔵・放出することが可能な金属錯体、及びそれを含むガス吸蔵材に関する。
近年、環境保護の観点から、温暖化ガスであるNOXやSOX、CO2、炭化水素ガス等を全く排出しない燃料電池を走行駆動源とする燃料電池車が特に着目されている。すなわち、燃料電池車は、前記燃料電池を構成するアノード側電極に供給された燃料ガス中の水素と、カソード側電極に供給された酸化剤ガス中の酸素とが反応することによって生成するH2Oしか排出しないからである。
ここで、燃料ガス及び酸化剤ガスとしては、それぞれ、水素及び大気が使用されることが一般的である。従って、燃料電池車には、水素を貯留する容器を搭載する必要がある。
水素貯留容器に貯留される水素の量が多いほど、燃料電池を長時間にわたって発電させることができる。換言すれば、燃料電池車の走行可能距離を大きくすることが可能となる。この観点から、水素貯留容器の水素貯蔵量を大きくすることが種々試みられており、その1つとしては、水素吸蔵合金等の水素吸蔵材を水素貯留容器に収容することが挙げられる。
水素吸蔵材は、自身の体積よりも多量の水素を吸蔵することが可能である。従って、単なる水素貯留容器に比して水素貯蔵量が増加する。しかも、水素の吸蔵が可逆的に行われるので、燃料電池を発電させる際に必要量の水素を放出させることも可能である。
このような機能を営む水素吸蔵材の好適な例としては、多孔性の金属錯体が挙げられる。より具体的には、特許文献1に開示された酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体等である。ここで、酢酸銅(II)・一水和物型二核構造とは、特許文献1の図2及び図4に示されるように、カルボキシラート基を2個有する有機配位子イオン(-OOC−R−COO-)における前記カルボキシラート基中の2個の酸素原子を介して金属イオンに配位することによって、前記金属イオンを格子点として形成された二次元格子構造を指称する。
この種の酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体は、例えば、特許文献1の段落[0035]及び図5(a)、図5(b)に示される2手法によって製造することができる。すなわち、第1の手法は、ジカルボン酸金属塩と、金属イオン源となる金属塩と、架橋配位子とをメタノール等の溶媒に溶解し、二次元格子構造を形成すると同時に前記架橋配位子による架橋反応を進行させることで架橋金属錯体を得るものである。
また、第2の手法は、カルボン酸塩と金属塩とをメタノール等の溶媒に溶解し、次にこれらを反応させて二次元格子構造を形成した後、架橋配位子となる化合物を添加することで前記二次元格子構造を架橋し、これにより架橋金属錯体を得るものである。
ここで、前記特許文献1では、金属イオンをCu、Zn、Mo、Ru、Cr、Ni、Rhのいずれかとして酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体を合成する場合が説明されている(段落[0024]参照)。
特開2006−328051号公報(特に、段落[0024]、[0035]、図5(a)、図5(b))
本発明者らの鋭意検討によれば、上記した酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体の水素吸蔵量は、金属イオンの相違に伴って変化する場合がある。従って、この種の金属錯体において、特許文献1に開示された金属イオンとは別種の金属イオン、例えば、Coを含む構造とすることによって、水素吸蔵量がさらに向上することもあり得ると考えられる。
しかしながら、理由は今ひとつ明らかではないが、特許文献1に開示された製造方法をもってして、コバルトを含む酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体を合成することはできない。
本発明は上記した問題を解決するためになされたものであり、コバルトを含み、且つ優れたガス吸蔵能力を示す酢酸銅(II)・一水和物型二核構造の金属錯体、及びそれを含むガス吸蔵材を提供することを目的とする。
前記の目的を達成するために、本発明に係る金属錯体は、コバルトイオンを中心として有機配位子イオンである1,4−ベンゼンジカルボキシラートが配位した酢酸銅(II)・一水和物型二核構造の金属錯体に対し、軸配位子として1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンがさらに配位して構成され、一般式がCo(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5で表されることを特徴とする。
ここで、一般式中のDABCOは、下記構造式(1)に示される1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンである。
Figure 0005137062
Coを含むこの金属錯体は、結晶性が非常に高く構造が略均一である。このため、単位重量当たりの表面積が著しく大きい。すなわち、該金属錯体は、比表面積が極めて大きな多孔体である。換言すれば、この金属錯体の表面には、メタン、窒素、水素等の各種のガスを吸蔵し得る気孔が多量に存在する。従って、この金属錯体は、優れたガス吸蔵能力を示す。
しかも、Coを含むこの金属錯体は、その他の金属種を含む金属錯体に比して著しく優れたガス吸蔵能力を示す。
また、本発明に係るガス吸蔵材は、上記の金属錯体を含むことを特徴とする。勿論、上記金属錯体のみでガス吸蔵材としてもよいし、その他の物質とともにガス吸蔵材としてもよい。
この金属錯体は、水素に対するガス吸蔵能力が特に顕著である。すなわち、水素吸蔵材として好適である。
この場合、例えば、該金属錯体を収容した容器を、車体搭載用の燃料電池に供給する燃料ガス用の貯留ボンベとすれば、該貯留ボンベの水素吸蔵量が大幅に増加する。従って、該貯留ボンベを搭載した車両の走行距離が長くなる。その上、該貯留ボンベの小型化を図ることができるので、該貯留ボンベを車体に搭載する際の配置レイアウトの自由度が大きくなるという利点も得られる。
本発明によれば、コバルトを含み、且つ結晶性が非常に高く構造が略均一な金属錯体を構成することができる。この金属錯体は、比表面積が著しく大きな多孔体であり、従って、優れたガス吸蔵能力を示す。
特に、水素の吸蔵力に優れているので、この金属錯体を車体搭載用の燃料電池に供給する燃料ガスの貯留ボンベに収容すれば、該貯留ボンベの水素吸蔵量が大幅に増加する。従って、該貯留ボンベを搭載した車両の走行距離が長くなるとともに、該貯留ボンベの小型化を図ることができるので該貯留ボンベを車体に搭載する際の配置レイアウトの自由度が大きくなる。
以下、本発明に係るガス吸蔵材につきそれに含まれる金属錯体との関係で好適な実施の形態を挙げ、詳細に説明する。
前記ガス吸蔵材に含まれる本実施の形態に係る金属錯体は、コバルトを含む酢酸銅(II)・一水和物型二核構造を有する多孔性物質である。すなわち、その一般式は、Co(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5で表される。なお、DABCOは、構造式が下記の式(1)で示される1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンである。
Figure 0005137062
従って、該金属錯体の構造式は、下記の式(2)で表される。
Figure 0005137062
すなわち、本実施の形態に係る金属錯体は、コバルトイオンを中心に1,4−ベンゼンジカルボキシラートが配位して形成される酢酸銅(II)・一水和物型二核構造の金属錯体に対し、軸配位子として1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンがさらに配位した構造をなす。
このような構造の金属錯体は、後述するように、出発物質であるCo(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3として単結晶を用いて合成した場合、結晶性が著しく大きくなる。すなわち、構造が略均一となる。このため、単位重量当たりの表面積(比表面積)が極めて大きな多孔体となり、その結果、ガス吸蔵能力が大きくなる。従って、この金属錯体は、メタン、窒素、水素等を可逆的に吸蔵・放出し得るガス吸蔵材として好適である。勿論、その他の物質と混合してガス吸蔵材とするようにしてもよい。
なお、この金属錯体は、水素に対して特に優れた吸蔵能力を示す。従って、水素吸蔵材として好適である。この場合、該金属錯体を車体搭載用の燃料電池に供給する燃料ガスの貯留ボンベに収容すれば、該貯留ボンベの水素吸蔵量が大幅に増加する。従って、該貯留ボンベを搭載した車両の走行距離が長くなる。
また、該貯留ボンベの小型化を図ることができるので、該貯留ボンベを車体に搭載する際の配置レイアウトの自由度が大きくなるという利点もある。
この金属錯体は、以下のようにして作製することができる。すなわち、先ず、該金属錯体の出発原料であるCo(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3を合成し、次に、このCo(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3を出発物質として金属錯体を合成する。
Co(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3を得るには、例えば、以下のようにすればよい。
先ず、Co(II)塩又はその水和物のいずれかを純水に溶解し、水溶液とする。前記塩の具体例としては、蟻酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。なお、水溶液における塩の濃度は、1〜2重量%程度で十分である。
その一方で、1,4−ベンゼンジカルボン酸をピリジンに溶解し、ピリジン溶液を調製する。このピリジン溶液における1,4−ベンゼンジカルボン酸の濃度は、0.16〜0.32重量%程度が適切である。
以上のようにして調製した前記水溶液と前記ピリジン溶液とを同一容器に貯留する。ここで、水溶液とピリジン溶液とは互いに混和せず、このため、互いに相分離を起こす。コバルト塩又はその水和物を溶解した水溶液と、1,4−ベンゼンジカルボン酸を溶解したピリジン溶液とでは前者の方が高比重であり、従って、水溶液の上方にピリジン溶液を5〜10ml/分程度の緩やかな速度で供給するようにすると、両溶液は互いに混じり合うことなく速やかに分離する。このため、二層が積層されたような状態となる。
この状態で両溶液を15〜30℃で12〜48時間程静置すれば、その間、両溶液が接触する相界面において、コバルト塩又はその水和物と1,4−ベンゼンジカルボン酸との反応が進行する。その結果、単核構造錯体であるCo(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3が生成する。
このようにして相界面でコバルト塩又はその水和物と1,4−ベンゼンジカルボン酸とを反応させた場合、Co(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3を板状単結晶として得ることができる。
Co(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3は、1個のCoに対してカルボキシラート基、ピリジン及びH2Oがそれぞれ2個ずつ配位することで形成される単核構造を基本単位とする。そして、横方向においては、Coに配位した2個のカルボキシラート基が−C64−によって結合され、一方、縦方向においては、Coに配位したピリジンが、該基本単位の上下方向に位置する別の基本単位中のピリジンとピリジン環スタックを形成することによって互いに結合する。このピリジン環スタックの形成に伴って二次元の格子が構成され、その結果、Co(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3が単結晶として生成する。
次に、このCo(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3を、濾過等によって溶媒と分離した後、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンとともに溶媒に溶解して溶液を調製する。溶媒の好適な例としては、メタノール、トルエン、ジメチルフォルムアミドが挙げられる。なお、この溶液におけるCo(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3の濃度は1〜10重量%程度が好ましく、また、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンは、Co(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3に対してモル数で2〜3倍程度が好ましい。2倍未満では反応率が十分ではなく、3倍を超えると反応率が略飽和するのでコスト的に不利となるからである。
この溶液を撹拌しながら25〜65℃で0.5〜24時間保持すれば、Co(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3と1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンとが互いに反応し、一般式及び構造式が上記したように表される金属錯体が粉末結晶として生成する。
この粉末結晶は、Co(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3として単結晶のものを用いると、結晶性が非常に高く且つ比表面積が著しく大きくなる。従って、優れたガス吸蔵能力を示す。
また、このような過程を経ることにより、Coを含む酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体を容易且つ簡便に作製することが可能となる。すなわち、本実施の形態によれば、従来技術では作製し得なかった上記一般式及び構造式のCo錯体を得ることができる。
1000mgの酢酸コバルト(II)・四水和物をビーカー内で100mlの純水に溶解して水溶液とした。その一方で、667mgの1,4−ベンゼンジカルボン酸を400mlのピリジンに溶解してピリジン溶液を調製した。
次に、前記水溶液が貯留されたビーカーの内周壁に、三角ロートの足部の先端部を接触させた。なお、足部の先端部は、該水溶液に浸漬されない位置とした。
さらに、濾紙が挿入された該三角ロートの濾過部から、前記ピリジン溶液を少量ずつ添加した。すなわち、該ピリジン溶液は、濾紙を緩やかに通過し、三角ロートの足部及びビーカーの内周壁を伝わって前記水溶液の上方に供給された。水溶液とピリジン溶液は互いに混じり合わずに即座に相分離を起こし、結局、水溶液上にピリジン溶液が積層された二層状態となった。
その後、室温で24時間静置した。この静置の最中に、酢酸コバルト(II)・四水和物と1,4−ベンゼンジカルボン酸とが水溶液とピリジン溶液との界面で互いに反応し、単核構造錯体であるCo(II)(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3の薄赤色板状単結晶が生成した。そして、濾過を行うことによってこの単結晶を溶媒と分離した。
次に、この単結晶から1gを秤量し、内容量が200mlのナスフラスコに移した。その一方で、0.436gの1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンを200mlのメタノールに溶解したメタノール溶液を調製し、このメタノール溶液を前記ナスフラスコに移液して混合溶液とした。ここで、0.436gの1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンのモル数は、1gのCo(II)(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3のモル数の2倍に相当する。
次に、この混合溶液をスターラで撹拌しながら65℃で24時間保持することで、Co(II)(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3と1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンとを反応させ、青色の粉末結晶を生成物として得た。その後、この粉末結晶を濾過によって回収した。さらに、この粉末結晶を真空下において100℃で2時間保持することで熱乾燥を行い、最終生成物とした。
この最終生成物の元素分析を行ったところ、該最終生成物における元素数比は、Co(II)(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5と極めてよく一致していた。
また、最終生成物につきX線回折測定を行った。回折パターンを図1に示す。この回折パターンにおけるピークの出現位置は、銅イオンを中心として有機配位子イオンである1,4−ベンゼンジカルボキシラートが配位した酢酸銅(II)・一水和物型二核構造の金属錯体に対し、軸配位子として1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンがさらに配位したCu(II)(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5の回折パターン(シミュレーション)におけるピークの出現位置と略合致する。
以上の結果から、最終生成物がCo(II)(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5であり、その構造式は上記の式(2)で示される通りであることが分かる。
次に、最終生成物であるCo(II)(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5の比表面積をBET法によって測定した。その結果、1693m2/gであった。
さらに、Co(II)(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5につき、マイクロメリティクス社製のASAP−2020を用い、定容積法によるガス吸着法によって77K、水素圧力0.1MPa時の水素貯蔵・放出量を測定したところ、2.28重量%であった。この値は、特許文献1に開示されたZn錯体に比して低圧であるにも関わらず、著しく大きい。このことから、上記のようにして得られたCo錯体が極めて優れた水素ガス吸蔵能力を有することが明らかである。
実施例1において得られた最終生成物のX線回折パターンである。

Claims (3)

  1. コバルトイオンを中心として有機配位子イオンである1,4−ベンゼンジカルボキシラートが配位した酢酸銅(II)・一水和物型二核構造の金属錯体に対し、軸配位子として1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンがさらに配位して構成され、一般式がCo(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5で表されることを特徴とする金属錯体。
    ここで、一般式中のDABCOは、下記構造式(1)に示される1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンである。
    Figure 0005137062
  2. ガスを可逆的に吸蔵・放出することが可能なガス吸蔵材であって、請求項1記載の金属錯体を含むことを特徴とするガス吸蔵材。
  3. 請求項2記載のガス吸蔵材において、ガスとして水素を可逆的に吸蔵・放出することが可能な水素ガス吸蔵材であることを特徴とするガス吸蔵材。
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